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特許7522038体細胞リプログラミングおよびインプリンティングのモジュレートのための組成物および方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】体細胞リプログラミングおよびインプリンティングのモジュレートのための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/075 20100101AFI20240717BHJP
   C12N 5/0735 20100101ALI20240717BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240717BHJP
   A01K 67/027 20240101ALI20240717BHJP
   A61P 15/08 20060101ALI20240717BHJP
   A61K 35/54 20150101ALI20240717BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20240717BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20240717BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20240717BHJP
【FI】
C12N5/075 ZNA
C12N5/0735
C12N5/10
A01K67/027
A61P15/08
A61K35/54
A61L27/38 300
A61L27/38
A61L27/38 120
C12N15/09 110
C12N15/113 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020554407
(86)(22)【出願日】2019-04-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-26
(86)【国際出願番号】 US2019026074
(87)【国際公開番号】W WO2019195738
(87)【国際公開日】2019-10-10
【審査請求日】2022-04-04
(31)【優先権主張番号】62/654,199
(32)【優先日】2018-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】596115687
【氏名又は名称】ザ チルドレンズ メディカル センター コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】チャン イ
(72)【発明者】
【氏名】的場 章悟
【審査官】林 康子
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-528142(JP,A)
【文献】国際公開第2017/062706(WO,A1)
【文献】PNAS,2011年,Vol.108, No.51,pp.20261-20626
【文献】Stem Cell Reports,2018年,Vol.10,pp.494-508,Epub 2018 Jan 11
【文献】Cell,2014年,Vol.159, No.4,pp.884-895
【文献】Development,2018年,Vol.145, No.4 dev158261,pp.1-12,published on 2018 Feb 16
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/075
A01K 67/027
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Xist活性が欠如している非ヒト哺乳類体細胞から得られたドナー核を単離された非ヒト哺乳類除核卵母細胞内に移植する段階、および前記卵母細胞において増加したレベルのKdm4dを発現させ、それによりクローン非ヒト哺乳類胚盤胞を得る段階を含む、クローン非ヒト哺乳類胚盤胞を得るための方法。
【請求項2】
卵母細胞にKdm4d mRNAが注入される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
Xistに欠失を含むかまたはXistの不活性型を含む非ヒト胚性線維芽細胞から、前記ドナー細胞核が得られる、請求項1記載の方法。
【請求項4】
ドナー核が、ネコ、ウシ、イヌ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、またはウマから得られる、請求項1記載の方法。
【請求項5】
妊娠のために胚盤胞を非ヒト宿主の子宮内に移植する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記方法において、前記卵母細胞における増加したレベルのKdm4dの発現により、対照としての増加したレベルのKdm4dの発現を欠く卵母細胞と比べて、得られた前記クローン非ヒト哺乳類胚盤胞からの生児出生率少なくとも10~20%増加がもたらされる、請求項5記載の方法。
【請求項7】
非ヒト哺乳類対象への移植のための細胞または組織を得るための方法であって、
(a)非ヒト哺乳類対象から得られた培養細胞におけるXistを不活性化するかまたはXistの活性もしくは発現を低減する段階;
(b)培養細胞からの核を単離された非ヒト哺乳類除核卵母細胞内に移植して、前記卵母細胞を活性化する段階;および
(c)段階(b)で得られた活性化非ヒト哺乳類卵母細胞にKdm4d mRNAを注入し、卵母細胞において増加したレベルのKdm4dを発現させ、かつ結果として生じる細胞を培養して、非ヒト哺乳類対象への移植に適した非ヒト哺乳類細胞または組織を得る段階
を含む、前記方法。
【請求項8】
Xistが、ゲノム編集により不活性化される、請求項7記載の方法。
【請求項9】
ゲノムXistポリヌクレオチドに欠失または不活性化変異を導入するために、CRISPRシステムが使用される、請求項7記載の方法。
【請求項10】
Xistポリヌクレオチドの発現または活性が、siRNAまたはshRNAを用いて低減される、請求項7記載の方法。
【請求項11】
Xistに欠失を含むかまたは低減されたレベルのXist発現を有し、かつ
非ヒト細胞において増加したレベルで発現するKdm4dをコードする異種ポリヌクレオチドを含む、
非ヒト細胞。
【請求項12】
Xist活性が欠如している非ヒト哺乳類体細胞から得られたドナー核を含み、対照としての増加したレベルのKdm4dの発現を欠く卵母細胞と比べて増加したレベルのKdm4dを発現している、非ヒト哺乳類卵母細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その全内容が参照により本明細書に組み入れられる、2018年4月6日に出願された米国仮出願第62/654,199号の恩典を主張する。
【0002】
連邦政府の支援による研究によってなされた発明に対する権利の記載
本発明は、国立衛生研究所により授与された助成金番号HD092465の下、政府の支援を受けてなされた。政府は、本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
背景
哺乳動物卵母細胞は、体細胞核移植(SCNT)により体細胞を全能状態にリプログラミングすることができる。SCNTは、対象宿主と遺伝的に同一または類似であるドナー生物からの組織の生成を伴う治療的クローニングに使用される。SCNTはまた、動物のクローニングを可能にする。この技術は、アグロ-バイオテクノロジーのみならず、絶滅危惧種の保護に大きな潜在性を有する。しかし、クローニングの極めて低い成功率が、この技術の実用を困難にしている。例えば、マウスの場合、SCNT胚の約30%だけが胚盤胞に発達し、代理母に移植された胚の1~2%だけが満期に達することができる。さらに、生存している胚では、ほぼすべてのクローン哺乳動物種で胚体外組織、例えば胎盤および臍帯にしばしば異常が観察される。これらの観察は、SCNTのリプログラミングが、胚の発生過程を妨害するいくつかの欠損を有することを示唆している。DNAメチル化、ヒストン修飾、およびゲノムインプリンティングにおける様々なエピジェネティックな異常が、SCNTの低い成功率に結びつけられている。クローニング効率を改善する著しい必要性が存在する。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、クローニング効率を改善するための方法を提供する。本発明は、クローニング効率を改善するための方法を提供する。特定の態様では、本発明は、Xistノックアウトドナー細胞におけるKdm4dの過剰発現を伴う、体細胞核移植の効率を改善するための方法を提供する。
【0005】
一局面では、本発明は、Xist活性が欠如している体細胞から得られたドナー核を除核卵母細胞内に移植する段階、および卵母細胞においてKdm4dを発現させ、それによりクローン胚盤胞を得る段階を含む、クローン胚盤胞を得るための方法を提供する。本方法のいくつかの態様では、卵母細胞にKdm4d mRNAが注入される。いくつかの態様では、ドナー細胞核は、Xistに欠失を含むかまたはXistの不活性型を含む胚性線維芽細胞から得られる。いくつかの態様では、ドナー核は、ヒト、ネコ、ウシ、イヌ、ブタ、またはウマから得られる。いくつかの態様では、本方法はまた、妊娠のために胚盤胞を宿主の子宮内に移植する段階も含む。いくつかの態様では、本方法は、従来の体細胞核移植と比べて生児出生率を少なくとも約10~20%増加させる。本発明のいくつかの局面は、上記方法によって産生される胚盤胞を含む。本発明のいくつかの局面は、上記方法によって産生される胚盤胞を植えつけることによって産生されるクローン生物を含む。
【0006】
別の局面では、本発明は、対象への移植のための細胞または組織を得るための方法であって、対象から得られた培養細胞におけるXistを不活性化するかまたはXistの活性もしくは発現を低減する段階;培養細胞からの核を除核卵母細胞内に移植し、それにより、卵母細胞を活性化する段階;および活性化卵母細胞にKdm4d mRNAを注入し、かつ結果として生じる細胞を培養し、それにより、対象への移植に適した細胞または組織を得る段階を含む方法を提供する。本発明のいくつかの局面では、この方法によって産生される細胞または組織が提供される。いくつかの態様では、Xistは、ゲノム編集により不活性化される。例えば、いくつかの態様では、ゲノムXistポリヌクレオチドに欠失または不活性化変異を導入するために、CRISPRシステムが使用される。本方法の他の態様では、Xistポリヌクレオチドの発現または活性は、siRNAまたはshRNAを用いて低減される。
【0007】
本発明の他の局面では、Xistにおける欠失または低減されたレベルのXist発現を有し、かつKdm4dをコードする異種ポリヌクレオチドを有する細胞が、提供される。
【0008】
追加的な局面は、Xist活性が欠如している体細胞から得られたドナー核を含み、従来の卵母細胞と比べて増加したレベルのKdm4dを発現している卵母細胞を含む。
【0009】
定義
特に定義しないかぎり、本明細書に使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって通常理解される意味を有する。以下の参照は、当業者に、本発明に使用される用語の多くの一般的定義を提供する:Singleton et al., Dictionary of Microbiology and Molecular Biology (2nd ed. 1994);The Cambridge Dictionary of Science and Technology (Walker ed., 1988);The Glossary of Genetics, 5th Ed., R. Rieger et al. (eds.), Springer Verlag (1991);およびHale & Marham, The Harper Collins Dictionary of Biology (1991)。本明細書に使用される場合、以下の用語は、特に規定しないかぎり下にそれらのものとされる意味を有する。
【0010】
「KDM4Dポリペプチド」によって、NCBI参照番号Q6B0I6と少なくとも約85%のアミノ酸配列同一性を有し、かつデメチラーゼ活性を有するポリペプチドまたはそのフラグメントが意味される。例示的なKDM4Dアミノ酸配列は下に提供される:
【0011】
「KDM4Dポリヌクレオチド」によって、KDM4Dポリペプチドをコードする核酸分子が意味される。例示的なKDM4D核酸は下に提供される:
【0012】
「EZH1ポリペプチド」(ヒストン-リシンN-メチルトランスフェラーゼEZH1)によって、NCBI参照配列:NP_001982に提供される配列と少なくとも約85%のアミノ酸同一性を有し、かつメチルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質またはそのフラグメントが意味される。例示的なH3K27メチルトランスフェラーゼのアミノ酸配列は、下に提供される:
【0013】
「EZH1ポリヌクレオチド」によって、EZH1ポリペプチドをコードする核酸分子が意味される。例示的なEZH1ポリヌクレオチド配列は、NM_001991.4に提供され、下に転載される:
【0014】
「EZH2ポリペプチド」(ヒストン-リシンN-メチルトランスフェラーゼEZH2)によって、UniProtKB/Swiss-Prot:Q15910.2に提供される配列と少なくとも約85%のアミノ酸同一性を有し、かつメチルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質またはそのフラグメントが意味される。例示的なH3K27メチルトランスフェラーゼアミノ酸配列は下に提供される:
「EZH2ポリヌクレオチド」によって、EZH2ポリペプチドをコードする核酸分子が意味される。例示的なEZH2ポリヌクレオチド配列は、NM_001203248.1に提供され、下に提供される:
【0015】
「KDM6Aポリペプチド」(ヒストンデメチラーゼUTXとも呼ばれるリシン特異的デメチラーゼ6A)によって、NCBI参照配列:O15550.2に提供される配列と少なくとも約85%のアミノ酸同一性を有し、かつデメチラーゼ活性を有するタンパク質またはそのフラグメントが意味される。例示的なKDM6Aアミノ酸配列は下に提供される:
【0016】
「KDM6Aポリヌクレオチド」によって、KDM6Aポリペプチドをコードする核酸分子が意味される。例示的なKDM6Aポリヌクレオチド配列は、NM_001291415.1に提供される。
【0017】
「KDM6Bポリペプチド」(JmjCドメイン含有タンパク質3とも呼ばれるリシン特異的デメチラーゼ6)によって、NCBI参照配列:O15054.4に提供される配列と少なくとも約85%のアミノ酸同一性を有し、かつデメチラーゼ活性を有するタンパク質またはそのフラグメントが意味される。例示的なKDM6Bアミノ酸配列は、下に提供される:
【0018】
「KDM6Bポリヌクレオチド」によって、KDM6Bポリペプチドをコードする核酸分子が意味される。例示的なKDM6Bポリヌクレオチド配列は、NM_001080424.2に提供され、下に転載される:
【0019】
「KDM6Cポリペプチド」(Y染色体上ユビキタス転写TPRタンパク質とも呼ばれるヒストンデメチラーゼUTY)によって、NCBI参照配列:O14607.2に提供される配列と少なくとも約85%のアミノ酸同一性を有し、かつデメチラーゼ活性を有するタンパク質またはそのフラグメントが意味される。例示的なKDM6Cアミノ酸配列は、下に提供される:
【0020】
「KDM6Cポリヌクレオチドによって、KDM6Cポリペプチドをコードする核酸分子が意味される。例示的なKDM6Aポリヌクレオチド配列は、NM_001258249.1に提供され、その配列は、下に転載される:
【0021】
「Gab1ポリペプチド」(GRB2関連結合タンパク質1)によって、NCBI参照配列:NP_997006.1に提供される配列と少なくとも約85%のアミノ酸同一性を有するタンパク質またはそのフラグメントが意味される。例示的なGab1アミノ酸配列は、下に提供される:
【0022】
「Gab1ポリヌクレオチド」によって、Gab1ポリペプチドをコードする核酸分子が意味される。例示的なGab1ポリヌクレオチド配列は、NM_002039.3に提供され、その配列は、下に転載される:
【0023】
「Sfmbt2ポリペプチド」(4つのMBTドメインを有するscm様タンパク質2)によって、NCBI参照配列:NP_001018049.1に提供される配列と少なくとも約85%のアミノ酸同一性を有するタンパク質、またはそのフラグメントが意味される。例示的なSfmbt2アミノ酸配列は、下に提供される:
【0024】
「Sfmbt2ポリヌクレオチド」によって、Sfmbt2ポリペプチドをコードするポリペプチドが意味される。例示的なSfmbt2ポリヌクレオチド配列は、下に転載されるNM_001018039.1に提供される:
【0025】
「Smoc1ポリペプチド」(SPARC関連モジュラーカルシウム結合1)によって、NCBI参照配列:NP_001030024に提供される配列と少なくとも約85%のアミノ酸同一性を有するタンパク質、またはそのフラグメントが意味される。例示的なSmoc1アミノ酸配列は、下に提供される:
【0026】
「Smoc1ポリヌクレオチド」によって、Smoc1ポリペプチドをコードする核酸分子が意味される。例示的なSmoc1ポリヌクレオチド配列は、下に転載されるXM_005267995.1に提供される:
【0027】
「リシン27トリメチル化ヒストンH3(H3K27me3)」によって、ヒストンH3タンパク質サブユニット上のリシン27のトリメチル化が意味される。H3K27me3修飾は、一般に、遺伝子抑制に関連する。
【0028】
「作用物質」によって、ペプチド、核酸分子、または小化合物が意味される。
【0029】
「アレル」によって、染色体上の同じ位置に見られる遺伝子の2つまたはそれよりも多くの選択的形態の1つが意味される。
【0030】
「変更」によって、本明細書に記載される方法のような、標準的な技術で公知の方法によって検出される遺伝子またはポリペプチドの発現レベルまたは活性における変化(増加または低減)が意味される。本明細書に使用される場合の変更は、発現レベルにおける10%の変化、好ましくは発現レベルにおける25%の変化、より好ましくは40%の変化、最も好ましくは50%またはそれよりも大きい変化を含む。
【0031】
「回復させる」によって、疾患の発生または進行を減少、抑制、軽減、縮小、停止、または安定化することが意味される。
【0032】
本開示において、「含む(comprises)」、「含んでいる(comprising)」、「含有している」および「有している」などは、米国特許法においてそれらのものとされる意味を有することができ、「含む(includes)」、「含んでいる(including)」などを意味することができ;「から本質的になっている(consisting essentially of)」または「本質的になる(consists essentially)」などは、米国特許法において与えられる意味を有し、本用語は制限がなく、列挙されたものの基本的な、または新規の特徴が、列挙されたものより多いが、先行技術の態様を除くものが存在することで変化しない限り、列挙されたものより多くのものが存在するのを可能にする。
【0033】
「検出する」は、検出すべき分析物の存在、非存在または量を特定することを指す。
【0034】
「疾患」によって、細胞、組織、または器官の正常な機能を損傷または妨害する任意の状態または障害が意味される。障害の例は、H3K27me3依存性インプリンティングによるアレルの望ましくない抑制に関連するものを含む。小眼球は、インプリンティング障害に関係する例示的なH3K27me3依存性インプリンティング関連障害である。
【0035】
「DNA」によって、デオキシリボ核酸が意味される。様々な態様では、DNAという用語は、ゲノムDNA、組み換えDNA、またはcDNAを指す。特定の態様では、DNAは、「標的領域」を含む。本明細書において考えられるDNAライブラリーは、ゲノムDNAライブラリー、およびRNA、例えばRNA発現ライブラリーから構築されるcDNAライブラリーを含む。様々な態様では、DNAライブラリーは、1つまたは複数の追加的なDNA配列および/またはタグを含む。
【0036】
「有効量」によって、未処置患者と比べて疾患の症状を回復させるために必要な量が意味される。疾患の治療的処置のために本発明を実施するために使用される活性化合物の有効量は、投与方式、対象の年齢、体重、および全身の健康状態に応じて様々である。最終的に、担当の医師または獣医師が、適切な量および投薬レジメンを決定するであろう。そのような量は、「有効」量と呼ばれる。
【0037】
「フラグメント」によって、ポリペプチドまたは核酸分子の一部分が意味される。この一部分は、好ましくは、参照核酸分子またはポリペプチドの全長の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%を含有する。フラグメントは、10、20、30、40、50、60、70、80、90、または100、200、300、400、500、600、700、800、900、または1000個のヌクレオチドまたはアミノ酸を含有し得る。
【0038】
「単離された」、「精製された」、または「生物学的に純粋な」物質という用語は、その天然状態で見出されるときにそれに通常付随する成分を含まない程度が様々である材料を指す。「単離する」は、本来の供給源または環境からの分離度を意味する。「精製する」は、単離よりも高い分離度を意味する。「精製された」または「生物学的に純粋な」タンパク質は、他の物質が十分に除かれていることにより、いかなる不純物もタンパク質の生物学的特性に物質的に影響したり、他の有害な結果を引き起こしたりすることがない。すなわち本発明の核酸またはペプチドは、組み換えDNA技法によって産生された場合に細胞物質、ウイルス物質、もしくは培地を実質的に含まないならば、または化学合成された場合に化学前駆物質もしくは他の化学物質を含まないならば、精製されている。純度および均質性は、典型的には分析化学の技術、例えば、ポリアクリルアミドゲル電気泳動または高速液体クロマトグラフィーを用いて決定される。「精製された」という用語は、核酸またはタンパク質が電気泳動ゲルにおいて本質的に1つのバンドを生じることを意味することができる。修飾、例えば、リン酸化またはグリコシル化に供することができるタンパク質について、異なる修飾が異なる単離されたタンパク質を生じる場合があり、それらのタンパク質は別々に精製することができる。
【0039】
「単離されたポリヌクレオチド」によって、本発明の核酸分子が由来する生物の天然ゲノムにおいて当該遺伝子に隣接する遺伝子を含まない核酸(例えばDNA)が意味される。したがって、この用語は、例えば、ベクター内に;自律複製プラスミドもしくはウイルス内に;または原核生物もしくは真核生物のゲノムDNA内に組み込まれた組み換えDNA;あるいは他の配列と独立して別の分子(例えば、cDNAまたはPCRもしくは制限エンドヌクレアーゼ消化によって生成されるゲノムもしくはcDNAフラグメント)として存在する組み換えDNAを含む。加えて、この用語は、DNA分子から転写されるRNA分子のみならず、追加的なポリペプチド配列をコードする雑種遺伝子の部分である組み換えDNAを含む。
【0040】
「単離されたポリペプチド」によって、それに自然に付随する成分から分離されている本発明のポリペプチドが意味される。典型的にポリペプチドは、その少なくとも60重量%が、それが天然で関連するタンパク質および天然有機分子を含まない場合、単離されている。好ましくは、調製物は、本発明のポリペプチドが少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも90重量%、最も好ましくは少なくとも99重量%である。本発明の単離されたポリペプチドは、例えば、天然起源からの抽出によって、そのようなポリペプチドをコードする組み換え核酸の発現によって;またはタンパク質を化学合成することによって、得られ得る。純度は、任意の適切な方法、例えば、カラムクロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、またはHPLC分析によって測定することができる。
【0041】
本明細書において提供される範囲は、当該範囲内の値のすべてについての略記であると理解される。例えば、1~50の範囲は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、または50からなる群からの任意の数、数の組み合わせ、または部分範囲を含むことが理解される。
【0042】
「低減する」によって、少なくとも10%、25%、50%、75%、または100%のマイナスの変更が意味される。
【0043】
「参照」によって、標準条件または対照条件が意味される。
【0044】
「参照配列」は、配列比較の基礎として用いられる所定の配列である。参照配列は、特定の配列のサブセットまたは全体;例えば、完全長cDNAもしくは遺伝子配列のセグメント、または完全cDNAもしくは遺伝子配列であり得る。ポリペプチドについて、参照ポリペプチド配列の長さは、一般的に、少なくとも約16アミノ酸、好ましくは少なくとも約20アミノ酸、より好ましくは少なくとも約25アミノ酸、いっそうより好ましくは約35アミノ酸、約50アミノ酸、または約100アミノ酸であろう。核酸について、参照核酸配列の長さは、一般的に、少なくとも約50ヌクレオチド、好ましくは少なくとも約60ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも約75ヌクレオチド、いっそうより好ましくは約100ヌクレオチドもしくは約300ヌクレオチドまたはその周辺もしくはその間の任意の整数であろう。
【0045】
本発明の方法に有用な核酸分子は、本発明のポリペプチドまたはそのフラグメントをコードする任意の核酸分子を含む。そのような核酸分子は、内因性核酸配列と100%同一である必要がないが、典型的には実質的な同一性を示すであろう。内因性配列と「実質的な同一性」を有するポリヌクレオチドは、典型的には、二本鎖核酸分子の少なくとも1つの鎖とハイブリダイズすることが可能である。本発明の方法に有用な核酸分子は、本発明のポリペプチドまたはそのフラグメントをコードする任意の核酸分子を含む。そのような核酸分子は、内因性核酸配列と100%同一である必要はないが、典型的には実質的な同一性を示すであろう。内因性配列と「実質的な同一性」を有するポリヌクレオチドは、典型的には、二本鎖核酸分子の少なくとも1つの鎖とハイブリダイズすることが可能である。「ハイブリダイズする」によって、様々なストリンジェンシー条件で、対が相補的ポリヌクレオチド配列(例えば、本明細書に記載される遺伝子)またはその部分の間で二本鎖分子を形成することが意味される(例えば、Wahl, G. M. and S. L. Berger (1987) Methods Enzymol. 152:399; Kimmel, A. R. (1987) Methods Enzymol. 152:507を参照されたい)。
