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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】強制換気式インソール
(51)【国際特許分類】
   A43B 7/083 20220101AFI20240717BHJP
   A43B 13/20 20060101ALI20240717BHJP
   A43B 17/08 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
A43B7/083
A43B13/20 Z
A43B17/08
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021206866
(22)【出願日】2021-12-21
(65)【公開番号】P2023091960
(43)【公開日】2023-07-03
【審査請求日】2023-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】520206151
【氏名又は名称】平原 賢一
(74)【代理人】
【識別番号】100098615
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 学
(74)【代理人】
【識別番号】100165489
【弁理士】
【氏名又は名称】榊原 靖
(72)【発明者】
【氏名】平原 賢一
【審査官】木戸 優華
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3183852(JP,U)
【文献】特開2013-022330(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-0812135(KR,B1)
【文献】米国特許第05010661(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43B 7/083
A43B 13/20
A43B 17/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
靴内の足指側にエアを強制的に噴射して換気するための強制換気式インソールであって、
平面視の外形が靴底の形状に倣った形状のインソール本体と、
前記インソール本体の踵側、土踏まず側、土踏まずの反対側の少なくとも一箇所に配置され、外側の開口部が開口する複数の通気孔を有し、且つ硬質樹脂からなる横長の扁平な厚みが4mm以下の吸気側の中空構造体と、
前記吸気側の中空構造体における前記インソール本体の内側に配置され、且つ前記複数の通気孔における内側の開口部を開閉する吸気側の逆止弁と、
前記インソール本体に内蔵され、前記吸気側の中空構造体における複数の通気孔の内側の開口部が前記吸気側の逆止弁を介して連通するエアポンプと、
前記エアポンプの足指側に配置され、前後方向に沿った複数の通気孔を有し、且つ硬質樹脂からなる横長の扁平な厚みが4mm以下の排気側の中空構造体と、
前記排気側の中空構造体の足指側に配置され、且つ前記複数の通気孔における足指側の開口部を開閉する排気側の逆止弁と、
前記インソール本体内に形成され、前記排気側の逆止弁から足指側に延びた排気流路と、
前記排気流路の足指側と前記インソール本体の上面との間に形成された複数の噴射孔と、を備え、
前記吸気側の中空構造体と前記排気側の中空構造体とは、これらに個別に付設される前記吸気側の逆止弁および排気側の逆止弁を含めて、互いに同じ物であり、前記吸気側および前記排気側の中空構造体は、何れも硬質樹脂の射出成形体であり、前記インソール本体の前後方向または幅方向の断面が、横長の扁平な中空矩形状を呈し、且つ内部に単数または複数の隔壁を前記インソール本体の前後方向または幅方向に沿って内設していると共に、前記逆止弁は、弾性を有する薄く柔軟なシートからなる
強制換気式インソール。
【請求項2】
前記インソール本体は、軟質樹脂からなり、且つ平面視の外形が互いに相似形状である上側本体と下側本体とによって構成され、前記エアポンプは、前記上側本体と前記下側本体との間に配置され、前記複数の噴射孔は、前記上側本体の足指側に形成されている、
請求項1に記載の強制換気式インソール。
【請求項3】
前記エアポンプを構成するスポンジ樹脂は、その体積の20~40%を圧縮された状態で、前記インソール本体に内蔵されている、
