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特許7521970人工毛髪、人工毛髪束セット、人工毛髪の製造方法及び増毛方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】人工毛髪、人工毛髪束セット、人工毛髪の製造方法及び増毛方法
(51)【国際特許分類】
   A41G 3/00 20060101AFI20240717BHJP
   A41G 5/00 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
A41G3/00 A
A41G5/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020140084
(22)【出願日】2020-08-21
(65)【公開番号】P2022035623
(43)【公開日】2022-03-04
【審査請求日】2023-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000126218
【氏名又は名称】株式会社アートネイチャー
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】矢内 大輔
【審査官】木戸 優華
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-053910(JP,A)
【文献】特開昭56-063006(JP,A)
【文献】実開昭55-087320(JP,U)
【文献】特開平06-235107(JP,A)
【文献】特開平07-157909(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41G 3/00
A41G 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人間の頭部から生えている1本の自毛に結着される増毛用の人工毛髪であって、
人工の単繊維からなり、前記単繊維の一端を含む第1領域と、前記単繊維の他端を含む第2領域と、前記第1及び第2領域の間に位置する第3領域とを含み、
前記第3領域には、前記単繊維の表面を部分的に研磨することによって断面積を小さくした複数の研磨部が間隔をおいて形成され、前記研磨部の0.5mm~5.0mmの範囲内であり、前記研磨部、又は前記研磨部及び前記自毛に形成される所定の結び目が、前記研磨部の幅に収まることを特徴とする人工毛髪。
【請求項2】
前記第3領域における前記研磨部の短径が、前記単繊維の直径よりも5%~50%小さい請求項に記載の人工毛髪。
【請求項3】
それぞれの前記研磨部の十点平均粗さRzjisを0.35μm~0.60μmの範囲内とした請求項1又は2に記載の人工毛髪。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項に記載の人工毛髪の複数の束が整列した状態で保持される人工毛髪束セットであって、
前記人工毛髪の1束は、前記単繊維の長手方向に沿って揃えられた2本以上の前記人工毛髪で構成され、複数本の前記人工毛髪は、互いの前記第1領域、前記第2領域がそれぞれ個別に束ねられるとともに、互いの前記第3領域が、前記第1領域の束と前記第2領域の束とを相反する方向に引くと結び目を作ることが可能な未結着の1つの輪を形成し、
一方向に延びる粘着剤に前記第3領域が接着され、前記人工毛髪の複数の束が前記粘着剤に沿って整列した状態で保持されることを特徴とする人工毛髪束セット。
【請求項5】
請求項に記載の人工毛髪の製造方法であって、
複数本の前記単繊維を、間隔をおいて略平行に並べ、各単繊維の一端側及び他端側を固定する工程と、
各単繊維の前記第3領域において、各単繊維と直交する方向に、前記研磨部どうしの間隔に相当する幅を有する複数のマスキングテープを、前記研磨部の幅に相当する間隔をおいて略平行に貼り付ける工程と、
各単繊維の前記第3領域を研磨することにより、各単繊維のマスキングされていない部分の断面積を小さくする工程と、を含むことを特徴とする人工毛髪の製造方法。
【請求項6】