【0046】
例えば、ストリンジェントな塩濃度は、通常、約750mM未満のNaClおよび75mMクエン酸三ナトリウム、好ましくは約500mM未満のNaClおよび50mMクエン酸三ナトリウム、より好ましくは約250mM未満のNaClおよび25mMクエン酸三ナトリウムであろう。低ストリンジェンシーのハイブリダイゼーションは、有機溶媒、例えば、ホルムアミドの非存在下で得ることができ、一方、高ストリンジェンシーのハイブリダイゼーションは、少なくとも約35%のホルムアミド、より好ましくは少なくとも約50%のホルムアミドの存在下で得ることができる。ストリンジェントな温度条件は、通常、少なくとも約30℃、より好ましくは少なくとも約37℃、もっとも好ましくは少なくとも約42℃の温度を含む。ハイブリダイゼーション時間、洗剤、例えばドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の濃度、および担体DNAの包含または排除などの追加的なパラメーターを変えることは、当業者に周知である。これらの様々な条件を必要に応じて組み合わせることによって、様々なレベルのストリンジェンシーが達成される。好ましい態様では、ハイブリダイゼーションは、750mM NaCl、75mMクエン酸三ナトリウム、および1% SDS中、30℃で起こるであろう。より好ましい態様では、ハイブリダイゼーションは、500mM NaCl、50mMクエン酸三ナトリウム、1% SDS、35%ホルムアミド、および100.mu.g/ml変性サケ精子DNA(ssDNA)中、37℃で起こるであろう。もっとも好ましい態様では、ハイブリダイゼーションは、250mM NaCl、25mMクエン酸三ナトリウム、1% SDS、50%ホルムアミド、および200μg/ml ssDNA中、42℃で起こるであろう。これらの条件に有用な変動は、当業者に容易に明らかであろう。
【0047】
大部分の適用について、ハイブリダイゼーションに続く洗浄段階もまた、ストリンジェンシーが異なる。洗浄ストリンジェンシー条件は、塩濃度および温度により定義することができる。上記のように、洗浄ストリンジェンシーは、塩濃度を下げることまたは温度を上げることによって増加させることができる。例えば、洗浄段階のためのストリンジェントな塩濃度は、好ましくは約30mM未満のNaClおよび3mMクエン酸三ナトリウム、もっとも好ましくは約15mM未満のNaClおよび1.5mMクエン酸三ナトリウムであろう。洗浄段階のためのストリンジェントな温度条件は、通常、少なくとも約25℃、より好ましくは少なくとも約42℃、いっそうより好ましくは少なくとも約68℃の温度を含むであろう。好ましい態様では、洗浄段階は、30mM NaCl、3mMクエン酸三ナトリウム、および0.1% SDS中、25℃で起こるであろう。より好ましい態様では、洗浄段階は、15mM NaCl、1.5mMクエン酸三ナトリウム、および0.1% SDS中、42Cで起こるであろう。より好ましい態様では、洗浄段階は、15mM NaCl、1.5mMクエン酸三ナトリウム、および0.1% SDS中、68℃で起こるであろう。これらの条件に対する追加的な変動は、当業者に容易に明らかであろう。ハイブリダイゼーション技術は当業者に周知であり、例えば、Benton and Davis (Science 196:180、1977);Grunstein and Hogness (Proc. Natl. Acad. Sci., USA 72:3961, 1975);Ausubel et al. (Current Protocols in Molecular Biology, Wiley Interscience, New York, 2001);Berger and Kimmel (Guide to Molecular Cloning Techniques, 1987, Academic Press, New York);およびSambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New Yorkに記載されている。
【0048】
「実質的に同一である」によって、参照アミノ酸配列(例えば、本明細書に記載のアミノ酸配列のうちいずれか1つ)または核酸配列(例えば、本明細書に記載の核酸配列のうちいずれか1つ)と少なくとも50%の同一性を示すポリペプチドまたは核酸分子が意味される。好ましくは、そのような配列は、比較のために用いられる配列とアミノ酸レベルまたは核酸レベルで、少なくとも60%、より好ましくは80%または85%、より好ましくは90%、95%または99%までも同一である。
【0049】
配列同一性は、典型的には、配列解析ソフトウェア(例えば、Genetics Computer GroupのSequence Analysis Software Package(University of Wisconsin Biotechnology Center, 1710 University Avenue, Madison, Wis. 53705)、BLAST、BESTFIT、GAP、またはPILEUP/PRETTYBOXプログラム)を用いて測定される。そのようなソフトウェアは、相同度を割り当てることによって同一または類似の配列を様々な置換、欠失、および/または他の修飾にマッチさせる。保存的置換は、典型的には、以下の基:グリシン、アラニン;バリン、イソロイシン、ロイシン;アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン;セリン、トレオニン;リシン、アルギニン;およびフェニルアラニン、チロシン内の置換を含む。同一度を決定するための例示的なアプローチにおいて、BLASTプログラムが使用されてもよく、e-3からe-100の間の確率スコアが密接に関連する配列を示す。
【0050】
「体細胞核移植」または「SCNT」によって、体細胞から除核卵母細胞内へのドナー核の移植が意味される。この工程は、生殖クローニングまたは治療クローニングのいずれかに用いることができ、体細胞と除核卵母細胞との融合、除核卵母細胞内への核の注入、または任意の他の方法によって達成され得る。
【0051】
体細胞の核は、遺伝情報を提供し、一方、卵母細胞は、胚の発生に必要な栄養および他のエネルギー産生物質を提供する。融合が起こった後、細胞は全能性であり、最終的に胚盤胞に発生し、この時点で内細胞塊が単離される。
【0052】
本明細書に使用される「核移植」という用語は、除核卵母細胞を体細胞の細胞核遺伝物質または核と人工的に組み合わせることによって獲得される同一の特徴および質を可能にする遺伝子操作技術を指す。いくつかの態様では、核移植手技は、除核された卵または卵母細胞(核/前核が除去された卵または卵母細胞)の中にドナー体細胞からの核または核遺伝物質が移植される手技である。ドナー核は、体細胞に由来することができる。
【0053】
「核遺伝物質」という用語は、その個体に関する情報をコードするポリヌクレオチド(例えばDNA)を含む核において見出される構造および/または分子を指す。核遺伝物質は、染色体およびクロマチンを含む。この用語はまた、親細胞の娘細胞への分裂などの細胞分裂によって生成される核遺伝物質(例えば染色体)を指す。核遺伝物質は、ミトコンドリアDNAを含まない。
【0054】
「SCNT胚」という用語は、体細胞の核または核遺伝物質と融合された除核卵母細胞の細胞、またはその全能性後代を指す。SCNT胚は、胚盤胞に発生し、着床後に生きた子孫に発生することができる。SCNT胚は、胚盤胞になる前の1細胞期胚、2細胞期胚、4細胞期胚、または任意の細胞期の胚であることができる。
【0055】
「ドナーヒト細胞」または「ドナーヒト体細胞」という用語は、レシピエント卵母細胞内に核アクセプターまたはレシピエントとして移植されるヒト細胞の体細胞または核を指す。
【0056】
「体細胞」という用語は、生殖細胞でも生殖細胞前駆細胞でもない植物細胞または動物細胞を指す。いくつかの態様では、分化した細胞は、性細胞(germ cell)ではない。体細胞は、多能性細胞または全能細胞と関係しない。いくつかの態様では、体細胞は、胚に存在せず、胚から得られもしない体細胞が意味され、そのような細胞のインビトロ増殖に起因しない「非胚性体細胞」である。いくつかの態様では、体細胞は、胚もしくは胎児以外の生物に存在する、もしくはその生物から得られる細胞、またはそのような細胞のインビトロ増殖の結果として生じる細胞が意味される「成体体細胞」である。
【0057】
本明細書に使用される「卵母細胞」という用語は、第二分裂中期に達した成熟卵母細胞を指す。卵母細胞はまた、生殖に関与する雌性配偶子または性細胞を記載するためにも使用され、一般に卵とも呼ばれる。成熟卵は、単一セットの母系染色体(ヒト霊長類では23、X)を有し、第二分裂中期で停止する。
【0058】
「雑種卵母細胞」は、第1のヒト卵母細胞(「レシピエント」と名づけられる)からの細胞質を有するが、レシピエント卵母細胞の核遺伝物質を有しない除核卵母細胞を指し;これは、「ドナー」と名づけられる別のヒト細胞からの核遺伝物質を有する。いくつかの態様では、雑種卵母細胞はまた、レシピエント卵母細胞由来ではなく、ドナー細胞(核遺伝物質と同じドナー細胞、または異なるドナー、例えばドナー卵母細胞からのドナー細胞であることができる)由来であるミトコンドリアDNA(mtDNA)を含むことができる。
【0059】
本明細書に使用される「除核卵母細胞」という用語は、その核が除去されたヒト卵母細胞を指す。
【0060】
本明細書に使用される「除核」という用語は、細胞核物質が除去され、細胞質だけを残す工程を指す。卵に適用された場合、除核は、核膜で囲まれていない母系染色体の除去を指す。「除核卵母細胞」という用語は、核物質または核が除去された卵母細胞を指す。
【0061】
本明細書に使用される「レシピエントヒト卵母細胞」は、その本来の核を除去した後にヒト核ドナー細胞からの核を受け入れるヒト卵母細胞を指す。
【0062】
本明細書に使用される「融合」という用語は、核ドナー細胞と、レシピエント卵母細胞の脂肪膜との組み合わせを指す。例えば、脂質膜は、細胞の形質膜または核膜であり得る。融合は、核ドナー細胞およびレシピエント卵母細胞が相互に隣接して置かれた場合または核ドナー細胞がレシピエント卵母細胞の囲卵腔中に置かれた場合に、それらの細胞の間に電気刺激を適用すると起こり得る。
【0063】
本明細書に使用される「生きた子孫」という用語は、子宮外(ex utero)で生存することができる動物を意味する。好ましくは、これは、1秒、1分、1日、1週間、1ヶ月、6ヶ月または1年超生存することができる動物である。この動物は、生存のために子宮内(in utero)の環境を必要としないものであり得る。
【0064】
「出生前」という用語は、誕生前に存在することまたは起こることを指す。同様に、「出生後」という用語は、誕生後に存在することまたは起こることである。
【0065】
本明細書に使用される「胚盤胞」という用語は、胎盤哺乳類における約30~150個の細胞の着床前胚(マウスでは受精の約3日後、ヒトでは受精の約5日後)を指す。胚盤胞期は桑実胚期に続き、その独特の形態により識別することができる。胚盤胞は、細胞層(栄養外胚葉)、液体で満たされた腔(割腔または胚盤胞腔)、および内部の細胞クラスター(内細胞塊、またはICM)からできた球体からなる。未分化細胞からなるICMは、胚盤胞が子宮内に植えつけられたならば胎児になるものを生み出す。これらのICM細胞は、培養状態で成長した場合、胚性幹細胞株を生じることができる。着床の時点でマウス胚盤胞は、約70個の栄養膜細胞および30個のICM細胞から構成されている。
【0066】
本明細書に使用される「胞胚」という用語は、胞胚腔と呼ばれる液体で満たされた腔を取り囲む細胞の中空球体からなる、胚発生の初期を指す。胞胚という用語は、ときに胚盤胞と互換的に使用される。
【0067】
「割球」という用語は、着床前胚から得られる少なくとも1つの割球(例えば、1、2、3、4つ等)を指すために全体にわたり使用される。「2つまたはそれよりも多い割球のクラスター」という用語は、「割球由来アウトグロース」と互換的に使用されて、割球のインビトロ培養の間に生成される細胞を指す。例えば、SCNT胚から割球が得られ、最初に培養された後、割球は、通常少なくとも1回分裂して2つまたはそれよりも多い割球のクラスター(割球由来アウトグロースとしても知られる)を産生する。クラスターはさらに、胚細胞または胎児細胞と共に培養することができる。最終的に、割球由来アウトグロースは、分裂し続けるであろう。これらの構造から、培養方法の過程で、ES細胞、全能性幹(TS)細胞、および部分的に分化した細胞型が発生するであろう。
【0068】
本明細書に使用される「クローン(の)(またはクローニング)」という用語は、別の個別のユニットと同一の遺伝子セットを有する新しい個別のユニットを調製するための遺伝子操作技法を指す。本発明では、本明細書に使用される「クローン(の)」という用語は、細胞、胚細胞、胎児細胞、および/または動物細胞が、別の細胞、胚細胞、胎児細胞、分化した細胞、および/または動物細胞の核DNA配列と実質的に類似または同一である核DNA配列を有することを指す。「実質的に類似」および「同一」という用語が、本明細書において記載される。クローンSCNT胚は、1つの核移植から生じることができ、またはその代わりに、クローンSCNT胚は、少なくとも1つの再クローニング段階を含むクローニング工程から生じることができる。
【0069】
本明細書に使用される「トランスジェニック生物」という用語は、別の生物からの遺伝物質が実験的に移入されることにより、その染色体組成物中に移入された遺伝子の遺伝形質を宿主が獲得する、生物を指す。
【0070】
本明細書に開示されるSCNT胚に関して本明細書に使用される「植えつけること」という用語は、代理雌性動物に、本明細書に記載されるSCNT胚を受胎させることを指す。この技術は、当業者に周知である。例えば、Seidel and Elsden, 1997, Embryo Transfer in Dairy Cattle, W. D. Hoard & Sons, Co., Hoards Dairymanを参照されたい。胚は、子宮内で発生させてもよく、またはその代わりに、胎児が分娩前に子宮環境から取り出され得る。
【0071】
「対象」によって、非限定的にヒトまたは非ヒト哺乳動物、例えば農業的に重要な哺乳動物(例えば、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ)、ペット(例えば、イヌ、ネコ)、または稀少もしくは絶滅危惧哺乳動物(例えば、パンダ)を含む、哺乳動物が意味される。
【0072】
本明細書に使用される「処置する」、「処置すること」、「処置」などの用語は、障害および/またはそれに関連する症状を低減または回復させることを指す。障害または状態を処置することは、障害、状態またはそれに関連する症状が完全に除去されることを排除するものではないものの、完全に除去される必要がないことが認識されているであろう。
【0073】
具体的に述べないかぎり、または文脈から明らかでないかぎり、本明細書に使用される「または」という用語は、包括的であると理解される。具体的に述べないかぎり、または文脈から明らかでないかぎり、本明細書に使用される「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」という用語は、単数または複数(すなわち、少なくとも1つ)であると理解される。例として、「1つの要素(an element)」は、1つの要素または1つよりも多い要素を意味する。
【0074】
具体的に述べないかぎり、または文脈から明らかでないかぎり、本明細書に使用される「約」という用語は、当技術分野における通常の許容範囲内、例えば平均の2標準偏差内と理解される。約は、述べられた値の10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%、0.05%、または0.01%内として理解することができる。文脈から特に明らかでないかぎり、本明細書に提供されるすべての数値は、約という用語で修飾されている。
【0075】
本明細書の変化物の任意の定義における化学基のリストの記載は、任意の単一の基またはリストされた基の組み合わせとしてのその変化物の定義を含む。本明細書における変化物または局面についての態様の記載は、任意の単一の態様としてのその態様または任意の他の態様もしくはその部分と組み合わされたその態様を含む。
【0076】
本明細書に提供される任意の組成物または方法は、本明細書に提供される他の組成物および方法のうちいずれかの1つまたは複数と組み合わせることができる。
[本発明1001]
Xist活性が欠如している体細胞から得られたドナー核を除核卵母細胞内に移植する段階、および卵母細胞においてKdm4dを発現させ、それによりクローン胚盤胞を得る段階を含む、クローン胚盤胞を得るための方法。
[本発明1002]
卵母細胞にKdm4d mRNAが注入される、本発明1001の方法。
[本発明1003]
Xistに欠失を含むかまたはXistの不活性型を含む胚性線維芽細胞から、前記ドナー細胞核が得られる、本発明1001の方法。
[本発明1004]
ドナー核が、ヒト、ネコ、ウシ、イヌ、ブタ、またはウマから得られる、本発明1001の方法。
[本発明1005]
妊娠のために胚盤胞を宿主の子宮内に移植する段階をさらに含む、本発明1001の方法。
[本発明1006]
従来の体細胞核移植と比べて生児出生率を少なくとも約10~20%増加させる、本発明1005の方法。
[本発明1007]
対象への移植のための細胞または組織を得るための方法であって、
(a)対象から得られた培養細胞におけるXistを不活性化するかまたはXistの活性もしくは発現を低減する段階;
(b)培養細胞からの核を除核卵母細胞内に移植し、それにより、卵母細胞を活性化する段階;および
(c)段階(b)で得られた活性化卵母細胞にKdm4d mRNAを注入し、かつ結果として生じる細胞を培養し、それにより、対象への移植に適した細胞または組織を得る段階
を含む、前記方法。
[本発明1008]
Xistが、ゲノム編集により不活性化される、本発明1007の方法。
[本発明1009]
ゲノムXistポリヌクレオチドに欠失または不活性化変異を導入するために、CRISPRシステムが使用される、本発明1007の方法。
[本発明1010]
Xistポリヌクレオチドの発現または活性が、siRNAまたはshRNAを用いて低減される、本発明1007の方法。
[本発明1011]
本発明1001の方法により産生される、胚盤胞。
[本発明1012]
Xistに欠失を含むかまたは低減されたレベルのXist発現を有し、かつ
Kdm4dをコードする異種ポリヌクレオチドを含む、
細胞。
[本発明1013]
本発明1007の方法により産生される、細胞または組織。
[本発明1014]
本発明1001の胚盤胞を宿主子宮内に植えつけることによって産生される、クローン生物。
[本発明1015]
Xist活性が欠如している体細胞から得られたドナー核を含み、従来の卵母細胞と比べて増加したレベルのKdm4dを発現している、卵母細胞。
【図面の簡単な説明】
【0077】
図1A図1A~1Fは、Xist KOドナー細胞とKdm4d mRNA注入との併用が、SCNT胚の発生能を完全に回復させるわけではないことを示す。図1Aは、抗H3K27me3抗体、抗Cdx2抗体、抗Oct4抗体およびDAPIで染色したIVF胚盤胞およびSCNT胚盤胞の代表的な画像を含む。矢印は、異所性に不活性化されたX染色体を表す点状のH3K27me3シグナルを示す。Kdm4d mRNAの注入にかかわらず、異所性XCIを観察できることに注意されたい。スケールバー、50μm。
図1B図1A~1Fは、Xist KOドナー細胞とKdm4d mRNA注入との併用が、SCNT胚の発生能を完全に回復させるわけではないことを示す。図1Bは、IVF胚盤胞およびSCNT胚盤胞における点状のH3K27me3シグナル(不活性化X染色体を表す)を有する細胞または有しない細胞の比を示す棒グラフを提供する。各カラムは、単一の胚盤胞を表す。
図1C図1A~1Fは、Xist KOドナー細胞とKdm4d mRNA注入との併用が、SCNT胚の発生能を完全に回復させるわけではないことを示す。図1Cは、E19.5の帝王切開によって調査したSCNT胚の産児率を示す棒グラフを提供する。Xist KOドナー細胞とKdm4d mRNA注入との併用が、ドナーとして卵丘細胞、セルトリ細胞およびMEF細胞を用いたSCNT胚の満期率(term rate)をさらに改善することに注意されたい。
図1D図1A~1Fは、Xist KOドナー細胞とKdm4d mRNA注入との併用が、SCNT胚の発生能を完全に回復させるわけではないことを示す。図1Dは、Xist KOセルトリ細胞をKdm4d mRNA注入と併用するSCNTによって得られる成体雄性マウス、および野生型雌との自然交配により生まれたその子の画像を示す。
図1E図1A~1Fは、Xist KOドナー細胞とKdm4d mRNA注入との併用が、SCNT胚の発生能を完全に回復させるわけではないことを示す。図1Eは、E19.5の帝王切開によって調査した胎盤の重量を示す箱ひげ図を提供する。ひげは、最大および最小を表す。***p<0.001。ns、有意でない。
図1F図1A~1Fは、Xist KOドナー細胞とKdm4d mRNA注入との併用が、SCNT胚の発生能を完全に回復させるわけではないことを示す。図1Fは、過ヨウ素酸シッフ染色で染色した満期胎盤の組織切片の代表的な画像を提供する(PAS:右)。ドナー細胞におけるXistアレルの遺伝子型にかかわらず、PAS陽性の海綿状栄養膜細胞層がSCNT胎盤における迷路層内に侵入していることに注意されたい。スケールバー、1mm。
図2A図2A~2Cは、SCNT胚の着床後の発生停止を示す。図2Aは、Kdm4d mRNAの注入と組み合わせたXist KO MEF細胞を使用して生成されるSCNT胚の表示時点での発生率を示す棒グラフを提供する。
図2B図2A~2Cは、SCNT胚の着床後の発生停止を示す。図2Bは、E4.5に収集したSCNT胚の画像である。
図2C図2A~2Cは、SCNT胚の着床後の発生停止を示す。図2Cは、E10.5に収集したSCNT胚の画像である。SCNT胚が各期で胚/身体サイズに大きな変動を示すことに注意されたい。スケールバー、(図2B)100μm、(図2C)1mm。
図3A図3A~3Dは、SCNT胚盤胞におけるDNAメチル化の広範なリプログラミングを示す。図3Aは、実験的アプローチの略図である。IVFまたはSCNT(Xist KOドナーとKdm4d注入との組み合わせ)によって生成される胚盤胞を全ゲノムバイサルファイトシーケンシング(WGBS)およびRNA-seqのために使用した。
図3B図3A~3Dは、SCNT胚盤胞におけるDNAメチル化の広範なリプログラミングを示す。図3Bは、SCNT胚盤胞およびIVF胚盤胞のみならず、MEF、接合子、精子および卵母細胞のゲノムにわたりカバーされたすべてのCpGのDNAメチル化レベルを比較する箱ひげ図を含む。箱内の太線は中央値を示し、×は平均を表す。ひげは、2.5および97.5パーセンタイルを表す。Sp+Ooは、精子および卵母細胞の平均値を表す。MEF、精子および卵母細胞のWGBSデータセットをGSE56151およびGSE56697から得た。
図3C図3A~3Dは、SCNT胚盤胞におけるDNAメチル化の広範なリプログラミングを示す。図3Cは、各試料の間のDNAメチル化レベルを比較するプロットである。激しくメチル化されたドナーMEF細胞ゲノムがSCNTによって包括的にリプログラミングされ、IVF胚盤胞と類似したDNAメチル化プロファイルを生じることに注意されたい。
図3D図3A~3Dは、SCNT胚盤胞におけるDNAメチル化の広範なリプログラミングを示す。図3Dは、IVF胚盤胞およびSCNT胚盤胞の遺伝子発現プロファイルを比較する散布図である。SCNT胚においてアップレギュレーションされた遺伝子(n=37(色の濃いクラスター);変化倍率(FC)>3.0)およびダウンレギュレーションされた遺伝子(n=55、色の薄いクラスター;FC>3.0)。
図4A図4Aおよび4Bは、SCNT胚盤胞およびIVF胚盤胞が、類似のDNAメチロームおよびトランスクリプトームを有することを示す。図4Aは、IVF胚盤胞およびSCNT胚盤胞における反復を含む様々なゲノム特徴での平均メチル化レベルを比較する棒グラフを提供する。
図4B図4Aおよび4Bは、SCNT胚盤胞およびIVF胚盤胞が、類似のDNAメチロームおよびトランスクリプトームを有することを示す。図4Bは、IVF胚盤胞およびSCNT胚盤胞の生物学的複製物のトランスクリプトームを比較する散布図を含む。
図5A図5A~5Hは、SCNT胚盤胞における差次的メチル化領域(DMR)の同定および特徴づけを示す。図5Aは、高DMRおよび低DMRでのSCNT胚盤胞およびIVF胚盤胞のDNAメチル化レベルを示す箱ひげ図を示す。箱内の太線は中央値を示し、×は平均を表す。DMRの数も表示する。
図5B図5A~5Hは、SCNT胚盤胞における差次的メチル化領域(DMR)の同定および特徴づけを示す。図5Bは、高DMRおよび低DMRの長さを比較する箱ひげ図を含む。
図5C図5A~5Hは、SCNT胚盤胞における差次的メチル化領域(DMR)の同定および特徴づけを示す。図5Cは、ゲノムに占める高DMRおよび低DMRの円グラフ分布である。
図5D図5A~5Hは、SCNT胚盤胞における差次的メチル化領域(DMR)の同定および特徴づけを示す。図5Dは、低DMRでの表示の試料の平均DNAメチル化レベルをそれらのフランキング領域と比較して示すグラフである。
図5E図5A~5Hは、SCNT胚盤胞における差次的メチル化領域(DMR)の同定および特徴づけを示す。図5Eは、低DMRでのIVF胚盤胞およびSCNT胚盤胞の父系(Pat)および母系(Mat)アレル特異的DNAメチル化レベルをそれらのフランキング領域と比較して示すグラフである。
図5F図5A~5Hは、SCNT胚盤胞における差次的メチル化領域(DMR)の同定および特徴づけを示す。図5Fは、低DMRでの表示の発生期でのIVF胚およびSCNT胚の父系および母系アレル特異的DNAメチル化レベルをそれらのフランキング領域と比較して示すグラフである。
図5G図5A~5Hは、SCNT胚盤胞における差次的メチル化領域(DMR)の同定および特徴づけを示す。図5Gは、高DMRでの表示の試料の平均DNAメチル化レベルをそれらのフランキング領域と比較して示すグラフである。
図5H図5A~5Hは、SCNT胚盤胞における差次的メチル化領域(DMR)の同定および特徴づけを示す。図5Hは、高DMRでの表示の試料の平均DNAメチル化レベルをそれらのフランキング領域と比較して示すグラフである。使用されるデータセットはGSE11034からのものであった。
図6A図6A~6Dは、SCNT胚盤胞における低DMRおよび高DMRの特徴を提供する。図6Aは、高DMRおよび低DMRの代表的なゲノムブラウザー画面である。
