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特許7522042色素沈着皮膚モデルおよびその製造方法、ならびに皮膚の色素沈着を治療または予防するための因子の評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】色素沈着皮膚モデルおよびその製造方法、ならびに皮膚の色素沈着を治療または予防するための因子の評価方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20240717BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20240717BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20240717BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
C12N5/071
C12Q1/02
C12M1/00 A
C12M1/34 A
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020557877
(86)(22)【出願日】2019-11-29
(86)【国際出願番号】 JP2019046886
(87)【国際公開番号】W WO2020111265
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2022-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2018226024
(32)【優先日】2018-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100197169
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 潤二
(72)【発明者】
【氏名】山田 章子
(72)【発明者】
【氏名】小出 さやか
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 雅哉
(72)【発明者】
【氏名】相馬 勤
(72)【発明者】
【氏名】福村 健太
【審査官】鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-219491(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0264682(US,A1)
【文献】特表2010-502175(JP,A)
【文献】特開2010-172240(JP,A)
【文献】国際公開第2012/153815(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/061168(WO,A1)
【文献】Experimental Dermatology,2013年,Vol. 22,pp. 41-47
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/08
C12Q 1/00-3/00
C12M 1/00-3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1細胞培養基材の上に播種された、光照射により損傷が与えられた線維芽細胞を含む第1細胞群と;
前記第1細胞群の上に適用された、メラノサイトとケラチノサイトとを含む第2細胞群と、
を含む、色素沈着皮膚モデルであって
前記光照射により損傷が与えられた線維芽細胞が、光増感剤の存在下で、紫外光の照射により損傷が与えられた後に生存した線維芽細胞であり、
前記第2細胞群が、多孔膜を有する第2細胞培養基材の上に播種された第2細胞群であ前記第2細胞培養基材がセルカルチャーインサートである、色素沈着皮膚モデル。
【請求項2】
前記光増感剤が、ソラレン、NAD、リボフラビン、トリプトファン、葉酸、ポルフィリン、メチレンブルー、チノール基で保護された金ナノクラスター(AUxSRy)からなる群から選択される、請求項1に記載の色素沈着皮膚モデル。
【請求項3】
前記光照射が、UVAの光照射である、請求項1又は2に記載の色素沈着皮膚モデル。
【請求項4】
前記第1細胞培養基材が、多孔膜を有する細胞培養基材である、請求項1~3のいずれか1項に記載の色素沈着皮膚モデル。
【請求項5】
前記第1細胞群が、ハイドロゲル化剤とともに播種された第1細胞群である、請求項1~4のいずれか1項に記載の色素沈着皮膚モデル。
【請求項6】
前記ハイドロゲル化剤が、コラーゲン、ゼラチン、ヒアルロナート、ヒアルロナン、フィブリン、アルギナート、アガロース、キトサン、キチン、セルロース、ペクチン、デンプン、ラミニン、フィブリノーゲン/トロンビン、フィブリリン、エラスチン、ガム、セルロース、寒天、グルテン、カゼイン、アルブミン、ビトロネクチン、テネイシン、エンタクチン/ニドジェン、糖タンパク質、グリコサミノグリカン、ポリ(アクリル酸)、ポリ(エチレンオキシド)およびその共重合体、ポリ(ビニルアルコール)、ポリホスファゼン、マトリゲルならびにそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項5に記載の色素沈着皮膚モデル。
【請求項7】
色素沈着皮膚モデルの製造方法であって、
(1)光照射により損傷が与えられた線維芽細胞を含む第1細胞群を培養する工程であって、前記光照射により損傷が与えられた線維芽細胞が、光増感剤の存在下で、紫外光の照射により損傷が与えられた線維芽細胞である、
(2)前記工程(1)で得られる生存した線維芽細胞を含む第1細胞群を、第1細胞培養基材の上で、培養する工程、および
(3)前記工程(2)で得られる第1細胞群の上に、メラノサイトとケラチノサイトとを含む第2細胞群を適用し、培養する工程、
を含み、
前記第2細胞群が、多孔膜を有する第2細胞培養基材の上に播種された第2細胞群であ前記第2細胞培養基材がセルカルチャーインサートである、製造方法。
【請求項8】
