(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】免疫細胞を活性化させる方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/17 20150101AFI20240717BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240717BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240717BHJP
C12N 5/078 20100101ALI20240717BHJP
【FI】
A61K35/17
A61P35/00
A61P37/04
C12N5/078
(21)【出願番号】P 2020529112
(86)(22)【出願日】2018-08-03
(86)【国際出願番号】 US2018045260
(87)【国際公開番号】W WO2019028422
(87)【国際公開日】2019-02-07
【審査請求日】2021-07-29
(32)【優先日】2017-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】524117907
【氏名又は名称】タリーノード バイオサイエンシズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】キム フィリップ エス.
(72)【発明者】
【氏名】グロット ブライアン イー.
(72)【発明者】
【氏名】ラングレイ エマ
【審査官】伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-516197(JP,A)
【文献】特表2006-524991(JP,A)
【文献】MATHEOUD, D. et al.,PLoS ONE,2011年,Vol. 6, No. 4, Article No. e19104,pp. 1-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00
C12N 5/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象において免疫細胞を活性化させるためのエクスビボの方法
における使用のための免疫調節チャンバーであって、
該方法が、該対象からの免疫細胞を
該免疫調節チャンバーに通す段階であって、該免疫調節チャンバーが、固体支持体と、該免疫調節チャンバー内で該固体支持体上に拘束された (i) 腫瘍細胞、(ii) 炎症促進性サイトカイン、および (iii) 間質性物質とを含み、それによって該免疫細胞が該腫瘍細胞、炎症促進性サイトカイン、および間質性物質に曝露されて該免疫細胞が活性化される、段階を含み、
該間質性物質が、間質細胞および/または間質成分を含み、かつ
該免疫調節チャンバーが、該対象の血管系、腹膜腔、胸膜腔、または脳脊髄液 (CSF) と流体連絡している入口ポートおよび/または出口ポートを含む、
免疫調節チャンバー。
【請求項2】
(a)
前記方法が前記対象において自己の免疫応答を高める、
(b)
前記方法が前記対象において全身療法の有害作用を軽減または排除する、
(c) 前記免疫細胞が、白血球または末梢血単核細胞 (PBMC) である、および/または
(d) 前記免疫細胞が、前記対象から採取された全血試料中に含まれ、任意で、
(i) 前記全血試料が前記免疫調節チャンバーに通される、または
(ii) 前記全血試料から免疫細胞含有部分が単離され、該全血試料の該免疫細胞含有部分が前記免疫調節チャンバーに通される、
請求項1記載の
免疫調節チャンバー。
【請求項3】
前記請求項2の(d) (ii)において、
(a) 前記全血試料の前記免疫細胞含有部分が、濾過法またはアフェレーシスを用いて単離される、
(b) 前記全血試料の前記免疫細胞含有部分が、該全血試料を、前記免疫調節チャンバーと流体連絡している単離装置に通すことによって単離される、および/または
(c) 該全血試料の免疫細胞含有部分および/または非免疫細胞含有部分から、免疫阻害因子および/または該対象に有害作用を及ぼす因子が除去される、
請求項2記載の
免疫調節チャンバー。
【請求項4】
前記入口ポートおよび/または出口ポートが、前記対象の静脈系または動脈系と流体連絡している、請求項1~3のいずれか一項記載の
免疫調節チャンバー。
【請求項5】
(a) 前記腫瘍細胞が循環腫瘍細胞 (CTC) である、
(b) 前記腫瘍細胞が腫瘍細胞溶解物を含む、
(c) 前記腫瘍細胞が複数の腫瘍細胞を含む、
(d) 前記腫瘍細胞が、生検材料、細針吸引液 (FNA)、外科的切除物、血液試料、胸水試料、腹水試料、CSF試料、またはそれらの組み合わせから得られる、
(e) (i) 前記腫瘍細胞が、自己腫瘍細胞および/または自己腫瘍細胞溶解物を含む、または
(ii) 前記腫瘍細胞が、同種腫瘍細胞および/または同種腫瘍細胞溶解物を含む、および/または
(f) (i) 前記免疫細胞を前記免疫調節チャンバーに通す前に、前記腫瘍細胞が該免疫調節チャンバーに導入される、または
(ii) 前記免疫細胞を前記免疫調節チャンバーに通すのと同時またはその後に、前記腫瘍細胞が該免疫調節チャンバーに導入され、任意で、前記腫瘍細胞が、全血試料またはその免疫細胞含有部分中に含まれ、かつ、血液試料またはその免疫細胞含有部分が前記免疫調節チャンバーを通る際に該免疫調節チャンバー内の固体支持体上に拘束される、
請求項1~4のいずれか一項記載の
免疫調節チャンバー。
【請求項6】
前記腫瘍細胞および/または間質細胞が、捕捉部分によって前記固体支持体上に拘束され、任意で
(a) 前記捕捉部分が、腫瘍細胞および/または間質細胞の増殖の促進もする、および/または
(b) 前記捕捉部分が、抗体、細胞接着分子、およびそれらの組み合わせからなる群より選択され、任意で
(i) 前記抗体が、上皮細胞接着分子 (EpCAM)、αフェトプロテイン (AFP)、がん胎児抗原 (CEA)、がん抗原125 (CA-125)、MUC1、CD44、HER2、HER3、FGFR1、FGFR2、FGFR3、FGFR4、IGF1R、c-Met、EGFR、PD-L1、またはそれらの組み合わせに結合する抗体である、または
(ii) 前記細胞接着分子が、セレクチン、インテグリン、血管細胞接着分子1 (VCAM1)、およびそれらの組み合わせからなる群より選択され、さらに任意で前記セレクチンが、E-セレクチン、L-セレクチン、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、
請求項1~5のいずれか一項記載の
免疫調節チャンバー。
【請求項7】
前記炎症促進性サイトカインが、インターロイキン2 (IL-2)、インターロイキン4 (IL-4)、インターロイキン5 (IL-5)、インターロイキン6 (IL-6)、インターロイキン7 (IL-7)、インターロイキン-12 (IL-12) 、インターロイキン-15 (IL-15) 、インターロイキン17 (IL-17)、インターロイキン-18 (IL-18) 、インターロイキン22 (IL-22)、C-X-Cケモカイン受容体3型 (CXCR3)、インターフェロンγ (INFγ)、腫瘍壊死因子α (TNFα)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子 (GM-CSF)、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1~6のいずれか一項記載の
免疫調節チャンバー。
【請求項8】
前記免疫調節チャンバーが、
(a)免疫チェックポイント阻害剤、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ (IDO) 阻害剤、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される抗免疫阻害因子;任意で、前記免疫チェックポイント阻害剤が、プログラム細胞死1リガンド1 (PDL1)、プログラム細胞死タンパク質1 (PD1)、細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4 (CTLA4)、T細胞免疫グロブリン3 (TIM3)、リンパ球活性化遺伝子3 (LAG3)、T細胞活性化のVドメインIgサプレッサー (VISTA)、BおよびTリンパ球アテニュエーター (BTLA)、またはそれらの組み合わせを阻害する、
抗免疫阻害因子、および/または
(b) 対象特異的変異ペプチド;任意で前記対象特異的変異ペプチドが、EGFRvIIIペプチド、p95HER2ペプチド、活性化変異を含むEGFRペプチド、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、
対象特異的変異ペプチド
を
さらに含む、請求項1~7のいずれか一項記載の
免疫調節チャンバー。
【請求項9】
前記捕捉部分、炎症促進性サイトカイン、抗免疫阻害因子、および/または対象特異的変異ペプチドが、前記固体支持体に付着している、請求項6~8のいずれか一項記載の
免疫調節チャンバー。
【請求項10】
前記固体支持体が、前記免疫調節チャンバーの内部表面、または該免疫調節チャンバーの内部表面と接触している支持構造物を含み、任意で磁気組成物をさらに含み、任意で前記支持構造物がマトリックスを含む、請求項1~9のいずれか一項記載の
免疫調節チャンバー。
【請求項11】
前記捕捉部分、炎症促進性サイトカイン、抗免疫阻害因子、および/または対象特異的変異ペプチドが、前記固体支持体に共有結合で付着している、または前記捕捉部分、炎症促進性サイトカイン、抗免疫阻害因子、および/または対象特異的変異ペプチドが、前記固体支持体に磁力で付着しており、任意で前記捕捉部分、炎症促進性サイトカイン、抗免疫阻害因子、および/または対象特異的変異ペプチドが、磁気粒子を含む、および/または
(a) 前記固体支持体が磁気組成物を含み、前記捕捉部分、炎症促進性サイトカイン、抗免疫阻害因子、および/または対象特異的変異ペプチドが、該磁気組成物に磁力で付着している、または
(b) 前記捕捉部分、炎症促進性サイトカイン、抗免疫阻害因子、および/または対象特異的変異ペプチドを前記固体支持体に磁力で付着させるために、前記免疫調節チャンバーの外部の電磁場が用いられる、
請求項9または10記載の
免疫調節チャンバー。
【請求項12】
(a) 前記腫瘍細胞が、腫瘍溶解性ウイルス、放射線、および/または化学療法剤への曝露によりアポトーシスを起こすように誘導される、
(b) 前記対象がキメラ抗原受容体T細胞またはナチュラルキラー細胞を投与される、
(c) 前記免疫調節チャンバーが流量調整器をさらに含む、および/または
(d) 前記免疫調節チャンバーがポンプをさらに含む、
請求項1~11のいずれか一項記載の
免疫調節チャンバー。
【請求項13】
前記請求項12の(c)または(d)において、
(a) 前記流量調整器および/またはポンプが、前記免疫細胞が前記免疫調節チャンバーを通る速度を調整するために用いられる、および/または
(b) 前記免疫調節チャンバー内の酸素の利用可能性が、前記流量調整器および/もしくはポンプを用いて、該免疫調節チャンバーを通る全血の流速を調整することによって、ならびに/または該免疫調節チャンバーを通る赤血球細胞の数もしくは密度を調整することによって、制御される、
請求項12記載の
免疫調節チャンバー。
【請求項14】
前記方法において複数の免疫調節チャンバーが用いられ、任意で、
(a) 前記複数の免疫調節チャンバーが、それぞれ互いに流体連絡している、
(b) 前記複数の免疫調節チャンバーの各々が、異なる腫瘍細胞を含む、
(c) 第1免疫調節チャンバーが第2免疫調節チャンバーと置き換えられる、および/または
(d) 前記免疫細胞が前記免疫調節チャンバーを通った後に、前記腫瘍細胞が該免疫調節チャンバーから取り出され、該腫瘍細胞における1つまたは複数のバイオマーカーの存在またはレベルが検出され、任意で、前記対象に診断を提供するため、および/または該対象における疾患の処置を選択するために、前記1つまたは複数のバイオマーカーの存在またはレベルが用いられる、
請求項1~13のいずれか一項記載の
免疫調節チャンバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年8月4日に出願された米国仮特許出願第62/541,402号に対する優先権を主張し、その開示は、すべての目的のために全体として参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
免疫腫瘍学は、がん処置の最先端で急成長している分野である。悪性細胞を直接標的とするがん治療に反して、免疫腫瘍学治療は、腫瘍を標的とし攻撃するために身体の免疫系を活性化させる。免疫チェックポイント阻害剤、ワクチン接種、酵素阻害剤、インビトロT細胞改変、腫瘍細胞死の誘導、および二重特異性T細胞誘導を含む、いくつかの免疫腫瘍学方法が開発されている。
【0003】
チェックポイント阻害剤(CTLA-4、PD-1、およびPDL-1阻害剤など)は、典型的には、T細胞を不活性化させる受容体への腫瘍細胞の結合を遮断するモノクローナル抗体である。腫瘍細胞と腫瘍特異的免疫細胞との間のこの相互作用を破壊することで、免疫細胞の不活性化を妨げる。腫瘍細胞と免疫細胞との相互作用を標的とするには、腫瘍微小環境中に浸潤性リンパ球が存在することが必要である。
【0004】
がんに対する治療的ワクチン接種は、腫瘍細胞によって発現されるかまたは抗原提示細胞 (APC) によって提示される腫瘍抗原に対する免疫応答を誘導および/または救済する。このアプローチは、変異ペプチドまたは異常な翻訳後修飾を伴う変異原性の高い腫瘍に効果的である場合が多い。
【0005】
酵素阻害剤は、ある特定のアミノ酸の代謝が、がんに対する免疫応答を調節する上で重要であると同定されたという事実を利用するものである。インドールアミン-ピロール2,3-デオキシゲナーゼ (IDO) は、腫瘍微小環境において免疫応答を抑制するように制御性T細胞 (Treg) を誘導することが示された。したがって、IDO阻害は、免疫腫瘍学的治療の選択肢として探索されている。
【0006】
患者のT細胞のインビトロ改変を用いて、腫瘍を直接攻撃することができる。養子細胞移入は、これらの方法の最も古いものの一つであり、身体からT細胞を取り出し、次いでこれを拡大増殖させ、遺伝子改変して、腫瘍関連抗原 (TAA) に対する特異性のためのキメラ抗原受容体を有するT細胞(CAR T細胞)を作製し、次いでこれを患者に再導入することを伴う。CAR T細胞に基づく免疫腫瘍学戦略は、血液腫瘍の処置に非常に効果的であると予測されたが、固形腫瘍に対処する際のそれらの効果は期待外れであった。
【0007】
腫瘍溶解性ウイルス、局所放射線療法、または化学療法による腫瘍細胞死の誘導は、腫瘍細胞の死滅を促進する免疫応答を誘発する可能性を有する細胞毒性を引き起こす。二重特異性T細胞誘導は、表面受容体を通じてT細胞と腫瘍細胞を連結し、それによって強制的に免疫認識を起こすように働く改変抗体である。
【0008】
単独のまたは併用した、前述の治療の十分な治療可能性は、いまだ実現されていない。注目すべきことには、チェックポイント阻害剤は、いくつかのがんについて顕著な臨床反応をもたらしたが、がん患者の大多数はこの処置に反応しないか、または反応の持続時間が比較的短い。免疫腫瘍学治療がいずれも、いまだに非常に新しくかつ実証されていない、または患者の一部でしか成功していないことを考慮すると、がんおよび他の疾患を処置するための、免疫細胞を活性化させ得る新たな治療法の必要性が当技術分野において依然として存在する。本発明はこの必要性を満たすと同時に、関連する利点をもたらす。
【発明の概要】
【0009】
1つの局面において、本発明は、対象において免疫細胞を活性化させる方法を提供する。いくつかの態様において、本方法は、
(a) 対象から免疫細胞を単離する段階、
(b) 単離された免疫細胞を免疫調節チャンバーに通す段階であって、免疫調節チャンバーが、固体支持体、および免疫調節チャンバー内で固体支持体上に拘束された腫瘍細胞を含み、それによって、単離された免疫細胞が腫瘍細胞に曝露され、免疫細胞が活性化される、段階、ならびに
(c) 活性化した免疫細胞を対象に戻す段階
を含む。
【0010】
いくつかの態様において、本方法はエクスビボで行われる。他の態様において、本方法は、対象において自己の免疫応答を高める。いくつかの他の態様において、本方法は、対象において全身療法の有害作用を軽減または排除する。いくつかの態様において、免疫細胞は白血球または末梢血単核細胞 (PBMC) である。
【0011】
いくつかの態様において、免疫調節チャンバーは、固体支持体上に拘束された間質細胞および/または間質成分をさらに含む。他の態様において、免疫細胞は、対象から採取された全血試料中に含まれる。特定の態様においては、全血試料を免疫調節チャンバーに通す。
【0012】
いくつかの態様においては、免疫細胞含有部分を全血試料から単離し、全血試料の免疫細胞含有部分を免疫調節チャンバーに通す。いくつかの例において、全血試料の免疫細胞含有部分は、濾過法を用いて単離される。他の例において、全血試料の免疫細胞含有部分は、アフェレーシスを用いて単離される。いくつかの態様において、全血試料の免疫細胞含有部分は、全血試料を、免疫調節チャンバーと流体連絡している単離装置に通すことによって単離される。特定の態様においては、全血試料の免疫細胞含有部分および/または非免疫細胞含有部分を対象に戻す前に、免疫阻害因子および/または対象に有害作用を及ぼす因子を全血試料の免疫細胞含有部分および/または非免疫細胞含有部分から除去する。