図6B図6A~6Dは、SCNT胚盤胞における低DMRおよび高DMRの特徴を提供する。図6Bは、IVF胚盤胞におけるメチル化ピークとオーバーラップする卵母細胞におけるメチル化ピークを示す代表的なゲノムブラウザー画面である。
図6C図6A~6Dは、SCNT胚盤胞における低DMRおよび高DMRの特徴を提供する。図6Cは、高DMR関連遺伝子の遺伝子オントロジー解析である。
図6D図6A~6Dは、SCNT胚盤胞における低DMRおよび高DMRの特徴を提供する。図6Dは、PGCの発生途中の高DMRでの平均メチル化(5mC)およびヒドロキシメチル化(5hmC)レベルを示すピークプロットを含む。
図7A図7A~7Dは、SCNT胚盤胞ではH3K27me3に依存するインプリンティングが欠如することを示す。図7Aは、SCNT胚盤胞におけるH3K27me3インプリント遺伝子の相対遺伝子発現レベルを示す棒グラフを提供する。IVF胚盤胞において確実に検出可能なレベル(マッピングされたフラグメント100万個あたりのエクソンのキロ塩基あたりのフラグメント数(FPKM)>1)で発現される26個の遺伝子を示す。IVF胚盤胞の発現レベルを1に設定した。IVF胚盤胞における発現と比較したSCNTにおける発現の変化により、遺伝子をアップ、ダウンおよび不変に分類した(FC>1.5)。
図7B図7A~7Dは、SCNT胚盤胞ではH3K27me3に依存するインプリンティングが欠如することを示す。図7Bは、IVF胚盤胞およびSCNT胚盤胞におけるH3K27me3インプリント遺伝子のアレル発現の比(父系/母系)を示す棒グラフを提供する。26個の発現された遺伝子(FPKM>1)のうち、いずれかの試料におけるSNPのリードが>10であった17個の遺伝子を示す。星印は、父系アレルへの100%バイアスを表す。SCNT胚盤胞において17個の遺伝子のすべてが父系アレルへのバイアスを失っていたことに注意されたい。
図7C図7A~7Dは、SCNT胚盤胞ではH3K27me3に依存するインプリンティングが欠如することを示す。図7Cは、2つの代表的なH3K27me3インプリント遺伝子でのH3K27me3 ChIP-seqシグナルのゲノムブラウザー画面を示す。
図7D図7A~7Dは、SCNT胚盤胞ではH3K27me3に依存するインプリンティングが欠如することを示す。図7Dは、76個のH3K27me3インプリント遺伝子での様々な細胞型(卵母細胞、精子、MEF、ESC)および組織のH3K27me3についての平均ChIP-seq強度を3Mbのフランキング領域と比較して示す。
図8A図8A~8Fは、公知の126個のインプリント遺伝子およびそれらの公知のICRのインプリンティング状態を図示する。図8Aは、SCNT胚盤胞における23個の公知のインプリンティング制御領域(ICR)の相対DNAメチル化レベルを示す棒グラフを提供する。IVF胚盤胞のメチル化レベルを1に設定した。破線は、IVF胚盤胞のメチル化レベルの50%を示す。23個のICRのうち21個が、SCNT胚盤胞においてIVFのメチル化レベルの少なくとも50%を維持したが、Slc38a4およびSnrpn ICR(赤で表示)はIVFのレベルの50%未満を示したことに注意されたい。
図8B図8A~8Fは、公知の126個のインプリント遺伝子およびそれらの公知のICRのインプリンティング状態を図示する。図8Bは、十分なアレル特異的メチル化情報を有する20個のICRでのDNAメチル化のアレルのバイアスを示す棒グラフを提供する(IVF胚盤胞およびSCNT胚盤胞の両方で両アレルにおいて検出されたCpGが>5)。SCNT胚盤胞において20個すべてのICRが、アレルバイアスがあるDNAメチル化を維持したことに注意されたい。
図8C図8A~8Fは、公知の126個のインプリント遺伝子およびそれらの公知のICRのインプリンティング状態を図示する。図8Cは、SCNT胚盤胞における公知のインプリント遺伝子の相対遺伝子発現レベルを示す棒グラフを提供する。IVF胚盤胞において確実に検出可能(FPKM>1)な45個のインプリント遺伝子を示す。IVF胚盤胞の発現レベルを1に設定した。IVF胚と比較したSCNT胚における遺伝子発現レベルに基づき、遺伝子をアップ、ダウンおよび不変に分類した(FC>1.5)。
図8D図8A~8Fは、公知の126個のインプリント遺伝子およびそれらの公知のICRのインプリンティング状態を図示する。図8Dは、IVF胚盤胞およびSCNT胚盤胞における公知のインプリント遺伝子のアレル発現の比(母系/父系)を示す棒グラフを提供する。IVF胚盤胞においてトラックされたSNPのリードが十分で、確実に検出可能なレベルで発現される(FPKM>1、いずれの試料においても平均SNPリード>10)、6つの母系発現遺伝子(MEG;母系/父系>2.0)を示す。星印は、母系アレルへの100%バイアスを表す。6つのMEGのすべてがSCNT胚盤胞において母系アレルへのバイアスを維持していたことに注意されたい。
図8E図8A~8Fは、公知の126個のインプリント遺伝子およびそれらの公知のICRのインプリンティング状態を図示する。図8Eは、IVF胚盤胞およびSCNT胚盤胞における公知のインプリント遺伝子のアレル発現比(父系/母系)を示す棒グラフを提供する。IVF胚盤胞においてトラックされたSNPのリードが十分で、確実に検出可能なレベルで発現される(FPKM>1、いずれの試料においても平均SNPリード>10)、13個の父系発現遺伝子(PEG;父系/母系>2.0)を示す。星印は、父系アレルへの100%バイアスを表す。矢印は、SCNT胚盤胞において父系への発現バイアスが欠如した遺伝子を示す。Slc38a4、Sfmbt2、Phf17、およびGab1は、H3K27me3に依存するインプリント遺伝子である。
図8F図8A~8Fは、公知の126個のインプリント遺伝子およびそれらの公知のICRのインプリンティング状態を図示する。図8Fは、非古典的インプリント遺伝子でのH3K27me3 ChIP-seqシグナルの代表的なゲノムブラウザー画面を提示する。
【発明を実施するための形態】
【0078】
詳細な説明
本発明は、クローニング効率を改善するための方法を提供する。特定の態様では、本発明は、Xistノックアウトドナー細胞におけるKdm4dの過剰発現を伴う体細胞核移植の効率を改善するための方法を提供する。
【0079】
本発明は、少なくとも一部には、Kdm4d mRNAの注入を伴うXistノックアウトドナー細胞が体細胞核移植の効率を改善できるという発見に基づく。この組み合わせアプローチは、分化した体細胞ドナー細胞を使用するマウスクローニングにおいてこれまでに報告された最高の効率を生じた。しかし、SCNT胚の多くは、依然として着床後に発生停止を示し、生存した胚は異常に大きな胎盤を有する。このことは、いくつかのリプログラミング欠損がまだ存在することを示唆している。比較メチロームおよびトランスクリプトーム解析によって、SCNT胚盤胞胚における異常なDNAメチル化およびH3K27me3に依存するインプリンティングの欠如が明らかとなった。これらは、観察された発生障害の原因である可能性がある。
【0080】
H3K27me3はDNAメチル化非依存性インプリンティングメカニズムである
哺乳動物の精子および卵母細胞は、違うエピジェネティック景色を有し、異なる方式で編成されている。初めは異なる、親のエピゲノムは、受精の後、インプリンティング制御領域(ICR)を含むある特定の遺伝子座を除き大部分が同等化される。親のクロマチンがどのように同等化され、ICRがこのリプログラミングをどのように回避するかは、ほとんど分かっていない。本明細書で親のアレル特異的DNase I高感受性部位(DHS)がマウスの接合子および桑実胚において特徴づけられ、アレルDHSの基礎をなすエピジェネティックなメカニズムが検討された。DNAメチロームおよびH3K27me3 ChIP-seqデータセットの統合解析によって、DNAメチル化を欠いた父系アレル特異的DHSを有する76個の遺伝子(表1)が、母系アレル特異的H3K27me3を保有していたことが明らかとなった。
【0081】
(表1)H3K27me3依存性インプリント遺伝子
【0082】
興味深いことに、これらの遺伝子は着床前胚において父系発現され、H3K27me3の異所性除去は母系アレルの発現を誘導した。H3K27me3依存性インプリンティングは、胚細胞系列において大きく失われたが、少なくとも5つの遺伝子は胚体外細胞系列においてそれらのインプリンティングを維持した。これら5つの遺伝子はすべて、以前に同定されたDNAメチル化非依存性インプリント常染色体遺伝子を含む。母系H3K27me3は、DNAメチル化に依存しないインプリンティングメカニズムである。一態様では、本発明の方法は、H3K27me3選択的メチラーゼの使用を伴う。
【0083】
H3K27me3はX染色体の不活性化に重要である
げっ歯動物を含むある種の獣亜綱哺乳動物の雌では、2つのX染色体の一方が不活性されて遺伝子量補償を成し遂げる。X染色体不活性化(XCI)と呼ばれるこの現象は、エピジェネティックサイレンシングのメカニズムを理解するための優れたモデルを提供する。発生の間、XCIは、インプリント型方式またはランダム方式のいずれかで起こることができる。インプリント型XCIについて、着床前発生の途中で父系X染色体(Xp)が選択的に不活性化される。インプリント型XCIは、胚体外細胞系列で維持されるものの、後期胚盤胞の内細胞塊(ICM)では失われる。着床前後の段階で、胚盤葉上層の細胞は、ランダムなXCIを受け、Xpまたは母系X染色体(Xm)のいずれかのサイレンシングを生じる。以前の研究によって、インプリント型XCIおよびランダムXCIの両方においてXistというX連鎖型長鎖ノンコーディングRNAの重要な役割が実証された。Xist RNAは、X染色体をシスでコーティングし、不活性化することによってXCIに関与する。
【0084】
ゲノムインプリンティングは、由来する親に特異的な遺伝子調節を可能にする。インプリント型XCIの間にXpを選択的にサイレンシングするために、Xist遺伝子は、長く探求されてきたがまだ同定されていないメカニズムでXmにおけるサイレンシングに向けてインプリントされている。核移植アプローチを用いた以前の研究によって、Xistのゲノムインプリンティングが、常染色体インプリント遺伝子のように卵形成の間に確立されることが示唆された。マウス着床前胚および胚体外細胞では、父系X染色体(Xp)だけが不活性化される。Xpから発現され、シス作用してXpをコーティングおよびサイレンシングする長鎖ノンコーディングRNA、Xistは、インプリント型父系X染色体不活性化(XCI)の中核をなす。Xp特異的不活性化を達成するためには、母系Xist遺伝子がサイレンシングされなければならないにもかかわらず、サイレンシングメカニズムは、まだ明らかではない。本明細書に報告されるように、Xist遺伝子座は、マウス卵母細胞において広いH3K27me3ドメインでコーティングされ、それは、着床前発生にわたり持続する。H3K27me3の異所性除去は、母系Xistの発現および母系XCIを誘導する。したがって、母系H3K27me3は、Xistのインプリンティングのマークとして役立つ。
【0085】
いくつかの態様では、本発明の方法は、選択的H3K27me3デメチラーゼ阻害剤を含む薬学的組成物を投与する段階を伴う。
【0086】
H3K9me3およびSCNT
ドナー体細胞におけるヒストンH3リシン9のトリメチル化(H3K9me3)は、SCNTリプログラミングについてのエピジェネティックバリアである。ドナー細胞におけるH3K9me3は、マウスおよびヒトの両方で接合子のゲノム活性化での関連領域の転写活性化を防止し、着床前段階でのSCNT胚の発生停止をもたらす。重要なことに、H3K9me3特異的デメチラーゼ、Kdm4dを過剰発現することによるH3K9me3バリアの除去は、SCNT胚をIVFと類似の速度で胚盤胞段階に発生させる。その結果、満期率についての全体的なクローニング効率は8~9倍増加する。SCNTにおけるKdm4dの使用はIVFに匹敵する着床率を招くとはいえ、植えつけたSCNT胚のうち満期まで発生するのは15%未満である。そのうえ、Kdm4dを注入されたSCNT胚では異常に大きな胎盤が依然として観察される。これらの結果は、H3K9me3リプログラミングバリアが主として着床前発生を妨害し、他のバリアは着床後発生に影響することを示唆している。
【0087】
Xistは、マウスSCNT胚の着床後発生に重要である。母系X染色体からのXistの異常発現は、着床前胚において異所性のX染色体不活性化(XCI)およびグローバルな転写変更をもたらし、SCNT胚の着床後発生不全を招く。重要なことに、異所性Xist発現によって引き起こされるこの発生不全は、ドナー細胞としてXistノックアウト(KO)体細胞を使用すること、または1細胞雄性SCNT胚内にXistに対する低分子干渉RNAを注入することによって克服することができ、満期率に8~10倍の増加をもたらす。
【0088】
阻害性核酸
阻害性核酸分子は、ポリペプチドまたはポリヌクレオチド(例えば、Xistポリヌクレオチド)の発現または活性を阻害するオリゴヌクレオチドである。そのようなオリゴヌクレオチドは、Xistポリヌクレオチドをコードする核酸分子と結合する一本鎖および二本鎖核酸分子(例えば、DNA、RNA、およびそれらの類似体)(例えば、アンチセンス分子、siRNA、shRNA)を含む。
【0089】
siRNA
低分子の21~25ヌクレオチド二本鎖RNAは、遺伝子発現をダウンレギュレーションするのに有効である(参照により本明細書に組み入れられるZamore et al., Cell 101: 25-33;Elbashir et al., Nature 411: 494-498, 2001)。哺乳動物におけるsiRNAアプローチの有効性は、McCaffreyら(Nature 418: 38-39.2002)によってインビボで実証された。
【0090】
標的遺伝子の配列を考えて、siRNAはその遺伝子を不活性化するように設計されてもよい。そのようなsiRNAは、例えば、罹患組織に直接投与することも、全身投与することもできる。遺伝子の核酸配列を使用して、低分子干渉RNA(siRNA)を設計することができる。21~25ヌクレオチドのsiRNAが、例えば、Xistの発現を低減するために使用され得る。
【0091】
本発明の阻害性核酸分子は、RNA干渉(RNAi)が媒介する発現ノックダウンのための二本鎖RNAとして採用され得る。一態様では、Xist遺伝子の発現は、体細胞において低減される。RNAiは、関心対象の特定のタンパク質の細胞発現を減少させるための方法である(Tuschl, Chembiochem 2:239-245, 2001;Sharp, Genes & Devel. 15:485-490, 2000;Hutvagner and Zamore, Curr. Opin. Genet. Devel. 12:225-232, 2002;およびHannon, Nature 418:244-251, 2002に総説されている)。dsRNAのトランスフェクションまたはプラスミドに基づく発現系を用いたsiRNAの発現のいずれかによるsiRNAの細胞内への導入が、哺乳動物細胞における機能喪失表現型を生み出すためにますます多く使用されている。
【0092】
本発明の一態様では、本発明の核酸塩基オリゴマーの8から19個の間の連続する核酸塩基を含む二本鎖RNA(dsRNA)分子が作製される。dsRNAは、二重鎖にされたRNAの2つの別個の鎖、または自己二重鎖化した単一のRNA鎖(低分子ヘアピン型(sh)RNA)であることができる。典型的には、dsRNAは、約21または22塩基対であるが、所望であればより短いまたはより長い場合がある(最大約29個の核酸塩基)。dsRNAは、標準的な技法(例えば、化学合成またはインビトロ転写)を用いて作製することができる。キットは、例えば、Ambion(Austin, Tex.)およびEpicentre(Madison, Wis.)から入手可能である。哺乳動物細胞においてdsRNAを発現させるための方法は、Brummelkamp et al. Science 296:550-553, 2002; Paddison et al. Genes & Devel. 16:948-958, 2002. Paul et al. Nature Biotechnol. 20:505-508, 2002;Sui et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99:5515-5520, 2002;Yu et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99:6047-6052, 2002;Miyagishi et al. Nature Biotechnol. 20:497-500, 2002;およびLee et al. Nature Biotechnol. 20:500-505 2002に記載されており、これらのそれぞれは、参照により本明細書に組み入れられる。
【0093】
低分子ヘアピン型RNA(shRNA)は、ステムループ構造を有するRNA配列を含む。「ステムループ構造」は、片側が主に一本鎖ヌクレオチドの領域(ループ部分)に連結した二本鎖または二重鎖(ステム部分)を形成することが公知であるまたは形成すると予測されるヌクレオチド領域を含む二次構造を有する核酸を指す。「ヘアピン」という用語はまた、本明細書において、ステムループ構造を指すためにも使用される。このような構造は、当技術分野において周知であり、この用語は、当技術分野において公知のその意味と一致して使用される。当技術分野において公知のように、二次構造は、正確に塩基対を形成する必要はない。したがって、ステムは、1つまたは複数の塩基ミスマッチまたはバルジを含むことができる。あるいは、塩基対形成は、正確である、すなわち、いかなるミスマッチも含まないことができる。複数のステムループ構造は、リンカー、例えば核酸リンカー、miRNAフランキング配列、他の分子、またはそれらのある組み合わせを経由して相互に連結されることができる。
【0094】
本明細書に使用される「低分子ヘアピン型RNA」という用語は、前駆miRNA(プレmiRNA)を形成する従来のステムループshRNAを含む。範囲にいくらかの変動があり得るものの、従来のステムループshRNAは、19~29bpの範囲のステム、および4~30bpの範囲のループを含むことができる。「shRNA」はまた、miRNA二重鎖のガイド鎖およびパッセンジャー鎖が既存(もしくは天然)のmiRNAまたは修飾もしくは合成(設計)miRNA中に組み入れられている、マイクロRNA包埋shRNA(miRNAに基づくshRNA)を含む。場合によっては、前駆miRNA分子は、1つよりも多いステムループ構造を含むことができる。マイクロRNAは、約22ヌクレオチド長であり、概して組織または発生段階に高度に特異的な方式で発現され、標的遺伝子を転写後調節する、内因性にコードされるRNA分子である。200種を超える別個のmiRNAが植物および動物において同定されている。これらの低分子調節性RNAは、2つの有力な作用様式によって、すなわち、(1)標的mRNAの翻訳を抑制することによって、および(2)RNA干渉(RNAi)、すなわちmRNAの切断および分解を介して、重要な生物学的機能を果たすと考えられる。後者の場合、miRNAは、低分子干渉RNA(siRNA)と類似して機能する。したがって、既存のmiRNA遺伝子の特徴に基づいて人工miRNAを設計し、発現させることができる。
【0095】
持続するサイレンシングおよびほぼ任意の細胞型への高収率の送達を提供するために、shRNAをDNAベクターから発現させることができる。いくつかの態様では、ベクターはウイルスベクターである。例示的なウイルスベクターは、レンチウイルスベクターを含むレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、バキュロウイルスベクターおよびトリウイルスベクターを含む、ならびに安定な単一コピーゲノム組み込みを可能にするようなベクターを含む。レトロウイルスプラスミドベクターを得ることができるレトロウイルスには、モロニーマウス白血病ウイルス、脾臓壊死ウイルス、ラウス肉腫ウイルス、ハーベイ肉腫ウイルス、トリ白血病ウイルス、テナガザル白血病ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、骨髄増殖性肉腫ウイルス、および乳癌ウイルスが含まれるが、それらに限定されない。レトロウイルスプラスミドベクターを採用して、パッケージングされた細胞株を形質導入して、プロデューサー細胞株を形成させることができる。トランスフェクションできるパッケージング細胞の例には、その全体で参照により本明細書に組み入れられる、Miller, Human Gene Therapy 1:5-14 (1990)に記載されているPE50l、PA3l7、R-2、R-AM、PA12、T19-14x、VT-19-17-H2、RCRE、RCRIP、GP+E-86、GP+envAm12、およびDAN細胞株が含まれるが、それに限定されるわけではない。ベクターは、当技術分野において公知の任意の手段によりパッケージング細胞に形質導入することができる。プロデューサー細胞株は、DNA複製タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む感染性レトロウイルスベクター粒子を生成する。次いで、このようなベクター粒子を採用して、真核細胞にインビトロまたはインビボのいずれかで形質導入することができる。形質導入された真核細胞は、DNA複製タンパク質を発現するであろう。
【0096】
本発明のアンチセンス配列を含む触媒RNA分子またはリボザイムを使用して、核酸分子(例えば、Xist)の発現をインビボで阻害することができる。アンチセンスRNA内へのリボザイム配列の包含は、それらにRNA切断活性を付与し、それにより、構築物の活性を増加させる。標的RNA特異的リボザイムの設計および使用は、そのそれぞれが参照により組み入れられる、Haseloff et al., Nature 334:585-591. 1988、および米国特許出願公開第2003/0003469A1号に記載されている。
【0097】
したがって、本発明はまた、結合腕に8つから19個の間の連続する核酸塩基を有するアンチセンスRNAを含む触媒RNA分子も特徴とする。本発明の好ましい態様では、触媒核酸分子は、ハンマーヘッドまたはヘアピンモチーフとして形成される。そのようなハンマーヘッドモチーフの例は、Rossi et al., Aids Research and Human Retroviruses, 8:183, 1992によって記載されている。ヘアピンモチーフの例は、1988年9月20日に出願された米国特許出願第07/247,100号の一部継続出願である、1989年9月20日に出願されたHampel et al., "RNA Catalyst for Cleaving Specific RNA Sequences,";Hampel and Tritz, Biochemistry, 28:4929, 1989;およびHampel et al., Nucleic Acids Research, 18: 299, 1990によって記載されている。これらの特異的モチーフは、本発明に限定されず、当業者は、本発明の酵素的核酸分子に重要であるのは、それが標的遺伝子RNA領域のうち1つまたは複数に相補的な特異的基質結合部位を有すること、およびそれが分子にRNA切断活性を与える基質結合部位内またはその周囲にヌクレオチド配列を有することだけであると認識しているであろう。
【0098】
細胞に核酸構築物を導入するための本質的に任意の方法を採用することができる。核酸を導入するための物理的方法は、構築物を含有する溶液の注入、構築物で覆われた粒子による打ち込み(bombardment)、核酸溶液中への細胞、組織試料もしくは生物の浸漬、または構築物の存在下での細胞膜のエレクトロポレーションを含む。ウイルス粒子内にパッケージングされたウイルス構築物を使用して、細胞内への発現構築物の効率的な導入およびコードされるshRNAの転写の両方を達成することができる。脂質媒介担体輸送、リン酸カルシウムなどの化学物質媒介輸送などの、細胞に核酸を導入するための当技術分野において公知の他の方法を使用することができる。したがって、以下の活性:細胞によるRNA取り込みを増強すること、二重鎖のアニーリングを促進すること、アニーリングされた鎖を安定化すること、または標的遺伝子の阻害をその他の方法で増加させることの1つまたは複数を行う成分と共に、shRNAをコードする核酸構築物を導入することができる。
【0099】
細胞内での発現のために、RNAポリメラーゼIIプロモーターまたはRNAポリメラーゼIIIプロモーターのいずれかを含むDNAベクター、例えばプラスミドベクターを採用することができる。内因性miRNAの発現は、RNAポリメラーゼII(Pol II)プロモーターによって制御され、場合によっては、shRNAは、RNAポリメラーゼIIIプロモーターと比較してPol IIプロモーターによってもっとも効率的に駆動される(Dickins et al., 2005, Nat. Genet. 39: 914-921)。いくつかの態様では、shRNAの発現は、非限定的にRNAポリメラーゼII型プロモーターを含む誘導性プロモーターまたは条件付き発現系により制御することができる。本発明の状況で有用なプロモーターの例は、テトラサイクリン誘導プロモーター(TRE-tightを含む)、IPTG誘導プロモーター、テトラサイクリントランス活性化因子系、および逆テトラサイクリントランス活性化因子(rtTA)系である。構成的プロモーターもまた使用することができ、細胞特異的プロモーターまたは組織特異的プロモーターも同様に使用することができる。多くのプロモーターは、ユビキタスであり、その結果、それらはすべての細胞型および組織型において発現される。ある特定の態様は、インビトロおよびインビボ研究においてもっとも有効な条件付き遺伝子発現系の1つであるテトラサイクリン応答プロモーターを使用する。誘導shRNAの説明については、国際特許出願PCT/US2003/030901(出願番号WO2004-029219 A2)およびFewell et al., 2006, Drug Discovery Today 11: 975-982を参照されたい。
【0100】
ポリヌクレオチドの送達
裸の(naked)ポリヌクレオチドまたはその類似体は、哺乳動物細胞中に入り、関心対象の遺伝子の発現を阻害することが可能である。それにもかかわらず、細胞へのオリゴヌクレオチドまたは他の核酸塩基オリゴマーの送達を助ける製剤を利用することが望ましい場合がある(例えば、そのそれぞれが参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,656,611号;同第5,753,613号;同第5,785,992号;同第6,120,798号;同第6,221,959号;同第6,346,613号;および同第6,353,055号を参照されたい)。
【0101】
オリゴヌクレオチドおよび他の核酸塩基オリゴマー
