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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】繊維用表面処理剤
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/513 20060101AFI20240717BHJP
   D06M 15/263 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
D06M13/513
D06M15/263
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020121825
(22)【出願日】2020-07-16
(65)【公開番号】P2022018607
(43)【公開日】2022-01-27
【審査請求日】2023-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000229597
【氏名又は名称】日本パーカライジング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神山 直澄
(72)【発明者】
【氏名】萬 隆行
(72)【発明者】
【氏名】川上 玲
(72)【発明者】
【氏名】春木 美穂
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-151775(JP,A)
【文献】特開2013-151776(JP,A)
【文献】特開2017-106140(JP,A)
【文献】特開2002-011084(JP,A)
【文献】特開2001-299886(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M13/00-15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1分子中に-SiR(式中、R、R及びRは互いに独立に、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、又は水酸基を表す)で示される官能基(r)を2個以上有する化合物(A)と、
少なくともアクリル酸エステル残基及び/又はメタクリル酸エステル残基を有し、ガラス転移温度が0℃以下を示す共重合体(B)と、を含む繊維用表面処理剤であって、
前記共重合体(B)として、少なくとも、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル残基を有する共重合体と、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル残基及び(メタ)アクリル酸メトキシエチル残基を有する共重合体を含むことを特徴とする、
繊維用表面処理剤。
【請求項2】
前記共重合体(B)の含有量が、前記化合物(A)及び前記共重合体(B)の合計量100質量%に対し、34質量%以上96質量%未満の範囲内である、請求項1に記載の繊維用表面処理剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の繊維用表面処理剤を繊維表面の一部又は全部と接触した後、乾燥させて得られる、皮膜を有する繊維。
【請求項4】
請求項に記載の繊維を含有する組成物。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の繊維用表面処理剤と繊維を含有する組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維用表面処理剤、皮膜を有する繊維、前記繊維を含有する組成物、及び前記処理剤と繊維を含有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の分野において繊維が用いられており、繊維の防滑性、密着性、分散性などの諸性能を改善するために、繊維表面に処理が施されることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-7681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願は、繊維に対して防滑性を付与できる繊維用表面処理剤などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、所定のケイ素含有化合物と、(メタ)アクリル酸エステル残基を有する所定の共重合体を含む処理剤が、繊維に対して防滑性を付与できることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち本発明は以下に関するが、それに限定されない。
[発明1]
1分子中に-SiR(式中、R、R及びRは互いに独立に、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、又は水酸基を表す)で示される官能基(r)を2個以上有する化合物(A)と、