各単繊維の前記第3領域において、マスキングされていない部分の外周面のうちの一側を研磨することにより、断面積を小さくする請求項に記載の人工毛髪の製造方法。
【請求項7】
各単繊維の前記第3領域において、マスキングされていない部分の外周面のうちの一側及び他側を研磨することにより、断面積を小さくする請求項に記載の人工毛髪の製造方法。
【請求項8】
研磨材としての粒子を混合した液体を噴射させることにより、各単繊維の前記第3領域におけるマスキングされていない部分を研磨する請求項5~7のいずれか1項に記載の人工毛髪の製造方法。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載の人工毛髪を用いた増毛方法であって、
所定の結び方により、人間の頭部から生えている1本の自毛に、1本以上の前記人工毛髪を結着させたときに、いずれか1つの前記研磨部、又は前記研磨部及び前記自毛に所定の結び目が形成され、前記結び目が前記研磨部の幅に収まり、前記結び目の近傍2箇所に、前記単繊維の研磨した部分と研磨していない部分との境界が位置することを特徴とする増毛方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結び目が小さくなって目立たなく、且つ結び目が解け難い人工毛髪、人工毛髪束セット、人工毛髪の製造方法及び増毛方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄毛の一般的な対策として増毛とかつらが知られている。増毛は、頭部から生えている自毛に、人工毛髪や人毛を結着する施術である。例えば、特開2015-001035号公報の図4に開示されているように、1本の自毛の根元に毛髪をV字形に結着して、毛量を3本に増やす。
【0003】
従来の人工毛髪や人毛は、自毛に結着させたときの結び目が大きくて目立つという問題がある。特に、結び目を解け難くするために結び方を複雑にするほど、結び目は大きく目立ち易くになる。
【0004】
また、増毛は、自毛の根元に人工毛髪等を結着するが、自毛の成長に伴って人工毛髪等の結び目が根元から上に移動する。一般に、人間の頭髪は、1ヶ月で約1cm伸びると言われている。このため、自毛の根元に結着した人工毛髪等の結び目は、1ヶ月で約1cmも自毛の根元から上に移動する。自毛の根元から上に移動した人工毛髪等の結び目は、見た目に違和感があるだけでなく、櫛やブラシの歯に引っ掛かり易くなる。
【0005】
そこで、本出願人は、特願2019-031406号において、結び目が小さくなって目立たない人工毛髪を提案した。この人工毛髪は、人工の単繊維からなり、単繊維の一端を含む第1領域と、単繊維の他端を含む第2領域と、第1及び第2領域の間に位置する第3領域とを含み、第3領域における単繊維の断面積が、第1及び第2領域における単繊維の断面積よりも小さいことを特徴とする。結び目が形成される第3領域の断面積を小さくしたことにより、結び目が小さくなって目立たなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-001035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特願2019-031406号の人工毛髪は、第3領域の全長にわたって単繊維の断面積を小さくする構成となっている。この構成において、好ましい第3領域の長さは、20mm~50mmの範囲内である。一方、人工毛髪の結び方には、かた結びやひばり結びなどの様々な結び方があるが、結び目を形成するために用いられる第3領域の長さは、概ね0.5mm~5.0mmの範囲内である。しかし、0.5mm~5.0mmの極めて微小な第3領域を肉眼で特定し、ちょうどこの箇所に結び目を形成することは現実的でない。このため、第3領域を20mm~50mmの長さとし、第3領域を正確に特定しなくても、第3領域に結び目が形成されるようにした。
【0008】
