IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キヤノン株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人京都大学の特許一覧

特許7521738目的細胞の生産方法、目的細胞による生産物の生産方法、および無血清培地
<>
  • 特許-目的細胞の生産方法、目的細胞による生産物の生産方法、および無血清培地 図1
  • 特許-目的細胞の生産方法、目的細胞による生産物の生産方法、および無血清培地 図2
  • 特許-目的細胞の生産方法、目的細胞による生産物の生産方法、および無血清培地 図3
  • 特許-目的細胞の生産方法、目的細胞による生産物の生産方法、および無血清培地 図4A
  • 特許-目的細胞の生産方法、目的細胞による生産物の生産方法、および無血清培地 図4B
  • 特許-目的細胞の生産方法、目的細胞による生産物の生産方法、および無血清培地 図4C
  • 特許-目的細胞の生産方法、目的細胞による生産物の生産方法、および無血清培地 図4D
  • 特許-目的細胞の生産方法、目的細胞による生産物の生産方法、および無血清培地 図4E
  • 特許-目的細胞の生産方法、目的細胞による生産物の生産方法、および無血清培地 図5
  • 特許-目的細胞の生産方法、目的細胞による生産物の生産方法、および無血清培地 図6
  • 特許-目的細胞の生産方法、目的細胞による生産物の生産方法、および無血清培地 図7
  • 特許-目的細胞の生産方法、目的細胞による生産物の生産方法、および無血清培地 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】目的細胞の生産方法、目的細胞による生産物の生産方法、および無血清培地
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/078 20100101AFI20240717BHJP
【FI】
C12N5/078
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020086836
(22)【出願日】2020-05-18
(65)【公開番号】P2021180620
(43)【公開日】2021-11-25
【審査請求日】2023-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】南 一成
(72)【発明者】
【氏名】茂木 逸郎
(72)【発明者】
【氏名】江藤 浩之
【審査官】西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】特表平09-505462(JP,A)
【文献】国際公開第2014/119219(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0238020(US,A1)
【文献】特表2005-538720(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101864396(CN,A)
【文献】Blood,2000年,Vol.96, No.11 Part1,P.77a, Abstract No.329
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/
C12P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養因子と、ヒト血清アルブミンと、添加物と、を含む無血清培地で巨核球前駆細胞を培養して巨核球を生産する、巨核球の生産方法であって、
前記培養因子が、増殖因子および分化誘導因子の中から選択される少なくとも1つであり、
前記添加物が、A419259及びプロストラチンの少なくともいずれかを含む、巨核球の生産方法。
【請求項2】
請求項に記載の方法に従って巨核球前駆細胞を培養して、巨核球を生産するとともに巨核球に生産物を生産させることを含む、生産物の生産方法。
【請求項3】
前記生産物が血小板である請求項に記載の方法。
【請求項4】
培養因子と、ヒト血清アルブミンと、添加物と、を含み、巨核球前駆細胞を培養して、巨核球を生産するために使用される無血清培地であって、
前記培養因子が、増殖因子および分化誘導因子の中から選択される少なくとも1つであり、
前記添加物が、A419259及びプロストラチンの少なくともいずれかを含む、無血清培地。
【請求項5】
前記培養因子が巨核球分化誘導因子である請求項に記載の無血清培地。
【請求項6】
培養因子と、ヒト血清アルブミンと、添加物と、を含み、巨核球前駆細胞を培養して生産された巨核球によって生産物を生産するために使用される無血清培地であって、
前記培養因子が、増殖因子および分化誘導因子の中から選択される少なくとも1つであり、
前記添加物が、A419259及びプロストラチンの少なくともいずれかを含む、無血清培地。
【請求項7】
前記生産物が血小板であり、前記培養因子が巨核球分化誘導因子である請求項に記載の無血清培地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血清代替物を使用した細胞培養技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ヒトを含む動物細胞の培養は、合成培地に血清を添加して行われている。血清は、アルブミン、グロビンなどのタンパク質に加えて、生体の機能維持に必要なさまざまな成分を含む。ヒトを含む動物細胞の培養には、例えば、ウシ胎仔血清が使用されている。血清は、動物由来であるため、コストやロット差などの問題があり、これらの問題を解決するために、血清の代わりに血清代替物を含む無血清培地が開発されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】WO2014/144198
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のとおり、血清は、動物由来であるため、大量の細胞を培養する場合は特に、コストの問題やロット差による培養細胞の品質安定性の問題がある。一方、血清代替物は、血清と比べて細胞の培養効率を低下させる懸念がある。したがって、本発明は、血清代替物を使用した細胞培養技術であって、血清使用時の細胞の培養効率を維持することができるとともに、血清使用時のコストの問題や培養細胞の品質安定性の問題を解決することができる細胞培養技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一つの側面によれば、
培養因子と、ヒト血清アルブミンと、添加物と、を含む無血清培地で巨核球前駆細胞を培養して巨核球を生産する、巨核球の生産方法であって、
前記培養因子が、増殖因子および分化誘導因子の中から選択される少なくとも1つであり、
前記添加物が、Src阻害剤、PKC活性化剤、メチルセルロース、組換えヒト血清アルブミン、ヒト以外の動物血清アルブミン、および、TGFβ1(2μg/L)またはNODAL(100μg/L)の何れかと、DMEM/F12、L-アスコルビン酸-2-リン酸マグネシウム(64mg/L)、亜セレン酸ナトリウム(14μg/L)、FGF2(100μg/L)、インスリン(19.4mg/L)、NaHCO (543mg/L)、トランスフェリン(10.7mg/L)のすべてと、を含む培地、の中から選択される少なくとも1つである、巨核球の生産方法が提供される。
【0006】
別の側面によれば、上述の方法に従って巨核球前駆細胞を培養して、巨核球を生産するとともに巨核球に生産物を生産させることを含む、生産物の生産方法が提供される。
【0007】
更に別の側面によれば、
培養因子と、ヒト血清アルブミンと、添加物と、を含み、巨核球前駆細胞を培養して、巨核球を生産するために使用される無血清培地であって、
前記培養因子が、増殖因子および分化誘導因子の中から選択される少なくとも1つであり、
前記添加物が、Src阻害剤、PKC活性化剤、メチルセルロース、組換えヒト血清アルブミン、ヒト以外の動物血清アルブミン、および、TGFβ1(2μg/L)またはNODAL(100μg/L)の何れかと、DMEM/F12、L-アスコルビン酸-2-リン酸マグネシウム(64mg/L)、亜セレン酸ナトリウム(14μg/L)、FGF2(100μg/L)、インスリン(19.4mg/L)、NaHCO (543mg/L)、トランスフェリン(10.7mg/L)のすべてと、を含む培地、の中から選択される少なくとも1つである、無血清培地が提供される。
【0008】
培養因子と、ヒト血清アルブミンと、添加物と、を含み、巨核球前駆細胞を培養して生産された巨核球によって生産物を生産するために使用される無血清培地であって、
前記培養因子が、増殖因子および分化誘導因子の中から選択される少なくとも1つであり、
前記添加物が、Src阻害剤、PKC活性化剤、メチルセルロース、組換えヒト血清アルブミン、ヒト以外の動物血清アルブミン、および、TGFβ1(2μg/L)またはNODAL(100μg/L)の何れかと、DMEM/F12、L-アスコルビン酸-2-リン酸マグネシウム(64mg/L)、亜セレン酸ナトリウム(14μg/L)、FGF2(100μg/L)、インスリン(19.4mg/L)、NaHCO (543mg/L)、トランスフェリン(10.7mg/L)のすべてと、を含む培地、の中から選択される少なくとも1つである、無血清培地が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、血清代替物を使用した細胞培養技術であって、血清使用時の細胞の培養効率を維持することができるとともに、血清使用時のコストの問題や培養細胞の品質安定性の問題を解決することができる細胞培養技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】各培地で分化した巨核球の数を示すグラフ。
