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特許7521954鉄道車両の被締結部材及びそれに用いるスリーブ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】鉄道車両の被締結部材及びそれに用いるスリーブ
(51)【国際特許分類】
   B61D 49/00 20060101AFI20240717BHJP
   G10K 11/16 20060101ALN20240717BHJP
【FI】
B61D49/00 A
G10K11/16 150
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020115304
(22)【出願日】2020-07-03
(65)【公開番号】P2022022732
(43)【公開日】2022-02-07
【審査請求日】2023-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】521475989
【氏名又は名称】川崎車両株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000175560
【氏名又は名称】三協立山株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉川 脩平
(72)【発明者】
【氏名】岡内 宏憲
(72)【発明者】
【氏名】田口 真
(72)【発明者】
【氏名】小川 正芳
(72)【発明者】
【氏名】蟹谷 駿
(72)【発明者】
【氏名】山田 吉徳
(72)【発明者】
【氏名】花野 嘉紀
【審査官】結城 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平5-125567(JP,A)
【文献】国際公開第2018/190228(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第108501968(CN,A)
【文献】特開2001-263314(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0155988(US,A1)
【文献】特開2003-136257(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0219719(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61D 49/00,17/00,
G10K 11/16,
F16B 5/00,
B23K 20/08,20/12,
B32B 15/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の構成部品に車外に晒された状態で締結具によって取り付けられる被締結部材であって、
前記構成部品に側方から対向するように構成された内側面と、前記内側面とは反対側の面である外側面と、前記締結具を挿通可能に前記外側面から前記内側面に向けて延びた締結孔と、を有する取付セクションと、
前記取付セクションから延びた本体セクションと、を備え、
少なくとも前記本体セクションは、マグネシウム合金で形成され、
前記取付セクションの前記外側面のうち少なくとも前記締結孔の周囲の座面領域は、アルミニウム合金で形成され、
前記マグネシウム合金で形成された部分と前記アルミニウム合金で形成された部分とは、互いに固相接合されている、鉄道車両の被締結部材。
【請求項2】
前記取付セクションは、
前記締結孔を構成する挿通孔を含むスリーブと、
前記スリーブが嵌合された嵌合穴を含み、前記マグネシウム合金で形成された取付ベースと、を有し、
前記スリーブは、
前記アルミニウム合金で形成され、前記外側面を構成する前記座面領域である露出端面と、
前記マグネシウム合金で形成されて前記嵌合穴に保持されたMG周面、を含む外周面と、を有する、請求項1に記載の鉄道車両の被締結部材。
【請求項3】
前記スリーブの前記外周面は、前記露出端面に隣接して前記アルミニウム合金で形成されたAL周面を更に有し、
前記AL周面は、前記露出端面側の外部空間に対して露出している、請求項2に記載の鉄道車両の被締結部材。
【請求項4】
前記スリーブの前記外周面は、前記露出端面に隣接して前記アルミニウム合金で形成されたAL周面を更に有し、
前記AL周面と前記嵌合穴の内周面との間に、前記露出端面側の外部空間に向けて開口した環状の隙間が形成され、
前記隙間には、前記AL周面に沿った環状に非導電体が配置されている、請求項に記載の鉄道車両の被締結部材。
【請求項5】
前記取付セクション及び前記本体セクションは、塗膜で被覆されており、
