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  • 特許-吸収性物品用伸縮性シート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】吸収性物品用伸縮性シート
(51)【国際特許分類】
   A61F 13/49 20060101AFI20240717BHJP
   D04H 3/14 20120101ALI20240717BHJP
【FI】
A61F13/49 312Z
A61F13/49 315Z
D04H3/14
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020155348
(22)【出願日】2020-09-16
(65)【公開番号】P2022049241
(43)【公開日】2022-03-29
【審査請求日】2023-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人クオリオ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100164345
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】大西 玲子
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 侑吾
【審査官】岡澤 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-198132(JP,A)
【文献】特開2017-064233(JP,A)
【文献】特開2008-106375(JP,A)
【文献】登録実用新案第3196084(JP,U)
【文献】特開2017-113153(JP,A)
【文献】特開2009-061743(JP,A)
【文献】特開2008-179128(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 13/49
D04H 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低伸長領域と、該低伸長領域よりも伸長の程度が相対的に大きい高伸長領域とを有し、2枚の不織布の間に弾性体が全長に亘って接合してなる吸収性物品用伸縮性シートであって、
前記不織布がエンボス加工によって前記不織布の構成繊維同士を固定した融着部を有し、該融着部が、前記不織布の前記低伸長領域及び前記高伸長領域の両方に点在しており、
前記不織布における前記融着部の密度が1.05g/cm 以下であり、
前記不織布の前記高伸長領域における前記融着部は、前記低伸長領域における前記融着部よりもほぐれた状態で面積が小さくされたものを含み、
前記低伸長領域に存在する融着部の平均面積に対する前記高伸長領域に存在する融着部の平均面積の割合が100%未満である、吸収性物品用伸縮性シート。
【請求項2】
前記低伸長領域に存在する前記融着部の平均面積に対する前記高伸長領域に存在する前記融着部の平均面積の割合が70%以下である、請求項1記載の吸収性物品用伸縮性シート。
【請求項3】
前記不織布が長繊維不織布である、請求項1又は2記載の吸収性物品用伸縮性シート。
【請求項4】
前記不織布の構成繊維がポリエチレン成分を30質量%以上有する、請求項1~のいずれか1項に記載の吸収性物品用伸縮性シート。
【請求項5】
前記不織布の構成繊維がポリエチレン成分のみからなる、請求項1~のいずれか1項に記載の吸収性物品用伸縮性シート。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の吸収性物品用伸縮性シートを有する、吸収性物品。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の吸収性物品用伸縮性シートを製造する方法であって、
前記エンボス加工による融着部を有する2枚の前記不織布の間に、前記弾性体が全長に亘って接合された歯溝延伸加工前シートを、歯溝延伸加工により部分的に延伸することで、前記低伸長領域と、該低伸長領域よりも伸長の程度が相対的に大きい前記高伸長領域とを、交互に配列する工程を有する、吸収性物品用伸縮性シートを製造する方法。
【請求項8】
前記歯溝延伸加工前シートにおける前記融着部の強度は、前記吸収性物品用伸縮性シートに組み込まれる前のものとして50cN/mm以下である、請求項7に記載の吸収性物品用伸縮性シートを製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸収性物品用伸縮性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