少なくともアクリル酸エステル残基及び/又はメタクリル酸エステル残基を有し、ガラス転移温度が0℃以下を示す共重合体(B)と、を含む繊維用表面処理剤。
[発明2]
前記共重合体(B)の含有量が、前記化合物(A)及び前記共重合体(B)の合計量100質量%に対し、34質量%以上96質量%未満の範囲内である、発明1に記載の繊維用表面処理剤。
[発明3]
前記共重合体(B)として、少なくとも、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル残基を有する共重合体と、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル残基及び(メタ)アクリル酸メトキシエチル残基を有する共重合体を含むことを特徴とする発明1又は発明2に記載の繊維用表面処理剤。
[発明4]
発明1~3のいずれかに記載の繊維用表面処理剤を繊維表面の一部又は全部と接触した後、乾燥させて得られる、皮膜を有する繊維。
[発明5]
発明4に記載の繊維を含有する組成物。
[発明6]
発明1~3のいずれかに記載の繊維用表面処理剤と繊維を含有する組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、繊維に対して防滑性を付与できる繊維用表面処理剤を提供することができる。また、本発明によれば、繊維用表面処理剤で処理された繊維、当該繊維を含有する組成物、並びに繊維用表面処理剤及び繊維を含有する組成物を提供することができる。
【0008】
繊維用表面処理剤
本発明の繊維用表面処理剤(以下、単に「処理剤」ともいうことがある)は、
1分子中に-SiR(式中、R、R及びRは互いに独立に、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、又は水酸基を表す)で示される官能基(r)を2個以上有する化合物(A)と、
少なくともアクリル酸エステル残基及び/又はメタクリル酸エステル残基を有し、ガラス転移温度が0℃以下を示す共重合体(B)と、
を含む。
【0009】
前記処理剤中における共重合体(B)の含有量は、特に限定されないが、化合物(A)及び共重合体(B)の合計量100質量%に対し、34質量%以上96質量%未満の範囲内が好ましく、72質量%以上92質量%未満の範囲内がより好ましい。
【0010】
化合物(A)
化合物(A)としては、1分子中に-SiRで示される官能基(r)を2個以上有するものであれば特に制限されるものではないが、2~8個有するものが好ましい。
【0011】
官能基(r)中のR、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、または水酸基を表す。
本明細書において、炭素数1~4のアルキル基とは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基などを意味する。炭素数1~4のアルコキシ基とは、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、s-ブトキシ基、イソブトキシ基、t-ブトキシ基などを意味する。
【0012】
化合物(A)の、官能基(r)1個あたりの分子量(重量平均分子量/官能基数)は特に制限されるものではないが、好ましくは100~5000の範囲内であり、より好ましくは120~4000の範囲内であり、さらに好ましくは150~3000の範囲内である。なお、上記重量平均分子量は、ゲルろ過クロマトグラフィー(GFC)を用いて測定される。前記GFCにおいては、標準物質としてポリエチレングリコールが使用される。
また、化合物(A)は、例えば、シロキサン結合、エステル結合、エーテル結合、酸アミド結合、アミド結合、ウレタン結合、ウレア結合、ビニル結合などの結合を有していることが好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0013】
なお、本発明の処理剤には、上述の化合物(A)が1種含まれていればよいが、2種以上含まれていてもよい。
【0014】
化合物(A)の製造方法は、特に限定されないが、例えば、(1)2つ以上の活性水素含有官能基を有する化合物とクロロシランとを反応させる方法、(2)ビニル基を有するシランカップリング剤と共重合可能なビニル化合物とを反応(重合)させる方法、(3)特定の反応性官能基を有するシランカップリング剤と、その反応性官能基と反応しえる官能基を有する化合物とを反応させる方法、(4)多官能シランカップリング剤に親水基を修飾する方法などが挙げられる。
【0015】
上記(2)の方法で用いられる、ビニル基を有するシランカップリング剤としては、ビニル基を有していれば特に限定されないが、例えば、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシランなどが挙げられる。
また、上記(2)の方法で用いられる、共重合可能なビニル化合物としては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸、ブチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0016】
