IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シチズンホールディングス株式会社の特許一覧

特許7521969白色抗菌部材、白色抗菌部材の製造方法および白色抗菌部材を含む時計
<>
  • 特許-白色抗菌部材、白色抗菌部材の製造方法および白色抗菌部材を含む時計 図1
  • 特許-白色抗菌部材、白色抗菌部材の製造方法および白色抗菌部材を含む時計 図2
  • 特許-白色抗菌部材、白色抗菌部材の製造方法および白色抗菌部材を含む時計 図3
  • 特許-白色抗菌部材、白色抗菌部材の製造方法および白色抗菌部材を含む時計 図4
  • 特許-白色抗菌部材、白色抗菌部材の製造方法および白色抗菌部材を含む時計 図5
  • 特許-白色抗菌部材、白色抗菌部材の製造方法および白色抗菌部材を含む時計 図6
  • 特許-白色抗菌部材、白色抗菌部材の製造方法および白色抗菌部材を含む時計 図7
  • 特許-白色抗菌部材、白色抗菌部材の製造方法および白色抗菌部材を含む時計 図8
  • 特許-白色抗菌部材、白色抗菌部材の製造方法および白色抗菌部材を含む時計 図9
  • 特許-白色抗菌部材、白色抗菌部材の製造方法および白色抗菌部材を含む時計 図10
  • 特許-白色抗菌部材、白色抗菌部材の製造方法および白色抗菌部材を含む時計 図11
  • 特許-白色抗菌部材、白色抗菌部材の製造方法および白色抗菌部材を含む時計 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】白色抗菌部材、白色抗菌部材の製造方法および白色抗菌部材を含む時計
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/06 20060101AFI20240717BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20240717BHJP
   G04B 37/22 20060101ALI20240717BHJP
   C22C 5/04 20060101ALI20240717BHJP
   C22C 9/00 20060101ALI20240717BHJP
   C22C 19/03 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
C23C14/06 N
C23C14/34 N
G04B37/22 M
C22C5/04
C22C9/00
C22C19/03 N
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020139155
(22)【出願日】2020-08-20
(65)【公開番号】P2022035078
(43)【公開日】2022-03-04
【審査請求日】2023-05-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】高崎 康太郎
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-197342(JP,A)
【文献】特開2011-032507(JP,A)
【文献】国際公開第2013/141081(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/06
C23C 14/34
G04B 37/22
C22C 5/04
C22C 9/00
C22C 19/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材および前記基材上に設けられた白色抗菌被膜を有し、
前記白色抗菌被膜が、Pt、PdおよびRhから選ばれる少なくとも1種の金属M1と、Cu、AgまたはNiである金属M2とを含み、
前記金属M2がCuまたはNiであるときは、前記白色抗菌被膜中、前記金属M2が4.15at%以上の量で含まれ、
前記金属M2がAgであるときは、前記白色抗菌被膜中、前記金属M2が2.49at%以上の量で含まれ
前記基材と前記白色抗菌被膜との間に、さらに硬化層が設けられている、
白色抗菌部材。
【請求項2】
基材および前記基材上に設けられた白色抗菌被膜を有し、
前記白色抗菌被膜が、金属M1と、金属M2とを含み、
前記金属M1がPtであり、前記金属M2がCuまたはNiであり、前記白色抗菌被膜中、前記金属M1が29.72at%以上95.85at%以下の量で含まれ、前記金属M2が4.15at%以上70.28at%以下の量で含まれる
色抗菌部材。
【請求項3】
前記金属M1がPtであり、前記金属M2がAgであり、前記白色抗菌被膜中、前記金属M1が67.13at%以上97.51at%以下の量で含まれ、前記金属M2が2.49at%以上32.87at%以下の量で含まれる、
請求項1に記載の白色抗菌部材。
【請求項4】
前記白色抗菌被膜は、Lab色空間表示において、L*が80.00以上であり、a*が-2.0以上2.0以下であり、b*が-4.50以上4.50以下である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の白色抗菌部材。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載の白色抗菌部材を含む、
時計。
【請求項6】
基材上に、硬化層を形成させる工程と、
前記硬化層上に、白色抗菌被膜を設ける工程と、を含み、
前記白色抗菌被膜が、Pt、PdおよびRhから選ばれる少なくとも1種の金属M1と、Cu、AgおよびNiから選ばれる少なくとも1種の金属M2とを含み、
前記金属M2がCuまたはNiであるときは、前記白色抗菌被膜中、前記金属M2が4.15at%以上の量で含まれ、
前記金属M2がAgであるときは、前記白色抗菌被膜中、前記金属M2が2.49at%以上の量で含まれ
前記基材と前記白色抗菌被膜との間に、さらに硬化層が設けられている、
白色抗菌部材の製造方法。
【請求項7】
基材上に、白色抗菌被膜を設ける工程を含み、
前記白色抗菌被膜が、金属M1と、金属M2とを含み、
前記金属M1がPtであり、前記金属M2がCuまたはNiであり、前記白色抗菌被膜中、前記金属M1が29.72at%以上95.85at%以下の量で含まれ、前記金属M2が4.15at%以上70.28at%以下の量で含まれる、
白色抗菌部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白色抗菌部材、白色抗菌部材の製造方法および白色抗菌部材を含む時計に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、デバイスの表面上に抗菌性合金コーティングをめっきするためにデバイスの表面に塗布する抗菌性合金コーティング組成物が記載されている。上記抗菌性合金コーティング組成物は、具体的には、銅、銀およびその混合物からなる群から選択され、その抗菌材料の原子含有割合が全含量の1.7%~26.8%である抗菌材料と、少なくとも4つ以上の金属元素および少なくとも1つの非金属元素からなり、これらの金属元素が、鉄、コバルト、クロム、ニッケル、アルミニウム、バナジウムおよびチタンからなる群から選択され、その非金属元素が、ホウ素、酸素および窒素からなる群から選択される合金とを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-156035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の抗菌性合金コーティング組成物から得られる抗菌性合金コーティングは、装飾性に優れる白色を示さない。