図2】各培地で分化した巨核球の数を示すグラフ。
図3】各培地で分化した巨核球の数を示すグラフ。
図4A】核染色試薬で染色された巨核球を示す写真。
図4B】核染色試薬で染色された巨核球を示す写真。
図4C】核染色試薬で染色された巨核球を示す写真。
図4D】核染色試薬で染色された巨核球を示す写真。
図4E】核染色試薬で染色された巨核球を示す写真。
図5】血小板マーカー(CD41およびCD42b)の陽性細胞率を示すグラフ。
図6】血小板マーカー(PAC1)の陽性細胞率を示すグラフ。
図7】各培地で増殖したiPS細胞の数を示すグラフ。
図8】各培地で増殖した間葉系幹細胞の数を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明するが、以下の説明は、本発明を詳説することを目的とし、本発明を限定することを意図していない。
【0012】
本発明者らは、種々の物質のなかから血清代替物のスクリーニングを実施した。その結果、本発明者らは、血清代替物として、(a)ヒト血清アルブミンと、(b)Src阻害剤、PKC活性化剤、メチルセルロース、Essential 8(登録商標、以下同様)培地、組換えヒト血清アルブミン、およびヒト以外の動物血清アルブミンからなる群より選択される少なくとも1つの添加物との組み合わせを使用すると、血清使用時の細胞の培養効率を維持することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。本明細書において、「培養効率」は、分化培養の場合には分化効率を指し、増殖培養の場合には増殖効率を指す。
【0013】
<1.目的細胞の生産方法>
1つの側面によれば、
増殖因子および分化誘導因子から選択される少なくとも1つの培養因子と、
ヒト血清アルブミンと、
Src阻害剤、PKC活性化剤、メチルセルロース、Essential 8培地、組換えヒト血清アルブミン、およびヒト以外の動物血清アルブミンからなる群より選択される少なくとも1つの添加物と
を含む無血清培地で原料細胞を培養して目的細胞を生産することを含む、目的細胞の生産方法が提供される。
【0014】
1つの態様において、培養因子は、少なくとも1つの分化誘導因子であり、目的細胞は分化細胞である。分化誘導因子は、原料細胞の分化を促進する作用を有する。この態様において、上記方法は「分化細胞の生産方法」である。すなわち、「分化細胞の生産方法」は、
少なくとも1つの分化誘導因子と、
ヒト血清アルブミンと、
Src阻害剤、PKC活性化剤、メチルセルロース、Essential 8培地、組換えヒト血清アルブミン、およびヒト以外の動物血清アルブミンからなる群より選択される少なくとも1つの添加物と
を含む無血清培地で原料細胞を培養して分化細胞を生産することを含む。
【0015】
別の態様において、培養因子は、少なくとも1つの増殖因子であり、目的細胞は増殖細胞である。増殖因子は、原料細胞の増殖を促進する作用を有する。この態様において、上記方法は「増殖細胞の生産方法」である。すなわち、「増殖細胞の生産方法」は、
少なくとも1つの増殖因子と、
ヒト血清アルブミンと、
Src阻害剤、PKC活性化剤、メチルセルロース、Essential 8培地、組換えヒト血清アルブミン、およびヒト以外の動物血清アルブミンからなる群より選択される少なくとも1つの添加物と
を含む無血清培地で原料細胞を培養して増殖細胞を生産することを含む。
【0016】
以下、「分化細胞の生産方法」および「増殖細胞の生産方法」について具体的に説明する。
【0017】
<1-1.分化細胞の生産方法>
(細胞)
分化細胞の生産方法では、原料細胞を分化誘導因子の存在下で培養して、分化細胞を生産する。
【0018】
原料細胞は、例えば、巨核球前駆細胞、iPS細胞、間葉系幹細胞、および線維芽細胞からなる群より選択され得る。原料細胞は、好ましくは、ヒト巨核球前駆細胞、ヒトiPS細胞、ヒト間葉系幹細胞、およびヒト線維芽細胞からなる群より選択され得る。
【0019】
分化細胞は、例えば、巨核球、間葉系幹細胞、線維芽細胞、および心筋細胞からなる群より選択され得る。分化細胞は、好ましくは、ヒト巨核球、ヒト間葉系幹細胞、ヒト線維芽細胞、およびヒト心筋細胞からなる群より選択され得る。
【0020】
一例によれば、原料細胞は巨核球前駆細胞であり、分化細胞は巨核球である。好ましくは、原料細胞はヒト巨核球前駆細胞であり、分化細胞はヒト巨核球である。
別の例によれば、原料細胞はiPS細胞であり、分化細胞は間葉系幹細胞である。好ましくは、原料細胞はヒトiPS細胞であり、分化細胞はヒト間葉系幹細胞である。
【0021】
更に別の例によれば、原料細胞はiPS細胞であり、分化細胞は線維芽細胞である。好ましくは、原料細胞はヒトiPS細胞であり、分化細胞はヒト線維芽細胞である。
更に別の例によれば、原料細胞はiPS細胞であり、分化細胞は心筋細胞である。好ましくは、原料細胞はヒトiPS細胞であり、分化細胞はヒト心筋細胞である。
【0022】
更に別の例によれば、原料細胞は間葉系幹細胞であり、分化細胞は心筋細胞である。好ましくは、原料細胞はヒト間葉系幹細胞であり、分化細胞はヒト心筋細胞である。
更に別の例によれば、原料細胞は線維芽細胞であり、分化細胞は心筋細胞である。好ましくは、原料細胞はヒト線維芽細胞であり、分化細胞はヒト心筋細胞である。
【0023】
(血清代替物)
分化細胞の生産方法は、血清代替物として、
(a)ヒト血清アルブミンと、
(b)Src阻害剤、PKC活性化剤、メチルセルロース、Essential 8培地、組換えヒト血清アルブミン、およびヒト以外の動物血清アルブミンからなる群より選択される少なくとも1つの添加物と
の組み合わせを使用することを特徴とする。
【0024】
ヒト血清アルブミンは、ヒトの血漿または血清から調製されたもので、組換え体ではない。ヒト血清アルブミンは、商業的に入手可能であり、例えばSigma-Aldrichから入手可能である。
【0025】
添加物は、好ましくはSrc阻害剤である。すなわち、血清代替物は、好ましくは、ヒト血清アルブミンとSrc阻害剤との組み合わせである。「Src阻害剤」は、チロシンキナーゼであるSrcまたはその下流のシグナル伝達経路を阻害する物質を意味する。Src阻害剤は、公知のSrc阻害剤を使用することができる。Src阻害剤としては、例えば、A419259、SU6656、PP1、1-ナフチルPP1(1-Naphthyl PP1)、PP2、インジルビン-3’-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-オキシムエーテル(Indirubin-3'-(2,3-dihydroxypropyl)-oximether)、TX-1123、Src Kinase Inhibitor I(CAS 179248-59-0)、AZM475271、ボスチニブ(Bosutinib)、ハービマイシンA(Herbimycin A)、KB SRC 4、MNS、PD166285、TC-S7003などが例示される。
【0026】
Src阻害剤は、好ましくはA419259である。A419259は、下記構造を有し、A419259の化合物名は、7-[4-(4-メチルピペラジン-1-イル)シクロヘキシル]-5-(4-フェノキシフェニル)ピロロ[2,3-d]ピリミジン-4-アミンである。
【化1】
【0027】
A419259は、塩の形態で添加されてもよい。A419259は、商業的に入手可能であり、例えば富士フイルム和光純薬株式会社から入手可能である。
【0028】
あるいは、添加物は、好ましくはPKC活性化剤である。すなわち、血清代替物は、好ましくは、ヒト血清アルブミンとPKC活性化剤との組み合わせである。「PKC活性化剤」は、プロテインキナーゼC(PKC)またはその下流のシグナル伝達経路を活性化する物質を意味する。PKC活性化剤は、公知のPKC活性化剤を使用することができる。PKC活性化剤としては、例えば、ホルボール12-ミリスタート13-アセタート(Phorbol 12-myristate 13-acetate)(PMA)、プロストラチン、ブリオスタチン1(Bryostatin 1)、ブリオスタチン2(Bryostatin 2)、FR236924、(-)-インドラクタムV((-)-Indolactam V)、PEP005、ホルボール12,13-ジブチラート(Phorbol 12,13-dibutyrate)、SC-9、SC-10、1-オレオイル-2-アセチル-sn-グリセロール(1-Oleoyl-2-acetyl-sn-glycerol)、1-O-ヘキサデシル-2-O-アラキドニル-sn-グリセロール(1-O-Hexadecyl-2-O-arachidonyl-sn-glycerol)、1,2-ジオクタノイル-sn-グリセロール(1,2-Dioctanoyl-sn-glycerol)、PIP2、レシニフェラトキシン(Resiniferatoxin)、ホルボール12,13-ジヘキサノアート(Phorbol 12,13-Dihexanoate)、メゼレイン(Mezerein)、インゲノール3-アンゲラート(Ingenol 3-Angelate)、RHC-80267、DCP-LA、リポキシンA4(Lipoxin A4)などが例示される。