その後、本発明者は、特願2019-031406号の人工毛髪のさらなる改良を進めた。その結果、人工毛髪を構成する単繊維のうち、結び目を形成するために必要な長さの断面積を小さくすると、結び目の近傍2箇所に、断面積の小さい部分と大きい部分との境界が位置し、結び目が解け難くなることを見出した。すなわち、断面積の小さい部分と大きい部分との境界が、結び目の2箇所に接触することにより、結び目が解け難くなるのである。また、単繊維の表面を研磨することによって断面積を小さくすると、研磨部の表面が粗くなり、結び目がより解け難くなることを見出した。さらに、0.5mm~5.0mmの極めて微小な研磨部であっても、第3領域の全長にわたって複数の研磨部を形成することにより、1つの研磨部を正確に特定しなくても、いずれかの研磨部に結び目を容易に形成することが可能になる。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、結び目が小さくなって目立たず、且つ結び目が解け難い人工毛髪、人工毛髪束セット、人工毛髪の製造方法及び増毛方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記目的を達成するために、本発明の人工毛髪は、人間の頭部から生えている1本の自毛に結着される増毛用の人工毛髪であって、人工の単繊維からなり、前記単繊維の一端を含む第1領域と、前記単繊維の他端を含む第2領域と、前記第1及び第2領域の間に位置する第3領域とを含み、前記第3領域には、前記単繊維の表面を部分的に研磨することによって断面積を小さくした幅0.5mm~5.0mmの研磨部が形成され、前記研磨部及び/又は前記自毛に形成される所定の結び目が、前記研磨部の幅に収まる幅を有することを特徴とする。
【0011】
(2)好ましくは、上記(1)の人工毛髪において、前記第3領域に複数の前記研磨部が間隔をおいて形成される。
【0012】
(3)好ましくは、上記(1)又は(2)の人工毛髪において、前記第3領域における前記研磨部の短径が、前記単繊維の直径よりも5%~50%小さい。
【0013】
(4)好ましくは、上記(1)~(3)のいずれかの人工毛髪において、それぞれの前記研磨部の十点平均粗さRzjisを0.35μm~0.60μmの範囲内とする。
【0014】
(5)上記目的を達成するために、本発明の人工毛髪束セットは、上記(1)~(4)のいずれかの人工毛髪の複数の束が整列した状態で保持される人工毛髪束セットであって、前記人工毛髪の1束は、前記単繊維の長手方向に沿って揃えられた2本以上の前記人工毛髪で構成され、複数本の前記人工毛髪は、互いの前記第1領域、前記第2領域がそれぞれ個別に束ねられるとともに、互いの前記第3領域が、前記第1領域の束と前記第2領域の束とを相反する方向に引くと結び目を作ることが可能な未結着の1つの輪を形成し、一方向に延びる粘着剤に前記第3領域が接着され、前記人工毛髪の複数の束が前記粘着剤に沿って整列した状態で保持されることを特徴とする。
【0015】
(6)上記目的を達成するために、本発明の人工毛髪の製造方法は、上記(2)に記載の人工毛髪の製造方法であって、複数本の前記単繊維を、間隔をおいて略平行に並べ、各単繊維の一端側及び他端側を固定する工程と、各単繊維の前記第3領域において、各単繊維と直交する方向に、前記研磨部どうしの間隔に相当する幅を有する複数のマスキングテープを、前記研磨部の幅に相当する間隔をおいて略平行に貼り付ける工程と、各単繊維の前記第3領域を研磨することにより、各単繊維のマスキングされていない部分の断面積を小さくする工程と、を含むことを特徴とする。
【0016】
(7)好ましくは、上記(6)の人工毛髪の製造方法において、各単繊維の前記第3領域において、マスキングされていない部分の外周面のうちの一側を研磨することにより、断面積を小さくする。
【0017】
(8)好ましくは、上記(6)の人工毛髪の製造方法において、各単繊維の前記第3領域において、マスキングされていない部分の外周面のうちの一側及び他側を研磨することにより、断面積を小さくする。
【0018】
(9)好ましくは、上記(6)~(8)のいずれかの人工毛髪の製造方法において、研磨材としての粒子を混合した液体を噴射させることにより、各単繊維の前記第3領域におけるマスキングされていない部分を研磨する。
【0019】