請求項1または2に記載の強制換気式インソール。
【請求項4】
前記エアポンプを構成するスポンジ樹脂は、その体積の20~40%の範囲を占める垂直方向に沿った複数の切り欠きまたは縦穴を有している、
請求項に記載の強制換気式インソール。
【請求項5】
前記インソール本体を構成する上側本体および下側本体は、互いに同じ樹脂または同種の樹脂からなる、
請求項から4の何れか一項に記載の強制換気式インソール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、靴底上に敷設され、靴内にエアを強制的に噴射して換気するための強制換気式インソールに関する。
【背景技術】
【0002】
靴(履物)内の空気を換気でき、且つ使用時のフィット感や衝撃緩和能力の向上を図るため、靴底(ソール)または中敷(インソール)の上面における土踏まず付近に設けられ、全体がドーム形状を呈するゴムや樹脂などの可撓性材料からなるエアチャンバと、エアチャンバの後方から踵側に延び、エアチャンバ側の内部に第1逆止弁を設けた所要数(単数または複数)の吸気管と、エアチャンバの前方から爪先側に延び、エアチャンバ側の内部に第2逆止弁を設けた所要数の排気管と、を備えた履物および履物用中敷が提案されている(例えば、特許文献1参照)。尚、第1逆止弁と第2逆止弁とは、一方が開放されている状態では、常に他方が閉鎖された状態とされている。
【0003】
特許文献1に開示された履物および履物用中敷によれば、歩行時に使用者が踵側を持ち上げた際には、吸気管および開放された第1逆止弁を通じて、履物の踵側から空気がエアチャンバ内に吸気され、使用者が踵側を着地した際には、排気管および開放された第2逆止弁を通じて、エアチャンバ内から空気が爪先側に排気される。その結果、履物内の悪臭や水虫などの皮膚疾患を防ぎ、使用者のフィット感などの向上を図ることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-299014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示された履物および履物用中敷では、靴底または中敷の上面に沿って所要数の吸気管および排気管が突出して配設されているため、これらの素材が弾性素材からなる場合であっても、使用経過に応じて垂直方向に沿って吸気管および排気管の断面が圧迫される。その結果、送気すべき空気の量が低下するため、換気機能が損なわれると共に、使用者の足の裏に対し不用意な違和感を与えたり、履物の脱着時に吸気管および排気管を不用意に損傷するおそれがあった。本発明は、特許文献1に開示された履物および履物用中敷における問題点を解決し、長期間に亘って安定した換気機能を維持でき、耐久性に優れていると共に、使用者が快適に使用できる強制換気式インソールを提供する、ことを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の強制換気式インソールは、
靴内の足指側にエアを強制的に噴射して換気するための強制換気式インソールであって、
平面視の外形が靴底の形状に倣った形状のインソール本体と、
前記インソール本体の踵側、土踏まず側、土踏まずの反対側の少なくとも一箇所に配置され、外側の開口部が開口する複数の通気孔を有し、且つ硬質樹脂からなる横長の扁平な厚みが4mm以下の吸気側の中空構造体と、
前記吸気側の中空構造体における前記インソール本体の内側に配置され、且つ前記複数の通気孔における内側の開口部を開閉する吸気側の逆止弁と、
前記インソール本体に内蔵され、前記吸気側の中空構造体における複数の通気孔の内側の開口部が前記吸気側の逆止弁を介して連通するエアポンプと、
前記エアポンプの足指側に配置され、前後方向に沿った複数の通気孔を有し、且つ硬質樹脂からなる横長の扁平な厚みが4mm以下の排気側の中空構造体と、
前記排気側の中空構造体の足指側に配置され、且つ前記複数の通気孔における足指側の開口部を開閉する排気側の逆止弁と、
前記インソール本体内に形成され、前記排気側の逆止弁から足指側に延びた排気流路と、
前記排気流路の足指側と前記インソール本体の上面との間に形成された複数の噴射孔と、を備え、
