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特許7521900濃度検出プログラム及び濃度検出システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】濃度検出プログラム及び濃度検出システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20240717BHJP
   G01N 29/024 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
G01N33/543 593
G01N29/024
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020003013
(22)【出願日】2020-01-10
(65)【公開番号】P2021110649
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2023-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】小貝 崇
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-081359(JP,A)
【文献】特開2017-009493(JP,A)
【文献】特開2010-216982(JP,A)
【文献】特開2005-043352(JP,A)
【文献】特開2008-122105(JP,A)
【文献】特開2017-049257(JP,A)
【文献】特開平10-111248(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/543
G01N 29/024
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応物質との飽和反応を示す検出対象物質の濃度を検出する弾性表面波センサにおいて、前記検出対象物質の負荷開始時刻を基準として、第1時刻を含む第1期間での出力信号の変化速度と、前記第1時刻より遅い第2時刻を含む前記第1期間より長い第2期間での出力信号の変化速度と、の間の比率を算出する変化速度比率算出ステップと、
前記第1時刻を含む前記第1期間での出力信号の変化速度と、前記第1時刻より遅い前記第2時刻を含む前記第1期間より長い前記第2期間での出力信号の変化速度と、の間の比率について、前記変化速度比率算出ステップにおいて算出した値と、前記変化速度比率算出ステップに先立ち決定した閾値と、の間の大小関係に基づいて、前記検出対象物質の濃度の増加に伴う前記第1時刻を含む前記第1期間での出力信号の変化速度の飽和があるかどうかを判定する変化速度飽和判定ステップと、
を順にコンピュータに実行させ
前記第1時刻を含む前記第1期間での出力信号の変化速度と、前記第1時刻より遅い前記第2時刻を含む前記第1期間より長い前記第2期間での出力信号の変化速度と、の間の比率について、前記変化速度比率算出ステップに先立ち決定した閾値は、前記第1時刻を含む前記第1期間での出力信号の変化速度が、前記検出対象物質の濃度の増加に伴い、直線的に変化する領域を超えて飽和し始める前記検出対象物質の濃度での当該比率である
ことを特徴とする濃度検出プログラム。
【請求項2】
前記検出対象物質の濃度の増加に伴う前記第1時刻を含む前記第1期間での出力信号の変化速度の飽和がないと判定されたときには、前記第1時刻を含む前記第1期間での出力信号の変化速度と前記検出対象物質の濃度との間の関係を示す検量線に基づいて、又は、前記第1時刻より遅い前記第2時刻を含む前記第1期間より長い前記第2期間での出力信号の変化速度と前記検出対象物質の濃度との間の関係を示す検量線に基づいて、前記検出対象物質の濃度を検出する濃度検出ステップを、前記変化速度飽和判定ステップの後に備える
ことを特徴とする、請求項1に記載の濃度検出プログラム。
【請求項3】
前記検出対象物質の濃度の増加に伴う前記第1時刻を含む前記第1期間での出力信号の変化速度の飽和があると判定されたときには、前記第1時刻を含む前記第1期間及び前記第1時刻より遅い前記第2時刻を含む前記第1期間より長い前記第2期間での出力信号の変化速度の間の比率と前記検出対象物質の濃度との間の関係を示す検量線に基づいて、前記検出対象物質の濃度を検出する濃度検出ステップを、前記変化速度飽和判定ステップの後に備える
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の濃度検出プログラム。
【請求項4】
前記変化速度飽和判定ステップでは、前記第1時刻より遅い前記第2時刻を含む前記第1期間より長い前記第2期間での出力信号の変化速度が、前記変化速度比率算出ステップに先立ち決定した閾値より小さいときには、前記検出対象物質の濃度の増加に伴う前記第1時刻を含む前記第1期間での出力信号の変化速度の飽和があるかどうかの判定を中止する
ことを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の濃度検出プログラム。
【請求項5】
前記検出対象物質は、抗原であり、前記反応物質は、抗体である
ことを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の濃度検出プログラム。
【請求項6】
前記検出対象物質は、抗原であり、前記反応物質は、サンドイッチアッセイ法の1次抗体及び2次抗体である
ことを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の濃度検出プログラム。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の濃度検出プログラムを格納する濃度検出装置と、前記弾性表面波センサと、を備えることを特徴とする濃度検出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、反応物質との飽和反応を示す検出対象物質の濃度を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