おむつ等の吸収性物品においては、肌との密着性を高めるために、伸縮可能な伸縮性シートが用いられている。この伸縮性シートについては、これまでに種々の技術が提案されてきた。
例えば、特許文献1には、エンボス部が散在された不織布と、全長にわたり非伸長状態で前記不織布に接合された複数の弾性フィラメントを有する伸縮性シートが記載されている。この伸縮性シートでは、伸縮性とMD方向の引張強度に優れたものとする観点から、弾性フィラメントは、一方向に沿ってエンボス部が存在していない非エンボス部と接合している。
また、特許文献2には、弾性繊維及び非弾性繊維を含み、散点状のパターンで多数のエンボス部が形成されている伸縮性不織布が記載されている。この伸縮性不織布は、使い捨ておむつの外面を構成するシート等として用いることができる。
【0003】
【文献】実用新案登録第3196084号公報
【文献】特開2007-321285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
伸縮性シートの強度を高めるため、特許文献1に記載のように、エンボス部を有する不織布を構成部材に用いることがこれまで行われてきた。しかし、不織布の構成繊維が多数融着してなるエンボス部は、一般的には伸長しにくい。そのため、エンボス部を有する不織布を構成部材に用いた場合、伸縮性シートを延伸加工する際にはエンボス部の周囲で不織布の構成繊維に対する延伸負担が大きくなる。その結果、延伸加工の伸長度を高めると、伸縮性シートに穴開きが発生することがあった。
また、不織布の構成繊維が多数融着してなるエンボス部は、周囲(非エンボス部)よりも固くなる。その結果、エンボス部を有する不織布を構成部材に用いた伸縮性シートは、固いエンボス部によって肌触りが損なわれることがあった。
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑み、エンボス加工が施された不織布を用いても、伸長性の向上と、良好な肌触りとを実現できる、吸収性物品用伸縮性シートに関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、低伸長領域と、該低伸長領域よりも伸長の程度が相対的に大きい高伸長領域とを有し、弾性体と不織布とが接合してなる吸収性物品用伸縮性シートであって、前記不織布がエンボス加工による融着部を有し、前記低伸長領域に存在する融着部の平均面積に対する前記高伸長領域に存在する融着部の平均面積の割合が100%未満である、吸収性物品用伸縮性シートを提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の吸収性物品用伸縮性シートは、エンボス加工が施された不織布を用いても、伸長性の向上と、良好な肌触りとを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の吸収性物品用伸縮性シートの一実施形態を示す一部切欠斜視図である。
図2】本発明に用いられる不織布の一実施形態を模式的に示す平面図である。
図3】マイクロスコープで撮像した融着部又はその痕の一例を示す図面代用写真である。(A)は破断していない融着部の一例を、(B)は一部破断した融着部の一例を、(C)は融着部全体が破断して消失した痕の一例をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の吸収性物品用伸縮性シート(以下、単に「伸縮性シート」ともいう。)及びこれを有する吸収性物品について、その好ましい実施形態を、図面を参照して説明する。
なお、特に断りのない限り、本明細書における「伸長」及び「伸縮」とは、線状の伸長及び伸縮と、平面の伸長及び伸縮(面的な拡張)との両方を表す概念である。
【0010】
(伸縮性シート)
図1に示すように、伸縮性シート10は、2枚の不織布11,11と、その間に挟まれた複数の弾性体13とを有する。不織布11,11が各々の弾性体13と接合し、一体となって伸縮性シート10を形成している。伸縮性シート10は、少なくとも一方向において伸縮性を有する。即ち、伸縮方向Xと、該伸縮方向Xに垂直な直交方向Yとを有する。伸縮方向X及び直交方向Yの用語は、伸縮性シート10の構成部材に関しても同様に用いる。
【0011】
伸縮性シート10は、低伸長領域21と、低伸長領域21よりも伸長の程度が相対的に大きい高伸長領域22とを有する。高伸長領域22が主に伸縮することで、伸縮性シート10は全体として高い伸縮性を具備する。低伸長領域21及び高伸長領域22の用語は、伸縮性シート10の構成部材に関しても同様に用いる。