(10)上記目的を達成するために、本発明の増毛方法は、上記(1)~(4)のいずれかに記載の人工毛髪を用いた増毛方法であって、所定の結び方により、人間の頭部から生えている1本の自毛に、1本以上の前記人工毛髪を結着させたときに、いずれか1つの前記研磨部及び/又は前記自毛に所定の結び目が形成され、前記結び目が前記研磨部の幅に収まり、前記結び目の近傍2箇所に、前記単繊維の研磨した部分と研磨していない部分との境界が位置することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の人工毛髪、人工毛髪束セット、人工毛髪の製造方法及び増毛方法は、人工毛髪を構成する単繊維のうち、断面積の小さい研磨部に結び目が形成されるので、結び目が小さくなって目立たない。また、結び目が研磨部に収まり、結び目の近傍2箇所に、断面積の小さい部分と大きい部分との境界が接触する。これにより、結び目が解け難くなる。さらに、結び目を形成する研磨部の表面が粗く、結び目がより解け難くなる。これに加え、第3領域の全長にわたって複数の研磨部が形成される。これにより、1つの研磨部を正確に特定しなくても、いずれかの研磨部に容易に結び目を形成することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1(a)は、本発明の実施形態に係る人工毛髪を示す外観図である。図1(b)は、図1(a)の人工毛髪の第3領域の拡大図である。図1(c)は、図1(a)の人工毛髪のA部の拡大図及び断面図である。図1(d)は、図1(b)の第3領域の第1実施形態を示すB部の拡大図及び断面図である。図1(e)は、図1(b)の第3領域の第1実施形態を示すC部の拡大図及び断面図である。図1(f)は、図1(b)の第3領域の第2実施形態を示すB部の拡大図及び断面図である。図1(g)は、図1(b)の第3領域の第2実施形態を示すC部の拡大図及び断面図である。
図2図2は、図1(d)の第3領域のB部を示す拡大写真である。
図3図3(a)は、人工毛髪の第3領域に形成した結び目を示す拡大図である。図3(b)は、人工毛髪の第3領域を自毛に結び付けた状態を示す拡大図である。
図4図4(a)は、本発明の実施形態に係る人工毛髪の製造方法に用いる加工用基板を示す平面図である。図4(b)は、図4(a)の加工用基板の分解側面図である。
図5図5(a)~(c)は、第1実施形態に係る人工毛髪の製造方法の各工程を示す斜視図である。
図6図6(a)~(d)は、第2実施形態に係る人工毛髪の製造方法の各工程を示す斜視図である。
図7図7は、本発明の実施形態に係る人工毛髪束を示す外観図である。
図8図8(a)は、本発明の実施形態に係る1つの人工毛髪束セットを示す外観図である。図8(b)は、4つの人工毛髪束セットを示す外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<人工毛髪>
まず、本発明の実施形態に係る人工毛髪の構成について、図1(a)~(b)を参照しつつ説明する。
【0023】
図1(a)において、本実施形態の人工毛髪1は、人工の単繊維からなる。人工毛髪1を構成する単繊維として、例えば、ポリエステル、ナイロン、アクリル又は塩化ビニル系の合成繊維が用いられる。人工毛髪1を構成する単繊維の太さは、例えば、0.05mm超~0.15mm以下のものが用いられる。また、人工毛髪1を構成する単繊維の強度の指標として、例えば、単繊維が直線状態のときの引っ張り強度で約0.80N以上、かつらベースに結着した状態の引っ張り強度で約0.60N以上のものが好ましい。
【0024】
本実施形態の人工毛髪1は、略一定の直径を有する単繊維の中央部分を加工して、未加工の他の部分よりも断面積を小さくした構成に特徴がある。したがって、図1(a)に示すように、人工毛髪1の全体は、未加工の第1及び第2領域11、12と、加工した第3領域(中央部分)13とに区別することができる。
【0025】
人工毛髪1の第1領域11は、図1(a)の左側に位置し、単繊維の一端を含む。第2領域12は、図1(a)の右側に位置し、単繊維の他端を含む。第3領域13は、第1及び第2領域11、12の間に位置し、第1及び第2領域11、12の両方に連続する。
【0026】
図1(b)に示すように、第3領域13は、加工した単繊維の部分(13A)と、未加工の単繊維の部分(13B)とが交互に連続する構成となっている。加工した単繊維の部分(13A)は、未加工の単繊維の部分(13B)よりも断面積が小さい。本実施形態では、単繊維の表面を研磨することによって断面積を小さくしている。そこで、第3領域13において、加工した単繊維の部分を研磨部13Aといい、未加工の単繊維の部分を未加工部13Bという。
