(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】建築物の断熱工法、建築物の断熱構造、接着剤、および表面保護材
(51)【国際特許分類】
E04B 1/76 20060101AFI20240717BHJP
E04B 1/80 20060101ALI20240717BHJP
E04B 2/56 20060101ALI20240717BHJP
E04F 13/02 20060101ALI20240717BHJP
C09J 133/00 20060101ALI20240717BHJP
C09J 125/00 20060101ALI20240717BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20240717BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240717BHJP
C09D 7/40 20180101ALI20240717BHJP
C09D 201/10 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
E04B1/76 500F
E04B1/76 400K
E04B1/80 100H
E04B1/76 400F
E04B2/56 645A
E04F13/02 A
C09J133/00
C09J125/00
C09D5/02
C09D7/61
C09D7/40
C09D201/10
(21)【出願番号】P 2020127983
(22)【出願日】2020-07-29
【審査請求日】2023-05-15
(31)【優先権主張番号】P 2019140702
(32)【優先日】2019-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390018717
【氏名又は名称】旭化成建材株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501352619
【氏名又は名称】三商株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】服部 絵美
(72)【発明者】
【氏名】北川 大輔
(72)【発明者】
【氏名】加藤 圭一
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-224476(JP,A)
【文献】特開2015-036365(JP,A)
【文献】特開2005-155216(JP,A)
【文献】特開2005-015513(JP,A)
【文献】特開平08-269292(JP,A)
【文献】特開2016-204601(JP,A)
【文献】特開平06-346038(JP,A)
【文献】特開2000-087470(JP,A)
【文献】特開2008-308981(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0208806(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/62-1/99
E04B 2/56-2/70
E04F 13/02
C09J 1/00-5/10
C09J 9/00-201/10
C09D 1/00-10/00
C09D 101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物に備えられる壁下地の表面に断熱材を固定する工程と、
前記断熱材の表面に表面保護層を形成する工程と、を備え、
前記表面保護層がpH10以下の表面保護材により形成されて
おり、
前記表面保護層が、表面保護材を前記断熱材の表面に塗布することにより形成され、
前記表面保護材が、第2の合成樹脂エマルジョンと、骨材とを含み、
前記第2の合成樹脂エマルジョンが、第2の共重合体粒子を含み、
前記第2の共重合体粒子が、
水溶解度が0.5g/水100g未満の単量体95質量%以上と、
アルコキシシラン基含有単量体0.1質量%以上1.0質量%未満と、
反応性界面活性剤と、を含む単量体混合物を乳化重合して得られる共重合体粒子であり、
前記骨材が、珪砂および寒水砂のうち少なくとも一方を含む、建築物の断熱工法。
【請求項2】
前記断熱材がフェノール樹脂発泡体である、請求項1に記載の建築物の断熱工法。
【請求項3】
前記断熱材がpH10以下の接着剤により前記壁下地の表面に固定される、請求項1または請求項2に記載の建築物の断熱工法。
【請求項4】
