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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】抗原受容体
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20240717BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20240717BHJP
   C07K 14/725 20060101ALI20240717BHJP
   C07K 14/525 20060101ALI20240717BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20240717BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20240717BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20240717BHJP
   C12N 15/28 20060101ALI20240717BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240717BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20240717BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
C07K19/00
C07K16/28
C07K14/725
C07K14/525
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/13
C12N15/12
C12N15/28
C12N5/10
A61K35/17
A61P35/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021535460
(86)(22)【出願日】2020-07-31
(86)【国際出願番号】 JP2020029437
(87)【国際公開番号】W WO2021020559
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2023-05-08
(31)【優先権主張番号】P 2019142357
(32)【優先日】2019-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】珠玖 洋
(72)【発明者】
【氏名】三輪 啓志
(72)【発明者】
【氏名】赤堀 泰
(72)【発明者】
【氏名】藤原 弘
【審査官】藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/237022(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/030002(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/112626(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/028374(WO,A1)
【文献】Cancer Cell,2015年,Vol.28,pp.415-428
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 14/00
C07K 16/00
C07K 19/00
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
N末端側から、
抗体又はT細胞受容体の可変領域、膜貫通ドメイン、及びTCRの細胞内ドメインを含むコア領域、
自己切断ペプチドドメイン、並びに
GITRLドメインを順に含む、抗原受容体。
【請求項2】
前記コア領域がさらに共刺激因子の細胞内ドメインを含む、請求項に記載の抗原受容体。
【請求項3】
前記共刺激因子がCD28である、請求項に記載の抗原受容体。
【請求項4】
キメラ抗原受容体又はT細胞受容体である、請求項1~のいずれかに記載の抗原受容体。
【請求項5】
前記可変領域がCD19に対する結合性を有する、請求項のいずれかに記載の抗原受容体。
【請求項6】
請求項1~のいずれかに記載の抗原受容体をコードする、ポリヌクレオチド。
【請求項7】
請求項に記載のポリヌクレオチドを含有する、細胞。
【請求項8】
α/β T細胞、γ/δ T細胞、又はNK細胞である、請求項に記載の細胞。
【請求項9】
請求項に記載の細胞を含有する、医薬組成物。
【請求項10】
がんの治療又は予防用である、請求項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗原受容体等に関する。
【背景技術】
【0002】
がんに対して、手術、放射線治療、化学療法に加え、第4の治療法として免疫療法が注目されている。現在本邦で施行あるいは承認されこれから施行される免疫療法としては、免疫チェックポイント阻害治療薬とキメラ抗原受容体(CAR)遺伝子改変T細胞療法がある。CD19を標的とするCAR-T細胞療法は難治性のB細胞性急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)に対する有効性が期待され2017年以降、米国・欧州などで承認され、本年3月本邦でも承認された。本療法は造血幹細胞移植を含む従来治療に抵抗の難治例に対しても著明な効果が認められるものの、再発・不応例が少なからず存在し、さらなる改善が期待されている。また、今後固形腫瘍に対するCAR-T細胞療法開発も期待されている。
【0003】
CAR-T細胞療法の効果増強のため、免疫チェックポイント阻害薬との併用、腫瘍微小環境の代謝改善などの研究が進んでいるが、細胞内ドメインとしてCD28-CD3ζに共刺激分子4-1BB ligandを結合したCD19 CAR T細胞が持続性に優れ抗腫瘍効果もより強力であるとの報告(非特許文献1)は示唆に富んでいる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Zhao Z. et al. Cancer Cell 28(4): 415-428, 2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、新規な抗原受容体を提供することを課題とする。好ましくは、がんの治療又は予防効果がより高い抗原受容体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題に鑑みて鋭意研究を進めた結果、C末端側に自己切断ペプチドドメインを介してGITRLドメインを含む、抗原受容体、であれば、上記課題を解決できることを見出した。この知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明が完成した。即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0007】