【0029】
PKC活性化剤は、好ましくはプロストラチンである。プロストラチンは、下記構造を有し、プロストラチンの化合物名は、(1aR,1bS,4aR,7aS,7bR,8R,9aS)-4a,7b-ジヒドロキシ-3-(ヒドロキシメチル)-1,1,6,8-テトラメチル-5-オキソ-1,1a,1b,4,4a,5,7a,7b,8,9-デカヒドロ-9aH-シクロプロパ[3,4]ベンゾ[1,2-e]アズレン-9a-イルアセテートである。プロストラチンは、商業的に入手可能であり、例えば富士フイルム和光純薬株式会社から入手可能である。
【化2】
【0030】
あるいは、添加物は、好ましくはメチルセルロースである。すなわち、血清代替物は、好ましくは、ヒト血清アルブミンとメチルセルロースとの組み合わせである。メチルセルロースは、商業的に入手可能であり、例えばR&D Systemsから入手可能である。
【0031】
あるいは、添加物は、好ましくはEssential 8培地である。すなわち、血清代替物は、好ましくは、ヒト血清アルブミンとEssential 8培地との組み合わせである。Essential 8培地は、論文1(Chen G et al, Chemically defined conditions for human iPSC derivation and culture. Nat Methods. 2011 May;8(5):424-9. doi: 10.1038/nmeth.1593. Epub 2011 Apr 10.)によれば、下記の組成を有する:DMEM/F12, L-ascorbic acid-2-phosphate magnesium (64 mg/l), sodium selenium (14μg/l), FGF2 (100μg/l), insulin (19.4 mg/l), NaHCO3 (543 mg/l), transferrin (10.7 mg/l), およびTGFβ1(2μg/l)またはNODAL (100μg/l)の何れか。Essential 8培地は、商業的に入手可能であり、例えばInvitrogenから入手可能である。
【0032】
あるいは、添加物は、好ましくは組換えヒト血清アルブミンまたはヒト以外の動物血清アルブミンである。すなわち、血清代替物は、好ましくは、ヒト血清アルブミンと、組換えヒト血清アルブミンまたはヒト以外の動物血清アルブミンの何れか一方との組み合わせである。組換えヒト血清アルブミンは、例えば、イネで発現させたヒト血清アルブミンまたは酵母で発現させたヒト血清アルブミンである。ヒト以外の動物血清アルブミンは、例えば、ウシ血清アルブミンである。組換えヒト血清アルブミンおよびヒト以外の動物血清アルブミンは、商業的に入手可能であり、例えばSigma-Aldrichまたは富士フイルム和光純薬株式会社から入手可能である。
【0033】
血清代替物は、以下に記載の濃度で使用することができる。以下に記載の濃度は、培地中の最終濃度を表す。
無血清培地中のヒト血清アルブミンの濃度は、例えば0.01~2.0質量%、好ましくは0.05~1.5質量%、より好ましくは0.075~0.75質量%である。
【0034】
添加物としてSrc阻害剤、例えばA419259を使用する場合、無血清培地中のSrc阻害剤の濃度は、例えば0.001~10μM、好ましくは0.01~1.0μM、より好ましくは0.03~0.2μMである。
添加物としてPKC活性化剤、例えばプロストラチンを使用する場合、無血清培地中のPKC活性化剤の濃度は、例えば0.001~10μM、好ましくは0.01~1.0μM、より好ましくは0.015~0.2μMである。
【0035】
添加物としてメチルセルロースを使用する場合、無血清培地中のメチルセルロースの濃度は、例えば0.001~3.0質量%、好ましくは0.01~1.0質量%、より好ましくは0.018~0.3質量%である。
添加物としてEssential 8培地を使用する場合、無血清培地中のEssential 8培地の濃度は、例えば0.5~100質量%、好ましくは0.5~50質量%、より好ましくは0.625~30質量%である。
【0036】
添加物として組換えヒト血清アルブミンを使用する場合、無血清培地中の組換えヒト血清アルブミンの濃度は、例えば0.001~1.0質量%、好ましくは0.01~0.5質量%、より好ましくは0.015~0.3質量%である。
添加物としてヒト以外の動物血清アルブミンを使用する場合、無血清培地中のヒト以外の動物血清アルブミンの濃度は、例えば0.01~2.0質量%、好ましくは0.05~1.5質量%、より好ましくは0.125~0.75質量%である。
【0037】
(培養)
分化細胞の生産方法は、血清代替物として、(a)ヒト血清アルブミンと、(b)Src阻害剤、PKC活性化剤、メチルセルロース、Essential 8培地、組換えヒト血清アルブミン、およびヒト以外の動物血清アルブミンからなる群より選択される少なくとも1つの添加物との組み合わせを使用すること以外は、血清を使用する従来の分化培養と同様の方法に従って実施することができる。より具体的には、分化細胞の生産方法は、基本培地(例えば、MEM、DMEM、IMDM、Ham’s F-12、DMEM/F12、RPMI1640など)と分化誘導因子と上述の血清代替物とを含む無血清培地で原料細胞を培養することにより実施することができる。
【0038】
分化誘導因子は、原料細胞および分化細胞の種類に応じて、公知の因子を使用することができる。分化誘導因子は、原料細胞の分化を促進する作用に加えて、細胞の増殖を促進する作用を有していてもよい。また、分化培養は、1または複数の特定の分化誘導因子を使用する単一の培養工程から構成されていてもよいし、培養工程ごとに異なる1または複数の分化誘導因子を使用する複数の培養工程から構成されていてもよい。
【0039】
培養により、原料細胞が分化して分化細胞が生産されるが、培養中、細胞の分化に加えて細胞の増殖が起こってもよい。
【0040】
例えば、巨核球前駆細胞から巨核球への分化培養は、基本培地に、巨核球分化誘導因子と上述の血清代替物とを添加して無血清培地を調製し、この無血清培地中で巨核球前駆細胞を培養することにより実施することができる。基本培地として、例えばIMDMを使用することができ、巨核球分化誘導因子として、例えば、SCF、TA-316、KP-457、GNF-351、およびY39983を使用することができる。
【0041】
SCFは、幹細胞因子と呼ばれる公知のタンパク質で、例えばR&D Systemsから入手可能である。TA-316は、下記構造を有し、例えば日産化学工業株式会社から入手可能である。KP-457は、下記構造を有し、例えばGLPBIO(https://www.glpbio.com/kp-457.html)から入手可能である。GNF-351は、下記構造を有し、例えばSanta Cruz Biotechnology(https://www.scbt.com/ja/p/ahr-antagonist-iii-gnf351)から入手可能である。Y39983は、下記構造を有し、例えばセレックバイオテック株式会社(https://www.selleck.co.jp/products/y-39983-hcl.html)から入手可能である。
【0042】
【化3】
【0043】
【化4】
【0044】
なお、KP-457は、巨核球により生産された血小板の機能を保持する物質、すなわち血小板機能保持剤としても機能することが知られている(WO2012/157586を参照)。また、GNF-351およびY-39983は、巨核球の血小板産生を促進する物質、すなわち血小板産生促進剤としても機能することが知られている(WO2016/204256を参照)。
【0045】
上記説明では、巨核球分化誘導因子が例示されているが、分化細胞の生産方法を実施して細胞の分化が起こっている場合、無血清培地中に分化誘導因子が含まれていることは明らかであり、無血清培地中のどの成分が分化誘導因子であるかを必ずしも特定する必要はない。
【0046】
(効果)
上述の方法は、血清代替物を使用しているが、血清使用時の細胞の分化効率を維持することができる点で優れている。また、上述の方法は、血清代替物の使用により、血清使用時のコストの問題や培養細胞の品質安定性の問題を解決することができる。
【0047】
<1-2.増殖細胞の生産方法>
増殖細胞の生産方法では、原料細胞を増殖因子の存在下で培養して、増殖細胞を生産する。本明細書において「増殖因子」は、細胞の増殖のための栄養源となる物質や細胞の増殖を促進する物質など、細胞の増殖に寄与するあらゆる物質を指す。
【0048】
原料細胞および目的細胞は、例えば、iPS細胞および間葉系幹細胞からなる群より選択され得る。原料細胞および目的細胞は、好ましくは、ヒトiPS細胞およびヒト間葉系幹細胞からなる群より選択され得る。
【0049】
増殖細胞の生産方法は、血清代替物として、(a)ヒト血清アルブミンと、(b)Src阻害剤、PKC活性化剤、メチルセルロース、Essential 8培地、組換えヒト血清アルブミン、およびヒト以外の動物血清アルブミンからなる群より選択される少なくとも1つの添加物との組み合わせを使用することを特徴とする。