弾性表面波センサを用いる濃度検出技術が、特許文献1等に開示されている。抗原ダイレクト法による抗原濃度検出方法を図1に示す。サンドイッチアッセイ法による抗原濃度検出方法を図2に示す。一般的な濃度検出方法を図3に示す。
【0003】
図1では、検出対象物質は、抗原AGであり、反応物質は、抗体ABである。弾性表面波センサ1は、抗体ABを固定した検出領域11と、弾性表面波を送信/反射/受信する櫛形電極12、13と、を備える。基準物質は、検出領域11に予め負荷されることなく、検出対象物質の抗原AGが、検出領域11に負荷される。抗原AGは、抗体ABと反応するため、検出領域11での固着重量は、時間変化し、弾性表面波センサ1の出力信号(位相又は振幅)も、時間変化する。所定時刻までの出力信号の変化量は、抗原AGの濃度に対して単調変化するため、これらの間の関係を示す検量線に基づいて、抗原AGの濃度を検出することができる。
【0004】
図2では、検出対象物質は、抗原AGであり、反応物質は、サンドイッチアッセイ法の1次抗体AB1及び2次抗体AB2である。弾性表面波センサ1は、サンドイッチアッセイ法の1次抗体AB1を固定した検出領域11と、弾性表面波を送信/反射/受信する櫛形電極12、13と、を備える。基準物質は、検出領域11に予め負荷されることなく、検出対象物質の抗原AG及び反応物質のサンドイッチアッセイ法の2次抗体AB2が、検出領域11に負荷される。抗原AGは、サンドイッチアッセイ法の2次抗体AB2と反応したうえで、サンドイッチアッセイ法の1次抗体AB1と反応するため、検出領域11での固着重量は、時間変化し、弾性表面波センサ1の出力信号(位相又は振幅)も、時間変化する。所定時刻までの出力信号の変化量は、抗原AGの濃度に対して単調変化するため、これらの間の関係を示す検量線に基づいて、抗原AGの濃度を検出することができる。
【0005】
図3では、検出対象物質は、化学物質M1であり、反応物質は、化学物質M2である。弾性表面波センサ1は、何も固定しない検出領域11と、弾性表面波を送信/反射/受信する櫛形電極12、13と、を備える。基準物質は、検出領域11に予め負荷されることなく、検出対象物質の化学物質M1及び反応物質の化学物質M2が、検出領域11に負荷される。化学物質M1及び化学物質M2は、化学物質M3に変化するため、検出領域11での粘弾性は、時間変化し、弾性表面波センサ1の出力信号(位相又は振幅)も、時間変化する。所定時刻までの出力信号の変化量は、化学物質M1の濃度に対して単調変化するため、これらの間の関係を示す検量線に基づいて、化学物質M1の濃度を検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-009492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術の抗原濃度検出方法を図4から図6までに示す。図4では、具体例として、抗原ダイレクト法による抗原濃度検出方法を用いている。図5及び図6では、具体的として、サンドイッチアッセイ法による抗原濃度検出方法を用いている。
【0008】
図4の上段では、負荷開始時刻から10秒後までの出力信号の位相変化量を示す。図4の下段では、負荷開始時刻から40秒後までの出力信号の位相変化量を示す。負荷開始時刻から10秒後又は40秒後までの出力信号の位相変化量は、図1の下段と同様に、抗原AGの濃度が増加するに伴って、抗原AGの濃度と相関して増加するが、図1の下段と異なり、抗原AGの濃度がさらに増加するに伴って、抗原AGの濃度と逆相関して減少する。よって、負荷開始時刻から10秒後又は40秒後までの出力信号の位相変化量に基づいて、抗原AGの濃度を正確に検出することができない。以下に、その理由を説明する。
【0009】
まず、基準物質が検出領域11に予め負荷されることなく、抗原AGが検出領域11に負荷される場合を考える。負荷開始時刻近傍では、溶媒による検出領域11での粘弾性の瞬時変化と、抗原AGによる検出領域11での固着重量の時間変化と、が生じる。ここで、溶媒のみを含む基準物質による検出領域11での粘弾性の瞬時変化は、予め検出されていない。よって、負荷開始時刻近傍では、溶媒による検出領域11での粘弾性の瞬時変化を除去したうえで、抗原AGによる検出領域11での固着重量の時間変化を抽出することができない。そして、出力信号のサンプリングレートが低いときには、抗原AGによる検出領域11での固着重量の時間変化を正確に抽出することができない。このことは、抗原AGの濃度が高く検出領域11での固着重量の時間変化が速いときには、抗原AGの濃度が低く検出領域11での固着重量の時間変化が遅いときより、顕著になる。
【0010】
次に、基準物質が検出領域11に予め負荷されたうえで、抗原AGが検出領域11に後に負荷される場合を考える。後の負荷開始時刻では、溶媒による検出領域11での粘弾性の瞬時変化と、抗原AGによる検出領域11での固着重量の時間変化と、が生じる。ここで、溶媒のみを含む基準物質による検出領域11での粘弾性の瞬時変化は、予め検出されている。よって、後の負荷開始時刻近傍では、溶媒による検出領域11での粘弾性の瞬時変化を除去したうえで、抗原AGによる検出領域11での固着重量の時間変化を抽出することができる。しかし、出力信号のサンプリングレートが低いときには、抗原AGによる検出領域11での固着重量の時間変化を正確に抽出することができない。このことは、抗原AGの濃度が高く検出領域11での固着重量の時間変化が速いときには、抗原AGの濃度が低く検出領域11での固着重量の時間変化が遅いときより、顕著になる。
【0011】
つまり、基準物質が検出領域11に予め負荷されない場合でも、基準物質が検出領域11に予め負荷される場合でも、抗原AGの濃度が高いときには、抗原AGの負荷開始時刻近傍では、抗原AGによる検出領域11での固着重量の時間変化を正確に抽出することができない。よって、図4に示したように、負荷開始時刻から所定時刻までの出力信号の位相変化量は、抗原AGの濃度が増加するに伴って、抗原AGの濃度と相関して増加するが、抗原AGの濃度がさらに増加するに伴って、抗原AGの濃度と逆相関して減少する。