前記非導電体は、前記塗膜の一部である、請求項4に記載の鉄道車両の被締結部材。
【請求項6】
前記スリーブは、前記露出端面及び前記AL周面を含むリング板と、前記リング板の前記内側面側に配置された前記MG周面を含む筒体と、を有し、
前記リング板は、前記アルミニウム合金で形成され、
前記筒体は、前記マグネシウム合金で形成され、
前記筒体は、前記リング板よりも外径が小さく前記MG周面を含む筒部と、前記筒部から径方向外方に突出して前記リング板の前記露出端面とは反対側の裏面を覆うフランジ部と、を有し、
前記筒体は、前記リング板の前記裏面の全体に固相接合され、
前記スリーブの前記フランジ部は、前記取付ベースに対向している、請求項3乃至5のいずれか1項に記載の鉄道車両の被締結部材。
【請求項7】
鉄道車両の構成部品に車外に晒された状態で締結具によって取り付けられる被締結部材を構成する取付ベースの嵌合穴に嵌合されて締結孔を構成するスリーブであって、
アルミニウム合金で形成され、前記締結具用の座面となる露出端面と、
マグネシウム合金で形成されたMG周面を含む外周面と、を備える、鉄道車両の被締結部材用のスリーブ。
【請求項8】
前記外周面は、前記露出端面に隣接して前記アルミニウム合金で形成されたAL周面を更に有する、請求項7に記載の鉄道車両の被締結部材用のスリーブ。
【請求項9】
前記AL周面は、非導電性の塗膜で被覆されている、請求項8に記載の鉄道車両の被締結部材用のスリーブ。
【請求項10】
前記スリーブは、
前記アルミニウム合金で形成され、前記露出端面及び前記AL周面を含むリング板と、マグネシウム合金で形成された筒体と、を有し、
前記筒体は、前記リング板よりも外径が小さく前記MG周面を含む筒部と、前記筒部から径方向外方に突出して前記リング板の前記露出端面とは反対側の裏面を覆うフランジ部と、を有し
前記筒体は、前記リング板の前記裏面の全体に固相接合されている、請求項8又は9に記載の鉄道車両の被締結部材用のスリーブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一態様は、鉄道車両の被締結部材及びそれに用いるスリーブに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両が高速走行する際には、走行風が車体下方の床下空間に巻き込まれることで騒音が生じ得る。特許文献1に開示された鉄道車両では、車体下方の床下空間を側方から覆うように側カバーを設けることで騒音抑制が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-101190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、側カバーは車体に取り付けられて車重増加に影響するため、側カバーには軽量化が求められる。更に、側カバーは車外に晒された状態で締結具によって締結されるため、側カバーには長寿命化を図るべく耐食性も求められる。なお、鉄道車両では、側カバー以外の被締結部材についても、同様にして軽量化及び耐食性が要求される場合がある。
【0005】
そこで本発明の一態様は、鉄道車両の被締結部材において軽量化及び高耐食性の両方を実現可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る鉄道車両の被締結部材は、鉄道車両の構成部品に締結具によって取り付けられ、車体下方の床下空間を側方から覆うように構成された側カバーであって、前記車体に側方から対向するように構成された内側面と、前記内側面とは反対側の面である外側面と、前記締結具を挿通可能に前記外側面から前記内側面に向けて延びた締結孔と、を有する取付セクションと、前記取付セクションから延び、前記床下空間に側方から対向するように構成された本体セクションと、を備え、少なくとも前記本体セクションは、マグネシウム合金で形成され、前記取付セクションの前記外側面のうち少なくとも前記挿通孔の周囲の座面領域は、アルミニウム合金で形成され、前記マグネシウム合金で形成された部分と前記アルミニウム合金で形成された部分とは、互いに固相接合されている。
【0007】
前記構成によれば、少なくとも本体セクションは比重の小さいマグネシウム合金で形成されるので、被締結部材の軽量化を図ることができる。更に、被締結部材の少なくとも座面領域は耐食性の高いアルミニウム合金で形成されるので、メンテナンスのために被締結部材が頻繁に脱着されて締結具から被締結部材の座面領域に繰り返し外力が加わって表面の塗膜が剥がれるような場合でも、当該座面領域の耐食性を維持できる。しかも、マグネシウム合金の部分とアルミニウム合金の部分とが互いに固相接合によって接合されて接合面に水分が入ることが無いので、マグネシウム合金とアルミニウム合金との間で電食が発生することも防止される。