上記(3)の方法で用いられる、特定の反応性官能基を有するシランカップリング剤における反応性官能基(r1)としては、他の官能基と反応して結合を形成する基であれば、特に限定されないが、例えば、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基、(メタ)アクリロキシ基、ウレイド基、イソシアナート基、およびビニル基から選択される官能基が好ましい。
【0017】
反応性官能基(r1)を有するシランカップリング剤の好ましい実施態様の一つとして、下式で表される化合物が挙げられる。
【化1】
【0018】
式中、Xは、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基、(メタ)アクリロキシ基、ウレイド基、イソシアナート基、およびビニル基から選択されるいずれかの官能基を表す。Lは、2価の連結基、または単なる結合手を表す。ケイ素原子に結合する3つのYは、それぞれ独立に、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、または水酸基を表す。
【0019】
Xは、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基、(メタ)アクリロキシ基、ウレイド基、イソシアナート基、およびビニル基から選択されるいずれかの官能基を表す。
【0020】
Lで表される連結基としては、例えば、アルキレン基(炭素数1~20が好ましい。ただし、直鎖状又は分枝鎖状であってもよい。)、-O-、-S-、アリーレン基(単環式又は多環式の芳香族炭化水素から二個の環炭素原子のそれぞれ一個の水素原子を除去することにより生成される二価基を意味する。)、-CO-、-NH-、-SO-、-COO-、-CONH-、またはこれらを組み合わせた基が挙げられる。単なる結合手の場合、一般式(2)のXがSi(ケイ素原子)と直接連結することをさす。
【0021】
ケイ素原子に結合する3つのYは、それぞれ独立に、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、または水酸基を表す。
【0022】
反応性官能基(r1)を有するシランカップリング剤としては、例えば、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシシラン;N-(2-アミノエチル)3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(アミノエチル)3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシランなどのアミノシラン;3-メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのメルカプトシラン;3-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどのイソシアネートシラン;ビニルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシランなどのビニル基含有シラン;などが挙げられる。
【0023】
上記(3)の方法で用いられる、反応性官能基(r1)と反応しえる官能基(r2)を有する化合物における当該官能基(r2)は、上記の反応性官能基(r1)と反応可能であれば、特に限定されず、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基、(メタ)アクリロキシ基、ウレイド基、イソシアナート基、およびビニル基などが挙げられる。なかでも、上記の反応性官能基(r1)と異なる官能基が好ましく挙げられる。
【0024】
官能基(r2)を有する化合物としては、上記の、反応性官能基(r1)を有するシランカップリング剤で例示したシランカップリング剤や、エチレンジアミン、アミノプロパンチオールなどのアミン化合物、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテルなどのエーテル化合物などが挙げられる。
なかでも、反応性官能基(r1)を有するシランカップリング剤で例示したシランカップリング剤が好ましい。つまり、化合物(A)は、反応性官能基(r1)を有するシランカップリング剤と官能基(r1)と反応可能な官能基(r2)を有するシランカップリング剤の反応生成物であることが好ましい。
【0025】
反応性官能基(r1)を有するシランカップリング剤と、官能基(r2)を有する化合物との反応比は、特に制限されないが、シランカップリング剤:化合物(モル比)=9:1~1:9の範囲内が好ましく、7:3~3:7の範囲内がより好ましい。
反応条件は、使用される化合物によって適宜最適な条件が選択される。また、反応の際に、溶媒(例えば、アルコールなど)などを使用してもよい。
【0026】
共重合体(B)