【0012】
ここで、基準物質が検出領域11に予め負荷される場合では、基準物質を検出対象物質に置換する必要があるが、基準物質及び検出対象物質が微量であり難しく、又は、基準物質に検出対象物質を混和する必要があるが、検出対象物質を希薄にするため望ましくない。一方で、基準物質が検出領域11に予め負荷されない場合では、基準物質を検出対象物質に置換する必要がなく、又は、基準物質に検出対象物質を混和する必要がなく、検出対象物質が検出領域11に負荷されるのみでよい。そこで、基準物質が検出領域11に予め負荷されない場合を採用する。
【0013】
ここで、負荷開始時刻から所定時刻までの出力信号の位相変化量は、負荷開始時刻近傍での出力信号の測定精度に大きく依存する。一方で、所定時刻での出力信号の位相変化速度は、負荷開始時刻近傍での出力信号の測定精度にあまり依存しない。そこで、所定時刻での出力信号の位相変化速度に基づいて、抗原AGの濃度を検出することが考えられる。
【0014】
具体的には、図4の上段に示したように、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の位相変化速度は、抗原AGの濃度が高いときでも、完全に飽和していない。そこで、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の位相変化速度に基づいて、抗原AGの濃度が高いときでも、飽和を防止して抗原AGの濃度を検出することが考えられる。その一方で、図4の下段に示したように、より遅い時刻を含むより長い期間での出力信号の位相変化速度は、抗原AGの濃度が低いときでも、十分に有限値となる。そこで、より遅い時刻を含むより長い期間での出力信号の位相変化速度に基づいて、抗原AGの濃度が低いときでも、S/Nを改善して抗原AGの濃度を検出することが考えられる。
【0015】
なお、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の位相変化速度は、負荷開始時刻のごく近傍からより早い時刻までの出力信号の位相変化速度でもよく、より早い時刻のごく近傍の出力信号の位相変化速度でもよい。また、より遅い時刻を含むより長い期間での出力信号の位相変化速度は、負荷開始時刻のごく近傍からより遅い時刻までの出力信号の位相変化速度でもよく、より遅い時刻からその後の長時間後の時刻までの出力信号の位相変化速度でもよい。そして、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の位相変化速度に基づく抗原AGの高濃度検出と、より遅い時刻を含むより長い期間での出力信号の位相変化速度に基づく抗原AGの低濃度検出と、を抗原AGの中間濃度で切り替えるにあたり、前者に基づく抗原AGの中間濃度検出と、後者に基づく抗原AGの中間濃度検出と、がほぼ一致することが望ましい。
【0016】
図5の上段では、負荷開始時刻から10秒後までの出力信号の位相変化量を示す。負荷開始時刻から10秒後までの出力信号の位相変化量は、図2の下段と同様に、抗原AGの濃度が増加するに伴って、抗原AGの濃度と相関して増加するが、図2の下段と異なり、抗原AGの濃度がさらに増加するに伴って、抗原AGの濃度と逆相関して減少する。
【0017】
そこで、所定時刻での出力信号の位相変化速度に基づいて、抗原AGの濃度を検出する。ここで、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の位相変化速度は、負荷開始時刻のごく近傍から1.5秒後までの出力信号の位相変化速度である。そして、より遅い時刻を含むより長い期間での出力信号の位相変化速度は、負荷開始時刻のごく近傍から4.0秒後までの出力信号の位相変化速度である。
【0018】
図6の上段では、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の位相変化速度を示す。より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の位相変化速度は、抗原AGの濃度が増加するに伴って、抗原AGの濃度と相関して増加するが、抗原AGの濃度がさらに増加するに伴って、抗原AGの濃度と相関せず飽和/減少する。よって、抗原AGの濃度が高いときでは、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の位相変化速度に基づいて、抗原AGの濃度を正確に検出することができない。
【0019】
図6の下段では、より遅い時刻を含むより長い期間での出力信号の位相変化速度を示す。より遅い時刻を含むより長い期間での出力信号の位相変化速度は、抗原AGの濃度が増加するに伴って、抗原AGの濃度と相関して増加するが、抗原AGの濃度がさらに増加するに伴って、抗原AGの濃度とあまり相関せず飽和する。よって、抗原AGの濃度が高いときでは、より遅い時刻を含むより長い期間での出力信号の位相変化速度に基づいて、抗原AGの濃度を正確に検出することができない。
【0020】
以下に、その理由を説明する。第1の理由として、抗原ダイレクト法、サンドイッチアッセイ法又は一般的な濃度検出方法において、抗原AG又は化学物質M1の濃度が高いときには、負荷開始時刻近傍では、抗原AG又は化学物質M3による検出領域11での固着重量又は粘弾性の時間変化を正確に抽出することができない。
【0021】
ここで、さらに早い時刻での出力信号の位相変化速度は、抗原AGの濃度が高いときでも、完全に飽和していないと考えられる。そこで、さらに早い時刻での出力信号の位相変化速度に基づいて、抗原AGの濃度を検出することが考えられる。例えば、さらに早い時刻での出力信号の位相変化速度は、負荷開始時刻のごく近傍から0.5秒後までの出力信号の位相変化速度である。しかし、さらに早い時刻での出力信号の位相変化速度は、負荷開始時刻近傍での出力信号の測定精度に大きく依存すると考えられる。そこで、さらに早い時刻での出力信号の位相変化速度に基づいて、抗原AGの濃度を検出することは採用しない。
