(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】熱交換用扁平管
(51)【国際特許分類】
F28F 1/02 20060101AFI20240717BHJP
F28F 1/40 20060101ALI20240717BHJP
F25B 39/00 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
F28F1/02 B
F28F1/40 B
F25B39/00 C
(21)【出願番号】P 2021025457
(22)【出願日】2021-02-19
【審査請求日】2023-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【氏名又は名称】中本 菊彦
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(72)【発明者】
【氏名】久保田 悦郎
(72)【発明者】
【氏名】石動 薫
(72)【発明者】
【氏名】望月 光朗
【審査官】礒部 賢
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-221580(JP,A)
【文献】特開2008-261518(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0288602(US,A1)
【文献】特開平10-113731(JP,A)
【文献】特開平06-142755(JP,A)
【文献】特開平11-230686(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28F 1/00 - 99/00
F28D 1/00 - 13/00
F25B 39/00 - 39/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
扁平状の板部材に、前記板部材の長手方向に貫通した冷媒流路が、前記板部材の幅方向に並んで複数形成された
アルミニウム製の熱交換用扁平管であって、
前記冷媒流路は、前記板部材の幅方向の両端部が断面長円状に形成され、前記両端部以外が断面略円形に形成され、
前記冷媒流路は、前記板部材の上面側の内面を有する第1補強部と、前記板部材の下面側の内面を有する第2補強部と、前記板部材の幅方向における一方側の内面を有する第3補強部と、前記板部材の幅方向における他方側の内面を有する第4補強部と、前記第1補強部、前記第2補強部、前記第3補強部、および前記第4補強部の各補強部に連なりかつ冷媒流路の中心軸線を中心として円弧状に形成された曲面を有する曲面部と、
前記曲面部と前記補強部との境界部分に形成された平面部と、により形成され、
前記冷媒流路の中心軸線から前記各補強部までの距離が、前記冷媒流路の中心軸線から前記曲面部までの距離よりも短く形成されるとともに、
前記板部材の幅方向の両端部の前記冷媒流路を除く前記冷媒流路の前記曲面部と前記平面部との総周長比が、85%~82.5%対15%~17.5%であり、前記板部材の幅方向の両端部の前記冷媒流路の前記曲面部と前記平面部との総周長比が、80%~78.5%対20%~21.5%である、
ことを特徴とする熱交換用扁平管。
【請求項2】
請求項1に記載の熱交換用扁平管において、
前記第1補強部と前記第2補強部とは、前記冷媒流路の中心軸線側に突出したリブを含む
ことを特徴とする熱交換用扁平管。
【請求項3】
請求項1または2に記載の熱交換用扁平管において、
前記第3補強部と前記第4補強部とは、前記冷媒流路の中心軸線側に突出しかつ前記板部材の長手方向に沿った凸条部を含む
ことを特徴とする熱交換用扁平管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数の貫通孔が並んで形成された熱交換用扁平管に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、一対のヘッダーパイプと、これらのヘッダーパイプ間に互いに平行に架設された扁平形状の熱交換チューブ(熱交換用扁平管)と、隣接する熱交換チューブ間に介在されるコルゲートフィンとにより構成されたアルミニウム製の熱交換器が知られている。この種の熱交換器は、一方のヘッダーパイプに流入した冷媒が熱交換チューブ内を流動する過程で、その冷媒の熱が熱交換チューブやコルゲートフィンを介して外気に放熱され、あるいは、熱交換チューブやコルゲートフィンを介して外気から吸熱する。そのため、冷媒と熱交換チューブとの間の熱伝達の効率を向上させるために、熱交換チューブには、その長さ方向に形成された貫通孔(冷媒流路)を、熱交換チューブの幅方向に並んで複数形成されている。