【0050】
血清代替物は、上述の<1-1.分化細胞の生産方法>の欄で説明したとおりである。また、血清代替物は、上述の<1-1.分化細胞の生産方法>の欄に記載した濃度で使用することができる。
【0051】
増殖細胞の生産方法は、血清代替物として、(a)ヒト血清アルブミンと、(b)Src阻害剤、PKC活性化剤、メチルセルロース、Essential 8培地、組換えヒト血清アルブミン、およびヒト以外の動物血清アルブミンからなる群より選択される少なくとも1つの添加物との組み合わせを使用すること以外は、血清を使用する従来の増殖培養と同様の方法に従って実施することができる。より具体的には、増殖細胞の生産方法は、増殖因子を含む基本培地(例えば、MEM、DMEM、IMDM、Ham’s F-12、DMEM/F12、RPMI1640など)と上述の血清代替物とを含む無血清培地で原料細胞を培養することにより実施することができる。
【0052】
基本培地は、通常、アミノ酸、ビタミン、無機塩類などの増殖因子を含んでいるが、基本培地に含まれる増殖因子に加えて、追加の増殖因子を基本培地に添加してもよい。
【0053】
例えば、iPS細胞の増殖培養は、市販のiPS細胞増殖用培地に、上述の血清代替物を添加して無血清培地を調製し、この無血清培地中でiPS細胞を培養することにより実施することができる。iPS細胞増殖用培地として、例えばDMEM/F12を使用することができ、DMEM/F12は、iPS細胞増殖因子として、例えばL-グルタミン、ビタミンB12などを含む。血清代替物としては、好ましくは、ヒト血清アルブミンとプロストラチンとの組み合わせ、またはヒト血清アルブミンと組換えヒト血清アルブミンとの組み合わせを使用することができる。
【0054】
例えば、間葉系幹細胞の増殖培養は、市販の間葉系幹細胞増殖用培地に、上述の血清代替物を添加して無血清培地を調製し、この無血清培地中で間葉系幹細胞を培養することにより実施することができる。間葉系幹細胞増殖用培地として、例えばDMEM/F12を使用することができ、DMEM/F12は、間葉系幹細胞増殖因子として、例えばL-グルタミン、ビタミンB12などを含む。血清代替物としては、好ましくは、ヒト血清アルブミンとA419259との組み合わせ、またはヒト血清アルブミンと組換えヒト血清アルブミンとの組み合わせを使用することができる。
【0055】
あるいは、上述の方法を巨核球前駆細胞に適用して巨核球前駆細胞を増殖培養することや、上述の方法を心筋細胞に適用して心筋細胞を増殖培養することも可能である。
【0056】
上記説明では、iPS細胞増殖因子や間葉系幹細胞増殖因子が例示されているが、増殖細胞の生産方法を実施して細胞の増殖が起こっている場合、無血清培地中に増殖因子が含まれていることは明らかであり、無血清培地中のどの成分が増殖因子であるかを必ずしも特定する必要はない。
【0057】
上述の方法は、血清代替物を使用しているが、血清使用時の細胞の増殖効率を維持することができる点で優れている。また、上述の方法は、血清代替物の使用により、血清使用時のコストの問題や培養細胞の品質安定性の問題を解決することができる。
【0058】
<2.目的細胞による生産物の生産方法>
別の側面によれば、上述の方法に従って原料細胞を培養して、目的細胞を生産するとともに目的細胞に生産物を生産させることを含む、目的細胞による生産物の生産方法が提供される。すなわち、
増殖因子および分化誘導因子から選択される少なくとも1つの培養因子と、
ヒト血清アルブミンと、
Src阻害剤、PKC活性化剤、メチルセルロース、Essential 8培地、組換えヒト血清アルブミン、およびヒト以外の動物血清アルブミンからなる群より選択される少なくとも1つの添加物と
を含む無血清培地で原料細胞を培養して、目的細胞を生産するとともに目的細胞に生産物を生産させることを含む、目的細胞による生産物の生産方法が提供される。
【0059】
この方法において、原料細胞の培養は、上述の<1-1.分化細胞の生産方法>の欄で説明したのと同じ方法に従って行うことができる。この方法は、目的細胞により生産された生産物を回収する工程を更に含んでいてもよい。
【0060】
一つの態様によれば、目的細胞による生産物の生産方法において、原料細胞は巨核球前駆細胞であり、目的細胞は巨核球であり、生産物は血小板である。すなわち、一つの態様によれば、
少なくとも1つの巨核球分化誘導因子と、
ヒト血清アルブミンと、
Src阻害剤、PKC活性化剤、メチルセルロース、Essential 8培地、組換えヒト血清アルブミン、およびヒト以外の動物血清アルブミンからなる群より選択される少なくとも1つの添加物と
を含む無血清培地で巨核球前駆細胞を培養して、巨核球を生産するとともに巨核球に血小板を生産させることを含む、巨核球による血小板の生産方法が提供される。
【0061】
例えば、巨核球による血小板の生産は、基本培地に、巨核球分化誘導因子と上述の血清代替物とを添加して無血清培地を調製し、この無血清培地中で巨核球前駆細胞を培養することにより実施することができる。基本培地として、例えばIMDMを使用することができ、巨核球分化誘導因子として、例えば、SCF、TA-316、KP-457、GNF-351、およびY39983を使用することができる。培養により、巨核球前駆細胞が分化して巨核球が生産されるとともに、生産された巨核球により血小板が生産される。
【0062】
上述のとおり、KP-457は、巨核球により生産された血小板の機能を保持する物質、すなわち血小板機能保持剤としても機能することが知られている(WO2012/157586を参照)。また、GNF-351およびY-39983は、巨核球の血小板産生を促進する物質、すなわち血小板産生促進剤としても機能することが知られている(WO2016/204256を参照)。
【0063】
あるいは、別の態様によれば、iPS細胞または間葉系幹細胞を増殖培養して、これらの細胞にサイトカインを生産させることができる。
【0064】
すなわち、別の態様によれば、
少なくとも1つのiPS細胞増殖因子と、
ヒト血清アルブミンと、
Src阻害剤、PKC活性化剤、メチルセルロース、Essential 8培地、組換えヒト血清アルブミン、およびヒト以外の動物血清アルブミンからなる群より選択される少なくとも1つの添加物と
を含む無血清培地でiPS細胞を培養して、iPS細胞にサイトカインを生産させることを含む、iPS細胞によるサイトカインの生産方法が提供される。
【0065】
この方法において、iPS細胞の培養は、上述の<1-2.増殖細胞の生産方法>の欄でiPS細胞の増殖培養について説明したのと同じ方法に従って行うことができる。培養により、iPS細胞が増殖するとともに、iPS細胞によりサイトカインが生産される。
【0066】
更に別の態様によれば、
少なくとも1つの間葉系幹細胞増殖因子と、
ヒト血清アルブミンと、
Src阻害剤、PKC活性化剤、メチルセルロース、Essential 8培地、組換えヒト血清アルブミン、およびヒト以外の動物血清アルブミンからなる群より選択される少なくとも1つの添加物と
を含む無血清培地で間葉系幹細胞を培養して、間葉系幹細胞にサイトカインを生産させることを含む、間葉系幹細胞によるサイトカインの生産方法が提供される。
【0067】
この方法において、間葉系幹細胞の培養は、上述の<1-2.増殖細胞の生産方法>の欄で間葉系幹細胞の増殖培養について説明したのと同じ方法に従って行うことができる。培養により、間葉系幹細胞が増殖するとともに、間葉系幹細胞によりサイトカインが生産される。
【0068】
上述の方法は、血清代替物を使用しているが、血清使用時の細胞の培養効率および細胞による生産物の生産効率を維持することができる点で優れている。また、上述の方法は、血清代替物の使用により、血清使用時のコストの問題や培養細胞の品質安定性の問題を解決することができる。
【0069】
<3.無血清培地>
<3-1.目的細胞の生産において使用するための無血清培地>
別の側面によれば、
増殖因子および分化誘導因子から選択される少なくとも1つの培養因子と、
ヒト血清アルブミンと、
Src阻害剤、PKC活性化剤、メチルセルロース、Essential 8培地、組換えヒト血清アルブミン、およびヒト以外の動物血清アルブミンからなる群より選択される少なくとも1つの添加物と
を含む、目的細胞の生産において使用するための無血清培地が提供される。
【0070】
この無血清培地は、目的細胞の生産において使用されるものであり、具体的には、上述の<1.目的細胞の生産方法>の欄で説明した方法に使用することができる。すなわち、無血清培地は、増殖細胞の生産または分化細胞の生産において使用することができる。したがって、無血清培地の詳細については、上述の<1.目的細胞の生産方法>の欄に記載される培地の説明を参照することができる。
【0071】
無血清培地は、血清代替物として、(a)ヒト血清アルブミンと、(b)Src阻害剤、PKC活性化剤、メチルセルロース、Essential 8培地、組換えヒト血清アルブミン、およびヒト以外の動物血清アルブミンからなる群より選択される少なくとも1つの添加物との組み合わせを含むことを特徴とする。血清代替物は、上述の<1-1.分化細胞の生産方法>の欄で説明したとおりである。また、血清代替物は、上述の<1-1.分化細胞の生産方法>の欄に記載した濃度で無血清培地に含まれ得る。
【0072】
