(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】硬化性組成物、硬化物、オーバーコート膜、並びにフレキシブル配線板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H05K 3/28 20060101AFI20240717BHJP
C08G 59/40 20060101ALI20240717BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240717BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20240717BHJP
B32B 15/092 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
H05K3/28 C
C08G59/40
C08K3/013
C08L63/00 C
B32B15/092
(21)【出願番号】P 2021530524
(86)(22)【出願日】2020-05-29
(86)【国際出願番号】 JP2020021411
(87)【国際公開番号】W WO2021005913
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2023-04-12
(31)【優先権主張番号】P 2019126907
(32)【優先日】2019-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】594009450
【氏名又は名称】日本ポリテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】大賀 一彦
(72)【発明者】
【氏名】石橋 圭孝
(72)【発明者】
【氏名】山本 龍之介
【審査官】齊藤 健一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/170795(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/096295(WO,A1)
【文献】特開2007-131833(JP,A)
【文献】特開2000-171973(JP,A)
【文献】国際公開第2003/087186(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/110326(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 15/092
C08G 59/40
C08K 3/013
C08L 63/00
H05K 1/00―3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配線が形成されたフレキシブル基板の表面のうち前記配線が形成されている部分にオーバーコート膜を被覆したフレキシブル配線板の製造に用いられ、硬化物とすることにより前記オーバーコート膜を形成する硬化性組成物であって、前記硬化物の引張弾性率が600MPa以上2000MPa以下であり且つ引張降伏強さが17MPa以上であ
り、
1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物(成分a)と、溶剤(成分b)と、前記エポキシ化合物(成分a)が有するエポキシ基との反応性を有する官能基を備えるポリマー(成分c)と、を含有する、硬化性組成物。
【請求項2】
前記ポリマー(成分c)がカルバメート基を備える請求項
1に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
前記ポリマー(成分c)中のカルバメート基の濃度が1.50mmol/g以上2.30mmol/g以下である請求項
2に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
前記ポリマー(成分c)が前記官能基としてカルボキシ基、イソシアナト基、ヒドロキシ基、アミド基、及び環状酸無水物基から選ばれる少なくとも1種の基を備える請求項
1~
3のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項5】
前記ポリマー(成分c)が、下記式(1)で表される構造単位を分子中に有し、下記式(1)中のm個のR
1は、それぞれ独立して1,2-フェニレン基又は置換基を有する1,2-フェニレン基を示し、m個のR
2は、それぞれ独立して炭素数3以上10以下のアルキレン基を示し、R
3は炭素数3以上10以下のアルキレン基を示し、mは1以上50以下の整数である請求項
1~
4のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【化1】
【請求項6】
前記ポリマー(成分c)の酸価が5mgKOH/g以上60mgKOH/g以下である請求項
1~
5のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項7】
前記エポキシ化合物(成分a)が芳香環構造及び脂環構造の少なくとも一方を有する請求項
1~
6のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項8】
前記エポキシ化合物(成分a)と前記溶剤(成分b)と前記ポリマー(成分c)との総量に対する前記溶剤(成分b)の含有量の割合が25質量%以上75質量%以下であり、前記エポキシ化合物(成分a)と前記ポリマー(成分c)との総量に対する前記エポキシ化合物(成分a)の含有量の割合が1質量%以上60質量%以下である請求項
1~
7のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項9】
無機微粒子及び有機微粒子から選ばれる少なくとも1種の微粒子(成分d)をさらに含有する請求項
1~
8のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項10】
前記エポキシ化合物(成分a)と前記溶剤(成分b)と前記ポリマー(成分c)と前記微粒子(成分d)との総量に対する前記溶剤(成分b)の含有量の割合が25質量%以上75質量%以下、前記微粒子(成分d)の含有量の割合が0.1質量%以上60質量%以下であり、
前記エポキシ化合物(成分a)と前記ポリマー(成分c)との総量に対する前記エポキシ化合物(成分a)の含有量の割合が1質量%以上60質量%以下である請求項
9に記載の硬化性組成物。
【請求項11】
請求項1~
10のいずれか一項に記載の硬化性組成物の硬化物。
【請求項12】
請求項
11に記載の硬化物を含有するオーバーコート膜。
【請求項13】
配線が形成されたフレキシブル基板の表面のうち前記配線が形成されている部分が、請求項
12に記載のオーバーコート膜によって被覆されたフレキシブル配線板。
【請求項14】
請求項1~
10のいずれか一項に記載の硬化性組成物を、配線が形成されたフレキシブル基板の表面のうち前記配線が形成されている部分に膜状に配した後に、前記膜状の硬化性組成物を硬化させてオーバーコート膜とするフレキシブル配線板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性組成物、硬化物、オーバーコート膜、並びにフレキシブル配線板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブル配線板には、表面保護のためにオーバーコート膜が被覆される。このオーバーコート膜は、配線が形成されたフレキシブル基板の表面に硬化性組成物を印刷法等によって塗工し硬化させることによって形成される。フレキシブル配線板に形成される回路の微細配線加工化、モジュールの軽量小型化に伴い、オーバーコート膜を形成するための硬化性組成物には、従来に比べて、フレキシブル配線板に反りを生じさせにくい性能が求められている。フレキシブル配線板に反りが生じると、フレキシブル配線板にICチップを搭載する実装工程において、ICチップの搭載位置の位置合わせ精度に悪影響が生じるため、製造プロセスにおける歩留まりが低くなるおそれがある。
【0003】
フレキシブル配線板のオーバーコート膜を形成するための硬化性組成物が従来多数提案されており、例えば特許文献1には、ジイソシアネート化合物と複数種のジオール化合物とを反応させて得られるポリウレタンを含有する硬化性組成物が開示されている。特許文献1に開示の硬化性組成物を用いれば、低反り性、可撓性、長期絶縁信頼性、及び配線の断線抑制性に優れたフレキシブル配線板用オーバーコート膜を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、セミアディティブ法の発展に伴いフレキシブル配線板の配線間距離(ピッチ)の更なる狭小化(例えば20μm以下)が予想されているため、フレキシブル配線板の低反り性、及び、フレキシブル配線板の配線の断線抑制性については、さらなる向上が望まれていた。
【0006】
本発明は、フレキシブル配線板に反りを生じさせにくい性能(以下「低反り性」と記すこともある)及びフレキシブル配線板の配線の断線を抑制する性能(以下「配線の断線抑制性」と記すこともある)が優れている硬化性組成物を提供することを課題とする。また、本発明は、低反り性及び配線の断線抑制性に優れた硬化物及びオーバーコート膜を提供することを併せて課題とする。さらに、本発明は、低反り性及び配線の断線抑制性に優れたフレキシブル配線板及びその製造方法を提供することを併せて課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、以下の[1]~[15]の通りである。
[1] 配線が形成されたフレキシブル基板の表面のうち前記配線が形成されている部分にオーバーコート膜を被覆したフレキシブル配線板の製造に用いられ、硬化物とすることにより前記オーバーコート膜を形成する硬化性組成物であって、前記硬化物の引張弾性率が600MPa以上2000MPa以下であり且つ引張降伏強さが17MPa以上である硬化性組成物。
【0008】
[2] 1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物(成分a)と、溶剤(成分b)と、前記エポキシ化合物(成分a)が有するエポキシ基との反応性を有する官能基を備えるポリマー(成分c)と、を含有する[1]に記載の硬化性組成物。
[3] 前記ポリマー(成分c)がカルバメート基を備える[2]に記載の硬化性組成物。
【0009】
[4] 前記ポリマー(成分c)中のカルバメート基の濃度が1.50mmol/g以上2.30mmol/g以下である[3]に記載の硬化性組成物。
[5] 前記ポリマー(成分c)が前記官能基としてカルボキシ基、イソシアナト基、ヒドロキシ基、アミド基、及び環状酸無水物基から選ばれる少なくとも1種の基を備える[2]~[4]のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【0010】
[6] 前記ポリマー(成分c)が、下記式(1)で表される構造単位を分子中に有し、下記式(1)中のm個のR1は、それぞれ独立して1,2-フェニレン基又は置換基を有する1,2-フェニレン基を示し、m個のR2は、それぞれ独立して炭素数3以上10以下のアルキレン基を示し、R3は炭素数3以上10以下のアルキレン基を示し、mは1以上50以下の整数である[2]~[5]のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【0011】
【0012】
[7] 前記ポリマー(成分c)の酸価が5mgKOH/g以上60mgKOH/g以下である[2]~[6]のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
[8] 前記エポキシ化合物(成分a)が芳香環構造及び脂環構造の少なくとも一方を有する[2]~[7]のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【0013】
[9] 前記エポキシ化合物(成分a)と前記溶剤(成分b)と前記ポリマー(成分c)との総量に対する前記溶剤(成分b)の含有量の割合が25質量%以上75質量%以下であり、前記エポキシ化合物(成分a)と前記ポリマー(成分c)との総量に対する前記エポキシ化合物(成分a)の含有量の割合が1質量%以上60質量%以下である[2]~[8]のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【0014】
[10] 無機微粒子及び有機微粒子から選ばれる少なくとも1種の微粒子(成分d)をさらに含有する[2]~[9]のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
