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特許7521742有機トランジスタ材料及び有機トランジスタ
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  • 特許-有機トランジスタ材料及び有機トランジスタ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】有機トランジスタ材料及び有機トランジスタ
(51)【国際特許分類】
   H10K 85/60 20230101AFI20240717BHJP
   C07C 15/20 20060101ALI20240717BHJP
   C07C 15/38 20060101ALI20240717BHJP
   C07D 495/04 20060101ALI20240717BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20240717BHJP
   H10K 10/40 20230101ALI20240717BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240717BHJP
【FI】
H10K85/60
C07C15/20
C07C15/38
C07D495/04 101
H01L29/78 618B
H10K10/40
C07B61/00 300
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021522758
(86)(22)【出願日】2020-05-25
(86)【国際出願番号】 JP2020020575
(87)【国際公開番号】W WO2020241582
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2023-04-05
(31)【優先権主張番号】P 2019098893
(32)【優先日】2019-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】508127100
【氏名又は名称】オルガノサイエンス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】506103636
【氏名又は名称】ウシオケミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【弁理士】
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【弁理士】
【氏名又は名称】大田黒 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100169236
【弁理士】
【氏名又は名称】藤村 貴史
(72)【発明者】
【氏名】本間 晃
(72)【発明者】
【氏名】大槻 裕之
(72)【発明者】
【氏名】筒井 雅宣
(72)【発明者】
【氏名】岡本 一男
【審査官】岩井 好子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0180784(US,A1)
【文献】特開2018-182056(JP,A)
【文献】特開2014-063969(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0006830(US,A1)
【文献】国際公開第2012/121393(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 85/60
C07C 15/20
C07C 15/38
C07D 495/04
H01L 29/786
H10K 10/40
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物からなるトランス-1,4-二置換シクロヘキサン構造を有することを特徴とする有機トランジスタ材料。
ここに、一般式(1)中、
Xは、複数のフェニレン基又はナフチレン基が直接又はビニル基を介して連結した骨格、縮合多環式炭化水素骨格、又は複素環式化合物骨格であり、ただし、ナフタレンジイミド骨格、ジチエノベンゾジチオフェン骨格及びベンゾビスベンゾフラン骨格を除く、
m、n、p及びqはそれぞれ独立に0又は1であり、R1及びR2はそれぞれ独立に炭素数1~15のアルキル基又はハロアルキル基である。
【請求項2】
前記Xが、以下の式(2)~(45)の骨格のいずれか一つである請求項1記載の有機トランジスタ材料。
【請求項3】
