(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】記憶力増強及び記憶障害軽減のためのマンノース6リン酸及びその修飾体の使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7028 20060101AFI20240717BHJP
A61K 31/7024 20060101ALI20240717BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240717BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20240717BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20240717BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
A61K31/7028
A61K31/7024
A61P25/00
A61P25/14
A61P25/16
A61P25/28
(21)【出願番号】P 2021506942
(86)(22)【出願日】2019-08-12
(86)【国際出願番号】 US2019046228
(87)【国際公開番号】W WO2020033972
(87)【国際公開日】2020-02-13
【審査請求日】2022-08-02
(32)【優先日】2019-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500350265
【氏名又は名称】ニューヨーク ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アルベリーニ,クリスティーナ,マリア
(72)【発明者】
【氏名】トローネル,ダーク
(72)【発明者】
【氏名】アープ,クリストファー,ジェームズ
【審査官】金子 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-503847(JP,A)
【文献】特表平11-510179(JP,A)
【文献】特表平04-501704(JP,A)
【文献】特表2012-531458(JP,A)
【文献】国際公開第2011/033305(WO,A1)
【文献】Molecular Neurobiology ,2017年,54(4):2636-2658
【文献】Bioorganic & Medicinal Chemistry,2006年,14(10):3575-3582
【文献】Bioorganic & Medicinal Chemistry ,2002年,10(12):4051-4056
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/7028
A61K 31/7024
A61P 25/00
A61P 25/14
A61P 25/16
A61P 25/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体の記憶力を増強するための組成物であって、マンノース-6-リン酸 (M6P)、
又は以下に示すL2、
あるいは、M6P又はL2の薬学的に許容される塩を含む、組成物。
【請求項2】
記憶の保持及び/又は記憶の持続時間を増強するために使用される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記被験体が記憶障害を有さない、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記被験体が記憶障害を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記記憶障害が、神経変性疾患又は加齢に関連するものである、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記神経変性疾患が、アルツハイマー病、ハンチントン病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症 (ALS)からなる群より選択される、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記記憶障害が、頭部損傷、脊髄損傷、発作、脳卒中、てんかん、虚血、精神神経症候群、ウイルス性脳炎に起因する中枢神経系(CNS)損傷、髄膜炎に起因するCNS損傷、又は腫瘍に起因するCNS損傷に関連するものである、請求項4に記載の組成物。
【請求項8】
前記記憶力が短期記憶である、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記記憶力が長期記憶である、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記神経変性疾患が、タンパク質凝集と関連している、請求項5に記載の組成物。
【請求項11】
M6P又はその薬学的に許容される塩を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
M6Pを含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
M6P又はその薬学的に許容される塩が、体重1kgあたり1~2,000μgの範囲の量で被験体に投与される、請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
M6P又はその薬学的に許容される塩が、体重1kgあたり100~1,000μgの範囲の量で被験体に投与される、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記組成物において、M6P又はその薬学的に許容される塩が、IGF-2受容体に特異的に結合する唯一の薬剤である、請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項16】
L2又はその薬学的に許容される塩を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項17】
L2を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項18】
L2又はその薬学的に許容される塩が、体重1kgあたり1~2,000μgの範囲の量で被験体に投与される、請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項19】
L2又はその薬学的に許容される塩が、体重1kgあたり1~500μgの範囲の量で被験体に投与される、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
前記組成物において、L2又はその薬学的に許容される塩が、IGF-2受容体に特異的に結合する唯一の薬剤である、請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【連邦支援の研究又は開発に関する陳述】