[11] 前記エポキシ化合物(成分a)と前記溶剤(成分b)と前記ポリマー(成分c)と前記微粒子(成分d)との総量に対する前記溶剤(成分b)の含有量の割合が25質量%以上75質量%以下、前記微粒子(成分d)の含有量の割合が0.1質量%以上60質量%以下であり、
前記エポキシ化合物(成分a)と前記ポリマー(成分c)との総量に対する前記エポキシ化合物(成分a)の含有量の割合が1質量%以上60質量%以下である[10]に記載の硬化性組成物。
【0015】
[12] [1]~[11]のいずれか一項に記載の硬化性組成物の硬化物。
[13] [12]に記載の硬化物を含有するオーバーコート膜。
[14] 配線が形成されたフレキシブル基板の表面のうち前記配線が形成されている部分が、[13]に記載のオーバーコート膜によって被覆されたフレキシブル配線板。
[15] [1]~[11]のいずれか一項に記載の硬化性組成物を、配線が形成されたフレキシブル基板の表面のうち前記配線が形成されている部分に膜状に配した後に、前記膜状の硬化性組成物を硬化させてオーバーコート膜とするフレキシブル配線板の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る硬化性組成物は、フレキシブル配線板に反りを生じさせにくい性能及びフレキシブル配線板の配線の断線を抑制する性能が優れている。本発明に係る硬化物、オーバーコート膜、及びフレキシブル配線板は、低反り性及び配線の断線抑制性が優れている。本発明に係るフレキシブル配線板の製造方法は、低反り性及び配線の断線抑制性に優れたフレキシブル配線板を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意研究を重ねた結果、特定の物性を有する硬化物を生成しうる硬化性組成物を用いれば、該硬化性組成物を硬化させて得られるオーバーコート膜を有するフレキシブル配線板に反りが生じにくく且つフレキシブル配線板の配線に断線が生じにくいことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
以下に、本発明の一実施形態について詳細に説明する。なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。また、本実施形態には種々の変更又は改良を加えることが可能であり、その様な変更又は改良を加えた形態も本発明に含まれ得る。
【0019】
I.硬化性組成物
本実施形態の硬化性組成物は、配線が形成されたフレキシブル基板の表面のうち配線が形成されている部分にオーバーコート膜を被覆したフレキシブル配線板の製造に用いられるものであり、硬化物とすることによりオーバーコート膜を形成するものである。そして、本実施形態の硬化性組成物は、その硬化物の引張弾性率が600MPa以上2000MPa以下となりうるものであり且つ引張降伏強さが17MPa以上となりうるものである。
【0020】
上記の引張弾性率及び引張降伏強さを有する硬化物、該硬化物を含有するオーバーコート膜、及び、該オーバーコート膜を有するフレキシブル配線板は、低反り性及び配線の断線抑制性が優れている。すなわち、本実施形態の硬化性組成物は、フレキシブル配線板に反りを生じさせにくい性能及びフレキシブル配線板の配線の断線を抑制する性能が優れている。
【0021】
本実施形態の硬化性組成物を硬化させて得られる硬化物の引張弾性率は、上記のように600MPa以上2000MPa以下である必要があるが、700MPa以上1800MPa以下であることが好ましい。また、本実施形態の硬化性組成物を硬化させて得られる硬化物の引張降伏強さは、上記のように17MPa以上である必要があるが、21MPa以上であることが好ましい。本実施形態の硬化性組成物を硬化させて得られる硬化物の引張降伏強さは、材料設計の容易性の観点で50MPa以下であることが好ましく、30MPa以下であることがより好ましい。
なお、本発明における硬化物の引張弾性率及び引張降伏強さは、以下の方法によって作製した試験片に対して、以下の試験条件の引張試験を行うことによって測定したものである。
【0022】
(試験片の作製方法)
硬化性組成物を基材の表面上に膜状に塗工し、温度120℃で120分間加熱することによって硬化させ、幅1cm、長さ5cm、厚さ50μmの短冊状の試験片を作製する。試験片の厚さは、マイクロメーター等を用いて正確に測定する。
【0023】
(引張試験の条件)
試験機:株式会社島津製作所製の小型卓上試験機EZtest
ロードセル:50N
引張速度:5mm/min
つかみ治具(チャック):空気式平面型つかみ治具
チャック間距離:3cm
温度:23℃
【0024】
また、本実施形態の硬化性組成物は、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物(成分a)と、溶剤(成分b)と、エポキシ化合物(成分a)が有するエポキシ基との反応性を有する官能基を備えるポリマー(成分c)と、を含有することが好ましい。上記の成分a、成分b、成分cについて、以下に詳細に説明する。
【0025】
(I-1)1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物(成分a)
本実施形態の硬化性組成物の必須成分の1つであるエポキシ化合物(成分a)は、ポリマー(成分c)が備える官能基(例えばカルボキシ基)と反応し、硬化性組成物において硬化剤として機能するものである。
【0026】
エポキシ化合物(成分a)の種類は、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する化合物であれば、特に限定されるものではないが、例えば、ノボラック樹脂をエポキシ化したノボラック型エポキシ樹脂が挙げられ、ノボラック型エポキシ樹脂の具体例としては、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0027】
なお、ノボラック樹脂とは、フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール等のフェノール類及び/又はα-ナフトール、β-ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール類と、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等のアルデヒド基を有する化合物とを、酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られる樹脂である。
【0028】
さらに、エポキシ化合物(成分a)としては、例えば、フェノール類のジグリシジルエーテルやアルコールのグリシジルエーテルが挙げられる。ここで、上記のフェノール類としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、アルキル置換又は非置換のビフェノール、スチルベン系フェノール類等が挙げられる。すなわち、これらフェノール類のジグリシジルエーテルは、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、ビスフェノールS型エポキシ化合物、ビフェニル型エポキシ化合物、スチルベン型エポキシ化合物である。また、上記のアルコールとしては、ブタンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられる。
【0029】
さらに、エポキシ化合物(成分a)としては、例えば、オルトフタル酸、イソフタル酸、テトラヒドロフタル酸等のカルボン酸のグリシジルエステル型エポキシ樹脂や、アニリン、ビス(4-アミノフェニル)メタン、イソシアヌル酸等が有する窒素原子に結合した活性水素をグリシジル基で置換した化合物であるグリシジル型又はメチルグリシジル型のエポキシ樹脂や、p-アミノフェノール等のアミノフェノール類が有する窒素原子に結合した活性水素及びフェノール性ヒドロキシ基が有する活性水素をそれぞれグリシジル基で置換した化合物であるグリシジル型又はメチルグリシジル型のエポキシ樹脂が挙げられる。
【0030】
さらに、エポキシ化合物(成分a)としては、例えば、ビニルシクロヘキセンジエポキシド、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、2-(3,4-エポキシ)シクロヘキシル-5,5-スピロ(3,4-エポキシ)シクロヘキサン-m-ジオキサン等の脂環型エポキシ樹脂が挙げられる。これら脂環型エポキシ樹脂は、分子内にオレフィン結合を有する脂環式炭化水素化合物のオレフィン結合をエポキシ化して得られる。
【0031】
さらに、エポキシ化合物(成分a)としては、例えば、パラキシリレン及び/又はメタキシリレン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル、テルペン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル、シクロペンタジエン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル、多環芳香環変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル、ナフタレン環含有フェノール樹脂のグリシジルエーテルが挙げられる。
【0032】
さらに、エポキシ化合物(成分a)としては、例えば、ハロゲン化フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、トリメチロールプロパン型エポキシ樹脂、線状脂肪族エポキシ樹脂(分子内にオレフィン結合を有する線状脂肪族炭化水素化合物のオレフィン結合を過酢酸等の過酸で酸化して得られるもの)、ジフェニルメタン型エポキシ樹脂が挙げられる。
【0033】
さらに、エポキシ化合物(成分a)としては、例えば、フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂等のアラルキル型フェノール樹脂のエポキシ化物や、硫黄原子含有エポキシ樹脂や、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノールのジグリシジルエーテルや、アダマンタン構造を有するエポキシ樹脂が挙げられる。
【0034】
アダマンタン構造を有するエポキシ樹脂の例としては、1,3-ビス(1-アダマンチル)-4,6-ビス(グリシジロイル)ベンゼン、1-[2’,4’-ビス(グリシジロイル)フェニル]アダマンタン、1,3-ビス(4’-グリシジロイルフェニル)アダマンタン、及び1,3-ビス[2’,4’-ビス(グリシジロイル)フェニル]アダマンタン等が挙げられる。
【0035】
これらのエポキシ化合物(成分a)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらのエポキシ化合物(成分a)の中でも、1分子中に2個以上のエポキシ基を有し且つ芳香環構造及び脂環構造の少なくとも一方を有するエポキシ化合物が好ましい。芳香環構造としてはベンゼン環などが挙げられ、脂環構造としてはトリシクロデカン構造などが挙げられる。
【0036】
後述する本実施形態の硬化物の長期絶縁性能を重視する場合には、吸水率の低い硬化物が得られることから、1分子中に2個以上のエポキシ基を有し且つ芳香環構造及び脂環構造の少なくとも一方を有するエポキシ化合物の中でも、1分子中に2個以上のエポキシ基を有し且つトリシクロデカン構造及び芳香環構造を有する化合物が好ましい。
【0037】
1分子中に2個以上のエポキシ基を有し且つトリシクロデカン構造及び芳香環構造を有する化合物の具体例としては、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル(すなわち、1分子中に2個以上のエポキシ基を有し且つトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン構造及び芳香環構造を有する化合物)や、1,3-ビス(1-アダマンチル)-4,6-ビス(グリシジロイル)ベンゼン、1-[2’,4’-ビス(グリシジロイル)フェニル]アダマンタン、1,3-ビス(4’-グリシジロイルフェニル)アダマンタン、及び1,3-ビス[2’,4’-ビス(グリシジロイル)フェニル]アダマンタン等のアダマンタン構造を有するエポキシ樹脂(すなわち、1分子中に2個以上のエポキシ基を有し且つトリシクロ[3.3.1.13,7]デカン構造及び芳香環構造を有する化合物)や、下記式(5)で表される化合物が挙げられる。これらの中では、下記式(5)で表される化合物が特に好ましい。なお、下記式(5)中のkは1以上の整数であり、10以下の整数であることが好ましい。
【0038】
【0039】