【0005】
そこで、本発明の目的は、抗菌性に優れるとともに、装飾性に優れる白色を示す白色抗菌部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の白色抗菌部材は、基材および前記基材上に設けられた白色抗菌被膜を有し、上記白色抗菌被膜が、Pt、PdおよびRhから選ばれる少なくとも1種の金属M1と、Cu、AgおよびNiから選ばれる少なくとも1種の金属M2とを含む。また、上記金属M2がCuまたはNiであるときは、白色抗菌被膜中、上記金属M2が4.15at%以上の量で含まれ、上記金属M2がAgであるときは、上記白色抗菌被膜中、上記金属M2が2.49at%以上の量で含まれる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の白色抗菌部材は、抗菌性に優れるとともに、装飾性に優れる白色を示す。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態の白色抗菌部材を説明するための図である。
図2図2は、実施形態の白色抗菌部材の変形例を具体的に説明するための図である。
図3図3は、実施形態の白色抗菌部材の変形例を具体的に説明するための図である。
図4図4は、実施形態の白色抗菌部材の変形例を具体的に説明するための図である。
図5図5は、実施例1で作製した白色抗菌部材および比較例1-1で作製したPt白色部材についてX線回折を実施した結果を示す図である。
図6図6は、実施例2で作製した白色抗菌部材および比較例2-1で作製したPt白色部材についてX線回折を実施した結果を示す図である。
図7図7は、MoNbCrの膜において、Arガス量105sccm一定のもと、導入窒素ガス量を変化させた場合について、硬度の変化を示した図である。
図8図8は、MoNbCrの膜において、Arガス量105sccm一定のもと、導入窒素ガス量を変化させた場合について、輝度の変化を示した図である。
図9図9は、無加工試験片について、黄色ブドウ球菌による抗菌性試験後の写真である。
図10図10は、無加工試験片について、大腸菌による抗菌性試験後の写真である。
図11図11は、抗菌加工試験片について、黄色ブドウ球菌による抗菌性試験後の写真である。
図12図12は、抗菌加工試験片について、大腸菌による抗菌性試験後の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成は適宜組み合わせることが可能である。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成の種々の省略、置換または変更を行うことができる。
【0010】
<白色抗菌部材>
図1は、実施形態の白色抗菌部材を説明するための図である。図1の断面模式図に示すように、白色抗菌部材100は、基材10および基材10上に設けられた白色抗菌被膜20を有する。
【0011】
基材10は、金属、セラミックスまたはプラスチックから形成される。金属(合金を含む)としては、ステンレス鋼、チタン、チタン合金、銅、銅合金、タングステン、高炭素クロム軸受鋼(SUJ2)などが挙げられる。これらの金属は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、上記基材の形状については限定されない。
【0012】
白色抗菌被膜20は、Pt、PdおよびRhから選ばれる少なくとも1種の金属M1と、Cu、AgおよびNiから選ばれる少なくとも1種の金属M2とを含む。ここで、金属M2がCuまたはNiであるときは、白色抗菌被膜中、上記金属M2が4.15at%以上の量で含まれ、金属M2がAgであるときは、白色抗菌被膜中、上記金属M2が2.49at%以上の量で含まれる。実施形態の白色抗菌部材は、白色抗菌被膜が金属M2を特定の量で含んでいるため、抗菌性に優れる。また、金属M1および金属M2を含んでいるため、装飾性に優れる白色を示す。
【0013】
一方、特許文献1には、抗菌性合金コーティングの記載はあるが、色調についての記載はない。このように、従来の技術では、装飾性が高く、しかも抗菌性を有するような白色抗菌部材を提供できないという問題があった。これに対して、上述のように、実施形態の白色抗菌部材は、特定の白色抗菌被膜を有するため、これらの問題を解決できる。
【0014】
金属M1、M2の具体的な組み合わせとしては、M1=Pt、M2=Cu;M1=Pt、M2=Ag;M1=Pt、M2=Ni;M1=Pd、M2=Cu;M1=Pd、M2=Ag;M1=Pd、M2=Ni;M1=Rh、M2=Cu;M1=Rh、M2=Ag;M1=Rh、M2=Niなどが挙げられる。
【0015】
これらのうちで、金属M1がPtであり、金属M2がCuである場合は、抗菌性および耐食性を示す組成範囲が広く、量産安定性の観点から好ましい。いいかえると、生産において、被膜の組成に誤差やばらつきが生じても、望む特性の被膜を得ることができるため好ましい。また、金属M1がPtであり、金属M2がAgである場合は、少量のAg量で抗菌性が発現するため好ましい。金属M1がPtであり、金属M2がNiである場合は、Ni自体の耐食性が高いことから抗菌性および耐食性を示す組成範囲が広く、量産安定性の観点から好ましい。しかし肌に触れる装飾部品においては、Niアレルギーの観点から、好ましくない。コストおよび量産性の観点からCuを抗菌性材料として選択することが最も好ましい。
【0016】
金属M1がPtであり、金属M2がCuまたはNiであるとき、白色抗菌被膜中、Pt(金属M1)が29.72at%以上95.85at%以下の量で含まれ、CuまたはNi(金属M2)が4.15at%以上70.28at%以下の量で含まれることが好ましい。なお、金属M1の量および金属M2の量の合計は100at%である。
【0017】
CuまたはNiが4.15at%以上の量で含まれていると、白色抗菌部材は、抗菌性により優れる。より具体的には、このような白色抗菌部材は、「JIS Z 2801:2012 抗菌加工-抗菌性試験方法・抗菌効果」に準拠した抗菌性試験において、通常抗菌活性値が2.0以上である。また、CuまたはNiが70.28at%以下の量で含まれていると、白色抗菌部材は、耐食性にも優れる。
【0018】
また、Ptが29.72at%以上の量で含まれていると、白色抗菌部材は、装飾性により優れる白色を示す。より具体的には、このような白色抗菌部材は、CIE Lab色空間表示において、通常、a*が-2.0以上2.0以下であり、b*が-4.50以上4.50以下である。さらに、このような白色抗菌部材は、CIE Lab色空間表示において、通常、L*が80.00以上である。なお、a*が3を超えると赤色味を呈し、a*が-3未満になると緑色味を呈する傾向にある。また、b*が5を超えると黄色味を呈し、b*が-5未満になると青色味を呈する傾向にある。また、L*は高ければ高いほどより白色(シルバー色)に近づくといえる。ここで、本明細書において、L*、a*、b*は、基材上に形成した白色抗菌被膜について測定した値をいう。