【0001】
この発明は、国立衛生研究所によって付与された認可番号MH065635及びMH074736の下で、政府の支援を受けて発明された。政府は本発明に所定の権利を有する。
【関連出願の相互参照】
【0002】
この出願は、2018年8月10日に出願された米国仮出願62/717,405及び2019年7月8に出願された米国仮出願62/871,453に基づく優先権を主張し、その開示は参照により本明細書に包含される。
【背景技術】
【0003】
記憶の保持及び想起が有害な影響を受けている病原性状況下、ならびに非病理学的状況下では、記憶力の増強が望ましい場合がある。記憶消失が起こりうる疾患の例としては、神経変性疾患、軽度認知障害、脳血管疾患、レビー小体病、前頭側頭型変性症、発達認知障害、外傷性脳損傷、せん妄、感染症、アルコール乱用又は癌が挙げられる。記憶力増強の効果的な手段がないため、記憶力を増強するためのアプローチの開発が引き続き必要とされている。
【発明の概要】
【0004】
本開示は、記憶力増強及び記憶障害を回復させるための方法を提供する。この方法は、記憶力の増強又は記憶障害の回復が所望される被験体、又は記憶力の増強又は記憶障害の回復を求める被験体に、治療的有効量のIGF-2受容体の作動剤又は活性化剤(IGF-2以外)を含むか、又は本質的にそれからなる組成物を投与する工程を包含する。一実施形態では、作動剤は、マンノース-6-リン酸(M6P)又はマンノース-6-リン酸の誘導体(本明細書では「修飾体」とも呼ばれる)、又はIGF-2の誘導体もしくは修飾体(例えば、IGF-2類似体)である。一実施形態では、M6P又はM6P誘導体を含むか、又は本質的にそれからなる組成物を、タンパク質凝集(シナプス変性症をもたらす)が存在する任意の神経変性疾患(アルツハイマー病、パーキンソン病、レビー小体病などの疾患を含む)の治療に使用することができる。一実施形態では、M6P又はM6Pの誘導体を含むか、又は本質的にそれからなる組成物を、記憶障害を低減するために使用することができる。一実施形態において、IGF-2修飾体(例えば、IGF-2類似体)は、記憶の増強又は記憶障害の低減のために使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0005】
[
図1]
正常(野生型、WT)マウスのnORに対するM6P(IGF2R.L1(L1)とも呼ばれる)の効果の用量反応曲線
グラフの上部に実験スケジュールを示す。データは、平均±標準誤差として表される。N=4/群。一元配置分散分析(ANOVA)とその後のボンフェローニ事後検定。*P<0.05, **P<0.01。WTマウスに、ビヒクル溶液又は異なる用量のIGF2R.L1(L1)を、nORの訓練の20分前に皮下注射した。グラフは、訓練後4時間及び24時間に行われた試験における、見慣れた物体と比較した、新奇物体に対する探索嗜好性パーセントを示す。
【0006】
[
図2]
M6Pは、アンジェルマン症候群のマウスモデルにおける物体認識記憶欠如を回復させ、WTマウスにおける記憶を増強する
グラフの上部に実験スケジュールを示す。すべての実験において、マウスにビヒクル又はM6Pの皮下注射(↑)を行った20分後、nOR訓練又は試験を行った。訓練の20分前にビヒクル又はM6P(IGF-2R.L1と表す)を注射されたWT(対照)及びUbe3a-/+(AS)マウスの新奇物体認識中に、見慣れた物体と比較した、新奇物体に対する探索嗜好性パーセントを、訓練の4時間後及び24時間後に試験した。N=4/群。全てのデータは、平均(±標準誤差)として表される。二元配置分散分析(ANOVA)とその後のチューキー事後検定。*P<0.05, **P<0.01, ***P<0.001
【0007】
[
図3]
ラットの海馬に注射したM6Pは記憶力を増強する:用量反応曲線
グラフの上部に実験スケジュールを示す。文脈的恐怖記憶課題抑制性回避(IA)の訓練直後に、ビヒクル又は異なる用量のIGF-2R.L1(M6P)をラットの両側海馬内に注射した(↑)。次いで、訓練後24時間(T1)及び7日(T2)に記憶保持を試験した。試験は、訓練中に動物が足ショックを受けた区画に入るまでの潜在時間を測定した。N=12/群。全てのデータは、平均(±標準誤差)として表される。二元配置反復測定分散分析(ANOVA)とその後のボンフェローニ事後検定。*P<0.05, **P<0.01, ***P<0.001
【0008】
[
図4]
M6P誘導体である、ホスホネートM6P(PnM6P)は、マウスの記憶を増強する
グラフの上部に実験スケジュールを示す。訓練の20分前に、マウスにビヒクル又はIGF-2R.L2(又はL2)と呼ばれる850μg/Kgのホスホネート-M6P(PnM6P)を皮下注射した(↑)。
(A)訓練の20分前にビヒクル又はL2を注射し、訓練の24時間後(試験1)、5日後(試験2)及び14日後(試験3)に試験したマウスに関する、nORパラダイムの間の、見慣れた物体と比較した新奇物体に対する探索嗜好性パーセント。N=8~10/群。データは、%平均±標準誤差として表される。
(B)訓練の20分前にビヒクル又はL2を注射したマウスが、nOR訓練セッションの間に、両方の物体を探索するのに費やした総時間。N=4/群。同様の探索時間は、物体の探索/関心における基礎バイアスが存在しなかったことを示し、Aにおける変化が記憶保持の変化に起因することを確認する。データは秒(s)で表される。二元配置分散分析(ANOVA)とその後のボンフェローニ事後検定。*P<0.05, **P<0.01, ***P<0.001
【0009】
[
図5]
記憶保持に対するM6P(L1)及びPnM6P(L2)の効果を比較:L1及びL2の両方が、マウスにおいて同様にnORを増強する
グラフの上部に実験スケジュールを示す。マウスに、ビヒクル又はIGF-2R.L2(又はL2)と呼ばれる850μg/Kgのホスホネート-M6P(PnM6P)あるいは 850μg/KgのM6P(IGF-2R.L1又はL1)を、訓練の20分前に皮下注射した(↑)。
(A)訓練の20分前にビヒクル又はL2あるいはL1を注射したマウスに関する、訓練の24時間後(試験1)、5日後(試験2)及び14日後(試験3)に試験した、nORパラダイムの間の、見慣れた物体と比較した新奇物体に対する探索嗜好性パーセント。N=4/群。データは、%平均±標準誤差として表される。
(B)訓練の20分前にビヒクル、L2又はL1を注射したマウスが、nOR訓練セッションの間に、両方の物体を探索するのに費やした総時間。N=2~4/群。同様の総探索時間は、嗜好性データが物体の探索/関心行動の変化によるものではなく、記憶の変化によるものであることを示す。データは秒(s)で表される。二元配置分散分析(ANOVA)とその後のボンフェローニ事後検定。*P<0.05, **P<0.01, ***P<0.001
【0010】
[
図6]
PnM6P(L2)は、アンジェルマン症候群のマウスモデルにおける物体認識記憶欠損を回復させる
グラフの上部に実験スケジュールを示す。マウスは、訓練又は試験のどちらかの20分前に、ビヒクル、又は、850μg/KgのIGF-2R.L2(あるいはL2)と呼ばれるホスホネート-M6P(PnM6P)のどちらかの皮下注射(↑)を受けた。