前記光増感剤が、ソラレン、NAD、リボフラビン、トリプトファン、葉酸、ポルフィリン、メチレンブルー、チノール基で保護された金ナノクラスター(AUxSRy)からなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記光照射が、UVAの光照射である、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記第1細胞培養基材が、多孔膜を有する細胞培養基材である、請求項7~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記第1細胞群が、ハイドロゲル化剤とともに播種された第1細胞群である、請求項7~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記ハイドロゲル化剤が、コラーゲン、ゼラチン、ヒアルロナート、ヒアルロナン、フィブリン、アルギナート、アガロース、キトサン、キチン、セルロース、ペクチン、デンプン、ラミニン、フィブリノーゲン/トロンビン、フィブリリン、エラスチン、ガム、セルロース、寒天、グルテン、カゼイン、アルブミン、ビトロネクチン、テネイシン、エンタクチン/ニドジェン、糖タンパク質、グリコサミノグリカン、ポリ(アクリル酸)、ポリ(エチレンオキシド)およびその共重合体、ポリ(ビニルアルコール)、ポリホスファゼン、マトリゲルならびにそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記工程(2)が、アスコルビン酸、アスコルビン酸2リン酸、アスコルビン酸1リン酸、L-アスコルビン酸ナトリウム、又はL-アスコルビン酸2-グルコシドまたはそれらの塩の存在下で実施される、請求項7~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
請求項7~13のいずれか1項に記載の方法により得られる、色素沈着皮膚モデル。
【請求項15】
皮膚の色素沈着を治療または予防するための因子の評価方法であって、
(1)請求項1~6および請求項14のいずれか1項に記載の色素沈着皮膚モデルに、候補因子を適用し、培養する工程、
(2)前記色素沈着皮膚モデルにおける色素産生および/または色素沈着の度合いを指標として、前記候補因子の治療または予防効果を評価する工程、
を含む、方法。
【請求項17】
前記候補因子が、線維芽細胞である、請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素沈着皮膚モデルおよびそれを製造する方法に関する。また、本発明は、色素沈着皮膚モデルを用いた皮膚の色素沈着を治療または予防するための因子の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は生体内と生体外の環境を分ける体表を覆う器官である。皮膚は、物理的なバリアとして働き、乾燥や有害物質が生体内へ侵入することから守り、生命の維持に不可欠な役割を果たしている。
【0003】
高等脊椎動物の皮膚は、最外層から大別すると表皮、真皮、皮下組織の層から形成されている。表皮は、主にケラチノサイト(角化細胞)と呼ばれる細胞から構成されており、表皮の最深部(基底層)でケラチノサイトが分裂しながら、上層に向かって有棘層、顆粒層、そして角層へと分化しながら表面へと移動し、やがて垢となって脱落する。
【0004】
表皮の基底層にはメラノサイトが存在し、メラノサイト内のメラノソームによってメラニンが生成される。生成されたメラニンは、周囲のケラチノサイトに取り込まれる。取り込まれたメラニンはケラチノサイトのターンオーバーとともに角層まで移行し約40日かけて生体外へと排出される。
【0005】
皮膚のしみ・そばかすなどの色素沈着は、ホルモンの異常や紫外線曝露、局所の炎症等により、メラノサイトでメラニンが過剰に形成されることや、メラニン顆粒が表皮基底層のケラチノサイト内に沈着することなどが原因であると考えられている。色素沈着、例えば、加齢による老人性色素斑などを治療または予防する方法や、治療剤(美白剤)が開発されているが、期待された効果が得られなかったり、一時的な効果が得られるが、効果が持続せず再発するなどの課題があり、新たな治療法または予防法や、治療剤を開発するニーズが存在し続けている。
【0006】
そのような状況の下、新たな治療法を開発するために、従来の動物モデルに代わって、近年では皮膚の構造およびその機能を模倣した色素沈着皮膚モデルが開発されており、利用されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6113393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の色素沈着皮膚モデルは、作製されたモデル間で色素沈着のばらつきがあり、また、長期間安定的に培養することが困難であった。その原因として、作製方法として、真皮モデル上にケラチノサイトやメラノサイトを含む表皮細胞群を直接播種しているため、真皮モデルの質が表皮層形成に大きく影響するほか、色素沈着皮膚モデルを維持培養する過程で、真皮モデル、表皮モデルを分離して条件を変更する操作や、異なる真皮モデル上に表皮モデルを移し替えるといった操作が行えず、実験範囲に制限があった。従って、本発明の目的は、安定的に長期間培養可能な新たな色素沈着皮膚モデルおよびそれを製造する方法を提供することに加えて、色素沈着皮膚モデルを培養維持する過程で真皮モデルあるいは表皮モデル単独の条件変更や真皮モデルと表皮モデルを自由に移し替えることができるまた、本発明の目的は、新たな色素沈着皮膚モデルを用いた皮膚の色素沈着を治療または予防するための因子を評価する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが鋭意検討を行った結果、光照射により損傷を受けた線維芽細胞を含む第1細胞群の上に、メラノサイトとケラチノサイトとを含む第2細胞群を適用することによって、安定的に長期間培養可能な色素沈着皮膚モデルを開発できることを見出した。すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
