IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ティエムファクトリ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-エアロゲルおよびその製造方法 図1
  • 特許-エアロゲルおよびその製造方法 図2
  • 特許-エアロゲルおよびその製造方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】エアロゲルおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/16 20060101AFI20240717BHJP
【FI】
C01B33/16
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020125216
(22)【出願日】2020-07-22
(62)【分割の表示】P 2020526459の分割
【原出願日】2020-01-23
(65)【公開番号】P2020176272
(43)【公開日】2020-10-29
【審査請求日】2023-01-23
(31)【優先権主張番号】P 2019024297
(32)【優先日】2019-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】517005020
【氏名又は名称】ティエムファクトリ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(72)【発明者】
【氏名】會澤 守
(72)【発明者】
【氏名】上柿 愛
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/010949(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/030796(WO,A1)
【文献】特開2011-136859(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸触媒を含む水溶液にシリコン化合物を添加し、加水分解することによって液体ゾルを生成させるゾル生成工程と、
生成した前記液体ゾルを、所望の形状で養生することによって単一のウェットゲルを生成する工程と、
前記ウェットゲルに存在する水を、常圧で乾燥可能な炭化水素溶媒に交換する溶媒交換工程と、
前記溶媒交換工程後の前記ウェットゲルを大気圧乾燥法によって乾燥させて、単一のエアロゲルを得る乾燥工程と
を含むエアロゲルの製造方法であって、
前記シリコン化合物が、4官能シラン化合物、3官能シラン化合物および2官能シラン化合物のうち、少なくとも4官能シラン化合物と3官能シラン化合物を含み、
前記エアロゲルの密度が0.15g/cm 以下であることを特徴とするエアロゲルの製造方法。
【請求項2】
前記シリコン化合物が、4官能シラン化合物と3官能シラン化合物からなる、請求項1に記載のエアロゲルの製造方法。
【請求項3】
前記エアロゲルの形状が、板状、フィルム状または粒子状である、請求項1または2に記載のエアロゲルの製造方法。
【請求項4】
前記溶媒交換工程において用いる前記炭化水素溶媒は、20℃における表面張力が20~40mN/mの範囲である脂肪族炭化水素を含む有機溶剤である、請求項1、2または3に記載のエアロゲルの製造方法。
【請求項5】
前記有機溶剤は、イソプロピルアルコール(IPA)とヘプタン(Hep)を1:4~1:3の体積比で混合した混合溶液である、請求項4に記載のエアロゲルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱特性に優れ、かつ大面積(例えば400cm以上)の板状またはフィルム状をなすエアロゲルおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、エアロゲルと呼ばれる、シロキサン結合を有するゲル乾燥体が知られている。具体的には、シラン化合物の単量体溶液(溶媒:水、および/または有機溶剤)を加水分解することによりゾルを形成し、そのゾルを架橋反応させることによってゲル(縮合化合物)を形成した後、ゲルを乾燥させることによって、多数の気孔を有するエアロゲル(ゲル乾燥体)が得られる。
【0003】
ここでエアロゲルが有する気孔は、その孔径が、例えば空気を構成する元素分子の大気圧における平均自由行程(Mean Free Path[MFP])以下である。従って、エアロゲルの内部においては、空気を構成する元素分子による熱交換がほとんど行われず、エアロゲルは、断熱材として優れたポテンシャルを有し、その断熱効果は、真空に次ぐものと言われている。
【0004】
しかしながら、エアロゲルは、ゲル乾燥の初期段階において、毛細管力によって、ゲル全体が収縮し、この収縮力によって、ゲル全体が自壊、または内部損傷を受け、粉砕したり、外形は保たれても気孔以外の意図しない空隙や、外観上の歪みを呈するなど、様々な欠陥を生じるため、量産レベルには至っていないという課題があった。
【0005】
ゲル乾燥の初期段階における毛細管力を減少させる方法として、二酸化炭素の超臨界状態において、ゲル内部の液体と二酸化炭素を交換し、続いて二酸化炭素を大気圧に戻して乾燥させる、超臨界乾燥法が試みられている。しかしながら、超臨界乾燥法は、設備が大型化すると共に、製造コストが著しく高価であり、大量生産が困難であるという課題がある。
【0006】
一方、超臨界を用いない公知の製造方法としては、溶媒の臨界点未満の温度および圧力下においてゲルを乾燥させる乾燥法、特に表面張力の低い溶媒を用いた大気圧乾燥法が挙げられる(例えば、本発明者が提案した特許文献1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5250900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般にエアロゲルは、密度が高くなるほど熱伝導率が高くなる傾向があり、特許文献1に記載されたエアロゲルは、乾燥を大気圧下で行なった場合、密度が0.20g/cm以上と比較的高いことから、断熱特性が未だ充分なものではなく、改良の余地があった。断熱特性は、エアロゲルの密度や気孔率に強く依存することから、気孔が内在しているエアロゲルの密度は、できるだけ低くすることが望ましい。
【0009】
また、特許文献1に記載のエアロゲルの製造方法は、シリコン原料として、1種類のシリコン化合物(実施例では、3官能型のメチルトリメトキシシラン(MTMS))のみを用いているため、エアロゲルに、割れ、空隙、歪み等の欠陥を有することが多く、大きくても数センチ角程度のサイズ(面積)を有するエアロゲルしか製造することができておらず、限られた用途での使用しかできなかった。
【0010】
このため、断熱特性に優れたシート状のエアロゲルを、大面積でかつ安定的に製造する技術を開発する必要があった。
【0011】
本発明の目的は、断熱特性に優れ、かつ大面積(例えば400cm以上)の板状またはフィルム状をなすエアロゲルおよびその製造方法を提供することにあり、特に、特許文献1に記載されたエアロゲルに比べて、断熱特性をさらに向上させるとともに、大面積化を図ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、超臨界状態での乾燥を必要とせず、非超臨界条件での乾燥を採用することを前提として、エアロゲルの断熱特性の向上と大面積化について鋭意検討したところ、エアロゲルを作製するための主原料となるシリコン化合物として、3官能シラン化合物に加えて、少なくとも4官能シラン化合物、好適には4官能シラン化合物および2官能シラン化合物の双方を、所定の割合(質量百分率)で混合することにより、割れ等の欠陥が少ないエアロゲルを低密度(0.15g/cm以下)で製造することが可能になり、この結果、断熱特性が向上し、加えて、特許文献1では製造できなかった、400cm以上の大面積の板状またはフィルム状をなすエアロゲルを製造できることを見出した。
