(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】皮膚外用剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/9794 20170101AFI20240717BHJP
A61K 36/899 20060101ALI20240717BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240717BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20240717BHJP
A61P 17/16 20060101ALI20240717BHJP
A61K 36/21 20060101ALI20240717BHJP
A61K 8/9789 20170101ALI20240717BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240717BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240717BHJP
C12N 1/20 20060101ALN20240717BHJP
A61K 131/00 20060101ALN20240717BHJP
A61K 125/00 20060101ALN20240717BHJP
【FI】
A61K8/9794
A61K36/899
A61P17/00 101
A61P17/00
A61P31/04
A61P17/16
A61K36/21
A61K8/9789
A61Q19/00
A61P43/00 121
C12N1/20 Z ZNA
A61K131:00
A61K125:00
(21)【出願番号】P 2020103486
(22)【出願日】2020-06-16
【審査請求日】2023-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000119472
【氏名又は名称】一丸ファルコス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110973
【氏名又は名称】長谷川 洋
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(73)【特許権者】
【識別番号】000151966
【氏名又は名称】株式会社桃谷順天館
(74)【代理人】
【識別番号】100110973
【氏名又は名称】長谷川 洋
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100116528
【氏名又は名称】三宅 俊男
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 宗隆
(72)【発明者】
【氏名】岡本 知也
(72)【発明者】
【氏名】中田 善久
(72)【発明者】
【氏名】黒井 梓
(72)【発明者】
【氏名】松田 達也
【審査官】阪▲崎▼ 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-203628(JP,A)
【文献】特開2019-194175(JP,A)
【文献】特表2010-503417(JP,A)
【文献】国際公開第2018/216744(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖蜜又はその抽出物と、酒類醸造粕又はその抽出物とを含有し、糖度60~85の液体である、皮膚常在菌のバランス改善剤。
【請求項2】
総重量に対して1質量%以下の防腐剤を含む、請求項1に記載の剤。
【請求項3】
20℃においてB型粘度計で測定した粘度が2000mPa・s以下である、請求項1又は2に記載の剤。
【請求項4】
皮膚常在菌において、表皮ブドウ球菌の割合を増加させる及び黄色ブドウ球菌の割合を減少させる作用を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖蜜又はその抽出物と、酒類醸造粕又はその抽出物とを含有する液体からなる皮膚常在菌のバランス改善剤及びこれを含む、液体の皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの皮膚には様々な細菌が存在しており、この皮膚常在菌叢は、皮膚の恒常性や疾患と関りを有することが示唆されている。例えば、アトピー性皮膚炎では、約90%の患者の皮疹部に黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)が定着しているといわれ、この細菌と皮疹の悪化との関連も指摘されている。一方、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)は表皮常在菌として知られ、抗菌ペプチドなどの発現を促進することで病原菌への抵抗力を高めるといわれている。従って、ヒトの皮膚上で、皮膚有益菌の菌数を維持し、同時に、有害菌の菌数を抑えることは重要である。
