(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用負極活物質
(51)【国際特許分類】
H01M 4/58 20100101AFI20240717BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240717BHJP
C01B 32/05 20170101ALI20240717BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M4/36 A
C01B32/05
(21)【出願番号】P 2020145209
(22)【出願日】2020-08-31
【審査請求日】2023-07-10
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度 国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「特殊機能高分子バインダー/添加剤を用いたリチウムイオン2次電池用高性能電極系の創出」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304024430
【氏名又は名称】国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】100141472
【氏名又は名称】赤松 善弘
(72)【発明者】
【氏名】松見 紀佳
(72)【発明者】
【氏名】バダム ラージャシェーカル
(72)【発明者】
【氏名】ラビ ナンダン
(72)【発明者】
【氏名】東嶺 孝一
(72)【発明者】
【氏名】高森 紀行
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-145212(JP,A)
【文献】特開2017-069165(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0119339(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第109786666(CN,A)
【文献】特開2021-187733(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/58
H01M 4/36
C01B 32/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
β-シリコンカーバイドおよび窒素ドープカーボンを含有してなり、β-シリコンカーバイドのドメインが窒素ドープカーボンのマトリックスに分散して存在しているβ-シリコンカーバイド含有窒素ドープカーボン粒子。
【請求項2】
請求項1に記載のβ-シリコンカーバイド含有窒素ドープカーボン粒子を製造する方法であって、ヒドロキシフェニルアミン化合物とシリコンナノ粒子とを混合した後、得られた混合物を窒素ガス含有雰囲気中で550~1200℃の温度で焼成することを特徴とするβ-シリコンカーバイド含有窒素ドープカーボン粒子の製造方法。
【請求項3】
前記混合物をメラミン化合物の存在下で焼成する請求項2に記載のβ-シリコンカーバイド含有窒素ドープカーボン粒子の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載のβ-シリコンカーバイド含有窒素ドープカーボン粒子を含有してなるリチウムイオン二次電池用負極活物質。
【請求項5】
正極と負極と正極および負極の間に配置されたセパレータとを有するリチウムイオン二次電池であって、前記負極が請求項4に記載のリチウムイオン二次電池用負極活物質を含む負極であるリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用負極活物質に関する。さらに詳しくは、本発明は、リチウムイオン二次電池用負極活物質、前記リチウムイオン二次電池用負極活物質に好適に用いることができるβ-シリコンカーバイド含有窒素ドープカーボン粒子およびその製造方法、ならびに前記リチウムイオン二次電池用負極活物質を含む負極を有するリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池の負極活物質にはグラファイトが用いられている。しかし、グラファイトにリチウムイオンを充填したときの理論容量が372mAh/gであることから、近年、理論容量がグラファイトよりもはるかに高いシリコンを負極活物質に用いることが検討されている。
【0003】
しかし、シリコン粒子にリチウムイオンを充填したとき、当該シリコン粒子の体積が3倍程度に膨張するため、リチウムイオンの充填および放出を繰り返しているうちにシリコン粒子が破壊され、破壊された微細シリコン粒子が電気的に孤立するとともに、シリコン粒子の破壊面に新たな被覆層が形成されることから二次電池の充放電サイクル特性が低下するものと考えられている(例えば、特許文献1の段落[0003]参照)。
【0004】
そこで、シリコン粒子の膨張収縮によるシリコン粒子の電気的孤立が防止された負極活物質として、炭素基材の表面に鱗片状シリコン粒子が付着し、前記鱗片状シリコンの一部が前記炭素基材に突き刺さっているリチウムイオン二次電池用負極活物質が提案されている(例えば、特許文献1の請求項1参照)。
【0005】
前記負極活物質は、シリコン粒子の膨張収縮によるシリコン粒子の電気的孤立が防止されているとされているが、初期放電容量が800mAh/g程度である(例えば、特許文献1の
図12参照)。
【0006】
したがって、近年、充放電に対する耐久性に優れ、放電容量が高いリチウムイオン二次電池用負極活物質の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、充放電に対する耐久性に優れ、放電容量が高いリチウムイオン二次電池用負極活物質、前記リチウムイオン二次電池用負極活物質に好適に用いることができるβ-シリコンカーバイド含有窒素ドープカーボン粒子およびその製造方法、ならびに前記リチウムイオン二次電池用負極活物質を含む負極を有するリチウムイオン二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
(1) β-シリコンカーバイドおよび窒素ドープカーボンを含有してなり、β-シリコンカーバイドのドメインが窒素ドープカーボンのマトリックスに分散して存在しているβ-シリコンカーバイド含有窒素ドープカーボン粒子、
(2) 前記(1)に記載のβ-シリコンカーバイド含有窒素ドープカーボン粒子を製造する方法であって、ヒドロキシフェニルアミン化合物とシリコンナノ粒子とを混合した後、得られた混合物を窒素ガス含有雰囲気中で550~1200℃の温度で焼成することを特徴とするβ-シリコンカーバイド含有窒素ドープカーボン粒子の製造方法、