共重合体(B)の製造に用いられるモノマー成分としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルは、1種用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。共重合体(B)は、2種以上の(メタ)アクリル酸エステルを(共)重合させることにより製造してもよいし、1種以上の(メタ)アクリル酸エステルと、(メタ)アクリル酸エステルモノマー以外の、1種以上の重合性不飽和結合を有するモノマーとを(共)重合させることにより製造してもよい。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」はアクリル及びメタクリルの両方を意味する。「(メタ)アクリロ」、「(メタ)アクリロイル」、及び「(メタ)アクリレート」についても同様に、アクリロとメタクリロ、アクリロイルとメタクリロイル、及びアクリレートとメタクリレートをそれぞれ意味する。
【0027】
(メタ)アクリル酸エステルは、例えば疎水性(メタ)アクリル酸エステルと親水性(メタ)アクリル酸エステルに大別されうる。共重合体(B)は、モノマー成分として2種以上の疎水性(メタ)アクリル酸エステルを用いることにより製造されたものでもよく、50質量%以上の疎水性(メタ)アクリル酸エステルと他のモノマー成分を用いることにより製造されたものでもよく、50質量%以上の親水性(メタ)アクリル酸エステルと他のモノマー成分を用いることにより製造されたものでもよく、モノマー成分として2種以上の親水性(メタ)アクリル酸エステルを用いることにより製造されたものでもよい。なお、疎水性(メタ)アクリル酸エステル及び親水性(メタ)アクリル酸エステルについては後述する。また、モノマー成分として2種以上の疎水性(メタ)アクリル酸エステルを用いることにより製造された共重合体及び50質量%以上の疎水性(メタ)アクリル酸エステル及び他のモノマー成分を用いることにより製造された共重合体を「疎水性(メタ)アクリル酸エステル共重合体」と称し、モノマー成分として2種以上の親水性(メタ)アクリル酸エステルを用いることにより製造された共重合体及び50質量%以上の親水性(メタ)アクリル酸エステル及び他のモノマー成分を用いることにより製造された共重合体を「親水性(メタ)アクリル酸エステル共重合体」と称する。
【0028】
本発明の繊維用表面処理剤は、共重合体(B)として、(メタ)アクリル酸エステルをモノマー成分とする共重合体を2種以上含んでもよく、好ましくは、疎水性(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B1)と親水性(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B2)とを含む。繊維用表面処理剤が、共重合体(B)として疎水性(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B1)と親水性(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B2)を含む場合には、それらの質量(それぞれB1とB2)の比(B2/B1)は好ましくは0.06以上4.5以下の範囲内であり、一層好ましくは、前記質量比(B2/B1)が0.08以上0.64以下の範囲内である。
【0029】
疎水性(メタ)アクリル酸エステルとしては、特に限定するものではないが、例えば、炭素数1~20のアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。より具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、s-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、s-ペンチル(メタ)アクリレート、1-エチルプロピル(メタ)アクリレート、2-メチルブチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート、t-ペンチル(メタ)アクリレート、3-メチルブチル(メタ)アクリレート、ネオペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-メチルペンチル(メタ)アクリレート、4-メチルペンチル(メタ)アクリレート、2-エチルブチル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、2-ヘプチル(メタ)アクリレート、3-ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2-オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、3,3,5-トリメチルヘキシル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレート、ドコシル(メタ)アクリレート、テトラコシル(メタ)アクリレート、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、及びフェネチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0030】