一方、ポリマー(成分c)の官能基との反応性を重視する場合には、1分子中に2個以上のエポキシ基を有し且つ芳香環構造及び脂環構造の少なくとも一方を有するエポキシ化合物の中でも、1分子中に2個以上のエポキシ基を有し且つアミノ基及び芳香環構造を有する化合物が好ましい。
【0040】
1分子中に2個以上のエポキシ基を有し且つアミノ基及び芳香環構造を有する化合物の具体例としては、アニリン、ビス(4-アミノフェニル)メタンが有する窒素原子に結合した活性水素をグリシジル基で置換した化合物であるグリシジル型又はメチルグリシジル型のエポキシ樹脂や、アミノフェノール類が有する窒素原子に結合した活性水素及びフェノール性ヒドロキシ基が有する活性水素をそれぞれグリシジル基で置換した化合物であるグリシジル型又はメチルグリシジル型のエポキシ樹脂や、下記式(6)で表される化合物が挙げられる。これらの中では、下記式(6)で表される化合物が特に好ましい。
【0041】
【0042】
本実施形態の硬化性組成物中のエポキシ化合物(成分a)とポリマー(成分c)との総量に対するエポキシ化合物(成分a)の含有量の割合は、1質量%以上60質量%以下であることが好ましく、2質量%以上50質量%以下であることがより好ましく、3質量%以上40質量%以下であることがさらに好ましい。すなわち、本実施形態の硬化性組成物中のエポキシ化合物(成分a)とポリマー(成分c)との総量に対するポリマー(成分c)の含有量の割合は、40質量%以上99質量%以下であることが好ましく、50質量%以上98質量%以下であることがより好ましく、60質量%以上97質量%以下であることがさらに好ましい。
【0043】
エポキシ化合物(成分a)とポリマー(成分c)との総量に対するエポキシ化合物(成分a)の含有量の割合が、1質量%以上60質量%以下であると、後述のオーバーコート膜が被覆されている後述のフレキシブル配線板の低反り性と配線の断線抑制性とのバランスをとることができる。
【0044】
(I-2)溶剤(成分b)
本実施形態の硬化性組成物の必須成分の1つである溶剤(成分b)の種類は、エポキシ化合物(成分a)及びポリマー(成分c)を溶解可能であるならば特に限定されるものではないが、例えば、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶剤を挙げることができる。
【0045】
また、溶剤(成分b)としては、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、メトキシプロピオン酸メチル、メトキシプロピオン酸エチル、エトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル、γ-ブチロラクトン等のエステル系溶剤を挙げることができる。
さらに、溶剤(成分b)としては、デカヒドロナフタリン等の炭化水素系溶剤や、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤を挙げることができる。
これらの溶剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0046】
これらの溶剤の中では、スクリーン印刷時の印刷性及び溶剤の揮発性のバランスを考慮すると、γ-ブチロラクトン、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテートが好ましく、γ-ブチロラクトン、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジエチルエーテルがより好ましく、γ-ブチロラクトンの単独溶剤、γ-ブチロラクトンとジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートの2種混合溶剤、γ-ブチロラクトンとジエチレングリコールジエチルエーテルの2種混合溶剤、及びγ-ブチロラクトン、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジエチルエーテルの3種混合溶剤がさらに好ましい。
【0047】
これらの好ましい溶剤の組み合わせは、スクリーン印刷用インクの溶剤として優れているために好適である。
本実施形態の硬化性組成物における溶剤(成分b)の含有量は、本実施形態の硬化性組成物の総量、すなわち、エポキシ化合物(成分a)と溶剤(成分b)とポリマー(成分c)との総量に対して、25質量%以上75質量%以下であることが好ましく、35質量%以上65質量%以下であることがより好ましい。
【0048】
溶剤(成分b)の含有量が、本実施形態の硬化性組成物の総量に対して25質量%以上75質量%以下の範囲内であると、硬化性組成物の粘度がスクリーン印刷法での印刷に対して良好な粘度となり、且つ、スクリーン印刷後の硬化性組成物のにじみによる広がりがそれほど大きくならない。その結果、硬化性組成物を塗工したい部位(すなわち印刷版の形状)よりも、実際に印刷した硬化性組成物の印刷面積の方が大きくなるという現象が生じにくく、好適である。
【0049】
(I-3)エポキシ化合物(成分a)が有するエポキシ基との反応性を有する官能基を備えるポリマー(成分c)
ポリマー(成分c)の種類は、エポキシ化合物(成分a)が有するエポキシ基との反応性を有する官能基を備えるポリマーであれば、特に限定されるものではない。エポキシ化合物(成分a)が有するエポキシ基との反応性を有する官能基としては、例えば、カルボキシ基、イソシアナト基、ヒドロキシ基、アミド基、環状酸無水物基が挙げられる。ポリマー(成分c)は、これらの官能基のうち1種類を備えていてもよいし、これらの官能基のうち2種以上を備えていてもよい。なお、環状酸無水物基とは、分子内の2つのカルボキシ基が脱水して形成された酸無水物基が環構造の一部を形成している場合に、その酸無水物基を指す。
【0050】
上記の例示した官能基の中では、エポキシ化合物(成分a)が有するエポキシ基との反応性を考慮すると、カルボキシ基、イソシアナト基、アミド基、環状酸無水物基が好ましい。また、ポリマー(成分c)の保存安定性とエポキシ化合物(成分a)が有するエポキシ基との反応性とのバランスを考慮すると、カルボキシ基、環状酸無水物基がより好ましく、カルボキシ基がさらに好ましい。
【0051】
ポリマー(成分c)は、カルバメート基(-NHCOO-)を有するポリマー、すなわちポリウレタンであることが好ましい。ポリマー(成分c)中のカルバメート基の濃度は、1.00mmol/g以上2.90mmol/g以下であることが好ましく、1.50mmol/g以上2.30mmol/g以下であることがより好ましく、1.67mmol/g以上2.13mmol/g以下であることがさらに好ましい。ポリマー(成分c)中のカルバメート基の濃度が上記範囲内であれば、後述の本実施形態のフレキシブル配線板の低反り性と配線の断線抑制性とのバランスをとることが容易になる。
【0052】
また、上記の引張弾性率と引張降伏強さを達成するには、ポリマー(成分c)の芳香環濃度は、0.1mmol/g以上6.5mmol/g以下であることが好ましく、2.0mmol/g以上4.5mmol/g以下であることがより好ましく、2.5mmol/g以上3.7mmol/g以下であることがさらに好ましい。芳香環濃度の定義については、後の実施例で詳述する。
【0053】
ポリマー(成分c)は、下記式(1)で表される構造単位を分子中に有することが好ましい。下記式(1)中のm個のR1は、それぞれ独立して1,2-フェニレン基又は置換基を有する1,2-フェニレン基を示し、m個のR2は、それぞれ独立して炭素数3以上10以下のアルキレン基を示し、R3は炭素数3以上10以下のアルキレン基を示し、mは1以上50以下の整数である。
【0054】
【0055】
なお、本発明において「それぞれ独立して」とは、全部が同一であってもよいし、一部が同一で他部が異なっていてもよいし、全部が異なっていてもよいことを意味する。例えば、「m個のR1は、それぞれ独立して1,2-フェニレン基又は置換基を有する1,2-フェニレン基を示し」とは、m個のR1の全部が同一の基であってもよいし、m個のR1のうち一部が同一の基で他部が別の基であってもよいし、m個のR1の全部が異なる基であってもよいことを意味する。
この式(1)で表される構造単位は、下記式(2)で表される原料化合物から誘導され得る。下記式(2)中のR1、R2、R3、及びmは、式(1)の場合と同一である。
【0056】
【0057】
上記式(1)及び式(2)中のm個のR1は、それぞれ独立して1,2-フェニレン基又は置換基を有する1,2-フェニレン基を示すが、この置換基としては、炭素数1以上5以下のアルキル基、ハロゲン原子等が挙げられる。R1の具体例としては、1,2-フェニレン基、3-メチル-1,2-フェニレン基、4-メチル-1,2-フェニレン基、3-エチル-1,2-フェニレン基、4-エチル-1,2-フェニレン基、3-クロロ-1,2-フェニレン基、4-クロロ-1,2-フェニレン基、3-ブロモ-1,2-フェニレン基、4-ブロモ-1,2-フェニレン基等を挙げることができる。これらの中では、1,2-フェニレン基、3-メチル-1,2-フェニレン基、4-メチル-1,2-フェニレン基がより好ましく、1,2-フェニレン基がさらに好ましい。
【0058】
上記式(1)及び式(2)中のm個のR2は、それぞれ独立して炭素数3以上10以下のアルキレン基を示すが、炭素数3以上10以下のアルキレン基の具体例としては、1,3-プロピレン基、1,2-プロピレン基、1,4-ブチレン基、2,2-ジメチルプロピレン基、1,5-ペンチレン基、1,6-ヘキシレン基、3-メチル-1,5-ペンチレン基、1,8-オクチレン基、1,9-ノニレン基、2-メチル-1,8-オクチレン基等のアルキレン基を挙げることができる。
【0059】
これらのアルキレン基の中では、1,3-プロピレン基、1,4-ブチレン基、1,5-ペンチレン基、1,6-ヘキシレン基、1,8-オクチレン基、1,9-ノニレン基等の直鎖アルキレン基や、2,2-ジメチルプロピレン基、3-メチル-1,5-ペンチレン基等の分岐鎖アルキレン基がより好ましく、1,5-ペンチレン基、1,6-ヘキシレン基、1,8-オクチレン基、1,9-ノニレン基等の直鎖アルキレン基がさらに好ましい。
【0060】
上記式(1)及び式(2)中のR3は炭素数3以上10以下のアルキレン基を示すが、炭素数3以上10以下のアルキレン基の具体例、及び、その中の好ましい例については、上記R2の場合と同様である。
mは、1以上30以下の整数であることが好ましく、1以上10以下の整数であることがより好ましい。
【0061】
ポリマー(成分c)の分子量は特に限定されるものではないが、本実施形態の硬化性組成物の粘度調整の容易さを考慮すると、ポリマー(成分c)の数平均分子量は5000以上50000以下であることが好ましく、10000以上40000以下であることがより好ましく、10000以上30000以下であることがさらに好ましい。
【0062】
ポリマー(成分c)の数平均分子量が上記範囲内であると、ポリマー(成分c)の溶剤溶解性が良好であるとともに、ポリマー(成分c)の溶液の粘度が高くなりにくいので、硬化性組成物を後述するオーバーコート膜やフレキシブル配線板の製造に使用する際に好適である。さらに、後述する硬化物やオーバーコート膜の伸度、可撓性、及び強度が良好となりやすい。
ここで言う「数平均分子量」とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、「GPC」と記す。)で測定したポリスチレン換算の数平均分子量である。なお、本明細書においては、特に断りのない限り、GPCの測定条件は以下の通りである。
【0063】
装置名:日本分光株式会社製HPLCユニット HSS-2000
カラム:昭和電工株式会社製ShodexカラムLF-804×3本(直列)
移動相:テトラヒドロフラン
流速 :1.0mL/min
検出器:日本分光株式会社製RI-2031Plus
温度 :40.0℃
試料量:サンプルループ 100μL
試料濃度:約0.1質量%
【0064】
ポリマー(成分c)の酸価は特に限定されるものではないが、官能基がカルボキシ基や環状酸無水物基である場合には、5mgKOH/g以上60mgKOH/g以下であることが好ましく、10mgKOH/g以上40mgKOH/g以下であることがより好ましく、10mgKOH/g以上30mgKOH/g以下であることがさらに好ましい。
【0065】
酸価が上記範囲内であれば、ポリマー(成分c)は、エポキシ化合物(成分a)が有するエポキシ基との十分な反応性を有する。そのため、硬化性組成物の硬化物の耐熱性が低くなりにくく、且つ、硬化性組成物の硬化物が硬く脆くなりすぎることがない。また、後述するオーバーコート膜の耐溶剤性と後述するフレキシブル配線板の反りとのバランスをとることが容易になる。なお、本明細書においては、ポリマー(成分c)の酸価は、JIS K0070に規定された電位差滴定法で測定された酸価の値である。