(A)訓練前にビヒクル又はL2を注射した野生型(対照マウスとして役立つWT)及びUbe3a-/+(AS)マウスについて、訓練後4時間、24時間及び5日目(5d)に試験した、nORパラダイムの間の、見慣れた物体と比較した新奇物体への探索嗜好性パーセント。N=4/群。データは、%平均±標準誤差として表される。
(B)訓練の20分前にビヒクル又はL2を注射したWTマウス及びASマウスが、nOR訓練セッションの間に、2つの物体を探索するのに費やした総時間。N=4/群。同様の総探索時間は、嗜好性データが物体の探索/関心行動の変化によるものではなく、記憶の変化によるものであることを示す。データは秒(s)で表される。二元配置分散分析(ANOVA)とその後のボンフェローニ事後検定。*P<0.05, **P<0.01, ***P<0.001
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示は、記憶力増強又は記憶障害の治療のための組成物及び方法であって、IGF-2以外の、IGF-2受容体の作動剤活性化因子を使用する組成物及び方法を提供する。例えば、M6P又はその誘導体を使用することができる。
【0012】
本明細書中で使用される「治療」という用語は、治療される特定の状態の存在に関連する1つ以上の症状又は特徴の減少又は遅延を指す。治療は、完全な治癒を意味しない。記憶力増強に関する治療は、記憶保持の増加、記憶強度の増加、及び/又は記憶減衰の軽減を意味する。
【0013】
本明細書で使用される「治療的有効量」という用語は、単一用量又は複数用量で、治療の意図される目的を達成するのに十分な量である。例えば、記憶力増強を達成するための有効量は、記憶について測定可能な増加を達成するのに十分な量である(これは例えば、学習及び記憶力を試験できる標準試験によって試験され得る)。所望されるか又は必要とされる正確な量は、投与の様式、患者の詳細などによって変化する。適切な有効量は、本開示の利益の下、当業者(臨床医など)によって決定することができる。
【0014】
本明細書で使用される「記憶消失」という用語は、記憶の完全な又は部分的な欠損を指す。
【0015】
「記憶保持」という用語は記憶強度の尺度である。したがって、「記憶強度の向上」は、特定の記憶を保持する被験者の能力によって測定することができる。
【0016】
本明細書で使用される「短期記憶」という用語は、数秒又は数分間持続する記憶である。
【0017】
本明細書で使用される「作業記憶」という用語は、処理に利用できる情報を一時的に保持する役割を果たす記憶を指す。作業記憶は、意思決定及び行動の論理的思考及びガイダンスにとって重要である。
【0018】
本明細書で使用される「長期記憶」という用語は、少なくとも数時間、少なくとも一日、少なくとも一年、少なくとも十年、又は寿命にわたって持続することができる記憶を指す。
【0019】
値の範囲が本開示で提示されている場合、明確に別段の記載がない限り、その範囲の上限及び下限の間の、下限の単位の10分の1までの各介在値、及びその述べられた範囲内の他の任意の介在値が本発明に包含されると理解されるべきである。これらのより狭い範囲の上限及び下限は、独立して、本開示に包含されるより狭い範囲に含まれてもよい。
【0020】
本開示で使用される場合、文脈が明確に他のことを示していない限り、単数形は複数形を含み、逆もまた同様である。
【0021】
本開示は、記憶力増強に対するM6P及びM6P誘導体の効果を記載する。一態様では、本開示は、治療を必要とするか、あるいは記憶力の強化が所望される被験体(例えば、記憶力増強を求める個体)に、M6P又はその修飾体を含むか、あるいは本質的にそれからなる組成物を投与することを含む、記憶力を増強する方法を提供する。M6Pのホスホネート及びスルホネート誘導体は当該分野で既知である(Fergusonによる米国特許第6,140,307号、その修飾体の記載は参照により本明細書中に包含される)。記憶力増強は、記憶の想起及び保持(短期又は長期)及び/又は記憶強度の形態であってもよい。一実施形態では、IGF-2修飾体(例えば、IGF-2類似体)を使用することができる。例えば、ヒトLeu 27(Armitaj et al., Neuroscience, 2010 Oct 27;170(3):722-30)などアミノ酸置換を有するIGF-2を使用することができる。
【0022】
本開示の分子(本明細書では薬剤とも呼ばれる)は、M6P(本明細書ではL1と呼ばれる)を含む。M6Pの誘導体(本明細書では修飾体とも呼ばれる)は、マンノースの炭素1及び/又は炭素6への修飾によって作製することができる。炭素1及び炭素6で化学作用を行う方法は、当技術分野で既知である。誘導体の例には、炭素1が、アルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、及び同様のもの)又はアルキンで官能化されている例、及び炭素6が、ホスホネート、エチルエステル、マロン酸メチル、ホスホン酸、カルボキシレート、又はマロネートで官能化されている例が含まれる。様々な例には、炭素1が、アルコキシ(例えば、メトキシ)で官能化され、且つ、炭素6がホスホン酸エステルで(本明細書中でL2と称する)、エチルエステルで(本明細書中で
L4と称する)、マロン酸メチルで(本明細書中で
L6と称する)、ホスホン酸で(本明細書中で
L3と称する)、カルボン酸塩で(例えば、カルボン酸のナトリウム塩)(本明細書中で
L5と称する)、又はマロン酸で(本明細書中でL7と称する)で官能化されたもの、及び、炭素1がアルキンで官能化され、且つ、炭素6がホスホン酸で(本明細書中でL8と称する)、又はホスホン酸エステルで(本明細書中でL9と称する)官能化されたものが含まれる。M6P及び上述したその誘導体の構造を以下に示す。
【化1】
【化2】
【0023】
本明細書中に記載されるM6Pの処方、用量及び使用はまた、任意の修飾体(誘導体)に適用可能である。M6P及びM6P誘導体は、体重1kg当たり約1~2,000μgで使用されてもよく、この範囲にはすべての値及びその間の範囲が含まれる。例えば、M6P及び/又はその誘導体は、体重1kgあたり、1~2,000μg/kg、1~1,500μg/kg、1~1,000μg/kg、1~500μg/kg、1~100μg/kg、10~2,000μg/kg、10~1,500μg/kg、10~1,000μg/kg、10~500μg/kg、及び10~100μg/kg、50~2,000μg/kg、50~1,500μg/kg、50~1,000μg/kg、50~500μg/kg、及び50~100μg/kg、及び上記範囲の間のすべての値にて使用されてもよい。ある実施形態において、M6P及び/又は誘導体は、850μg/kgの皮下投与で使用することができる。ある実施形態において、M6P及び/又はその誘導体は100~1,000μg/kgにて使用されてもよい。特定の実施形態において、MP6及び/又はその誘導体は、体重1kgあたり、50、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、1000、1,250、1,500、1,750及び2,000μg/kgにて使用できる。さらに、動物について本明細書で提示されるデータに基づいて、当業者は、関連するヒトでの用量を理解することができる。そのような換算のためのガイダンスは、当該分野において既知である(例えば、Nair et al., J. Basic Clin. Pharma. v.7(2), March 2016-May 2016; 27-31を参照、これは参照により本明細書に包含される)。