【0019】
すなわち、PtおよびCuまたはNiが上記の量で含まれていると、白色抗菌部材は、抗菌性により優れるとともに、装飾性により優れる白色を示し、さらに、耐食性にも優れる。
【0020】
なお、金属M1がPdまたはRhであり、金属M2がCuまたはNiである場合も、金属M1がPtである場合と同様に、PdまたはRh(金属M1)が29.72at%以上95.85at%以下の量で含まれ、CuまたはNi(金属M2)が4.15at%以上70.28at%以下の量で含まれることが好ましい。
【0021】
金属M1がPtであり、金属M2がAgであるとき、白色抗菌被膜中、Pt(金属M1)が67.13at%以上97.51at%以下の量で含まれ、Ag(金属M2)が2.49at%以上32.87at%以下の量で含まれることが好ましい。なお、金属M1の量および金属M2の量の合計は100at%である。
【0022】
Agが2.49at%以上の量で含まれていると、白色抗菌部材は、抗菌性により優れる。より具体的には、このような白色抗菌部材は、「JIS Z 2801:2012 抗菌加工-抗菌性試験方法・抗菌効果」に準拠した抗菌性試験において、通常抗菌活性値が2.0以上である。また、Agが32.87at%以下の量で含まれていると、白色抗菌部材は、耐食性にも優れる。
【0023】
また、Ptが67.13at%以上の量で含まれていると、白色抗菌部材は、装飾性により優れる白色を示す。より具体的には、このような白色抗菌部材は、CIE Lab色空間表示において、通常、a*が-2.0以上2.0以下であり、b*が-4.50以上4.50以下である。さらに、このような白色抗菌部材は、CIE Lab色空間表示において、通常、L*が80.00以上である。
【0024】
すなわち、PtおよびAgが上記の量で含まれていると、白色抗菌部材は、抗菌性により優れるとともに、装飾性により優れる白色を示し、さらに、耐食性にも優れる。
【0025】
なお、金属M1がPdまたはRhであり、金属M2がAgである場合も、金属M1がPtである場合と同様に、PdまたはRh(金属M1)が67.13at%以上97.51at%以下の量で含まれ、Ag(金属M2)が2.49at%以上32.87at%以下の量で含まれることが好ましい。
【0026】
ここで、白色抗菌被膜における金属M1および金属M2の量はESCA(X線光電子分光法)、EDX(エネルギー分散型X線分光法)、またはEPMA(電子プローブマイクロアナライザー)により求めることができる。これらのうちで、EDX(エネルギー分散型X線分光法)により求めることが好ましい。
【0027】
白色抗菌被膜20の厚さは、10nm以上1000nm以下であることが好ましい。白色抗菌被膜の厚さが10nm未満であると、充分な抗菌性および装飾性が発揮できない場合がある。また、白色抗菌被膜の厚さが1000nmを超えると、耐傷性およびコスト性が劣る場合がある。
【0028】
さらに、実施形態の白色抗菌部材は、好ましくは膜硬度がHV1000以上である。ここで、本明細書において、膜硬度は、基材上に形成した白色抗菌被膜について測定した値をいう。このように、実施形態の白色抗菌部材は、充分な硬さを有し、耐傷性、耐摩耗性に優れる。
【0029】
実施形態の白色抗菌部材は、基材と白色抗菌被膜との間に、さらに中間層が設けられていてもよい。
【0030】
中間層としては、硬化層が挙げられる。図2は、実施形態の白色抗菌部材の変形例を具体的に説明するための図である。図2に示すように、白色抗菌部材100は、基材10と白色抗菌被膜20との間に、さらに硬化層11が設けられていてもよい。このような白色抗菌部材100は、充分な硬さを有し、耐傷性、耐摩耗性に優れる。
【0031】
硬化層11は、白色抗菌被膜20よりも高い硬度を有する。耐傷性能はおおよそ被膜の厚さ、被膜の密着度および被膜の硬度の積により決まる。硬化層11を設けると、被膜全体の硬度が高まり、厚い被膜の形成も可能となる。結果として白色抗菌部材の耐傷性の向上に寄与できる。硬化層11としては、白色抗菌被膜20よりも高い硬度(たとえば1000HV以上)を有していれば特に限定されない。
【0032】
硬化層11は、たとえば、Ti、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、TaおよびWから選ばれる少なくとも1種の金属M1’と、非金属元素として炭素、窒素またはその両方とを含み、外観色および被膜の使用環境によって適宜選択される。このような硬化層11は、白色を示すため、白色抗菌被膜20が剥がれた場合でも、美観を保つことができる。具体的には、TiCが好適に用いられる。
【0033】
あるいは、硬化層11は、Ti、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、TaおよびWから選ばれる少なくとも1種の金属M1’と、Cu、AgおよびNiから選ばれる少なくとも1種の金属M2’と、非金属元素として炭素、窒素またはその両方とを含み、外観色および被膜の使用環境によって適宜選択される。このような硬化層11は、白色を示すため、白色抗菌被膜20が剥がれた場合でも、美観を保つことができる。さらに、金属M2’を含む硬化層11は抗菌性を有するため、白色抗菌被膜20が剥がれた場合でも、抗菌性を維持できる利点がある。また、硬化層11の上に形成される白色抗菌被膜20の金属M2と同じ金属M2’を含む硬化層11は、高い密着度が得られることや製造しやすいことからも好ましい。具体的には、TiCuC、TiAgCが好適に用いられる。
【0034】
硬化層11の厚さは、100nm以上3000nm以下であることが好ましい。
【0035】
さらに、中間層としては、密着層、傾斜密着層、色上げ傾斜層が挙げられる。図3および図4は、実施形態の白色抗菌部材の変形例を具体的に説明するための図である。図3に示すように、白色抗菌部材100は、基材10と白色抗菌被膜20との間に、密着層12および硬化層11がこの順で設けられていてもよい。硬化層11については、上述したとおりである。密着層12を設けると、基材10と密着層12の上に形成される層との密着度が高まり、厚い被膜の形成も可能となる。結果として白色抗菌部材の耐傷性、耐摩耗性の向上に寄与できる。密着層12としては、Ti被膜、Cr被膜が挙げられる。基材10を構成する金属または密着層12の上に形成される層を構成する金属と同じ金属を含む密着層12は、高い密着度が得られることや製造しやすい点からも好ましい。たとえば、基材10が、Tiを含む場合は、Ti被膜が好適に用いられる。また、基材10が、高炭素クロム軸受鋼(SUJ2)を含む場合は、Cr被膜が好適に用いられる。また、密着層12は、TiまたはCrを含んでいればよく、Ti以外の金属(たとえば、Mo、Nb、Cuなど)を含んでいてもよい。また、密着層12は、低級酸化物膜であってもよい。さらに、密着層12がTi以外に少なくとも炭素および窒素のいずれか1つの元素を含む場合には、基材10上に形成された被膜を簡便に除去することができる。すなわち、たとえば硝酸、希硝酸またはフッ硝酸など、基材10の表面を荒らさない溶液に白色抗菌部材100を所定の時間浸漬することで、密着層12が溶解し、密着層12の上に形成される層がリフトオフされる。このため、基材10の表面を荒らすことなく、基材10の上に形成された被膜を除去することができる。