【0027】
図1(a)中の鎖線の円で囲ったA部は、第1及び第2領域11、12の未加工の単繊維の部分を示す。図1(b)中の鎖線の円で囲ったB部は、第3領域13の未加工部13Bと研磨部13Aとが連続する部分を示す。C部は、第3領域13の研磨部13Aのみを示す。
【0028】
ここで、第3領域13の単繊維を加工する方法は2通りある。第1に、第3領域13の単繊維の外周面のうちの一側だけを研磨して断面積を小さくする。第2に、第3領域13の単繊維の外周面のうちの一側及び他側を研磨して断面積を小さくする。第1又は第2の加工方法のいずれを採用するかにより、第3領域13の単繊維の断面形状が異なる。
【0029】
図1(c)は、人工毛髪1のA部を示す拡大図及び断面図である。図1(c)に示すように、第1及び第2領域11、12の未加工の単繊維は、略一定の直径D1を有する。上述したように、未加工の単繊維の直径D1は、例えば、0.05mm超~0.15mm以下である。
【0030】
図1(d)、(e)は、上述した第1の加工方法によって、研磨部13Aを形成した場合の第3領域13のB部、C部の拡大図及び断面図を示す。
【0031】
図1(d)に示すように、第3領域13のB部においては、未加工部13Bから研磨部13Aにわたって単繊維の外周面のうちの一側だけの断面積が徐々に減少する。そして、図1(e)に示すように、第3領域13のC部、すなわち、研磨部13Aにおいては、単繊維の断面形状が、略円形でなくなり、短径D2が一定の略半円形となる。
【0032】
一方、図1(f)、(g)は、上述した第2の加工方法によって、研磨部13Aを形成した場合の第3領域13のB部、C部の拡大図及び断面図を示す。
【0033】
図1(f)に示すように、第3領域13のB部においては、未加工部13Bから研磨部13Aにわたって単繊維の外周面のうちの一側及び他側の断面積が徐々に減少する。そして、図1(g)に示すように、第3領域13のC部、すなわち、研磨部13Aにおいては、単繊維の断面形状が、略円形でなくなり、短径D3が一定の略長円形となる。
【0034】
図1(d)~(g)において、第3領域13の研磨部13Aにおける単繊維の短径D2、D3は、未加工部13Bにおける単繊維の直径D1よりも5%~50%小さいことが好ましい。また、第3領域13に複数の研磨部13Aを形成した人工毛髪1は、直線状態のときの引っ張り強度が約0.80N以上、かつらベースに植設した状態の引っ張り強度が約0.60N以上であることが好ましい。
【0035】
図2は、図1(d)の第3領域13のB部を示す拡大写真である。後述する湿式のブラスト加工により、単繊維の外周面のうちの一側だけを研磨して研磨部13Aを形成した。図2中の符号B1は、未加工部13Bと研磨部13Aとの境界を示す。研磨部13Aの表面は、滑りにくい粗面となっている。好ましくは、研磨部13Aの表面粗さは、JIS B 0601-1994の十点平均粗さRzjisで0.35μm~0.60μmの範囲内とする。
【0036】
図3(a)は、1つの研磨部13Aに形成した結び目13Cを示す。また、図3(b)は、1つの研磨部13Aを自毛に結び付けた状態を示す。1つの研磨部13Aの幅は、かた結びやひばり結びなどの所定の結び方を想定して定める。これにより、所定の結び方をしたときの結び目13Cが、研磨部13Aの幅に収まるようにする。好ましくは、1つの研磨部13Aの幅は、0.5mm~5.0mmの範囲内とする。
【0037】
1つの研磨部13Aの幅を0.5mm~5.0mm範囲内とすることにより、1~5本の人工毛髪1を1本の自毛に結び付ける場合の結び目が、研磨部13Aの幅に収まるようになる。この場合の1~5本の人工毛髪1の直径は、0.07mm~0.10mmの範囲内である。例えば、直径0.07mmの1本の人工毛髪を1本の自毛に結び付ける場合の結び目は、0.5mmの研磨部13Aの幅に収まる。また、直径0.10mmの5本の人工毛髪をまとめて1本の自毛に結び付ける場合の結び目は、5.0mmの研磨部13Aの幅に収まる。
【0038】