【0024】
M6Pは、遊離リン酸、又はその薬学的に許容されるモノ又はジ-塩(例えばナトリウム、カルシウム、マグネシウム又はバリウム塩など)の形態で存在してもよい。それはまた、そこからMP6がインビボで放出され得るM6P含有化合物として提供され得るか、又はそこからMP6がインビボで産生され得る前駆体として提供され得る。M6P誘導体はまた、遊離酸として、又はその塩(例えば、そのモノナトリウム塩又はジナトリウム塩)として存在してもよい(適用可能な場合(例えば、L3、L7、及びL8))。
【0025】
一態様では、本開示は、M6P又はその誘導体を含むか、又は本質的にそれからなる組成物を被験体に投与することを含む、記憶力増強が必要又は所望される被験体における記憶力増強の方法を提供する。被験体はヒトであってもよい。被験体は、任意の年齢又は性別であり得る。被験体は、記憶に関連する疾患と診断されていてもいなくてもよい。一実施形態において、本発明は、記憶疾患又は記憶障害を改善するための、又は正常な記憶を増強するための、M6P又はその誘導体を含むか、又は本質的にそれからなる組成物を提供する。一実施形態では、M6P又はその誘導体は、IGF-2受容体に特異的に結合する組成物中の唯一の薬剤である。本開示の組成物及び方法は、記憶を増強するか、又は記憶障害を予防するか、発症を遅延させるか、又は治療するために使用され得る。本方法は、精神的登録、過去の経験の保持あるいは想起、知識、アイデア、感覚、思考、又は印象を増加させることができる。一実施形態では、M6P又はその誘導体を含む本組成物は、短期及び/又は長期の情報保持、作業記憶、空間的関係に関する能力、記憶(リハーサル)戦略、ならびに言語の想起及び生成を増加させる。一実施形態では、M6P又はその誘導体を含むか、あるいは本質的にそれからなる本組成物は、海馬依存的学習、連想的学習、短期記憶、作業記憶及び/又は空間記憶を改善することができる。これらの応答は、当該分野で既知の標準的な記憶及び/又は認知テストによって測定され得る。
【0026】
一実施形態では、本開示は、例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、レビー小体病等の神経変性疾患などの、脳内にタンパク質凝集が存在する疾患の治療方法を提供する。この方法は治療を必要とする被験体に、M6P又はその誘導体を含むか、又は本質的にそれからなる組成物を投与することを含む。一実施形態では、本開示は、治療を必要とする被験体に、M6P又はその誘導体を含むか、あるいは本質的にそれからなる組成物を投与することを含む、神経変性疾患(ハンチントン病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、及び加齢による神経変性を含む)を治療する方法を提供する。一実施形態では、本開示は、頭部損傷、脊髄損傷、発作、脳卒中、てんかん、虚血、精神神経症候群、ウイルス性脳炎に起因するCNS損傷、髄膜炎に起因するCNS損傷、又は腫瘍に起因するCNS損傷に関連する記憶障害を治療する方法であって、治療を必要とする被験体に、M6Pを含むか又は本質的にM6Pからなる組成物を、投与することを含む方法を提供する。一実施形態では、本開示は、神経変性疾患に罹患していない、又は神経機能に影響を及ぼす病的状態に罹患していない正常被験体における記憶保持の増強方法であって、M6P又はその誘導体を含むか、又は本質的にそれからなる組成物を、治療を必要とする被験体に投与することを含む方法を提供する。
【0027】
本開示の薬剤は、薬学的に許容される適切なキャリア、賦形剤、及び/又は安定剤とそれらとを組み合わせることによって、投与用の医薬組成物として提供することができる。薬学的に許容されるキャリア、賦形剤、及び安定剤の例は「レミントン:薬学の科学と実践(2005) 21版、ペンシルベニア州フィラデルフィア、Lippincott Williams & Wilkins出版社」に開示されている。例えば、M6Pを懸濁液、溶液、ゲル又は固体の形態で使用することができる。適切なキャリアには、使用される用量及び濃度でレシピエントに無毒である賦形剤又は安定剤が含まれ、これには、酢酸塩、トリス、リン酸塩、クエン酸塩、及び他の有機酸などの緩衝剤;アスコルビン酸及びメチオニンなどの抗酸化剤;保存剤、例えば、塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチル又はベンジルアルコール;メチル又はプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;及びm-クレゾール;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、又はリジンなどのアミノ酸;グルコース、マンノース、又はデキストリンを含む、単糖類、二糖類及び他の炭水化物類;EDTAなどのキレート剤;トレハロース及び塩化ナトリウムなどの等張化剤(tonicifier);スクロース、マンニトール、トレハロース又はソルビトールなどの糖類;ポリソルベートなどの界面活性剤;ナトリウムなどの塩形成対イオン;及び/又はTween又はポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤が含まれる。医薬組成物は、活性物質(例えば、M6P、M6P誘導体、又はIGF-2修飾体(例えば、IGF-2類似体))を、0.01~99重量/体積%又は重量/重量%で含み得る。
【0028】
本組成物の投与は、当技術分野で既知の任意の適切な投与経路を用いて実施することができる。例えば、組成物は、静脈内、筋肉内、腹腔内、脳脊髄内、皮下、関節内、滑液嚢内、経口、局所、又は吸入経路を介して投与され得る。組成物は、非経口的又は経腸的に投与することができる。一実施形態では、本開示の組成物は、例えば、錠剤、カプセル、丸剤、粉末、ペースト、顆粒、エリキシル、溶液、懸濁液、分散液、ゲル、シロップ又は任意の他の摂取可能な形態などの形態で経口投与することができる。M6P又は誘導体は、リポソーム、微粒子、マイクロカプセルを介して送達され得る。組成物は、単回投与として、又は複数回投与として導入されてもよく、又はある期間にわたって連続的な様式で導入されてもよい。例えば、投与は予め指定された回数の投与、又は毎日、毎週(週1回)、又は毎月(月1回)の投与であってもよく、これは、臨床的必要及び/又は治療的指示に応じて、連続的又は断続的であってもよい。
【0029】
一実施形態では、組成物中のM6P又はM6P誘導体は、いかなる他の成分にも連結されておらず(例えば、直接又はリンカーを介して共有結合されていない)、いかなる他の成分又は薬剤のキャリアとして作用しない。