【0036】
図4に示すように、白色抗菌部材100は、基材10と白色抗菌被膜20との間に、密着層12、傾斜密着層13、硬化層11および色上げ傾斜層14がこの順で設けられていてもよい。密着層12および硬化層11については、上述したとおりである。傾斜密着層13を設けると、基材10と白色抗菌被膜20との間に発生する応力歪みを緩和でき、基材10と白色抗菌被膜20との間の密着度が高くなりクラックの発生や剥離が抑えられる。結果として白色抗菌部材の耐傷性、耐摩耗性の向上に寄与できる。傾斜密着層13は、たとえば、Ti、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、TaおよびWから選ばれる少なくとも1種の金属M1’と、非金属元素として炭素、窒素またはその両方とを含む。また、通常、傾斜密着層13中の炭素、窒素またはその両方の量は、基材10において白色抗菌被膜20を設ける面に垂直な方向に、基材10から離れるにしたがって増加している。色上げ傾斜層14を設けると、硬化層11から徐々に応力が低下し応力歪みが緩和されることでキズ、クラックの発生を低減できる。さらに、明度が白色抗菌被膜20に向かって高くなっていくことから、白色抗菌被膜20との色調差が減少し、たとえば白色抗菌被膜20が剥がれたとしても実使用上で違和感のない装飾部材となる。色上げ傾斜層14は、Ti、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、TaおよびWから選ばれる少なくとも1種の金属M1’と、非金属元素として炭素、窒素またはその両方とを含む。また、通常、傾斜密着層13中の炭素、窒素またはその両方の量は、基材10において白色抗菌被膜20を設ける面に垂直な方向に、基材10から離れるにしたがって減少している。
【0037】
実施形態の白色抗菌部材やその変形例の白色抗菌被膜20では、色調をより好ましくするために、白色抗菌被膜20中の金属M1を、基材10において白色抗菌被膜20を設ける面に垂直な方向に、基材10から離れるにしたがって変化させてもよい。もちろん、変化させなくてもよい。白色抗菌被膜20全体において、金属M1、M2の量が、白色抗菌被膜20全体として上述した好ましい範囲にあることが望ましい。
【0038】
いずれの白色抗菌部材も、上述した白色抗菌被膜を有するため、抗菌性に優れる。また、装飾性に優れる白色を示す。
【0039】
<白色抗菌部材の製造方法>
実施形態の白色抗菌部材の製造方法は、上記白色抗菌部材の製造方法である。すなわち、実施形態の白色抗菌部材の製造方法は、基材上に、白色抗菌被膜を設ける工程(白色抗菌被膜形成工程)を含む。ここで、白色抗菌被膜は、Pt、PdおよびRhから選ばれる少なくとも1種の金属M1と、Cu、AgおよびNiから選ばれる少なくとも1種の金属M2とを含む。また、上記金属M2がCuまたはNiであるときは、白色抗菌被膜中、上記金属M2が4.15at%以上の量で含まれ、上記金属M2がAgであるときは、上記白色抗菌被膜中、上記金属M2が2.49at%以上の量で含まれる。
【0040】
白色抗菌被膜形成工程は、具体的には、スパッタリング法またはアーク法により行う。スパッタリング法は、真空に排気されたチャンバー内に不活性ガス(たとえばAr)を導入しながら、基材と被膜の構成原子からなるターゲット間に直流または交流の高電圧を印加し、イオン化したAr等の不活性ガスをターゲットに衝突させて、はじき飛ばされたターゲット物質を基材に形成させる方法である。
【0041】
白色抗菌被膜形成工程では、ターゲット(原料金属)は、たとえば、Pt、PdおよびRhから選ばれる少なくとも1種の金属M1と、Cu、AgおよびNiから選ばれる少なくとも1種の金属M2とを含む焼結体または溶融体である。
【0042】
白色抗菌被膜形成工程においては、製造装置および使用するターゲット組成によってその条件は一様ではないが、たとえば、不活性ガス(たとえばAr)が100~200sccmの条件下において、膜を形成する。
【0043】
さらに、ターゲット構成原子の種類およびその割合、スパッタリング時間、スパッタリング出力、基板側に付与するバイアス電圧を調整することで、白色抗菌被膜中の金属元素の種類およびその量、白色抗菌被膜の厚さをコントロールできる。また、白色抗菌部材における密着性、膜硬度、色調もコントロールできる。
【0044】
白色抗菌部材は、上述のように、中間層をさらに含んでいてもよい。これらの層も上述した白色抗菌被膜形成工程に準じた中間層形成工程により積層させることができる。ターゲット構成原子の種類およびその割合、スパッタリング時間、スパッタリング出力、基板側に付与するバイアス電圧などを調整することで、中間層中の金属元素の種類およびその量、厚さなどを適宜をコントロールできる。
【0045】
たとえば、硬化層を形成する場合は、反応性スパッタリング法により行う。反応性スパッタリング法では、不活性ガスとともに微量の反応ガスを導入し、ターゲット構成原子と反応ガスを構成する非金属元素との反応化合物被膜(硬化層)を基材上に形成させることができる。非金属元素が炭素の場合は、反応ガスとして、メタンガス、アセチレンガス等の炭素原子含有ガスが用いられる。
【0046】
硬化層の形成においては、製造装置および使用するターゲット組成によってその条件は一様ではないが、たとえば、不活性ガスが100~200sccmの条件下において、炭素原子含有ガス、窒素ガス、またはその両方を含むガスを5~150sccm導入して炭化物膜、窒化物膜、炭窒化物膜(硬化層)を形成する。ガス量が上記範囲にあると、硬化層中の炭素、窒素の量を好ましい範囲に調整できる。
【0047】
反応性スパッタリング法は、膜質や膜厚の制御性が高く自動化も容易である。またスパッタリングされた原子のエネルギーが高いことから、密着性を向上させるための基材加熱が必要なく、融点の低いプラスチックのような基材でも被膜形成が可能となる。また、はじき飛ばされたターゲット物質を基材に形成させる方法であることから高融点材料でも成膜が可能であり、材料の選択が自由である。
【0048】
さらに、ターゲット構成原子の種類およびその割合、反応ガスの選択および量、スパッタリング時間、スパッタリング出力、基板側に付与するバイアス電圧を調整することで、硬化層中の金属元素の種類およびその量、炭素、窒素の量、硬化層の厚さをコントロールできる。また、白色抗菌部材における密着性、膜硬度、色調もコントロールできる。
【0049】
たとえば、傾斜密着層や色上げ傾斜層を形成する場合も、反応性スパッタリング法またはアーク法により行う。また、炭素、窒素の量が基材から離れるにしたがって変化している傾斜密着層や色上げ傾斜層では、反応ガスの量を適宜変化させればよい。なお、ガス量の調整は自動制御されたマスフローコントローラーによって行うことができる。
【0050】
<時計>
実施形態の時計は、上記白色抗菌部材を含む。白色抗菌部材は、時計の構成部品であれば特に限定されず、ケース、裏蓋、バンド、中留などが挙げられる。また、実施形態の時計は、光発電時計、熱発電時計、電波受信型自己修正時計、機械式時計、一般の電子式時計のいずれであってもよく、腕時計、掛け時計、置時計のいずれであってもよい。このような時計は、上記白色抗菌部材を用いて公知の方法により製造される。いずれの時計も、上述した白色抗菌被膜を有するため、抗菌性に優れる。また、装飾性に優れる白色を示す。