【0013】
いくつかの態様において、免疫調節チャンバーは入口ポートおよび/または出口ポートをさらに含む。特定の態様において、入口および/または出口ポートは、対象の血管系、腹膜腔、胸膜腔、または脳脊髄液 (CSF) と流体連絡している。いくつかの例において、入口および/または出口ポートは、対象の静脈系と流体連絡している。他の例において、入口および/または出口ポートは、対象の動脈系と流体連絡している。
【0014】
いくつかの態様において、腫瘍細胞は循環腫瘍細胞 (CTC) である。他の態様において、腫瘍細胞は腫瘍細胞溶解物を含む。いくつかの態様において、腫瘍細胞は複数の腫瘍細胞を含む。他の態様において、腫瘍細胞は、生検材料、細針吸引液 (FNA)、外科的切除物、血液試料、胸水試料、腹水試料、CSF試料、またはそれらの組み合わせから得られる。いくつかの態様において、腫瘍細胞は、自己腫瘍細胞および/または自己腫瘍細胞溶解物を含む。特定の態様において、腫瘍細胞は、同種腫瘍細胞および/または同種腫瘍細胞溶解物を含む。
【0015】
いくつかの態様においては、免疫細胞を免疫調節チャンバーに通す前に、腫瘍細胞を免疫調節チャンバーに導入する。他の態様においては、免疫細胞を免疫調節チャンバーに通すのと同時またはその後に、腫瘍細胞を免疫調節チャンバーに導入する。特定の態様において、腫瘍細胞は、全血試料またはその免疫細胞含有部分中に含まれ、かつ、血液試料またはその免疫細胞含有部分が免疫調節チャンバーを通る際に免疫調節チャンバー内の固体支持体上に拘束される。
【0016】
いくつかの態様において、腫瘍および/または間質細胞は、捕捉部分によって固体支持体上に拘束される。特定の態様において、捕捉部分は、腫瘍および/または間質細胞の増殖の促進もする。いくつかの態様において、捕捉部分は、抗体、細胞接着分子、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。いくつかの例において、抗体は、上皮細胞接着分子 (EpCAM)、αフェトプロテイン (AFP)、がん胎児抗原 (CEA)、がん抗原125 (CA-125)、MUC1、CD44、HER2、HER3、FGFR1、FGFR2、FGFR3、FGFR4、IGF1R、c-Met、EGFR、PD-L1、またはそれらの組み合わせに結合する抗体である。いくつかの態様において、細胞接着分子は、セレクチン、インテグリン、血管細胞接着分子1 (VCAM1)、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。いくつかの例において、セレクチンは、E-セレクチン、L-セレクチン、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0017】
いくつかの態様において、免疫調節チャンバーは免疫促進因子をさらに含む。特定の態様において、免疫促進因子は、免疫刺激因子、抗免疫阻害因子、またはそれらの組み合わせである。いくつかの例において、免疫刺激因子は、インターロイキン2 (IL-2)、インターロイキン4 (IL-4)、インターロイキン5 (IL-5)、インターロイキン6 (IL-6)、インターロイキン-12 (IL-12) 、インターロイキン17 (IL-17)、インターロイキン22 (IL-22)、C-X-Cケモカイン受容体3型 (CXCR3)、インターフェロンγ (INFγ)、腫瘍壊死因子α (TNFα)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子 (GM-CSF)、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。いくつかの態様において、免疫刺激因子はIL-2である。いくつかの態様において、抗免疫阻害因子は、免疫チェックポイント阻害剤、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ (IDO) 阻害剤、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。いくつかの例において、免疫チェックポイント阻害剤は、プログラム細胞死1リガンド1 (PDL1)、プログラム細胞死タンパク質1 (PD1)、細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4 (CTLA4)、T細胞免疫グロブリン3 (TIM3)、リンパ球活性化遺伝子3 (LAG3)、T細胞活性化のVドメインIgサプレッサー (VISTA)、BおよびTリンパ球アテニュエーター (BTLA)、またはそれらの組み合わせを阻害する。
【0018】
いくつかの態様において、免疫調節チャンバーは対象特異的変異ペプチドをさらに含む。いくつかの例において、対象特異的変異ペプチドは、EGFRvIIIペプチド、p95HER2ペプチド、活性化変異を含むEGFRペプチド、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0019】
いくつかの態様において、捕捉部分、免疫促進因子、および/または対象特異的変異ペプチドは、固体支持体に付着している。他の態様において、固体支持体は、免疫調節チャンバーの内部表面、または免疫調節チャンバーの内部表面と接触している支持構造物を含み、任意で磁気組成物をさらに含む。特定の態様において、支持構造物はマトリックスを含む。
【0020】
いくつかの態様において、捕捉部分、免疫促進因子、および/または対象特異的変異ペプチドは、固体支持体に共有結合で付着している。他の態様において、捕捉部分、免疫促進因子、および/または対象特異的変異ペプチドは、固体支持体に磁力で付着している。いくつかの態様において、捕捉部分、免疫促進因子、および/または対象特異的変異ペプチドは、磁気粒子を含む。特定の態様において、固体支持体は磁気組成物を含み、捕捉部分、免疫促進因子、および/または対象特異的変異ペプチドは、磁気組成物に磁力で付着している。他の態様においては、捕捉部分、免疫促進因子、および/または対象特異的変異ペプチドを固体支持体に磁力で付着させるために、免疫調節チャンバーの外部の電磁場が用いられる。
【0021】
いくつかの態様において、腫瘍細胞は、腫瘍溶解性ウイルス、放射線、および/または化学療法剤への曝露により、アポトーシスを起こすように誘導される。他の態様においては、対象にキメラ抗原受容体T細胞が投与される。
【0022】
いくつかの態様において、免疫調節チャンバーは流量調整器をさらに含む。他の態様において、免疫調節チャンバーはポンプをさらに含む。いくつかの態様において、流量調整器および/またはポンプは、免疫細胞が免疫調節チャンバーを通る速度を調整するために用いられる。特定の態様において、免疫調節チャンバー内の酸素の利用可能性は、流量調整器および/もしくはポンプを用いて、免疫調節チャンバーを通る全血の流速を調整することによって、ならびに/または免疫調節チャンバーを通る赤血球細胞の数もしくは密度を調整することによって制御される。
【0023】
いくつかの態様においては、複数の免疫調節チャンバーが用いられる。特定の態様において、複数の免疫調節チャンバーはそれぞれ互いに流体連絡している。いくつかの態様において、複数の免疫調節チャンバーの各々は、異なる腫瘍細胞を含む。いくつかの態様において、第1免疫調節チャンバーは第2免疫調節チャンバーと置き換えられる。他の態様においては、免疫細胞が免疫調節チャンバーを通った後に、腫瘍細胞が免疫調節チャンバーから取り出され、腫瘍細胞における1つまたは複数のバイオマーカーの存在またはレベルが検出される。いくつかの例においては、対象に診断を提供するため、および/または対象における疾患の処置を選択するために、1つまたは複数のバイオマーカーの存在またはレベルが用いられる。
【0024】
別の局面において、本発明は、対象においてがんを処置する方法を提供する。いくつかの態様において、本方法は、本発明の方法に従って免疫細胞を活性化させる段階を含む。特定の態様において、がんは固形腫瘍を含む。いくつかの態様において、がんは、肺がん、脳がん、乳がん、胃がん、結腸直腸がん、前立腺がん、卵巣がん、メラノーマ、肉腫、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0025】
別の局面において、本発明は、対象において腫瘍に対する免疫応答を誘導する方法を提供する。いくつかの態様において、本方法は、本発明の方法に従って免疫細胞を活性化させる段階を含む。いくつかの態様において、腫瘍は、免疫調節チャンバー内の固体支持体上に拘束されている腫瘍細胞と同じ種類の腫瘍細胞を含む。特定の態様において、腫瘍は固形腫瘍である。いくつかの態様において、腫瘍は、肺がん、脳がん、乳がん、胃がん、結腸直腸がん、前立腺がん、卵巣がん、メラノーマ、肉腫、およびそれらの組み合わせからなる群より選択されるがんに由来する。
【0026】
[本発明1001]
対象において免疫細胞を活性化させる方法であって、
(a) 該対象からの免疫細胞を免疫調節チャンバーに通す段階であって、該免疫調節チャンバーが、固体支持体と、該免疫調節チャンバー内で該固体支持体上に拘束された腫瘍細胞とを含み、それによって該免疫細胞が該腫瘍細胞に曝露されて該免疫細胞が活性化される、段階、ならびに
(b) 活性化した該免疫細胞を該対象に戻す段階
を含む、方法。
[本発明1002]
エクスビボで行われる、本発明1001の方法。
[本発明1003]
前記対象において自己の免疫応答を高める、本発明1001または1002の方法。
[本発明1004]
前記対象において全身療法の有害作用を軽減または排除する、本発明1001~1003のいずれかの方法。
[本発明1005]
前記免疫細胞が、白血球または末梢血単核細胞 (PBMC) である、本発明1001~1004のいずれかの方法。
[本発明1006]
前記免疫調節チャンバーが、前記固体支持体上に拘束された間質細胞および/または間質成分をさらに含む、本発明1001~1005のいずれかの方法。
[本発明1007]
前記免疫細胞が、前記対象から採取された全血試料中に含まれる、本発明1001~1006のいずれかの方法。
[本発明1008]
前記全血試料が前記免疫調節チャンバーに通される、本発明1007の方法。
[本発明1009]
前記全血試料から免疫細胞含有部分が単離され、該全血試料の該免疫細胞含有部分が前記免疫調節チャンバーに通される、本発明1007の方法。
[本発明1010]
前記全血試料の前記免疫細胞含有部分が、濾過法を用いて単離される、本発明1009の方法。
[本発明1011]
前記全血試料の前記免疫細胞含有部分が、アフェレーシスを用いて単離される、本発明1009の方法。
[本発明1012]
前記全血試料の前記免疫細胞含有部分が、該全血試料を、前記免疫調節チャンバーと流体連絡している単離装置に通すことによって単離される、本発明1009~1011のいずれかの方法。
[本発明1013]
前記全血試料の免疫細胞含有部分および/または非免疫細胞含有部分を前記対象に戻す前に、該全血試料の免疫細胞含有部分および/または非免疫細胞含有部分から、免疫阻害因子および/または該対象に有害作用を及ぼす因子が除去される、本発明1009~1012のいずれかの方法。
[本発明1014]
前記免疫調節チャンバーが、入口ポートおよび/または出口ポートをさらに含む、本発明1001~1013のいずれかの方法。
[本発明1015]
前記入口および/または出口ポートが、前記対象の血管系、腹膜腔、胸膜腔、または脳脊髄液 (CSF) と流体連絡している、本発明1014の方法。
[本発明1016]
前記入口および/または出口ポートが、前記対象の静脈系と流体連絡している、本発明1015の方法。
[本発明1017]
前記入口および/または出口ポートが、前記対象の動脈系と流体連絡している、本発明1015の方法。
[本発明1018]
前記腫瘍細胞が循環腫瘍細胞 (CTC) である、本発明1001~1017のいずれかの方法。
[本発明1019]
前記腫瘍細胞が腫瘍細胞溶解物を含む、本発明1001~1018のいずれかの方法。
[本発明1020]
前記腫瘍細胞が複数の腫瘍細胞を含む、本発明1001~1019のいずれかの方法。
[本発明1021]
前記腫瘍細胞が、生検材料、細針吸引液 (FNA)、外科的切除物、血液試料、胸水試料、腹水試料、CSF試料、またはそれらの組み合わせから得られる、本発明1001~1020のいずれかの方法。
[本発明1022]
前記腫瘍細胞が、自己腫瘍細胞および/または自己腫瘍細胞溶解物を含む、本発明1001~1021のいずれかの方法。
[本発明1023]
前記腫瘍細胞が、同種腫瘍細胞および/または同種腫瘍細胞溶解物を含む、本発明1001~1021のいずれかの方法。
[本発明1024]
前記免疫細胞を前記免疫調節チャンバーに通す前に、前記腫瘍細胞が該免疫調節チャンバーに導入される、本発明1001~1023のいずれかの方法。
[本発明1025]
前記免疫細胞を前記免疫調節チャンバーに通すのと同時またはその後に、前記腫瘍細胞が該免疫調節チャンバーに導入される、本発明1001~1023のいずれかの方法。
[本発明1026]
前記腫瘍細胞が、全血試料またはその免疫細胞含有部分中に含まれ、かつ、血液試料またはその免疫細胞含有部分が前記免疫調節チャンバーを通る際に該免疫調節チャンバー内の固体支持体上に拘束される、本発明1025の方法。
[本発明1027]
前記腫瘍細胞および/または間質細胞が、捕捉部分によって前記固体支持体上に拘束される、本発明1001~1026のいずれかの方法。
[本発明1028]
前記捕捉部分が、腫瘍細胞および/または間質細胞の増殖の促進もする、本発明1027の方法。
[本発明1029]
前記捕捉部分が、抗体、細胞接着分子、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、本発明1027または1028の方法。
[本発明1030]
前記抗体が、上皮細胞接着分子 (EpCAM)、αフェトプロテイン (AFP)、がん胎児抗原 (CEA)、がん抗原125 (CA-125)、MUC1、CD44、HER2、HER3、FGFR1、FGFR2、FGFR3、FGFR4、IGF1R、c-Met、EGFR、PD-L1、またはそれらの組み合わせに結合する抗体である、本発明1029の方法。
[本発明1031]
前記細胞接着分子が、セレクチン、インテグリン、血管細胞接着分子1 (VCAM1)、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、本発明1029の方法。
[本発明1032]
前記セレクチンが、E-セレクチン、L-セレクチン、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、本発明1031の方法。
[本発明1033]
前記免疫調節チャンバーが、免疫促進因子をさらに含む、本発明1001~1032のいずれかの方法。
[本発明1034]
前記免疫促進因子が、免疫刺激因子、抗免疫阻害因子、またはそれらの組み合わせである、本発明1033の方法。
[本発明1035]
前記免疫刺激因子が、インターロイキン2 (IL-2)、インターロイキン4 (IL-4)、インターロイキン5 (IL-5)、インターロイキン6 (IL-6)、インターロイキン-12 (IL-12) 、インターロイキン17 (IL-17)、インターロイキン22 (IL-22)、C-X-Cケモカイン受容体3型 (CXCR3)、インターフェロンγ (INFγ)、腫瘍壊死因子α (TNFα)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子 (GM-CSF)、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、本発明1034の方法。
[本発明1036]
前記免疫刺激因子がIL-2である、本発明1034または1035の方法。
[本発明1037]
前記抗免疫阻害因子が、免疫チェックポイント阻害剤、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ (IDO) 阻害剤、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、本発明1034の方法。
[本発明1038]
前記免疫チェックポイント阻害剤が、プログラム細胞死1リガンド1 (PDL1)、プログラム細胞死タンパク質1 (PD1)、細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4 (CTLA4)、T細胞免疫グロブリン3 (TIM3)、リンパ球活性化遺伝子3 (LAG3)、T細胞活性化のVドメインIgサプレッサー (VISTA)、BおよびTリンパ球アテニュエーター (BTLA)、またはそれらの組み合わせを阻害する、本発明1037の方法。
[本発明1039]
前記免疫調節チャンバーが、対象特異的変異ペプチドをさらに含む、本発明1001~1038のいずれかの方法。
[本発明1040]
前記対象特異的変異ペプチドが、EGFRvIIIペプチド、p95HER2ペプチド、活性化変異を含むEGFRペプチド、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、本発明1039の方法。
[本発明1041]
前記捕捉部分、免疫促進因子、および/または対象特異的変異ペプチドが、前記固体支持体に付着している、本発明1027~1040のいずれかの方法。
[本発明1042]
前記固体支持体が、前記免疫調節チャンバーの内部表面、または該免疫調節チャンバーの内部表面と接触している支持構造物を含み、任意で磁気組成物をさらに含む、本発明1001~1041のいずれかの方法。
