(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】設備監視支援装置、方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20240717BHJP
【FI】
G05B23/02 P
G05B23/02 302V
(21)【出願番号】P 2020138581
(22)【出願日】2020-08-19
【審査請求日】2023-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000203977
【氏名又は名称】日鉄テックスエンジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】矢吹 裕大
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 信一
(72)【発明者】
【氏名】中川 繁政
(72)【発明者】
【氏名】濱元 勲
(72)【発明者】
【氏名】岩村 健
【審査官】今井 貞雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-164772(JP,A)
【文献】国際公開第2020/031570(WO,A1)
【文献】特開2019-185158(JP,A)
【文献】特開2001-236337(JP,A)
【文献】特開2016-058010(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
設備の状態変化の監視を支援するための設備監視支援装置であって、
前記設備に含まれる対象部の複数箇所に設置された、
所定の一種の状態情報を測定するセンサから、前記状態情報を取得する取得手段と、
前記取得手段で取得した前記状態情報と、前記取得手段で取得した前記複数箇所での前記状態情報を入力とする所定の数理モデルの出力との差を含む指標を算出する指標算出手段とを備え、
前記所定の数理モデルは、前記対象部が安定な状態にあるときの前記複数個所での前記状態情報を入出力とすることで構築される数理モデルであって、前記対象部が安定な状態にあるときの前記複数箇所での前記状態情報を入力としたときに、前記複数箇所での前記状態情報を復元して出力する数理モデルであ
り、
前記指標算出手段は、時間tで前記複数箇所の前記センサで測定した前記状態情報の集合と、前記時間tよりも過去の時間で前記複数箇所の前記センサで測定した前記状態情報の集合とを成分とするベクトルを、前記所定の数理モデルの入力とすることを特徴とする設備監視支援装置。
【請求項2】
前記所定の数理モデルは、入力層と、中間層と、出力層とを有するニューラルネットワークに対して前記入力層と前記出力層に同じデータを用いた教師あり学習をさせることで、入力データを再現するような前記中間層を持った機械学習モデルであることを特徴とする請求項1に記載の設備監視支援装置。
【請求項3】
前記指標算出手段は、前記センサの識別子i、前記センサiで測定した前記状態情報x
i、前記所定の数理モデルの出力x^
i、時間t、時間のスライド量jを用いて、直近のL個の移動平均をとるかたちで、式(101)により表される前記指標a
AE[i](t)を算出することを特徴とする請求項1又は2に記載の設備監視支援装置。
【数1】
【請求項4】
前記指標算出手段は、前記センサの識別子i、前記センサの設置箇所の数N(N≧2)、前記センサiで測定した前記状態情報x
i、前記所定の数理モデルの出力x^
i、時間t、時間のスライド量jを用いて、直近のL個の移動平均をとるかたちで、式(102)により表される前記指標a
AE(t)を算出することを特徴とする請求項1又は2に記載の設備監視支援装置。
【数2】
【請求項5】
前記指標算出手段で算出した前記指標を、予め設定された閾値と比較する比較手段と、
前記比較手段での比較の結果、前記指標が前記閾値を超えている場合に通知を行う通知手段とを備えたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の設備監視支援装置。
【請求項6】
過去の所定の期間における前記設備の稼働時に、前記センサで測定した前記状態情報の実績値のデータセットに基づいて、前記閾値を設定する閾値設定手段を備えたことを特徴とする請求項5に記載の設備監視支援装置。