【0066】
また、ポリマー(成分c)の総量に対する、式(1)で表される構造単位の総量の割合は、7質量%以上30質量%以下であることが好ましく、7質量%以上28質量%以下であることがより好ましく、8質量%以上27質量%以下であることがさらに好ましい。ポリマー(成分c)の総量に対する、式(1)で表される構造単位の総量の割合が上記範囲内であると、後述する本実施形態のフレキシブル配線板の低反り性と配線の断線抑制性とのバランスをとることが容易になる。
【0067】
ポリマー(成分c)の一例としては、下記式(3)で表される構造単位及び下記式(4)で表される構造単位を分子中に有するポリウレタンが挙げられる。下記式(4)で表される構造単位を分子中に有するポリウレタンは、エポキシ化合物(成分a)が有するエポキシ基との反応性を有する官能基としてカルボキシ基を有する。
【0068】
【0069】
【0070】
式(3)中のR1、R2、R3、及びmは、式(1)の場合と同一である。式(3)中のR4は、1分子中に2個のイソシアナト基を有するジイソシアネート化合物から誘導される有機残基を示す。
式(4)中のR5は、1分子中に2個のイソシアナト基を有するジイソシアネート化合物から誘導される有機残基を示し、R6は、メチル基又はエチル基を示す。
【0071】
式(3)中のR4及び式(4)中のR5は、ジイソシアネート化合物から誘導される有機残基を示すが、R4又はR5に2つのイソシアナト基が結合した該ジイソシアネート化合物の具体例としては、イソホロンジイソシアネート、メチレンビス(4-シクロヘキシルイソシアネート)、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、1,3-キシリレンジイソシアネート、1,4-キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートのビウレット体、ヘキサメチレンジイソシアネートのビウレット体、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサンメチレンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート等を挙げることができる。
【0072】
後述するオーバーコート膜の電気絶縁性能を高く維持するためには、ジイソシアネート化合物としては、イソホロンジイソシアネート、メチレンビス(4-シクロヘキシルイソシアネート)、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、1,3-キシリレンジイソシアネート、1,4-キシリレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサンメチレンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネートが好ましく、メチレンビス(4-シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネートがより好ましい。
【0073】
また、後述するフレキシブル配線板の低反り性を重視し、且つ、後述するオーバーコート膜の電気絶縁性能をある程度維持するためには、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンが好ましい。
これらのジイソシアネート化合物は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0074】
式(4)中のR6を含むモノカルボキシジオール由来の部分は、2,2-ジメチロールアルカン酸から誘導される基である。すなわち、ポリマー(成分c)であるポリウレタンの原料のジオールの一つとして、2,2-ジメチロールアルカン酸を用いてもよい。2,2-ジメチロールアルカン酸の具体例としては、2,2-ジメチロールプロピオン酸(R6がメチル基の場合)、2,2-ジメチロールブタン酸(R6がエチル基の場合)が挙げられる。ポリウレタンの原料としては、2,2-ジメチロールプロピオン酸と2,2-ジメチロールブタン酸のいずれか一方を用いてもよいし、両方を併用しても差し支えない。
あるいは、後述する硬化物の引張弾性率及び引張降伏強さが損なわれない範囲の量であれば、ポリウレタンの原料として、式(2)で表される原料化合物以外のポリオールや、2,2-ジメチロールアルカン酸以外のポリオールを使用してもよい。
【0075】
これらのポリオールとしては、オリゴマーのポリオールや低分子量のポリオールを用いることができる。オリゴマーのポリオールとしては、例えば、式(2)で表される原料化合物以外のポリエステルポリオール、ポリカーボネートジオールが挙げられる。また、低分子量のポリオールとしては、例えば、1,2-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパンが挙げられる。これらのポリオールは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0076】
ポリマー(成分c)の一例であるポリウレタンの合成方法は特に限定されるものではないが、例えば、ジブチル錫ジラウリレート等のウレタン化触媒の存在下又は非存在下で、式(2)で表される原料化合物と、2,2-ジメチロールアルカン酸と、1分子中に2個のイソシアナト基を有するジイソシアネート化合物(ジイソシアネート化合物の炭素数は例えば6~14)とを、溶媒中で重合させる方法が挙げられる。
【0077】
なお、所望により、式(2)で表される原料化合物以外のポリオール、2,2-ジメチロールアルカン酸以外のポリオール、1分子中に1個のヒドロキシ基を有するモノヒドロキシ化合物、及び、1分子中に1個のイソシアナト基を有するモノイソシアネート化合物のうちの少なくとも1種を共存させて、上記の重合反応を行ってもよい。
また、上記の重合反応を無触媒又は少量の触媒の存在下で実施した方が、後述するオーバーコート膜の長期絶縁信頼性が向上するため好ましい。
【0078】
ポリウレタンを合成する重合反応を行う際にモノマー等の原料を反応容器へ仕込む順序については、特に制約はないが、例えば、以下の順序で仕込んでもよい。すなわち、式(2)で表される原料化合物と2,2-ジメチロールアルカン酸とを反応容器中で溶媒に溶解させた後に、30℃以上140℃以下で、好ましくは60℃以上120℃以下で、ジイソシアネート化合物を反応容器に少量ずつ加え、50℃以上160℃以下、好ましくは60℃以上150℃以下で、上記各モノマーを反応させ重合を行う。
【0079】
モノマーの仕込みモル比は、目的とするポリウレタンの分子量及び酸価に応じて調節する。ポリウレタンの分子量の調節のために、ポリウレタンの原料としてモノヒドロキシ化合物を用いてもよい。その場合には、上記方法により重合中のポリウレタンの分子量が目的とする数平均分子量になったら(あるいは、目的とする数平均分子量に近づいたら)、重合中のポリウレタンの分子末端のイソシアナト基を封止し、数平均分子量の更なる上昇を抑制する目的で、モノヒドロキシ化合物を添加する。
【0080】
モノヒドロキシ化合物を使用する場合は、ポリウレタンの全原料が有するヒドロキシ基の総数からモノヒドロキシ化合物が有するヒドロキシ基の総数を差し引いたヒドロキシ基の総数(すなわち、ポリウレタンの原料である1分子中に2個以上のヒドロキシ基を有する化合物が有するヒドロキシ基の総数)よりも、ポリウレタンの全原料が有するイソシアナト基の総数を少なくしてもよいし、同じにしてもよいし、あるいは多くしてもよい。
【0081】
過剰量のモノヒドロキシ化合物を使用した場合には、未反応のモノヒドロキシ化合物が残存する結果となるが、この場合には、過剰のモノヒドロキシ化合物をそのまま溶媒の一部として使用してもよいし、あるいは、蒸留等の操作により除去してもよい。
モノヒドロキシ化合物をポリウレタンの原料として用いるのは、ポリウレタンの分子量の増大を抑制(すなわち、重合反応を停止)するためであり、反応溶液中にモノヒドロキシ化合物を30℃以上150℃以下、好ましくは70℃以上140℃以下で少量ずつ加え、その後上記温度で保持して反応を完結させる。
【0082】
モノヒドロキシ化合物の種類は特に限定されるものではないが、例えば、n-ブタノール、イソブタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、アミルアルコール、ヘキシルアルコール、オクチルアルコール、メチルエチルケトオキシム等を挙げることができる。
【0083】
また、ポリウレタンの分子量の調節のために、ポリウレタンの原料としてモノイソシアネート化合物を用いてもよい。その場合には、モノイソシアネート化合物を添加する時点のポリウレタンの分子末端がヒドロキシ基となるように、ポリウレタンの全原料が有するヒドロキシ基の総数よりも、ポリウレタンの全原料が有するイソシアナト基の総数からモノイソシアネート化合物が有するイソシアナト基の総数を差し引いたイソシアナト基の総数(すなわち、ポリウレタンの原料である1分子中に2個以上のイソシアナト基を有する化合物が有するイソシアナト基の総数)を少なくする必要がある。
【0084】
ポリウレタンの全原料が有するヒドロキシ基とジイソシアネート化合物のイソシアナト基との反応がほぼ終了した時点で、製造中のポリウレタンの分子末端に残存しているヒドロキシ基とモノイソシアネート化合物のイソシアナト基とを反応させる。そのためには、ポリウレタン製造中のポリウレタン溶液の温度を30℃以上150℃以下、好ましくは70℃以上140℃以下とした後に、ポリウレタン溶液にモノイソシアネート化合物を少量ずつ加え、その後上記温度に保持して反応を完結させる。
【0085】
モノイソシアネート化合物の種類は特に限定されるものではないが、例えば、シクロヘキシルイソシアネート、オクタデシルイソシアネート、フェニルイソシアネート、トルイルイソシアネート等を挙げることができる。
なお、このポリウレタンを製造する際に使用する合成用の溶剤は、後述する硬化性組成物の一成分である溶剤(成分b)の一部又は全部として、そのまま使用することが可能であり、その方が本実施形態の硬化性組成物の製造が容易となるためプロセス的に好ましい。
【0086】
(I-4)微粒子(成分d)
本実施形態の硬化性組成物には、無機微粒子及び有機微粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種の微粒子(成分d)が含有されていてもよい。
無機微粒子としては、例えば、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al2O3)、チタニア(TiO2)、酸化タンタル(Ta2O5)、ジルコニア(ZrO2)、窒化珪素(Si3N4)、チタン酸バリウム(BaO・TiO2)、炭酸バリウム(BaCO3)、チタン酸鉛(PbO・TiO2)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸ジルコン酸、ランタン鉛(PLZT)、酸化ガリウム(Ga2O3)、スピネル(MgO・Al2O3)、ムライト(3Al2O3・2SiO2)、コーディエライト(2MgO・2Al2O3・5SiO2)、タルク(3MgO・4SiO2・H2O)、チタン酸アルミニウム(TiO2-Al2O3)、イットリア含有ジルコニア(Y2O3-ZrO2)、珪酸バリウム(BaO・8SiO2)、窒化ホウ素(BN)、炭酸カルシウム(CaCO3)、硫酸カルシウム(CaSO4)、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸マグネシウム(MgO・TiO2)、硫酸バリウム(BaSO4)、有機ベントナイト、カーボン(C)、ハイドロタルサイトなどが挙げられ、これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0087】
有機微粒子としては、アミド結合、イミド結合、エステル結合又はエーテル結合を有する耐熱性樹脂の微粒子が好ましい。これらの樹脂の例としては、耐熱性及び機械特性の観点から、ポリイミド樹脂若しくはその前駆体、ポリアミドイミド樹脂若しくはその前駆体、又はポリアミド樹脂が挙げられる。
【0088】
これらの微粒子の中でもシリカ微粒子が好ましく、本実施形態の硬化性組成物はシリカ微粒子を含有することが好ましい。本実施形態の硬化性組成物に使用されるシリカ微粒子は、粉末状であり、表面に被覆物を設けたシリカ微粒子や有機化合物により化学的に表面処理を施したシリカ微粒子でもよい。
【0089】