[本発明1043]
前記支持構造物がマトリックスを含む、本発明1042の方法。
[本発明1044]
前記捕捉部分、免疫促進因子、および/または対象特異的変異ペプチドが、前記固体支持体に共有結合で付着している、本発明1041~1043のいずれかの方法。
[本発明1045]
前記捕捉部分、免疫促進因子、および/または対象特異的変異ペプチドが、前記固体支持体に磁力で付着している、本発明1041~1043のいずれかの方法。
[本発明1046]
前記捕捉部分、免疫促進因子、および/または対象特異的変異ペプチドが、磁気粒子を含む、本発明1045の方法。
[本発明1047]
前記固体支持体が磁気組成物を含み、前記捕捉部分、免疫促進因子、および/または対象特異的変異ペプチドが、該磁気組成物に磁力で付着している、本発明1045または1046の方法。
[本発明1048]
前記捕捉部分、免疫促進因子、および/または対象特異的変異ペプチドを前記固体支持体に磁力で付着させるために、前記免疫調節チャンバーの外部の電磁場が用いられる、本発明1045または1046の方法。
[本発明1049]
前記腫瘍細胞が、腫瘍溶解性ウイルス、放射線、および/または化学療法剤への曝露によりアポトーシスを起こすように誘導される、本発明1001~1048のいずれかの方法。
[本発明1050]
前記対象がキメラ抗原受容体T細胞を投与される、本発明1001~1049のいずれかの方法。
[本発明1051]
前記免疫調節チャンバーが流量調整器をさらに含む、本発明1001~1050のいずれかの方法。
[本発明1052]
前記免疫調節チャンバーがポンプをさらに含む、本発明1001~1051のいずれかの方法。
[本発明1053]
前記流量調整器および/またはポンプが、前記免疫細胞が前記免疫調節チャンバーを通る速度を調整するために用いられる、本発明1051または1052の方法。
[本発明1054]
前記免疫調節チャンバー内の酸素の利用可能性が、前記流量調整器および/もしくはポンプを用いて、該免疫調節チャンバーを通る全血の流速を調整することによって、ならびに/または該免疫調節チャンバーを通る赤血球細胞の数もしくは密度を調整することによって、制御される、本発明1051~1053のいずれかの方法。
[本発明1055]
複数の免疫調節チャンバーが用いられる、本発明1001~1054のいずれかの方法。
[本発明1056]
前記複数の免疫調節チャンバーが、それぞれ互いに流体連絡している、本発明1055の方法。
[本発明1057]
前記複数の免疫調節チャンバーの各々が、異なる腫瘍細胞を含む、本発明1055または1056の方法。
[本発明1058]
第1免疫調節チャンバーが第2免疫調節チャンバーと置き換えられる、本発明1001~1057のいずれかの方法。
[本発明1059]
前記免疫細胞が前記免疫調節チャンバーを通った後に、前記腫瘍細胞が該免疫調節チャンバーから取り出され、該腫瘍細胞における1つまたは複数のバイオマーカーの存在またはレベルが検出される、本発明1001~1058のいずれかの方法。
[本発明1060]
前記対象に診断を提供するため、および/または該対象における疾患の処置を選択するために、前記1つまたは複数のバイオマーカーの存在またはレベルが用いられる、本発明1059の方法。
[本発明1061]
対象においてがんを処置する方法であって、本発明1001~1060のいずれかの方法に従って免疫細胞を活性化させる段階を含む、方法。
[本発明1062]
前記がんが固形腫瘍を含む、本発明1061の方法。
[本発明1063]
前記がんが、肺がん、脳がん、乳がん、胃がん、結腸直腸がん、前立腺がん、卵巣がん、メラノーマ、肉腫、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、本発明1061または1062の方法。
[本発明1064]
対象において腫瘍に対する免疫応答を誘導する方法であって、本発明1001~1060のいずれかの方法に従って免疫細胞を活性化させる段階を含む、方法。
[本発明1065]
前記腫瘍が、免疫調節チャンバー内の固体支持体上に拘束されている腫瘍細胞と同じ種類の腫瘍細胞を含む、本発明1064の方法。
[本発明1066]
前記腫瘍が固形腫瘍である、本発明1064または1065の方法。
[本発明1067]
前記腫瘍が、肺がん、脳がん、乳がん、胃がん、結腸直腸がん、前立腺がん、卵巣がん、メラノーマ、肉腫、およびそれらの組み合わせからなる群より選択されるがんに由来する、本発明1064~1066のいずれかの方法。
本発明の他の目的、特徴、および利点は、以下の詳細な説明および図面から当業者に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明のある特定の態様の模式図を示す。1つの態様においては、全血を対象から採取し、免疫調節チャンバーに通し、対象に戻す。第2の態様においては、全血を対象から採取して濾過し、免疫細胞含有部分を免疫調節チャンバーに通す。免疫細胞含有部分および/または非免疫細胞含有部分を対象に戻す。免疫細胞含有部分および非免疫細胞含有部分の両方を対象に戻す場合、それらは独立して対象に戻すか、または組み合わせて対象に戻すことができる。第3の態様においては、全血を対象から採取してアフェレーシスを行い、免疫細胞含有部分を免疫調節チャンバーに通す。免疫細胞含有部分および/または非免疫細胞含有部分を対象に戻す。免疫細胞含有部分および非免疫細胞含有部分の両方を対象に戻す場合、それらは独立して対象に戻すか、または組み合わせて対象に戻すことができる。
【
図2】免疫調節チャンバーの外観図を示す。描写される態様において、血液は入口ポートから免疫調節チャンバーに入り、免疫調節チャンバーを通り、出口ポートから出る。電磁パッドを用いて磁場を生成して、捕捉部分を固体支持体に付着させるか、または腫瘍細胞もしくは他の成分を免疫調節チャンバー内に拘束する。
【
図3】本発明の方法による、腫瘍を標的とする免疫細胞の活性化を示す。白血球を対象から単離し、免疫調節チャンバーに通し、ここで白血球は、腫瘍抗原特異的抗体および磁気粒子を含む捕捉部分により拘束された腫瘍細胞に曝露される。白血球が免疫調節チャンバーを通る際に、腫瘍抗原特異的白血球のいくつかが活性化する。活性化腫瘍抗原特異的白血球および非活性化腫瘍抗原特異的白血球の両方を対象に戻す。
【
図4A】
図4Aおよび4Bは、本発明の方法において使用され得る免疫調節チャンバーを示す。これらの図は、免疫調節チャンバー内に位置する支持構造物(例えば、マトリックスを含む)を示す。
図4Aは、腫瘍細胞、間質細胞、および/または間質成分の免疫調節チャンバーへの注入を示し、ここでそれらは支持構造物内に拘束される。リンパ節から採取された細胞(例えば、対象のリンパ節から採取された免疫細胞)もまた免疫調節チャンバーに注入され、支持構造物内に拘束され得る。
図4Bは、免疫調節チャンバー内に流入した血液が、チャンバーから流出する前に支持構造物と接触することを示す。任意に、免疫調節チャンバーは電磁パッドを含み得るか、またはその上に位置し得る。支持構造物は、数あるなかでもとりわけ、自己免疫細胞療法、および発達中の疾患の包括的リアルタイムプロファイリング(例えば、臨床腫瘍学のための)に有用である。非限定的な例として、支持構造物は、リアルタイム腫瘍細胞捕捉、継続的腫瘍細胞プロファイリング、免疫細胞プロファイリング、および腫瘍特異的免疫細胞活性化を可能にする。
【
図5】実施例1に記載されるヒト化マウスモデル研究の模式図を示す。CD34
+細胞を免疫不全マウスに注入することにより、ヒト化マウス(陰影付き)を作出する。続いて、患者由来腫瘍異種移植片をヒト化マウスの皮下に接種する。腫瘍が適切なサイズに到達したならば、細針吸引試料を採取し、免疫調節チャンバーに導入する。末梢血単核細胞 (PBMC) もまた、ヒト化マウスから採取され、循環ポンプによって免疫調節チャンバーに通され、そこでそれらは腫瘍細胞に曝露され、活性化する。
【
図6】実施例1に記載されるヒト化マウスモデル研究の後期の模式図を示す。免疫調節チャンバーを通ることによって活性化した免疫細胞を引き出し、ヒト化マウス腫瘍モデルに注入し、腫瘍サイズを変化についてモニターする。
【
図7】実施例2に記載されるインビトロ研究の模式図を示す。細針吸引液 (FNA) 試料をがん患者から採取し、第1免疫調節チャンバーに導入し、それを循環ネットワークに挿入する。コア生検材料もまた患者から採取し、第2免疫調節チャンバーに導入する。PBMCを対象から採取し、循環ネットワークに導入し、そこでそれらを循環ポンプによって第1免疫調節チャンバーに通す。
【
図8】実施例2に記載されるインビトロ研究の後期の模式図を示す。第2免疫調節チャンバー内の腫瘍細胞コロニーが適切なサイズに到達したならば、第2免疫調節チャンバーを循環ネットワークに接続する。第1免疫調節チャンバーを通ることによって活性化した免疫細胞を、第2免疫調節チャンバー内の腫瘍細胞コロニーに曝露し、腫瘍細胞コロニーに及ぼすこれらの活性化免疫細胞の効果をモニターする。
【
図9】実施例3に記載されるインビトロ自己免疫細胞活性化実験の模式図を示す。
【
図10】IL-2の存在下で成長した共培養物において観察された腫瘍細胞と免疫細胞の相互作用を示す。IL-2を伴って成長したPan02-H2bGFP腫瘍細胞とRFP-免疫細胞の共培養物を、1日目および7日目に光学顕微鏡法および蛍光顕微鏡法によって解析した。拡大率600xで撮影された代表的な明視野像、蛍光像、および合成像を示す。矢頭は、RFP発現免疫細胞を指し示す。実線矢印および破線矢印は、それぞれ免疫細胞と相互作用していたおよび相互作用していなかったGFP標識腫瘍細胞を指し示す。免疫細胞は全細胞RFP発現を示す一方、腫瘍細胞は核GFP発現を示した。
【
図11】IL-2の存在下または非存在下で成長した腫瘍および免疫細胞共培養物を示す。左側パネルに図示されるように、GFP標識マウスメラノーマ細胞を同系RFP-免疫細胞と、IL-2を伴ってまたは伴わずに共培養した。共培養物を4日目まで観察し、蛍光顕微鏡法によって解析した。2日目および3日目に得られた代表的な蛍光像を示す。四角は、RFP発現免疫細胞 (IC) とGFP発現腫瘍細胞 (TC) との間の相互作用を囲んでいる。免疫細胞および腫瘍細胞はいずれも、それぞれRFPおよびGFPの全細胞発現を示した。
【
図12】
図4に記載される体外免疫細胞活性化実験の模式図を示す。右上隅に、VITVO(登録商標)組織培養装置が示される。
【
図13】拡大率200xで撮影された免疫調節チャンバー培養物の代表的な蛍光像を示す。免疫細胞および腫瘍細胞はいずれも、それぞれRFPおよびGFPの全細胞発現を示した。四角は、免疫細胞と腫瘍細胞の相互作用を強調表示する。
【
図14】実施例5に記載される自己免疫細胞療法のインビボモデルの模式図を示す。
【
図15】6日目に屠殺された動物(各実験群から1匹のマウスが屠殺された)の全身画像化(上部パネル)、およびその末梢血から単離されたPBMCのサイトメトリー解析(下部パネル)を示す。サイトメトリーデータは、前方散乱(y軸)と関連したRFP蛍光(x軸)を示す。RFP陽性およびRFP陰性免疫細胞集団は、それぞれ実線および破線に囲まれている。群1に関して、矢印は、GFP-膵臓腫瘍保有マウスモデルの腹膜腔内に存在した、目に見える腫瘍を指し示す。膀胱において(破線矢印)、および腸の内層に沿った内臓間隙の全体にわたって(破線に囲まれている)、蛍光性の腫瘍細胞および/または腫瘍細胞デブリが見えた。群2に関して、Pan02-H2bGFP細胞を注射したマウスの腹膜腔内に、目に見える腫瘍は存在しなかった。さらに、蛍光スキャニングにより、GFP-腫瘍細胞の証拠は観察されなかった。群3に関して、矢印は、GFP-膵臓腫瘍保有マウスモデルの腹膜腔内に存在した、目に見える腫瘍を指し示す。膀胱において(破線矢印)、蛍光性の腫瘍細胞および/または腫瘍細胞デブリが見えた;しかしながら、GFP蛍光は対照マウスよりも弱かった。
【
図16-1】
図16A~16Gは、17日目に屠殺された動物の全身の画像化、ならびにその組織、およびその末梢血から単離されたPBMCのサイトメトリー解析を示す。
図16Aは、群1マウスの明視野像(左側)および蛍光像(右側)を示す。矢印は、GFP-膵臓腫瘍保有マウスモデルの腹膜腔内に存在した、目に見える腫瘍を指し示す。腸の内層に沿った内臓間隙の全体にわたって(破線に囲まれている)、蛍光性の腫瘍細胞が見えた。
図16Bは、網(右側)と共に回収された(左側)疑わしい腫瘍試料の画像を示す。
図16Cは、疑わしい腫瘍試料(左側)および網(中央)、ならびにこのマウスから収集されたPBMC(右側)に存在する細胞のサイトメトリー解析を示す。
図16Dは、群2マウスの明視野像(左側)および蛍光像(右側)を示す。Pan02-H2bGFP細胞を注射したマウスの腹膜腔内に、目に見える腫瘍は存在しなかった。蛍光スキャニングにより、GFP-腫瘍細胞の証拠は観察されなかった。
図16Eは、網(右側)と共に回収された(左側)疑わしい腫瘍試料の画像を示す。
図16Fは、疑わしい腫瘍試料(左側)および網(中央)、ならびにこのマウスから収集されたPBMC(右側)に存在する細胞のサイトメトリー解析を示す。
図16Gは、群3マウスの明視野像(左側)および蛍光像(右側)を示す。矢印は、GFP-膵臓腫瘍保有マウスモデルの腹膜腔内に存在した、目に見える腫瘍を指し示す。腸の内層に沿った内臓間隙の全体にわたって(破線に囲まれている)、蛍光性の腫瘍細胞が見えた。このマウスは検査の前に死亡し、さらなるサイトメトリー解析は行わなかった。
【発明を実施するための形態】
【0028】
発明の詳細な説明
I. 序論
本発明は、一部には、免疫機能の調節不全によって起こる疾患に罹患している対象において、免疫経路を調節して十分にバランスの取れた免疫均衡を回復し、その結果として腫瘍学および医学の他の分野における満たされていない臨床的必要性に対処することができる方法の開発に基づいている。本発明の方法によると、免疫細胞(例えば、血液試料中に存在する)を対象(例えば、患者)から採取(例えば、単離)し、免疫調節チャンバーに通し、それによって免疫細胞が活性化し、その後これを対象に戻す。免疫調節チャンバーは、罹患した細胞(例えば、腫瘍細胞、間質細胞)、組織、または細胞物質を受け入れることができ、免疫細胞は免疫調節チャンバーを通る際にそれらに曝露され、その結果として免疫調節チャンバーは免疫細胞を活性化させることができる。任意に、本発明の方法は、試料(例えば、全血試料)をアフェレーシス法または濾過法で処理することにより、試料の一部を単離する段階をさらに含み、次いで試料の免疫細胞含有部分を免疫調節チャンバーに通す(
図1)。免疫細胞含有部分の単離は、例えば、免疫調節チャンバーおよび/または対象に接続されている単離装置において行うことができる。
【0029】
いくつかの態様において、免疫調節チャンバーは、腫瘍特異的免疫細胞の活性化が起こってから、活性化免疫細胞(例えば、白血球)が対象(例えば、がん患者)の静脈内に再循環して戻るリンパ節を模倣する。腫瘍特異的免疫細胞のエクスビボ活性化によってがん患者を処置するための本方法の新規アプローチは、患者において腫瘍特異的な自己の免疫応答を最大限にすることができ、それと同時に全身処置でしばしば観察される有害作用を最小限にするという点で有利である。免疫細胞の大多数は腫瘍特異的ではないため、免疫細胞の集団を濃縮し、腫瘍特異的免疫応答を最大限にすることは、特に重要である。
【0030】
いくつかの態様においては、単離された腫瘍細胞が免疫調節チャンバー内に拘束されるため、免疫調節チャンバーはまた腫瘍微小環境を模倣する。本発明の特別な利点は、免疫細胞は間質性障壁のために腫瘍細胞に接近できない場合が多いが、免疫調節チャンバー内ではこれらの障壁が除去されるという点である。拘束された腫瘍細胞は、循環して対象の循環中に戻るのを妨げられるが、活性化免疫細胞(例えば、白血球)は、全身処置効果を得るために循環して対象に戻ることができる。免疫促進因子は、免疫調節チャンバー内の局所環境を向上させて、腫瘍特異的免疫応答を増強する、および/または免疫抑制された腫瘍特異的免疫細胞に対する阻害効果を逆転させることができる。
【0031】
本発明の方法によると、腫瘍細胞は、免疫調節チャンバー内に捕捉されるか(例えば、循環腫瘍細胞の免疫磁気濃縮による)、または免疫調節チャンバーに導入される(例えば、腫瘍細胞または腫瘍細胞含有標本、例えば細針吸引液、コア生検標本、胸水もしくは腹水試料などの注入による)。免疫調節チャンバーは、深度の浅い三次元構造(アガロースゲルまたはMatrigelなど)を提供することができ、この構造はまた、磁気粒子を含み得、および/または腫瘍細胞に特異的である捕捉抗体(例えば、抗EpCAM抗体)もしくは特異的な免疫細胞-腫瘍細胞相互作用を促進する細胞接着因子で装飾され得る(
図2~4)。固定化された刺激性サイトカインもまた、免疫調節チャンバー内に存在して、効率的な腫瘍抗原特異的免疫細胞(すなわち、白血球)活性化をもたらし得る。このアプローチは、そのような薬剤が対象の全身に導入された場合に起こる有害作用を回避しながら、刺激性サイトカインの効果が、意図される標的(すなわち、免疫細胞)に限定され得るという利点をもたらす。
【0032】
本発明は、治療適用および/または診断適用のために用いることができる。治療適用については、免疫調節チャンバーを本発明の方法において用いて、例えば、腫瘍および/または間質細胞内容物を捕捉し、ならびにがん特異的免疫細胞活性化を促進することができる。診断適用については、免疫調節チャンバーを本発明の方法において用いて、例えば、循環腫瘍細胞 (CTC) を継続的に捕捉し、ならびに腫瘍応答のリアルタイム観察を促進し、これにより次にリアルタイム処置フィードバック、用量最適化、および/または処置調整を可能にすることができる。