【0013】
また、本発明の方法で製造されたエアロゲルは、骨格を構成するシロキサン結合の結合状態について、NMRで測定される、Q成分、T成分およびD成分に由来するそれぞれのシグナル面積積分値から算出される質量百分率Q、TおよびDが、上述したエアロゲルを作製するための主原料となるシリコン化合物の混合した割合(質量百分率)と関係性があることも見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明の要旨構成は、以下に示されるとおりである。
(1)酸触媒を含む水溶液にシリコン化合物を添加し、加水分解することによってゾルを生成させる工程を含むエアロゲルの製造方法であって、前記シリコン化合物が、4官能シラン化合物、3官能シラン化合物および2官能シラン化合物のうち、少なくとも4官能シラン化合物と3官能シラン化合物を含み、前記エアロゲルの密度が0.15g/cm以下であることを特徴とするエアロゲルの製造方法。
(2)前記シリコン化合物は、4官能シラン化合物、3官能シラン化合物および2官能シラン化合物の質量百分率を、それぞれQx、Tx、Dxとするとき、0<Qx<50、50≦Tx<100、0≦Dx<30、Qx+Tx+Dx=100を満たす割合となるように混合する、上記(1)に記載のエアロゲルの製造方法。
(3)前記4官能シラン化合物、3官能シラン化合物および2官能シラン化合物のそれぞれの質量百分率Qx、Tx、Dxは、Qx、TxおよびDxを座標軸とする三角図(Qx、Tx、Dx)上にプロットするとき、A点(5、95、0)と、B点(40、60、0)と、C点(40、55、5)と、D点(30、55、15)と、E点(15、70、15)と、F点(5、90、5)と、A点(5、95、0)とをこの順に結ぶ6本の直線で囲まれた範囲内にある上記(2)に記載のエアロゲルの製造方法。
(4)固体29Si-NMRにより計測される、Q成分、T成分およびD成分に由来するシグナル面積積分値から算出される質量百分率を、それぞれQ、TおよびDとするとき、Q、TおよびDは、それぞれ0<Q<50、50≦T<100、0≦D<30であり、かつQ+T+D=100を満たし、密度が0.15g/cm以下であるエアロゲル。
(5) Q成分、T成分およびD成分に由来するシグナル面積積分値から算出されるQ、TおよびDは、Q、TおよびDを座標軸とする三角図(Q、T、D)上にプロットするとき、A´点(5、95、0)と、B´点(40、60、0)と、C´点(40、55、5)と、D´点(30、55、15)と、E´点(15、70、15)と、F´点(5、90、5)と、A´点(5、95、0)とをこの順に結ぶ6本の直線で囲まれた範囲内にある上記(4)に記載のエアロゲル。
(6)400~800nmの波長域における透過率の最小値が40%以上である上記(4)または(5)に記載のエアロゲル。
(7)400cm以上の面積をもつ板状またはフィルム状をなす上記(4)~(6)のいずれか1項に記載のエアロゲル。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、断熱特性に優れ、かつ大面積(例えば400cm以上)の板状またはフィルム状をなすエアロゲルおよびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の製造方法のゾル生成工程において混合する、4官能シラン化合物、3官能シラン化合物および2官能シラン化合物のそれぞれの質量百分率であるQx、TxおよびDxの適正範囲(領域I)および好適範囲(領域II)を示した三角図である。
図2】本発明のエアロゲル(サンプル番号1-27)のNMRデータを示す図である。
図3】本発明のエアロゲル(サンプル番号1-27)の透過率スペクトルデータを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0018】
本実施形態のエアロゲルの製造方法は、酸触媒を含む水溶液にシリコン化合物を添加し、加水分解することによってゾルを生成させるゾル生成工程を含むエアロゲルの製造方法であって、前記シリコン化合物が、4官能シラン化合物、3官能シラン化合物および2官能シラン化合物のうち、少なくとも4官能シラン化合物と3官能シラン化合物を含む。そして、この製造方法によって得られたエアロゲルの密度は0.15g/cm以下である。
【0019】
特に、本実施形態のエアロゲルの製造方法は、超臨界状態での乾燥は行なわずに、原料ゾルを作製するために行なうゾル生成工程において混合するシリコン化合物の適正化を図ったものであって、その他の工程については特に限定はしない。本実施形態の具体的な製造方法としては、例えば、ゾル生成工程、ウェットゲル生成・成形工程、溶媒交換工程および乾燥工程をこの順で行う場合が挙げられる。なお、本実施形態のエアロゲルの製造方法は、例えば、1段階固化法と2段階固化法のいずれかの構成(工程)を採用することができる。ここで、1段階固化法とは、シリコン化合物の加水分解反応によるゾル形成と、形成されたゾルの重縮合反応によるゲル化とを、同一の溶液組成で連続して行う方法を意味し、また、2段階固化法とは、シリコン化合物を加水分解してゾルを形成した後、塩基性水溶液を添加して別の溶液組成とした上で、ゾルの重縮合反応によるゲル化を行う方法を意味する。
【0020】
以下の第1の実施形態では、1段階固化法の構成(工程)を採用した場合について、各工程を詳細に説明する。
【0021】
(I)第1の実施形態(1段階固化法を用いたエアロゲルの製造方法)
(I-1)ゾル生成工程
ゾル生成工程は、所定の溶液中に、シリコン化合物(主原料)を含む各種原料を添加し、撹拌して混合する工程を含むものであって、これによって、ゾルを生成する。
【0022】
(I-1-1)シロキサン結合構成材料(主原料)
第1の実施形態の製造方法は、エアロゲルを作製するための主原料となるシリコン化合物として、3官能シラン化合物に加えて、少なくとも4官能シラン化合物を、所定の割合(質量百分率)で混合するゾル生成工程を含むことが必要であり、より好適には、4官能シラン化合物、3官能シラン化合物および2官能シラン化合物のそれぞれの質量百分率を、Qx、Tx、Dxとするとき、0<Qx<50、50≦Tx<100、0≦Dx<30、Qx+Tx+Dx=100を満たす割合で混合する工程を含む。Qx、TxおよびDxのそれぞれを、上記した範囲の質量百分率で混合することによって、特許文献1に記載のエアロゲルに比べて、割れ等の欠陥が少なく、かつより低密度のエアロゲルを製造することができ、この結果、断熱特性が向上し、加えて、特許文献1では製造できなかった、400cm(例えば20cm角)以上の大面積の板状またはフィルム状をなすエアロゲルを製造することができる。
【0023】
ここで、4官能シラン化合物とは、シロキサン結合数(シリコン原子1個に結合する酸素原子の数)が4個であるシラン化合物のことであり、3官能シラン化合物とは、シロキサン結合数が3個であるシラン化合物のことであり、そして、2官能シラン化合物とは、シロキサン結合数が2個であるシラン化合物のことである。
【0024】