【0003】
このような皮膚常在菌叢改善剤として、例えば特許文献1には、セロビオース含量が60質量%以上であり、セロトリオース、セロテトラオース、セロペンタオース、セロヘキサオースから選ばれる1種以上が0.1~40質量%からなるセロオリゴ糖を0.01~20質量%含有する組成物が、表皮ブドウ球菌を静菌せず、黄色ブドウ球菌及び緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)を静菌することが開示されている。
【0004】
一方、本発明者らは、糖類又は糖類抽出物と、酒類醸造粕又は酒類醸造粕抽出物を併用した天然物由来の液体が、外用剤や経口組成物に添加したときに、肌や頭髪に対する良好な各種効果を付与しうることを見出している(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5121187号
【文献】特開2019-194175
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明により解決しようとする課題は、肌状態を改善するためにヒトの皮膚常在菌のバランス改善作用を有する天然由来の成分又は組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者らは、インビトロにおいて表皮ブドウ球菌の生育を促進し、黄色ブドウ球菌の生育を抑制する物質を探索し、皮膚パラメータとの関連を確認した結果、糖蜜又はその抽出物と、酒類醸造粕又はその抽出物とを含有する液体が、外用剤に添加して皮膚に適用したときに皮膚常在菌のバランスを有意に改善することを発見した。
【0008】
すなわち、本発明は以下の実施形態を含む。
(1)糖蜜又はその抽出物と、酒類醸造粕又はその抽出物とを含有し、糖度60~85の液体である、皮膚常在菌のバランス改善剤。
(2)総重量に対して1質量%以下の防腐剤を含む、(1)に記載の剤。
(3)20℃においてB型粘度計で測定した粘度が2000mPa・s以下である、(1)又は(2)に記載の剤。
(4)皮膚常在菌において、表皮ブドウ球菌の割合を増加させる及び黄色ブドウ球菌の割合を減少させる作用を有する、(1)~(3)のいずれか一項に記載の剤。
(5)(1)~(4)のいずれか一項に記載の剤を含有する、液体の皮膚外用剤。
(6)皮膚に塗布したときに、皮膚常在菌における黄色ブドウ球菌の割合を減少させる作用を有する、(5)に記載の皮膚外用剤。
(7)皮膚の炎症を起こしやすい対象者に、皮膚のなめらかさを付与するための(5)又は(6)に記載の皮膚外用剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明の剤などは、ヒトの皮膚常在菌のバランスを改善することにより、肌状態を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、表皮ブドウ球菌と黄色ブドウ球菌との共培養系を用いて、本発明の剤がこれらの細菌の生育に及ぼす影響を調べた結果である。図(A)中において、「S.epi」は表皮ブドウ球菌のコロニー数を示し、「S.Aur」は黄色ブドウ球菌のコロニー数を示す。
【
図2】
図2は、ヒト臨床試験において、試験用化粧水の適用後0週目と4週目の肌パラメータ測定値を、和美乃盆盆群とプラセボ群で比較した結果である。
図2(A)は黄色ブドウ球菌の菌数の割合を、
図2(B)は細胞剥離率を、
図2(C)は角層重層度を示す。
【
図3】
図3は、和美乃盆盆を含む試験用化粧水を適用後4週目の被験者について行った効果実感アンケートの結果である。
【
図4】
図4は、テープストリッピング試験で採取した皮膚の角質細胞の顕微鏡写真である。
図4(A)及び(C)は、0週目の被験者の結果を、(B)及び(D)は同じ被験者に試験用化粧水を適用後4週目の結果を示す。
【
図5】