一つの態様において、無血清培地は、分化誘導因子を含む公知の細胞分化誘導用培地に含まれる血清を、上述の血清代替物に置き換えた培地である。この態様において、無血清培地は、基本培地(例えば、MEM、DMEM、IMDM、Ham’s F-12、DMEM/F12、RPMI1640など)と分化誘導因子と上述の血清代替物とを含む。
【0073】
別の態様において、無血清培地は、増殖因子を含む公知の細胞増殖用培地に含まれる血清を、上述の血清代替物に置き換えた培地である。この態様において、無血清培地は、増殖因子を含む基本培地(例えば、MEM、DMEM、IMDM、Ham’s F-12、DMEM/F12、RPMI1640など)と上述の血清代替物とを含む。
【0074】
特定の態様によれば、目的細胞の生産において使用するための無血清培地において、目的細胞は巨核球であり、培養因子は巨核球分化誘導因子である。すなわち、この特定の態様において、無血清培地は、基本培地(例えば、IMDMなど)と巨核球分化誘導因子と上述の血清代替物とを含む。上述のとおり、巨核球分化誘導因子は、例えばSCF、TA-316、KP-457、GNF-351、およびY39983である。
【0075】
上述の無血清培地は、血清代替物を含むが、血清を含む対応する培地を使用した時の細胞の培養効率(具体的には、分化効率および増殖効率)を維持することができる点で優れている。また、上述の無血清培地は、血清代替物の使用により、血清使用時のコストの問題や培養細胞の品質安定性の問題を解決することができる。
【0076】
<3-2.目的細胞による生産物の生産において使用するための無血清培地>
別の側面によれば、
増殖因子および分化誘導因子から選択される少なくとも1つの培養因子と、
ヒト血清アルブミンと、
Src阻害剤、PKC活性化剤、メチルセルロース、Essential 8培地、組換えヒト血清アルブミン、およびヒト以外の動物血清アルブミンからなる群より選択される少なくとも1つの添加物と
を含む、目的細胞による生産物の生産において使用するための無血清培地が提供される。
【0077】
この無血清培地は、目的細胞による生産物の生産において使用されるものであり、具体的には、上述の<2.目的細胞による生産物の生産方法>の欄で説明した方法に使用することができる。したがって、無血清培地の詳細については、上述の<2.目的細胞による生産物の生産方法>の欄に記載される培地の説明を参照することができる。
【0078】
無血清培地は、血清代替物として、(a)ヒト血清アルブミンと、(b)Src阻害剤、PKC活性化剤、メチルセルロース、Essential 8培地、組換えヒト血清アルブミン、およびヒト以外の動物血清アルブミンからなる群より選択される少なくとも1つの添加物との組み合わせを含むことを特徴とする。血清代替物は、上述の<1-1.分化細胞の生産方法>の欄で説明したとおりである。また、血清代替物は、上述の<1-1.分化細胞の生産方法>の欄に記載した濃度で無血清培地に含まれ得る。
【0079】
特定の態様によれば、目的細胞による生産物の生産において使用するための無血清培地において、目的細胞による生産物の生産は、巨核球による血小板の生産であり、培養因子は巨核球分化誘導因子である。すなわち、この特定の態様において、無血清培地は、基本培地(例えば、IMDMなど)と巨核球分化誘導因子と上述の血清代替物とを含む。上述のとおり、巨核球分化誘導因子は、例えばSCF、TA-316、KP-457、GNF-351、およびY39983である。
【0080】
上述のとおり、KP-457は、巨核球により生産された血小板の機能を保持する物質、すなわち血小板機能保持剤としても機能することが知られている(WO2012/157586を参照)。また、GNF-351およびY-39983は、巨核球の血小板産生を促進する物質、すなわち血小板産生促進剤としても機能することが知られている(WO2016/204256を参照)。
【0081】
上述の無血清培地は、血清代替物を含むが、血清を含む対応する培地を使用した時の細胞の培養効率および細胞による生産物の生産効率を維持することができる点で優れている。また、上述の無血清培地は、血清代替物の使用により、血清使用時のコストの問題や培養細胞の品質安定性の問題を解決することができる。
【0082】
<4.好ましい実施形態>
以下に、本発明の好ましい実施形態をまとめて示す。
【0083】
[A1] 増殖因子および分化誘導因子から選択される少なくとも1つの培養因子と、
ヒト血清アルブミンと、
Src阻害剤、PKC活性化剤、メチルセルロース、Essential 8培地、組換えヒト血清アルブミン、およびヒト以外の動物血清アルブミンからなる群より選択される少なくとも1つの添加物と
を含む無血清培地で原料細胞を培養して目的細胞を生産することを含む、目的細胞の生産方法。
[A2] 前記培養因子が、少なくとも一つの分化誘導因子であり、前記目的細胞が分化細胞である[A1]に記載の方法。
[A3] 前記原料細胞が、巨核球前駆細胞、iPS細胞、間葉系幹細胞、および線維芽細胞からなる群より選択される[A2]に記載の方法。
[A4] 前記原料細胞が、ヒト巨核球前駆細胞、ヒトiPS細胞、ヒト間葉系幹細胞、およびヒト線維芽細胞からなる群より選択される[A2]または[A3]に記載の方法。
[A5] 前記目的細胞が、巨核球、間葉系幹細胞、線維芽細胞、および心筋細胞からなる群より選択される[A2]~[A4]の何れか1に記載の方法。
【0084】
[A6] 前記目的細胞が、ヒト巨核球、ヒト間葉系幹細胞、ヒト線維芽細胞、およびヒト心筋細胞からなる群より選択される[A2]~[A5]の何れか1に記載の方法。
[A7] 前記原料細胞が巨核球前駆細胞であり、前記目的細胞が巨核球である[A2]、[A3]および[A5]の何れか1に記載の方法。
[A8] 前記原料細胞がヒト巨核球前駆細胞であり、前記目的細胞がヒト巨核球である[A2]~[A7]の何れか1に記載の方法。
[A9] 前記原料細胞がiPS細胞であり、前記目的細胞が間葉系幹細胞である[A2]、[A3]および[A5]の何れか1に記載の方法。
[A10] 前記原料細胞がヒトiPS細胞であり、前記目的細胞がヒト間葉系幹細胞である[A2]~[A6]および[A9]の何れか1に記載の方法。
【0085】
[A11] 前記原料細胞がiPS細胞であり、前記目的細胞が線維芽細胞である[A2]、[A3]および[A5]の何れか1に記載の方法。
[A12] 前記原料細胞がヒトiPS細胞であり、前記目的細胞がヒト線維芽細胞である[A2]~[A6]および[A11]の何れか1に記載の方法。
[A13] 前記原料細胞がiPS細胞であり、前記目的細胞が心筋細胞である[A2]、[A3]および[A5]の何れか1に記載の方法。
[A14] 前記原料細胞がヒトiPS細胞であり、前記目的細胞がヒト心筋細胞である[A2]~[A6]および[A13]の何れか1に記載の方法。
[A15] 前記原料細胞が間葉系幹細胞であり、前記目的細胞が心筋細胞である[A2]、[A3]および[A5]の何れか1に記載の方法。
【0086】
[A16] 前記原料細胞がヒト間葉系幹細胞であり、前記目的細胞がヒト心筋細胞である[A2]~[A6]および[A15]の何れか1に記載の方法。
[A17] 前記原料細胞が線維芽細胞であり、前記目的細胞が心筋細胞である[A2]、[A3]および[A5]の何れか1に記載の方法。
[A18] 前記原料細胞がヒト線維芽細胞であり、前記目的細胞がヒト心筋細胞である[A2]~[A6]および[A17]の何れか1に記載の方法。
【0087】
[B1] 前記培養因子が、少なくとも一つの増殖因子であり、前記目的細胞が増殖細胞である[A1]に記載の方法。
[B2] 前記原料細胞および前記目的細胞が、iPS細胞および間葉系幹細胞からなる群より選択される[B1]に記載の方法。
[B3] 前記原料細胞および前記目的細胞が、ヒトiPS細胞およびヒト間葉系幹細胞からなる群より選択される[B1]または[B2]に記載の方法。
[B4] 前記原料細胞および前記目的細胞が、iPS細胞である[B1]または[B2]に記載の方法。
[B5] 前記原料細胞および前記目的細胞が、ヒトiPS細胞である[B1]~[B4]の何れか1に記載の方法。
【0088】
[B6] 前記原料細胞および前記目的細胞が、間葉系幹細胞である[B1]または[B2]に記載の方法。
[B7] 前記原料細胞および前記目的細胞が、ヒト間葉系幹細胞である[B1]~[B3]および[B6]の何れか1に記載の方法。
[B8] 前記原料細胞および前記目的細胞が、巨核球前駆細胞である[B1]に記載の方法。
[B9] 前記原料細胞および前記目的細胞が、ヒト巨核球前駆細胞である[B1]または[B8]に記載の方法。
[B10] 前記原料細胞および前記目的細胞が、心筋細胞である[B1]に記載の方法。
[B11] 前記原料細胞および前記目的細胞が、ヒト心筋細胞である[B1]または[B10]に記載の方法。
【0089】
[C1] 前記添加物が、Src阻害剤、好ましくはA419259である[A1]~[A18]および[B1]~[B11]の何れか1に記載の方法。
[C2] 前記添加物が、PKC活性化剤、好ましくはプロストラチンである[A1]~[A18]および[B1]~[B11]の何れか1に記載の方法。
[C3] 前記添加物が、メチルセルロースである[A1]~[A18]および[B1]~[B11]の何れか1に記載の方法。
[C4] 前記添加物が、Essential 8培地である[A1]~[A18]および[B1]~[B11]の何れか1に記載の方法。
[C5] 前記添加物が、組換えヒト血清アルブミンまたはヒト以外の動物血清アルブミンである[A1]~[A18]および[B1]~[B11]の何れか1に記載の方法。
