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特許7522012フィルムの製造システム、および、フィルムの製造方法
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  • 特許-フィルムの製造システム、および、フィルムの製造方法 図1
  • 特許-フィルムの製造システム、および、フィルムの製造方法 図2
  • 特許-フィルムの製造システム、および、フィルムの製造方法 図3
  • 特許-フィルムの製造システム、および、フィルムの製造方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】フィルムの製造システム、および、フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29D 7/01 20060101AFI20240717BHJP
【FI】
B29D7/01
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020192086
(22)【出願日】2020-11-18
(65)【公開番号】P2022080790
(43)【公開日】2022-05-30
【審査請求日】2021-11-10
【審判番号】
【審判請求日】2023-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003812
【氏名又は名称】弁理士法人いくみ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】植野 俊明
(72)【発明者】
【氏名】太田 智之
(72)【発明者】
【氏名】品川 雅
【合議体】
【審判長】里村 利光
【審判官】本田 博幸
【審判官】廣田 健介
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-193242(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 55/00-55/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融樹脂をシート状の基材に成形する成形装置と、
成形された前記基材の表面に塗工液を塗布する塗工装置と、
前記塗工液が塗布された前記基材を延伸する延伸装置と、
前記塗工装置から前記延伸装置へ向かう前記基材の前記表面の温度を、前記基材の幅方向全部にわたって測定する温度測定装置と
を備える、フィルムの製造システム。
【請求項2】
前記温度測定装置は、赤外線サーモグラフィ装置である、請求項1に記載のフィルムの製造システム。
【請求項3】
前記温度測定装置が測定した温度のログを記憶する記憶装置を、さらに備える、請求項1または2に記載のフィルムの製造システム。
【請求項4】
溶融樹脂をシート状の基材に成形する成形工程と、
成形された前記基材の表面に塗工液を塗布する塗布工程と、
前記塗工液が塗布された前記基材を延伸する延伸工程と、
前記塗布工程の後、前記延伸工程の前において、前記基材の前記表面の温度を前記基材の幅方向全部にわたって測定することにより、前記基材の前記表面に、前記塗工液が塗布された塗工部分と、前記塗工液が塗布されていない未塗工部分とが形成された場合に、前記塗工部分よりも高い温度を有する前記未塗工部分を検出する検出工程と
を含む、フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記塗工液の温度は、前記塗工液が塗布される前の前記基材の温度よりも10℃以上低い、請求項4に記載のフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムの製造システム、および、フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アクリル系樹脂を溶融押出して製膜する溶融押出製膜装置と、得られたアクリルフィルムの一方面に易接着組成物を塗布するコーターと、延伸装置(逐次二軸延伸装置または同時二軸延伸装置)と、巻取り装置とを備えるフィルム製造装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-023170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した特許文献1に記載されるようなフィルム製造装置において、易接着組成物が塗布されていない未塗工部分が発生した場合に、未塗工部分を検出したいという要望がある。
【0005】