図5は、和美乃盆盆を含む試験用化粧水を適用した被験者について、なめらか実感群と非実感群とで0週目と4週目の表皮ブドウ球菌(A)及び黄色ブドウ球菌(B)の菌数の割合を比較した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る剤などについて説明する。
【0012】
(皮膚常在菌のバランス改善剤)
本実施形態において、用語「皮膚常在菌のバランス改善剤」は、健全な皮膚に存在する皮膚常在菌叢を維持し、外部からの病原菌の侵入を防ぐバリア機能を付与する製剤又は組成物である。皮膚常在菌叢のバランスが崩れると、常在菌の過剰増殖や他の有害菌の侵入や増殖が起こり、様々な皮膚症状が誘発される。皮膚常在菌の一つである表皮ブドウ球菌は、病原性の菌、例えば黄色ブドウ球菌や緑膿菌に対して拮抗作用を有し、そのような有害菌の増殖を阻止しうることから、表皮ブドウ球菌の生育を促進する作用は、皮膚常在菌叢のバランス調整剤としての1つの機能であると考えられる。また、表皮ブドウ球菌等の生育には影響を与えず、有害な黄色ブドウ球菌等の生育を抑制するような抗菌作用を有する物質を含む製剤又は組成物であってもよい。本実施形態において、皮膚常在菌のバランス改善は、例えば、皮膚常在菌において、表皮ブドウ球菌の割合を増加させること及び黄色ブドウ球菌の割合を減少させること、が挙げられる。
【0013】
1つの実施形態において、糖類又はその抽出物と、酒類の醸造粕又はその抽出物と、を含有する液体からなる皮膚常在菌のバランス改善剤(以下、単に「剤」と称する場合がある。)が提供される。本実施形態における剤は、好ましくは、皮膚常在菌における表皮ブドウ球菌の割合を増加させ、かつ黄色ブドウ球菌の割合を減少させる作用を有する。ここで、糖類は、例えば、ブドウ糖、果糖、ガラクトース、ショ糖、砂糖、黒砂糖、糖蜜、廃糖蜜、粗糖、乳糖、麦芽糖等である。尚、黒砂糖とは、黒糖ともいわれる含密糖の一種で、粗製の黒色塊状の砂糖であり、鉄分、カルシウム、その他の無機質を豊富に含む。
【0014】
(糖蜜について)
糖蜜は、例えば、原料(サトウキビ・てん菜)から砂糖を精製するときに出る副産物で、糖分やミネラルなどが含まれている黒褐色で粘度の高い液体で、廃糖蜜・モラセス(molasses)とも言われることがある。又、粗糖(そとう)は、加工段階にある砂糖の一種である。糖蜜の製法は、例えば、途中まで黒砂糖の製法過程と同様な過程でも可能だが、サトウキビ又はてん菜の絞り汁を下処理した後に結晶させ、遠心分離機等を用いて糖蜜(=廃糖蜜)をある程度分離し、残った結晶が粗糖となる、という製法である。この分離される糖蜜を、本発明で用いることができる。なお、糖蜜の由来は、例えば、白下糖、和三盆などが挙げられる。
【0015】
上記糖類のなかでも糖蜜又はその抽出物を用いることが好ましい。本実施形態において、「糖蜜」は、上記糖類を含む液体を意味する広い概念であり、糖類を原料から精製する際に現れる副産物である糖蜜、廃糖蜜、含蜜糖を含むがこれらに限定されないが、例えば和三盆糖蜜が挙げられる。糖蜜抽出物とは、糖蜜のアルコール発酵後の抽出物、又は糖蜜を水、メタノール、エタノール等の溶媒により冷浸もしくは温浸し、その後濾過、濃縮した抽出物をいう。
【0016】
(酒類醸造粕について)
本実施形態における酒類醸造粕とは、清酒、合成清酒、粉末酒、雑酒、焼酎、料理酒、味醂、果実酒類、ウイスキー類、スピリッツ類、リキュール類、ビール、発泡酒類の醸造粕をいう。尚、酒類醸造粕とは、酒税法に規定する酒類、即ち、清酒、合成清酒、焼酎、味蔀、ビール、果実酒類、ウイスキー類、スピリッツ類、リキュール類及び雑酒の醸造粕で、糖類、デンプン質を含む種々の可食原料を微生物によりアルコール醗酵せしめたものの濾過残渣をいう。又、様々な原料(米、麦、サツマイモ、芋、とうもろこし、こうりやん、ばれいしよ、麦芽、ホップ、葡萄や各種果実、各種穀物等)を微生物等で糖化後、アルコール醗酵を行った後の残渣であればいずれを用いても良い。醸造粕抽出物とは、上記醸造粕を水、メタノール、エタノール等の溶媒により冷浸もしくは温浸し、その後濾過、濃縮した抽出物をいう。
【0017】
本発明の好ましい実施形態における剤は、糖蜜又はその抽出物と、酒類醸造粕またはその抽出物とを含有し、糖度が60~85の液体からなる。この液体は糖類やアミノ酸、ビタミン類などの栄養素を豊富に含んでいるため、例えば微生物による汚染を防ぐ観点から糖度が60以上であることが好ましく、より好ましくは糖度65以上、さらに好ましくは糖度70以上である。一方、糖度が高すぎると、例えば液体の粘度が増加して外用剤や各種組成物へ配合する際の取り扱いが難しいため、糖度85以下が好ましい。より好ましくは糖度80以下でありさらに好ましくは糖度が75以下である。なお、本実施形態に含まれる1つの具体的な液体は、一丸ファルコス株式会社から、「和美乃盆盆(登録商標)」という商品名で販売されている。
