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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】流量センサ素子
(51)【国際特許分類】
   G01P 5/12 20060101AFI20240717BHJP
【FI】
G01P5/12 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020113909
(22)【出願日】2020-07-01
(65)【公開番号】P2022012231
(43)【公開日】2022-01-17
【審査請求日】2023-05-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000105350
【氏名又は名称】KOA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100121049
【弁理士】
【氏名又は名称】三輪 正義
(72)【発明者】
【氏名】下平 正浩
(72)【発明者】
【氏名】三浦 克哉
【審査官】藤澤 和浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-059704(JP,A)
【文献】特開平10-274552(JP,A)
【文献】特開2011-007615(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110887577(CN,A)
【文献】特開平06-275406(JP,A)
【文献】特開平01-018023(JP,A)
【文献】特開2010-107327(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01P 5/12
G01F 1/68 ~ 1/692
G01K 7/16 ~ 7/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に貫通孔を有する中空柱状の基体と、
前記基体の両端面の間を繋ぐ外周面に形成された、温度変化により電気抵抗値が変化する感温膜パターンと、
前記感温膜パターンの両端に電気的に接続された第1の配線部及び第2の配線部と、を有し、
前記第1の配線部は、前記貫通孔を通って、前記第2の配線部側に引き出され、前記感温膜パターンと電気的に接続された側の前記基体の端面から突出していることを特徴とする流量センサ素子。
【請求項2】
前記感温膜パターンは、前記基体の外周面に形成された感温膜がスパイラルパターンにトリミングされたものであることを特徴とする請求項1に記載の流量センサ素子。
【請求項3】
前記基体は、円筒形であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の流量センサ素子。
【請求項4】
前記基体の両端には、第1の電極キャップ及び第2の電極キャップが、前記感温膜パターンと電気的に接続された状態で、嵌合されており、
前記第1の配線部は、前記第1の電極キャップに電気的に接続され、前記第1の電極キャップの反対側に位置する前記第2の電極キャップに非接触となるように、前記貫通孔から外部に引き出されており、
前記第2の配線部は、前記第1の配線部と接触しない位置にて前記第2の電極キャップに電気的に接続されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の流量センサ素子。
【請求項5】
前記第1の配線部は、導電性の固定部材により、前記感温膜パターンの一方の端部側と電気的に接続されるとともに、前記貫通孔に挿通された状態を保持しており、
前記第2の配線部は、前記感温膜パターンの他方の端部側の表面に取り付けられていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の流量センサ素子。
【請求項6】
前記基体は、第1の貫通孔及び第2の貫通孔を有し、
前記第1の配線部が、導電性の固定部材により、前記感温膜パターンの一方の端部側と電気的に接続されるとともに、前記第1の貫通孔に挿通された状態にて保持されており、