本発明は、未塗工部分を検出できるフィルムの製造システム、および、フィルムの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明[1]は、溶融樹脂をシート状の基材に成形する成形装置と、成形された前記基材の表面に塗工液を塗布する塗工装置と、前記塗工液が塗布された前記基材を延伸する延伸装置と、前記塗工装置から前記延伸装置へ向かう前記基材の前記表面の温度を、前記基材の幅方向全部にわたって測定する温度測定装置とを備える、フィルムの製造システムを含む。
【0007】
このような構成によれば、成形された基材の表面のうち、塗工液が塗布された塗工部分は、塗工液によって冷却される。一方、成形された基材の表面に、塗工液が塗布されていない未塗工部分が発生した場合、未塗工部分は、冷却されない。そのため、未塗工部分の温度は、塗工部分の温度よりも高くなる。
【0008】
そのため、温度測定装置によって、塗工装置から延伸装置へ向かう基材の表面の温度を、基材の幅方向全部にわたって測定することにより、塗工部分の温度よりも高い未塗工部分を検出できる。
【0009】
本発明[2]は、前記温度測定装置が、赤外線サーモグラフィ装置である、上記[1]のフィルムの製造システムを含む。
【0010】
このような構成によれば、赤外線サーモグラフィ装置により、未塗工部分を、視覚的に検出できる。
【0011】
本発明[3]は、前記温度測定装置が測定した温度のログを記憶する記憶装置を、さらに備える、上記[1]または[2]のフィルムの製造システムを含む。
【0012】
このような構成によれば、ログを確認することによって、未塗工部分を特定できる。
【0013】
本発明[4]は、溶融樹脂をシート状の基材に成形する成形工程と、成形された前記基材の表面に塗工液を塗布する塗布工程と、前記塗工液が塗布された前記基材を延伸する延伸工程と、前記塗布工程の後、前記延伸工程の前において、前記基材の前記表面の温度を前記基材の幅方向全部にわたって測定することにより、前記基材の前記表面に、前記塗工液が塗布された塗工部分と、前記塗工液が塗布されていない未塗工部分とが形成された場合に、前記塗工部分よりも高い温度を有する前記未塗工部分を検出する検出工程とを含む、フィルムの製造方法を含む。
【0014】
このような方法によれば、未塗工部分を検出できる。
【0015】
本発明[5]は、前記塗工液の温度が、前記塗工液が塗布される前の前記基材の温度よりも10℃以上低い、上記[4]のフィルムの製造方法を含む。
【0016】
このような方法によれば、塗工液が塗布される前の基材と、塗工液との温度差により、未塗工部分を確実に検出できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のフィルムの製造システム、および、フィルムの製造方法によれば、未塗工部分を検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、フィルムの製造システムによって製造されるフィルムの断面図である。
図2図2は、フィルムの製造システムの概略構成図である。
図3図3Aは、赤外線サーモグラフィ装置のブロック図である。図3Bは、赤外線サーモグラフィ装置によって得られた温度の分布画像を説明するための説明図である。
図4図4は、変形例を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1.フィルムの製造システムの概略
フィルムFの製造システム1の概略について説明する。
【0020】
図1に示すように、フィルムFは、基材Sと、被膜Cとを備える。基材Sは、基材Sの厚み方向において、表面の一例としての第1面S1と、第2面S2とを有する。被膜Cは、基材Sの第1面S1の上に配置される。被膜Cは、基材Sの第1面S1を覆う。被膜Cは、易接着層であってもよい。被膜Cが易接着層である場合、フィルムFは、易接着フィルムである。易接着フィルムは、例えば、モバイル機器、カーナビゲーション装置、パソコン用モニタ、テレビなどの画像表示装置の偏光板に使用される。詳しくは、易接着フィルムは、偏光板の偏光子を保護する保護フィルムとして使用される。易接着フィルムは、接着剤層を介して、偏光子と貼り合わされる。易接着フィルムは、易接着層で、偏光子と貼り合わされる。
【0021】
図2に示すように、フィルムFの製造システム1は、成形装置2と、第1延伸装置4Aと、塗工装置3と、延伸装置の一例としての第2延伸装置4Bと、スリット加工装置5と、ナーリング加工装置6と、巻取装置7とを備える。
【0022】
(1)成形装置
成形装置2は、熱可塑性樹脂が溶融した溶融樹脂を、シート状の基材Sに成形する(成形工程)。本実施形態では、成形装置は、押出成形装置である。
【0023】
熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、アセテート樹脂(ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロースなど)が挙げられる。
【0024】
偏光子の保護フィルムとして使用される易接着フィルムを製造する場合、基材Sの材料として、好ましくは、アクリル樹脂が挙げられる。
【0025】
また、偏光子の保護フィルムとして使用される易接着フィルムを製造する場合、アクリル樹脂は、グルタル酸無水物構造を有するアクリル樹脂、ラクトン環構造を有するアクリル樹脂であってもよい。グルタル酸無水物構造を有するアクリル樹脂、および、ラクトン環構造を有するアクリル樹脂は、高い耐熱性、高い透明性、および高い機械的強度を有するため、偏光度が高くかつ耐久性に優れる偏光板の製造に適する。グルタル酸無水物構造を有するアクリル樹脂は、特開2006-283013号公報、特開2006-335902号公報、特開2006-274118号公報に記載されている。ラクトン環構造を有するアクリル樹脂は、特開2000-230016号公報、特開2001-151814号公報、特開2002-120326号公報、特開2002-254544号公報、特開2005-146084号公報に記載されている。
【0026】
また、基材Sは、アクリル樹脂に加えて、アクリル樹脂以外の他の熱可塑性樹脂を含有してもよい。他の熱可塑性樹脂を含有することにより、アクリル樹脂の複屈折を打ち消して、光学等方性に優れる易接着フィルムを得ることができる。また、易接着フィルムの機械強度を向上させることもできる。
【0027】
なお、基材Sは、酸化防止剤、安定剤、補強材、紫外線吸収剤、難燃剤、帯電防止剤、着色剤、充填剤、可塑剤、滑剤、フィラーなどの添加剤を含有してもよい。
【0028】
(2)第1延伸装置
第1延伸装置4Aは、基材Sを、加熱した後、基材Sの流れ方向MDに延伸する。
【0029】
(3)塗工装置
塗工装置3は、成形工程によって成形された基材Sの第1面S1に、塗工液を塗布する(塗布工程)。塗工装置としては、例えば、バーコーター、グラビアコーター、キスコーターなどが挙げられる。なお、基材Sの第1面S1には、成形工程の後、塗布工程の前に、コロナ処理、プラズマ処理などの表面処理が、施されてもよい。
【0030】
易接着フィルムを製造する場合、塗工液は、易接着層を形成するための易接着組成物である。
【0031】
易接着層は、バインダ樹脂と、微粒子とを含有する。
【0032】
バインダ樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂などの熱可塑性樹脂が挙げられる。易接着フィルムが偏光子の保護フィルムとして使用される場合、バインダ樹脂は、好ましくは、熱硬化性樹脂である。バインダ樹脂は、複数種類を併用できる。
【0033】
微粒子としては、例えば、酸化ケイ素(シリカ)、酸化チタン(チタニア)、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ジルコニウム(ジルコニア)などの酸化物、例えば、炭酸カルシウムなどの炭酸塩、例えば、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムなどのケイ酸塩、例えば、タルク、カオリンなどのケイ酸塩鉱物、例えば、リン酸カルシウムなどのリン酸塩などが挙げられる。易接着フィルムが偏光子の保護フィルムとして使用される場合、微粒子は、好ましくは、酸化物、より好ましくは、酸化ケイ素である。微粒子は、複数種類を併用できる。
【0034】
塗工液(易接着組成物)は、樹脂成分と、上記した微粒子と、分散媒とを含有する。
【0035】
樹脂成分は、後述する延伸工程によって、上記したバインダ樹脂の被膜(易接着層)を形成する。バインダ樹脂がウレタン樹脂である場合、樹脂成分としては、例えば、水系ウレタン樹脂が挙げられる。水系ウレタン樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂の乳化物である非反応型水系ウレタン樹脂、例えば、イソシアネート基をブロック剤で保護したウレタン樹脂の乳化物である反応型水系ウレタン樹脂などが挙げられる。バインダ樹脂がウレタン樹脂である場合、塗工液は、ウレタン硬化触媒(トリエチルアミンなど)、イソシアネートモノマーを含有してもよい。
【0036】
分散媒としては、例えば、水、例えば、メタノール、エタノールなどのアルコール、例えば、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトンなどが挙げられる。
【0037】
(4)第2延伸装置