図3(b)に示すように、1つの研磨部13Aの幅を、所定の結び目13Cを形成するために必要な長さとすると、結び目13Cの近傍2箇所に、研磨部13Aと未加工部13Bとの境界B1、B2が位置し、結び目13Cが解け難くなる。すなわち、断面積の小さい部分と大きい部分との境界B1、B2が、結び目の2箇所に接触することにより、結び目13Cが解け難くなるのである。さらに、研磨部13Aが粗面であることと相まって、結び目13Cはより解け難くなる。なお、結び目は、研磨部13Aに形成される場合に限定されない。この他に、自毛4に結び目が形成される場合、及び研磨部13Aと自毛4との両方が結び目を形成する場合がある。いずれの場合でも、結び目が研磨部13Aの幅に収まることによって解け難くなる。
【0039】
<人工毛髪の製造方法>
次に、本発明の実施形態に係る人工毛髪の製造方法について、図4図6を参照しつつ説明する。
【0040】
人工毛髪1の第3領域13における単繊維の断面積を減少させる研磨方法は、特に限定されるものではない。例えば、手作業や機械的な物理的研磨によって、人工毛髪1の第3領域13における単繊維の断面積を部分的に減少させることが可能である。本発明者が鋭意検討した結果、乾式又は湿式のブラスト加工が好適であり、特に、湿式のブラスト加工(ウェットブラスト)が最適であることを見出した。
【0041】
図4(a)、(b)は、人工毛髪1の第3領域13における単繊維を部分的にブラスト加工するために用いる加工用基板100を示す。加工用基板100を用いたウェットブラストにより、第3領域13の単繊維の断面積を部分的に精度よく減少させることができ、一定の品質の人工毛髪1を効率よく大量生産することが可能となる。
【0042】
図4(a)、(b)に示すように、加工用基板100は、人工毛髪1の原材料となる多数本の単繊維を平行に並べて配置することが可能な面積を有する。加工用基板100の中央には、人工毛髪1の第3領域13に対応する矩形の開口部101が設けられる。この開口部101を中心にして、加工用基板100の一端側及び他端側には、それぞれ両面テープ111が貼り付けられる。各両面テープ111には、人工毛髪1の原材料となる単繊維の一端側及び他端側が固定される。具体的に、単繊維の一端側及び他端側は、上下2枚の両面テープ111の間に保持される。さらに、上の両面テープ111の表面には、カバープレート112が貼り付けられる。カバープレート112は、単繊維の一端側及び他端側を押さえ付けて安定した固定状態を維持するとともに、上の両面テープ111の表面を覆って、加工用基板100の取り扱いを容易にする。
【0043】
加工用基板100には、例えば、150~200本の単繊維が配置される。寸法の具体例として、単繊維の長さL1は、600mm~700mm程度であり、隣り合う単繊維どうしの間隔L2は、0.5mm程度とする。開口部101の短手方向の長さL3は、20mm~50mm程度とし、この長さL3の範囲が、人工毛髪1の第3領域13となる。両面テープ111及びカバープレート112の短手方向の長さL4は、15mm程度とする。
【0044】
加工用基板100に150~200本の単繊維を配置した後、各単繊維の開口部101に対応する部分に複数枚のマスキングテープ20を貼り付ける。1枚のマスキングテープ20は、例えば、0.5mmの短手方向の幅を有する。全てのマスキングテープ20は、互いに0.5mmの間隔をおいて、各単繊維と直交する方向に略平行に貼り付けられる。全てのマスキングテープ20のうち、中央部分が各単繊維に貼り付けられ、両端部分が加工用基板100の板面に貼り付けられる。このようなマスキングテープ20の配置によって、人工毛髪1の第3領域13に、幅0.5mmの複数の研磨部13Aと、幅0.5mmの複数の未加工部13Bが交互に連続して形成される。
【0045】
なお、単繊維の外周面のうちの一側だけに複数の研磨部13Aを形成する場合は、加工用基板100の片面側に複数枚のマスキングテープ20を貼り付ける。一方、単繊維の外周面のうちの一側及び他側に複数の研磨部13Aを形成する場合は、加工用基板100の両面側に複数枚のマスキングテープ20を貼り付ける。
【0046】
次に、上述した加工用基板100を用いた人工毛髪1のウェットブラストについて、図5及び図6を参照しつつ説明する。図5(a)~(c)は、第3領域13の単繊維の外周面のうちの一側だけをウェットブラストする場合の各工程を示す。一方、図6(a)~(d)は、第3領域13の単繊維の外周面のうちの一側及び他側をウェットブラストする場合の各工程を示す。