4官能シラン化合物としては、例えばテトラアルコキシシラン、テトラアセトキシシランが挙げられる。テトラアルコキシシランの望ましい実施態様としては、アルコキシ基の炭素数が1~9のものが挙げられる。例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシランなどが挙げられる。これらのシラン化合物は、単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。本発明では、4官能シラン化合物として、特にテトラメトキシシラン(TMOS)を用いることが好ましい。
【0025】
3官能シラン化合物としては、例えばトリアルコキシシラン、トリアセトキシシランが挙げられる。トリアルコキシシランの望ましい実施態様としては、アルコキシ基の炭素数が1~9のものが挙げられる。例えば、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリエトキシシランなどが挙げられる。これら化合物は、単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。本発明では、3官能シラン化合物として、特にメチルトリメトキシシラン(MTMS)を用いることが好ましい。
【0026】
2官能シラン化合物としては、例えばジアルコキシシラン、ジアセトキシシランがある。ジアルコキシシランの望ましい実施態様としては、アルコキシ基の炭素数が1~9のものが挙げられる。具体的には、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジイソブチルジメトキシシランなどが挙げられる。これら化合物は、単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。本発明では、2官能シラン化合物として、特にジメチルジメトキシシラン(DMDMS)を用いることが好ましい。
【0027】
(I-1-2)主原料の混合割合(質量百分率)
ゾル生成工程では、主原料となるシリコン化合物が、4官能シラン化合物、3官能シラン化合物および2官能シラン化合物のうち、少なくとも4官能シラン化合物と3官能シラン化合物を含み、より具体的には、4官能シラン化合物、3官能シラン化合物および2官能シラン化合物の質量百分率を、それぞれQx、Tx、Dxとするとき、0<Qx<50、50≦Tx<100、0≦Dx<30、Qx+Tx+Dx=100を満たす割合で、少なくとも4官能シラン化合物と3官能シラン化合物を混合する。
【0028】
図1は、第1の実施形態の製造方法の混合工程において混合した、4官能シラン化合物、3官能シラン化合物および2官能シラン化合物のそれぞれの質量百分率であるQx、TxおよびDxの適正範囲について、Qx、TxおよびDxを座標軸とする三角図に示したものであって、図1に示す領域Iが、Qx、TxおよびDxの適正範囲である。図1に示す領域Iは、4つの頂点a~dを有し、台形状に区画された領域(右下がりの斜線でハッチングした領域)である。なお、頂点a~dは、いずれも領域Iには含まれないので「○(白抜き丸)」で示す。また、頂点aと頂点bの間を結ぶ直線および頂点bと頂点cの間を結ぶ直線は領域Iに含まれ、また、頂点cと頂点dの間を結ぶ直線および頂点dと頂点aの間を結ぶ直線は領域Iには含まれない。
【0029】
前記領域Iは、0<Qx<50、50≦Tx<100、0≦Dx<30、Qx+Tx+Dx=100を満たす範囲を示したものであって、かかる領域Iの範囲を満たす質量百分率でシリコン化合物を混合することによって、割れ等の欠陥が少なく、かつ密度が0.15g/cm以下となるエアロゲルの作製が可能になり、領域Iの混合割合で作製したエアロゲルは、特許文献1に記載されたエアロゲルに比べて、断熱特性がさらに向上し、加えて特許文献1では作製できなかった400cm以上の大きな面積をもつ板状またはフィルム状に形成することができる。
【0030】
また、第1の実施形態のエアロゲルの製造方法は、さらに、4官能シラン化合物、3官能シラン化合物および2官能シラン化合物のそれぞれの質量百分率Qx、Tx、Dxは、Qx、Tx、Dxを座標軸とする三角図(Qx、Tx、Dx)上にプロットするとき、A点(5、95、0)と、B点(40、60、0)と、C点(40、55、5)と、D点(30、55、15)と、E点(15、70、15)と、F点(5、90、5)と、A点(5、95、0)とをこの順に結ぶ6本の直線で囲まれた範囲(図1の領域II)内にあることが好ましい。4官能シラン化合物、3官能シラン化合物および2官能シラン化合物のそれぞれの質量百分率Qx、Tx、Dxが、上記範囲内にあることによって、全可視光域での透過率を高くできること、より具体的には、400~800nmの波長域における透過率の最小値が40%以上、さらには、500~800nmの波長域における透過率の最小値が50%以上を達成することができる(図3参照)。なお、図1に示す領域IIは、6つの頂点A~Fを有し、六角形状に区画された領域(右上がりの斜線でハッチングした領域)である。なお、頂点A~Fは、いずれも領域IIに含まれるので「●(黒塗り丸)」で示し、また、これらの頂点A~Fを結ぶ6本の直線も領域IIに含まれる。
【0031】
(I-1-3)ゾル生成工程の副材料およびゾル生成条件
ゾル生成工程では、主原料として、4官能シラン化合物、3官能シラン化合物、2官能シラン化合物を上述の所定混合比で混合し、水、界面活性剤を含む溶液に添加する。この調製により、シラン化合物が加水分解され、シロキサン結合を含むゾルが生成する。なお、調製する溶液に、酸、窒素化合物、有機溶剤、有機化合物(例えば糖類)および/または無機化合物(例えば塩)を含んでもよい。
【0032】
界面活性剤は、ゾル生成過程において、ミクロ相分離構造を形成し、後述するエアロゲルを構成するバルク部と気孔部とを形成することに寄与する。エアロゲルの製造に用いることのできる界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、イオン性界面活性剤などを用いることができる。イオン性界面活性剤としては、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤などを例示することができる。界面活性剤は、特に非イオン性界面活性剤を用いることが好ましい。調製する溶液に対する界面活性剤の添加量は、シラン化合物の種類や混合比、界面活性剤の種類にもよるが、主原料であるシラン化合物の総量100質量部に対し、0.001~100質量部の範囲であることが好ましく、0.01~90質量部の範囲であることがより好ましく、さらに好ましくは0.1~80質量部の範囲である。
【0033】
酸は、加水分解時に触媒として作用し、加水分解の反応速度を加速することができる。具体的な酸の例としては、無機酸、有機酸、有機酸塩が挙げられる。
【0034】
無機酸としては、塩酸、硫酸、亜硫酸、硝酸、フッ酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、臭素酸、塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸などが挙げられる。
【0035】
有機酸としては、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、クエン酸、リンゴ酸、アジピン酸、アゼライン酸などのカルボン酸類が挙げられる。
【0036】
有機酸塩としては、酸性リン酸アルミニウム、酸性リン酸マグネシウム、酸性リン酸亜鉛などが挙げられる。これらの酸は、単独、あるいは2種類以上を混合したものを用いてもよい。本発明では、酸として、有機酸である酢酸を用いることが好ましい。
【0037】