低伸長領域21及び高伸長領域22の配列については、本発明の効果を損なわない限り、特に限定されない。中でも、図2に示すように、低伸長領域21と高伸長領域22とが、伸縮性シート10の伸縮方向Xに沿って交互に配列することが好ましい。このような配列とすることで、伸縮方向Xに沿った伸縮性を高めることができる。
高伸長領域22とは、伸縮性シート10を伸縮方向Xへ50%伸長(伸長前の自然長に対して1.5倍に伸長)させたとき、伸縮方向Xの長さが伸長前に対して10%以上増加する領域をいう。反対に、低伸長領域21とは、伸縮性シート10を伸縮方向Xへ50%伸長させたときの伸縮方向Xの長さの増加率が、伸長前に対して10%未満である領域をいう。例えば、伸縮性シート10の自然長状態において伸縮方向Xに200μmの長さを有していた箇所が、50%伸長時には220μm以上になるとき、その箇所は高伸長領域22に該当し、反対に220μm未満であるときには、その箇所は低伸長領域21に該当する。このようにして、低伸長領域21と高伸長領域22とを区別することができる。
【0012】
(融着部)
伸縮性シート10のシート表面を構成する不織布11は、図3(A)に示すような、エンボス加工による融着部23を有する。融着部23は、不織布11の構成繊維同士をエンボスによる融着で固定するものであり、不織布11自身の構成要素として伸縮性シート10に組み込まれる前から不織布11が有するものである。これにより、不織布11のシート強度を高めることができる。融着部23は、少なくとも前述の低伸長領域21に存在し、これに加えて前述の高伸長領域22に存在してもよい。図2に示す不織布11では、融着部23は低伸長領域21と高伸長領域22との両方に存在し、且つ不織布11全体に点在して配列されている。
なお、図1では融着部23を省略して示している。
以下、融着部23に関する記載は、伸縮性シート10が複数の不織布11を有する場合、少なくとも1つの不織布11において備えていることが好ましく、全ての不織布11において備えていることがより好ましい。
【0013】
本発明においては、高伸長領域22に存在する融着部232の平均面積が、低伸長領域21に存在する融着部231の平均面積よりも小さい。これは、融着部23が低伸長領域21のみに存在し、高伸長領域22には存在しないことを含む概念である。高伸長領域22に存在する個々の融着部232の面積を相対的に小さくすることで、不織布11の高伸長領域22が弾性体13に合わせて伸長しやすくなり、伸縮性シート10の伸縮性が高まる。
【0014】
(低伸長領域に存在する融着部の平均面積に対する高伸長領域に存在する融着部の平均面積の割合)
前述の通り、高伸長領域22に存在する融着部232の平均面積は低伸長領域21に存在する融着部231の平均面積よりも小さいため、低伸長領域21に存在する融着部231の平均面積に対する高伸長領域22に存在する融着部232の平均面積の割合は、100%未満である。高伸長領域22に存在する融着部232の周囲での穴開きを一層抑制する観点から、前記割合は70%以下が好ましく、60%以下がより好ましく、50%以下が更に好ましい。高伸長領域22に融着部23が存在しないとき、前記割合は0%となり、伸縮性シート10の外観(穴開き抑制)の観点では最も好ましい。但し、高伸長領域22における実際の状況を考慮して、融着部23を適度に残してシート強度を高める観点から、前記割合は5%以上が好ましく、10%以上がより好ましく、20%以上が更に好ましい。
【0015】
(低伸長領域に存在する融着部の平均面積に対する高伸長領域に存在する融着部の平均面積の割合の測定方法)
測定対象の不織布11を含む伸縮性シート10が吸収性物品等の製品に用いられている場合、製品にコールドスプレーを吹きかけて接着剤を固化し、伸縮性シート10を製品から丁寧に剥がす。以下、他の測定方法においても、同様にして伸縮性シート10を取り出す。なお、ヒートシールや超音波シール等で伸縮性シート10が他部材と固定されていて取り出せない場合には、剥がさずに他部材と固定された状態で測定に用いる。即ち、他部材と直接接合している伸縮性シート10が測定対象となる。
マイクロスコープ(商品名:VHX-900、キーエンス製)を用いて伸縮性シート10の表面を倍率100倍で撮像し、面積測定ツールを用いて低伸長領域21に存在する融着部231及び高伸長領域22に存在する融着部232を各10箇所抽出後、各融着部の面積を算出する。
