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特許7521782多孔質粒子の製造方法、多孔質粒子、及び、充填剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】多孔質粒子の製造方法、多孔質粒子、及び、充填剤
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/12 20060101AFI20240717BHJP
   C08J 9/28 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
C08J3/12 CEZ
C08J9/28 101
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020109608
(22)【出願日】2020-06-25
(65)【公開番号】P2022006993
(43)【公開日】2022-01-13
【審査請求日】2023-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】佐光 貞樹
【審査官】脇田 寛泰
(56)【参考文献】
【文献】西独国特許出願公開第02253361(DE,A1)
【文献】国際公開第2011/114826(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/185582(WO,A1)
【文献】特開2015-131929(JP,A)
【文献】特開2018-172524(JP,A)
【文献】特開平11-123328(JP,A)
【文献】特開平2-211231(JP,A)
【文献】特開2005-290357(JP,A)
【文献】特開2017-95564(JP,A)
【文献】特開2017-95563(JP,A)
【文献】特開2017-197665(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J20/00-20/281
20/30-20/34
C08J3/00-3/28
9/00-9/42
99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
置換基を有してもよいフェニレン基を主鎖に有する高分子化合物と有機溶媒とを混合して、加熱溶解させ、溶液を得ることと、
前記溶液を冷却してゲルを得ることと、
前記ゲルを粉砕し、前記高分子化合物と前記有機溶媒との共結晶を含む多孔質粒子を得ることと、を含み、
前記有機溶媒の沸点が100℃以上であり、かつ、
前記有機溶媒のハンセン溶解度パラメータの水素結合項が7.4MPa0.5以下であるか、又は、前記水素結合項が7.4MPa0.5を超え、前記ハンセン溶解度パラメータの分極項が11.4MPa0.5未満であり、
前記有機溶媒が、ニトロベンゼン、1、2-ジメトキシベンゼン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、γ-ブチロラクトン、モルフォリン、及び、アニリンからなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記高分子化合物が、以下の式1Bで表される繰り返し単位を有する、多孔質粒子の製造方法。
【化1】
(式1B中、L 、及び、L はそれぞれ独立に、単結合、又は、2価の基を表し、R 、R 、及び、R はそれぞれ独立に1価の置換基を表し、x、y、及び、zはそれぞれ独立に0~4の整数を表し、mは1~3の整数を表し、nは0~10の整数を表し、pは1~3の整数を表し、L 、及び、L はそれぞれ同一でも異なってもよく、R 、R 、及び、R はそれぞれ同一でも異なってもよい。)
【請求項2】
前記有機溶媒の沸点が130℃以上である、請求項に記載の多孔質粒子の製造方法。
【請求項3】
前記有機溶媒の沸点が200℃以上である、請求項に記載の多孔質粒子の製造方法。
【請求項4】
更に、粉砕した前記ゲルを乾燥することを含む、請求項1~のいずれか1項に記載の多孔質粒子の製造方法。
【請求項5】
前記有機溶媒と相溶し、前記高分子化合物の貧溶媒であり、かつ、沸点が前記有機溶媒より低い溶媒を用いて、粉砕した前記ゲルを乾燥させる前に、粉砕した前記ゲルを前記溶媒で洗浄することを含む、請求項に記載の多孔質粒子の製造方法。
【請求項6】
前記溶液の全質量に対する前記高分子化合物の含有量の含有質量比が0.2~0.6である、請求項1~のいずれか1項に記載の多孔質粒子の製造方法。
【請求項7】
前記有機溶媒が、ニトロベンゼン、及び、1,2-ジメトキシベンゼンからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~のいずれか1項に記載の多孔質粒子の製造方法。
【請求項8】
前記高分子化合物がポリエーテルスルホンである、請求項1~7のいずれか1項に記載の多孔質粒子の製造方法。
【請求項9】
置換基を有してもよいフェニレン基を主鎖に有する高分子化合物と、有機溶媒との共結晶を含み、
前記有機溶媒の沸点が100℃以上であり、かつ、
前記有機溶媒のハンセン溶解度パラメータの水素結合項が7.4MPa0.5以下であるか、又は、前記水素結合項が7.4MPa0.5を超え、前記ハンセン溶解度パラメータの極性項が11.4MPa0.5未満であり、
前記有機溶媒が、ニトロベンゼン、1、2-ジメトキシベンゼン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、γ-ブチロラクトン、モルフォリン、及び、アニリンからなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記高分子化合物が、以下の式1Bで表される繰り返し単位を有する、多孔質粒子。
【化2】
(式1B中、L 、及び、L はそれぞれ独立に、単結合、又は、2価の基を表し、R 、R 、及び、R はそれぞれ独立に1価の置換基を表し、x、y、及び、zはそれぞれ独立に0~4の整数を表し、mは1~3の整数を表し、nは0~10の整数を表し、pは1~3の整数を表し、L 、及び、L はそれぞれ同一でも異なってもよく、R 、R 、及び、R はそれぞれ同一でも異なってもよい。)