親水性(メタ)アクリル酸エステルとは親水基を有する(メタ)アクリル酸エステルを意味する。前記親水基として、特に限定するものではないが、例えば、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、リン酸基、スルホ基などが挙げられる。
【0031】
親水性(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、特に限定するものではないが、例えば、親水基を有する炭素数1~20のアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。より具体的には、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、((メタ)アクリロイルオキシ)酢酸、コハク酸1-[2-((メタ)アクリロイルオキシ)エチル]、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、[2-((メタ)アクリロイルオキシ)エチル]ホスファート、及び2-((メタ)アクリロイルオキシ)エタンスルホン酸ナトリウムが挙げられる。
【0032】
疎水性(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B1)の製造に用いられうる50質量%未満の他のモノマー成分としては、例えば、親水性(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸エステル以外の重合性不飽和結合を有するモノマーなどが挙げられる。親水性(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B2)の製造に用いられうる50質量%未満の他のモノマー成分としては、例えば、疎水性(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸エステル以外の重合性不飽和結合を有するモノマーなどが挙げられる。
【0033】
(メタ)アクリル酸エステル以外の重合性不飽和結合を有するモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル等の、(メタ)アクリル酸エステル以外の(メタ)アクリル酸系モノマー;エチレン、プロピレン、1,3-ブタジエン等の末端に重合性不飽和結合を有する炭化水素化合物;マレイン酸、フマル酸等のα,β-不飽和多価カルボン酸、無水マレイン酸等のα,β-不飽和カルボン酸無水物;N-メチルマレイミド等のマレイミド基含有化合物;及びスチレン、ビニル安息香酸等の芳香族ビニル化合物が挙げられる。
【0034】
共重合体(B)は、ブロック共重合体でもランダム共重合体でもよい。共重合体中にブロック共重合部分及びランダム共重合部分の両方が存在してもよい。
【0035】
共重合体(B)は、下式により算出されるTg[ガラス転移温度(K:ケルビン)]が0℃以下を示すものである。なお、下式において、iは1以上の整数であり、Wi(i=1、2、・・・i)は各モノマーの質量分率、Tgi(i=1、2、・・・i)は各モノマーのiホモポリマーのガラス転移温度(ケルビン)を示す。
【数1】
【0036】
共重合体(B)は、モノマー成分のラジカル重合、カチオン重合、又はアニオン重合によって得られる。(メタ)アクリル酸、その塩、又はその誘導体等の(メタ)アクリル酸エステル前駆体の重合後にエステル化を行うことによって共重合体(B)を得てもよい。重合反応温度は特に制限されるものではないが、通常70℃以上200℃以下の範囲内である。反応時間は特に制限されるものではないが、通常10分間以上24時間以内の範囲内である。
【0037】
他成分
本発明の繊維用表面処理剤は、化合物(A)及び共重合体(B)に加えて、任意に他成分を1種又は2種以上配合してもよい。当該他成分としては、例えば、溶媒(水、揮発性油剤、及び/又は不揮発性油剤)、界面活性剤、ゲル化剤、抗ケーキング剤、乳化剤、分散化剤、安定剤、保湿剤、増粘剤、固形化剤、結合剤、増量剤、不透明化剤、滑沢剤、顔料、紫外線散乱剤、紫外線吸収剤、pH調整剤、抗酸化剤、抗菌剤、防腐剤、スキンケア剤、潤滑剤、収斂剤、エモリエント剤、ツヤ出し剤、光沢剤、消泡剤、撥水性皮膜剤、保護剤、架橋剤、縫目滑脱防止剤、柔軟剤、SR(soil release)剤、防しわ剤、難燃剤、耐熱剤、帯電防止剤、酸化防止剤、レオロジーコントロール剤、硬化促進剤、消臭剤等が挙げられる。これら2つ以上の用途・効果が重複しているものを含有してもよい。
【0038】
溶媒
本発明の処理剤において、配合成分を均一に溶解又は分散させるために溶媒を用いる。溶媒の種類及び量は特に限定されず、配合成分や処理対象の繊維の種類に応じて当業者によって適宜決定される。
【0039】
処理剤の製造方法