【0051】
なお、実施形態の白色抗菌部材は、時計以外に適用されてもよい。実施形態の白色抗菌部材は、たとえば、はさみ、ピンセット、メス等の医療器具;はさみ、かみそり等の理美容器具;ドアハンドル、引き手、錠前、丁番等の建具金物;眼鏡、アクセサリー等の装身具;はさみ、トング等の調理器具;ビールサーバー、フック等の日用品;什器;スポーツ用品、電化製品などの製品に含まれていてもよい。いずれの製品も、上述した白色抗菌被膜を有するため、抗菌性に優れる。また、装飾性に優れる白色を示す。
【0052】
実施形態の時計または時計以外の製品は、実施形態の白色抗菌部材を用いて、公知の方法よって製造できる。
【0053】
以上より、本発明は以下に関する。
〔1〕基材および上記基材上に設けられた白色抗菌被膜を有し、上記白色抗菌被膜が、Pt、PdおよびRhから選ばれる少なくとも1種の金属M1と、Cu、AgおよびNiから選ばれる少なくとも1種の金属M2とを含み、上記金属M2がCuまたはNiであるときは、上記白色抗菌被膜中、上記金属M2が4.15at%以上の量で含まれ、上記金属M2がAgであるときは、上記白色抗菌被膜中、上記金属M2が2.49at%以上の量で含まれる、白色抗菌部材。
上記〔1〕の白色抗菌部材は、抗菌性に優れるとともに、装飾性に優れる白色を示す。
〔2〕上記金属M1がPtであり、上記金属M2がCuまたはNiであり、上記白色抗菌被膜中、上記金属M1が29.72at%以上95.85at%以下の量で含まれ、上記金属M2が4.15at%以上70.28at%以下の量で含まれる、〔1〕に記載の白色抗菌部材。
〔3〕上記金属M1がPtであり、上記金属M2がAgであり、上記白色抗菌被膜中、上記金属M1が67.13at%以上97.51at%以下の量で含まれ、上記金属M2が2.49at%以上32.87at%以下の量で含まれる、〔1〕に記載の白色抗菌部材。
上記〔2〕または〔3〕の白色抗菌部材は、抗菌性により優れるとともに、装飾性により優れる白色を示し、さらに、耐食性にも優れる。
〔4〕上記白色抗菌被膜は、Lab色空間表示において、L*が80.00以上であり、a*が-2.0以上2.0以下であり、b*が-4.50以上4.50以下である、〔1〕~〔3〕のいずれか1つに記載の白色抗菌部材。
上記〔4〕の白色抗菌部材は、装飾性により優れる白色を示す。
〔5〕上記基材と上記白色抗菌被膜との間に、さらに硬化層が設けられている、〔1〕~〔4〕のいずれか1つに記載の白色抗菌部材。
上記〔5〕の白色抗菌部材は、充分な硬さを有し、耐傷性、耐摩耗性に優れる。
〔6〕〔1〕~〔5〕のいずれか1つに記載の白色抗菌部材を含む、時計。
上記〔6〕の時計は、抗菌性に優れるとともに、装飾性に優れる白色を示す。
〔7〕基材上に、白色抗菌被膜を設ける工程を含み、上記白色抗菌被膜が、Pt、PdおよびRhから選ばれる少なくとも1種の金属M1と、Cu、AgおよびNiから選ばれる少なくとも1種の金属M2とを含み、上記金属M2がCuまたはNiであるときは、上記白色抗菌被膜中、上記金属M2が4.15at%以上の量で含まれ、上記金属M2がAgであるときは、上記白色抗菌被膜中、上記金属M2が2.49at%以上の量で含まれる、白色抗菌部材の製造方法。
上記〔7〕の白色抗菌部材の製造方法によれば、抗菌性に優れるとともに、装飾性に優れる白色を示す白色抗菌部材が得られる。
【0054】
[実施例]
以下実施例に基づいて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
<実施例1>
[実施例1-1]
図1に示す白色抗菌部材100を作製した。スパッタリングターゲットとして、Pt96at%およびCu4at%を含む溶融体ターゲットを使用し、基材10としてTiからなる基材を用いた。スパッタリング法でアルゴンガス105sccmを導入してPtCu合金ターゲットをスパッタし、厚さおよそ200nmの白色抗菌被膜20を基材10上に形成し、白色抗菌部材100を得た(表1)。
【0056】
[実施例1-2~1-13]
実施例1-2~1-13では、表1に示すように、PtおよびCuの含有量が異なるスパッタリングターゲットを用いたこと以外は、実施例1-1と同様にして、白色抗菌部材100を得た。
【0057】
[比較例1-1]
比較例1-1では、表1に示すように、スパッタリングターゲットとしてPtを用いたこと以外は、実施例1-1と同様にして、Pt白色部材を得た。
【0058】
[比較例1-2]
比較例1-2では、表1に示すように、PtおよびCuの含有量が異なるスパッタリングターゲットを用いたこと以外は、実施例1-1と同様にして、白色部材を得た。
【0059】
表1には、上記で得られた白色抗菌部材について、膜中の金属元素の量、抗菌性、色調、耐食性の評価結果を示した。比較例1-1としてCuを含有しないPtのみの薄膜も併せて示した。表1より、薄膜中のCu含有量が4.15at%以上でJISに示される抗菌試験によって抗菌性があることが分かった。
【0060】
Cu含有量が4.15at%以上で抗菌性を示すが、Cu含有量の増加に伴い、色調のa*およびb*の増加がみられ、実施例1-12、実施例1-13においては、うっすらとCuのピンク色が現れ始め、耐食性も低下することが分かった。以上の結果から、抗菌性、耐食性に優れるとともに、装飾性により優れる白色抗菌部材について、薄膜中の好ましいCu量は4.15at%以上、70.28at%以下と考えられた。
【0061】
【表1】
【0062】
図5は、実施例1で作製した白色抗菌部材および比較例1-1で作製したPt白色部材についてX線回折を実施した結果を示す図である。具体的には、図5は、比較例1-1で作製したPt白色部材、および実施例1-1、1-4、1-9、1-10、1-11、1-12、1-13で作製した白色抗菌部材についてX線回折を実施した結果を示す図である。
【0063】
比較例1-1で作製したPt白色部材は、[1,1,1]面(39.9度付近)、[2,0,0]面(46.4度付近)、[2,2,0]面(67.7度付近)の結晶ピークと、[3,1,1]面(81.7度付近)のわずかに見られる結晶ピークとを持つ面心立法構造を持ったPt結晶そのものであった。薄膜内にCu量が増えていくと、それぞれの結晶ピークは高角度側にシフトし、Cuが持つ結晶構造[1,1,1]面(43.1度付近)、[2,0,0]面(50.4度付近)、[2,2,0]面(73.6度付近)、[3,1,1]面(89.1度付近)に近づいていく。Cuの含有量により様々に結晶状態が変化することが分かった。
【0064】