【請求項10】
前記有機溶媒が、ニトロベンゼン、及び、1,2-ジメトキシベンゼンからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項に記載の多孔質粒子。
【請求項11】
前記高分子化合物がポリエーテルスルホンである、請求項9又は10に記載の多孔質粒子。
【請求項12】
請求項9~11のいずれか1項に記載の多孔質粒子を含む充填剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質粒子の製造方法、多孔質粒子、及び、充填剤に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子化合物の耐溶剤性等の物性を溶媒誘起結晶化法により向上させる検討が進んでいる。非特許文献1には、ポリエーテルスルホン(PES)をジクロロメタンに溶解させ、5℃に冷却したところ、結晶構造を有する固形物が得られたことが報告されている。
【0003】
また、非特許文献2には、PESをN,N-ジメチルホルムアミドに溶解させ、5℃に冷却したところ、結晶構造を有する固形物が得られ、その固形物は多孔質構造であったことが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Polymer,1979,vol.20,p.781-782
【文献】Macromolecules,2018,vol.51,p.151-160
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1、及び、2に記載された方法は、結晶構造を有する固形物を得るために、室温より低く(具体的には5℃以下に)冷却する必要があり、エネルギー効率が悪かった。
【0006】
そこで、高分子化合物を溶解させた溶液を5℃以下に冷却しなくても共結晶構造を有する多孔質粒子を製造できる、多孔質粒子の製造方法を提供することを課題とする。また、本発明は、多孔質粒子を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。
【0008】
[1] 置換基を有してもよいフェニレン基を主鎖に有する高分子化合物と有機溶媒とを混合して、加熱溶解させ、溶液を得ることと、上記溶液を冷却してゲルを得ることと、ゲルを粉砕し、上記高分子化合物と上記特定有機溶媒との共結晶を含む多孔質粒子を得ることと、を含み、上記有機溶媒の沸点が100℃以上であり、かつ、上記有機溶媒のハンセン溶解度パラメータの水素結合項が7.4MPa0.5以下であるか、又は、上記水素結合項が7.4MPa0.5を超え、上記ハンセン溶解度パラメータの分極項が11.4MPa0.5未満である、多孔質粒子の製造方法。
[2] 上記高分子化合物が、後述する式1Aで表される繰り返し単位を有する、[1]に記載の多孔質粒子の製造方法。
[3] 上記高分子化合物が、後述する式1Bで表される繰り返し単位を有する、[1]又は[2]に記載の多孔質粒子の製造方法。
[4] 上記有機溶媒の沸点が130℃以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の多孔質粒子の製造方法。
[5] 上記有機溶媒の沸点が200℃以上である、[4]に記載の多孔質粒子の製造方法。
[6] 上記有機溶媒が、ニトロベンゼン、1、2-ジメトキシベンゼン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、γ-ブチロラクトン、モルフォリン、及び、アニリンからなる群より選択される少なくとも1種である、[1]~[3]のいずれかに記載の多孔質粒子の製造方法。
[7] 更に、粉砕した上記ゲルを乾燥することを含む、[1]~[6]のいずれかに記載の多孔質粒子の製造方法。
[8] 上記有機溶媒と相溶し、上記高分子化合物の貧溶媒であり、かつ、沸点が上記有機溶媒より低い溶媒を用いて、粉砕した上記ゲルを乾燥させる前に、粉砕した上記ゲルを上記溶媒で洗浄することを含む、[7]に記載の多孔質粒子の製造方法。
[9] 上記溶液の全質量に対する上記高分子化合物の含有量の含有質量比が0.2~0.6である、[1]~[8]のいずれかに記載の多孔質粒子の製造方法。
[10] 上記有機溶媒が、ニトロベンゼン、及び、1,2-ジメトキシベンゼンからなる群より選択される少なくとも1種であり、上記高分子化合物が、後述する以下の式1Bで表される繰り返し単位を有する、[1]~[9]のいずれかに記載の多孔質粒子の製造方法。
[11] 置換基を有してもよいフェニレン基を主鎖に有する高分子化合物と、有機溶媒との共結晶を含み、上記有機溶媒の沸点が100℃以上であり、かつ、上記有機溶媒のハンセン溶解度パラメータの水素結合項が7.4MPa0.5以下であるか、又は、上記水素結合項が7.4MPa0.5を超え、上記ハンセン溶解度パラメータの極性項が11.4MPa0.5未満である、多孔質粒子。
[12] 上記高分子化合物が、後述する式1Aで表される繰り返し単位を有する、[11]に記載の多孔質粒子。
[13] 上記有機溶媒が、ニトロベンゼン、及び、1,2-ジメトキシベンゼンからなる群より選択される少なくとも1種であり、上記高分子化合物が、後述する式1Bで表される繰り返し単位を有する、[11]又は[12]に記載の多孔質粒子。
[14] [11]~[13]のいずれかに記載の多孔質粒子を含む充填剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高分子化合物を溶解させた溶液を5℃以下に冷却しなくても共結晶構造を有する多孔質粒子を製造できる、多孔質粒子の製造方法が提供できる。また、本発明によれば、多孔質粒子、及び、充填剤も提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る多孔質粒子の製造方法によって製造された多孔質粒子(実施例1)の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