【0010】
[1] 第1細胞培養基材の上に播種された、光照射により損傷が与えられた線維芽細胞を含む第1細胞群と;
前記第1細胞群の上に適用された、メラノサイトとケラチノサイトとを含む第2細胞群と、
を含む、色素沈着皮膚モデル。
[2] 前記光照射により損傷が与えられた線維芽細胞が、光増感剤の存在下で、紫外光の照射により損傷が与えられた線維芽細胞である、[1]に記載の色素沈着皮膚モデル。
[3] 前記光増感剤が、ソラレン、NAD、リボフラビン、トリプトファン、葉酸、ポルフィリン、メチレンブルー、チノール基で保護された金ナノクラスター(AUxSRy)からなる群から選択される、[2]に記載の色素沈着皮膚モデル。
[4] 前記光照射が、UVAの光照射である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の色素沈着皮膚モデル。
[5] 前記第2細胞群が、多孔膜を有する第2細胞培養基材の上に播種された第2細胞群である、[1]~[4]のいずれか1項に記載の色素沈着皮膚モデル。
[6] 前記第1細胞培養基材が、多孔膜を有する細胞培養基材である、[1]~[5]のいずれか1項に記載の色素沈着皮膚モデル。
[7] 前記第1細胞群が、ハイドロゲル化剤とともに播種された第1細胞群である、[1]~[6]のいずれか1項に記載の色素沈着皮膚モデル。
[8] 前記ハイドロゲル化剤が、コラーゲン、ゼラチン、ヒアルロナート、ヒアルロナン、フィブリン、アルギナート、アガロース、キトサン、キチン、セルロース、ペクチン、デンプン、ラミニン、フィブリノーゲン/トロンビン、フィブリリン、エラスチン、ガム、セルロース、寒天、グルテン、カゼイン、アルブミン、ビトロネクチン、テネイシン、エンタクチン/ニドジェン、糖タンパク質、グリコサミノグリカン、ポリ(アクリル酸)およびその誘導体、ポリ(エチレンオキシド)およびその共重合体、ポリ(ビニルアルコール)、ポリホスファゼン、マトリゲルならびにそれらの組み合わせからなる群から選択される、[7]に記載の色素沈着皮膚モデル。
【0011】
[9] 色素沈着皮膚モデルの製造方法であって、
(1)光照射により損傷が与えられた線維芽細胞を含む第1細胞群を培養する工程、
(2)前記工程(1)で得られる第1細胞群を、第1細胞培養基材の上で、培養する工程、および
(3)前記工程(2)で得られる第1細胞群の上に、メラノサイトとケラチノサイトとを含む第2細胞群を適用し、培養する工程、
を含む、製造方法。
[10] 前記光照射により損傷が与えられた線維芽細胞が、光増感剤の存在下で、紫外光の照射により損傷が与えられた線維芽細胞である、[9]に記載の方法。
[11] 前記光増感剤が、ソラレン、NAD、リボフラビン、トリプトファン、葉酸、ポルフィリン、メチレンブルー、チノール基で保護された金ナノクラスター(AUxSRy)からなる群から選択される、[10]に記載の方法。
[12] 前記光照射が、UVAの光照射である、[9]~[11]のいずれか1項に記載の方法。
[13] 前記第2細胞群が、多孔膜を有する第2細胞培養基材の上に播種された第2細胞群である、[9]~[12]のいずれか1項に記載の方法。
[14] 前記第1細胞培養基材が、多孔膜を有する細胞培養基材である、[9]~[13]のいずれか1項に記載の方法。
[15] 前記第1細胞群が、ハイドロゲル化剤とともに播種された第1細胞群である、[9]~[14]のいずれか1項に記載の方法。
[16] 前記ハイドロゲル化剤が、コラーゲン、ゼラチン、ヒアルロナート、ヒアルロナン、フィブリン、アルギナート、アガロース、キトサン、キチン、セルロース、ペクチン、デンプン、ラミニン、フィブリノーゲン/トロンビン、フィブリリン、エラスチン、ガム、セルロース、寒天、グルテン、カゼイン、アルブミン、ビトロネクチン、テネイシン、エンタクチン/ニドジェン、糖タンパク質、グリコサミノグリカン、ポリ(アクリル酸)およびその誘導体、ポリ(エチレンオキシド)およびその共重合体、ポリ(ビニルアルコール)、ポリホスファゼン、マトリゲルならびにそれらの組み合わせからなる群から選択される、[15]に記載の方法。
[17] 前記工程(2)が、アスコルビン酸、アスコルビン酸誘導体またはそれらの塩の存在下で実施される、[9]~[16]のいずれか1項に記載の方法。
【0012】
[18] [9]~[17]のいずれか1項に記載の方法により得られる、色素沈着皮膚モデル。
【0013】
[19] 皮膚の色素沈着を治療または予防するための因子の評価方法であって、
(1)[1]~[8]および[18]のいずれか1項に記載の色素沈着皮膚モデルに、候補因子を適用し、培養する工程、
(2)前記色素沈着皮膚モデルにおける色素産生および/または色素沈着の度合いを指標として、前記候補因子の治療または予防効果を評価する工程、
を含む、方法。
【0014】
[20] 皮膚の色素沈着を治療または予防するための因子の評価方法であって、
(1)光照射により損傷が与えられた線維芽細胞を含む第1細胞群を培養する工程、
(2)前記工程(1)で得られる第1細胞群を、第1細胞培養基材の上で、培養する工程、
(3)前記工程(2)で得られる第1細胞群の上に、メラノサイトとケラチノサイトとを含む第2細胞群を適用し、培養する工程、
(4)候補因子を含む基材上に、前記工程(3)で得られる前記第2細胞培養群を移し替えて、培養する工程、
(5)前記第2細胞群における色素産生および/または色素沈着の度合いを指標として、前記候補因子の治療または予防効果を評価する工程
を含む、方法。
[21] 前記候補因子が、線維芽細胞である、[20]に記載の方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によって、安定的に長期間培養可能な色素沈着皮膚モデルが提供され、それを用いることによって、皮膚の色素沈着を治療または予防するための因子の探索や、評価が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、一実施態様の色素沈着皮膚モデルの製造方法を示す概略図である。各構成要素は、主に断面を表している。
図2図2は、一実施態様の色素沈着皮膚モデルの製造方法を示す概略図である。各構成要素は、主に断面を表している。