(3) 前記混合物をメラミン化合物の存在下で焼成する前記(2)に記載のβ-シリコンカーバイド含有窒素ドープカーボン粒子の製造方法、
(4) 前記(1)に記載のβ-シリコンカーバイド含有窒素ドープカーボン粒子を含有してなるリチウムイオン二次電池用負極活物質、および
(5) 正極と、負極と、正極と負極との間に配置されたセパレータとを有するリチウムイオン二次電池であって、前記負極が前記(4)に記載のリチウムイオン二次電池用負極活物質を含む負極であるリチウムイオン二次電池
に関する。
【0010】
なお、本発明において、窒素ドープカーボンは、窒素がドープ(含有)されているカーボン(炭素)を意味する。β-シリコンカーバイド含有窒素ドープカーボン粒子は、β-シリコンカーバイドのドメインが窒素ドープカーボンのマトリックスに分散して存在している粒子を意味する。ナノ粒子は、粒子径がナノメートルオーダーである粒子を意味する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、充放電に対する耐久性に優れ、放電容量が高いリチウムイオン二次電池用負極活物質、前記リチウムイオン二次電池用負極活物質に好適に用いることができるβ-シリコンカーバイド含有窒素ドープカーボン粒子およびその製造方法、ならびに前記リチウムイオン二次電池用負極活物質を含む負極を有するリチウムイオン二次電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】(a)~(c)は、それぞれ順にシリコンウェハ、実施例1~2で得られた負極活物質Aおよび負極活物質Bのラマンスペクトルを示すグラフである。
【
図2】(a)~(d)は、それぞれ拡大倍率を変更して撮影された負極活物質Bの明視野透過型電子顕微鏡写真である。
【
図3】(a)は負極活物質BのHAADF-STEM像、(b)は
図3(a)に記載の枠線1で囲まれた部分の負極活物質BのFT(フーリエ変換)画像、(c)は
図3(a)に記載の枠線1で囲まれた部分の負極活物質BのIFT(逆フーリエ変換)画像、(d)は
図3(c)に示される画像から求められる面間隔を示す図、(e)は
図3(a)に記載の枠線2で囲まれた部分の負極活物質BのFT(フーリエ変換)画像、(f)は
図3(a)に記載の枠線2で囲まれた部分の負極活物質BのIFT(逆フーリエ変換)画像、(g)は
図3(a)に記載の枠線3で囲まれた部分の負極活物質BのFT(フーリエ変換)画像、(h)は
図3(a)に記載の枠線3で囲まれた部分の負極活物質BのIFT(逆フーリエ変換)画像である。
【
図4】(a)および(b)は、それぞれ負極活物質Aの明視野透過型電子顕微鏡写真であり、(c)および(d)は、それぞれ拡大倍率を変更して撮影された負極活物質Aの透過型電子顕微鏡写真である。
【
図5】(a)は負極活物質AのHRTEM画像、(b)は
図5(a)に記載の枠線1で囲まれた部分の負極活物質AのFT(フーリエ変換)画像、(c)は
図5(a)に記載の枠線1で囲まれた部分の負極活物質AのIFT(逆フーリエ変画像、(d)は
図5(a)に記載の枠線2で囲まれた部分の負極活物質AのFT(フーリエ変換)画像、(e)は
図5(a)に記載の枠線2で囲まれた部分の負極活物質AのIFT(逆フーリエ変換)画像、(f)は(a)に記載の枠線3で囲まれた部分の負極活物質AのFT(フーリエ変換)画像、(g)は(a)に記載の枠線3で囲まれた部分の負極活物質AのIFT(逆フーリエ変換)画像、(h)は
図5(a)に記載の枠線4で囲まれた部分の負極活物質AのFT(フーリエ変換)画像、(i)は
図5(a)に記載の枠線4で囲まれた部分の負極活物質AのIFT(逆フーリエ変換)画像、(j)~(m)は、それぞれ、
図5(c)、(e)、(g)および(i)におけるラインプロファイルを示す図である。
【
図6】(a)は負極活物質Aおよび負極活物質BのXPSスペクトル、(b)は負極活物質BのSi2pにおけるXPSスペクトル、(c)は負極活物質BのC1sにおけるXPSスペクトル、(d)は負極活物質BのN1sにおけるXPSスペクトル、(e)は負極活物質BのO1sにおけるXPSスペクトルである。
【
図7】(a)は負極活物質AのSi2pにおけるXPSスペクトル、(b)は負極活物質AのC1sにおけるXPSスペクトル、(c)は負極活物質AのN1sにおけるXPSスペクトル、(d)は負極活物質AのO1sにおけるXPSスペクトルである。
【
図8】(a)は50~850℃における負極活物質A、負極活物質Bおよびシリコンナノ粒子(平均粒子径:30nm)の熱重量分析の結果を示すグラフ、(b)は
図6(a)に示される画像から推測される負極活物質A、負極活物質Bおよびシリコンナノ粒子(平均粒子径:30nm)におけるシリコン含量を示すグラフである。
【
図9】(a)および(b)は、それぞれ順に負極活物質Bおよび負極活物質Aのサイクリックボルタンメトリーの測定結果を示すグラフ、(c)および(d)は、それぞれ順に負極活物質Bおよび負極活物質Aのインピーダンスのスペクトルを示すグラフである。
【
図10】(a)はサイクリックボルタンメトリーにおいて充電/放電電流を段階的に変化させたときの負極活物質Aおよび負極活物質Bの充放電特性を示すグラフ、(b)はサイクリックボルタンメトリーにおいて充電/放電電流が50mA/gであるときの負極活物質Aおよび負極活物質Bの充放電特性を示すグラフ、(c)はサイクリックボルタンメトリーにおいて充電/放電電流が100mA/gであるときの負極活物質Aの充放電特性を示すグラフ、(d)はサイクリックボルタンメトリーにおいて充電/放電電流が100mA/gであるときのシリコンナノ粒子(平均粒子径:30nm)およびシリコンナノ粒子(平均粒子径:100nm)の充放電特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に本発明を詳細に説明するが、本発明は、以下に記載の実施態様のみに限定されるものではなく、本明細書に記載されている技術的思想の範囲内で当業者が種々の変更および修正をすることができる。
【0014】
〔β-シリコンカーバイド含有窒素ドープカーボン粒子〕
本発明のβ-シリコンカーバイド含有窒素ドープカーボン粒子は、前記したように、β-シリコンカーバイドおよび窒素ドープカーボンを含有し、β-シリコンカーバイドのドメインが窒素ドープカーボンのマトリックスに分散して存在している構造を有する。
【0015】
本発明のβ-シリコンカーバイド含有窒素ドープカーボン粒子は、リチウムイオン二次電池の負極活物質に有用な物質である。β-シリコンカーバイド含有窒素ドープカーボン粒子をリチウムイオン二次電池の負極活物質に用いることにより、リチウムイオン二次電池の放電容量を高めることができるのみならず、リチウムイオン二次電池の充放電に対する耐久性を向上させることができる。