図2】実施例2の多孔質粒子のSEM像である。
図3】実施例1の多孔質粒子の熱重量測定によって得られた曲線で、温度(横軸)に対する、残留質量(縦軸)の関係を表す曲線である。
図4】実施例2の多孔質粒子の温度-残留質量曲線である。
図5】実施例3の多孔質粒子の温度-残留質量曲線である。
図6】実施例4の多孔質粒子の温度-残留質量曲線である。
図7】実施例5の多孔質粒子の温度-残留質量曲線である。
図8】多孔質粒子の作製のための原料として用いたPES粉末の温度-残留質量曲線である。
図9】実施例1の多孔質粒子の粉末X線回折測定の結果である。
図10】実施例8の多孔質粒子の粉末X線回折測定の結果である。
図11】実施例9の多孔質粒子の粉末X線回折測定の結果である。
図12】実施例10の多孔質粒子の粉末X線回折測定の結果である。
図13】比較例1の粒子の粉末X線回折測定の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0012】
[用語の定義]
(共結晶)
本明細書において、「共結晶」とは、25℃、大気下で一週間乾燥させた試料、又は、3回以上のメタノール洗浄を行った後に室温で真空乾燥を一晩実施した試料(洗浄、乾燥の条件は実施例に記載したとおりとする)について、以下の条件で熱重量分析を行うことで得られる「Mass Change」が-3質量%以下(3質量%以上減少する状態)であり、かつ、粉末X線回折測定で、結晶に由来する回折ピークが確認される状態を意味する。
なお、共結晶は、3回以上のメタノール洗浄を行った後に室温で真空乾燥を一晩実施した試料について、上記回折ピークが確認されることが好ましい。
【0013】
・熱重量分析
使用装置 :Netzsch社製「STA2500 Regulus」
試料 :5~10mgをアルミニウム製の開放パンに充填する。
測定温度範囲:(室温)~(後述する「特定有機溶媒」の沸点以上であって、高分子化合物のガラス転移温度以上であって、かつ、高分子化合物の分解温度未満の温度)
昇温速度 :5℃/分
その他 :測定は、窒素雰囲気下(流量20mL/分)で実施する
【0014】
・「Mass Change」の計算方法
(式)Mass change(質量%)=(W35-W250)/W35×100
上記式中、「W35」は、35℃における質量減少率(質量%)を表し、W250は、250℃における質量減少率(質量%)を表す。
【0015】
・粉末X線回折測定
使用装置 :リガク社製「MiniFlex 300/600」
測定条件 :40kV、15mA、CuKα(λ=1.54184オングストローム)、スキャン速度2.0deg/min、角度範囲:4.0-60.0deg、室温、大気下
【0016】
(ゲル)
本明細書における「ゲル」には、高分子化合物の共有結合により形成される3次元網目構造を含むゲル、例えば、化学的な結合によって架橋された高分子化合物によるゲルは含まれない。本明細書における「ゲル」は典型的には、分子間力等により固化した「物理ゲル」を意味する。
本明細書において「ゲル」とは、以下に示す試験方法により判定される。
【0017】
<ゲル試験法>
直径25mm、容量20mLの蓋つきガラスバイアルに、対象物を密閉する。次に、バイアルを上下反転させ、3分間保持する。3分後、流下せず、バイアル上部(反転前の下部)に残った対象物がゲルと判定される。なお、試験は25℃で行うものとする。
【0018】
(ハンセン溶解度パラメータ)
本明細書において、「ハンセン溶解度パラメータ」とは、ヒルデブランド(Hildebrand)によって導入された溶解度パラメータを、分散項(dD)、分極項(dP)、水素結合項(dH)の3成分に分割し、3次元空間に表したものである。分散項(dD)は分散力による効果、分極項(dP)は双極子間力による効果、水素結合項(dH)は水素結合力による効果を示す。
【0019】
なお、本明細書において、「ハンセン溶解度パラメータ」の計算は、コンピュータソフトウェア「Hansen Solubility Parameters in Practice(HSPiP)」を用いて計算した値を意味する。なお、計算に使用した「HSPiP」のバージョンは「5.2.02」である。
また、特定有機溶媒を2種以上用いる場合は、それぞれの特定有機溶媒の質量分率を重みとした加重平均を用いる。
【0020】
[多孔質粒子の製造方法]
本発明の実施形態に係る多孔質粒子の製造方法(以下、「本製造方法」ともいう。)は、置換基を有してもよいフェニレン基を主鎖に有する高分子化合物(以下「特定高分子化合物」ともいう。)と後述する「特定有機溶媒」とを混合して、加熱溶解させ、溶液を得ること(加熱溶解工程)と、溶液を冷却してゲルを得ること(ゲル化工程)と、ゲルを粉砕し、特定高分子化合物と特定有機溶媒との共結晶を含む多孔質粒子を得ること(粉砕工程)と、を含む多孔質粒子の製造方法である。以下では、本製造方法について、工程ごとに詳述する。
【0021】
(加熱溶解工程)
加熱溶解工程は、特定高分子化合物と特定有機溶媒とを混合して、加熱溶解させ、溶液を得る工程である。本工程によって、特定有機溶媒と特定高分子化合物とを含む均一な溶液が調製され、後段の工程において、効率的に多孔質粒子を製造することができる。
【0022】
特定有機溶媒は、沸点が100℃以上であり、ハンセン溶解度パラメータの水素結合項が7.4MPa0.5以下の有機溶媒(このような特定有機溶媒を、以下「特定有機溶媒A-1」ともいう。)か、又は、水素結合項が7.4MPa0.5を超え、ハンセン溶解度パラメータの分極項が11.4MPa0.5未満の有機溶媒(このような特定有機溶媒を、以下「特定有機溶媒A-2」ともいう。)である。なかでも、得られる多孔質粒子の構造がより安定化しやすい観点で、特定有機溶媒は特定有機溶媒A-1であることが好ましい。
【0023】
特定有機溶媒を用いることによって、本発明の効果が得られる機序は必ずしも明らかではないが、本発明者は以下のとおり推測している。