【0033】
II. 定義
本明細書で用いられる場合、以下の用語は、特に指定がない限り、それらに帰する意味を有する。
【0034】
本明細書において用いられる「1つの (a)」、「1つの (an)」、または「その」という用語は、1つのメンバーを有する局面を含むのみならず、2つ以上のメンバーを有する局面も含む。例えば、「1つの (a)」、「1つの (an)」、および「その」という単数形は、文脈上明白に別の意味を示していない限り、複数の指示対象も含む。したがって、例えば、「1つの細胞」への言及は複数のそのような細胞を含み、「その薬剤」への言及は当業者に公知の1つまたは複数の薬剤への言及を含み、以下同様である。
【0035】
本明細書で用いられる「約」および「およそ」という用語は、一般に、測定の性質または精度を考慮して、測定された量に対して許容される誤差の程度を意味するものとする。典型的には、例示的な誤差の程度は、所与の値または値の範囲の20パーセント (%) 以内、好ましくは10%以内、およびより好ましくは5%以内である。「約X」への任意の言及は、具体的には、少なくとも値X、0.95X、0.96X、0.97X、0.98X、0.99X、1.01X、1.02X、1.03X、1.04X、および1.05Xを示す。したがって、「約X」は、例えば「0.98X」という特許請求の範囲の限定に対する明細書のサポートを教示または提供することが意図される。
【0036】
「免疫細胞を活性化させる」という用語は、免疫細胞が抗原(例えば、腫瘍抗原)を認識するか、または抗原に対する直接的もしくは間接的応答を開始する能力が増大するように、免疫細胞内の1つまたは複数の生物学的経路および/または機能を誘導する、誘発する、または強化することを指す。いくつかの態様において、免疫細胞活性化は、対象において免疫応答(例えば、腫瘍に対する)を誘導する。
【0037】
「免疫応答」という用語は、抗原(例えば、腫瘍細胞抗原)により対象において誘導される、誘発される、または強化される任意の応答を指す。本用語は、免疫細胞(例えば、B細胞およびT細胞)の発生、成熟、分化、および活性化、ならびに抗原に対する抗体の産生を含む。本用語はまた、免疫機能の調節に関与するサイトカインの発現または活性の増加または減少も含む。
【0038】
「対象」、「個体」、および「患者」という用語は、本明細書において互換的に使用されて、脊椎動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトを指す。哺乳動物には、齧歯類(例えば、マウス、ラット)、類人猿、ヒト、家畜、運動競技用動物、およびペットが含まれるが、これらに限定されない。
【0039】
「がん」という用語は、異常な細胞の制御されない成長を特徴とする疾患クラスの任意のメンバーを含むことが意図される。本用語は、悪性、良性、再発性、軟組織、または固形として特徴づけられるかどうかにかかわらず、すべての公知のがんおよび新生物状態、ならびに進行がん、転移前および転移後のがんを含むすべてのステージおよびグレードのがんを含む。本発明の方法による処置に適したがんの非限定的な例は、本明細書において記載される。
【0040】
がんとの関連において、「ステージ」という用語は、がんの程度の分類を指す。がんをステージ分けする場合に考慮される要因には、腫瘍サイズ、隣接組織の腫瘍浸潤、および腫瘍が他の部位に転移したかどうかが含まれるが、これらに限定されない。1つのステージを別のステージと区別するための特定の基準およびパラメーターは、がんの種類に応じて変動し得る。がんのステージ分けは、例えば、予後の判定および/または最も適切な処置選択肢の特定を助けるために用いられる。
【0041】
がんのステージ分けシステムの非限定的な一例は、「TNM」システムと称される。TNMシステムにおいて、「T」は、主要な腫瘍のサイズおよび程度を指し、「N」は、がんが広がった隣接リンパ節の数を指し、「M」は、がんが転移したかどうかを指す。「TX」は、主要な腫瘍を測定できないことを意味し、「T0」は、主要な腫瘍を見出すことができないことを意味し、「T1」、「T2」、「T3」、および「T4」は、主要な腫瘍のサイズおよび/または程度を意味し、この場合、より大きな数字は、より大きな腫瘍および/または隣接組織内に成長した腫瘍に対応する。「NX」は、隣接リンパ節内のがんを測定できないことを意味し、「N0」は、隣接リンパ節内にがんがないことを意味し、「N1」、「N2」、「N3」、および「N4」は、がんが広がったリンパ節の数および位置を意味し、この場合、より大きい数字は、がんを含むリンパ節の数がより多いことに対応する。「MX」は、転移を測定できないことを意味し、「M0」は、転移が起こっていないことを意味し、「M1」は、がんが身体の他の部分に転移したことを意味する。
【0042】
がんのステージ分けシステムの別の非限定的な例において、がんは、5つのステージ:「ステージ0」、「ステージI」、「ステージII」、「ステージIII」、および「ステージIV」のうちの1つを有すると分類またはグレード分けされる。ステージ0は、異常な細胞が存在するが、隣接組織に広がっていないことを意味する。これは一般に上皮内がん (CIS) とも称される。CISはがんではないが、後になってがんに発達する場合がある。ステージI、II、およびIIIは、がんが存在することを意味する。より大きな数字は、より大きな腫瘍サイズおよび/または隣接組織に広がった腫瘍に対応する。ステージIVは、がんが転移したことを意味する。当業者は、異なるがんステージ分けシステムを熟知しており、それらを容易に適用および/または解釈することができる。
【0043】
「生検」という用語は、診断または予後評価のために組織試料を取り出すプロセス、および組織標本自体を指す。当技術分野において公知の任意の生検技法を、本発明の方法および組成物に適用することができる。適用される生検技法は一般に、数ある要因の中でもとりわけ、評価されるべき組織型ならびに腫瘍のサイズおよび種類(すなわち、固形または懸濁状態(すなわち、血液、胸腔穿刺吸引液、または腹水))に依存する。代表的な生検技法には、切除生検、切開生検、針生検(例えば、コア針生検、細針吸引生検、等)、外科的生検、および骨髄生検が含まれる。生検技法は、例えば、Harrison's Principles of Internal Medicine, Kasper, et al., eds., 16th ed., 2005, Chapter 70およびPart V全体で論じられている。当業者は、生検技法を行って、所与の組織試料中のがん性および/または前がん性細胞を同定できることを認識するであろう。
【0044】
「処置する」という用語は、治療的利益および/または予防的利益を含むがこれらに限定されない、有益なまたは所望の結果を得るためのアプローチを指す。治療的利益は、処置中の1つまたは複数の疾患、状態、または症状における、任意の治療的に関連する改善または効果を意味する。治療的利益は、処置中の1つまたは複数の疾患、状態、または症状の治癒をもたらすことも意味し得る。
【0045】
「ワクチン」という用語は、対象に投与した場合に、対象において特定の病原体または疾患に対する獲得免疫をもたらす能力を有する生物学的組成物を指す。典型的には、関心対象の病原体または疾患に関連する1種または複数種の抗原または抗原の断片が対象に投与される。ワクチンは、例えば、不活化もしくは弱毒化生物(例えば、細菌もしくはウイルス)、細胞、細胞からもしくは細胞上に発現されるタンパク質(例えば、細胞表面タンパク質)、生物によって産生されるタンパク質(例えば、毒素)、または生物の部分(例えば、ウイルスエンベロープタンパク質)を含み得る。いくつかの例において、細胞は、ワクチンとして投与された場合に、対象が特定の細胞型に対する免疫を獲得する能力を高める(例えば、対象ががん細胞に対する免疫を獲得する能力を高める)ようなタンパク質を発現するように操作される。
【0046】
「生存期間」という用語は、疾患の診断後、および/または疾患(例えば、がん)のための特定の治療プロセスを開始もしくは完了した後の期間の長さを指す。「全生存期間」という用語は、がんなどの疾患と診断されたかまたはそれについて処置された後に所定の期間生存している患者を記載している臨床エンドポントを含む。「無病生存期間」という用語は、患者が特定の疾患(例えば、がん)の徴候なしに(例えば、再発が知られずに)生存する、その疾患の処置後の期間の長さを含む。ある特定の態様において、無病生存期間は、特定の治療の有効性を評価するために用いられる臨床パラメーターであり、これは通常1年または5年単位で測定される。「無増悪生存期間」という用語は、患者が特定の疾患(例えば、がん)のさらなる症状を伴わずに疾患を有して生存している、その疾患の処置の間および後の期間の長さを含む。いくつかの態様において、生存期間は中央値または平均値として表される。
【0047】
「末梢血単核細胞 (PBMC)」という用語は、円形の核を有する任意の末梢血を指す。PBMCには、リンパ球(例えば、Tリンパ球、Bリンパ球、NK細胞)および単球が含まれる。PBMCは、例えば多糖Ficollを用いた後に勾配遠心分離を行うことによって、全血から抽出され得る。遠心分離後、PBMCは、血漿の最上層と多形核細胞および赤血球の下部画分との間に見出される。
【0048】
「リンパ球」という用語は、Tリンパ球(「T細胞」とも称される)、Bリンパ球(「B細胞」とも称される)、樹状細胞、およびナチュラルキラー (NK) 細胞を含む、白血球細胞のサブタイプを指す。
【0049】
Tリンパ球は胸腺において成熟し、細胞性免疫において中心的役割を果たす。Tリンパ球は、細胞表面上に存在するT細胞受容体の存在によって、他の種類のリンパ球と区別される。Tリンパ球は、エフェクターT細胞、ヘルパーT細胞、細胞傷害性(キラー)T細胞、メモリー細胞、制御性(サプレッサー)T細胞、およびナチュラルキラーT細胞を含むいくつかの種類に細分される。エフェクターT細胞は、いくつかのTリンパ球型(ヘルパー、キラー、および制御性細胞を含む)を含む幅広いカテゴリーを指し、一般に刺激に応答する細胞である。ヘルパーT細胞は、CD4+ T細胞としても公知であり、他の種類の白血球細胞を助け、B細胞の形質細胞およびメモリーB細胞への成熟ならびに細胞傷害性T細胞およびマクロファージの活性化を手伝うなどの役割を果たす。ヘルパーT細胞は、抗原提示細胞 (APC) の表面における抗原の提示によって活性化する。細胞傷害性(キラー)T細胞は、CD8+ T細胞としても公知であり、ウイルス感染細胞および腫瘍細胞を破壊し、また移植片拒絶と関連している。メモリーT細胞は、細菌およびウイルスなどの外来侵入者ならびにまた腫瘍細胞を認識する。メモリーT細胞がそれらの同族抗原に遭遇し、それらに応答した後、2回目に遭遇すると、これらの細胞はより強力でかつより速い免疫応答を再生および開始することができる。制御性(サプレッサー)T細胞 (Treg) は、免疫寛容を維持するのに重要である;それらの主要な役割は、免疫反応の終了近くにTリンパ球媒介性免疫を下方制御すること、および胸腺における負の選択プロセスを免れた自己反応性Tリンパ球を阻害することである。適応免疫系と自然免疫系の橋渡しをするナチュラルキラーT細胞は、CD1d分子によって提示される抗原を認識し、サイトカイン産生および細胞溶解性分子の放出などの機能を行う。
【0050】
Bリンパ球は、抗体を分泌し、適応免疫系の液性免疫成分において機能する。加えて、Bリンパ球は、抗原提示細胞として機能し得、サイトカインを分泌し得る。Bリンパ球は、骨髄において成熟し、細胞表面上のB細胞受容体の存在によって、他の種類のリンパ球と区別される。Bリンパ球の活性化は、Tリンパ球依存性またはTリンパ球非依存性のいずれかであり得る。Bリンパ球は、形質芽細胞、形質細胞、リンパ形質細胞性細胞、メモリーB細胞、濾胞性B細胞、辺縁帯B細胞、B-1細胞、B-2細胞、および制御性B (Breg) 細胞を含むいくつかの種類に細分される。
【0051】
NK細胞は、自然免疫系の一部であり、腫瘍細胞およびウイルス感染細胞に対する防御において主要な役割を果たし、主要組織適合複合体クラスI分子における細胞表面変化を認識することによってこれらの細胞を正常細胞と区別する。NK細胞は、インターフェロンファミリーのサイトカインによって活性化し、ひとたび活性化すると、変性細胞または感染細胞を破壊する細胞傷害性分子を放出する。
【0052】
「インターロイキン」は、自然免疫系および適応免疫系の機能において重要な役割を果たすサイトカインの一群である。いくつかのインターロイキンは、Bリンパ球、Tリンパ球、および造血細胞の発生および分化を促進する。多くのインターロイキンは、ヘルパーCD4 Tリンパ球、単球、マクロファージ、および内皮細胞によって産生される。インターロイキンは、特定のインターロイキンに応じて、免疫機能を増強または阻害し得る。
【0053】
本発明の方法において使用され得るインターロイキン (IL) の非限定的な例には、IL-2(活性化T細胞およびB細胞、NK細胞、マクロファージ、ならびにオリゴデンドロサイトを標的とする)、IL-4(活性化B細胞、T細胞、および内皮細胞を標的とする)、IL-5(B細胞および好酸球を標的とする)、IL-6(数ある中でもとりわけ、活性化B細胞、形質細胞、造血細胞、およびT細胞を標的とする)、IL-12(活性化T細胞およびNK細胞を標的とする)、IL-17(数ある中でもとりわけ、上皮細胞および内皮細胞を標的とする)、ならびにIL-22が含まれる。
【0054】
「インターロイキン2」または「IL-2」は、IL-2受容体(例えば、リンパ球によって発現される)に結合し、白血球細胞(例えば、白血球、リンパ球)の活性を調節し、自己対非自己の免疫認識において重要な役割を果たし、微生物感染病原体に対する応答に関与する。IL-2は、T細胞のエフェクターT細胞およびメモリーT細胞への分化を促進し、未成熟T細胞の制御性T細胞への分化もまた促進する。がん治療との関連において、IL-2は、免疫細胞活性化、およびその後の腫瘍細胞成長の免疫細胞媒介性阻害を増大させ得る。ヒトIL-2アミノ酸配列の非限定的な例は、NCBI参照配列番号NP_000577において記載されている。
【0055】
「インターロイキン4」または「IL-4」は、ネイティブヘルパーT細胞(Th0細胞)のTh2細胞への分化を誘導する。その後、IL-4によって活性化されると、Th2細胞は、正のフィードバックループにおいてさらなるIL-4を産生する。IL-4はまた、活性化B細胞およびT細胞の増殖、B細胞の形質細胞への分化、IgEへのB細胞クラススイッチの誘導、ならびにMHCクラスII産生の上方制御を刺激するように機能する。IL-4はまた、Th1細胞、マクロファージ、インターフェロン-γ、および樹状細胞IL-12の産生を減少させる。ヒトIL-4アミノ酸配列の非限定的な例は、NCBI参照配列番号NP_000580、NP_758858、およびNP_001341919において記載されている。
【0056】
「インターロイキン5」または「IL-5」は、Th2細胞および肥満細胞によって産生され、B細胞の成長を刺激し、免疫グロブリン分泌を増加させるように機能する。ヒトIL-5アミノ酸配列の非限定的な例は、NCBI参照配列番号NP_000870において記載されている。
【0057】
「インターロイキン6」または「IL-6」は、マクロファージ、Th2細胞、B細胞、アストロサイト、および内皮細胞によって産生される。IL-6は、炎症促進性サイトカインとして働き得る。ヒトIL-6アミノ酸配列の非限定的な例は、NCBI参照配列番号NP_000591およびNP_001305024において記載されている。
【0058】
「腫瘍壊死因子-α」または「TNFα」という用語は、ヒトにおいてTNFA遺伝子によってコードされるサイトカインを指す。TNFαは、活性化マクロファージ、CD4+ T細胞、NK細胞、好中球、好酸球、肥満細胞、およびニューロンによって産生される。TNFαは、アポトーシスおよび炎症の誘導、ならびに腫瘍形成およびウイルス複製の阻害などのプロセスに関与する。ヒトTNFαアミノ酸配列の非限定的な例は、NCBI参照配列番号NP_000585において記載されている。
【0059】
「インターフェロン-γ」または「IFNγ」という用語は、インターフェロンのII型クラスのメンバーであり、IFNG遺伝子によってコードされるサイトカインを指す。IFNγは、自然免疫および適応免疫において重要な役割を果たす。特に、IFNγは、マクロファージを活性化させ、クラスII MHC分子の発現を誘導する。IFNγは、ナチュラルキラー細胞、ナチュラルキラーT細胞、CD4+ Th1細胞、CD8+細胞傷害性Tリンパ球細胞、および非細胞傷害性自然リンパ球系細胞によって産生される。ヒトIFN-γアミノ酸配列の非限定的な例は、NCBI参照配列番号NP_000610において記載されている。
【0060】
III. 態様の説明
1つの局面において、本発明は、対象において免疫細胞を活性化させる方法を提供する。いくつかの態様において、本方法は、(a) 対象からの免疫細胞を免疫調節チャンバーに通す段階であって、免疫調節チャンバーが、固体支持体、および免疫調節チャンバー内で固体支持体上に拘束された腫瘍細胞を含み、それによって、免疫細胞が腫瘍細胞に曝露され、免疫細胞が活性化される、段階、ならびに (b) 活性化した免疫細胞を対象に戻す段階を含む。いくつかの態様において、免疫細胞は(例えば、免疫細胞を免疫調節チャンバーに通す前に)対象から単離される。
【0061】