【0016】
β-シリコンカーバイド含有窒素ドープカーボン粒子は、例えば、シリコンナノ粒子とヒドロキシフェニルアミン化合物とを混合した後、得られた混合物を窒素ガス含有雰囲気中で550~1200℃の温度で焼成することによって調製することができる。
【0017】
シリコンナノ粒子は、商業的に容易に入手することができるが、以下のようにして調製することができる。
【0018】
シリコンナノ粒子の原料として、アルコキシシラン化合物を用いることができる。アルコキシシラン化合物としては、例えば、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3-アミノプロピルジメチルエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)アミノメチルトリメトキシシランなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのアルコキシシラン化合物は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。アルコキシシラン化合物は、水との混合物として用いることができる。
【0019】
アルコキシシラン化合物は、あらかじめ還元させておくことが好ましい。アルコキシシラン化合物の還元は、例えば、アルコキシシラン化合物と水との混合物に還元剤を添加することによって行なうことができる。アルコキシシラン化合物を還元させる際の温度は、特に限定されないが、通常、5~80℃程度である。アルコキシシラン化合物を還元させる際の雰囲気は、特に限定されず、大気であってもよく、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガスであってもよい。
【0020】
還元剤としては、例えば、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カリウムなどのアスコルビン酸およびその塩、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、アルデヒド亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウムなどの亜硫酸塩、ピロ亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸カリウム、ピロ亜硫酸水素ナトリウム、ピロ亜硫酸水素カリウムなどのピロ亜硫酸塩などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの還元剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0021】
還元剤の量は、当該還元剤の種類によって異なるので一概には決定することができない。還元剤は、通常、アルコキシシラン化合物を中和させるのに必要な量で使用することが好ましい。
【0022】
アルコキシシラン化合物と水との混合物に還元剤を添加する際の温度は、特に限定されないが、通常、5~80℃程度である。アルコキシシラン化合物と水との混合物に還元剤を添加した後、均一な粒子径を有するシリコンナノ粒子を得る観点から、当該混合物を均一な組成となるまで攪拌することが好ましい。
【0023】
以上のようにしてアルコキシシラン化合物を還元剤で還元させることにより、シリコンナノ粒子の水分散体を得ることができる。
【0024】
前記で得られたシリコンナノ粒子の平均粒子径は、通常、3~10nmであることが好ましい。なお、シリコンナノ粒子の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡で撮影された画像から任意に100個のシリコンナノ粒子を選択し、各シリコンナノ粒子の縦軸と横軸との平均値を求め、100個のシリコンナノ粒子について当該平均値を合計し、その合計値を100で除した値を意味する。
【0025】
次に、シリコンナノ粒子とヒドロキシフェニルアミン化合物とを混合する。シリコンナノ粒子とヒドロキシフェニルアミン化合物との混合は、シリコンナノ粒子とヒドロキシフェニルアミン化合物とを均一に分散させる観点から、シリコンナノ粒子の水分散体にヒドロキシフェニルアミン化合物を添加することによって行なうことが好ましい。以下においては、シリコンナノ粒子の水分散体を用いた場合について説明する。
【0026】
シリコンナノ粒子の水分散体におけるシリコンナノ粒子の含有率は、特に限定されないが、シリコンナノ粒子の分散安定性を向上させるとともに、β-シリコンカーバイド含有窒素ドープカーボン粒子を効率よく製造する観点から、3~30質量%であることが好ましく、5~25質量%であることがより好ましい。
【0027】
ヒドロキシフェニルアミン化合物としては、例えば、式(I):
【0028】
【0029】
(式中、R1は水素原子、水酸基または炭素数1~4のアルコキシ基、R2は水素原子または水酸基、R3は水素原子または炭素数1~4のアルキル基を示す)
で表わされるヒドロキシフェニルアミン化合物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0030】
式(I)において、R1は、水素原子、水酸基または炭素数1~4のアルコキシ基であるが、リチウムイオン二次電池の充放電に対する耐久性を向上させ、リチウムイオン二次電池の放電容量を高める観点から、水素原子および水酸基が好ましく、水酸基がより好ましい。R2は、水素原子または水酸基である。R3は、水素原子または炭素数1~4のアルキル基であるが、リチウムイオン二次電池の充放電に対する耐久性を向上させ、リチウムイオン二次電池の放電容量を高める観点から、水素原子が好ましい。前記炭素数1~4のアルコキシ基の具体例として、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基およびブトキシ基が挙げられる。
【0031】
ヒドロキシフェニルアミン化合物の代表例としては、ヒドロキシチラミン(ドーパミン)などが挙げられる。本発明において、ヒドロキシフェニルアミン化合物は、ヒドロキシフェニルアミン化合物のみならず、当該化合物の塩酸塩などの塩を含む概念のものである。また、本発明においては、ヒドロキシフェニルアミン化合物の代わりにカテコール、ジエチレントリアミンなどを用いることができる。
【0032】
シリコンナノ粒子1gあたりのヒドロキシフェニルアミン化合物の量は、リチウムイオン二次電池の充放電に対する耐久性を向上させ、リチウムイオン二次電池の放電容量を高める観点から、1~10g程度であることが好ましい。
【0033】