まず、特定有機溶媒は沸点が100℃以上であるため、得られる共結晶の熱的な安定性がより高まりやすく、結果として、より低い温度でゲル化が誘起されるものと推測される。また、ゲル化には、ハンセン溶解度パラメータの分散項以外(分極項、水素結合項)の寄与が大きく、中でも、水素結合項の寄与がより大きいことを、本発明者は実験的に確かめている。
【0024】
特定高分子化合物は、フェニレン基を主鎖に有し、剛直で屈曲した分子構造を持つため、密な規則構造である結晶を単独では構成しにくい。このような場合、特定高分子化合物のバルクには空隙が存在している。
このとき、特定高分子化合物を溶解し得る、言い換えれば、ガラス状態の特定高分子化合物に浸透し得る分子サイズを有し、かつ、ハンセン溶解度パラメータの分散項と水素結合項が所定の範囲内である特定有機溶媒は、この空隙に浸入、維持され、結果として、共結晶構造が安定化されやすいものと推測される。
【0025】
以下は、特定有機溶媒の具体例である。なお、本段落におけるカッコ書の中の数は、それぞれ、順にハンセン溶解度パラメータの分散項、分極項、水素結合項、及び、沸点である。
特定有機溶媒としては、例えば、ニトロベンゼン(20.0、10.6、3.1、210.9)、1,2-ジメトキシベンゼン(19.2、4.4、9.4、206.3)、シクロペンタノン(17.9、11.9、5.2、130.8)、シクロヘキサノン(17.8、8.4、5.1、155.7)、γ-ブチロラクトン(18.0、16.6、7.4、203.9)、及び、モルフォリン(18.0、4.9、11.0、129.0)、アニリン(20.1、5.8、11.2、184.5)等が挙げられ、ニトロベンゼン、1,2-ジメトキシベンゼン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、及び、γ-ブチロラクトンからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、ニトロベンゼン、1,2-ジメトキシベンゼン、及び、γ-ブチロラクトンからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、ニトロベンゼン、及び、1,2-ジメトキシベンゼンからなる群より選択される少なくとも1種が更に好ましく、得られる多孔質粒子の構造がより安定化しやすい観点で、特定有機溶媒はニトロベンゼンが特に好ましい。
【0026】
特定有機溶媒A-1のハンセン溶解度パラメータの水素結合項は7.4MPa0.5以下であり、6.0MPa0.5以下が好ましく、4.0MPa0.5以下がより好ましく、1.0MPa0.5以上が好ましい。
【0027】
特定有機溶媒A-2のハンセン溶解度パラメータの分極項は11.4MPa0.5未満であり、10.0MPa0.5以下がより好ましく、5.8MPa0.5以下が更に好ましく、5.0MPa0.5以下が特に好ましく、1.0MPa0.5以上が好ましい。
【0028】
また、特定有機溶媒の沸点は100℃以上であり、得られる多孔質粒子がより優れた安定性を有する観点で、沸点が130℃以上がより好ましく、200℃以上が更に好ましい。なお、上限は特に制限されないが、300℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましい。
なお、特定有機溶媒を2種以上用いる場合には、その混合物の沸点が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0029】
なお、特定有機溶媒の融点としては特に制限されないが、一般に、-60℃以上が好ましく、-45℃以上がより好ましく、-10℃以上が更に好ましく、30℃以下が好ましく、20℃以下がより好ましく、10℃以下が更に好ましい。
【0030】
特定高分子化合物は、特定有機溶媒と共結晶を形成し、多孔質粒子の基体を構成する成分である。特定高分子化合物としては、主鎖に置換基を有していてもよいフェニレン基を有していれば、特に制限なく公知の高分子化合物を使用できる。
すでに説明したとおり、剛直で屈曲した分子構造を有する高分子化合物は、内部に空隙をより作りやすく、特定有機溶媒との間で共結晶を形成しやすい。
【0031】
特定高分子化合物としては、特定有機溶媒と共結晶をより作りやすく、得られる多孔質粒子の構造がより安定化しやすい観点で、少なくとも以下の式1Aで表される繰り返し単位を有することが好ましい。
【化6】
【0032】
式1A中、L、L、及び、Lはそれぞれ独立に、単結合、又は、2価の基を表し、R、R、及び、Rはそれぞれ独立に1価の置換基を表し、x、y、及び、zはそれぞれ独立に0~4の整数を表し、mは0以上の整数を表し、nは0~10の整数を表し、nが0のとき、mは1以上の整数であり、pは1~3の整数を表し、L、L、及び、Lはそれぞれ同一でも異なってもよく、R、R、及び、Rはそれぞれ同一でも異なってもよく、R、及び、Rは互いに結合して環を形成してもよい。
【0033】
式1A中、L、及び、Lの2価の基としては、特に制限されないが、置換基を有していてもよいアルキレン基(炭素数1~10個が好ましい。)、カルボニル基、スルホニル基、-O-、-NR-(Rは1価の基を表す。)、-S-、及び、これらの組合せからなる群より選択される少なくとも1種の基が好ましく、-O-、カルボニル基、スルホニル基、-C(CH-、-OC(=O)-、-C(=O)O(CHO-、及び、-S-からなる群より選択される少なくとも1種の基がより好ましく、-O-、-S-、カルボニル基、及び、スルホニル基からなる群より選択される少なくとも1種の基が更に好ましい。
【0034】
、R、及び、Rの1価の基としては、特に制限されないが、ハロゲン原子、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、炭素数1~10個の炭化水素基(1個以上の水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよい。)、及び、スルホン酸基からなる群より選択される少なくとも1種の基が挙げられる。