いくつかの態様において、本方法はエクスビボで行われる。他の態様において、本方法は、対象において自己の免疫応答を高める。いくつかの他の態様において、本方法は、対象において全身療法の有害作用を軽減または排除する。いくつかの態様において、活性化される免疫細胞は、1つの細胞型のものである。他の例において、活性化される免疫細胞は、複数の細胞型のものである。いくつかの態様において、活性化される免疫細胞は、白血球、末梢血単核細胞 (PBMC)、リンパ球(例えば、Tリンパ球、Bリンパ球、樹状細胞、NK細胞)、単球、樹状細胞、マクロファージ、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。特定の態様において、免疫細胞の活性化は、バイオマーカーの存在またはレベルを検出することにより測定される。
【0062】
いくつかの態様において、免疫調節チャンバーは、固体支持体上に拘束された間質細胞および/または間質成分をさらに含む。他の態様において、免疫細胞は、対象から採取された全血試料中に含まれる。特定の態様においては、全血試料を免疫調節チャンバーに通す。
【0063】
いくつかの態様において、免疫調節チャンバーは入口ポートおよび/または出口ポートをさらに含む。特定の態様において、入口および/または出口ポートは、対象の血管系、腹膜腔、胸膜腔、または脳脊髄液 (CSF) と流体連絡している。いくつかの例において、入口および/または出口ポートは、対象の静脈系と流体連絡している。他の例において、入口および/または出口ポートは、対象の動脈系と流体連絡している。特定の態様において、免疫調節チャンバーは、対象に留置された動静脈シャントを介して対象の血管系に接続される(例えば、流体連絡して配置される)。
【0064】
いくつかの態様においては、免疫細胞含有部分を全血試料から単離し、全血試料の免疫細胞含有部分を免疫調節チャンバーに通す。いくつかの例において、全血試料の免疫細胞含有部分は、濾過法を用いて単離される。他の例において、全血試料の免疫細胞含有部分は、アフェレーシス(例えば、白血球アフェレーシス)用いて単離される。いくつかの態様において、全血試料の免疫細胞含有部分は、全血試料を、免疫調節チャンバーと流体連絡している単離装置に通すことによって単離される。特定の態様において、単離装置は、対象および免疫調節チャンバーの両方に接続され(例えば、それらの両方と流体連絡し)、単離装置は、対象と免疫調節チャンバーの間に位置する(例えば、単離装置は、免疫調節チャンバーの入口ポートに接続される)。他の態様においては、濾過装置が免疫調節チャンバーの出口ポートに接続される。さらに他の態様において、濾過装置は、免疫調節チャンバーの入り口ポートおよび出口ポートの両方に接続される。いくつかの態様においては、全血試料の非免疫細胞含有部分(例えば、血漿、RBC、血小板)が対象に戻される。
【0065】
いくつかの態様において、免疫調節チャンバーは、リンパ節(例えば、対象からのリンパ節)から単離され、その後免疫調節チャンバーに導入された免疫細胞を含む。
【0066】
特定の態様においては、全血試料の免疫細胞含有部分および/または非免疫細胞含有部分を対象に戻す前に、免疫阻害因子および/または対象に有害作用を及ぼす因子を全血試料の免疫細胞含有部分および/または非免疫細胞含有部分から除去する。非限定的な例として、血漿を対象に戻す前に、抗炎症因子(例えば、IL4、IL10、IL13)が血漿から除去され得る。別の非限定的な例として、血液試料またはその一部を対象に戻す前に、Treg(例えば、CD25+細胞)が血液試料またはその一部から除去および隔離され得る(例えば、免疫調節チャンバーとは別のチャンバー内で)。
【0067】
いくつかの態様において、腫瘍細胞は循環腫瘍細胞 (CTC) である。他の態様において、腫瘍細胞は腫瘍細胞溶解物を含む。いくつかの態様において、腫瘍細胞は複数の腫瘍細胞を含む。
【0068】
いくつかの態様において、腫瘍細胞および/または間質性物質(例えば、間質細胞、間質成分)は、対象から試料として採取される。試料は、患者から採取された任意の生物標本であってよい。試料には、非限定的に、全血、血漿、血清、赤血球細胞、白血球細胞(例えば、末梢血単核細胞)、管洗浄液、腹水、胸水、乳頭吸引液、リンパ液(例えば、リンパ節の播種性腫瘍細胞)、骨髄吸引液、唾液、尿、排泄物(すなわち、糞便)、痰、気管支洗浄液、涙液、細針吸引液(例えば、無作為乳輪周囲細針吸引により回収された)、任意の他の体液、腫瘍の生検材料(例えば、針生検材料)またはリンパ節の生検材料(例えば、センチネルリンパ節生検材料)などの組織試料(例えば、腫瘍組織)、腫瘍の外科的切除物などの組織試料(例えば、腫瘍組織)、およびそれらの細胞抽出物が含まれる。特定の態様においては、(例えば、試料が排泄物または糞便試料を含む場合には)、微生物の混入を低減または排除するために、試料を処理する(例えば、滅菌または殺菌する)。いくつかの態様において、試料は、全血、または血漿、血清、もしくは細胞ペレットなどのその分画成分である。他の態様において、試料は、当技術分野で公知の任意の技法を用いて、全血またはその細胞画分から固形腫瘍の循環細胞を単離することによって採取される。特定の態様において、試料は、凍結組織から調製された腫瘍溶解物または抽出物である。特定の態様において、腫瘍細胞は、生検材料、細針吸引液 (FNA)、外科的切除物、血液試料、胸水試料、腹水試料、CSF試料、またはそれらの組み合わせから得られる。いくつかの態様において、腫瘍細胞は、自己腫瘍細胞および/または自己腫瘍細胞溶解物を含む。さらに他の態様において、腫瘍細胞は、同種腫瘍細胞および/または同種腫瘍細胞溶解物を含む。
【0069】
いくつかの態様においては、免疫細胞を免疫調節チャンバーに通す前に、腫瘍細胞を免疫調節チャンバーに導入する。非限定的な例として、免疫細胞を免疫調節チャンバーに通す約0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24時間、もしくはそれ以上前に、または免疫細胞を免疫調節チャンバーに通す約1、2、3、4、5、6、7日、もしくはそれ以上前に、腫瘍細胞を免疫調節チャンバーに導入することができる。他の態様においては、免疫細胞を免疫調節チャンバーに通すのと同時またはその後に、腫瘍細胞を免疫調節チャンバーに導入する。特定の態様において、腫瘍細胞は、全血試料またはその免疫細胞含有部分中に含まれ、かつ、血液試料またはその免疫細胞含有部分が免疫調節チャンバーを通る際に免疫調節チャンバー内の固体支持体上に拘束される。
【0070】
いくつかの態様において、腫瘍および/または間質細胞は、捕捉部分によって固体支持体上に拘束される。特定の態様において、捕捉部分はまた腫瘍細胞および/または間質細胞の増殖を促進する。いくつかの態様において、捕捉部分は、特定の腫瘍細胞および/または間質細胞が捕捉されるように選択される。選択的な腫瘍および/または間質細胞の捕捉は、例えば、診断目的のためおよび処置を導く(例えば、治療を変更すべきか、中止すべきか、および/または開始すべきかを判断する)ためのその後のバイオマーカー解析に有用である。
【0071】
いくつかの態様において、捕捉部分は、抗体、細胞接着分子、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。いくつかの例において、抗体は、上皮細胞接着分子 (EpCAM)、αフェトプロテイン (AFP)、がん胎児抗原 (CEA)、がん抗原125 (CA-125)、MUC1、CD44、HER2、HER3、FGFR1、FGFR2、FGFR3、FGFR4、IGFR1、PD-L1、c-Met、EGFR、またはそれらの組み合わせに結合する抗体である。いくつかの態様において、細胞接着分子は、セレクチン、インテグリン、血管細胞接着分子1 (VCAM1)、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。いくつかの例において、セレクチンは、E-セレクチン、L-セレクチン、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0072】
本発明の方法は、免疫細胞が、腫瘍微小環境に「浸潤する」必要なしに腫瘍細胞に接近できるという点で有利である。この利点は、例えば、免疫チェックポイント治療および本明細書に記載されるその他の免疫腫瘍学治療の有効性を高めるために活用され得る。いくつかの態様において、免疫調節チャンバーは免疫促進因子をさらに含む。特定の態様において、免疫促進因子は、免疫刺激因子、抗免疫阻害因子、またはそれらの組み合わせである。いくつかの例において、免疫刺激因子は、インターロイキン2 (IL-2)、インターロイキン4 (IL-4)、インターロイキン5 (IL-5)、インターロイキン6 (IL-6)、インターロイキン-12 (IL-12) 、インターロイキン17 (IL-17)、インターロイキン22 (IL-22)、C-X-Cケモカイン受容体3型 (CXCR3)、インターフェロンγ (INFγ)、腫瘍壊死因子α (TNFα)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子 (GM-CSF)、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。いくつかの態様において、抗免疫阻害因子は、免疫チェックポイント阻害剤、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ (IDO) 阻害剤、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。いくつかの例において、免疫チェックポイント阻害剤は、プログラム細胞死1リガンド1 (PDL1)、プログラム細胞死タンパク質1 (PD1)、細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4 (CTLA4)、T細胞免疫グロブリン3 (TIM3)、リンパ球活性化遺伝子3 (LAG3)、T細胞活性化のVドメインIgサプレッサー (VISTA)、BおよびTリンパ球アテニュエーター (BTLA)、またはそれらの組み合わせを阻害する。本発明の方法は、骨髄系由来サプレッサー細胞 (MDSC) から腫瘍細胞を選択的に捕捉して除去することにより、およびTreg活性を阻害する高免疫活性化環境を作り出すことによって、数ある細胞型の中でもとりわけMDSCによって産生される酵素の効果を最小限にする利点をもたらす。
【0073】
プログラム細胞死タンパク質1 (PD1) とタンパク質細胞死リガンド1 (PDL1) との間の相互作用を破壊することで、がん細胞などの外来細胞に対する免疫細胞の活性が増強されるため、PD1およびPDL1は免疫チェックポイント阻害剤の一般的な標的である。PD1阻害剤の例には、ペムブロリズマブおよびニボルマブが含まれる。PDL1阻害剤の例には、アテゾリズマブが含まれる。細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4 (CTLA4) は別の標的であり、免疫細胞応答を下方制御する受容体である。したがって、CTLA4を阻害する薬物は免疫機能を増大させ得る。そのような薬物の例はイピリムマブであり、これはCTLA4に結合しそれを阻害するモノクローナル抗体である。
【0074】
いくつかの態様において、免疫調節チャンバーは対象特異的変異ペプチドをさらに含む。いくつかの例において、対象特異的変異ペプチドは、EGFRvIIIペプチド、p95HER2ペプチド、活性化変異を含むEGFRペプチド、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0075】
いくつかの態様において、捕捉部分、免疫促進因子、および/または対象特異的変異ペプチドは、固体支持体に付着している。他の態様において、固体支持体は、免疫調節チャンバーの内部表面、または免疫調節チャンバーの内部表面と接触している支持構造物を含み、任意で磁気組成物をさらに含む。特定の態様において、支持構造物はマトリックスを含む。適切なマトリックスの例には、アガロースゲル、Matrigel、コラーゲンゲル、ハイドロゲル、およびミオゲルが含まれるが、これらに限定されない。ハイドロゲルの強度は、重合工程中にpHおよび温度などの特性を修正することによって調節され得る。いくつかの態様において、固体支持体はマイクロ流体装置を含み得る。腫瘍細胞および/または物質は、マイクロ流体チャネル内に拘束され、拘束された細胞を通る一定方向流(例えば、血液または培地の)に供され得る。この流動は剪断応力をもたらし、これをチャネル材料、機械的特性、およびマトリックス存在量のバリエーションと組み合わせて、細胞が成長する微小環境を正確に修正することができる。
【0076】
いくつかの態様において、捕捉部分、免疫促進因子、および/または対象特異的変異ペプチドは、固体支持体に共有結合で付着している。他の態様において、捕捉部分、免疫促進因子、および/または対象特異的変異ペプチドは、固体支持体に磁力で付着している。いくつかの態様において、捕捉部分、免疫促進因子、および/または対象特異的変異ペプチドは、磁気粒子を含む。特定の態様において、固体支持体は磁気組成物を含み、捕捉部分、免疫促進因子、および/または対象特異的変異ペプチドは、磁気組成物に磁力で付着している。他の態様においては、捕捉部分、免疫促進因子、および/または対象特異的変異ペプチドを固体支持体に磁力で付着させるために、免疫調節チャンバーの外部の電磁場が用いられる。
【0077】
いくつかの態様において、腫瘍細胞は、腫瘍溶解性ウイルス、放射線、および/または化学療法剤への曝露により、アポトーシスを起こすように誘導される。他の態様においては、対象にキメラ抗原受容体T細胞(CAR T細胞)が投与される。本発明の方法の利点は、通常はインビボにおいて固形腫瘍への接近が限られているCAR T細胞が、免疫調節チャンバー内で腫瘍細胞への接近を増す点である。さらに、本発明の方法を用いて、CAR T細胞と腫瘍細胞との間の結合をモニターすることができる。モニタリングは、診断的であってよく(例えば、CAR T細胞-腫瘍細胞相互作用およびその後の腫瘍細胞の破壊もしくは溶解を検出する)、ならびに/または治療を導くために使用され得る(例えば、様々な腫瘍抗原に対する既成のもしくは一般的なCAR T細胞もしくはNK細胞をスクリーニングして、最も適切な選択肢を決定することができる)。
【0078】
本発明において使用され得る化学療法剤には、アルキル化剤(例えば、ナイトロジェンマスタード(例えば、メクロレタミン、クロラムブシル、シクロホスファミド、イホスファミド、メルファラン)、ニトロソウレア(例えば、ストレプトゾシン、カルムスチン (BCNU)、ロムスチン)、スルホン酸アルキル(例えば、ブスルファン)、トリアジン(例えば、ダカルバジン (DTIC)、テモゾロミド)、エチレンイミン(例えば、チオテパ、アルトレタミン(ヘキサメチルメラミン)))、プラチナ薬(例えば、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン)、代謝拮抗薬(例えば、5-フルオロウラシル (5-FU)、6-メルカプトプリン (6-MP)、カペシタビン、シタラビン、フロクスウリジン、フルダラビン、ゲムシタビン、ヒドロキシウレア、メトトレキサート、ペメトレキセド)、アントラサイクリン系抗腫瘍抗生物質(例えば、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン)、非アントラサイクリン系抗腫瘍抗生物質(例えば、アクチノマイシンD、ブレオマイシン、マイトマイシンC、ミトキサントロン)、有糸分裂阻害剤(例えば、タキサン(例えば、パクリタキセル、ドセタキセル)、エポチロン(例えば、イクサベピロン)、ビンカアルカロイド(例えば、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビノレルビン)、エストラムスチン)、コルチコステロイド(例えば、プレドニゾン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン)、L-アスパラギナーゼ、ボルテゾミブ、およびトポイソメラーゼ阻害剤が含まれるが、これらに限定されない。化学療法剤の組み合わせを用いることができる。
【0079】
トポイソメラーゼ阻害剤は、DNA鎖の骨格におけるホスホジエステル結合の切断および再結合を触媒することによってDNA構造の変化を促進する酵素であるトポイソメラーゼの活性を阻害する化合物である。DNA構造のそのような変化は、正常な細胞周期の間のDNA複製に必要である。トポイソメラーゼ阻害剤は、細胞周期の間のDNA連結を阻害し、1本鎖および2本鎖切断の数の増加、およびひいてはゲノムの安定性の低下を引き起こす。そのようなゲノムの安定性の低下は、アポトーシスおよび細胞死を引き起こす。
【0080】
トポイソメラーゼは、多くの場合に、I型およびII型トポイソメラーゼに分類される。I型トポイソメラーゼは、DNAの複製および転写の間のDNAスーパーコイルの弛緩に必須である。I型トポイソメラーゼは、DNAの1本鎖切断を生じ、また該切断を再連結して、無傷の二重鎖DNA分子を再構築する。I型トポイソメラーゼの阻害剤の例には、イリノテカン、トポテカン、カンプトテシン、およびラメラリンDが含まれ、これらはすべてIB型トポイソメラーゼを標的とする。
【0081】
II型トポイソメラーゼ阻害剤は、トポイソメラーゼ毒素およびトポイソメラーゼ阻害剤として大別される。トポイソメラーゼ毒素はトポイソメラーゼ-DNA複合体を標的とし、トポイソメラーゼ阻害剤は酵素の触媒回転を破壊する。II型トポイソメラーゼ阻害剤の例には、アムサクリン、エトポシド、リン酸エトポシド、テニポシド、ドキソルビシン、およびフルオロキノロンが含まれる。
【0082】