【0003】
一方、熱交換チューブ内を高圧な冷媒が流動するので、その冷媒圧に耐え得るように、耐圧強度を向上させた熱交換チューブが特許文献1に記載されている。この特許文献1に記載された熱交換チューブは、冷媒が流動する貫通孔の断面形状を円形に形成し、さらに、隣接する貫通孔を隔てる隔壁部の板厚t1を貫通孔の半径Rで除算して無次元化した値t1/Rと、熱交換チューブの外周と貫通孔との間の外壁部の板厚t2を貫通孔の半径Rで除算して無次元化した値t2/Rとが所定比の範囲となるように構成されている。
【0004】
また、特許文献2には、断面形状が矩形状に形成された複数の貫通孔を備えた熱交換チューブが記載されている。この特許文献2に記載された熱交換チューブには、熱交換チューブの壁部における貫通孔側に臨む部分の内面に、貫通孔の長手方向に延びる凸条が形成され、このように凸条を形成することにより、冷媒と熱交換チューブとの接触面積を増加させて、冷媒と熱交換チューブとの熱交換効率を向上させるように構成されている。
【0005】
さらに、特許文献3に記載された熱交換チューブは、断面形状が矩形状に形成された貫通孔の壁部のうち、平坦に形成された部分の液膜が薄くなることによるドライアウトを抑制するために、その平坦な壁部に貫通孔側に突出した突起部を形成するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-153814号公報
【文献】特開2010-255864号公報
【文献】特開2020-139693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
熱交換チューブに形成された貫通孔を冷媒が流動する過程では、その冷媒圧に基づく押圧力が、貫通孔の壁面の法線方向に作用する。したがって、特許文献1に記載された熱交換チューブのように断面形状を円形状に形成することにより、壁面の各部分に作用する荷重が放射状に作用することになり、いずれかの箇所に荷重が集中して作用することを抑制できる。
【0008】
しかしながら、熱交換チューブの幅方向に並べて貫通孔を形成した場合には、貫通孔を隔てる隔壁部の両面から圧縮するように冷媒圧が作用する。したがって、断面形状が円形の貫通孔の場合には、熱交換チューブの厚み方向における中央部分では、隔壁部を押圧する方向の荷重が大きくなる。その反面、その部分の板厚が最も薄い。そのため、隔壁部における扁平管の厚み方向での中央部分の圧縮応力が大きくなり、耐久性が低下する可能性がある。
【0009】
同様に、各貫通孔における熱交換チューブの幅方向での中央部分では、熱交換チューブの上壁部の法線方向がその上壁部の厚み方向に一致し、熱交換チューブの下壁部の法線方向がその下壁部の厚み方向に一致することにより、上壁部や下壁部を押圧する方向の荷重が大きく、その部分の板厚が最も薄いため、各貫通孔における熱交換チューブの幅方向での中央部分の圧縮応力が大きくなり、耐久性が低下する可能性がある。
【0010】
言い換えると、貫通孔を円形に形成した場合には、熱交換チューブの幅方向および厚み方向での中央部分の強度が、他の部分の強度よりも小さくなる。そのため、複数の貫通孔を並べて形成する場合には、その中央部分の強度を確保するように隣り合う貫通孔との間隔を設定する必要があり、熱交換チューブに形成できる貫通孔の数が制限される。つまり、熱交換チューブと冷媒との伝熱面積が制限される。したがって、熱交換チューブに多くの貫通孔を形成して熱交換性能を向上させるために改善の余地がある。
【0011】
また、熱交換チューブの幅方向の寸法および熱交換チューブの厚み方向の寸法を同一とした場合に、貫通孔を矩形状とした場合と比較して、冷媒と貫通孔の内面との接触面積(伝熱面積)が小さく、熱交換の性能を向上させるために改善の余地がある。
【0012】
一方、特許文献2や特許文献3に記載された熱交換チューブのように貫通孔を矩形状に形成すると、上述したように貫通孔を円形に形成した場合よりも耐圧強度が低下する。また、貫通孔を矩形状に形成すると、その内面における平坦面を形成する面積が曲面を形成する面積よりも大きくなり、その結果、特許文献3に記載されたようにドライアウトが生じることを抑制するための突起部を貫通孔の内側に形成する場合には、突起部の幅を広くあるいは突起部の高さを高く形成し、あるいは複数の突起部を形成する必要がある。そのため、貫通孔を流動する冷媒の流動抵抗が大きくなる可能性がある。また、上記のように突起部の幅を広くし、あるいは突起部の高さを高く形成し、もしくは複数の突起部を形成するとしても、熱交換チューブは、通常、押出成形によって製造されるため、製造上の制限があり、それらの形状を成形することができず、もしくは製造設備の大幅な設計変更などが強いられる可能性がある。