項1. C末端側に自己切断ペプチドドメインを介してGITRLドメインを含む、抗原受容体。
【0008】
項2. 抗体又はT細胞受容体の可変領域、膜貫通ドメイン、並びにTCRの細胞内ドメインを含むコア領域を含む、項1に記載の抗原受容体。
【0009】
項3. 前記コア領域のC末端側に自己切断ペプチドドメインを介してGITRLドメインを含む、項2に記載の抗原受容体。
【0010】
項4. 前記コア領域がさらに共刺激因子の細胞内ドメインを含む、項2又は3に記載の抗原受容体。
【0011】
項5. 前記共刺激因子がCD28である、項4に記載の抗原受容体。
【0012】
項6. キメラ抗原受容体又はT細胞受容体である、項1~5のいずれかに記載の抗原受容体。
【0013】
項7. 前記可変領域がCD19に対する結合性を有する、項2~6のいずれかに記載の抗原受容体。
【0014】
項8. 項1~7のいずれかに記載の抗原受容体をコードする、ポリヌクレオチド。
【0015】
項9. 項9に記載のポリヌクレオチドを含有する、細胞。
【0016】
項10. αβ T細胞、γδ T細胞、又はNK細胞である、項9に記載の細胞。
【0017】
項11. 項10に記載の細胞を含有する、医薬組成物。
【0018】
項12. がんの治療又は予防用である、項11に記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、新規な抗原受容体を提供することができる。この抗原受容体を使用することにより、効果的にがんを治療又は予防することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】28z CARの構造の模式図を示す。
図2】CD19 28z CAR塩基配列を示す。
図3】CD19 28z GITRL CARの塩基配列及びアミノ酸配列を示す。
図4】試験例3の結果(細胞内ドメインがCD28である場合、αβ細胞におけるCARの発現)を示す。CAR発現細胞の割合を%で示す。NGMCは non-gene modified cellを示す(他の図においても同じ)。
図5】試験例3の結果(細胞内ドメインがCD28である場合、γδ細胞におけるCARの発現)を示す。CAR発現細胞の割合を%で示す。
図6】試験例3の結果(細胞内ドメインがGITRである場合、αβ細胞におけるCARの発現)を示す。CAR発現細胞の割合を%で示す。
図7】試験例3の結果(細胞内ドメインがGITRである場合、γδ細胞におけるCARの発現)を示す。CAR発現細胞の割合を%で示す。
図8】試験例4の結果(細胞内ドメインがCD28である場合、αβ細胞におけるIFN-γの発現)を示す。CAR発現細胞の割合、及びCAR発現細胞中のIFN-γ産生細胞の割合を%で示す。
図9】試験例4の結果(細胞内ドメインがCD28である場合、γδ細胞におけるIFN-γの発現)を示す。CAR発現細胞の割合、及びCAR発現細胞中のIFN-γ産生細胞の割合を%で示す。
図10】試験例4の結果(細胞内ドメインがGITRである場合、αβ細胞におけるIFN-γの発現)を示す。CAR発現細胞の割合、及びCAR発現細胞中のIFN-γ産生細胞の割合を%で示す。
図11】試験例4の結果(細胞内ドメインがGITRである場合、γδ細胞におけるIFN-γの発現)を示す。CAR発現細胞の割合、及びCAR発現細胞中のIFN-γ産生細胞の割合を%で示す。
図12】αβ細胞についての試験例3及び4のまとめ(CAR発現ならびにIFN産生)を示す。
図13】γδ細胞についての試験例3及び4のまとめ(CAR発現ならびにIFN産生)を示す。
図14図12及び図13の下段の結果における、GITRL結合型とGITRL非結合型との比(GITRL結合型/GITRL非結合型)の平均値を示す。
図15】試験例5の結果(αβ細胞の結果)を示す。上段 各エフェクター細胞を使用した場合の細胞傷害性を継時的に記録した。中段 5, 20, 40, 60, 80, 100, 120時間の時点での細胞傷害性を示す。下段 標的細胞半分を傷害するのに要した時間を示す。上段及び中段中、縦軸は、xCelligenceにより測定された細胞障害活性(%)を示し、横軸はエフェクター細胞添加からの経過時間を示す。各棒グラフのカラムは、左側から、エフェクター細胞を作用させない場合、CD19 28zを導入したエフェクター細胞を作用させた場合、CD19 28z-GITRLを導入したエフェクター細胞を作用させた場合を示す。
図16】試験例5の結果(γδ細胞の結果)を示す。上段 各エフェクター細胞を使用した場合の細胞傷害性を継時的に記録した。中段 5, 20, 40, 60, 80, 100, 120時間の時点での細胞傷害性を示す。下段 標的細胞半分を傷害するのに要した時間を示す。上段及び中段中、縦軸は、xCelligenceにより測定された細胞障害活性(%)を示し、横軸はエフェクター細胞添加からの経過時間を示す。各棒グラフのカラムは、左側から、エフェクター細胞を作用させない場合、CD19 28zを導入したエフェクター細胞を作用させた場合、CD19 28z-GITRLを導入したエフェクター細胞を作用させた場合、NGM(non-gene modified)γδ細胞を作用させた場合を示す。
図17】試験例6の結果を示す。PBSはCAR-T細胞を投与せずにPBSを投与した場合を示し、NGM-αβTはNGM(non-gene modified)T細胞を投与した場合を示し、CD19 28z-αβTはCD19 28zを導入したT細胞を投与した場合を示し、CD19 28z-GITRL-αβTはCD19 28z-GITRLを導入したT細胞を投与した場合を示す。
図18】試験例7の結果を示す。CD8あるいはCD4分画それぞれにてCD19CAR陽性細胞中のIFN-γ陽性細胞の割合を示す(黄枠、赤文字)。
図19】試験例8の結果を示す。TMRM low 及びTMRM high分画それぞれにてエフェクターメモリーT細胞及びセントラルメモリーT細胞の割合を示す。
図20】試験例9の結果を示す。縦軸は、xCelligenceにより測定された細胞障害活性(%)を示し、横軸はエフェクター細胞添加からの経過時間を示す。
図21】試験例10の結果を示す。縦軸は、末梢血中の輸注細胞の存在比率を示す。
図22】試験例11の結果を示す。細胞療法後38日目、2回目のNALM6細胞接種後10日目マウス末梢血の解析結果である。NALM6/luc 5x10^6個 i.v./マウス、Effector: target比=1:1である。
図23】試験例12の結果を示す。細胞療法後55日目, 2回目白血病細胞NALM6担癌後27日目, 28z-GITRL型CAR-T細胞治療マウス#2.末梢血の解析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0022】
1.定義
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0023】
