(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】伝送線路マイクロ波装置
(51)【国際特許分類】
H01P 1/32 20060101AFI20240717BHJP
【FI】
H01P1/32
(21)【出願番号】P 2020165144
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2023-07-21
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.ウェブサイトのアドレス https://www.ieice-taikai.jp/2020general/jpn/ https://www.ieice.org/jpn_r/event/taikai/2020/online/index.html https://www.ieice.org/jpn_r/infomation/20200225.pdf 山上航平、上田哲也、及び伊藤龍男が、上記アドレスのウェブサイトで公開された、2020年電子情報通信学会総合大会エレクトロニクス講演論文集1、C-2-41、64ページにて、上田哲也及び山上航平が発明した「フェライト基板上に構成された対称メタマテリアル結合線路」に関する研究について2020年3月3日に公開した。 2.ウェブサイトのアドレスhttps://ims-ieee.org/ 上田哲也(Tetsuya Ueda)、山上航平(Kohei Yamagami)、及び伊藤龍男(Tatsuo Itoh)が、上記アドレスのウェブサイトで公開された、2020年IEEE/MTT-S 国際マイクロ波シンポジウム講演論文集、Tu1E-2(新規な素子、導波路、及び放射構造のための方法),5-8ページ(Proceedings of 2020 IEEE/MTT-S International Microwave Symposium,Tu1E-2(Novel Components,Waveguides,and Methods for Radiating Structures),pages 5-8)にて、上田哲也及び山上航平が発明した、「反対称的な非相反左手/右手複合系メタマテリアル線路の結合ペア」(A Coupled Pair of Anti-Symmetrically Nonreciprocal Composite Right/Left-Handed Metamaterial Lines)に関する論文について2020年6月21日に公開した。
(73)【特許権者】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【氏名又は名称】岡部 博史
(72)【発明者】
【氏名】上田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】山上 航平
【審査官】白井 亮
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-543483(JP,A)
【文献】特表2008-503179(JP,A)
【文献】国際公開第2008/111460(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容量性素子を等価的に含む直列枝の回路と、誘導性素子を等価的に含む並列枝の回路とを備え、マイクロ波の伝搬方向に対して異なる磁化方向に磁化されてジャイロ異方性を有し、前記伝搬方向と前記磁化方向とにより形成される面に対して非対称な構造を有し、かつ、順方向の伝搬定数と逆方向の伝搬定数とが互いに異なる非相反位相特性を有するように、伝搬定数と動作周波数との関係を示す分散曲線において所定の伝搬定数及び動作周波数を設定してなる少なくとも1つの非相反伝送線路部分を備え、
前記少なくとも1つの非相反伝送線路部分を1対のポートの間で縦続接続してそれぞれ構成された第1と第2のマイクロ波伝送線路を備えた伝送線路マイクロ波装置であって、
前記第1と第2のマイクロ波伝送線路を互いに電磁的に結合するように近接して設け
、
前記第1のマイクロ波伝送線路の非相反性Δβ
1
と、前記第2のマイクロ波伝送線路の非相反性Δβ
2
との差の絶対値|Δβ
2
-Δβ
1
|が所定値以上に設定したことを特徴とする伝送線路マイクロ波装置。
【請求項2】
前記第1のマイクロ波伝送線路の非相反性Δβ
1と、前記第2のマイクロ波伝送線路の非相反性Δβ
2とは、
(1)前記各非相反性Δβ
1,Δβ
2の符号を互いに反転させて、
(2)前記各非相反性Δβ
1,Δβ
2を所定値以下となるように設定し、かつ
(3)前記各非相反性の差の絶対値|Δβ
2-Δβ
1|を大きくするように設定した、
ことを特徴とする請求項
1に記載の伝送線路マイクロ波装置。
【請求項3】
前記直列枝の回路の共振周波数と、前記並列枝の回路の共振周波数とが一致するように設定されたことを特徴とする請求項1
又は2に記載の伝送線路マイクロ波装置。
【請求項4】
前記第1と第2のマイクロ波伝送線路は、自発磁化もしくは外部磁界により磁化された基板上に形成されたことを特徴とする請求項1~
3のうちのいずれか1つに記載の伝送線路マイクロ波装置。
【請求項5】
前記第1と第2のマイクロ波伝送線路は、4ポートサーキュレータ装置として動作することを特徴とする請求項1~
4のうちのいずれか1つに記載の伝送線路マイクロ波装置。
【請求項6】
前記磁化の方向を反転することで、前記4ポートサーキュレータ装置における信号方向を反転させることを特徴とする請求項
5に記載の伝送線路マイクロ波装置。
【請求項7】
前記第1のマイクロ波伝送線路の1対のポートは第1及び第2のポートであり、
前記第2のマイクロ波伝送線路の1対のポートは第3及び第4のポートであり、
(1)前記第2のポートを所定の第1の抵抗で終端しかつ前記第4のポートを所定の第2の抵抗で終端することと、
(2)前記第1のポートを所定の第1の抵抗で終端しかつ前記第2のポートを所定の第2の抵抗で終端することと、
(3)前記第3のポートを所定の第1の抵抗で終端しかつ前記第4のポートを所定の第2の抵抗で終端することと、
(4)前記第1のポートを所定の第1の抵抗で終端しかつ前記第3のポートを所定の第2の抵抗で終端することと、
のいずれかであり、
これにより、前記第1と第2のマイクロ波伝送線路は、前記第1のポートと前記第3のポートとの間で2ポートアイソレータ装置として動作することを特徴とする請求項1~
4のうちのいずれか1つに記載の伝送線路マイクロ波装置。
【請求項8】
前記伝送線路マイクロ波装置は、非対称マイクロストリップ線路又は非対称矩形導波管で構成されたことを特徴とする請求項1~
6のうちのいずれか1つに記載の伝送線路マイクロ波装置。
【請求項9】
前記第1と第2のマイクロ波伝送線路において、前記直列枝の容量性素子は当該伝送線路を伝搬する電磁波モードの実効透磁率が負であるマイクロ波素子であり、前記並列枝の誘導性素子は当該伝送線路を伝搬する電磁波モードの実効誘電率が負であるマイクロ波素子であることを特徴とする請求項1~
8のうちのいずれか1つに記載の伝送線路マイクロ波装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、順方向の伝搬定数と逆方向の伝搬定数とが互いに異なる非相反(非可逆)位相特性をそれぞれ有しかつ互いに電磁的に結合する1対の非相反伝送線路にてなる伝送線路マイクロ波回路を備えた伝送線路マイクロ波装置に関する。なお、本明細書において、マイクロ波とは、例えばUHF(Ultra High Frequency)バンドの周波数帯以上のマイクロ波、ミリ波,準ミリ波、テラヘルツ波をいう。以下、「非相反右手及び左手系伝送線路」を「非相反右手/左手系伝送線路」といい、「非相反CRLH線路」と略す。
【背景技術】
【0002】
最近、従来の分布定数線路のインダクタンスと容量の配置を入れ換えた左手系伝送(Left Handed Transmission(LHT))線路の研究が活発化している。左手系伝送線路の回路には、後退波特性、レンズ作用などの特異性も現れるので、新しいマイクロ波回路素子への期待が大きい。
【0003】
例えば、順方向と逆方向のうち、一方が左手系伝送線路で,他方が右手系伝送線路となるような非相反伝送線路並びに、それを用いて小型化された伝送線路マイクロ波回路(例えば、移相器、アンテナ装置、共振器、フィルタ、電力分配器、発振器など)については、特許文献1において開示されており、具体的には、非相反メタマテリアル線路の構成法を開示している。さらに、従来技術に係る伝送線路マイクロ波回路が、例えば非特許文献1~4において開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】C. Caloz et al., "A novel composite right-/left-handed coupled-line directional coupler with arbitrary coupling level and broadband bandwidth," IEEE Transactions on Microwave Theory Techniques, Vol. 52, No. 3, pp. 980-992, March 2004.
【文献】A. Hirota et al., "A compact forward coupler using coupled composite right/left-handed transmission lines," IEEE Transactions on Microwave Theory Techniques, Vol. 57, No. 12, pp. 3127-3113, 2009.
【文献】K. Xie et al., "Non-reciprocity and the optimum operation offerrite coupled lines," IEEE Transactions on Microwave Theory Techniques, Vol. 48, No. 4, pp. 562-573, April 2000.