前記接着剤が、第1の合成樹脂エマルジョンを含み、
前記第1の合成樹脂エマルジョンが、
カルボキシル基含有ビニル系単量体と、
ニトリル基含有ビニル系単量体と、
芳香族ビニル系単量体、メタクリル酸アルキルエステル系単量体、アクリル酸アルキルエステル系単量体、及びヒドロキシル基含有ビニル系単量体からなる群より選ばれる1種以上の単量体と、を含む単量体混合物を乳化重合して得られる第1の共重合体粒子を含み、
前記第1の共重合体粒子は、コア部とシェル部とを有する多層構造を有し、
前記コア部にのみ前記カルボキシル基含有ビニル系単量体を含む、請求項3に記載の建築物の断熱工法。
【請求項5】
前記表面保護層が、表面保護材を前記断熱材の表面に塗布することにより形成され、
前記表面保護材が、第2の合成樹脂エマルジョンと、骨材とを含み、
前記第2の合成樹脂エマルジョンが、第2の共重合体粒子を含み、
前記第2の共重合体粒子が、コア部とシェル部とを有する多層構造を有しており、
前記骨材が、珪砂および寒水砂のうち少なくとも一方を含む、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の建築物の断熱工法。
【請求項6】
建築物の壁下地に重ねられる建築物の断熱構造であって、
断熱層と、表面保護層とを、前記壁下地側からこの順に備え、
前記表面保護層が、pH10以下の材料により構成されて
おり、
前記表面保護層を構成する表面保護材は、第2の合成樹脂エマルジョンと、骨材とを含み、
前記第2の合成樹脂エマルジョンが、第2の共重合体粒子を含み、
前記第2の共重合体粒子が、
水溶解度が0.5g/水100g未満の単量体95質量%以上と、
アルコキシシラン基含有単量体0.1質量%以上1.0質量%未満と、
反応性界面活性剤と、を含む単量体混合物を乳化重合して得られる共重合体粒子であり、
前記骨材が、珪砂および寒水砂のうち少なくとも一方を含む、建築物の断熱構造。
【請求項7】
前記断熱層がフェノール樹脂発泡体により構成されている、
請求項6に記載の建築物の断熱構造。
【請求項8】
前記壁下地と前記断熱層との間に接着層を備え、
前記接着層が、pH10以下の材料により構成されている、
請求項6または請求項7に記載の建築物の断熱構造。
【請求項9】
前記接着層が防水性を有しており、かつ、前記壁下地の表面全体を覆うように形成される、
請求項8に記載の建築物の断熱構造。
【請求項10】
請求項3に記載の建築物の断熱工法に用いられる接着剤であって、
第1の合成樹脂エマルジョンを含み、
前記第1の合成樹脂エマルジョンが、
カルボキシル基含有ビニル系単量体と、
ニトリル基含有ビニル系単量体と、
芳香族ビニル系単量体、メタクリル酸アルキルエステル系単量体、アクリル酸アルキルエステル系単量体、及びヒドロキシル基含有ビニル系単量体からなる群より選ばれる1種以上の単量体と、を含む単量体混合物を乳化重合して得られる第1の共重合体粒子を含み、
前記第1の共重合体粒子は、コア部とシェル部とを有する多層構造を有し、
前記コア部にのみ前記カルボキシル基含有ビニル系単量体を含む、接着剤。
【請求項11】
請求項1に記載の建築物の断熱工法において、前記表面保護層を構成する表面保護材であって、
第2の合成樹脂エマルジョンと、骨材とを含み、
前記第2の合成樹脂エマルジョンが、コア部とシェル部とを有する多層構造を有する第2の共重合体粒子を含み、
前記骨材が、珪砂および寒水砂のうち少なくとも一方を含む、表面保護材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書によって開示される技術は、建建築物の断熱工法、建築物の断熱構造、接着剤、および表面保護材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物の内壁又は外壁に用いられる断熱工法としては、例えば、建築物躯体外壁に圧縮強度が18KPa(JIS K 7220)以上であるコルゲートロックウールからなる断熱材の片面に接着剤を塗布して外壁面に接着固定し、コルゲートロックウール断熱材の表面に水溶性セルロースを混合した下地モルタルを塗布し、モルタル層の上に塗布型の外壁化粧仕上げをおこなう工法(特許文献1参照)や、躯体の外面に発泡系接着剤で断熱材を張り付けた後、断熱材の表面に短繊維入りのモルタルをコテ塗りし、その上にネットを重ねる工法(特許文献2参照)、建築物の下地に自己消火性を有するフェノール系断熱材を配設した外側に、防水紙及び鉄網、若しくは防水紙付き鉄網を取付け、軽量セメントモルタルを塗着し、その表面又は内部に網材を押圧して埋設した後、仕上げ施工する工法(特許文献3参照)、断熱パネルの前面に耐アルカリ性ガラス繊維製の補強メッシュを介して下地モルタルを塗りつけ、更に湿式塗り仕上げを施す工法(特許文献4参照)等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-106250号公報