シリコンナノ粒子の水分散体にヒドロキシフェニルアミン化合物を添加した後、当該ヒドロキシフェニルアミン化合物を効率よく反応させる観点から、pHが7.5~9である緩衝液を当該シリコンナノ粒子の水分散体に添加することが好ましい。当該緩衝液としては、例えば、トリスヒドロキシメチルアミノメタン(TRIS)緩衝液、ホウ酸と塩化カリウムと水酸化ナトリウムの水溶液などが挙げられる。緩衝液の量は、その濃度によって異なるので一概には決定することができないが、前記シリコンナノ粒子の水分散体100mLあたり、通常、10~30mL程度であることが好ましい。
【0034】
ヒドロキシフェニルアミン化合物が添加されたシリコンナノ粒子の水分散体は、ヒドロキシフェニルアミン化合物をシリコンナノ粒子に十分に付着させる観点から、5~80℃の温度で1~72時間程度の時間保持することが好ましい。ヒドロキシフェニルアミン化合物が添加されたシリコンナノ粒子の水分散体を保持する際の雰囲気は、大気であってもよく、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガスであってもよい。
【0035】
以上のようにしてヒドロキシフェニルアミン化合物が付着したシリコンナノ粒子(以下、「HPA処理シリコンナノ粒子」という)が得られる。なお、シリコンナノ粒子に付着したヒドロキシフェニルアミン化合物は、その全部または一部が脱水縮合しているものと考えられる。
【0036】
HPA処理シリコンナノ粒子には、得られる窒素ドープカーボン粒子における窒素の含有率を高める観点から、シリコンナノ粒子への窒素供給源として窒素原子含有化合物を添加することが好ましい。HPA処理シリコンナノ粒子に窒素原子含有化合物を添加する方法としては、例えば、HPA処理シリコンナノ粒子の水分散体に窒素原子含有化合物を添加する方法などが挙げられる。
【0037】
窒素原子含有化合物としては、例えば、メラミン、メチル化メラミン、エチル化メラミン、n-プロピル化メラミン、イソプロピル化メラミン、メチルエーテル化メラミン、エチルエーテル化メラミン、n-プロピルエーテル化メラミン、イソプロピルエーテル化メラミンなどのメラミン化合物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの窒素原子含有化合物は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。窒素原子含有化合物のなかでは、メラミン化合物が好ましく、メラミンがより好ましい。
【0038】
HPA処理シリコンナノ粒子100gあたりの窒素原子含有化合物の量は、特に限定されないが、通常、好ましくは0~50g、より好ましくは5~30gである。
【0039】
HPA処理シリコンナノ粒子の水分散体に窒素原子含有化合物を添加する際の温度は、特に限定されないが、5~80℃であることが好ましく、室温であることがより好ましい。HPA処理シリコンナノ粒子の水分散体に窒素原子含有化合物を添加した後、均一な組成となるまで当該水分散体を攪拌することが好ましい。
【0040】
次に、HPA処理シリコンナノ粒子の水分散体からHPA処理シリコンナノ粒子を分離する。
【0041】
HPA処理シリコンナノ粒子の水分散体からHPA処理シリコンナノ粒子を分離する方法としては、例えば、遠心分離法、フィルタープレスなどを用いて濾過することによって分離する方法などが挙げられるが、本発明は、かかる方法によって限定されるものではない。
【0042】
回収されたHPA処理シリコンナノ粒子には、水分が含まれている。したがって、必要により、回収されたHPA処理シリコンナノ粒子を減圧乾燥、温風乾燥などにより、乾燥させてもよい。また、HPA処理シリコンナノ粒子が凝集している場合には、必要により、当該HPA処理シリコンナノ粒子をピンミル、ハンマーミルなどを用いて解砕してもよい。
【0043】
次に、HPA処理シリコンナノ粒子を焼成することにより、β-シリコンカーバイド含有窒素ドープカーボン粒子が得られる。
【0044】
一般に、ヒドロキシフェニルアミン化合物が付着しているシリコンナノ粒子を焼成した場合には、焼成された被膜がシリコンナノ粒子の焼成物の表面に形成されるものと考えられる。これに対して、本発明においては、HPA処理シリコンナノ粒子を焼成したときには、焼成されたシリコンナノ粒子の表面に、焼成された被膜が形成されるのではなく、β-シリコンカーバイドのドメインが窒素ドープカーボンのマトリックスに分散して存在しているβ-シリコンカーバイド含有窒素ドープカーボン粒子が得られる。
【0045】
HPA処理シリコンナノ粒子を焼成する際には、例えば、電気炉などを用いることができる。HPA処理シリコンナノ粒子を焼成する際の雰囲気は、β-シリコンカーバイド含有窒素ドープカーボン粒子を効率よく製造する観点から、窒素ガス含有雰囲気である。窒素ガス雰囲気は、理想的には窒素ガス雰囲気であるが、当該窒素ガス雰囲気には、本発明の目的が阻害されない範囲内で、例えば、アルゴンガスなどの不活性ガス、空気、酸素ガス、炭酸ガスなどが含まれていてもよい。
【0046】
HPA処理シリコンナノ粒子の焼成の際の昇温速度には特に限定がない。HPA処理シリコンナノ粒子の焼成温度は、β-シリコンカーバイド含有窒素ドープカーボン粒子を効率よく製造する観点から、550~1200℃であることが好ましく、600~1100℃であることがより好ましい。
【0047】
従来、シリコンカーバイドは、シリコンおよびカーボンを電気炉に入れ、1600~2500℃に昇温することによって調製されている。これに対して、本発明では、HPA処理シリコンナノ粒子の焼成温度が従来よりも大幅に低くてもβ-シリコンカーバイド含有窒素ドープカーボン粒子を容易に製造することができる。したがって、本発明のβ-シリコンカーバイド含有窒素ドープカーボン粒子の製造方法は、省エネルギー化を図ることができるので工業的生産性に優れている。
【0048】
HPA処理シリコンナノ粒子の焼成時間は、HPA処理シリコンナノ粒子の焼成温度によって異なるので一概には決定することができないが、通常、2~6時間程度である。HPA処理シリコンナノ粒子を焼成した後は、焼成されたHPA処理シリコンナノ粒子を好ましくは40℃以下の温度、より好ましくは室温まで放冷すればよい。なお、HPA処理シリコンナノ粒子の焼成温度は、熱電対を用いて測定することができる。
【0049】
以上のようにしてβ-シリコンカーバイド含有窒素ドープカーボン粒子を得ることができる。得られたβ-シリコンカーバイド含有窒素ドープカーボン粒子が凝集している場合には、必要により、当該β-シリコンカーバイド含有窒素ドープカーボン粒子をピンミル、ハンマーミルなどを用いて解砕してもよい。
【0050】
