(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】表皮材
(51)【国際特許分類】
B32B 27/32 20060101AFI20240717BHJP
B32B 5/18 20060101ALI20240717BHJP
B60R 21/205 20110101ALI20240717BHJP
B60R 21/207 20060101ALI20240717BHJP
B60R 21/21 20110101ALI20240717BHJP
B60R 21/215 20110101ALI20240717BHJP
【FI】
B32B27/32 E
B32B5/18
B60R21/205
B60R21/207
B60R21/21
B60R21/215
(21)【出願番号】P 2020042116
(22)【出願日】2020-03-11
【審査請求日】2023-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】390023009
【氏名又は名称】共和レザー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 保彰
(72)【発明者】
【氏名】重信 裕
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-229045(JP,A)
【文献】特開2019-130744(JP,A)
【文献】特開2001-009951(JP,A)
【文献】特開平09-193300(JP,A)
【文献】特開平01-195038(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B60R 21/16-21/33
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン系熱可塑性エラストマーを含む表皮層と、
ポリプロピレン樹脂を含む中間層と、
オレフィン系樹脂を含む発泡層と、をこの順に有し、
前記中間層の樹脂成分に占める前記ポリプロピレン樹脂の質量割合が90質量%以上であり、
前記中間層の厚さが0.01mm~0.20mmであ
り、
自動車内装部品に備えられたエアバッグ収納部を覆うために用いる、
表皮材。
【請求項2】
前記中間層が、ポリプロピレン樹脂を含む非発泡の中間層
である、請求項1に記載の表皮材。
【請求項3】
前記中間層の全質量に占める前記ポリプロピレン樹脂の質量割合が70質量%以上である、請求項1
又は請求項2に記載の表皮材。
【請求項4】
前記発泡層の発泡倍率が15倍~30倍であり、前記発泡層の厚さが3.0mm~5.0mmである、請求項1~請求項
3のいずれか1項に記載の表皮材。
【請求項5】
前記表皮層の厚さが0.3mm~0.8mmである、請求項1~請求項
4のいずれか1項に記載の表皮材。
【請求項6】
前記表皮層と前記中間層とを積層した積層体の温度-30℃における引張破断伸度が100%~600%の範囲内である、請求項1~請求項
5のいずれか1項に記載の表皮材。
【請求項7】
前記表皮材を2枚重ねて測定したときのショアA硬度が68未満である、請求項1~請求項
6のいずれか1項に記載の表皮材。
【請求項8】
前記自動車内装部品が、インストルメントパネル
、ドアパーツ及びシートの少なくとも1つである、請求項1~請求項
7のいずれか1項に記載の表皮材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表皮材に関する。
【背景技術】
【0002】
インストルメントパネル、ドアパーツ、シート等の自動車内装部品は、運転者及び乗員の安全を確保するために、エアバッグを備える。自動車衝突時には、エアバッグが膨張してエアバッグ収納部の蓋を押し開け、エアバッグが展開する。自動車衝突時にエアバッグが容易に展開するように、エアバッグ収納部の蓋に孔又は溝が設けられることがある。ただし、自動車内装の外観に孔又は溝が表出することは望ましくないので、孔又は溝を樹脂製の表皮材で覆うことが行われる。この表皮材として、例えば、発泡層と表皮層とを貼り合せた積層体があり、発泡層の柔軟性と表皮層の質感及びデザインとを工夫することで、自動車内装に高級感のある外観を与えている。