第2延伸装置4Bは、塗工液が塗布された前記基材を延伸する(延伸工程)。詳しくは、第2延伸装置4Bは、基材Sに塗布された塗工液を乾燥させる。これにより、塗工液が上記した被膜Cになる。また、第2延伸装置4Bは、被膜Cが形成された基材Sを、加熱した後、基材Sの幅方向TDに延伸する。幅方向TDは、流れ方向MDと直交する。延伸工程により、被膜Cが形成された基材Sが延伸され、上記したフィルムFが得られる。
【0038】
(5)スリット加工装置
スリット加工装置5は、フィルムFを、所定の幅に切断する。
【0039】
(6)ナーリング加工装置
ナーリング加工装置6は、所定の幅に切断されたフィルムFの幅方向両端に、ナールを形成する。ナールは、レーザーによって形成される。ナールは、加熱されたエンボスロールによって形成されてもよい。
【0040】
(7)巻取装置
巻取装置7は、ナールが形成されたフィルムFを巻き取る。
【0041】
2.フィルムの製造システムの詳細
フィルムの製造システム1は、温度測定装置の一例としての赤外線サーモグラフィ装置8を、さらに備える。
【0042】
赤外線サーモグラフィ装置8は、塗工装置3から第2延伸装置4Bへ向かう基材Sの第1面S1の温度を、幅方向TDにおける基材Sの全部にわたって測定する。言い換えると、赤外線サーモグラフィ装置8は、塗布工程の後、延伸工程の前において、基材Sの第1面S1の温度を、幅方向TDにおける基材Sの全部にわたって測定する。詳しくは、図3Aに示すように、赤外線サーモグラフィ装置8は、赤外線カメラ81と、制御装置82と、モニタ83とを備える。
【0043】
赤外線カメラ81は、塗工装置3から第2延伸装置4Bへ向かう基材Sの第1面S1を撮影する。赤外線カメラ81は、幅方向TDにおける基材Sの全部を撮影する。
【0044】
制御装置82は、赤外線カメラ81に入射した赤外線の放射エネルギーを温度に変換し、温度の分布画像を作成する。これにより、赤外線サーモグラフィ装置8は、基材Sの第1面S1の温度を、幅方向TDにおける基材Sの全部にわたって測定する。制御装置82は、記憶装置の一例としてのメモリ84を有する。つまり、フィルムの製造システム1は、メモリ84を備える。メモリ84は、制御装置82によって変換された温度のログを記憶する。つまり、メモリ84は、赤外線サーモグラフィ装置8が測定した温度のログを記憶する。これにより、メモリ84に記憶されたログを確認することによって、未塗工部分P2(図3B参照)が発生したポイントを特定できる。
【0045】
モニタ83は、制御装置82によって作成された温度の分布画像を表示する。図3Bに示すように、基材Sの第1面S1に、塗工液が塗布された塗工部分P1と、塗工液が塗布されていない未塗工部分P2とが形成された場合、温度の分布画像中において、未塗工部分P2は、塗工部分P1よりも高い温度で表示される。
【0046】
詳しくは、塗工液の温度は、塗工液が塗布される前の基材Sの温度よりも低い。そのため、塗工部分P1は、塗工液によって冷却される一方、未塗工部分P2は、冷却されない。そのため、未塗工部分P2の温度は、塗工部分P1の温度よりも高くなる。
【0047】
そして、この場合、作業者は、温度の分布画像を見て、塗工部分P1よりも高い温度を有する未塗工部分P2を検出する(検出工程)。これにより、未塗工部分P2を検出できる。
【0048】
なお、塗工液の温度は、塗工液が塗布される前の基材Sの温度よりも、例えば、10℃以上、好ましくは、30℃以上、低い。塗工液と基材Sとの温度差が上記下限値以上であると、未塗工部分P2を、より確実に検出できる。なお、塗工液と基材Sとの温度差の上限値は、限定されない。
【0049】
3.変形例
(1)制御装置82は、未塗工部分P2の有無を、ソフトウェアによって判定してもよい。
【0050】
(2)温度測定装置は、赤外線サーモグラフィ装置に限らない。例えば、複数の赤外線温度センサーにより、基材Sの幅方向全部の温度を測定してもよい。
【0051】
(3)フィルムの製造システム1は、図4に示すように、流れ方向MDにおける塗工装置3の下流側に、スムージングローラ100を備えていてもよい。スムージングローラ100は、基材Sに塗布された塗工液を幅方向TDに塗り広げる。赤外線サーモグラフィ装置8の検出限界以下の幅を有する未塗工部分P2が発生した場合、スムージングローラ100は、基材Sに塗布された塗工液を幅方向TDに塗り広げることによって、未塗工部分P2に塗工液を塗布する。これにより、未塗工部分P2を無くすことができる。
【符号の説明】
【0052】
1 フィルムの製造システム
2 成形装置
3 塗工装置
4B 第2延伸装置
8 赤外線サーモグラフィ装置
84 メモリ
F フィルム
P1 塗工部分
P2 未塗工部分
S 基材
S1 第1面
図1
図2
図3
図4