図3図3はPUVA処理または未処理の線維芽細胞の増殖性の違いを示す。(A)単層培養したPUVA処理または未処理(コントロール)の線維芽細胞の画像(培養1日目、4日目、7日目)。(B)PUVA処理後の線維芽細胞の増殖グラフ。
図4図4は、PUVA処理または未処理(コントロール)の線維芽細胞における老化関連因子・SA-β-galの産生レベルの違いを示す。(A)単層培養した線維芽細胞の溶解物中のSA-β-galの酵素活性値。(B)SA-β-galの染色画像。SA-β-gal陽性細胞は青緑色に染まる。
図5図5は、PUVA処理または未処理(コントロール)の線維芽細胞におけるメラニン生成促進因子SCF(Stem Cell Factor)の産生レベルの違いを示す。(A)SCF産生量の経時的な変動を示すグラフ。(B)SCF抗体を用いたSCF染色、DAPIを用いた核染色、SCF染色および核染色の融合画像(Merge)(各2枚)。
図6図6は、PUVA処理または未処理(コントロール)の線維芽細胞におけるメラニン生成促進因子HGF(Hepatocyte growth factor)の産生レベルの違いを示す。(A)HGF抗体を用いたHGF染色、DAPIを用いた核染色、HGF染色および核染色の融合画像(Merge)(各2枚)。
図7図7は、PUVA処理または未処理の色素沈着皮膚モデルの色素沈着を示す図である。(A)PUVA処理を行った色素沈着皮膚モデルにおける、表皮モデルの画像(培養0日目、培養21日目)。(B)PUVA未処理の色素沈着皮膚モデルにおける、表皮モデルの画像(培養0日目、培養21日目)。
図8図8は、PUVA処理の真皮モデルと約10日間共培養した表皮モデルを、PUVA未処理の真皮モデル上に移し替えて約10日間培養した後の、表皮モデルの画像である。
図9図9は、PUVA処理または未処理(コントロール)の色素沈着皮膚モデルおよびPUVA処理の色素沈着皮膚モデルの表皮モデルを、PUVA未処理の真皮モデル上に移し替えて培養した表皮モデル(Replace)の色素沈着を示す。(A)位相差顕微鏡の明視野で観察条件を固定して撮影した表皮モデルの画像。(B)(A)の画像を二値化処理し、色素沈着領域の割合を定量化したグラフ。
図10図10は、PUVA処理または未処理(コントロール)の色素沈着皮膚モデル、およびPUVA処理の色素沈着皮膚モデルの表皮モデルを、PUVA未処理の真皮モデル上に移し替えて培養した表皮モデル(Replace)中のメラニン顆粒を示す。(A)フォンタナマッソン染色法により表皮モデル切片のメラニン顆粒を染色。(B)(A)の画像を二値化処理し、メラニン顆粒領域の割合を定量化したグラフ。
図11図11は、PUVA処理または未処理(コントロール)の色素沈着皮膚モデル、およびPUVA処理の色素沈着皮膚モデルの表皮モデルを、PUVA未処理の真皮モデル上に移し替えて培養した表皮モデル(Replace)中の活性化メラノサイトを示す。(A)TRP2(Tyrosine Related Protein 2)抗体を用いて表皮モデル切片の活性化メラノサイトを染色、およびヘマトキシリン染色法で核染色した画像。(B)(A)の画像から活性化メラノサイトの割合を定量化したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について図面等を参照しつつ詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみに限定されない。
【0018】
本明細書において、「第1」「第2」「第3」等の用語は、1つの要素をもう1つの要素と区別するために用いており、例えば、第1の要素を第2の要素と表現し、同様に第2の要素を第1の要素と表現してもよく、これによって本発明の範囲を逸脱するものではない。
【0019】
特段の定義がない限り、本明細書で使用する用語(技術的用語および科学的用語)は、当業者が一般に理解している用語と同一の意味を有する。
【0020】
<色素沈着皮膚モデルおよびその製造方法>
図1は、一実施形態における、色素沈着皮膚モデル1およびそれを製造する方法を説明する概略図である。一実施態様において、色素沈着皮膚モデル1は、
第1細胞培養基材11の上に播種された、光照射により損傷が与えられた線維芽細胞を含む第1細胞群100と;
前記第1細胞群100の上に適用された、メラノサイトとケラチノサイトとを含む第2細胞群200と、を含んでいる(例えば、図1(D)参照)。
【0021】
また、一実施態様における色素沈着皮膚モデル1は、以下の工程:
(1)光照射により損傷が与えられた線維芽細胞を含む第1細胞群100を培養する工程、
(2)前記工程(1)で得られる第1細胞群100を、第1細胞培養基材11の上で、培養する工程、
(3)前記工程(2)で得られる第1細胞群100の上に、メラノサイトとケラチノサイトとを含む第2細胞群200を適用し、培養する工程、
を含む、方法によって提供することができる。
【0022】
本明細書において、色素沈着皮膚モデル1における第1細胞群100または第3細胞群100aを含む構造は、皮膚の真皮の構造を模していることから、「真皮モデル」(第1真皮モデルまたは第2真皮モデル)と呼ぶことがある。また、本明細書において、色素沈着皮膚モデル1における第2細胞群200を含む構造は、皮膚の表皮の構造を模していることから、「表皮モデル」と呼ぶことがある。
【0023】
色素沈着皮膚モデル1は、第2細胞群200が、第1細胞群100の上に直接播種または積層された構造であってもよく、図1のように第2細胞群200と第1細胞群100との間に培地が存在する空間を設けられた構造であってもよい。後者の場合、第1細胞群100と第2細胞群200が分泌する液性成分が相互に通過できるよう、第2細胞群200は多孔膜(図1の第2多孔膜210に相当)の上に播種されたものであることが好ましい。
【0024】
一実施態様における色素沈着皮膚モデル1を製造する方法の工程(3)において、工程(2)で得られる第1細胞群100の上に、メラノサイトとケラチノサイトとを含む第2細胞群200を適用する工程は、第2細胞群200を、第1細胞群100の上に直接播種または積層する工程であってもよく、多孔膜を有する第2細胞培養基材21上に播種された第2細胞群200を、第1細胞群100の上に適用する工程であってもよい。