例えば特許文献1には、ポリオレフィン系樹脂発泡体(A)と表皮体(E)との積層体であって、ポリオレフィン系樹脂発泡体(A)が、ポリオレフィン系樹脂発泡体(A)を構成するポリオレフィン系樹脂100質量%中にポリプロピレン系樹脂(B)を30~60質量%、ポリエチレン系樹脂(C)を1~20質量%、及び熱可塑性エラストマー系樹脂(D)を30質量%以上含む積層体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エアバッグ収納部を覆う表皮材は、エアバッグの展開を妨げないように、エアバッグ膨張の圧力を受けて開裂する必要があるところ、発泡層と表皮層との積層体は、開裂性と、柔軟性又はクッション感とを両立しにくいことがある。例えば、クッション感の向上のために発泡層の発泡倍率を上げると、積層体が低温環境において容易に開裂できないことがある。
【0005】
本開示の実施形態は、上記状況のもとになされた。
本開示の実施形態は、クッション感と低温環境における開裂性とを両立する表皮材を提供することを目的とし、これを達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
<1> オレフィン系樹脂を含む表皮層と、ポリプロピレン樹脂を含む中間層と、オレフィン系樹脂を含む発泡層と、をこの順に有する表皮材。
<2> 前記中間層の厚さが0.01mm~0.20mmである、<1>に記載の表皮材。
<3> 前記発泡層の発泡倍率が15倍~30倍であり、前記発泡層の厚さが3.0mm~5.0mmである、<1>又は<2>に記載の表皮材。
<4> 前記表皮層の厚さが0.3mm~0.8mmである、<1>~<3>のいずれか1項に記載の表皮材。
<5> 前記表皮層と前記中間層とを積層した積層体の温度-30℃における引張破断伸度が100%~600%の範囲内である、<1>~<4>のいずれか1項に記載の表皮材。
<6> 前記表皮材を2枚重ねて測定したときのショアA硬度が68未満である、<1>~<5>のいずれか1項に記載の表皮材。
<7> 自動車のインストルメントパネルに用いるための表皮材である、<1>~<6>のいずれか1項に記載の表皮材。
【発明の効果】
【0007】
本開示の実施形態によれば、クッション感と低温環境における開裂性とを両立する表皮材が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】表皮材の実施形態の一例を示す断面図である。
【
図2】表皮材の実施形態の別の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本開示の実施形態について説明する。これらの説明及び実施例は実施形態を例示するものであり、実施形態の範囲を制限するものではない。
【0010】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0011】
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。本開示において組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
【0012】
本開示において「機械方向」とは、長尺状に製造される膜、フィルム又はシートにおいて長尺方向を意味し、「幅方向」とは、「機械方向」に直交する方向を意味する。本開示において、「機械方向」を「MD」(Machine Direction)ともいい、「幅方向」を「TD」(Transverse Direction)ともいう。
【0013】
本開示において、表皮材の厚さ、及び、表皮材を構成する各層の厚さに言及する場合、厚さは平均厚を意味する。平均厚は、対象となる層の10点の厚さの算術平均値である。層の厚さは、ダイヤルゲージを用いて測定することができる。複数の層が積層された状態で1つの層の厚さを測定する場合には、顕微鏡を用いて断面を観察することで測定してもよい。
【0014】
<表皮材>
本開示の表皮材は、オレフィン系樹脂を含む表皮層と、ポリプロピレン樹脂を含む中間層と、オレフィン系樹脂を含む発泡層と、をこの順に有する。本開示の表皮材は、これら3層以外の層を有していてもよい。
【0015】
本開示の表皮材は、例えば、自動車の内装材として用いられる。本開示の表皮材は、インストルメントパネル、ドアパーツ、シート等の自動車内装部品に備えられたエアバッグ収納部を覆う被覆材として好適である。本開示の表皮材は、例えば、エアバッグ収納部の蓋を構成する基材に接着された表皮材として用いられる。
【0016】
