IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 杣 源一郎の特許一覧 ▶ 有限会社バイオメディカルリサーチグループの特許一覧

特許7521876抗老化用組成物、抗老化用製品、及びその製造方法
<>
  • 特許-抗老化用組成物、抗老化用製品、及びその製造方法 図1
  • 特許-抗老化用組成物、抗老化用製品、及びその製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】抗老化用組成物、抗老化用製品、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/10 20160101AFI20240717BHJP
   A61K 8/96 20060101ALI20240717BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240717BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240717BHJP
   A61K 35/15 20150101ALI20240717BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20240717BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240717BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
A23L33/10
A61K8/96
A61Q19/00
A61K45/00
A61K35/15
A61P3/00
A61P17/00
A61P43/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023572602
(86)(22)【出願日】2023-09-13
(86)【国際出願番号】 JP2023033382
【審査請求日】2023-11-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390025210
【氏名又は名称】杣 源一郎
(73)【特許権者】
【識別番号】500315024
【氏名又は名称】有限会社バイオメディカルリサーチグループ
(74)【代理人】
【識別番号】100110191
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和男
(72)【発明者】
【氏名】杣 源一郎
(72)【発明者】
【氏名】稲川 裕之
(72)【発明者】
【氏名】河内 千恵
(72)【発明者】
【氏名】田中 直子
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2004/019982(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/213743(WO,A1)
【文献】稲川裕之,マクロファージの抗老化ポテンシャル,自然免疫制御技術研究組合 第11回自然免疫シンポジウム「アンチエイジングと自然免疫」 講演要旨,2023年03月10日,p.1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/00-33/29
A61K 35/00-35/768
FSTA/CAplus/AGRICOLA/BIOSIS/
MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リポ多糖で刺激されたマクロファージから産生され、抗老化作用を持つことを特徴とする抗老化用組成物
【請求項2】
前記リポ多糖は、腸内細菌科の細菌由来であることを特徴とする請求項1記載の抗老化用組成物
【請求項3】
請求項1記載の抗老化用組成物を含むことを特徴とする抗老化用製品
【請求項4】
前記抗老化用製品は、食品、化粧品、スキンケア製品、サプリメント、医薬部外品又は医薬品であることを特徴とする請求項3記載の抗老化用製品
【請求項5】
前記抗老化用製品は、その形状が固体、液体、ゲル体、又はエアロゾルであることを特徴とする請求項3記載の抗老化用製品
【請求項6】
マクロファージをリポ多糖で刺激して、抗老化作用を持つ抗老化用組成物を製造することを特徴とする抗老化用組成物を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗老化用組成物、抗老化用製品、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
世界保健機構は2019年に、国際疾病分類11版において、老化(加齢による機能低下、認知症を除く)を病気だと定義した。老化が病気であるならば、予防や治療の対象となる。老化の予防又は治療(若返り)を総称して抗老化という。現在、老化の根本にある老化細胞の実態や老化していく原因・メカニズムについて精力的に研究が進められ、抗老化の手段が模索されている。
【0003】
細胞の老化の原因は多岐にわたる。例えば日常中の炎症、酸化ストレスやリソゾーム・ストレスなど様々なストレス、テロメア異常、ゲノムDNAのダメージなどによって誘導され得る。そこで、ゲノムDNAの修復に関与するサーチュインが注目され、さらにサーチュインの補酵素であり老化に伴って減少してくるNADの前駆体であるNMNが抗老化物質として脚光を浴びている(非特許文献1)。しかしながらNMNが老化を予防するメカニズムはまだ明確になったとはいえず、本当にNMNに老化予防効果があるかどうかに関しては不明な点が残されている。