【0025】
色素沈着皮膚モデル1において、第1細胞群100が播種される第1細胞培養基材11は、線維芽細胞を培養可能である公知の培養基材を用いることができるが、多孔膜を有する細胞培養基材であることが好ましく、セルカルチャーインサートであることがより好ましい。第1細胞培養基材11が第1多孔膜110を有するものであれば、第1多孔膜110の上に播種された細胞の上下両方から栄養や酸素を供給することができる。
【0026】
一実施態様の色素沈着皮膚モデル1において、第2細胞群200が播種される第2細胞培養基材21は、メラノサイトとケラチノサイトを培養可能である公知の培養基材を用いることができるが、多孔膜を有する細胞培養基材であることが好ましく、セルカルチャーインサートであることがより好ましい。第2細胞培養基材21が第2多孔膜210を有するものであれば、第2多孔膜210の上に播種された細胞の上下両方から栄養や酸素を供給することができるのみならず、第1細胞群100と第2細胞群200が分泌する液性成分を相互に通過させることができる。また、第2細胞培養基材21が第2多孔膜210を有するものであれば、色素沈着皮膚モデル1を維持培養する過程で、真皮モデルと表皮モデルを分離して、それぞれを別の条件で培養することが可能となり、また、異なる真皮モデルの上に表皮モデルを移し替えて培養することも可能となる。表皮細胞群による表皮層の形成は、真皮モデルの質に影響されるため、色素沈着皮膚モデル1において任意の品質を有する真皮モデルへ交換することによって、表皮モデルの品質をコントロールすることも可能となる。
【0027】
第1多孔膜110および第2多孔膜210(後述の第3多孔膜110aにも適用される)の平均孔径は、適宜選択することができ、例えば、約0.01μm~約100μmの平均孔径(例えば、0.01μm~100μm、0.01μm~50μm、0.01μm~10μm、0.1μm~50μm、または0.1μm~10μm)であってもよい。また、第1多孔膜110および第2多孔膜210(後述の第3多孔膜110aにも適用される)の細孔の密度も適宜選択することができるが、例えば、1×10/cm以上、1×10/cm以上、5×10/cm以上、10×10/cm以上、50×10/cm以上、または100×10/cm以上の細孔の密度であってもよく、1×10/cm~100×10/cm、1×10/cm~100×10/cmであってもよい。
【0028】
一実施態様において、第2細胞培養基材21がセルカルチャーインサートの場合、第1細胞培養基材11の内径よりも小さい第2細胞培養基材21(セルカルチャーインサート)を用いればよい。これにより、第2細胞培養基材21を第1細胞培養基材11の培養部分に挿入して使用することが可能となる。
【0029】
本発明において用いられる細胞は、いずれの動物由来であってもよいが、脊椎動物由来が好ましく、哺乳動物由来がより好ましく、ヒト由来であることが最も好ましい。
【0030】
線維芽細胞とは、結合組織を構成する細胞の一つであり、多くの臓器および組織に存在している細胞である。線維芽細胞は、皮膚においては、主に真皮組織に含まれている。本発明の色素沈着皮膚モデル1に用いられる線維芽細胞は、好ましくは真皮由来の線維芽細胞である。
【0031】
ケラチノサイト(角化細胞)とは、表皮を構成する細胞の一つであり、生体の表皮組織においては、最深部(基底層)で分裂しながら上層に向かって有棘層、顆粒層、そして角層へと分化しながら表面へ移動し、やがて垢となって脱落する細胞である。
【0032】
メラノサイト(角化細胞)とは、表皮組織を構成する細胞の一つであり、生体においては表皮の基底層に存在し、メラニンを形成する細胞である。
【0033】
本発明に用いられる線維芽細胞、ケラチノサイトおよびメラノサイトは、それぞれ、生体組織から採取された初代培養細胞であってもよく、予め単離および/または増殖され市販または頒布されている細胞であってもよく、株化された細胞であってもよく、ES細胞、iPS細胞、又はMuse細胞等の多能性幹細胞から分化誘導された細胞であってもよい。
【0034】
第1細胞群100は、線維芽細胞以外の細胞が含まれていてもよく、例えば、真皮組織に含まれている肥満細胞、組織球、形質細胞、真皮樹状細胞などが含まれていてもよい。第1細胞群100に含まれる線維芽細胞は、例えば、1×10~10個/cm、好ましくは0.1~10×10個/cmの細胞数を含んでいる。
【0035】
第2細胞群200は、ケラチノサイトおよびメラノサイト以外の細胞が含まれていてもよく、例えば表皮組成に含まれるランゲルハンス細胞や、メルケル細胞が含まれていてもよい。第2細胞群200は、例えば、ケラチノサイト:メラノサイトが、1:1~1000:1、好ましくは3:1~30:1の比の細胞を含んでいる。第2細胞群200は、例えば、ケラチノサイトが1×10~10個/cm、好ましくは1.0~10×10個/cm、より好ましくは約4~8×10個/cmを含み、メラノサイトが、1~10×10個/cm、好ましくは4~8×10個/cmを含んでいる。
【0036】
第1細胞群100に含まれる線維芽細胞は、光照射によって損傷が与えられた線維芽細胞が用いられる。光照射によって損傷が与えられた線維芽細胞は、好ましくは光増感剤の存在下で光照射され、損傷が与えられたものである。用いられる光増感剤としては、例えば、ソラレン、NAD、リボフラビン、トリプトファン、葉酸、ポルフィリン、メチレンブルー、チノール基で保護された金ナノクラスター(AUxSRyなどが挙げられる。光増感剤を用いることにより、照射された光が増感され、効率よく線維芽細胞に損傷を与えることができる。
【0037】
線維芽細胞に損傷を与える時に用いられる光は、細胞内の核酸、例えばDNAやRNAに損傷を与えるが、全ての細胞が死滅しない程度の波長であればよく、紫外光(約200nm~約400nm)であることが好ましく、より好ましくはUVA(約320nm~約400nm)である。照射する光の強さは、細胞内の核酸、例えばDNAやRNAに損傷を与えるが、アポトーシス等が誘導されて全ての細胞が死滅しない程度であればよく、波長や照射する時間、細胞密度などによって適宜調整すればよい。例えば、UVAを照射する場合、0.01J/cm~100J/cm、好ましくは0.1J/cm~20J/cm、より好ましくは0.5J/cm~10J/cmを照射すればよい。