以下、本開示の表皮材について、図面を参照しながら説明する。各図面において同一の符号を用いて示される構成要素は、同一の構成要素であることを意味する。各図における部材の大きさは概念的なものであり、部材間の大きさの相対的な関係はこれに限定されない。本開示の表皮材の構成は図面に示された構成に限定されない。
【0017】
図1は、表皮材の実施形態の一例を示す断面図である。表皮材10は、表皮層30と、中間層40と、発泡層50とを有する。中間層40の一方の面側に表皮層30が配置されており、中間層40の他方の面側に発泡層50が配置されている。
【0018】
図2は、表皮材の実施形態の別の一例を示す断面図である。表皮材10は、表面処理層20と、表皮層30と、中間層40と、発泡層50と、接着層60とを有する。表皮層30の一方の面側であって中間層40とは反対側に表面処理層20が配置されている。発泡層50の一方の面側であって中間層40とは反対側に接着層60が配置されている。
【0019】
表皮層30は、第一のオレフィン系樹脂を含む。中間層40は、ポリプロピレン樹脂を含む。発泡層50は、第二のオレフィン系樹脂を含む。第一のオレフィン系樹脂と第二のオレフィン系樹脂とは、同じ種類のオレフィン系樹脂でもよく、異なる種類のオレフィン系樹脂でもよい。
【0020】
表皮材10は、表皮層30と発泡層50との間に中間層40を有することにより、クッション感と、低温環境(例えば、温度-30℃)における開裂性とを両立することができる。表皮材10の開裂性とは、表皮材10が圧力を受けたときに、表皮材10が伸び過ぎたり層間で剥離したりせずに、表皮材10が裂けることを意味する。表皮材10を開裂させる圧力とは、例えば、自動車のエアバッグが展開するとき、エアバッグ収納部の蓋を構成する基材が開裂し、開裂した基材の開裂部が表皮材10を押す圧力である。
表皮材10がクッション感と低温環境における開裂性とを両立する機序として、下記のことが推測される。
【0021】
従来、表皮材のクッション感を向上させる手段として、発泡層の発泡倍率を上げる手段が知られている。ただし、発泡層の発泡倍率を上げると、発泡層とその隣接層との間の剥離強度が低下する傾向がある。それ故、表皮材が圧力を受けたときに発泡層とその隣接層との間で剥離が起こり、表皮材の開裂が起こらないことがある。この現象は、低温環境(例えば、温度-30℃)において顕著である。
これに対して表皮材10においては、中間層40がポリプロピレン樹脂を含み、発泡層50がオレフィン系樹脂を含むので、中間層40と発泡層50とを加熱加圧して貼り合わせる際に両層の界面が相溶し、その結果、発泡層50とその隣接層(つまり中間層40)との間の剥離強度が向上する。したがって、表皮材10は、圧力を受けたときに、低温環境であっても発泡層50とその隣接層との間で剥離しにくく、開裂性に優れる。
また、表皮材10は、ポリプロピレン樹脂を含む中間層40を有することにより、低温環境において比較的伸びにくく、圧力を受けたときに開裂しやすい。
【0022】
以下、本開示の表皮材が備える各層の成分及び機能を詳細に説明する。以下の説明においては、符号を省略する。
【0023】
[表皮層]
表皮層は、オレフィン系樹脂を含む。オレフィン系樹脂としては、ポリオレフィン及びエチレン-α-オレフィン共重合体を含むオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO);エチレン、プロピレン等のオレフィンを主成分とする熱可塑性樹脂(具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン等);が挙げられる。これらの中でも、成形性、耐熱性、耐寒性、軽量性などの観点から、TPOが好ましい。
【0024】
表皮層はオレフィン系樹脂以外の樹脂を含んでいてもよいが、樹脂成分全体に占めるオレフィン系樹脂の質量割合が、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、100質量%であることが更に好ましい。
【0025】
表皮層は、着色剤を含有していてもよい。着色剤としては、顔料及び染料から選択することができ、耐久性の観点からは、顔料であることが好ましい。
【0026】
表皮層の全質量に占めるオレフィン系樹脂の質量割合は、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%であることが更に好ましい。
【0027】
表皮層の厚さは、引張強度、成形性及び触感の観点から、0.3mm~0.8mmが好ましく、0.4mm~0.7mmがより好ましい。