本発明のβ-シリコンカーバイド含有窒素ドープカーボン粒子は、窒素ドープカーボンのマトリックスにβ-シリコンカーバイドのドメインが分散して存在している構造を有する。
【0051】
シリコンカーバイド(SiC)には、一般にα-SiC(6H-SiC)、4H-SiCおよびβ-SiC(3C-SiC)が存在することが知られている。4H-SiCおよび6H-SiCは平面の結晶構造を有し、β-SiCはダイヤモンド立方晶に類似した閃亜鉛鉱の結晶構造を有する。
【0052】
本発明のβ-シリコンカーバイド含有窒素ドープカーボン粒子に含まれているβ-シリコンカーバイドは、X線回折、原子分解能分析電子顕微鏡などにより(111)面のピークの存在が認められ、立方晶を有することから、β-シリコンカーバイドであることがわかる。
【0053】
β-シリコンカーバイド含有窒素ドープカーボン粒子をラマン分光分析すると、原料のシリコンに基づくピークが消失しており、ヒドロキシフェニルアミン化合物に基づくピークが波数1300~1400cm-1のドメインで出現し、グラファイトに基づくピークが波数1550~1650cm-1のドメインで出現することから、β-シリコンカーバイドが窒素ドープカーボンのマトリックスに存在しているものと考えられる。
【0054】
なお、参考までに記載すると、一般に、シリコンカーバイドの密度は約3.21g/mL、融点は約2830℃、電子移動度は約900cm2/(V・s)であり、β-シリコンカーバイドの熱伝導率は約360W/m・Kである。
【0055】
また、β-シリコンカーバイド含有窒素ドープカーボン粒子を透過型電子顕微鏡で観察すると、β-シリコンカーバイドが平行線で並んでおり、β-シリコンカーバイドの面間距離が0.25nmで揃っていることがわかる。したがって、β-シリコンカーバイドの面間距離は、0.2~0.3nmの範囲内に存在する。
【0056】
また、β-シリコンカーバイド含有窒素ドープカーボン粒子を透過型電子顕微鏡で観察すると、窒素ドープカーボン粒子の表面に粒子状の窒素ドープカーボンの一部が植え付けられているような状態で、β-シリコンカーバイドが突起状で分散して存在していることがわかる。β-シリコンカーバイド含有窒素ドープカーボン粒子の表面上に存在している窒素ドープカーボンは、不定形であり、その直径を測定することが困難であるが、最大の直径方向の長さは、概ね3~15nm程度である。
【0057】
β-シリコンカーバイド含有窒素ドープカーボン粒子におけるシリコン含量は、以下の実施例に示された結果から、30~70質量%の範囲内、就中45~60質量%の範囲内にある。
【0058】
β-シリコンカーバイド含有窒素ドープカーボン粒子の熱重量分析により、β-シリコンカーバイド含有窒素ドープカーボン粒子におけるβ-シリコンカーバイドの含有率は、通常、30~70質量%の範囲内にあり、窒素ドープカーボンの含有率は、通常、30~70質量%の範囲内であることがわかる。
【0059】
また、透過型電子顕微鏡で観察したとき、β-シリコンカーバイド含有窒素ドープカーボン粒子の平均粒子径は、通常、20nm~5μmの範囲内にある。β-シリコンカーバイド含有窒素ドープカーボン粒子の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡で撮影された画像から任意に100個のβ-シリコンカーバイド含有窒素ドープカーボン粒子を選択し、各β-シリコンカーバイド含有窒素ドープカーボン粒子の縦軸と横軸との平均値を求め、100個のβ-シリコンカーバイド含有窒素ドープカーボン粒子について当該平均値を合計し、その合計値を100で除した値を意味する。
【0060】
〔リチウムイオン二次電池用負極活物質〕
本発明のリチウムイオン二次電池用負極活物質は、前記β-シリコンカーバイド含有窒素ドープカーボン粒子を含有する。本発明のリチウムイオン二次電池用負極活物質は、前記β-シリコンカーバイド含有窒素ドープカーボン粒子のみで構成されていてもよく、本発明の目的が阻害されない範囲内で、他の負極活物質が含まれていてもよい。他の負極活物質としては、例えば、黒鉛、グラファイト、コークスなどの炭素物質の粉体などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0061】
〔リチウムイオン二次電池〕
本発明のリチウムイオン二次電池は、一般に用いられているリチウム二次イオン電池と同様の構造を有する。
【0062】
本発明のリチウムイオン二次電池は、通常、正極、負極、セパレータおよび非水電解質を有する。リチウムイオン二次電池の形状としては、例えば、円筒型、積層型などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0063】
本発明のリチウムイオン二次電池が、例えば、CR2025型のコイン電池である場合、負極、セパレータおよび非水電解質は、ケース内に収容されている。以下においては、リチウムイオン二次電池がCR2025型のコイン電池である場合の実施態様について説明するが、本発明は、かかる実施態様のみに限定されるものではない。
【0064】
CR2025型のコイン電池に使用されるケースは、その内部が中空であり、開口部を有し、正極容器を兼ねている。ケースの開口部には、蓋部が設けられており、蓋部は、負極蓋を兼ねている。ケースと蓋部との間には、ケースと蓋部との絶縁状態および密封状態を維持するために、ガスケットが設けられている。ケースと蓋部との間の空間には、電極および非水電解質が収容されている。
【0065】
(1)電極
電極は、正極、セパレータおよび負極を有し、この順序で配列されている。正極は、ケースの内面に接触し、負極は、蓋部の内面と接触している。
【0066】
正極は、一般に用いられているリチウム二次イオン電池に用いられている正極と同様であればよく、本発明は、当該正極の組成および構造によって限定されるものではない。
【0067】
正極は、例えば、正極活物質、導電材および結着剤を所定の比率で混合し、得られた混合物に溶媒、必要により活性炭、粘度調整用添加剤などを適量で添加し、得られた混合物を混練し、正極合材ペーストを調製した後、集電体の表面に塗布し、必要によりプレス成形し、乾燥させることにより、作製することができる。
【0068】
正極活物質の代表例としては、リチウム、リチウム-マンガン系複合酸化物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。導電材としては、例えば、アセチレンブラックなどのカーボンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、1-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴムなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0069】