本発明の処理剤は、化合物(A)及び共重合体(B)、並びに任意に他成分を、溶媒に配合することにより製造することができる。各配合成分を個別に溶媒に溶かして(又は分散して)からその溶液(又は分散液)を混合することにより処理剤を製造してもよい。
【0040】
繊維
本発明の繊維用表面処理剤で処理する繊維としては、特に限定されないが、例えばナイロン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリ乳酸等の合成繊維;セルロース、綿、絹、羊毛等の天然繊維;レーヨン等の再生繊維等が挙げられる。当該繊維の太さ、長さなどは、処理した繊維の用途に応じて当業者によって適宜決定される。これらの繊維は材質、長さ、太さなどにおいて1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、繊維の部分的構造及び全体構造も特に限定されず、例えば、パイル状、起毛状、縒り合わされた構造、編み込まれた構造、織られた構造、又はこれらの任意の組み合わせであってもよい。
【0041】
繊維表面処理及び皮膜を有する繊維
本発明の処理剤で繊維表面を処理することにより、繊維表面に皮膜が形成され、皮膜を有する繊維(以下、「表面処理繊維」ともいう。)が得られる。
表面処理方法は特に限定されないが、本発明の処理剤を繊維表面の一部又は全部と接触、乾燥させることで皮膜を繊維表面上に形成する方法が好ましい。
【0042】
接触の前に、任意に、繊維表面上の油分や汚れを除去する目的で、繊維に前処理を施してもよい。前処理を施すことにより、繊維表面を清浄して、本発明の処理剤によって繊維表面が均一に濡れやすくなる。
なお、前処理の方法としては、特に限定されず、湯洗、溶媒洗浄、脱脂洗浄などの方法が挙げられる。
【0043】
本発明の処理剤の、繊維への接触方法、接触温度、及び接触時間は、均一に繊維表面に処理剤を接触できれば特に制限されず、繊維の種類や形状、使用される処理剤中の溶媒や成分の種類などによって適宜最適な条件が選択される。
接触方法としては、例えば、ロールコート法、浸漬法、スプレー塗布法などが挙げられる。
接触温度は、例えば、10~40℃の範囲内であってもよい。
接触時間は、例えば、0.1秒~10分の範囲内であってもよい。
【0044】
前記接触後、後述の乾燥前に、任意に、繊維に中間処理を施してもよい。中間処理としては、特に限定されず、例えば洗浄が挙げられる。前記洗浄の方法としては、特に限定されず、例えば、水洗、湯洗、溶媒洗浄などの方法が挙げられる。
【0045】
繊維表面上に形成された塗膜を乾燥する際の乾燥温度、乾燥方法、及び乾燥時間は、塗膜が十分に乾燥する条件であれば特に制限されず、繊維の種類や形状、使用される処理剤中の溶媒や成分の種類などによって適宜最適な条件が選択される。
乾燥方法としては、例えば、室温静置、風乾、加熱乾燥、減圧乾燥、凍結乾燥、及びこれらの任意の組み合わせなどが挙げられる。
加熱方法としては、例えば、熱風、インダクションヒーター、赤外線、近赤外線などが挙げられる。
乾燥温度は、例えば、25~250℃の範囲内であってもよい。
乾燥時間は、例えば、1秒~1時間の範囲内であってもよい。
【0046】
前記乾燥後に、任意に、繊維に後処理を施してもよい。後処理としては、特に限定されず、例えば焼き付けが挙げられる。焼き付けの温度及び時間は特に限定されず、繊維の種類、用途等に応じて当業者が適宜決定できる。
【0047】
繊維表面上に形成される皮膜の量は特に制限されないが、繊維の種類や形状、所望される性質、使用される処理剤中の溶媒や成分の種類などによって適宜最適な条件が選択される。
皮膜質量/繊維質量は、例えば、0.01~20%であってもよい。
【0048】
組成物A
一態様において、本発明は、本発明の表面処理繊維を含有する組成物(組成物A)に関する。当該組成物は上述の他成分を含有してもよい。
【0049】
組成物B
一態様において、本発明は、本発明の処理剤及び繊維を含有する組成物(組成物B)に関する。当該組成物は上述の他成分を含有してもよい。
【0050】
以上のように、本発明によって、優れた特性を有する表面処理繊維並びに組成物A及びBが実現されうる。当該繊維及び組成物は、化粧料、建築、住宅、衣類、自動車等の各種分野で使用されうる。
【実施例
【0051】
以下、実施例によって本発明の作用効果を具体的に示すが、下記実施例は本発明を限定するものではなく、条件の変化に伴って設計を変更することは本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0052】
(1)材料
以下の市販の材料を使用した。
(i)白フェルト(羊毛60%以上、10cm×10cm、厚み5mm)
(ii)ナイロンファイバー(長さ2mm)
【0053】
(2)繊維用表面処理剤の調剤
各成分を表1に示す配合量にて水中で混合し、処理液を得た。
なお、表1中の成分(A)及び(B)の配合量は処理液中における濃度(質量%)を示す。
【表1】
【0054】
以下に、表1で使用した成分について説明する。