【0028】
[中間層]
中間層は、ポリプロピレン樹脂を含む。本開示においてポリプロピレン樹脂は、ホモポリマー、ランダムコポリマー、ブロックコポリマーのいずれをも包含する。
【0029】
中間層はポリプロピレン樹脂以外の樹脂を含んでいてもよいが、樹脂成分全体に占めるポリプロピレン樹脂の質量割合が、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、100質量%であることが更に好ましい。中間層に含まれ得るポリプロピレン樹脂以外の樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂が挙げられる。
【0030】
ポリプロピレン樹脂は、ガラス転移温度が0℃付近であるので、低温環境において比較的伸びにくい樹脂である。本開示の表皮材は、ポリプロピレン樹脂を含む中間層を備えることにより、低温環境において比較的伸びにくく、圧力を受けたときに開裂しやすい。
【0031】
本開示の表皮材は、中間層がポリプロピレン樹脂を含み、発泡層がオレフィン系樹脂を含むので、中間層と発泡層とを加熱加圧して貼り合わせる際に両層の界面が相溶し、その結果、発泡層とその隣接層(つまり中間層)との間の剥離強度が向上する。したがって、本開示の表皮材は、圧力を受けたときに、発泡層とその隣接層との間で剥離しにくく、開裂性に優れる。
【0032】
中間層の厚さは、表皮層と発泡層とを連結する観点から、0.01mm以上が好ましく、0.05mm以上がより好ましい。
ただし、中間層の厚さは、中間層と発泡層との間の剥離を抑制する観点から、厚過ぎないことが望ましい。ポリプロピレン樹脂は低温環境において比較的応力の高い樹脂であるので、ポリプロピレン樹脂を含む中間層が厚過ぎると、表皮材が圧力を受けたときに、中間層と発泡層との間で剥離が生じることがある。
中間層の厚さは、上記の観点から、0.20mm以下が好ましく、0.15mm以下がより好ましい。
【0033】
中間層は、着色剤を含有していてもよい。着色剤としては、顔料及び染料から選択することができ、耐久性の観点からは、顔料であることが好ましい。
【0034】
中間層の全質量に占めるポリプロピレン樹脂の質量割合は、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%であることが更に好ましい。
【0035】
[発泡層]
発泡層は、オレフィン系樹脂を含む。オレフィン系樹脂としては、ポリオレフィン及びエチレン-α-オレフィン共重合体を含むオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO);エチレン、プロピレン等のオレフィンを主成分とする熱可塑性樹脂(具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン等);が挙げられる。これらの中でも、耐熱性、軽量性などの観点から、ポリプロピレンが好ましい。
【0036】
発泡層はオレフィン系樹脂以外の樹脂を含んでいてもよいが、樹脂成分全体に占めるオレフィン系樹脂の質量割合が、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、100質量%であることが更に好ましい。発泡層に含まれ得るオレフィン系樹脂以外の樹脂としては、例えば、フェノール系樹脂等の酸化防止剤が挙げられる。
【0037】
発泡層は、気泡が連続している形態及び気泡が独立している形態のいずれでもよい。
発泡層の発泡倍率は、成形性、クッション感、及び表皮材の開裂性の観点から、15倍~30倍が好ましく、15倍~20倍がより好ましい。
発泡倍率とは、所定体積の発泡体の質量を測定して求める物性値であり、単位「リットル/kg」を「倍」と言い換えて記載する。
【0038】
発泡層の厚さは、成形性及びクッション感の観点から、3.0mm~5.0mmが好ましく、3.0mm~4.0mmがより好ましい。
【0039】
発泡層は、着色剤を含有していてもよい。着色剤としては、顔料及び染料から選択することができ、耐久性の観点からは、顔料であることが好ましい。
【0040】
発泡層の全質量に占めるオレフィン系樹脂の質量割合は、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%であることが更に好ましい。
【0041】
[表面処理層]