【0022】
第2の理由として、抗原ダイレクト法又はサンドイッチアッセイ法において、抗原AGの濃度が高いときには、抗体AB又は1次抗体AB1のセンサ表面上重量が不足するため、抗原AGによる検出領域11での固着重量の時間変化が抑制されてしまう。
【0023】
第3の理由として、サンドイッチアッセイ法において、抗原AGの濃度が高いときには、2次抗体AB2の検体溶液内濃度が不足するため(フック現象)、抗原AG及び2次抗体AB2の結合体による検出領域11での固着重量の時間変化が抑制されてしまう。
【0024】
弾性表面波センサにおける解決課題は、他の濃度検出センサにおいても存在する。ここで、他の濃度検出センサとして、電極センサ、半導体センサ、受光センサ、感熱センサ、圧電センサ、サーミスタセンサ、カンチレバーセンサ、イオン感応性FETセンサ及び水晶振動子センサ等がある。そして、出力信号として、物質変化、色変化、吸熱変化、発熱変化、質量変化、抵抗変化及び容量変化等を反映する電気信号等がある。
【0025】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、反応物質との飽和反応を示す検出対象物質の濃度を検出する濃度検出センサを用いて、(1)検出対象物質の濃度が高いときでは、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の変化速度の飽和を判定すること、及び、(2)検出対象物質の濃度が高いときでも、検出対象物質の濃度を検出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
前記課題を解決するために、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の変化速度と、より遅い時刻を含むより長い期間での出力信号の変化速度と、の間の比率について、濃度検出段階において算出した値と、検量線算出段階において決定した閾値と、の間の大小関係に基づいて、検出対象物質の濃度の増加に伴うより早い時刻を含むより短い期間での出力信号の変化速度の飽和があるかどうかを判定する。
【0027】
具体的には、本開示は、反応物質との飽和反応を示す検出対象物質の濃度を検出する濃度検出センサにおいて、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の変化速度と、より遅い時刻を含むより長い期間での出力信号の変化速度と、の間の比率を算出する変化速度比率算出ステップと、前記より早い時刻を含む前記より短い期間での出力信号の変化速度と、前記より遅い時刻を含む前記より長い期間での出力信号の変化速度と、の間の比率について、前記変化速度比率算出ステップにおいて算出した値と、前記変化速度比率算出ステップに先立ち決定した閾値と、の間の大小関係に基づいて、前記検出対象物質の濃度の増加に伴う前記より早い時刻を含む前記より短い期間での出力信号の変化速度の飽和があるかどうかを判定する変化速度飽和判定ステップと、を順にコンピュータに実行させるための濃度検出プログラムである。
【0028】
この構成によれば、反応物質との飽和反応を示す検出対象物質の濃度を検出する濃度検出センサを用いて、検出対象物質の濃度が高いときでは、検出対象物質の濃度の検出に先立ち、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の変化速度の飽和を判定することができる。
【0029】
また、本開示は、前記より早い時刻を含む前記より短い期間での出力信号の変化速度と、前記より遅い時刻を含む前記より長い期間での出力信号の変化速度と、の間の比率について、前記変化速度比率算出ステップに先立ち決定した閾値は、前記より早い時刻を含む前記より短い期間での出力信号の変化速度が飽和し始める前記検出対象物質の濃度での値であることを特徴とする濃度検出プログラムである。
【0030】
この構成によれば、反応物質との飽和反応を示す検出対象物質の濃度を検出する濃度検出センサを用いて、検出対象物質の濃度が高いときでは、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の変化速度の飽和を高精度で判定することができる。
【0031】
また、本開示は、前記検出対象物質の濃度の増加に伴う前記より早い時刻を含む前記より短い期間での出力信号の変化速度の飽和がないと判定されたときには、前記より早い時刻を含む前記より短い期間での出力信号の変化速度と前記検出対象物質の濃度との間の関係を示す検量線に基づいて、又は、前記より遅い時刻を含む前記より長い期間での出力信号の変化速度と前記検出対象物質の濃度との間の関係を示す検量線に基づいて、前記検出対象物質の濃度を検出する濃度検出ステップを、前記変化速度飽和判定ステップの後に備えることを特徴とする濃度検出プログラムである。
【0032】
この構成によれば、反応物質との飽和反応を示す検出対象物質の濃度を検出する濃度検出センサを用いて、検出対象物質の濃度が低いときでは、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の変化速度の不飽和の判定を受け、検出対象物質の濃度を検出することができる。
【0033】
また、本開示は、前記検出対象物質の濃度の増加に伴う前記より早い時刻を含む前記より短い期間での出力信号の変化速度の飽和があると判定されたときには、前記より早い時刻を含む前記より短い期間及び前記より遅い時刻を含む前記より長い期間での出力信号の変化速度の間の比率と前記検出対象物質の濃度との間の関係を示す検量線に基づいて、前記検出対象物質の濃度を検出する濃度検出ステップを、前記変化速度飽和判定ステップの後に備えることを特徴とする濃度検出プログラムである。
【0034】
この構成によれば、反応物質との飽和反応を示す検出対象物質の濃度を検出する濃度検出センサを用いて、検出対象物質の濃度が高いときでは、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の変化速度の飽和の判定を受け、検出対象物質の濃度を検出することができる。