【文献】特開2002-364095号公報
【文献】特開2002-235386号公報
【文献】特開2018-25092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、断熱材の表面にセメントモルタルやしっくいプラスター等のアルカリ性材料を塗付すると、長期の曝露などにより断熱材の表面強度が低下してしまうという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書によって開示される建築物の断熱工法は、建築物に備えられる壁下地の表面に断熱材を固定する工程と、前記断熱材の表面に表面保護層を形成する工程と、を備え、前記表面保護層がpH10以下の表面保護材により形成されている。
【0006】
また、本明細書によって開示される建築物の断熱構造は、建築物の壁下地に重ねられる建築物の断熱構造であって、断熱層と、表面保護層とを、前記壁下地側からこの順に備え、前記表面保護層が、pH10以下の材料により構成されている。
【発明の効果】
【0007】
本明細書によって開示される建築物の断熱工法および断熱構造によれば、断熱材の強度低下を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【発明を実施するための形態】
【0009】
【0010】
[建築物の断熱構造1]
実施形態の建築物の断熱構造1は、住宅などの建築物に備えられる壁下地16に重ねられる断熱構造であって、接着層11と、断熱層12と、表面保護層13と、塗り仕上げ層15とを、壁下地16側からこの順に備えているとともに、表面保護層13に埋設された補強メッシュ14を備えている。
【0011】
断熱層12を構成する断熱材としては、フェノール樹脂発泡体が用いられる。フェノール樹脂発泡体は、フェノール樹脂に発泡剤と硬化剤を混合し、発泡・硬化させた発泡体である。フェノール樹脂発泡体は、一般に、走行する面材上に吐出された発泡性樹脂組成物を発泡および硬化させて形成される。
【0012】
フェノール樹脂発泡体の製造方法の一例は、以下のようである。
【0013】
フェノール樹脂として、レゾール型フェノール樹脂を合成し、水分率を調整後、界面活性剤を添加する。このフェノール樹脂と発泡剤、酸触媒をミキサーにて混合し、目付量が30g/m2のポリエステル不織布製の面材上に連続的に吐出し、さらにその上を同一のポリエステル不織布製の面材にて被覆して連続積層体とし、次いでこの連続積層体を所定の温度に設定されたダブルコンベア間を挟持通過せしめて、発泡硬化させ、フェノール樹脂発泡体を得る。
【0014】
このようにして形成されたフェノール樹脂発泡体を断熱材として用いる際には、面材が発泡体の表面に重ねられた状態のまま用いられても構わない。
【0015】
このフェノール樹脂発泡体は、断熱性、耐熱性、難燃性に優れているが、耐アルカリ性に劣るため、断熱層12に接する接着層11および表面保護層13は、pH10以下の材料により構成されていることを要し、pH6以上9以下の材料により構成されていることがより好ましい。pHがこの範囲であるときに、フェノール樹脂発泡体の加水分解を抑制し、表面強度を保持することができる。
【0016】
[建築物の断熱工法]
上記のような断熱構造1を得るための建築物の断熱工法は、壁下地16の表面に接着剤を介して断熱材を接着する接着工程と、断熱材の表面に表面保護層13を形成するとともに補強メッシュ14を埋設する表面保護工程と、表面保護層13の表面に塗り仕上げ層15を形成する仕上げ工程とを備える。
【0017】
接着工程では、壁下地16の表面に接着剤を塗布した後、塗布された接着剤の上に断熱材を重ねて、接着剤を乾燥硬化させる。このようにして壁下地16への断熱材の接着が完了する。
【0018】
接着工程の完了後、表面保護工程を行う。表面保護材を、左官鏝等により断熱材の表面に塗付する。続いて、塗布された表面保護材が乾燥固化する前に、補強メッシュ14を左官鏝で押さえつけながら埋め込む。次いで、表面にさらに表面保護材を塗り重ねる。その後、表面保護材を乾燥固化させて、補強メッシュ14が埋設された表面保護層13を形成させる。このようにして、表面保護層13の形成が完了する。なお、フェノール樹脂発泡体同士の継ぎ目にポリエチレン製テープ等の防水テープを貼り付けた後に、表面保護材を塗付することが好ましい。