前記吸気側の中空構造体と前記排気側の中空構造体とは、これらに個別に付設される前記吸気側の逆止弁および排気側の逆止弁を含めて、互いに同じ物であり、前記吸気側および前記排気側の中空構造体は、何れも硬質樹脂の射出成形体であり、前記インソール本体の前後方向または幅方向の断面が、横長の扁平な中空矩形状を呈し、且つ内部に単数または複数の隔壁を前記インソール本体の前後方向または幅方向に沿って内設していると共に、前記逆止弁は、弾性を有する薄く柔軟なシートからなる
【0007】
前記インソール本体は、軟質樹脂からなり、且つ平面視の外形が互いに相似形状である上側本体と下側本体とによって構成され、前記エアポンプは、前記上側本体と前記下側本体との間に配置され、前記複数の噴射孔は、前記上側本体の足指側に形成されていても良い。
【0009】
前記エアポンプを構成するスポンジ樹脂は、その体積の20~40%を圧縮された状態で、前記インソール本体に内蔵されていても良い。
【0010】
前記エアポンプを構成するスポンジ樹脂は、その体積の20~40%の範囲を占める垂直方向に沿った複数の切り欠きまたは縦穴を有していても良い。
【0012】
前記インソール本体を構成する上側本体および下側本体は、互いに同じ樹脂または同種の樹脂からなっていても良い。
【発明の効果】
【0013】
本発明の強制換気式インソールによれば、インソール本体の踵側、土踏まず側、または、土踏まずの反対側に外側の開口部が開口する複数の通気孔を有する吸気側の中空構造体が、水平方向に沿って扁平な硬質樹脂からなるので、足の踵側の着地時ごとに、使用者の全体重が加わっても変形し難く、エアを靴内の踵側などからエアポンプ側に確実に吸気できるので、長期間に亘って安定した換気機能を維持でき、且つ耐久性に優れている。しかも、吸気側の逆止弁を含む吸気側の中空構造体、エアポンプ、排気側の逆止弁を含む排気側の中空構造体、および、排気流路が、何れもインソール本体の内部に配置されているので、長期間に亘って使用者に対し違和感の少ない快適な使用状態を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】(A)は、本発明による一実施形態の強制換気式インソールを示す斜視図、(B)は、強制換気式インソールの分解斜視図。
図2】(A)は、強制換気式インソールのインソール本体を構成する上側本体および下側本体の前後方向に沿った垂直断面図、(B)は、組み立てられた強制換気式インソールの前後方向に沿った垂直断面図。
図3】(A)は、吸気側の逆止弁を含む吸気側の中空構造体を示す斜視図、(B1)は、吸気側の中空構造体の前後方向に沿った垂直断面図、(B2)は、吸気側の逆止弁側からの視角による吸気側の中空構造体の側面図、(C1)は、(A)中のC-C線の矢視に沿った垂直断面図、(C2)は、異なる形態の(C1)と同じ位置における垂直断面図、(D)は、排気側の逆止弁を含む排気側の中空構造体を示す斜視図。
図4】(A)、(B)は、強制換気式インソールの使用状態を示す概略の垂直断面図。
図5】(A)は、異なる形態の強制換気式インソールの概略を示す平面図、(a)は、(A)中のa-a線の矢視に沿った部分垂直断面図、(B)は、更に異なる形態の強制換気式インソールの概略を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下において、本発明を実施するための形態について説明する。尚、本明細書(本発明)において、爪先(足指)側から踵側に沿った方向を前後方向と称し、前後方向と直交する方向を幅方向と称すると共に、後述するインソール本体に内蔵されるエアポンプに対し、外部からエアを吸い込む経路を吸気側Xと称し、エアポンプからインソール本体の足指側にエアを排出する経路を排気側Yと称する。
【0016】
図1(A)は、一形態の強制換気式インソール1aの斜視図、図1(B)は、強制換気式インソール1aの分解斜視図、図2(A)は、強制換気式インソール1aのインソール本体2を構成する上側本体2aおよび下側本体2b1の垂直断面図、図2(B)は、強制換気式インソール1aの垂直断面図である。図示のように、強制換気式インソール1aは、インソール本体2、その内部に配設された吸気側Xの逆止弁26を含む吸気側Xの中空構造体20a、エアポンプ15a、および、排気側Yの逆止弁26を含む排気側Yの中空構造体20bを備えている。
【0017】
インソール本体2は、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂(以下、EVA樹脂と略記する)、または、ウレタン樹脂などの軟質樹脂からなるプレス成形体であり、平面視の外形が対象となる靴(履物)の靴底に倣った形状を呈すると共に、上下一対の上側本体2aと下側本体2b1とから構成されている。