免疫療法化合物を用いることもできる。いくつかの例において、免疫療法剤は、がん細胞の特定の種類または部分を標的とするモノクローナル抗体を含む。場合によっては、抗体は、薬物分子または放射性物質などの部分に複合化される。抗体は、非限定的な例としてマウス、キメラ、またはヒト化由来であってよい。治療用モノクローナル抗体の非限定的な例には、アレムツズマブ、ベバシズマブ、セツキシマブ、ダラツムマブ、イピリムマブ (MDX-101)、ニボルマブ、オファツムマブ、パニツムマブ、ペムブロリズマブ、リツキシマブ、トシツモマブ、およびトラスツズマブが含まれる。
【0083】
放射線療法は、X線、ガンマ線、および/または荷電粒子の送達を含み得る。
【0084】
いくつかの態様においては、小分子薬が用いられる。小分子薬は一般に、低分子量(すなわち、約900ダルトン未満)を有する薬理学的薬剤である。がんを処置するために用いられる小分子薬の非限定的な例には、ボルテゾミブ(プロテアソーム阻害剤)、イマチニブ(チロシンキナーゼ阻害剤)、およびセリシクリブ(サイクリン依存性キナーゼ阻害剤)、およびエパカドスタット(インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ (IDO1) 阻害剤)が含まれる。
【0085】
本発明の方法はまた、二重特異性T細胞誘導を増強させるのにも有用である。これらの改変抗体を免疫調節チャンバーの局所的環境に導入することにより、二重特異性T細胞誘導が免疫細胞と腫瘍細胞との間の相互作用を強制する能力が向上する。
【0086】
いくつかの態様において、免疫調節チャンバーは流量調整器をさらに含む。他の態様において、免疫調節チャンバーはポンプをさらに含む。いくつかの態様において、流量調整器および/またはポンプは、免疫細胞が免疫調節チャンバーを通る速度を調整するために用いられる。いくつかの態様において、ポンプのスピードは、免疫調節チャンバーを通る流速を上昇または低下させるために変更される。特定の態様において、免疫細胞は、全血試料またはその免疫細胞含有部分中に存在する。
【0087】
流速の調整は、例えば、免疫調節チャンバー内に拘束されている捕捉細胞(例えば、腫瘍細胞、間質細胞)への免疫細胞の曝露を最適化するのに有用である。非限定的な例として、免疫細胞が免疫調節チャンバー内に存在する時間を延ばし、その結果として腫瘍および/または間質細胞との利用可能な相互作用時間を延ばすために、流速を低下させることができる。あるいは、単位時間当たりに免疫調節チャンバーを通る免疫細胞の数を増加させることが望ましい場合には、流速を上昇させることができる。
【0088】
流速の調整はまた、例えば、循環腫瘍細胞などの細胞が免疫調節チャンバーを通る際のそれらの捕捉または拘束を最適化するのにも有用である。捕捉されるべき細胞は、全血試料またはその一部が免疫調節チャンバーを通る際に、その中に存在し得る。流速は、流量調整器および/またはポンプを用いて(例えば、ポンプスピードを変更することにより)調整され得る。非限定的な例として、捕捉されるべき細胞が免疫調節チャンバー内に存在する時間を延ばし、その結果として細胞が捕捉部分によって捕捉および拘束される可能性を高めるために、流速を低下させることができる。あるいは、単位時間当たりに免疫調節チャンバーを通る細胞の数を増加させ、その結果として免疫調節チャンバー内で捕捉に利用可能な細胞の数を増加させるために、流速を上昇させることができる。いくつかの態様において、流速は処置(例えば、がん処置)の段階に応じて調整される。非限定的な例として、細胞(例えば、循環腫瘍細胞)が免疫調節チャンバー内に捕捉または拘束される必要がある処置の初期段階で、特定の流速が選択され得、十分な数の細胞が捕捉されている処置の後期では、異なる流速(例えば、より高いまたはより低い流速)が選択され得る。いくつかの例においては、処置の1つの段階において(例えば、初期段階において、または免疫調節チャンバーが置換された後)、細胞(例えば、腫瘍細胞)の捕捉の速度がより重要となり、処置の他の段階において、免疫調節チャンバー内での免疫細胞の捕捉細胞への曝露時間がより重要となる。
【0089】
特定の態様において、免疫調節チャンバー内の酸素の利用可能性は、流量調整器および/もしくはポンプを用いて、免疫調節チャンバーを通る全血の流速を調整することによって、ならびに/または免疫調節チャンバーを通る赤血球細胞の数もしくは密度を調整することによって制御される。概して、免疫調節チャンバー内の赤血球細胞の数もしくは密度の増加は、免疫調節チャンバー内の酸素のより高い利用可能性と相関する。いくつかの態様においては、免疫調節チャンバー内で低酸素環境を作出することが望ましく、免疫調節チャンバー内の細胞の数または密度を減少させるために、流量調整器および/またはポンプが用いられる(例えば、ポンプスピードを変更することによる)。
【0090】
いくつかの態様においては、複数の免疫調節チャンバーが用いられる。特定の態様において、複数の免疫調節チャンバーはそれぞれ互いに流体連絡している。いくつかの態様において、複数の免疫調節チャンバーの各々は、異なる腫瘍細胞を含む。本アプローチの方法の利点は、本発明の方法が、対象内の転移がん部位の存在を模倣し得ることである。任意の数の免疫調節チャンバー(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個、またはそれより多くのチャンバー)が使用され得る。
【0091】
いくつかの態様において、第1免疫調節チャンバーは第2免疫調節チャンバーと置き換えられる。免疫調節チャンバーは、対象の免疫細胞が本発明の方法に従って活性化される持続時間およびその他の要因に応じて、任意の回数(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10回、またはそれより多くの回数)除去され(例えば、対象または他の循環ネットワークとの流体連絡から)、新たな免疫調節チャンバーと置き換えられる。いくつかの態様においては、免疫細胞が免疫調節チャンバーを通った後に、腫瘍細胞が免疫調節チャンバーから取り出され、腫瘍細胞における1つまたは複数のバイオマーカーの存在またはレベルが検出される。免疫調節チャンバーがなお対象もしくは他の循環ネットワークと流体連絡している間に、または免疫調節チャンバーが対象もしくは他の循環ネットワークとの流体連絡から除去された後に(例えば、第1免疫調節チャンバーが除去され、第2免疫調節チャンバーと置き換えられる時に)、免疫細胞を免疫調節チャンバーから取り出すことができる。いくつかの例においては、対象に診断を提供するため、および/または対象における疾患の処置を選択するために、1つまたは複数のバイオマーカーの存在またはレベルが用いられる。
【0092】
非限定的な例としては、対象が本発明の方法による免疫細胞活性化、別の治療法、またはそれらの組み合わせに応答しているかどうかを判定する目的のために、1つまたは複数のバイオマーカーの存在および/またはレベルが、腫瘍細胞および/または間質性物質(例えば、間質細胞)において検出または測定され得る。いくつかの態様において、バイオマーカーの存在またはレベルの増加または減少は、免疫細胞活性化または他の治療が効果的であることを示す。他の態様において、バイオマーカーの存在またはレベルの増加または減少は、免疫細胞活性化または他の治療が効果的でないことを示し、そのような場合には、治療の変更が必要とされ得る。いくつかの態様においては、対象に対して適切な治療を選択するために(例えば、疾患を引き起こす新たな変異の出現を判定するために、疾患耐性の機構、特定のシグナリング経路の活性化および/または不活性化を判定するために)、1つまたは複数のバイオマーカーの存在またはレベルが用いられる。いくつかの態様においては、免疫指数が決定され、この場合、免疫療法に対する非応答の機構を判定するために、免疫細胞チャンバー内で再構築された腫瘍微小環境の組成物(例えば、関連している免疫細胞、腫瘍細胞、間質性物質)が用いられる。バイオマーカーの存在またはレベルを検出することにより、本発明の方法は、リアルタイム監視(例えば、腫瘍細胞応答の)および/またはバイオマーカードリフト (biomarker drift) に有用である。
【0093】
いくつかの態様において、バイオマーカーのレベルを測定または検出する段階は、バイオマーカーの活性化状態(すなわち、バイオマーカーが活性化しているか否か)または活性化レベル(すなわち、バイオマーカーが活性化している程度)を測定または検出する段階を含む。特定の態様において、活性化状態は、バイオマーカー(例えば、タンパク質またはシグナル伝達分子)のリン酸化、ユビキチン化、および/または複合体形成状態に対応する。活性化状態(括弧内に示される)の例には、HER1/EGFR(EGFRvIII、リン酸化 (p-) EGFR、EGFR:Shc、ユビキチン化 (u-) EGFR、p-EGFRvIII);ErbB2(p-ErbB2、p95HER2(切断型ErbB2)、p-p95HER2、ErbB2:Shc、ErbB2:PI3K、ErbB2:EGFR、ErbB2:ErbB3、ErbB2:ErbB4);ErbB3(p-ErbB3、切断型ErbB3、ErbB3:PI3K、p-ErbB3:PI3K、ErbB3:Shc);ErbB4(p-ErbB4、ErbB4:Shc);c-MET(p-c-MET、切断型c-MET、c-Met:HGF複合体);AKT1 (p-AKT1);AKT2 (p-AKT2);AKT3 (p-AKT3);PTEN (p-PTEN);P70S6K (p-P70S6K);MEK (p-MEK);ERK1 (p-ERK1);ERK2 (p-ERK2);PDK1 (p-PDK1);PDK2 (p-PDK2);SGK3 (p-SGK3);4E-BP1 (p-4E-BP1);PIK3R1 (p-PIK3R1);c-KIT (p-c-KIT);ER (p-ER);IGF-1R(p-IGF-1R、IGF-1R:IRS、IRS:PI3K、p-IRS、IGF-1R:PI3K);INSR (p-INSR);FLT3 (p-FLT3);HGFR1 (p-HGFR1);HGFR2 (p-HGFR2);RET (p-RET);PDGFRA (p-PDGFRA);PDGFRB (p-PDGFRB);VEGFR1(p-VEGFR1、VEGFR1:PLCγ、VEGFR1:Src); VEGFR2(p-VEGFR2、VEGFR2:PLCγ、VEGFR2:Src、VEGFR2:硫酸ヘパリン、VEGFR2:VE-カドヘリン); VEGFR3 (p-VEGFR3);FGFR1 (p-FGFR1);FGFR2 (p-FGFR2);FGFR3 (p-FGFR3);FGFR4 (p-FGFR4);TIE1 (p-TIEl);TIE2 (p-TIE2);EPHA (p-EPHA);EPHB (p-EPHB);GSK-3β (p-GSK-3β);NFKB (p-NFKB)、IKB(p-IKB、p-P65:IKB);BAD(p-BAD、BAD:14-3-3);mTOR (p-mTOR);Rsk-1 (p-Rsk-1);Jnk (p-Jnk);P38 (p-P38);STAT1 (p-STAT1);STAT3 (p-STAT3);FAK (p-FAK);RB (p-RB);Ki67;p53 (p-p53);CREB (p-CREB);c-Jun (p-c-Jun);c-Src (p-c-Src);パキシリン(p-パキシリン)、GRB2 (p-GRB2)、Shc (p-Shc)、Ras (p-Ras)、GAB1 (p-GAB1)、SHP2 (p-SHP2)、GRB2 (p-GRB2)、CRKL (p-CRKL)、PLCγ (p-PLCγ)、PKC (例えば、p-PKCα、p-PKCβ、p-PKCδ)、アデュシン(p-アデュシン)、RB1 (p-RB1)、およびPYK2 (p-PYK2) が含まれるが、これらに限定されない。
【0094】
いくつかの態様において、バイオマーカーはシグナル伝達分子である。シグナル伝達分子には、細胞外シグナル(例えば、刺激)を伝達する、およびそれを応答(例えば、細胞内で起こる1つまたは複数の生化学的プロセス)に変換する上で様々な役割を果たす分子およびタンパク質が含まれる。シグナル伝達分子の非限定的な例には、受容体チロシンキナーゼ (RTK)、例えば、EGFR(例えば、EGFR/HER1/ErbB1、HER2/Neu/ErbB2、HER3/ErbB3、HER4/ErbB4)、VEGFR1/FLT1、VEGFR2/FLK1/KDR、VEGFR3/FLT4、FLT3/FLK2、PDGFR(例えば、PDGFRA、PDGFRB)、c-KIT/SCFR、INSR(インスリン受容体)、IGF-IR、IGF-IIR、IRR(インスリン受容体関連受容体)、CSF-1R、FGFR 1~4、HGFR 1~2、CCK4、TRK A~C、c-MET、RON、EPHA 1~8、EPHB 1~6、AXL、MER、TYRO3、TIE 1~2、TEK、RYK、DDR 1~2、RET、c-ROS、V-カドヘリン、LTK(白血球チロシンキナーゼ)、ALK(未分化リンパ腫キナーゼ)、ROR 1~2、MUSK、AATYK 1~3、およびRTK 106など;切断型の受容体チロシンキナーゼ、例えば、アミノ末端細胞外ドメインを欠く切断型HER2受容体(例えば、p95ErbB2 (p95m)、p110、p95c、p95n、等)、アミノ末端細胞外ドメインを欠く切断型cMET受容体、およびアミノ末端細胞外ドメインを欠く切断型HER3受容体など;受容体チロシンキナーゼ二量体(例えば、p95HER2/HER3;p95HER2/HER2;切断型HER3受容体とHER1、HER2、HER3、またはHER4;HER2/HER2;HER3/HER3;HER2/HER3;HER1/HER2;HER1/HER3;HER2/HER4;HER3/HER4;等);非受容体チロシンキナーゼ、例えば、BCR-ABL、Src、Frk、Btk、Csk、Abl、Zap70、Fes/Fps、Fak、Jak、Ack、およびLIMKなど;チロシンキナーゼシグナリングカスケード成分、例えば、AKT(例えば、AKT1、AKT2、AKT3)、MEK (MAP2K1)、ERK2 (MAPK1)、ERK1 (MAPK3)、PI3K(例えば、PIK3CA (p110)、PIK3R1 (p85))、PDK1、PDK2、ホスファターゼおよびテンシンホモログ (PTEN)、SGK3、4E-BP1、P70S6K(例えば、p70 S6キナーゼスプライス変種αI)、タンパク質チロシンホスファターゼ(例えば、PTP1B、PTPN13、BDP1、等)、RAF、PLA2、MEKK、JNKK、JNK、p38、Shc (p66)、Ras (例えば、K-Ras、N-Ras、H-Ras)、Rho、Rac1、Cdc42、PLC, PKC、p53、サイクリンD1、STAT1、STAT3、ホスファチジルイノシトール4,5-二リン酸 (PIP2)、ホスファチジルイノシトール3,4,5-三リン酸 (PIP3)、mTOR、BAD、p21、p27、ROCK、IP3、TSP-1、NOS、GSK-3β、RSK 1~3、JNK、c-Jun、Rb、CREB、Ki67、ならびにパキシリンなど;核内ホルモン受容体、例えば、エストロゲン受容体 (ER)、プロゲステロン受容体 (PR)、アンドロゲン受容体、グルココルチコイド受容体、ミネラルコルチコイド受容体、ビタミンA受容体、ビタミンD受容体、レチノイド受容体、甲状腺ホルモン受容体、およびオーファン受容体など;核内受容体コアクチベーターおよびリプレッサー、例えば、それぞれ乳がんにおける増幅-1 (AIB1) および核内受容体コリプレッサー1 (NCOR) など;ならびにそれらの組み合わせが含まれる。シグナル伝達分子の他の非限定的な例には、cAMPシグナリング経路で機能するものおよびホスファチジルイノシトールシグナリング経路で機能するものを含むGタンパク質共役受容体 (GPCR) が含まれる。
【0095】
いくつかの態様において、バイオマーカーの存在を判定する段階は、特定の遺伝子型の存在を検出する段階を含む。特定の態様においては、遺伝子(例えば、がん遺伝子)における1つまたは複数の変異の存在が検出される。がん遺伝子は、がんを引き起こす可能性を有する遺伝子である。がん遺伝子の非限定的な例には、増殖因子または分裂促進因子、例えばc-Sisなど;受容体チロシンキナーゼ、例えば、EGFR、HER2、PDGFR、およびVEGFRなど;細胞質チロシンキナーゼ、例えば、Abl、ならびにチロシンキナーゼのSrc-ファミリー、Syk-ZAP-70ファミリー、およびBTKファミリー内のキナーゼなど;細胞質セリン/スレオニンキナーゼおよびそれらの調節サブユニット、例えば、PIK3CA、PIK3R1、およびRAF(例えば、RAF-1、A-RAF、B-RAF)など;調節性GTPアーゼ、例えばRAS(例えば、KRAS)など;転写因子、例えばMYCなど;ならびにそれらの組み合わせが含まれる。KRAS変異の非限定的な例には、G12S、G12D、G12A、G12V、G12R、G12C、およびG13Dが含まれる。BRAF変異の非限定的な例には、V600E、R461I、I462S、G463E、G463V、G465A、G465E、G465V、G468A、G468E、N580S、E585K、D593V、F594L、G595R、L596V、T598I、V599D、V599E、V599K、V599R、K600E、およびA727Vが含まれる。PIK3CA変異の非限定的な例には、E545A、E545G、E545K、Q546E、Q546K、H1047R、H1047L、および3204insAが含まれる。EGFR変異の非限定的な例には、L858R、G719S、G719S、G719C、L861Q、およびS768Iなどのエキソン19における欠失、ならびにT790Mなどのエキソン20における挿入が含まれる。いくつかの例においては、遺伝子における2つ以上の変異の組み合わせが検出される。他の例においては、2つ以上の遺伝子における変異が検出される。