負極には、本発明の負極活物質が用いられる。負極は、例えば、本発明の負極活物質と結着剤とを混合し、得られた混合物に溶媒を添加することにより、ペースト状の負極合材を調製し、当該負極合材を銅などの金属箔集電体の表面に塗布し、乾燥させ、必要によりプレス成形し、乾燥させることにより、作製することができる。
【0070】
負極活物質には、本発明の負極活物質が用いられるが、必要により、黒鉛、カーボンブラックなどの粉体を含有させてもよい。結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、1-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴムなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0071】
セパレータは、正極と負極との間に用いられる。セパレータは、正極と負極とを分離し、電解質を保持するとともに、正極と負極と間のリチウムイオンの移動経路を形成する。セパレータには、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂の箔膜を用いることができ、当該薄膜には多数の微細孔が形成されている。
【0072】
(2)非水電解質
非水電解質としては、例えば、エチレンカーボネート、ジエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート:ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート;テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタンなどのエーテル化合物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0073】
本発明のリチウムイオン二次電池は、負極活物質に本発明のリチウムイオン二次電池用負極活物が用いられているので、放電容量が高く、さらに充放電に対する耐久性に優れるという優れた性質を有する。
【0074】
本発明のリチウムイオン二次電池が、例えば、コイン型電池である場合、初期放電容量が900mAh/g以上であり、充放電を300サイクル行なった後においても放電容量の低下が小さく、900mAh/g以上の放電容量が維持されるので、放電容量の維持性および充放電に対する耐久性に顕著に優れている。
【実施例】
【0075】
次に、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0076】
なお、以下の実施例で測定された物性は、以下の方法に基づいて測定した。
【0077】
〔ラマン分光分析〕
ラマン分光分析計〔レニショー(株)製、顕微レーザーラマン分光器、光源:HeNe〕を用いてラマン分光分析を行なった。
【0078】
〔HAADF-STEM像〕
原子分解能分析電子顕微鏡〔日本電子(株)製、品番:JEMARM200F“NEOARM”〕を用いて観察した。
【0079】
〔X線光電子分光(XPS)分析〕
X線光電子分光分析装置(フィソン・インストルメント社製、製品名:S-PROBE ESCA)を用いてX線光電子分光分析を行なった。
【0080】
〔熱重量分析〕
示差熱-熱重量同時測定装置〔(株)日立製作所製、品番:STA7200〕、サンプル5mgおよびプラチナパンを用い、酸素ガス雰囲気下(窒素ガス流量:200mL/min)でリファレンスをブランク(サンプルなし)とし、室温から昇温速度20℃/minで850℃にまで加熱する間に熱重量分析を行なった。
【0081】
〔電気化学的特性1および電気化学的特性2〕
グローボックス〔エムブラウン(MBRAUN)社製、製品名:Labstar〕および充電/放電装置(バイオロジカル・サイエンティフィック・インストルメント社製、品番:BCS-805)を用いて電気化学的特性を調べた。
【0082】
実施例1
3-(アミノプロピル)トリエトキシシラン(APTES)18g、メタノール10mLおよび水10mLの混合溶液を室温下で均一な組成となるように攪拌することにより、混合物を得た。
【0083】
前記で得られた混合物に還元剤として0.1MのL-アスコルビン酸溶液20mLを添加し、得られた混合物を室温下で3時間攪拌することにより、シリコンナノ粒子の水分散体を得た。
【0084】
前記で得られたシリコンナノ粒子の水分散体40mLに室温下でヒドロキシチラミン(ドーパミン)の塩酸塩2gを添加し、引き続いてトリスヒドロキシメチルアミノメタン(TRIS)緩衝液20mLを添加し、48時間攪拌することにより、反応混合物を得た。
【0085】
前記で得られた反応混合物に室温下でメラミン2gを添加し、磁気攪拌装置を用いて回転速度500rpmにて12時間攪拌することにより、反応溶液を得た。
【0086】
前記で得られた反応溶液を14000rpmの回転速度で3時間遠心分離し、得られた固形物を回収し、さらに室温下で減圧乾燥させることにより、粉体を得た。得られた粉体は、凝集していたので軽く粉砕した。
【0087】
次に、前記で得られた粉体1.5gを一端が封止されている石英管内の奥端(封止部の近傍)に入れ、当該石英管の他端に窒素ガスが充填されている風船を取り付けた後、当該石英管を電気炉で600℃で焼成した後、室温まで放冷することにより、β-シリコンカーバイド含有窒素ドープカーボン粒子を黒色生成物として得た。前記得られたβ-シリコンカーバイド含有窒素ドープカーボン粒子を負極活物質Aとして用いた。
【0088】
実施例2
実施例1と同様にして粉体を調製し、得られた粉体1.5gを一端が封止された石英管内の最奥端(封止部)に入れ、当該石英管の他端に窒素ガスが充填されている風船を取り付けた後、当該石英管を電気炉で1050℃で焼成した後、室温まで放冷することにより、β-シリコンカーバイド含有窒素ドープカーボン粒子を黒色生成物として得た。前記得られたβ-シリコンカーバイド含有窒素ドープカーボン粒子を負極活物質Bとして用いた。
【0089】
〔ラマン分光分析〕
前記で得られた負極活物質Aおよび負極活物質Bの分光分析を行ない、参考のため、シリコンウェハの分光分析も行なった。それらの結果を
図1に示す。
【0090】
図1において、(a)~(c)は、それぞれ順にシリコンウェハ、負極活物質Aおよび負極活物質Bのラマンスペクトルを示すグラフである。
【0091】
図1(a)に示されるように、シリコンウェハでは、当該シリコンウェハに特徴的なピークが観察された。これに対して、負極活物質Aおよび負極活物質Bでは、シリコンウェハに特徴的なピークが観察されなかった。
【0092】
また、