本実施形態の硬化性組成物に使用されるシリカ微粒子は、硬化性組成物中で分散してペーストを形成するものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、日本アエロジル株式会社より提供されているアエロジル(商品名)等を挙げることができる。アエロジル(商品名)に代表されるシリカ微粒子は、硬化性組成物にスクリーン印刷時の印刷性を付与するために使用されることもあり、その場合にはチクソ性の付与を目的として使用される。
これらの無機微粒子、有機微粒子の質量平均粒子径は、好ましくは0.01μm以上10μm以下、さらに好ましくは0.1μm以上5μm以下である。
【0090】
本実施形態の硬化性組成物中の微粒子(成分d)の含有量は、エポキシ化合物(成分a)と溶剤(成分b)とポリマー(成分c)と微粒子(成分d)との総量に対して、0.1質量%以上60質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上40質量%以下であることがより好ましく、1質量%以上20質量%以下であることがさらに好ましい。
【0091】
本実施形態の硬化性組成物中の微粒子(成分d)の含有量が上記の範囲内であれば、硬化性組成物の粘度がスクリーン印刷法での印刷に対して良好な粘度となり、且つ、スクリーン印刷後の硬化性組成物のにじみによる広がりがそれほど大きくならない。その結果、硬化性組成物を塗工したい部位(すなわち印刷版の形状)よりも、実際に印刷した硬化性組成物の印刷面積の方が大きくなるという現象が生じにくく、好適である。
【0092】
さらに、本実施形態の硬化性組成物が微粒子(成分d)を含有する場合には、本実施形態の硬化性組成物における溶剤(成分b)の含有量は、本実施形態の硬化性組成物の総量、すなわち、エポキシ化合物(成分a)と溶剤(成分b)とポリマー(成分c)と微粒子(成分d)との総量に対して、25質量%以上75質量%以下であることが好ましく、30質量%以上75質量%以下であることがより好ましく、35質量%以上70質量%以下であることがさらに好ましい。
【0093】
溶剤(成分b)の含有量が、本実施形態の硬化性組成物の総量に対して25質量%以上75質量%以下の範囲内であると、硬化性組成物の粘度がスクリーン印刷法での印刷に対して良好な粘度となり、且つ、スクリーン印刷後の硬化性組成物のにじみによる広がりがそれほど大きくならない。その結果、硬化性組成物を塗工したい部位(すなわち印刷版の形状)よりも、実際に印刷した硬化性組成物の印刷面積の方が大きくなるという現象が生じにくいことに加えて、スクリーン印刷の印刷性(良好な版離れ等)が良好となる。
【0094】
また、本実施形態の硬化性組成物が微粒子(成分d)を含有する場合でも、本実施形態の硬化性組成物中のエポキシ化合物(成分a)とポリマー(成分c)との総量に対するエポキシ化合物(成分a)の含有量の割合は、1質量%以上60質量%以下であることが好ましく、2質量%以上50質量%以下であることがより好ましく、3質量%以上40質量%以下であることがさらに好ましい。すなわち、本実施形態の硬化性組成物中のエポキシ化合物(成分a)とポリマー(成分c)との総量に対するポリマー(成分c)の含有量の割合は、40質量%以上99質量%以下であることが好ましく、50質量%以上98質量%以下であることがより好ましく、60質量%以上97質量%以下であることがさらに好ましい。
【0095】
本実施形態の硬化性組成物が微粒子(成分d)を含有する場合でも、エポキシ化合物(成分a)とポリマー(成分c)との総量に対するエポキシ化合物(成分a)の含有量の割合が、1質量%以上60質量%以下であると、後述のオーバーコート膜が被覆されている後述のフレキシブル配線板の低反り性と配線の断線抑制性とのバランスをとることができる。
【0096】
(I-5)硬化促進剤(成分e)
本実施形態の硬化性組成物には硬化促進剤(成分e)を添加してもよい。硬化促進剤の種類は、ポリマー(成分c)が有する官能基(例えばカルボキシ基)とエポキシ化合物(成分a)が有するエポキシ基との反応を促進する化合物であれば特に限定されるものではないが、例えば下記の化合物が挙げられる。
【0097】
すなわち、硬化促進剤の例としては、メラミン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン、2,4-ジアミノ-6-メタクリロイルオキシエチル-s-トリアジン、2,4-メタクリロイルオキシエチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-ビニル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-ビニル-s-トリアジン・イソシアヌル酸付加物等のトリアジン化合物が挙げられる。
【0098】
また、硬化促進剤の例としては、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-アミノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-アミノエチル-2-メチルイミダゾール、1-(シアノエチルアミノエチル)-2-メチルイミダゾール、N-[2-(2-メチル-1-イミダゾリル)エチル]尿素、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾリウムトリメリテート、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテート、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾリウムトリメリテート、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾリウムトリメリテート、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-ウンデシルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-エチル-4’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、1-ドデシル-2-メチル-3-ベンジルイミダゾリウムクロライド、N,N’-ビス(2-メチル-1-イミダゾリルエチル)尿素、N,N’-ビス(2-メチル-1-イミダゾリルエチル)アジポアミド、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール・イソシアヌル酸付加物、2-フェニルイミダゾール・イソシアヌル酸付加物、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン・イソシアヌル酸付加物、2-メチル-4-フォルミルイミダゾール、2-エチル-4-メチル-5-フォルミルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルフォルミルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、1-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾール、ビニルイミダゾール、1-メチルイミダゾール、1-アリルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-ブチルイミダゾール、2-ブチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2,3-ジヒドロ-1H-ピロロ[1,2-a]ベンズイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール臭化水素塩、1-ドデシル-2-メチル-3-ベンジルイミダゾリウムクロライド等のイミダゾール化合物が挙げられる。
【0099】
さらに、硬化促進剤の例としては、ジアザビシクロアルケン及びその塩等のシクロアミジン化合物及びその誘導体が挙げられる。ジアザビシクロアルケンとしては、例えば、1,5-ジアザビシクロ(4.3.0)ノネン-5や1,8-ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセン-7が挙げられる。
【0100】
さらに、硬化促進剤の例としては、トリフェニルホスフィン、ジフェニル(p-トリル)ホスフィン、トリス(アルキルフェニル)ホスフィン、トリス(アルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(アルキル・アルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(ジアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(トリアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(テトラアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(ジアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(トリアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(テトラアルコキシフェニル)ホスフィン、トリアルキルホスフィン、ジアルキルアリールホスフィン、アルキルジアリールホスフィン等の有機ホスフィン化合物が挙げられる。
【0101】
さらに、硬化促進剤の例としては、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等のアミン化合物や、ジシアンジアジドが挙げられる。
これらの硬化促進剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0102】
これらの硬化促進剤の中では、その硬化促進作用及び後述する本実施形態の硬化物の電気絶縁性能の両立を考慮すると、メラミン、イミダゾール化合物、シクロアミジン化合物及びその誘導体、ホスフィン化合物、及びアミン化合物が好ましく、メラミン、1,5-ジアザビシクロ(4.3.0)ノネン-5及びその塩、1,8-ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセン-7及びその塩がより好ましい。
【0103】
本実施形態の硬化性組成物中の硬化促進剤(成分e)の含有量は、硬化促進効果が奏されれば特に限定されるものではないが、本実施形態の硬化性組成物の硬化性及び後述する本実施形態の硬化物、オーバーコート膜の電気絶縁特性や耐水性の観点から、エポキシ化合物(成分a)とポリマー(成分c)の総量を100質量部として、硬化促進剤(成分e)を0.05質量部以上5質量部以下の範囲内で配合することが好ましく、0.1質量部以上3質量部以下の範囲内で配合することがより好ましい。
本実施形態の硬化性組成物中の硬化促進剤(成分e)の含有量が上記範囲内であれば、本実施形態の硬化性組成物を短時間で硬化させることができるとともに、後述する本実施形態の硬化物、オーバーコート膜の電気絶縁特性や耐水性が良好である。
【0104】
(I-6)その他の成分
本実施形態の硬化性組成物には、微粒子(成分d)、硬化促進剤(成分e)の他に各種添加剤を添加してもよい。本実施形態の硬化性組成物に配合可能な添加剤について、以下に説明する。
【0105】
本実施形態の硬化性組成物を硬化させると、電気絶縁特性の良好な硬化物を得ることができるため、本実施形態の硬化性組成物は、例えば、配線の絶縁保護用レジストインキ用途などの組成物として使用可能である。本実施形態の硬化性組成物を配線の絶縁保護用レジストインキ用途の組成物(すなわち、フレキシブル配線板のオーバーコート膜形成用組成物)として使用する場合等には、印刷の際に泡の発生を防止又は抑制する目的で、消泡剤(成分f)を添加してもよい。
【0106】
消泡剤の種類は、フレキシブル配線板の製造時においてフレキシブル基板の表面に本実施形態の硬化性組成物を印刷して塗工する際に、泡の発生を防止又は抑制することができるならば特に限定されるものではないが、例えば下記の消泡剤が例として挙げられる。
すなわち、消泡剤の例としては、BYK-077(ビックケミー・ジャパン株式会社製)、SNデフォーマー470(サンノプコ株式会社製)、TSA750S(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製)、シリコーンオイルSH-203(東レ・ダウコーニング株式会社製)等のシリコーン系消泡剤や、ダッポーSN-348(サンノプコ株式会社製)、ダッポーSN-354(サンノプコ株式会社製)、ダッポーSN-368(サンノプコ株式会社製)、ディスパロン230HF(楠本化成株式会社製)等のアクリル重合体系消泡剤や、サーフィノールDF-110D(日信化学工業株式会社製)、サーフィノールDF-37(日信化学工業株式会社製)等のアセチレンジオール系消泡剤や、FA-630等のフッ素含有シリコーン系消泡剤等を挙げることができる。