【0035】
、及び、Rが互いに結合して環を形成する場合、R、及び、Rの結合する2つのフェニレン基、並びに、Lとともに、ビフェニレンジイル基、フルオレンジイル基、フェナントレンジイル基、アントラセンジイル基、トリフェニレンジイル基、チアントレンジイル基、キサンテンジイル基、フェノキサチインジイル基、カルバゾールジイル基、アクリジンジイル基、フェノチアジンジイル基、及び、フェノキサジンジイル基等を形成してもよい。
【0036】
mは0以上の整数を表し、特に制限されないが、より効率的に多孔質粒子が得られる点で、mは1以上の整数が好ましく、3以下の整数がより好ましく、2以下の整数が更に好ましく、1が特に好ましい。
nは0~10の整数を表し、nが0のとき、mは1以上の整数であり、nは0~3の整数が好ましく、1~2の整数が好ましい。pは1~3の整数が好ましく、1又は2が好ましい。
【0037】
特定高分子化合物としては、特定有機溶媒と共結晶を更に作りやすく、得られる多孔質粒子の構造が更に安定化しやすい観点で、少なくとも以下の式1Bで表される繰り返し単位を有することが好ましい。
【化7】
【0038】
式1B中、L、及び、Lはそれぞれ独立に、単結合、又は、2価の基を表し、R、R、及び、Rはそれぞれ独立に1価の置換基を表し、x、y、及び、zはそれぞれ独立に0~4の整数を表し、mは0以上の整数を表し、nは0~10の整数を表し、nが0のとき、mは1以上の整数であり、pは1~3の整数を表し、各繰り返し単位にL、及び、Lが複数存在する場合、それぞれ同一でも異なってもよく、各繰り返し単位にR、R、及び、Rが複数存在する場合、それぞれ同一でも異なってもよい。
なお、式1B中の各記号の基及び数の例は、式1A中の各記号の基及び数として説明したのと同義であり、好適形態も同一である。
【0039】
以下の式1B-1は、式1Bで表される繰り返し単位の具体例である。但し、式1Bで表される繰り返し単位は、以下の例に限定されない。また、式1B-1中の各記号は、式1B中の各記号と同義である。
【化8】
【0040】
特定高分子化合物は式1Bで表される繰り返し単位の1種を単独で有していてもよく、2種以上を併せて有していてもよい。また、特定高分子化合物は、式1Bで表される繰り返し単位以外の単位を有していてもよい。
また、特定高分子化合物としては、非晶性高分子化合物であることが好ましい。
【0041】
特定高分子化合物中における式1Bで表される繰り返し単位の含有量としては特に制限されないが、得られる多孔質粒子がより優れた安定性を有する観点で、特定高分子化合物の全繰り返し単位に占める式1Bで表される単位のモル単位の含有量(式1Bで表される繰り返し単位を2種以上有する場合は、その合計含有量)が50モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましく、90モル%以上が更に好ましく、100モル%以下が好ましい。
【0042】
特定高分子化合物と特定有機溶媒とを混合する方法は特に制限されず、特定有機溶媒に高分子化合物を添加してもよいし、特定高分子化合物に特定有機溶媒を添加してもよい。この際、特定高分子化合物と特定有機溶媒との混合比としては特に制限されないが、結晶核の生成がより起こりやすく、結果として得られる多孔質粒子の粒径がより均一化しやすい点で、得られる溶液の全質量に対する特定高分子化合物の含有量の含有質量比が、0.2(20質量%)以上が好ましく、0.3(30質量%)以上がより好ましく、0.4(40質量%)以上が更に好ましい。なお、上限は特に制限されないが、溶液がより流動的で、より均一になりやすい点で、0.6(60質量%)以下が好ましく、0.5(50質量%)以下がより好ましい。
なお、特定高分子化合物、及び/又は、特定有機溶媒を2種以上用いる場合は、その合計含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0043】
特定高分子化合物と特定有機溶媒との混合物を加熱溶解させる際の加熱温度としては特に制限されないが、特定有機溶媒の融点以上が好ましく、特定有機溶媒の沸点以下が好ましい。
なかでも、粒子を得る際の溶液の温度をより高くできる観点で、加熱温度は5℃より高いことが好ましく、10℃以上がより好ましく、25℃以上が更に好ましく、50℃以上が特に好ましい。
【0044】
なお、一般に、高分子化合物の有機溶媒への溶解性への影響は、溶解温度と比較して、高分子化合物と有機溶媒との親和性の方が特に大きいことが知られている。
本製造方法は、特定高分子化合物と、特定有機溶媒とという特定の組合せを選択したことで両者の優れた親和性を得ている。
なお、エネルギー効率をより高める観点からは、加熱温度は、50~150℃が好ましい。
【0045】
本工程で得られる溶液は、特定有機溶媒に特定高分子化合物が溶解されたものであり、得られる溶液は無色、又は、有色透明である。
【0046】
(ゲル化工程)
ゲル化工程は、特定高分子化合物と特定有機溶媒とを含有する溶液を冷却して、ゲル(物理ゲル)を得る工程である。冷却方法としては特に制限されず、公知の方法が使用できる。具体的には、加熱攪拌して得られた溶液を、攪拌しながら冷却し、所定の温度で維持する方法等が挙げられる。本工程により、特定高分子化合物と特定有機溶媒との共結晶を含む多孔質粒子を含むゲルが得られる。
【0047】
溶液を冷却して保持する温度は特に制限されないが、特定高分子化合物、及び、特定有機溶媒の分子のそれぞれの運動性が共結晶の核生成、及び、成長により適している点、言い換えれば、共結晶の生成速度がより速い点で、使用する特定有機溶媒の融点より高いことが好ましい。
また、本製造方法は、剛直で屈曲した分子構造を有する特定高分子化合物と、特定有機溶媒とを組み合せて用いるもので、これにより、5℃以下に冷却しなくても、ゲル化できる。
【0048】