少なくとも2種類のオリゴヌクレオチド、すなわちホスホジエステル(PO)結合またはホスホロチオエート(PS)結合を有するポリデオキシヌクレオチドは、RNase HによるRNAの切断を誘導する。2'-OMe-RNA配列は、RNA標的に対して高い親和性を示すが、これらの配列は、RNase Hに対する基質ではない。望ましいオリゴヌクレオチドは、一部またはすべてのヌクレオチド間結合がヌクレアーゼ耐性のためにホスホロチオエートに修飾された、オリゴデオキシヌクレオチドギャップを含有する2'-修飾オリゴヌクレオチドに基づくものである。メチルホスホネート修飾の存在は、オリゴヌクレオチドのその標的RNAに対する親和性を増加させ、したがって、IC50を低減する。この修飾はまた、修飾オリゴヌクレオチドのヌクレアーゼ耐性も増加させる。本発明の方法および試薬は、共有結合閉環多重アンチセンス(covalently-closed multiple antisense)(CMAS)オリゴヌクレオチド(Moon et al., Biochem J. 346:295-303, 2000;PCT公報番号WO00/61595)、リボン型アンチセンス(RiAS)オリゴヌクレオチド(Moon et al., J. Biol. Chem. 275:4647-4653, 2000;PCT公報番号WO00/61595)、および大環状アンチセンスオリゴヌクレオチド(米国特許出願公開第2002/0168631A1号)を含む、開発され得る任意の技術と共同して使用される場合があることが理解される。
【0102】
当技術分野において公知であるように、ヌクレオシドは、核酸塩基-糖の組み合わせである。ヌクレオシドの塩基部分は、通常は複素環塩基である。そのような複素環塩基の2つのもっとも多く見られるクラスは、プリンおよびピリミジンである。ヌクレオチドは、ヌクレオシドの糖部分に共有結合したリン酸基をさらに含むヌクレオシドである。ペントフラノシル糖を含むヌクレオシドについて、リン酸基は、糖の2'、3'または5'ヒドロキシル部分のいずれかに連結することができる。オリゴヌクレオチドの形成では、リン酸基が隣接ヌクレオシドと相互に共有結合して直鎖状ポリマー化合物を形成する。今度は、この直鎖状ポリマー構造のそれぞれの末端がさらに繋がって、環状構造を形成することが可能であるが、開いた直鎖状構造が概して好ましい。オリゴヌクレオチド構造内で、リン酸基は、一般にオリゴヌクレオチドの骨格を形成すると言われる。RNAおよびDNAの通常の連結または骨格は、3'-5'ホスホジエステル結合である。
【0103】
本発明に有用な好ましい核酸塩基オリゴマーの具体例は、修飾された骨格または非天然ヌクレオシド間結合を含有するオリゴヌクレオチドを含む。本明細書に定義される場合、修飾された骨格を有する核酸塩基オリゴマーは、骨格にリン原子を保有するオリゴマーおよび骨格にリン原子を有しないオリゴマーを含む。本明細書のために、ヌクレオシド間骨格にリン原子を有しない修飾オリゴヌクレオチドもまた、核酸塩基オリゴマーと見なされる。
【0104】
修飾オリゴヌクレオチド骨格を有する核酸塩基オリゴマーは、例えば、ホスホロチオエート、キラルホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホトリエステル、アミノアルキル-ホスホトリエステル、3'-アルキレンホスホネートおよびキラルホスホネートを含むメチルホスホネートおよび他のアルキルホスホネート、ホスフィネート、3'-アミノホスホルアミデートおよびアミノアルキルホスホルアミデートを含むホスホルアミデート、チオノホスホルアミデート、チオノアルキルホスホネート、チオノアルキルホスホトリエステル、および通常の3'-5'結合を有するボラノホスフェート、これらの2'-5'結合類似体、ならびにヌクレオシドユニットの隣接対が3'-5'から5'-3'または2'-5'から5'-2'に連結される逆極性を有するものを含む。様々な塩、混合塩および遊離酸の形態も含まれる。上記リン含有結合の調製を教示する代表的な米国特許には、それらのそれぞれが参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第3,687,808号;同第4,469,863号;同第4,476,301号;同第5,023,243号;同第5,177,196号;同第5,188,897号;同第5,264,423号;同第5,276,019号;同第5,278,302号;同第5,286,717号;同第5,321,131号;同第5,399,676号;同第5,405,939号;同第5,453,496号;同第5,455,233号;同第5,466,677号;同第5,476,925号;同第5,519,126号;同第5,536,821号;同第5,541,306号;同第5,550,111号;同第5,563,253号;同第5,571,799号;同第5,587,361号;および同第5,625,050号が含まれるが、それに限定されるわけではない。
【0105】
その中にリン原子を含まない修飾オリゴヌクレオチド骨格を有する核酸塩基オリゴマーは、短鎖アルキルもしくはシクロアルキルヌクレオシド間結合、混合ヘテロ原子およびアルキルもしくはシクロアルキルヌクレオシド間結合、または1つもしくは複数の短鎖ヘテロ原子もしくは複素環ヌクレオシド間結合によって形成される骨格を有する。これらは、モルホリノ結合(一部はヌクレオシドの糖部分から形成される);シロキサン骨格;スルフィド、スルホキシドおよびスルホン骨格;ホルムアセチルおよびチオホルムアセチル骨格;メチレンホルムアセチルおよびチオホルムアセチル骨格;アルケン含有骨格;スルファメート骨格;メチレンイミノおよびメチレンヒドラジノ骨格;スルホネートおよびスルホンアミド骨格;アミド骨格を有するもの;ならびに混合N、O、SおよびCH2構成要素部分を有するその他を含む。上記オリゴヌクレオチドの調製を教示する代表的な米国特許には、それらのそれぞれが参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,034,506号;同第5,166,315号;同第5,185,444号;同第5,214,134号;同第5,216,141号;同第5,235,033号;同第5,264,562号;同第5,264,564号;同第5,405,938号;同第5,434,257号;同第5,466,677号;同第5,470,967号;同第5,489,677号;同第5,541,307号;同第5,561,225号;同第5,596,086号;同第5,602,240号;同第5,610,289号;同第5,602,240号;同第5,608,046号;同第5,610,289号;同第5,618,704号;同第5,623,070号;同第5,663,312号;同第5,633,360号;同第5,677,437号;および同第5,677,439号が含まれるが、それに限定されるわけではない。
【0106】
他の核酸塩基オリゴマーでは、糖とヌクレオシド間結合との両方、すなわち、骨格が、新規な基により置換されている。核酸塩基ユニットは、記載されるXist遺伝子とのハイブリダイゼーションのために維持される。そのような核酸塩基オリゴマーの1つは、ペプチド核酸(PNA)と呼ばれる。PNA化合物では、オリゴヌクレオチドの糖骨格は、アミド含有骨格、特にアミノエチルグリシン骨格により置換されている。核酸塩基は維持され、骨格のアミド部分のアザ窒素原子と直接または間接的に結合している。これらの核酸塩基オリゴマーを作製および使用するための方法は、例えば "Peptide Nucleic Acids: Protocols and Applications" Ed. P. E. Nielsen, Horizon Press, Norfolk, United Kingdom, 1999に記載されている。PNAの調製を教示する代表的な米国特許には、それらのそれぞれが参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,539,082号;同第5,714,331号;および同第5,719,262号が含まれるが、それに限定されるわけではない。PNA化合物のさらなる教示は、Nielsen et al., Science, 1991, 254, 1497-1500に見出すことができる。
【0107】
本発明の特定の態様では、核酸塩基オリゴマーは、ホスホロチオエート骨格およびヘテロ原子骨格を有するヌクレオシド、特に-CH2-NH-O-CH2-、-CH2-N(CH3)-O-CH2-(メチレン(メチルイミノ)またはMMI骨格として知られる)、-CH2-O-N(CH3)-CH2-、-CH2-N(CH3)-N(CH3)-CH2-、および-O-N(CH3)-CH2-CH2-を有する。他の態様では、オリゴヌクレオチドは、米国特許第5,034,506号に記載されるモルホリノ骨格構造を有する。
【0108】
核酸塩基オリゴマーはまた、1つまたは複数の置換糖部分も含有し得る。核酸塩基オリゴマーは、以下のうち1つを2'位に含む:OH;F;O-、S-、もしくはN-アルキル;O-、S-、もしくはN-アルケニル;O-、S-もしくはN-アルキニル;またはO-アルキル-O-アルキル[ここで、アルキル、アルケニル、およびアルキニルは、置換または非置換のC1-C10アルキルまたはC2-C10アルケニルおよびアルキニルであってもよい]。O[(CH2)nO]nCH3、O(CH2)nOCH3、O(CH2)nNH2、O(CH2)nCH3、O(CH2)nONH2、およびO(CH2)nON[(CH2)nCH3)]2[ここで、nおよびmは、1~約10である]が、特に好ましい。他の好ましい核酸塩基オリゴマーは、以下のうち1つを2'位に含む:C1-C10低級アルキル、置換低級アルキル、アルカリール、アラルキル、O-アルカリール、またはO-アラルキル、SH、SCH3、OCN、Cl、Br、CN、CF3、OCF3、SOCH3、SO2CH3、ONO2、NO2、NH2、ヘテロシクロアルキル、ヘテロシクロアルカリール、アミノアルキルアミノ、ポリアルキルアミノ、置換シリル、RNA切断基、レポーター基、インターカレーター、核酸塩基オリゴマーの薬物動態特性を改善するための基、または核酸塩基オリゴマーの薬力学的特性を改善するための基、および類似の特性を有する他の置換基。好ましい修飾は、2'-O-メチルおよび2'-メトキシエトキシ(2'-O-CH2CH2OCH3、2'-O-(2-メトキシエチル)または2'-MOEとしても知られる)である。別の望ましい修飾は、2'-DMAOEとしても知られる2'-ジメチルアミノオキシエトキシ(すなわち、O(CH2)2ON(CH3)2)である。他の修飾は、2'-アミノプロポキシ(2'-OCH2CH2CH2NH2)および2'-フルオロ(2'-F)を含む。類似の修飾もまた、オリゴヌクレオチドの他の位置または他の核酸塩基オリゴマー、特に3'末端ヌクレオチド上または2'-5'結合オリゴヌクレオチド中の糖の3'位および5'末端ヌクレオチドの5'位に行われ得る。核酸塩基オリゴマーはまた、ペントフラノシル糖の代わりにシクロブチル部分などの糖模倣物を有する場合もある。そのような修飾糖構造の調製を教示する代表的な米国特許には、それらのそれぞれがその全体で参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第4,981,957号;同第5,118,800号;同第5,319,080号;同第5,359,044号;同第5,393,878号;同第5,446,137号;同第5,466,786号;同第5,514,785号;同第5,519,134号;同第5,567,811号;同第5,576,427号;同第5,591,722号;同第5,597,909号;同第5,610,300号;同第5,627,053号;同第5,639,873号;同第5,646,265号;同第5,658,873号;同第5,670,633号;および同第5,700,920号が含まれるが、それに限定されるわけではない。
【0109】
核酸塩基オリゴマーはまた、核酸塩基修飾または置換を含む場合がある。本明細書に使用される「非修飾」または「天然」核酸塩基は、プリン塩基であるアデニン(A)およびグアニン(G)、ならびにピリミジン塩基であるチミン(T)、シトシン(C)およびウラシル(U)を含む。修飾核酸塩基は、5-メチルシトシン(5-me-C)、5-ヒドロキシメチルシトシン、キサンチン、ヒポキサンチン、2-アミノアデニン、アデニンおよびグアニンの6-メチルおよび他のアルキル誘導体;アデニンおよびグアニンの2-プロピルおよび他のアルキル誘導体;2-チオウラシル、2-チオチミンおよび2-チオシトシン;5-ハロウラシルおよびシトシン;5-プロピニルウラシルおよびシトシン;6-アゾウラシル、シトシンおよびチミン;5-ウラシル(シュードウラシル);4-チオウラシル;8-ハロ、8-アミノ、8-チオール、8-チオアルキル、8-ヒドロキシルおよび他の8-置換アデニンおよびグアニン;5-ハロ(例えば、5-ブロモ)、5-トリフルオロメチルおよび他の5-置換ウラシルおよびシトシン;7-メチルグアニンおよび7-メチルアデニン;8-アザグアニンおよび8-アザアデニン;7-デアザグアニンおよび7-デアザアデニン;ならびに3-デアザグアニンおよび3-デアザアデニンなどの他の合成および天然核酸塩基を含む。さらなる核酸塩基は、米国特許第3,687,808号に開示されたもの、The Concise Encyclopedia Of Polymer Science And Engineering, pages 858-859, Kroschwitz, J. I., ed. John Wiley & Sons, 1990に開示されたもの、Englisch et al., Angewandte Chemie, International Edition, 1991, 30, 613によって開示されたもの、およびSanghvi, Y. S., Chapter 15, Antisense Research and Applications, pages 289-302, Crooke, S. T. and Lebleu, B., ed., CRC Press, 1993によって開示されたものを含む。これらの核酸塩基のうちいくつかは、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドの結合親和性を増加させるために特に有用である。これらは、2-アミノプロピルアデニン、5-プロピニルウラシルおよび5-プロピニルシトシンを含む、5-置換ピリミジン、6-アザピリミジン、ならびにN-2、N-6および0-6置換プリンを含む。5-メチルシトシン置換は、核酸二重鎖の安定性を0.6~1.2℃だけ増加させることが示されており(Sanghvi, Y. S., Crooke, S. T. and Lebleu, B., eds., Antisense Research and Applications, CRC Press, Boca Raton, 1993, pp. 276-278)、いっそうより詳細には、2'-O-メトキシエチルまたは2'-O-メチル糖修飾と組み合わせた場合に、望ましい塩基置換である。上記の修飾核酸塩基のいくつかのみならず、他の修飾核酸塩基の調製を教示する代表的な米国特許は、それらのそれぞれが参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第4,845,205号;同第5,130,302号;同第5,134,066号;同第5,175,273号;同第5,367,066号;同第5,432,272号;同第5,457,187号;同第5,459,255号;同第5,484,908号;同第5,502,177号;同第5,525,711号;同第5,552,540号;同第5,587,469号;同第5,594,121号、同5,596,091号;同第5,614,617号;同第5,681,941号;および同第5,750,692号を含む。
【0110】
本発明の核酸塩基オリゴマーの別の修飾は、オリゴヌクレオチドの活性、細胞分布、または細胞取り込みを強化する1つまたは複数の部分またはコンジュゲートを核酸塩基オリゴマーと化学的に連結することを伴う。そのような部分は、コレステロール部分(Letsinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 86:6553-6556, 1989)、コール酸(Manoharan et al., Bioorg. Med. Chem. Let, 4:1053-1060, 1994)、チオエーテル、例えば、ヘキシル-S-トリチルチオール(Manoharan et al., Ann. N.Y. Acad. Sci., 660:306-309, 1992;Manoharan et al., Bioorg. Med. Chem. Let., 3:2765-2770, 1993)、チオコレステロール(Oberhauser et al., Nucl. Acids Res., 20:533-538: 1992)、脂肪族鎖、例えば、ドデカンジオールもしくはウンデシル残基(Saison-Behmoaras et al., EMBO J., 10:1111-1118, 1991;Kabanov et al., FEBS Lett., 259:327-330, 1990;Svinarchuk et al., Biochimie, 75:49-54, 1993)、リン脂質、例えば、ジ-ヘキサデシル-rac-グリセロールもしくはトリエチルアンモニウム1,2-ジ-O-ヘキサデシル-rac-グリセロ-3-H-ホスホネート(Manoharan et al., Tetrahedron Lett., 36:3651-3654, 1995;Shea et al., Nucl. Acids Res., 18:3777-3783, 1990)、ポリアミンもしくはポリエチレングリコール鎖(Manoharan et al., Nucleosides & Nucleotides, 14:969-973, 1995)、アダマンタン酢酸(Manoharan et al., Tetrahedron Lett., 36:3651-3654, 1995)、パルミチル部分(Mishra et al., Biochim. Biophys. Acta, 1264:229-237, 1995)、またはオクタデシルアミンもしくはヘキシルアミノ-カルボニル-オキシコレステロール部分(Crooke et al., J. Pharmacol. Exp. Ther., 277:923-937, 1996などの脂質部分を含むが、それに限定されるわけではない。そのような核酸塩基オリゴマーコンジュゲートの調製を教示する代表的な米国特許は、それらのそれぞれが参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第4,587,044号;同第4,605,735号;同第4,667,025号;同第4,762,779号;同第4,789,737号;同第4,824,941号;同第4,828,979号;同第4,835,263号;同第4,876,335号;同第4,904,582号;同第4,948,882号;同第4,958,013号;同第5,082,830号;同第5,109,124号;同第5,112,963号;同第5,118,802号;同第5,138,045号;同第5,214,136号;同第5,218,105号;同第5,245,022号;同第5,254,469号;同第5,258,506号;同第5,262,536号;同第5,272,250号;同第5,292,873号;同第5,317,098号;同第5,371,241号、同第5,391,723号;同第5,414,077号;同第5,416,203号、同第5,451,463号;同第5,486,603号;同第5,510,475号;同第5,512,439号;同第5,512,667号;同第5,514,785号;同第5,525,465号;同第5,541,313号;同第5,545,730号;同第5,552,538号;同第5,565,552号;同第5,567,810号;同第5,574,142号;同第5,578,717号;同第5,578,718号;同第5,580,731号;同第5,585,481号;同第5,587,371号;同第5,591,584号;同第5,595,726号;同第5,597,696号;同第5,599,923号;同第5,599,928号;同第5,608,046号;および同第5,688,941号を含む。
【0111】
本発明はまた、キメラ化合物である核酸塩基オリゴマーも含む。「キメラ」核酸塩基オリゴマーは、それぞれが少なくとも1つのモノマーユニットでできている、すなわち、オリゴヌクレオチドの場合はヌクレオチドでできている、2つまたはそれよりも多い化学的に別個の領域を含有する核酸塩基オリゴマー、特にオリゴヌクレオチドである。これらの核酸塩基オリゴマーは、典型的には、核酸塩基オリゴマーが修飾されて、核酸塩基オリゴマーに、ヌクレアーゼ分解に対する耐性増加、細胞取り込みの増加、および/または標的核酸に対する結合親和性の増加を付与する、少なくとも1つの領域を含有する。核酸塩基オリゴマーの追加的な領域は、RNA:DNAまたはRNA:RNAハイブリッドを切断することが可能な酵素に対する基質として役立つ場合がある。例として、RNase Hは、RNA:DNA二重鎖のRNA鎖を切断する細胞性エンドヌクレアーゼである。したがって、RNase Hの活性化は、RNA標的の切断を招き、それにより、核酸塩基オリゴマーの遺伝子発現阻害効率を大きく高める。結果として、キメラ核酸塩基オリゴマーが使用される場合、同じ標的領域にハイブリダイズするホスホロチオエートデオキシオリゴヌクレオチドと比較して、より短い核酸塩基オリゴマーでしばしば類似の結果を得ることができる。
【0112】
本発明のキメラ核酸塩基オリゴマーは、上記のような2つまたはそれよりも多い核酸塩基オリゴマーの複合構造として形成され得る。そのような核酸塩基オリゴマーは、オリゴヌクレオチドの場合、当技術分野においてハイブリッドまたはギャップマーとも呼ばれていた。そのようなハイブリッド構造の調製を教示する代表的な米国特許は、それらのそれぞれがその全体で参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,013,830号;同第5,149,797号;同第5,220,007号;同第5,256,775号;同第5,366,878号;同第5,403,711号;同第5,491,133号;同第5,565,350号;同第5,623,065号;同第5,652,355号;同第5,652,356号;および同第5,700,922号を含む。
【0113】
本発明により使用される核酸塩基オリゴマーは、固相合成の周知の技術により好都合かつ日常的に作製され得る。そのような合成のための装置は、例えば、Applied Biosystems(Foster City, Calif.)を含むいくつかの業者によって販売されている。当技術分野において公知の、そのような合成のための任意の他の手段が、追加的または代替的に採用され得る。類似の技術を用いて、ホスホロチオエートおよびアルキル化誘導体などのオリゴヌクレオチドを調製することは、周知である。
【0114】
本発明の核酸塩基オリゴマーはまた、取り込み、分布および/または吸収を助けるために、例えば、リポソーム、受容体標的分子、経口、直腸、局所または他の製剤のような化合物の他の分子、分子構造または混合物と混合、封入、コンジュゲートまたは他の方法で関連される場合もある。そのような取り込み、分布および/または吸収を助ける製剤の調製を教示する代表的な米国特許は、それらのそれぞれが参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,108,921号;同第5,354,844号;同第5,416,016号;同第5,459,127号;同第5,521,291号;同第5,543,158号;同第5,547,932号;同第5,583,020号;同第5,591,721号;同第4,426,330号;同第4,534,899号;同第5,013,556号;同第5,108,921号;同第5,213,804号;同第5,227,170号;同第5,264,221号;同第5,356,633号;同第5,395,619号;同第5,416,016号;同第5,417,978号;同第5,462,854号;同第5,469,854号;同第5,512,295号;同第5,527,528号;同第5,534,259号;同第5,543,152号;同第5,556,948号;同第5,580,575号;および同第5,595,756号を含む。
【0115】
Xistをノックアウトするためのゲノム編集
遺伝子編集は、基礎科学と臨床科学との間の境界面を取り巻く生物医学研究の大きな焦点である。新規な「遺伝子編集」ツールの開発は、ゲノムの他の部位に変異を導入せずに細胞のDNA配列を特定の染色体座で操作する能力を提供する。この技術は、効果的に、研究者が対象の細胞のゲノムをインビトロまたはインビボで操作できるようにする。SCNTに関連して、XistにKOを含む細胞が、CRISPRを用いて生成される。
【0116】
一態様では、遺伝子編集は、エンドヌクレアーゼ(DNA分子の内部にDNA切断を引き起こす酵素)をゲノムの特異的部位にターゲティングし、それにより、選ばれた部位で染色体二本鎖切断(DSB)の形成をトリガーすることを伴う。染色体切断の導入に付随してドナーDNA分子が導入される場合(例えば、プラスミドまたはオリゴヌクレオチドの導入による)、特に2つの配列が相同性を共有するならば、切断された染色体と導入されたDNAとの間で相互作用が起こることができる。この場合、染色体のDNA末端が相同組み換え(HR)によりドナーDNAの相同配列に侵入する「遺伝子ターゲティング」と呼ばれる過程が起こることができる。ドナープラスミド配列をHRに対する鋳型として使用することによって、関心対象の遺伝子のシームレスなノックアウトを達成することができる。重要なことに、ドナーDNA分子が標的遺伝子(例えば、Xist)内に欠失を含む場合、HR媒介DSB修復は染色体内にドナー配列を導入し、その結果として染色体座内に欠失が導入されることになるであろう。標的遺伝子を含有するゲノム部位にヌクレアーゼをターゲティングすることによって、DSBの形成を利用してHRを刺激し、それにより、機能的標的遺伝子をその遺伝子の欠失型で置換するという考えである。HR経路の利点は、それが以前の野生型アレルの代わりに遺伝子のノックアウトをシームレスに生成する潜在性を有することである。
【0117】