前記第2の配線部が、導電性の固定部材により、前記感温膜パターンの他方の端部側と電気的に接続されるとともに、前記第2の貫通孔に保持されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の流量センサ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、風速を計測可能な流量センサ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
加熱した流量検知用抵抗素子を流体に曝し、その際の放熱作用に基づいて流体の流量を検出する熱式の流量センサ素子が知られている。
【0003】
特許文献1には、温度センサに関する発明が開示されている。特許文献1に記載の温度センサは、複数の貫通孔を有する支持体と、各貫通孔に挿入される白金線と、各白金線と電気的に接続され、支持体の一方の端面に形成された白金薄膜と、を有して構成される。白金薄膜には、幅が狭くされた感温部が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第2946254号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の温度センサの構成は、一端面のみが感温領域であるため、この温度センサを流量を検知する流量センサ素子として適用した際、検知可能な流量の方向は限定的となり、無指向性に劣るという問題がある。
【0006】
そこで本発明は、上記問題に鑑みてなされたもので、周方向の指向性が無い流量センサ素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明における流量センサ素子は、内部に貫通孔を有する中空柱状の基体と、前記基体の両端面の間を繋ぐ外周面に形成された、温度変化により電気抵抗値が変化する感温膜パターンと、前記感温膜パターンの両端に電気的に接続された第1の配線部及び第2の配線部と、を有し、前記第1の配線部は、前記貫通孔を通って、前記第2の配線部側に引き出され、前記感温膜パターンと電気的に接続された側の前記基体の端面から突出していることを特徴とする。

【発明の効果】
【0008】
本発明の流量センサ素子においては、中空柱状の基体を備え、基体の外周面に感温膜パターンを形成し、感温膜パターンに接続される配線部のうち、第1の配線部を、基体に設けられた貫通孔に通して、第2の配線部と同じ方向に引き出した構成としている。これにより、基体の外周面全域に感温膜パターンが、配線部と重なることなく形成されており、周方向に対しセンシング感度が均一な無指向性の流量センサ素子を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1A】第1の実施の形態における流量センサ素子の側面図である。
図1B】第1の実施の形態における流量センサ素子の断面図である。
図1C】第1の実施の形態における流量センサ素子の斜視図である。
図1D】第1の実施の形態の流量センサ素子に取り付けられる第1の電極キャップ及び第1の配線部の斜視図である。
図1E】第1の実施の形態の流量センサ素子に取り付けられる第2の電極キャップ及び第2の配線部の斜視図である。
図2A】第2の実施の形態における流量センサ素子の側面図である。
図2B】第2の実施の形態における流量センサ素子の断面図である。
図2C】第2の実施の形態における流量センサ素子の斜視図である。
図3A】第3の実施の形態における流量センサ素子の側面図である。
図3B】第3の実施の形態における流量センサ素子の断面図である。
図3C】第3の実施の形態における流量センサ素子の斜視図である。
図4】本実施の形態の流量センサ素子の回路図(一例)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施の形態(以下、「実施の形態」と略記する。)について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0011】
本実施の形態の流量センサ素子は、熱式の流量センサ素子であり、内部に貫通孔を有する中空柱状の基体と、基体の外周面に形成された感温膜パターンと、感温膜パターンの両端部に夫々、電気的に接続された第1の配線部及び第2の配線部と、を具備して構成される。以下、図面を用いて、本実施の形態の流量センサ素子の構造について説明する。