【0019】
表面保護工程の完了後、仕上げ工程を行う。表面保護層13の表面に表面仕上材を塗布して、乾燥硬化させ、塗り仕上げ層15を形成させる。この塗り仕上げ層15により、壁面に意匠性が付与される。
【0020】
<接着剤>
接着層11を構成し、断熱材を壁下地16に接着する接着剤は、pH10以下であることを要し、pH6以上9以下であることがより好ましい。pHがこの範囲であるときに、フェノール樹脂発泡体の加水分解を抑制し、表面強度を保持することができる。
【0021】
接着剤は、第1の合成樹脂エマルジョンを含み、前記第1の合成樹脂エマルジョンが、カルボキシル基含有ビニル系単量体と、ニトリル基含有ビニル系単量体と、芳香族ビニル系単量体、メタクリル酸アルキルエステル系単量体、アクリル酸アルキルエステル系単量体、及びヒドロキシル基含有ビニル系単量体からなる群より選ばれる1種以上の単量体と、を含む単量体混合物を乳化重合して得られる第1の共重合体粒子を含むことが好ましい。第1の合成樹脂エマルジョンとしては、例えば、アクリル樹脂エマルジョンを使用することができる。
【0022】
カルボキシル基含有ビニル系単量体を用いることにより、得られる接着剤の密着性により優れる。カルボキシル基含有ビニル系単量体としては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸又はそのモノエステル、フマル酸又はそのモノエステル、イタコン酸又はそのモノエステルなどが挙げられる。このなかでも、好ましくはアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸である。共重合樹脂を構成する全単量体100質量%に対するカルボキシル基含有ビニル系単量体の含有量は、0.1~10.0質量%が好ましく、0.1~5.0質量%がより好ましく、0.3~2.0質量%がさらに好ましい。カルボキシル基含有ビニル系単量体が、0.1質量%以上であることにより、得られる接着層11の密着性がより優れる。また、含有量が10質量%以下であることにより耐水性に優れる。
【0023】
ニトリル基含有ビニル系単量体を用いることにより、接着剤の密着性及び下地への追従性に優れる。ニトリル基含有ビニル系単量体としては、特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられる。このなかでも、好ましくはアクリロニトリルである。共重合樹脂を構成する全単量体100質量%に対するニトリル基含有ビニル系単量体の含有量は、0.5~20.0質量%が好ましく、1.0~10.0質量%がより好ましく、2.0~7.0質量%がさらに好ましい。共重合樹脂を構成する全単量体100質量%に対するニトリル基含有ビニル系単量体が、0.5質量%以上であることにより、接着剤の密着性及び下地への追従性により優れる。
【0024】
芳香族ビニル系単量体、メタクリル酸アルキルエステル系単量体、アクリル酸アルキルエステル系単量体、ヒドロキシル基含有ビニル系単量体から選ばれる1種以上の単量体を用いることができる。共重合樹脂を構成する全単量体100質量%に対するこれらの単量体の含有量は、69.1~99.35質量%が好ましい。
【0025】
芳香族ビニル系単量体としては、特に限定されないが、例えば、スチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン、等が挙げられる。このなかでも、好ましくはスチレンである。
【0026】
メタクリル酸アルキルエステル系単量体としては、特に限定されないが、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル等が挙げられる。このなかでも、好ましくはメタクリル酸メチルである。
【0027】
アクリル酸アルキルエステル系単量体としては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル等が挙げられる。このなかでも、好ましくはアクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシルである。
【0028】