【0107】
本実施形態の硬化性組成物中の消泡剤(成分f)の含有量は、特に限定されるものではないが、エポキシ化合物(成分a)、溶剤(成分b)、ポリマー(成分c)、及び微粒子(成分d)の総量を100質量部として、消泡剤(成分f)を0.01質量部以上5質量部以下の範囲内で配合することが好ましく、0.05質量部以上4質量部以下の範囲内で配合することがより好ましく、0.1質量部以上3質量部以下の範囲内で配合することがさらに好ましい。
【0108】
さらに、本実施形態の硬化性組成物には、必要に応じて、レベリング剤等の界面活性剤や、フタロシアニン・ブルー、フタロシアニン・グリーン、アイオジン・グリーン、ジスアゾイエロー、クリスタルバイオレット、カーボンブラック、ナフタレンブラック等の着色剤を添加することができる。
【0109】
また、ポリマー(成分c)の酸化劣化及び加熱時の変色を抑制することが必要な場合には、フェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤等の酸化防止剤を本実施形態の硬化性組成物に添加することが好ましい。
さらに、本実施形態の硬化性組成物には、必要に応じて、難燃剤や滑剤を添加することもできる。
【0110】
本実施形態の硬化性組成物は、配合する成分(すなわち、エポキシ化合物(成分a)、溶剤(成分b)、ポリマー(成分c)、及び微粒子(成分d)等)のうち一部又は全部をロールミル、ビーズミル等で均一に混練、混合することによって得ることができる。配合する成分の一部を混合した場合には、本実施形態の硬化性組成物を実際に使用するときに、残りの成分を混合することができる。
【0111】
<硬化性組成物の粘度>
本実施形態の硬化性組成物の25℃における粘度は、10000mPa・s以上100000mPa・s以下が好ましく、20000mPa・s以上60000mPa・s以下がより好ましい。
【0112】
なお、本明細書においては、本実施形態の硬化性組成物の25℃における粘度は、特に断りがない限り、コーン/プレート型粘度計(Brookfield社製、型式DV-II+Pro、スピンドルの型番CPE-52)を用いて、回転速度10rpmの条件で、回転開始から7分経過後に測定した粘度である。この硬化性組成物の粘度の測定においては、硬化性組成物を約0.8g使用する。
【0113】
<硬化性組成物のチクソトロピー指数>
本実施形態の硬化性組成物を、配線の絶縁保護用レジストインキ用途の組成物(すなわち、フレキシブル配線板のオーバーコート膜形成用組成物)として使用する場合は、本実施形態の硬化性組成物の25℃におけるチクソトロピー指数は、1.1以上であることが好ましく、1.1以上3.0以下の範囲内であることがより好ましく、1.1以上2.5以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0114】
本実施形態の硬化性組成物をフレキシブル配線板のオーバーコート膜形成用組成物として使用する場合に、本実施形態の硬化性組成物の25℃におけるチクソトロピー指数が1.1以上であれば、本実施形態の硬化性組成物の印刷性(例えばスクリーン印刷における印刷性)が良好であるとともに、印刷した本実施形態の硬化性組成物が流動しにくく、一定の厚さの膜状に維持することができるので、印刷パターンを維持することが容易である。
【0115】
硬化性組成物の25℃におけるチクソトロピー指数を1.1以上とする方法としては、前述の無機微粒子や有機微粒子を用いてチクソトロピー指数を調整する方法や、高分子添加剤を用いてチクソトロピー指数を調整する方法等があるが、無機微粒子や有機微粒子を用いてチクソトロピー指数を調整する方法の方が好ましい。
【0116】
なお、本明細書においては、本実施形態の硬化性組成物の25℃におけるチクソトロピー指数は、25℃において回転速度1rpmで測定した粘度と25℃において回転速度10rpmで測定した粘度との比([回転速度1rpmの場合の粘度]/[回転速度10rpmの場合の粘度])である。これら粘度は、コーン/プレート型粘度計(Brookfield社製、型式DV-II+Pro、スピンドルの型番CPE-52)を用いて測定することができる。これらの粘度の測定値は、スピンドルの回転開始から7分経過後に測定した値である。また、この硬化性組成物の粘度の測定においては、硬化性組成物を約0.8g使用する。
【0117】
II.硬化物
本実施形態の硬化物は、本実施形態の硬化性組成物を硬化させて得られる硬化物であり、低反り性及び可撓性が良好であり、しかも長期絶縁信頼性が優れている。本実施形態の硬化性組成物を硬化させる方法は特に限定されるものではなく、熱や活性エネルギー線(例えば紫外線、電子線、X線)によって硬化させることができる。よって、本実施形態の硬化性組成物には、熱ラジカル発生剤、光ラジカル発生剤等の重合開始剤を添加してもよい。
【0118】
本実施形態の硬化物は、絶縁保護膜(オーバーコート膜)として用いることができる。特に、例えばチップオンフィルム(COF)のようなフレキシブル配線板の配線の全部又は一部を被覆することにより、本実施形態の硬化物を配線の絶縁保護膜として用いることができる。
【0119】
III.オーバーコート膜並びにフレキシブル配線板及びその製造方法
本実施形態のオーバーコート膜は、本実施形態の硬化物を含有する膜であり、本実施形態の硬化性組成物を硬化させることによって製造することができる。詳述すると、本実施形態のオーバーコート膜は、本実施形態の硬化性組成物を、配線が形成されたフレキシブル基板の表面のうち配線が形成されている部分の全部又は一部に膜状に配した後に、膜状の硬化性組成物を加熱等により硬化させて膜状の硬化物とすることによって製造することができる。本実施形態のオーバーコート膜は、フレキシブル配線板用のオーバーコート膜として好適である。
【0120】
本実施形態のフレキシブル配線板は、配線が形成されたフレキシブル基板の表面のうち配線が形成されている部分の全部又は一部が、オーバーコート膜によって被覆されたものである。
本実施形態のフレキシブル配線板は、本実施形態の硬化性組成物とフレキシブル基板から製造することができる。詳述すると、本実施形態のフレキシブル配線板は、本実施形態の硬化性組成物を、配線が形成されたフレキシブル基板の表面のうち配線が形成されている部分の全部又は一部に膜状に配した後に、膜状の硬化性組成物を硬化させてオーバーコート膜とすることによって製造することができる。なお、オーバーコート膜によって被覆される配線は、配線の酸化防止及び経済的な面を考慮すると、錫メッキ銅配線であることが好ましい。
【0121】
本実施形態のオーバーコート膜及びフレキシブル配線板の製造方法の一例を、以下に説明する。本実施形態のオーバーコート膜及びフレキシブル配線板は、例えば、以下の工程1、工程2、工程3を経て、形成することができる。
(工程1)本実施形態の硬化性組成物を、フレキシブル基板の配線パターン部の少なくとも一部に印刷することで、該配線パターン部上に印刷膜を形成する印刷工程。
(工程2)工程1で得られた印刷膜を40℃以上100℃以下の雰囲気下におくことで、印刷膜中の溶剤の一部又は全部を蒸発させる溶剤除去工程。
(工程3)工程1で得られた印刷膜又は工程2で得られた印刷膜を、80℃以上160℃以下で加熱することによって硬化させ、オーバーコート膜を形成する硬化工程。
【0122】
工程1での硬化性組成物の印刷方法に特に制限はなく、例えば、スクリーン印刷法、ロールコーター法、スプレー法、カーテンコーター法などにより、本実施形態の硬化性組成物をフレキシブル基板に塗工して印刷膜を得ることができる。
工程2は必要に応じて行われる操作であり、工程1の後にすぐに工程3を行い、工程3において硬化反応と溶剤の除去とを同時に行ってもよい。工程2を行う場合は、その温度は、溶剤の蒸発速度及び熱硬化の操作への速やかな移行を考慮すると、40℃以上100℃以下であることが好ましく、60℃以上90℃以下であることがより好ましく、70℃以上80℃以下であることがさらに好ましい。工程3や工程2において溶剤を蒸発させる時間は特に限定されるものではないが、10分以上120分以下であることが好ましく、20分以上100分以下であることがより好ましい。
【0123】
工程3における熱硬化の温度は、メッキ層の拡散を防ぎ、且つ、オーバーコート膜に保護膜として好適な低反り性、柔軟性を付与する観点から、105℃以上160℃以下であることがより好ましく、110℃以上160℃以下であることがさらに好ましい。工程3で行われる熱硬化の時間は、特に限定されるものではないが、10分以上150分以下であることが好ましく、15分以上120分以下であることがより好ましい。
【0124】
上記のような方法により、配線が形成されたフレキシブル基板の表面のうち配線が形成されている部分の全部又は一部が、オーバーコート膜によって被覆されたフレキシブル配線板を得ることができる。このようにして得られたオーバーコート膜は柔軟性、可撓性が優れているため、本実施形態のフレキシブル配線板も柔軟性、可撓性が優れているとともに、フレキシブル配線板が揺り動かされたとしても配線の断線が生じにくい(配線の断線抑制性に優れる)。よって、本実施形態のフレキシブル配線板は、クラックが生じにくく、例えばチップオンフィルム(COF)等の技術に用いられるフレキシブルプリント配線板に好適である。
【0125】
さらに、本実施形態の硬化性組成物は硬化時に収縮が生じにくいので、本実施形態のフレキシブル配線板は反りが小さい。よって、本実施形態のフレキシブル配線板にICチップを搭載する工程において、ICチップの搭載位置の位置合わせが容易である。さらに、オーバーコート膜の長期絶縁信頼性が優れているため、本実施形態のフレキシブル配線板も長期絶縁信頼性が優れている。
【実施例】
【0126】
以下に実施例及び比較例を示して、本発明をより詳細に説明する。
<ポリエステルジオールの合成>
(参考合成例1)
攪拌装置、温度計及び蒸留装置付きコンデンサーを備えた反応容器に、無水フタル酸983.5g(6.74mol)、1,6-ヘキサンジオール879.2g(7.44mol)を投入し、オイルバスを用いて反応容器の内温を140℃に昇温して、攪拌を4時間継続した。その後、攪拌を継続しながら、モノ-n-ブチル錫オキサイド1.74gを添加した。
【0127】
そして、徐々に反応容器の内温を昇温しながら、真空ポンプによって少しずつ反応容器内の圧力を減圧していき、減圧蒸留により水を反応容器外に除去していった。最終的には、内温を220℃まで昇温し、圧力を133.32Paまで減圧した。15時間経過して水が完全に留去しなくなったのを確認して、反応を終了した。
得られたポリエステルジオールの水酸基価を測定したところ、水酸基価は53.1mgKOH/gであった。
【0128】
(参考合成例2)
攪拌装置、温度計及び蒸留装置付きコンデンサーを備えた反応容器に、無水フタル酸1629.3g(11.0mol)、1,3-プロパンジオール913.1g(12.0mol)を投入し、オイルバスを用いて反応容器の内温を140℃に昇温して、攪拌を4時間継続した。その後、攪拌を継続しながら、モノ-n-ブチル錫オキサイド2.54gを添加した。
【0129】
そして、徐々に反応容器の内温を昇温しながら、真空ポンプによって少しずつ反応容器内の圧力を減圧していき、減圧蒸留により水を反応容器外に除去していった。最終的には、内温を220℃まで昇温し、圧力を133.32Paまで減圧した。15時間経過して水が完全に留去しなくなったのを確認して、反応を終了した。
得られたポリエステルジオールの水酸基価を測定したところ、水酸基価は37.4mgKOH/gであった。
【0130】
(参考合成例3)
攪拌装置、温度計及び蒸留装置付きコンデンサーを備えた反応容器に、無水フタル酸1036.8g(7.0mol)、1,3-プロパンジオール608.8g(4.0mol)を投入し、オイルバスを用いて反応容器の内温を140℃に昇温して、攪拌を4時間継続した。その後、攪拌を継続しながら、モノ-n-ブチル錫オキサイド1.65gを添加した。
【0131】
そして、徐々に反応容器の内温を昇温しながら、真空ポンプによって少しずつ反応容器内の圧力を減圧していき、減圧蒸留により水を反応容器外に除去していった。最終的には、内温を220℃まで昇温し、圧力を133.32Paまで減圧した。15時間経過して水が完全に留去しなくなったのを確認して、反応を終了した。
得られたポリエステルジオールの水酸基価を測定したところ、水酸基価は55.5mgKOH/gであった。
【0132】
<ポリマー(成分c)であるポリウレタンの合成>
(合成例1)