現在のゲノム編集ツールは、細胞の遺伝子操作を増強するために二本鎖切断(DSB)の誘導を用いる。そのような方法は、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN;例えば、参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第6,534,261号;同第6,607,882号;同第6,746,838号;同第6,794,136号;同第6,824,978号;同第6,866,997号;同第6,933,113号;同第6,979,539号;同第7,013,219号;同第7,030,215号;同第7,220,719号;同第7,241,573号;同第7,241,574号;同第7,585,849号;同第7,595,376号;同第6,903,185号;および同第6,479,626号;ならびに米国特許出願公開第20030232410号および同第US2009020314号に記載されている)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN;例えば、参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第8,440,431号、同第8,440,432号、同第8,450,471号、同第8,586,363号、および同第8,697,853号、ならびに米国特許出願公開第20110145940号、同第20120178131号、同第20120178169号、同第20120214228号、同第20130122581号、同第20140335592号、および同第20140335618号)、およびCRISPR(クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート)/Cas9システム(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第8,697,359号、同第8,771,945号、同第8,795,965号、同第8,871,445号、同第8,889,356号、同第8,906,616号、同第8,932,814号、同第8,945,839号、同第8,993,233号、および同第8,999,641号、ならびに米国特許出願公開第20140170753号、同第20140227787号、同第20140179006号、同第20140189896号、同第20140273231号、同第20140242664号、同第20140273232号、同第20150184139号、同第20150203872号、同第20150031134号、同第20150079681号、同第20150232882号、および同第20150247150号)を含む。例えば、ZFN DNA配列を認識する能力および特異性は、予測不可能である可能性がある。同様に、TALENおよびCRISPR/Cas9は、所望の部位で切断するだけでなく、しばしば他の「オフターゲット」部位も同様に切断する。これらの方法は、オフターゲットの二本鎖切断誘導ならびにこれらのオフターゲット効果に関連するインデル、ゲノム再編成、および染色体再編成を含む有害な変異の可能性と結びついた重大な問題を有する。ZFNおよびTALENは、ゲノム中の約18bpの配列に対する特異性を生成するためにモジュラー配列特異的DNA結合タンパク質の使用を必要とする。
【0118】
2型CRISPR(クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート)/Cas(CRISPR関連)系に基づくRNAガイドヌクレアーゼ媒介ゲノム編集は、ゲノムを変更するための貴重なアプローチを与える。簡潔には、シングルガイドRNA(sgRNA)によってガイドされるヌクレアーゼであるCas9は、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)の隣の標的ゲノム遺伝子座に結合し、二本鎖切断(DSB)を生成する。次いで、DSBは、挿入/欠失(インデル)変異をもたらす非相同末端結合(NHEJ)、または外因性鋳型を必要とし、標的遺伝子座に正確な修飾を生成することができる相同組み換え修復(HDR)のいずれかによって修復される(Mali et al., Science. 2013 Feb 15;339(6121):823-6)。患者の細胞に遺伝子の機能的コピーまたは部分機能的コピーを追加するが、遺伝子の本来の機能障害コピーを保持する他の遺伝子療法とは異なり、この系は、欠陥を取り除くことができる。操作ヌクレアーゼを用いた遺伝的修正が、組織培養細胞および稀少疾患のげっ歯類モデルにおいて実証されている。
【0119】
CRISPRは、パン酵母(S. セレビシエ(S. cerevisiae))、ゼブラフィッシュ、線虫(C. エレガンス(C. elegans))、植物、マウス、およびいくつかの他の生物を含む広範囲の生物に使用されている。そのうえ、CRISPRは、プログラム可能な転写因子を作製するために修飾されており、それにより科学者は、特定の遺伝子を標的化して、活性化またはサイレンシングすることが可能になっている。数万個のガイドRNAのライブラリーが、現在利用可能である。
【0120】
2012年以来、遺伝子編集(特定の遺伝子のサイレンシング、増強または交換)のために、マウスおよび霊長類のような真核細胞であっても機能するCRISPR/Cas系が使用されている。cas遺伝子を含有するプラスミドおよび特異的に設計されたCRISPRを挿入することによって、生物のゲノムを任意の所望の位置で切断することができる。
【0121】
CRISPRリピートは、24~48塩基対のサイズ範囲である。それらは通常、いくらかのダイアド対称(dyad symmetry)を示し、ヘアピンなどの二次構造の形成を暗示しているが、真のパリンドロームではない。リピートは類似の長さのスペーサーによって隔てられている。いくつかのCRISPRスペーサー配列は、プラスミドおよびファージからの配列と正確にマッチするものの、いくつかのスペーサーは原核生物のゲノムとマッチする(自己標的化スペーサー)。ファージ感染に応答して新しいスペーサーを迅速に付加することができる。
【0122】
CRISPR関連(cas)遺伝子は、しばしばCRISPRリピート-スペーサーアレイに関連する。2013年時点で、40個を超える異なるCasタンパク質ファミリーが記載されていた。これらのタンパク質ファミリーのうち、Cas1は、異なるCRISPR/Casシステムの間でユビキタスであるように見える。cas遺伝子およびリピート構造の特定の組み合わせが、8つのCRISPRサブタイプ(Ecoli、Ypest、Nmeni、Dvulg、Tneap、Hmari、Apern、およびMtube)を定義するために使用されており、それらのいくつかは、リピート関連ミステリアスタンパク質(repeat-associated mysterious protein)(RAMP)をコードする追加的な遺伝子モジュールに関連する。1つよりも多いCRISPRサブタイプが単一ゲノム中に存在し得る。CRISPR/Casサブタイプの散発性の分布は、微生物が進化する間にシステムが遺伝子の水平移動に供されることを示唆している。
【0123】
外因性DNAは、見かけ上、Cas遺伝子によってコードされるタンパク質によって小さなエレメント(約30塩基対長)にプロセシングされ、それらが次いでリーダー配列近くのCRISPR遺伝子座に何らかの形で挿入される。CRISPR遺伝子座からのRNAは、構成性発現され、Casタンパク質によって、隣接リピート配列を有する個別の外因性由来配列エレメントから構成される低分子RNAにプロセシングされる。RNAは、他のCasタンパク質をガイドして、外因性遺伝エレメントをRNAまたはDNAレベルでサイレンシングする。CRISPRサブタイプの間での機能的多様性を示唆する証拠がある。Cse(CasサブタイプEcoli)タンパク質(大腸菌(E. coli)においてCasA~Eと呼ばれる)は、CRISPR RNA転写物を、Cascadeが保持するスペーサー-リピートユニットにプロセシングする機能的複合体Cascadeを形成する。他の原核生物では、Cas6は、CRISPR転写物をプロセシングする。興味深いことに、大腸菌におけるCRISPRベースのファージ不活性化は、CascadeおよびCas3を必要とするが、Cas1およびCas2を必要としない。パイロコッカス フリオサス(Pyrococcus furiosus)および他の原核生物において見られるCmr(Cas RAMPモジュール)タンパク質は、相補的標的RNAを認識および切断する低分子CRISPR RNAと機能的複合体を形成する。RNAガイドCRISPR酵素は、V型制限酵素として分類される。
【0124】
その全体が参照により組み入れられる米国特許出願公開第2014/0068797号も参照されたい。
【0125】
Cas9
Cas9は、DNAを切断するために専門化された酵素であるヌクレアーゼであり、二重らせんの各鎖に1つずつ、2つの活性切断部位を有する。本チームは、Cas9がその標的DNAに位置する場所にホーミングする能力を保ちながら、一方または両方の部位を無能にできたことを実証した。Jinek et al. (2012)は、tracrRNAおよびスペーサーRNAを組み合わせて「シングルガイドRNA」分子にしたが、この分子はCas9と混合されると、正しいDNA標的を見つけ出し、切断することができた。このような合成ガイドRNAは、遺伝子編集のために使用でき得ると提唱されている(Jinek et al., Science. 2012 Aug 17;337(6096):816-21)。
【0126】
Cas9タンパク質は、病原細菌および共生細菌に極めて豊富である。CRISPR/Cas媒介遺伝子調節は、特に細菌と真核生物宿主との相互作用の間に、内因性細菌遺伝子の調節の一因となる場合がある。例えば、フランシセラ ノビシダ(Francisella novicida)のCasタンパク質Cas9は、独特な低分子CRISPR/Cas関連RNA(scaRNA)を使用して、F.ノビシダが宿主応答を弱め、ビルレンスを増進するために重要である細菌リポタンパク質をコードする内因性転写物を抑制する。生殖系列(接合子)へのCas9 mRNAおよびsgRNAの同時注入によって、変異を有するマウスが生成した。Cas9 DNA配列の送達もまた、考えられる。
【0127】
gRNA
RNAガイドタンパク質として、Cas9は、DNA標的の認識を指示するために低分子RNAを必要とする。Cas9は、PAM配列NGGを含有するDNA配列を優先的に調べるが、Cas9はプロトスペーサー標的なしにここに結合することができる。しかし、Cas9-gRNA複合体は、二本鎖切断を生み出すためにgRNAとの密接なマッチを必要とする。細菌におけるCRISPR配列は、複数のRNAに発現され、次いでプロセシングされてRNAに対するガイド鎖を生み出す。真核システムは、CRISPR RNAをプロセシングするために必要なタンパク質のいくつかを欠如するので、Cas9標的化のために不可欠なRNA片を組み合わせてRNAポリメラーゼ2I型プロモーターU6により発現される単一のRNAにするために、合成構築物gRNAが生み出された)。合成gRNAは、最小の長さで100bpをわずかに上回り、PAM配列NGGの直前の20個のプロトスペーサーヌクレオチドを標的化する部分を含有する;gRNAはPAM配列を含有しない。
【0128】
あるアプローチでは、Xistを欠失または不活性化するために、対象の1つまたは複数の細胞がCRISPR-Casシステムを用いて変更される。Xist遺伝子を標的化するためにCas9を使用することができる。標的を認識すると、Cas9は、Xist標的遺伝子に二本鎖切断を誘導する。二本鎖切断部位での相同組み換え修復(HDR)は、Xist配列の不活性型または欠失型の挿入を可能にすることができる。
【0129】
以下の米国特許および米国特許出願公開が、参照により本明細書に組み入れられる:特許番号第8,697,359号、第20140170753号、第20140179006号、第20140179770号、第20140186843号、第20140186958号、第20140189896号、第20140227787号、第20140242664号、第20140248702号、第20140256046号、第20140273230号、第20140273233号、第20140273234号、第20140295556号、第20140295557号、第20140310830号、第20140356956号、第20140356959号、第20140357530号、第20150020223号、第20150031132号、第20150031133号、第20150031134号、第20150044191号、第20150044192号、第20150045546号、第20150050699号、第20150056705号、第20150071898号、第20150071899号、第20150071903号、第20150079681号、第20150159172号、第20150165054号、第20150166980号、および第20150184139号。
【0130】
治療方法
インプリンティング制御領域に存在するH3K27me3のインプリンティングをモジュレートする作用物質は、SCNTを用いて、クローン満期生物を生じさせるのに有用である。H3K27me3のインプリンティングを付加する作用物質は、Kdm4dポリヌクレオチドを注入されたXist KO細胞と組み合わせて使用することができる。
【0131】
あるアプローチでは、H3K27me3デメチラーゼを阻害する作用物質が、SCNTと併用される。投与される作用物質の投薬量は、個別の患者のサイズおよび健康を含むいくつかの要因に依存する。任意の特定の対象について、特定の投薬レジメンは、個別の必要性および組成物を投与しているまたはその投与を管理している人物の専門的な判断にしたがって経時的に調整されるべきである。
【0132】
以下の例は、当業者に、本発明のアッセイ、スクリーニング、および治療方法を作製および使用するやり方の完全な開示および説明を提供するように発表されるものであって、本発明者らが自身の発明とみなすものの範囲を限定することを意図するものではない。
【0133】
体細胞核移植
体細胞核移植(SCNT)は、例えば、家畜(例えば、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ)の繁殖クローニングのため、または細胞補充療法のために所望の組織が産生される治療クローニングのために用いられ得る技術である。残念ながら、クローン動物は、ヒストンH3タンパク質サブユニット上のリシン27のトリメチル化の欠損などの、不適当なインプリンティングに起因するある特定の欠陥をもつ。この欠損は、SCNT手技の間にトリメチル化事象を行う酵素をコードするmRNAを提供することによって治療することができる。一態様では、SCNT手技の前または途中に、トリメチル化事象を行うことが可能な酵素(例えば、EZH1、EZH2、PRC2)をコードするmRNAがレシピエント細胞または核ドナー細胞内に注入される。
【0134】
体細胞核移植は、核ドナー細胞を得て、次いでこの核ドナー細胞を除核レシピエント細胞、もっとも好ましくは除核卵母細胞と融合させて、核移植胚を形成し、この胚を活性化し、最終的に胚を培養することまたはこの胚を母系宿主内に移植することを伴う。核移植の間、1つの細胞からの核DNAの全部(full complement)が除核細胞に導入される。核移植方法は、当業者に周知である。1991年2月19日に発行された「Multiplying Bovine Embryos」という名称のPratherらの米国特許第4,994,384号;1991年10月15日に発行された「Bovine Nuclear Transplantation」という名称のMasseyの米国特許第5,057,420号;1999年11月30日に発行された「Production of Chimeric Bovine or Porcine Animals Using Cultured Inner Cell Mass Cellsという名称のSticeらの米国特許第5,994,619号;2000年1月19日に発行された「Quiescent Cell Populations For Nuclear Transfer」という名称のそれぞれCampbellらおよびWilmutの英国特許番号GB 2,318,578およびGB 2,331,751;2000年1月4日に発行された「Method of Cloning Bovines Using Reprogrammed Non-Embryonic Bovine Cells」という名称のStrelchenkoらの米国特許第6,011,197号;ならびに「Method of Cloning Porcine Animalsという名称の米国特許出願第09/753,323号(代理人整理番号030653.0026.CIP1、2000年12月28日に出願)を参照されたく、これらのそれぞれは、すべての図面、表および図を含めてその全体で参照により本明細書に組み入れられる。核移植は、透明帯に囲まれていない卵母細胞を使用することによって達成され得る。
【0135】
核移植手技において、核ドナー細胞、またはその核が、レシピエント細胞内に導入される。レシピエント細胞は、好ましくは卵母細胞であり、好ましくは除核されている。しかし、本発明は、一部には、卵母細胞の核が卵母細胞から物理的に抜き出されない核移植に関する。ドナー細胞からの核DNAが細胞分裂の間に複製される核移植胚を樹立することが可能である。例えば、Wagoner et al., 1996, "Functional enucleation of bovine oocytes: effects of centrifugation and ultraviolet light," Theriogenology 46: 279-284を参照されたい。加えて、核移植は、1つの核ドナーおよび1つよりも多い除核卵母細胞を組み合わせることによって達成され得る。また、核移植は、1つの核ドナー、1つまたは複数の除核卵母細胞、および1つまたは複数の除核卵母細胞の細胞質を組み合わせることによって達成され得る。結果として生じる核ドナー細胞とレシピエント細胞との組み合わせを、「雑種細胞」と呼ぶことができる。
【0136】
本明細書に使用される「核ドナー」という用語は、卵母細胞内に転位置することができる核DNAを有する任意の細胞、またはその核を指す。核ドナーは、細胞から単離された核であり得る。細胞から核を単離し、次いでその核を核ドナーとして利用するために、複数の技法が当業者に利用可能である。例えば、それらのそれぞれがその全体で参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第4,664,097号、同第6,011,197号、および同第6,107,543号を参照されたい。任意の種類の細胞を核ドナーとして役立てることができる。核ドナー細胞の例には、2つの配偶子のインビトロまたはインビボ結合から生じる胚から単離される培養細胞および非培養細胞;培養胚細胞から生じる胚性幹細胞(ES細胞)(例えば、前胚盤胞細胞および内細胞塊細胞);胚から単離される内細胞塊細胞から生じる培養細胞および非培養細胞;培養および非培養前胚盤胞細胞;培養および非培養胎児細胞;培養および非培養成体細胞;培養および非培養始原性細胞;培養および非培養性細胞(例えば、胚性性細胞);動物から単離される培養および非培養体細胞;培養および非培養卵丘細胞;培養および非培養羊水細胞;培養および非培養胎児線維芽細胞;培養および非培養生殖隆起細胞;培養および非培養分化細胞;同調集団中の培養および非培養細胞;非同調集団中の培養および非培養細胞;培養および非培養血清飢餓細胞;培養および非培養永久細胞;ならびに培養および非培養全能細胞が含まれるが、それに限定されるわけではない。例えば、Piedrahita et al., 1998, Biol. Reprod. 58: 1321-1329;Shim et al., 1997, Biol. Reprod. 57: 1089-1095;Tsung et al., 1995, Shih Yen Sheng Wu Hsueh Pao 28: 173-189;およびWheeler, 1994, Reprod. Fertil. Dev. 6: 563-568を参照されたく、これらのそれぞれは、すべての図面、図、および表を含めてその全体で参照により本明細書に組み入れられる。加えて、核ドナーは、以前に冷凍または凍結保存された細胞であり得る。
【0137】
核移植の工程によって作製された雑種細胞を、例えば生殖クローニングまたは再生クローニングに使用してもよい。
【0138】
SCNT実験は、成体分化体細胞からの核を全能状態にリプログラミングできることを示した。したがって、本明細書に開示される方法を用いて生成されるSCNT胚は、全能または胚性幹細胞または幹様細胞および細胞コロニーの生成に適したインビトロ培地中で培養することができる。培養および胚の成熟に適した培地は、当技術分野において周知である。ウシ胚の培養および維持のために使用され得る公知の培地の例には、HamのF-10+10%ウシ胎児血清(FCS)、組織培養培地-199(TCM-199)+10%ウシ胎児血清、タイロード-アルブミン-乳酸塩-ピルビン酸塩(TALP)、ダルベッコリン酸緩衝食塩水(PBS)、イーグル-ホイットン培地が含まれる。卵母細胞の収集および成熟のために使用されるもっともよく知られる培地の1つは、TCM-199、およびウシ胎児血清、新生児血清、発情期雌ウシ血清、子ヒツジ血清または去勢ウシ血清を含む血清の1~20%補充である。好ましい維持培地は、アール塩、10%ウシ胎児血清、0.2Ma ピルビン酸塩および50ug/ml硫酸ゲンタマイシンを有するTCM-199を含む。上記のいずれかはまた、顆粒膜細胞、卵管細胞、BRL細胞および子宮細胞およびSTO細胞などの多様な細胞型との共培養を伴う場合もある。
【0139】
特に、子宮内膜の上皮細胞は、着床前および着床期の間に白血病抑制因子(LIF)を分泌する。したがって、いくつかの態様では、SCNT由来胚のインビトロ発生を高めるために、培地へのLIFの添加が包含される。胚細胞培養または幹様細胞培養のためのLIFの使用は、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,712,156号に記載されている。
【0140】
別の維持培地は、参照により本明細書に組み入れられるRosenkrans, Jr.らの米国特許第5,096,822号に記載されている。CR1という名のこの胚培地は、胚を支援するために必要な栄養物質を含有する。CR1は、1.0mM~10mM、好ましくは1.0mM~5.0mMの範囲の量のヘミカルシウムL-乳酸塩を含有する。ヘミカルシウムL-乳酸塩は、ヘミカルシウム塩が混合されたL-乳酸塩である。また、ヒト胚性幹細胞を培養で維持するために適した培地は、Thomson et al., Science, 282:1145-1147 (1998)およびProc. Natl. Acad. Sci., USA, 92:7844-7848 (1995)に述べられている。
【0141】
いくつかの態様では、フィーダー細胞は、マウス胚性線維芽細胞を含むであろう。適切な線維芽細胞フィーダー層の調製のための手段は、以下の実施例に記載されており、十分に通常の技術者の技能の範囲内である。
【0142】
胚盤胞期SCNT胚(またはその等価物)からES細胞(例えば、NT-ESCまたはhNT-ESC)を得る方法は、当技術分野において周知である。そのような技術は、SCNT胚からES細胞(例えば、hNT-ESC)を得るために用いることができ、その際、hNT-ESCを生成するために使用されるSCNT胚は、KDM4デメチラーゼファミリーのメンバーおよび/またはヒストンメチルトランスフェラーゼSUV39h1/SUV39h2の阻害剤で処理されなかったSCNTと比較して、体細胞ドナー細胞から供与された核遺伝物質中のH3K9me3の低減したレベルを有する。追加的または代替的に、hNT-ESCは、クローンSCNT胚から発生初期に得ることができる。
【0143】
ある特定の態様では、本明細書に開示される方法、組成物およびキットを用いて生成されるSCNT胚から生成される割球を、ガラスピペットを使用して解離させて、全能細胞を得ることができる。いくつかの態様では、解離は、0.25%トリプシンの存在下で起こり得る(Collas and Robl, 43 BIOL. REPROD. 877-84, 1992;Stice and Robl, 39 BIOL. REPROD. 657-664, 1988;Kanka et al., 43 MOL. REPROD. DEV. 135-44, 1996)。
【0144】
ある特定の態様では、SCNT胚から結果として生じる胚盤胞、または胚盤胞様クラスターを使用して、胚性幹細胞株、例えば、核移植ESC(ntESC)細胞株を得ることができる。そのような株は、例えば、その全体で参照により本明細書に組み入れられる、Thomson et al., Science, 282:1145-1147 (1998)およびThomson et al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 92:7544-7848 (1995)によって報告される培養方法に従って得ることができる。
【0145】
多能性胚性幹細胞はまた、出生への胚の正常な発生を妨害せずにSCNT胚から取り出された単一の割球から生成されることもできる。その開示がその全体で参照により組み入れられる、2004年11月4日に出願された米国特許出願第60/624,827号;2005年3月14日に出願された同第60/662,489号;2005年6月3日に出願された同第60/687,158号;2005年10月3日に出願された同第60/723,066号;2005年10月14日に出願された同第60/726,775号;2005年11月4日に出願された同第11/267,555号;2005年11月4日に出願されたPCT出願番号PCT/US05/39776を参照されたい;Chung et al., Nature, Oct. 16, 2005(印刷に先だって電子出版された)およびChung et al., Nature V. 439, pp. 216-219 (2006)も参照されたく、これらのそれぞれの全開示は、その全体で参照により組み入れられる)。そのような場合、SCNT胚は、多能性幹細胞の生成のために破壊されない。
【0146】
本発明の一局面では、この方法は、SCNT胚から得られた細胞の研究および治療法への利用を含む。そのような多能性幹細胞(PSC)または全能性幹細胞(TSC)は、皮膚、軟骨、骨、骨格筋、心筋、腎臓、肝臓、血液および造血、血管前駆および血管内皮、膵ベータ、ニューロン、グリア、網膜、内耳包、腸、または肺細胞を含むが、それに限定されるわけではない体内の細胞のいずれかに分化することができる。
【0147】