【0018】
上側本体2aは、図1(B)、図2(A)に示すように、平面視の外形が靴底に倣ったベース3、ベース3の踵側から土踏まず付近とその反対側の周縁に沿って斜め上向きで外側向きに立設した平面視がU字形状の鍔部4、鍔部4に囲まれたベース3において上向きに張り出した平面視が撥(ばち)形状の凸部5、ベース3の下面における凸部5から足指側へ前後方向に沿って延びた排気流路6、および、排気流路6の足指側とベース3の上面(インソール本体2の上面)との間を貫通する9個(複数)の噴射孔9を備えている。排気流路6のベース3の下面には、凸部5から噴射孔9付近までの間に3本(複数)の凸条7が前後方向に沿って平行に垂下しており、凸条7同士間とこれらの幅方向の両側とには、4つ(複数)の細溝8が位置している。噴射孔9は、内径が約1~3mm(例えば、約2mm)であり、平面視で前後方向および幅方向に3個ずつを格子状に配置している。尚、格子状のパターンのほか、平面視で千鳥状のパターンで配設しても良い。
【0019】
下側本体2b1は、図1(B)、図2(A)に示すように、平面視の外形が靴底に倣ったベース13、ベース13の踵側から土踏まず付近とその反対側の周縁に沿って斜め上向きで且つ外側向きに立設した平面視がU字形状の鍔部14、鍔部14に囲まれたベース13において下向きに張り出した平面視が撥形状の凹部13b、および、ベース13の上面における凹部13bから足指側へ前後方向に沿って延び、且つ上側本体2aの排気流路6と対向する平面視が矩形状の浅溝13aを備えている。鍔部14の踵側の外側面には、垂直方向に沿って互いに平行な4本(複数)の細条11が突設されている。4本の細条11の直下における鍔部14の基端部には、外部と凹部13bの踵側との間を水平方向に沿って貫通し、且つ側面視の断面が横長の長方形状である貫通孔12が形成されている。
【0020】
図1(B)、図2(A)に示すように、下側本体2b1の凹部13bの上面には、エアポンプ15aが接着されている。エアポンプ15aは、伸縮自在なスポンジ樹脂(通気性多孔質樹脂)からなり、全体がほぼ直方体形状を呈し、且つ足指側に傾斜面18と丈の低い垂直面19とを有すると共に、前後方向の中間には、平面視が幅方向に沿って横長の長方形である縦穴17が垂直に貫通している。エアポンプ15aの底面における縦穴17と踵側の外側面との間には、前後方向に沿って断面が横長の長方形である凹溝16が形成されている。下側本体2b1の貫通孔12内とエアポンプ15aの凹溝16内とには、吸気側Xの逆止弁26を含む吸気側Xの中空構造体20aが貫通して接着されている。エアポンプ15aの垂直面19の足指側に隣接する浅溝13aの上面には、排気側Yの逆止弁26を含む排気側Yの中空構造体20bが接着されている。尚、縦穴17は、無負荷状態であるエアポンプ15aの外形に囲まれた容積の20~40%(例えば、25%)を占めており、縦穴17内の底部には、吸気側Xの逆止弁26が位置している。
【0021】
吸気側Xの中空構造体20aは、EVA樹脂、ABS樹脂、または、ポリエチレンなどの硬質樹脂からなる射出成形体であり、図3(A)、(B1)、(B2)、(C1)に示すように、全体が横長の扁平な直方体形状を呈し、前後方向が比較的長い天板21、前後方向が比較的短い底板22、天板21および底板22の両端縁同士間を連結する左右一対の側壁23、天板21と底板22との間に垂設され、且つ前後方向に沿った3つ(複数)の隔壁24とを一体に備えている。天板21と底板22と3つの隔壁24との間には、大小2組で左右一対ずつの通気孔25a,25bが前後方向に沿って貫通している。尚、中空構造体20aの厚みは、4mm以下であり、通気孔25a,25bの高さは、約2mmである。
【0022】
天板21と底板22と3つの隔壁24との踵側の外側面は、平面視でインソール本体2の上側本体2aおよび下側本体2b1の踵側の外側面と相似形状である外側に凸形の曲線Rとなっている。即ち、吸気側Xの中空構造体20aにおける踵側の外側面は、インソール本体2の踵側の外側面と面一状の曲面なっている。左右一対ずつの通気孔25a,25bの外側の開口部も、平面視が外側に凸形の曲面である。
【0023】