【0004】
さらに、この方法には課題もある。即ちNADの減少は老化の結果なのか原因なのか不明であること、そして、NMNによる老化予防は足りないものを補うという発想で想起されたこと、などの理由でNMN経口投与に仮に老化予防効果があったとしても限定的ではないかと考えられる点である。加えて現時点で、NADを合成するに足りるNMNを経口的に摂取しようとすれば、非常に高価であることがあげられる。
【0005】
一方で、もし老化を本来生物が持っている細胞の能力で抑止できる方法があれば不足分を補うという考え方ではなく、本来細胞が持つ潜在能力を活用した広い意味での老化予防に資する食品や医薬品が創造できると考えられる。
【0006】
老化細胞ではp16(サイクリン依存性キナーゼ阻害因子2A)やp21(サイクリン依存性キナーゼ阻害因子1)という細胞周期を阻害する蛋白質が増加している(非特許文献2,3)。すなわち、老化細胞は細胞周期が停止している。
【0007】
ところで老化細胞は、SASP(Senescence-Associated Secretory Phenotype:細胞老化関連分泌現象)を引き起こし、周辺の若い細胞を老化させることがわかっている(非特許文献4)。老化細胞は、炎症性サイトカイン、ケモカイン、細胞外マトリックス分解酵素、細胞増殖因子や断片化したDNAなどを、エクソソームなどに包埋して細胞外に分泌し続ける(非特許文献5)。これら生体内異物が全身に慢性炎症を惹起し、さらなる老化細胞の増加につながっていく。そこで、現在は、抗老化の手段として、老化細胞を除去するセノリティクスというコンセプトが生まれている(非特許文献6)。
【0008】
免疫系は、外来異物や癌細胞だけでなく、老化細胞も監視し排除しようとするが、一部は免疫細胞の働きを抑制する免疫チェックポイント蛋白「PD-L1」を発現して、免疫系の監視排除機構を逃れている(非特許文献7)。これに対し、抗PD-1抗体を利用して免疫系による老化細胞の排除効率を高める研究がなされている(非特許文献7)。しかしながら、この方法の限界は免疫系が正常に機能することを前提としている点にある。免疫細胞も当然に老化するから、老化免疫細胞では老化細胞の効率的除去は望むべくもない。
【0009】
以上のように、老化の進行阻止に関しては、様々なアプローチがなされているが、主として、NMN摂取のように細胞老化の進行を遅くする方法と、抗PD-1抗体を使うような老化してしまった細胞を早く除去する2方法がある。これらのアプローチは総合的に用いられるべきものであろうが、もし老化を本来生物が持っている細胞の能力で制御(老化させない、又は若返り)できるならば、先に述べた二つの方法に比べるとより広い意味での老化予防や回復に資する食品や医薬品が創造できると考えられる。しかしながら、安全に、生体の細胞能力を制御して老化した細胞を若返らせる、又は、対SASP抵抗性の誘導などを行って老化を阻止することに関する研究は殆ど進んでいない。
【0010】
ところで、我々は、LPS(リポ多糖)の経口投与によって種々の難治疾患が予防改善されることを明らかにしてきた(非特許文献8)。この研究の中で、LPSを経口投与すると、脳内マイクログリアの性格が神経保護型に転換されることを見出している(非特許文献8)。LPSは通常体内に吸収される物質ではなく、マイクログリアの性格転換は、LPSの直接効果ではない。したがって、この結果は、LPSが粘膜のマクロファージ等自然免疫細胞に作用したのち、細胞の遊走、又は、分泌された何らかの液性因子によって、全身の細胞にシグナルを伝達していることを示唆している。我々はこのシステムをマクロファージネットワークと呼んでいる(非特許文献9)。このシステムが老化の予防や回復に有用であることを確認するため、分裂を重ねて老化した線維芽細胞又は老化細胞の培養上清を加えた若い細胞にLPSで刺激したマクロファージの培養液を加えて若返りや老化予防が起こるかについて研究を重ねた。
【0011】
その結果、老化細胞の特徴であるp16とp21の発現が低下し細胞が若返ること、加えて老化細胞のSASPの影響を受けて通常は老化が促進される若い細胞が、LPSで刺激したマクロファージの培養液を同時に加えることで、老化予防が達成されることを見出して本発明を完成させたものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【文献】K. F. Mills et al., “Long-Term Administration of Nicotinamide Mononucleotide Mitigates Age-Associated Physiological Decline in Mice”, Cell Metabolism, 2016.12, 24(6), p.795-806
【文献】J. Krishnamurthy et al., “Ink4a/Arf expression is a biomarker of aging”, The Journal of Clinical Investigation, 2004.11, 114(9), p.1299-1307
【文献】X. Chen et al., “Senescence-like changes induced by expression of p21Waf1/Cip1 in NIH3T3 cell line”, Cell Research, 2002.09, 12(3-4), p.229-233