【0038】
光照射した線維芽細胞を一定期間培養することによって、アポトーシス等が誘導されず、生存した線維芽細胞のみを増殖させることができる(図1の(B)に相当)。光照射によって損傷を受けた線維芽細胞は、例えば、細胞の形態が伸長し、増殖能力が低下し、メラニン生成因子(例えば幹細胞増殖因子(SCF))の産生量が増加するなど、細胞の老化レベルが増加した特徴を示す(図3参照)。細胞の老化レベルは、一般に知られる細胞老化マーカー、例えば、老化関連酸性β-ガラクトシダーゼ(SA-βgal)の発現量、p21/p53経路やp16経路など細胞周期チェック機構の恒常的な活性化、IL-6などの細胞老化関連分泌現象(Senescence-associated secretory phenotype(SASP))因子の発現量などを測定することによって調べることができる。光照射量を調節することよって、所望の老化レベルの線維芽細胞を得ることができる。
【0039】
色素沈着皮膚モデル1を構成する第1細胞群100に含まれる線維芽細胞は、光照射によって損傷を有するが、死滅することなく生存した線維芽細胞である。そのため、本発明の色素沈着皮膚モデル1には、概ね均質な線維芽細胞が含まれることとなり、活性のばらつきが少ない安定した系を提供することができる。
【0040】
一実施態様において、色素沈着皮膚モデル1を構成する表皮モデル20は、例えば、市販もされている、TESTSKIN(商標)LSE-melano(TOYOBO)、MelanoDerm(商標)(MatTek)などを用いても良い。
【0041】
色素沈着皮膚モデル1は、例えば培養液として通常のケラチノサイト培養に用いられる培養液、例えばKG培地、EpilifeKG2(クラボウ)、Humedia-KG2(クラボウ)、アッセイ培地(TOYOBO)などを用い、約37℃で0~14日間かけて行うことができる。培地としては、その他にDMEM培地(GIBCO)又はアスコルビン酸含有KGMとDMEMを1:1混合した培地などが使用できる。
【0042】
第1細胞群100は、ハイドロゲル化剤とともに播種されることが好ましい。本明細書において、「ハイドロゲル化剤」とは、ハイドロゲルを形成するために添加される物質をいう。本発明において用いられるハイドロゲル化剤としては、例えば、コラーゲン、ゼラチン、ヒアルロナート、ヒアルロナン、フィブリン、アルギナート、アガロース、キトサン、キチン、セルロース、ペクチン、デンプン、ラミニン、フィブリノーゲン/トロンビン、フィブリリン、エラスチン、ガム、セルロース、寒天、グルテン、カゼイン、アルブミン、ビトロネクチン、テネイシン、エンタクチン/ニドジェン、糖タンパク質、グリコサミノグリカン、ポリ(アクリル酸)およびその誘導体、ポリ(エチレンオキシド)およびその共重合体、ポリ(ビニルアルコール)、ポリホスファゼン、マトリゲルならびにそれらの組み合わせからなる群から選択することができる。
【0043】
一実施態様において、工程(2)は、アスコルビン酸、アスコルビン酸誘導体またはその塩の存在下で実施されてもよい。アスコルビン酸、アスコルビン酸誘導体またはその塩が存在すると、線維芽細胞の増殖やコラーゲン産生が促進されることにより真皮の構造のように重層化が促進されたりするため、好ましい。本明細書において、「アスコルビン酸誘導体」とは、例えば、アスコルビン酸2リン酸、アスコルビン酸1リン酸、L-アスコルビン酸ナトリウム、L-アスコルビン酸2-グルコシド等をいい、さらに、その塩(ナトリウム塩、マグネシウム塩等)も含まれる。
【0044】
本発明によって提供される色素沈着皮膚モデル1は、光照射により損傷が与えられた線維芽細胞が直接または間接的にメラノサイトに作用し、メラニンの産生が促進される。従って、色素沈着皮膚モデル1の色素産生および/または色素沈着の度合いを測定することによって、色素沈着に影響を及ぼす因子について評価することができる。
【0045】
<皮膚の色素沈着を治療または予防するための因子の評価方法(第1態様)>
本発明は、色素沈着皮膚モデルを用いた、皮膚の色素沈着を治療または予防するための因子の評価方法を提供することができる。一実施態様において、本発明の方法は、
(1)色素沈着皮膚モデル1に、候補因子を適用し、培養する工程、
(2)記色素沈着皮膚モデル1における色素産生および/または色素沈着の度合いを指標として、前記候補因子の治療または予防効果を評価する工程、
を含んでいる。
【0046】
一実施態様において、候補因子は、例えば、低分子化合物、ペプチド、核酸、タンパク質、哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ブタ、ウシ、ヒツジ、サル、ヒトなど)の細胞、組織抽出物又は細胞培養上清、植物由来の化合物又は抽出物(例えば、生薬エキス、生薬由来の化合物)、及び微生物由来の化合物若しくは抽出物又は培養産物などであってもよい。
【0047】
候補物質を色素沈着皮膚モデル1に添加し、所望の期間培養後、色素沈着皮膚モデル1における色素産生および/または色素沈着の度合いを測定することによって、候補物質による色素沈着の治療または予防効果を評価することができる。例えば、候補物質を非添加、または色素沈着の治療または予防効果を有しない任意の物質を添加した色素沈着皮膚モデル1の色素産生および/または色素沈着の度合いと比較し、候補物質を添加した色素沈着皮膚モデル1における色素産生および/または色素沈着の度合いが高い場合、その候補物質は、色素沈着の治療または予防効果を有するものと評価することができる。
【0048】