保持する温度としては、特に制限されないが、0℃以上が好ましく、5℃を超えることがより好ましく、10℃以上が更に好ましく、15℃以上が特に好ましい。上限は、特定有機溶媒の沸点、及び、溶液のガラス転移温度(特定高分子化合物と特定有機溶媒の含有量比と、それぞれのガラス転移温度から推測される)より低いことが好ましく、例えば、60℃以下が好ましく、40℃以下がより好ましく、30℃以下が更に好ましい。
また、保持時間は、例えば、1~48時間が好ましい。
【0049】
(粉砕工程)
粉砕工程は、ゲルを粉砕して、特定高分子化合物と特定有機溶媒の共結晶を含む多孔質粒子を得る工程である。粉砕方法としては特に制限されず、乾式粉砕法、及び、湿式粉砕法のいずれを用いることもできる。
乾式粉砕には、例えば、乳鉢、ジェットミル、ハンマーミル、ピンミル、回転ミル、振動ミル、遊星ミル、及び、ビーズミル等が使用できる。
湿式粉砕には、ボールミル、高速回転粉砕機、ジェットミル、ビーズミル、超音波ホモジナイザー、及び、高圧ホモジナイザー等が使用できる。
【0050】
上記粉砕工程は、更に、粉砕したゲルを乾燥させる工程を含んでいてもよい。
粉砕したゲルが遊離状態の特定有機溶媒を含有する場合、粉砕して表面積が大きくなったゲルはより効率よく乾燥させることができ、その結果、多孔質粒子中における共結晶の純度をより向上させることができる。
【0051】
粉砕したゲルを乾燥させる方法としては特に制限されず、公知の方法が使用できる。例えば、減圧する方法、及び/又は、加熱する方法等が使用できる。乾燥温度としては特に制限されないが、0~100℃が好ましく、0~50℃がより好ましく、10~30℃が更に好ましく、20~30℃が特に好ましい。
また、乾燥時間としては特に制限されないが、1時間~1か月程度が好ましい。
【0052】
本工程は、粉砕したゲルを乾燥させる前に、更に、粉砕したゲルを溶媒(以下、「洗浄溶媒」ともいう。)で洗浄する工程を含むことが好ましい。
洗浄溶媒は、特定有機溶媒と相溶し、高分子化合物の貧溶媒であり、かつ、沸点が特定有機溶媒より低い。そのため、粉砕したゲルを洗浄溶媒で洗浄すると、粉砕したゲルに含まれる遊離状態の特定有機溶媒が洗浄溶媒により希釈、交換される。また、洗浄溶媒は高分子化合物の貧溶媒であるため、得られた多孔質粒子の構造をより壊しにくい。
ゲルに含まれる特定有機溶媒が洗浄溶媒により希釈、交換されると、多孔質粒子の乾燥時間をより短くすることができる。
【0053】
このような洗浄溶媒は、特定高分子化合物、及び、特定有機溶媒との関係で適宜選択されればよいが、例えば、水、及び、アルコール等が挙げられ、特に炭素数が3以下のアルコールが好ましく、メタノール、エタノール、1-プロパノール、及び、2-プロパノール等が好ましい。
【0054】
洗浄方法としては特に制限されず、粉砕したゲルと洗浄溶媒とを直接接触させる方法でもよい。一方で、洗浄溶媒は、特定有機溶媒と相溶し、かつ、特定高分子化合物の貧溶媒である。そのため、粉砕したゲルを、一旦特定有機溶媒に懸濁させ、その懸濁液と洗浄溶媒とを接触させて、粒子を洗浄すると、より効率よく遊離状態の(過剰の)特定有機溶媒と洗浄溶媒とを交換できる点で好ましい。
洗浄方法としては、例えば、粉砕したゲルを含有する懸濁液に洗浄溶媒を加え、攪拌した後遠心分離して固形分を回収する方法等が挙げられる。この方法を2回以上繰り返して実施してもよい。
【0055】
懸濁液中のゲルの含有量としては特に制限されないが、8~25質量%であることが好ましい。
【0056】
[多孔質粒子]
本製造方法で得られる多孔質粒子(「本粒子」ともいう。)は、すでに説明した特定高分子化合物と、特定有機溶媒との共結晶を含む。
なお、特定高分子と特定有機溶媒はすでに説明したのと同様であり、好適形態も同様である。
【0057】
本粒子の平均粒子径としては特に制限されないが、一般に、0.1~100μmが好ましく、1~50μmがより好ましい。なお、本明細書において、平均粒子径とは、走査型電子顕微鏡で多孔質粒子を観察したとき、一次粒子の20~25個の粒子の平均円相当径を意味する。なお、平均円相当径の算出方法は、実施例に記載されたとおりである。
【0058】
本粒子のBET比表面積は特に制限されないが、10.0m/g以上が好ましく、30.0m/g以上がより好ましく、100.0m/g以上が更に好ましく、300m/g以下が好ましく、200m/g以下がより好ましく、150m/g以下が更に好ましい。なお、本明細書においてBET比表面積とは実施例に記載された方法により測定されるBET比表面積を意味する。
【0059】
また、本粒子が有するメソ孔の体積は特に制限されないが、0.03cm/g以上が好ましく、0.10cm/g以上がより好ましく、0.20cm/g以上が更に好ましく、1.00cm/g以下が好ましく、0.70cm/g以下がより好ましく、0.60cm/g以下が更に好ましい。なお、本明細書において、メソ孔の体積とは、実施例に記載された方法により測定されるメソ孔の体積を意味する。
【0060】
また、本粒子が有する空孔の全体積に占めるメソ孔の体積の体積比(Vmeso/Vtotal)としては特に制限されないが、0.15以上が好ましく、0.3以上がより好ましく、0.4以上が更に好ましく、0.5以上が特に好ましく、0.6以上が最も好ましく、2.0以下が好ましく、1.5以下がより好ましく、1.0以下が更に好ましい。なお、本明細書において、空孔の全体積とは、実施例に記載された方法により測定される空孔の全体積を意味する。
【0061】
(用途)
本粒子は優れた耐熱性、耐薬品性、及び、マトリクス樹脂への親和性を有するため、樹脂等に充填して用いる充填剤(填料)、汚染物質等の吸着材、空隙に対象物(薬剤、微生物、及び、生体分子等)が担持された対象物担持担体、カラムクロマトグラフィーにおいて化合物を分離するためにカラムに充填される充填剤、及び、顔料等として利用可能である。
【実施例
【0062】
以下に実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0063】
(実施例1)
ポリエーテルスルホン粉末(住友化学社製、商品名「スミカエクセル3600P」)4.0gをニトロベンゼンの6.0gに添加し(40質量%)、加熱下で撹拌(100℃、15分)して、溶解させ、溶液を得た。次に、この溶液を撹拌下で自然放冷した(室温は25℃)。