また、調製する溶液全体に対する酸の添加濃度としては、0.0001mol/L~0.1mol/Lの範囲であることが好ましく、0.0005mol/L~0.05mol/Lの範囲であることがより好ましく、さらに好ましくは0.001mol/L~0.01mol/Lの範囲である。
【0038】
窒素化合物としては、具体的には、尿素、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド化合物、ヘキサメチレンテトラミン等の複素環化合物などを挙げることができる。特に尿素は、エアロゲルの微細空間構造の形成に寄与し、均質なゲル化を実現する点で好適に用いることができる。
【0039】
窒素化合物の添加量は、特に限定されないが、例えば、主原料であるシラン化合物の総量100質量部に対して、窒素化合物の添加量を1~200質量部の範囲とすることが好ましく、2~150質量部の範囲とすることがより好適である。
【0040】
有機溶剤としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、2-プロパノール、n-ブタノール、2-ブタノール、t-ブタノールなどのアルコール類を用いることができる。これらは単独あるいは2種類以上を混合したものを用いてもよい。また、調製する溶液に対する有機溶剤の添加量としては、相溶性の観点から、主原料であるシリコン化合物の総量1molに対し、0~10molの範囲、特に0~9molの範囲とすることがより好ましく、さらに好ましくは0~8molの範囲である。
【0041】
ゾル生成工程に必要な溶液温度、および時間は、混合溶液中のシラン化合物、界面活性剤、水、酸、窒素化合物、有機溶剤などの種類および量に左右されるが、例えば0℃~70℃の温度環境下で、0.05時間~48時間の範囲であればよく、20~50℃の温度環境下で0.1時間~24時間の処理とすることが好ましい。このような条件で行なうゾル生成工程によって、シラン化合物が加水分解され、全体として液体ゾルを生成することができる。なお、ゾル生成工程で使用する副材料および/または副材料の分解物は、製造したエアロゲルにおいて、不可避成分として混入しうる。
【0042】
(I-2)ウェットゲル生成・成形工程
ウェットゲル生成・成形工程は、所望の形状を得るための型に、液体ゾルを流し込む工程と、型の内部で流し込んだ液体ゾルを養生することにより、ウェットゲルを生成する工程とに大別することができる。
【0043】
溶液(液体ゾル)を型に流し込む工程は、所望のエアロゲル製品の形状を得るための工程である。型は、金属、合成樹脂、木、紙のいずれかを用いることができるが、形状の平面性と離形性を兼ね備える点で、合成樹脂を用いることが好ましい。合成樹脂としては、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、シリコーン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が挙げられる。
【0044】
型は、所望のエアロゲル製品の形状を得るためであるから、所望のエアロゲル製品の形状の凹凸に対応した凸凹形状を有している。例えば、所望のエアロゲル製品の形状が板状(直方体)である場合、一端開口の凹型トレイを型として用いることができる。また、型は、いわゆる射出成形金型のように、複数の型からなる組み合わせ型であってもよい。一例として、凹型と凸型を対向して用いる2枚組み合わせ型があり、凹型の内面と、凸型の外面とが、所定の間隔で離隔した位置関係となる組み合わせ型であってもよい。この結果、溶液(液体ゾル)は、組み合わせ型の内部空間に流し込まれ、所定時間の間、密閉されてもよい。
【0045】
また、一端開口の凹型トレイを型として用いた場合、凹型トレイの開放(平)面の全面を覆う平板(プレート)を第2の型として用意し、凹型トレイの開放面と第2の型とが対向するように2枚組み合わせ型として用いてもよい。この結果、溶液(液体ゾル)は、組み合わせ型の内部に流し込まれ、所定時間の間、密閉されてもよい。
【0046】
溶液(液体ゾル)を型に流し込む(充填する)工程に続き、型の内部で溶液の架橋反応を進め、ウェットゲルを生成するとともに、養生するエージング工程がある。
【0047】
養生は、所定のエネルギーを、所定の時間をかけて、ウェットゲルの架橋反応を進めるものである。エネルギーの一例としては、熱(温度)であり、30~90℃、望ましくは40~80℃の加熱が用いられる。加熱は、ヒータ加熱であっても、水または有機溶剤による蒸気加熱であってもよい。
【0048】
また、エネルギーの別の一例としては、赤外線、紫外線、マイクロ波、ガンマ線等の電磁波の印加、電子線の印加などが挙げられる。これらエネルギーは、単独で用いられても、複数の手段を併用して用いてもよい。
【0049】
養生に要する時間は、シリコン化合物の構成や、界面活性剤、水、酸、窒素化合物、有機溶剤、塩基性触媒などの種類および量、さらにはエネルギーの種類や密度に左右されるが、24時間超え7日間以下の期間である。また養生は、熱(温度)と時間とを、多段階に変化させる養生であってもよい。なお、ウェットゲル生成・成形工程で使用する材料、および/または材料の分解物は、製造したエアロゲルにおいて、不可避成分として混入しうる。
【0050】
(I-3)溶媒交換工程
溶媒交換工程は、ウェットゲルの表面および内部に存在する水および/または有機溶剤を、常圧で乾燥可能な有機溶媒に交換してエアロゲルを作製する本発明のエアロゲルの製造方法では必須の工程であって、Young-Laplaceの式で表現される毛細管力を可能な限り低減させるために、低表面エネルギーの有機溶媒(炭化水素溶媒)への置換を行なう工程である。また、溶媒交換工程は、上述の型から取り出してから行ってもよいし、型内で行ってもよい。
【0051】
溶媒交換に用いる炭化水素溶媒は、水と混和しないので、溶媒交換工程では、まず、ウェットゲルの表面および内部に存在する水および/または有機溶剤を、炭化水素溶媒と混和するアルコールのような中間溶媒に交換し、その後、この中間溶媒を、低表面エネルギーの有機溶媒(炭化水素溶媒)に交換する。中間溶媒に用いるアルコールとしては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール(IPA)、ブタノールが挙げられる。
【0052】
溶媒交換工程では、その後に行われる乾燥工程におけるゲルの収縮ダメージを抑えるため、ウェットゲルの表面および内部の水(または有機溶剤)を、20℃における表面張力が45mN/m以下の有機溶剤に置き換える。例えば、ジメチルスルホキシド(43.5mN/m)、シクロヘキサン(25.2mN/m)、イソプロピルアルコール(21mN/m)、ヘプタン(20.2mN/m)、ペンタン(15.5mN/m)等が挙げられる。溶媒交換工程に用いる有機溶剤は、20℃における表面張力が、45mN/m以下、40mN/m以下、35mN/m以下、30mN/m以下、25mN/m以下、20mN/m以下、15mN/m以下、であってよく、5mN/m以上、10mN/m以上、15mN/m以上、20mN/m以上であってよい。これらの中で、特に20℃における表面張力が20~40mN/mの範囲である脂肪族炭化水素を含む有機溶剤を用いることが好適である。有機溶剤は、単独または2種類以上混合して用いることができる。
【0053】
溶媒交換工程に使用される溶媒の量は、溶剤交換する温度や装置(容器)にもよるが、湿潤ゲルの容量に対し、2~100倍の量を使用することが望ましい。溶媒交換は1回に限らず、複数回行ってもよい。また、溶剤交換の方法としては、全置換、部分置換、循環置換のいずれの方法であってもよい。また、溶媒交換を複数回行う場合において、各回について、有機溶剤の種類や、温度、処理時間を独立に設定してよい。なお、溶媒交換工程で使用する材料、および/または材料の分解物は、製造したエアロゲルにおいて、不可避成分として混入しうる。