【文献】K. Yamagami et al., "Enhanced bandwidth of asymmetric backward-wave directional couplers by using dispersion of nonreciprocal CRLH transmission lines," Proceedings of 2019 Asia-Pacific Microwave Conference, T4-4-8, pp. 1111-1113, December 2019.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1及び2において開示された伝送線路マイクロ波回路は、1対の結合線路を用いて広帯域動作が可能であるが、相反回路で構成され、電力分配器として動作する。
【0007】
また、非特許文献3において開示された伝送線路マイクロ波回路は、1対の結合線路を用いてサーキュレータ又はアイソレータを構成することができるが、特許文献1において開示された伝送線路マイクロ波回路とは動作原理が異なり、装置サイズが波長程度以上ときわめて大きいという問題点があった。
【0008】
さらに、非特許文献4において開示された伝送線路マイクロ波回路は、非相反メタマテリアル線路を後進波結合線路に適用することにより、動作帯域の広域化を図る目的で構成され、サーキュレータ又はアイソレータの機能を有していない。
【0009】
本発明の目的は以上の問題点を解決し、従来技術に比較して大幅に小型化できかつサーキュレータ装置又はアイソレータ装置を構成可能な伝送線路マイクロ波装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る伝送線路マイクロ波装置は、
容量性素子を等価的に含む直列枝の回路と、誘導性素子を等価的に含む並列枝の回路とを備え、マイクロ波の伝搬方向に対して異なる磁化方向に磁化されてジャイロ異方性を有し、前記伝搬方向と前記磁化方向とにより形成される面に対して非対称な構造を有し、かつ、順方向の伝搬定数と逆方向の伝搬定数とが互いに異なる非相反位相特性を有するように、伝搬定数と動作周波数との関係を示す分散曲線において所定の伝搬定数及び動作周波数を設定してなる少なくとも1つの非相反伝送線路部分を備え、
前記少なくとも1つの非相反伝送線路部分を1対のポートの間で縦続接続してそれぞれ構成された第1と第2のマイクロ波伝送線路を備えた伝送線路マイクロ波装置であって、
前記第1と第2のマイクロ波伝送線路を互いに電磁的に結合するように近接して設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
従って、本発明によれば、従来技術に比較して大幅に小型化できかつサーキュレータ装置又はアイソレータ装置を構成可能な伝送線路マイクロ波回路を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態に係る伝送線路マイクロ波装置において用いる非相反CRLH線路L1の単位セルの等価回路を示す回路図である。
【
図2】実施形態に係る伝送線路マイクロ波装置において用いる非相反CRLH線路L2の単位セルの等価回路を示す回路図である。
【
図3】
図1の非相反CRLH線路L1の分散曲線の一例を示すグラフである。
【
図4】
図2の非相反CRLH線路L2の分散曲線の一例を示すグラフである。
【
図5】実施形態に係る伝送線路マイクロ波装置であって、互いに電磁的に結合された1対の非相反CRLH線路L1,L2の各単位セルの等価回路を示す回路図である。
【
図6】
図5の伝送線路マイクロ波装置において、電磁的結合が無く、0<Δβ
2<Δβ
1のときに1対の非相反CRLH線路L1,L2の分散曲線を重ねたときのグラフである。
【
図7】
図5の伝送線路マイクロ波装置において、電磁的結合が有り、0<Δβ
2<Δβ
1のときに1対の非相反CRLH線路L1,L2の分散曲線を重ねたときのグラフである。
【
図8】
図5の伝送線路マイクロ波装置において、電磁的結合が無く、Δβ
2<0及び0<Δβ
1のときに1対の非相反CRLH線路L1,L2の分散曲線を重ねたときのグラフである。
【
図9】
図5の伝送線路マイクロ波装置において、電磁的結合が有り、Δβ
2<0及び0<Δβ
1のときに1対の非相反CRLH線路L1,L2の分散曲線を重ねたときのグラフである。
【
図10】電磁的結合が無い
図8の分散曲線において、位相定数及び角周波数が所定の特別な場合における分散曲線を示すグラフである。
【
図11】電磁的結合がある
図9の分散曲線において、位相定数及び角周波数が所定の特別な場合における分散曲線を示すグラフである。
【
図12】実施形態に係る4ポートサーキュレータ装置を構成する伝送線路マイクロ波装置の外観を示す斜視図である。
【
図14B】変形例に係る4ポートサーキュレータ装置を構成する伝送線路マイクロ波装置の縦断面図であり、
図14Aに対応する図である。
【
図15】従来例に係るCRLH線路に沿って伝搬する電磁波の分散曲線の一例であって、直列枝の直列共振周波数ω
seとシャント枝の並列共振周波数ω
shが異なる場合の分散曲線を示すグラフである。
【
図16】従来例に係るCRLH線路に沿って伝搬する電磁波の分散曲線の別の一例であって、直列枝の直列共振周波数ω
seとシャント枝の並列共振周波数ω
shが互いに一致する場合の分散曲線を示すグラフである。
【
図17】従来例に係る1対のCRLH線路からなる対称結合線路装置の分散曲線を示すグラフである。
【
図18】
図17の対称結合線路装置において、電磁的結合によって形成されたバンドギャップBG内の周波数を動作点として選択し、線路L1のポートP1を入力端子とした場合の電磁波電力の流れを示す上面図である。
【
図19】
図17の対称結合線路装置において、動作点としてバンドギャップBG内の周波数を選択し、線路L2のポートP3を入力端子とした場合の電磁波電力の流れを示す上面図である。
【
図20】実施形態に係る
図13の非相反対称結合線路装置を構成する1本の非相反CRLH線路L1の分散曲線を示すグラフである。
【
図21】実施形態に係る
図13の非相反対称結合線路装置を構成するもう1本の非相反CRLH線路L2の分散曲線を示すグラフである。
【
図23】1対の非相反CRLH線路L1,L2からなる対称結合線路装置の分散曲線の概略を示すグラフである。
【
図24】
図23の下側のバンドギャップBG12内(角周波数ω
GL1≦ω≦ω
GH1の範囲)での動作において、マイクロ波信号をポートP3から入力した場合の電磁波伝搬の様子を示す上面図である。
【
図25】
図23の下側のバンドギャップBG12内(角周波数ω
GL1≦ω≦ω
GH1の範囲)での動作において、マイクロ波信号をポートP2から入力した場合の電磁波伝搬の様子を示す上面図である。
【
図26】
図23の下側のバンドギャップBG12内(角周波数ω
GL1≦ω≦ω
GH1の範囲)での動作において、マイクロ波信号をポートP1から入力した場合の電磁波伝搬の様子を示す上面図である。
【
図27】
図23の下側のバンドギャップBG12内(角周波数ω
GL1≦ω≦ω
GH1の範囲)での動作において、マイクロ波信号をポートP4から入力した場合の電磁波伝搬の様子を示す上面図である。
【
図28】
図23の上側のバンドギャップBG11内(角周波数ω
GL2≦ω≦ω
GH2の範囲)での動作において、マイクロ波信号をポートP1から入力した場合の電磁波伝搬の様子を示す上面図である。
【
図29】
図23の上側のバンドギャップBG11内(角周波数ω
GL2≦ω≦ω
GH2の範囲)での動作において、マイクロ波信号をポートP4から入力した場合の電磁波伝搬の様子を示す上面図である。
【
図30】
図23の上側のバンドギャップBG11内(角周波数ω
GL2≦ω≦ω
GH2の範囲)での動作において、マイクロ波信号をポートP3から入力した場合の電磁波伝搬の様子を示す上面図である。
【
図31】
図23の上側のバンドギャップBG11内(角周波数ω
GL2≦ω≦ω
GH2の範囲)での動作において、マイクロ波信号をポートP2から入力した場合の電磁波伝搬の様子を示す上面図である。
【
図32】実施例に係る1本のCRLH線路の分散曲線の一例を示すグラフである。
【
図33】
図32の分散特性をそれぞれ有する1対のCRLH線路を電磁的に結合するように近接配置させ結合線路装置を構成し、当該結合線路装置内の各CRLH線路部分の単位セル数を5個とした場合の散乱パラメータの周波数特性(伝送周波数特性)を示すスペクトル図である。
【
図34】前記結合線路装置のフェライト基板に対して、垂直方向に直流磁界が印加された場合の1本のCRLH線路の分散曲線の一例を示すグラフである。
【
図35】
図34の分散曲線と、
図13の非相反CRLH線路L2に対応する1本の非相反CRLH線路の分散曲線とを重ねて示したグラフである。
【
図36】実施形態に係る
図13の非相反CRLH結合線路装置の散乱パラメータの周波数特性(伝送周波数特性)を示すスペクトル図である。
【
図37A】実施形態の変形例に係る非相反CRLH結合線路装置を用いたアイソレータ装置の構成例を示す上面図である。
【
図37E】実施形態の別の変形例に係る非相反CRLH結合線路装置を用いたサーキュレータ装置の構成例を示す縦断面図である。
【
図38A】変形例1に係る矩形導波管を用いて構成された、1本の非相反CRLH線路装置の外観を示す斜視図である。
【
図38B】
図38Aの非相反CRLH線路装置の上面導体を除去したときの破断上面図である。
【
図39A】変形例2に係る矩形導波管を用いて構成された、1本の非相反CRLH結合線路装置の外観を示す斜視図である。
【
図39B】
図39Aの非相反CRLH結合装置の上面導体を除去したときの破断上面図である。
【
図40A】変形例3に係る矩形導波管を用いて構成された、1本の非相反CRLH線路装置の外観を示す斜視図である。
【
図40B】
図40Aの非相反CRLH線路装置の上面導体を除去したときの破断上面図である。
【
図41A】変形例1に係る2本の矩形導波管を用いて構成された、変形例4に係る非相反CRLH結合線路装置の外観を示す斜視図である。
【
図41B】
図41Aの非相反CRLH結合線路装置の上面導体を除去したときの破断上面図である。
【
図42A】変形例2に係る2本の矩形導波管を用いて構成された、変形例5に係る非相反CRLH結合線路装置の外観を示す斜視図である。
【
図42B】
図42Aの非相反CRLH結合線路装置の上面導体を除去したときの破断上面図である。
【
図43A】変形例3に係る矩形導波管を用いて構成された、変形例6に係る非相反CRLH結合線路装置の外観を示す斜視図である。
【
図43B】
図43Aの非相反CRLH結合線路装置の上面導体を除去したときの破断上面図である。
【
図44B】
図44Aのスリット55sに代えて、線路L1,L2間結合の強さを調整するための構成例であって、導体板55Aに複数の結合用円形貫通ホール55hを形成した構成を示す縦断面図である。
【
図44C】
図44Aのスリット55sに代えて、線路L1,L2間結合の強さを調整するための構成例であって、導体板55Bに複数の結合用矩形貫通ホール55rを形成した構成を示す縦断面図である。
【