【0064】
室温で一晩放置すると、溶液が白色ゲル状に固化した。このゲルを粉砕した後、ニトロベンゼンの10gを追加し、スラリー状の流動液体(20質量%)にした。
次に、流動液体を室温下で200mLのメタノールに滴下した。次に、発生した沈殿を遠心分離(3500rpm、15min)で回収した。
このメタノール洗浄と遠心分離による回収を3回繰り返し、過剰なニトロベンゼンを除去した。最後に室温で真空乾燥を一晩実施し、乾燥した粒子を回収した。
【0065】
(実施例2~7)
ニトロベンゼンに代えて1,2-ジメトキシベンゼン(実施例2)、シクロペンタノン(実施例3)、シクロヘキサノン(実施例4)、γ-ブチロラクトン(実施例5)、モルフォリン(Morpholine、実施例6)、及び、アニリン(実施例7)を用いた以外は実施例1と同様にして、粒子を得た。
【0066】
(比較例1)
ポリエーテルスルホン粉末の2.0gをジクロロメタンの8.0gに添加し、室温下で15分間撹拌し、溶解させ、溶液を得た。次に、この溶液を撹拌下で放置したところ、約30分の間に溶液が白色ゲル状に固化した。
このゲルを粉砕し、室温下で200mLのメタノールに投入し、30分間撹拌した。溶液中の固形分を遠心分離(3500rpm、15min)で回収した。
このメタノール洗浄と遠心分離による回収を3回繰り返し、過剰なジクロロメタンを除去した。最後に室温で真空乾燥を一晩実施し、乾燥した粒子を回収した。
【0067】
(比較例2)
ポリエーテルスルホン粉末の2.0gをクロロホルムの8.0gに添加し、加熱下で攪拌(50℃、3時間)した。50℃で3時間保持しても、ポリエーテルスルホンが溶解せず、溶液は白濁状態のままだった。ポリエーテルスルホンが完全には溶解しなかったため、粒子は得られなかった。
【0068】
(比較例3~6)
ニトロベンゼンに代えてN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc、比較例3)、ジメチルホルムアミド(DMF、比較例4)、ジメチルスルホキシド(DMSO、比較例5)、及び、N,N-ジエチルホルムアミド(比較例6)を用いたことを除いては実施例1と同様の操作を行った。その結果、いずれの溶液も、室温で一晩放置しても、溶液は透明のままで、ゲル状に固化せず、粒子は得られなかった。
【0069】
(比較例7~16)
ニトロベンゼンに代えてN-メチルホルムアミド(比較例7)、N-エチルホルムアミド(比較例8)、アニソール(メトキシベンゼン、比較例9)、クロロベンゼン(比較例10)、エチルシンナメート(E-けい皮酸エチル、比較例11)、o-ジブロモベンゼン(比較例12)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(比較例13)、エチレングリコールモノベンジルエーテル(比較例14)、1,2-ジクロロエタン(比較例15)、及び、o-ジクロロベンゼン(比較例16)を用いたことを除いては実施例1と同様の操作を行った。その結果、いずれもポリエーテルスルホン粉末が各溶媒に溶解せず、粒子は得られなかった。
【0070】
なお、表1は、実施例1~7、及び、比較例1~16で使用した有機溶媒の種類と、ハンセン溶解度パラメータのdD、dP、dH(いずれも単位はMPa0.5)、及び、Bp(沸点、単位℃)を示す表である。
【0071】
【表1】
【0072】
(走査型電子顕微鏡による観察)
実施例1~5で得られた粒子を、それぞれカーボン両面テープ上に散布し、走査型電子顕微鏡(日立FE-SEM S-4800、加速電圧5kV、加速電流10mA)で観察した。なお、観察中の試料の帯電を防止するため、イオン液体のエタノール溶液(1質量%)を滴下して乾燥させた。
【0073】
図1は、実施例1の粒子のSEM像である。また、図2は実施例2の粒子のSEM像である(実施例3~5については図示を省略した)。いずれも複数の微粒子(以下、「一次粒子」ともいう。)が凝集している様子が確認された。
【0074】
次に、取得したSEM画像を解析し、各実施例の粒子の平均粒子径を求めた。
画像解析には三谷商事社製「WinROOF2018 Ver4.12.0」を使用した。まず、SEM画像において粒子形状が明確に認められる粒子を20~25個選び、それらの粒子を領域選択した。次に、選択された領域の面積から、領域形状を円形と仮定した場合の直径を求めた(円相当径)。選び取った20~25個のデータ点を平均して、平均円相当径と分散を算出した。
【0075】
上記の結果、実施例1の粒子の平均円相当径は1.5μmで分散は0.3μmだった。実施例2の粒子の平均円相当径は6.5μmで分散は1.7μmだった。
【0076】
(熱重量分析)
次に、得られた粒子についてTGA(Thermogravimetric analysis)分析を行った。装置は、Netzsch社製「STA2500 Regulus」を用いた。まず、実施例1~5の粉末、及び、実施例1で原料として用いたポリエーテルスルホン粉末をそれぞれ5~10mg計量し、アルミニウム製の開放パンに充填し、室温から300℃まで昇温(昇温速度5℃/min)して、この間の試料の質量変化を測定した。なお、測定は窒素雰囲気下(流量20mL/min)で実施した。図3~8は、温度に対する各試料の残留質量(%)の関係を表す曲線を示す図である。また、表2は、得られた試験結果をまとめた表である。
【0077】
図3~7の曲線から、それぞれ300℃までの加熱で、後述する「MassChange」が-3質量%以下であり、PESと各溶媒との共結晶が得られたことが確認された。一方、図8のPESは300℃までの加熱でも「MassChange」は殆どなかった(-0.25質量%)。
【0078】
【表2】
【0079】
なお、表2中、「Mass change」は、以下の式で表される値(単位:質量%)である。
(式)Mass change(質量%)=(W35-W250)/W35×100
上記式中、「W35」は、35℃における質量減少率(質量%)を表し、W250は、250℃における質量減少率(質量%)を表す。