【0012】
<第1の実施の形態の流量センサ素子1>
図1Aは、第1の実施の形態における流量センサ素子の側面図である。図1Bは、第1の実施の形態における流量センサ素子の断面図である。図1Cは、第1の実施の形態における流量センサ素子の斜視図である。図1Dは、第1の実施の形態の流量センサ素子に取り付けられる第1の電極キャップ及び第1の配線部の斜視図である。図1Eは、第1の実施の形態の流量センサ素子に取り付けられる第2の電極キャップ及び第2の配線部の斜視図である。
【0013】
図1A及び図1Bに示すように、基体2は、中空柱状である。「中空柱状」とは、円筒状、多角筒状、或いは、楕円筒状等の中空で柱状の形状と定義される。したがって、基体2は、略平面状の上端面2a及び下端面2bと、上端面2a及び下端面2bの間を繋ぐ外周面2cと、を有して構成され、上端面2aから下端面2bにわたって、基体2の内部を貫く貫通孔7が形成されている。基体2の形状を限定するものではないが、基体2は、円筒状であることが、周方向へのセンシング感度をより均一にでき、より効果的に、無指向性を実現できるため好ましい。
【0014】
また、基体2は、電気的に絶縁物であれば特に材質を問うものではない。基体2は、例えば、絶縁碍子等のセラミックス、ガラス、プラスチック等で形成される。このうち、耐久性及び加工性の観点より、基体2は、セラミックスであることが好適である。
【0015】
図1Bに示すように、基体2の上端面2a、下端面2b、及び外周面2cには感温膜6が形成されている。また、感温膜6は、上端面2a及び下端面2bから貫通孔7の壁面の一部にまで連続して延出している。限定されるものではないが、貫通孔7への感温膜6の深さは、貫通孔7の径とほぼ同程度である。本実施の形態では、感温膜6を蒸着法などで成膜することができ、そのため、感温膜6を、上端面2a、下端面2b、及び外周面2cのみならず、貫通孔7の壁面の一部にまで延出して形成することができる。
【0016】
図1A図1Cに示すように、基体2の外周面2cに形成された感温膜6は、トリミングされて、感温膜パターン3を構成している。なお、感温膜パターン3は、基体2の外周面2cに、単一パターンで形成されていることが好ましい。このように、外周面2cに形成された感温膜6を、トリミングにてパターニングすることにより、基体2の外周面全体に均一膜のパターンを形成することができ好ましい。トリミング処理には、レーザ処理やエッチング処理などを挙げることができる。なお、感温膜パターン3を、フォトリソグラフィ技術にて形成することにより、製造コストを抑えることが可能になる。ここで、「外周面全体」とは、トリミングライン12を除く領域を指す。
【0017】
感温膜パターン3の材質を限定するものではないが、白金(Pt)膜であることが好ましい。白金膜を使用することで、経時劣化を少なくすることができる。これにより、白金からなる耐久性に優れた感温膜パターン3を、基体2の外周面2c全体に形成することができる。
【0018】
また、本実施の形態では、感温膜パターン3のパターン形状を限定するものではないが、図1A図1Cに示すように、感温膜パターン3を、スパイラル(螺旋)パターンで形成することが好ましい。これにより、流量センサ素子1に対して、周方向のどの方向から風が当たっても、センサ感度の均一化を図ることができる。
【0019】
感温膜パターン3は、温度変化により電気抵抗値が変化する。配線部4、5間の導通により感温膜パターン3は、温度が高い状態に保持されており、風が当たると感温膜パターン3の温度が低くなることで、感温膜パターン3の電気抵抗値が変化するよう制御されている。
【0020】
第1の実施の形態では、図1A図1Cに示すように、基体2の上端面2a側に第1の電極キャップ8が嵌合されており、基体2の下端面2b側に第2の電極キャップ9が嵌合されている。
【0021】
各電極キャップ8、9は、導電性であれば材質を問うものでなく、例えば、金属で形成される。
【0022】
図1B及び、図1Dに示すように、第1の電極キャップ8には、径方向の中心に穴8aが設けられており、穴8aに、第1の配線部4が挿通されている。第1の配線部4は、第1の電極キャップ8に、導電性の固定部材10を介して接合されている。これにより、第1の配線部4と第1の電極キャップ8は、電気的に接続された状態にある。固定部材10を限定するものではないが、例えば、はんだ、導電性接着剤等であることが好ましい。導電性接着剤の材質を限定するものではないが、例えば、エポキシ樹脂の銀フィラーを混合したものである。