図45A】実施形態に係る非相反CRLH結合線路装置で用いる非相反CRLH線路L1の単位セル61を示すブロック図である。
【
図45B】実施形態に係る非相反CRLH結合線路装置で用いる非相反CRLH線路L2の単位セル62を示すブロック図である。
【
図46A】
図45Aの非相反CRLH線路L1の単位セル61をN
1個備えて構成された長さLの非相反CRLH線路L1の構成例を示すブロック図である。
【
図46B】
図45Bの非相反CRLH線路L2の単位セル62をN
2個備えて構成された長さLの非相反CRLH線路L2の構成例を示すブロック図である。
【
図47A】
図46Aの非相反CRLH線路L1を1つのブロックで簡単化して図示したブロック図である。
【
図47B】
図46Bの非相反CRLH線路L2を1つのブロックで簡単化して図示したブロック図である。
【
図48】
図47Aの非相反CRLH線路L1と、
図47Bの非相反CRLH線路L2とを互いに電磁的に結合するように近接して配置されて構成された非相反CRLH結合線路装置の構成例を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明にかかる実施形態及び変形例について図面を参照して説明する。なお、同一又は同様の構成要素については同一の符号を付している。
【0014】
(実施形態)
図1は実施形態に係る伝送線路マイクロ波装置において用いる非相反CRLH線路L1の単位セルの等価回路を示す回路図である。また、
図2は実施形態に係る伝送線路マイクロ波装置において用いる非相反CRLH線路L2の単位セルの等価回路を示す回路図である。
【0015】
本発明に係る実施形態で取り扱う伝送線路マイクロ波装置の結合線路を構成する1対の非相反CRLH線路L1及びL2は周期構造をなし、それぞれの単位構成要素である単位セルの等価回路を
図1及び
図2に示す。
図1及び
図2に示すように、非相反CRLH線路L1及びL2の単位セルを構成する回路素子には、それぞれ添え字1及び2を付けることにより区別している。
【0016】
図1の非相反CRLH線路L1において、端子T1と端子T2との間に、
(1)キャパシタンス2C
L1を有する直列枝容量性素子(容量性回路網でもよい)であるキャパシタ83と、
(2)線路長p
1/2を有する伝送線路部分81と、
(3)線路長p
1/2を有する伝送線路部分82と、
(4)キャパシタンス2C
L1を有する直列枝容量性素子(容量性回路網でもよい)であるキャパシタ84と、
の直列回路が接続される。伝送線路部分81,82の接続点86と接地端子T2,T4との間に、
(5)インダクタンスL
L1を有するシャント枝(並列枝)誘導性素子(誘導性回路網でもよい)であるインダクタ85が接続される。ここで、1対の端子T1,T2によりポートP1を構成し、1対の端子T3,T4によりポートP2を構成する。非相反CRLH線路L1の特性を表すパラメータとして、順方向(ポートP1からポートP2に向う方向をいう。)の伝搬定数及び特性インピーダンスをそれぞれβ
p1及びZ
p1とし、逆方向(ポートP2からポートP1に向う方向をいう。)のそれらをそれぞれβ
m1及びZ
m1としている。
【0017】
また、
図2の非相反CRLH線路L2において、端子T11と端子T12との間に、
(1)キャパシタンス2C
L2を有する直列枝容量性素子(容量性回路網でもよい)であるキャパシタ93と、
(2)線路長p
2/2を有する伝送線路91と、
(3)線路長p
2/2を有する伝送線路92と、
(4)キャパシタンス2C
L2を有する直列枝容量性素子(容量性回路網でもよい)であるキャパシタ94と、
の直列回路が接続される。伝送線路91,92の接続点96と接地端子T12,T14との間に、
(5)インダクタンスL
L2を有するシャント枝(並列枝)誘導性素子(誘導性回路網でもよい)であるインダクタ95が接続される。ここで、1対の端子T11,T12によりポートP3を構成し、1対の端子T13,T14によりポートP4を構成する。非相反CRLH線路L1の特性を表すパラメータとして、順方向(ポートP3からポートP4に向う方向をいう。)の伝搬定数及び特性インピーダンスをそれぞれβ
p2及びZ
p2とし、逆方向(ポートP4からポートP3に向う方向をいう。)のそれらをそれぞれβ
m2及びZ
m2としている。
【0018】
図3は
図1の非相反CRLH線路L1の分散曲線(第1のブリルアン(Brillouin)領域のみを示し、以下同様である。)の一例を示すグラフである。
図3以降の分散曲線において、分散曲線の横軸は位相定数βであり、縦軸は角周波数ωである。また、電磁波電力が正となる伝搬モードは実線で示され、負となる伝搬モードは点線で示されている。
図1に示すように、非相反CRLH線路L1において、非相反伝送線路部分が含まれており、順方向の位相定数、特性インピーダンスをそれぞれβ
p1,Z
p1、逆方向の位相定数、特性インピーダンスをβ
m1,Z
m1としている。この順方向と逆方向の位相定数が一致する場合、CRLH線路の非相反性は消失し、相反性を示す。
【0019】
ここで、CRLH線路が相反性を示す場合、CRLH線路の分散曲線は縦軸である角周波数ω軸に関して、線対称となる。一方、非相反CRLH線路L1の場合、分散曲線の対称軸は周波数軸に対して、位相定数βが、非相反性
【数1】
だけ増加する方向にシフトする。
図3においては、簡単のため、一例として非相反性Δβ
1が正の値で周波数に依存せず一定の場合を示している。この場合、
図3の分散曲線は、伝搬定数β=Δβ
1の直線に関して、線対称となっている。しかしながら、一般に、非相反性Δβ
1は周波数に依存し、一定でないことから、
図3のようにはならず、分散曲線は非対称となる。
【0020】
図1の非相反CRLH線路L1の単位セルにおいて、一般に、直列枝の直列共振周波数ω
seと、シャント枝の並列共振周波数ω
shとは一致しないので、これら2つの周波数ω
se,ω
shで挟まれる帯域において、電磁波伝搬が許されず、バンドギャップBG1を生じる。
図3の非相反CRLH線路L1の分散曲線においては、角周波数ω
ΔL1=min(ω
se,ω
sh)と、角周波数ω
ΔH1=max(ω
se,ω
sh)に挟まれた帯域がこのバンドギャップBG1に対応する。一方、直列枝の直列共振周波数ω
seとシャント枝の並列共振周波数ω
shとが一致する特別な場合には、このバンドギャップは消失し、より広帯域の電磁波伝搬帯域が形成される(後述の
図16参照)。
【0021】
図4は
図2の非相反CRLH線路L2の分散曲線の一例を示すグラフである。
図2で示したように、非相反CRLH線路L2の両端の入出力用端子をポートP3及びポートP4とし、非相反CRLH線路L2の端子P3,P4のうち、非相反CRLH線路L1のポートP1に近い端子をポートP3とする。このとき、非相反CRLH線路L1の場合と同様に、ポートP3からポートP4に向う方向が正方向となる一方、ポートP4からポートP3に向う方法が逆方向となる。
図4において、電磁波電力が正となる伝搬モードは一点鎖線、負となる伝搬モードは二点鎖線で示されている。
【0022】
図2の非相反CRLH線路L2の非相反性
【数2】
は一般に、非相反CRLH線路L1の非相反性Δβ
1と異なる。
図4においては、簡単のため、一例としてΔβ
2が正の値で周波数に依存せず一定の場合を示しているが、一般に、非相反性Δβ
2は周波数に依存し一定でないことから、
図4のようにはならず、分散曲線は非対称となる。
【0023】
図5は、実施形態に係る伝送線路マイクロ波装置であって、互いに電磁的に結合された1対の非相反CRLH線路L1,L2の各単位セルの等価回路を示す回路図である。ここで、簡単のため、結合線路を構成するL1及びL2の単位セルの線路長が同じでpである場合を考え、非相反CRLH線路L1及びL2からなる本実施形態に係る結合線路装置の単位セルあたりの等価回路モデルを
図5に示している。また、結合線路装置の単位セル当たりの結合キャパシタ87のキャパシタスをC
M、相互インダクタンスをL
Mとしている。ここで、キャパシタ87は接続点86と接続点96との間に接続され、伝送線路部分81と91とが相互インダクタンスをL
M/2で結合され、伝送線路部分82と92とが相互インダクタンスをL
M/2で結合される。なお、結合線路装置を構成する非相反CRLH線路L1及びL2の単位セル数は一般に、同一である必要はない、つまり、各線路の単位セルの線路長p1及びp2は一致する必要はない(
図45、
図46、
図47参照)。
【0024】
図6は、
図5の伝送線路マイクロ波装置において、電磁的結合が無く、0<Δβ
2<Δβ
1のときに1対の非相反CRLH線路L1,L2の分散曲線を重ねたときのグラフである。
図6から明らかなように、非相反CRLH線路L1とL2の分散曲線は、それぞれバンドギャップBG1,BG2を形成しており、2箇所の角周波数ω
C1及びω
C2で交差する。
【0025】
図7は、
図5の伝送線路マイクロ波装置において、電磁的結合が有り、0<Δβ
2<Δβ
1のときに1対の非相反CRLH線路L1,L2の分散曲線を重ねたときのグラフである。
図7から明らかなように、非相反CRLH線路L1とL2間の電磁的結合が無視できない場合、2種類の分散曲線が交差する
図6の角周波数ω
C1及びω
C2の付近で、それぞれ結合が生じ、バンドギャップBG3,BG4を形成する。
【0026】
図7において、2つの非相反CRLH線路L1及びL2間の電磁的結合により新たに形成された2つのバンドギャップBG3,BG4のうち、低周波側の角周波数ω
C1付近のバンドギャップBG3において、下側カットオフ角周波数をω
GL1、上側カットオフ角周波数をω
GH1とする。高周波側の角周波数ω
C2付近のバンドギャップBG4においては、下側カットオフ角周波数をω
GL2、上側カットオフ角周波数をω
GH2とする。
【0027】
図8は、
図5の伝送線路マイクロ波装置において、電磁的結合が無く、Δβ
2<0及び0<Δβ
1のときに1対の非相反CRLH線路L1,L2の分散曲線を重ねたときのグラフである。
図8から明らかなように、非相反CRLH線路L1とL2の分散曲線は、それぞれバンドギャップBG1,BG2を形成しており、異なる2つの角周波数ω
C1及びω
C2で交差する。
【0028】
図9は、
図5の伝送線路マイクロ波装置において、電磁的結合が有り、Δβ
2<0及び0<Δβ
1のときに1対の非相反CRLH線路L1,L2の分散曲線を重ねたときのグラフである。
図9から明らかなように、非相反CRLH線路間L1とL2間の電磁的結合が無視できない場合、2種類の分散曲線が交差する
図8の角周波数ω
C1及びω
C2の付近で、それぞれ結合が生じ、バンドギャップBG3,BG4を形成する。
【0029】
図9において、2つの非相反CRLH線路L1及びL2間の電磁的結合により新たに形成された2つのバンドギャップBG3,BG4のうち、低周波側の角周波数ω
C1付近のバンドギャップBG3において、下側カットオフ角周波数をω
GL1、上側カットオフ角周波数をω
GH1とする。高周波側の角周波数ω
C1付近のバンドギャップBG4において、下側カットオフ角周波数をω
GL2、上側カットオフ角周波数をω
GH2とする。
【0030】