アミノ酸配列の「同一性」とは、2以上の対比可能なアミノ酸配列の、お互いに対するアミノ酸配列の一致の程度をいう。従って、ある2つのアミノ酸配列の一致性が高いほど、それらの配列の同一性又は類似性は高い。アミノ酸配列の同一性のレベルは、例えば、配列分析用ツールであるFASTAを用い、デフォルトパラメータを用いて決定される。若しくは、Karlin及びAltschulによるアルゴリズムBLAST(KarlinS, Altschul SF.“Methods for assessing the statistical significance of molecular sequence features by using general scoringschemes”Proc Natl Acad Sci USA.87:2264-2268(1990)、KarlinS,Altschul SF.“Applications and statistics for multiple high-scoring segments in molecular sequences.”Proc Natl Acad Sci USA.90:5873-7(1993))を用いて決定できる。このようなBLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている。これらの解析方法の具体的な手法は公知であり、National Center of Biotechnology Information(NCBI)のウェエブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を参照すればよい。また、塩基配列の『同一性』も上記に準じて定義される。
【0024】
本明細書中において、「保存的置換」とは、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基に置換されることを意味する。例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジンといった塩基性側鎖を有するアミノ酸残基同士で置換されることが、保存的な置換にあたる。その他、アスパラギン酸、グルタミン酸といった酸性側鎖を有するアミノ酸残基;グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システインといった非帯電性極性側鎖を有するアミノ酸残基;アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファンといった非極性側鎖を有するアミノ酸残基;スレオニン、バリン、イソロイシンといったβ-分枝側鎖を有するアミノ酸残基;チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジンといった芳香族側鎖を有するアミノ酸残基同士での置換も同様に、保存的な置換にあたる。
【0025】
本明細書中において、「CDR」とは、Complementarity Determining Regionの略であり、相補性決定領域とも称される。CDRとは、イムノグロブリン又はT細胞受容体の可変領域に存在する領域であり、抗体又はT細胞受容体の抗原への特異的な結合に深く関与する領域である。なお、「軽鎖CDR」とはイムノグロブリンの軽鎖可変領域に存在するCDRであり、「重鎖CDR」とはイムノグロブリンの重鎖可変領域に存在するCDRのことを意味する。T細胞受容体においても、α鎖、β鎖、γ鎖、δ鎖等があり、これらのCDRについても同様である。
【0026】
本明細書中において、「可変領域」とは、CDR1~CDR3(以下、単に「CDRs1-3」という)を含む領域のことを意味する。これらのCDRs1-3の配置順序は特に限定はされないが、好ましくは、N末端側からC末端側の方向に、CDR1、CDR2、及びCDR3の順か、若しくはこの逆の順に、連続又は後述するフレームワーク領域(FR)と称される他のアミノ酸配列を介して、配置された領域を意味する。なお、「重鎖可変領域」とは、イムノグロブリンにおいて、上述の重鎖CDRs1-3が配置された領域であり、「軽鎖可変領域」とは、イムノグロブリンにおいて、上述の軽鎖CDRs1-3が配置された領域である。T細胞受容体においても、α鎖、β鎖、γ鎖、δ鎖等があり、これらのCDRについても同様である。
【0027】
各可変領域の上記CDR1-3以外の領域は、上述するようにフレームワーク領域(FR)と称される。特に可変領域のN末端と上記CDR1との間の領域をFR1、CDR1とCDR2との間の領域をFR2、CDR2とCDR3との間の領域をFR3、CDR3と可変領域のC末端との間をFR4とそれぞれ定義される。
【0028】
2.抗原受容体
本発明は、その一態様において、C末端側に自己切断ペプチドドメインを介してGITRLドメインを含む、抗原受容体(本明細書において、「本発明の抗原受容体」と示すこともある。)に関する。以下に、これについて説明する。
【0029】
抗原受容体としては、特に制限されず、例えばキメラ抗原受容体(CAR)が挙げられる。キメラ抗原受容体とは、代表的には、モノクローナル抗体可変領域の軽鎖(VL)と重鎖(VH)を直列に結合させた単鎖抗体(scFv)を、抗原に対する結合性を担う領域としてN末端側に有し、さらにT細胞受容体(TCR)ζ鎖をC末端側に持つキメラ蛋白である。CARを発現させたT細胞は、CAR-T細胞と呼ばれる。
【0030】
また、抗原受容体としては、キメラ抗原受容体に限られず、他に、例えばT細胞受容体が挙げられる。
【0031】
本発明の抗原受容体は、C末端側に自己切断ペプチドドメインを介してGITRLドメインを含む限り、特に制限されない。これにより、抗原受容体の発現効率や、これを含むT細胞の細胞傷害活性をより高めることが可能になる。本発明の抗原受容体を発現させることにより、自己切断ペプチドドメインの切断により、細胞内で遊離状態のGITRLを発現させることができる。
【0032】
本明細書において「自己切断ペプチド」とは、ペプチド配列自体の中の2つのアミノ酸残基の間に生じる切断活性を伴うペプチド配列を意味する。自己切断ペプチドとしては、例えば2Aペプチド又は2A様ペプチドが例示される。例えば2Aペプチド又は2A様ペプチドでは、切断はこれらのペプチド上のグリシン残基とプロリン残基との間で生じる。これは翻訳の間に、グリシン残基とプロリン残基との間の正常なペプチド結合の形成が行われない「リボソームスキップ機構」によって生じ、下流の翻訳には影響することはない。リボソームスキップ機構は当分野において知られており、そして1分子のメッセンジャーRNA(mRNA)によりコードされる複数のタンパク質の発現のために使用される。本発明で使用する自己切断ペプチドは、ウイルスの2Aペプチド又はそれと同等の機能を有する2A様ペプチドから得ることが可能である。例えば、口蹄疫ウイルス(FMDV)由来の2Aペプチド(F2A)、ウマ鼻炎Aウイルス(ERAV)由来の2Aペプチド(E2A)、Porcine teschovirus(PTV-1)由来の2Aペプチド(P2A)及びThosea asigna virus(TaV)由来の2Aペプチド(T2A)から成る群から選択することができる。自己切断ペプチドドメインは、その活性が著しく損なわれない限り、適宜変異が導入されていてもよい。