前記Xが、クリセン骨格、ベンゾチエノベンゾチオフェン骨格、ベンゾアントラセン骨格及びジナフトチエノチオフェン骨格からなる群より選ばれる一種である請求項1又は2記載の有機トランジスタ材料。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の有機トランジスタ材料を用いた有機半導体層を備える有機トランジスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高キャリア移動度で熱安定性が高い有機トランジスタ材料及びそれを用いた有機トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
活性層に有機トランジスタ材料を用いた有機トランジスタは、気相成長などのドライプロセスばかりでなく印刷法等のウェットプロセスを用いることができるので、シリコン等の無機トランジスタに比べて低コストで製造することが可能である。また、プラスチック基板に有機トランジスタを作製することで、無機トランジスタでは困難とされているフレキシブルな製品を得ることが可能である。このため、液晶を用いた表示装置や有機ELを用いた表示装置等に、有機トランジスタの適用が期待されている。
【0003】
有機トランジスタ材料は、キャリアの移動度や、高温における安定性等の改良を目的に研究開発が進められ、ペンタセン等のポリアセン骨格を有するものがあり、また、ジベンゾアントラセン骨格やクリセン骨格を有するものがある(特許文献1)。更に、チエノチオフェン骨格を有するものがある(特許文献2)。また、置換基に関してシクロヘキシル基を有するものがある(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5460599号公報
【文献】特許第5314814号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】“Organic Thin Film Transistor Based on Cyclohexyl-Substituted Organic Semiconductors”, Chemistry of Materials, 2005, 17, p.3366-3374
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
有機トランジスタ材料は、シリコンに比べてキャリアの移動度や、高温における安定性に今なお改良の余地がある。
そこで、本発明は、高いキャリア移動度や優れた熱安定性を有する新規な有機トランジスタ材料及び有機トランジスタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく有機トランジスタ材料を鋭意検討した結果、有機トランジスタに用いられる骨格に、アルキル基の側鎖を有するシクロヘキシル基の置換基を有する誘導体が、高いキャリア移動度や優れた熱安定性を有することを見出し、本発明に至った。
【0008】
本発明の有機トランジスタ材料は、下記一般式(1)で表される化合物からなるトランス-1,4-シクロヘキサン構造を有することを特徴とする有機トランジスタ材料である。
ここに、一般式(1)中、
Xは、複数のフェニレン基又はナフチレン基が直接又はビニル基を介して連結した骨格、縮合多環式炭化水素骨格、又は複素環式化合物骨格であり、
m、n、p及びqはそれぞれ独立に0又は1であり、R1及びR2はそれぞれ独立に炭素数1~15のアルキル基又はハロアルキル基である。
【0009】
本発明の有機トランジスタ材料においては、前記Xが、以下の式(2)~(45)の骨格のいずれか一つであることが好ましい。


【0010】
本発明の有機トランジスタは、上記の有機トランジスタ材料を用いたものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の有機トランジスタ材料によれば、高いキャリア移動度や優れた安定性を有する新規な材料を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例で作成した有機トランジスタの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の有機トランジスタ材料を、より具体的に説明する。
本発明の有機トランジスタ材料は、下記一般式(1)で表される化合物からなるトランス-1,4-シクロヘキサン構造を有することを特徴とする有機トランジスタ材料である。
ここに、一般式(1)中、
Xは、複数のフェニレン基又はナフチレン基が直接又はビニル基を介して連結した骨格、縮合多環式炭化水素骨格、又は複素環式化合物骨格であり、
m、n、p及びqはそれぞれ独立に0又は1であり、R1及びR2はそれぞれ独立に炭素数1~15のアルキル基又はハロアルキル基である。
【0014】
本発明の有機トランジスタ材料は、有機トランジスタ材料として用いられる骨格Xに、六員環のシクロアルキル基であるシクロヘキシル基にアルキル基又はハロアルキル基の側鎖を有するもの(以下、本明細書では「アルキルシクロヘキシル基」ともいう。)の置換基を有する誘導体であることにより、従来よりもキャリア移動度が高く、熱安定性が良好であり、また、塗布可能な溶解性を有している。