【0030】
一側面では、本開示は、M6P誘導体、及びマンノース誘導体を含む組成物を提供する。M6Pの誘導体は、M6Pの炭素1及び/又は炭素6に化学作用を行うことによって作製することができる。六炭糖の炭素1及び/又は炭素6に化学作用を行う様々な方法が当技術分野で知られている。M6P誘導体の例としては、ホスホネート(L2)、エチルエステル(L4)、マロン酸メチル(L6)、ホスホン酸(L3)、カルボキシレート(L5)、マロネート(L7)、アルキン(L8)、及びアルキンプロドラッグ(L9)が挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態では、本開示は、L2、L3、L4、L5、L6、L7、L8、及びL9からなる群より選択される化合物を提供する。一実施形態では、本開示は、L1、L2、L3、L4、L5、L6、L7、L8、及びL9の1つ以上を含む組成物を提供する。
【0031】
以下の実施例は、説明に役立つ例として提示されるものであり、いかなる方法による限定も意図しない。
【0032】
[実施例1]
この実施例は、マンノース-6-リン酸(M6P)の全身投与が、正常げっ歯類における記憶を増強し、マウスモデルにおける記憶欠損を逆転させることを実証する。記憶力増強のために、異なる濃度のM6Pを試験した。結果を
図1に示す。
【0033】
アンジェルマン症候群をモデル化したマウス(Ube3a-/+マウス、ASマウス)に、M6Pを全身投与すると、記憶障害が逆転することがわかった(
図2)。また、このリガンドは、全身注射又は脳内注射のいずれかによって、マウス及びラットの両方において認知増強剤として作用することを確認した(
図2及び3)。
【0034】
具体的には、マウスにおける新奇物体認識(nOR)パラダイムを用いて、非嫌悪性エピソード記憶を評価した。この課題では、げっ歯類の目新しいものに対する先天的選好を用いる。訓練中、マウスは、2つの同一の物体を探索することができる。検査日に、前記訓練用物体のうちの1つを新しい物体に置き換える。マウスは生得的に新しい物を好むので、マウスが見慣れた物体を認識すると、より多くの時間を新しい物体に費やすことになる。
【0035】
M6Pの皮下注射は、ASマウスの記憶障害を逆転させた。
図2に示すように、nOR訓練の4時間後の試験は、対照溶液(ビヒクル)を注射された対照(野生型同腹仔、WT)マウスが強い記憶を有するのに対して、ビヒクルを注射されたASマウスは有意な記憶障害を示すことを明らかにし、確立された記憶障害を確認した。訓練前のM6P注射は、ASマウスの記憶障害を逆転させ、実際に、対照WTマウスと同様の記憶保持レベルを有していた。
【0036】
さらに、M6Pを注射した対照マウスは、ビヒクルを注射したマウスと比較して、有意な記憶力増強を示したことから、M6Pは正常動物において強力な記憶力増強剤であることが示された。訓練の24時間後に試験した場合、ビヒクルを注射した対照マウス及びASマウスの両方は、古い物体についてほとんど又は全く記憶を示さなかった。しかし、M6Pの注射は、両群で記憶保持を有意に増加させ、学習中のM6Pを介したIGF-2受容体の活性化が、記憶保持と持続性の増強に非常に有効であるという結論をさらに支持する。
【0037】
我々はまた、ラットの海馬に両側注射した場合、M6Pがラットの記憶保持を有意に増強することを見出した。これらの実験では、成体ラットを、抑制性回避(IA:Inhibitory Avoidance)パラダイムで訓練した。このパラダイムでは、動物は、足ショックと対になったチャンバを避けることを学習する。
図3に示すように、訓練直後にM6Pを海馬に両側注射されたラットは、訓練の1日後に試験した際、ビヒクルを注射されたラットと比較して、回避記憶が有意に増加した。その効果は、6日後に繰り返された別の試験で持続した。M6Pの記憶増強作用は用量依存的であった。
【0038】
我々は、M6P誘導体である、ホスホネートM6P、PnM6P(IGF-2R.L2又はL2とも呼ばれる)をマウスに皮下(s.c.)注射した場合、記憶を有意に増強することを見出した。具体的には、マウスにおける新奇物体認識(nOR)パラダイムを用いた。PnM6P(L2)を注射したマウスは、ビヒクルを注射したマウスと比較して有意な記憶力増強を示し、L2が正常動物において強力な記憶増強剤であることを示した(
図4)。訓練後24時間及び5日目に試験した場合、ビヒクルを注射したマウスは、古い物体についてほとんど又は全く記憶を示さなかった。しかし、L2の注射は、訓練後の両方の時点で記憶保持を有意に増加させ、L2が記憶の保持及び持続性を有意に増加させることを示す。マウスを9日後(訓練後14日目)に再び試験した場合、記憶力増強はもはや見られなかった。この時点で、ビヒクルを注射したマウス及びL2を注射したマウスの両方が、偶然による好みを示した(記憶なし)。
【0039】
L2(PnM6P)をL1(M6P)の効果と比較した場合、訓練後24時間、5日又は14日で記憶増強効果に相違点は見られなかった(
図5)。L1とL2の注射は両方とも、訓練の24時間後と5日後に同様の有意な記憶力増強をもたらした。両方の効果は、訓練後14日目にベースラインに戻った。
【0040】
L2は、アンジェルマン症候群(AS)マウスモデルにおける記憶障害を有意に逆転させた。PnM6Pの皮下注射は、
図6に示すように、ASマウスの記憶障害を逆転させた。訓練の4時間後に試験したNOR記憶は、対照溶液(ビヒクル)を注射した対照(野生型同腹仔、WT)マウスが、強い記憶を示す一方、ビヒクル注射ASマウスは、有意な記憶障害を示すことを明らかにし、それらの確立された記憶障害を確認した。訓練前のL2注射はASマウスの記憶障害を逆転させ、実際に、訓練4時間後に、対照WTマウスと同様の記憶保持レベルを有した。さらに、[0034]及び[0035]に記載されるように、L2を注射されたWTマウスは、訓練の4時間後に増強された記憶を示した。訓練後24時間での再試験は、ビヒクル注射対照(WT)及びASマウスの両方が、記憶を有さないことを示したが、L2注射は両方の群において有意な記憶をもたらした。
【0041】
[実施例2]
本実施例は、M6P誘導体の合成及び特性決定を記載する。
【0042】
一般的な合成手順
【0043】