本発明に係る実施形態では、2つの非相反CRLH線路L1,L2間の電磁的結合により新たに形成される前記2つのバンドギャップ(BG3,BG4)帯域を利用して、サーキュレータ動作を実現する。2周波でサーキュレータ動作するためには、非相反CRLH線路L1とL2の分散曲線の交点での角周波数ωC1とωC2を大きく離して設計することが望ましい。また、そのためには、非相反性の差|Δβ2-Δβ1|を所定のしきい値以上になるように大きくする必要がある。
【0031】
サーキュレータ装置の広帯域動作のためには、より大きなバンドギャップを形成するような設計法が望ましい。典型的な例として、非相反性Δβ
1,Δβ
2が0<Δβ
2<Δβ
1を満たす
図7の場合と、非相反性がΔβ
1>0及びΔβ
2<0を満たす
図9の場合を示したが、どちらの場合であっても、電磁的結合によりバンドギャップが形成され、サーキュレータ動作を獲得することが可能である。ただし、同じ動作帯域、帯域幅のバンドギャップを獲得する上で、非相反性の差|Δβ
2-Δβ
1|が同じとなる条件で比較すると、
図7の場合には、2つの非相反性がともに正であるので、
図9の場合に比べて、より大きな非相反性を必要とし、設計条件がより厳しくなる。
図9の場合のように、2本の非相反CRLH線路の非相反性の符号を反転させて、各線路の非相反性をできるだけ所定のしきい値以下に小さくし、かつ非相反性の差|Δβ
2-Δβ
1|を所定のしきい値以上に大きくすることが望ましい。
【0032】
具体的には、非相反性Δβ1,Δβ2の好ましい関係は以下の場合である。
(1)0<Δβ2<Δβ1を満たす場合と、
(2)Δβ1>0及びΔβ2<0を満たす場合と、
(3)0<Δβ1<Δβ2を満たす場合と、
(4)Δβ2<Δβ1<0を満たす場合と、
(5)Δβ1<0及びΔβ2>0を満たす場合と、
(6)Δβ1<Δβ2<0を満たす場合と、
のいずれかである。また、後者の好ましい場合は、具体的に以下の通りである。非相反性Δβ1と、非相反性Δβ2とは、
(1)各非相反性Δβ1,Δβ2の符号を互いに反転させて、
(2)各非相反性Δβ1,Δβ2を所定値以下となるように設定し、かつ
(3)各非相反性の差の絶対値|Δβ2-Δβ1|を大きくする、
ように設定する。
【0033】
図10は、電磁的結合が無い
図8の分散曲線において、位相定数及び角周波数が所定の特別な場合における分散曲線を示すグラフである。また、
図11は、電磁的結合がある
図9の分散曲線において、位相定数及び角周波数が所定の特別な場合における分散曲線を示すグラフである。
【0034】
すなわち、
図8及び
図9の特別な場合として、非相反CRLH線路L1及びL2の直列枝の直列共振周波数及びシャント枝の並列共振周波数が一致して、
【数3】
【数4】
を満たし、かつ、非相反性の大きさが同じで、符号が反転した
【数5】
を満たす場合を、それぞれ
図10、
図11に示す。
【0035】
サーキュレータ装置の広帯域動作のためには、より大きなバンドギャップを形成するように設計することが望ましいが、2周波のどちらのバンドギャップ帯域も、非相反CRLH線路の直列枝の直列共振周波数とシャント枝の並列共振周波数とが一致していないことによって生じる角周波数ω
ΔLからω
ΔHの間のバンドギャップの影響を受ける。ここで、サーキュレータ装置の広帯域動作のためには、このバンドギャップを消去しておくことが望ましい。各非相反CRLH線路において、直列枝の直列共振周波数とシャント枝の並列共振周波数を一致させることにより、バンドギャップを消失させ、分散曲線が1点で交わるような点を、「ディラク点Dp」を呼ぶ(後述の
図16参照)。
【0036】
以下、具体的な非相反CRLH結合線路を用いた伝送線路マイクロ波装置の構成例を示す。
【0037】
図12は、実施形態に係る4ポートサーキュレータ装置を構成する伝送線路マイクロ波装置の外観を示す斜視図であり、
図13は
図12の上面図であり、
図14Aは
図13のA-A’線についての縦断面図である。
図12~
図14Aに示すように、1対の非相反CRLH線路L1及びL2からなる結合線路により、4ポートサーキュレータ装置を構成する。ここで、非相反CRLH線路L1,L2は互いに電磁的に結合するように近接に配置されており、各非相反CRLH線路L1,L2には基板の一部として、垂直方向に磁化された直方体形状のフェライトロッド30が埋め込まれている。
【0038】
図12~
図14Aにおいて、裏面に接地導体11を有する誘電体基板10およびフェライトロッド30の上面において、ポートP1のストリップ導体12P1と、複数個のストリップ導体12と、ポートP2のストリップ導体12P2とが、それらの長手方向がフェライトロッド30の長手方向(線路方向)に実質的に平行になるように形成される。
(1)ストリップ導体12P1とストリップ導体12との間の間隙において、それらを接続する直列枝のチップキャパシタ16Pが配置され、
(2)互いに隣接するストリップ導体12,12間の各間隙において、それらを接続する直列枝のチップキャパシタ16が配置され、
(3)ストリップ導体12P2とストリップ導体12との間の間隙において、それらを接続する直列枝のチップキャパシタ16Pが配置される。
ここで、ストリップ導体12,12P1,12P2と、これらに対して、フェライトロッド30又は誘電体基板10を介して対向する接地導体11とにより、マイクロストリップ線路を構成する。また、各ストリップ導体12の外側縁端中央部には、各ストリップ導体12の長手方向に対して実質的に直交する方向に延在するストリップ導体13が接続され、当該ストリップ導体13の他端は、誘電体基板10を厚さ方向に貫通して形成されるビア導体14を介して接地導体11に接続される。ここで、ストリップ導体13と、ビア導体14とにより、シャント枝の誘導性素子として動作するスタブ導体15を構成する。以上のように構成することで、非相反CRLH線路L1を形成する。
【0039】
なお、「外側」とは、各非相反CRLH線路L1、L2の幅方向の中央部から見て、電磁的に結合する他方の伝送線路に向かう幅方向とは反対方向をいい、全体の結合線路装置の幅方向の中央部に向かう方向であって、電磁的に結合する他方の伝送線路に向かう幅方向を「内側」という。
【0040】
また、誘電体基板10およびフェライトロッド30の上面において、ポートP3のストリップ導体22P3と、複数個のストリップ導体22と、ポートP4のストリップ導体22P2とが、それらの長手方向がフェライトロッド30の長手方向(線路方向)に実質的に平行になるように形成される。
(1)ストリップ導体22P1とストリップ導体22との間の間隙において、それらを接続する直列枝のチップキャパシタ26pが配置され、
(2)互いに隣接するストリップ導体22,22間の各間隙において、それらを接続する直列枝のチップキャパシタ26が配置され、
(3)ストリップ導体22P2とストリップ導体22との間の間隙において、それらを接続する直列枝のチップキャパシタ26pが配置される。
ここで、ストリップ導体22,22P1,22P2と、これらに対して、フェライトロッド30又は誘電体基板10を介して対向する接地導体11とにより、マイクロストリップ線路を構成する。また、各ストリップ導体22の外側縁端中央部には、各ストリップ導体22の長手方向に対して実質的に直交する方向に延在するストリップ導体23が接続され、当該ストリップ導体23の他端は、誘電体基板10を厚さ方向に貫通して形成されるビア導体24を介して接地導体11に接続される。ここで、ストリップ導体23と、ビア導体24とにより、シャント枝の誘導性素子として動作するスタブ導体25を構成する。以上のように構成することで、非相反CRLH線路L2を形成する。
【0041】
図13の上面図において、1つのブロックからなる垂直磁化フェライトロッド30が埋め込まれた誘電体基板10上に2本の非相反CRLH線路L1及びL2を近接させて配置し、結合線路装置を構成している。非相反CRLH線路L1は入出力端子としてポートP1及びポートP2を有し、非相反CRLH線路L2はポートP3及びポートP4を有する。どちらの非相反CRLH線路L1,L2もマイクロストリップ線路を含むように構成されており、直列枝及びシャント枝に対して、それぞれ周期的にキャパシタ16,16P又は26,26P及び誘導性スタブ導体15,25が挿入されている。
【0042】
以上のように構成された
図12~
図14Aの構成例では、接地導体11からストリップ導体12に向う垂直方向に内部磁化されたフェライトロッド30を誘電体基板10に埋め込んでいる。本発明はこれに限らず、変形例に係る
図14Bに示すように、フェライトロッド30の例えば下側に載置された、電磁石31(又は永久磁石)により外部磁界を、接地導体11からストリップ導体12に向う垂直方向に外部磁界を発生して各非相反CRLH線路L1,L2に対して印加してもよい。
図14Bにおいて、電磁石31は、例えば、接地導体11と対向する側においてN極を有し、その反対側(
図14Bにおいて下側)においてS極を有する。
【0043】
図15は、従来例に係るCRLH線路に沿って伝搬する電磁波の分散曲線の一例であって、直列枝の直列共振周波数ω
seとシャント枝の並列共振周波数ω
shが異なる場合の分散曲線を示すグラフである。
図15において、分散曲線の横軸は位相定数β、縦軸は角周波数ωである。
図15から明らかなように、後進波が伝搬する周波数帯ω≦ω
ΔLと、前進波が伝搬する周波数帯ω≧ω
ΔHの間の周波数帯域において、電磁波が伝搬不可のバンドギャップが生じる。この分散曲線のうち、微分係数∂ω/∂βが正となる部分を実線で、負となる部分を点線で区別している。この微分係数は線路に沿って伝搬する電磁波の群速度に対応し、伝送電力の方向を意味する。以下では、+x方向を正方向に選択するものとする。
【0044】
図16は、従来例に係るCRLH線路に沿って伝搬する電磁波の分散曲線の別の一例であって、直列枝の直列共振周波数ω
seとシャント枝の並列共振周波数ω
shが互いに一致する場合の分散曲線を示すグラフである。
図16の場合においては、後進波が伝搬する周波数帯域ω≦ω
ΔLと、前進波が伝搬する周波数帯域ω≧ω
ΔHとが連続的に接続されることから、バンドギャップは消失する。また、角周波数ω=ω
ΔL=ω
ΔH=ω
Dにおいて、2本の分散曲線がバンドギャップを形成することなく交差し、ディラク点Dpと呼ばれる。
【0045】
図17は、従来例に係る1対のCRLH線路からなる対称結合線路装置の分散曲線を示すグラフである。
図16のような分散性を有する1対の等価なCRLH線路L1,L2を互いに電磁的結合するように近接させて、
図12及び
図13のように配置して結合線路装置を構成すると、右手系伝送帯域及び左手系伝送帯域において、それぞれ偶モード及び奇モードが生じる。さらに、位相定数βがゼロとなるΓ点において形成されていた角周波数ω
Dのディラク点Dp付近において、モード結合の結果、
図17に示すように、大きなバンドギャップBGが生じる。ここで、バンドギャップBGの下側カットオフ周波数をω
GL、上側カットオフ周波数をω
GHとする。
【0046】
図18は、
図17の対称結合線路装置において、電磁的結合によって形成されたバンドギャップBG内の周波数を動作点として選択し、線路L1のポートP1を入力端子とした場合の電磁波電力の流れを示す上面図である。