本発明の別の態様では、SCNT胚、またはSCNT胚(例えば、NT-ESC)から得られる胚盤胞、または多能性もしくは全能性細胞は、1つまたは複数の分化誘導因子に曝露されて、網膜色素上皮、造血前駆細胞および血管芽細胞前駆細胞のみならず、外胚葉、中胚葉、および内胚葉の多くの他の有用な細胞型などの他の治療的に有用な細胞を回収することができる。そのような誘導因子には、サイトカイン、例えばインターロイキン-アルファA、インターフェロン-アルファA/D、インターフェロン-ベータ、インターフェロン-ガンマ、インターフェロン-ガンマ誘導タンパク質-10、インターロイキン-1~17、ケラチノサイト増殖因子、レプチン、白血病抑制因子、マクロファージコロニー刺激因子、およびマクロファージ炎症性タンパク質-1アルファ、1-ベータ、2、3アルファ、3ベータ、および単球走化性タンパク質1~3、6カイン、アクチビンA、アンフィレギュリン、アンジオジェニン、B-内皮細胞増殖因子、ベータセルリン、脳由来神経栄養因子、C10、カルジオトロフィン-1、毛様体神経栄養因子、サイトカイン誘導好中球走化性因子-1、エオタキシン、上皮増殖因子、上皮好中球活性化ペプチド-78、エリスロポエチン、エストロゲン受容体-アルファ、エストロゲン受容体-ベータ、線維芽細胞増殖因子(酸性および塩基性)、ヘパリン、FLT-3/FLK-2リガンド、グリア細胞株由来神経栄養因子、Gly-His-Lys、顆粒球コロニー刺激因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、GRO-アルファ/MGSA、GRO-ベータ、GRO-ガンマ、HCC-1、ヘパリン結合性上皮増殖因子、肝細胞増殖因子、ヘレグリン-アルファ、インスリン、インスリン増殖因子結合タンパク質-1、インスリン様増殖因子結合タンパク質-1、インスリン様増殖因子、インスリン様増殖因子II、神経成長因子、ニューロトロフィン(neurotophin)-3、4、オンコスタチンM、胎盤増殖因子、プレイオトロフィン、ランテス、幹細胞因子、ストロマ細胞由来因子1B、トロンボポエチン(thromopoietin)、形質転換増殖因子-(アルファ、ベータ1、2、3、4、5)、腫瘍壊死因子(アルファおよびベータ)、血管内皮増殖因子、および骨形成タンパク質、17B-エストラジオール、副腎皮質刺激ホルモン、アドレノメデュリン、アルファ-メラニン細胞刺激ホルモン、絨毛性性腺刺激ホルモン、コルチコステロイド結合グロブリン、コルチコステロン、デキサメタゾン、エストリオール、卵胞刺激ホルモン、ガストリン1、グルカゴン、性腺刺激ホルモン、L-3,3',5'-トリヨードチロニン、黄体形成ホルモン、L-チロキシン、メラトニン、MZ-4、オキシトシン、副甲状腺ホルモン、PEC-60、下垂体成長ホルモン、プロゲステロン、プロラクチン、セクレチン、性ホルモン結合グロブリン、甲状腺刺激ホルモン、甲状腺刺激ホルモン放出因子、チロキシン結合グロブリン、およびバゾプレシンなどのホルモンおよびホルモン拮抗薬の発現を変更する酵素、細胞外マトリックス成分、例えば、フィブロネクチン、フィブロネクチンのタンパク質分解フラグメント、ラミニン、テネイシン、トロンボスポンジン、およびプロテオグリカン、例えば、アグリカン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、コンドロイチン硫酸(chontroitin sulphate)プロテオグリカン、およびシンデカンが含まれるが、それに限定されるわけではない。他の誘導因子には、本発明のリプログラミングされた細胞に由来する分化途中の細胞に誘導シグナルを提供するために使用される、所定の組織からの細胞または細胞に由来する成分が含まれる。そのようなインデューサー細胞は、ヒト、非ヒト哺乳動物、またはアビジン、例えば、特定病原体除去(SPF)の胚細胞または成体細胞に由来し得る。
【0148】
割球の培養。一態様では、SCNT胚を使用して割球を生成し、着床前遺伝子診断(PGD)に現在用いられる技法に関係するインビトロ技法を利用して、SCNT胚を破壊せずに、それらの生存率を別の方法で顕著に変更もせずに、本明細書に開示される方法によって生成されるSCNT胚から単一の割球を単離することができる。本明細書に実証されるように、多能性胚性幹(hES)細胞および細胞株は、出生への胚の正常な発生を妨害せずに、本明細書に開示されるSCNT胚から取り出される単一の割球から生成することができる。
【0149】
ヒツジ「Dolly」のクローニングにおけるWilmutらの発見(Wilmut, et al, Nature 385, 810 (1997)は、hESCを得ることにおけるThomsonらの発見(Thomson et al., Science 282, 1145 (1998))と一緒になって、患者自身の核から生成されるSCNT胚またはSCNT操作細胞塊に由来する患者特異的hESCの樹立に基づく再生細胞移植に向けたかなりの興味を引き起こした。自己移植による免疫拒絶を回避することを目的とするこの戦略は、おそらく、SCNTのもっとも強力な臨床的根拠である。同様の理由で、複合疾患特異的SCNT-hESCの誘導は、疾患メカニズムの発見を加速し得る。細胞移植のために、個別のマウス自体のSCNT由来mESCによるマウスSCIDおよびPDモデルの革新的な処置が有望である(Rideout et al, Cell 109, 17 (2002);Barberi, Nat. Biotechnol. 21, 1200 (2003))。最終的に、広い組織適合性を有するSCNT由来幹細胞のバンクを生み出せることは、新しい卵母細胞を継続して供給する必要性を低減するであろう。
【0150】
本発明のある特定の態様では、SCNT胚から得られる多能性細胞または全能細胞(例えば、hNT-ESC)は、治療的有用性を示すために、任意で分化され、通常それらが存在する組織に導入されることができる。例えば、SCNT胚から得られる多能性細胞または全能細胞は、組織中に導入されることができる。ある特定の他の態様では、SCNT胚から得られる多能性細胞または全能細胞は、全身に、または治療的有用性が望まれる部位から距離を置いて導入されることができる。そのような態様では、SCNT胚から得られる多能性細胞または全能細胞は、距離を置いて作用することができ、または所望の部位にホーミングし得る。
【0151】
本発明のある特定の態様では、クローン細胞、SCNT胚から得られる多能性細胞または全能細胞は、他の多能性幹細胞の分化の誘導に利用されることができる。遺伝子発現の胚性パターンを維持しながらインビトロで繁殖させることが可能な細胞の単一細胞由来集団の生成は、他の多能性幹細胞の分化を誘導するのに有用である。細胞間誘導は、初期胚における分化を方向づける一般的な手段である。医学に潜在的に有用な多数の細胞型が、脊髄ニューロン、心臓細胞、膵臓ベータ細胞、および二次造血細胞(definitive hematopoietic cell)を含む正常な胚発生の間の誘導シグナルによって影響される。遺伝子発現の胚性パターンを維持しながらインビトロで繁殖させることが可能な細胞の単一細胞由来集団を、多様なインビトロ、インオボ(in ovo)、またはインビボ培養条件で培養して、所望の細胞型または組織型になるための他の多能性幹細胞の分化を誘導することができる。
【0152】
SCNT胚(例えば、ntESC)から得られる多能性細胞または全能細胞を使用して、任意の所望の分化細胞型を得ることができる。そのような分化細胞の治療的使用は、並ぶものがない。本明細書に述べるように、本明細書に開示の方法により、ドナー細胞、またはレシピエント卵母細胞、雑種卵母細胞またはSCNT胚を、KDM4ヒストンジメチラーゼ活性化因子および/またはH3K9メチルトランスフェラーゼ阻害剤で処置することができる。
【0153】
あるいは、ドナー細胞は、障害を有する対象からの成体体細胞であることができ、生成されるSCNT胚を使用して、疾患の動物モデルまたは疾患特異的多能性もしくは全能性細胞を産生することができ、その細胞を分化条件で培養して、疾患の細胞モデルを産生することができる。本発明の大きな利点は、SCNTの効率を挙げることによって、それが、同質遺伝子または同系のES細胞の、特に人工多能性幹細胞ではない(例えば、iPSCではない)多能性ES細胞の、本質的に無限の供給を提供することである。そのようなNT-ESCは、iPSCをしのぐ利点を有し、またそれらは部分多能性ではなく、ウイルス導入遺伝子も、それらのリプログラミングを指示するためのリプログラミング因子の強制発現も有しないので、移植に適している。
【0154】
いくつかの態様では、SCNTから生成されるNT-ESCは、SCNT胚から得られる患者特異的多能性であり、その際、ドナー細胞は、多能性幹細胞またはその分化した後代により処置されるべき対象から得られたものである。したがって、これは、現行の移植方法に関連する重大な問題、すなわち、宿主対移植片または移植片対宿主拒絶のために起こり得る、移植された組織の拒絶を未然に防ぐであろう。従来から、拒絶は、シクロスポリンなどの抗拒絶薬の投与によって予防または低減される。しかし、このような薬物は、重大な有害副作用、例えば、免疫抑制、発癌性を有するのみならず、非常に高価である。本発明は、シクロスポリン、イムラン、FK-506、グルココルチコイド、およびラパマイシン、ならびにそれらの誘導体などの抗拒絶薬の必要性を排除する、または少なくとも大きく低減するはずである。
【0155】
本発明の実施は、特に示さないかぎり、十分に技術者の理解し得る範囲内である分子生物学(組み換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学および免疫学の従来技術を採用する。そのような技術は、"Molecular Cloning: A Laboratory Manual", second edition (Sambrook, 1989); "Oligonucleotide Synthesis" (Gait, 1984); "Animal Cell Culture" (Freshney, 1987); "Methods in Enzymology" "Handbook of Experimental Immunology" (Weir, 1996); "Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells" (Miller and Calos, 1987); "Current Protocols in Molecular Biology" (Ausubel, 1987); "PCR: The Polymerase Chain Reaction", (Mullis, 1994); "Current Protocols in Immunology" (Coligan, 1991)などの文献に十分に説明されている。これらの技術は、本発明のポリヌクレオチドおよびポリペプチドの産生に適用することが可能であり、ゆえに、本発明の製造および実施に考慮され得る。特定の態様に特に有用な技法は、以下のセクションに述べられる。
【0156】
以下の実施例は、当業者に本発明のアッセイ、スクリーニング、および治療方法を実施および使用する方法の完全な開示および説明を与えるために公表されるものであって、本発明者らが自らの発明としてみなすものの範囲を限定することを意図しない。
【実施例
【0157】
実施例1:Kdm4dの注入はSCNTに関連する異常なXist活性化を軽減しない
不活性X染色体は、抗H3K27me3抗体を用いたその点状染色によりマークされる。一貫して、そのような点状染色は、体外受精(IVF)胚において雌(XX)細胞だけに検出可能であり、雄(XY)細胞では検出できない。対照的に、そのような点状染色は、雄性セルトリ細胞がドナー細胞として使用された場合のSCNT胚において観察され(図1A)、これはSCNT胚における異常なXist活性化を示唆している。重要なことに、Kdm4dの注入は、非注入対照SCNT胚と比較して点状染色パターンもその頻度も変更しない(図1A、1B)。これらの結果は、ドナー細胞におけるH3K9me3およびSCNT胚におけるXistの異所性活性化が、SCNTリプログラミングにおける2つの独立したバリアであることを実証した。
【0158】
実施例2:Xist変異ドナー細胞およびKdm4d mRNA注入の併用はクローニング効率を大きく改善する
2つのリプログラミングバリアが相互に独立しているという事実は、Xist KOドナー細胞を使用し、Kdm4dを注入する組み合わせアプローチが、増加したクローニング効率を達成する相乗または相加効果を有するかという疑問を起こさせた。ドナーとして卵丘細胞を使用してSCNTを試みた。B6D2F1バックグラウンドを有する野生型対照では、代理母に移植された胚の1.2%だけが満期に達した(図1C;表2)。
【0159】
(表2)図1に関するSCNT胚の着床後発生
注入されたKdm4d mRNAの濃度は1500ng/ulであった。N/A、該当なし。ET、胚移植。
【0160】
以前の観察と一致して、Kdm4d mRNAの注入は産児率を8.4%に増加させた(Matoba et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 108, 20621-20626, 2014)。Xistヘテロ接合性マウスに由来する卵丘細胞をドナー細胞として使用し、Kdm4d mRNA注入と組み合わせた場合、産児率は18.7%に増加した(図1C;表S1)。同様に、セルトリ細胞由来SCNT胚の産児率は、Kdm4d mRNA注入により1.8%から9.1%に改善し、Xist KOをKdm4d mRNA注入と組み合わせることによってさらに23.5%に増加した(図1C;表2)、これは、これまで報告された最高のマウスクローニング率である(Ogura et al., Phil. Trans. R. Soc. B 368, 20110329, 2013)。重要なことに、この相加効果は、雑種(129S1/Svj×CAST/EiJ)遺伝的バックグラウンドの、異なるXist変異株のMEF細胞を使用しても観察された(図1C;表2)。組み合わせアプローチを用いて生成された子は、成体まで成長し、正常な受精能を示した(図1D)。
【0161】
上記の結果は、組み合わせアプローチを用いることにより本発明が最高のマウスクローニング効率を提供することを示している。しかし、23.5%という最高のクローニング効率であっても、移植された胚の50%を超えるというIVFの産児率のまだ半分未満である。実際、植えつけた胚の65%(57個中37個)が、組み合わせられたセルトリ細胞SCNT群における着床後発生の間に発生停止した(表2)。異なる胚性期での注意深い形態調査によって、胚の停止が着床直後に始まり、発生が進むにつれて徐々に増加することが明らかとなった(図2A)。そのうえ、形態学的および組織学的分析により、PAS陽性海綿状栄養膜細胞の迷路層への侵入に関連する大きな胎盤表現型(図1E)が、Kdm4d mRNAの注入によっても組み合わせアプローチによっても救済されなかったことが明らかとなった(図1Eおよび1F;表2)。したがって、SCNT胚の発生の改善におけるXist KOおよびKdm4d mRNA注入のプラスの組み合わせ効果にかかわらず、他のリプログラミングバリアがこれらのSCNT胚の発生不全の一因となり得る。
【0162】
実施例3:組み合わせによりリプログラミングされたSCNT胚盤胞において広いDNAメチル化リプログラミングが達成される
組み合わせによりリプログラミングされたSCNT胚は、着床直後に発生障害を示し始めるので(図2A、2B、2C)、形態学的に正常に見えるものの、すでにSCNT胚盤胞においてリプログラミングに関連するエピジェネティック欠損が存在したと仮定した。そのようなエピジェネティック欠損を特定するために、Kdm4d mRNA注入と組み合わせたXist KO MEF細胞(129S1/Svj×CAST/EiJバックグラウンド)由来の両方のSCNT胚盤胞の全ゲノムバイサルファイトシーケンシング(WGBS)データを生成し、遺伝的にマッチするIVF胚盤胞のデータと比較した(図3A)。
【0163】
IVFおよびSCNT胚盤胞からのそれぞれ2060万および2090万個のCpG部位のDNAメチル化情報(表3)。
【0164】
(表3)図2に関係するWGBSライブラリーの概要
【0165】
比較のために、公的データベースからも、MEF(Yu et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 111, 5890-5895, 2014)、精子および卵母細胞(Wang et al., Cell 157, 979-991, 2014)についてのWGBSを得た。第1に、カバーされたすべてのCpGの平均DNAメチル化レベルを計算した。精子および卵母細胞における平均メチル化レベルは、それぞれ82.2%および58.8%であることが見い出された。IVF接合子の出発メチル化レベルとして役立つ精子および卵母細胞の平均メチル化レベルは、70.5%である(図3B)。しかし、高メチル化配偶子は、胚盤胞期までに低メチル化レベルにグローバルにリプログラミングされた(19.1%)。これは、着床前発生の間に行われる能動および受動脱メチル化過程が原因である可能性がある。
【0166】
次に、共通にカバーされたCpGのMEF細胞およびSCNT胚盤胞のDNAメチル化レベルを計算し、ドナーMEF細胞は高メチル化されているが(78.0%)、SCNT胚盤胞は、IVF胚盤胞のメチル化レベル(19.1%)と類似のメチル化レベル(15.6%)で低メチル化されていたことが見出された。これは、DNAメチル化状態のグローバルなリプログラミングが成功したことを示している(図3B)。実際に、DNAメチル化の対比較により、IVFおよびSCNT胚盤胞の両方が、配偶子またはMEF細胞と比較して極めて低いDNAメチル化を有することが明らかとなった(図3C)。グローバルなメチル化レベルだけでなく、メチル化CpGの分布もまた類似している(図5A)。全体的DNAメチル化パターンが類似していることと一致して、RNA-seqにより、IVFとSCNT胚盤胞との間でトランスクリプトームが高度に類似していることが明らかとなった(R=0.988)(図3D、4A、4B、および5B)。実際に、検出された8,921個の遺伝子(少なくとも1つの試料においてFPKM>3)のうち、SCNT胚盤胞において92個の遺伝子だけが差次的に発現した(FC>3)(図5D、表4)。
【0167】
(表4)SCNT胚盤胞における差次的に調節された遺伝子
【0168】
これらの結果は、DNAメチル化およびトランスクリプトームが胚盤胞期でSCNTにより大きくリプログラミングされることを示している。
【0169】
実施例4:SCNT胚盤胞における差次的メチル化領域(DMR)の同定および特徴づけ
DNAメチロームのグローバルなリプログラミングが成功したにもかかわらず、SCNT胚盤胞の平均メチル化レベル(15.6%)は、IVF胚盤胞(19.1%)(図5B)よりもわずかであるが有意に低かった(p値<2.2e-16)。ゲノムワイドスキャン解析(最小ウインドウサイズとして10CpG)を行って、SCNT胚盤胞およびIVF胚盤胞の間の差次的メチル化領域(DMR)を同定し、これにより、10%よりも大きい絶対メチル化差を有する56,240DMRが明らかとなった(図5A)。これらのDMRの大部分(48,315個:85.9%)は、IVFと比較してSCNTに低いDNAメチル化を示し、これを低DMRと名づけた。IVFと比較してSCNTに高いDNAメチル化を有する7,925個の領域を同定し、これを高DMRと名づけた。興味深いことに、高DMRの平均長(741bp)は、低DMRの平均長(5,743bp)よりもずっと短い(図5B)。実際に、代表的な高DMRは、プロモーター/エンハンサー領域に鋭いピークとして存在し、一方、代表的な低DMRは、遺伝子コード領域全体をカバーする(図6A、6B)。これに一致して、高DMRおよび低DMRは別個のゲノム分布を示し、遺伝子間領域に高DMRが濃縮される一方で、低DMRは、遺伝子本体中に濃縮されている(図5C)。
【0170】
これらのDMRがどのように形成され、それらがSCNT胚の着床後発生不全の一因となる可能性もあるかどうかを理解するために、分析の焦点を低DMRに当てた。精子では、低DMRでのメチル化レベルは、フランキング領域よりも有意に高かった(約90% 対 約80%)(図5D)。卵母細胞において、低DMRとフランキング領域との間のメチル化の差はいっそう大きい(約75% 対 約60%)(図3D)。対照的にMEFでは、低DMRとフランキング領域との間のメチル化の差は、ずっと小さい(図5D)。したがって、SCNT胚盤胞の低DMRは、低DMRのDNAメチル化レベルが配偶子において比較的高いことと十分に関連し、SCNT胚およびIVF胚の両方が同じ数の複製依存希釈を経るならば、メチル化レベルは、IVF胚盤胞の方が高いレベルであり続ける。この考えと一致して、ゲノムブラウザー画面における代表的な低DMRの目視検査により、卵母細胞におけるメチル化ピークがIVF胚盤胞におけるメチル化ピークとはっきりと重複することが明らかとなった(図6B)。アレルDNAメチル化分析もまた、この考えを支持している。それは、IVF胚盤胞におけるメチル化パターンの母系アレルへの強いバイアスがあるからである(図5E)。実際に、公表された着床前胚のWGBSデータセットの解析(Wang et al., Cell 157, 979-991, 2014)により、母系アレルが4細胞期まで低DMRでその高いDNAメチル化レベルを維持し、一方、父系アレルがこれらの領域でそのメチル化を速やかに失うことが明らかとなった(図5F)。
【0171】
次に、高DMRを分析した。高DMRおよびフランキング領域でのメチル化レベルは、卵母細胞において類似(約50%)であり、一方、精子において高DMRのメチル化レベルはフランキング領域よりも有意に低い(約55% 対 約80%)(図5G)。メチル化レベルのそれらの差にかかわらず、高DMRおよびフランキング領域の両方は、IVF胚盤胞において非常に低いレベル(約20%)まで脱メチル化された(図5G)。対照的に、高DMRは、MEFにおけるフランキング領域よりもなお高いメチル化レベルで激しくメチル化されていた(約80%)(図5G)。高DMRは、配偶子ではなく、MEFにおいて激しくメチル化されていたという事実は、これらの領域での低メチル化が、生殖系列の独特な特徴であり得ることを示唆している。実際に、異なる細胞型の公的DNAメチロームデータセットの解析によって、高DMRは分析されたすべての体細胞型で実際に激しくメチル化されているが、精母細胞、精子細胞および卵母細胞だけは、より少なくメチル化されていることが明らかとなった(図5H)。これに一致して、高DMRに関連する遺伝子のGO解析により、精子形成および配偶子形成などの生殖系列関連機能の有意な濃縮が明らかになった(図6C)。高DMRは、始原性細胞(PGC)の発生の間にTet1により脱メチル化されるように見える(Yamaguchi et al., Nature 504, 460-464, 2013)。それは、ヒドロキシメチルシトシン(5hmC)がPGC中の高DMRで顕著に濃縮されていたからである(図6D)。これは、高DMRが主として胚発生ではなく生殖系列発生に関係することを示唆している。
【0172】
実施例5:SCNT胚盤胞におけるH3K27me3に依存するインプリンティングの欠如
胎盤の発生不良は、SCNT胚における中心的な特徴である。以前の研究は、ゲノムインプリンティングが胎盤の発生に重要な役割を演じることを証明した。したがって、潜在的にSCNT胚の着床後欠損の一因となる可能性がある同定されたDRM以外の、ゲノムインプリンティングに及ぼす組み合わせアプローチの影響を評価することが重要である。このため、インプリント遺伝子のアレル発現が、アレルのインプリンティング制御領域(ICR)のメチル化により大きく制御されるので、23個の公知のICRのDNAメチル化レベルを分析した。比較DNAメチル化解析によって、DNAメチル化レベルが大部分のICRでわずかに低減されるものの、23個のICRのうち21個がIVF胚盤胞レベルの少なくとも半分を維持したことが明らかとなった(図8A)。これは、DNAメチル化媒介ゲノムインプリンティングが主として維持されたことを示している。実際に、十分なアレル特異的メチル化情報を有する20個のICRのすべて(IVFおよびSCNT胚盤胞の両方で両アレルにおいて検出されたCpGが>5)は、IVFとSCNT胚盤胞との間で一致したアレル特異的DNAメチル化があることを示した(図8B)。
【0173】
SCNT欠損におけるDNAメチル化媒介ゲノムインプリンティングの潜在的な役割をさらに評価するために、126個の公知のインプリント遺伝子に焦点を当ててRNAseqデータセットを解析した。IVF胚盤胞において確実に検出可能な(FPKM>1)45個のインプリント遺伝子のうち、IVF胚盤胞と比較してSCNT胚盤胞において6つだけが有意にアップレギュレーションされていた(FC>1.5)(図8C)。アレル発現解析(FPKM>1、いずれかの試料で平均SNPリード>10)により、IVF胚盤胞において、十分な数のSNPリードを有する36個のインプリント遺伝子のうち、6つが母系アレルへの発現バイアスを示し(母系/父系>2.0)、13個が父系アレルへの発現バイアス(父系/母系>2.0)を示した(図8Dおよび8E、色の薄い棒線)。6つの母系発現遺伝子(MEG)のすべてが、SCNT胚盤胞において母系への発現バイアスを維持した(図8D)。13個の父系発現遺伝子(PEG)のうち7つが、SCNT胚盤胞においてアレルのバイアスを欠如し、両アレル性発現をするようになった(図8E、矢印)。興味深いことに、SCNT胚盤胞においてインプリント発現を欠如した7つのPEGは、そのインプリント発現がDNAメチル化に依存せず、母系沈着したH3K27me3に依存することが知られている、Slc38a4、Sfmbt2、Phf17およびGab1を含む(図8E、色の濃い棒線)(Inoue et al., Nature 547, 419-424, 2017)。
【0174】
最近同定されたが、上記解析に含まれない、H3K27me3依存性インプリント遺伝子に解析の焦点を当てた。桑実胚においてH3K27me3依存性のインプリント発現を示す76個の遺伝子のうち(Inoue et al., Nature 547, 419-424, 2017)、26個がIVF胚盤胞において確実に検出可能なレベル(FPKM>1)で発現される。興味深いことに、それらの過半数(26個中15個)は、SCNT胚盤胞において有意にアップレギュレーションされている(FC>1.5)(図7A)。アレル発現解析によって、十分なSNPリードを有する23個の遺伝子(FPKM>1、いずれの試料においてもSNPのリード>10)のうち17個が、解析された遺伝的バックグラウンド(129S1/Svj×CAST/EiJ)のIVF胚盤胞において父系への発現バイアス(父系/母系>2.0)を示したことが明らかとなった。著しくは、17個のPEGのすべてが父系アレルへの発現バイアスを失い、両アレル性発現を示した(図7B)。これらの結果は、H3K27me3に依存するインプリント遺伝子がSCNT胚盤胞においてそれらのインプリンティングを完全に失うことを明確に実証した。
【0175】
なぜこれらのH3K27me3依存性インプリント遺伝子がSCNT胚盤胞においてインプリンティングを失うのか。これらの遺伝子のインプリンティング状態は、卵形成の間に沈着された母系アレル特異的H3K27me3ドメインによって調節されるので、ドナーMEFにおけるH3K27me3パターンが卵母細胞におけるパターンと異なり得るという可能性がある。完全に成長した卵母細胞およびMEF細胞の入手可能なH3K27me3 ChIP-seqデータセットの解析により、卵母細胞におけるこれらのインプリント遺伝子のH3K27me3ドメインがMEF細胞に全く存在しなかったことが明らかとなった(図7Cおよび8F)。他の体細胞型を含むように解析を広げた。この解析によって、これらのインプリント遺伝子におけるH3K27me3ドメインが、解析された体細胞型に一般的に存在せず、したがって、卵母細胞ゲノムに独特なものであったことが見い出された(図8D)。これらの結果は、ドナー体細胞においてこれらのインプリント遺伝子の母系アレルにH3K27me3メチル化が欠如していることがSCNT後のインプリンティング消失(LOI)の原因の可能性があることを示している。
【0176】