具体的には、実施例1-1および実施例1-4の結晶構造には、Ptの結晶構造に加えてCuPt7結晶相が確認され、Cu量の多い実施例1-4の方により多く含有されていた。実施例1-9および実施例1-10の結晶構造には、CuPt7およびCuPtの結晶相が確認され、含有Cu量が増すほどCuPt結晶相が多く含有する結晶構造を示した。実施例1-11の結晶構造ではCuPt、Cu3Pt、CuPt7の結晶構造が確認された。実施例1-12および実施例1-13の結晶構造では、Cu3PtおよびCuの結晶相が確認され、含有Cu量が増すほどCu結晶層が多く含有する結晶構造を示した。Pt膜中にCu比率が増えていくと、Pt結晶→Pt結晶+CuPt7結晶→CuPt7結晶+CuPt結晶→CuPt結晶+Cu3Pt結晶→Cu3Pt結晶+Cu結晶→Cu結晶のようにCu比率の高い結晶相が増えていくことになる。Cuが70at%入ったCu70.28at%Pt29.72at%膜(実施例1-11)でも、耐食性が高いのは、Cu3Pt、CuPt、CuPt7といったPt含有結晶を形成しているためと推察された。
【0065】
<実施例2>
[実施例2-1]
図1に示す白色抗菌部材100を作製した。スパッタリングターゲットとして、Pt98at%およびAg2at%を含む溶融体ターゲットを使用し、基材10としてTiからなる基材を用いた。スパッタリング法でアルゴンガス105sccmを導入してPtAg合金ターゲットをスパッタし、厚さおよそ200nmの白色抗菌被膜20を基材10上に形成し、白色抗菌部材100を得た(表2)。
【0066】
[実施例2-2~2-8]
実施例2-2~2-8では、表2に示すように、PtおよびAgの含有量が異なるスパッタリングターゲットを用いたこと以外は、実施例2-1と同様にして、白色抗菌部材100を得た。
【0067】
[比較例2-1]
比較例2-1では、表2に示すように、スパッタリングターゲットとしてPtを用いたこと以外は、実施例2-1と同様にして、Pt白色部材を得た。
【0068】
[比較例2-2、2-3]
比較例2-2、2-3では、表2に示すように、PtおよびAgの含有量が異なるスパッタリングターゲットを用いたこと以外は、実施例2-1と同様にして、白色部材を得た。
【0069】
表2には、上記で得られた白色抗菌部材について、膜中の金属元素の量、抗菌性、色調、耐食性の評価結果を示した。比較例2-1としてAgを含有しないPtのみの薄膜も併せて示した。表2より、薄膜中のAg含有量が2.49at%以上でJISに示される抗菌試験によって抗菌性があることが分かった。
【0070】
Ag含有量が2.49at%以上で抗菌性を示すが、Ag含有量の増加に伴い、色調b*の増加がみられ、実施例2-6~2-8においては、b*が増加して黄色味を帯びるとともに、耐食性も低下することが分かった。以上の結果から、抗菌性、耐食性に優れるとともに、装飾性により優れる白色抗菌部材について、薄膜中の好ましいAg量は2.49at%以上、32.87at%以下と考えられた。
【0071】
【表2】
【0072】
図6は、実施例2で作製した白色抗菌部材および比較例2-1で作製したPt白色部材についてX線回折を実施した結果を示す図である。具体的には、図6は、比較例2-1で作製したPt白色部材、および実施例2-1、2-2、2-3、2-4、2-5、2-6、2-7、2-8で作製した白色抗菌部材についてX線回折を実施した結果を示す図である。
【0073】
比較例2-1で作製したPt白色部材は、[1,1,1]面(39.9度付近)、[2,0,0]面(46.4度付近)、[2,2,0]面(67.7度付近)、[3,1,1]面(81.7度付近)に結晶ピークを持つ面心立法構造を持ったPt結晶そのものであった。薄膜内にAg量が増えていくと、それぞれの結晶ピークは低角度側にシフトし、Agが持つ結晶構造[1,1,1]面(38.4度付近)、[2,0,0]面(44.6度付近)、[2,2,0]面(64.91度付近)、[3,1,1]面(77.99度付近)に近づいていき、[2,2,2]面(82.18度付近)の結晶ピークが観測されるようになった。Agの含有量により様々に結晶状態が変化することが分かった。
【0074】
具体的には、実施例2-1の結晶構造には、Ptの結晶構造に加えてわずかにAgPt3結晶相が確認された。実施例2-2においては、Pt結晶層、AgPt3結晶層に加えてAgPtの結晶層が確認された。実施例2-3~2-5においてはAgPt結晶層が確認され、Ag含有量増加に伴ってAgPt結晶層の量が増加する傾向が見られた。実施例2-6~2-8においてはAgPt結晶層およびAgの結晶層が確認され、Ag含有量の増加に伴ってAg結晶層の量が増加する傾向が見られた。Pt膜中のAg比率が増えていくと、Pt結晶→Pt結晶+AgPt3結晶→AgPt3結晶+AgPt結晶→AgPt結晶→AgPt結晶+Ag結晶→Ag結晶のようにAg比率の高い結晶相が増えていくことになる。結晶測定の結果、Ag結晶が観測され始める条件、具体的には実施例2-6、2-7、2-8で耐食性および色調が満足できなくなることが分かり、耐食性評価との相関が得られた。
【0075】
<実施例3>
[実施例3-1]
図2に示す白色抗菌部材100を作製した。スパッタリングターゲットとして、ターゲット1およびターゲット2にTiからなるターゲットを配置し、ターゲット3にPt96at%Cu4at%の溶融体ターゲットを使用した。基材10としてTiからなる基材を用いた。スパッタリング法でアルゴンガス105sccmおよびメタンガス10sccmを導入してTiCからなる硬化層11(厚さ900nm)を形成した。次いで、アルゴンガス105sccmを導入してPt96at%Cu4at%溶融ターゲットをスパッタし、厚さおよそ10nmの白色抗菌被膜20を硬化層11上に形成し、白色抗菌部材100を得た。
【0076】
実施例3-1のように硬化層を形成することで白色抗菌部材100の硬度は飛躍的に向上し、耐傷性(二乗平均粗さ)、耐摩耗性が著しく向上した。表3には実施例3-1、実施例1-1の比較を示した。白色抗菌部材100の硬度および耐傷性が5倍以上になっていることが分かる。なお、実施例3-1における白色抗菌被膜20の膜中成分量は、実施例1-1のものと同様であった。
【0077】
耐傷性、耐摩耗性を求める場合、白色抗菌被膜20の膜厚は10nm以上50nm以下が望ましい。10nm未満の膜厚においては、抗菌性が十分に発現しない可能性がある。また、50nmを超える膜厚においては、白色抗菌部材全体の硬度が低下するため耐傷性が劣る場合がある。実施例3-1のようにPtCu合金膜の膜厚を10nm程度とすることで、抗菌性、耐食性、耐傷性、色調の優れた白色抗菌部材を製造できる。
【0078】
【表3】
【0079】
<実施例4>
[実施例4-1]
図3に示す白色抗菌部材100を作製した。スパッタリングターゲットとして、ターゲット1およびターゲット2にTiからなるターゲットを配置し、ターゲット3にPt96at%Cu4at%の溶融体ターゲットを使用した。基材10としてSUS316Lからなる基材を用いた。スパッタリング法でアルゴンガス105sccmを導入し、Tiからなる密着層12(厚さ100nm)を形成した。その後、アルゴンガス105sccmおよびメタンガス10sccmを導入してTiCからなる硬化層11(厚さ900nm)を形成した。次いで、アルゴンガス105sccmを導入してPt96at%Cu4at%溶融ターゲットをスパッタし、厚さおよそ10nmの白色抗菌被膜20を硬化層11上に形成し、白色抗菌部材100を得た。
【0080】
実施例4-1のように、基材と硬化層の成分が異なる場合においては、密着層が設けられている方がよい。実施例4-1では基材にSUS316Lを使用しているため、硬化層を基材直上にそのまま形成しようとすると、密着力の低下による剥がれ、応力歪みによるクラックの発生により耐傷性の著しい低下が現れる場合がある。耐傷性はおおよそ耐摩耗層の硬度、耐摩耗層の膜厚、基材との密着度の積によって決定されることから、異種素材を積層させる場合は基材との密着性が重要となる。