【0018】
(糖度について)
本実施形態において、糖度とは、Brix値を意味する。ここで、Brix値とは、溶液100g中に含まれる可溶性固形分(糖類など)のグラム量を計測する単位である。Brix値は、市販の屈折率計又は糖度計を用いて測定することができる。詳細には、1グラムのショ糖が20℃の水溶液100グラムに溶けているとき、その溶液のBrix(ブリックス)値が1度であるとされ、このショ糖溶液と同じ糖度屈折計の値を示す溶液のBrix値が1度であると定義される。この定義によれば、Brix値は、必ずしも試料溶液中のショ糖の質量百分率のことを意味しない。
【0019】
(防腐剤について)
さらに本実施形態における剤は、その総質量に対して1質量%以下の防腐剤を含むことが好ましい。ここで、防腐剤は、後述する皮膚外用剤に添加される防腐剤であれば特に限定されないが、例えば皮膚外用剤に添加したときに皮膚刺激を生じたり、べたつきが生じたりといった問題があり、できるだけ使用量の低減が望まれている。本実施形態の剤は、糖度が高いため微生物の増殖が抑制されており、低温保存の場合は防腐剤を添加しなくてもよいが、低濃度の防腐剤の使用で室温保存でも所望の当該液体の防腐性が確保される。そのため、従来の防腐剤量では皮膚刺激を感じる敏感肌の人でも、刺激感を感じることなく使える外用剤組成物を製造することも可能である。したがって、防腐剤を添加する場合の下限濃度に制限はなく、0質量%を超えればよい。上限濃度は1質量%であり、0.5質量%が好ましく、0.1質量%がさらに好ましい。これらの低濃度で防腐作用を有する防腐剤としては、例えば、パラベン類や安息香酸及びその塩などが好ましく、さらに好ましくは安息香酸ナトリウム、である。
【0020】
(皮膚常在菌のバランス改善剤の形態などについて)
本実施形態における皮膚常在菌のバランス改善剤は、常温で流動性がある物質のことであり、ペースト状ないしスラリー状のものを含む。本実施形態における剤は、20℃における粘度が、10000mPa・s以下、好ましくは7000mPa・s以下、好ましくは5000mPa・s以下、好ましくは2000mPa・s以下、更に好ましくは1500mPa・s以下に調整されていることが望ましい。この粘度は、例えば、本実施形態における液体を20℃の条件下で、B型粘度計(例えば、B8M、東京計器株式会社製)を用いてローターNo.2、回転数:12rpmで5分間測定することによって求められる。この液体の粘度の下限は特に限定されないが、多量の糖類を含むため通常は500mPa・s以上となる。液体の粘度が増加するに従って、化粧料組成物や飲食品組成物に添加する際の取り扱いが難しくなるが、本実施形態の液体は、好ましくは粘度が2000mPa・s以下となるように調整されていることで取り扱いがより容易であり、種々の材料と均一に混合することがより可能となる。
【0021】
本実施形態の剤を皮膚外用剤に配合する場合の配合量としては、効果を有することが確認できる範囲であれば特に制限はないが、例えば、0.01mg/gから400mg/g(分母は製剤の重量を示す)の範囲でよく、好ましくは、0.1mg/gから100mg/gであり、さらに好ましくは、1mg/gから50mg/gである。
【0022】
(皮膚外用剤)
本発明の皮膚常在菌のバランス改善剤を化粧品、外用医薬品、医薬部外品等の外用剤組成物とする場合は、糖類又はその抽出物と、酒類の醸造粕又はその抽出物と、を含有する液体と共に、製剤学的に許容される適当な製剤担体を用いて、一般的な皮膚外用剤の形態に調製されて実用される。