攪拌装置、温度計及びコンデンサーを備えた反応容器に、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(大阪ガスケミカル株式会社製、商品名BPEF)10.7gと、参考合成例1で合成したポリエステルジオール61.52gと、カルボキシ基含有ジオールである2,2-ジメチロールプロピオン酸(東京化成工業株式会社製)6.48gと、溶媒であるγ-ブチロラクトン137.7gとを仕込み、100℃に加熱して全ての原料を溶解した。
【0133】
反応溶液の温度を90℃まで下げた後に、ジイソシアネート化合物であるメチレンビス(4-シクロヘキシルイソシアネート)(住化バイエルウレタン株式会社製のデスモジュール-W(商品名))28.31gを、滴下ロートで30分間かけて滴下した。
145~150℃で8時間反応を行った後に、イソシアナト基のC=O伸縮振動に由来する吸収がほぼ観測されなくなったことを赤外分光法(IR)により確認したら、エタノール1.5g及びジエチレングリコールジエチルエーテル24.3gを反応溶液に滴下し、さらに80℃で3時間反応を行った。これにより、カルボキシ基を有し且つ芳香環濃度が3.1mmol/gで、カルバメート基の濃度が2.02mmol/gであるポリウレタンを含有する溶液(以下、「ポリウレタン溶液A1」と記す。)を得た。
【0134】
得られたポリウレタン溶液A1の粘度は120000mPa・sであった。また、ポリウレタン溶液A1中に含有されるポリウレタンの数平均分子量(Mn)は15000、酸価は25.0mgKOH/gであった。また、ポリウレタン溶液A1中の固形分濃度は40.0質量%であった。
【0135】
(合成例2)
9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン10.7gに代えて、下記式(7)で表される化合物11.4gを用いる点以外は、合成例1の場合と同様の操作を行って、カルボキシ基を有し且つ芳香環濃度が3.1mmol/gで、カルバメート基の濃度が2.00mmol/gであるポリウレタンを含有する溶液(以下、「ポリウレタン溶液A2」と記す。)を得た。
【0136】
【0137】
得られたポリウレタン溶液A2の粘度は120000mPa・sであった。また、ポリウレタン溶液A2中に含有されるポリウレタンの数平均分子量(Mn)は15000、酸価は24.8mgKOH/gであった。また、ポリウレタン溶液A2中の固形分濃度は40.0質量%であった。
【0138】
(合成例3)
9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン10.7gに代えて、下記式(8)で表される化合物11.04gを用いる点以外は、合成例1の場合と同様の操作を行って、カルボキシ基を有し且つ芳香環濃度が3.1mmol/gで、カルバメート基の濃度が2.01mmol/gであるポリウレタンを含有する溶液(以下、「ポリウレタン溶液A3」と記す。)を得た。
【0139】
【0140】
得られたポリウレタン溶液A3の粘度は120000mPa・sであった。また、ポリウレタン溶液A3中に含有されるポリウレタンの数平均分子量(Mn)は15000、酸価は24.9mgKOH/gであった。また、ポリウレタン溶液A3中の固形分濃度は40.0質量%であった。
【0141】
(合成例4)
攪拌装置、温度計及びコンデンサーを備えた反応容器に、ポリカーボネートジオール(株式会社クラレ製のポリカーボネートジオールC-1015N、原料ジオールモル比は1,9-ノナンジオール:2-メチル-1,8-オクタンジオール=15:85、分子量964、水酸基価112.3mgKOH/g、1,9-ノナンジオールの残存濃度2.1質量%、2-メチル-1,8-オクタンジオールの残存濃度9.3質量%)718.2gと、カルボキシ基含有ジオールである2,2-ジメチロールブタン酸(東京化成工業株式会社製)136.6gと、溶媒であるジエチレングリコールエチルエーテルアセテート(ダイセル化学株式会社製)1293gと、を仕込み、90℃に加熱して全ての原料を溶解した。
【0142】
反応溶液の温度を70℃まで下げた後に、ジイソシアネート化合物であるメチレンビス(4-シクロヘキシルイソシアネート)(住化バイエルウレタン株式会社製のデスモジュール-W(商品名))237.5gを、滴下ロートで30分間かけて滴下した。
80℃で1時間、90℃で1時間、100℃で1.5時間反応を行った後に、イソシアナト基のC=O伸縮振動に由来する吸収がほぼ観測されなくなったことを赤外分光法(IR)により確認したら、イソブタノール2.13g及びジエチレングリコールジエチルエーテル39.9gを反応溶液に滴下し、さらに105℃で2時間反応を行った。これにより、カルボキシ基及びカーボネート結合を有し且つ芳香環濃度が0mmol/gで、カルバメート基の濃度が1.66mmol/gであるポリウレタンを含有する溶液(以下、「ポリウレタン溶液A4」と記す。)を得た。
【0143】
得られたポリウレタン溶液A4の粘度は70000mPa・sであった。また、ポリウレタン溶液A4中に含有されるポリウレタンの数平均分子量(Mn)は6200、酸価は40.0mgKOH/gであった。また、ポリウレタン溶液A4中の固形分濃度は45.0質量%であった。
【0144】
(合成例5)
攪拌装置、温度計及びコンデンサーを備えた反応容器に、ポリカーボネートジオール(株式会社クラレ製のポリカーボネートジオールC-1015N、原料ジオールモル比は1,9-ノナンジオール:2-メチル-1,8-オクタンジオール=15:85、分子量964、水酸基価112.3mgKOH/g、1,9-ノナンジオールの残存濃度2.1質量%、2-メチル-1,8-オクタンジオールの残存濃度9.3質量%)248.0gと、カルボキシ基含有ジオールである2,2-ジメチロールブタン酸(東京化成工業株式会社製)47.5gと、ポリカーボネートポリオール及びカルボキシ基含有ジオール以外のポリオールであるトリメチロールエタン(三菱ガス化学株式会社製)2.7gと、溶媒であるγ-ブチロラクトン(三菱ケミカル株式会社製)467.5g及びジエチレングリコールジエチルエーテル82.5gと、を仕込み、100℃に加熱して全ての原料を溶解した。
【0145】
反応溶液の温度を90℃まで下げた後に、ジイソシアネート化合物であるメチレンビス(4-シクロヘキシルイソシアネート)(住化バイエルウレタン株式会社製のデスモジュール-W(商品名))150.4gを、滴下ロートで30分間かけて滴下した。
120℃で8時間反応を行った後に、イソシアナト基のC=O伸縮振動に由来する吸収がほぼ観測されなくなったことを赤外分光法(IR)により確認したら、エタノール(富士フイルム和光純薬株式会社製)1.5gを反応溶液に滴下し、さらに80℃で3時間反応を行った。これにより、カルボキシ基及びカーボネート結合を有し且つ芳香環濃度が0mmol/gで、カルバメート基の濃度が2.56mmol/gであるポリウレタンを含有する溶液(以下、「ポリウレタン溶液A5」と記す。)を得た。
【0146】
得られたポリウレタン溶液A5の粘度は280000mPa・sであった。また、ポリウレタン溶液A5中に含有されるポリウレタンの数平均分子量(Mn)は14000、酸価は40.0mgKOH/gであった。また、ポリウレタン溶液A5中の固形分濃度は45.0質量%であった。
【0147】
(合成例6)
攪拌装置、温度計及びコンデンサーを備えた反応容器に、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(大阪ガスケミカル株式会社製、商品名BPEF)13.59gと、参考合成例2で合成したポリエステルジオール51.66gと、3-メチル-1,5-ペンタンジオールと1,6-ヘキサンジオールのポリカーボネートジオール(株式会社クラレ製、商品名クラレポリオールC-3090)12.91gと、カルボキシ基含有ジオールである2,2-ジメチロールプロピオン酸(東京化成工業株式会社製)5.26gと、溶媒であるγ-ブチロラクトン(三菱ケミカル株式会社製)134.6gと、を仕込み、100℃に加熱して全ての原料を溶解した。
【0148】
反応溶液の温度を90℃まで下げた後に、ジイソシアネート化合物であるメチレンビス(4-シクロヘキシルイソシアネート)(住化バイエルウレタン株式会社製のデスモジュール-W(商品名))25.55gを、滴下ロートで30分間かけて滴下した。
145~150℃で8時間反応を行った後に、イソシアナト基のC=O伸縮振動に由来する吸収がほぼ観測されなくなったことを赤外分光法(IR)により確認したら、エタノール(富士フイルム和光純薬株式会社製)1.5g及びジエチレングリコールジエチルエーテル23.74gを反応溶液に滴下し、さらに80℃で3時間反応を行った。これにより、カルボキシ基を有し且つ芳香環濃度が3.4mmol/gで、カルバメート基の濃度が1.79mmol/gであるポリウレタンを含有する溶液(以下、「ポリウレタン溶液A6」と記す。)を得た。
【0149】
得られたポリウレタン溶液A6の粘度は100000mPa・sであった。また、ポリウレタン溶液A6中に含有されるポリウレタンの数平均分子量(Mn)は14000、酸価は20.0mgKOH/gであった。また、ポリウレタン溶液A6中の固形分濃度は40.0質量%であった。
【0150】
(合成例7)
攪拌装置、温度計及びコンデンサーを備えた反応容器に、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(大阪ガスケミカル株式会社製、商品名BPEF)10.9gと、参考合成例3で合成したポリエステルジオール65.92gと、カルボキシ基含有ジオールである2,2-ジメチロールプロピオン酸(東京化成工業株式会社製)5.26gと、溶媒であるγ-ブチロラクトン(三菱ケミカル株式会社製)134.6gとを仕込み、100℃に加熱して全ての原料を溶解した。
【0151】
反応溶液の温度を90℃まで下げた後に、ジイソシアネート化合物であるメチレンビス(4-シクロヘキシルイソシアネート)(住化バイエルウレタン株式会社製のデスモジュール-W(商品名))26.93gを、滴下ロートで30分間かけて滴下した。
145~150℃で8時間反応を行った後に、イソシアナト基のC=O伸縮振動に由来する吸収がほぼ観測されなくなったことを赤外分光法(IR)により確認したら、エタノール(富士フイルム和光純薬株式会社製)1.5g及びジエチレングリコールジエチルエーテル23.74gを反応溶液に滴下し、さらに80℃で3時間反応を行った。これにより、カルボキシ基を有し且つ芳香環濃度が3.8mmol/gで、カルバメート基の濃度が2.02mmol/gであるポリウレタンを含有する溶液(以下、「ポリウレタン溶液A7」と記す。)を得た。
【0152】
得られたポリウレタン溶液A7の粘度は128000mPa・sであった。また、ポリウレタン溶液A7中に含有されるポリウレタンの数平均分子量(Mn)は13000、酸価は20.0mgKOH/gであった。また、ポリウレタン溶液A7中の固形分濃度は40.0質量%であった。
【0153】
(酸価の測定)
合成したポリウレタンの酸価の測定方法について説明する。ポリウレタン溶液中の溶媒を加熱下で減圧留去してポリウレタンを得て、JIS K0070に規定された電位差滴定法に準拠して酸価を測定した。電位差滴定法による酸価の測定には、例えば、京都電子工業株式会社製の電位差自動滴定装置AT-510と複合ガラス電極C-173を用いることができる。
【0154】
(水酸基価の測定)
合成したポリウレタンの水酸基価の測定方法について説明する。ポリウレタン溶液中の溶媒を加熱下で減圧留去してポリウレタンを得て、JIS K0070に規定された方法に準拠して水酸基価を測定した。測定に使用する機器は、酸価の測定に使用した機器と同じである。
【0155】
(ポリウレタンの数平均分子量の測定)
ポリウレタンの数平均分子量は、GPCで測定したポリスチレン換算の数平均分子量である。GPCの測定条件は、前述の通りである。
(ポリウレタン溶液の粘度の測定)
ポリウレタン溶液の粘度は、コーン/プレート型粘度計(Brookfield社製、型式DV-II+Pro、スピンドルの型番CPE-52)を用いて、温度25.0℃、回転速度5rpmの条件で測定した。なお、測定値は、スピンドルの回転開始から7分経過後に測定した粘度である。また、粘度の測定においては、ポリウレタン溶液を約0.8g使用した。
【0156】
(芳香環濃度について)
芳香環濃度とは、1gの化合物が有する芳香環の個数(モル数)を意味する。例えば、繰り返し単位(構造単位)の分子量が438.5のポリウレタンが繰り返し単位1個当たり芳香環(例えばフェニル基)を4個有しているとすると、このポリウレタン1g中の繰り返し単位の個数は2.28mmolなので、芳香環濃度は9.12mmol/g(4×2.28mmol/1g)となる。
【0157】