【0033】
GITRLドメインは、GITRLのアミノ酸配列からなるドメインであり、この限りにおいて特に制限されない。
【0034】
GITRLとしては、例えばヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ等の種々の哺乳類由来のGITRLを採用することができる。中でも、対象生物(例えばヒト)由来のGITRLが好ましい。
【0035】
種々の生物種由来GITRLのアミノ酸配列は公知である。具体的には、例えば、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質等が挙げられる。また、GITRLは、N末シグナルペプチドが欠失したものであってもよい。
【0036】
GITRLは、その受容体であるGITRに対する結合能を有する限りにおいて、アミノ酸の置換、欠失、付加、挿入等の変異を有していてもよい。変異としては、GITRに対する結合能がより損なわれ難いという観点から、好ましくは置換、より好ましくは保存的置換が挙げられる。
【0037】
GITRLのアミノ酸配列の好ましい具体例としては、下記(a)に記載するアミノ酸配列及び下記(b)に記載するアミノ酸配列:
(a)配列番号4のいずれかに示されるアミノ酸配列、及び
(b)配列番号4のいずれかに示されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有し、且つGITRに対する結合能を有するタンパク質を構成するアミノ酸配列
からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0038】
上記(b)において、同一性は、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、特に好ましくは99%以上である。
【0039】
GITRに対する結合能の有無は、公知の方法に従って又は準じて判定することができる。なお、GITRに対する結合能を有するとは、変異前のGITRLの結合能に対して、例えば50%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上の結合能を有することである。
【0040】
上記(b)に記載するアミノ酸配列の一例としては、例えば
(b’)配列番号4のいずれかに示されるアミノ酸配列に対して1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、付加、又は挿入されたアミノ酸配列であって、且つGITRに対する結合能を有するタンパク質を構成するアミノ酸配列が挙げられる。
【0041】
上記(b’)において、複数個とは、例えば2~15個であり、好ましくは2~10個であり、より好ましくは2~5個であり、よりさらに好ましくは2又は3個である。
【0042】
本発明の抗原受容体は、通常、抗原に対する結合性を担う領域(抗原結合性領域)を含む。抗原としては、特に制限されず、例えばがん細胞又はT細胞の表面上に発現している各種タンパク質又は複合体を挙げることができる。抗原として、具体的には、例えばCD19、GD2、GD3、CD20、CEA、HER2、EGFR、type III mutant EGFR、CD38、BCMA、MUC-1、PSMA、WT1、cancer testis antigen(例えばNY-ESO-1、MAGE-A4等)、mutation peptide(例えばk-ras、h-ras、p53等)、hTERT、PRAM、TYRP1、メソテリン、PMEL、ムチン等、さらにはこれらの断片とMHCとの複合体(pMHC)等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはCD19、GD2等が挙げられ、より好ましくはCD19が挙げられる。抗原結合性領域は、通常、抗原に対する抗体又はT細胞受容体のCDR(例えば、抗体のCDRであれば、重鎖CDR1、重鎖CDR2、重鎖CDR3、軽鎖CDR1、軽鎖CDR2、及び軽鎖CDR3)の内の1つ以上、好ましくは2つ、3つ、4つ、5つ以上、より好ましくは6つ全てを有する。抗原結合性領域は、より好ましくは抗原に対する抗体又はT細胞受容体の可変領域(抗体の場合であれば、例えば重鎖可変領域及び/又は軽鎖可変領域)を含む。
【0043】
抗原結合性領域は、scFv構造を採ることが好ましい。重鎖可変領域と軽鎖可変領域とを繋ぐリンカーは、抗原受容体としての機能が維持される限り特に制限されず、任意である。リンカーとしては、好ましくはGSリンカー(代表的にはGGGGS(配列番号5)を構成単位とする繰返し配列を含むリンカー)が挙げられる。リンカーのアミノ酸残基数は、例えば5~30、好ましくは10~20、より好ましくは15である。重鎖可変領域と軽鎖可変領域との配置関係は特に制限されず、N末端側が軽鎖可変領域である態様と、N末端側が重鎖可変領域である場合のいずれでも採用可能である。該配置関係は、好ましくは前者である。
【0044】
本発明の抗原受容体は、通常、抗体又はT細胞受容体の可変領域(例えば、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含むscFvドメイン)、膜貫通ドメイン、並びにTCRの細胞内ドメインを含むコア領域を含む。該コア領域においては、通常、N末端側から、可変領域、膜貫通ドメイン、TCRの細胞内ドメインが順に、直接又は他のドメインを介して配置される。
【0045】
本発明の抗原受容体がコア領域を含む場合、好ましくはコア領域のC末端側に自己切断ペプチドドメインを介してGITRLドメインを含む。
【0046】
膜貫通ドメインの種類は、抗原受容体の機能を阻害しない限り制限されない。例えば、T細胞等で発現するCD28、CD3ζ、CD4、CD8α等を用いることができる。これらの中でも、好ましくはCD28が挙げられる。これらの膜貫通ドメインは、抗原受容体の機能を阻害しない限り、適宜変異が導入されていてもよい。
【0047】
TCRの細胞内ドメインは、例えば、TCRζ鎖とも呼ばれるCD3などに由来する細胞内ドメインであり得る。CD3は、抗原受容体の機能を阻害しない限り、適宜変異が導入されていてもよい。CD3に変異を導入する場合は、ITAM(immunoreceptor tyrosine-based activation motif)が含まれるよう行うことが好ましい。
【0048】
本発明の抗原受容体は、可変領域と膜貫通ドメインとの間にスペーサー配列が配置されていることが好ましい。スペーサー配列の長さ及びそれを構成するアミノ酸残基の種類は、抗原受容体の機能を阻害しない限り制限されない。例えば、スペーサー配列は、10個~200個程度のアミノ酸残基となるように設計することができる。スペーサー配列としては、軽鎖の定常領域の配列を採用することが好ましい。
【0049】