【0008】
本発明の一態様に係る鉄道車両の被締結部材用のスリーブは、鉄道車両の構成部品に締結具によって取り付けられる被締結部材を構成する取付ベースの嵌合穴に嵌合されて締結孔を構成するスリーブであって、アルミニウム合金で形成され、前記締結具用の座面となる露出端面と、マグネシウム合金で形成されたMg外周面を含む外周面と、を備える。
【0009】
前記構成によれば、スリーブを取付ベースの嵌合穴に嵌合する際に、スリーブのMg外周面を嵌合穴に保持させることで、取付ベースを比重の小さいマグネシウム合金製にして軽量化を図ることができ、かつ、マグネシウム合金製の取付ベースとの間における電食の発生を防止できる。更に、スリーブの露出端面(締結具用の座面)は、耐食性の高いアルミニウム合金で形成されるので、メンテナンスのために被締結部材が頻繁に脱着されて締結具からスリーブの露出端面に繰り返し外力が加わっても、当該露出端面の耐食性を維持できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、鉄道車両用の被締結部材において軽量化及び高耐食性の両方を実現可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1(A)は、側カバーが適用される鉄道車両の側面図であり、図1(B)は、その正面から見た断面図である。
図2図2は、第1実施形態に係る側カバーの上端部の取付構造の断面図であって、図1(A)のII-II線断面図である。
図3図3は、図2に示すスリーブの断面図である。
図4図4は、図2の要部拡大図である。
図5図5は、第2実施形態に係る側カバーの取付構造の図2相当の断面図である。
図6図6は、第3実施形態に係る側カバーの取付構造の図2相当の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
【0013】
図1(A)は、側カバー10が適用される鉄道車両の側面図であり、図1(B)は、その正面から見た断面図である。なお、車両が走行する方向を車両長手方向(前後方向)と定義し、それに直交する横方向を車幅方向(左右方向)と定義する。図1(A)(B)に示すように、鉄道車両1は、車体2と、二次サスペンション4(例えば、空気バネ)を介して車体2を下方から支持する台車3とを備える。
【0014】
車体2は、台枠2aと、台枠2aの車幅方向両端から上方に突出してドア開口Q1及び窓開口Q2が形成された一対の側構体2bと、一対の側構体2bの上端に接続された屋根構体2cとを備え、車体2の内部に座席5が配置された客室Rが形成されている。台車3は、台車枠3aと、輪軸3bと、輪軸3bを回転自在に支持する軸箱3cと、台車枠3aと軸箱3cとの間に介設された一次サスペンション3d(例えば、コイルバネ)とを備える。
【0015】
車体2の下方の床下空間Sには、台車3から車両長手方向に離れた床下機器6(例えば、変圧器等)が配置されている。床下機器6は、台枠2aから吊り下げられるように台枠2aに接続されている。台枠2aにはブラケット2d(構成部品)が設けられ、床下機器6にもブラケット(構成部品)が設けられている。
【0016】
側構体2bの下方には、床下空間Sを側方から覆うように側カバー10(被締結部材)が配置されている。側カバー10の上端部は、台枠2aに設けたブラケット2dに対して締結具9によって取り付けられ、側カバー10の下端部は、床下機器6に設けたブラケット(図示せず)に対して締結具9によって取り付けられる。側カバー10は、走行風が床下空間Sに巻き込まれることを抑制し、鉄道車両1の高速走行時の騒音を低減させる。また、飛び石などによる床下機器の損傷を防止する。なお、鉄道車両用の被締結部材として側カバー10を例示するが、車外に晒された状態で車両構成部品に締結具で締結される車外露出部材であれば他の部材(例えば、排障器、衝突エネルギー吸収部材等)でもよい。
【0017】
(第1実施形態)
図2は、第1実施形態に係る側カバー10の上端部の取付構造の断面図であって、図1(A)のII-II線断面図である(なお、図2では、後述する塗装処理によって形成される塗膜Cの図示を省略している。)。側カバー10の上端部の取付構造と側カバー10の下端部の取付構造とは、互いに同構造であるため、以下では側カバー10の上端部の取付構造について代表して説明する。
【0018】
図2に示すように、車体2のブラケット2dは、締結孔2da及び受け部2dbを有する。締結具9は、例えば、ボルトB、ワッシャW及びナットNを有する。締結孔2daは、車幅方向両側に向けて開口し、ボルトBが挿通される。受け部2dbは、締結孔2daの下方にて車幅方向外方にL字状に突出し、上方に開口した凹空間を形成している。