【0035】
また、本開示は、前記変化速度飽和判定ステップでは、前記より遅い時刻を含む前記より長い期間での出力信号の変化速度が、前記変化速度比率算出ステップに先立ち決定した閾値より小さいときには、前記検出対象物質の濃度の増加に伴う前記より早い時刻を含む前記より短い期間での出力信号の変化速度の飽和があるかどうかの判定を中止することを特徴とする濃度検出プログラムである。
【0036】
この構成によれば、検出対象物質の濃度が極度に低いときでは、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の変化速度がノイズを含むときには、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の変化速度と、より遅い時刻を含むより長い期間での出力信号の変化速度と、の間の比率はその影響を受けるところ、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の変化速度の飽和の誤判定を高精度で防止することができる。
【0037】
また、本開示は、前記検出対象物質は、抗原であり、前記反応物質は、抗体であることを特徴とする濃度検出プログラムである。
【0038】
この構成によれば、抗原ダイレクト法を用いて、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の変化速度の飽和を判定することができ、抗原濃度を検出することができる。
【0039】
また、本開示は、前記検出対象物質は、抗原であり、前記反応物質は、サンドイッチアッセイ法の1次抗体及び2次抗体であることを特徴とする濃度検出プログラムである。
【0040】
この構成によれば、サンドイッチアッセイ法を用いて、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の変化速度の飽和を判定することができ、抗原濃度を検出することができる。
【0041】
また、本開示は、前記濃度検出センサは、弾性表面波センサであることを特徴とする濃度検出プログラムである。
【0042】
この構成によれば、弾性表面波センサを用いて、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の変化速度の飽和を判定することができ、検出対象物質の濃度を検出することができる。
【0043】
また、本開示は、以上に記載の濃度検出プログラムを格納する濃度検出装置と、前記濃度検出センサと、を備えることを特徴とする濃度検出システムである。
【0044】
この構成によれば、以上に記載の効果を有するシステムを構築することができる。
【発明の効果】
【0045】
このように、本開示は、反応物質との飽和反応を示す検出対象物質の濃度を検出する濃度検出センサを用いて、(1)検出対象物質の濃度が高いときでは、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の変化速度の飽和を判定すること、及び、(2)検出対象物質の濃度が高いときでも、検出対象物質の濃度を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】抗原ダイレクト法による抗原濃度検出方法を示す図である。
図2】サンドイッチアッセイ法による抗原濃度検出方法を示す図である。
図3】一般的な濃度検出方法を示す図である。
図4】従来技術の抗原濃度検出方法を示す図である。
図5】従来技術の抗原濃度検出方法を示す図である。
図6】従来技術の抗原濃度検出方法を示す図である。
図7】本開示の濃度検出システムを示す図である。
図8】本開示の濃度検出原理を示す図である。
図9】本開示の検量線算出手順を示す図である。
図10】本開示の検量線算出方法を示す図である。
図11】本開示の検量線算出方法を示す図である。
図12】本開示の濃度検出手順を示す図である。
図13】本開示の抗原濃度検出方法を示す図である。
図14】本開示の抗原濃度検出方法を示す図である。
図15】本開示の抗原濃度検出方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0048】
(本開示の濃度検出システム)
本実施形態では、サンドイッチアッセイ法による抗原濃度検出方法を説明するが、抗原ダイレクト法による抗原濃度検出方法及び一般的な濃度検出方法も同様である。
【0049】
本開示の濃度検出システムを図7に示す。濃度検出システムSは、弾性表面波センサ1-1、1-2及び濃度検出装置2を備える。弾性表面波センサ1-1は、検出領域11-1、櫛形電極12-1及び櫛形電極13-1を備える。弾性表面波センサ1-2は、検出領域11-2、櫛形電極12-2及び櫛形電極13-2を備える。濃度検出装置2は、変化速度比率算出部21、変化速度飽和判定部22及び濃度検出部23を備え、図9及び図12に示したプログラムをインストールされる。
【0050】
弾性表面波センサ1-1は、濃度検出に用いられる。弾性表面波センサ1-2は、参照信号出力に用いられる。検出領域11-1、11-2は、サンドイッチアッセイ法の1次抗体AB1を固定する。櫛形電極12-1、13-1、12-2、13-2は、弾性表面波を送信/反射/受信する。基準物質は、検出領域11-1、11-2に予め負荷されることなく、検出対象物質の抗原AG及び反応物質のサンドイッチアッセイ法の2次抗体AB2が、検出領域11-1に負荷されるが、検出領域11-2に負荷されない。以下に、濃度検出装置2について説明する。
【0051】
本開示の濃度検出原理を図8に示す。弾性表面波センサ1-1の出力信号(位相又は振幅。ここでは位相。)の時間変化は、図5に示したものと同様である。
【0052】