本発明の抗原受容体においては、コア領域がさらに共刺激因子の細胞内ドメインを含むことが好ましい。共刺激因子の細胞内ドメインは、T細胞などが有する共刺激因子に由来する細胞内ドメインであればよく特に限定はされない。例えば、OX40、4-1BB、GITR、CD27、CD278及びCD28等からなる群より選択される1種以上を適宜選択して使用することができる。これらの中でも、GITRLドメインと組合わせることによる効果が顕著に優れているという観点から、好ましくはCD28が挙げられる。これらの共刺激因子の細胞内ドメインは、抗原受容体の機能を阻害しない限り、適宜変異が導入されていてもよい。共刺激因子の細胞内ドメインの位置は、膜貫通ドメインのC末端側である限り特に制限されず、TCRの細胞内ドメインのN末端側及びC末端側のいずれであってもよい。
【0050】
本発明の特に好ましい一態様においては、N末端側から、可変領域、スペーサー配列、膜貫通ドメイン、共刺激因子の細胞内ドメイン、TCRの細胞内ドメイン、自己切断ペプチドドメイン、GITRLドメインが順に、直接又は他のドメインを介して配置される。
【0051】
本発明の抗原受容体においては、コア領域のC末端側に、自己切断ペプチドドメインを介して4-1BBLドメイン、ICOSLドメイン等の各種リガンドドメインを含むことができる。
【0052】
本発明の抗原受容体は、1種のポリペプチドからなる分子であってもよいし、2種以上のポリペプチドの複合体からなる分子であってもよい。また、本発明の抗原受容体は、ポリペプチド又はその複合体からなる分子であってもよいし、ポリペプチド又はその複合体に、他の物質(例えば蛍光物質、放射性物質、無機粒子等)が連結してなるものであってもよい。
【0053】
本発明の抗原受容体は、化学修飾されたものであってもよい。本発明の抗原受容体を構成するポリペプチドは、C末端がカルボキシル基(-COOH)、カルボキシレート(-COO)、アミド(-CONH2)またはエステル(-COOR)の何れであってもよい。ここでエステルにおけるRとしては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチルなどのC1-6アルキル基;例えば、シクロペンチル、シクロヘキシルなどのC3-8シクロアルキル基;例えば、フェニル、α-ナフチルなどのC6-12アリール基;例えば、ベンジル、フェネチルなどのフェニル-C1-2アルキル基;α-ナフチルメチルなどのα-ナフチル-C1-2アルキル基などのC7-14アラルキル基;ピバロイルオキシメチル基などが用いられる。本発明の抗原受容体を構成するポリペプチドは、C末端以外のカルボキシル基(またはカルボキシレート)が、アミド化またはエステル化されていてもよい。この場合のエステルとしては、例えば上記したC末端のエステルなどが用いられる。さらに、本発明の抗原受容体を構成するポリペプチドには、N末端のアミノ酸残基のアミノ基が保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイルなどのC1-6アシル基など)で保護されているもの、生体内で切断されて生成し得るN末端のグルタミン残基がピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基(例えば-OH、-SH、アミノ基、イミダゾール基、インドール基、グアニジノ基など)が適当な保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイル基などのC1-6アシル基など)で保護されているものも包含される。
【0054】
本発明の抗原受容体は、公知のタンパク質タグ、シグナル配列等のタンパク質又はペプチドが付加されたものであってもよい。タンパク質タグとしては、例えばビオチン、Hisタグ、FLAGタグ、Haloタグ、MBPタグ、HAタグ、Mycタグ、V5タグ、PAタグ、蛍光タンパク質タグ等が挙げられる。
【0055】
本発明の抗原受容体は、酸または塩基との薬学的に許容される塩の形態であってもよい。塩は、薬学的に許容される塩である限り特に限定されず、酸性塩、塩基性塩のいずれも採用することができる。例えば酸性塩の例としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩; 酢酸塩、プロピオン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩等の有機酸塩; アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩等のアミノ酸塩等が挙げられる。また、塩基性塩の例として、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩; カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。
【0056】
本発明の抗原受容体は、溶媒和物の形態であってもよい。溶媒は、薬学的に許容されるものであれば特に限定されず、例えば水、エタノール、グリセロール、酢酸等が挙げられる。
【0057】
抗原受容体及びそれを発現するCAR-T細胞を製造する技術は公知である。これらは、公知の方法に従って又は準じて、製造することができる。
【0058】
3.ポリヌクレオチド
本発明は、その一態様において、本発明の抗原受容体をコードする、ポリヌクレオチド(本明細書において、「本発明のポリヌクレオチド」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0059】
本発明のポリヌクレオチドは、本発明の抗原受容体のコード配列以外に、他の配列を含んでいてもよい。本発明のポリヌクレオチドは、本発明の抗原受容体を発現可能な状態で含むことが好ましい。他の配列としては、プロモーター配列、エンハンサー配列、リプレッサー配列、インスレーター配列、複製基点、レポータータンパク質(例えば、蛍光タンパク質等)コード配列、薬剤耐性遺伝子コード配列などが挙げられる。また、本発明のポリヌクレオチドは、直鎖状のポリヌクレオチドであってもよいし、環状のポリヌクレオチド(ベクターなど)であってもよい。ベクターは、プラスミドベクター、又はウイルスベクター(例えば、アデノウイルス、又はレトロウイルス)であり得る。また、ベクターは、例えば、クローニング用ベクター又は発現用ベクターであり得る。発現用ベクターとしては、大腸菌、又は放線菌等の原核細胞用のベクター、或いは、酵母細胞、昆虫細胞、又は哺乳類細胞等の真核細胞用のベクターを挙げることができる。
【0060】
本発明のポリヌクレオチドは、DNA、RNAのみならず、これらに、次に例示するように、公知の化学修飾が施されたものも包含する。ヌクレアーゼなどの加水分解酵素による分解を防ぐために、各ヌクレオチドのリン酸残基(ホスフェート)を、例えば、ホスホロチオエート(PS)、メチルホスホネート、ホスホロジチオネート等の化学修飾リン酸残基に置換することができる。また、各リボヌクレオチドの糖(リボース)の2位の水酸基を、-OR(Rは、例えばCH3(2´-O-Me)、CH2CH2OCH3(2´-O-MOE)、CH2CH2NHC(NH)NH2、CH2CONHCH3、CH2CH2CN等を示す)に置換してもよい。さらに、塩基部分(ピリミジン、プリン)に化学修飾を施してもよく、例えば、ピリミジン塩基の5位へのメチル基やカチオン性官能基の導入、あるいは2位のカルボニル基のチオカルボニルへの置換などが挙げられる。さらには、リン酸部分やヒドロキシル部分が、例えば、ビオチン、アミノ基、低級アルキルアミン基、アセチル基等で修飾されたものなどを挙げることができるが、これに限定されない。また、「ポリヌクレオチド」の語は、天然の核酸だけでなく、BNA(Bridged Nucleic Acid)、LNA(Locked Nucleic Acid)、PNA(Peptide Nucleic Acid)等の何れも包含する。