特に断らない限り、すべての反応は、窒素又はアルゴンの陽圧下で、磁気撹拌しながら、火炎乾燥又はオーブン乾燥ガラス製品中で行われた。無水ジクロロメタン(CH2Cl2)、ジエチルエーテル(Et2O)、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン(PhMe)、及びN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)は、これらの溶媒を活性アルミナカラムに通して火炎乾燥ガラス製品に入れることによって得た。他の溶媒及び試薬は、別段の記載がない限り、商業的ベンダー(Acros Organics、AK Scientific、Alfa Aesar、Chem-Impex International、Combi-Blocks、Sigma-Aldrich、Strem Chemicals、Synthonix、Tokyo Chemical Industry Co.)から入手した状態のまま使用した。薄層クロマトグラフィー(TLC)は、F254蛍光指示薬(Millipore Sigma)で予めコーティングされたシリカゲル60ガラスプレートを用いて、反応をモニターするために実施され、紫外光(λ=254nm)を遮断することによって、又は過マンガン酸カリウム(KMnO4)水溶液、酸性モリブデン酸アンモニウムセリウム(IV)(CAM)水溶液、酸性エタノール性p-アニスアルデヒド溶液、又はブタノール性ニンヒドリン溶液で染色し、続いてヒートガンで穏やかに加温することによって可視化された。フラッシュカラムクロマトグラフィーを、室温、窒素圧下、シリカゲル(60Å、40~63μm、Silicycle又はMerck)を用いて、ガラスカラム又はTeledyne Isco MPLC CombiFlash(登録商標)Rf+を用いて行った。プロトン核磁気共鳴(1H NMR)スペクトルを、25℃にて、CryoProbeTMを装備したBruker Avance III HD 400MHz分光計で記録し、テトラメチルシラン(TMS、δ=0ppm)からの百万分率(ppm、δスケール)低磁場で報告し、NMR溶剤の残留プロチウム共鳴(CDCl3:7.26[CHCl3]、CD3OD:4.87[MeOH]、D2O:3.31[H2O]、C6D6:7.16[C6H6]、(CD3)2SO:2.50[(CH3)2SO])を内部参照する。プロトンデカップリング炭素-13核磁気共鳴(13C{1H}NMR)スペクトルを、25℃にてCryoProbeTMを装備したBruker Avance III HD 400MHz分光計で記録し、テトラメチルシラン(TMS、δ=0ppm)からの百万分率(ppm、δスケール)低磁場で報告し、NMR溶媒(CDCl3:77.36[CHCl3]、CD3OD:49.00[MeOH]、(CD3)2SO:39.52[(CH3)2SO])の炭素-13共鳴の中心線を内部参照する。プロトンデカップリング・リン-31核磁気共鳴(31P{1H}NMR)スペクトルを、25℃にてCryoProbeTMを装備したBruker Avance III HD 400MHz分光計で記録し、リン酸(H3PO4、δ=0)からの百万分率(ppm、δスケール)低磁場で報告し、トリフェニルホスフェート標準液(CDCl3中0.0485M、δ=-17.7ppm)を外部参照する。報告されたデータは、百万分率での化学シフト(ppm、δスケール)(積分、多重度、カップリング定数J(Hz)、原子帰属)として表される。
多重度は以下のように略される:s(一重線); d(二重線); t(三重線); q(四重線); quint(五重線); sext(六重線); hept(七重線); br(幅広線); m(多重線);あるいはそれらの組み合わせ。高分解能質量分析(HRMS)は、大気圧化学イオン化(APCI)方法又はエレクトロスプレーイオン化(ESI)方法のいずれかと組み合わせて、Agilent 6224 Accurate-Mass time-of-flight(TOF)液体クロマトグラフィー質量分析計(LC/MS)を用いて行った。フーリエ変換赤外(FT-IR)スペクトルを、ポリスチレン標準を参照するThermo Scientific Nicolet 6700 FT-IRスペクトロメータで記録した。シグナルは、w(弱い);m(中程度);s(強い)、br(広い)と略される記述子を伴い波数(cm-1)での吸収振動数として報告される。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)精製を、逆相(RP)Phenomenex Semipreparativeカラム(00D-4439-E0 Gemini、C18相、3μm粒径、110Å細孔径)を有するAgilent 1260 Infinity II LCで、8mL/分の流速で、及び(A)アセトニトリル(HPLCグレード)と(B)水(HPLCグレード)中の0.1%ギ酸(FA)の溶媒混合物を用いて行った。旋光度測定は、Flint Glass Faraday細胞モジュレータ、ナトリウムランプ光源、及び光電子増倍管(PMT)検出器を備えたJasco P-2000旋光計で記録した。比旋光度は、式[α]=(100・α)/(l・c)に基づいて計算し、ここで、濃度cはg/100ml単位であり、経路長lはデシメートル単位である。計算された比旋光度は単位なしの値として報告され、[α]D
T比旋光度(c、濃度、溶媒)として表され、ここで、温度Tは℃単位であり、Dは、ナトリウムD線モニタ波長(589nm)を表す。
【0044】
化合物の合成及び特性決定
【0045】
L2の合成
【0046】
メチル6-O-トリフェニルメチル-α-D-マンノピラノシド(2)
【0047】
トリチルエーテル2を、改変した公開手順に従って調製した(Traboni et al., ChemistrySelect 2017, 2, 4906-4911; Tennant-Eyles et al., J. Tetrahedron: Asymmetry 2000, 11, 231-243)。メチル-α-D-マンノピラノシド(5.02g、25.8mmol、1.0当量)及び塩化トリチル(7.91g、28.4mmol、1.1当量)の混合物に、ピリジン(5.2mL、64.6mmol、2.5当量)を添加した。反応混合物を100℃に加熱し、30分間撹拌した。30分後、40℃で超音波処理することにより、得られた粘性ペーストをCH2Cl2に溶解した。溶液を飽和塩化アンモニウム水溶液で洗浄し(2×)、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮した。粗残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(50%~100%酢酸エチル/ヘキサン)によって精製して、2(11.0g、25.2mmol、98%)を白色泡状物として得た。NMRスペクトルは、文献(Traboni et al., ChemistrySelect 2017, 2, 4906-4911; Tennant-Eyles et al., J. Tetrahedron: Asymmetry 2000, 11, 231-243)に報告されているものと一致する。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 7.48 - 7.28 (15H, m), 4.72 (1H, d, J=1.6 Hz), 3.92 (1H, m), 3.82 - 3.63 (3H, m), 3.50 - 3.39 (2H, m), 3.38 (3H, s), 2.73 (1H, m), 2.54 (1H, m), 2.27 (1H, m). 13C NMR (101 MHz, CDCl3) δ 143.9, 128.9, 128.3, 127.5, 100.9, 87.7, 72.0, 70.64, 70.59, 70.1, 65.2, 55.3.