【0047】
まず、図5(a)に示すように、人工毛髪1の原材料となる150~200本の単繊維を加工用基板100上に配置する。例えば、本実施形態では、200本の単繊維を人工毛髪1に加工することとした。加工用基板100への200本の単繊維の配置は、人の手作業によって行われ、60分程度の時間を要した。
【0048】
次に、図5(b)に示すように、加工用基板100をウェットブラスト加工装置の処理テーブル上に載置し、加工用基板100の開口部101をブラストガン200に位置合わせする。その後、ブラストガン200から水と研磨材との混合液を圧縮エアーによって噴射させ、200本の単繊維の開口部101に対応する部分を湿式研磨する。これにより、第3領域13における単繊維の外周面のうちの一側の断面積が減少する(図1(d)、(e)を参照)。図5(b)に示す1回のウェットブラストには、2分30秒程度の時間を要した。
【0049】
その後、加工用基板100をウェットブラスト加工装置から取り出し、加工用基板100の片面側からマスキングテープ20を除去する。最後に、加工用基板100に配置された状態のまま、200本の単繊維をシャワーヘッド300の水で洗浄し、乾燥させる。これにより、第3領域13における単繊維の外周面のうちの一側だけの断面積を部分的に減少させた200本の人工毛髪1が完成する。図5(c)に示す洗浄及び乾燥には、2分程度の時間を要した。
【0050】
一方、第3領域13における単繊維の外周面のうちの一側及び他側の断面積を減少させた人工毛髪1を製造する場合は、図6(b)、(c)に示すように、ウェットブラストを2回実施する。図6(b)に示すように、加工用基板100の表面側から1回目のウェットブラストを実施する。その後、加工用基板100を反転させて、加工用基板100の裏面側から2回目のウェットブラストを実施する。これにより、第3領域13における単繊維の外周面のうちの一側及び他側の断面積が部分的に減少する(図1(f)、(g)を参照)。
【0051】
その後、加工用基板100をウェットブラスト加工装置から取り出し、加工用基板100の両面側からマスキングテープ20を除去する。最後に、加工用基板100に配置された状態のまま、200本の単繊維をシャワーヘッド300の水で洗浄し、乾燥させる。これにより、第3領域13における単繊維の外周面のうちの一側及び他側の断面積を部分的に減少させた200本の人工毛髪1が完成する。
【0052】
<人工毛髪束セット>
上述した図5(a)~(c)又は図6(a)~(d)の工程を経て製造された人工毛髪1は、図7に示すような人工毛髪束2に加工される。人工毛髪束2は、増毛方法の施術、すなわち、頭部から生えている自毛4に、本実施形態の人工毛髪1を結着するのに好適な構成となっている。
【0053】
図7において、人工毛髪束2は、単繊維の長手方向に沿って揃えられた2本以上の人工毛髪1で構成される。例えば、本実施形態では、4本の人工毛髪1によって1つの人工毛髪束2を構成することとした。4本の人工毛髪1の互いの第1領域11、第2領域12は、それぞれマスキングテープ21、22によって個別に束ねられる。また、4本の人工毛髪1の互いの第3領域13は、1つの輪13aを形成する。第3領域13の輪13aは、第1領域11の束と第2領域12の束とを相反する方向に引くと結び目13Cを作ることが可能な未結着の状態となっている。
【0054】
複数の人工毛髪束2は、図8(a)に示す人工毛髪束セット3を構成する。例えば、本実施形態の1つの人工毛髪束セット3には、20束の人工毛髪束2が含まれる。図8(a)に示すように、20束の人工毛髪束2は、一方向に延びる粘着テープ31に第3領域13の部分が接着され、粘着テープ31の長手方向に沿って5束ずつ4グループに整列した状態で保持される。粘着テープ31の接着剤は、人工毛髪束2を剥離可能に接着する。人工毛髪束2の第3領域13に形成された輪13aの一部は、粘着テープ31の上辺からはみ出しており、人工毛髪束2を粘着テープ31から剥離する際に、指で摘むための持ち手となる。
【0055】