【0061】
4.細胞
本発明は、その一態様において、本発明のポリヌクレオチドを含有する、細胞(本明細書において、「本発明の細胞」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0062】
本発明の細胞の由来細胞は、特に制限されない。本発明の細胞を、本発明の抗原受容体の製造において使用する目的であれば、由来細胞としては、タンパク質発現に使用できる細胞(例えば、昆虫細胞、真核細胞、哺乳類細胞等)等が挙げられる。
【0063】
本発明の細胞は好ましくはT細胞(例えば、αβ T細胞、γδ T細胞等)又はNK細胞である。これらの細胞は、好ましくは本発明の抗原受容体を発現する細胞であり、より具体的な態様においては、これらの細胞は、本発明の抗原受容体が細胞膜上に発現しており、好ましくは本発明の抗原受容体が抗原結合性領域を細胞膜外に露出した状態で発現している。
【0064】
抗原受容体を発現するT細胞等は抗原結合性領域で抗原を認識した後、その認識シグナルをT細胞等の内部に伝達し、細胞傷害活性を惹起させるシグナルを作動させ、これに連動して該細胞が抗原を発現する他の細胞または組織に対して攻撃または細胞傷害活性を発揮する。
【0065】
このような機能を発揮する細胞がCTLである場合、キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞)と呼ばれる。NK細胞などの細胞傷害活性を発揮する可能性を有する細胞もキメラ抗原受容体T細胞と同様に、抗原結合性領域が抗原と結合することにより、細胞傷害活性を発揮できる。従って、抗原受容体をコードするポリヌクレオチドを含む宿主細胞(特に、細胞傷害活性を有する宿主細胞)は、医薬組成物の有効成分として有用である。
【0066】
このようなT細胞等は、がん組織(腫瘍組織)を特異的に認識するため、がん等の治療又は予防に有用である。がんの種類は特に制限されず、固形がん及び血液がんを含む。固形がんとしては、例えば、肺がん、大腸がん、卵巣がん、乳がん、脳腫瘍、胃がん、肝がん、舌がん、甲状腺がん、腎臓がん、前立腺がん、子宮がん、骨肉腫、軟骨肉腫、及び横紋筋肉腫を挙げることができる。
【0067】
本発明の細胞は、本発明のポリヌクレオチドを細胞に導入することによって得ることができる。必要に応じて、本発明のポリヌクレオチドを含む細胞を濃縮してもよいし、特定のマーカー(CD8等のCD抗原)を指標として濃縮してもよい。
【0068】
5.医薬組成物
本発明は、その一態様において、本発明のT細胞又はNK細胞を含有する、医薬組成物(本明細書において、「本発明の医薬組成物」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0069】
医薬組成物中の上記細胞の含有量は、対象とする疾患(例えば、固形がん)の種類、目的とする治療効果、投与方法、治療期間、患者の年齢、及び患者の体重等を考慮して適宜設定することができる。医薬組成物中の細胞の含有量は、例えば、1細胞/mL~104細胞/mL程度とすることができる。
【0070】
医薬組成物の投与形態は、所望の効果が得られる限り特に制限されず、経口投与、及び非経口投与(例えば静脈注射、筋肉注射、皮下投与、直腸投与、経皮投与、局所投与)のいずれかの投与経路でヒトを含む哺乳類に投与することができる。有効成分は細胞であるため、好ましい投与形態は非経口投与であり、より好ましくは静脈注射である。経口投与および非経口投与のための剤形およびその製造方法は当業者に周知であり、本発明による細胞を、薬学的に許容される坦体等と混合等することにより、常法に従って製造することができる。
【0071】
非経口投与のための剤型は、注射用製剤(例えば、点滴注射剤、静脈注射剤、筋肉注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤)、外用剤(例えば、軟膏剤、パップ剤、ローション剤)、坐剤吸入剤、眼剤、眼軟膏剤、点鼻剤、点耳剤、リポソーム剤等が挙げられる。例えば、注射用製剤は、抗体又は細胞を注射用蒸留水に溶解又は懸濁して調製し、必要に応じて溶解補助剤、緩衝剤、pH調整剤、等張化剤、無痛化剤、保存剤、及び安定化剤等を添加することができる。医薬組成物は、用時調製用の凍結乾燥製剤とすることもできる。
【0072】
医薬組成物は、疾患の治療又は予防に有効な他の薬剤を更に含有していてもよい。また、医薬組成物は、必要に応じて殺菌剤、消炎剤、細胞賦活剤、ビタミン類、及びアミノ酸等の成分を配合することもできる。
【0073】
医薬組成物の製剤化に用いる担体には、当該技術分野において通常用いられる賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤や、必要により安定化剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤、増量剤、湿潤化剤、表面活性化剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、無痛化剤等を用いることができる。
【0074】
医薬組成物を用いて治療又は予防する疾患の種類は、その治療又は予防が達成できる限り特に限定されない。具体的な対象疾患として、例えば、腫瘍が挙げられる。腫瘍の種類は特に制限されず、固形がん及び血液がんを含む。固形がんとしては、例えば、肺がん、大腸がん、卵巣がん、乳がん、脳腫瘍、胃がん、肝がん、舌がん、甲状腺がん、腎臓がん、前立腺がん、子宮がん、骨肉腫、軟骨肉腫、及び横紋筋肉腫を挙げることができる。
【0075】
医薬組成物の投与対象(被験体)は、例えば、上記疾患に罹患した動物または罹患する可能性がある動物である。「罹患する可能性がある」とは、公知の診断方法にて決定することができる。動物とは、例えば、哺乳類動物であり、好ましくはヒトである。
【0076】
医薬組成物の投与量は、例えば、投与経路、疾患の種類、症状の程度、患者の年齢、性別、体重、疾患の重篤度、薬物動態および毒物学的特徴等の薬理学的知見、薬物送達系の利用の有無、並びに他の薬物の組合せの一部として投与されるか、など様々な因子を元に、臨床医師により決定することができる。医薬組成物の投与量は、有効成分が細胞の場合、104細胞/kg(体重)~109細胞/kg(体重)程度とすることができる。医薬組成物の投与スケジュールも、その投与量と同様の要因を勘案して決定することができる。例えば、上記の1日当たりの投与量で、1日~1月に1回投与することできる。
【実施例
【0077】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0078】
試験例1.CARコンストラクトの構築