【0019】
側カバー10の金属材料には、マグネシウム合金及びアルミニウム合金との両方が用いられる。マグネシウム合金の比重はアルミニウム合金の比重よりも小さいため、マグネシウム合金の使用は側カバー10の軽量化に寄与する。しかし、マグネシウム合金の酸化被膜の耐食性は低く、側カバー10の長寿命化の観点からはマグネシウム合金は塗装して使用することが望まれる。それに対し、アルミニウム合金の酸化被膜の耐食性は高いため、アルミニウム合金は無塗装でも使用できる。
【0020】
側カバー10は、取付セクション11及び本体セクション12を備える。取付セクション11は、ブラケット2dに取り付けられる部分である。本体セクション12は、取付セクション11から鉛直方向に延び、床下空間Sに側方から対向する部分である。本体セクション12の金属材料は、マグネシウム合金である。本体セクション12は、後述する取付ベース20とは別に成形された後に取付ベース20に対して固相接合(例えば、摩擦撹拌接合)されてもよいし、取付ベース20とを纏めて一体成形されてもよい。
【0021】
取付セクション11は、内側面11a、外側面11b、係止部11c及び締結孔Hを有する。内側面11aは、ブラケット2dに側方から対向する車幅方向内側に向いた面である。外側面11bは、内側面11aとは反対側の面であって車幅方向外側に向いた面である。締結孔Hは、外側面11bから内側面11aに向けて延びて車幅方向両側に開口し、ボルトBが挿通される。
【0022】
係止部11cは、締結孔Hの下方に配置され、ブラケット2dの受け部2dbの凹空間に上方から差し込まれる突起形状を有する。係止部11cと受け部2dbとの間には、非導電部材7(例えば、ゴム部材等)が介在してもよいし、非導電部材7は省略されてもよい。なお、受け部2db及び係止部11cは省略してもよい。
【0023】
取付セクション11は、取付ベース20と、取付ベース20とは別体のスリーブ30とを互いに組み合わせてなる。取付ベース20は、内側面11a側及び外側面11b側の両方(車幅方向両側)に開口した嵌合穴H1を有する。嵌合穴H1は、外側面11b側の外部空間に向けて開口した第1穴部H1aと、第1穴部H1aよりも内側面11a側にて第1穴部H1aに隣接した第2穴部H1bとを含む。第1穴部H1aは、第2穴部H1bよりも大径である。取付ベース20の金属材料は、マグネシウム合金である。
【0024】
図3は、図2に示すスリーブ30の断面図である。図2及び3に示すように、スリーブ30の外形は、凸型形状を有する。スリーブ30は、ボルトBが挿通される挿通孔H2を有する。スリーブ30は、リング板31及び筒体32が互いに固相接合(例えば、拡散接合、爆発接合等)されてなる。
【0025】
リング板31の金属材料は、アルミニウム合金である。筒体32の金属材料は、マグネシウム合金である。スリーブ30は、マグネシウム合金板とアルミニウム合金板とを固相接合した積層板を機械加工することで製作される。
【0026】
リング板31は、スリーブ30の外周面を構成するAL周面31aと、挿通孔H2の軸線方向の一方(車幅方向外方)に向いてAL周面31aに隣接した露出端面31bと、挿通孔H2の軸線方向の他方(車幅方向内方)に向いてAL周面31aに隣接した裏面31cとを有する。
【0027】
筒体32は、リング板31の裏面31c側に配置されている。筒体32は、筒部32a及びフランジ部32bを有する。筒部32aは、スリーブ30の外周面を構成してリング板31よりも外径が小さいMG周面32aa(Mg外周面)を有する。フランジ部32bは、筒部32aから径方向外方に突出してリング板31の裏面31cの全体を被覆している。
【0028】
即ち、リング板31の裏面31cの全体に、筒体32が固相接合されている。これによって、側カバー10におけるマグネシウム合金で形成された部分とアルミニウム合金で形成された部分とが互いに固相接合されている。
【0029】
なお、リング板31のAL周面31aはマグネシウム合金で被覆されてもよい。スリーブ30の外形は、前述した形状でなくてもよく、例えば、軸線方向に沿って外径が一定の円筒形状でもよく、軸線方向に沿って外径が徐々に小さくなるテーパ形状でもよい。
【0030】
図2に示すように、スリーブ30は、取付ベース20の嵌合穴H1に挿入されている。具体的には、スリーブ30のMG周面32aaが第2穴部H1bに挿入され、スリーブ30のAL周面31aが第1穴部H1aに挿入されている。スリーブ30の軸線方向長さは、嵌合穴H1の軸線方向長さよりも短い。そのため、取付セクション11の締結孔Hは、スリーブ30の挿通孔H2と嵌合穴H1の第2穴部H1bとで構成されている。
【0031】