【0015】
アルキルシクロヘキシル基の側鎖のアルキル基の炭素数は1~15であり、好ましくは1~10である。アルキル基は直鎖構造とすることができるが、分岐があってもよい。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基等が挙げられる。電子供与性のアルキル基を用いることにより、有機溶媒への溶解性を向上させたり、分子配列を制御したり、塗布基板へのぬれ性を制御したり、最高占有軌道(HOMO)レベルを上げてp型半導体として機能させることができる。
【0016】
また、アルキル基の水素原子がハロゲンに置換されたハロアルキル基とすることができる。ハロアルキル基のハロゲン原子は、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子である。ハロアルキル基としては、これらのハロゲン原子の一種又は二種以上を用いることができるが、少なくともフッ素原子を含むことが好ましく、フッ素原子のみであることがより好ましい。ハロアルキル基のハロゲン原子は、アルキル基の水素原子の一部を置換していてもよいし、全部を置換していてもよい。ハロアルキル基としては、例えば、フルオロメチル基、1-フルオロメチル基,2-フルオロエチル基、2-フルオロイソブチル基、1,2-ジフルオロエチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、パーフルオロイソプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロシクロヘキシル基等が挙げられる。電子受容性のハロアルキル基を用いることにより、分子配列を制御したり、塗布基板へのぬれ性を制御したり、最低非占有軌道(LUMO)レベルを下げ、n型半導体として機能させることができる。
【0017】
アルキルシクロヘキシル基は、骨格Xとの間に一個のフェニル基を有していてもよく、有していなくてもよい。
アルキルシクロヘキシル基のアルキル基又はハロアルキル基と、骨格X又はフェニル基とは、シクロヘキサン環の1,4の位置に配置されることが好ましい。また、シス型よりもトランス型のほうが有機トランジスタ材料として熱安定性に優れるので好ましい。
【0018】
また、アルキルシクロヘキシル基は、骨格Xに対して少なくとも一個を有していればよく、二個であってもよい。二個である場合に、一個目のシクロヘキシル基の側鎖のアルキル基と、二個目のアルキルシクロヘキシル基の側鎖のアルキル基とは、炭素数が同じであってもよいし、異なっていてもよい。一個目のシクロヘキシル基と骨格Xとの間にフェニル基を有しているとき、及び、有していないときのいずれも、二個目のアルキルシクロヘキシル基は、骨格Xとの間に一個のフェニル基を有していてもよく、有していなくてもよい。
【0019】
骨格Xは、有機トランジスタ材料として用いられる骨格であり、具体的には複数のフェニレン基又はナフチレン基が直接又はビニル基を介して連結した骨格、又は縮合多環式炭化水素骨格、複素環式化合物骨格である。これらの骨格は、より具体的に次の式(2)~(45)の骨格を例示することができる。
【0020】
〔複数のフェニレン基又はナフチレン基が直接又はビニル基を介して連結した骨格〕
(ジスチリルベンゼン骨格)
【0021】
(ビナフチル骨格)
【0022】
(テルナフチル骨格)
【0023】
〔縮合多環式炭化水素骨格〕
〔4個の環を含有する縮合多環式炭化水素骨格〕
(クリセン骨格)
【0024】
(ピレン骨格)
【0025】
(テトラセン骨格)
【0026】
〔5個の環を含有する縮合多環式炭化水素骨格〕
(ピセン骨格)
【0027】
(ジベンゾアントラセン骨格)
【0028】
(ペンタセン骨格)
【0029】
〔6個の環を含有する縮合多環式炭化水素骨格〕
(ジベンゾクリセン骨格)
【0030】
〔複素環式化合物骨格〕
〔硫黄原子を含む複素環を1個含有する縮合複素環式化合物骨格〕
【0031】
〔硫黄原子を含む複素環を2個含有する縮合複素環式化合物骨格〕
(ベンゾチアノベンゾチオフェン骨格;BTBT骨格)
【0032】
【0033】
(ジナフトチエノチオフェン骨格;DNTT骨格)
【0034】
〔硫黄原子を含む複素環を4個含有する縮合複素環式化合物骨格〕
(ジ(ベンゾチエノ)チエノチオフェン骨格)
【0035】
〔酸素原子を含む複素環を2個含有する縮合複素環式化合物骨格〕
【0036】
骨格Xは上記式(2)~(45)のなかでも、例えばクリセン骨格、ベンゾチエノベンゾチオフェン骨格、ジベンゾアントラセン骨格又はジナフトチエノチオフェン骨格とすることができる。