ここで、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の位相変化速度は、負荷開始時刻のごく近傍からより早い時刻までの出力信号の位相変化速度でもよく、より早い時刻のごく近傍の出力信号の位相変化速度でもよい。図8では、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の位相変化速度は、負荷開始時刻のごく近傍から1.5秒後までの出力信号の位相変化速度である。そして、より遅い時刻を含むより長い期間での出力信号の位相変化速度は、負荷開始時刻のごく近傍からより遅い時刻までの出力信号の位相変化速度でもよく、より遅い時刻からその後の長時間後の時刻までの出力信号の位相変化速度でもよい。図8では、より遅い時刻を含むより長い期間での出力信号の位相変化速度は、負荷開始時刻のごく近傍から4.0秒後までの出力信号の位相変化速度である。
【0053】
図8では、様々な検出対象物質の濃度において、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の位相変化速度と、より遅い時刻を含むより長い期間での出力信号の位相変化速度と、をプロットした。すると、検出対象物質の濃度がある濃度より低いときでは、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の位相変化速度は、より遅い時刻を含むより長い期間での出力信号の位相変化速度の約1.5倍にほぼ等しくなった。一方で、検出対象物質の濃度がある濃度より高いときでは、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の位相変化速度は、より遅い時刻を含むより長い期間での出力信号の位相変化速度の約1.5倍より速くなった。
【0054】
これは、検出対象物質の濃度がある濃度より高いときでは、検出対象物質の濃度がある濃度より低いときと比べて、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の位相変化速度が速い割には、より遅い時刻を含むより長い期間での出力信号の位相変化速度が遅いことを反映している。つまり、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の位相変化速度の飽和があるときでは、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の位相変化速度の飽和がないときと比べて、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の位相変化速度が速い割には、より遅い時刻を含むより長い期間での出力信号の位相変化速度が遅いことを反映している。
【0055】
そこで、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の変化速度と、より遅い時刻を含むより長い期間での出力信号の変化速度と、の間の比率について、濃度検出段階において算出した値と、検量線算出段階において決定した閾値と、の間の大小関係に基づいて、検出対象物質の濃度の増加に伴うより早い時刻を含むより短い期間での出力信号の変化速度の飽和があるかどうかを判定する。
【0056】
(本開示の検量線算出方法)
本開示の検量線算出手順を図9に示す。本開示の検量線算出方法を図10及び図11に示す。変化速度比率算出部21は、様々な濃度Cにおいて、出力信号の時間変化(図5の様々な濃度でのデータを参照。)を取得する(ステップS1)。
【0057】
変化速度比率算出部21は、様々な濃度Cにおいて、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の変化速度H(C)を算出する(ステップS2)。濃度検出部23は、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の変化速度H(C)と濃度Cとの間の関係を示す検量線(図10の上段を参照。図6の上段と同様。)を算出して記憶しておく(ステップS3)。
【0058】
図10の上段では、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の位相変化速度H(C)は、抗原AGの濃度Cが増加するに伴って、抗原AGの濃度Cと相関して増加するが、抗原AGの濃度Cがさらに増加するに伴って、抗原AGの濃度Cと相関せず飽和/減少する。
【0059】
変化速度比率算出部21は、様々な濃度Cにおいて、より遅い時刻を含むより長い期間での出力信号の変化速度M(C)を算出する(ステップS4)。濃度検出部23は、より遅い時刻を含むより長い期間での出力信号の変化速度M(C)と濃度Cとの間の関係を示す検量線(図10の下段を参照。図6の下段と同様。)を算出して記憶しておく(ステップS5)。
【0060】
図10の下段では、より遅い時刻を含むより長い期間での出力信号の位相変化速度M(C)は、抗原AGの濃度Cが増加するに伴って、抗原AGの濃度Cと相関して増加するが、抗原AGの濃度Cがさらに増加するに伴って、抗原AGの濃度Cとあまり相関せず飽和する。
【0061】
変化速度比率算出部21は、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の変化速度H(C)が飽和し始める濃度Cth図10の上段を参照。)を検出する(ステップS6)。濃度検出部23は、様々な濃度Cにおいて、D(C)=H(C)-M(C)*H(Cth)/M(Cth)を算出する(ステップS7)。濃度検出部23は、D(C)と濃度Cとの間の関係を示す検量線(図11を参照。)を算出して記憶しておく(ステップS8)。
【0062】
図10の上段では、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の位相変化速度H(C)について、飽和し始める抗原AGの濃度Cthは、直線的に変化する抗原AGの濃度Cが低い領域と、直線的に変化する抗原AGの濃度Cが高い領域と、の間の境界に設定される。
【0063】