図3(B1)に示すように、図示で左側となるエアポンプ15a側の3つの隔壁24の端部は、底板22から天板21に向かって図示で右下側から左上側に延びた傾斜辺24sとなっている。尚、図3(C2)に示すように、幅方向において2つの隔壁24を均等に配置することで、3つの同じサイズの通気孔25を幅方向に沿って均等に内設した吸気側Xの中空構造体20aとした形態としても良い。
【0024】
吸気側Xの逆止弁26は、天然ゴム、合成ゴム(例えば、クロロプレンゴム)、または、シリコーンゴムなどからなる高い弾性を有する薄く柔軟なシートからなり、平面視が長方形を呈し且つ厚みが約0.5mmである。図3(A)、(B1)に示すように、吸気側Xの逆止弁26の下端縁27を、中空構造体20aの底板22におけるエアポンプ15a側の下面の端縁に沿って接着し、且つ吸気側Xの逆止弁26の左右一対の傾斜縁29を、隣接する中空構造体20aの側壁23ごとの内面に対し、図示で右下側から左上側に傾斜するように接着している。即ち、吸気側Xの逆止弁26は、複数の通気孔25a,25bの内側の開口部を閉鎖するように付勢された状態で吸気側Xの中空構造体20aに接着されている。
【0025】
吸気側Xの逆止弁26の上面における幅方向の中間部分は、吸気側Xの中空構造体20aの傾斜辺24sごとに接触していると共に、吸気側Xの逆止弁26の上端縁28は、中空構造体20aの天板21の下面におけるエアポンプ15a側の端縁に対し、前後方向において約1mm~約4mmの長さで面接触している。そのため、吸気側Xの逆止弁26は、吸気側Xの中空構造体20aの各通気孔25a,25bを閉鎖状態に保っている。
【0026】
図3(B1)中の実線の矢印で示すように、図示で右方の踵側から吸気側Xの中空構造体20aの各通気孔25a,25b内に所定以上の圧力のエアが吸い込まれた場合、吸気側Xの逆止弁26は、吸い込まれたエアの圧力を受ける。この際、吸気側Xの逆止弁26は、図3(B1),(B2)中の破線と破線の矢印とで示すように、その上端縁28の幅方向における中央部分が下向きの凸形の円弧形状となるように弾性変形する。その結果、吸気側Xの逆止弁26は、吸気側Xの中空構造体20aの各通気孔25a,25bを開放状態にすることができる。
【0027】
即ち、吸気側Xの逆止弁26は、エアの圧力を受けない無負荷状態か、これに近似した状態の場合、あるいは、エアポンプ15a側から逆方向のエアの圧力を受けた場合には、吸気側Xの中空構造体20aの通気孔25a,25bを閉鎖状態に保っている。一方、通気孔25a,25bの外側(踵側)の開口部から一定以上の圧力のエアが吸い込まれた場合にだけ、吸気側Xの中空構造体20aの各通気孔25a,25bを開放状態に保つことになる。
【0028】
排気側Yの中空構造体20bは、図3(D)に示すように、図示の右側に隣接するエアポンプ15a側の端面が、複数の通気孔25a,25bの開口部を含む垂直面となっており、この垂直面の他は、排気側Yの逆止弁26を含めて、吸気側Xの逆止弁26を含む吸気側Xの中空構造体20aと全て同じ素材からなり、且つ同じ構造(同じ物)を備えている。即ち、排気側Yの逆止弁26は、図3(D)で右側に隣接されるエアポンプ15a側から一定以上の圧力を伴うエアを受けない場合には、各通気孔25a,25bを閉鎖状態に保っている。
【0029】
一方、エアポンプ15a側から排気側Yの中空構造体20bにおける各通気孔25a,25b内に一定以上の圧力のエアが吹き込まれた際には、排気側Yの逆止弁26は、吹き込まれたエアの圧力を受ける。その際、排気側Yの逆止弁26は、その上端縁28の幅方向の中央部分が下向きの凸形となるように弾性変形する。その結果、排気側Yの逆止弁26は、排気側Yの中空構造体20bにおける各通気孔25a,25bを開放状態に保つことができる。
【0030】
図1(B)中の一点鎖線の矢印で示すように、エアポンプ15a、吸気側Xの逆止弁26を含む吸気側Xの中空構造体20a、および、排気側Yの逆止弁26を含む排気側Yの中空構造体20bを所定の位置ごとに配設した下側本体2b1のベース13の上面、および鍔部14の上面に対し、上側本体2aのベース3の下面、および鍔部4の下面を、図示しない接着剤を介して個別に接触させた後、これら両者を加熱しつつ厚み方向に沿ってプレスしつつ接着(熱圧着)した。この際、上側本体2aの凸条7の下端面は、下側本体2b1の浅溝13aの上面に当接している。尚、上側本体2aと下側本体2b1と、吸気側Xおよび排気側Yの中空構造体20a,20bとを、同じ樹脂素材とするか、または、同種(同系)の樹脂素材とすることで、これら3者間の接着を一層強固で緻密にできる。