【0054】
溶媒交換工程は、その具体的な実施形態の一例として、以下のような手順で行うことができる。まず、ウェットゲルは、ウェットゲル体積の5倍量に相当するメタノール(MeOH)溶液中に浸漬して、60℃で8時間の条件下で溶媒交換を行う。MeOH溶液を用いた溶媒交換は、好適には複数回(例えば5回)繰り返す。MeOH溶液を用いた溶媒交換の目的は、ウェットゲル中の水分や原料の未反応成分および副反応生成分を取り除くことにある。次いで、MeOH溶液を用いて溶媒交換を行なった後のウェットゲルは、イソプロピルアルコール(IPA)とヘプタン(Hep)を1:4~1:3の体積比で混合した、ウェットゲル体積の5倍量に相当するIPA/Hep混合溶液中に浸漬して、60℃で8時間の条件下でさらに溶媒交換を行う。MeOHは、直接Hepと混合しないので、IPA/Hep混合溶液を用いて、ウェットゲル中のMeOHを取り除くことができる。その後、IPA/Hep混合溶液を用いて溶媒交換を行なったウェットゲルは、ウェットゲル体積の5倍量に相当するHep溶液に浸漬して、60℃で8時間の条件下でさらに溶媒交換を行う。Hep溶液を用いた溶媒交換は、好適には複数回(例えば2回)繰り返す。Hep溶液を用いた溶媒交換の目的は、ウェットゲル中の溶媒を、全て乾燥溶媒であるHep溶液に置き換えるためである。
【0055】
(I-4)乾燥工程
乾燥工程は、上述した溶媒交換したウェットゲルを乾燥させて、所定性状のエアロゲルを得る工程である。乾燥の手法としては特に制限されないが、超臨界乾燥法は、設備が大型化すると共に、製造コストが著しく高価であり、大量生産が困難という課題があることから、本発明の乾燥工程では、超臨界乾燥法は適用せず、大気圧乾燥法を用いることが好ましい。なお、大気圧とは、地表気圧である300hPa~1100hPaを指し、地表である限り、本発明を実施する標高に制限はないものである。言い換えれば、乾燥方法としては、300hPa程度まで減圧して乾燥させることも、本発明に含まれる。
【0056】
以上のことから、第1の実施形態のエアロゲルの製造方法は、上述した(I-1)~(I-4)の工程を経ることによって、本発明のエアロゲルは、割れ等の欠陥が少ないエアロゲルを低密度(0.15g/cm以下)で製造することができ、特許文献1に記載されたエアロゲルに比べて、優れた断熱特性を有するとともに、特許文献1では製造できなかった、400cm(例えば20cm角)以上の大面積の板状またはフィルム状をなすエアロゲルを製造することができる。
【0057】
(II)第2の実施形態(2段階固化法を用いたエアロゲルの製造方法)
第2の実施形態のエアロゲルの製造方法は、2段階固化法を用いたものであって、以下では、1段階固化法を用いた第1の実施形態のエアロゲルの製造方法の構成(工程)と相違する点についてだけ詳細に説明する。
【0058】
(II-1)ゾル生成工程
第2の実施形態のエアロゲルの製造方法のゾル生成工程は、第1の実施形態のエアロゲルの製造方法のゾル生成工程(I-1)と同様である。
【0059】
(II-2)ウェットゲル生成・成形工程
第2の実施形態のウェットゲル生成・成形工程は、生成させた液体ゾルに対し、塩基性水溶液(塩基性触媒)を添加してウェットゲルを生成させる。このため、ゾル生成工程(II-1)では、第1の実施形態のゾル生成工程(I-1)のように、ウェットゲル生成における加熱の際に、塩基性触媒を発生する化合物としての尿素等の窒素化合物の添加は必ずしも必要がない。ただし、尿素は、エアロゲルの微細空間構造の形成に寄与し、均質なゲル化を実現する効果を奏することから、かかる効果を発揮させる必要がある場合には、ゾル生成工程(II-1)においても尿素を添加してもよい。なお、尿素を添加した場合には、尿素をゲル化触媒(塩基性触媒)として発揮させないようにするため、ゾル生成工程(II-1)における溶液温度は、尿素の加水分解(約50℃以上でアンモニアと二酸化炭素を放出する反応が進行)を抑制する観点から、尿素の加水分解温度未満(例えば40℃未満)とすることが好ましい。ゾル生成工程(II-1)のその他の構成については、第1の実施形態のゾル生成工程(II-1)と同様である。ウェットゲル生成・成形工程は、具体的には、ゾル生成工程(II-1)において製造した液体ゾルに対し、塩基性水溶液(塩基性触媒)を添加する工程と、所望の形状を得るための型に液体ゾルを流し込む工程と、型の内部で流し込んだ液体ゾルを養生することにより、ウェットゲルを生成する工程とに大別することができる。
【0060】
塩基性水溶液は、塩基を一定濃度で水に溶解させたものである。塩基性水溶液に用いられる塩基は、無機塩基、有機塩基のどちらでも用いられる。無機塩基としては例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどが用いられる。有機塩基としては、例えばピリジン、トリエチルアミン、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウムなどが用いられる。好ましくは、テトラメチルアンモニウムが用いられる。
【0061】
塩基性水溶液の濃度は、0.001~10M(mol/L)の範囲であることが好ましく、0.01~5Mの範囲であることがより好ましく、より好適には0.1~1Mの範囲である。また、塩基性水溶液の添加量は、液体ゾルに対して、0.001~50質量%の範囲が好ましく、0.01~5質量%の範囲がより好ましく、より好適には0.1~1質量%の範囲である。添加量を0.001質量部未満とすると、ゾルからウェットゲルへ反応が十分に促進されない傾向があり、また、50質量部超では、形成されたシロキサン結合が切断され、ゲル化時間の遅延と共に不均質性がもたらされることがある。特に、テトラメチルアンモニウム水溶液は、触媒としての反応促進効果が高く、ゾルからウェットゲルへの反応を短時間、かつ欠陥を少なく形成できる点で好ましい。
【0062】
また、第2の実施形態のエアロゲルの製造方法は、生成させた液体ゾルに塩基性水溶液を添加した時点で、ゲル化(固化)反応が開始し、比較的速く反応が進行するため、第1の実施形態の製造方法に比べて、ゲル化に要する時間を短縮することができる。例えば、塩基性触媒の種類とエネルギーの種類とを最適化した場合、0.01時間~24時間と短い時間でゲル化を完了させることができる。
【0063】
また、ウェットゲル生成・成形工程(II-2)では、塩基性水溶液を添加した液体ゾルを撹拌して均質化することが好ましい。これによって、ゲル化反応が局所的に進行して不均質な反応になるのを防止することができる。そして、液体ゾルを撹拌して均質化を図った後に、液体ゾルを型に流し込んで養生することにより、ゲル化させればよい。液体ゾルの撹拌条件としては、例えば、室温(25℃)かつ大気圧雰囲気下の開放状態の容器内で、撹拌速度が10rpm以上、撹拌時間が0.01分(0.6秒)~1440分(24時間)とすればよい。
【0064】
ウェットゲル生成・成形工程(II-2)のその他の構成については、第1の実施形態のウェットゲル生成・成形工程(I-2)と同様である。
【0065】
(II-3)溶媒交換工程
第2の実施形態の溶媒交換工程は、第1の実施形態の溶媒交換工程(I-3)と同様である。
【0066】
(II-4)乾燥工程
第2の実施形態の乾燥工程は、第1の実施形態の乾燥工程(I-4)と同様である。
【0067】