【0023】
図1B及び、図1Eに示すように、第2の電極キャップ9には、径方向の中心に穴9aが設けられている。また、第2の電極キャップ9の外周には、複数の第2の配線部5が間隔を開けて、取り付けられている。各第2の配線部5は、第2の電極キャップ9に導電性接着剤や溶接などで固定される。
【0024】
第1の配線部4及び第2の配線部5は、リード線であり、電気伝導性であれば材質を限定するものではないが、例えば、銅系やニッケル系の線材が錫メッキにより表面処理された被覆銅線を好ましく使用することができる。
【0025】
各電極キャップ8、9の内径を、基体2の外径よりも多少小さいサイズにして、各電極キャップ8、9を、基体2に押し込んで、基体2の外周面2cに固定することが好ましい。このとき、電極キャップ8、9は、弾性変形により、基体2への締め付け力が生じ、各電極キャップ8、9を、基体2の外周面2cに精度良く且つ確実に保持することができる。
【0026】
図1A及び、図1Bに示すように、第1の電極キャップ8及び第2の電極キャップ9が基体2に嵌合されると、第1の電極キャップ8は、感温膜パターン3の上端側に電気的に接続された状態にある。これにより、感温膜パターン3と第1の配線部4とが、第1の電極キャップ8を介して電気的に接続される。また、第2の電極キャップ9は、感温膜パターン3の下端側に電気的に接続された状態にある。これにより、感温膜パターン3と第2の配線部5とが電気的に接続される。
【0027】
図1A図1Cに示すように、第1の配線部4は、基体2の貫通孔7を通って、第2の配線部5と同じ側(図示下方向)に引き出される。このとき、第1の配線部4は、貫通孔7の下端側の側壁にまで延出した感温膜6や第2の電極キャップ9に接触しショートしてはいけない。そこで、図1Bに示すように、第1の配線部4は、第2の電極キャップ9の穴9aの位置で絶縁接着剤等の絶縁層11を介して、第2の電極キャップ9に固定される。これにより、第1の配線部4が感温膜6や第2の電極キャップ9に対し非接触にて保持される。なお、絶縁層11が無くても、第1の配線部4が感温膜6や第2の電極キャップ9に対し非接触にて保持可能であれば、絶縁層11を設ける必要はない。また、絶縁接着剤としては、エポキシ系が好ましいが、エポキシ系以外の絶縁接着剤(例えば、ポリイミドなど)であってもよい。
【0028】
また、図1A図1Cに示す感温膜パターン3の露出表面には、電気絶縁性の保護膜13が形成されていることが好ましい。例えば、保護膜13を、塗装やスパッタ等で形成することができる。また、保護膜13は、電気絶縁性の材質であれば特に材質を限定するものではないが、一例を示すと、例えば、エポキシ系樹脂を挙げることができる。
【0029】
図1A図1Cに示す流量センサ素子1の製造方法を限定するものではないが、例えば、基体2の表面(上端面2a、下端面2b及び外周面2c)に感温膜6を成膜する。このとき、感温膜6は、基体2の貫通孔7の壁面にも一部成膜される。次に、感温膜6を熱処理した後、基体2の外周面2cに形成された感温膜6に対してトリミング処理を施して、感温膜パターン3を形成する。続いて、第1の電極キャップ8及び第2の電極キャップ9を、基体2の両端に嵌合する。これにより、各電極キャップ8、9と感温膜パターン3とは電気的に接続された状態になる。次に、第1の配線部4を基体2の貫通孔7に挿通し、第1の配線部4と第1の電極キャップ8とを導電性の固定部材10で接合する。固定部材10としては、はんだや、導電性接着剤を例示することができる。これにより、第1の配線部4と感温膜パターン3とが電気的に接続された状態になる。図1Bに示すように、必要に応じて、第1の配線部4と第2の電極キャップ9に設けられた穴9aとの間に絶縁層11を設けて、第1の配線部4を第2の電極キャップ9に固定する。更に、複数の第2の配線部5を、第2の電極キャップ9の外周に間隔を開けて取り付ける。複数の第2の配線部5は、第2の電極キャップ9に等間隔で配置することが好ましい。したがって、第2の配線部5が2本の場合、各第2の配線部5を180°間隔で配置することが好ましい。