【請求項7】
前記閾値設定手段は、前記データセットを用いて算出した前記指標を値の大きいものから降順に並べ、上位から所定の割合に該当する値を、前記閾値とすることを特徴とする請求項6に記載の設備監視支援装置。
【請求項8】
設備の状態変化の監視を支援するための設備監視支援
方法であって、
前記設備に含まれる対象部の複数箇所に設置された、
所定の一種の状態情報を測定するセンサから、前記状態情報を取得する取得ステップと、
前記取得ステップで取得した前記状態情報と、前記取得ステップで取得した前記複数箇所での前記状態情報を入力とする所定の数理モデルの出力との差を含む指標を算出する指標算出ステップとを有し、
前記所定の数理モデルは、前記対象部が安定な状態にあるときの前記複数個所での前記状態情報を入出力とすることで構築される数理モデルであって、前記対象部が安定な状態にあるときの前記複数箇所での前記状態情報を入力としたときに、前記複数箇所での前記状態情報を復元して出力する数理モデルであ
り、
前記指標算出ステップでは、時間tで前記複数箇所の前記センサで測定した前記状態情報の集合と、前記時間tよりも過去の時間で前記複数箇所の前記センサで測定した前記状態情報の集合とを成分とするベクトルを、前記所定の数理モデルの入力とすることを特徴とする設備監視支援方法。
【請求項9】
設備の状態変化の監視を支援するためのプログラムであって、
前記設備に含まれる対象部の複数箇所に設置された、
所定の一種の状態情報を測定するセンサから、前記状態情報を取得する取得手段と、
前記取得手段で取得した前記状態情報と、前記取得手段で取得した前記複数箇所での前記状態情報を入力とする所定の数理モデルの出力との差を含む指標を算出する指標算出手段としてコンピュータを機能させ、
前記所定の数理モデルは、前記対象部が安定な状態にあるときの前記複数個所での前記状態情報を入出力とすることで構築される数理モデルであって、前記対象部が安定な状態にあるときの前記複数箇所での前記状態情報を入力としたときに、前記複数箇所での前記状態情報を復元して出力する数理モデルであ
り、
前記指標算出手段は、時間tで前記複数箇所の前記センサで測定した前記状態情報の集合と、前記時間tよりも過去の時間で前記複数箇所の前記センサで測定した前記状態情報の集合とを成分とするベクトルを、前記所定の数理モデルの入力とすることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、設備の状態変化の監視を支援するための設備監視支援装置、方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
設備の監視に関する技術として、例えば特許文献1には、診断対象のプラントに設置される各種センサからの複数の計測データに対し、適応共鳴理論により正常時のデータで判別したカテゴリーに属するデータと複数の計測データとの空間上の距離の差分に基づき、診断対象のプラント全体の異常度を求める構成が開示されている。また、例えば特許文献2には、機械設備の稼動情報の正常範囲を示す正常モデルに基づいて、機械設備の異常予兆の有無を診断する異常予兆診断装置であって、センサが属するグループに対応付けられた正常モデルと、当該正常モデルに対応するセンサの各検出値と、に基づいて、機械設備の異常予兆の有無を診断する構成が開示されている。
しかしながら、特許文献1、2の技術では、データのラベル付けや正常モデルが必要で、監視の仕組みが複雑になり、適用できる対象が限定される懸念がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2018/051568号