図11では、D(C)=H(C)-M(C)*H(Cth)/M(Cth)について、抗原AGの濃度Cが上記の閾値の濃度Cthに等しいときには、D(C)=0であり、抗原AGの濃度Cが上記の閾値の濃度Cthより低いときには、D(C)<0であり、抗原AGの濃度Cが上記の閾値の濃度Cthより高いときには、D(C)>0である。なお、D(C)=H(C)-M(C)*H(Cth)/M(Cth)は、飽和反応の時定数τを反映している。
【0064】
つまり、H(C)/M(C)及びH(Cth)/M(Cth)について、抗原AGの濃度Cが上記の閾値の濃度Cthに等しいときには、H(C)/M(C)=H(Cth)/M(Cth)であり、抗原AGの濃度Cが上記の閾値の濃度Cthより低いときには、H(C)/M(C)<H(Cth)/M(Cth)であり、抗原AGの濃度Cが上記の閾値の濃度Cthより高いときには、H(C)/M(C)>H(Cth)/M(Cth)である。
【0065】
よって、D(C)=H(C)-M(C)*H(Cth)/M(Cth)、H(C)/M(C)及びH(Cth)/M(Cth)について、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の位相変化速度H(C)の飽和がないときでは、D(C)≦0、H(C)/M(C)≦H(Cth)/M(Cth)であり、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の位相変化速度H(C)の飽和があるときでは、D(C)>0、H(C)/M(C)>H(Cth)/M(Cth)である。
【0066】
上記の閾値の濃度Cthは、図10の上段に示した方法でなくても、抗原AGの濃度Cの正常領域と異常領域との間の境界に設定されてもよい。ただし、上記の閾値の濃度Cthは、抗原AGの低過ぎる濃度Cに設定しないことが望ましい。より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の位相変化速度H(C)の飽和有無を誤判定してしまうからである。そして、上記の閾値の濃度Cthは、抗原AGの高過ぎる濃度Cに設定しないことが望ましい。より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の位相変化速度H(C)の測定精度を高くしにくいからである。
【0067】
(本開示の濃度検出方法)
本開示の濃度検出手順を図12に示す。本開示の抗原濃度検出方法を図13から図15までに示す。変化速度比率算出部21は、未知の濃度Cunにおいて、出力信号の時間変化(図5の特定の濃度でのデータを参照。)を取得する(ステップS11)。
【0068】
変化速度比率算出部21は、未知の濃度Cunにおいて、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の変化速度H(Cun)を算出する(ステップS12)。変化速度比率算出部21は、未知の濃度Cunにおいて、より遅い時刻を含むより長い期間での出力信号の変化速度M(Cun)を算出する(ステップS13)。変化速度比率算出部21は、未知の濃度Cunにおいて、D(Cun)=H(Cun)-M(Cun)*H(Cth)/M(Cth)を算出する(ステップS15)。ステップS14については、後述する。
【0069】
変化速度飽和判定部22は、D(Cun)=H(Cun)-M(Cun)*H(Cth)/M(Cth)≦0であるときには、つまり、H(Cun)/M(Cun)≦H(Cth)/M(Cth)であるときには(ステップS16においてYES)、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の変化速度H(Cun)が低濃度において飽和していないと判定する(ステップS17)。
【0070】
そして、濃度検出部23は、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の変化速度H(C)と濃度Cとの間の関係を示す検量線(図10の上段を参照。)に基づいて、未知の濃度Cunを検出する(ステップS18)。或いは、濃度検出部23は、より遅い時刻を含むより長い期間での出力信号の変化速度M(C)と濃度Cとの間の関係を示す検量線(図10の下段を参照。)に基づいて、未知の濃度Cunを検出する(ステップS18)。
【0071】
図13の上段では、変化速度飽和判定部22は、D(Cun)=H(Cun)-M(Cun)*H(Cth)/M(Cth)<0であるため、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の位相変化速度H(Cun)が低い抗原AGの濃度Cunにおいて飽和していないと判定する。図13の下段では、濃度検出部23は、比較的高い抗原AGの濃度Cunを検出するために、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の位相変化速度H(C)と抗原AGの濃度Cとの間の関係を示す検量線上の点(Cun、H(Cun))に基づいて、未知の抗原AGの濃度Cunを検出する。
【0072】
図14の上段では、変化速度飽和判定部22は、D(Cun)=H(Cun)-M(Cun)*H(Cth)/M(Cth)<0であるため、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の位相変化速度H(Cun)が低い抗原AGの濃度Cunにおいて飽和していないと判定する。図14の下段では、濃度検出部23は、比較的低い抗原AGの濃度Cunを検出するために、より遅い時刻を含むより長い期間での出力信号の位相変化速度M(C)と抗原AGの濃度Cとの間の関係を示す検量線上の点(Cun、M(Cun))に基づいて、未知の抗原AGの濃度Cunを検出する。
【0073】
なお、図13の下段及び図14の下段では、濃度検出部23は、D(C)と抗原AGの濃度Cとの間の関係を示す検量線に基づいて、未知の抗原AGの濃度Cunを検出していない。D(C)と抗原AGの濃度Cとの間の関係を示す検量線(図11を参照。)は、低い抗原AGの濃度Cの領域において、単調変化していないからである。
【0074】