ヒドロキシル基含有ビニル系単量体としては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピル、アクリル酸ポリエチレングリコール、及びメタクリル酸ポリエチレングリコール;N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、ジメチロールアクリルアミド、ジメチロールメタクリルアミドなどのメチロール基含有単量体等が挙げられる。このなかでも、好ましくはアクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチルである。
【0029】
第1の共重合体粒子は、コア部とシェル部を有する多層構造を有することが好ましい。「多層構造」とは、粒子の最外殻部の共重合体をシェル部とし、シェル部の内側にある共重合体をコア部とし、コア部とシェル部での単量体組成が異なるものである。なお、コア部は、単量体組成が異なる層を含む多層構造であってもよい。
【0030】
第1の共重合体粒子は、コア部にのみカルボキシル基含有ビニル系単量体を含むことが好ましい。これにより、形成される接着層11が耐水性に優れる。
【0031】
コア部を構成する共重合樹脂の計算ガラス転移温度は、-30℃以下が好ましく、-35℃以下がより好ましく、-40℃以下がさらに好ましい。また、コア部を構成する共重合樹脂の計算ガラス転移温度の下限は、特に限定されないが、-70℃以上が好ましい。コア部の共重合体の計算ガラス転移温度が-30℃以下であることにより、得られる接着剤のひび割れが防止され、かつ下地との追従性がより優れる傾向にある。
【0032】
シェル部を構成する共重合樹脂の計算ガラス転移温度は、-50~20℃が好ましく、-40~20℃がより好ましく、-35~-15℃がさらに好ましい。シェル部の共重合体の計算ガラス転移温度が-50~20℃であることにより、得られる接着剤の下地との追従性もより優れる傾向にある。
【0033】
なお、「共重合体の計算ガラス転移温度」とは、単量体のホモ重合体のガラス転移温度と単量体の共重合比率より下記式(1)によって計算することが可能である。
【0034】
1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+… (1)
Tg:単量体1、2…よりなる共重合体の計算ガラス転移温度(K)
W1、W2…:単量体1、単量体2…の質量分率
ここでW1+W2+…=1
Tg1、Tg2…:単量体1、単量体2…のホモ重合体のガラス転移温度(K)
【0035】
計算に使用する単量体のホモ重合体のガラス転移温度(K)としては、特に限定されないが、例えば、ポリマーハンドブック(John Willey & Sons)に記載されている値を採用することができる。
【0036】
接着剤は、第1の合成樹脂エマルジョンの他に、例えば骨材、乾燥調整剤、タッキファイヤー、消泡剤、分散剤、増粘剤、防腐剤、pH調整剤等を含んでいてもよい。
【0037】
骨材としては、例えば、寒水砂や珪砂等を使用することができる。
【0038】
乾燥調整剤としては例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等のグリコール類、界面活性剤等が挙げられる。
【0039】
タッキファイヤーとしてはテルペン樹脂、キシレン樹脂、合成ゴム等が挙げられる。
【0040】
pH調整剤としては例えば、アンモニア水、水酸化ナトリウム水溶液、水溶性アミン等が挙げられる。
【0041】
上記のように構成された接着剤により形成される接着層11は防水性を有しているため、接着層11が壁下地16の表面全体を覆うように形成されることによって、壁下地16の全面に防水性を付与することができる。
【0042】
接着剤の好ましい組成例を表1に示す。
【0043】
【0044】
<表面保護材>
表面保護層13を構成する表面保護材は、pH10以下であることを要し、pH6以上9以下であることがより好ましい。pHがこの範囲であるときに、フェノール樹脂発泡体の加水分解を抑制し、表面強度を保持することができる。
【0045】
表面保護材は、第2の合成樹脂エマルジョンと、骨材とを含むことが好ましい。
第2の合成樹脂エマルジョンは、コア部とシェル部を有する多層構造を有する第2の共重合体粒子を含むことが好ましい。
【0046】
第2の合成樹脂エマルジョンは、水溶解度が0.5g/水100g未満の単量体95質量%以上と、アルコキシシラン基含有単量体0.1質量%以上1.0質量%未満と、反応性界面活性剤と、を含む単量体混合物を乳化重合して得られる第2の共重合体粒子を含むことが好ましい。第2の合成樹脂エマルジョンとしては、例えば、アクリル樹脂エマルジョンを使用することができる。
【0047】
