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特許7521846比色分析用高吸水性ポリマー及びそれを用いた分析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】比色分析用高吸水性ポリマー及びそれを用いた分析方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/28 20060101AFI20240717BHJP
   C12N 11/087 20200101ALI20240717BHJP
   C12N 11/04 20060101ALI20240717BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20240717BHJP
   G01N 21/78 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
C12Q1/28
C12N11/087
C12N11/04
G01N33/50 Z
G01N21/78 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023171554
(22)【出願日】2023-10-02
【審査請求日】2023-12-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】511312207
【氏名又は名称】株式会社エンザイム・センサ
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】日下部 均
【審査官】松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-110324(JP,A)
【文献】特開昭63-163164(JP,A)
【文献】特開昭63-048454(JP,A)
【文献】特開2021-061802(JP,A)
【文献】特開2021-052703(JP,A)
【文献】特開2020-018204(JP,A)
【文献】特開2017-012169(JP,A)
【文献】特開2015-204825(JP,A)
【文献】特表2006-528773(JP,A)
【文献】特開2011-019465(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00- 3/00
G01N 31/00- 31/22
G01N 33/48- 33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
過酸化水素生成オキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、新トリンダー試薬、カプラー化合物、及びカタラーゼ失活剤が、吸水していない状態での直径が0.5mm以上であるビーズ状の高吸水性ポリアクリル酸ナトリウムに保持されてなる、試料溶液に浸漬し、吸水させ、発色させて用いるための、酒類、飲料、食品、農産物、食品原料、加工食品、培地、又は培養液の成分の定量用の比色分析材。
【請求項2】
過酸化水素生成オキシダーゼが、L-グルタミン酸オキシダーゼ、L-リジンオキシダーゼ、L-アルギニンオキシダーゼ、L-ヒスチジンオキシダーゼ、グリシンオキシダーゼ、L-トリプトファンオキシダーゼ、L-フェニルアラニンオキシダーゼ、Lーアスパラギン酸オキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、乳酸オキシダーゼ、ピルビン酸オキシダーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、コレステロールオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ、ピラノースオキシダーゼ、アルコールオキシダーゼ、ヌクレオシドオキシダーゼ、D-マンニトールオキシダーゼ、キシリトールオキシダーゼ、オキザレートオキシダーゼ、D-アスパラギン酸オキシダーゼ、L-アミノ酸オキシダーゼ、D-アミノ酸オキシダーゼ、アミンオキシダーゼ、D-グルタミン酸オキシダーゼ、プトレッシンオキシダーゼ、ザルコシンオキシダーゼ、尿酸オキシダーゼ、グルタチオンオキシダーゼ、及びキサンチンオキシダーゼから選択されるいずれかである、請求項1に記載の材。
【請求項3】
防腐剤、安定化剤、及びpH緩衝剤から選択されるいずれかが高吸水性ポリマーにさらに保持されてなる、請求項1に記載の材。
【請求項4】
請求項1からのいずれか1項に記載の材を備える、基質特異性オキシダーゼの基質である成分の分析用のキット。
【請求項5】
色見本、又は成分の標準溶液をさらに含む、請求項に記載のキット。
【請求項6】
過酸化水素生成オキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、新トリンダー試薬、カプラー化合物、及びカタラーゼ失活剤を含む酵素溶液を含侵させた、ビーズ状の高吸水性ポリアクリル酸ナトリウムを、25℃~55℃で乾燥させる工程を含む、請求項1からのいずれか1項に記載の材の製造方法。
【請求項7】
酵素溶液が、過酸化水素生成オキシダーゼ0.02~300 U/mL、ペルオキシダーゼ0.5~50 U/mL、新トリンダー試薬0.05~4 mM、及びカプラー化合物0.05~4 mM、及びpH緩衝剤を含む溶液である、請求項に記載の製造方法。
【請求項8】
下記の工程を含む、酒類、飲料、食品、農産物、食品原料、加工食品、培地、又は培養液から調製された試料溶液に含まれる成分であって過酸化水素生成オキシダーゼの基質である成分の定量方法:
請求項1からのいずれか1項に記載の材を試料溶液に浸漬し、膨潤させ、発色させた材(試料材)を得る工程であって、このとき膨潤した材の内部で、成分に、過酸化水素生成オキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、カプラー化合物、及び新トリンダー試薬が作用し、色素が形成される、工程、及び