図1(b)および(c)では、炭素の特徴的なピークであるドーパミンに基づくピーク(図中の符号D)およびグラファイトに基づくピーク(図中の符号G)が認められたことから、負極活物質Aおよび負極活物質Bでは、β-シリコンカーバイドのドメインがカーボンのマトリックスに含まれていることがわかる。
【0093】
〔透過型電子顕微鏡(TEM)による観察〕
負極活物質Bを透過型電子顕微鏡で観察した。その透過型電子顕微鏡写真を
図2に示す。
図2(a)~(d)は、それぞれ拡大倍率を変更して撮影された負極活物質Bの明視野透過型電子顕微鏡写真である。各写真の倍率は、各写真のスケールバーに記載されているとおりである。なお、
図2(a)は、負極活物質BのHAADF-STEM像である。
【0094】
また、負極活物質Bをさらに詳細に解析した結果を
図3に示す。
図3(a)は、負極活物質BのHAADF-STEM像であり、
図3(b)は、
図3(a)に記載の枠線1で囲まれた部分の負極活物質BのFT(フーリエ変換)画像であり、
図3(c)は、
図3(a)に記載の枠線1で囲まれた部分の負極活物質BのIFT(逆フーリエ変換)画像であり、
図3(d)は、
図3(c)に示される画像から求められる面間隔を示す図であり、
図3(e)は、
図3(a)に記載の枠線2で囲まれた部分の負極活物質BのFT(フーリエ変換)画像であり、
図3(f)は、
図3(a)に記載の枠線2で囲まれた部分の負極活物質BのIFT(逆フーリエ変換)画像であり、
図3(g)は、
図3(a)に記載の枠線3で囲まれた部分の負極活物質BのFT(フーリエ変換)画像であり、
図3(h)は、
図3(a)に記載の枠線3で囲まれた部分の負極活物質BのIFT(逆フーリエ)変画像である。
【0095】
図3(a)に指紋状の部分が存在しているが、当該部分がβ-シリコンカーバイドのドメインである。
図3(c)は、
図3(a)に記載の枠線1で囲まれた部分の拡大写真であり、
図3(f)は、
図3(a)に記載の枠線2で囲まれた部分の拡大写真であり、
図3(h)は、
図3(a)に記載の枠線3で囲まれた部分の拡大写真である。いずれの画像においても、β-シリコンカーバイドの面間距離が0.25nmで揃っていることがわかる。このβ-シリコンカーバイドの面間距離は、β-シリコンカーバイドに特異的なものである。
【0096】
図3(b)、(e)および(g)に示される画像から、β-シリコンカーバイドは、(111)面を有することから、立方晶のシリコンカーバイドであることがわかる。
【0097】
また、
図2および
図3に示される画像から、負極活物質Bは、窒素ドープカーボンのマトリックスにβ-シリコンカーバイドのドメインが分散して存在していることがわかる。
【0098】
負極活物質Aを透過型電子顕微鏡で観察した。その結果を
図4に示す。
図4(a)および(b)は、それぞれ負極活物質Aの明視野透過型電子顕微鏡写真であり、
図4(c)および(d)は、それぞれ拡大倍率を変更して撮影された負極活物質Aの透過型電子顕微鏡写真である。各写真の倍率は、スケールバーに記載されているとおりである。
【0099】
また、負極活物質Aをさらに詳細に解析した結果を
図5に示す。
図5において、(a)は、負極活物質AのHRTEM画像であり、(b)は、
図5(a)に記載の枠線1で囲まれた部分の負極活物質AのFT(フーリエ変換)画像であり、(c)は、
図5(a)に記載の枠線1で囲まれた部分の負極活物質AのIFT(逆フーリエ変換)画像であり、(d)は、
図5(a)に記載の枠線2で囲まれた部分の負極活物質AのFT(フーリエ変換)画像、(e)は
図5(a)に記載の枠線2で囲まれた部分の負極活物質AのIFT(逆フーリエ変換)画像、(f)は
図5(a)に記載の枠線3で囲まれた部分の負極活物質AのFT(フーリエ変換)画像、(g)は
図5(a)に記載の枠線3で囲まれた部分の負極活物質AのIFT(逆フーリエ変換)画像、(h)は
図5(a)に記載の枠線4で囲まれた部分の負極活物質AのFT(フーリエ変換)画像、(i)は
図5(a)に記載の枠線4で囲まれた部分の負極活物質AのIFT(逆フーリエ変換)画像、(j)~(m)は、それぞれ、
図5(c)、(e)、(g)および(i)におけるラインプロファイルを示す図である。
【0100】
図5(b)~(i)に示される画像からβ-シリコンカーバイドは、(111)面を有しているので、立方晶のシリコンカーバイドであることがわかる。
【0101】
また、
図4および
図5に示される画像から、負極活物質Bは、窒素ドープカーボンのマトリックスにβ-シリコンカーバイドのドメインが分散して存在していることがわかる。
【0102】
図4(c)および(d)の画像に記載の矢印で示される部分は、β-シリコンカーバイドのドメインである。β-シリコンカーバイドのドメインは、突起状を有しており、窒素ドープカーボンのマトリックスに植え付けられているように分散して存在していることがわかる。
【0103】
また、
図5において、(c)は、
図5(a)に記載の枠線1で囲まれた部分の拡大写真であり、(e)は、
図5(a)に記載の枠線2で囲まれた部分の拡大写真であり、(g)は、
図5(a)に記載の枠線3で囲まれた部分の拡大写真であり、(i)は、
図5(a)に記載の枠線4で囲まれた部分の拡大写真である。いずれの画像においても、β-シリコンカーバイドの面間距離が0.25nmで揃っていることがわかる。このβ-シリコンカーバイドの面間距離は、β-シリコンカーバイドに特異的なものである。
【0104】
図5(b)、(d)、(f)および(h)に示される画像から、β-シリコンカーバイドは、(111)面を有することから、立方晶のシリコンカーバイドであることがわかる。
【0105】
〔X線光電子分光(XPS)分析〕
負極活物質Aおよび負極活物質BのX線光電子分光分析を行なった。その結果を
図6および
図7に示す。
【0106】
図6において、(a)は、負極活物質A(図中の符号A)および負極活物質B(図中の符号B)のXPSスペクトルであり、(b)は、負極活物質BのSi2pにおけるXPSスペクトルであり、(c)は、負極活物質BのC1sにおけるXPSスペクトルであり、(d)は、負極活物質BのN1sにおけるXPSスペクトルであり、(e)は、負極活物質BのO1sにおけるXPSスペクトルである。
【0107】
図7において、(a)は、負極活物質AのSi2pにおけるXPSスペクトルであり、(b)は、負極活物質AのC1sにおけるXPSスペクトルであり、(c)は、負極活物質AのN1sにおけるXPSスペクトルであり、(d)は、負極活物質AのO1sにおけるXPSスペクトルである。
【0108】
図6(b)および(c)に示された結果および
図7(a)および(b)に示された結果から、負極活物質Aおよび負極活物質BにはSi-C結合が高い含有率で存在していることが見受けられる。また、