また、表2中、Tonset(℃)は、質量減少が開始する温度であり、Tinflection(℃)は、質量減少の開始温度と、質量減少終了温度との間の変曲点を意味する。
【0080】
(ガス吸着測定)
ガス吸着測定により、粒子の多孔性について評価した。ガス吸着測定は、マイクロトラック・ベル社製「Belsorp-max」を用いて実施した。
実施例1~5の粉末を室温で一晩真空乾燥させ、-196℃で窒素ガス吸着測定を行った。測定結果からガス吸着量とp/p(相対圧、p:飽和蒸気圧)との関係(吸着等温線)が得られ、ここから、BET比表面積(SBET:単位m/g)、全細孔容積(Vtotal、単位:cm/g)、メソ孔容積(Vmeso、単位:cm/g)が計算された。表3はその結果を表す表である。
【0081】
【表3】
【0082】
表3から、実施例1、2、及び、5の粒子は、実施例3、及び、4の粒子と比較してよりBET比表面積が大きく、また、メソ孔の容積もより多いことが理解される。
【0083】
(実施例8)
ポリエーテルスルホン粉末(住友化学社製、商品名「スミカエクセル3600P」)4.0gをニトロベンゼンの6.0gに添加し(40質量%)、加熱撹拌(100°C、15分)して、溶解させ、溶液を得た。次に、この溶液を撹拌下で自然放冷した(室温は25℃)。
【0084】
室温で一晩放置すると、溶液が白色ゲル状に固化した。得られた固体をスパチュラを用いて粉砕し、50mL容器(口内径×胴径×高さ:φ32×φ44.5×57mm)に入れてドラフト内に載置し、25℃で一週間保持して乾燥させた。
【0085】
(実施例9~10)
ニトロベンゼンに代えて1,2-ジクロロベンゼン(実施例9)、及び、シクロペンタノン(実施例10)を用いたこと以外は実施例8と同様にして、粒子を得た。
【0086】
(比較例17)
ポリエーテルスルホン粉末の2.0gをジクロロメタンの8.0gに添加し、室温下で15分間撹拌し、溶解させ、溶液を得た。次に、この溶液を撹拌下で放置したところ、約30分の間に溶液が白色ゲル状に固化した。
このゲルを粉砕し、25℃で一週間保持して乾燥させ、粒子を得た。
【0087】
(X線回折測定)
実施例1、実施例8~10、比較例1、及び、比較例17の粒子について、粉末X線回折測定を行った。各粒子をサンプルホルダに充填し、室温、大気下で測定した。なお、装置は、「MiniFlex 300/600」を用い、測定条件は、40kV、15mA、CuKα(λ=1.54184オングストローム)、スキャン速度2.0deg/min、角度範囲:4.0-60.0degとした。図9図12は、それぞれ実施例1(図9)、実施例8(図10)、実施例9(図11)、及び、実施例10(図12)の粒子の測定結果を示す図である。また、図13は比較例1の粒子の測定結果を示す図である。
【0088】
図9~12からは、いずれの粒子も結晶性を有することが理解される。また、メタノールによる洗浄処理を実施した実施例1も、メタノールによる洗浄処理を実施せず、ゲル状に固化したものを乾燥させた実施例8~10のいずれも結晶性が確認されることから、乾燥方法によらず、所望の共結晶を含む多孔質粒子が製造できることが確認された。
【0089】
一方、図13からは結晶の存在を示唆するピークは確認できず、比較例1の粒子は結晶性を有していないことが確認された。また、図示しないが、比較例17の粒子についても同様の結果だった。
【0090】
なお、非特許文献1では、溶媒が21重量%(21wt%)残留した状態でX線回折測定を行ったところ、結晶性が確認されたとの記載があるものの、比較例1の方法では、結晶性は確認できなかった(なお、非特許文献1には多孔質粒子が得られたことは記載されていない)。
【0091】
この理由は、比較例1では、溶液をゲル化させたのち、遊離状態の特定有機溶媒を除去するための処理を行っており、この際に有機溶媒が除去されたことに起因するものと推測される。つまり、従来の方法では、乾燥状態で結晶性を有する多孔質粒子は得られなかった。
【0092】
このことから、本製造方法は、剛直で屈曲した分子構造を有する特定高分子と、特定の特定有機溶媒を組合わせて用いているために、得られる多孔質粒子の結晶構造が非特許文献1の方法で得られる固形物が有する結晶構造よりも安定的であり、共結晶化による優れた特性が維持されやすいという優れた効果が得られるものであることが理解される。
【0093】
また、比較例4の方法では、溶液がゲル化せず、多孔質粒子は得られなかった。
なお、非特許文献2には、溶液を5℃に冷却することでゲル化し、多孔質構造が得られたことが記載されている(なお、非特許文献2には、多孔質「粒子」が得られたことは記載されていない)。
この理由は、比較例4の方法では、ゲル化工程が室温で実施されているためであると推測される。
このことから、本製造方法は、剛直で屈曲した分子構造を有する特定高分子と、特定の特定有機溶媒を組合わせて用いているために、結晶構造を有する固形物(ゲル)を得るために、室温より低く冷却しなくても、所望の結晶構造を有する多孔質粒子が得られるという、優れた効果が得られるものであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明によれば、高分子化合物を溶媒分子と共結晶させて多孔質粒子化するため、従来の多量の貧溶媒を使用するような粒子の製造方法と比較して、溶媒の使用量をより少なくすることができる。そのため、粒子の製造コストの面、及び、環境負荷の面で従来法と比較して優れている。
また、得られた粒子は、従来の多孔質粒子と同様、汚染物質の吸着、薬剤の担持等に使用することができる。また、樹脂への分散性にも優れているため、樹脂添加剤としても使用することができ、また、それ自体を顔料として使用することもできる。
図1
図2
図3
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図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13