【0096】
増幅されたか否かにかかわらず、個体由来の核酸の遺伝子型判定は、様々な技法のいずれかを用いて行うことができる。有用な技法には、非限定的に、ポリメラーゼ連鎖反応 (PCR) ベースの解析アッセイ、配列解析アッセイ、電気泳動解析アッセイ、制限長多型解析アッセイ、ハイブリダイゼーション解析アッセイ、アレル特異的ハイブリダイゼーション、オリゴヌクレオチドライゲーションアレル特異的伸長/ライゲーション、アレル特異的増幅、一塩基伸長、分子反転プローブ、侵襲的切断、選択的終結、制限長多型、配列決定、一本鎖高次構造多型 (SSCP)、一本鎖鎖多型、ミスマッチ切断、および変性勾配ゲル電気泳動などのアッセイが含まれ、それらはいずれも単独でまたは組み合わせて使用され得る。本明細書で用いられる場合、「核酸」という用語は、例えばゲノムDNA、cDNA、マイクロRNA、およびmRNAを含む、一本鎖または二本鎖のDNAまたはRNA分子などのポリヌクレオチドを含む。本用語は、天然および合成起源の両方の核酸分子、ならびに天然の核酸分子のセンス鎖もしくはアンチセンス鎖のいずれかまたはその両方を表す直鎖状、環状、または分枝状の立体配置の分子を包含する。そのような核酸は未精製であるか、精製されているか、または例えばビーズもしくはカラムマトリックスなどの合成材料に付着していてよいことが理解される。
【0097】
核酸を含有する材料は、個体から日常的に採取される。そのような材料は、核酸を調製することができる任意の生体物質である。非限定的な例として、材料は、全血、血清、血漿、唾液、頬スワブ、痰、または核酸を含有する他の体液もしくは組織であってよい。1つの態様において、本発明の方法は、非侵襲的手段によって容易に採取され、ゲノムDNAを調製するために使用することができる全血を用いて実施される。別の態様において、遺伝子型判定は、ポリメラーゼ連鎖反応 (PCR) を用いる個体の核酸の増幅を伴う。核酸を増幅するためのPCRの使用は、当技術分野で周知である(例えば、Mullis et al. (Eds.), The Polymerase Chain Reaction, Birkhauser, Boston, (1994) を参照されたい)。さらに別の態様において、PCR増幅は、1つまたは複数の蛍光標識プライマーを用いて行われる。さらなる態様において、PCR増幅は、DNA副溝結合剤を含有する1つまたは複数の標識または非標識プライマーを用いて行われる。
【0098】
当業者は、様々なバイオマーカーのレベルを検出または測定する方法を容易に知っているであろう。非限定的な例として、腫瘍細胞(例えば、循環腫瘍細胞)におけるバイオマーカー(例えば、シグナル伝達分子)のレベルおよび/または活性化状態は、20154年2月25日に発行された米国特許第8,658,388号に記載されているような抗体ベースの方法を用いて検出または測定することができ、その開示はすべての目的のために全体として参照により本明細書に組み入れられる。
【0099】
本発明の方法はまた、治療的ワクチン接種の有効性を増強するまたは高めるのにも有用である。非限定的な例として、ワクチン細胞、抗原ペプチド、患者特異的な変異ペプチド、および/または腫瘍溶解性ウイルスを、免疫調節チャンバーに導入することができる。免疫調節チャンバー内の局所的環境は、免疫細胞および/または腫瘍細胞のワクチン剤への曝露を増加させる。さらに、本発明の方法は、腫瘍溶解性ウイルス処置、放射線処置、および/または化学療法などの治療を強化するのに有用である。これらの治療は、炎症性サイトカインを誘導し、および損傷した腫瘍細胞を貪食し、それらがMHCとの関連において腫瘍抗原の交差提示を受けるよう誘導する自然免疫細胞を誘引し、結果的に腫瘍特異的白血球の活性化をもたらす。腫瘍溶解性ウイルス、放射線、および/または化学療法剤を免疫調節チャンバー環境に導入することにより、腫瘍細胞の曝露を最大限にすることができ、その結果として免疫細胞の活性化は増加し、それと同時に対象に対する全身性有害作用は最小限となる。
【0100】
別の局面において、本発明は、対象においてがんを処置する方法を提供する。いくつかの態様において、本方法は、本発明の方法に従って免疫細胞を活性化させる段階を含む。特定の態様において、がんは固形腫瘍を含む。
【0101】
本発明の方法に従って処置され得るがんの非限定的な例には、婦人科がん(例えば、卵巣がん、子宮頸がん、子宮がん、膣がん、および外陰がん);肺がん(例えば、非小細胞肺がん、小細胞肺がん、中皮腫、カルチノイド腫瘍、肺腺がん);乳がん(例えば、トリプルネガティブ乳がん、非浸潤性乳管がん、浸潤性乳管がん、管状がん、髄様がん、粘液がん、乳頭がん、篩状がん、浸潤性小葉がん、炎症性乳がん、非浸潤性小葉がん、パジェット病、葉状腫瘍);消化器および胃腸のがん、例えば、胃がん(例えば、胃のがん)、結腸直腸がん、消化管間質腫瘍 (GIST)、消化管カルチノイド腫瘍、結腸がん、直腸がん、肛門がん、胆管がん、小腸がん、および食道がんなど;甲状腺がん;胆嚢がん;肝がん;膵がん;虫垂がん;前立腺がん(例えば、前立腺腺がん);腎がん(例えば、腎細胞がん);中枢神経系のがん(例えば、神経膠芽腫、神経芽細胞腫、髄芽腫などの脳がん);皮膚がん(例えば、メラノーマ);骨軟部肉腫(例えば、ユーイング肉腫);リンパ腫;絨毛がん;尿路がん(例えば、尿路上皮膀胱がん);頭頸部がん;骨髄および血液のがん(例えば、急性白血病、慢性白血病(例えば、慢性リンパ性白血病)、リンパ腫、多発性骨髄腫)、ならびにそれらの組み合わせが含まれる。本明細書で用いられる場合、「腫瘍」は1つまたは複数のがん性細胞を含む。
【0102】
いくつかの態様において、がんは、肺がん、脳がん、乳がん、胃がん、結腸直腸がん、前立腺がん、卵巣がん、メラノーマ、肉腫、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0103】
別の局面において、本発明は、対象において腫瘍に対する免疫応答を誘導する方法を提供する。いくつかの態様において、本方法は、本発明の方法に従って免疫細胞を活性化させる段階を含む。いくつかの態様において、腫瘍は、免疫調節チャンバー内に拘束されている(例えば、免疫調節チャンバー内の固体支持体上に拘束されている)腫瘍細胞と類似している腫瘍細胞を含む。いくつかの態様において、腫瘍は、免疫調節チャンバー内に拘束されている(例えば、免疫調節チャンバー内の固体支持体上に拘束されている)腫瘍細胞と同じ種類である腫瘍細胞を含む。いくつかの態様において、腫瘍は固形腫瘍である。
【0104】
腫瘍は、非限定的な例として、婦人科がん(例えば、卵巣がん、子宮頸がん、子宮がん、膣がん、もしくは外陰がん);肺がん(例えば、非小細胞肺がん、小細胞肺がん、中皮腫、カルチノイド腫瘍、肺腺がん);乳がん(例えば、トリプルネガティブ乳がん、非浸潤性乳管がん、浸潤性乳管がん、管状がん、髄様がん、粘液がん、乳頭がん、篩状がん、浸潤性小葉がん、炎症性乳がん、非浸潤性小葉がん、パジェット病、葉状腫瘍);消化器もしくは胃腸のがん、例えば、胃がん(例えば、胃のがん)、結腸直腸がん、消化管間質腫瘍 (GIST)、消化管カルチノイド腫瘍、結腸がん、直腸がん、肛門がん、胆管がん、小腸がん、もしくは食道がんなど;甲状腺がん;胆嚢がん;肝がん;膵がん;虫垂がん;前立腺がん(例えば、前立腺腺がん);腎がん(例えば、腎細胞がん);中枢神経系のがん(例えば、神経膠芽腫、神経芽細胞腫、もしくは髄芽腫などの脳がん);皮膚がん(例えば、メラノーマ);骨軟部肉腫(例えば、ユーイング肉腫);リンパ腫;絨毛がん;尿路がん(例えば、尿路上皮膀胱がん);頭頸部がん;骨髄もしくは血液のがん(例えば、急性白血病、慢性白血病(例えば、慢性リンパ性白血病)、リンパ腫、多発性骨髄腫)、またはそれらの組み合わせに由来し得る。
【0105】
いくつかの態様において、腫瘍は、肺がん、脳がん、乳がん、胃がん、結腸直腸がん、前立腺がん、卵巣がん、メラノーマ、肉腫、およびそれらの組み合わせからなる群より選択されるがんに由来する。
【0106】
本発明の方法は、任意の適切な期間にわたって行うことができる。いくつかの態様において、対象における免疫細胞は、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24時間、またはそれより長い時間にわたって活性化される(例えば、がん処置のため)。他の態様において、対象における免疫細胞は、約1、2、3、4、5、6、7日間、またはそれより長い期間にわたって活性化される。さらに他の態様において、対象における免疫細胞は、約1、2、3、4週間、もしくはそれより長い期間、または約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12ヶ月、もしくはそれより長い期間にわたって活性化する。本発明の方法を用いて、免疫細胞を持続的にまたは断続的に活性化させることができる。いくつかの態様において、本発明の方法は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10回、またはそれより多くの別々の機会において、対象において免疫細胞を活性化させるために用いられる。
【0107】
いくつかの態様において、対象を処置すること(例えば、本発明の方法に従って対象において免疫細胞を活性化させることによる)または腫瘍に対する免疫応答を誘導すること(例えば、本発明の方法に従って対象において免疫細胞を活性化させることによる)は、がん細胞の成長を阻害すること、がん細胞の増殖を阻害すること、がん細胞の遊走を阻害すること、がん細胞の浸潤を阻害すること、がんの症状を改善もしくは除去すること、がん腫瘍のサイズ(例えば、体積)を減少させること、がん腫瘍の数を減少させること、がん細胞の数を減少させること、がん細胞の壊死、ピロトーシス、壊死症、アポトーシス、もしくは他の細胞死を誘導すること、または組成物もしくは薬学的組成物の治療効果を増強することを含む。いくつかの態様においては、対象を処置することまたは腫瘍に対する免疫応答を誘導することによって、生存期間が延長する。いくつかの例においては、全生存期間が延長する。他の例においては、無病生存期間が延長する。いくつかの例においては、無増悪生存期間が延長する。特定の態様おいて、対象を処置することまたは腫瘍に対する免疫応答を誘導することは、腫瘍体積の減少および/または生存期間の延長をもたらす。
【0108】
特定の態様において、対象を処置することまたは腫瘍に対する免疫応答を誘導することは、化学療法剤、免疫療法剤、放射線療法、ホルモン療法、分化誘導剤、および/または小分子薬などの抗がん治療の治療効果を増強する。
【実施例】
【0109】
IV. 実施例
本発明を、具体的な実施例によってより詳細に記載する。以下の実施例は、例示目的で提供するものであり、本発明をいかようにも限定するものではない。
【0110】
実施例1. ヒト化マウスモデル
本実施例は、腫瘍を標的とする自己白血球を活性化させ、腫瘍細胞を死滅させるそれらの能力を高める、本発明の方法の能力を実証するための、ヒト化マウスモデルの使用を記載する。
【0111】
ヒト化NSG-SGM3マウス(Bar Harbor, MEのJackson Laboratoriesから入手可能である)を本研究に使用する。ヒト化マウスモデルの作製を
図5に示す。NSG-SGM3は高度免疫不全マウスであり、これを用いてヒト造血幹細胞を生着させ、ヒト化マウスモデルを作製することができる。これらのマウスは、ヒト幹細胞因子 (SCF)、顆粒球/マクロファージ刺激因子 (GM-CSF)、およびインターロイキン-2 (IL2) を産生し、その発現はサイトメガロウイルスプロモーターによって駆動される。
【0112】
ヒト化NSG-SGM3マウスを、特定病原体除去動物施設において維持および飼育する。新生仔または3~4週齢のマウスに亜致死的に照射する(例えば、1 Gyの線量を用いる)。続いて、製造業者のプロトコール (Miltenyi Biotech) に従ってMACS細胞分離システムを用いてヒト臍帯血から単離された2 x 105個のCD34+幹細胞を含む尾静脈注射を、マウスに対して行う。あるいは、がん患者からアフェレーシス手順により収集された末梢血単核細胞 (PBMC) から濃縮されたCD34+幹細胞を、尾静脈よりマウスに注射する。尾静脈注射の12週間後にPBMCを採取することにより、1匹のマウスにおいてヒト造血細胞の生着を検証する。解析は、骨髄系細胞集団(例えば、マクロファージ、単球、好中球、好塩基球、Mmst細胞、赤血球前駆細胞)ならびにリンパ系細胞集団(例えば、CD4+およびCD8+ T細胞、Treg、B細胞、NK細胞)を定量化するために、様々な種類の白血球(例えば、hu-CD45+、hu-CD3+)に対するプローブと共に、フローサイトメトリーを用いて行う。
【0113】
続いて、患者由来異種移植片 (PDX) 腫瘍を、ヒト化CD34-NSG-SGM3 (hu-CD34-NSG-SGM3) マウスの皮下に移植する(
図5において陰影付きマウスとして示される)。PDX腫瘍が適切なサイズに到達した時点で(例えば、移植後約6~8週間)、収集され(例えば、細針吸引 (FNA) によって収集され)、免疫調節チャンバーに導入された腫瘍細胞および間質性物質(例えば、間質細胞、間質成分)を用いて、免疫調節チャンバーを準備する。腫瘍細胞および間質性物質を、組織培養インキュベーター内でCO
2と共に37℃で24時間インキュベートする。収集および/またはインキュベーション中、適切な培地が提供される。加えて、細胞および間質性物質を、必要に応じて炎症促進性サイトカイン(例えば、IL2、IL7、IL12、IL15、IL18、IL21、IFNβ、TNFα、GM-CSF)と共にインキュベートする。これらの刺激性サイトカインを免疫調節チャンバーの範囲に限定することにより、高濃度のこれらの薬剤に付随する全身性毒性作用を、対象において回避することができる。加えて、免疫調節チャンバー内で腫瘍特異的白血球と腫瘍細胞を同時にインキュベートすることにより、腫瘍特異的白血球は、間質層に「浸潤する」必要なしに腫瘍細胞を容易に認識し得る。さらに、特異的な免疫活性化を増強するために、利用可能な免疫腫瘍学薬剤が必要に応じて免疫調節チャンバーに加えられる。適切な免疫腫瘍学薬剤には、免疫チェックポイント阻害剤(例えば、抗CTLA4抗体、抗PD1抗体、抗PDL1抗体、抗OX40抗体、および抗CD137抗体)ならびにインドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ (IDO) 阻害剤が含まれるが、これらに限定されない。
【0114】
24時間のインキュベーション時間後、捕捉された腫瘍および間質性物質を含む免疫調節チャンバーを、
図5に示されるように、エクスビボ循環ネットワークに接続する。循環ネットワークは、組織培養インキュベーター内で維持される。
【0115】
22ゲージ皮下針を備えた1 mLシリンジを用いて、外側伏在静脈を介して、hu-CD34-NSG-SGM3マウスの静脈からPBMCを5日ごとに収集する。この手順は、マウスに麻酔をかけ、下腿の外側面の毛を刈り、アルコールスワブで処置部位を準備し乾燥させ、石油系潤滑剤の薄膜を穿刺部位に塗布し、親指と人差し指の間で膝関節上部の外側伏在静脈を圧縮し、約200 μL~300 μLの血液を収集することを含む。続いて、収集されたPBMCを免疫調節チャンバーに導入する。
【0116】
免疫調節チャンバー内で免疫細胞を腫瘍細胞および間質性物質に曝露した後、免疫調節チャンバー内の腫瘍細胞の応答を評価する(
図6)。本発明の方法によって活性化した免疫細胞が腫瘍細胞の成長を阻害する能力を評価するために、活性化PBMC(例えば、約250μL)をエクスビボ循環ネットワークから収集し、残存腫瘍を有するマウスに注射する。尾を温め(例えば、触ると温かい(しかし熱くはない)電気加熱パッドで尾を包み)、静脈を見やすくするために尾の付け根に止血帯を巻き、マウスを拘束する(例えば、Plexiglas拘束器内に)ことによって、静脈内注射(例えば、外側尾静脈を介する)のためにマウスを準備する。1 mLシリンジに取り付けた27ゲージ皮下針を静脈とほぼ平行に皮膚に挿入することにより、活性化PBMCをマウスに注射する。注射手順を毎日繰り返し(例えば、全部で約5回)、マウスにおける腫瘍体積を変化についてモニターする。
【0117】
実施例2. インビトロアフェレーシス-腫瘍モデル
本実施例は、腫瘍を標的とする自己白血球を活性化させ、腫瘍細胞を死滅させるそれらの能力を高める、本発明の方法の能力を実証するための、インビトロモデルの使用を記載する。詳細には、本実施例は、本発明の方法によって処置されるべき対象のインビトロ代替物として働く第2免疫調節チャンバーの使用を実証する。
【0118】
本研究においては、細針吸引液 (FNA) 試料およびコア生検試料を、一致するPBMC(例えば、アフェレーシスにより採取される)と共に、対象(例えば、がん患者)から採取する。FNAから得られた腫瘍細胞ならびに間質性物質(例えば、間質細胞および他の間質成分)を第1免疫調節チャンバーに導入し、組織培養インキュベーター内でCO