試料材と、色見本、又は標準溶液に浸漬し、吸水させ、発色させた材(標準材)とを比色して、試料溶液の成分の濃度を算出する工程。
【請求項9】
比色し、算出する工程が、試料材を撮影手段により撮影し、得られた画像データと、予め作成した検量線データとを用いて、試料溶液の成分の濃度を算出することを含む、請求項に記載の方法。
【請求項10】
撮影手段が、スマートフォンに搭載されたカメラである、請求項に記載の方法。
【請求項11】
請求項に記載の方法であって、水道水で希釈した試料溶液を用いる、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、比色分析用の高吸水性ポリマー及びそれを用いた成分の分析方法に関する。本発明は、食品製造等の分野で有用である。
【背景技術】
【0002】
L-グルタミン酸は、うま味成分の一つして知られており、また動物の体内でグルタミン酸受容体を介しての神経伝達を行う興奮性の神経伝達物質として機能している。そのため、L-グルタミン酸を検出・定量することは食品や生化学の分野において非常に重要である。試料中のL-グルタミン酸を測定するために、L-グルタミン酸オキシダーゼ(非特許文献1)を用いる方法が開発されている。例えば、特許文献1には、アスコルビン酸オキシダーゼ、ペルオキシダーゼ及び新トリンダー試薬を含む反応液Iと、L-グルタミン酸オキシダーゼ、カプラー化合物及びカタラーゼ失活剤を含む反応液IIを含むキットが記載されている。このキットは、反応液を2つに分けることにより、溶液の泡立ち等の凍結乾燥品における課題が解決されており、かつ長期間安定な状態で保管できるものと説明されている。
ことができ。
【0003】
一方、自重の数百から千倍もの吸水力を有する高吸水性ポリマーは、高い吸水・保水力を利用して、衛生用品、土壌の保水剤、食品のドリップ吸収剤、保冷材等として用いられるほか、ゲルに成分を保持させて、ゲル芳香剤、衣料用防虫剤としても応用されている。例えば特許文献2には、3-メチル-5-フェニル-1-ペンタノールを含有する衣料用防虫及びダニ忌避組成物を水性ゲルビーズに保持したことを特徴とする衣料用防虫及びダニ忌避剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-012169号公報(特許第6218894号)
【文献】特開2020-40991号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Agric. Biol. Chem., 47(6);1323,1983
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
L-グルタミン酸などのうまみ成分、グルコースなどの甘味成分の測定は、食品のおいしさを客観的に評価するために重要である。また、乳酸やピルビン酸の測定は、日本酒や漬物などの発酵食品の製造工程管理に重要である。しかし、中小企業や零細企業における発酵食品の製造工程管理や品質管理において、化学的な成分測定が広がるためには、高価な分析装置を必要とせず、現場で誰でも簡単に実施できる、視認性の高い測定方法があれば望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下を提供する。
[1] 過酸化水素生成オキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、新トリンダー試薬、及びカプラー化合物が、高吸水性ポリマーに保持されてなる、試料溶液に浸漬し、吸水させ、発色させて用いるための、比色分析材。
[2] 過酸化水素生成オキシダーゼが、L-グルタミン酸オキシダーゼ、L-リジンオキシダーゼ、L-アルギニンオキシダーゼ、L-ヒスチジンオキシダーゼ、グリシンオキシダーゼ、L-トリプトファンオキシダーゼ、L-フェニルアラニンオキシダーゼ、Lーアスパラギン酸オキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、乳酸オキシダーゼ、ピルビン酸オキシダーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、コレステロールオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ、ピラノースオキシダーゼ、アルコールオキシダーゼ、ヌクレオシドオキシダーゼ、D-マンニトールオキシダーゼ、キシリトールオキシダーゼ、オキザレートオキシダーゼ、D-アスパラギン酸オキシダーゼ、L-アミノ酸オキシダーゼ、D-アミノ酸オキシダーゼ、アミンオキシダーゼ、D-グルタミン酸オキシダーゼ、プトレッシンオキシダーゼ、ザルコシンオキシダーゼ、尿酸オキシダーゼ、グルタチオンオキシダーゼ、及びキサンチンオキシダーゼから選択されるいずれかである、1に記載の材。
[3] カタラーゼ失活剤、防腐剤、安定化剤、及びpH緩衝剤から選択されるいずれかが高吸水性ポリマーにさらに保持されてなる、1に記載の材。
[4] 高吸水性ポリマーが、ポリアクリル酸塩系である、1に記載の材。
[5] 高吸水性ポリマーが、ビーズ状である、1に記載の材。
[6] 食品の成分を定量するための、1から5のいずれか1項に記載の材。
[7] 1から5のいずれか1項に記載の材を備える、過酸化水素生成オキシダーゼの基質である成分の分析用のキット。
[8] 色見本、又は成分の標準溶液をさらに含む、7に記載のキット。
[9] 過酸化水素生成オキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、新トリンダー試薬、及びカプラー化合物を含む酵素溶液を含侵させた、ビーズ状の高吸水性ポリマーを、25℃~55℃で乾燥させる工程を含む、1に記載の材の製造方法。
[10] 酵素溶液が、過酸化水素生成オキシダーゼ0.02~300 U/mL、ペルオキシダーゼ0.5~50 U/mL、新トリンダー試薬0.05~4mM、及びカプラー化合物0.05~4mM、及びpH緩衝剤の溶液である、9に記載の製造方法。」
[11] 下記の工程を含む、試料に含まれる成分であって過酸化水素生成オキシダーゼの基質である成分の分析方法:
1~5のいずれか1項に記載の材を試料溶液に浸漬し、膨潤させ、発色させた材(試料材)を得る工程であって、このとき膨潤した材の内部で、成分に、過酸化水素生成オキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、カプラー化合物、及び新トリンダー試薬が作用し、色素が形成される、工程、及び
試料材と、色見本、又は標準溶液に浸漬し、吸水させ、発色させた材(標準材)とを比色して、試料溶液の成分の濃度を算出する工程。
[12] 比色し、算出する工程が、試料材を撮影手段により撮影し、得られた画像データと、予め作成した検量線データとを用いて、試料溶液の成分の濃度を算出することを含む、11に記載の方法。
[13] 撮影手段が、スマートフォンに搭載されたカメラである、請求項12に記載の方法。
[14] 11に記載の方法であって、水道水で希釈した試料溶液を用いる、方法。
【発明の効果】
【0008】
目的の成分を分析するに際し、高価な分析装置を必要とせず、視認性の高い分析が実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】L-グルタミン酸比色測定用、乳酸比色測定用、グルコース比色測定用及びピルビン酸比色測定用の各酵素溶液を吸水したビーズの写真(上)、及びそれらを乾燥して得た、L-グルタミン酸比色測定用ビーズ(GUCB)、乳酸比色測定用ビーズ(LACB)、グルコース比色測定用ビーズ(GCCB)及びピルビン酸比色測定ビーズ(PVCB)の写真(下)
図2】各濃度のL-グルタミン酸標準液により発色したGUCB(ビーズ投入から1時間後に標準液から取り出した)の写真(上)、及び検量線(下)
図3】各濃度の乳酸標準液により発色したLACB(ビーズ投入から1時間後に標準液から取り出した)の写真(上)、及び検量線(下)
図4】各濃度のグルコース標準液により発色したGCCB(ビーズ投入から1時間後に標準液から取り出した)の写真(上)、及び検量線(下)
図5】各濃度のピルビン酸標準液により発色したPVCB(ビーズ投入から1時間後に標準液から取り出した)の写真(上)、及び検量線(下)
図6】GUCBの内部だけが発色し、外液(サンプル液)は発色しない。
図7】日本酒12種類のグルタミン酸比色測定ビーズによるグルタミン酸測定値(ビーズ投入から30分後に色見本との比較による数値化)と(株)エンザイム・センサ製グルタミン酸測定キットによる測定値との相関性グラフ。
図8】日本酒12種類の乳酸比色測定ビーズによる乳酸測定値(ビーズ投入から30分後に色見本との比較による数値化)と(株)エンザイム・センサ製乳酸測定キットによる測定値との相関性グラフ。
図9】日本酒12種類のグルコース比色測定ビーズによるグルコース測定値(ビーズ投入から30分後に色見本との比較による数値化)と(株)エンザイム・センサ製グルコース測定キットによる測定値との相関性グラフ。
図10】日本酒12種類のピルビン酸比色測定ビーズによるピルビン酸測定値(ビーズ投入から30分後に色見本との比較による数値化)と(株)エンザイム・センサ製ピルビン酸測定キットによる測定値との相関性グラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[比色分析材、キット]
本発明は、過酸化水素生成オキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、新トリンダー試薬、及びカプラー化合物が、高吸水性ポリマーに保持されてなる比色分析材であって、試料溶液に浸漬し、吸水させ、発色させて用いるための比色分析材に関する。
【0011】
(高吸水性ポリマー)
本発明に関し、高吸水性ポリマー(superabsorbent polymer、SAP)というときは、特に記載した場合を除き、自重に対して純水を300倍以上吸収するポリマーをいう。材に用いられる高吸水性ポリマーの例として、ポリアクリル酸ナトリウム架橋体、ポリビニルアルコール架橋重合体、アクリル酸ナトリウム-ビニルアルコール共重合体、デンプン-アクリロニトリルグラフト重合体加水分解物、デンプン-アクリル酸グラフト重合体、デンプン-スチレンスルホン酸グラフト重合体、デンプン-ビニルスルホン酸グラフト重合体、デンプン-アクリルアミドグラフト重合体、セルロース-アクリロニトリルグラフト重合体、セルロース-スチレンスルホン酸グラフト重合体、カルボキシメチルセルロース架橋体、ヒアルロン酸、アガロース等が挙げられ、一態様では、これらの1種又は2種以上を組合せて用いることができる。
【0012】
高吸水性ポリマーから構成される比色分析材は、粉末状、パウダー状、微粉末状、パール状、ビーズ状、フレーク状、ブロック状等の各種の形態とすることができる。材は、ビーズ状(小球状)であることが好ましい。ビーズ状である場合、粒径は特に限定されないが、分析に用いる試料溶液の量、膨潤したときの観察のしやすさ、扱いやすさ等の観点から、膨潤していない状態でのビーズの直径は、約0.5~5 mmであり、好ましくは0.8mm~3mmであり、より好ましくは1~2mmである。
【0013】
本発明の比色分析材では、高吸水性ポリマーに、過酸化水素生成オキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、新トリンダー試薬、及びカプラー化合物が保持されている。
【0014】
(過酸化水素生成オキシダーゼ)