複数の人工毛髪束セット3は、例えば、図8(b)に示すような形態で増毛方法を提供するサロン等に出荷される。人工毛髪束セット3を構成する粘着テープ31の接着面の反対面は、剥離加工が施されている。この構成により、一の人工毛髪束セット3の粘着テープ31の接着面を、他の人工毛髪束セット3の粘着テープ31の剥離面に接着して、複数の人工毛髪束セット3を一纏めにすることが可能である。
【0056】
<増毛方法>
顧客に増毛方法を施術する場合は、図8(b)に示す一番上の人工毛髪束セット3から順に人工毛髪束2を剥離する。施術者は、粘着テープ31の上辺からはみ出した輪13aの一部を指で摘んで、人工毛髪束2を1つずつ粘着テープ31の接着面から剥離することができる。次に、施術者は、図5に示す人工毛髪束2の輪13aを、顧客の頭部から生えている一本の自毛に通し、人工毛髪束2の輪13aを自毛の根元に位置させる。その後、施術者は、図7に示すマスキングテープ21、22を持ち手にして、人工毛髪束2の第1領域11の束と第2領域12の束とを相反する方向に引く。すると、第3領域13の輪13aが結び目13Cを作り、人工毛髪束2が自毛の根元にV字形に結着される。これにより、1本の自毛4が9本(このうちの8本は、4本の人工毛髪1の第1及び第2領域11、12である)に増毛される。
【0057】
<作用効果>
本実施形態の人工毛髪1は、図3(b)に示すように、結び目13Cが形成される研磨部13Aの断面積が減少されている。これにより、人工毛髪1の結び目13Cを小さく目立たなくすることが可能である。特に、自毛4の根元に結着した研磨部13Aの結び目13Cは、1ヶ月で約1cmも自毛4の根元から上に移動するが、断面積が減少された単繊維の結び目13Cは、小さくて目立たず、櫛やブラシの歯に引っ掛かり難い。
【0058】
本実施形態の人工毛髪1は、図3(b)に示すように、1つの研磨部13Aの幅が、所定の結び目13Cを形成するために必要な長さとなっている。これにより、結び目13Cの近傍2箇所に、研磨部13Aと未加工部13Bとの境界B1、B2が位置し、結び目13Cが解け難くなる。すなわち、断面積の小さい部分と大きい部分との境界B1、B2が、結び目の2箇所に接触することにより、結び目13Cが解け難くなるのである。さらに、研磨部13Aが粗面であることと相まって、結び目13Cはより解け難くなる。
【0059】
本実施形態の人工毛髪1は、図1(b)に示すように、幅0.5mm~5.0mmの極めて微小な研磨部13Aであっても、第3領域13の全長にわたって複数の研磨部13Aを形成することにより、1つの研磨部13Aを正確に特定しなくても、いずれかの研磨部13Aに結び目を容易に形成することが可能になる。
【0060】
本実施形態の人工毛髪1の製造方法は、第3領域13における単繊維の断面積を図5(b)及び図6(b)、(c)に示すウェットブラストの湿式研磨によって減少させている。ウェットブラストは、乾式のブラスト加工と比較して、微細な研磨粒子を使用することができ、加工時の圧力を低く抑えることが可能である。この結果、極めて細い単繊維の外周面に微細な研磨加工を施すことができ、第3領域13における単繊維の断面積を精度よく部分的に減少させることが可能である。
【0061】
図7に示す人工毛髪束2、及び図8に示す人工毛髪束セット3を構成した場合は、第3領域13の輪13aを1本の自毛に通して、第1及び第2領域11、12を相反する方向に引くだけで、人工毛髪束2を自毛の根元に結着させることができる。これにより、多数本の人工毛髪1を顧客の自毛に効率よく結着させることができ、増毛方法の施術が極めて容易になる。
【符号の説明】
【0062】
1 人工毛髪
2 人工毛髪束
3 人工毛髪束セット
4 自毛
11 第1領域
12 第2領域
13 第3領域
13A 研磨部(断面積の小さい部分)
13B 未加工部(断面積の大きい部分)
13C 結び目
13a 輪
20、21、22 マスキングテープ
31 粘着テープ
100 加工用基板
101 開口部
111 両面テープ
112 カバープレート
200 ブラストガン
300 シャワーヘッド
B1、B2 境界
D1 直径
D2、D3 短径
L1 人工毛髪の長さ
L2 人工毛髪どおしの間隔
L3 開口幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8