【0081】
表4には実施例4-1および実施例1-1の硬度、耐傷性、耐食性、色調、抗菌性を測定した結果を示す。実施例1-1と比較し硬度、耐傷性が著しく向上した。なお、実施例4-1における白色抗菌被膜20の膜中成分量は、実施例1-1のものと同様であった。
【0082】
耐傷性、耐摩耗性を求める場合、白色抗菌被膜20の膜厚は10nm以上50nm以下が望ましい。10nm未満の膜厚においては、抗菌性が十分に発現しない可能性がある。また、50nmを超える膜厚においては、白色抗菌部材全体の硬度が低下するため耐傷性が劣る場合がある。実施例4-1のようにPtCu合金膜の膜厚を10nm程度とすることで、抗菌性、耐食性、耐傷性、色調の優れた白色抗菌部材を製造できる。
【0083】
【表4】
【0084】
<実施例5>
[実施例5-1]
図4に示す白色抗菌部材100を作製した。スパッタリングターゲットとして、ターゲット1およびターゲット2にMo60wt%Nb30wt%Cr10wt%からなるターゲットを配置し、ターゲット3にPt96at%Cu4at%の溶融体ターゲットを使用した。基材10としてTiからなる基材を用いた。図7図8は、MoNbCrの膜において、Arガス量105sccm一定のもと、導入窒素ガス量を変化させた場合について、それぞれ、硬度の変化および輝度の変化を示した図である。膜硬度は窒素導入量に従いあるピークを持ち、輝度は窒素ガスの導入量に従い緩やかに低下した。白色抗菌部材100の密着層12は、図7図8の窒素導入量0sccmの条件で、酸素ガスを3sccm導入して形成した。このようにして、MoNbCr低級酸化物膜(厚さ0.1μm)を形成した。MoNbCr低級酸化物膜にすることで、MoNbCr合金膜よりも基材との密着性が増し、耐傷性を向上させることができる。傾斜密着層13は、酸素ガスを3sccm導入しながら、図7図8の窒素ガス導入量を0sccmから最大硬度を示す30sccmまで傾斜的に増加させて形成した。このようにして、MoNbCr合金窒化物膜(厚さ0.2μm)を形成した。硬化層11は、最大硬度を示す窒素ガス導入量30sccmの条件で形成した。このようにして、MoNbCr合金窒化物膜(厚さ1.6μm)を形成した。色上げ傾斜層14は、図7図8の最大硬度を示す窒素ガス導入量30sccmから0sccmまで傾斜的に減少させて形成した。このようにして、MoNbCr合金窒化物膜(厚さ0.2μm)を形成した。白色抗菌被膜20は、アルゴンガス105sccmを導入してPt96at%Cu4at%溶融ターゲットをスパッタし、色上げ傾斜層14上に形成した。白色抗菌被膜20は、厚さおよそ20nmであった。このようにして、白色抗菌部材100を得た。
【0085】
実施例5-1のように、傾斜密着層13を設けると、密着層と耐摩耗層との間で明確な界面が無くなることから、基材10との一体化が図れる。傾斜密着層があることで密着層と耐摩耗層との密着性が十分に確保され、また膜応力が傾斜的に上昇する構造となる。これにより、応力歪みによるクラックの発生、剥離の抑制効果が得られ、耐傷性、耐摩耗性が向上すると共に、膜硬度の高い耐摩耗層を厚く形成できるようになる。耐傷性はおおよそ耐摩耗層の硬度、耐摩耗層の膜厚、基材との密着度の積によって決定されることから、基材との密着性が向上することにより耐傷性を向上させることができる。
【0086】
実施例5-1の白色抗菌部材100における色上げ傾斜層14は、窒素ガス含有量を傾斜的に減少させることにより、L*の上昇が傾斜的に行われ、輝度を白色抗菌被膜20に近づけるために実施する。色上げ傾斜層を設けることで、白色抗菌被膜がキズや摩耗で薄くなったとしても、実使用環境で目立ちにくく、違和感なく使用できる。また色上げ傾斜層は、硬化層から徐々に含有窒素量が減少する構造になっているため、明確な界面が存在せずクラックの抑制と密着性の向上が図れ、キズのつきにくさにも寄与する。
【0087】
Mo、Nb、Crを合金化させた膜を作ることは容易であり、膜硬度、輝度、耐食性、密着性を自由にコントロールすることが可能である。またそれら合金の窒化物、炭化物、酸化物、酸窒化物、酸炭化物、窒炭化物、酸窒化炭化物も反応性ガスの調整により容易に作製でき、求める特性に応じて変更が可能である。またMoおよびCrは何れも基材との密着性が非常に高いことから、MoNbCr合金膜の場合は非常に膜を厚く形成でき、耐傷性能を向上させることが容易であるという特徴を持つ。
【0088】
表5には実施例5-1および実施例1-1の硬度、耐傷性、耐食性、色調、抗菌性を測定した結果を示す。実施例1-1、実施例3-1、実施例4-1と比較し硬度および耐傷性が著しく向上した。なお、実施例5-1における白色抗菌被膜20の膜中成分量は、実施例1-1のものと同様であった。
【0089】
耐傷性、耐摩耗性を求める場合、白色抗菌被膜20の膜厚は10nm以上50nm以下が望ましい。10nm未満の膜厚においては、抗菌性が十分に発現しない可能性がある。また、50nmを超える膜厚においては、白色抗菌部材全体の硬度が低下するため耐傷性が劣る場合がある。実施例5-1のようにPtCu合金膜の膜厚を10nm程度とすることで、抗菌性、耐食性、耐傷性、色調の優れた白色抗菌部材を製造できる。
【0090】
【表5】
【0091】
<実施例6>
[実施例6-1]
図3に示す白色抗菌部材100を作製した。スパッタリングターゲットとして、ターゲット1およびターゲット2にTi80wt%Cu20wt%からなるターゲットを配置し、ターゲット3にPt96at%Cu4at%の溶融体ターゲットを使用した。基材10としてSUS316Lからなる基材を用いた。スパッタリング法でアルゴンガス105sccmを導入し、TiCuからなる密着層12(厚さ100nm)を形成した。その後、アルゴンガス105sccmおよびメタンガス12sccmを導入してTiCuCからなる硬化層11(厚さ900nm)を作製した。次いで、アルゴンガス105sccmを導入してPt96at%Cu4at%溶融ターゲットをスパッタし、厚さおよそ20nmの白色抗菌被膜20を硬化層11上に形成し、白色抗菌部材100を得た。
【0092】
実施例6-1のように、基材と硬化層の成分が異なる場合においては、密着層が設けられている方がよい。実施例6-1では基材にSUS316Lを使用しているため、硬化層を基材直上にそのまま形成しようとすると、密着力の低下による剥がれ、応力歪みによるクラックの発生により耐傷性の著しい低下が現れる場合がある。耐傷性はおおよそ耐摩耗層の硬度、耐摩耗層の膜厚、基材との密着度の積によって決定されることから、異種素材を積層させる場合は基材との密着性が重要となる。
【0093】
硬質層11に使用したTiCuC層は、膜中にCuが16.28at%含有されていることで、それ自体も抗菌性を発現する。そのため、最表層である白色抗菌被膜20が全てなくなってしまったとしても抗菌性を維持することが可能となる。硬質層11上に白色抗菌被膜20を形成することで、L*が向上し明度の高い白色抗菌部材が作製できる。
【0094】