【文献】特許第6615963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、設備の状態変化を容易かつ的確に捉えられるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の設備監視支援装置は、設備の状態変化の監視を支援するための設備監視支援装置であって、前記設備に含まれる対象部の複数箇所に設置された、所定の一種の状態情報を測定するセンサから、前記状態情報を取得する取得手段と、前記取得手段で取得した前記状態情報と、前記取得手段で取得した前記複数箇所での前記状態情報を入力とする所定の数理モデルの出力との差を含む指標を算出する指標算出手段とを備え、前記所定の数理モデルは、前記対象部が安定な状態にあるときの前記複数個所での前記状態情報を入出力とすることで構築される数理モデルであって、前記対象部が安定な状態にあるときの前記複数箇所での前記状態情報を入力としたときに、前記複数箇所での前記状態情報を復元して出力する数理モデルであり、前記指標算出手段は、時間tで前記複数箇所の前記センサで測定した前記状態情報の集合と、前記時間tよりも過去の時間で前記複数箇所の前記センサで測定した前記状態情報の集合とを成分とするベクトルを、前記所定の数理モデルの入力とすることを特徴とする。
本発明の設備監視支援方法は、設備の状態変化の監視を支援するための設備監視支援方法であって、前記設備に含まれる対象部の複数箇所に設置された、所定の一種の状態情報を測定するセンサから、前記状態情報を取得する取得ステップと、前記取得ステップで取得した前記状態情報と、前記取得ステップで取得した前記複数箇所での前記状態情報を入力とする所定の数理モデルの出力との差を含む指標を算出する指標算出ステップとを有し、前記所定の数理モデルは、前記対象部が安定な状態にあるときの前記複数個所での前記状態情報を入出力とすることで構築される数理モデルであって、前記対象部が安定な状態にあるときの前記複数箇所での前記状態情報を入力としたときに、前記複数箇所での前記状態情報を復元して出力する数理モデルであり、前記指標算出ステップでは、時間tで前記複数箇所の前記センサで測定した前記状態情報の集合と、前記時間tよりも過去の時間で前記複数箇所の前記センサで測定した前記状態情報の集合とを成分とするベクトルを、前記所定の数理モデルの入力とすることを特徴とする。
本発明のプログラムは、設備の状態変化の監視を支援するためのプログラムであって、前記設備に含まれる対象部の複数箇所に設置された、所定の一種の状態情報を測定するセンサから、前記状態情報を取得する取得手段と、前記取得手段で取得した前記状態情報と、前記取得手段で取得した前記複数箇所での前記状態情報を入力とする所定の数理モデルの出力との差を含む指標を算出する指標算出手段としてコンピュータを機能させ、前記所定の数理モデルは、前記対象部が安定な状態にあるときの前記複数個所での前記状態情報を入出力とすることで構築される数理モデルであって、前記対象部が安定な状態にあるときの前記複数箇所での前記状態情報を入力としたときに、前記複数箇所での前記状態情報を復元して出力する数理モデルであり、前記指標算出手段は、時間tで前記複数箇所の前記センサで測定した前記状態情報の集合と、前記時間tよりも過去の時間で前記複数箇所の前記センサで測定した前記状態情報の集合とを成分とするベクトルを、前記所定の数理モデルの入力とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、設備の状態変化を容易かつ的確に捉えることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】設備監視支援装置の機能構成を示す図である。
【
図2】対象部の例であるスキンパスミルの概要を説明するための図である。
【
図3】ニューラルネットワークを説明するための図である。
【
図4】設備監視支援装置が実行する処理を示すフローチャートである。
【
図5】正常期間におけるセンサで測定した温度、及びニューラルネットワークの出力の例を示す図である。
【
図6】非正常期間におけるセンサで測定した温度、及びニューラルネットワークの出力の例を示す図である。
【
図7】センサで測定した温度、及びニューラルネットワークの出力の例を示す図である。
【
図8】指標a
AE(t)の時系列変化の例を示す特性図である。
【
図9】センサで測定した温度、及びニューラルネットワークの出力の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
[第1の実施形態]
まず、
図2を参照して、本実施形態で対象とする設備、及び設備に含まれる対象部について述べる。