以上のことから、第2の実施形態のエアロゲルの製造方法は、上述した(II-1)~(II-4)の工程を経ることによって、本発明のエアロゲルは、割れ等の欠陥が少ないエアロゲルを低密度(0.15g/cm以下)で製造することができ、特許文献1に記載されたエアロゲルに比べて、優れた断熱特性を有するとともに、特許文献1では製造できなかった、400cm(例えば20cm角)以上の大面積の板状またはフィルム状をなすエアロゲルを製造することができる。
【0068】
(その他の工程)
上記した製造方法は、板(または直方体)状またはフィルム状をなすエアロゲルの製造方法について説明してきたが、本発明はこれに限るものではなく、板状のエアロゲルから、所望の形状へ加工することを、オプション工程として含み得るものである。例えば、板(または直方体)から、矩形、円形の板またはフィルム、立方体、球体、円柱、角錐、円錐等の種々の形状に加工することができる。加工方法には、ワイヤーカットやウォータージェット等公知の機械加工を用いることができる。
【0069】
また、本発明のエアロゲルは、直方体のエアロゲルから、粒子状のエアロゲルに加工することを、オプション工程として含み得るものである。加工方法には、ジョークラッシャ、ロールクラッシャ、ボールミル等公知の粉砕機(クラッシャ)を用いることができる。このように粒子状に加工することによって、密度が0.15g/cm以下のエアロゲル粉末(powder)を製造することもできる。
【0070】
(III)第3の実施形態(エアロゲル)
次に、第3の実施形態のエアロゲルについて説明する。
本発明のエアロゲルは、固体29Si-NMR(DD-MAS法)により計測される、Q成分、T成分およびD成分に由来するシグナル面積積分値が、それぞれ0<Q<50、50≦T<100、0≦D<30であり、かつQ+T+D=100を満たし、密度が0.15g/cm以下である。
【0071】
(2-1)エアロゲルの内部構造
本発明のエアロゲルは、その構造を微視的に観察した場合、固形物が満たされたバルク部(骨格部)と、バルク部内に3次元ネットワーク状に貫通した気孔部とで主に構成されている。
【0072】
バルク部は、固形物がシロキサン結合による三次元ネットワークを形成した連続体から構成される。三次元ネットワークは、ネットワークの最小単位である格子を、立方体で近似したときの一辺の平均長さは、2nm以上25nm以下である。なお、一辺の平均長さは、2nm以上、5nm以上、7nm以上、10nm以上であり、かつ、25nm以下、20nm以下、15nm以下であることが好ましい。
【0073】
また、気孔部は、上記バルク部内を貫通するチューブ状をなし、気孔をチューブで近似し、チューブの内径を円で近似したときの平均内径は、5nm以上100nm以下である。なお、気孔の平均内径は、5nm以上、7nm以上、10nm以上、20nm以上、30nm以上、50nm以上であり、かつ、100nm以下、90nm以下、80nm以下、70nm以下であることが好ましい。ここで、上記チューブの内径は、空気を構成する元素分子の大気圧における平均自由行程(MFP)以下の寸法となっている。
また、エアロゲルの気孔率、すなわちエアロゲル全体の体積に占める気孔部の体積の割合は、70%以上である。気孔率の一例としては、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上であってもよい。
【0074】
なお、第3の実施形態のエアロゲルは、後述する物理特性を充足する限りにおいて、上記したバルク部、気孔部以外の構造を含んでもよい。一例として、上述した気孔部とは異なる空隙(ボイド)を含んでもよい。また、別の一例として、後述する物理特性を充足する限りにおいて、製造上不可避成分として残存する水、有機溶剤、界面活性剤、触媒およびこれらの分解物を含むことができる。さらに、他の一例として、後述する物理特性を充足する限りにおいて、製造上不可避成分として製造空間や製造装置から混入する塵埃を含むことができる。
【0075】
なお、第3の実施形態のエアロゲルは、上述した構成以外に、機能性付与、外観向上、装飾性付与などを意図して添加する成分を含むことができる。例えば、帯電防止剤、潤滑剤、無機顔料、有機顔料、無機染料、有機染料を含むことができる。
【0076】
(2-2)エアロゲルのサイズ
特許文献1に記載の製造方法では、作製可能な面積が大きくても数センチ角程度のサイズ(面積)を有するエアロゲルしか製造することができなかった。これに対し、第3の実施形態のエアロゲルは、400cm以上の大きな面積をもつ板状またはフィルム状に形成することが可能である。
【0077】
エアロゲルの形状やサイズに制限はないが、例えば、建築用の断熱材等のように大面積を必要とする用途に適用する場合には、400cm以上の大きな面積をもつ板状またはフィルム状に形成することが好ましい。エアロゲルは、例えば単一の一枚板(monolithic plate)として形成することができる。
【0078】
板状のエアロゲルのサイズの一例としては、長さ寸法が300mm、幅寸法が300mm、厚さ寸法が10mmにした場合が挙げられる。エアロゲルを板形状で作製する場合には、長さ寸法および幅寸法は、ともに100mm以上、好ましくは200mm以上、より好ましくは300mm以上であり、また、厚さ寸法は、1mm以上、100mm以下、好ましくは、1mm以上、10mm以下であることが好適である。
【0079】
また、エアロゲルは、単一のフィルムまたは薄膜として形成することもできる。フィルム状のエアロゲル一のサイズの一例としては、直径304.8mm(12インチ)、500μm厚の円形フィルム(コーティングフィルムを含む)が挙げられる。円形フィルムの好適なサイズとしては、直径が50.8mm(2インチ)以上、好ましくは101.60mm(4インチ)以上、より好ましくは203.20mm(8インチ)以上、更に好ましくは304.8mm(12インチ)以上であり、また、厚さ寸法は、好ましくは10~500μmの範囲である。
【0080】
(2-3)エアロゲルの化学構造
第3の実施形態のエアロゲルは、上述したようにシロキサン結合を含む固体であるが、固体核磁気共鳴分光法(固体NMR)装置を用いて、その結合状態を測定し、詳細に解析することができる。その結果、第3の実施形態のエアロゲルを、固体29Si-NMRにより計測して、Q成分、T成分およびD成分に由来するシグナル面積積分値を算出して、上述したエアロゲルを作製するための主原料となるシリコン化合物である、4官能シラン化合物、3官能シラン化合物および2官能シラン化合物のそれぞれの質量百分率であるQx、Tx、Dxとの関係の有無を検討したところ、Q成分、T成分およびD成分に由来するシグナル面積積分値の、Q成分、T成分およびD成分の合計シグナル面積積分値に対する質量百分率が、主原料となるシリコン化合物の混合した質量百分率であるQx、Tx、Dxと、高い相関関係が得られることがわかった。
【0081】
このため、第3の実施形態のエアロゲルは、固体29Si-NMRにより計測される、Q成分、T成分およびD成分に由来するそれぞれのシグナル面積積分値から算出される質量百分率Q、TおよびDを、主原料となるシリコン化合物の混合した質量百分率であるQx、Tx、Dxと同様の範囲にすること、すなわち、質量百分率Q、TおよびDを、それぞれ0<Q<50、50≦T<100、0≦D<30とし、かつQ+T+D=100を満たし、密度が0.15g/cm以下とすることによって、特に、400cm以上の大面積で、かつ、特許文献1に記載されたエアロゲルに比べて、断熱特性をさらに向上させることができる。
【0082】