変化速度飽和判定部22は、D(Cun)=H(Cun)-M(Cun)*H(Cth)/M(Cth)>0であるときには、つまり、H(Cun)/M(Cun)>H(Cth)/M(Cth)であるときには(ステップS16においてNO)、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の変化速度H(Cun)が高濃度において飽和していると判定する(ステップS19)。
【0075】
そして、濃度検出部23は、D(C)と濃度Cとの間の関係を示す検量線(図11を参照。)に基づいて、未知の濃度Cunを検出する(ステップS20)。
【0076】
図15の上段では、変化速度飽和判定部22は、D(Cun)=H(Cun)-M(Cun)*H(Cth)/M(Cth)>0であるため、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の位相変化速度H(Cun)が高い抗原AGの濃度Cunにおいて飽和していると判定する。図15の下段では、濃度検出部23は、D(C)と抗原AGの濃度Cとの間の関係を示す検量線上の点(Cun、D(Cun))に基づいて、未知の抗原AGの濃度Cunを検出する。
【0077】
なお、図15の下段では、濃度検出部23は、H(C)又はM(C)と抗原AGの濃度Cとの間の関係を示す検量線に基づいて、未知の抗原AGの濃度Cunを検出していない。H(C)又はM(C)と抗原AGの濃度Cとの間の関係を示す検量線(図10を参照。)は、高い抗原AGの濃度Cの領域において、飽和又は減少しているからである。
【0078】
このように、反応物質との飽和反応を示す検出対象物質の濃度を検出する弾性表面波センサを用いて、検出対象物質の濃度が高いときでは、検出対象物質の濃度の検出に先立ち、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の変化速度の飽和を判定することができる。
【0079】
そして、反応物質との飽和反応を示す検出対象物質の濃度を検出する弾性表面波センサを用いて、検出対象物質の濃度が低いときでは、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の変化速度の不飽和の判定を受け、検出対象物質の濃度を検出することができる。
【0080】
或いは、反応物質との飽和反応を示す検出対象物質の濃度を検出する弾性表面波センサを用いて、検出対象物質の濃度が高いときでは、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の変化速度の飽和の判定を受け、検出対象物質の濃度を検出することができる。
【0081】
ステップS14について、説明する。未知の濃度Cunが極度に低いときでは、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の変化速度H(Cun)がノイズを含むときには、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の変化速度H(Cun)と、より遅い時刻を含むより長い期間での出力信号の変化速度M(Cun)と、の間の比率H(Cun)/M(Cun)はその影響を受けるところ、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の変化速度H(Cun)の飽和の誤判定を生ずることがあり得る。
【0082】
そこで、変化速度飽和判定部22は、より遅い時刻を含むより長い期間での出力信号の変化速度M(Cun)が、ステップS15に先立ち決定した閾値Mth(例えば、図10の下段に示した0.5deg/s)より小さいときには(ステップS14においてYES)、検出対象物質の濃度Cの増加に伴うより早い時刻を含むより短い期間での出力信号の変化速度H(Cun)の飽和があるかどうかの判定を中止する。つまり、変化速度飽和判定部22は、ステップS15、S16、S17、S19の飽和判定処理を中止する。ただし、濃度検出部23は、ステップS18の濃度検出処理を実行してもよい。
【0083】
一方で、変化速度飽和判定部22は、より遅い時刻を含むより長い期間での出力信号の変化速度M(Cun)が、ステップS15に先立ち決定した閾値Mth(例えば、図10の下段に示した0.5deg/s)以上であるときには(ステップS14においてNO)、検出対象物質の濃度Cの増加に伴うより早い時刻を含むより短い期間での出力信号の変化速度H(Cun)の飽和があるかどうかの判定を実行する。つまり、変化速度飽和判定部22は、ステップS15、S16、S17、S19の飽和判定処理を実行する。そして、濃度検出部23は、ステップS18、S20の濃度検出処理を実行する。
【0084】
よって、未知の濃度Cunが極度に低いときでも、より早い時刻を含むより短い期間での出力信号の変化速度H(Cun)の飽和の誤判定を高精度で防止することができる。
【0085】
弾性表面波センサにおける本開示は、他の濃度検出センサにおいても適用できる。ここで、他の濃度検出センサとして、電極センサ、半導体センサ、受光センサ、感熱センサ、圧電センサ、サーミスタセンサ、カンチレバーセンサ、イオン感応性FETセンサ及び水晶振動子センサ等がある。そして、出力信号として、物質変化、色変化、吸熱変化、発熱変化、質量変化、抵抗変化及び容量変化等を反映する電気信号等がある。
【産業上の利用可能性】
【0086】
このように、本開示の濃度検出プログラム及び濃度検出システムは、弾性表面波センサ等を用いて、抗原ダイレクト法による抗原濃度検出方法、サンドイッチアッセイ法による抗原濃度検出方法及び一般的な濃度検出方法等において、適用することができる。
【符号の説明】
【0087】
AG:抗原
AB:抗体
AB1:1次抗体
AB2:2次抗体
M1、M2、M3:化学物質
S:濃度検出システム
1、1-1、1-2:弾性表面波センサ
2:濃度検出装置
11、11-1、11-2:検出領域
12、12-1、12-2:櫛形電極
13、13-1、13-2:櫛形電極
21:変化速度比率算出部
22:変化速度飽和判定部
23:濃度検出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15