【0090】
[C6] 前記添加物が、組換えヒト血清アルブミン、好ましくは、イネで発現させた組換えヒト血清アルブミンまたは酵母で発現させた組換えヒト血清アルブミンである[A1]~[A18]、[B1]~[B11]および[C5]の何れか1に記載の方法。
[C7] 前記添加物が、ヒト以外の動物血清アルブミン、好ましくは、ウシ血清アルブミンである[A1]~[A18]、[B1]~[B11]および[C5]の何れか1に記載の方法。
[C8] 前記無血清培地中のヒト血清アルブミンの濃度(最終濃度)が、0.01~2.0質量%、好ましくは0.05~1.5質量%、より好ましくは0.075~0.75質量%である[A1]~[A18]、[B1]~[B11]および[C1]~[C7]の何れか1に記載の方法。
[C9] 前記添加物が、Src阻害剤、好ましくはA419259であり、前記無血清培地中のSrc阻害剤の濃度(最終濃度)が、0.001~10μM、好ましくは0.01~1.0μM、より好ましくは0.03~0.2μMである[A1]~[A18]、[B1]~[B11]、[C1]および[C8]の何れか1に記載の方法。
[C10] 前記添加物が、PKC活性化剤、好ましくはプロストラチンであり、前記無血清培地中のPKC活性化剤の濃度(最終濃度)が、0.001~10μM、好ましくは0.01~1.0μM、より好ましくは0.015~0.2μMである[A1]~[A18]、[B1]~[B11]、[C2]および[C8]の何れか1に記載の方法。
【0091】
[C11] 前記添加物が、メチルセルロースであり、前記無血清培地中のメチルセルロースの濃度(最終濃度)が、0.001~3.0質量%、好ましくは0.01~1.0質量%、より好ましくは0.018~0.3質量%である[A1]~[A18]、[B1]~[B11]、[C3]および[C8]の何れか1に記載の方法。
[C12] 前記添加物が、Essential 8培地であり、前記無血清培地中のEssential 8培地の濃度(最終濃度)が、0.5~100質量%、好ましくは0.5~50質量%、より好ましくは0.625~30質量%である[A1]~[A18]、[B1]~[B11]、[C4]および[C8]の何れか1に記載の方法。
[C13] 前記添加物が、組換えヒト血清アルブミンであり、前記無血清培地中の組換えヒト血清アルブミンの濃度(最終濃度)が、0.001~1.0質量%、好ましくは0.01~0.5質量%、より好ましくは0.015~0.3質量%である[A1]~[A18]、[B1]~[B11]、[C5]、[C6]および[C8]の何れか1に記載の方法。
[C14] 前記添加物が、ヒト以外の動物血清アルブミンであり、前記無血清培地中のヒト以外の動物血清アルブミンの濃度(最終濃度)が、0.01~2.0質量%、好ましくは0.05~1.5質量%、より好ましくは0.125~0.75質量%である[A1]~[A18]、[B1]~[B11]、[C5]、[C7]および[C8]の何れか1に記載の方法。
【0092】
[D1] [A1]~[A18]、[B1]~[B11]および[C1]~[C14]の何れか1に記載の方法に従って原料細胞を培養して、目的細胞を生産するとともに目的細胞に生産物を生産させることを含む、目的細胞による生産物の生産方法。
[D2] 前記原料細胞が巨核球前駆細胞であり、前記目的細胞が巨核球であり、前記生産物が血小板である[D1]に記載の方法。
[D3] 前記原料細胞がヒト巨核球前駆細胞であり、前記目的細胞がヒト巨核球であり、前記生産物がヒト血小板である[D1]または[D2]に記載の方法。
[D4] 前記原料細胞および前記目的細胞がiPS細胞であり、前記生産物がサイトカインである[D1]に記載の方法。
[D5] 前記原料細胞および前記目的細胞がヒトiPS細胞であり、前記生産物がヒトサイトカインである[D1]または[D4]に記載の方法。
[D6] 前記原料細胞および前記目的細胞が間葉系幹細胞であり、前記生産物がサイトカインである[D1]に記載の方法。
[D7] 前記原料細胞および前記目的細胞がヒト間葉系幹細胞であり、前記生産物がヒトサイトカインである[D1]または[D6]に記載の方法。
【0093】
[E1] 増殖因子および分化誘導因子から選択される少なくとも1つの培養因子と、
ヒト血清アルブミンと、
Src阻害剤、PKC活性化剤、メチルセルロース、Essential 8培地、組換えヒト血清アルブミン、およびヒト以外の動物血清アルブミンからなる群より選択される少なくとも1つの添加物と
を含む、目的細胞の生産において使用するための無血清培地。
[E2] 前記目的細胞が巨核球であり、前記培養因子が巨核球分化誘導因子である[E1]に記載の無血清培地。
[E3] 前記目的細胞がヒト巨核球であり、前記培養因子が巨核球分化誘導因子である[E1]または[E2]に記載の無血清培地。
[E4] 増殖因子および分化誘導因子から選択される少なくとも1つの培養因子と、
ヒト血清アルブミンと、
Src阻害剤、PKC活性化剤、メチルセルロース、Essential 8培地、組換えヒト血清アルブミン、およびヒト以外の動物血清アルブミンからなる群より選択される少なくとも1つの添加物と
を含む、目的細胞による生産物の生産において使用するための無血清培地。
[E5] 前記目的細胞による前記生産物の生産が、巨核球による血小板の生産であり、前記培養因子が巨核球分化誘導因子である[E4]に記載の無血清培地。
【0094】
[E6] 前記目的細胞による前記生産物の生産が、ヒト巨核球によるヒト血小板の生産であり、前記培養因子が巨核球分化誘導因子である[E4]または[E5]に記載の無血清培地。
[E7] 前記添加物が、Src阻害剤、好ましくはA419259である[E1]~[E6]の何れか1に記載の無血清培地。
[E8] 前記添加物が、PKC活性化剤、好ましくはプロストラチンである[E1]~[E6]の何れか1に記載の無血清培地。
[E9] 前記添加物が、メチルセルロースである[E1]~[E6]の何れか1に記載の無血清培地。
[E10] 前記添加物が、Essential 8培地である[E1]~[E6]の何れか1に記載の無血清培地。
【0095】
[E11] 前記添加物が、組換えヒト血清アルブミンまたはヒト以外の動物血清アルブミンである[E1]~[E6]の何れか1に記載の無血清培地。
[E12] 前記添加物が、組換えヒト血清アルブミン、好ましくは、イネで発現させた組換えヒト血清アルブミンまたは酵母で発現させた組換えヒト血清アルブミンである[E1]~[E6]および[E11]の何れか1に記載の無血清培地。
[E13] 前記添加物が、ヒト以外の動物血清アルブミン、好ましくは、ウシ血清アルブミンである[E1]~[E6]および[E11]の何れか1に記載の無血清培地。
[E14] 前記無血清培地中のヒト血清アルブミンの濃度(最終濃度)が、0.01~2.0質量%、好ましくは0.05~1.5質量%、より好ましくは0.075~0.75質量%である[E1]~[E13]の何れか1に記載の無血清培地。
[E15] 前記添加物が、Src阻害剤、好ましくはA419259であり、前記無血清培地中のSrc阻害剤の濃度(最終濃度)が、0.001~10μM、好ましくは0.01~1.0μM、より好ましくは0.03~0.2μMである[E1]~[E7]および[E14]の何れか1に記載の無血清培地。
【0096】
[E16] 前記添加物が、PKC活性化剤、好ましくはプロストラチンであり、前記無血清培地中のPKC活性化剤の濃度(最終濃度)が、0.001~10μM、好ましくは0.01~1.0μM、より好ましくは0.015~0.2μMである[E1]~[E6]、[E8]および[E14]の何れか1に記載の無血清培地。
[E17] 前記添加物が、メチルセルロースであり、前記無血清培地中のメチルセルロースの濃度(最終濃度)が、0.001~3.0質量%、好ましくは0.01~1.0質量%、より好ましくは0.018~0.3質量%である[E1]~[E6]、[E9]および[E14]の何れか1に記載の無血清培地。
[E18] 前記添加物が、Essential 8培地であり、前記無血清培地中のEssential 8培地の濃度(最終濃度)が、0.5~100質量%、好ましくは0.5~50質量%、より好ましくは0.625~30質量%である[E1]~[E6]、[E10]および[E14]の何れか1に記載の無血清培地。
[E19] 前記添加物が、組換えヒト血清アルブミンであり、前記無血清培地中の組換えヒト血清アルブミンの濃度(最終濃度)が、0.001~1.0質量%、好ましくは0.01~0.5質量%、より好ましくは0.015~0.3質量%である[E1]~[E6]、[E11]、[E12]および[E14]の何れか1に記載の無血清培地。
[E20] 前記添加物が、ヒト以外の動物血清アルブミンであり、前記無血清培地中のヒト以外の動物血清アルブミンの濃度(最終濃度)が、0.01~2.0質量%、好ましくは0.05~1.5質量%、より好ましくは0.125~0.75質量%である[E1]~[E6]、[E11]、[E13]および[E14]の何れか1に記載の無血清培地。
【実施例
【0097】
[実施例1] 巨核球前駆細胞から巨核球への分化培養
(1)方法
実施例1では、ヒトiPS細胞由来巨核球前駆細胞から巨核球への分化培養を行った。分化培養は、論文2(Ito et al., 2018, Cell 174, 636-648)に記載された方法を用いて行った。
【0098】