【0048】
メチル2,3,4-トリ-O-ベンジル-α-D-マンノピラノシド (4)
【0049】
ベンジルエーテル3を、改変した公開手順(Hofmann et al., Carbohydr. Res. 2015, 412, 34-42)に従って調製した。トリチルエーテル2(2.01g、4.61mmol)を無水DMF(115mL)に溶解し、この溶液にNaHの懸濁液(鉱油中60%、14.8g、371mmol、7.2当量)を0℃で少しずつ加えた。反応混合物を0℃で10分間撹拌し、この混合物に塩化ベンジル(39.1g、309mmol、6.0当量)をゆっくり加え、懸濁液を0℃で5分間撹拌し、次いで室温に温め、16時間撹拌した。反応混合物を水でクエンチし、酢酸エチルで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で濃縮して粘稠な黄色油状物として3を得、これを以下の手順において直接使用した。
【0050】
アルコール4を、改変した公開手順に従って調製した(Jaramillo et al., J. Org. Chem. 1994, 59, 3135-3141)。ベンジルエーテル3をMeOH-CH2Cl2(2:1、6ml)に溶解し、p-TsOHをpH<4になるまで加えた。反応混合物を室温で20時間撹拌した後、Et3Nで中和し、減圧濃縮した。残渣をCH2Cl2に溶解し、蒸留水及び塩水で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。粗残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(30%~60%酢酸エチル/ヘキサン)によって精製して、淡黄色シロップとしてアルコール4(0.90g、1.94mmol、42%)を得た。NMRスペクトルは、文献(Norberg et al., Carbohydr. Res. 2017, 452, 35-42)で報告されているものと一致する。
1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ 7.41 - 7.30 (15H, m), 4.97 (1H, d, J=10.9 Hz), 4.81 (1H, d, J=12.3 Hz), 4.75 - 4.65 (5H, m), 3.99 (1H, app. t, J=9.4 Hz), 3.92 (1H, dd, J=9.4, 2.9 Hz), 3.90 - 3.84 (1H, m), 3.83 - 3.76 (2H, m), 3.68 - 3.62 (1H, m), 3.33 (3H, s), 2.00 (1H, app. t, J=6.4 Hz). 13C NMR (101 MHz, CDCl3) δ 138.8, 138.7, 138.6, 128.70, 128.68, 128.67, 128.3, 128.1, 128.0, 127.9, 99.6, 80.5, 75.5, 75.2, 75.0, 73.2, 72.5, 72.4, 62.7, 55.1. HRMS (APCI/LC-TOF) m/z: [M + NH4]+ C28H32O6の計算値:482.2537; 実測値:482.2533
【0051】
メチル2,3,4-トリ-O-ベンジル-6-デオキシ-6-ジエトキシホスフィニルメチレン-α-D-マンノピラノシド(7)
【0052】
アルデヒド5は、第一級アルコールを酸化するための一般的な手順に従って調製した(Tojo et al., Oxidation of alcohols to aldehydes and ketones: a guide to current common practice. Springer Science & Business Media: 2006)。4(0.334g、0.72mmol、0.4M)の溶液を、無水DMSO(1.8mL)中、窒素下で調製した。この溶液にEt3N(1.0ml、7.2mmol、10当量)を加え、反応混合物を氷水浴中で0℃まで冷却し、撹拌した。この溶液に、DMSO(1mL)中の三酸化硫黄-ピリジン錯体(0.347g、2.2mmol、3.0当量)の溶液を0℃で滴下した。反応混合物を室温に温め、20時間撹拌した。溶液をCH2Cl2で希釈し、蒸留水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で濃縮して黄色油状物として5を得た。油状物をシリカの栓で濾過し、以下の手順において直接使用した。
【0053】
ホスホネート7を、改変した公開手順(Vidil et al., Eur. J. Org. Chem. 1999, 447-450)に従って調製した。無水トルエン(2mL)中のNaH(鉱油中60%、37.8mg、0.945mmol、2.2当量)の懸濁液に、テトラエチルメチレンジホスホネート(0.27mL、1.08mmol、2.5当量)を滴下し、室温で30分間撹拌した。無水トルエン(5mL)中の5の溶液を、この混合物に窒素下で滴下し、室温で2時間撹拌した。反応混合物をCH2Cl2で希釈し、蒸留水でクエンチした。有機層をCH2Cl2で抽出し(3×)、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。粗残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(40%~100%酢酸エチル/ヘキサン)で精製して、7を無色シロップ(162mg、0.272 mmol、62%)として得た。NMRスペクトルは、文献(Vidil et al., Eur. J. Org. Chem. 1999, 447-450)で報告されているものと一致する。
[α]D
20=+40.4 (c=1.01, CHCl3). 1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ 7.39 - 7.27 (15H, m), 6.96 (1H, ddd, J=22.1, 17.2, 4.3 Hz), 6.12 (1H, ddd, J=21.2, 17.5, 1.8 Hz), 4.88 及び 4.59 (2H, AMq, J=10.6 Hz), 4.77 及び 4.70 (2H, ABq, J=12.4 Hz), 4.73 (1H, s), 4.63 (2H, s), 4.14 - 4.03 (5H, m), 3.90 (1H, dd, J=9.3, 3.0 Hz), 3.81 - 3.77 (1H, m), 3.72 (1H, t, J=9.5 Hz), 3.29 (3H, s), 1.31 (6H, t, J=7.1 Hz). 13C NMR (CDCl3, 101 MHz) δ 148.4 (d, J=5.8 Hz), 138.7, 138.5, 138.3, 128.7, 128.4, 128.14, 128.05, 127.9, 118.3 (d, J=188.2 Hz), 99.6, 80.4, 78.5 (d, J=1.9 Hz), 75.7, 75.0, 73.2, 72.7, 71.5 (d, J=21.5 Hz), 62.1 (dd, J=5.8, 1.3 Hz), 55.3, 16.7. 31P NMR (162 MHz, CDCl3) δ 18.3. FT-IR (neat, cm-1): ν(C-H)=2982 (m), ν(P=O)=1253 (s), ν(P-O-C)=1024 (s), ν(P-O-C)=969 (m).