本実施形態では、鋼板の矯正用の設備に含まれるスキンパスミルを対象部とする。スキンパスミル200は、鋼板に対して調質圧延とも呼ばれるスキンパス圧延を行う圧延機である。
図2は、スキンパスミル200の概要を説明するための図である。スキンパスミル200は、上下のワークロール201a、201bと、その駆動源となる駆動モータ202とを備える。駆動モータ202の出力は、減速機203、分配器204、スピンドル205a、205bを介して、上下のワークロール201a、201bに伝えられる。
【0009】
対象部とするスキンパスミル200において、複数箇所にセンサ206が設置される。センサ206は、例えば駆動モータ202の出力軸の軸受、減速機203の入力軸の軸受及び出力軸の軸受、分配器204の入力軸の軸受及び出力軸の軸受、不図示のバックアップロールの軸受に設置される。なお、
図2では、駆動モータ202の出力軸の軸受に設置されたセンサ206を模式的に図示するが、他の個所のセンサ206についてはその図示を省略する。センサ206は、例えばセンサ機能及び無線通信機能が一体となった無線センサであり、状態情報を測定して、その測定値を無線通信で送信することができる。本実施形態では、センサ206は、状態情報として温度を測定して、その測定値を無線通信で送信する。
【0010】
図1に、実施形態に係る設備監視支援装置100の機能構成を示す。
設備監視支援装置100は、入力部101と、閾値設定部102と、指標算出部103と、比較部104と、通知部105とを備える。
【0011】
入力部101は、設備の稼働時に、各センサ206から、無線通信を介して温度の測定値を入力して取得する。入力部101は、設備の稼働時に例えば一定間隔(時刻t毎)で、各センサ206から温度の測定値を取得する。本実施形態では、入力部101が本発明でいう取得手段として機能する。
【0012】
閾値設定部102は、過去の所定の期間における設備の稼働時に、各センサ206で測定した温度の実績値のデータセットに基づいて、後述する指標aAE(t)に対する閾値aAEthを設定する。所定の期間は、設備の稼働状況や、対象部の種別等に応じて適宜設定されればよいが、多数の実績値を含むデータセットを用意するために例えば数カ月程度とすればよい。本実施形態では、閾値設定部102が本発明でいう閾値設定手段として機能する。
【0013】
指標算出部103は、入力部101で取得した各センサ206で測定した温度に基づいて、式(1)により表される、スキンパスミル200の状態変化を監視するための指標aAE(t)を算出する。iはセンサ206の識別子、N(N≧2)はセンサ206の設置箇所の数(=センサ206の数)、xiはセンサiで測定した温度、x^iは後述するように各センサ206で測定した温度を入力とするニューラルネットワークの出力、tは時間、jは時間のスライド量であり、直近のL個の移動平均をとるかたちで指標aAE(t)を算出する。式(1)に示すように、指標aAE(t)は、各センサ206で測定した温度と、ニューラルネットワークの出力との差の2乗和を含む。本実施形態では、指標算出部103が本発明でいう指標算出手段として機能する。なお、本願において例えば「x^」の表記は、xの上に^が付されているものとする。
【0014】
【0015】
ここで、
図3に示すような、入力層と、複数層の中間層と、出力層とを有するニューラルネットワークに対して入力層と出力層に同じデータを用いた教師あり学習をさせることで、入力データを再現するような中間層を持った機械学習モデルを構成する。中間層では、入力層からの入力のうち重要度の高い情報を残し、データの復元に不必要な情報を削ることで次元を圧縮していき(エンコード)、そうしてできた特徴表現から再度データの復元を行う(デコード)。このようにしたニューラルネットワークは、学習データと同じ特徴を持ったデータ(正解データ)を入力とすると、略同じデータを出力として得る性質を持つ。換言すれば、学習データと異なる特徴を持ったデータ(間違いデータ)を入力とすると、そのデータを正確に復元することができない。学習データとして、対象部において設備及びセンサ206に異常がない状態、つまり対象部が安定な状態にあるときに各センサ206で測定した温度を用いることで、ニューラルネットワークは、対象部が安定な状態にあるときの複数箇所での温度を入力としたときに、複数箇所での温度を復元して出力するように構築される。このようなニューラルネットワークは、画像診断や画像検索といった分野で多く使用されており、画像から得られる視覚的な情報、つまり人間の持つ感覚的な特徴表現を捉えることができると考えられている。