IMDM(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium)(Sigma-Aldrich, #I3390)に、10U ヘパリンナトリウム(Yoshindo Inc., #(01)14987476163428)、50ng/ml SCF(Stem Cell Factor)(Wako, #193-15513)、200ng/ml TA-316(Nissan Chemical)、15μM KP-457(Kaken Pharmaceutical)、0.5μM GNF-351(Calbiochem)、0.5μM Y-39983(MedChemExpress)を加えた(濃度は最終濃度である)。得られた培地に、ヒト血漿(HP)(Cosmo Bio)を5質量%になるように添加して、ポジティブコントロール培地を調製し、ヒト血漿を加えなかった培地をネガティブコントロール(NC)培地とした。
【0099】
また、ヒト血漿の代わりに種々の血清代替物を添加して、培地を調製した。血清代替物として、ヒト血清アルブミン(HSA)(Sigma-Aldrich)、ライス由来ヒト組換えアルブミン(R)(Sigma-Aldrich)、酵母由来ヒト組換えアルブミン(Y)(Wako)、ウシ血清アルブミン(BSA)(Sigma-Aldrich)、Essential 8培地(E)(Invitrogen)、A419259化合物(A)(Wako)、プロストラチン(P)(Wako)、メチルセルロース(M)(R&D Systems)、またはこれらの組み合わせを使用した。
【0100】
これらの培地を用いて、巨核球の分化培養を行った。具体的には、ヒトiPS細胞由来巨核球前駆細胞を、96ウェルプレート(Corning)で、1ウェルあたり100μlの培地容量で、各条件2ウェルずつ、7日間培養した。
【0101】
分化培養後、細胞を、共焦点定量イメージサイトメーターCQ1(Yokogawa Electric Corporation)を用いて解析した。核染色試薬DRAQ5 TM(Cosmo Bio)で細胞核を染色し、細胞核の大きさが20μm以上の細胞(すなわち、巨核球)の数を各ウェルで数えた。
【0102】
(2)結果
結果を図1、2、3、4A~4Eに示す。図1~3は、各培地で分化した巨核球の数を示すグラフである。図4A~4Eは、核染色試薬(DRAQ5)で染色された巨核球を示す写真である。
【0103】
図1
図1は、左から順に、以下の培地を使用した場合の結果を示す。
ネガティブコントロール:NC培地
ポジティブコントロール:5質量%のヒト血漿(HP)を含む培地
例1A:0.25質量%のヒト血清アルブミン(HSA)を含む培地
例1B:0.75質量%のヒト血清アルブミン(HSA)を含む培地
例1C:0.25質量%のウシ血清アルブミン(BSA)を含む培地
例1D:0.75質量%のウシ血清アルブミン(BSA)を含む培地
例1E:0.03質量%のライス由来ヒト組換えアルブミン(R)を含む培地
例1F:0.1質量%のライス由来ヒト組換えアルブミン(R)を含む培地
例1G:0.25μMのA419259化合物(A)を含む培地
例1H:0.75μMのA419259化合物(A)を含む培地
例1I:0.03μMのプロストラチン(P)を含む培地
例1J:0.1μMのプロストラチン(P)を含む培地
例1K:3質量%の3%メチルセルロース溶液(M)を含む培地(すなわち、0.09質量%のメチルセルロースを含む培地)
例1L:10質量%の3%メチルセルロース溶液(M)を含む培地(すなわち、0.3質量%のメチルセルロースを含む培地)
例1M:10質量%のEssential 8培地(E)を含む培地
例1N:30質量%のEssential 8培地(E)を含む培地
【0104】
例1A~1Nでは、血清代替物として、HSA、BSA、R、A、P、M、Eをそれぞれ単独で添加した。例1A~1Nの全てにおいて、ネガティブコントロール(NC)に対して巨核球数が増加したが、ポジティブコントロール(HP5%)に比べると巨核球数は少ない傾向にあった。
【0105】
図2
図2は、左から順に、以下の培地を使用した場合の結果を示す。
ネガティブコントロール:NC培地
ポジティブコントロール1:0.5質量%のヒト血漿(HP)を含む培地
ポジティブコントロール2:5質量%のヒト血漿(HP)を含む培地
例2A:0.125質量%のヒト血清アルブミン(HSA)を含む培地
例2B:0.125質量%のヒト血清アルブミン(HSA)と0.03質量%のライス由来ヒト組換えアルブミン(R)とを含む培地
例2C:0.125質量%のヒト血清アルブミン(HSA)と0.125質量%の酵母由来ヒト組換えアルブミン(Y)とを含む培地
例2D:0.125質量%のヒト血清アルブミン(HSA)と0.125質量%のウシ血清アルブミン(BSA)とを含む培地
例2E:0.125質量%のヒト血清アルブミン(HSA)と0.06μMのA419259化合物(A)とを含む培地
例2F:0.125質量%のヒト血清アルブミン(HSA)と0.03μMのプロストラチン(P)とを含む培地
例2G:0.125質量%のヒト血清アルブミン(HSA)と1.25質量%の3%メチルセルロース溶液(M)(すなわち、0.0375質量%のメチルセルロース)とを含む培地
例2H:0.125質量%のヒト血清アルブミン(HSA)と1.25質量%のEssential 8培地(E)とを含む培地
【0106】
例2Aでは、血清代替物として、0.125質量%のHSAを単独で添加し、例2B~2Hでは、血清代替物として、0.125質量%のHSAと各添加物(R、Y、BSA、A、P、M、およびEの何れか)とを組み合わせて添加した。例2B~2Hでは、HSA単独の場合(例2A)よりも巨核球数が増える傾向にあり、ポジティブコントロール2(HP5%)と同等の巨核球数が得られた。
【0107】
図3
図3は、左から順に、以下の培地を使用した場合の結果を示す。
ネガティブコントロール:NC培地
ポジティブコントロール1:0.5質量%のヒト血漿(HP)を含む培地
ポジティブコントロール2:5質量%のヒト血漿(HP)を含む培地
例3A:0.25質量%のヒト血清アルブミン(HSA)を含む培地
例3B:0.25質量%のヒト血清アルブミン(HSA)と0.03質量%のライス由来ヒト組換えアルブミン(R)とを含む培地
例3C:0.25質量%のヒト血清アルブミン(HSA)と0.125質量%の酵母由来ヒト組換えアルブミン(Y)とを含む培地
例3D:0.25質量%のヒト血清アルブミン(HSA)と0.125質量%のウシ血清アルブミン(BSA)とを含む培地
例3E:0.25質量%のヒト血清アルブミン(HSA)と0.06μMのA419259化合物(A)とを含む培地
例3F:0.25質量%のヒト血清アルブミン(HSA)と0.03μMのプロストラチン(P)とを含む培地
例3G:0.25質量%のヒト血清アルブミン(HSA)と1.25質量%の3%メチルセルロース溶液(M)(すなわち、0.0375質量%のメチルセルロース)とを含む培地
例3H:0.25質量%のヒト血清アルブミン(HSA)と1.25質量%のEssential 8培地(E)とを含む培地
【0108】
例3Aでは、血清代替物として、0.25質量%のHSAを単独で添加し、例3B~3Hでは、血清代替物として、0.25質量%のHSAと各添加物(R、Y、BSA、A、P、M、およびEの何れか)とを組み合わせて添加した。例3B~3Hでは、HSA単独の場合(例3A)よりも巨核球数が増える傾向にあり、ポジティブコントロール2(HP5%)と同等の巨核球数が得られた。
【0109】
図4A~4E)
図4A~4Eは、それぞれ、ネガティブコントロール、ポジティブコントロール2、例2A、例2B、および例2EのDRAQ5染色画像を示す。
【0110】
DRAQ5で染色される大きな細胞核を持つ巨核球が、ネガティブコントロールや例2A(HSA0.125%)と比較して、例2B(HSA0.125%+R0.03%)および例2E(HSA0.125%+A0.06μM)で増加しており、これは、ポジティブコントロール2(HP5%)に近い細胞数となっている。
【0111】
(3)考察
図1、2、3、4A~4Eの結果から、血清代替物として、ヒト血清アルブミンと特定の添加物との組み合わせを用いて巨核球前駆細胞を分化培養すると、ヒト血漿を使用した場合と同様の分化効率で、巨核球を生産できることが示された。血清代替物は、血液成分を必要としないため、巨核球の生産コストを削減することができるとともに、巨核球のロット安定性を向上させることができる。
【0112】
加えて、本発明者らは、下記の培地を使用した場合も、ヒト血漿を使用した場合と同様の分化効率で、巨核球を生産できることを実証している。
0.5質量%のヒト血清アルブミン(HSA)と0.015質量%のライス由来ヒト組換えアルブミン(R)とを含む培地
0.5質量%のヒト血清アルブミン(HSA)と0.03μMのA419259化合物(A)とを含む培地
0.5質量%のヒト血清アルブミン(HSA)と0.015μMのプロストラチン(P)とを含む培地
0.5質量%のヒト血清アルブミン(HSA)と0.625質量%の3%メチルセルロース溶液(M)(すなわち、0.01875質量%のメチルセルロース)とを含む培地
0.5質量%のヒト血清アルブミン(HSA)と0.625質量%のEssential 8培地(E)とを含む培地
0.125質量%のヒト血清アルブミン(HSA)と0.015質量%のライス由来ヒト組換えアルブミン(R)とを含む培地