Anti-CD19 (FMC-63)-28zあるいはAnti-CD19 (FMC-63)-28z-GITRLのCARコンストラクトをpMS3に組み替えてプラスミドベクターを作成し、FuGENE(Promega)を用いてPlatA細胞(Cell Biolabs)に導入しレトロウイルスを作成した。CD19 28z CAR及びCD19 28z GITRL CARの構造を図1に示す。また、CD19 28z CAR塩基配列(配列番号1)を図2に示し、CD19 28z GITRL CARの塩基配列(配列番号2)及びアミノ酸配列(配列番号3)を図3に示す。
【0079】
Anti-CD19 (FMC-63)-zGあるいはAnti-CD19 (FMC-63)-zG-GITRLのCARコンストラクトについても同様にレトロウイルスを作成した。すなわち、CD19 28z CAR及びCD19 28z GITRL CARのN末側-CD28細胞内ドメイン-CD3ζドメインからなる領域を、N末側-CD3ζドメイン-GITRドメインからなる領域に置き換える以外は、同様にしてレトロウイルスを作成した。
【0080】
試験例2.エフェクター細胞の作製
上記レトロウイルスを固相化した上にαβ細胞(OKT3 2μgとレトロネクチン 10μgを固相化した12 well plateにFicoll-Paqueで分離した末梢血単核球を0.6%非働化ヒト血漿と終濃度600IU/mlのIL-2を加えたGT-T551にて培養し、day 4に回収)、γδ細胞(末梢血単核球を新規ビスホスフォネート製剤(PTA)を含むYM-ABにて培養し、IL-7、IL-15をそれぞれ25ng/ml添加し、day 4に回収)に感染させた。
【0081】
試験例3.CARの発現の確認
CARの発現をフローサイトメーターにて測定した。抗ヒトκ抗体(rabbit IgG)で反応後、Alexa488標識抗rabbit IgG (goat polyclonal) (Invitrogen)で反応、さらにαβ細胞ではAPC/Cy7標識抗ヒトCD8(BD)とAPC標識抗ヒトCD4抗体(Biolegend)による染色を追加、γδ細胞ではPE標識抗ヒトVδ2抗体による染色を追加しFACS CANTOにて測定を行った。αβ細胞ではCD4ならびにCD8各分画、γδ細胞ではVδ2陽性分画におけるCAR分子発現(抗ヒトκ抗体で認識)率を算定した。
【0082】
同時に遺伝子導入したCD19 28zとCD19 28z-GITRLでは、αβ細胞(5回施行)、γδ細胞(4回施行)のいずれにおいてもCD19 28z-GITRLを導入した細胞の方が、CD19 CARの発現が高い(図4及び5、並びに図12及び13の上段)。
【0083】
細胞内ドメインがzGであるCD19 zGとCD19 zG-GITRLについてもαβ細胞、γδ細胞でそれぞれ1回遺伝子導入実験を行ったが、28zの場合と同じようにGITRL結合型の方がCD19 CARの発現が高い(図6及び7、並びに図12及び13の上段 右端)。
【0084】
試験例4.エフェクター細胞による標的細胞の認識
CD19陽性B-急性リンパ性白血病細胞株NALM6(CD19陰性のK562をコントロールとして)とAPC標識抗ヒトCD107a抗体(BD)添加後4時間共培養した後、CAR-T細胞表面抗原を上記と同様の方法で染色し、Cytofix/Cytoperm(BD)処理後細胞内のサイトカインをV450標識抗ヒトIFN-γ及びPE/Cy7標識抗ヒトTNF-αで染色し、FACS CANTO IIで測定した。αβ細胞ではCD4ならびにCD8各分画、γδ細胞ではVδ2陽性分画中のCAR陽性細胞のCD107a、IFN-γ、TNF-α陽性率を算定した。
【0085】
標的細胞株(NALM6)との4時間共培養後のCD19CAR陽性細胞中のIFN-γ産生細胞の割合はαβ細胞(28z: 図8, zG:図10)においても、γδ細胞(28z: 図9, zG: 図11)においてもGITRL結合型の方が高い傾向であったが、有意な差はなかった(図12, 13 中段)。しかし、IFN-γ産生CD19CAR陽性細胞はGITRL結合型導入細胞(αβ細胞、γδ細胞ともに)の方が多いことになる(図12, 13 下段)。平均してGITRL結合型導入細胞が約2倍であった。(図14
【0086】
試験例5.エフェクター細胞による細胞傷害作用の確認
NALM6との共培養によるリアルタイムCTLアッセイ(xCELLigence)で、経時的な細胞傷害活性を測定した。具体的には、Tethering buffer(カタログ番号8718617)で最終濃度4μg/mLに調整した抗CD9抗体(ACEA Bioscience社kit, カタログ番号8710247)をE-Plate 16の各wellに固相化し3時間後にPBSで洗浄して、RPMI1640 10%FCS 添加培養液100μlに懸濁した標的細胞NALM6 6.0x10^4を入れてクリーンベンチ内室温にて0.5時間静置したのち0.5% CO2, 37℃培養器内で24時間以上培養し、各エフェクター細胞6x10^4を入れてクリーンベンチ内室温にて0.5時間静置した後、さらにCO2, 37℃培養器内で5-7日間追加培養して経時的な電気抵抗値の変化をNALM6細胞に対する細胞傷害性に換算して記録した(xCELLigence法、ACEA Bioscience社)。エフェクターとして、CD19 28zCAR導入αβ-T 細胞あるいはγδ-T細胞、GITRL共発現CD19 28zCAR導入αβ-T 細胞あるいはγδ-T細胞を使用した。
【0087】
120時間に及ぶリアルタイムCTLアッセイでは、CD19 28zに比べCD19 28z-GITRLを導入した細胞の方がαβ細胞、γδ細胞の両者においてより強力に細胞傷害活性を示した。すなわち、細胞傷害活性の最大到達度(magnitude)、最大細胞傷害活性の持続時間(durability/persistence)、最大細胞傷害活性の1/2に達するまでの時間で示される迅速性(quickness)の何れにおいてもCD19 28z-GITRLの方が優位であった (図15及び16) 。
【0088】
試験例6.抗腫瘍効果の検討
免疫不全(NOG)マウスに移植したNALM6細胞に対する抗腫瘍効果を検討した。NOGマウスに2Gyの放射線照射後、1x106個のルシフェラーゼ遺伝子導入NALM6を移植し生着後、5x106個の各CD19 CAR-T細胞を輸注し、経時的にIVISイメージングで撮影し、NALM6細胞の動態を観察した。具体的には、次のようにして行った。
【0089】
6週齢メスの免疫不全マウス(NOD/Shi-scid/IL-2Rgamma^null)に2Gyの全身放射線照射(TBI)を実施直後にluciferase遺伝子導入CD19陽性白血病細胞(NALM6/Luc)をそれぞれ1x10^6個/mouseの量で尾静脈から注射した。(on day -7)1週間後(on day 0)、PBS 200μL/mouse (無治療群;2匹)、CD19 CAR遺伝子導入をおこなっていない同一ドナー由来Tリンパ球(NGM-αβ Tリンパ球治療群;5x10^6個/mouse)(2匹)それぞれ尾静脈から注射したマウス(どちらも陰性コントロール)、および従来型CD19-28z型CAR遺伝子導入αβ Tリンパ球を同様に静注した対照群(3匹)と目的のCD19 28z-GITRL型CAR遺伝子導入αβ Tリンパ球を同様に静注した治療群(3匹)を、PerkinelmerのIn vivo imaging system (IVIS)を用いてLuciferin投与により発光する残存白血病細胞量を経時的にモニターした。