【0047】
図18において、ポートP1から入力したマイクロ波信号の電磁波は、伝送線路L1に沿ってポートP1からポートP2に向かって伝搬しようとするが、偶奇モードどちらも伝搬不可なので、逆戻りすることとなる。このとき、伝送線路L1に沿ったままポートP1に向かって戻るのではなく、伝送線路L1とL2とが互いに電磁的に結合している結果、伝送線路L1に沿って伝搬する電磁波のエネルギーは次第に減少し、伝送線路L2にエネルギーが移動し、ポートP3に向かって逆向きに伝搬する。結合線路装置の線路長が長いほど、伝送線路L1から伝送線路L2へのエネルギー変換効率は上昇する。以上の結果、ポートP1から入力したマイクロ波信号の電磁波電力の大部分はポートP3から出力される結果となる。同様に、線路構造の対称性から、伝送線路L2のポートP4から入力したマイクロ波信号の電磁波電力の大部分は、伝送線路L1のポートP2から出力される。
【0048】
図19は、
図17の対称結合線路装置において、動作点としてバンドギャップBG内の周波数を選択し、線路L2のポートP3を入力端子とした場合の電磁波電力の流れを示す上面図である。
図19において、ポートP3から入力したマイクロ波信号の電磁波は、伝送線路L2に沿って伝搬しようとするが、偶奇モードどちらも伝搬不可のため、逆戻りすることとなる。このとき、伝送線路L1とL2とが電磁的に結合しているため、そのままポートP3を逆戻りするのではなく、伝送線路L1のポートP1に向かって伝搬することとなる。以上の結果、ポートP3から入力したマイクロ波信号の電磁波電力の大部分はポートP1から出力される結果となる。線路構造の対称性から、伝送線路L1のポートP2から入力したマイクロ波信号の電磁波の大部分は、伝送線路L2のポートP4から出力される。
【0049】
図20は、実施形態に係る
図13の非相反対称結合線路装置を構成する1本の非相反CRLH線路L1の分散曲線を示すグラフである。なお、隣接するもう1つの伝送線路L2の影響が小さい(つまり電磁的結合が小さい)場合を考えている。フェライトロッド30を有する誘電体基板10(又はフェライト基板)は+z方向(基板平面と直交する垂直方向)に磁化され、スタブ導体15が
図13のように片側のみ非対称に挿入されている場合、位相定数βに現れる非相反性はΔβ>0となり、2本の分散曲線の交点であるディラク点Dp1は縦軸の角周波数軸に対して右側にシフトする。
【0050】
図21は、実施形態に係る
図13の非相反対称結合線路装置を構成するもう1本の非相反CRLH線路L2の分散曲線を示すグラフである。なお、隣接する他方の伝送線路L1の影響が小さい(つまり電磁的結合が小さい)場合の分散特性を考えている。フェライトロッド30を有する誘電体基板10(又はフェライト基板)が+z方向(垂直方向)に磁化し、スタブ導体25が
図13に示すように、伝送線路L1と逆方向側に片側のみ非対称に挿入されている場合、位相定数βに現れる非相反性はΔβ<0となり、2本の分散曲線の交点であるディラク点Dp2は縦軸の角周波数軸に対して左側にシフトする。
【0051】
図22は、
図20の分散曲線と
図21の分散曲線との重ね合わせた分散曲線を示すグラフである。
図22において、非相反CRLH線路L1の分散曲線を実線と点線で、非相反CRLH線路L2の分散曲線を一点鎖線と二点鎖線で示している。非相反性Δβが大きくなると、2つのディラク点Dp1,Dp2は電磁的結合による影響を受けなくなる。一方で、非相反CRLH線路L1及びL2の分散曲線の間で2つの交点がΓ点(位相定数β=0となるω軸)上に現れる。
図22では、この2つの交点角周波数を、低い交点角周波数から順に、下側交点角周波数ω
C1、上側交点角周波数ω
C2とおく。
【0052】
図23は、1対の非相反CRLH線路L1,L2からなる対称結合線路装置の分散曲線の概略を示すグラフである。
図22の下側交点角周波数ω
C1及び上側交点角周波数ω
C2の近傍において、それぞれ異なる2種類のモード間で結合が生じ、バンドギャップが形成される。下側の交点角周波数ω
C1付近では、非相反CRLH線路L1に沿って(電力の向きが)ポートP1からポートP2に向かって順方向に伝搬するモード(実線)と、線路L2に沿ってポートP4からポートP3に向かって逆方向に伝搬するモード(二点鎖線)とが結合し、角周波数ω
GL1≦ω≦ω
GH1の範囲に亘りバンドギャップが形成される。一方、上側交点角周波数ω
C2付近では、非相反CRLH線路L2に沿ってポートP3からポートP4に向かって順方向に伝搬するモード(一点鎖線)と、線路L1に沿ってポートP2からポートP1に向かって逆方向に伝搬するモード(点線)とが結合し、角周波数ω
GL2≦ω≦ω
GH2の範囲に亘りバンドギャップが形成される。
【0053】
図24は、
図23の下側のバンドギャップBG12内(角周波数ω
GL1≦ω≦ω
GH1の範囲)での動作において、マイクロ波信号をポートP3から入力した場合の電磁波伝搬の様子を示す上面図である。
図23の分散曲線からわかるように、ω
GL1≦ω≦ω
GH1の角周波数範囲においては、非相反CRLH線路L2に沿ってポートP3からポートP4に向かって伝搬するモード(一点鎖線)が存在するため、
図24に示すように、入力したマイクロ波信号の電磁波電力の大部分は、ポートP4から出力される。
【0054】
図25は、
図23の下側のバンドギャップBG12内(角周波数ω
GL1≦ω≦ω
GH1の範囲)での動作において、マイクロ波信号をポートP2から入力した場合の電磁波伝搬の様子を示す上面図である。
図23の分散曲線からわかるように、ω
GL1≦ω≦ω
GH1の角周波数範囲においては、非相反CRLH線路L1に沿ってポートP2からポートP1に向かって伝搬するモード(点線)が存在するため、
図25に示すように、入力したマイクロ波信号の電磁波電力の大部分は、ポートP1から出力される。
【0055】
図26は、
図23の下側のバンドギャップBG12内(角周波数ω
GL1≦ω≦ω
GH1の範囲)での動作において、マイクロ波信号をポートP1から入力した場合の電磁波伝搬の様子を示す上面図である。
図23の分散曲線からわかるように、該当周波数範囲においては、非相反CRLH線路L1に沿ってポートP1からポートP2に向かって伝搬するモード(実線)は存在しない。非相反CRLH線路L1に沿ってポートP1からポートP2に向かって伝搬するモードは、非相反CRLH線路L2に沿って逆向きのポートP4からポートP3に向かって伝搬するモード(二点鎖線)と結合しているため、ポートP1から入力したマイクロ波信号の電磁波は非相反CRLH線路L1に沿って伝搬するにつれてエネルギーを失い、当該電磁波のエネルギーは非相反CRLH線路L2側に移動し、ポートP4からポートP3に向かって伝搬する。結合線路装置の線路長が長くなると、非相反CRLH線路L1から非相反CRLH線路L2へのエネルギー変換効率は高くなる。以上の結果、結合線路装置の線路長が十分確保されれば、ポートP1から入力された電磁波電力の大部分は、ポートP3から出力される。
【0056】
図27は、
図23の下側のバンドギャップBG12内(角周波数ω
GL1≦ω≦ω
GH1の範囲)での動作において、マイクロ波信号をポートP4から入力した場合の電磁波伝搬の様子を示す上面図である。
図23の分散曲線からわかるように、当該周波数範囲においては、非相反CRLH線路L2に沿って逆向きのポートP4からポートP3に向かって伝搬するモード(二点鎖線)は存在しない。非相反CRLH線路L2に沿ってポートP4からポートP3に向かって伝搬するモードは、非相反CRLH線路L1に沿って順方向のポートP1からポートP2に向かって伝搬するモード(実線)と結合しているため、ポートP4から入力したマイクロ波信号の電磁波はL2に沿って伝搬するにつれてエネルギーを失い、当該電磁波のエネルギーは非相反CRLH線路L1側に移動するとともに、ポートP1からポートP2に向かって伝搬する。結合線路装置の線路長が長いほど、非相反CRLH線路L2から非相反CRLH線路L1へのエネルギー変換効率は上昇する。以上の結果、結合線路装置の長さが十分確保されれば、ポートP4から入力されたマイクロ波信号の電磁波電力の大部分は、ポートP2から出力される。
【0057】
以上説明したように、
図24から
図27までの装置動作をまとめると、下側のバンドギャップ内(角周波数ω
GL1≦ω≦ω
GH1の範囲)での動作の場合、マイクロ波信号をポートP1から入力するとポートP3から出力し、マイクロ波信号をポートP3から入力するとポートP4から出力する。同様に、マイクロ波信号をポートP4から入力するとポートP2から出力し、マイクロ波信号をポートP2から入力するとポートP1から出力する。以上のことからわかるように、本発明に係る実施形態の1対の非相反CRLH線路L1,L2からなる対称結合線路装置は、上から見ると、順方向が時計回りとなる4ポートサーキュレータ装置として動作する。
【0058】
図28は、
図23の上側のバンドギャップBG11内(角周波数ω
GL2≦ω≦ω
GH2の範囲)での動作において、マイクロ波信号をポートP1から入力した場合の電磁波伝搬の様子を示す上面図である。
図23の分散曲線からわかるように、ω
GL2≦ω≦ω
GH2の角周波数範囲においては、非相反CRLH線路L1に沿ってポートP1からポートP2に向かって伝搬するモード(実線)が存在するため、
図28に示すように、入力したマイクロ波信号の電磁波電力の大部分は、ポートP2から出力される。
【0059】
図29は、
図23の上側のバンドギャップBG11内(角周波数ω
GL2≦ω≦ω
GH2の範囲)での動作において、マイクロ波信号をポートP4から入力した場合の電磁波伝搬の様子を示す上面図である。
図23の分散曲線からわかるように、ω
GL2≦ω≦ω
GH2の角周波数範囲においては、非相反CRLH線路L2に沿ってポートP4からポートP3に向かって伝搬するモード(二点鎖線)が存在するため、入力したマイクロ波信号の電磁波電力の大部分は、ポートP3から出力される。
【0060】
図30は、
図23の上側のバンドギャップBG11内(角周波数ω
GL2≦ω≦ω
GH2の範囲)での動作において、マイクロ波信号をポートP3から入力した場合の電磁波伝搬の様子を示す上面図である。
図23の分散曲線からわかるように、該当周波数範囲においては、非相反CRLH線路L2に沿ってポートP3からポートP4に向かって伝搬するモード(一点鎖線)は存在しない。非相反CRLH線路L2に沿ってポートP3からポートP4に向かって伝搬するモードは、非相反CRLH線路L1に沿って逆向きのポートP2からポートP1に向かって伝搬するモード(点線)と結合しているため、ポートP3から入力したマイクロ波信号は非相反CRLH線路L2に沿って伝搬するにつれてエネルギーを失い、マイクロ波信号の電磁波のエネルギーは非相反CRLH線路L1側に移動し、ポートP2からポートP1に向かって伝搬する。結合線路装置の線路長が長いほど、非相反CRLH線路L2から非相反CRLH線路L1へのエネルギー変換効率は高くなる。以上の結果、結合線路装置の長さが十分確保されれば、ポートP3から入力されたマイクロ波信号の電磁波電力の大部分は、ポートP1から出力される。
【0061】
図31は、
図23の上側のバンドギャップBG11内(角周波数ω
GL2≦ω≦ω