本開示の表皮材は、表皮層の保護、表皮材の耐久性の向上、表皮材の触感の改良などの目的で、表面処理層を有していてもよい。表面処理層の実施形態の一例として、表皮層の一方の面上であって中間層と反対側の面(表皮層の第一の面という。)上に設けられる層が挙げられる。
【0042】
表面処理層は、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂等を含むことが好ましく、耐摩耗性と触感の観点から、ウレタン樹脂を含むことが好ましい。
表面処理層は、樹脂に加え、架橋剤、有機フィラー、無機フィラー(例えばシリカ粒子)、滑剤、難燃剤、酸化防止剤、帯電防止剤等を含有していてもよい。
【0043】
表面処理層の厚さは、2.0μm~6.0μmが好ましい。
【0044】
[接着層]
本開示の表皮材は、当該表皮材を配置する成形品の表面に接着するための接着層を有していてもよい。接着層の実施形態の一例として、発泡層の一方の面上であって中間層と反対側の面(発泡層の第一の面という。)上に設けられる層が挙げられる。
【0045】
接着層は、オレフィン樹脂、ウレタン樹脂等を含むことが好ましく、成形品の表面に対する接着性の観点から、オレフィン樹脂を含むことが好ましい。
【0046】
接着層の厚さは、5μm~70μmが好ましい。
【0047】
<表皮材の特性>
本開示の表皮材の厚さは、成形性、クッション感、及び表皮材の開裂性の観点から、3.30mm~6.00mmが好ましく、3.45mm~4.90mmがより好ましい。
【0048】
本開示の表皮材のショアA硬度(ISO868:2003)は、クッション感を良好にする観点から、68未満が好ましく、65以下がより好ましい。ここでのショアA硬度は、表皮材を2重ねて、表皮層側から圧縮試験を行って測定する値である。
【0049】
本開示の表皮材において、表皮層と中間層とを積層した積層体の温度-30℃における引張破断伸度は、表皮材の開裂性の観点から、MD及びTDともに、100%~600%の範囲内であることが好ましい。
【0050】
<表皮材の製造方法>
本開示の表皮材の製造方法としては、例えば、表皮層、中間層、及び発泡層をそれぞれ用意し、表皮層/中間層/発泡層の順に重ね、ラミネート加工を行う製造方法が挙げられる。
【0051】
表皮層は、押出成形又はカレンダー成形により製造することが好ましく、貼り合せなしで適度な厚さのシートを製造できる観点から、押出成形により製造することが好ましい。
中間層は、押出成形又はカレンダー成形により製造することが好ましく、貼り合せなしで適度な厚さのシートを製造できる観点から、押出成形により製造することが好ましい。
【0052】
発泡層は、プレス発泡、常圧二次発泡、射出発泡、押出発泡、発泡ブロー等の公知の発泡成形により製造することができる。発泡剤としては、例えば、アゾジカルボンアミド、N,N’-ジニトロソペンタメチレンテトラミン、P,P’-オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド等の有機系発泡剤、重炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム、カルシウムアジド等の無機系発泡剤が挙げられる。
【0053】
表面処理層は、表皮層の第一の面に、塗布法により成形することが好ましい。表面処理層は、表皮層と中間層と発泡層とをラミネート加工する前に表皮層上に形成してもよく、ラミネート加工した後に表皮層上に形成してもよい。
接着層は、表皮層と中間層と発泡層とをラミネート加工した後に、発泡層上に塗布法により成形することが好ましい。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により発明の実施形態を詳細に説明するが、発明の実施形態は、これら実施例に限定されるものではない。以下の説明において、特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0055】
<実施例1>
[工程1:表皮層の形成]
オレフィン系熱可塑性エラストマー(三井化学(株)、8030NH)90部に顔料(カーボンブラック)10部を投入し、220℃に加熱しながら押出し法により表皮層を形成した。表皮層の厚さは0.4mmとした。
【0056】
[工程2:中間層の形成]
ポリプロピレン樹脂((株)プライムポリマー、プライムポリプロE701G、ブロックPP)90部に顔料(カーボンブラック)10部を投入し、220℃に加熱しながら押出し法により中間層を形成した。中間層の厚さは0.05mmとした。