本発明では、過酸化水素生成オキシダーゼを用いる。本発明に関し、過酸化水素生成オキシダーゼというときは、酸化還元酵素(EC番号でEC 1. X. X. Xと表記される)であって、反応により過酸化水素を生成する酵素をいう。好ましい過酸化水素生成オキシダーゼの例は、L-グルタミン酸オキシダーゼ、L-リジンオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、乳酸オキシダーゼ、及びピルビン酸オキシダーゼ から選択されるいずれかである。これらの酵素はいずれも市販されており、市販のものを用いることができる。例えば、L-グルタミン酸オキシダーゼ(ヤマサ醤油株式会社製)、L-リジンオキシダーゼ(ヤマサ醤油株式会社製)、グルコースオキシダーゼ(東洋紡株式会社製)、乳酸オキシダーゼ(東洋紡株式会社製)、及びピルビン酸オキシダーゼ(東洋紡株式会社製)が市販されている。また、グリシンオキシダーゼ、L-ヒスチジンオキシダーゼ、L-アルギニンオキシダーゼ、L-トリプトファンオキシダーゼ、L-フェニルアラニンオキシダーゼなどの過酸化水素を生成するアミノ酸のオキシダーゼ、及び酸化還元酵素に分類される酵素であって、かつ過酸化水素を生成する、他の糖や有機酸に作用する既知のオキシダーゼも用いることができる。例えば、ヘキソースオキシダーゼ、コレステロールオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ、ピラノースオキシダーゼ、アルコールオキシダーゼ、ヌクレオシドオキシダーゼ、D-マンニトールオキシダーゼ、キシリトールオキシダーゼ、オキザレートオキシダーゼ、D-アスパラギン酸オキシダーゼ、L-アミノ酸オキシダーゼ、D-アミノ酸オキシダーゼ、アミンオキシダーゼ、D-グルタミン酸オキシダーゼ、プトレッシンオキシダーゼ、ザルコシンオキシダーゼ、尿酸オキシダーゼ、グルタチオンオキシダーゼ、及びキサンチンオキシダーゼから選択されるいずれかを、本発明において過酸化水素生成オキシダーゼとして用いてもよい。
【0015】
L-グルタミン酸オキシダーゼを用いる場合、L-グルタミン酸に作用して過酸化水素を生成させることができる酵素であって、L-グルタミン酸の酸化的脱アミノ反応を触媒し、過酸化水素を生じさせる酵素であれば特に制限されないが、基質特異性が高い酵素が好ましい。例として、Streptomyces sp. X-119-6、Streptomyces violascens、及びStreptomyces endusなどの微生物由来のL-グルタミン酸オキシダーゼが挙げられる。微生物由来のL-グルタミン酸オキシダーゼは、市販のものを用いてもよい。
【0016】
乳酸オキシダーゼを用いる場合、乳酸に作用してピルビン酸と過酸化水素を生成させることができる酵素であって、基質特異性が高い酵素が好ましい。例として、Pediococcus sp.及び Aerococcus viridansなどの微生物由来の乳酸オキシダーゼが挙げられる。微生物由来の乳酸オキシダーゼは、市販のものを用いてもよい。
【0017】
グルコースオキシダーゼを用いる場合、グルコースに作用してグルコノラクトンと過酸化水素を生成させることができる酵素であって、基質特異性が高い酵素が好ましい。例として、Aspergillus niger及び Penicillium amagasakienseなどの微生物由来のグルコースオキシダーゼが挙げられる。微生物由来のグルコースオキシダーゼは、市販のものを用いてもよい。
【0018】
ピルビン酸オキシダーゼを用いる場合、ピルビン酸に作用してアセチルリン酸と過酸化水素を生成させることができる酵素であって、基質特異性が高い酵素が好ましい。例として、Aerococcus sp.及びLactobacillus plantarumなどの微生物由来のピルビン酸オキシダーゼが挙げられる。微生物由来のピルビン酸オキシダーゼは、市販のものを用いてもよい。
【0019】
(ペルオキシダーゼ)
本発明では、バーオキシダーゼとして、過酸化水素を基質とするものを用いる。この例として、西洋わさび等の植物由来のペルオキシダーゼ;細菌、カビ等の微生物由来のペルオキシダーゼ等を例示することができ、ペルオキシダーゼfrom horseradish(シグマ-アルドリッチ社製)、ペルオキシダーゼ,西洋わさび由来(富士フイルム和光純薬(株)製)、ペルオキシダーゼ(POD (Horseradish roots))(オリエンタル酵母工業(株)製)等の市販品を用いることができる。
【0020】
(新トリンダー試薬)
本発明では、新トリンダー試薬として公知のものを使用することができる。使用可能な新トリンダー試薬の例としては、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メチルアニリン・ナトリウム塩(TOOS)、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル-3-メトキシアニリン(ADOS)、N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5ジメトキシアニリン(HDAOS)、N-エチル-N-スルホプロピル-3-メトキシアニリン(ADPS)、N-エチル-N-スルホプロピルアニリン(ALPS)、N-エチル-N-スルホプロピル-3-メチルアニリン(TOPS)、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメチルアニリン(MAOS)、N-エチル-N-スルホプロピル-3,5-ジメトキシアニリン(DAPS)、N-(2-カルボキシエチル)-N-エチル-3,5-ジメトキシアニリン(CEDB)、N-(2-カルボキシエチル)-N-エチル-3-メトキシアニリン(CEMO)、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5ジメトキシ-4-フルオロアニリン(FDAOS)、N-エチル-N-スルホプロピル-3,5ジメトキシ-4-フルオロアニリン(FDAPS)を挙げることができる。N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メチルアニリン・ナトリウム塩(TOOS)、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル-3-メトキシアニリン(ADOS)、N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン(HDAOS)、N-エチル-N-スルホプロピル-3-メトキシアニリン(ADPS)、N-エチル-N-スルホプロピルアニリン(ALPS)、N-エチル-N-スルホプロピル-3-メチルアニリン(TOPS)、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメチルアニリン(MAOS)のいずれかを用いるのが好ましく、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メチルアニリン・ナトリウム塩(TOOS)を用いるのがより好ましい。