【0016】
図5(a)には、正常期間において、複数のセンサ206のうちの一のセンサ206で測定した温度の例を示す。また、
図5(b)には、当該正常期間におけるニューラルネットワークの出力(当該一のセンサ206に対応する温度)の例を示す。
図5(a)、(b)に示すように、スキンパスミル200が安定な状態にあるときの温度を入力としたときに、それを復元できていることがわかる。
一方、
図6(a)には、非正常期間(トラブル報告のあった期間)において、複数のセンサ206のうちの一のセンサ206で測定した温度の例を示す。また、
図6(b)には、当該非正常期間におけるニューラルネットワークの出力(当該一のセンサ206に対応する温度)の例を示す。
図6(a)、(b)に示すように、スキンパスミル200が不安定な状態にあるときの温度を入力としたときに、センサ206で測定した温度とニューラルネットワークの出力との間に差が生じていることがわかる。
【0017】
また、
図7に、複数のセンサ206のうちの一のセンサ206で測定した温度、及びニューラルネットワークの出力(当該一のセンサ206に対応する温度)の例を示す。実線の特性線がセンサ206で測定した温度を、点線の特性線がニューラルネットワークの出力を示す。期間T
1、T
2、T
3、T
4が設備の更新やトラブルのある範囲であり、これら期間T
1、T
2、T
3、T
4において、ニューラルネットワークで、センサ206で測定した温度を正確に復元することができず、入力と出力との差が生じている。なお、期間T
2では、センサ206で測定した温度を示す実線の特性線が密集した状態にあるが、ここでは簡単に外郭だけを表す。
【0018】
図1に説明を戻して、比較部104は、指標算出部103で算出した指標a
AE(t)を、閾値設定部102で予め設定された閾値a
AEthと比較する。本実施形態では、比較部104が本発明でいう比較手段として機能する。
【0019】
通知部105は、比較部104での比較の結果、指標aAE(t)が閾値aAEthを超えている場合に、スキンパスミル200の状態変化があったものとして、例えばアラームを発する等の通知を行う。本実施形態では、通知部105が本発明でいう通知手段として機能する。
【0020】
このようにした設備監視支援装置100は、例えばCPU、ROM、RAM等を備えたコンピュータ装置により構成され、CPUが例えばROMに記憶された所定のプログラムを実行することにより、各部101~105の機能が実現される。
【0021】
以下では、式(1)で表される、対象部の状態変化を監視するための指標aAE(t)について詳述する。
センサiで時間tに測定した状態情報(センサ値と呼ぶ)をxi(t)で表す。tは連続値ではなく、離散値とする。対象部にN個のセンサが取り付けられており、時間tにおけるセンサ値をx1(t)、x2(t)、・・・、xN(t)とする。このとき、ξ(t)∈RNを式(2)のように定義する。また、ξ(t)に対して、スライドウィンドウ幅をMとして、式(3)~式(5)のような来歴を考える。ξ(t)、ξ(t-1)、ξ(t-2)、・・・、ξ(t-M+1)を用いて、ベクトルX(t)∈RNMを式(6)のように定める。
【0022】
【0023】
このベクトルX(t)を、式(7)のようにニューラルネットワークfAE(・)の入力とし、ニューラルネットワークの出力をX^(t)∈RNMとする。ニューラルネットワークの入力数及び出力数はいずれもNM個である。このようにセンサiでの時間tのセンサ値xi(t)をニューラルネットワークの入力とするときに、センサ値xi(t-1)、xi(t-2)、・・・、xi(t-M+1)もニューラルネットワークの入力とすることにより、温度の時系列推移を反映することができる。
【0024】
【0025】
ニューラルネットワークの出力X^(t)は、入力X(t)の復元を表す。
ここに、X^(t)は、構成要素毎にみると、式(8)~式(11)のように書くことができる。