高伸長領域22に存在する融着部232の面積の平均値を、低伸長領域21に存在する融着部231の面積の平均値で除することで、低伸長領域21に存在する融着部231の平均面積に対する高伸長領域22に存在する融着部232の平均面積の割合を算出する。
【0016】
エンボス加工によって不織布11の構成繊維同士を固定(融着)する強さは、エンボス加工時の温度及び圧力を変えることで、適宜調整することができる。エンボス加工時の温度を高温にするとエンボスは強固な固定となり、反対に低温にすると弱めの固定となる。また、エンボス加工時の圧力を高くするとエンボスは強固な固定となり、逆に、低くすると弱めの固定となる。
エンボス加工による融着部23の固定の強さは、融着部23の密度によって判断することができる。融着部23の密度の値が大きいほど、エンボス部分の固定は強いことを表す。反対に、融着部23の密度の値が小さいほど、エンボス部分の固定は弱いことを表す。
【0017】
(融着部の密度)
本発明においては、融着部23の密度が小さいと、エンボス加工による固定が弱いため、伸縮性シート11の製造時の延伸加工において融着部23は変形しやすくなる(構成繊維同士の融着状態が解かれやすくなる)。その結果、延伸加工がなされる高伸長領域22において融着部23がほぐれやすくなり、高伸長領域22に存在する融着部232が小さくなる。また、固い融着部23は適度にほぐれることで減少し、伸縮性シート10の肌触りが良くなる。
これらの観点から、エンボス加工による融着部23の密度は、1.05g/cm以下であることが好ましく、1.00g/cm以下であることがより好ましく、0.95g/cm以下であることが更に好ましい。また、シート強度を維持する観点から、エンボス加工による融着部23の密度は、0.60g/cm以上であることが好ましく、0.70g/cm以上であることがより好ましく、0.80g/cm以上であることが更に好ましい。
【0018】
(融着部の密度の測定方法)
測定対象の不織布11を伸縮性シート10から取り出す。ヒートシールや超音波シール等で不織布11が弾性体13等の他部材と固定されていて取り出せない場合には、剥がさずに他部材と固定された状態で測定に用いる。即ち、他部材と直接接合している不織布11が測定対象となる。
測定対象の不織布11を5cm×20cmの大きさに切り出し、測定片とする。測定片の質量を天秤にて測定し、測定値を測定片の面積(100cm)で除して測定片の坪量を算出する。
次に、融着部の平面視における中心が切断されるように測定片を切断する。切断の際には、測定片を液体窒素等で凍結させた後、測定片の平面に対してカッター刃を垂直に当て、一息で切断する。このように切断することで、押し潰し等によって切断の際に測定片の厚みが変わるのを抑制する。
走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM、商品名:JCM-5100、日本電子株式会社製)を用いて、加速電圧15kV、観察倍率500倍で、測定片の切断面を観察する。観察結果を撮像し、融着部の任意の10か所について厚み方向の長さを測定し、平均値を算出する。
測定片の坪量を厚み方向の長さの平均値で除することで、融着部の密度を算出する。
以上の測定を3回行い、算出された値の平均値を、融着部の密度とする。
【0019】
(融着部の強度)
また、融着部23のほぐれやすさ(融着状態の解かれやすさ)は、以下の方法によって算出される融着部の強度によって、判断することができる。融着部の強度は、融着部23のほぐれやすさを表す指標であり、その値が小さいほど融着部23がほぐれやすいことを示す。具体的には、融着部の強度は50cN/mm以下が好ましく、45cN/mm以下がより好ましく、40cN/mm以下が更に好ましい。また、融着部23を適度に残してシート強度を高める観点から、融着部の強度は5cN/mm以上が好ましく、10cN/mm以上がより好ましく、15cN/mm以上が更に好ましい。
上記の融着部の強度の要件は、伸縮性シート10が複数の不織布11を有する場合、少なくとも1つの不織布11において備えていることが好ましく、全ての不織布11において備えていることがより好ましい。
融着部23は、前述の通り、不織布11が伸縮性シート10に組み込まれる前から有するものである。そのため、融着部23の強度は、不織布11自体が本来的に備える性能(不織布11が伸縮性シート10に組み込まれる前の性能)を示している。
【0020】
(融着部の強度の算出方法)
融着部の強度は、弾性体13と融着させて伸縮性シート10とする前の不織布11(不織布原反)を用いて、1個の融着部23を破断させる引張試験の結果から算出することができる。具体的には、次の通りである。