スリーブ30は、MG周面32aaにおいて嵌合穴H1の第2穴部H1bに保持されている。スリーブ30のMG周面32aaは、嵌合穴H1の第2穴部H1bに圧入されている。なお、圧入の代わりに、スリーブ30のMG周面32aaを嵌合穴H1の第2穴部H1bに接着剤で固定してもよい。スリーブ30のフランジ部32bは、取付ベース20の嵌合穴H1の第1穴部H1aの底面に対して直接的に対向している。フランジ部32bは、嵌合穴H1の第1穴部H1aの底面に直接的に接触してもよいし、接着剤を介して間接的に接触してもよい。
【0032】
スリーブ30のAL周面31aは、露出端面31b側の外部空間に対して露出している。具体的には、AL周面31aと嵌合穴H1の第1穴部H1aの内周面との間には、露出端面31b側(車幅方向外側)の外部空間に向けて開口した環状の隙間Gが形成されている。即ち、第1穴部H1aの内径は、AL周面31aの外径よりも所定寸法(例えば、0.7mm)以上大きい。
【0033】
スリーブ30の露出端面31bは、取付セクション11の外側面11bを構成する。スリーブ30の露出端面31bは、締結孔Hの周囲において締結具9の軸力が伝達される座面領域の役目を果たす。本実施形態では、露出端面31bには、リング板31よりも小径のワッシャWが接触する。
【0034】
スリーブ30の露出端面31bは、取付ベース20のうち露出端面31bに隣接する面と面一となるように配置されている。即ち、スリーブ30は、取付ベース20に埋もれている。締結具9の全体は、本体セクション12の車幅方向外側の面を上下方向に延長した仮想面Vよりも車幅方向内側に配置される。なお、露出端面31bは、取付ベース20の車幅方向外側の面のうちスリーブ30に隣接する領域よりも内側面11a側(車幅方向内側)に位置して、露出端面31bが外側面11bの一部を窪ませた陥凹を構成するようにしてもよい。
【0035】
図4は、図2の要部拡大図である。図4に示すように、側カバー10の表面には、塗装処理が施されている。この塗装処理は、取付ベース20の嵌合穴H1にスリーブ30が嵌合されてなる組立体の表面に対して行われ、塗装処理中に隙間Gにも塗料が付与される。これにより、側カバー10の表面には塗膜Cが形成されると共に、隙間Gには塗膜Cの一部である塗料Caが環状に充填される。即ち、隙間Gに充填された塗料Caが、AL周面31aに沿って環状に配置された非導電体の役目を果たす。
【0036】
なお、図4では、隙間Gの全体に塗料Caが充填されているが、隙間Gの入口側(露出端面31b側)のみに全周に塗料Caが充填されていてもよい。隙間Gに配置される非導電体は、塗料Caの代わりにシール材(例えば、シリコーン等)としてもよい。取付ベース20にスリーブ30を組み付けた後に塗装処理を行う代わりに、取付ベース20とスリーブ30を別々に塗装処理した後に互いに組み付けてもよい。嵌合穴H1の内周面又はスリーブ30のAL周面31aの一方のみに非導電体として塗膜を形成してもよい。
【0037】
以上に説明した構成によれば、側カバー10に比重の小さいマグネシウム合金が用いられるので、側カバー10の軽量化を図ることができる。更に、メンテナンスのために側カバー10が頻繁に脱着されて締結具9から側カバー10の露出端面31b(座面領域)に繰り返し外力が加わって塗膜Cが破壊されても、露出端面31bが耐食性の高いアルミニウム合金からなるので、側カバー10の耐食性を維持できる。しかも、マグネシウム合金の部分とアルミニウム合金の部分とが互いに固相接合によって接合されているので、マグネシウム合金とアルミニウム合金との間で電食が発生することも防止される。
【0038】
側カバー10にスリーブ30を用いたことで、側カバー10におけるマグネシウム合金の割合を大きくでき、軽量化を促進できる。また、スリーブ30のAL周面31aは、露出端面31b側の外部空間に対して露出しているので、電食を防止しやすくなる。具体的には、スリーブ30のAL周面31aと嵌合穴H1の内周面との間の隙間Gに環状に非導電体が配置されるので、アルミニウム合金のAL周面31aとマグネシウム合金の嵌合穴H1の内周面との間の電食を好適に防止できる。また、スリーブ30の第2内周面32aaがAL周面31aよりも小径であるので、座面となる露出端面31bの面積を十分に確保しながらも、嵌合穴H1の第2穴部H1bを小さくして取付ベース20の強度低下を抑えることができる。
【0039】
露出端面31bは、それに隣接する取付ベース20の面と面一となるように配置され、スリーブ30が取付ベース20から車幅方向外方に突出していないので、側カバー10に対する締結具9の車幅方向外方への突出量を小さくでき、締結具9を車両限界内に収めやすくできる。また、スリーブ30のリング板31が嵌合穴H1の第1穴部H1aに収容されているので、異物(例えば、飛石等)がリング板31のAL周面31aに当たることも防止できる。
【0040】