【0057】
[工程3:発泡層の準備]
発泡倍率15倍、厚さ3.0mmのポリオレフィン系樹脂発泡体(東レ(株)、トーレペフ)を購入し、これを発泡層とした。
【0058】
[工程4:表面処理層の形成]
ウレタン樹脂(DIC(株)、クリスボンNY-329)100部にシリカ粒子(日本シリカ工業(株)、ニップシールE220)12部を添加し、溶剤で希釈し、塗布液を調製した。
表皮層の第一の面(中間層側でない面)をコロナ処理して、ぬれ指数を40mN/m以上にした後、グラビヤプリントロールで前記塗布液を塗布し、温度100℃下で3分間乾燥し、厚さ4.0μmの表面処理層を形成した。
【0059】
[工程5:積層]
表皮層及び中間層を加熱し、表皮層/中間層/発泡層の順に重ね、エンボスロールを用いて表皮層を絞ロールに接触させてラミネートエンボス加工を行った。ラミネートエンボス加工は、表皮層の表面温度180℃、速度6m/分で行った。
【0060】
[工程6:接着層の形成]
発泡層の第一の面(中間層側でない面)にコンマリバースコーターでオレフィン系プレコート剤(サンスター技研(株)、ペンギンセメント)を塗布し、温度100℃で乾燥し、厚さ30μmの接着層を形成した。
以上の工程を経て、実施例1の表皮材を得た。
【0061】
<実施例2>
実施例1と同様にして、ただし、表皮層の厚さを0.7mmに変更し、中間層の厚さを0.15mmに変更して、表皮材を作製した。
【0062】
<実施例3>
実施例1と同様にして、ただし、発泡層を発泡倍率20倍、厚さ4.0mmの発泡層に変更して、表皮材を作製した。
【0063】
<実施例4>
実施例2と同様にして、ただし、発泡層を発泡倍率20倍、厚さ4.0mmの発泡層に変更して、表皮材を作製した。
【0064】
<実施例5>
実施例1と同様にして、ただし、工程2においてポリプロピレン樹脂(プライムポリプロE701G)を別のポリプロピレン樹脂((株)プライムポリマー、プライムポリプロB211WA、ランダムPP)に変更して中間層を形成し、表皮材を作製した。
【0065】
<実施例6>
実施例5と同様にして、ただし、表皮層の厚さを0.7mmに変更し、中間層の厚さを0.15mmに変更して、表皮材を作製した。
【0066】
<実施例7>
実施例5と同様にして、ただし、発泡層を発泡倍率20倍、厚さ4.0mmの発泡層に変更して、表皮材を作製した。
【0067】
<実施例8>
実施例6と同様にして、ただし、発泡層を発泡倍率20倍、厚さ4.0mmの発泡層に変更して、表皮材を作製した。
【0068】
<比較例1>
実施例1と同様にして、ただし、表皮層の厚さを0.6mmに変更し、中間層を設けず、発泡層を発泡倍率10倍、厚さ4.0mmの発泡層に変更して、表皮材を作製した。
【0069】
<比較例2>
比較例1と同様にして、ただし、発泡層を発泡倍率20倍、厚さ4.0mmの発泡層に変更して、表皮材を作製した。
【0070】
<比較例3>
実施例1と同様にして、ただし、表皮層の厚さを0.5mmに変更し、工程2においてポリプロピレン樹脂(プライムポリプロE701G)をポリエチレン樹脂((株)プライムポリマー、ウルトゼックス2022L)に変更して厚さ0.1mmの中間層を形成し、発泡層を発泡倍率20倍、厚さ4.0mmの発泡層に変更して、表皮材を作製した。
【0071】
<比較例4>
実施例1と同様にして、ただし、表皮層を実施例1の中間層と同配合品且つ厚さ0.6mmに変更し、中間層を設けず、発泡層を発泡倍率20倍、厚さ4.0mmの発泡層に変更して、表皮材を作製した。
【0072】
<比較例5>
実施例1と同様にして、ただし、表皮層を実施例5の中間層と同配合品且つ厚さ0.6mmに変更し、中間層を設けず、発泡層を発泡倍率20倍、厚さ4.0mmの発泡層に変更して、表皮材を作製した。
【0073】
<性能評価>
[ショアA硬度及びクッション感]
ショアA硬度の測定は、ISO868:2003に従って、タイプAデュロメータを用いて行った。100mm×100mmに切り出した表皮材を2枚重ね、表面処理層側から圧縮し15秒後の数値を読み取った。ショアA硬度の値をクッション感の指標とし、下記のとおり分類した。
A:68未満(比較例1より軟化)
B:68以上70以下(比較例1と同等)
C:70超(比較例1より硬化)
【0074】
[剥離強度]