【0031】
その結果、図2(B)に示すように、上側本体2aと下側本体2b1とが一体となったインソール本体2を含む強制換気式インソール1aが得られた。この際、互いに対向する上側本体2aの凸部5と、下側本体2b1の凹部13bとの間には、所要の厚さ(体積)を有するポンプ室30が形成される。ポンプ室30内には、厚み方向に沿って圧縮されたエアポンプ15aが密封されている。エアポンプ15aを構成するスポンジ樹脂の厚み(ほぼ体積)は、当初の厚みから約10~50%、望ましくは約20~40%(例えば、約30%)低減されている。この際、縦穴17がスポンジ樹脂の体積低減を迅速化している。その結果、エアポンプ15aを構成しているスポンジ樹脂は、常に被圧縮状態にあるため、無負荷状態であっても常に膨張する圧力(反発力)を予め内蔵しているので、使用者の足圧の有無による圧縮および膨張に対する応答性を素早く実現し易くしている。
【0032】
図2(B)に示すように、強制換気式インソール1aは、インソール本体2の外側には、踵側の鍔部4,14を除いて何らの突出物がなく、圧縮されたエアポンプ15a、逆止弁26を含む吸気側Xの中空構造体20a、および、逆止弁26を含む排気側Yの中空構造体20bは、何れもインソール本体2の内側に密閉されている。しかも、水平方向に扁平な吸気側Xおよび排気側Yの中空構造体20a,20b以外の構成物は、全て柔軟な軟質の素材により構成されている。従って、全重量が軽量で取り扱い易いと共に、靴底に装着し易く、使用者の足の裏に対して違和感を与え難くなっている。
【0033】
以下において、強制換気式インソール1aの使用方法を、図4(A)、(B)により説明する。尚、以下では、使用者の一方の足について説明するが、他方の足については、交互に同じ状態をずらして繰り返すものである。使用者が歩行時において、一方の足の踵側を持ち上げ且つ爪先側のみを接地した場合、強制換気式インソール1aは、図4(A)に示すように、側面視で全体が逆ヘ字形状に弾性変形し、ほぼ水平姿勢となった爪先(足指)側に対し、体重に近似する足圧Pが加えられる。この際、強制換気式インソール1aの踵側は、ほぼ無負荷状態となるため、エアポンプ15aを構成するスポンジ樹脂が膨張する。そのため、スポンジ樹脂の膨張に伴うポンプ室30内の負圧によって、図示のように、吸気側Xの中空構造体20aにおける吸気側Xの逆止弁26が開放されると共に、排気側Yの中空構造体20bにおける排気側Yの逆止弁26が閉鎖される。
【0034】
その結果、図4(A)中の細い矢印で示すように、外気を含むエアが、下側本体2b1の踵側に位置する複数の細条11同士間から、吸気側Xの中空構造体20aの通気孔25a,25bと弾性変形した吸気側Xの逆止弁26付近の隙間とを通過して(介して)、エアポンプ15aのスポンジ樹脂中を含むポンプ室30内に吸引され、一時的に貯留される。尚、外部のエアは、複数の細条11がない場合でも、図示しない靴内の踵側とインソール本体2の踵側との隙間を通じて、ポンプ室30内のエアポンプ15aのスポンジ樹脂中に吸引される。
【0035】
次いで、使用者が一方の足の踵側を接地すると、図4(B)に示すように、体重と同様な足圧Pが、側面視で全体が水平姿勢となった強制換気式インソール1aの踵側全体に対して、加えられると共に、強制換気式インソール1aの爪先(足指)側は、比較的小さい負荷状態となる。この際、エアポンプ15aのスポンジ樹脂が圧縮されて生じるポンプ室30内の正圧により、図示のように、吸気側Xの中空構造体20aにおける吸気側Xの逆止弁26が閉鎖されると共に、排気側Yの中空構造体20bにおける排気側Yの逆止弁26が開放される。尚、エアポンプ15aのスポンジ樹脂の圧縮は、縦穴17により迅速化されている。
【0036】
その結果、図4(B)中の細い矢印で示すように、開放された排気側Yの逆止弁26から、対向する排気流路6および浅溝13a内に前後方向に沿って圧送されたエアは、複数の噴射孔9から使用者の足の裏における足指付近から土踏まずの中程付近に対して、強制的に噴射される。この際、エアポンプ15aは、縦孔17を設けることにより、設けない場合に比較して吐出するエア量を約20~40%増大できる。尚、噴射孔9の位置が、使用者の爪先側よりも若干足指の付け根側の位置に開設されているので、排気流路6内を圧送されるエアの圧力損失の低下が若干抑制される。