【0013】
この発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、冷媒圧が作用することによる耐久性の低下を抑制するとともに、冷媒との間の熱交換の性能を向上させることができる熱交換用扁平管を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を達成するために、この発明は、扁平状の板部材に、前記板部材の長手方向に貫通した冷媒流路が、前記板部材の幅方向に並んで複数形成されたアルミニウム製の熱交換用扁平管であって、前記冷媒流路は、前記板部材の幅方向の両端部が断面長円状に形成され、前記両端部以外が断面略円形に形成され、前記冷媒流路は、前記板部材の上面側の内面を有する第1補強部と、前記板部材の下面側の内面を有する第2補強部と、前記板部材の幅方向における一方側の内面を有する第3補強部と、前記板部材の幅方向における他方側の内面を有する第4補強部と、前記第1補強部、前記第2補強部、前記第3補強部、および前記第4補強部の各補強部に連なりかつ冷媒流路の中心軸線を中心として円弧状に形成された曲面を有する曲面部と、前記曲面部と前記補強部との境界部分に形成された平面部と、により形成され、前記冷媒流路の中心軸線から前記各補強部までの距離が、前記冷媒流路の中心軸線から前記曲面部までの距離よりも短く形成されるとともに、前記板部材の幅方向の両端部の前記冷媒流路を除く前記冷媒流路の前記曲面部と前記平面部との総周長比が、85%~82.5%対15%~17.5%であり、前記板部材の幅方向の両端部の前記冷媒流路の前記曲面部と前記平面部との総周長比が、80%~78.5%対20%~21.5%である、ことを特徴とするものである(請求項1)。
【0015】
このように構成することにより、冷媒流路の内面のうち曲面部が形成される領域が大きいことにより、冷媒流路を冷媒が流動する過程で冷媒流路の内面に作用する押圧力が分散される。
【0016】
この発明において、前記第1補強部と前記第2補強部とは、前記冷媒流路の中心軸線側に突出したリブを含むことが好ましい(請求項2)。
【0017】
このように構成することにより、板部材の上側の壁部および下側の壁部の剛性が向上する。また、冷媒流路を流動する冷媒は、各補強部の内面および曲面部の内面に接触しながら流動するため、断面形状が円形の冷媒流路を採用した場合と比較して、冷媒と板部材との接触面積が大きくなる。
【0018】
この発明において、前記第3補強部と前記第4補強部とは、前記冷媒流路の中心軸線側に突出しかつ前記板部材の長手方向に沿った凸条部を含むことが好ましい(請求項3)。
【0019】
このように構成することにより、各隔壁部の剛性が向上する。また、冷媒流路を流動する冷媒は、各補強部の内面および曲面部の内面に接触しながら流動するため、断面形状が円形の冷媒流路を採用した場合と比較して、冷媒と板部材との接触面積が大きくなる。
【発明の効果】
【0020】
(1)請求項1に記載の発明によれば、冷媒流路の中心軸線から各補強部までの距離が、冷媒流路の中心軸線から曲面部までの距離よりも短く形成され、その結果、板部材の上側の壁部および下側の壁部ならびに各隔壁部の中央部分の板厚が厚く形成される。そのため、その中央部分に大きな圧縮応力や押圧力が作用することによる耐久性の低下を抑制できる。また、冷媒流路を冷媒が流動する過程で冷媒流路の内面に作用する押圧力が分散されるため、断面形状が矩形状の冷媒流路を採用した場合と比較して冷媒流路の耐圧強度を向上させることができる。
【0021】
(2)請求項2に記載の発明によれば、(1)に加えて、さらに、板部材の上側の壁部と下側の壁部との剛性を向上させることができる。また、リブを形成することによって、冷媒との接触面積を増加させることができ、熱交換の性能を向上させることができる。
【0022】
(3)請求項3に記載の発明によれば、(1),(2)に加えて、さらに、各隔壁部の剛性を向上させることができる。また、凸条部を形成することによって、冷媒との接触面積を増加させることができ、熱交換の性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】この発明における熱交換用扁平管を用いた熱交換器を示す正面図である。