GH2の範囲)での動作において、マイクロ波信号をポートP2から入力した場合の電磁波伝搬の様子を示す上面図である。
図23の分散曲線からわかるように、該当周波数範囲においては、非相反CRLH線路L1に沿って逆向きのポートP2からポートP1に向かって伝搬するモード(点線)は存在しない。非相反CRLH線路L1に沿ってポートP2からポートP1に向かって伝搬するモードは、非相反CRLH線路L2に沿って順方向のポートP3からポートP4に向かって伝搬するモード(一点鎖線)と結合しているため、ポートP2から入力したマイクロ波信号は非相反CRLH線路L1に沿って伝搬するにつれてエネルギーを失い、当該マイクロ波信号の電磁波のエネルギーは非相反CRLH線路L2側に移動し、ポートP3からポートP4に向かって伝搬する。結合線路装置の線路長が長いほど、非相反CRLH線路L1から非相反CRLH線路L2へのエネルギー変換効率は高くなる。以上の結果、結合線路装置の線路長が十分確保されれば、ポートP2から入力されたマイクロ波信号の電磁波電力の大部分は、ポートP4から出力される。
【0062】
以上説明したように、
図28から
図31までの装置動作をまとめると、上側のバンドギャップ内(角周波数ω
GL2≦ω≦ω
GH2の範囲)での動作の場合、マイクロ波信号をポートP1から入力するとポートP2から出力し、マイクロ波信号をポートP2から入力するとポートP4から出力する。同様に、マイクロ波信号をポートP4から入力するとポートP3から出力し、マイクロ波信号をポートP3から入力するとポートP1から出力する。以上のことからわかるように、本発明に係る実施形態の1対の非相反CRLH線路L1,L2からなる対称結合線路装置は、下側のバンドギャップ内での動作とは逆に、上から見て、反時計回りを順方向とする4ポートサーキュレータ装置として動作する。
【0063】
以上説明したように、
図24から
図31までの装置動作をまとめると、2周波において、4ポートサーキュレータ装置として動作する。但し、下側と上側の動作帯域で、順方向となる回転方向、つまり入出力ポートの関係が入れ替わる。
【0064】
なお、実施形態に係る4ポート非相反結合線路装置において、外部磁界もしくはフェライトロッド30の磁化方向を反転させると、2つの非相反線路L1及びL2の非相反性の符号が入れ替わる。その結果、サーキュレータ装置として動作する下側及び上側帯域において、順方向となる回転方向が入れ替わる。
【実施例】
【0065】
次に、本発明に係る実施形態に係る4ポート非相反結合線路装置の動作を可能とする線路構造及び構造パラメータの実施例を以下に示す。
【0066】
図12~
図14Aに示すように、裏面に接地導体11を有する誘電体基板10内に、誘電体基板10の一部として厚さ0.8mm、幅4.0mm、長さ18.5mmのフェライトロッド(又はフェライトブロック)30を配置し、その周りには厚さ0.8mmの誘電体基板10が存在する。フェライトロッド30上には、その長手方向の辺に平行となるように幅1.8mmの1対の金属ストリップ導体12,22を装荷して、接地導体11とともにマイクロストリップ線路を構成する。各マイクロストリップ線路に対して、長手方向に周期的に容量0.4pFの直列枝キャパシタ16,26を挿入する。また、フェライトロッド30に隣接して置かれた誘電体基板10上に、幅0.8mm、長さ0.2mmの誘導性短絡スタブ導体15,25(ストリップ導体13,23と、ビア導体14,24とから構成される)を構成し、ここで、当該誘導性短絡スタブ導体15,25を前記の各マイクロストリップ線路に対して、周期p=3.6mmで周期的に挿入することで、1対の非相反CRLH線路L1,L2を構成する。ここで、1対の非相反CRLH線路L1,L2は、線路間距離0.4mmで互いに電磁的に結合するように近接して配置されており、結合線路装置として動作する。1対の非相反CRLH線路L1,L2の両端には、それぞれ線路幅が連続的に変化するテーパ状のストリップ導体12P1,12P2,12P3,12P4を含むインピーダンス整合用マイクロストリップ線路が接続され、特性インピーダンス50Ωの線路で給電可能な4ポート回路となっている。
【0067】
結合線路装置の特性を示す前に、まず、1本の非相反CRLH線路L1又はL2の分散曲線の実施例の特性例を
図32に示す。ここで、
図32は電磁界シミュレーションによる数値計算結果を表している。透過係数の位相特性から単位セルあたりの位相変化に換算して、分散曲線を求めている。フェライトロッド30は軟磁性体であるとし、外部から直流磁界が印加されていない場合、フェライト内部の実効磁化はゼロで誘電体として動作する。この場合、線路に沿って伝搬する電磁波は相反性を示す。
図32の結果からわかるように、周波数6.3GHzにおいてディラク点Dpが形成されている。
【0068】
図33は、
図32の分散特性をそれぞれ有する1対のCRLH線路を電磁的に結合するように近接配置させ結合線路装置を構成し、当該結合線路装置内の各CRLH線路部分の単位セル数を5個とした場合の散乱パラメータの周波数特性(伝送周波数特性)を示すスペクトル図である。
【0069】
図33から明らかなように、
図32のディラク点Dpに対応する周波数6.3GHzを中心に、周波数f
GL=5.5GHzから周波数f
GH=7.0GHzまでの周波数領域において、散乱パラメータの透過係数S
21が大きく低下しており、一方で散乱パラメータS
31及びS
13の値が大きくなっていることが確認できる。このことは、非相反CRLH線路L1及びL2間の電磁的な結合によるバンドギャップBGが同帯域で形成されていることを意味している。動作周波数としてこのバンドギャップBG内の周波数を選択する場合、非相反CRLH線路L1のポートP1から入力したマイクロ波信号は、非相反CRLH線路L1に沿って伝搬することができず、非相反CRLH線路L2と結合し、マイクロ波信号の伝送電力は非相反CRLH線路L1から非相反CRLH線路L2に移動し、ポートP3から出力される。同様に、非相反CRLH線路L2のポートP3から入力したマイクロ波信号は、非相反CRLH線路L2に沿って伝搬することができず、非相反CRLH線路L1と結合し、マイクロ波信号の伝送電力は非相反CRLH線路L2から非相反CRLH線路L1に移動し、ポートP1から出力される。以上の結果、CRLH線路L1とL2間の電磁的結合を表す散乱結合透過係数S
31及びS
13は、バンドギャップBG内において、-3dB以上の強結合となっている。
【0070】
図34は、前記結合線路装置のフェライトロッド30を有する誘電体基板10に対して、垂直方向に直流磁界が印加された場合の1本のCRLH線路L1の分散曲線の一例を示すグラフである。フェライトロッド30内の磁化及び内部印加磁界は、誘電体基板10に対して垂直方向で+z方向を向いている場合である。ここで、CRLH線路構造は例えば
図12~
図14Aの非相反CRLH線路L1に対応し、ポートP1及びポートP2から入力した場合の分散曲線を、それぞれ実線及び点線で示している。ここで、
図34は直流磁化又は内部直流磁界の場合を示している。
図34からわかるように、直流磁界を+z方向に印加することにより、ディラク点Dpの動作周波数は高周波側に移動して、周波数f
D=7GHzとなり、非相反性は正の値を示し、Δβ・p/π=0.2となっている。
【0071】
図35は、
図34の分散曲線と、
図12~
図14Aの非相反CRLH線路L2の分散曲線とを重ねて示したグラフである。
図35から明らかなように、
図2の非相反CRLH線路L1とL2の分散曲線の相違は、2本の線路構造の非対称性に起因しており、誘導性スタブ導体15,25の挿入されるストリップ導体エッジの側が左右入れ替わっている。このとき、非相反性の大きさは同じであるが、符号が反転する結果となる。
図35では、非相反CRLH線路L1の分散曲線を実線と点線で、非相反CRLH線路L2の分散曲線を一点鎖線と二点鎖線で表している。非相反CRLH線路L1とL2の分散曲線はどちらも同じ周波数でディラク点Dp1,Dp2をもち、周波数f
D=7GHzとなっている。
図35からわかるように、非相反CRLH線路L1とL2の分散曲線は、位相定数がゼロとなるΓ点の2箇所で交差し、結合を生じる。非相反性のない場合、非相反CRLH線路L1とL2の分散曲線は全く同一であるのに対して、伝搬特性の異なる2本の非相反CRLH線路L1とL2からなる結合線路装置の場合、ディラク点Dp1,Dp2の上側及び下側の2周波で分散曲線が交差し、それぞれの点で結合が生じる。下側及び上側の交点周波数をf
C1及びf
C2とおくと、
図35より、交点周波数f
C1=5.8GHz、交点周波数f
C2=8GHzとなることがわかる。
【0072】
図36は、実施形態に係る
図13の非相反CRLH結合線路装置の散乱パラメータの周波数特性(伝送周波数特性)を示すスペクトル図である。
【0073】
図35の分散曲線の交点周波数f
C1=5.8GHz及びf
C2=8GHzの周波数付近で結合が生じ、
図23で説明したようなバンドギャップBG11,BG12を生じる。その結果、交点周波数f
C1=5.8GHzを中心とする下側バンドギャップBG12の周波数帯域(周波数f
GL1=5.3GHzから周波数f
GH1=6.8GHz)においては、非相反CRLH線路L1のポートP1から入力したマイクロ波信号は、非相反CRLH線路L1に沿って伝搬することができず、非相反CRLH線路L2と結合し、マイクロ波信号の電磁波電力が非相反CRLH線路L1から非相反CRLH線路L2に移動し、非相反CRLH線路L2のポートP3から出力する。その結果、伝送線路間で結合して透過するマイクロ波信号の係数である結合透過係数S
31が広帯域に亘り強結合で-3dB以上となる。
【0074】
これに対して、逆向きの結合透過係数S
13は-10dB以下となっている。一方、非相反CRLH線路L2のポートP3からマイクロ波信号を入力した場合、ポートP3からポートP4に向かって伝搬するモードが存在し、低損失でポートP4から出力する。その結果、透過係数S
43も同周波数帯域において、マイクロ波信号が低損失で透過する値となっている。これに対して、逆向きの反射係数S
34は高周波側の一部を除いて、-10dB以下となっている。このCRLH結合線路装置の構造の対称性から、結合透過係数S
31は結合透過係数S
24と等しく、透過係数S
43は透過係数S
12と等しくなる。以上のことから、
図36の結果より、交点周波数f
C1=5.8GHzを含む下側バンドギャップ周波数帯域(周波数f
GL1=5.3GHzから周波数f
GH1=6.8GHz)において、当該結合伝送線路装置が4ポートサーキュレータ装置として動作していることが分かる。
【0075】
次に、交点周波数f
C2=8GHzを含む上側バンドギャップ周波数帯域(周波数f
GL2=7.5GHzから周波数f
GH2=8.5GHz)においては、非相反CRLH線路L2のポートP3から入力したマイクロ波信号は、非相反CRLH線路L2に沿って伝搬することができず、非相反CRLH線路L1と結合し、当該マイクロ波信号の電磁波電力が非相反CRLH線路L2から非相反CRLH線路L1に移動し、非相反CRLH線路L1のポートP1から出力する。その結果、結合透過係数S
13が広帯域に亘り強結合で-3dB以上となる。これに対して、逆向きの結合透過係数S