【0021】
(カプラー化合物)
本発明では、カプラー化合物として公知のものを使用することができる。本発明では、新トリンダー試薬との組み合わせで発色を生じるカプラー化合物(発色試薬ということもある)を用いればよく、例として、4-アミノアンチピリン(4-AA)、バニリンジアミンスルホン酸、メチルベンズチアゾリノンヒドラゾン(MBTH)、スルホン化メチルベンズチアゾリノンヒドラゾン(SMBTH)、アミノジフェニルアミン-1-(4-スルホフェニル)-2,3-ジメチル-4-アミノ-5-ピラゾロン(CP2-4)、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-m-トルイジン又はその誘導体を挙げることができる。4-アミノアンチピリン(4-AA)を用いるのが好ましい。
【0022】
(他の成分)
本発明の比色分析材においては、上述した酵素等のほか、カタラーゼ失活剤、防腐剤、安定化剤、及びpH緩衝剤から選択されるいずれかが高吸水性ポリマーにさらに保持されていてもよい。
【0023】
カタラーゼ失活剤としては、過酸化水素を酸素と水に変換する反応を触媒する酵素であるカタラーゼが試料中に存在する場合に、目的成分の測定を阻害することなく、カタラーゼの触媒作用を失活することができる薬剤であれば特に制限されない。例として、アジ化ナトリウム、アジ化バリウム、アジ化リチウム等のアジ化金属や3-アミノ-1,2,4-トリアゾールを例示することができる。好適な例の一つは、アジ化ナトリウムである。
【0024】
防腐剤としては公知のものを使用することができる。例として、クロラムフェニコール;イソチアゾリノン(5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン及び2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン)を有効成分とするプロクリン150,200,300、950等のプロクリン(登録商標)シリーズ(富士フイルム和光純薬(株)製)等を示すことができる。
【0025】
安定化剤により、基質特異性オキシダーゼの活性を保存期間中も安定に維持することができる。本発明に用いる安定化剤の例として、二糖類が挙げられ、具体的には、トレハロース、ラクトース、スクロース、ラクツロース、マルトース、セロビオース、コージビオース、ニゲロース、イソマルトース、イソトレハロース、ネオトレハロース、ソホロース、ラミナリビオース、ゲンチビオース、ツラノース、マルツロース、パラチノース、ゲンチオビウロース、マンノビオース、メリビオース、メリビウロース、ネオラクトース、ガラクトスクロース、シラビオース、ルチノース、ルチヌロース、ビシアノース、キシロビオース、プリメベロース等が挙げられる。上記二糖類の中でも、酵素反応に影響を与えず、比較的低温で、かつ過酸化水素生成オキシダーゼが安定なpHにおいて溶解性が優れるもの、例えばトレハロース、ラクトース、スクロース、マルトース、セロビオース、イソマルトースが好ましく、トレハロース、ラクトース、マルトースがより好ましく、トレハロースがさらに好ましい。二糖類としては、複数の二糖類を混合したものを用いてもよい。
【0026】
その他の本発明に用いる安定化剤の例として、シクロデキストリン、デキストラン、糖アルコール、Tween20などの界面活性剤、ポリグルタミン酸、ポリリジン、ポリエチレングリコールなどで、過酸化水素生成オキシダーゼが安定なpHにおいて溶解性が優れるものを用いてもよい。
【0027】
pH緩衝剤により、酵素反応中の系を、酵素が有効に作用することができるpHに保つことができる。使用できるpH緩衝剤の例として、酢酸塩、リン酸塩、クエン酸塩、ホウ酸塩、酒石酸塩、Tris(トリス(ヒドロキシメチル)アミノエタン)、Hepes([2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸])を挙げることができる。
【0028】
本発明の比色分析材においては、高吸水性ポリマーには、アスコルビン酸オキシダーゼがさらに保持されていてもよい。アスコルビン酸オキシダーゼは、試料中に、その強い還元力により食品の分析や生体試料中の成分分析において発色反応等を阻害することが知られているアスコルビン酸が存在する場合に、L-グルタミン酸の測定を阻害することなく、上記アスコルビン酸の影響を排除するために用いられる。アスコルビン酸オキシダーゼは、カボチャ、キュウリ、ハヤトウリ(特開昭56-88793号公報)から単離された植物由来のものであってよく、アスペルギルス属、ペニシリウム属(特開昭58-51891号公報)等の微生物由来のものであってもよい。アスコルビン酸の酸化反応を触媒する酵素を挙げることができるほか、市販品を使用することもできる。
【0029】
(用途)
本発明の比色分析材は、具体的には、試料を希釈等することにより調製した試料溶液に浸漬し、吸水させ、発色させて用いる。
【0030】
本発明の比色分析材は、過酸化水素生成オキシダーゼの基質である成分を含有することが予想される試料中において、その成分を分析するために用いることができる。分析とは、その成分を検出すること、その成分を定量(測定)することを含む。
【0031】
試料は、特に限定されない。具体例として、酒やビールなどの酒類、飲料、食品、農産物、食品原料、加工食品;これらの食品試料から調製された水溶液の試料;細胞又は微生物等の培地、培養中又は培養を行った後の培養液;血液、血清、血漿、尿、汗、唾液、羊水、組織、細胞、臓器等の生体試料;これらの生体試料から調製された水溶液の試料などを例示することができる。
【0032】
(キットの他の構成物)
本発明の比色分析材は、過酸化水素生成オキシダーゼの基質である成分の分析用のキットのための構成物とすることができる。このようなキットは、比色分析材のほか、色見本、又は成分の標準溶液を含んでいてもよい。色見本としては、例えば、本発明の比色分析材を、過酸化水素生成オキシダーゼの基質である成分の1.25mg/L、2.5mg/L、5mg/L、10mg/L、20mg/L、30mg/L及び40mg/mLの各標準溶液に浸漬し、吸水させ、発色させた色と同等の色を印刷したものを用いる。