【0037】
この間において、使用者の他方の足は、図4(B)に示す状態を経て、図4(A)に示す状態に移行している。即ち、使用者の両足は、その歩行に伴って、図4(A)に示す状態と、図4(B)に示す状態とを交互に招来させている。従って、強制換気式インソール1aによれば、エアが使用者の足指付近に対し強制的に噴射されることで、靴内の爪先付近や足指の付け根付近の換気が強制的に行われるので、湿潤化に伴う不快な悪臭や水虫などの皮膚疾患を予防したり、抑制することが可能となる。しかも、全重量が軽量で、且つ突出部が少ない扁平な外形のため、取り扱い易いと共に、耐久性にも優れている。更に、逆止弁26を個別に含む吸気側Xおよび排気側Yの中空構造体20a,20bが、同じ素材および構造からなり、且つ殆ど共通した形状であるため、少ない構成物により効率良く制作できる。尚、強制換気式インソール1aは、踵側の吸気側Xにも逆止弁26を含む中空構造体20bを配置した形態(2個の中空構造体20bの併用)としても良い。
【0038】
図5(A)は、強制換気式インソール1aとは異なる形態の強制換気式インソール1bの概略を示す平面図である。強制換気式インソール1bは、図示のように、複数の噴射穴9で例示した上側本体2aと下側本体2b2とからなるインソール本体2と、インソール本体2の内部に配設されたエアポンプ15b、吸気側Xの逆止弁26を含む中空構造体20b、および、排気側Yの逆止弁26を含む中空構造体20b、を備えている。即ち、強制換気式インソール1bでは、吸気側Xと排気側Yとの双方で、同じ逆止弁26を含む同じ中空構造体20bを併用している。本実施形態では、吸気側Xおよび排気側Yの中空構造体20bは、何れも3つの同じ通気孔25が貫通する形態である。下側本体2b2は、図1(B)、図2(A)で示した下側本体2b1の鍔部14に貫通孔12を設けない形態である。エアポンプ15bは、図1(B)、図2(A)で示したエアポンプ15aの凹溝16や縦穴17が無く、図5(A)に示すように、構成しているスポンジ樹脂の無負荷時における体積の20~40%(例えば、30%)を占める垂直方向に沿った複数の切り欠き15kを、土踏まず側とその反対側との側面ごとに開口するように、平面視で幅方向に沿って設けた形態を有している。複数の切り欠き15kは、エアポンプ15bのスポンジ樹脂の体積の低減を迅速化させると共に、設けない場合に比較して、排気側Yへ排出するエアの吐出量を約40%程度増大させることが可能となる。
【0039】
図5(A),(a)に示すように、上側本体2aの鍔部4と下側本体2b2の鍔部14との間における土踏まず側で且つ踵側の位置(本発明では、土踏まず側と称する)の鍔部4,14間の隙間内に、吸気側Xの中空構造体20bを、複数の通気孔25の開口部を斜め上向きとし、且つ吸気側Xの逆止弁26を斜め下向きとなるように全体が傾斜した縦向きの姿勢で配設している。この際、吸気側Xの中空構造体20bの各通気孔25は、平面視で幅方向に沿っており、吸気側Xの逆止弁26は、エアポンプ15bの側面と接近し、且つ連通可能とされている。
【0040】
図5(A)に示すように、排気側Yの中空構造体20bは、各通気孔25の開口部を、エアポンプ15bの足指側の垂直面19に接触させ、且つ、排気側Yの逆止弁26を、対向する排気流路6と浅溝13aとのエアポンプ15b側の端部に配設されている。排気側Yの中空構造体20bの各通気孔25は、前後方向に沿っている。従って、図5(A)中の細い矢印で示すように、使用者が踵側を持ち上げた際には、外部のエアが、吸気側Xの中空構造体20bにおける各通気孔25と弾性変形した吸気側Xの逆止弁26付近の隙間とを通じて、ポンプ室30内のエアポンプ15bのスポンジ樹脂中に吸引される。次に、使用者が踵側を着地させた際には、ポンプ室30内のエアポンプ15b中のエアが、排気側Yの中空構造体20bの通気孔25と弾性変形した排気側Yの逆止弁26付近の隙間とを通じて、対向する浅溝13aと上側本体2aの排気流路6とから複数の噴射孔9側に圧送された後、使用者の足指付近に対して噴射される。従って、強制換気式インソール1bによれば、強制換気式インソール1aと同様な作用と効果とが得られる。しかも、吸気側Xおよび排気側Yの双方に対し、逆止弁26を含めて共通した中空構造体20bを併用しているので、一層生産性を高められる。
【0041】