【0054】
メチル2,3,4-トリ-O-ベンジル-6-デオキシ-6-ジイソプロピルオキシカルボニルオキシ-メチル-ホスフィニルメチレン-α-D-マンノピラノシド(10)
【0055】
ホスホン酸8を、公開手順(Vidil et al., Eur. J. Org. Chem. 1999, 447-450)に従って調製した。7(0.146g、0.245mmol、1当量)の無水CH3CN(5.6mL)溶液に窒素下で、室温で撹拌しながら、ピリジン(31μL、0.392mmol、1.6当量)及び臭化トリメチルシリル(0.32mL、2.45mmol、10当量)を加えた。2時間後、反応混合物を0℃に冷却し、ピリジン(51μL、0.634mmol、2.6当量)及びH2O(185μL、10.3mmol、42当量)を添加し、次いで室温に温め、撹拌した。2時間後、反応混合物をCH2Cl2及び2M HCl(4mL)及びH2O(4mL)で希釈した。有機層をCH2Cl2で抽出し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で濃縮して、8を茶色の油状物として得た。粗残渣を以下の手順において直接使用した。
【0056】
ホスホネート10を改変された手順に従って調製した(Graham et al., (2017). 国際特許出願 公開番号WO2017/87256)。無水CH
3CN中の8の混合物を、窒素下でDIPEA(0.480mL、2.76mmol、9.9当量)、TBAB(93.1mg、0.289mmol、1.0当量)及びクロロメチルイソプロピルカーボネート(0.30mL、2.24mmol、8.1当量)で処理し、次いで60℃に加熱した。16時間撹拌した後、反応混合物を減圧下で濃縮した。粗残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(30%~100%酢酸エチル/ヘキサン)で精製して、10を無色油状物として得た(116mg、0.150mmol、54%)。
TLC (EtOH/EtOAc/ヘキサン 1.5:1.5:7): R
f=0.49.
1H NMR (CDCl
3, 400 MHz) δ 7.40 - 7.29 (15H, m), 7.10 (1H, ddd, J=24.5, 17.2, 3.8 Hz), 6.40 - 6.17 (1H, m), 5.80 - 5.65 (6H, m), 4.81 - 4.59 (7H, m), 4.22 - 4.14 (1H, m), 3.91 (1H, dd, J=9.3, 3.1 Hz), 3.83 - 3.78 (1H, m), 3.74 (1H, t, J=9.5 Hz), 3.30 (3H, s), 1.32 - 1.29 (12H, m).
13C NMR (CDCl
3, 101 MHz) δ 153.5, 138.7, 138.5, 138.3, 128.8, 128.7, 128.6, 128.2, 128.1, 127.9, 99.7, 84.5 (d, J=5.7 Hz), 84.4 (d, J=6.8 Hz), 80.5, 78.3 (d, J=2.1 Hz), 75.8, 75.0, 73.5 (d, J=3.5 Hz), 73.3, 72.7, 71.3 (d, J=22.3 Hz), 55.3.
31P NMR (162 MHz, CDCl
3) δ 26.3.
【化7】
【0057】
メチル6-デオキシ-6-ジイソプロピルオキシカルボニルオキシ-メチル-ホスフィニルメチル-α-D-マンノピラノシド(L2)
【0058】
L2の合成における最終工程は、公表された水素化手順(Jeanjean et al., Bioorg. Med. Chem. Lett. 2008, 18, 6240-6243)に従って行った。オーブン乾燥したバイアル中で、10(36.0mg、0.047、1当量)を乾燥させ、高真空下で脱気した。これに10%Pd/C(36.6mg、0.344mmol、7.4当量)を加え、CH2Cl2(2mL)及びEtOH(2mL)ですすいだ。反応混合物を表面下にN2で1分間散布した。次いで、反応混合物を減圧下で脱気し、雰囲気をH2で置換した(5×)。反応混合物をH2下で4時間激しく撹拌し、その後、反応混合物を減圧下で脱気し、N2で再充填した(5×)。反応混合物をCH2Cl2(2ml)で希釈し、湿らせたセライトの栓で濾過した。濾過した有機層を減圧下で濃縮し、粗残渣をHPLC(40%~85%[H2O+0.1%FA]:[CH3CN+0.1%FA]、tR(L2)=7.00分)によって精製して、白色固形物としてL2(10.1mg、0.020mmol、43%)を得た。すべての13C-31Pカップリング定数は規格値の範囲内である(Buchanan et al., Can. J. Chem. 1976, 54, 231-237)。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 5.68 (2H, dd, J=20.5 Hz, J=5.3 Hz, H8), 5.65 (2H, dd, J=18.3 Hz, J=5.4 Hz, H8’), 4.93 (2H, hept, J=6.3 Hz, H10) , 4.68 (1H, s, H1), 3.95 - 3.86 (1H, br, H5), 3.74 (1H, m, H2), 3.58 (2H, m, H3, H4), 3.35 (3H, s, OCH
3
), 3.22 - 3.07 (1H, m, OH), 2.95 (2H, m, 2×OH), 2.27 - 2.07 (2H, m), 2.06 - 1.86 (2H, m, H6, H6’, H7, H7’), 1.32 (12H, d, J=6.2 Hz, H11). 13C NMR (101 MHz, CDCl3) δ 153.6 (d, J=3.7 Hz, C9), 101.2 (s, C1), 84.5 (d, J=6.3 Hz, C8), 84.3 (d, J=6.3 Hz, C8’), 73.7 (d, J=3.2Hz, C10), 72.0 (s, C2), 70.9 (d, J=16.1 Hz, C5), 70.6 (s), 70.5 (s, C3, C4), 55.3 (s, OCH3), 23.8 (d, J=4.5 Hz, C6), 22.4 (s, C11), 21.7 (d, J=142.3 Hz, C7). 31P NMR (162 MHz, CDCl3) δ 34.4. FT-IR (neat, cm-1): ν(O-H)=3409 (br), ν(C-H)=2923 (m), ν(C=O)=1760 (s), ν(P=O)=1269 (s). LR-MS (ESI-) [M+HCOO]-の計算値:549.2; 実測値:549.2.
【0059】
本発明を例示的な実施形態を通して説明してきたが、当業者には通常の修正が明らかであり、そのような修正は本開示の範囲内であることが意図される。