骨格Xが、上記式(6)のクリセン骨格である場合において、本発明の有機トランジスタ材料は、より具体的に次の一般式(A-1)~(A-7)のものを例示できる。これらの一般式において、R1及びR2はそれぞれ独立して炭素数1~15のアルキル基又はハロアルキル基である。好ましくは、R1及びR2はそれぞれ独立して炭素数1~10のアルキル基である。
【0037】
骨格Xが、上記式(29)のジナフトチエノチオフェン骨格である場合において、本発明の有機トランジスタ材料は、より具体的に次の一般式(B-1)~(B-7)のものを例示できる。これらの一般式において、R1及びR2はそれぞれ独立して炭素数1~15のアルキル基又はハロアルキル基である。好ましくは、R1及びR2はそれぞれ独立して炭素数1~10のアルキル基である。
【0038】
本発明の有機トランジスタ材料は、公知の方法、例えば、遷移金属を用いた鈴木カップリング反応、銅触媒を用いた薗頭反応、及び、脱シリル化反応、遷移金属を用いた環化反応、遷移金属を用いた根岸カップリング反応により合成できる。
【0039】
本発明の有機トランジスタは、本発明の有機トランジスタ材料を用いた有機半導体層を備えるものである。有機トランジスタ構造は一般的な構造とすることができ、p型半導体としてもn型半導体としても機能させることができる。
【0040】
本発明の化合物を有機トランジスタに利用するに当たって、高純度化のために不純物の除去等の精製が必要になるが、本発明の化合物は、液体クロマトグラフィー法、昇華法、ゾーンメルティング法、ゲルパーミネーションクロマトグラフィー法、再結晶法などによって精製できる。
【0041】
また、本発明の化合物を有機トランジスタに利用するに当たって、主として薄膜の形態で用いられるが、その薄膜作製法として、ウェットプロセスとドライプロセスどちらを使用してもよい。本発明の化合物は、有機溶媒等への溶解させることにより、産業上メリットの大きいウェットプロセスに適応できる。
【0042】
ここで、有機溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、シクロヘキサノール、トルエン、キシレン、アニソール、シクロヘキサノン、ニトロベンゼン、メチルエチルケトン、ジグライム、テトラヒドロフランなど、これまで公知のものが使用できる。また、本発明の化合物を有機溶媒等へ溶解させる場合、温度や圧力に特に制限は無いが、溶解させる温度に関しては、0~200℃の範囲が好ましく、さらに好ましくは、10~150℃の範囲である。また、溶解させる圧力に関しては、0.1~100MPaの範囲が好ましく、さらに好ましくは、0.1~10MPaの範囲である。また、有機溶媒の代わりに、超臨界二酸化炭素のようなものを用いることも可能である。
【0043】
ここで言うウェットプロセスとは、スピンコート法、ディップコート法、バーコート法、スプレーコート法、インクジェット法、スクリーン印刷法、平板印刷法、凹版印刷法、凸版印刷法などを示しており、これら公知の方法が利用できる。
【0044】
ここで言うドライプロセスとは、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法、レーザー蒸着法、分子線エピタキシャル成長法、気相輸送成長法などを示しており、これら公知の方法が利用できる。
【実施例
【0045】
以下に本発明の有機トランジスタ材料を、実施例を用いて説明するが、本発明の有機トランジスタ材料は、実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
次に示す化合物3H-21DNTTを、以下の操作1-4により合成した。
【0046】
操作1:
以下に記載の反応式によって、MeO-21DNTTを合成した。
【0047】
操作2:
21DNTT-OHの反応式を以下に示す。
窒素雰囲気中、100mLの三つ口フラスコに、上記「MeO-21DNTT」 0.10g(0.25mmol)、脱水ジクロロメタンを20mL(200v/w)加え、-10℃に冷却した。1M BBr3ジクロロメタン溶液1.5mL(1.5mmol、6eq)を滴下し、0℃で一晩撹拌した。原料消失後、水を10mL滴下してクエンチし、結晶をろ過し、メタノールで洗浄後、結晶を減圧乾燥させて、「HO-21DNTT」の淡黄色結晶を収率80%で得た。
【0048】
操作3:
窒素雰囲気中、100mLの三つ口フラスコに、上記「HO-21DNTT」 75mg(0.2mmol)、脱水ピリジンを20mL(200v/w)加え、0℃に冷却した。トリフルオロメタンスルホン酸無水物0.34g(1.2mmol、6eq)を滴下し、0℃で一晩撹拌した。HPLCで原料消失を確認し、水を10mL滴下してクエンチし、結晶をろ過し、メタノールで洗浄後、結晶を減圧乾燥させて、「TfO-21DNTT」の淡黄色結晶を収率85%で得た。この反応式を以下に示す。
【0049】
操作4:
窒素雰囲気中、50mLの三つ口フラスコに、上記「TfO-21DNTT」 0.11g(0.17mmol)、Pd(dppf)Cl2を6mg(3mol%)、トルエンを10mL(100v/w)加え、0℃で1-ブロモ-4-プロピルシクロヘキサン 0.10g(0.51mmol, 3eq)より調整したGrignard試薬のTHF溶液5mLを滴下後、室温で一晩撹拌した。HPLCで原料消失を確認し、室温に冷却後、メタノールを10mL滴下して、結晶をろ過し、アセトンで洗浄した。得られた粗体をクロロベンゼンを溶媒としたシリカゲル-アルミナカラムで精製し、クロロベンゼンで再結晶させ、結晶を減圧乾燥させて、目的物の「3H-21DNTT」の淡黄色結晶を収率50%で得た。
得られた3H-21DNTTの核磁気共鳴(H NMR)及び飛行時間型高分解能質量分析(TOF HRMS)による物性データを以下に示す。
H NMR(400MHz,CCl,δppm);8.51(d,2H),8.05(d,2H),7.88(d,2H),7.87(d,2H),7.73(dd,2H),2.77(m,2H),1.97-2.12(m,8H),1.67(m,4H),1.43(m,6H),1.31(m,4H),1.20(m,4H),0.98(t,6H)
TOF HRMS 589.2965 (calc for C4044 [M+H] 589.2954)
また、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による純度は、99.973%(@254nm)であった。
3H-21DNTTの反応式を以下に示す。
【0050】
操作5:有機トランジスタの作製(真空蒸着法)
厚さ200nmの熱酸化膜(SiO)を形成し、ODTS(オクタデシルトリクロロシラン)処理したシリコンウェハ上に、基板温度60℃にて、3H-21DNTTを20nm真空蒸着し、その上から、ソース・ドレイン電極(チャンネル長50μm、チャンネル幅1.5mm)となる金を電子ビーム法にて40nm蒸着することで、TOPコンタクト型素子を作製し、250℃、5分間熱処理をした後に評価を行った。
【0051】
この真空蒸着法による有機トランジスタの模式図を図1に示す。図1の有機トランジスタ1は、ゲート電極を兼ねるシリコン基板2上に熱酸化膜による絶縁層3が形成され、この絶縁層3上にODTSによる自己組織化単分子層4(SAM)が形成され、この自己組織化単分子層4上に3H-21DNTTによる半導体層5が形成され、この半導体層5上に、金からなるソース電極6及びドレイン電極7が間隔を空けて形成されている構造である。
【0052】
有機トランジスタの評価の結果、真空中にて測定した電界効果移動度は、2.4cm-1-1、On/Off電流比は、10であった。また、融点は310℃であった。
【0053】
(実施例2)
次に示す化合物3HP-28CRを、以下の操作により合成した。
【0054】
窒素雰囲気中、「TfO-28CR」、4-(4-プロピルシクロヘキシル)フェニルボロン酸、Pd(PPhに炭酸カリウムの水溶液及び4-MeTHPを加え、一晩加熱還流した。室温に冷却後、結晶をろ過し、得られた粗体を、クロロベンゼンを溶媒としたシリカゲル-アルミナカラム及びトルエン熱洗浄で精製し、結晶を減圧乾燥させて目的物の3HP-28CRを得た。得られた3HP-28CRの核磁気共鳴(H NMR)及び飛行時間型高分解能質量分析(TOF HRMS)による物性データを以下に示す。
H NMR(400MHz,CCl,δppm);8.85(dd,2H),8.78(dd,2H),8.21(s,2H),8.11(d,2H),8.03(dd,2H),7.77(d,4H),7.41(d,4H),2.62(m,2H),2.06(m,4H),1.97(m,4H),1.40-1.65(m,10H),1.33(m,4H),1.19(m,4H),0.99(t,6H)
TOF HRMS(APPI) 629.4121 (calc for C4852 [M+H] 629.4142)
HPLC純度は、100.00%(@254nm)であった。
3HP-28CRの反応式を以下に示す。
【0055】
(実施例3)
次に示す化合物5H-21DNTTを、以下の操作により合成した。
【0056】
5H-21DNTTの合成の操作は、操作4の「1-ブロモ-4-プロピルシクロヘキサン」を「1-ブロモ-4-ペンチルシクロヘキサン」に代え、他は同様にして目的物の5H-21DNTTを得た。得られた5H-21DNTTの核磁気共鳴(H NMR)及び飛行時間型高分解能質量分析(TOF HRMS)による物性データを以下に示す。
H NMR(400MHz,CCl,δppm);8.51(d,2H),8.05(d,2H),7.89(s,2H),7.87(d,2H),7.73(dd,2H),2.77(m,2H),1.98-2.12(m,8H),1.33-1.98(m,20H),1.22(m,4H),0.96(t,6H)
TOF HRMS(APPI) 645.3575 (calc for C4452 [M+H] 645.3580)
HPLC純度は、99.958%(@254nm)であった。