隙間Gに配置される非導電体は塗膜Cの一部である塗料Caとすることで、塗装処理によって電食を簡単に防止できる。しかも、1つの塗装工程において、側カバー10全体の塗装と電食防止の塗装との両方を兼ねることができ、製造工数の増加を抑制できる。更に、塗料Caは隙間Gに埋もれるため、異物(例えば、飛石等)によって塗料Caが剥がされることも防止できる。また、スリーブ30では、アルミニウム合金のリング板31の裏面31cが、マグネシウム合金の筒体32のフランジ部32bで被覆されるため、アルミニウム合金とマグネシウム合金との間の電食を更に好適に防止できる。
【0041】
(第2実施形態)
図5は、第2実施形態に係る側カバー110の取付構造の図2相当の断面図である。なお、第1実施形態と共通する構成については同一符号を付して説明を省略する。図5に示すように、第2実施形態の側カバー110では、取付セクション111が取付ベース120及びスリーブ30を備え、その取付ベース120が第1実施形態の取付ベース20とは異なっている。具体的には、取付ベース120の嵌合穴H1は、その軸線方向に沿って内径が一定である。
【0042】
スリーブ30は、MG周面32aaにおいて嵌合穴H1に保持されている。具体的には、スリーブ30のMG周面32aaは嵌合穴H1に圧入され、スリーブ30のAL周面31aは、取付ベース120の車幅方向外側の面のうちスリーブ30に隣接する領域よりも車幅方向外側に位置している。これにより、スリーブ30のAL周面31aは、露出端面31b側の外部空間に対して露出している。なお、圧入の代わりに、スリーブ30のMG周面32aaを嵌合穴H1に接着剤で固定してもよい。他の構成は前述した第1実施形態と同様であるため説明を省略する。
【0043】
(第3実施形態)
図6は、第3実施形態に係る側カバー210の取付構造の図2相当の断面図である。なお、第1実施形態と共通する構成については同一符号を付して説明を省略する。図6に示すように、側カバー210には、第1実施形態のスリーブ30が存在しない。側カバー210は、取付セクション211、本体セクション212及び継ぎ手セクション213を備える。取付セクション211、本体セクション212及び継ぎ手セクション213は、互いに別体として個々に製作され、互いに固相接合されている。取付セクション211及び継ぎ手セクション213の金属材料は、アルミニウム合金である。本体セクション212の金属材料は、マグネシウム合金である。
【0044】
取付セクション211は、一体成形されてなる。取付セクション211は、内側面211aから外側面211bに向けて延びて車幅方向両側に開口した締結孔Hを有する。締結孔Hは、その軸線方向に沿って内径が一定である。取付セクション211がアルミニウム合金で形成されるため、取付セクション211の外側面211bのうち締結孔Hの周囲の座面領域はアルミニウム合金となる。本体セクション212は、取付セクション211の鉛直方向端面に突き合わされるように取付セクション211に連続して配置されている。
【0045】
継ぎ手セクション213は、取付セクション211と本体セクション212との境界を覆うように取付セクション211及び本体セクション212に車幅方向内側(内側面側)から重ねられている。継ぎ手セクション213は、取付セクション211及び本体セクション212に対して固相接合(例えば、爆発接合)されて重ね継手を構成する。このようにして、マグネシウム合金で形成された部分とアルミニウム合金で形成された部分とが、互いに固相接合されている。なお、他の構成は前述した第1実施形態と同様であるため説明を省略する。
【0046】
なお、本発明は前述した各実施形態に限定されるものではなく、その構成を変更、追加、又は削除することができる。1つの実施形態中の一部の構成は、その実施形態中の他の構成から分離して任意に抽出可能であり、1つの実施形態中の一部の構成を他の実施形態に適用してもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 鉄道車両
2 車体
2d ブラケット(構成部品)
9 締結具
10,110,210 側カバー(被締結部材)
11,111,211 取付セクション
11a,111a,211a 内側面
11b,111b,211b 外側面
12,212 本体セクション
20,120 取付ベース
30 スリーブ
31 リング板
31a AL周面
31b 露出端面
31c 裏面
32 筒体
32a 筒部
32aa MG周面
32b フランジ部
213 継ぎ手セクション
B ボルト
C 塗膜
Ca 塗料(非導電体)
G 隙間
H 締結孔
H1 嵌合穴
H1a 第1穴部
H1b 第2穴部
H2 挿通孔
N ナット
S 床下空間
W ワッシャ
図1
図2
図3
図4
図5
図6