【0030】
最後に、電気絶縁性の保護膜13を、感温膜パターン3の露出表面に形成する。保護膜の形成は任意である。
【0031】
なお、図1D図1Eのように、予め、第1の配線部4及び第2の配線部5を、第1の電極キャップ8及び第2の電極キャップ9に接続固定しておき、配線部付きの各電極キャップ8、9を、基体2の両端に嵌合してもよい。
【0032】
図4は、第1の実施の形態の流量センサ素子1を含む流量装置の回路図である。図4に示すように、流量センサ素子1と、温度補償用抵抗素子14と、抵抗器26、27とでブリッジ回路28を構成している。図4に示すように、流量センサ素子1と抵抗器26とで第1の直列回路29を構成し、温度補償用抵抗素子14と抵抗器27とで第2の直列回路35を構成している。そして、第1の直列回路29と第2の直列回路35とが、並列に接続されてブリッジ回路28を構成している。
【0033】
図4に示すように、第1の直列回路29の出力部31と、第2の直列回路35の出力部32とが、夫々、差動増幅器(アンプ)33に接続されている。ブリッジ回路28には、差動増幅器33を含めたフィードバック回路34が接続されている。フィードバック回路34には、トランジスタ(図示せず)等が含まれる。
【0034】
抵抗器26、27は、流量センサ素子1、及び温度補償用抵抗素子14よりも抵抗温度係数(TCR)が小さい。流量センサ素子1は、例えば、所定の周囲温度よりも所定値だけ高くなるように制御された加熱状態で、所定の抵抗値Rs1を有し、また、温度補償用抵抗素子14は、例えば、前記の周囲温度にて、所定の抵抗値Rs2を有するように制御されている。なお、抵抗値Rs1は、抵抗値Rs2よりも小さい。限定するものではないが、例えば、抵抗値Rs2は、抵抗値Rs1の数倍~十数倍程度である。流量センサ素子1と第1の直列回路29を構成する抵抗器26は、例えば、流量センサ素子1の抵抗値Rs1と同様の抵抗値R1を有する固定抵抗器である。また、温度補償用抵抗素子14と第2の直列回路35を構成する抵抗器27は、例えば、温度補償用抵抗素子14の抵抗値Rs2と同様の抵抗値R2を有する固定抵抗器である。
【0035】
流量センサ素子1に風が当たると、発熱抵抗である流量センサ素子1の温度は低下し、流量センサ素子1が接続された第1の直列回路29の出力部31の電位が変動する。これにより、差動増幅器33により差動出力が得られる。そして、フィードバック回路34では、差動出力に基づいて、流量センサ素子1に駆動電圧を印加する。流量センサ素子1は、流量センサ素子1の加熱に要する電圧の変化に基づいて風速を換算し出力することができる。風速が変化すると、それに伴い、流量センサ素子1の温度が変化するため、風速を検知することができる。なお、図4の回路構成は、後述の流量センサ素子20、30にも適用することができる。
【0036】
本実施の形態によれば、中空柱状の基体2の外周面2c全体に、感温膜パターン3を形成したことで、外周面2cに対し、どの方向から風が当たっても風の検知が可能であり、周方向の無指向性を実現できる。
【0037】
また、本実施の形態では、感温膜パターン3の両端に接続される配線部4、5のうち、第1の配線部4を、貫通孔7に通し、第2の配線部5と同方向に引き出している。このため、感温膜パターン3の露出表面に、第1の配線部4が重なることなく、周方向に対するセンサ感度を均一にすることができる。
【0038】
図1A図1Cに示す第1の実施の形態の流量センサ素子1では、基体2の上端面2a側と下端面2b側の双方に、電極キャップ8、9を嵌合し、電極キャップ8、9を介して、感温膜パターン3と各配線部4、5とを電気的に接続している。このように電極キャップ8、9を設けることで、確実な電気的接続を実現することができるとともに、安価に製造することができる。
【0039】
第1の電極キャップ8には、径方向の中央に穴8aが設けられ、この穴8aに導電性の固定部材10により第1の配線部4を保持している。第1の電極キャップ8の穴8aと基体2の貫通孔7の位置は、高さ方向に一致している。また、第2の電極キャップ9に設けられた穴9aの位置も、貫通孔7と高さ方向に一致している。このため、穴8a、9aと貫通孔7とが連通しており、適切に、第1の配線部4を挿通することができる。これにより、第1の配線部4は、基体2の略中心を貫く。一方、複数の第2の配線部5は、第2の電極キャップ9の外周に配置されることで、中心から離れた位置にあり、第2の電極キャップ9の穴9aから突出する第1の配線部4の邪魔にはならず、第1の配線部4と第2の配線部5とは接触しない。