本明細書において「色素産生」とは、色素沈着皮膚モデルが産生する色素、例えば、メラニン色素の産生をいう。メラニン色素は主にメラノサイトによって産生される。色素産生量は、例えば色素沈着皮膚モデル、特に第2細胞群(ケラチノサイトおよびメラノサイト)からメラニン色素を抽出して、405nmの吸光度を測定することによってメラニン量を求めることができる。また、色素産生量は、例えば色素沈着皮膚モデル、特に第2細胞群(ケラチノサイトおよびメラノサイト)に含まれるメラニンまたはそれをコードする核酸量(例えばmRNA量)を、ELISA法、フローサイトメーター法、ウエスタンブロット法、免疫組織化学法、qPCR法等の方法を用いることによって測定することができるが、これに限定されない。
【0049】
本明細書において、「色素沈着の度合い」とは、可視光下における色素沈着皮膚モデル、特に第2細胞群(ケラチノサイトおよびメラノサイト)の色の明度をいう。本発明の色素沈着皮膚モデルは、メラノサイトが産生するメラニン量に依存して明度が変化する。そのため、メラニン量が多くなると明度が低下し、色素沈着皮膚モデルは濃い色を呈する。逆にメラニン量が低下すると明度が上昇し、色素沈着皮膚モデルは淡い色を呈する。すなわち、色素沈着皮膚モデルの色の明度を比較することによって、添加される候補物質による色素沈着の治療または予防効果を評価することができる。明度は、色素沈着皮膚モデルを画像として記録し、公知の画像測定手段を用いることによって定量することができる。
【0050】
<皮膚の色素沈着を治療または予防するための因子の評価方法(第2態様)>
他の実施態様において、本発明の方法は、
(1)光照射により損傷が与えられた線維芽細胞を含む第1細胞群100を培養する工程、
(2)前記工程(1)で得られる第1細胞群100を、第1細胞培養基材11上で、培養する工程、
(3)前記工程(2)で得られる第1細胞群100の上に、メラノサイトとケラチノサイトとを含む第2細胞群200を適用し、培養する工程、
(4)候補因子を含む基材上に、前記工程(3)で得られる前記第2細胞群を適用し、得られる色素沈着皮膚モデル1aを培養する工程、
(5)前記色素沈着皮膚モデル1aにおける色素産生および/または色素沈着の度合いを指標として、前記候補因子の治療または予防効果を評価する工程、
を含んでいる。
【0051】
上記他の実施態様は、図2を用いて説明する。工程(1)~(3)は、上記の色素沈着皮膚モデルの製造方法に記載の工程と共通するため、ここではその説明を省略する(図2の(A)~(D))。また、工程(5)は、上記「皮膚の色素沈着を治療または予防するための因子の評価方法(第1態様)」に記載の工程(2)と共通するため、ここではその説明を省略する。
【0052】
一実態態様において、本発明は、候補因子を含む基材上に、前記工程(3)で得られる前記第2細胞群200を適用し、得られる色素沈着皮膚モデル1aを培養する工程を含んでいる(工程(4)、図2の(F)参照)。工程(3)において用いられる基材(例えば、図2(E)および(F)の第3細胞培養基材11a)上の候補因子は、例えば、低分子化合物、ペプチド、核酸、タンパク質、哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ブタ、ウシ、ヒツジ、サル、ヒト等)の細胞、組織抽出物又は細胞培養上清、植物由来の化合物又は抽出物(例えば、生薬エキス、生薬由来の化合物)、及び微生物由来の化合物若しくは抽出物又は培養産物などであってもよい。一実施態様において、候補因子は、図2(E)および(F)で示されるように、任意の細胞、例えば、間葉系幹細胞を含む線維芽細胞の前駆細胞、線維芽細胞(例えば、光照射による損傷を受けていない線維芽細胞、または光照射による損傷が低い線維芽細胞)等であってもよい。本明細書において、「光照射による損傷を受けていない線維芽細胞」または「光照射による損傷が低い線維芽細胞」とは、上記の光照射工程が実施されていない線維芽細胞であり、上記の「光照射による損傷が与えられた線維芽細胞」よりも、老化レベルが低い線維芽細胞をいう。一実施態様において、候補因子としての第3細胞群100aは、多孔膜を有する第3細胞培養基材11aに播種されたものであってもよい。
【0053】
一実施態様において、工程(4)は、工程(3)で得られる前記第2細胞群200を、候補因子としての第3細胞群100aの上に直接播種または積層する工程であってもよく、多孔膜を有する第2細胞培養基材21上に播種された第2細胞群200を、候補因子としての第3細胞群100aの上に適用する工程であってもよい。後者の場合、第2細胞培養基材21を、簡単に他の真皮モデルの上に移し替えることが可能となる。
【実施例
【0054】
以下に、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
【0055】
1.使用した材料及び方法
1-1.線維芽細胞の培養およびPUVA処理
1×10個の正常ヒト線維芽細胞を増殖用培地(DMEM+10%牛胎児血清)で培養した。100%コンフルエントになる前にソラレン(終濃度25ng/mL)(SigmaAldrich社製)を加えた増殖用培地に置換し、培養した。24時間後に1mLのリン酸緩衝液(PBS)で膨潤させた後、PBSを取り除き、ソラレン(終濃度25ng/mL)を加えた1mLのPBSに置換し、6J/cm UVA照射(SAN-EI UVE-502S)を行った(以下、「PUVA処理」という)。その後、1mLのPBSで膨潤させた後、PBSを取り除いて、増殖用培地に置換し、2~7日程度培養した。その過程で、PUVA処理の影響で細胞が一部死滅するが、その後、生存している線維芽細胞が増殖した。PUVA未処理の同一ドナー由来線維芽細胞を上記PUVA処理線維芽細胞に対するコントロールとした(図3~6)。
【0056】
1-2.真皮モデルの作製
上記1-1.においてPUVA処理、またはPUVA未処理(コントロール)の線維芽細胞をそれぞれ用いて真皮モデルを作製した。簡単に述べると、上記1.の手順後、増殖用培地を取り除いて1mLのPBSで膨潤させた。その後、PBSを取り除き、細胞剥離剤(TrypLE SELECT、Thermo Fisher Scientific社製)を6穴プレートの1ウェルあたり300μL添加し、37℃ 5%COインキュベーター内に5分間静置し、細胞剥離処理を行った。増殖用培地を添加して反応を停止させ、15ml遠沈管に細胞懸濁液を回収した。1000rpmで5分間遠心後、上清を除去し、細胞ペレットを増殖用培地で再懸濁し、5×10個の細胞/mLとなるように調整した。6穴プレートの各ウェルに適用可能な真皮モデルを作製するにあたり、表1の組成からなるゲル懸濁液を氷上にて調製した。