図2は、第3の実施形態のエアロゲルの一例として、実施例1-27のエアロゲルのNMRデータを示したものである。第3の実施形態のエアロゲルを、固体NMR装置(日本電子株式会社製JNM-ECA400、プロトン共鳴周波数:390MHz、時間:750秒/回、積算回数:48回、総測定時間:10時間)を用いて測定した場合、測定スペクトルは、巨視的にみて複数のピークから構成される。具体的には、測定装置として固体29Si-NMRを使用し、マジック角回転法(DD)、および双極子デカップリング法(Magic Angle Spinning、Dipolar Dephasing法)を用いた測定において、信号強度のピークが、図2に示すように、それぞれ化学シフト量-110ppm付近、-65ppm付近、-20ppm付近に観測された場合、それぞれの信号強度のピークは、4個のシロキサン結合を有する結合状態(本明細書において、4官能成分またはQ成分という。)、3個のシロキサン結合を有する結合状態(3官能成分またはT成分という。)、2個のシロキサン結合を有する結合状態(2官能成分またはD成分という。)が存在していることを表している。そして、Q成分、T成分およびD成分のそれぞれの信号強度のピークについて、ピークの裾野部分を含んで積分してシグナル面積積分値を算出することにより、Q成分、T成分およびD成分のぞれぞれの相対的な割合(質量百分率)を定量化することができる。
【0083】
本明細書において、Q成分のシグナル面積積分値をAq、T成分のシグナル面積積分値をAt、D成分のシグナル面積積分値をAdとするとき、各成分のNMRで測定される質量百分率(Q、T、D)を、以下のように定義する。
Q(%): 100Aq/(Aq+At+Ad)
T(%): 100At/(Aq+At+Ad)
D(%): 100Ad/(Aq+At+Ad)
Q(%)+T(%)+(D%)=100
【0084】
なお、上記式で算出されるQ(%)、T(%)およびD(%)は、算出質量百分率ということがある。また、本明細書において、Q(%):T(%):D(%)を、算出質量構成比ということがある。
【0085】
表1は、実施例1-6および1-27について、固体29Si-NMRにより計測して算出した質量百分率であるQ(mass%)、T(mass%)およびD(mass%)を示す。また、比較のため、ゾル形成工程で水溶液に混合する主原料としての4官能シラン化合物、3官能シラン化合物および2官能シラン化合物)の質量百分率であるQx(mass%)、Tx(mass%)およびDx(mass%)についても表1に併記した。
【0086】
【表1】
【0087】
表1に示す結果から、NMRにより計測して算出したQ(mass%)、T(mass%)およびD(mass%)は、主原料のQx(mass%)、Tx(mass%)およびDx(mass%)と同様な質量百分率の傾向を示し、相関性が高いことがわかった。なお、今回行なったNMRの定量分析では、DD-MAS法を用いたが、感度の低い測定方法であったことから、得られるデータにはばらつきが認められた。
【0088】
以上のことから、第3の実施形態のエアロゲルは、固体29Si-NMRにより計測される、Q成分、T成分およびD成分に由来するシグナル面積積分値から算出される質量百分率Q、TおよびDが、それぞれ0<Q<50、50≦T<100、0≦D<30であり、かつQ+T+D=100を満たす。そして、第3の実施形態のエアロゲルは、質量百分率Q、TおよびDが上記の範囲を満足することによって、割れ等の欠陥が少ないエアロゲルを低密度(0.15g/cm以下)で製造することが可能になり、その結果、特に、400cm以上の大面積で、かつ、特許文献1に記載されたエアロゲルに比べて、断熱特性をさらに向上させることができる。
【0089】
また、固体29Si-NMRにより計測される、Q成分、T成分およびD成分に由来するシグナル面積積分値から算出される質量百分率Q、TおよびDが、主原料のQx(%)、Tx(%)およびDx(%)と同様な質量百分率の傾向を示すことから、三角図組成座標(Q、T、D)上にプロットするとき、A´点(5、95、0)と、B´点(40、60、0)と、C´点(40、55、5)と、D´点(30、55、15)と、E´点(15、70、15)と、F´点(5、90、5)と、A´点(5、95、0)とをこの順に結ぶ6本の直線で囲まれた範囲内にあることが好ましい。質量百分率Q、TおよびDを上記範囲内にすることによって、全可視光域での透過率を高くできること、より具体的には、400~800nmの波長域における透過率の最小値が40%以上、さらには、500~800nmの波長域における透過率の最小値が50%以上を達成することができる。
【0090】
図3は、本発明のエアロゲル(実施例1-27)の透過率スペクトルデータを示す図である。図3に示す結果から、本発明のエアロゲル(実施例1-27)は、400~800nmの波長域における透過率の最小値が40%以上、さらには、500~800nmの波長域における透過率の最小値が50%以上であることがわかる。
【0091】
(2-4)エアロゲルの密度
本発明のエアロゲルは、密度が0.15g/cm以下と低い。ここで密度は、水銀圧入法により求められるものである。エアロゲルは、密度が低いほど熱伝導率が小さくなり、それに伴って、断熱性が向上する。本発明のエアロゲルは、密度が0.15g/cm以下であるため、熱伝導率が0.015W/m・K以下と小さく、特許文献1のエアロゲルよりも優れた断熱性を有する。
【0092】
(2-5)エアロゲルの可視光透過率
本発明のエアロゲルは、400~800nmの波長域における透過率の最小値が40%以上であることが好ましく、加えて、500~800nmの波長域における透過率の最小値が50%以上であることが、可視光を透過する特性を必要とする部材等に使用することができる点でより好適である。
【0093】
ここで、光透過率の測定は、紫外/可視分光光度計(日本分光株式会社製のV-530)を用い手行なった。測光モードは%T、レスポンスはFast、バンド幅は2.0nm、走査速度は2000nm/min、測定波長範囲は1000nm~200nm、データ取込間隔は2.0nmとした。
【0094】
光透過率は、波長400~800nm(可視光域)のデータを採用し、エアロゲルの厚さが10mmのときの値となるよう補正した。厚さ補正後の透過率TC(%)は、Lambertの式を変形して次式のように示される。
C=(T/100)(10/d)×100
ここで、Tは補正前の透過率(%)、dは測定サンプルの厚さを示す。
【0095】
(2-6)エアロゲルの用途
本発明のエアロゲルは、例えば、断熱窓、断熱建材、チェレンコフ光検出素子、宇宙塵捕捉材、衝撃吸収剤、撥水材、触媒担体、核廃棄物のガラス固化母材などに用いることができる。特に着色がなく、可視光透過率が高いエアロゲルは、例えば断熱ガラスの代替品として使用することができ、ガラスよりも軽量でかつ断熱性に優れた断熱窓に適用することが可能である。
【0096】
尚、上述したところは、この発明の実施形態の例を示したにすぎず、請求の範囲において種々の変更を加えることができる。
【実施例
【0097】
以下、本発明の実施例について、説明する。
・サンプル番号1-1~1-53(1段階固化法)