表6には実施例6-1および硬質層11の硬度、耐傷性、耐食性、色調、抗菌性を測定した結果を示す。硬質層11と比較し硬度、耐傷性が著しく向上した。なお、実施例6-1における白色抗菌被膜20の膜中成分量は、実施例1-1のものと同様であった。
【0095】
【表6】
【0096】
実施例1、3~6において、Ptの代わりにPdまたはRhを用いた場合、また、Cuの代わりにNiを用いた場合も、実施例1、3~6で得られた結果と同様の結果が得られる。また、実施例2において、Ptの代わりにPdまたはRhを用いた場合も、実施例2で得られた結果と同様の結果が得られる。
【0097】
<測定方法>
〔元素量〕
白色抗菌被膜中の各元素量は、EDX(エネルギー分散型X線分光法)により測定した。なお、入射電子の加速電圧を15.0kV以上50.0kV以下とし、試料から放出された特性X線を半導体検出器で検出してエネルギー分光し、得られたスペクトルのエネルギー値から試料の定量分析を行った。また、各元素量の定量値を得るにあたり、試料による入射電子の散乱や、試料から放出されたX線の試料内での吸収や蛍光励起が、標準試料と未知試料とで異なることを考慮して補正を行った(ZAF補正法)。
【0098】
〔抗菌性〕
抗菌性試験は「JIS Z 801:2012 抗菌加工-抗菌性試験方法・抗菌効果」に準じて行った。
【0099】
1)試験片の準備
抗菌加工試験片(試料、すなわち、実施例で作製した白色抗菌部材および比較例で作製した白色部材)はエタノール洗浄にて清浄化を行ない、十分風乾させた後、試験に用いた。被覆フィルムおよび無加工試験片はポリエチレンフィルムを裁断しEOG滅菌して用いた。
【0100】
2)試験菌液の調製
試験菌(黄色ぶどう球菌(NBRC12732)および大腸菌(NBRC3972))は、保存菌を普通寒天培地に接種して培養し、翌日継代してから約18~20時間後に1/500の普通ブイヨン液に懸濁して調製した。
【0101】
3)試験菌の接種および培養
試験片に試験菌液0.2mLを接種し、フィルム(20×40mmの長方形)で覆った後、35℃、相対湿度90%以上で24時間培養した。
【0102】
4)試験菌の洗い出しと生菌数の測定
試験菌液を接種した直後の無加工試験片について、SCDLP培地(抗菌剤不活化培地)10mLを注いで菌を洗い出し、寒天平板培養法で生菌数を調べた。また、24時間培養後の無加工試験片および抗菌加工試験片についても同様に生菌数を測定した。生菌数の測定は寒天平板培養法(寒天平板混釈法)で行った。洗い出し液およびその10倍希釈系列希釈液をシャーレに分注し、標準寒天培地を加えて混合した。寒天が固まった後、シャーレを倒置し、35℃で40~48時間培養した。培養後、生菌数(コロニー)を計測し、菌数の算出を行なった。
ここで、図9は、無加工試験片について、黄色ブドウ球菌による抗菌性試験後の写真である。図10は、無加工試験片について、大腸菌による抗菌性試験後の写真である。一方、図11は、抗菌加工試験片について、黄色ブドウ球菌による抗菌性試験後の写真である。図12は、抗菌加工試験片について、大腸菌による抗菌性試験後の写真である。これらは、具体的には、生菌数(コロニー)を計測する際のシャーレを示している。なお、図11図12は、具体的には、実施例1-1の抗菌加工試験片を用いた試験後の写真である。
【0103】
5)試験成立条件の判定
1.無加工試験片の接種直後の生菌数の対数値について、次式が成立する。
(Lmax-Lmin)/Lmean≦0.2
Lmax:生菌数対数値の最大値
Lmin:生菌数対数値の最小値
Lmean:3個の試験片の生菌数対数値の平均値
2.無加工試験片の接種直後の生菌数平均は6.2×103~2.5×104個/cm2の範囲内である。
3.無加工試験片にフィルムを用いた場合は、24時間後の生菌数の3個の値がいずれも6.2×102個/cm2以上である。
上記判定を行ったところ、試験成立条件を満たしていた。
【0104】
6)抗菌活性値の計算および判定
抗菌活性値:R=(Ut-U0)-(At-U0)=Ut-At
U0:無加工試験片の接種直後の生菌数の対数値の平均値
Ut:無加工試験片の24時間後の生菌数の対数値の平均値
At:抗菌加工試験片の24時間後の生菌数の対数値の平均値
「抗菌効果を有する」とは、製品上の24時間後の試験菌の生菌数が無加工製品上の生菌数の1%以下(抗菌活性値2.0以上)となることと定義されている。判定基準は、抗菌活性値2.0以上の場合を○とし、抗菌活性値2.0未満の場合を×とする。
【0105】
〔膜厚〕
白色抗菌被膜の簡易的な膜厚測定は、マスクを施したSiウエハーを基材と共に成膜装置内に導入し、成膜後にマスクを除去して、マスクされていた部分とマスクされていない部分での段差を測定することにより膜厚を測定した。
【0106】
〔色調〕
白色抗菌部材の色調は、KONICA MINOLTA製のSpectra Magic NX(光源D65)を用いてL***色度図によるL***を測定して評価した。
【0107】
〔耐食性〕
白色抗菌部材の耐食性は、CASS試験および人工汗試験により評価した。CASS試験はJIS-H 8502に準拠して、酢酸酸性の塩化ナトリウム溶液に塩化第二銅を添加した溶液を噴霧した雰囲気に48時間設置し、白色抗菌被膜の剥離および変色を観察し耐食性の評価とした。剥離および変色が見られなかった場合を〇とし、剥離または変色が見られた場合を×とした。
【0108】
人工汗試験はISO12870に準拠して、塩化ナトリウムと乳酸を混ぜた液(人工汗)を55℃で48時間曝気させた雰囲気に設置し、白色抗菌被膜の変色を観察し耐食性の評価とした。変色が見られなかった場合を〇とし、軽微な変色が見られた場合を△とし、変色が見られた場合を×とした。
【0109】
〔結晶構造〕
結晶性測定は、X線回折装置(RIGAKU製、製品名SmartLab)を用いて行った。測定は以下の条件で行った。
全体定性分析条件 X線出力:40kV、30mA、スキャン軸:2θ/θ、スキャン範囲:5~120°、0.02ステップ、ソーラースリット:5deg、長手制限スリット:15mm。
微小部定性分析条件 X線出力:40kV、30mA、スキャン軸:2θ/θ、スキャン範囲:5~120°、0.02ステップ、ソーラースリット:2.5deg、長手制限スリット:15mm。
【0110】
〔耐傷性試験方法〕
耐傷性試験は、アルミナ粒子が均一に分散した摩耗紙を試験サンプルに一定加重で接触させ、一定回数擦ることで傷を発生させる。傷がついた試験サンプルの表面を、キズの方向と垂直方向にスキャンして表面粗さを測定し、二乗平均荒さとして耐傷性の評価とした。傷の発生量が多いほど、傷の深さが深いほど二乗平均荒さの数値が大きくなり、逆に傷の発生量が少ないほど、傷の深さが浅いほど二乗平均粗さの数値が小さくなることから、耐傷性を数値的に評価することができる。
【0111】
〔膜硬度測定方法〕
膜硬度測定は、微小押込み硬さ試験機(FISCHER製H100)を用いて行った。測定子にはビッカース圧子を使用し、5mN荷重で10秒間保持した後に除荷を行い、挿入されたビッカース圧子の深さから膜硬度を算出した。
【符号の説明】
【0112】
100 白色抗菌部材
10 基材
11 硬化層
12 密着層
13 傾斜密着層
14 色上げ傾斜層
20 白色抗菌被膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12