【0033】
また、キットが標準液を含む場合、標準溶液の濃度は、適宜とすることができるが、測定の際に検量線を作製するために系列希釈するとの観点からは、キットの測定上限前後の濃度であることが好ましい。具体的には、例えば20mg/L又は40mg/mLとすることができ、30mg/mLであってもよい。
【0034】
キットはさらに、試料溶液を採取するためのスポイト、比色分析材を試料溶液に浸漬する際に用いる透明な容器等を含んでいてもよい。なお、本発明の比色分析材に供する試料を希釈する場合、水道水を使用することができるため、試料希釈用の特別の液はキットに含まれていなくてもよい。
【0035】
キットはまた、目的の成分を検出する方法を記載した取扱説明書、比色分析材に含まれている酵素等の各成分についての説明書等の添付文書を含んでいてもよい。
【0036】
[比色分析材の製造方法]
本発明はまた、上述した比色分析材の製造方法を提供する。比色分析材は、過酸化水素生成オキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、新トリンダー試薬、及びカプラー化合物を含む酵素溶液に含侵し、膨潤した高吸水性ポリマーを、酵素が失活しない温度、例えば25℃~55℃で乾燥させる工程を含んでいてもよい。乾燥時間は適宜とすることができる。例えば12時間~数日間とすることができ、1~5日間であってもよい。
【0037】
比色分析材を製造するための酵素溶液中の、各成分の濃度は、例えば、過酸化水素生成オキシダーゼ0.02~300 U/mL、ペルオキシダーゼ0.5~50 U/mL、新トリンダー試薬0.05~4mM、及びカプラー化合物0.05~4mMとすることができる。
【0038】
より具体的には、各オキシダーゼの含有量としては、L-グルタミン酸オキシダーゼは0.1~2U/mL、グルコースオキシダーゼは10~300U/mL、乳酸オキシダーゼは1~10U/mL、L-リジンオキシダーゼは0.02~1U/mL、ピルビン酸オキシダーゼは0.1U~3U/mLの範囲にあることが好ましい。他の酵素及び試薬の含有量としては、ペルオキシダーゼ5~30U/mL、アスコルビン酸オキシダーゼ2~20U/mL、新トリンダー試薬0.1~2μmol/mL、カプラー化合物0.1~2μmol/mLの範囲にあることが好ましい。
【0039】
上記の酵素及び試薬を溶解する液としては、各種緩衝液を利用することができる。緩衝液の例としては、酢酸、リン酸、クエン酸、ホウ酸、トリスアミノメタン、HEPES、MES、Bis-トリス、ADA、ACES、PIPES、MOPSO、MOPS、BES、TES、DIPSO、TAPSO、TAPS、CHES、CAPSO、CAPS及びこれらの塩などを利用することが可能である。
【0040】
比色分析材として、上述した酵素等のほか、カタラーゼ失活剤、防腐剤、及び安定化剤からなるいずれかが高吸水性ポリマーにさらに保持されてなるものを製造する場合、高吸水性ポリマーに含侵する酵素溶液に、カタラーゼ失活剤、防腐剤、及び安定化剤から選択される必要なものを含有させればよい。
【0041】
酵素溶液にカタラーゼ失活剤を含有させる場合、その濃度は、0.01%~3.0%とすることができ、0.02%~0.1%が好ましい。
【0042】
酵素溶液に防腐剤を含有させる場合、その濃度は、0.01%~0.1%とすることができ、0.02%~0.05%が好ましい。
【0043】
酵素溶液に、安定化剤としてトレハロース等の安定化剤を含有させる場合、その濃度は、0.01%~5%(0.1~50mg/mL)とすることができ、0.02%~3%(0.2~30mg/mL)が好ましく、0.04%~2%(0.4~20mg/mL)がより好ましい。
【0044】
酵素溶液にアスコルビン酸オキシダーゼを含有させる場合、その濃度は、1U/mL~100U/mLとすることができ、2U/mL~20U/mLが好ましい。
【0045】
酵素溶液を含侵させ、膨潤させ、乾燥させて得られた比色分析材は、速やかにシリカゲルとともにアルミ蒸着袋に密封される等、長期保存のための手段が施されてもよい。
【0046】
[分析方法]
本発明はまた、下記の工程を含む、比色分析材を用いる、試料に含まれる成分であって過酸化水素生成オキシダーゼの基質である成分の分析方法を提供する。
比色分析材を試料溶液に浸漬し、膨潤させ、発色させた材(試料材)を得るが、このとき膨潤した比色分析材の内部で、成分に、過酸化水素生成オキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、カプラー化合物、及び新トリンダー試薬が作用し、色素が形成される工程、及び試料材と、色見本、又は標準溶液に浸漬し、吸水させ、発色させた材(標準材)とを、比色して試料溶液の成分の濃度を決定する工程。
【0047】
試料に含まれる成分であって過酸化水素生成オキシダーゼの基質である成分の検出及び/又は定量する方法を実施する際には、あらかじめ比色分析材を過酸化水素生成オキシダーゼの基質である成分の濃度のわかっている標準液に浸漬して発色させ、段階的な発色の程度と濃度とを対応させた色見本を作製しておき、試料材と、色見本とを目視で比較することにより、試料溶液の成分の濃度を決定することができる。
【0048】
本発明における過酸化水素生成オキシダーゼの基質である成分の検出限界濃度としては、本発明の比色分析材に供する試料中の成分濃度として1.25mg/Lを挙げることができる。また、上記色見本において設定されている一番高い濃度、すなわち40mg/Lよりも被検試料中の当該成分濃度が高いと判断された場合は、さらに水道水又は脱イオン水によりさらに希釈を行った溶液により試験を行い、色見本で判定された濃度に希釈倍率を乗じることにより実際の被検試料における当該成分の濃度を決定することができる。
【0049】
比色し、算出する工程は、試料材と、色見本又は標準材とを、撮影手段により一緒に撮影し、得られた画像データから算出手段により試料溶液の成分の濃度を算出することを含んでいてもよい。また、この撮影手段は、デジタルカメラであり得るが、スマートフォン、タブレット端末、パーソナルコンピュータ等の測定者の手元の端末に搭載されたカメラであってもよい。