0.125質量%のヒト血清アルブミン(HSA)と0.03μMのA419259化合物(A)とを含む培地
0.125質量%のヒト血清アルブミン(HSA)と0.015μMのプロストラチン(P)とを含む培地
0.125質量%のヒト血清アルブミン(HSA)と0.625質量%の3%メチルセルロース溶液(M)(すなわち、0.01875質量%のメチルセルロース)とを含む培地
0.125質量%のヒト血清アルブミン(HSA)と0.625質量%のEssential 8培地(E)とを含む培地
【0113】
[実施例2] 巨核球による血小板の生産
(1)方法
実施例1で巨核球分化に効果のあった、ヒト血清アルブミン(HSA)とライス由来ヒト組換えアルブミン(R)の組み合わせおよびHSAとA419259化合物(A)の組み合わせを用いて、実施例1と同様の方法で、25mlスケールでフラスコ振とう培養を行い、これにより巨核球由来の血小板を生産した。
【0114】
培養後、FACS(蛍光活性化セルソーティング)により血小板マーカーの発現を解析した。FACS解析は、フローサイトメーター(Sony SA3800)を使用して行った。
【0115】
具体的には、血小板を解析するため、CD41抗体染色およびCD42b抗体染色を行い、血小板におけるCD41陽性細胞率およびCD42b陽性細胞率を解析した。また、血小板の凝集機能を調べるため、0.2μM PMA(ホルボール12-ミリステート13-アセテート)を添加することによるPAC1陽性細胞率の上昇、および100μM ADP(アデノシン二リン酸)を添加することによるPAC1陽性細胞率の上昇を解析した。
【0116】
(2)結果
結果を図5および6に示す。
【0117】
図5
図5にCD41およびCD42bの陽性細胞率を示す。図5は、左から順に、以下の培地を使用した場合の結果を示す。
例5A:5質量%のヒト血漿(HP)を含む培地
例5B:0.25質量%のヒト血清アルブミン(HSA)を含む培地
例5C:0.25質量%のヒト血清アルブミン(HSA)と0.05質量%のライス由来ヒト組換えアルブミン(R)とを含む培地
例5D:0.25質量%のヒト血清アルブミン(HSA)と0.05μMのA419259化合物(A)とを含む培地
【0118】
例5B(HSA0.25%)と比較して、例5C(HSA0.25%+R0.05%)および例5D(HSA0.25%+A0.05μM)で、CD41陽性細胞率およびCD42b陽性細胞率が上昇し、ポジティブコントロールである例5A(HP5%)と同等のCD41陽性細胞率およびCD42b陽性細胞率が得られた。
【0119】
図6
図6にPMA処理後のPAC1陽性細胞率およびADP処理後のPAC1陽性細胞率を示す。図6は、左から順に、以下の培地を使用した場合の結果を示す。
例6A:5質量%のヒト血漿(HP)を含む培地
例6B:0.25質量%のヒト血清アルブミン(HSA)を含む培地
例6C:0.25質量%のヒト血清アルブミン(HSA)と0.05質量%のライス由来ヒト組換えアルブミン(R)とを含む培地
例6D:0.25質量%のヒト血清アルブミン(HSA)と0.05μMのA419259化合物(A)とを含む培地
【0120】
図6において、「Pre_PAC1」は、PMAやADPで処理する前のPAC1陽性細胞率を示し、「PMA_PAC1」は、PMA処理後のPAC1陽性細胞率を示し、「ADP_PAC1」は、ADP処理後のPAC1陽性細胞率を示す。
【0121】
例6B(HSA0.25%)と比較して、例6C(HSA0.25%+R0.05%)および例6D(HSA0.25%+A0.05μM)で、PMA処理後のPAC1陽性細胞率およびADP処理後のPAC1陽性細胞率が上昇し、ポジティブコントロールである例6A(HP5%)と同等のPAC1陽性細胞率が得られた。
【0122】
(3)考察
図5および図6の結果から、実施例1で巨核球分化に効果のあった血清代替物(ヒト血清アルブミンと特定の添加物の組み合わせ)を用いて巨核球前駆細胞を培養すると、ヒト血漿を使用した場合と同様、機能的な血小板を生産できることが示された。血清代替物は、血液成分を必要としないため、血小板の生産コストを削減することができるとともに、血小板のロット安定性を向上させることができる。
【0123】
[実施例3] iPS細胞の増殖培養および間葉系幹細胞の増殖培養
(1)方法
実施例1で巨核球分化に効果のあった、ヒト血清アルブミン(HSA)と組換えヒト血清アルブミンの組み合わせおよびHSAとプロストラチンの組み合わせについて、iPS細胞の増殖能を調べた。また、実施例1で巨核球分化に効果のあった、ヒト血清アルブミン(HSA)と組換えヒト血清アルブミンの組み合わせおよびHSAとA419259化合物の組み合わせについて、間葉系幹細胞の増殖能を調べた。
【0124】
(iPS細胞)
iPS細胞については、iPS細胞(253G1株)を、iMatrix-511(0.1μg/well)(ニッピ株式会社)でコーティングした96ウェルプレート(Corning)に、1.0x10e4/wellで、各条件6ウェルずつ播種し、下記の培地で5日間培養した。
【0125】
コントロール:DMEM/F12培地(Sigma-Aldrich)
例7A(HSA0.125):0.125質量%のヒト血清アルブミン(HSA)を含むDMEM/F12培地
例7B(HSA0.1+R0.025):0.1質量%のヒト血清アルブミン(HSA)と0.025質量%のライス由来ヒト組換えアルブミン(R)とを含むDMEM/F12培地
例7C(HSA0.075+Y0.05):0.075質量%のヒト血清アルブミン(HSA)と0.05質量%の酵母由来ヒト組換えアルブミン(Y)とを含むDMEM/F12培地
例7D(HSA0.125+P0.05):0.125質量%のヒト血清アルブミン(HSA)と0.05μMのプロストラチン(P)とを含むDMEM/F12培地
例7E(R0.025):0.025質量%のライス由来ヒト組換えアルブミン(R)を含むDMEM/F12培地
例7F(Y0.05):0.05質量%の酵母由来ヒト組換えアルブミン(Y)を含むDMEM/F12培地
例7G(P0.05):0.05μMのプロストラチン(P)を含むDMEM/F12培地
【0126】
培養後、細胞数は、DAPI核染色蛍光を共焦点定量イメージサイトメーターCQ1(Yokogawa Electric Corporation)で解析することにより測定した。
【0127】
(間葉系幹細胞)
間葉系幹細胞については、骨髄由来間葉系幹細胞(JCRB1154株)を、96ウェルプレート(Corning)に、1.0x10e4/wellで、各条件6ウェルずつ播種し、下記の培地で5日間培養した。
【0128】
コントロール:DMEM/F12培地(Sigma-Aldrich)
例8A(HSA0.125):0.125質量%のヒト血清アルブミン(HSA)を含むDMEM/F12培地
例8B(HSA0.1+R0.025):0.1質量%のヒト血清アルブミン(HSA)と0.025質量%のライス由来ヒト組換えアルブミン(R)とを含むDMEM/F12培地
例8C(HSA0.075+Y0.05):0.075質量%のヒト血清アルブミン(HSA)と0.05質量%の酵母由来ヒト組換えアルブミン(Y)とを含むDMEM/F12培地
例8D(HSA0.125+A0.05):0.125質量%のヒト血清アルブミン(HSA)と0.05μMのA419259化合物(A)とを含むDMEM/F12培地
例8E(R0.025):0.025質量%のライス由来ヒト組換えアルブミン(R)を含むDMEM/F12培地
例8F(Y0.05):0.05質量%の酵母由来ヒト組換えアルブミン(Y)を含むDMEM/F12培地
例8G(A0.05):0.05μMのA419259化合物(A)を含むDMEM/F12培地
【0129】
培養後、細胞数は、DAPI核染色蛍光を共焦点定量イメージサイトメーターCQ1(Yokogawa Electric Corporation)で解析することにより測定した。
【0130】
(2)結果
図7に、各条件で培養後のiPS細胞数を示す。コントロールや例7A(HSA単独)に比べて、例7Bおよび7C(HSAと組換えヒト血清アルブミンの組み合わせ)、および例7D(HSAとプロストラチンの組み合わせ)は、iPS細胞数の有意な増加が見られた。一方、例7Eおよび例7F(組換えヒト血清アルブミン単独)および例7G(プロストラチン単独)は、iPS細胞数の有意な増加が見られなかった。
【0131】
図8に、各条件で培養後のMSC細胞数を示す。コントロールや例8A(HSA単独)に比べて、例8Bおよび8C(HSAと組換えヒト血清アルブミンの組み合わせ、および例8D(HSAとA419259の組み合わせ)は、MSC細胞数の有意な増加が見られた。一方、例8Eおよび例8F(組換えヒト血清アルブミン単独)および例8G(A419259単独)は、MSC細胞数の有意な増加が見られなかった。
【0132】
(3)考察
図7および図8の結果から、実施例1で巨核球分化に効果のあった血清代替物(ヒト血清アルブミンと特定の添加物の組み合わせ)を用いてiPS細胞の増殖培養および間葉系幹細胞の増殖培養を行うと、相乗効果により高い増殖効率が得られることが示された。血清代替物は、血液成分を必要としないため、増殖培養による細胞の生産コストを削減することができるとともに、増殖細胞のロット安定性を向上させることができる。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図5
図6
図7
図8