【
図2】この発明における冷媒流路の形状を説明するための断面図である。
【
図3】(a)は、冷媒流路の形状を説明するための拡大断面図であり、(b)は、(a)におけるA部の拡大図である。
【
図4】冷媒流路の形状に応じて熱交換チューブに生じる応力の違いを確認したシミュレーションデータを示すグラフである。
【
図5】シミュレーションに用いた熱交換チューブの形状を示す断面図であり、(a)は、この発明における熱交換チューブであり、(b)は、断面形状が円形の冷媒流路が形成された熱交換チューブであり、(c)は、断面形状が矩形状の冷媒流路が形成された熱交換チューブである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、この発明を実施するための形態について、添付図面に基づいて詳細に説明する。
【0025】
この発明の実施形態における熱交換用扁平管を備えた熱交換器を
図1に示してある。
図1に示す熱交換器1は、それぞれアルミニウム製の一対の略円筒状のヘッダーパイプ2a,2bと、これらのヘッダーパイプ2a,2bに架設される互いに平行な複数の熱交換用扁平管3(以下、熱交換チューブ3と記す)と、隣接する熱交換チューブ3間に介在されるコルゲートフィン4とにより構成されている。なお、上下端のコルゲートフィン4の上部外方側および下部外方側には、それぞれアルミニウム製のサイドプレート5がろう付けされている。また、ヘッダーパイプ2a,2bの上下開口端には、アルミニウム製のエンドキャップ6がろう付けされている。
【0026】
熱交換チューブ3の構成の一例を説明するための断面図を
図2に示し、その拡大断面図を
図3(a)に示してある。
図2に示すように熱交換チューブ3は、アルミニウム製の扁平状に形成された押出形材であって、熱交換チューブ3の上面を形成する平坦な上壁部7と、下面を形成する平坦な下壁部8と、それら上壁部7と下壁部8との幅方向の両端を連結する円弧状の側壁部9とを有する板部材である。なお、
図2に示す熱交換チューブ3は、熱交換チューブ3の幅方向における側壁部9の外面に、熱交換チューブ3の外周面に付着した凝縮水を排出するための鍔部10が形成されている。
【0027】
この熱交換チューブ3には、冷媒が流動するための冷媒流路11が、熱交換チューブ3の長手方向に沿い、かつ熱交換チューブ3の幅方向に並んで複数形成されている。以下の説明では、隣り合う冷媒流路11を隔てる壁部を、隔壁部12と記す。
【0028】
それらの隔壁部12、および上壁部7、ならびに下壁部8は、冷媒流路11を流動する冷媒の圧力に基づいた形状に形成されている。具体的には、断面形状が略円形の冷媒流路11を基準に、比較的大きな圧縮応力あるいは押圧力が作用する部分を補強するように構成されている。
【0029】
図2および
図3(a)に示すように上壁部7および下壁部8において、熱交換チューブ3の幅方向における冷媒流路11の中心位置に対応した部分の内面に、熱交換チューブ3の長手方向に沿ったリブ13a,13bが、冷媒流路11の内側に突出して形成されている。言い換えると、熱交換チューブ3の幅方向における冷媒流路11の中心位置に対応した上壁部7の板厚t1が、冷媒流路11を略真円に形成した場合の板厚t2よりも厚くなり、かつ熱交換チューブ3の幅方向における冷媒流路11の中心位置に対応した下壁部8の板厚t3が、冷媒流路11を真円に形成した場合の板厚t4よりも厚くなるように構成されている。
【0030】
同様に、隔壁部12の中央部分には、熱交換チューブ3の長手方向に沿った凸条部14a,14bが、冷媒流路11の内側に突出して形成されている。言い換えると、熱交換チューブ3の厚み方向における中央部分の隔壁部12の肉厚t5が、冷媒流路11を真円に形成した場合の肉厚t6よりも厚くなるように構成されている。
【0031】
すなわち、
図2および
図3(a)に示す熱交換チューブ3に形成された冷媒流路11は、各リブ13a,13bと各凸条部14a,14bと、それらのリブ13a,13bと凸条部14a,14bとに連なり、かつ冷媒流路11の中心軸線を中心とした円弧状に形成された曲面部15とにより形成されている。言い換えると、冷媒流路11の中心軸線からリブ13aやリブ13bまでの距離L1が、冷媒流路11の中心軸線から曲面部15までの距離L2よりも短く形成され、かつ冷媒流路11の中心軸線から凸条部14aや凸条部14bまでの距離L3が、冷媒流路11の中心軸線から曲面部15までの距離L2よりも短く形成されている。
【0032】
また、この熱交換チューブ3は、上述したように押出形材である。そのため、製造上の制約などにより、