【0050】
算出手段は、標準液による比色分析材の発色の度合いと、成分の濃度の相関を予め分析したデータをプログラミングしたアプリとして格納していてもよく、そのプログラムに基づいて成分の濃度を算出してもよい。
【0051】
以下、実施例により、本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例
【0052】
[実施例1:高吸水性ポリアクリル酸ナトリウムビーズを使ったL-グルタミン酸比色測定用ビーズの製造]
直径約1.5mmの高吸水性ポリアクリル酸ナトリウムビーズ(商品名「天使のビーズ」、ライフテースト株式会社、日本。以下の実施例では、特に記載した場合を除き、同じものを用いた。)約80個をプラスティックの底が浅いトレーに入れ、下表に示す組成のL-グルタミン酸測定用の酵素溶液20mLを加えて、冷蔵庫内(4℃~8℃)で酵素溶液がほぼ無くなるまで、ビーズに酵素溶液を含侵させた。十分に膨潤したビーズを別の容器に移し、40℃の送風恒温器に入れて24時間乾燥した。この乾燥したビーズ(直径約2mm)をL-グルタミン酸比色測定用の高吸水性ポリマービーズ(以下、「GUCB」という)とした(図1)。
【0053】
【表1】
【0054】
[実施例2:高吸水性ポリアクリル酸ナトリウムビーズを使った乳酸比色測定用ビーズの製造]
直径約1.5mmの高吸水性ポリアクリル酸ナトリウムビーズ(約80個)をプラスティックの底が浅いトレーに入れ、下表に示す組成の乳酸測定用の酵素溶液20mLを加えて、冷蔵庫内(4℃~8℃)で酵素溶液がほぼ無くなるまで、ビーズに酵素溶液を含侵させた。十分に膨潤したビーズを別の容器に移し、40℃の送風恒温器に入れて24時間乾燥した。この乾燥したビーズ(直径約2mm)を乳酸比色測定用高吸水性ポリマービーズ(以下、「LACB」という)とした(図1)。
【0055】
【表2】
【0056】
[実施例3:高吸水性ポリアクリル酸ナトリウムビーズを使ったグルコース比色測定用ビーズの製造]
直径約1.5mmの高吸水性ポリアクリル酸ナトリウムビーズ(約80個)をプラスティックの底が浅いトレーに入れ、下表に示す組成のグルコース測定用の酵素溶液20mLを加えて、冷蔵庫内(4℃~8℃)で酵素溶液がほぼ無くなるまで、ビーズに酵素溶液を含侵させた。十分に膨潤したビーズを別の容器に移し、40℃の送風恒温器に入れて72時間乾燥した。この乾燥したビーズ(直径約2mm)をグルコース比色測定用高吸水性ポリマービーズ(以下、「GCCB」という)とした(図1)。
【0057】
【表3】
【0058】
[実施例4:高吸水性ポリアクリル酸ナトリウムビーズを使ったピルビン酸比色測定用ビーズの製造]
直径約1.5mmの高吸水性ポリアクリル酸ナトリウムビーズ(約80個)をプラスティックの底が浅いトレーに入れ、下表に示す組成のピルビン酸測定用の酵素溶液20mLを加えて、冷蔵庫内(4℃~8℃)で酵素溶液がほぼ無くなるまで、ビーズに酵素溶液を含侵させた。十分に膨潤したビーズを別の容器に移し、40℃の送風恒温器に入れて24時間乾燥した。この乾燥したビーズ(直径約2mm)をピルビン酸比色測定用高吸水性ポリマービーズ(以下、「PVCB」という)とした(図1)。
【0059】
【表4】
【0060】
[実施例5:L-グルタミン酸比色測定用ビーズの発色度とL-グルタミン酸濃度との関係(代用検量線)]
(1)実施例1で製造したL-グルタミン酸比色測定用高吸水性ポリマービーズ(GUCB)を1個ずつ透明プラスティックの小ビン(直径1.2cm、高さ4.5cm)に入れた。
(2)GUCBが1個ずつ入っている小ビンに、それぞれ約2.5mLの水又はL-グルタミン酸標準液(0mg/L~20mg/L)を入れて室温で放置して発色反応を開始した。数分程度で着色し始め、10分程度で発色度とL-グルタミン酸濃度との比例関係が観察された。
(3)L-グルタミン酸標準液(0mg/L~20mg/L)を入れて発色を開始してから60分経過後、赤紫色に発色して直径7mm程度に膨潤したGUCBを取り出して、水切りしてから小試験管に入れ、1mLの水を加えて一夜放置した。色素の漏出により、GUCB内部の色と外液(水)の色は同等になった。
(4)外液の555nmの吸光度を測定することにより、GUCB内部の色の濃さを反映する外液の吸光度とL-グルタミン酸標準液の濃度との関係から検量線(代用検量線)を作成した(図2)。この場合の代用検量線とは、ビーズ内に閉じ込められた色素の量と標準液の濃度との相関性を反映するが、試料材と色見本とを目視で比較することによって試料溶液の成分の濃度を決定する工程には使用しないという意味で、代用検量線とした。
【0061】
[実施例6:乳酸比色測定用高吸水性ポリマービーズの発色度と乳酸濃度との関係(代用検量線)]
(1)実施例2で製造した乳酸比色測定用高吸水性ポリマービーズ(LACB)を1個ずつ透明プラスティックの小ビン(直径1.2cm、高さ4.5cm)に入れた。
(2)ビーズが1個入っている小ビンに、それぞれ約2.5mLの水又は乳酸標準液(0mg/L~20mg/L)を入れて発色反応を開始した。数分程度で着色し始め、10分~60分の間では発色度と乳酸濃度との比例関係が観察された。
(3)乳酸標準液(0mg/L~20mg/L)を入れて発色を開始してから60分経過後、青緑色に発色して直径7mm程度に膨潤したLACBを取り出して小試験管に入れ、1mLの水を加えて一夜放置した。色素の漏出により、LACB内部の色と外液(水)の色は同等になった。
(4)外液の630nmの吸光度を測定することにより、LACB内部の色の濃さを反映する外液の吸光度と乳酸標準液の濃度との関係から代用検量線を作成した(図3)。
【0062】
[実施例7:グルコース比色測定用高吸水性ポリマービーズの発色度とグルコース濃度との関係(代用検量線)]
(1)透明プラスティックの小ビン(直径1.2cm、高さ4.5cm)に、実施例3で製造したGCCBを1個ずつ入れた。
(2)グルコース標準液(0mg/L~20mg/L)を入れて発色を開始してから60分経過後、赤紫色に発色して直径7mm程度に膨潤したGCCBを取り出して小試験管に入れ、1mLの水を加えて一夜放置した。色素の漏出により、GCCB内部の色と外液(水)の色は同等になった。