かかる製剤担体としては、例えば、グリセリン、ワセリン、尿素、ヒアルロン酸、ヘパリン等の保湿剤;PABA誘導体(パラアミノ安息香酸、エスカロール507等)、桂皮酸誘導体(ネオヘリオパン、パルソールMCX、サンガードB等)、サリチル酸誘導体(オクチルサリチレート等)、ベンゾフェノン誘導体(ASL-24、ASL-24S等)、ジベンゾイルメタン誘導体(パルソールA、パルソールDAM等)、複素環誘導体(チヌビン系等)、酸化チタン等の紫外線吸収剤・散乱剤;エデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酒石酸、酒石酸ナトリウム、乳酸、リンゴ酸、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、グルコン酸等の金属封鎖剤;サリチル酸、イオウ、カフェイン、タンニン等の皮脂抑制剤;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン等の殺菌・消毒剤;塩酸ジフェンヒドラミン、トラネキサム酸、グアイアズレン、アズレン、アラントイン、ヒノキチオール、グリチルリチン酸及びその塩、グリチルリチン酸誘導体、グリチルレチン酸等の抗炎症剤;ビタミンA、ビタミンB群(B1,B2,B6,B12,B15)、葉酸、ニコチン酸類、パントテン酸類、ビオチン、ビタミンC、ビタミンD群(D2,D3)、ビタミンE、ユビキノン類、ビタミンK(K1,K2,K3,K4)等のビタミン類;アスパラギン酸、グルタミン酸、アラニン、リジン、グリシン、グルタミン、セリン、システイン、シスチン、チロシン、プロリン、アルギニン、ピロリドンカルボン酸等のアミノ酸及びその誘導体;レチノール、酢酸トコフェロール、アスコルビン酸リン酸マグネシウム、アスコルビン酸グルコシド、アルブチン、コウジ酸、エラグ酸、胎盤抽出液等の美白剤;ブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、没食子酸プロピル等の抗酸化剤;塩化亜鉛、硫酸亜鉛、石炭酸亜鉛、酸化亜鉛、硫酸アルミニウムカリウム等の収斂剤;グルコース、フルクトース、マルトース、ショ糖、トレハロース、エリスリトール、マンニトール、キシリトール、ラクチトール等の糖類;甘草、カミツレ、マロニエ、ユキノシタ、芍薬、カリン、オウゴン、オウバク、オウレン、ジュウヤク、イチョウ葉等の各種植物エキス等の他、油性成分、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、粉末成分、色素等が挙げられる。これらは、添加しようとする製品種別、形態に応じて常法的に行われる加工(例えば、粉砕、製粉、洗浄、加水分解、醗酵、精製、圧搾、抽出、分画、ろ過、乾燥、粉末化、造粒、溶解、滅菌、pH調整、脱臭、脱色等を任意に選択、組合わせた処理)を行い、各種の素材から任意に選択して供すれば良い。
【0023】
なお、各種植物からの抽出物(生薬)または動物系原料由来の添加物を、本実施形態の外用剤に供する場合、皮膚や頭髪の保護をはじめ、保湿、感触・風合いの改善、柔軟性の付与、刺激の緩和、芳香によるストレスの緩和、細胞賦活(細胞老化防止)、炎症の抑制、肌質・髪質の改善、肌荒れ防止及びその改善、発毛、育毛、脱毛防止、光沢の付与、清浄効果、疲労の緩和、血流促進、温浴効果等の美容的効果のほか、香付け、消臭、増粘、防腐、緩衝等の効果も期待できる。
【0024】
さらにこの他にも、これまでに知られている各原料素材の様々な美容的、薬剤的効果を期待し、これらを組合わせることによって、本発明の目的とする皮膚常在菌のバランス改善効果に加えて、多機能的な効果を期待した製品とすることも可能である。
【0025】
皮膚外用剤の具体例としては、化粧用クリーム類、乳液、化粧水、パック剤、スキンミルク(乳剤)、ジェル剤、パウダー、リップクリーム、口紅、アンダーメークアップ、ファンデーション、サンケア、浴用剤、ボディシャンプー、ボディリンス、石鹸、クレンジングフォーム、軟膏、貼付剤、ゼリー剤、エアゾール剤等を挙げることができる。
【0026】
(美容方法)
本発明の他の実施形態は、上記皮膚外用剤を用いる美容方法に関する。本実施形態の美容方法は、上記皮膚外用剤を被験者に適用することにより、皮膚常在菌のバランスを改善し、肌状態を改善することを特徴とする。適用方法としては、例えば、被験者の所望の部位の皮膚に塗布することである。皮膚への塗布は、例えば1日1回または複数回行ってよい。外用剤の種類に応じて適宜選択することができる。一般に、ローション剤、乳剤、ゲル剤、クリーム剤、軟膏剤として調製された外用剤として適用する場合には、顔等の皮膚に対し、1日1~2回程度塗布することが好ましい。本発明の皮膚外用剤は、化粧料としても利用でき、ローション、乳液、美容液、クリーム、リキッドファンデーション、パウダーファンデーション、口紅などに応用できる。本実施形態において、美容方法とは、単に個人的に行われる方法のみならず、美容に関わる商品の提供の際に、顧客にあわせた化粧料の処方として提供され、医師以外の化粧料販売員やエステティシャンにより提供されるものを含む。また、美容に関わる商品の説明書(添付文書等)等においてその商品の使用方法として提供されるものも含む。