2と共に37℃で24時間インキュベートする。収集および/またはインキュベーション中、適切な培地が提供される。加えて、細胞および間質性物質を、必要に応じて炎症促進性サイトカイン(例えば、IL2、IL7、IL12、IL15、IL18、IL21、IFNβ、TNFα、GM-CSF)と共にインキュベートする。これらの刺激性サイトカインを免疫調節チャンバーの範囲に限定することにより、高濃度のこれらの薬剤に付随する全身性毒性作用を、対象において回避することができる。加えて、免疫調節チャンバー内で腫瘍特異的白血球と腫瘍細胞を同時にインキュベートすることにより、腫瘍特異的白血球は、間質層に「浸潤する」必要なしに腫瘍細胞を容易に認識し得る。さらに、特異的な免疫活性化を増強するために、利用可能な免疫腫瘍学薬剤が必要に応じて免疫調節チャンバーに加えられる。適切な免疫腫瘍学薬剤には、免疫チェックポイント阻害剤(例えば、抗CTLA4抗体、抗PD1抗体、抗PDL1抗体、抗OX40抗体、および抗CD137抗体)ならびにインドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ (IDO) 阻害剤が含まれるが、これらに限定されない。24時間のインキュベーション時間後、捕捉された腫瘍および間質性物質を含む第1免疫調節チャンバーを、
図7に示されるように、エクスビボ循環ネットワークに接続する。
【0119】
コア生検材料から得られた組織を個々の細胞に解離し、第2免疫調節チャンバーに導入する。1つの選択肢として、酵素解離が用いられる。穏やかに分割した組織を、トリプシン、パパイン、エラスターゼ、ヒアルロニダーゼ、コラゲナーゼ、プロナーゼ、デオキシリボヌクレアーゼ、または他の適切な酵素による穏やかな酵素処理により、消化して単一細胞懸濁液にする。2つ目の選択肢として、化学的解離が用いられる。穏やかに分割した組織を、多くの種類の陽イオン(Ca2+およびMg2+など)を隔離するためのEDTA、EGTA、またはテトラフェニルホウ酸とカリウムイオンの複合体で処理する。
【0120】
解離した腫瘍および間質細胞を、免疫調節チャンバー内(例えば、磁気プレート上)で、2~5% CO2と共に37℃にて適切な培地で培養する。免疫調節チャンバーに腫瘍/間質内容物が再定植したならば、免疫調節チャンバーをPBSで3回洗浄して、いかなる非結合デブリも除去する。
【0121】
例えばアフェレーシスにより収集されたPBMCを、
図7に示されるように、循環ネットワークに注入する。内容物を循環させるために、一定ポンプが用いられる。交互する循環ポンプ速度が用いられる。一例として、周期的変化は、10 cm/秒で1分、その後0.1 cm/秒で5分、その後1 cm/秒で1分を含む。適切な循環および十分なPBMC-腫瘍細胞相互作用を確実にするために、交互するスピードの任意の組み合わせが使用され得る。PBMCは、第1免疫調節チャンバーの内容物に曝露された際に、活性化する。
【0122】
腫瘍/間質コロニーが第2免疫調節チャンバー内で確立された時点で、
図8に示されるように、第2チャンバーを循環回路モジュール中に配置する。次いで、第2免疫調節チャンバー内の腫瘍/間質コロニーを、活性化免疫細胞に対する応答についてモニターする。
【0123】
実施例3. インビトロでの自己免疫細胞活性化
本実施例は、インビトロ自己免疫細胞活性化実験を記載し、その設定は
図9に記載される。本実験は、差次的に標識された同系のマウス腫瘍細胞およびマウス免疫細胞、すなわちそれぞれ緑色蛍光タンパク質 (GFP) で標識されたマウス腫瘍膵臓細胞および赤色蛍光タンパク質 (RFP) で標識された免疫細胞を利用した。GFP標識された膵臓腫瘍モデルは、マウス膵臓腺がん細胞株Pan02(最初はマウス株C57BL/6から導出されたものであり、米国立がん研究所の腫瘍貯蔵所、Frederick, MDから入手した)およびSuetsuguらによる論文 (Anticancer Res. (2015) 35(5):2553-2557) に記載された方法を用いて開発された。簡潔に説明すると、親Pan02細胞にヒストンH2B-GFP融合遺伝子を形質導入し、安定したクローンを樹立した。したがって、以後Pan02-H2bGFPと称される、結果として得られた細胞株は、融合遺伝子の発現に起因して明るい核GFP蛍光を示した。0日目に、
図9に図示されるように、ディッシュ当たり2×10
5個のPan02-H2bGFP細胞を3枚の別々の培養ディッシュに播種し、「A」~「C」とラベルを付け、それぞれその後異なる条件において7日間培養した。ディッシュ「A」(腫瘍細胞のみ)およびディッシュ「B」(インターロイキン2 (IL-2) の存在下で成長した腫瘍細胞)を、陰性対照とした。対照的に、トランスジェニックRFP標識C57BL/6マウス(Jackson Labs、Bar Harbor, ME)から新たに抽出された脾臓および骨髄由来免疫細胞を、0日目にディッシュ「C」の腫瘍細胞に加え(ディッシュ当たり10
7個のRFP-免疫細胞)、共培養物をIL-2の存在下で7日間成長させた。48時間後、RFP標識末梢血単核細胞 (PBMC)(すなわち、トランスジェニックRFP-C57BL/6マウスから新たに抽出された)を共培養物「C」に導入し(すなわち、ディッシュ当たり2.87×10
5個のPBMC)、次いでさらなる5日間の成長期間の間そのまま置いた。培養物はすべて、10%ウシ胎仔血清、および表示されている場合にはIL-2 (32 U/mL) を補充した標準的な細胞培養液中で成長させ、実験のプロセスにわたって培地交換を行わなかった。培養物を定期的にモニターし、細胞画像を光学顕微鏡法および蛍光顕微鏡法で捉えた。
【0124】
図10に示されるように、IL-2の存在下で、免疫細胞と腫瘍の相互作用が24時間以内に見えた。同系のIL-2刺激免疫細胞と腫瘍細胞との間の相互作用は、7日目まで観察された(
図10を参照されたい)。注目すべきことには、免疫細胞と腫瘍細胞との間のより頑強な相互作用は、7日目に観察された。このデータから、IL-2と共に、腫瘍抗原の存在が、インビトロにおいて免疫細胞を迅速に刺激し活性化させるのに十分であったことが示される。このことは、捕捉された腫瘍細胞(すなわち、抗原)を含む体外装置を用いた自己抗腫瘍免疫細胞活性化が、IL-2の存在下で達成され得ることを実証する。
【0125】
同様の実験において、
図11に図示されるように、B16F10細胞由来のGFP標識マウスメラノーマ細胞(Tsai et al. Anticancer Res. (2010) 30(9):3291-3294に記載されている)を、RFP-C57BL/6マウスから抽出された同系RFP-免疫細胞と、IL-2を伴ってまたは伴わずに共培養した。共培養物を4日目まで観察し、蛍光顕微鏡法によって解析した。IL-2を伴って細胞を成長させた場合、2日目および3日目に、RFP発現免疫細胞とGFP-腫瘍細胞との間の多くの広範な相互作用が観察された。対照的に、IL-2を伴わずに共培養物を成長させた場合には、これらの相互作用は見えなかった(
図11)。これらの結果から、免疫細胞を、それらの標的(すなわち、腫瘍抗原)を認識するよう誘発するのに、IL-2の存在が極めて重要であったことが示され、体外装置の状況における効果的な自己抗腫瘍免疫細胞活性化のための、腫瘍抗原の存在下におけるサイトカイン刺激の重要性が強調される。関連して、本実施例は、本発明の特別な利点‐免疫調節チャンバー内で免疫細胞を活性化させることは、免疫細胞の腫瘍細胞への曝露を増加させるのみならず、対象(例えば、がん患者)が全身的に刺激剤に曝露されず、その結果として望ましくない副作用を最小限にするような方法で、免疫細胞の刺激(例えば、IL-2による)を行えるようにする、を強調する。
【0126】
実施例4. 免疫細胞活性化のための体外装置
本実施例において記載される実験では、B16F10細胞由来のGFP標識マウスメラノーマ細胞(Tsai et al. Anticancer Res. (2010) 30(9):3291-3294に記載されている)を、包埋マトリックス内での3D細胞成長を可能する特別な組織培養装置(VITVO(登録商標)装置、Rigenerand、Italy)において培養した。これらの特殊化培養容器を、体外免疫調節チャンバーとして使用した。本実験では、
図12に図示されるように、および以下にさらに記載されるように、3つの免疫調節チャンバー(「チャンバー」)を使用し、0日目にこれらにB16F10-GFP細胞を播種した。
【0127】
チャンバー1は対照チャンバーであり、腫瘍細胞のみを含んだ。3日目および5日目に、このチャンバーに新鮮な培地を加えた。
【0128】
チャンバー2は試験チャンバーであった。このチャンバーに、最初に腫瘍細胞を播種した。3日目および5日目に、IL-2の存在下における腫瘍-免疫細胞共培養物である訓練チャンバー(すなわち、チャンバー3)からの上清 (s/n) を、チャンバー2に移した。3日目に、収集されたチャンバー3上清の半分を新鮮培地に加え (1:1)、次いでチャンバー2に移した。5日目に、チャンバー3からの上清をすべて収集し、チャンバー2に直接移した。上清の移送に関しては、上清を収集し、遠心して細胞内容物を単離し、IL-2を完全に除去し(すなわち、チャンバー3からのIL-2の持ち越しを最小限にするため)、次いで単離された細胞内容物をチャンバー2に移した。刺激された免疫細胞がそれら自身の刺激性サイトカインを自己分泌様式で生成する能力により、活性化免疫細胞は、別々の環境において腫瘍細胞を認識し、抗腫瘍免疫応答を開始できるようになった。チャンバー2の目的は、本発明の方法に従ってがんについて処置されるべき対象(例えば、がん患者)のインビトロモデルとしての役割を果たすことであった。
【0129】
チャンバー3は訓練チャンバーであった。このチャンバーは、0日目からIL-2の存在下で成長した腫瘍-免疫細胞共培養物を含んだ。腫瘍細胞はB16F10-GFPマウスメラノーマ細胞であり、同系RFP-免疫細胞(骨髄および脾臓)は、RFP-C57BL/6マウス(Jackson Labs、Bar Harbor, ME)から抽出した。3日目に、チャンバー3からの上清を収集し、1:2に分割した。半分はIL-2を伴わずに新鮮培地で再構成して (1:1)、チャンバー2に加え、残りの半分はIL-2を伴って新鮮培地で再構成して (1:1)、チャンバー3に加えて戻した。5日目に、チャンバー3からの上清をすべて収集して、チャンバー2に直接移し、IL-2を補充した新鮮培地をチャンバー3に加えた。上記の通り、上清の移送に関しては、上清を遠心して細胞内容物を単離し、IL-2を除去し、次いで単離された細胞内容物をチャンバー2に移した。
【0130】
図12に示されるように、免疫細胞と腫瘍細胞の相互作用をモニターするための蛍光像を異なる時点で撮影した。免疫調節チャンバー培養物の代表的な蛍光像から、訓練チャンバー(チャンバー3)内における免疫細胞と腫瘍細胞の相互作用が2日目までに見えたことが示される(
図13を参照されたい)。際立ったことには、4日目に、訓練チャンバーから試験チャンバーへの1回目の移送の24時間後すぐに、試験チャンバー内で免疫細胞と腫瘍細胞の相互作用が見えた。これらの免疫細胞と腫瘍細胞の相互作用は、6日目まで見えたままであった(
図13)。これらの結果から、体外装置において腫瘍細胞を認識するように刺激および活性化された自己免疫細胞は、異なる体外装置に移された場合に、それらの標的(すなわち、腫瘍抗原)を認識し得ることが示される。さらに、本実施例は、遠位転移部位に循環する活性化抗腫瘍免疫細胞の疑似転移腫瘍領域モデルを模倣する。
【0131】
実施例5. 体外自己免疫細胞療法のためのインビボ動物モデル
本実施例において記載される実験は
図14に要約され、実施例3において上記されたのと同じ、差次的に標識された同系のマウス腫瘍細胞およびマウス免疫細胞、すなわちPan02-H2bGFP細胞およびトランスジェニックRFP-C57BL/6マウス(Jackson Labs、Bar Harbor, ME)から抽出されたRFP標識免疫細胞を利用した。本実験では、腹膜腔内で播種性膵臓腫瘍モデルを作製するために、0日目にPan02-H2bGFP細胞を標準C57BL/6マウスに腹腔内注射した(2×10
7個の細胞/マウス)。次いで、
図14に図示されるように、および以下にさらに記載されるように、マウスを3群に分けた。
【0132】
群1は対照群であった。これらのマウスは、実験のプロセスにわたりRFP標識免疫細胞のいかなる注射も受けず、GFP標識膵臓腫瘍の成長を阻止するためにそれらの宿主免疫系にのみ依存した。
【0133】
群2は試験群であった。これらのマウスは、IL-2の存在下でPan02-H2bGFP細胞と6日間共培養された脾臓および骨髄由来RFP-免疫細胞の2回の別々の注射を、1日目および3日目に受けた(2.83×106個のRFP-免疫細胞/マウス)。言い換えると、これらのマウスに、刺激され腫瘍訓練を受けたRFP-免疫細胞を注射した。
【0134】
群3はベースライン群であった。これらのマウスは、IL-2の存在下で、しかしPan02-H2bGFP腫瘍細胞を全く伴わずに6日間培養された脾臓および骨髄由来RFP-免疫細胞の2回の別々の注射を、1日目および3日目に受けた(1.76×106個のRFP-免疫細胞/マウス)。言い換えると、これらのマウスに、刺激されたが未訓練のRFP-免疫細胞を注射した。
【0135】
本実験は、体外装置においてインビトロで刺激され腫瘍訓練を受けた自己免疫細胞が、免疫細胞の訓練対象と同じ腫瘍型を有する生体に移入された場合に、抗腫瘍活性を発揮し得るという仮説を試験するために計画された。対照群では最も頑強な腫瘍成長が起こると予測された。対照的に、試験群では腫瘍量の減少が観察され、ベースライン群では、中等度の腫瘍成長が観察されると予測された。
【0136】
特定の時点において、1群当たり1匹のマウスを屠殺し、GFP-腫瘍成長の程度を判定するために体腔の明視野像を蛍光像と共に捉えた。加えて、末梢血由来のPBMCを回収し、サイトメトリーによって解析した。
図15は、本実験の6日目に屠殺された、各群の1匹の動物について得られた結果を示す。対照および群3のマウスの腹膜腔内には目に見える腫瘍が存在する一方で、群2の試験マウスの腹膜腔内には何も観察されなかった(明視野全身像の比較、
図15)。さらに、対照マウスの膀胱において、および腸の内層に沿った内臓間隙の全体にわたって、GFP発現腫瘍細胞および/またはGFP-腫瘍細胞デブリが見えた。しかしながら、これらのマウスには免疫細胞を注射しなかったため、予測通り、RFP発現免疫細胞は観察されなかった。蛍光腫瘍細胞および/または腫瘍細胞デブリは、群3のマウスの膀胱においても見えたが、蛍光強度は全体的に対照マウスよりも弱かった。対照的に、群2からの試験マウスの蛍光像では、GFP-膵臓腫瘍細胞の証拠は見出されなかった(
図15を参照されたい)。予測通り、最も頑強な腫瘍成長は対照マウスにおいて存在し、試験マウスは、目に見える腫瘍成長および/または蛍光腫瘍細胞の欠如を示した。これらの結果から、試験マウスにおいて効果的な抗腫瘍免疫応答が起こり、これが、この試験群のマウスの腹膜腔内に注射された、体外で刺激され抗腫瘍訓練を受けたRFP-免疫細胞によって実行された可能性が最も高いことが実証される。実際に、試験マウス2の末梢血から収集されたPBMCのサイトメトリー解析により、循環RFP-免疫細胞の大きな集団の存在が示された(
図15を参照されたい)。このデータから、この動物に注射された、活性化し抗腫瘍訓練を受けたRFP-免疫細胞がインビボで拡大増殖し、循環中に入ったことが実証される。さらに、試験マウス2からの血液のサイトメトリー解析によって、実質的なRFP陰性免疫細胞集団が証明された(
図15)。これにより、体外で訓練を受けたRFP-免疫細胞によって開始された抗腫瘍免疫応答が、その後宿主免疫細胞による免疫応答を誘発し、結果として宿主(すなわち、非標識)抗腫瘍免疫細胞の拡大増殖をもたらしたことが実証される。群3のマウスの血液から収集されたデータは、循環RFP-免疫細胞およびいくらかの非表標識免疫細胞のいくつかの証拠を示した(
図15)。しかしながら、これらの集団はいずれも小さく、6日目までに頑強な抗腫瘍免疫応答を開始しなかったこの動物では、未訓練のRFP免疫細胞も宿主免疫細胞もインビボで拡大増殖しなかったことが示される。予測通り、対照マウスから収集された血液中に循環RFP-免疫細胞の証拠は存在しなかった。
【0137】
さらに、
図16に示されるように、17日目には、腫瘍のみのマウス(群1)において目に見える腫瘍が明らかであり(
図16A~16C)、訓練を受けた免疫細胞を注射したマウス(群2)において明白な腫瘍は見出されなかった(
図16D~16F)。サイトメトリーデータは、腫瘍のみのマウス(群1)からの疑わしい腫瘍小結節および網におけるGFP陽性腫瘍細胞の存在を示し(前方散乱(y軸)と関連したGFP蛍光(x軸)を示す
図16Cの左側および中央パネルにおける実線の四角)、PBMCではRFP陽性免疫細胞は検出されなかった(
図16Cの右側パネル)。その一方で、サイトメトリー解析は、実験マウス(群2)からの疑わしい腫瘍小結節および網においてGFP陽性腫瘍細胞の証拠がないことを明らかにし(
図16Fの左側および中央パネル)、PBMCではRFP陽性免疫細胞が検出された(
図16Fの右側パネル)。
【0138】
全体として、これらの結果から、免疫細胞が、最初に体外装置において刺激され抗腫瘍訓練を受け、次いで腫瘍を有する生体に移入された場合に、その生物において抗腫瘍免疫応答を誘導し得ることが実証される。この応答は、前述の刺激され抗腫瘍訓練を受けた免疫細胞および宿主免疫細胞を伴う。このデータはまた、頑強な抗腫瘍免疫応答を誘発するために、移入前に体外装置において免疫細胞を刺激し訓練することの重要性を強調する。
【0139】
本明細書に記載される実施例および態様は説明の目的のためにのみ提供されるものであり、この点を考慮した様々な修正または変更が当業者に示唆され、本出願の精神および範囲ならびに添付の特許請求の範囲の範囲内に含まれることが理解される。本明細書において引用された出版物、特許、特許出願、および配列アクセッション番号はすべて、すべての目的のために全体として参照により本明細書に組み入れられる。