測定対象の不織布原反を5mmの幅で切り出し、測定片とする。チャック間距離が20mmとなるように、測定片を引張試験機(商品名:AG-50NIS、株式会社島津製作所製)に備え付ける。引張試験で破断させる融着部23を、測定片の中央付近(チャック間距離の中央付近)に存在するものの中から1個だけ選び、この融着部23のみを残して幅方向(5mm幅)の両側から切り込みを入れる。即ち、測定片が中央付近で1個の融着部23のみで繋がった状態とする。この状態で、引張速度を50mm/minとして引張試験を行い、破断強度を測定する。
得られた破断強度を、破断前の融着部23の幅で除することで、融着部の強度を算出する。
以上の測定を3回行い、算出された値の平均値を、融着部の強度とする。
【0021】
(不織布の構成繊維)
不織布11の構成繊維については、本発明の効果を損なわない限り、特に限定されない。例えば、親水性の繊維でも撥水性の繊維でもよい。また、芯鞘型又はサイド・バイ・サイド型の複合繊維、分割繊維、異形断面繊維、捲縮繊維、熱収縮繊維等を用いることもできる。これらの繊維は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。但し、伸縮性シート10を薄くて柔らかいものとする観点から、不織布11は長繊維を構成繊維として有することが好ましく、長繊維のみから構成されることがより好ましい。
長繊維とは、100mm以上の繊維長を有する繊維を意味する。特に、繊維長150mm以上のいわゆる連続長繊維であると、破断強度が高い不織布が得られる点で好ましい。長繊維を有する不織布としては、例えば、スパンボンド不織布、スパンボンドの層とメルトブローンの層との複数層からなる不織布、カード法によるヒートロール不織布等が挙げられる。複数層からなる不織布としては、例えば、スパンボンド-スパンボンド積層不織布、スパンボンド-スパンボンド-スパンボンド積層不織布、スパンボンド-メルトブローン-スパンボンド積層不織布、スパンボンド-スパンボンド-メルトブローン-スパンボンド積層不織布等が挙げられる。また、単層の場合に、一方の面側に、長繊維の一端が繊維集合層とは非固定で起立する繊維(起立性繊維)を有する不織布が挙げられる。
なお、長繊維における繊維長の上限は特に限定されるものではない。
【0022】
不織布11の構成繊維に用いられる樹脂の成分の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド等が挙げられる。中でも、ポリエチレンを用いることが好ましい。ポリエチレンを用いることで、融着部23における構成繊維同士の固定の強度を適度に弱めることができ、延伸加工時に融着部23が適度にほぐれやすくなる。加えて、ポリエチレンは摩擦係数が小さいため、伸縮性シート10の表面が滑らかで肌触りの良いものとなる。特に、手で揉んだときの柔らかさの点で優れた伸縮性シート10となる。
本発明では、不織布11の構成繊維がポリエチレン成分を30質量%以上有することが好ましく、40質量%以上有することがより好ましく、50質量%以上有することが更に好ましい。また、ポリエチレン成分の含有量は多いほど好ましく、不織布11の構成繊維がポリエチレン成分のみからなることが特に好ましい。
【0023】
(弾性体)
本発明に用いられる弾性体13は、不織布11と同様に伸縮性を有し、不織布11と一体となって伸縮する部材である。弾性体13は、一方向において伸縮性を有するものに限られず、複数の方向(例えば前述の伸縮方向X及び直交方向Y)に伸縮性を有してもよい。
本発明の効果を奏するものである限り、弾性体13の形状は図1に示すフィラメント状に限定されず、ウェブ状であってもよい。但し、伸縮性シート10の外観を良好にし、シート強度を高める観点から、フィラメント状のものが好ましい。
フィラメント状の弾性体13を用いる場合、複数の弾性体13が、一方向(例えば伸縮方向X)に延出して配列していることが好ましい。弾性体13の延出方向を一定の方向と一致させることで、その方向に沿った伸縮性を高めることができる。また、複数のフィラメント状の弾性体13は、図1に示すように、互いに交差することなく離間して、平行に配されていることがより好ましい。
更に、弾性体13は全長に亘って不織布11に接合していることが好ましい。不織布11と弾性体13との接触部分が全て融着等により接合していることで、不織布11が全面に亘って伸縮動作に追随でき、シート全体の外観が良好となる。
【0024】
(伸縮性シートの製造方法)