(3)外液の555nmの吸光度を測定することにより、GCCB内部の色の濃さを反映する外液の吸光度とグルコース標準液の濃度との関係から代用検量線を作成した(図4)。
【0063】
[実施例8:ピルビン酸比色測定用高吸水性ポリマービーズの発色度とピルビン酸濃度との関係(代用検量線)]
(1)透明プラスティックの小ビン(直径1.2cm、高さ4.5cm)に、実施例4で製造したPVCBを1個ずつ入れた。
(2)ピルビン酸標準液(0mg/L~20mg/L)を入れて発色を開始してから60分経過後、赤紫色に発色して直径7mm程度に膨潤したPVCBを取り出して小試験管に入れ、1mLの水を加えて一夜放置した。色素の漏出により、PVCB内部の色と外液(水)の色は同等になった。
(3)外液の555nmの吸光度を測定することにより、PVCB内部の色の濃さを反映する外液の吸光度とピルビン酸標準液の濃度との関係から代用検量線を作成した(図5)。
[実施例9:L-グルタミン酸比色測定用高吸水性ポリマービーズの発色時におけるビーズ内部の発色度と外液(供試サンプル液)の発色度との関係]
(1)実施例1で製造したL-グルタミン酸比色測定用ビーズ(GUCB)を1個ずつ透明プラスティックの小ビン(直径1.2cm、高さ4.5cm)に入れた。
(2)GUCBが1個ずつ入っている小ビンに、それぞれ約2.5mLのL-グルタミン酸標準液(30mg/L)を入れて発色反応を開始した。
(3)L-グルタミン酸標準液(30mg/L)を入れた時点をゼロタイムとし、10分、20分、30分、40分経過時点で、膨潤したビーズを取り出して、外液の吸光度(555nm)を測定した。次に、取り出した膨潤したビーズを秤量し、またビーズの直径を計測してビーズの体積を算出した後、小試験管に入れた。この試験管に2mLの水を加えて一夜放置した。ビーズ内部からの色素の漏出により、小試験管内のビーズの色と外液(水)の色は同等になった。
(4)外液の555nmの吸光度を測定した。外液の555nm吸光度を、ビーズの体積で割り算することにより、各時間経過時点におけるビーズ内部の色の濃さを反映する吸光度の数値を算出した(図6)。ビーズ内部だけが初めに発色して、外液(測定対象化合物が含まれている)が短時間(1時間程度)では発色しないことが、目視だけでなく、吸光度の測定値からも確認された。
【0064】
[実施例10:L-グルタミン酸比色測定用高吸水性ポリマービーズを用いた、目視による市販日本酒グルタミン酸濃度の簡易測定]
市販の日本酒12種類について、日本酒の10倍水希釈液に30分間浸したGUCB(実施例1で製造したもの)の発色度を、L-グルタミン酸標準液で発色したGUCBに基づいて作成した色見本と目視で比較して、L-グルタミン酸濃度の簡易数値化測定(n=5)を行った。別途、(株)エンザイム・センサ社製のL-グルタミン酸測定キットにより、それら12種類の日本酒のL-グルタミン酸濃度を測定した。両方法によるL-グルタミン酸濃度測定値の相関係数は0.936であった(図7)。
【0065】
[実施例11:乳酸比色測定用高吸水性ポリマービーズ(以下、「LACB」という)を用いた、目視による市販日本酒の乳酸濃度の簡易測定]
市販の日本酒12種類について、日本酒の10倍水希釈液に30分間浸したLACBの発色度を、乳酸標準液で発色したLACBに基づいて作成した色見本と目視で比較して、乳酸濃度の簡易数値化測定(n=5)を行った。別途、(株)エンザイム・センサ社製の乳酸測定キットにより、それら12種類の日本酒の乳酸濃度を測定した。両方法による乳酸濃度測定値の相関係数は0.920であった(図8)。
【0066】
[実施例12:グルコース比色測定用高吸水性ポリマービーズを用いた、目視による市販日本酒グルコース濃度の簡易測定]
市販の日本酒12種類について、日本酒の1000倍水希釈液に30分間浸したGCCB(実施例3で製造したもの)の発色度を、グルコース標準液で発色したGCCBに基づいて作成した色見本と目視で比較して、グルコース濃度の簡易数値化測定(n=5)を行った。別途、(株)エンザイム・センサ社製のグルコース測定キットにより、それら12種類の日本酒のグルコース濃度を測定した。両方法によるグルコース濃度測定値の相関係数は0.981であった(図9)。
【0067】
[実施例13:ピルビン酸比色測定用高吸水性ポリマービーズを用いた、目視による市販日本酒ピルビン酸濃度の簡易測定]
市販の日本酒12種類について、日本酒の10倍水希釈液に30分間浸したPVCB(実施例4で製造したもの)の発色度を、ピルビン酸標準液で発色したPVCBに基づいて作成した色見本と目視で比較して、ピルビン酸濃度の簡易数値化測定(n=5)を行った。別途、(株)エンザイム・センサ社製のピルビン酸測定キットにより、それら12種類の日本酒のピルビン酸濃度を測定した。両方法によるピルビン酸濃度測定値の相関係数は0.987であった(図10)。
【要約】
【課題】L-グルタミン酸、グルコース、乳酸及びピルビン酸などの食品成分又は生体成分を測定するための、高価な分析装置を必要とせず、視認性の高い方法、及びそのための材を提供する。
【解決手段】過酸化水素生成オキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、新トリンダー試薬、及びカプラー化合物が、高吸水性ポリマーに保持されてなる、試料溶液に浸漬し、吸水させ、発色させて用いるための、比色分析材;及びその材を試料溶液に浸漬し、膨潤させ、発色させた材(試料材)を得るが、このとき膨潤した材の内部で、成分に、過酸化水素生成オキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、カプラー化合物、及び新トリンダー試薬が作用し、色素が形成される工程、及び試料材と、色見本、又は標準溶液に浸漬し、吸水させ、発色させた材(標準材)とを、比色して試料溶液の成分の濃度を算出する工程を含む、過酸化水素生成オキシダーゼの基質である成分の分析方法を提供する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10