図6(d)に示された結果および
図7(c)に示された結果から、窒素がカーボンにドープされていることがわかる。
【0109】
〔熱重量分析〕
負極活物質A、負極活物質Bおよびシリコンナノ粒子(平均粒子径:30nm)の熱重量分析を行なった。その結果を
図8に示す。
図8(a)は、50~850℃における負極活物質A、負極活物質Bおよびシリコンナノ粒子(平均粒子径:30nm)の熱重量分析結果を示すグラフであり、
図8(b)は、
図6(a)に示される画像から推測される負極活物質A、負極活物質Bおよびシリコンナノ粒子(平均粒子径:30nm)におけるシリコン含量を示すグラフである。なお、
図8において、符号Aは負極活物質Aの熱重量分析結果、符号Bは負極活物質Bの熱重量分析結果、MADPはシリコンナノ粒子(平均粒子径:30nm)の熱重量分析結果を示す。
【0110】
図8に示された結果から、負極活物質Aにおけるシリコン含量は47質量%であり、負極活物質Bにおけるシリコン含量は56質量%であることがわかる。
【0111】
〔電気化学的特性1〕
図9(a)および(b)は、それぞれ順に負極活物質Bおよび負極活物質Aのサイクリックボルタンメトリーの測定結果を示すグラフ、(c)および(d)は、それぞれ順に負極活物質Bおよび負極活物質Aのインピーダンスのスペクトルを示すグラフである。
【0112】
図9(a)および(b)に示された結果から、サイクリックボルタンメトリーの1サイクル目の曲線が高電圧方向に伸びていることからリチウムイオンが負極にインターカレートされ、2サイクル目以降ではリチウムイオンが負極から放出される脱インターカレーションが生じていることがわかる。
【0113】
また、
図9(c)および(d)に示された結果から、サイクリックボルタンメトリーの前後では、サイクリックボルタンメトリー前(図中のCV前)よりもサイクリックボルタンメトリー後(図中のCV後)のほうがインピーダンスのスペクトルを示す円形が小さくなっていることから、充放電により、良好な膜生成が進行し、内部抵抗が低下しているため、電解液との界面挙動が良好であることがわかる。
【0114】
〔電気化学的特性2〕
負極活物質80g、アセチレンブラック10g、結着剤としてポリフッ化ビニリデン10gおよびN-メチル-2-ピロリドン400gを均一な組成となるように混合し、得られたスラリーをドクターブレードで銅箔(縦:20mm、横:100mm、厚さ:20μm)に塗布し、減圧下で80℃の温度で約12時間乾燥させ、ロールで押圧することにより、乾燥後の塗膜の厚さが0.06mmである電極を作製した。なお、負極活物質として負極活物質A、負極活物質Bまたはシリコン(平均粒子径:30nm)を用いた。
【0115】
前記で得られた電極をCR2025型のコイン電池に組み込むために、直径15mmの円盤となるように抜き打ち、負極として前記で得られた円盤を用い、対極としてリチウム箔を用い、セパレータとしてポリプロピレンセパレータ〔旭化成(株)製、商品名:セルガード2500、厚さ:25μm〕を用い、電解質としてエチレンカーボネートとジエチレンカーボネートとを1:1の質量比で混合した溶媒に濃度が1MとなるようにLiPF6を溶解させた電解質を用い、アルゴンガス雰囲気中で負極半電池を組み立てた。得られた負極半電池は、安定化のため室温中で12時間放置した。
【0116】
前記で得られた負極半電池を用いて充電/放電特性を調べた。その結果を
図10に示す。
【0117】
図10において、(a)は、サイクリックボルタンメトリーにおいて充電/放電電流を段階的に変化させたときの負極活物質Aおよび負極活物質Bの充放電特性を示すグラフであり、(b)は、サイクリックボルタンメトリーにおいて充電/放電電流が50mA/gであるときの負極活物質Aおよび負極活物質Bの充放電特性を示すグラフであり、(c)は、サイクリックボルタンメトリーにおいて充電/放電電流が100mA/gであるときの負極活物質Aの充放電特性を示すグラフであり、(d)は、サイクリックボルタンメトリーにおいて充電/放電電流が100mA/gであるときのシリコンナノ粒子A(平均粒子径:30nm)およびシリコンナノ粒子B(平均粒子径:100nm)の充放電特性を示すグラフである。
【0118】
図10(a)および(b)において、符号Aは負極活物質Aの充放電特性を示すグラフであり、符号Bは負極活物質Bの充放電特性を示すグラフである。
図10(c)において、符号Xはリチウム化の際の充放電特性を示すグラフであり、符号Yは脱リチウム化際の充放電特性を示すグラフである。また、
図10(d)において、符号Pはシリコンナノ粒子Aの充放電特性を示すグラフであり、符号Qはシリコンナノ粒子Bの充放電特性を示すグラフである。
【0119】
図10(b)に示された結果から、充電/放電電流が50mA/gであるときの300サイクル後の電池容量は、負極活物質Aおよび負極活物質Bのいずれにおいても900mAh/g以上であり、特に負極活物質Bにおいては1100mAh/g以上であることから、従来の電池容量が大きいといわれているシリコンを10質量%含有するグラファイトの電池容量が約300mAh/gであることと対比して、約3倍以上も格段に電池容量が高められていることがわかる。
【0120】
また、負極にシリコンを用いた場合には、
図10(d)に示されるように、充放電を繰り返すことによって電池容量が顕著に低下することがわかる。これに対して、負極に負極活物質Aおよび負極活物質Bを用いた場合には、
図10(c)に示されるように、充放電を800回以上繰り返しても電池容量の低下が小さいことから、負極は、充放電によって劣化しがたいため、充放電に対する耐久性に優れていることがわかる。
【0121】
比較例1〔シリコンカーバイドのリチウム化および脱リチウム化〕
市販されている厚さが250mmである6H-SiCウェーハを用いた。6H-SiCウェーハを600℃の温度で脱気した後、電気炉にて窒素ガス雰囲気中で1300℃の温度で焼成することにより、グラファイト化させ、1100℃まで徐冷した。
【0122】
シリコンカーバイドをグラファイト化させることによって得られたN-ドープ6H-SiCの初期の電池容量は、約40mAh/cm2であることから、負極活物質Aおよび負極活物質Bと対比して極めて低いことがわかる。なお、N-ドープ6H-SiCのリチウムの浸透厚さは、約3mmであった。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極活物質、および当該リチウムイオン二次電池用負極活物質を含む負極が用いられているリチウムイオン二次電池は、放電容量が高く、さらに充放電に対する耐久性に優れていることから、例えば、スマートフォン、タブレット型パーソナルコンピュータ、ハイブリッド自動車、電気自動車などに使用することが期待される。