界面活性剤として、非イオン性界面活性剤(BASF製:プルロニックPE9400)3.28gを、0.005mol/L酢酸水溶液28.96gに溶解させた後、さらに加水分解性化合物として尿素(ナカライテスク製)4.00gを加えて溶解させた。この水溶液に、主原料であるシリコン化合物10.00gを添加した後、室温で60分攪拌混合し、シリコン化合物の加水分解反応を行なわせ、ゾルを生成させた。シリコン化合物は、4官能シラン化合物であるテトラメトキシシラン(多摩化学工業株式会社製の正珪酸メチル、以下「TMOS」と略記する場合がある。)、3官能シラン化合物であるメチルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング株式会社製のDOWSIL Z-6366 Silane、以下「MTMS」と略記する場合がある。)および2官能シラン化合物であるジメチルジメトキシシラン(東京化成工業株式会社製,製品コード:D1052、以下「DMDMS」と略記する場合がある。)から選択し、表2に示す、4官能シラン化合物の質量百分率Qx、3官能シラン化合物の質量百分率Tx、および2官能シラン化合物の質量百分率Dxで添加した。なお、TMOSおよびMTMSは、いずれも使用する前に、減圧蒸留で精製した。その後、生成させたゾルを、密閉容器内にて60℃で静置し、ゲル化させた。その後、続けて96時間静置することにより、ウェットゲルを熟成させた。次いで、密閉容器よりウェットゲルを取り出し、取り出したウェットゲルは、ウェットゲル体積の5倍量に相当するメタノール(MeOH)溶液中に浸漬して、60℃で8時間の条件下で溶媒交換を繰返し5回行なった後に、イソプロピルアルコール(IPA)とヘプタン(Hep)を1:4~1:3の体積比で混合した、ウェットゲル体積の5倍量に相当するIPA/Hep混合溶液中に浸漬して、60℃で8時間の条件下でさらに溶媒交換を行い、その後、ウェットゲル体積の5倍量に相当するHep溶液に浸漬して、60℃で8時間の条件下でさらに溶媒交換を繰返し2回行った。なお、溶媒交換に使用したメタノールとイソプロパノールは、いずれもナカライテスク製のものを用いた。
【0098】
以下の方法により、ウェットゲルを大気圧下で乾燥(大気圧乾燥)させた。
【0099】
低表面張力溶媒として、ヘプタン(ナカライテスク製)を用い、ウェットゲル中の溶媒を、低表面張力溶媒と交換(置換)した。
【0100】
ウェットゲルが十分に浸漬される量の低表面張力溶媒に、ウェットゲルを入れ、沸点の55℃付近まで加熱し、8時間還流を行った。還流後、室温まで冷却した後に容器中の低表面張力溶媒を取り除き、新鮮な低表面張力溶媒に入れ替え還流をさらに行なった。この作業を3回以上繰り返し、低表面張力溶媒への溶媒交換を終了した。
【0101】
次に、ウェットゲル中の溶媒を低表面張力溶媒に交換(置換)した後、蒸発速度を制御できる容器(乾燥機)に入れ、乾燥を開始した。ゲル重量が一定になった時点で乾燥を終了し、板状のエアロゲルを作製した。
【0102】
・サンプル番号2-1~2-53(2段階固化法)
界面活性剤として、非イオン性界面活性剤(BASF製:プルロニックPE9400)3.28gを、0.005mol/L酢酸水溶液28.96gに溶解させた後、さらに加水分解性化合物として尿素(ナカライテスク製)4.00gを加えて溶解させた。この水溶液に、主原料であるシリコン化合物10.00gを添加した後、室温で60分攪拌混合し、シリコン化合物の加水分解反応を行なわせ、ゾルを生成させた。シリコン化合物は、4官能シラン化合物であるテトラメトキシシラン(多摩化学工業株式会社製の正珪酸メチル、以下「TMOS」と略記する場合がある。)、3官能シラン化合物であるメチルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング株式会社製のDOWSIL Z-6366 Silane、以下「MTMS」と略記する場合がある。)および2官能シラン化合物であるジメチルジメトキシシラン(東京化成工業株式会社製,製品コード:D1052、以下「DMDMS」と略記する場合がある。)から選択し、表2に示す、4官能シラン化合物の質量百分率Qx、3官能シラン化合物の質量百分率Tx、および2官能シラン化合物の質量百分率Dxで添加した。なお、TMOSおよびMTMSは、いずれも使用する前に、減圧蒸留で精製した。次いで、生成させたゾルを、室温(25℃)かつ大気圧雰囲気下の開放状態の容器内にて塩基性水溶液を添加して攪拌し、ゲル化させた。その後、続けて96時間静置することにより、ウェットゲルを熟成させた。次いで、密閉容器よりウェットゲルを取り出し、取り出したウェットゲルは、ウェットゲル体積の5倍量に相当するメタノール(MeOH)溶液中に浸漬して、60℃で8時間の条件下で溶媒交換を繰返し5回行なった後に、イソプロピルアルコール(IPA)とヘプタン(Hep)を1:4~1:3の体積比で混合した、ウェットゲル体積の5倍量に相当するIPA/Hep混合溶液中に浸漬して、60℃で8時間の条件下でさらに溶媒交換を行い、その後、ウェットゲル体積の5倍量に相当するHep溶液に浸漬して、60℃で8時間の条件下でさらに溶媒交換を繰返し2回行った。なお、溶媒交換に使用したメタノールとイソプロパノールは、いずれもナカライテスク製のものを用いた。その後、上記実施例1-1と同様の方法で行い、板状のエアロゲルを作製した。
【0103】
表2および表3に、主原料のシリコン化合物に使用した、4官能シラン化合物、3官能シラン化合物および2官能シラン化合物の質量百分率Qx、TxおよびDx(mass%)、エアロゲルの密度(g/cm)、可視光域(400~800nm)での光透過率の最小値(%)およびその評価、500~800nmでの光透過率の最小値が50%以上であるかの評価、および、エアロゲルの作製可能サイズ(面積)の評価について示す。
【0104】
(評価方法)
1.エアロゲルの密度の測定方法
エアロゲルの密度は、直方体に整形した後、各辺をノギスで測長して求めた体積と、天秤で秤量した質量から算出した。エアロゲルの密度の算出結果を表2および表3に示す。
【0105】
2.光透過率の測定方法
光透過率の測定は、紫外/可視分光光度計(日本分光株式会社製のV-530)を用い手行なった。測光モードは%T、レスポンスはFast、バンド幅は2.0nm、走査速度は2000nm/min、測定波長範囲は1000nm~200nm、データ取込間隔は2.0nmとした。光透過率は、波長400~800nm(可視光域)のデータを採用し、エアロゲルの厚さが10mmのときの値となるよう補正した。厚さ補正後の透過率TC(%)は、Lambertの式を変形して次式のように示される。
C=(T/100)(10/d)×100
ここで、Tは補正前の透過率(%)、dは測定サンプルの厚さを示す。
【0106】
表2および表3には、波長400~800nm(可視光域)で測定した光透過率のうち、最小値の光透過率を示し、この最小値の光透過率が40%以上であるときを「○」、40%未満である場合を「×」として評価した。加えて、波長500~800nmで測定した光透過率のうち、最小値の光透過率が50%以上である場合を「○」、50%未満である場合を「×」として評価した。光透過率の測定結果を表2および表3に示す。
【0107】
3.エアロゲルの作製可能サイズ(面積)の評価
エアロゲルの作製可能サイズ(面積)は、10cm角(100cm)、20cm角(400cm)および30cm角(900cm)のサイズを有する密閉容器(型)に、生成したゾルを流し込み、上述した製造方法でエアロゲルを作製し、作製したエアロゲルは、密度が0.15g/cm以下で、かつ、割れ等の欠陥がなく、形状を保持できるか否かを観察し、割れ等の欠陥がなく、形状を保持できた場合を「○」、割れ等の欠陥がある場合を「×」として評価した。エアロゲルの作製可能サイズの評価結果を表2および表3に示す。
【0108】
【表2】
【0109】
【表3】
【0110】
表2および表3に示す結果から、全ての実施例は、エアロゲルの密度が1.5g/cm以下であり、また、エアロゲルの作製可能サイズ(面積)が20cm角(400cm)以上であることがわかる。
図1
図2
図3