【0057】
得られた5H-21DNTTを用いて蒸着法により有機トランジスタを作製し、移動度を調べた結果、3.08cm/Vsであった。また、得られた目的物は、昇温時には、242~288℃において中間相(液晶相)を有していた。
【0058】
(実施例4)
次に示す化合物7H-21DNTTを、以下の操作により合成した。
【0059】
7H-21DNTTの合成の操作は、操作4の「1-ブロモ-4-プロピルシクロヘキサン」を「1-ブロモ-4-ヘプチルシクロヘキサン」に代え、他は同様にして目的物の7H-21DNTTを得た。得られた5H-21DNTTの核磁気共鳴(H NMR)及び飛行時間型高分解能質量分析(TOF HRMS)による物性データを以下に示す。
H NMR(400MHz,CDCl,δppm); 8.51(d,2H),8.05(d,2H),7.89(s,2H),7.87(d,2H),7.73(dd,2H),2.77(m,2H),1.98-2.12(m,8H),1.68(m,4H),1.30-1.45(m,26H),1.21(m,4H),0.95(t,6H)
TOF HRMS(APPI)701.4096 (calc for C4860 [M+H] 701.4215)
HPLC純度は、99.888%(@254nm)であった。
【0060】
得られた7H-21DNTTを用いて、実施例1の操作5の熱処理温度を160℃、5分に変えた以外は、同様の条件により、真空蒸着法により有機トランジスタを作製した。電界効果移動度は、1.27cm-1-1、On/Off電流比は、10であった。また、得られた目的物は、昇温時には、160~257℃において、中間相(液晶相)を有していた。
【0061】
(実施例5)
次に示す化合物4H-BTBTを、以下の操作により合成した。
【0062】
4H-BTBTの合成の操作は、2,7-ジトリフラート-[1]ベンゾチエノ[3,2-b][1]ベンゾチオフェンに、窒素雰囲気中でPdCl(dppf)にトルエンを加え、0℃で1-ブロモ-4-プロピルシクロヘキサンより調整したグリニャール試薬を滴下し、室温に昇温し一晩攪拌した。得られた粗体を、トルエンを溶媒としたシリカゲル-アルミナカラムで精製し、トルエンで再結晶させ、結晶を減圧乾燥させて目的物の4H-BTBTを得た。得られた4H-BTBTの核磁気共鳴(H NMR)及び飛行時間型高分解能質量分析(TOF HRMS)による物性データを以下に示す。
H NMR(400MHz,CDCl,δppm);7.76(d,2H),7.73(s,2H),7.30(dd,2H),2.62(m,2H),1.95(m,8H),1.49-1.59(m,4H),1.26-1.33(m,14H),1.10(m,4H),0.92(t,6H)
TOF HRMS (APPI) 516.3116 (calc for C3444 [M+H] 516.2884)
HPLC純度は、99.983%(@254nm)であった。
4H-BTBTの反応式を以下に示す。
【0063】
得られた4H-BTBTを用いて、アニソール溶液から基板温度45℃にて、エッジキャスト法により薄膜を作製した。
<薄膜電界効果トランジスタの作製>
その薄膜上にチャンネル長が100μmとなるように設計されたマスクを用いて、2,3,5,6-テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン2nmをアクセプターとして、金30nmを電極として蒸着した。絶縁層としては厚さ200nmの熱酸化膜(SiO)を用いた。ケースレー社製4200-SCS型半導体パラメーターアナライザーを用いて、伝達特性を測定した。得られた伝達特性から移動度を見積もった。見積もられた電界効果移動度は4.8cm/Vsであった。また、得られた目的物は、昇温時には、77~239℃において、降温時には、72~225℃において中間相(液晶相)を有していた。
【0064】
(実施例6)
実施例1で合成した「3H-21DNTT」を用いて、実施例5と同様の方法で、3-クロロチオフェン溶液から基板温度40℃にて、エッジキャスト法により薄膜を作製し、見積もられた電界効果移動度は8.8cm/Vsであった。
【0065】
(実施例7)
<薄膜電界効果トランジスタの作製>
ガラス基板上に、ゲート電極としてAlを50nm、真空蒸着を用いて形成した。その上にパリレンCを480nm、ゲート絶縁膜として形成した。ソースドレイン電極としてAuを50nm真空蒸着を用いて形成した基板上に、実施例3で合成した「5H-21DNTT」を用いて、o-ジクロロベンゼン溶液から基板温度65℃にて、ドロップキャスト法により薄膜を作製した。ケースレー社製4200-SCS型半導体パラメーターアナライザーを用いて、伝達特性を測定した。得られた伝達特性から移動度を見積もった。
見積もられた電界効果移動度は14.1cm/Vsであった。
【0066】
(実施例8)