水への溶解度が0.5g/水100g未満の単量体はスチレン(0.03g)、メタクリル酸シクロヘキシル(0.01g以下)、メタクリル酸n-ブチル(0.04g)、メタクリル酸t-ブチル(0.05g)、メタクリル酸i-ブチル(0.04g)、メタクリル酸2-エチルヘキシル(0.01以下)、メタクリル酸ラウリル(0.01g以下)、アクリル酸n-ブチル(0.20g)、アクリル酸2-エチルヘキシル(0.01g)などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。耐水性及び種々の耐薬品性の観点から、単量体としてスチレンまたはメタクリル酸シクロヘキシルを含むことが好ましく、スチレンまたはメタクリル酸シクロヘキシルとアクリル酸2-エチルヘキシルの双方を含むことがより好ましい。
【0048】
単量体混合物100質量%に対するスチレンまたはメタクリル酸シクロヘキシルの含有量は、耐水性の観点から、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましい。さらに、成膜性の観点から、60質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましい。
【0049】
アルコキシシラン基含有単量体を含有させることにより、重合した樹脂の架橋度を適度な範囲に調整することができ成膜性が良好となる。したがって、表面保護層13中に欠陥ができることを防止することができるため、表面保護層13の防水性に優れる。
【0050】
乳化重合に用いられる単量体混合物の総量(100質量%)に対する、アルコキシシラン基含有単量体の含有割合は、表面保護層13の耐水性、耐硫酸性の観点から、0.1~2.0質量%が好ましく、0.2~1.5質量%がより好ましく、0.3~1.2質量%であることが最も好ましい。
【0051】
アルコキシシラン基含有単量体としては例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、ビニルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシランが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも好ましくは、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシランである。これらの中でより好ましくは、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシランである。
【0052】
本実施形態において、単量体混合物は、水溶解度が0.5g/水100g未満の重合性単量体やアルコキシシラン基含有重合性単量体と共重合可能な他の重合性単量体を含んでいてもよい。他の重合性単量体としては、以下のものに限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸エステル、ヒドロキシル基含有重合性単量体、カルボン酸基含有重合性単量体、これら以外の重合性単量体が挙げられる。
【0053】
第2の合成樹脂エマルジョンの重合時には、反応性界面活性剤を用いることが好ましい。反応性界面活性剤を用いることにより、表面保護層13の防水性に優れる。反応性界面活性剤としては、重合活性を有する界面活性剤であれば特に限定されず、例えば、反応性アニオン性界面活性剤、反応性ノニオン性界面活性剤を使用できる。反応性アニオン性界面活性剤の具体例としては、以下に限定されないが、「アデカリアソープSE-1025A」、「アデカリアソープSR-1025」、「アデカリアソープSR-3025」(ADEKA社製)、「アクアロンKH-1025」、「アクアロンHS-1025」、「アクアロンBC-1025」、「アクアロンBC-2020」(第一工業製薬社製)、「ラテムルPD-104」(花王社製)、「エレミノールJS-20」、「エレミノールRS-3000」(三洋化成社製)などが挙げられる。反応性ノニオン性界面活性剤の具体例としては、以下に限定されないが、「アデカリアソープER-10」、「アデカリアソープER-20」、「アデカリアソープER-30」、「アデカリアソープER-40」、「アデカリアソープNE-10」、「アデカリアソープNE-20」、「アデカリアソープNE-30」(ADEKA社製)、「アクアロンRN-20」、「アクアロンRN-30」、「アクアロンRN-50」(第一工業製薬社製)などが挙げられる。
【0054】
第2の合成樹脂エマルジョンの計算ガラス転移温度は好ましくは0~-30℃、より好ましくは-10~-20℃である。計算ガラス転移温度は、上記式(1)により計算することができる。