【文献】G. Nelson et al., “A senescent cell bystander effect: senescence-induced senescence”, Aging Cell, 2012.02, 11(2), p.345-349
【文献】三澤知香 外、「老化細胞が分泌する細胞外小胞の機能」、Drug Delivery System、2021.06、36(2)、p.130-137
【文献】Y. Zhu et al., “The Achilles' heel of senescent cells: from transcriptome to senolytic drugs”, Aging Cell, 2015.03, 14(4), p.644-658
【文献】TW. Wang et al., “Blocking PD-L1-PD-1 improves senescence surveillance and ageing phenotypes”, Nature, 2022.11, 611, p.358-364
【文献】H. Mizobuchi, “Oral route lipopolysaccharide as a potential dementia preventive agent inducing neuroprotective microglia”, Frontiers in Immunology, 2023.03.09, 14https://doi.org/10.3389/fimmu.2023.1110583
【文献】C. Kohchi et al., “Applications of Lipopolysaccharide Derived from Pantoea agglomerans (IP-PA1) for Health Care Based on Macrophage Network Theory”, Journal of Bioscience and Bioengineering, 2006.12, 102(6), p.485-496
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
老化した細胞を若返らせる、又は、対SASP抵抗性の誘導などを行って老化を阻止する産生物、及び、これを含む食品、化粧品、医薬品等を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の抗老化用組成物は、リポ多糖で刺激されたマクロファージから産生され、抗老化作用を持つことを特徴とする。
また、前記リポ多糖は、腸内細菌科の細菌由来であってよい。
また、本発明の抗老化用製品は、前記抗老化産生物を含むことを特徴とする。
また、前記抗老化用製品は、食品、化粧品、スキンケア製品、サプリメント、医薬部外品又は医薬品であることが好ましい。
また、前記抗老化用製品は、その形状が固体、液体、ゲル体、又はエアロゾルであることが好ましい。
本発明の、抗老化用組成物を製造する方法は、マクロファージをリポ多糖で刺激して、抗老化作用を持つ抗老化用組成物を製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
従来、抗老化の手段として、細胞老化の進行を遅くする方法や、老化してしまった細胞を早く除去する方法が報告されている。一方、本発明では、LPSで刺激したマクロファージから産生される因子群を使うことで、老化した細胞を若返らせ、また老化細胞が若い細胞に与える老化を阻止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】各NB1RGB細胞の各遺伝子発現。p16(A)、p21(B)、Ki-67(C)。
図2】各NB1RGB細胞の各遺伝子発現。p16(A)、p21(B)、Ki-67(C)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、以下の実施例に制限されるものではない。
【実施例1】
【0018】
[老化した線維芽細胞にLPSで刺激したマクロファージの培養液を加える実験]
(1)材料と方法
1)細胞培養
【0019】
ヒト皮膚線維芽細胞株NB1RGB PDL14.9(以下「young細胞」という」)及びPDL53.9(以下「old細胞」という)(理研BRC細胞バンク)を、10%ウシ胎児血清(FBS)を含むMinimum Essential Mediumα(MEMα)で継代維持した。試験開始3日前に培地を、10%FBSを含むEagle’s Minimum Essential Medium(EMEM)に変更して試験を行った。
【0020】
2)コンディションドメディウム(conditioned medium)の調製
ヒトマクロファージ細胞株THP-1(ATCC)を10%FBS含むRPMI-1640で培養した。THP-1を1 x 106cells/mLで播種し、パントエアアグロメランス由来のLPS(LPSp)を終濃度100ng/mLとなるよう添加し、24時間後に培養上清を回収した。このLPSpを添加した培養上清をTHP/LPS-CMと表記する。また、コントロールとして、LPSpを添加していないTHP-1の培養上清も回収した。この培養上清をTHP-CMと表記する。
【0021】
3)RNA抽出及びリアルタイム定量PCR(RT-qPCR)