【0027】
本実施形態の美容方法は、例えば、皮膚常在菌のバランス改善が所望される肌の症状の改善のために使用することができる。例えば、皮膚の炎症を起こしやすい対象者に、皮膚のなめらかさを付与するために使用することができる。用語「なめらかさ」とは、つるんとした、うるおい感、みずみずしさのある肌状態を意味する。皮膚常在菌のバランスを改善することにより、肌の微弱炎症や角層の乱れによって引き起こされる肌荒れや不調を改善し、なめらかさが付与されると考えられる。
【0028】
次に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。なお、以下の実施例において、各種成分の添加量を示す数値の単位%は、質量%を意味する。
【実施例】
【0029】
(製造例1)
糖蜜(ばいこう堂株式会社)100gを250gの精製水(約30℃)に混合・撹拌分散した後、濾過して、糖蜜エキス約300gを得た。
【0030】
(製造例2)
清酒の酒粕(中野BC株式会社)100gを150gの精製水(約30℃)に混合・撹拌分散した後、濾過して、酒粕エキスを約200g得た。
【0031】
(製造例3)
製造例1の糖蜜エキス100gと製造例2の酒粕エキス100gを混合・撹拌分散した後、濾過して、糖蜜酒粕混合エキス約150gを得た。
【0032】
(製造例4)
糖蜜(ばいこう堂株式会社)100gと清酒の酒粕(中野BC株式会社)25gを混合・撹拌分散した後、濾過して、糖蜜酒粕混合エキス約100gを得た。
【0033】
[実施例1]表皮ブドウ球菌及び黄色ブドウ球菌の共培養系の構築とサンプル評価
インビトロにて、表皮ブドウ球菌の生育を促進し黄色ブドウ球菌の生育を抑制する物質をスクリーニングするため、黄色ブドウ球菌と表皮ブドウ球菌の共培養系を構築した。この共培養に使用した培地及び菌株は以下のとおりである:
・NB液体培地(Nutrient Broth No.2+0.1%NaCl(pH6.0))は、NB培地(関東化学、711067-5 ニュートリエントブイヨンNo.2)とNaClを水に溶解したのち、HClでpHを5.5~6.5に調整後、オートクレーブ滅菌して使用する。なお、NB培地25gを水1000mlに溶かす割合で、当該溶解を行った。
・NB寒天培地(Nutrient Broth No.2)は、NB培地にAgarが1.5%となるように添加して固化させたもの。
・表皮ブドウ球菌(S.epidermidis):ATCC12228
・黄色ブドウ球菌(S.aureus):ATCC6538
【0034】
(培養準備)
予め、使用する菌の凍結ストックを作製した。この凍結ストックを、NB液体培地を用いて適切に希釈して寒天培地に撒き、コロニー数から、元のストックに含まれる生菌濃度を計算した。およそ109CFU/mLの凍結ストックが得られた。次に、24穴プレートに、NB液体培地を加え、続いて、試験に用いるサンプルを適量加えた。本実施例では、製造例4で作製した糖蜜酒粕混合エキス(和美乃盆盆、一丸ファルコス株式会社製)を、終濃度でそれぞれ0.01%又は1.00%となるように添加して、最終的な液量が500μLとなるように調整した。コントロールとしては、NB液体培地のみを用いた。
【0035】
(表皮ブドウ球菌及び黄色ブドウ球菌混合液の作製と添加、培養)
菌の凍結ストックをそれぞれ融解、氷冷した。表皮ブドウ球菌と黄色ブドウ球菌とを適切に希釈して混合した後、用意した24穴プレートに、菌混合液を適量加えた。本実施例では、表皮ブドウ球菌の最終濃度が、4.5×105CFU/mL、黄色ブドウ球菌の最終濃度が、0.5×105CFU/mLとなるように調整した。菌混合液を加えた24穴プレートを軽く振って混ぜた後、37℃で16時間培養した。
【0036】
(培養液のプレーティング)
培養16時間経過時点で24穴プレートを37℃から出し、氷冷した。各穴の培養液を、新しい1.5mLのチューブに移し、氷冷した。この菌培養液を、新しいNB 液体培地を用いて希釈した。希釈後の培養液の適量を、NB寒天培地に滴下し、コンラージ棒で塗り広げ、37℃で一晩培養した。
【0037】
(結果の集計)
一晩培養後のNB寒天培地に生育したコロニー数を計数した。コロニーの色で表皮ブドウ球菌(白色のコロニー)と、黄色ブドウ球菌(黄色のコロニー)とを見分けることが出来るので、それぞれの菌数を計測し、総菌数に占める表皮ブドウ球菌の割合等を算出した。
【0038】
その結果を以下の表1及び