【0055】
表2に代表的な単量体の水溶解度とホモ重合体のガラス転移温度(Tg)を示す。
【0056】
【0057】
第2の合成樹脂エマルジョンの共重合体粒子同士の融着を制御することにより、本来は相反するはずの表面保護層13の防水性と水蒸気透過性とを両立させることができる。制御の方法としては、乳化重合の際に架橋させる(アルコキシシラン基含有単量体を含有させる)方法と、共重合体粒子をコア部とシェル部を有する多層構造にする方法とがある。
【0058】
乳化重合の際に架橋させる(アルコキシシラン基含有単量体を含有させる)場合には、共重合体粒子が単層構造の場合には、アルコキシシラン基含有単量体の含有量は0.7~1.5質量%であることが好ましく、0.8~1.2質量%であることがより好ましい。多層構造にする場合にはコア部のアルコキシシラン基含有単量体の含有量は0.1~0.5質量%が好ましく、0.2~0.4質量%がより好ましい。
【0059】
第2の共重合体粒子がコア部とシェル部を有する多層構造を有する場合には、コア部を構成する共重合粒子の計算ガラス転移温度は、-10℃以下が好ましく、-15℃以下がより好ましく、-20℃以下がさらに好ましい。シェル部を構成する共重合樹脂の計算ガラス転移温度は、30~120℃が好ましく、40~100℃がより好ましく、50~85℃がさらに好ましい。
【0060】
第2の合成樹脂エマルジョンのコア部の質量比は好ましくは、60~95質量%、より好ましくは70~90質量%である。
【0061】
骨材としては、例えば、寒水砂や珪砂、炭酸カルシウム等を用いることができる。骨材の平均粒子径は好ましくは50~150μm、より好ましくは70~110μmである。
【0062】
表面保護材は、第2の合成樹脂エマルジョンおよび骨材の他に、例えば短繊維、造膜助剤、消泡剤、分散剤、増粘剤、防腐剤、pH調整剤等を含んでいてもよい。
【0063】
短繊維としては例えば、ナイロン繊維、アクリル繊維、ビニロン繊維、炭素繊維等が挙げられる。
【0064】
pH調整剤としては例えば、アンモニア水、水酸化ナトリウム水溶液、水溶性アミン等が挙げられる。
【0065】
表面保護材を着色することにより、意匠性を付与しても良い。また、表面保護材に着色珪砂を混合することにより、意匠性を付与しても良い。
【0066】
表面保護材の好ましい組成例を表3に示す。
【0067】
【0068】
<補強メッシュ14>
補強メッシュ14はガラス繊維、耐アルカリ性ガラス繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維、ナイロン繊維等を用いて形成されている。補強メッシュ14の目開きは3~8mmであることが好ましい。この範囲にあるとき、表面保護層13の耐衝撃性に優れる。
【0069】
<表面仕上材>
塗り仕上げ層15を構成する表面仕上材としては、表面保護材と同じ組成の合成樹脂エマルジョンを用いることが好ましい。表面仕上材は特に限定されず、建築物の内外装用に市販されているものを用いることができる。
【0070】
[試験例]
1.材料
1)フェノール樹脂発泡体
フェノール樹脂発泡体としては、旭化成建材株式会社性「ネオマフォーム(登録商標)」を使用した。
【0071】
2)接着剤
接着剤としては、以下に示す組成のものを使用した。
・接着剤A(pH=8.5)
水:10質量部
アクリル樹脂エマルジョン(製品名「ポリトロン」、旭化成株式会社製、固形分45%):400質量部
寒水砂:160質量部
珪砂:55質量部
エチレングリコール:50質量部
キシレン樹脂:40質量部
造膜助剤:5質量部
消泡剤:2質量部
分散剤:8質量部
増粘剤:1質量部
防腐剤:1質量部
25%アンモニア水:1質量部
・接着剤B(pH=7)
アクリル樹脂エマルジョン(製品名「ポリトロン」、旭化成株式会社製、固形分45%):450質量部
珪砂 :200質量部
エチレングリコール:20質量部
消泡剤:2質量部
分散剤:5質量部
増粘剤:1質量部
防腐剤:1質量部
25%アンモニア水:1.5質量部。
・接着剤C(pH=13)
水:100質量部
普通ポルトランドセメント:50質量部
珪砂:100質量部
増粘剤:2質量部
【0072】
3)表面保護材
表面保護材としては、以下に示す組成のものを使用した。
・表面保護材a(pH=9)
水:100質量部
アクリル樹脂エマルジョン(製品名「ポリデュレックス」、旭化成株式会社製、固形分55%):600質量部
珪砂:1000質量部
アクリル繊維:5質量部