SCNTにより20種を超える哺乳動物のクローニングが成功したにもかかわらず、クローニング効率は一様に低く、胎盤の過成長を含む発生異常が本質的にすべてのクローン哺乳動物種に観察される。エピジェネティックな異常が、クローン動物の発生不全の一因であると推測される。この研究において、2つのアプローチを組み合わせて、マウスSCNT胚の発生を妨害する2つの以前に同定されたリプログラミングバリアを克服した。Xist KOドナー体細胞およびKdm4d mRNA注入の併用は、実際に全体的クローニング効率(満期率)を20倍増加させて、体細胞ドナー細胞を使用するマウス生殖クローニングにおいてこれまでに報告された最高の産児率(例えば、セルトリ細胞を使用して23%)を生じさせた。この効率は、類似の核注入を伴う、卵細胞質内精子注入または円形精子細胞注入(ICSI/ROSI)の効率に近いため、注目に値する(Ogonuki et al., PLoS One 5, 2010; Ogura et al., International Review of Cytology, pp. 189-2292005)。この成果は、ドナー細胞におけるH3K9me3およびXistの異常活性化がクローニング成功についての2つの大きなバリアに相当することをはっきりと実証し、したがって、SCNT媒介リプログラミングの分子メカニズムを理解するための基礎となる。
【0177】
注目すべき改善にかかわらず、組み合わせアプローチを用いて生成されるSCNT胚の多くが、着床後に発生しなかった。そのうえ、ドナーの細胞型にかかわらず胎盤の過成長がまだ観察され、これは、高い効率の動物クローニングについての追加的なバリアが存在することを示している。これらの追加的なリプログラミングバリアを同定するために、発生不全が始まる時間wを同定し、発生表現型が出現する直前にSCNT胚盤胞から第1のWGBSデータセットを生成した。比較DNAメチローム解析によって、SCNTによるグローバルなDNAメチロームのリプログラミングの成功が明らかとなった。これは、卵細胞質および卵割胚中のDNA脱メチル化機構が、IVF胚と比較してSCNT胚においても同様に機能性であることを示している。それにもかかわらず、DNAメチロームの詳細な比較解析により、IVF胚盤胞とSCNT胚盤胞との間でゲノムにわたる多くのDMRが明らかとなった。興味深いことに、高DMRは、生殖系列において脱メチルされるゲノム領域に濃縮されており、これは、性細胞発生の間に、特に始原性細胞(PGC)期で、性細胞特異的遺伝子がTet1により脱メチル化されるという事実に一致する。なおSCNTは、この脱メチル化過程をバイパスする。高DMR関連遺伝子のリストは、1細胞期SCNT胚で急速に脱メチル化されると報告された少数の生殖系列遺伝子を含まない。これは、生殖系列遺伝子の過半数ではなくいくつかが、SCNTの後に脱メチルに供されることを示している。他方で、低DMRは、卵母細胞においてメチル化される領域と主として重複する。これらの領域での母系DNAメチル化は、特にIVF胚において8細胞期の前に脱メチル化過程を回避するように見える。8細胞期前のDNAメチル化の母系アレル特異的維持の根底にあるメカニズムが、将来的な研究の対象となる。まとめると、正常な受精により胚盤胞に受け継がれる配偶子形成の独特な特徴により、高いまたは低い、SCNT特異的DMRが形成されるように見える。受精により卵母細胞から胚に渡された母系DNAメチル化は、初期栄養膜発生に重要な役割を演じることが示されている(Branco et al., Dev. Cell 36, 152-163, 2016)。したがって、SCNT胚盤胞における卵母細胞様DNAメチル化パターンの欠如は、SCNT胚の発生表現型の一因になり得る。
【0178】
本明細書に報告されるように、DNAメチル化インプリント遺伝子のDNAメチル化およびトランスクリプトーム解析により、大部分のICRがそれらの正常なインプリンティング状態を主として維持すること、および大部分の古典的インプリント遺伝子が実際にSCNT胚盤胞においてアレル発現パターンを維持することが明らかになった。対照的に、最近発見されたH3K27me3媒介非古典的インプリント遺伝子(Inoue et al., 2017)は、SCNT胚盤胞において完全に調節不全にされ、両アレル発現を示す。SCNT胚盤胞の調節不全にされた非古典的インプリント遺伝子のリストは、Slc38a4、Sfmbt2およびGab1を含んでいたが、これは、E13.5 SCNT胚の胎盤におけるこれらの3つの遺伝子のインプリント消失(LOI)の以前の報告と一致する(Okae et al., Hum. Mol. Genet. 23, 992-1001, 2014)。3つの遺伝子のすべてが胎盤の成長に重要な役割を演じることが示されていることを考えると、これらの遺伝子のLOIは、SCNT胚の胎盤過成長表現型の一因となる可能性がある。そのうえ、Runx1、Otx2およびEtv6は、マウス初期胚発生に重要な役割を果たすことが示されており、したがって、胚盤胞期でのこれらの遺伝子のLOIは、着床後SCNT胚の胚性致死表現型の一因となり得る。SCNTにおける非古典的インプリント遺伝子のLOIの原因は、ドナー体細胞におけるこれらの遺伝子座でのH3K27me3の非存在に起因する可能性がもっとも高い。H3K27me3インプリント遺伝子の調節メカニズムに対するさらなる詳細な分析は、SCNT胚発生を改善する手がかりを与えるであろう。
【0179】
要約すると、Kdm4d mRNA注入をXist KOドナー細胞の使用と組み合わせることによる、もっとも効率的なマウスクローニング方法を樹立したことに加えて、効率的な動物クローニングを阻止する潜在的バリアとしてのH3K27me3インプリンティングを明らかにした。理論に縛られることを意図しないが、本研究において同定された異常なDNAメチル化の潜在的寄与の可能性を排除できないものの、マウスSCNT胚盤胞におけるH3K27me3依存性インプリント遺伝子でのLOIと、胚発生におけるそれらの重要な機能との明確な関連に基づき、H3K27me3インプリント遺伝子のLOIがSCNT胚の着床後表現型の原因である可能性がもっとも高い。SCNT胚における着床後発生の欠損および異常な胎盤表現型が哺乳動物種に一般に観察されることを考えると、他の種のクローン胚におけるH3K27me3依存性インプリンティング状態の研究は、将来的な研究を正当化し得る。
【0180】
記載される結果は、以下の方法および材料を用いて得られたものである。
【0181】
PN5期接合子からの母系および父系前核の単離
ハーバードメディカルスクールの動物実験委員会のガイドラインに従ってすべての動物実験を行った。7.5I.U.のPMSG(Millipore)およびhCG(Millipore)を注入することによって過剰排卵させた8週齢B6D2F1/J(BDF1)雌からMII期卵母細胞を収集した。インビトロ受精(IVF)のために、10mg/mlウシ血清アルブミン(BSA;Sigma-Aldrich)を補充したHTF培地中の成BDF1雄性マウスの精巣上体尾部から得られる活性化精子とMII卵母細胞を受精させた。HTF培地中で1時間インキュベートすることによって精子の受精能獲得を果たした。5% CO2/95%空気を有する37.8℃の加湿雰囲気中で接合子を培養した。受精後10時間(hpf)で、10μg/mlサイトカラシンB(Sigma-Aldrich)を含有するM2培地中に接合子を移した。ピエゾインパクト駆動マイクロマニピュレーター(Prime Tech Ltd., Ibaraki, Japan)により透明帯を切開し、接合子から前核を単離した。12hpf(PN5期)で、単離した前核を0.2% BSA/PBSで洗浄し、Eppendorf LoBind 1.5mlチューブに移し、DNase I処置まで氷上に置いた。各実験について、150~200個の前核を収集し、liDNase-seqのために調製した。親の前核は、(1)二次極体からの距離および(2)前核のサイズによって識別した。
【0182】
雄核発生(AG)胚および雌核発生(GG)胚の調製
8週齢過剰排卵BDF1雌からMII卵母細胞を収集し、BDF1精子と受精させた。7hpfで、5μg/mlサイトカラシンBを含有するM2培地に接合子を移し、ピエゾインパクト駆動マイクロマニピュレーターを使用して親の前核を置き換えた。以前に記載されたように核体を細胞質と融合するためにセンダイウイルス(HVJ, Cosmo-bio)を使用した。再構成後、胚をKSOM中で培養した。
【0183】
RNA-seqまたは/およびliDNase-seqのために胚を収集する場合、酸性タイロード液(Sigma-Aldrich)への短時間暴露により透明帯(ZP)を除去し、次いで胚をM2培地の次に0.2% BSA/PBSで洗浄した。liDNase-seqのために、10個の桑実胚をEppendorf LoBind 1.5mlチューブに移し、DNase I処理まで氷上に置いた。RNA-seqのために、7~10個の胚を薄壁RNase不含PCRチュ-ブ(Ambion)に移した。2細胞期胚および桑実胚をそれぞれ30および78hpfで収集した。α-アマニチン処理2細胞期胚を調製する場合、25μg/ml α-アマニチン(Sigma-Aldrich)を含有するKSOM中に5つのhpf接合子を移し、収集(30hpf)までα-アマニチンの存在下で培養した。ICMおよびTEを単離した。簡潔には、120hpiのAG胚およびGG胚を酸性タイロード液で処理してZPを除去した。M2培地中で洗浄後、ウサギ抗マウスリンパ球血清(Cedarlane, 1:8希釈)を含有するKSOM中で胚を37℃で45分間インキュベートした。M2培地中で洗浄後、それらをモルモット補体(MP Biomedicals, 1:3.3希釈)を含有するKSOM中に移した。37℃で30分間インキュベーション後、ガラスキャピラリーでピペッティングすることによって、溶解TE細胞を除去した。残ったICM塊を0.25%トリプシン/EDTA(Thermo Fisher, 25200)中、37℃で10分間インキュベートし、次いで単一細胞に解離させて、溶解TE細胞の混入を回避した。100~200個の細胞をRNA-seqのために収集した。
【0184】
十分に成長した卵母細胞からのGV核の単離
5I.U.のPMSGを注入してから44~48時間後の3週齢BDF1マウスから、十分に成長したGV期卵母細胞を得た。卵巣をM2培地に移した。30ゲージ針で卵胞を穿刺し、口径の狭いガラスピペットを使用して卵丘細胞-卵母細胞複合体から卵丘細胞を優しく除去した。次いで、5%ウシ胎児血清(FBS)(Sigma-Aldrich, F0926)、10ng/ml上皮増殖因子(Sigma-Aldrich, E4127)、および0.2mM 3-イソブチル-1-メチルキサンチン(IBMX; Sigma-Aldrich)を補充したα-MEM(Life technologies, 12571-063)中に卵母細胞を移した。収集の1時間後に、核小体を取り囲む(SN)型のクロマチンを有する視認可能な囲卵腔を示しているGV卵母細胞を選別した。次いで、10μg/mlサイトカラシンB、0.1μg/mlコルセミド(Sigma-Aldrich)、および0.2mM IBMXを含有するM2培地中でそれらを15分間インキュベートした。次いで、ピエゾ駆動マイクロマニピュレーターを使用することによってGV核を単離した。0.2% BSA/PBSで洗浄後、Eppendorf LoBind 1.5mlチューブにGV核を移した。各実験について、liDNase-seqのために115~150個のGV核を収集した。
【0185】
E6.5胚の解剖およびGFP陽性E9.5胎盤細胞のFACS選別
C57BL6(B6)/PWK雑種胚を得るために、自然交配スキームを用いた。PWK/B6雑種胚を得るために、PWK卵母細胞とB6精子とのインビトロ受精を用い、2細胞期胚を代理ICR系統母に移植した。E6.5胚のEPI、EXE、およびVEへの解剖を行った。E9.5胎盤細胞を収集するために、Jackson laboratoryからB6GFPマウスを購入した[C57BL/6-Tg(CAG-EGFP)131Osb/LeySopJ, Stock number 006567]。過剰排卵させた8週齢B6GFPまたはPWKマウスからMII卵母細胞および精子を収集した。インビトロ受精後、2細胞期胚を代理ICR系統母に移植した。E9.5に、胎盤を回収し、約0.5mmの小片になるように切り、50mlチューブに移し、200rpmのシェーカー中で0.25%トリプシン-EDTA(Thermo Fisher Scientific, 25200)2mlにより30℃で15分間処理して、胎盤細胞を解離させた。10% FBSを含有するDMEM 2mlの添加によりトリプシン処置を止めた。ピペッティング後に、チューブを遠心分離し、ペレット化した細胞を0.2% BSA/PBSで3回洗浄した。最終細胞懸濁液中に柊濃度1μMとなるようにDAPIを添加した。BD FACSaria機(BD Biosciences)を用いてGFP陽性細胞を選別し、DAPI陽性細胞は死細胞として除外した。約10,000~20,000個のGFP陽性細胞を各胎盤から収集し、これは、総胎盤細胞の40~60%に相当した。
【0186】
プラスミドの構築およびmRNAの調製
Kdm6bWT構築物を生成するために、触媒ドメインを含有するカルボキシル末端部(アミノ酸1025~終末)をコードするcDNAを増幅した。pcDNA3.1-Flag-poly(A)83プラスミドのFlagタグとポリ(A)との間にPCRアンプリコンをクローニングした。PrimeSTAR変異誘発(TAKARA)を用いることによってH1390A Kdm6bMUT構築物を生成した。変異誘発のために使用されるプライマーは、
である。すべての構築物をDNAシーケンシングによって検証した。野生型およびH189A変異型Kdm4dについてのプラスミドは、以前に記載されたものである。
【0187】
制限酵素による線状化の後、フェノール-クロロホルム抽出により構築物を精製した。mMESSAGEmMACHINE T7 Ultra Kit(Life technologies)を製造業者の説明書に従って使用してmRNAをインビトロ転写により合成した。合成されたmRNAを塩化リチウム沈殿により精製し、ヌクレアーゼ不含水で希釈した。使用までmRNAのアリコートを-80℃で保存した。
【0188】
mRNAの注入
過剰排卵した8週齢BDF1雌からMII卵母細胞を収集し、BDF1精子と受精させた。2.5hpfに、受精卵母細胞をM2培地に移し、ピエゾインパクト駆動マイクロマニピュレーターを使用してmRNAを注入した。mRNA注入を4hpfまでに完了した。Kdm6bWTおよびKdm6bMUTのmRNA濃度は1.8μg/μlであり、Kdm4dWTおよびKdm4dMUTの濃度は1.5μg/μlであった。Kdm6bが注入されたPG胚を調製する場合、5μg/mlサイトカラシンBを含有するCa2+不含KSOM中に3mMのSrCl2で処理することによって、MII卵母細胞を化学的に活性化させた。活性化の4時間後(hpa)に、胚をKSOMで洗浄した。5hpaでそれらにmRNAを注入した。
【0189】
ホールマウント免疫染色
0.2%トリトン含有PBS中の3.7%パラホルムアルデヒド(PFA)中に接合子を入れて20分間固定した。10mg/ml BSA含有PBS(PBS/BSA)で4回洗浄後、接合子を一次抗体により4℃で一晩処理した。本研究に使用した一次抗体は、マウス抗H3K27me3(1/500, Active Motif, 61017)、ウサギ抗H3K9me3(1/500, Millipore, 07-442)、およびウサギ抗FLAG(1/2000, Sigma-Aldrich, F7524)であった。PBS/BSAで3回洗浄後、フルオレセインイソチオシアネート-コンジュゲート型抗マウスIgG(Jackson Immuno-Research)またはAlexa Flour 568ロバ抗ウサギIgG(Life technologies)の1:250希釈物と共に試料を1時間インキュベートした。次いで、4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)を有するVectashieldアンチブリーチング溶液(Vector Laboratories, Burlingame, CA)中で接合子をガラススライド上にマウントした。回転盤およびEM-CCDカメラ(ImagEM, Hamamatsu)またはZeiss LSM800を備えるレーザー走査型共焦点顕微鏡(CSU-10, Yokogawa)で蛍光を検出した。
【0190】
すべての画像を取得し、Axiovisionソフトウェア(Carl Zeiss)を用いて解析した。Axiovisionソフトウェアを用いて蛍光シグナル強度を定量した。簡潔には、母系前核内のシグナル強度を決定し、細胞質シグナルをバックグラウンドとして差し引いた。次いで、注入なしの対照接合子の平均シグナルを1.0に設定した。
【0191】
低インプットDNase-seq
少ない修飾を有する低インプットDNase-seqライブラリーを、以前に記載されたように調製した。1.5mlチューブに収集した胚または核を溶解緩衝液(10mM トリス-HCl、pH7.5、10mM NaCl、3mM MgCl2、0.1% Triton X-100)36μl中に再懸濁し、氷上で5分間インキュベートした。DNase I(10U/μl, Roche)を終濃度80U/ml(GV核試料用)または40U/ml(その他すべての試料用)になるよう添加し、37℃で正確に5分間インキュベートした。プロテイナーゼK(20mg/ml, Life technologies)2μlを含有する停止緩衝液(10mMトリス-HCl、pH 7.5、10mM NaCl、0.15% SDS、10mM EDTA)80μlを添加することによって反応を停止させた。次いで、環状担体DNA[低分子DNAフラグメントを除去するために0.5×Beckman SPRIselectビーズ(Beckman Coulter)を用いて精製された、いかなる哺乳動物遺伝子も有しない純粋なプラスミドDNA]20ngを添加した。混合物を50℃で1時間インキュベートし、次いでフェノール-クロロホルムを用いた抽出によってDNAを精製し、直鎖状アクリルアミド(Life technologies)の存在下でエタノールにより-20℃で一晩沈殿させた。沈殿したDNAをTE(2.5mMトリス、pH7.6、0.05mM EDTA)50μl中に再懸濁し、シーケンシングライブラリーの構築のために全体積を使用した。
【0192】
ライゲーション反応において0.03μMアダプターを用いてアダプターのライゲーションを20℃で30分間行ったこと、およびKapa Hifi hotstart readymix(Kapa Biosystems)を使用してPCR増幅を8サイクル行ったことを除き、NEBNext Ultra II DNA Library Prep Kit for Illumina(New England Biolabs)を製造業者の説明書に従って使用して、シーケンシングライブラリーを調製した。×1.3体積のSPRIselectビーズ(Beckman Coulter)を用いてPCR産物を精製し、次いで×0.65体積に続いて×0.7体積のSPRIselectビーズを用いてサイズ選択した。TE 24μl中に試料を溶出させた。第2のPCR増幅のために必要なサイクル数は、1:1,000に希釈した試料1μlを使用するqPCRによって決定した。次いでKapa Hifi hotstart readymixを用いて残りの試料23μlを増幅させた(本発明者らは、本研究のすべての試料について7回のサイクルを用いた)。×1.3体積のSPRIselectビーズを用いてPCR産物を精製し、次いで×0.65体積に続く×0.7体積のSPRIselectビーズを用いてサイズ選択した。TE 30μl中にDNAを溶出させ、Qubit dsDNA HSアッセイキット(Thermo Fisher Scientific, Q32854)およびAgilent高感度アッセイキット(Agilent Technologies)によって定量した。シングルエンド100bpリードを有するHiseq2500(Illumina)でライブラリーをシーケンシングした。
【0193】
RNAシーケンシング
以前に記載されたようにRNA-seqライブラリーを調製した。簡潔には、全胚溶解物を使用してSMARTer Ultra Low Input RNA cDNA調製キット(Clontech, 634890)で逆転写およびcDNA増幅を行った。2細胞期AG、GGおよびα-アマニチン処理IVF胚試料を加工する場合、細胞溶解の段階で1:40,000に希釈したERCC(External RNA Controls Consortium)標準RNA(Life technologies)1μlを各チューブに添加した。次いでmicroTUBE-50(Covaris)を備えるCovaris M220超音波処理器(Covaris)を使用してcDNAを平均150~160bpのフラグメントにフラグメント化した。フラグメント化したcDNAを末端修復し、アダプターを連結し、NEBNext Ultra DNA Library Prep Kit for Illuminaを製造業者の説明書(New England Biolabs)に従って使用して増幅させた。HiSeq2500シーケンサー(Illumina)によりシングルエンド100bpシーケンシングを行った。
【0194】
liDNase-seqデータ解析
最初にtrim_galoreを用いてliDNase-seqデータのリードから低クオリティー配列およびアダプター配列をトリミングし、次いでユニークマッピングヒットを保持するために、Bowtie v0.12.9.「-m1」パラメーターを用いてマウスゲノム(mm9)にマッピングした。SAMtoolsを用いてマッピング品質(MAPQ)≦10を有するリードまたは同じ方向性で同じ位置にマッピングされた重複リードを排除した。FDR≦0.01を用いるHotspotプログラムによりliDNase-seqデータにおけるDHSピークを同定した。bedtoolsから「bedtools merge」を用いて全部で33個のライブラリーからのDHSピークをマージした。deepToolsからの「multiBamSummary」を用いて各ライブラリーについて各DHSにおけるリードの数を計算し、マッピングされたリードの総数およびDHSの長さに対して正規化した(タグがマッピングされたリード100万個あたりの1kbあたりの位置に置かれる確率)。性染色体の数は親の前核同士および雄核発生胚と雌核発生胚との間で異なるので、性染色体のリードを除いた。ゲノムワイドDHSでのタグ密度のピアソン相関係数(r)を計算して反復データ(replicate)間の相関を測定した。接合子および桑実胚における親アレル特異的DHSの同定のために、ストリンジェントなカットオフを使用した(バイアスがかかったアレルにおいてすべての反復データで平均RPKM>2、RPKM>1、および2つのアレルの間で4よりも大きい平均値変化倍率)。追加的な基準「微量注入した接合子の父系PNのすべての複製物においてRPKM>1」をPs-DHSに適用することによって、431個のもっとも信頼できるPs-DHSを同定した。UCSC Genome BrowserデータベースからのRefSeq遺伝子アセンブリ(mm9)および以前に定義されたCGIを図2Dおよび2Eにおけるゲノム特徴分布解析として使用した。
【0195】
RNA-seqデータ解析
マウスゲノム(mm9)をERCC対照と組み合わせるカスタム参照配列を構築した。TopHat v2.0.6またはSTAR(github.com/alexdobin/STAR)を用いてRNA-seqのリードを参照ゲノムにマッピングした。特に記載しないかぎり、デフォルトのパラメーターを用いてすべてのプログラムを実行した。その後、独特にマッピングされたリードを、subread-v1.5.1からfeatureCountsを用いて参照アノテーション(UCSC遺伝子モデル)によりガイドされる転写物にアセンブルした。すべての2細胞期RNA-seqライブラリーについて、ライブラリーサイズの要因を、ERCCリードカウントだけを用いてRパッケージDESeqからの「estimateSizeFactors」関数により推定した。ライブラリーのサイズを正規化した後、正規化されたFPKM(マッピングされたフラグメント100万個あたりのエクソンのキロ塩基あたりのフラグメント数)を用いて各遺伝子の発現レベルを定量した。遺伝子発現レベルのピアソン相関係数(r)を計算して、二つ組の間の相関を示した。2細胞期の新たに合成された転写物の同定のために、AGまたはGGとα-アマニチン処理2細胞期胚との間で統計的に有意でない遺伝子をフィルタリングした。このために、負の二項モデルを使用してR pakage DESeqからの「nbinomTest」関数により調整されたP値を計算し、FDR<0.05を有する遺伝子だけを選択した。次いで、追加的なカットオフ[平均FPKM(AGまたはGG)>2および変化倍率(FC)(AG/AmaまたはGG/Ama)>2]を適用した。結果として4,381個および3,916個の遺伝子を、それぞれAGおよびGG 2細胞期胚における新たに合成された遺伝子として同定した。2細胞期胚におけるAGおよびGG特異的DEGを同定するために、α-アマニチン2細胞期胚における各遺伝子の遺伝子発現レベル(FPKM)をAGおよびGG胚の発現レベルから差し引いた。FC(AG/GGまたはGG/AG)>10を示している遺伝子をDEGとして同定した。
【0196】
WGBSおよびH3K27me3 ChIP-seqデータ解析
methpipe v3.4.2を用いてDHSでのDNAメチル化レベルを計算した。各DHSでのDNAメチル化レベルを計算する場合、WGBSリードを十分にカバーするために、 各DHSを2kbの上流および下流の両方に伸ばして、より近いCpG部位を含ませた。卵母細胞-メチル化gDMRを、卵母細胞において>80%のメチル化および精子において<20%と定義した。図5Aについて、「bedtools makewindows」を用いてPs-DHSの±100kbフランキング領域について重複しない1kbのビンのセットを生成した。H3K27me3 ChIP-seq解析について、Zheng et al., 2016からベッドファイルをダウンロードし、UCSC Genome Browserデータベースからの「bedClip」および「bedGraphToBigWig」を用いてbigWig形式に変換した。deepToolsからの「multiBigwigSummary」を用いてDHSおよび周辺領域にわたりH3K27me3シグナルを算出した。
【0197】
統計解析およびデータの表示
R(www.r-project.org/)を用いて統計解析を行った。「cor」関数をデフォルトのパラメーターで使用してピアソンのr係数を計算した。R関数「heatmap.2」を用いて図6Bおよび10Dを作成した。R関数「pheatmap」を用いて図7D、10C、12A~12Dを作成した。deepTools中の「computeMatrix」および「plotHeatmap」関数を用いて図1Bおよび7Bを作成した。macs2 v2.1.0を用いてライブラリー中のユニークなマッピングリードの総数に対して正規化することによってシーケンシングリードによるゲノムの位置毎のカバレッジを決定し、IGVゲノムブラウザーにカスタムトラックとして表示した。