【0040】
また、図1A図1Cに示すように、第2の配線部5は複数本設けられるが、これにより、流量センサ素子1の自立性を得ることができる。このとき、複数本の第2の配線部5のうち、一本を残して、残りの第2の配線部5をダミー配線とすることができる。なお、第2の配線部5を一本のみ、第2の電極キャップ9の外周に設ける構成としてもよい。
【0041】
<第2の実施の形態の流量センサ素子20>
図2Aは、第2の実施の形態における流量センサ素子の側面図である。図2Bは、第2の実施の形態における流量センサ素子の断面図である。図2Cは、第2の実施の形態における流量センサ素子の斜視図である。
【0042】
図2A図2Cに示す第2の実施の形態の流量センサ素子20において、図1A図1Cに示す第1の実施の形態の流量センサ素子1と同じ部分については、同じ符号を付した。以下では、主に、流量センサ素子1と異なる部分について説明する。
【0043】
図2A図2Cに示すように、第2の実施の形態の流量センサ素子20では、図1A図1Cと異なって、電極キャップ8、9が設けられていない。
【0044】
図2A図2Cに示すように、基体2の上端面2aに形成された感温膜6の表面に薄板状の電極板21が設けられ、第1の配線部4が電極板21、導電性の固定部材10を介して保持されている。第1の配線部4と感温膜パターン3とは、電極板21を介して、電気的に接続されている。
【0045】
あるいは、電極板21を設ける代わりに、上端面2aの全域に導電性接着剤を塗布するとともに、基体2の貫通孔7に挿通される第1の配線部4を導電性接着剤にて固定保持してもよい。これによっても、第1の配線部4と感温膜パターン3とを確実に、電気的に接続することができる。
【0046】
図2A図2Cに示すように、第2の配線部5は、基体2の下端面2b側の外周面2cに溶接、或いは、導電性接着剤を介して接合される。
【0047】
図2A図2Cでは、第2の配線部5は一本のみ設けられているが、図1A図1Cと同様に複数本、設けてもよい。第2の配線部5を複数本とすることで、流量センサ素子20の自立性を得ることができる。
【0048】
第2の実施の形態の流量センサ素子20も、流量センサ素子1と同様に、中空柱状の基体2の外周面2c全体に、感温膜パターン3を形成したことで、外周面2cに対し、どの方向から風が当たっても風の検知が可能であり、周方向の無指向性を実現できる。また、感温膜パターン3の両端に接続される配線部4、5のうち、第1の配線部4を、貫通孔7に通し、第2の配線部5と同方向に引き出している。このため、感温膜パターン3の表面に、第1の配線部4が重なることなく、周方向に対し、均一なセンサ感度を得ることができる。
【0049】
また、第2の実施の形態の流量センサ素子20は、図1A図1Cに示す流量センサ素子1と異なって、電極キャップを設けないため、流量センサ素子20の小型化を共に、素子全体の熱容量を減らすことができ、検出精度を向上させることができる。
【0050】
<第3の実施の形態の流量センサ素子30>
図3Aは、第3の実施の形態における流量センサ素子の側面図である。図3Bは、第3の実施の形態における流量センサ素子の断面図である。図3Cは、第3の実施の形態における流量センサ素子の斜視図である。
【0051】
図3A図3Cに示す第3の実施の形態の流量センサ素子30において、第1の実施の形態の流量センサ素子1や第2の実施の形態の流量センサ素子20と同じ部分については、同じ符号を付した。以下では、主に、流量センサ素子1、20と異なる部分について説明する。
【0052】
第3の実施の形態の流量センサ素子30は、流量センサ素子1、20と異なって、基体2に複数の貫通孔36、37が設けられている。
【0053】
図3A及び図3Bに示すように、第1の貫通孔36には、第1の配線部4が挿通されており、第1の配線部4は、基体2の上端面2a側で、電極板21を介して、感温膜パターン3と電気的に接続されている。
【0054】