young細胞(n=3)とold細胞(n=9)を3 x 105/3mL/ウェルで6ウェルプレートに播種した。24時間前培養し、下記のように培地交換を行った。
・young細胞群:young細胞の3ウェルは、新しいEMEMで置換した。
・old細胞群:old細胞の3ウェルは、新しいEMEMで置換した。
・old+THP-CM群:old細胞の別の3ウェルは、EMEMとTHP-CMを1:1で混合した培地で置換した。
・old+THP/LPS-CM群:old細胞の別の3ウェルは、EMEMとTHP/LPS-CMを1:1で混合した培地で置換した。
その後、いずれも24時間培養した。
【0022】
young細胞とold細胞のトータルRNAは、Fast Gene(TM) RNA Basic Kit(日本ジェネティクス)を使用して、製造元のプロトコルに従って抽出した。260nmの吸光度によってRNAを定量化し、cDNAはTOYOBO ReverTra Ace(TM) qPCR RTマスターミックスとrDNAリムーバー(東洋紡株式会社)を使用して合成した。実験に使用したp16、p21、Ki-67、及びGAPDHのプライマーは、株式会社ファスマックで作成した。Ki-67は増殖細胞のマーカーである。
【0023】
RT-qPCRはTHUNDERBIRDTM SYBR(TM) qPCR Mix(東洋紡株式会社)を使用した。PCR条件は95℃で1分間反応後、95℃で15秒間、60℃で1分間を45サイクル、最後に95℃で1分間、55℃で30秒間、95℃で30秒間と設定した。内部標準にはglyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase(GAPDH)を用い、結果は、young細胞に対する相対的な倍率変化として示した。
【0024】
4)統計解析
RT-qPCRの統計解析は、BellCurve for Excel (ver. 4.04, Social survey research information)を用いてANOVAとそれに続くTukey-Kramerの多重比較検定をおこなった。p <0.05を有意とした。
【0025】
(2)結果
p16及びp21はサイクリン依存性キナーゼ阻害因子であり、細胞周期の進行に関与し、それぞれ老化マーカーの1つといわれている。いずれも増加により細胞周期を停止させる。また、Ki-67は増殖細胞のマーカーであり、その増加により細胞の若返りをもたらす。そこでまず、young細胞群、old細胞群、old+THP-CM群及びold+THP/LPS-CM群における3種類の遺伝子(p21、p16、Ki-67)の発現を検討した。
【0026】
結果を図1に示した。p16は、young細胞群と比較してold細胞群及びold+THP-CM群では有意に増加した(それぞれp=0.001、p<0.001)。old+THP/LPS-CM群は、old細胞群、old+THP-CM群のいずれと比較しても有意に減少した(それぞれp=0.023、p=0.003)。young細胞群とold+THP/LPS-CM群との間に有意差はみられなかった。old細胞群とold+THP-CM群との間にも有意差はみられなかった(図1A)。
【0027】
p21は、young細胞群と比較してold細胞群及びold+THP-CM群では有意に増加した(いずれもp<0.001)。old+THP/LPS-CM群は、old細胞群、old+THP-CM 群のいずれと比較しても有意に減少した(いずれもp<0.001)。young細胞群とold+THP/LPS-CM群との間に有意差はみられなかった。old細胞群とold+THP-CM群との間にも有意差はみられなかった(図1B)。
【0028】
Ki-67は、young細胞群と比較してold細胞群及びold+THP-CM群では有意に減少した(いずれもp<0.001)。old+THP/LPS-CM群は、young細胞群より低値ではあるが、old細胞群、old+THP-CM群のいずれと比較しても有意に増加した(いずれもp<0.001)。old細胞群とold+THP-CM群との間に有意差はみられなかった(図1C)。
【0029】
以上より、発現遺伝子レベルでold細胞群及びold+THP-CM群はyoung細胞群より老化が進行していることがわかる。THP/LPS-CM添加によりold細胞のp16、p21は減少し、Ki-67は増加してyoung細胞の状態に近くなった。なお、old細胞群にLPSp(終濃度100ng/mL)を添加後24時間での、p16、p21、Ki-67の遺伝子発現パターンは、何も添加しないレベルに対し有意差はなかった。これらのことから、LPSそのものではなく、LPSで刺激したマクロファージが分泌する因子が、細胞の若返りをもたらすことが示された。
【実施例2】
【0030】
[分裂を重ねて老化した線維芽細胞の培養上清を加えた若い細胞に、LPSで刺激したマクロファージの培養液を加える実験]
(1)方法
1)細胞培養及び老化誘導用培養上清調製
【0031】
ヒト皮膚線維芽細胞株NB1RGB PDL14.9(以下「young細胞」という)及びPDL61.9(以下「old細胞」という)(理研BRC細胞バンク)を、10%FBSを含むMinimum Essential Mediumα(MEMα)で継代維持した。young細胞は試験開始3日前に培地を10%FBSを含むEMEMに置換した。old細胞は、培地を10%FBSを含むEMEMに置換し、7日後に培養上清を回収した。培養上清を0.2μmフィルターでろ過し、ろ過液(以下「old sup」という)をyoung細胞の老化誘導に用いた。