【0026】
【0027】
式(12)のように、X(t)の先頭の構成要素であるξ(t)のi番目(i=1、2、・・・、N)の入力であるxi(t)と、そのニューラルネットワークによる復元x^i(t)との差をei(t)と表わす。
【0028】
【0029】
このとき、差ei(t)(i=1、2、・・・、N)の2乗平均平方根(平均2乗誤差)RMSE(t)は、式(13)のようになる。
【0030】
【0031】
差ei(t)のRMSE(t)は、ニューラルネットワークによる復元が元の入力に近い場合は小さく、ニューラルネットワークによる復元が元の入力と大きく異なる場合には大きな値となる。
RMSE(t)に対して、平滑化を行うために、式(14)のように直近のL個の移動平均を取り、その値を対象部の状態変化を監視するための指標aAE(t)とする。
【0032】
【0033】
以上より、指標aAE(t)は、式(1)のように表される。
【0034】
設備の稼働時において、スキンパスミル200が安定な状態にあるとき、指標a
AE(t)の値は比較的小さく、その変動は少ない。
図8(a)に、スキンパスミル200が安定な状態にあるときの指標a
AE(t)の時系列変化の例を示す。
一方、設備の稼働時において、スキンパスミル200が不安定な状態に変化すると、ニューラルネットワークにおいて入力となる各センサ206で測定した温度を正確に復元することができず、入力と出力との差が生じて、指標a
AE(t)が大きくなる傾向になる。
図8(b)に、スキンパスミル200が不安定な状態にあるときの指標a
AE(t)の時系列変化の例を示す。
このようにセンサ206で測定した温度とニューラルネットワークの出力との差を正常状態からの乖離とみなし、時刻t毎に、式(1)により表される指標a
AE(t)を算出することにより、スキンパスミル200の状態変化の監視を行うことが可能になる。
【0035】
次に、指標aAE(t)に対する閾値aAEthについて説明する。
閾値aAEthは、過去の所定の期間における設備の稼働時に、各センサ206で測定した状態情報の実績値のデータセットに基づいて設定される。
具体的には、実績値のデータセットを用いて算出した指標aAE(t)を値の大きいものから順に並べ、上位から所定の割合(パーセンタイル)に該当する値を、閾値aAEthとする。閾値aAEthは、設備の異常を判断するものではなく、対象部の状態変化を抽出するものであり、データセットは、設備が正常といえる期間、換言すれば設備に明らかな異常が発生していない期間における実績値により構成されるものとする。
【0036】
例えばデータセットD={X(1),X(2),・・・,X(K)}に対して、実績値X()毎に指標aAE(t)、すなわち{aAE(t)(X(1)),aAE(t)(X(2)),・・・,aAE(t)(X(K))}を算出し、値の大きいものから降順に並べる。実績値X()の数K=2000とした場合、例えば上位から1%に該当する指標aAE(t)の値(1パーセンタイル値)は、指標aAE(t)、具体的には{aAE(X(1)),aAE(X(2)),・・・,aAE(X(K))}の大きい方から20番目の値になり、この値を閾値aAEthとして設定する。なお、パーセンタイルとしては1%、3%、5%等、対象部の種別や状態情報の種別等に応じて適宜設定されればよい。
【0037】
閾値設定部102では、この考えに従って、過去の所定の期間における設備の稼働時に、各センサ206で測定した温度の実績値のデータセットに基づいて、閾値aAEthを設定する。
【0038】
図4は、設備監視支援装置100が実行する処理を示すフローチャートである。設備監視支援装置100は、設備の稼働時に例えば一定間隔(時刻t毎)で、
図4のフローチャートの処理を繰り返し実行する。なお、閾値a
AEthは、オフラインでの解析により既に設定されているものとする。
【0039】
ステップS1で、入力部101は、各センサ206から、無線通信を介して温度の測定値を入力して取得し、記憶媒体に保存する。
【0040】
ステップS2で、指標算出部103は、ステップS1で取得して、記憶媒体に保存した各センサ206で測定した温度に基づいて、上述した式(1)により表される指標aAE(t)を算出する。
【0041】