31は-10dB以下となっている。一方、マイクロ波信号を非相反CRLH線路L2のポートP4から入力した場合、ポートP4からポートP3に向かって伝搬するモードが存在し、低損失でポートP4から出力する。その結果、透過係数S
34も同周波数帯域において、マイクロ波信号が低損失で透過する値となる。これに対して、逆向きの反射係数S
43は、-5dB以下となっている。このCRLH結合線路の構造の対称性から、結合透過係数S
13は結合透過係数S
42と等しく、透過係数S
34は透過係数S
21と等しくなる。以上のことから、
図36の結果より、交点周波数f
C2=8.0GHzを含む周波数帯域(周波数f
GL2=7.5GHzから周波数f
GH2=8.5GHz)において、当該結合伝送線路装置は、4ポートサーキュレータ装置として動作していることが分かる。
【0076】
以上説明したように、
図36の結果より、本発明に係る実施形態の結合伝送線路装置は、2周波において4ポートサーキュレータ装置として動作することが分かる。ただし、下側の動作帯域と上側の動作帯域で、順方向、逆方向の向きが入れ替わる。
【0077】
(実施形態の変形例)
図37Aは、実施形態の変形例に係る非相反CRLH結合線路装置を用いたアイソレータ装置の構成例を示す上面図である。公知のように、サーキュレータ装置の一部の終端にインピーダンス整合回路を介して接地し、2ポートにすることにより、アイソレータ装置として動作する。例えば、
図12~
図14Aの非相反CRLH結合線路装置において、
図37Aに示すように、ポートP2及びポートP4をそれぞれ、例えば50Ωの終端抵抗88,89を介して接地することにより、ポートP1及びポートP3の間でアイソレータ装置として動作させることができる(
図36参照)。すなわち、下側のバンドギャップ内(角周波数ω
GL1≦ω≦ω
GH1の範囲)での動作の場合、マイクロ波信号をポートP1に入力するとき、実質的にほぼ全体の電磁波電力がポートP3から出力される。また、マイクロ波信号をポートP3に入力するとき、実質的にほぼ全体の電磁波電力が終端抵抗で消費され、ポート1からの出力はない。上側のバンドギャップ内(角周波数ω
GL2≦ω≦ω
GH2の範囲)での動作の場合、マイクロ波信号をポートP3に入力するとき、実質的にほぼ全体の電磁波電力がポートP1から出力される。また、マイクロ波信号をポートP1に入力するとき、実質的にほぼ全体の電磁波電力が終端抵抗で消費され、ポートP3からの出力はない。
【0078】
図37Bは
図37Aのアイソレータ装置の変形例1の構成例を示す上面図である。
図37Bに示すように、
図37Aと異なる終端抵抗接続の組み合わせとして、伝送線路L2の両端であるポートP3及びポートP4をそれぞれ、例えば50Ωの終端抵抗88,89を介して接地することにより、ポートP1及びポートP2の間でアイソレータ装置として動作させることもできる。すなわち、下側のバンドギャップ内(角周波数ω
GL1≦ω≦ω
GH1の範囲)での動作の場合、マイクロ波信号をポートP2に入力するとき、実質的にほぼ全体の電磁波電力がポートP1から出力される。また、マイクロ波信号をポートP1に入力するとき、実質的にほぼ全体の電磁波電力が終端抵抗で消費され、ポート2からの出力はない。上側のバンドギャップ内(角周波数ω
GL2≦ω≦ω
GH2の範囲)での動作の場合、マイクロ波信号をポートP1に入力するとき、実質的にほぼ全体の電磁波電力がポートP2から出力される。また、マイクロ波信号をポートP2に入力するとき、実質的にほぼ全体の電磁波電力が終端抵抗で消費され、ポートP1からの出力はない。
【0079】
図37Cは37Aのアイソレータ装置の変形例2の構成例を示す上面図である。
図37Cに示すように、ポートP3,P4をそれぞれ終端抵抗88.89で終端してもよい。これにより、
図37A及び
図37Bと同様に、ポートP1,P2間でマイクロ波信号を入出力するアイソレータ装置の動作をさせることができる。
【0080】
図37Dは37Aのアイソレータ装置の変形例3の構成例を示す上面図である。
図37Dに示すように、ポートP1,P3をそれぞれ終端抵抗88.89で終端してもよい。これにより、
図37A~
図37Cと同様に、ポートP2,P4間でマイクロ波信号を入出力するアイソレータ装置の動作をさせることができる。
【0081】
図37Eは、実施形態の別の変形例に係る非相反CRLH結合線路装置を用いたサーキュレータ装置の構成例を示す縦断面図である。ここで、
図37Eは、接地導体11A,11Bとフェライトロッド30A,30Bを含む誘電体基板10A,10B上にマイクロストリップ線路からなる非相反メタマテリアル線路をそれぞれ独立に2本構成し、信号線である金属ストリップ導体12,22が互いに対向するように配置させて構成した積層型非相反メタマテリアル結合線路の構成例を示す。当該結合線路装置は、2つの永久磁石31A,31Bにより挟まれ、結合線路装置内のフェライトロッド30A,30B(それぞれ、
図37Eにおいて、上方向の内部磁化を有する)に対して直流磁界が印加されている。
図37Eにおいて、永久磁石31Aは、例えば、接地導体11Aと対向する側においてN極を有し、その反対側(
図37Eにおいて下側)においてS極を有する。また、永久磁石31Bは、例えば、接地導体11Bと対向する側においてS極を有し、その反対側(
図37Eにおいて上側)においてN極を有する。
【0082】
なお、
図37Eでは、上下に配置された2つの接地導体11A,11Bは分離しているが、左右両側壁に金属面を追加して接地導体11A,11Bを一体化させ、導波管内に結合線路装置を構成することも可能である。
【0083】
(変形例)
次いで、ストリップ線路を用いて構成された
図12の非相反伝送線路装置を、矩形導波管を用いて構成してなる非相反伝送線路装置について以下に説明する。
【0084】
(変形例1)
図38Aは変形例1に係る矩形導波管を用いて構成された、1本の非相反CRLH線路装置の外観を示す斜視図であり、
図38Bは
図38Aの非相反CRLH線路装置の上面導体を除去したときの破断上面図である。
図38A及び
図38Bに示すように、金属コルゲーション構造とフェライトスラブとの組み合わせにより、非相反CRLH線路装置を構成することが可能である。
【0085】
図38A及び
図38Bにおいて、矩形導波管は、上側導体板41と、それに対向して配置される下側導体板42と、上側導体板41と下側導体板42とを連結する1対で対向する側面導体板43,44とを含むように構成される。ここで、側面導体板43と側面導体板44との間に、矩形板形状のフェライトスラブ45が配置される。また、側面導体板44の内側面には、周期pで深さdの水平方向の直方体凹部44cが周期的に形成される。ここで、側面導体板44の凹部深さdが1/4波長よりも長く、半波長よりも短い場合、直列枝に容量素子が周期的に挿入されたのと同じ振る舞いを示し、負の透磁率構造となる。フェライトスラブ45の幅方向に対して平行である垂直方向に直流磁界を印加するとき、同方向に直流磁化M
S1が誘起している場合を考える。矩形導波管内の主偏波である交流電界ベクトルの向きは、直流磁界と同じ方向に設定されているとする。このとき、電界ベクトルに平行な位置関係にある矩形導波管の側面導体板43,44の対の間隔が半波長よりも狭い場合、帯域阻止となり、実効誘電率が負となる。非相反性の発現は、フェライトスラブ45に対して、例えば右側にコルゲーション構造、左側に金属板構造が近接して置かれた非対称構造を採用することにより、非相反性が発現する。
【0086】
以上説明したように、
図38A及び
図38Bの矩形導波管は、
図12の実施形態と同様に、非相反伝送線路装置を構成することができる。
【0087】
(変形例2)
図39Aは変形例2に係る矩形導波管を用いて構成された、1本の非相反CRLH線路装置の外観を示す斜視図であり、
図39Bは
図39Aの非相反CRLH線路装置の上面導体を除去したときの破断上面図である。
図39A及び
図39Bにおいては、コルゲーションの溝内部に誘電体を挿入し、管内波長を短くすることにより、矩形導波管構造の小型化を図っている。
【0088】
図39A及び
図39Bにおいて、変形例1に係る
図38A及び
図38Bの矩形導波管に比較して、以下の点が異なる。
(1)側面導体板44の各凹部44cに直方体の誘電体ロッド46が挿入される。
【0089】
【0090】
(変形例3)
図40Aは、変形例3に係る矩形導波管を用いて構成された、1本の非相反CRLH線路装置の外観を示す斜視図であり、
図40Bは
図39Aの非相反CRLH線路装置の上面導体を除去したときの破断上面図である。
【0091】
図40A及び
図40Bにおいて、変形例1に係る
図38A及び
図38Bの矩形導波管に比較して、以下の点が異なる。
(1)フェライトスラブ45に代えて、複数の周期的な凸部45pを有するフェライトスラブ45Aを備えた。
(2)側面導体板44の各凹部44cにそれぞれ、フェライトスラブ45Aの凸部45pが嵌合挿入される。
【0092】
図40A及び
図40Bにおいて、コルゲーション溝である側面導体板44の凹部44cに変形例2の誘電体ロッド46の代わりにフェライトを充填した構造を有することで、構造の簡素化を図っている。
【0093】
【0094】
(変形例4)
図41Aは、変形例1に係る2本の矩形導波管を用いて構成された、変形例4に係る非相反CRLH結合線路装置の外観を示す斜視図であり、
図41Bは
図41Aの非相反CRLH結合線路装置の上面導体を除去したときの破断上面図である。
【0095】
図41A及び
図41Bの矩形導波管は、
図38A及び
図38Bの矩形導波管からなる2つの非相反CRLH伝送線路を互いに水平方向で電磁的に結合するように近接して配置し、電磁的結合を大きくするために非相反CRLH線路L1,L2間の複数の導体ロッド55に挿入し、互いに隣接する導体ロッド55間にスリット55sを設けている。
【0096】
すなわち、矩形導波管は、上側導体板51と、下側導体板52と、それぞれ周期的な凹部53c,54cを有する側面導体板53,54とを含むように構成される。側面導体板53と、側面導体板54との間には、フェライトスラブ56と、複数の導体ロッド55と、フェライトスラブ57とが挿入される。複数の導体ロッド55のうちの互いに隣接する導体ロッド55間に周期的にスリット55sが形成される。
【0097】
【0098】
(変形例5)
図42Aは、変形例2に係る2本の矩形導波管を用いて構成された、変形例5に係る非相反CRLH結合線路装置の外観を示す斜視図であり、
図42Bは
図42Aの非相反CRLH結合線路装置の上面導体を除去したときの破断上面図である。
図42A及び
図42Bの矩形導波管は、
図39A及び
図39Bの矩形導波管からなる2つの非相反CRLH伝送線路を互いに水平方向で電磁的に結合するように近接して配置し、電磁的結合を大きくするために非相反CRLH線路L1,L2間の複数の導体ロッド55に挿入し、互いに隣接する導体ロッド55間にスリット55sを設けている。複数の導体ロッド55のスロットの幅及び/又は周期間隔を調整することにより、2本の矩形導波管の間の結合の大きさを調整可能となる。
【0099】
言い換えれば、
図42A及び
図42Bの矩形導波管は、
図41A及び