【0032】
2)コンディションドメディウムの調製
実施例1(1)2)に同じ。
【0033】
3)RNA抽出及びリアルタイム定量PCR(RT-qPCR)
young細胞(n=21)を3 x 105/3mL/ウェルで6ウェルプレートに播種した。24時間前培養し、下記のように培地交換を行った。
・old sup群:3ウェルは、培地をold supに置換した。
・old sup+THP-CM群:old supとTHP-CMを1:1で混合した培地に3ウェル置換した(Ki-67は未実施)。
・1、10、100、1000ng/mL群:old supと1、10、100、1000ng/mL各濃度のTHP/LPS-CMを1:1でそれぞれ混合した培地に3ウェルずつ置換した(Ki-67は100ng/mLのみ)。
・young細胞群:残りの3ウェルは、コントロールとしてEMEMを置換した。
【0034】
いずれも24時間培養した。
トータルRNA及びRT-qPCRは、使用したプライマーは、実施例1(1)3)と同じ。ただし、Ki-67のRT-qPCRは行っていない。
【0035】
5)統計解析
実施例1(1)4)に同じ。
【0036】
(2)結果
老化マーカーの1つといわれる、p16、p21、及び増殖細胞のマーカーであるKi-67の遺伝子の発現を図2に示した。
【0037】
p16は、young細胞群と比較してold sup群及びold sup+THP-CM群では有意に増加した(それぞれp=0.003、p<0.001)。old sup+THP/LPS-CM群のすべての濃度においてold sup群、old sup+THP-CM群のいずれと比較しても有意に減少した(いずれもp<0.05)。young細胞群とold sup+THP/LPS-CM群との間に有意差はみられなかった。old細胞群とold sup+THP-CM群との間にも有意差はみられなかった。old sup+THP/LPS-CM群間で比較をすると、1 ng/mL群と100 ng/mL群、1000 ng/mL群との間にそれぞれ有意差がみられ(いずれもp<0.05)、100 ng/mL群、1000 ng/mL群でそれぞれ減少した。10 ng/mL以上添加した場合では有意差はみられなかった(図2A)。
【0038】
p21は、young細胞群と比較してold sup群及びold sup+THP-CM群では有意に増加した(いずれもp<0.001)。old sup+THP/LPS-CM群のすべての濃度においてold sup群、old sup+THP-CM群のいずれと比較しても有意に減少した(いずれもp<0.001)。young細胞群とold sup+THP/LPS-CM群との間では、10、100、1000ng/mL群との間にそれぞれ有意差がみられ(それぞれp=0.002、p=0.002、p=0.001)、old sup+THP/LPS-CM群で減少した。old細胞群とold sup+THP-CM群との間に有意差はみられなかった。old sup+THP/LPS-CM群間においても有意差はみられなかった(図2B
【0039】
Ki-67は、young細胞群と比較してold sup細胞群では有意に減少した(p<0.001)。old sup+THP/LPS-CM群は、old sup細胞群と比較して有意に増加した(p<0.001)。young細胞群とold sup+THP/LPS-CM群との間に有意差はみられなかった(図2C)。
【0040】
以上より、old sup群及びold sup+THP-CM群は、young細胞群よりp16及びp21の遺伝子発現レベルが増加し、老化が進行していることがわかる。しかし、young細胞にold細胞の培養上清と同時にTHP/LPS-CMを添加することにより、p16及びp21の発現は減少し、Ki-67の発現は増加した。このことは、THP/LPS-CMが、young細胞のold細胞培養上清による老化を抑制した結果と考えられる。なお、young細胞群にold supとLPSp(終濃度100ng/mL)を添加後24時間でのp16、p21、Ki-67の遺伝子発現パターンは、old sup細胞群と比較して有意差はなかった。これらのことから、LPSそのものではなく、LPSで刺激したマクロファージが分泌する因子が、細胞の老化抑制をもたらすことが示された。
【0041】
[応用例]
以上の実施例から、マクロファージをリポ多糖で刺激して、抗老化作用を持つ抗老化産生物を製造することができることが分かる。
【0042】
リポ多糖のマクロファージに対する作用は多くのリポ多糖で知られており、そのリポ多糖はパントエアアグロメランス由来のものに限られず、広く腸内細菌科の細菌由来のリポ多糖でよい。
その抗老化製品は、食品、化粧品、スキンケア製品、サプリメント、医薬部外品及び医薬品であってよい。
その抗老化製品は、その形状が固体、液体、ゲル体、又はエアロゾルであってよい。
【0043】
本明細書で引用したすべての刊行物は、そのまま参考として、ここにとり入れるものとする。
【要約】
老化した細胞を若返らせる、又は、対SASP抵抗性の誘導などを行って老化を阻止する産生物、及び、これを含む食品、化粧品、医薬品等を提供する。リポ多糖で刺激されたマクロファージから産生され、抗老化作用を持つ抗老化産生物、その抗老化産生物を含む抗老化製品、例えば、食品、化粧品、スキンケア製品、サプリメント、医薬部外品又は医薬品。また、その抗老化産生物の製造方法。
図1
図2