図3(b)に示すように曲面部15と各リブ13a,13bおよび各凸条部14a,14bとの境界部分には、平面部HおよびR部Rが不可避的に形成される。
【0033】
なお、上記のリブ13aが、この発明における「第1補強部」に相当し、リブ13bが、この発明における「第2補強部」に相当し、凸条部14aが、この発明における「第3補強部」に相当し、凸条部14bが、この発明における「第4補強部」に相当し、平面部Hが、この発明の「平面部」に相当する。
【0034】
また、
図2に示すように熱交換チューブ3の幅方向における両端側の冷媒流路11aは、長円状に形成されている。これらの長円状の冷媒流路11aの曲面部15は、上述した熱交換チューブ3の幅方向における中央側の冷媒流路11の曲面部15と同様の曲率に形成されている。すなわち、熱交換チューブ3の厚み方向における中央部分を中心とし、かつ長円状の冷媒流路11aの幅の寸法と同一の直径寸法となる円弧面に形成されている。また、長円状の冷媒流路11aと隣り合う冷媒流路11とを隔てる隔壁部12にも、上記凸条部14a,14bと同様の凸条部14cが形成されている。さらに、側壁部9のうち冷媒流路11a側の側面には、上記凸条部14a,14bと同様の凸条部14dが形成されている。
【0035】
また、上壁部7のうち冷媒流路11a側の面には、その冷媒流路11aの幅方向における中央部分よりも熱交換チューブ3の中央側の部分にリブ13cが形成され、同様に、下壁部8のうち冷媒流路11a側の面には、その冷媒流路11aの幅方向における中央部分よりも熱交換チューブ3の中央側の部分にリブ13dが形成されている。これは、熱交換チューブ3の中央側の部分は、隣り合う冷媒流路11の内面に作用する内圧の影響によって、冷媒流路11aのうち熱交換チューブ3の中央側の部分の上壁部7や下壁部8に作用する応力が大きくなるためである。さらに、曲面部15と各リブ13c,13dおよび各凸条部14c,14dとの境界部分には、平面部HおよびR部Rが形成されている。
【0036】
なお、この発明における各補強部は、上述したように冷媒流路11の内側に突出したリブ13a,13bや凸条部14a,14bを形成したものに限らず、上壁部7、下壁部8、および各隔壁部12における熱交換チューブ3の厚み方向および幅方向での中央部分の板厚(肉厚)が、冷媒流路11を真円に形成した場合よりも厚くなるように形成されていればよい。言い換えると、冷媒流路11の中心軸線から補強部までの距離L1,L3が、冷媒流路11の中心軸線から曲面部L2までの距離よりも短く形成されていればよい。
【0037】
なお、平面部HやR部Rは、冷媒流路11を真円に形成した場合よりも上壁部7、下壁部8、および各隔壁部12の当該部分の板厚や肉厚を厚くなるように形成された部分であるため、各リブ13a,13bや各凸条部14a,14bとともに補強部として機能する。
【0038】
また、本発明者等の実験により、曲面部15と、その曲面部15間に連なる部分(上記ではリブ13a,13bおよび凸条部14a,14b)とにより形成された冷媒流路11は、曲面部15の総周長を曲面部15間に連なる部分の平面部Hの総周長よりも長く形成するほど、熱交換チューブ3の耐圧強度を向上させることができることが確認されている。言い換えると、冷媒流路11の周方向において平面部Hの長さを短くする程、熱交換チューブ3の耐圧強度を向上させることができる。そのため、この発明における熱交換チューブ3の冷媒流路11は、曲面部15の総周長を曲面部15間に連なる部分(上記ではリブ13a,13bおよび凸条部14a,14b)の平面部Hの総周長よりも長く形成するように構成されている。
【0039】
図4は、冷媒流路11の形状に応じて熱交換チューブ3に生じる応力(相当応力)の違いを確認したシミュレーションデータ(グラフ)を示してある。ここに示すシミュレーションでは、
図5(a)に示すようにこの発明における冷媒流路11が形成された熱交換チューブ3aと、
図5(b)に示すように断面形状が円形の冷媒流路11bが形成された熱交換チューブ3b(比較例1)と、
図5(c)に示すように断面形状が矩形状の冷媒流路11cが形成された熱交換チューブ3c(比較例2)とを用いた。また、それらの熱交換チューブ3a,3b,3cおよび冷媒流路11,11b,11cの寸法は
図5に示す通りである。さらに、各熱交換チューブ3a,3b,3cは、純アルミニウム(A1050-O)によって成形した。この純アルミニウム(A1050-O)の引張強度は約60MPaであり、0.2%耐力は約20MPaである。そして、熱交換チューブ3に流動させる冷媒圧を変化させることにより、熱交換チューブ3に生じる最大応力を冷媒圧(内圧)毎に求めた。