【0090】
図17に示す様に、無治療群(PBS処理群)は3週間以内に腫瘍死し、遺伝子改変していないTリンパ球投与群(NGM-T投与群)も4週間以内に腫瘍死した。これに対して、28z型CAR-T投与群も28z-GITRL型CAR-T投与群も、投与後1週間で白血病細胞は排除され以後7週間後まで白血病再燃は見られなかった。しかし、28z-CAR-T治療群は28z-GITRL型CAR-T治療群に比較して生存期間が短い傾向にあった。
【0091】
試験例7.IFN-γ産生の解析
CD19陽性白血病細胞株NALM6 2x105個とCD19 28z CAR T細胞またはGITRL共発現CD19 28z CAR T細胞 2x105個を4時間共培養したのち、各エフェクター細胞のNALM6反応性IFN-γ産生をフローサイトメーター(BD FACSCanto II)で測定した。
【0092】
結果を図18に示す。GITRL共発現CD19 CAR-T (αβ)細胞では標的白血病細胞(NALM6)と共培養後の、IFN-γ 産生が増大した。
【0093】
試験例8.セントラルメモリの解析
CD19 28z CAR或いはGITRL共発現CD19 28z CARを導入した CD8陽性αβ T細胞の、 細胞分化段階を示すCD45RA抗体、CD62L抗体に加えて、ミトコンドリア膜電位を示すTMRM(tetramethylrhodamine methyl ester)染色を行った。
【0094】
結果を図19に示す。28z CAR導入CD8陽性T細胞に比較して、28z-GITRL CAR導入CD8陽性T細胞群に、免疫記憶細胞群(CD62L-CD45RA-;エフェクターメモリーT細胞(TEM)及びCD62L+CD45RA-;セントラルメモリーT細胞(TCM))の増加が見られた。その傾向は、TCMでより顕著であった。加えて、これら免疫記憶細胞は、ミトコンドリア膜電位の上昇を伴い、そのエネルギーを酸化的リン酸化に依存する代謝特性からも免疫記憶細胞であることが確認された。これらの特性は、患者体内へ輸注されたCAR T細胞の長期間の生着に寄与すると考えられており、GITRL共発現型CAR遺伝子の優位性を示す。
【0095】
試験例9.連続傷害活性の解析
CEA陽性のBxPC-3細胞及びCEA陰性のMIA Paca-2細胞7000個をE-plateにて培養し、そこにγδ細胞より作製したeffector細胞21000個を入れて共培養を行い24時間での細胞傷害を継時的に記録した。共培養終了後、effector細胞を回収し新たな標的細胞との24時間の共培養を行い継時変化を記録した。同様にして3回目の共培養を行い継時変化を記録した。
【0096】
結果を図20に示す。GITRL共発現CEA 28z CAR T細胞を使用した方がCEA 28z CAR T細胞を使用した場合に比較して細胞傷害活性が高いが、回数を重ねるごとに細胞傷害活性の差が大きくなる傾向が観察された。
【0097】
試験例10.残存細胞の解析1
CEA陽性のBxPC-3細胞5x10^6を皮下移植にてNOG mouseに担癌したのち、 γδ細胞より作製したGITRL共発現CEA 28z CAR T細胞とCEA 28z CAR T細胞、及び遺伝子導入の無いmock細胞1x10^7を静脈注射にて輸注し、2週間後と3週間後の末梢血中の輸注細胞の存在比率を抗Vd2抗体染色及びbiotin化CEA染色によって検討した。実験に使用したマウスの個体数はそれぞれ2,2,3である。
【0098】
結果を図21に示す。Effector細胞輸注後3週後のNOG mouse体内で、GITRL共発現γδ CEA 28z CAR T 細胞輸注の方がγδ CEA 28z CAR T細胞輸注より残存細胞数が多かった。
【0099】
試験例11.残存細胞の解析2
NOGマウスにluciferaseで標識した白血病細胞NALM6を経静脈担癌して7日目に、CD19 28型CAR-T細胞(αβ)またはCD19 28z-GITRL型CAR-T細胞(αβ)を輸注した。輸注後14日に腫瘍細胞の消失を確認して、28日目に同数のNALM6細胞を担癌した。 38日目マウス静脈血の検討した。両治療マウスとも再度、NALM6を拒絶し抗白血病効果が持続した。 抗kappa抗体で染色される残存輸注CAR-T細胞は、28z型CAR-T細胞輸注マウスで、末梢血中にCD8+CAR+細胞が0.002%、CD4+CAR+細胞が0.017%に対して、28z-GITRL型CAR-T細胞輸注の2個体ではそれぞれ、CD8+CAR+細胞が0.01%と0.024%、CD4+CAR+細胞が0.033%と0.032%と、何れも28z-GITRL CAR-T細胞の方が多く残存していた(図22)。
【0100】
試験例12.生着細胞の解析
NALM6細胞を担癌したNOGマウス治療モデル(前頁)の28z-GITLR型CAR-T細胞(αβ)で治療したマウス#2の細胞療法後55日目末梢血を解析した。マウス末梢血リンパ球中に20.3%のヒトリンパ球を認めた(図23の1)。そのリンパ球中に、ヒトCD3陽性Tリンパ球が20.3%でCD19陽性ヒト白血病細胞NALM6は検出されなかった(図23の2)。そのヒトTリンパ球中3.4%にCAR-T細胞を認めた(図23の3)。このマウス末梢血を試験管内で、再度NALM6細胞と18時間共培養したところ、CAR陽性ヒトリンパ球は全てNALM6反応性IFN-γ産生能(白血病細胞反応性)を保持していた(図23の4)。
【0101】
まとめ
CD19 28z-GITRLはCD19 28zに比べ、αβ、γδいずれのT細胞にも効率よくCAR分子を発現させることができる。細胞内ドメインが28zではなく、zGであってもGITRL結合型はCAR分子発現の効率が高い。また、短時間(4時間)の標的細胞との共培養によるサイトカイン産生についてはGITRL結合型の優位性は認めなかったものの、リアルタイムCTLアッセイではGITRL結合型はαβ、γδいずれのT細胞においても強力、迅速で持続性に優れた標的特異的細胞傷害活性を示した。このことからGITRL結合型CAR-T細胞は、抗原認識過程ではなく、抗原認識に続くT細胞の活性化過程における、活性化の増強と持続時間の延長に基づく抗腫瘍活性の増強を誘導していると考えられる。以上より、GITRL結合型CAR-T細胞は現在おこなわれているCD19 CAR-T(28z)細胞治療で問題である不応例、再発例に対しても臨床効果が期待される。
【0102】
また、GD2を標的とした場合にも、上記と同様の傾向が認められた。
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【配列表】
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