図1に示す。なお、当該計数は、各群(各添加群)毎に当該計数を3回行った。下記表1及び
図1に示す値は、当該3回行った計数の結果の平均値を示す。
【表1】
【0039】
表1及び
図1(A)に示すように、和美乃盆盆無添加の場合に比べ、少なくとも和美乃盆盆を1.00%添加した場合に、黄色ブドウ球菌数が有意に減少することが分かった。和美乃盆盆を1.00%添加した場合には、無添加の場合に比べて総菌数も減少していることから、総菌数に占める表皮ブドウ球菌の割合(%)を計算し、その結果を
図1(B)に示す。
図1(B)で示すように、和美乃盆盆無添加の群(
図1(B)で0%と標記)は59.9%、和美乃盆盆を0.01%添加した群(
図1(B)で0.01%と標記)は52.9%、和美乃盆盆を1.00%添加した群(
図1(B)で1.00%と標記)は90.7%であった。
図1(B)で示す結果から、少なくとも和美乃盆盆を1.00%添加した群では、和美乃盆盆無添加の群と比べて総菌数に占める表皮ブドウ球菌数が有意に増加したことから、黄色ブドウ球菌を選択的に減少されたと考えられる。
【0040】
[実施例2]ヒト臨床試験による評価
製造例4で作製した糖蜜酒粕混合エキス(和美乃盆盆、一丸ファルコス株式会社製)を配合した化粧水(以下の表2に示す。)、及び糖蜜酒粕混合エキスを水に置き換えたプラセボ化粧水を用いて1か月の連用試験を実施した。被験者(和美乃盆盆群:11名(脱落者1名)、プラセボ群:11名)は実験の目的及び試験内容について十分に説明を受けた健常日本人女性であり、年齢は20~50代であった。本試験の約半年前に82名の皮膚細菌叢を採取、解析し、黄色ブドウ球菌が検出された被験者22名を選定し2群に割り付けた。そのうち4人にアトピー性皮膚炎の既往歴があった。
【0041】
【0042】
試験の開始時、2週間後、4週間後に、角質水分量、経表皮水分蒸散量(TEWL)、皮脂量、pH、メラニンインデックス、ヘモグロビンインデックス、VISIA(登録商標)による画像解析を実施した。試験の開始時、4週間後には、肌パラメータ-の測定に加え、皮膚細菌叢の採取とテープストリッピングによる角層細胞の採取も実施した。試験開始後2週目と4週目測定後に効果実感アンケートを実施した。なお、統計的解析は、データの分散を見て、等分散ならスチューデントのt検定を、非等分散の場合はウェルチのt検定を行った。同じグループの0週目と4週目の比較は対応のあるt検定を行った。
【0043】
主な試験方法の詳細は以下のとおりである。
(被験者の皮膚細菌叢の採取と解析)
被験者の頬部から、ウェットスワブ(リン酸緩衝食塩水に浸して濡らした綿棒)で皮膚表面を擦り、菌叢を含むサンプルを採取した。微生物叢の変化を、次世代シーケンシング(Next Generation Sequencing,NGS)の方法により解析した。NGS解析用のDNAサンプルは、菌叢の付着した各スワブから、UCP Pathogen Mini Kit(QIAGEN)を用いて、機械的な前溶解処理プロトコール及びスピンプロトコールにて当該菌叢DNAを調製し、30μL容量で溶出した。このDNAサンプルに対して、Taq HS Perfect Mix(Takara)及び細菌16SrRNA v3領域のプライマーを用いて1st PCRを行った。
【0044】
Fwプライマー:5’-TCGTCGGCAGCGTCAGATGTGTATAAGAGACAGCCTACGGGAGGCAGCAG-3’(配列番号1)
Rvプライマー:5’-GTCTCGTGGGCTCGGAGATGTGTATAAGAGACAGATTACCGCGGCTGCTGG-3’(配列番号2)
【0045】
得られたDNA断片はAMPure XP(BECKMAN COULTER)を用いて精製した。精製されたDNA断片に対して、Taq HS Perfect Mix(Takara)およびNextera XT Index Kit v2(Illumina)を用いて2nd PCRを行った。1st PCR, 2nd PCRともに、PCR装置としてMiniAmp(Thermo Fisher)を用いて行った。得られたDNA断片をAMPure XP(BECKMAN COULTER)によって精製し、Miniseq(Illumina)でのNGS解析に供した。
【0046】
BLAST解析
Miniseqより得られたFASTqファイルをhomology analysis tool v3(World Fusion)によってBLAST処理し、その後Metagenome@Kin(World Fusion)によって菌種判定を行った。