本発明の伸縮性シート10は、この分野において通常用いられる種々の方法により製造することができる。例えば、溶融状態の弾性体13を紡出しながら、実質的に非伸長状態で、エンボス加工がなされた不織布11に固化前に融着させ、次いで歯溝延伸加工により部分的に延伸することで、伸縮性シート10を製造することができる。
歯溝延伸加工により製造する場合、歯溝によってシートが大きく延伸される領域と、この領域よりも延伸の程度が小さい又はほとんど延伸されない領域とが現れる。歯溝延伸加工により大きく延伸される領域は、延伸によって不織布11の構成繊維が引き伸ばされること等により高い伸縮性を獲得する領域であるため、前述の高伸長領域22に相当する。また、大きく延伸されることで融着部23では構成繊維の融着が適度にほぐれ、高伸長領域22に存在する融着部232の面積が小さくなる。このとき、不織布11の高伸長領域22に存在する個々の融着部232は、一部が欠けるようにほぐれて面積が小さくなったり(図3(B)参照)、全体がほぐれて融着部としての外見が消失したりする(図3(C)参照)。一方、延伸の程度が小さい又はほとんど延伸されない領域は、歯溝延伸加工前と伸縮性が大きく変わらない領域であるため、前述の低伸長領域21に相当する。低伸長領域21では歯溝延伸加工による延伸がほとんど行われないため、不織布11の低伸長領域21に存在する融着部231の面積は延伸加工の前後でほとんど変わらない。
即ち、本発明の伸縮性シート10は、歯溝延伸加工による延伸の影響が大きい領域において、不織布11の融着部23を適度にほぐれさせて減らしたものといえる。
【0025】
(伸縮性シートの用途)
本発明の伸縮性シート10は、パンツ型使い捨ておむつの外包材として好適に用いられる。またこの用途以外に、その良好な肌触りや、毛羽立ち防止性、伸縮性、通気性等の利点を生かし、医療用使い捨て衣類や清掃シート、眼帯、マスク、包帯等の各種の用途に用いることもできる。特に生理用ナプキンや使い捨ておむつなどの吸収性物品の構成材料として好ましく用いられる。該構成材料としては、例えば、吸収体よりも肌側に位置する液透過性のシート(表面シート、サブレイヤー等を含む)や、使い捨ておむつの外面を構成するシート、胴回り部やウエスト部、脚周り部等に伸縮性を付与するためのシート等が挙げられる。また、ナプキンのウイングを形成するシート等として用いることができる。また、それ以外の部位であっても、伸縮性を付与したい部位等に用いることができる。伸縮性シート10の坪量や厚みは、その具体的な用途に応じて適切に調整できる。例えば吸収性物品の構成材料として用いる場合には、坪量20g/m以上60g/m以下、厚み0.5mm以上1.5mm以下とすることが望ましい。
【0026】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されない。例えば図1に示す実施形態の伸縮性シート10においては、2枚の不織布11,11間に多数の弾性体13が挟持された構造になっているが、これに代えて、1枚の不織布11の表面に弾性体13を融着して伸縮性シート10をなしてもよい。
【実施例
【0027】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳しく説明するが、本発明はこれにより限定して解釈されるものではない。
【0028】
(実施例1)
紡糸ヘッドの温度270℃、紡糸ノズルの径450μm、及び紡糸ノズルのピッチ1mmの紡糸条件で、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン樹脂(重量平均分子量5万、MFR40g/10分(230℃,2.16kg))からなる溶融状態にあるエラストマー(フィラメント状の弾性体)を紡糸した。溶融状態にあるエラストマーが固化する前に、不織布2枚で弾性体を挟み込み、弾性体を全長に亘って不織布と融着させた。不織布には、ポリプロピレン樹脂(融点:163℃)からなる長繊維(繊維長は100mm超)を構成繊維とし、予めエンボス加工が施されて融着部を備えていたものを用いた。この不織布は、弾性体と融着させる前の状態(不織布原反)において、前述の方法に従って測定した融着部の強度が48cN/mm、融着部の密度が0.91g/cmであった。
次に、不織布と弾性体との複合体に対して、歯と歯底が周方向に交互に形成された一対の歯溝ロール(延伸噛み合い量:5.0mm)を用いて歯溝延伸加工を行った。このようにして複合体を部分的に延伸させ、伸縮方向Xに対して低伸長領域と高伸長領域とを交互に作り出し、図1に示すような実施例1の伸縮性シート試料を得た。この伸縮性シート試料において、低伸長領域に存在する融着部の面積は0.38mm、高伸長領域に存在する融着部の面積は0.22mmであった。
【0029】
(実施例2)