図41Bの矩形導波管に比較して、以下の点が異なる。
(1)側面導体板53,54の各凹部53c,54cにそれぞれ、誘電体ロッド58,59が挿入される。
【0100】
【0101】
(変形例6)
図43Aは、変形例3に係る2本の矩形導波管を用いて構成された、変形例6に係る非相反CRLH結合線路装置の外観を示す斜視図であり、
図43Bは
図43Aの非相反CRLH結合線路装置の上面導体を除去したときの破断上面図である。
図43A及び
図43Bにおいて、
図40A及び
図40Bの矩形導波管からなる2つの非相反CRLH線路を互いに水平方向で電磁的に結合するように近接して配置し、電磁的結合を大きくするために非相反CRLH線路L1,L2間の複数の導体ロッド55に挿入し、互いに隣接する導体ロッド55間にスリット55sを設けている。
【0102】
言い換えれば、
図43A及び
図43Bの矩形導波管は、
図41A及び
図41Bの矩形導波管に比較して、以下の点が異なる。
(1)フェライトスラブ56,57に代えて、複数の周期的な凹部56p,57pをそれぞれ有するフェライトスラブ56A,57Aを備えた。
(2)側面導体板53,54の各凹部53c,54cにそれぞれ、フェライトスラブ56A,57Aの各凸部56p,57pが嵌合挿入される。
【0103】
【0104】
図44Aは
図41A~
図43Bの各非相反CRLH結合線路装置の導体ロッド55間のスリット55sの縦断面図である。
図44A~
図44Cは、非相反CRLH結合線路装置の幅中央部であって、その長手方向に沿ったラインを含む縦断面に係る断面図である。
【0105】
図44Bは、
図44Aのスリット55sに代えて、線路L1,L2間結合の強さを調整するための構成例であって、導体板55Aに複数の結合用円形貫通ホール55hを形成した構成を示す縦断面図である。また、
図44Cは、
図44Aのスリット55sに代えて、線路L1,L2間結合の強さを調整するための構成例であって、導体板55Bに複数の結合用矩形貫通ホール55rを形成した構成を示す縦断面図である。
【0106】
すなわち、
図44A~
図44Cには、導波管により構成される結合線路(
図41A~
図43B)の線路間結合の強さを調整するための導体板55,55A,55B(金属遮蔽版)の構造に関する例を示している。前述の
図41A~
図43Bにおいては、電磁的結合の大きさを調整するために、周期的に挿入されたスリット55sを用いたスリット構造が採用されているが、それ以外の構造の例としては、円形、長方形、楕円形などのホールを周期的に配置した構造(
図44B)、メッシュ構造(
図44C)が考えられる。なお、金属遮蔽版である導体板55,55A,55Bのスリット55s又はホール55h,55rには誘電体媒質で充填してもよい。
【0107】
(実施形態及び変形例の補足)
以上のように構成された結合長Lの非相反CRLH結合線路装置を構成する非相反CRLH線路L1及びL2のセル数N1,N2は、一般に、以下に示すように同じである必要はない。
【0108】
図45Aは実施形態に係る非相反CRLH結合線路装置で用いる非相反CRLH線路L1の単位セル61を示すブロック図である。
図45Aにおいて、非相反CRLH線路L1の単位セル61は、線路長p
1を有する。
【0109】
図45Bは実施形態に係る非相反CRLH結合線路装置で用いる非相反CRLH線路L2の単位セル62を示すブロック図である。
図45Bにおいて、非相反CRLH線路L2の単位セル61は、線路長p
2を有する。
【0110】
図46Aは
図45Aの非相反CRLH線路L1の単位セル61をN
1個備えて構成された長さLの非相反CRLH線路L1の構成例を示すブロック図である。また、
図46Bは
図45Bの非相反CRLH線路L2の単位セル62をN
2個備えて構成された長さLの非相反CRLH線路L2の構成例を示すブロック図である。
図46A及び
図46Bは、長さLの非相反CRLH線路L1及びL2を簡単化して表した図であって、非相反CRLH線路L1のセル数をN
1、非相反CRLH線路L2のセル数をN
2としている。
【0111】
図47Aは
図46Aの非相反CRLH線路L1を1つのブロックで簡単化して図示したブロック図である。また、
図47Bは
図46Bの非相反CRLH線路L2を1つのブロックで簡単化して図示したブロック図である。
図47A及び
図47Bは、長さLの非相反CRLH線路L1及びL2の伝送線路モデルを示す図であって、非相反CRLH線路L1の入出力端子をポートP1及びポートP2とし、非相反CRLH線路L2の入出力端子をポートP3及びポートP4とする。
【0112】
図48は
図47Aの非相反CRLH線路L1と、
図47Bの非相反CRLH線路L2とを互いに電磁的に結合するように近接して配置されて構成された非相反CRLH結合線路装置の構成例を示す上面図である。
図48において、非相反CRLH線路L1の入出力端子をポートP1及びポートP2とし、非相反CRLH線路L2の入出力端子をポートP3及びポートP4としており、当該非相反結合線路装置は4ポートP1~P4を有する。
【0113】
以上のように構成された本発明の実施形態に係る梯子型非相反CRLH線路において提案する構成は、例えば
図46A及び
図46Bに示すように、例えば単位セル61又は61が少なくとも1つ以上からそれぞれ構成される梯子型伝送線路構成である。ここで、単位セルの構成は、順方向と逆方向の伝搬定数が異なる非相反位相推移現象を有する伝送線路部分を含み、直列枝の回路に容量性素子、並列枝の回路に誘導性素子が等価的に挿入された構成を有する(
図1及び
図2,
図5等参照。)。前記伝送線路構成として対象となる回路又は装置は、ストリップ線路、マイクロストリップ線路、スロット線路、コプレーナ線路などマイクロ波、ミリ波、準ミリ波、テラヘルツ波において用いられるプリント基板回路、導波管、誘電体線路だけでなく、プラズモン、ポラリトン、マグノン等を含む導波モードあるいは減衰モードを支える構成全般、あるいはそれらの組み合わせ、さらに等価回路として記述可能な自由空間など全てが含まれる。
【0114】
前記非相反位相推移現象を有する伝送線路は、前記に示す伝送線路構成のうち、特にジャイロ異方性を有する材料を部分的もしくは全体的に含み、かつ電磁波の伝搬方向に対して異なる磁化方向(より好ましくは、伝搬方向に対して直交する方向)で磁化されて、前記伝搬方向と前記磁化方向とにより形成される面に対して非対称性を有する構造の伝送線路より構成される。前記非相反位相推移現象を有する伝送線路としては、前記伝送線路以外に、同等の非相反位相推移機能を有する、波長に比べて充分小さな集中定数素子も対象とする。前記ジャイロ異方性を有する材料としては、自発磁化もしくは外部より印加した直流もしくは低周波の磁界により誘起された磁化あるいは自由電荷の周回運動により、材料の特性を表す誘電率テンソルもしくは透磁率テンソルあるいはその両方が、ジャイロ異方性を持つ状態として表される場合全てを含む。具体的に対象となる例としては、マイクロ波、ミリ波などで用いられるフェライトなどのフェリ磁性体、強磁性体材料、固体プラズマ(半導体材料など)及び液体、気体プラズマ媒質、さらに微細加工などにより構成された磁性人工媒質などが挙げられる。
【0115】
前記直列枝の回路に挿入される容量性素子としては、電気回路でよく用いられるコンデンサ、マイクロ波、ミリ波などで用いられる分布定数型容量素子だけでなく、等価的には、伝送線路中を伝搬する電磁波モードの実効透磁率が負の値を持つような回路又は回路素子であってもよい。負の実効透磁率を示す具体的な例としては、金属からなるスプリットリング共振器、スパイラル構成などの磁気的共振器を少なくとも1つ含む空間的配置、あるいは磁気的共振状態にある誘電体共振器の空間的配置、あるいはフェライト基板マイクロストリップ線路に沿って伝搬するエッジモードのように、負の実効透磁率を持つ導波モードもしくは減衰モードで動作するマイクロ波回路全てを、等価回路として直列枝の回路が容量性素子として支配的に動作する線路として記述されることから用いることが可能である。さらに、前記直列枝の回路に挿入される容量性素子としては、前記以外に、容量性素子と誘導性素子の直列接続、並列接続あるいはそれらの組み合わせであってもよい。挿入されるべき部分の素子又は回路が全体として容量性を示すものであってもよい。
【0116】
前記並列枝の回路に挿入される誘導性素子として、電気回路で用いられるコイルなどの集中定数型素子や、マイクロ波、ミリ波などで用いられる短絡スタブなどの分布定数型誘導性素子だけでなく、伝送線路中を伝搬する電磁波モードの実効誘電率が負の値を持つ回路又は素子を用いることができる。具体的には、金属細線、金属球などの電気的共振器を少なくとも1つ含む空間的配置、あるいは金属だけでなく電気的共振状態にある誘電体共振器の空間的配置、あるいはTEモードが遮断領域にある導波管、平行平板線路など、負の実効誘電率を持つ導波モードもしくは減衰モードで動作するマイクロ波回路全てを、等価回路として並列枝が誘導性素子として支配的に動作する伝送線路として記述されることから用いることができる。また、前記並列枝の回路に挿入される誘導性素子としては、前記以外に、容量性素子と誘導性素子の直列接続、並列接続あるいはそれらの組み合わせであってもよい。挿入されるべき部分が全体として誘導性を示す回路又は素子であってもよい。
【0117】
前記非相反位相推移伝送線路において、伝送線路中を伝搬する電磁波モードの実効透磁率が負の場合、減衰モードとなりうるが、負の実効透磁率は、直列枝に容量性素子が挿入された場合に相当することから、同線路の等価回路は、非相反位相推移部分と直列容量素子部分の両方を含む。
【0118】
前記非相反位相推移現象を有する伝送線路において、伝送線路中を伝搬する電磁波モードの実効誘電率が負の場合、減衰モードとなりうるが、負の実効誘電率は、並列枝の回路に誘導性素子が挿入された場合に相当することから、同線路の等価回路は、非相反位相推移部分と並列誘導素子部分の両方を含む。
【産業上の利用可能性】
【0119】
以上詳述したように、従来技術に比較して大幅に小型化できかつサーキュレータ装置又はアイソレータ装置を構成可能な伝送線路マイクロ波装置、並びに伝送線路マイクロ波装置を用いたサーキュレータ装置及びアイソレータ装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0120】
10,10A,10B 誘電体基板
11,11A,11B 接地導体
12,12P1,12P2,22,22P3,22P4,13,23 ストリップ導体
14,24 ビア導体
16,16P,26,26P キャパシタ
15,25 スタブ導体
20 誘電体基板
30,30A,30B フェライトロッド
31 電磁石
31A.31B 永久磁石
41 上側導体板
42 下側導体板
43,44 側面導体板
44c 凹部
45,45A フェライトスラブ
45p 凸部
46 誘電体ロッド
51 上側導体板
52 下側導体板
53,54 側面導体板
53c,54c 凹部
55 導体ロッド
55A,55B 導体板
55s スリット
55h 結合用円形貫通ホール
55r 結合用矩形貫通ホール
56,57,56A,57A フェライトスラブ
56p,57p 凸部
58,59 誘電体ロッド
61,62 単位セル