【0047】
(テープストリッピング法による解析)
市販のセロファンテープを用い、被験者の顔面頬部よりストリッピングによって角質細胞を剥離した。これを塩化ビニル板に密着させた。そのあとこれをヘキサンに浸漬し、テープを取り去ると細胞がスライド上に移る。これをゲンチアナバイオレットとブリリアントグリーンで染色した。標本は、顕微鏡下で観察するとともに、描画装置とデジタイダーを組み合わせ、細胞の面積、形状を測定した。
【0048】
細胞剥離率は、上記標本を用いて角層を撮影した画像について、画像解析ソフト(Adobe Photoshop)を用いて、全体のピクセル数に対し白い部分(角層のない部分)を除いたピクセル数の割合(%)で計算した。重層度は、同じく画像解析ソフト(Adobe Photoshop)にて、各人6枚の画像から重層部分の輝度を数か所確認し、重層化していると判断する基準となる輝度を決め、この画像中角質のみを抽出し、この抽出した角層の中で基準輝度以下の比率を重層度とした。
【0049】
(結果)
図2は、被験者による試験用化粧水の適用後0週目と4週目の肌パラメータ測定値を、和美乃盆盆群とプラセボ群で比較した結果である。(A)は、すべての細菌のリード数を100としたときの黄色ブドウ球菌のリード数の割合(%)を、(B)は細胞剥離率を、(C)は角層重層度を示す。
図2(A)の結果から、和美乃盆盆配合群では、0週の黄色ブドウ球菌の存在比率1.36%に比べ4週間後の黄色ブドウ球菌存在比率が0.74%と有意に減少(p=0.01)したが、プラセボ群では変化がなかった(p=0.66)。
【0050】
テープで採取した角層細胞の視野全体に占める割合を細胞剥離の均一性の指標とした細胞剥離率は、和美乃盆盆配合群では、0週の45.9%から4週目の50.9%へと有意に増加したが(p=0.034)、プラセボ群では変化しなかった(p=0.56)。重層度は両群ともに減少し、和美乃盆盆の影響というよりは化粧水のその他の成分の影響と考えられた。
【0051】
図3は、和美乃盆盆を含む試験用化粧水を適用後4週目の被験者について行った効果実感アンケートの結果である。横軸に記載した各項目について、当てはまるものを複数個選択して回答を得た。
図3に示したように、和美乃盆盆群では、10名中6名が「なめらかになった」と回答したのに対し、プラセボ群では11名中2名であった。
【0052】
図4は、テープストリッピング試験で採取した皮膚の角質細胞の顕微鏡写真である。(A)及び(C)は、0週目の被験者の写真であり、(B)及び(D)は、同じ被験者に試験用化粧水を適用後4週目の写真である。(A)と(B)の倍率は100倍、(C)と(D)の倍率は1000倍であり、(A)と(C)及び(B)と(D)は、同じ角層をそれぞれ異なる倍率で撮影したものである。(A)及び(C)に比べ(B)及び(D)では、細胞剥離率は大きくなり、重層度は低下することが分かる。
【0053】
角質細胞の剥離は、表皮の角質細胞間の接着機構が弱まって、古い角質細胞が皮膚表面からはがれ落ちることを意味し、角質細胞同士を接着しているデスモソームというタンパク質を分解することにより、剥離が促進される。しかし、このタンパク質分解酵素の活性が低下すると、デスモソームの分解が阻害され、角質がスムーズに剥離できなくなり、重層化が起こる。これによって、肌のくすみや肌あれ、キメの乱れなどの肌トラブルを引き起こすと考えられている。したがって、皮膚の角質細胞の剥離が促進され、重層化が抑制されることにより、肌のくすみが改善してなめらかになると考えられる。
【0054】
図5は、和美乃盆盆を含む試験用化粧水を適用した被験者について、なめらか実感群(6名)と非実感群(4名)とで0週目と4週目の表皮ブドウ球菌(A)及び黄色ブドウ球菌(B)の菌数を比較した結果である。なめらか実感群では、表皮ブドウ球菌の割合は0週目の1.66%に比べて、試験用化粧水の適用後4週目では3.12%と増加し、黄色ブドウ球菌の割合は0週目の1.84%に比べて4週目では1.02%まで減少するのに対し、非実感群ではそのような傾向が認められないことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の剤を含む化粧水の適用は、肌のなめらかさの実感と角質の指標改善、及びそれに関わる黄色ブドウ球菌の制御に関して有効であることが確認できた。したがって、本発明の皮膚外用剤は、肌荒れや肌の不調を改善する化粧品として利用できる可能性がある。
【配列表】