芳香環の種類は、環員数3以上の芳香族性を有する環状官能基であれば特に限定されるものではなく、例えば、フェニル基等の単環式芳香族炭化水素基、ビフェニル基、フルオレン基等の多環式芳香族炭化水素基、ナフタレン基、インデニル基等の縮合環式芳香族炭化水素基、ピリジル基等の複素芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0158】
ただし、多環式芳香族炭化水素基、縮合環式芳香族炭化水素基のように、環状構造部位を複数有する官能基の場合は、芳香環の個数は1個ではなく環状構造部位の個数とする。例えば、フルオレン基は環状構造部位であるベンゼン環を2個有するので、繰り返し単位1個当たりフルオレン基を1個有するポリウレタンの場合であれば、ポリウレタンが有している芳香環の個数は繰り返し単位1個当たり2個とする。
【0159】
同様に、ビフェニル基やナフタレン基の場合は芳香環の個数は2個、アントラセン基やフェナントレン基の場合は芳香環の個数は3個、トリフェニレン基やビナフチル基の場合は芳香環の個数は4個とする。
なお、芳香環濃度は、モノマーの仕込み比から算出できるが、1H-NMR、13C-NMR、IR等の分光学的手法によりポリウレタンの構造を決定した後に、1H-NMR分析により得られる積分曲線を用いて、芳香環由来のプロトン数と1個の繰り返し単位由来のプロトン数とを比較することによっても算出できる。
【0160】
<主剤配合物の製造>
ポリウレタン溶液A1 160.0質量部と、シリカ微粒子(日本アエロジル株式会社製、商品名アエロジルR-974)6.3質量部と、硬化促進剤であるメラミン(日産化学工業株式会社製)0.72質量部と、ジエチレングリコールジエチルエーテル8.4質量部とを、三本ロールミル(株式会社井上製作所製、型式S-4 3/4×11)を用いて混合した。そこに、消泡剤(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製、商品名TSA750S)2.0質量部を添加して、スパチュラを用いて混合して、主剤配合物C1を得た(表1を参照)。
主剤配合物C1と同様にして、ポリウレタン溶液A2~A7と上記の他の成分とを、表1に示す配合組成に従って混合して、主剤配合物C2~C7をそれぞれ得た。なお、表1中の数値は「質量部」を表す。
【0161】
【0162】
<硬化剤溶液の製造>
(硬化剤溶液の製造例1)
攪拌機、温度計及びコンデンサーを備えた容器に、上記式(6)で表されるエポキシ化合物(三菱ケミカル株式会社製、グレード名JER604、エポキシ当量120g/eqv)16.85質量部と、ジエチレングリコールジエチルエーテル18.25質量部と、を投入し、攪拌しながら容器の内温を40℃に昇温した後、30分間攪拌を継続した。エポキシ化合物が完全に溶解したことを確認したら、室温まで冷却し、濃度48.0質量%のエポキシ化合物溶液を得た。このエポキシ化合物溶液を硬化剤溶液E1とする。
【0163】
(硬化剤溶液の製造例2)
攪拌機、温度計及びコンデンサーを備えた容器に、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(株式会社ADEKA製、グレード名EP-4088S、エポキシ当量170g/eqv)23.87質量部と、ジエチレングリコールジエチルエーテル18.25質量部と、を投入し、攪拌しながら容器の内温を40℃に昇温した後、30分間攪拌を継続した。エポキシ樹脂が完全に溶解したことを確認したら、室温まで冷却し、濃度56.7質量%のエポキシ樹脂溶液を得た。このエポキシ樹脂溶液を硬化剤溶液E2とする。
【0164】
(硬化剤溶液の製造例3)
攪拌機、温度計及びコンデンサーを備えた容器に、下記式(9)で表されるエポキシ化合物(昭和電工株式会社製、グレード名CDMDG、エポキシ当量129g/eqv)18.11質量部と、ジエチレングリコールジエチルエーテル18.25質量部と、を投入し、攪拌しながら容器の内温を40℃に昇温した後、30分間攪拌を継続した。エポキシ化合物が完全に溶解したことを確認したら、室温まで冷却し、濃度49.8質量%のエポキシ化合物溶液を得た。このエポキシ化合物溶液を硬化剤溶液E3とする。
【0165】
【0166】
(硬化剤溶液の製造例4)
攪拌機、温度計及びコンデンサーを備えた容器に、上記式(5)で表されるエポキシ樹脂(DIC株式会社製、グレード名HP-7200H、エポキシ当量278g/eqv)300gと、γ-ブチロラクトン(三菱ケミカル株式会社製)180g及びジエチレングリコールジエチルエーテル120gと、を投入し、攪拌しながら容器の内温を70℃に昇温した後、30分間攪拌を継続した。エポキシ樹脂が完全に溶解したことを確認したら、室温まで冷却し、濃度50.0質量%のエポキシ樹脂溶液を得た。このエポキシ樹脂溶液を硬化剤溶液E4とする。
【0167】
<硬化性組成物の製造>
主剤配合物C1 88.71質量部と硬化剤溶液E2 4.21質量部とをプラスチック容器に入れ、そこに、溶媒としてジエチレングリコールジエチルエーテル3.5質量部及びジエチレングリコールエチルエーテルアセテート1.5質量部を添加した。スパーテルを用いて室温で5分間攪拌して、硬化性組成物F1を得た。硬化性組成物F1の25℃での粘度は32000mPa・s、チクソトロピー指数は1.15であった。
【0168】
硬化性組成物F1と同様にして、主剤配合物C1~C7と硬化剤溶液E1~E4と溶媒(ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、γ-ブチロラクトン)とを、表2に示す配合組成に従って混合して、硬化性組成物F2~F9をそれぞれ得た(表2を参照)。硬化性組成物F2~F9の25℃での粘度及びチクソトロピー指数は、表2に示す通りである。また、硬化性組成物F1~F9が含有するエポキシ化合物(成分a)、溶剤(成分b)、ポリマー(成分c)、及び微粒子(成分d)の量(単位は質量部)を表2に併せて示す。
【0169】
【0170】
<硬化性組成物の硬化物の評価>
硬化性組成物F1~F9の硬化物からなる試験片を作製し、その引張弾性率及び引張降伏強さを測定した。
バーコーターを用いて、硬化後の膜厚が50μmになるように、硬化性組成物をガラス板等の基材上に塗工した。硬化性組成物が塗工された基材を、室温で10分間保持した後に、温度120℃の熱風循環式乾燥機に120分間入れて、硬化性組成物を硬化させて硬化物とした。
膜状の硬化物を基材から剥離した後に切り出して、幅1cm、長さ5cmの短冊状の試験片を作製した。そして、引張試験の条件の項に前記した通りの条件で、試験片の引張弾性率及び引張降伏強さを測定した。結果を表2に示す。
【0171】
<オーバーコート膜とフレキシブル配線板の評価>
硬化性組成物F1~F9を用いて、オーバーコート膜を有するフレキシブル配線板(実施例1~6及び比較例1~3)を製造し、可撓性、配線の断線抑制性、反り性、及び長期絶縁信頼性の評価を行った。
【0172】
(可撓性の評価)
フレキシブル銅張り積層板(住友金属鉱山株式会社製、グレード名:エスパーフレックス、銅厚8μm、ポリイミド厚38μm)の銅上に、幅75mm、長さ110mmの大きさで、且つ、硬化後の膜厚が15μmになるように、硬化性組成物をスクリーン印刷により塗工した。硬化性組成物が印刷されたフレキシブル銅張り積層板を、室温で10分間保持した後に、温度120℃の熱風循環式乾燥機に60分間入れて、硬化性組成物を硬化させた。
【0173】
フレキシブル銅張り積層板の裏打ちのPETフィルムを剥離した後、カッターナイフで切り出して幅10mmの短冊状の試験片を作製した。硬化物の膜が形成された面が外側になるように試験片を約180度折り曲げ、圧縮機を用いて0.5±0.2MPaの圧力で3秒間圧縮した。そして、試験片の屈曲部を曲げた状態で、顕微鏡を用いて30倍に拡大して硬化物の膜を観察し、クラックの発生の有無を確認した。結果を表3に記す。
【0174】
(配線の断線抑制性の評価)
フレキシブル銅張り積層板(住友金属鉱山株式会社製、グレード名:エスパーフレックスUS、銅厚8μm、ポリイミド厚38μm)をエッチングして、一般社団法人日本電子回路工業会(JPCA)の規格であるJPCA-ET01に記載の微細くし形パターン形状の基板(銅配線幅/銅配線間隔=15μm/15μm)とし、さらにこの微細くし形パターン形状の基板に錫メッキ処理を施してフレキシブル配線板を製造した。
【0175】
次に、このフレキシブル配線板上に硬化性組成物をスクリーン印刷法により塗工した。印刷された硬化性組成物の膜の厚さは、ポリイミド面上の硬化性組成物の膜の乾燥後の厚さが10μmとなるような厚さとした。
こうして得られたフレキシブル配線板を、温度80℃の熱風循環式乾燥機に30分間入れ、その後、温度120℃の熱風循環式乾燥機に120分間入れることにより、フレキシブル配線板上に形成された硬化性組成物の膜を硬化させた。そして、この試験片を用いて、JIS C5016に記載の方法によりMIT試験を行って、フレキシブル配線板の配線の断線抑制性を評価した。MIT試験の試験条件は以下の通りである。
【0176】
試験機:テスター産業株式会社製MITテスターBE202
折り曲げ速度:10回/分
荷重:200g
折り曲げ角度:±90°
つかみ具先端部の半径:0.5mm
上記試験条件でMIT試験を行い、10回折り曲げるごとに目視にて配線のクラックの有無を観察し、クラックが発生した折り曲げ回数により配線の断線抑制性を評価した。結果を表3に記す。
【0177】
(反り性の評価)
#180メッシュポリエステル印刷版を用いてスクリーン印刷を行い、ポリイミド基材(東レ・デュポン社製のカプトン(登録商標)100EN、厚さ25μm)上に硬化性組成物を塗工した。
【0178】
こうして得られた、硬化性組成物が塗工された基材を、温度80℃の熱風循環式乾燥機に30分間入れ、その後、温度120℃の熱風循環式乾燥機に60分間入れることにより、基材上に形成された硬化性組成物の膜を硬化させた。
硬化物の膜を有する基材を、サークルカッターを用いてカットして、硬化物の膜を有する直径50mmの円形の基材(以下「基板」と記す)を得た。得られた基板は、中心付近が凸状又は凹状に反る形の変形を呈する。
【0179】
基板を23℃で1時間放置した後に、基板を下に凸の状態で平板上に載置する。すなわち、反った基板の中心付近の凸状部を下方に向けて平板上に載置し、反った基板の凸状部が平板の水平面に接するようにする。そして、反った基板の周縁部のうち平板の水平面から最も離れた部分の距離と、最も近い部分の距離とを測定し、その平均値を求め、この平均値によって反り性を評価した。結果を表3に記す。表3に示す数値の符号は反りの方向を表し、下に凸の状態で基板を静置した際に、ポリイミド基材に対し硬化物の膜が上側になる場合は「+」、下側になる場合は「-」とした。
【0180】
(長期絶縁信頼性の評価)
フレキシブル銅張り積層板(住友金属鉱山株式会社製、グレード名:エスパーフレックスUS、銅厚8μm、ポリイミド厚38μm)をエッチングして、一般社団法人日本電子回路工業会(JPCA)の規格であるJPCA-ET01に記載の微細くし形パターン形状の基板(銅配線幅/銅配線間隔=15μm/15μm)とし、さらにこの微細くし形パターン形状の基板に錫メッキ処理を施してフレキシブル配線板を製造した。
【0181】
次に、このフレキシブル配線板上に硬化性組成物をスクリーン印刷法により塗工した。印刷された硬化性組成物の膜の厚さは、ポリイミド面上の硬化性組成物の膜の乾燥後の厚さが15μmとなるような厚さとした。
こうして得られたフレキシブル配線板を、温度80℃の熱風循環式乾燥機に30分間入れ、その後、温度120℃の熱風循環式乾燥機に120分間入れることにより、フレキシブル配線板上に形成された硬化性組成物の膜を硬化させた。
【0182】
そして、この試験片に、IMV社製のMIGRATION TESTER MODEL MIG-8600を用いてバイアス電圧60Vを印加し、温度120℃、湿度85%RHの条件で温湿度定常試験を行った。
温湿度定常試験のスタート初期、スタートしてから100時間後、250時間後、400時間後に、フレキシブル配線板の抵抗値をそれぞれ測定した。結果を表3に示す。
【0183】
【0184】
表2に示す結果から分かるように、硬化性組成物F1~F6の硬化物は、引張弾性率及び引張降伏強さが本発明の要件を満たしているのに対して、硬化性組成物F7~F9の硬化物は、引張弾性率及び引張降伏強さが本発明の要件を満たしていない。
そのため、硬化性組成物F1~F6の硬化物からなるオーバーコート膜を有する実施例1~6のフレキシブル配線板は、硬化性組成物F7、F8の硬化物からなるオーバーコート膜を有する比較例1、2のフレキシブル配線板に比べて、配線の断線抑制性が優れているとともに、比較例1~3のフレキシブル配線板と同等以上の可撓性、低反り性及び長期絶縁信頼性を有していた。よって、硬化性組成物F1~F6の硬化物からなる膜は、フレキシブル配線板用の絶縁保護膜として有用である。