実施例4で合成した「7H-21DNTT」を用いて、実施例5と同様の方法で、3-クロロチオフェン溶液から基板温度40℃にて、エッジキャスト法により薄膜を作製し、 見積もられた電界効果移動度は4.4cm/Vsであった。
【0067】
(実施例9)
次に示す化合物2H-DBAを、以下の操作1-3により合成した。
操作1:
化合物(b)の反応式を以下に示す。
窒素雰囲気中、反応容器に化合物(a)(Aldrich社製)6.8g(29.5mmol)、ジブロモジヨードベンゼン(東京化成社製)5.7g(11.8mmol)、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0)0.68g(0.59mmol)、ジメトキシエタン500mlを入れ、炭酸ナトリウム6.2g(59.8mmol)の水溶液100mlを加えた。反応混合物を70℃にて12時間加熱還流した。反応混合物をろ過し、水、メタノールで洗浄し、化合物(b)を4.3g(収率60%)得た。
操作2:
化合物(c)の反応式を以下に示す。
窒素雰囲気中、反応容器に化合物(b)4.3g(7.1mmol)、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0)0.82g(0.7mmol)、ヨウ化銅(I)0.27g(1.4mmol)、トリエチルアミン100mlを入れ、トリメチルシリルアセチレン1.5g(15.5mmol)を加えた。反応混合物を80℃にて14時間加熱還流した。反応混合物をろ過し、メタノール、ヘプタンで洗浄した。得られた粗体と炭酸カリウム2.6g(19.1mmol)を反応容器に入れ、メタノール、THF、水を加えた。室温で8時間攪拌した。反応混合物をろ過し、ろ液を食塩水にて洗浄し、溶媒を減圧留去した。得られた粗体をヘプタン:酢酸エチルを溶媒としたシリカゲル-アルミナカラムで精製し、化合物(c)を2.8g(収率81%)得た。
操作3:
2H-DBAの反応式を以下に示す。
窒素雰囲気中、反応容器に化合物(c)2.8g(5.7mmol)、塩化白金0.08g(0.3mmol)を入れ、トルエン150mlを加えた。反応混合物を120℃にて24時間加熱還流した。反応混合物をろ過し、ジクロロメタンにて洗浄した。得られた粗体を昇華精製し、2H-DBAを1.0g(収率35%)得た。
H NMR(400MHz,CCl,δppm);9.11(s,2H),8.79(d,2H),7.97(d,2H),7.75(td,4H),7.63(dd,2H),2.75(tt,2H),2.10(d,4H),1.99(d,4H),1.66(m,4H),1.35(m,6H),1.18(m,4H),0.99(t,6H)
TOF HRMS (APPI+) 499.3370 (calc for C38H42 [M+H]+ 499.3359)
得られた「2H-DBA」を用いて、実施例5と同様の方法で、トルエン溶液から基板温度70℃にて、エッジキャスト法により薄膜を作製し、見積もられた電界効果移動度は8.1cm/Vsであった。
【0068】
(実施例10)
実施例9の化合物(a)を、次に示す化合物(d)(Aldrich社製)に変更し、次に示す化合物3H-DBAを、実施例9と同様の操作により合成した。
H NMR(400MHz,CCl,δppm);9.11(s,2H),8.79(d,2H),7.96(d,2H),7.75(td,4H),7.63(dd,2H),2.76(tt,2H),2.11(d,4H),1.99(d,4H),1.67(m,4H),1.46(m,4H),1.33(m,4H),1.19(m,4H),0.99(t,6H)
得られた「3H-DBA」を用いて、実施例5と同様の方法で、トルエン溶液から基板温度60℃にて、エッジキャスト法により薄膜を作製し、見積もられた電界効果移動度は8cm/Vsであった。
【0069】
(実施例11)
実施例9の化合物(a)を、次に示す化合物(e)に変更し、次に示す化合物4H-DBAを、実施例9と同様の操作により合成した。
H NMR(400MHz,CCl,δppm);9.10(s,2H),8.79(d,2H),7.96(d,2H),7.75(td,4H),7.63(dd,2H),2.75(tt,2H),2.09(d,4H),1.98(d,4H),1.67(m,4H),1.31-1.39(m,12H),1.19(m,4H),0.97(t,6H)
得られた「4H-DBA」を用いて、実施例5と同様の方法で、アニソール溶液から基板温度90℃にて、エッジキャスト法により薄膜を作製し、見積もられた電界効果移動度は8.5cm/Vsであった。また、得られた目的物は、昇温時には、254~341℃において、降温時には、246~335℃において中間相(液晶相)を有していた。
【符号の説明】
【0070】
1 有機トランジスタ
2 シリコン基板
3 絶縁層
4 自己組織化単分子層
5 半導体層
6 ソース電極
7 ドレイン電極
図1