図5(B)は、更に異なる形態の強制換気式インソール1cの概略を示す平面図である。強制換気式インソール1cは、図示のように、複数の噴射孔9で例示した上側本体2aと下側本体2b2とからなるインソール本体2と、インソール本体2の内部に配設されたエアポンプ15b、吸気側Xの逆止弁26を含む吸気側Xの中空構造体20b、排気側Yの逆止弁26を含む排気側Yの中空構造体20bと、を備えている。上側本体2aの鍔部4および下側本体2b2の鍔部14の土踏まずの反対側で且つ踵側の位置(本発明では、土踏まずの反対側と称する)には、鍔部4,14間の隙間内に、吸気側Xの逆止弁26を含む吸気側Xの中空構造体20bが、図5(a)と線対称の姿勢で配設されている。この際、吸気側Xの中空構造体20bの各通気孔25は、平面視で幅方向に沿っており、吸気側Xの逆止弁26は、エアポンプ15bの側面と接近し且つ連通可能にされている。
【0042】
図5(B)に示すように、強制換気式インソール1cでは、排気側Yの逆止弁26を含む排気側Yの中空構造体20bは、図5(A)に示した強制換気式インソール1bにおける排気側Yの逆止弁26を含む排気側Yの中空構造体20bと同じように配設されている。従って、図5(B)中の細い矢印で示すように、使用者が踵側を持ち上げた際には、外部のエアが、吸気側Xの中空構造体20bの各通気孔25と弾性変形した吸気側Xの逆止弁26付近の隙間とを通じて、ポンプ室30内のエアポンプ15bのスポンジ樹脂中に吸引される。次に、使用者が踵側を着地させた際には、ポンプ室30内のエアポンプ15b中のエアが、排気側Yの中空構造体20bの各通気孔25と弾性変形した排気側Yの逆止弁26付近の隙間とを通じて、対向する浅溝13aと上側本体2aの排気流路6とから複数の噴射孔9側に圧送された後、使用者の足指付近に対し噴射される。従って、強制換気式インソール1cによれば、強制換気式インソール1a,1bの双方と同様な作用と効果とが得られる。
【0043】
尚、強制換気式インソール1b,1cの吸気側Xおよび排気側Yの中空構造体20bには、強制換気式インソール1aにおける吸気側Xの中空構造体20aと同じく、断面のサイズが相違する複数の通気孔25a,25bを貫通させた形態としても良い。強制換気式インソール1aは、吸気側Xの中空構造体20aを排気側Yの中空構造体20bと同じ中空構造体20bに置き換え、且つ下側本体2b1の貫通孔12を省略し、強制換気式インソール1b,1cと同様に、上側本体2aの鍔部4と下側本体2b2の鍔部14との間に斜め縦向きに挿入する配置を、踵側に設けた形態にしても良い。インソール本体2の上面に開口する複数の噴射孔9は、2個(一対)以上を任意のパターンで配置した形態であれば良い。強制換気式インソール1aにおいて、下側本体2b1の踵側に突設する複数の細条11は、3個以上であれば任意の数を配置しても良く、あるいは、全てを省略しても良い。強制換気式インソール1aにおいて、下側本体2b1の貫通孔12を踵側ではなく、土踏まず側または土踏まずと反対側の側面に形成し、吸気側Xの中空構造体20bを貫通孔12から幅方向に沿って挿入して、吸気側Xの逆止弁26をエアポンプ15aの縦穴17の底部に配置した形態としても良い。強制換気式インソール1a~1cが装着対象とする靴(履物)には、通勤靴、作業靴、安全靴、長靴、半長靴などが含まれる。
【0044】
本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲において、適宜変更した形態とすることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、長期間に亘って安定した換気機能を維持でき、耐久性に優れていると共に、使用者が快適に使用可能な強制換気式インソールを提供できる。
【符号の説明】
【0046】
1a~1c 強制換気式インソール
2 インソール本体
2a 上側本体
2b1,2b2 下側本体
3,13 ベース
4,14 鍔部
5 凸部
6 排気流路
7 凸条
8 細溝
9 噴射孔
11 細条
12 貫通孔
13a 浅溝
13b 凹部
15a,15b エアポンプ
15k 切り欠き
16 凹溝
17 縦穴
18 傾斜面
19 垂直面
20a,20b 中空構造体
21 天板
22 底板
23 側壁
24 隔壁
24s 傾斜辺
25a,25b,25 通気孔
26 逆止弁
27 下端縁
28 上端縁
29 傾斜縁
30 ポンプ室
P 足圧
R 曲線
X 吸気側
Y 排気側
図1
図2
図3
図4
図5