MD又はTDが長辺となるように表皮材を150mm×25mmに切り出し、試験片とした。試験片を温度-30℃下に10分間置き、次いで、温度-30℃下において、試験速度500mm/minにて180度剥離試験を行い、中間層と発泡層との間(中間層がない表皮材は、表皮層と発泡層との間)の剥離強度(N/25mm)を測定した。
【0075】
[応力-ひずみ曲線]
表皮材から発泡層を除き、MD又はTDが引張方向となるようにダンベル2号形状に打ち抜き、試験片とした。試験片を温度-30℃下に10分間置き、次いで、温度-30℃下において、試験速度500mm/minにて引張試験を行い、応力の最大値(N)と、試験片が破断に至ったときの伸び(引張破断伸度、%)とを求めた。
【0076】
[表皮材の開裂性]
基材として、厚さ2.9mm、400mm×300mmのポリプロピレン板を準備した。基材の中央部の200mm×100mmの領域に、アルファベットのH形状(ただし、横長のH形状)にて、幅1.0mm、深さ2.45mmの切削加工を施した。切削加工を施した基材の切削加工面とは反対側の面にクロロプレン系接着剤を塗布し、基材の接着剤を塗布した面と表皮材の接着層とを対向させて、表皮材を基材に貼り合せ、試験片とした。
【0077】
エアバッグの展開を模擬する試験機を用意した。当該試験機は、略直方体のヘッド(高さ約7.5cm、幅約7.5cm、長さ約17cm)、ヘッドの上に試験片を固定する部材群、及びヘッドを押し上げる機構を備え、ヘッドを押し上げて試験片を開裂させる機械である。
試験機と試験片とを温度-30℃下に10分間置き、次いで、試験機に試験片を所定の方法により固定した。その際、試験片の基材側の面をヘッド上面に対向させ、ヘッド上面が基材の切削加工領域の中央部に位置するよう試験片を設置した。
【0078】
温度-30℃下において、試験機のヘッドを圧力0.4MPaにて押し上げ、試験片を開裂させた。この際の表皮材の開裂の状態を目視にて確認し、下記のとおり分類した。Aが実用上問題のない水準である。
A:表皮材が開裂し、かつ、開裂がきれい(開裂端の形状が整っている)。
B:表皮材が開裂するが、開裂が汚い(開裂端の形状が乱れている)。
C:表皮材が開裂するが、表皮層から発泡層までの間のいずれかの層間に剥離がある。
D:表皮材が開裂するが、表皮材の飛散あり。
E:表皮材が開裂しない。
【0079】
【0080】
比較例1は、発泡層と表皮層との積層体である従来品に相当する。
比較例2は、比較例1と同様の形態であって、ただし、比較例1に比べて発泡層の発泡倍率を上げた形態を有する。
比較例1と比較例2との対比から、発泡層の発泡倍率が大きい方がクッション感がよいこと、発泡層の発泡倍率が大きい方が表皮層と発泡層との間の剥離強度が弱いことが分かる。
【0081】
比較例3は、比較例2と同様の形態であって、ただし、比較例2における表皮層(0.6mm)を、表皮層(0.5mm)とポリエチレン樹脂を含む中間層(0.1mm)とに分けた形態を有する。比較例3は、比較例2と同程度に良好なクッション感を呈しつつ、低温環境下での表皮材の開裂性が比較例2に比べて向上した。ただし、比較例3は、低温環境下でのTDの応力及び引張破断伸度が比較例1よりも大きく、低温環境下での表皮材の開裂性は比較例1に及ばなかった。
【0082】
比較例4及び5は、比較例2と同様の形態であって、ただし、比較例2における表皮層の構成樹脂TPOを、ブロックPP又はランダムPPに変更した形態を有する。比較例4及び5は、表皮層の構成樹脂がブロックPP又はランダムPPであり、発泡層の構成樹脂がオレフィン系樹脂であるので、表皮層と発泡層とを加熱加圧して貼り合わせる際に両層の界面が相溶し、その結果、表皮層と発泡層との間の剥離強度が比較例2に比べて向上したと推測される。ただし、比較例4及び5は、低温環境下での引張破断伸度が極端に小さいので、表皮材の飛散が発生した。
【0083】
実施例1~8は、比較例1に比べて発泡層の発泡倍率を上げ、且つ、表皮層と発泡層との間にポリプロピレン樹脂を含む中間層を設けた表皮材である。実施例1~8は、発泡層の発泡倍率が比較例1よりも大きいことにより、クッション感が比較例1よりも優れていた。
実施例1~8は、発泡層の発泡倍率が比較例1よりも大きいが、ポリプロピレン樹脂を含む中間層が配置されていることにより、発泡層とその隣接層との間の剥離強度が比較例1と同程度であり、また、低温環境下での引張破断伸度が比較例1よりも小さく、その結果、低温環境下での表皮材の開裂性が比較例1と同等であった。
【符号の説明】
【0084】
10 表皮材
20 表面処理層
30 表皮層
40 中間層
50 発泡層
60 接着層