【0040】
また、この発明における熱交換チューブ3aは、実施例1および実施例2の二つのデータを求めた。具体的には、曲面部15と平面部Hとの総周長比が85%対15%となる最適形状のもの(実施例1)と、実際の製造性を考慮した、曲面部15と平面部Hとの総周長比が、82.5%対17.5%となるもの(実施例2)の二つの熱交換チューブ3aを用意してデータを求めた。これらの熱交換チューブ3aの両端に形成された冷媒流路11aについては、曲面部15と平面部Hとの総周長比が、実施例1では、80%対20%であり、実施例2では、78.5%対21.5%である。なお、このように実施例1の方が実施例2よりも曲面部15の比率が大きいため、
図4に示すように実施例1の強度が、実施例2の強度よりも向上している。
【0041】
図4に示すようにこの発明における冷媒流路11が形成された熱交換チューブ3a(実線および破線で示す実施例1,2)は、矩形状の冷媒流路11cが形成された熱交換チューブ3c(一点鎖線で示す比較例2)よりも、内圧の増加に伴う相当応力の増加量を低下させることができ、その結果、熱交換チューブ3の耐圧強度を向上させることができる。それに対して、円形の冷媒流路11bが形成された熱交換チューブ3b(二点鎖線で示す比較例1)よりも、内圧の増加に伴う相当応力の増加量が大きくなる。しかしながら、圧縮応力が比較的大きく作用する熱交換チューブ3の幅方向および厚み方向の中央部分の板厚(肉厚)を厚く形成していることにより、上壁部7や下壁部8あるいは隔壁部12が破断することを抑制できる。
【0042】
また、熱交換チューブ3を流動する冷媒として、例えばフロンR410Aを使用した場合には、その冷媒圧が17MPa(安全率を含む)まで保証する必要がある。一方、
図4に示すようにこの発明における熱交換チューブ3で生じる相当応力は、冷媒圧が17MPaでは、45~50MPaであって、引張強度(60MPa)以下となる。そのため、上壁部7、下壁部8、および隔壁部12が破損することを抑制できる。
【0043】
上述したように冷媒流路11において熱交換チューブ3の幅方向および厚み方向での中央部分にリブ13a,13bや凸条部14a,14bなどの補強部を形成するとともに、それらのリブ13a,13bや凸条部14a,14bなどの補強部に連なる部分に冷媒流路11の中心軸線を中心とした円弧状の曲面部15を形成し、かつ曲面部15の総周長を平面部Hの総周長よりも長く形成することにより、冷媒流路11を冷媒が流動することにより冷媒流路11の内面に作用する押圧力が分散され、冷媒流路11を矩形状に形成した場合と比較して耐圧強度を向上させることができる。
【0044】
また、冷媒流路11の中心軸線からリブ13a,13bや凸条部14a,14bまでの距離L1,L3が、冷媒流路11の中心軸線から曲面部15までの距離L2よりも短く形成されているため、上壁部7および下壁部8ならびに各隔壁部12の中央部分の板厚(肉厚)を厚く形成することができる。そのため、それらの中央部分に大きな圧縮応力や押圧力が作用することによる耐久性の低下を抑制できる。したがって、冷媒流路11を円形に形成した場合と比較して、冷媒流路11の中心軸線間距離を接近させることができ、熱交換チューブ3内に多くの冷媒流路11を形成することができる。その結果、熱交換チューブ3の熱交換の性能を向上させることができる。
【0045】
また、リブ13a,13bおよび凸条部14a,14bを形成することにより上壁部7、下壁部8、および各隔壁部12の剛性を向上させることができる。さらに、リブ13a,13bおよび凸条部14a,14bを形成することにより、冷媒流路11を流動する冷媒との接触面積を増加させることができ、熱交換チューブ3の熱交換の性能を向上させることができる。
【0046】
なお、この発明の実施形態における熱交換用扁平管は、蒸発器として使用する熱交換器に用いられるものであってもよく、凝縮器として使用する熱交換器に用いられるものであってもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 熱交換器
3,3a,3b,3c 熱交換チューブ(熱交換用扁平管)
7 上壁部
8 下壁部
9 側壁部
11,11a,11b,11c 貫通孔
12 隔壁部
13a,13b,13c,13d リブ(第1補強部、第2補強部)
14a,14b,14c,14d 凸条部(第3補強部、第4補強部)
15 曲面部
H 平面部
R R部