ステップS3で、比較部104は、ステップS2で算出した指標aAE(t)を、予め設定された閾値aAEthと比較する。比較の結果、指標aAE(t)が閾値aAEthを超えている場合、ステップS4に進み、指標aAE(t)が閾値aAEthを超えていない場合、処理を終了する。
【0042】
ステップS4で、通知部105は、スキンパスミル200の状態変化があったものとして、例えばアラームを発する等の通知を行う。
【0043】
以上述べたように、設備の稼働時に対象部の複数箇所で同時多点測定を行い、対象部が安定な状態にあるときの複数箇所での状態情報を入力としたときに、複数箇所での状態情報を復元して出力するニューラルネットワークを用いて、指標aAE(t)を算出するようにした。
このようにした指標aAE(t)を利用することにより、オンラインで、対象部が不安定な状態に変化することを検知して、対象部の状態変化を的確に捉えることが可能になる。
また、指標aAE(t)は、センサ単位でなく、対象部単位で解析するものであり、対象部の状態変化をより的確に捉えることができる。
また、指標aAE(t)を監視すればよく、特許文献1、2の技術のようにデータのラベル付けや正常モデルが不要であり、監視の仕組みが容易で、適用できる対象が限定されない。
以上のように、正常・異常の判断が難しい設備の状態情報について、設備のトラブル報告のない期間の状態情報を学習データとすることで、正常な状態情報を学習させることで、データのラベル付けを必要とすることなく、設備の状態変化を容易かつ的確に捉えることが可能になる。
【0044】
ここで、ニューラルネットワークは、対象部の複数箇所にてセンサ206で測定した状態情報(温度)を入力するものとしたが、比較例として、単一のセンサで測定した状態情報(温度)を入力とし、それを復元して出力するニューラルネットワークを構築した場合を述べる。
図9に、単一のセンサで測定した温度、及びニューラルネットワークの出力(当該センサに対応する温度)の例を示す。実線の特性線がセンサで測定した温度を、点線の特性線がニューラルネットワークの出力を示す。期間T
5が設備の更新やトラブルのある範囲であり、期間T
5において、ニューラルネットワークで、センサで測定した温度を正確に復元することができず、入力と出力との差が生じている。なお、期間T
5では、センサ206で測定した温度を示す実線の特性線が密集した状態にあるが、ここでは簡単に外郭だけを表す。
この場合に、
図7の期間T
2と
図9の期間T
5と比べてわかるように、
図7のように対象部の複数箇所での温度を入力とするニューラルネットワークでは、
図9のように単一のセンサで測定した温度を入力とするニューラルネットワークと比べて、入力と出力との差がより明確になる傾向にある。このように対象部の複数箇所での状態情報をニューラルネットワークの入力とすることにより、対象部の状態変化をより的確に捉えることが可能になる。
【0045】
なお、本実施形態では、設備監視支援装置100が閾値設定部102を備える構成を説明したが、これに限定されるものではない。例えば閾値設定部102は、設備監視支援装置100とは別の装置として構成され、当該別の装置で求められた閾値aAEthを設備監視支援装置100に入力するようにしてもよい。また、ユーザが閾値aAEthを設備監視支援装置100に手動で入力するようにしてもよい。
【0046】
また、本実施形態では、設備監視支援装置100が比較部104及び通知部105を備える構成を説明したが、これに限定されるものではない。例えば設備監視支援装置100は、指標算出部103で算出した指標aAE(t)をユーザに提示するだけの構成にしてもよい。ユーザは、提示された指標aAE(t)に基づいて、設備の状態変化を判断することができるので、指標aAE(t)をユーザに提示するだけでも設備の状態変化の監視を支援することができる。
【0047】
[第2の実施形態]
次に、第2の実施形態を説明する。以下では、第1の実施形態と共通する内容の説明は省略し、第1の実施形態との相違点を中心に説明する。設備監視支援装置100の機能構成及び設備監視支援装置100が実行する処理は、基本的には第1の実施形態で述べたものと同様である。
第2の実施形態では、センサ単位で、対象部の状態変化を監視するための指標aAE[i](t)を算出する。