【0198】
公知のインプリント遺伝子情報
www.geneimprint.com/site/genes-by-species.Mus+musculusから公知のインプリンティング情報をダウンロードした。
【0199】
コードの入手性
SNP情報に基づきハイブリッドRNA-seqデータをそれらの親起源に分割するために、カスタマイズされたパイプラインを使用した。コードは、github.com/lanjiangboston/UniversalSNPsplitに見出すことができる。
【0200】
データの入手性の記述
本研究において生成されたすべてのliDNase-seqおよびRNA-seqデータセットは、GEOデータベースにアクセッション番号GSE92605で寄託された。精子liDNase-seqデータベースは、以前の発表(GSE76642)からのものであった。精子およびGV卵母細胞についてのWGBSデータセットをwww.nodai-genome.org/mouse.html?lang=enからダウンロードした。精子、MII卵母細胞、ならびに1細胞期胚のSNPトラックされた母系および父系アレルのH3K27me3 ChIP-seqデータセットを以前の発表(GSE76687)からダウンロードした。
【0201】
マウス着床前胚の収集
ハーバードメディカルスクールの動物実験委員会のガイドラインに従ってすべての動物実験を行った。7.5I.U.のPMSG(Millipore)およびhCG(Millipore)を注入することによって過剰排卵させた8週齢B6D2F1/J(BDF1)雌からMII期卵母細胞を収集した。インビトロ受精(IVF)のために、10mg/mlウシ血清アルブミン(BSA;Sigma-Aldrich)を補充したHTF培地中の成BDF1またはPWK(Jackson Laboratory, 003715)雄の精巣上体尾部から得られる活性化精子とMII卵母細胞を受精させた。HTF培地中で1時間インキュベートすることによって精子の受精能獲得を果たした。接合子をKSOMに移し、5% CO2/95%空気を有する37.8℃の加湿雰囲気中で培養した。
【0202】
mRNAの注入
受精の4時間後(hpf)に、M2培地中に接合子を移し、ピエゾインパクト駆動マイクロマニピュレーター(Prime Tech Ltd., Ibaraki, Japan)を使用してmRNAを注入した。mRNAの構築および調製は、上に記載したものであった。Kdm6bWTおよびKdm6bMUTの注入されたmRNAの濃度は1.8μg/μlであり、Kdm4dWTおよびKdm4dMUTの注入されたmRNAの濃度は1.5μg/μlであった。
【0203】
蛍光インサイチューハイブリダイゼーション用のプローブ
Nick翻訳試薬キット(Abbott Molecular, 07J00-001)をCy3-dCTP(GE healthcare, PA53021)と共に製造業者の説明書に従って使用することによって、Xist RNA用のプローブを調製した。プローブ調製のために使用される鋳型DNAは、完全長マウスXist遺伝子をコードするプラスミドであり、Rudolf Jaenischから贈られたものであった(pCMV-Xist-PA, 26760)(Wutz and Jaenisch, 2000)。同じキットをGreen-dUTP(Abbott Molecular, 02N32-050)と共に用いてDNA FISH用のプローブを調製した。鋳型DNAは、Rnf12遺伝子座(RP23-36C20)を含有するBACクローンであった。蛍光プローブを、Cot-1DNA (Life technologies)5μg、ニシン精子DNA(Thermo Fisher Scientific)5μg、および酵母tRNA(Thermo Fisher Scientific, AM7119)2.5μgと共にエタノール沈殿し、次いでホルムアミド(Thermo Fisher Scientific, 17899)20μlを用いて溶解させた。プローブを4℃で保存した。使用前に、エタノール沈殿されており、ホルムアミド中に溶解されたCot-1 DNA 0.75μlおよび4×SSC/20%デキストラン(Millipore S4030)2.25μlとプローブ(それぞれ0.75μl)を混合した。プローブ混合物を80℃で30分間加熱し、次いで37℃インキュベーターに移した(「アニーリング前のプローブ」)。
【0204】
ホールマウントRNA/DNA蛍光インサイチューハイブリダイゼーション
0.5% Triton X-100を含有するPBS中に2%のパラホルムアルデヒド(PFA)の中で78hpfの桑実胚を室温で20分間固定した。1mg/ml BSAを含有するPBS(PBS/BSA)で3回洗浄後、0.02% Triton X-100を含有する0.1N HClで胚を4℃で15分間処理した。0.1% BSAを含有する2×SSCで3回洗浄後、ガラス皿(Electron Microscopy Science, 705430-30)の中の10%ホルムアミド/2×SSC 15μl中で胚をインキュベートした。優しくピペッティングすることによって、すべての胚は沈み、ガラス皿の底に付着した。5分後、30%ホルムアミド/2×SSC 15μlを添加した。5分後に、60%ホルムアミド/2×SSC 90μlを添加して、ホルムアミドの終濃度50%にし、胚を室温で追加的に30分間インキュベートした。胚を含有するホルムアミド溶液を鉱物油でカバーした。試料を80℃で30分間加熱し、次いで37℃インキュベーターに少なくとも30分間移した。胚をガラスピペットの中に釣り上げ、別のガラス皿上の鉱物油でカバーされた「アニーリング前のプローブ」4.5μlに移し、37℃で少なくとも24時間インキュベートした。0.1% BSAを含有する予温(42℃)した2×SSCで胚を洗浄し、最後の1滴の中に30分間放置した。1% BSA/PBSで3回洗浄した後、それらを4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)を有するVectashieldアンチブリーチング溶液(Vector Laboratories, Burlingame, CA)中でガラススライド上にマウントした。レーザー走査型共焦点顕微鏡(Zeiss LSM800)で蛍光を検出した。
【0205】
ホールマウント免疫染色
免疫染色および定量の手順は、上述されたものである。
【0206】
母系アレルにバイアスがかかったH3K27me3のコンピューターによる同定
内細胞塊(ICM)におけるH3K27me3 ChIP-seqについて100bpのビンでRPKM値を含むBedファイルをGEOから番号GSE76687でダウンロードした。Bedファイルを2つの親アレルについての母系または父系含有RPKM値と標識し、アレルリードを総リード数に対して正規化した。「bedtools makewindows」を用いて、mm9ゲノムについて1000bpのビンを生成し、次いで「bedtools map」により各ビンについてRPKM値を計算した。シグナルカットオフ1および変化倍率カットオフ4を使用して、すべてのビンをシグナルなし、両アレル、母系バイアスの3つのカテゴリーに分類する。スライディングウインドウアプローチを用いて、ウインドウサイズ20kb、最小ビン数3および母系にバイアスがかかったH3K27me3ビンが50%超という基準で母系にバイアスがかかったH3K27me3ビンを含有するウインドウを同定した。「bedtools merge」を用いて重複したウインドウをマージした。ゲノムから合計5986個のウインドウを同定した。
【0207】
RNAシーケンシング
少ない修飾を有するRNA-seqライブラリーを上記のように調製した。簡潔には、SMARTer Ultra Low Input RNA cDNA調製キット(Clontech, 634890)により全胚溶解物を使用して逆転写およびcDNA増幅を行った。次いでNextera XT DNAライブラリー調製キット(Illumina)を用いたTagmentationを使用してcDNAをフラグメント化した。Nextera PCRマスターミックスを製造業者の説明書に従って使用して、フラグメント化されたcDNAを増幅した。HiSeq2500シーケンサー(Illumina)を用いてシングルエンド100bpシーケンシングを行った。
【0208】
RNA-seqデータ解析
STAR(github.com/alexdobin/STAR)を用いてRNA-seqのリードを参照ゲノムにマッピングした。特に記載しないかぎり、デフォルトのパラメーターを用いてすべてのプログラムを実行した。その後、独特にマッピングされたリードを、サブリード-v1.5.1からfeatureCountsを用いて参照アノテーション(UCSC遺伝子モデル)によってガイドされる転写物にアセンブルした。ライブラリーのサイズを正規化した後、正規化されたFPKM(マッピングされたフラグメント100万個あたりのエクソンのキロ塩基あたりのフラグメント数)を用いて各遺伝子の発現レベルを定量した。遺伝子発現レベルのピアソン相関係数(r)を計算して、二つ組の間の相関を示した。
【0209】
R(www.r-project.org/)を用いて統計解析を行った。「cor」関数をデフォルトのパラメーターで使用してピアソンのr係数を計算した。
【0210】
コードの入手性
SNP情報に基づきハイブリッドRNA-seqデータをそれらの親起源に分割するために、カスタマイズされたパイプラインを使用した。コードは、github.com/lanjiangboston/UniversalSNPsplitに見出すことができる。
【0211】
データの入手性
本研究において生成されたRNA-seqデータセットは、GEOデータベースにアクセッション番号GSEXXXXXで寄託された。GV卵母細胞についてのWGBSデータセットをwww.nodai-genome.org/mouse.html?lang=enからダウンロードした。同じ100bpビンからのWGBSリードを一緒にプールして、平均メチル化レベルを計算し、10個のリードの最小カバレッジが必要であった。精子、MII卵母細胞、ならびに1細胞期胚、2細胞期胚、および胚盤胞胚の内細胞塊のSNPでトラックされた母系および父系アレルのH3K27me3 ChIP-seqデータセットを以前の研究(GSE76687)からダウンロードした。卵母細胞DNaseI-seqデータセットは、上記(GSE92605)からのものであった。
【0212】
マウス
SCNTのためのレシピエント卵母細胞の収集のためにB6D2F1/J(BDF1)マウスを使用した。マウス胚性線維芽細胞(MEF)の細胞調製のために、129S1/SvImjバックグラウンドで維持されたXist KO雌性マウス(Marahrens et al., 1997)をCAST/EiJ雄と交配し、129/CAST F1バックグラウンドのXistヘテロ接合性KO胚を生成した。卵丘細胞およびセルトリ細胞の調製のために、C57BL/6NバックグラウンドのXist KO雌マウス(Sado et al., 2005)をDBA/2N雄と交配して、BDF1バックグラウンドのXistヘテロ接合性KO胚を生成した。すべての動物実験は、ハーバードメディカルスクールおよび理化学研究所筑波研究所の動物実験委員会によって承認された。
【0213】
ドナー細胞の調製
13.5dpcのXist KO雄性マウス胚から初代MEF細胞を得た。頭およびすべての器官を除いた後、残りの体から細切した組織を、1mM EDTA(Thermo Fisher Scientific # 25200056)を有する0.25%トリプシン500μl中、37℃で10分間解離させた。細胞懸濁物を、10% FBSおよびペニシリン/ストレプトマイシン(Thermo Fisher Scientific # 15140-022)を含有する等量のDMEM(Thermo Fisher Scientific # 11995-073)で希釈し、ピペットで20回吸い上げおよび排出した。新鮮培地で細胞懸濁物を希釈し、100mm皿に蒔き、37℃で培養した。2日後に、MEF細胞を回収し、凍結した。MEF細胞の凍結貯蔵物を解凍し、1回継代後に実験に使用した。
【0214】
妊馬血清性性腺刺激ホルモン(PMSG; Millipore # 367222)7.5IUおよびヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG; Millipore # 230734)7.5IUを注入することによる過剰排卵を介して野生型(WT)およびXistヘテロ接合性KO成体雌(RIKEN BioResource Center, RBRC01260)から卵丘細胞を収集した。hCG注入の15~17時間後に、卵管から卵丘-卵母細胞複合体(COC)を収集し、300U/mlウシ精巣ヒアルロニダーゼ(Calbiochem # 385931)を含有するHepes緩衝カリウムシンプレックス最適化培地(KSOM)で短時間処理して、解離した卵丘細胞を得た。
【0215】
記載されたように(Matoba et al., 2011)、3~5日齢WTまたはXist KO雄性マウスの精巣からセルトリ細胞を収集した。0.1mg/mlコラゲナーゼ(Thermo Fisher Scientific # 17104-019)を含有するPBS中で精巣塊を37℃で30分間インキュベートし、続いて1mM EDTAを有する0.25%トリプシンで室温にて5分間処理した。3mg/mlウシ血清アルブミンを含有するPBSで4回洗浄後、解離した細胞をHepes-KSOM培地中に懸濁した。
【0216】
Kdm4d mRNAの合成
以前に記載されたように(Matoba et al., 2014)、Kdm4d mRNAをインビトロ転写(IVT)によって合成した。簡潔には、完全長マウスKdm4dに続いてポリ(A)83を含むpcDNA3.1プラスミド(Addgene # 61553)をXbaIによって線状化した。精製後、線状化されたプラスミド DNAをmMESSAGEmMACHINE T7 Ultra Kit(Thermo Fisher Scientific # AM1345)を用いたIVTのための鋳型として使用した。合成されたmRNAをヌクレアーゼ不含水に溶解し、NanoDrop ND-1000分光光度計(NanoDrop Technologies)によって定量した。mRNAを1500ng/μlに希釈した後、アリコートを-80℃で保存した。
【0217】
SCNT
以前に記載されたようにマウス体細胞核移植を行った(Matoba et al., 2014; Ogura et al., 2000)。簡潔には、PMSG 7.5IUおよびhCG 7.5IUを注入することによる過剰排卵を介して成BDF1雌マウスからレシピエントMII卵母細胞を収集した。hCG注入の15~17時間後に、卵丘-卵母細胞複合体(COC)を卵管から収集し、300U/mlウシ精巣ヒアルロニダーゼを含有するHepes-KSOMで短時間処理してMII卵母細胞を得た、ピエゾ駆動マイクロマニピュレーター(Primetech # PMM-150FU)を使用することによって、7.5μg/mlサイトカラシンB(Calbiochem # 250233)を含有するHepes緩衝KSOM培地中で、単離されたMII卵母細胞を除核した。卵丘細胞またはセルトリ細胞の核を除核卵母細胞に注入した。不活性化センダイウイルスエンベロープ(GenomOne CF; Ishihara Sangyo #CF001)によってMEF細胞を除核卵母細胞と融合させた。KSOM中で1時間インキュベーション後、3mM塩化ストロンチウム(SrCl2)および5μg/mlサイトカラシンBを含有するCa不含KSOM中で1時間インキュベートし、5μg/mlサイトカラシンBを有するKSOM中でさらに4時間培養することによって、再構成されたSCNT卵母細胞を活性化した。活性化SCNT胚をSrCl2処置の開始後5時間(活性化後の時間、hpa)で洗浄し、KSOM中に入れて5% CO2を有する加湿雰囲気中、37.8℃で培養した。5~6hpaにピエゾ駆動マイクロマニピュレーターを使用することによっていくつかのSCNT胚に1500ng/μl マウスKdm4d mRNA 約10plを注入した。
【0218】
胚移植
偽妊娠した(E0.5)ICR雌の卵管に2細胞期SCNT胚を移植した。分娩日(E19.5)に帝王切開により子を回収し、乳汁を分泌しているICR雌に授乳させた。胚の発生を調査するためにE4.5およびE10.5に何匹かの雌を屠殺した。
【0219】
胎盤の組織学的解析
E19.5の胎盤を4%パラホルムアルデヒド(PFA)中、4℃で一晩固定し、いつものようにパラフィン中に包埋した。連続切片(厚さ4μm)を過ヨウ素酸シッフ(PAS)染色に供した。
【0220】
胚盤胞におけるH3K27me3についての免疫染色
4%パラホルムアルデヒド(PFA)を用いて胚盤胞を室温で20分間固定した。10mg/ml BSAを含有するPBS(PBS/BSA)で洗浄後、固定した胚を0.5% Triton-X 100と共に15分インキュベートすることによって透過処理した。PBS/BSA中、室温で1時間ブロッキング後、ウサギ抗H3K27me3抗体(1/500, Millipore, 07-449)、ヤギ抗Oct4抗体(1/500, SantaCruz, sc-8628)およびマウス抗Cdx2抗体(1/100, BioGenex, AM392-5M)を含む一次抗体の混合物中、それらを4℃で一晩インキュベートした。PBS/BSAで3回洗浄後、フルオレセインイソチオシアネート-コンジュゲート型抗マウスIgG(1/400, Jackson Immuno-Research)、Alexa Flour 546ロバ抗ウサギIgG(1/400, Thermo Fisher Scientific)およびAlexa Flour 647ロバ抗ヤギIgG(1/400, Thermo Fisher Scientific)を含む二次抗体混合物と共に胚を室温で1時間インキュベートした。最後に、4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)を有するVectashield(Vector Laboratories # H-1200)を用いてそれらを封入した。レーザー走査型共焦点顕微鏡(Zeiss LSM510)およびEM-CCDカメラ(Hamamatsu ImagEM)を使用して蛍光シグナルを観察した。
【0221】
WGBS
初期胚盤胞期(受精または活性化の96時間後)のIVF胚およびSCNT胚を、EZ DNA Methylation-Direct Kit(Zymo Research, D5020)を使用してバイサルファイト変換に直接供した。IVFおよびSCNT試料を調製するためにそれぞれ39個および36個の胚を使用した。少量(0.01ng)の非メチル化ラムダDNA(Promega, D152A)を各試料に添加し、その後、バイサルファイト変換を行ってバイサルファイト変換効率を評価するための添加対照として役立てた。EpiGnome Methyl-Seqキット(Epicenter, EGMK81312)を製造業者の説明書に従って使用してシーケンシングライブラリーを調製した。12サイクルの間だけライブラリーを増幅し、次いでAgencourt AMPure XPビーズ(Beckman Coulter, A63880)を用いてそれらを精製した。PhiX添加対照を用いてHiSeq 2500シーケンサー(Illumina)で最終ライブラリーをリングルリード(100bp)シーケンシングに供した。
【0222】
RNA-seq
初期胚盤胞期(受精または活性化の96時間後)の6つのIVFまたはSCNT胚を直接溶解し、SMARTer Ultra Low Input RNA cDNA調製キット(Clontech, 634936)を使用してcDNA合成のために使用した。増幅後、Covaris M220超音波処理器(Covaris)を使用してcDNA試料をフラグメント化した。NEBNext Ultra DNA Library Prep Kit for Illumina(New England Biolabs, E7370)を製造業者の説明書に従って使用して、フラグメント化したcDNAを用いてシーケンシングライブラリーを作製した。HiSeq 2500シーケンサー(Illumina)でシングルリード50bpシーケンシングを行った。
【0223】
定量および統計解析
WGBSおよびRRBSデータ解析
trim_galoreを用いてWGBSおよび縮小表現バイサルファイトシーケンシング(reduced representation bisulfite sequencing)(RRBS)のリードを最初にトリミングして、低クオリティー配列およびアダプター配列を排除した。Bismark(バージョン0.15.0)を用いて、バイサルファイト変換参照ゲノム(mm9)に対してリードをアライメントした。bismark_methylation_extractorを用いて、アライメントしたリードからカバレッジ深度および各シトシンのメチル化レベルを抽出した。CpG部位についてメチル化レベルを計算する場合、両方の鎖からの情報を組み合わせ、少なくとも5つのリードのカバレッジが必要であった。methpipe(バージョン3.4.3)を用いてDMRを同定し、少なくとも10個のCpG部位および少なくとも10%のメチル化差を要するさらなるフィルタリングを行った。RのclusterProfiler(バージョン2.4.3)を用いてDMR関連遺伝子(すなわち、TSS±3kb領域内に位置するDMRを有する遺伝子)の機能的アノテーションを行った。公知のICRのアレル特異的メチル化解析のために、1つのICR内の検出されたすべてのCpGを一緒にプールしたが、さらなるメチル化比較のためには両方のアレルにおいて検出されたCpGのカバレッジが少なくとも5つ必要であった。
【0224】
RNA-seqデータ解析
TopHat(バージョン2.0.14)をパラメーター「--no-coverage-search --no-novel-juncs --library-type=fr-unstranded」で用いて、RNA-seqデータをマウスゲノム(mm9)に対してマッピングした。その後、一意的にマッピングされたリードを、Cufflinks(バージョン2.2.1)を用いて参照アノテーション(UCSC遺伝子モデル)によりガイドされる転写物にアセンブルした。各遺伝子の発現レベルを、正規化FPKM(マッピングされたフラグメント100万個あたりのエクソンのキロ塩基あたりのフラグメント数)を用いて定量した。遺伝子発現レベルのピアソン相関係数を計算して、二つ組の間の相関を示した。
【0225】
アレル特異解析
雑種WGBSおよびRNA-seqデータ(129S1/Svj×CAST/EiJ)をマウスゲノム(mm9)に対してマッピング後、カスタムのPerlスクリプトを使用して、マウスゲノムプロジェクトからダウンロードしたSNP情報(ftp://ftp-mouse.sanger.ac.uk/REL-1211-SNPs_Indels/)に基づき、マッピングされたリードをそれらの親起源と分割した。次いで、アレルのリードを個別に処理した。
【0226】
ChIP-seqおよびDIP-seqデータ解析
Bowtie(バージョン2.1.0)をパラメーター「-D 20 -R 3 -N 1 -L 20 -i S,1,0.50」で用いて、ダウンロードしたChIP-seqおよびDIP-seqリードをマウスゲノム(mm9)に対してマッピングして、最大で3つのミスマッチで一意的にマッピングされるリードだけを得た。ゲノムブラウザーにシグナルを表示するために、本発明者らは、一意的にマッピングされるリードを3'末端に向けて200bp延長し(同じゲノム位置に最大で2つのリードを保つ)、リードカウントを50bp間隔でビンにすることによって、MACS2(バージョン2.1.1)を用いて各データセットについてwig形式のトラックファイルを生成した。各ビンにおいて一意的にマッピングされた総リード数(百万リードあたりのリード、RPM)に対してタグカウントをさらに正規化した。deepToolからの「computeMatrix」プログラムを使用して、DMRまたはICRおよびそれらのフランキング領域にわたりChIP-seqおよびDIP-seqシグナルを算出した。
【0227】
統計解析およびデータの表示
R(バージョン3.4.1, http://www.r-project.org)を用いて統計解析およびプロットを実行した。「cor」関数をデフォルトのパラメーターで使用してピアソン相関係数を計算した。「t.test」関数をデフォルトのパラメーターで使用してスチューデントのt検定(両側、等分散)を行った。ChIP-seqシグナルおよびDNAメチル化レベルをIntegrative Genomics Viewerゲノムブラウザーにカスタムトラックとして表示した。
【0228】
データおよびソフトウェアの入手性
本研究において生成されたWGBSおよびRNA-seqデータセットは、Gene Expression Omnibus(GEO)にアクセッション番号GSE109214で寄託された。
【0229】
本研究に用いられる公表されたデータセット
着床前胚(2細胞期、4細胞期、およびICM)の母系および父系DNAメチル化をGSE56697から得た(Wang et al., 2014)。異なる細胞および体組織のRRBSデータをGSE11034およびGSE43719から得た(Soumillon et al., 2013)。GSE49847(Yue et al., 2014)およびGSE76687(Zheng et al., 2016)からH3K27me3 ChIP-seqデータを得た。PGC発生の間の5mCおよび5hmCのDIP-seqデータをSRP016940からダウンロードした(Hackett et al., 2013)。
【0230】
他の態様
前述の説明から、本明細書に記載される本発明を様々な利用および条件に適合させるために本発明に変更および修飾が行われる場合があることは明らかであろう。そのような態様また、以下の特許請求の範囲内でもある。
【0231】
本明細書における変数の任意の定義における要素の列挙の詳述は、任意の単一の要素または列挙された要素の組み合わせ(または部分組み合わせ)としてのその変数の定義を含む。本明細書における態様の詳述は、任意の単一の態様としての、または任意の他の態様もしくはその部分と組み合わせた、当該態様を含む。
【0232】
本明細書において言及されるすべての特許および刊行物は、各個別の特許および刊行物が参照により組み入れられると具体的かつ個別に示された場合と同じ程度に、参照により本明細書に組み入れられる。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図5G
図5H
図6A
図6B
図6C
図6D
図7A
図7B
図7C
図7D
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図8F
【配列表】
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