a1:アミノプロピルトリエトキシシラン1モルとγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン2モルをエタノール中で反応させて得られた生成物。なお、得られた生成物a1の1分子中における官能基(r)の数は2個で、官能基当量(官能基(r)の1個あたりの分子量(重量平均分子量/官能基数))は約894であった。
【0055】
a2:ジメチルポリシロキサンの末端をトリメチルシロキシ基で封鎖した重合体。なお、重合体a2の1分子中における官能基(r)の数は2個で、官能基当量は約184であった。
【0056】
a3:γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン。なお、化合物の1分子中における官能基(r)数は1個であり、本発明の範囲外であった。
【0057】
b1:アクリル酸2-エチルヘキシル残基とメタクリル酸ブチル残基を有する共重合体(計算Tg=-67℃)
b2:アクリル酸ヒドロキシエチル残基とアクリル酸メトキシエチル残基を有する共重合体(計算Tg=-40℃)
b3:スチレン残基とアクリロニトリル残基とアクリル酸ブチル残基を有する共重合体(計算Tg=50℃)
b4:アクリル酸2-エチルヘキシル残基とメタクリル酸ブチル残基を有する共重合体(計算Tg=-21℃)
【0058】
(3)処理方法
以下の処理方法にて塗布し、その後、水洗することなく、そのままオーブンに入れ、表2記載の試験材1~54を得た。試験材1~27については、材料(i)に、表1記載の実施例1~23及び比較例1~4の表面処理剤を塗布し、80℃にて3分間乾燥、その後100℃にて1分間乾燥させることで、皮膜質量/繊維質量が1%の試験材を得た。また、試験材28~54については、材料(ii)を100gに対し、表1記載の実施例1~23及び比較例1~4の表面処理剤100gを薬さじにて5分間混合させ、循環式熱風乾燥炉にて110℃で乾燥させることで、皮膜質量/繊維質量が0.2%の試験材を得た。この時、15分ごとにかき混ぜる工程を2回行い、合計3時間試験材を乾燥させた。
乾燥温度は、オーブン中の雰囲気温度とオーブンに入れている時間とで調節した。
【0059】
より詳細な試験材の作製方法を説明する。試験材1~27については、材料(i)の表面に表面処理剤を流し掛け、表面全体を濡らし、次いで、2本のフラットなゴムロールを組み合わせたロールで余分な液を切った。所定の皮膜量となるように、ロールによる水切り量と処理液の濃度を調整した。試験材28~54は十分に材料(ii)に表面処理剤が塗布された状態で脱水機を用い、材料(ii)上の皮膜量を調整した。脱水機にはアルミス社製、超高速脱水機パワフルスピンドライAPD-6.0を用いた。
【表2】
【0060】
(4)評価試験の方法
【0061】
試験材1~27については密着性と防滑性、試験材28~54については分散性と防滑性を評価した。
(i)密着性
得られた試験材1~27について、皮膜を貫通するように、カッターナイフを用いて1mm、100マスの碁盤目加工を施し、JIS K 5600-5-6付着性試験で用いられるIEC 60454-2規格のテープを用いてテープ剥離試験を実施した後に皮膜の剥離率(テープ側への移行率)を測定した。
このときの評価基準を以下に示す。
◎:剥離率10質量%未満
○:剥離率10質量%以上20質量%未満
△:剥離率20質量%以上50質量%未満
×:剥離率50質量%以上
【0062】
(ii)防滑性
JIS P8147に規定されている滑り傾斜角測定装置により、試験材1~27について、防滑性を測定した。傾斜台に塩化ビニールシート(10cm×10cm)を両面テープで固定し、重りを試験材の裏面(表面処理面なし)に両面テープで固定した。次に、水平な傾斜台に固定された前記塩化ビニールシートに試験材の表面処理面が重なるように、重りが固定された試験材を前記塩化ビニールシートの上に乗せた後、傾斜台をゆっくりと傾けて、試験材が滑り始めたときの傾斜台の角度を測定した。
このときの評価基準を以下に示す。
◎:70°以上
○:50°以上70°未満
△:30°以上50°未満
×:30°未満
【0063】
(iii)分散性
イソドデカン及び水それぞれ20mLに対して、0.05gの試験材28~54を添加した。5人のパネラーにより分散性を目視評価し、以下の評価基準にしたがって統一見解を得た。
◎:凝集せずに綺麗に分散する。
○:まず凝集するが、ガラス棒にて凝集を崩すと、分散する。
△:まず凝集するが、ガラス棒にて凝集を崩すと一部が分散する。
×:凝集し、ガラス棒にて凝集を崩しても分散しない。
イソドデカン分散性及び水分散性をそれぞれ分散性A及び分散性Bとして表3に示す。
【0064】
(iv)分散後の防滑性
上記、水分散試験後の試験材28~54を120℃のオーブンにて3時間乾燥させ、乾燥後の試験材28~54(0.05g)をろ紙(50cm×50cm、アドバンテック製 No.5B)に広げ、同じ仕様のろ紙を重ねた。15MPaで30秒間加圧し、転写面積を5人のパネラーにより目視評価して、以下の評価基準にしたがって統一見解を得た。
◎:転写面積70%以上
○:残存率50%以上70%未満
△:残存率20%以上50%未満
×:残存率20%未満
【表3】