【0048】
指標算出部103は、入力部101で取得したセンサ206で測定した温度に基づいて、式(16)により表される、スキンパスミル200の状態変化を監視するための指標aAE[i](t)を算出する。iはセンサ206の識別子、xiはセンサiで測定した温度、x^iはニューラルネットワークの出力、tは時間、jは時間のスライド量あり、直近のL個の移動平均をとるかたちで指標aAE[i](t)を算出する。式(16)に示すように、指標aAE[i](t)は、センサ206で測定した温度と、ニューラルネットワークの出力との差を含む。
【0049】
【0050】
以下では、式(16)で表される、対象部の状態変化を監視するための指標aAE[i](t)について詳述する。
式(2)~式(12)は第1の実施形態で説明したとおりである。
一つのセンサ206に着目すると、差ei(t)(i=1、2、・・・、N)のRMSEi(t)は、式(15)のようになる。
差ei(t)のRMSEi(t)は、ニューラルネットワークによる復元が元の入力に近い場合は小さく、ニューラルネットワークによる復元が元の入力と大きく異なる場合には大きな値となる。
RMSEi(t)に対して、平滑化を行うために、式(16)のように直近のL個の移動平均を取り、その値を対象部の状態変化を監視するための指標aAE[i](t)とする。
【0051】
設備の稼働時において、スキンパスミル200が安定な状態にあるとき、指標aAE[i](t)の値は比較的小さく、その変動は少ない。
一方、設備の稼働時において、スキンパスミル200が不安定な状態に変化すると、ニューラルネットワークにおいて入力となる各センサ206で測定した温度を正確に復元することができず、入力と出力との差が生じて、指標aAE[i](t)が大きくなる傾向になる。
このようにセンサ206で測定した温度とニューラルネットワークの出力との差を正常状態からの乖離とみなし、時刻t毎に、式(16)により表される指標aAE[i](t)を算出することにより、スキンパスミル200の状態変化の監視を行うことが可能になる。
【0052】
なお、指標aAE[i](t)に対する閾値aAE[i]thについては、第1の実施形態の閾値aAEthと同様に、実績値のデータセットを用い算出した指標aAE[i](t)を値の大きいものから降順に並べ、上位から所定の割合(パーセンタイル)に該当する値を、閾値aAE[i]thとすればよい。
【0053】
以上、本発明を実施形態と共に説明したが、上記実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
本実施形態では、鋼板の矯正用の設備に含まれるスキンパスミルを対象部として説明したが、これに限定されるものではなく、例えば鋼板の矯正用の設備以外の設備でもよいし、鋼板の矯正用の設備に含まれる他の機器等を対象部としてもよい。さらにいえば、本発明は、鋼板の矯正用の設備に限られず、機械要素を含む各種設備に対して広く適用可能である。
【0054】
また、一の設備を複数の区分に分け、各区分を対象部として、それぞれに複数のセンサを設置して、複数の区分で同時並行的に状態変化を監視するようにしてもよい。この場合に、区分毎に物理的に同じ状態情報を用いるようにし、各区分においてそれぞれ閾値を設定すればよい。
また、対象部に設置するセンサの数や位置は、対象部の種別や状態情報の種別等に応じて適宜設定されればよい。また、センサで測定する状態情報も、温度に限定されるものではなく、振動、変位、圧力等、対象部の種別等に応じて適宜設定されればよい。
【0055】
また、対象部が安定な状態にあるときの複数個所での状態情報を入出力とすることで構築される数理モデルであって、対象部が安定な状態にあるときの複数箇所での状態情報を入力としたときに、複数箇所での状態情報を復元して出力する数理モデルとして、ニューラルネットワークを説明したが、これに限定されるものではない。例えばVariational Auto Encoderや、特徴表現のクラスタリングに関するDOCを利用してもよい。
【符号の説明】
【0056】
100:設備監視支援装置、101:入力部、102:閾値設定部、103:指標算出部、104:比較部、105:通知部、200:スキンパスミル、206:センサ