ポリエチレン樹脂(融点:126℃)からなる長繊維を構成繊維とし、融着部の強度及び融着部の密度が表1に示す通りの不織布を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例2の伸縮性シート試料を得た。この伸縮性シート試料において、低伸長領域に存在する融着部の面積及び高伸長領域に存在する融着部の面積は、表1に示す通りであった。
【0030】
(比較例1)
融着部の強度及び融着部の密度が表1に示す通りの不織布を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例1の伸縮性シート試料を得た。この伸縮性シート試料において、低伸長領域に存在する融着部の面積及び高伸長領域に存在する融着部の面積は、表1に示す通りであった。
【0031】
(比較例2)
歯溝延伸加工における延伸噛み合い量を表1に示す通りとした以外は、比較例1と同様にして、比較例2の伸縮性シート試料を得た。この伸縮性シート試料において、低伸長領域に存在する融着部の面積及び高伸長領域に存在する融着部の面積は、表1に示す通りであった。
【0032】
(低伸長領域に存在する融着部の面積に対する高伸長領域に存在する融着部の面積の割合の算出)
各伸縮性シート試料について、前述の方法に従い、低伸長領域に存在する融着部の面積に対する高伸長領域に存在する融着部の面積の割合を算出した。
【0033】
(穴面積の測定)
各伸縮性シート試料を、伸長方向の長さが100mm、直交方向の長さが200mmとなるように切り出し、伸縮方向へ150%伸長(伸長前の自然長に対して2.5倍に伸長)させた。この状態で、伸縮性シート試料に生じた穴の全てを透明なOHPシートに書き写した。画像解析ソフト(商品名:Image-Pro、伯東株式会社製)を用いて、穴毎に面積を算出した。
面積が大きい上位10個の穴について、算出した面積の値を平均し、各伸縮性シート試料の穴面積とした。
穴面積が小さいほど、伸縮性シートは外観に優れることを示す。
【0034】
(バルクソフトネスの測定)
伸縮方向の長さが150mm、直交方向の長さが30mmとなるように各伸縮性シート試料を切り出し、30mmの短辺同士を対向させてステープルで留め、リング状にした。引張試験機(商品名:AG-50NIS、株式会社島津製作所製)を用いて、周方向におけるリング状の伸縮性シート試料のバルクソフトネスを測定した。サンプル幅は30mm、圧縮速度は300mm/分とした。
バルクソフトネスが小さいほど、肌触りが良好であることを示す。
【0035】
(3N荷重時伸度の測定)
直交方向の長さが50mmとなるように各伸縮性シート試料を切り出し、引張試験機(商品名:AG-50NIS、株式会社島津製作所製)を用いて伸縮方向に300mm/minの速度で破断するまで引っ張った。得られたデータから3N/50mmの荷重となった時の伸び量を抜き出し、引き伸ばし前の伸縮性シート試料の伸縮方向の長さで除することで、3N荷重時伸度を算出した。なお、3Nという引き伸ばしの力は、吸収性物品の着用者が伸縮性シートを無理なく引き伸ばすことができる大きさである。
3N荷重時伸度が大きいほど、伸長性に優れた不織布であることを示す。
結果を表1に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
表1に示すように、実施例1及び2の伸縮性シート試料では、いずれも3N荷重時伸度が140%以上であり、比較例2の伸縮性シート試料よりも伸長性に優れていた。
また、実施例1及び2の伸縮性シート試料では、いずれもバルクソフトネスが4cN以下であり、比較例1及び2の伸縮性シート試料よりも肌触りが良好であった。
更に、実施例1及び2の伸縮性シート試料では、いずれも穴面積を4cm以下に抑えることができ、比較例1の伸縮性シート試料よりも外観が良好であった。外観に関しては、延伸噛み合い量を小さくして延伸の程度を抑制して製造した比較例2の伸縮性シート試料と比較しても、遜色のないものであった。
このように、実施例1及び2の伸縮性シート試料では、伸長性の向上と、良好な肌触りとを実現できており、更には外観も優れていた。
特に、実施例1及び2の伸縮性シート試料を比較すると、ポリエチレン樹脂を用いた実施例2の伸縮性シート試料の方がバルクソフトネスの数値は小さく、肌触りに一層優れた伸縮性シートを製造できることが分かった。
【符号の説明】
【0038】
10 伸縮性シート
11 不織布
13 弾性体
21 低伸長領域
22 高伸長領域
23 融着部
231 低伸長領域に存在する融着部
232 高伸長領域に存在する融着部
X 伸縮方向
Y 直交方向
図1
図2
図3