また、図3A及び図3Bに示すように、第2の貫通孔37の下端側の途中まで、第2の配線部5が挿入されており、第2の貫通孔37の壁面に固定部材38を介して保持されている。第2の貫通孔37の下端側の壁面には感温膜パターン3と連続する感温膜6が成膜されており、第2の配線部5は、感温膜6に固定部材38を介して電気的に接続される。したがって、第2の配線部5は、感温膜パターン3の下端側に電気的に接続されている。
【0055】
また、図3A図3Cに示すように、基体2の下端面2bには、電極絶縁体39が設けられ、電極絶縁体39には、第1の貫通孔36及び第2の貫通孔37に連通する穴39a、39bが設けられている。したがって、第1の配線部4は、第1の貫通孔36から電極絶縁体39の穴39aを通って、下端側に延出される。また、第2の配線部5は、第2の貫通孔37から電極絶縁体39の穴39bを通って、下端側に延出される。なお、図3Bに示すように、電極絶縁体39の各穴39a、39bと各配線部4、5との間は、絶縁接着剤等の絶縁層11により固着されていることが、各配線部4、5を適切に保持することができて好ましい。電極絶縁体39は、無くてもよいが、電極絶縁体39を設けることで、距離的に近い各配線部4、5を電気的に絶縁しながら固定保持することができ好ましい。
【0056】
第3の実施の形態の流量センサ素子30も、流量センサ素子1、20と同様に、中空柱状の基体2の外周面2c全体に、感温膜パターン3を形成したことで、外周面2cに対し、どの方向から風が当たっても風の検知が可能であり、周方向の無指向性を実現できる。また、感温膜パターン3の両端に接続される配線部4、5を、基体2の各貫通孔36、37に配置している。このため、感温膜パターン3の表面に、各配線部4、5が重なることなく、周方向に対し、均一なセンサ感度を得ることができる。
【0057】
第3の実施の形態の流量センサ素子30では、第1の配線部4のみならず、第2の配線部5も、基体2の外周面2cの外側に露出していないため、スリムな形態を実現することができる。
【0058】
また、図3Aに示すように、素子部(感温膜パターン3の部分)の高さを調整する調整台40を、基体の下端面側に配置してもよい。なお、図3B及び図3Cには、調整台40を図示していない。調整台40は、絶縁物である。なお、図3Aに示す電極絶縁体39と調整台40とを一体化してもよい。また、調整台40の設置は、流量センサ素子1、20の形態にも適用できる。
【0059】
また、本実施の形態では、感温膜パターン3のパターン形状を限定するものではないが、スパイラルパターンとすることで、基体2の外周面2c全体に、どの方向から風が当たっても、感温膜パターン3には略均等な面積で接触し、より効果的に、センサ感度の均一化を図ることができる。
【0060】
本実施の形態では、流量センサ素子1として風センサ素子を例に挙げたが、液体の流速検知が可能な流量センサ素子であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、周方向に無指向性で且つセンサ感度に優れた流量センサ素子を製造することができる。このため、周方向からの流体の方向が一定でない用途に好ましく適用することができる。本発明では、流量センサ素子を屋外及び屋内問わず使用することができる。本発明の流量センサ素子に、LED等の発光素子を配置して、風を検知した場合に発光するよう構成すれば、イルミネーション用などに適用することができる。また、本発明の流量センサ素子を実験用、分析用などに適用することも可能である。
【符号の説明】
【0062】
1、20、30 :流量センサ素子
2 :基体
2a :上端面
2b :下端面
2c :外周面
3 :感温膜パターン
4 :第1の配線部
5 :第2の配線部
6 :感温膜
7 :貫通孔
8 :第1の電極キャップ
8a :穴
9 :第2の電極キャップ
9a :穴
10、38 :固定部材
11 :絶縁層
12 :トリミングライン
13 :保護膜
14 :温度補償用抵抗素子
21 :電極板
26、27 :抵抗器
28 :ブリッジ回路
29 :第1の直列回路
31、32 :出力部
33 :差動増幅器
34 :フィードバック回路
35 :第2の直列回路
39 :電極絶縁体
40 :調整台

図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図4