プロピレングリコール:10質量部
造膜助剤:10質量部
分散剤:4質量部
増粘剤:10質量部
防腐剤:0.2質量部
水溶性アミン:0.5質量部
・表面保護材b(pH=13)
水:120質量部
普通ポルトランドセメント:50質量部
寒水砂:150質量部
増粘剤:2質量部
・表面保護材c(pH=11)
水:100質量部
焼成ドロマイト:50質量部
珪砂:120質量部
増粘剤:2質量部
【0073】
2.試験体の作成
合板に接着剤を用いてフェノール樹脂発泡体(製品名「ネオマフォーム」、旭化成建材株式会社製)を貼り合わせた後、表面保護材を塗付して2週間養生して試験体とした。接着剤と表面保護材との組み合わせを、下記表4に示した。
【0074】
3.試験方法
JIS A 6909に準じて付着強さ試験(標準状態及び浸水後)を行った。
【0075】
4.結果
結果を表4に示した。表4中、付着強さが0.7N/mm2を超えるものを〇、0.5N/mm2以上0.7N/mm2以下のものを△、0.5N/mm2未満のものを×とした。付着試験時の破断箇所については、フェノール樹脂発泡体が凝集破壊したものを〇、フェノール樹脂発泡体の面材が剥離したものを×とした。
【0076】
【0077】
接着剤および表面保護材の双方がpH10以下である試験例1、試験例2では、標準状態、浸水後のいずれの付着強さ試験でも、付着強さが0.7N/mm2を超えており、良好な付着強さを示した。また、破断個所については、フェノール樹脂発泡体が凝集破壊していた。これに対し接着剤および表面保護材の一方または双方がpH10より大きい試験例3,4,5および6では、標準状態での付着強さ試験では付着強さが0.7N/mm2を超えていたが、浸水後の付着強さ試験では、付着強さが0.7N/mm2以下となっており、付着強さの低下がみられた。また、破断個所については、フェノール樹脂発泡体の面材が剥離していた。
【0078】
5.透水試験
表面保護材を基材に塗布し、透水試験を行った。
【0079】
1)試験体の作成
図2に示すように、並べて配置された3枚の木製の基板B1、B2、B3の2組を、木製の角柱P1、P2、P3、P4、P5に背中合わせに貼り付けた。真ん中に配される基板B2は、両端の基板B1、B3よりも上側に張り出す台形状の部分を有している。基板B1、B3の幅W1は272.5mm、基板B2の幅W1は300mm、基板B1、B3の高さH1は300mm、基板B2の高さH2は400mm、基板B2の上辺の長さW3は90mm、基板B2の上辺の端から垂下した線と側縁との距離W4は105mmである。
【0080】
基板B1、B2、B3の表面に、
図3に示すように、表面保護材を塗付して2週間養生して、表面保護層13Tを形成し、試験体とした。表面保護材としては、上記した表面保護材a、bを用いた。
【0081】
2)試験方法
試験体の基板B2に対し、圧縮試験機を用いて上から荷重を加え、
図2の2点鎖線で示すように、下方に変位させた。変位量は5mmまたは10mmとした。変位後の基板B2上の表面保護層13Tに、JIS A 6909に準じて透水試験器具を止め付け、透水試験を行った。24時間後の透水量が1ml以下の場合を〇、5ml以下の場合を△、5mlを超えた場合を×として評価した。
【0082】
3)結果
使用した表面保護材と変位量との組み合わせ、および試験結果を表5に示す。
【0083】
【0084】
表面保護材aを用いた試験例7、8では、変位量が5mm、10mmのいずれの場合でも、24時間後の透水量が1ml以下であった。これに対し、表面保護材bを用いた試験例9、10では、変位量が5mm、10mmのいずれの場合でも、24時間後の透水量が5ml以上であった。
【0085】
基材B2に荷重を加えて変位させることにより、表面保護層13Tにせん断力が加えられる。このようにせん断力が加えられた状態であっても、表面保護材aを用いた場合には防水性が保持されることが示された。
【0086】
<他の実施形態>
(1)上記実施形態では、壁下地の表面に接着剤を介して断熱材を接着したが、断熱材は、例えばビスなどにより壁下地に固定されていても構わない。
(2)前記接着剤及び表面保護材はフェノール樹脂発泡体を用いた断熱材に好適に用いられるが、これに限定されず、例えば、EPS、XPS等のスチレン樹脂発泡体、ロックウール、グラスウール等の無機繊維体等を用いた断熱材に用いることもできる。いずれも変形安定性に優れた外壁構造を得ることができる。
【符号の説明】
【0087】
1…建築物の断熱構造
11…接着層
12…断熱層
13、13T…表面保護層
16…壁下地