【表1】
【0057】
6穴プレートに真皮モデル作製用セルカルチャーインサートを設置し、セルカルチャーインサート内に3mLゲル懸濁液を添加した。37℃ 5%COインキュベーターでゲル懸濁液を固化させた後、6穴プレートにアスコルビン酸(AA2G)を含有する増殖用培地を2mL添加し、37℃ 5%COインキュベーターにて24時間培養した。
【0058】
1-3.表皮モデルとの組み合わせた色素沈着皮膚モデルの作製
上記真皮モデルとは別に、メラノサイトとケラチノサイトで構成された市販の表皮モデル(MatTek社製)を使用した(図1(C)参照)。
【0059】
作製した表皮モデルを、上記1-2.の真皮モデルの上に載せて組み合わせ(図1(D)参照)、専用容器(コーニング・バイオコート、ディープウェルプレート、6穴用)(Corning、#355467)に設置し、9.5mLの三次元皮膚モデル用培地(表皮モデル専用培地(MatTek、#EPI-100-NMM-113)とDMEMを1:1で混合したもの)を加え、3~4日に1回の頻度にて同培地で培地交換を行った。
【0060】
1-4.真皮モデルを置き換えた色素沈着皮膚モデル
PUVA処理線維芽細胞を用いて作製した真皮モデルと組み合わせて10日間培養した表皮モデルを、PUVA未処理の正常線維芽細胞を用いて作製した真皮モデルと置き換え、さらに10日間培養を行った(図2(E)および(F)参照)。なお、置き換え用真皮モデル(PUVA未処理の線維芽細胞を用いて作製した真皮モデル)は、置き換える前日に作製した。
【0061】
2.結果
2-1.PUVA処理後の線維芽細胞
図3は、PUVA処理後及び未処理の線維芽細胞を示している。PUVA処理後の線維芽細胞は、伸長していた(図3(A))。PUVA処理後及び未処理の線維芽細胞の増殖数の変動を調べたところ、PUVA処理後の線維芽細胞は増殖速度が著しく低下していた(図3(B))。
【0062】
2-2.PUVA処理後の線維芽細胞の老化レベル
PUVA処理後及び未処理の線維芽細胞それぞれの細胞溶解物中の老化関連因子SA-β-galの酵素活性値について調べたところ、PUVA処理後の線維芽細胞はSA-β-galの酵素活性値が著しく増加していた(図4(A))。また、SA-β-galの染色を行ったところ、PUVA処理後の線維芽細胞は著しく多数のSA-β-gal陽性細胞(青緑色)が観察された(図4(B))。
【0063】
2-3.PUVA処理後の線維芽細胞のメラニン生成因子・SCFの産生レベル
PUVA処理後及び未処理の線維芽細胞それぞれ単層培養し、PUVA処理1日前、PUVA処理0、1、3、7、14、21日目に培養上清に含まれるSCF量をELISA法で測定し、1細胞あたりの分泌量として算出したところ、PUVA処理後の線維芽細胞のSCFレベルは著しく増加していた(図5(A))。また、SCF抗体を用いてSCF染色、DAPIによる核染色を行い、SCF染色および核染色の融合画像(Merge)を作成した結果、PUVA処理後の線維芽細胞においてSCF陽性細胞が多数観察された(図5(B))。
【0064】
2-4.PUVA処理後の線維芽細胞のメラニン生成因子・HGFの産生レベル
PUVA処理後及び未処理の線維芽細胞それぞれ単層培養し、HGF抗体を用いてHGF染色、DAPIによる核染色を行い、HGF染色および核染色の融合画像(Merge)を作成した結果、PUVA処理後の線維芽細胞においてHGF陽性細胞が多数観察された(図6(A))。
【0065】
2-5.PUVA処理後の線維芽細胞のメラニン生成因子・HGFの産生レベル
図7は、PUVA処理後(A)または未処理(B)の色素沈着皮膚モデルにおける、表皮モデルの色素沈着を示す図である。PUVA処理を行った色素沈着皮膚モデルにおける、表皮モデルは、色素沈着が促進されていることが観察された。
【0066】
2-6.真皮モデルを置き換えた色素沈着皮膚モデル
PUVA処理線維芽細胞を用いて作製した真皮モデルと組み合わせて10日間培養した表皮モデルを、PUVA未処理の正常線維芽細胞を用いて作製した真皮モデルと置き換え、さらに10日間培養を行った結果、PUVA処理を行った色素沈着皮膚モデルにおける表皮モデルの色素沈着(図7(A))に比べて色素沈着が抑制されていることが観察された(図8)。
【0067】
2-7.PUVA処理、未処理、真皮モデルを置き換えた色素沈着皮膚モデルの色素沈着
PUVA処理または未処理(コントロール)の色素沈着皮膚モデル、およびPUVA処理の色素沈着皮膚モデルの表皮モデルを、PUVA未処理の真皮モデル上に移し替えて培養した表皮モデル(Replace)の外観について観察したところ、PUVA処理の色素沈着皮膚モデルの表皮モデルで色素沈着が促進したのに対し、Replace条件の表皮モデルでは色素沈着が緩和している様子が観察された(図9(A))。図9(A)の画像を元に定量化を行ったところ、PUVA処理の色素沈着皮膚モデルで最も色素濃化領域の割合が高いのに対して、Replace条件の色素沈着皮膚モデルでは色素濃化領域が減少することが示された(図9(B))。
【0068】
2-8.PUVA処理、未処理、真皮モデルを置き換えた色素沈着皮膚モデルのメラニン生成
PUVA処理または未処理(コントロール)の色素沈着皮膚モデル、およびPUVA処理の色素沈着皮膚モデルの表皮モデルを、PUVA未処理の真皮モデル上に移し替えて培養した表皮モデル(Replace)で切片を作成し、フォンタナマッソン染色法により表皮モデル切片のメラニン顆粒を染色した(図10(A))。また、図10(A)の染色像を二値化処理し、メラニン顆粒領域の割合を定量化したところ、PUVA処理の色素沈着皮膚モデルで最もメラニン領域の割合が高いのに対して、Replace条件の色素沈着皮膚モデルではメラニン領域が減少することが示された(図10(B))。
【0069】
2-9.PUVA処理、未処理、真皮モデルを置き換えた色素沈着皮膚モデルのメラノサイト数
PUVA処理または未処理(コントロール)の色素沈着皮膚モデル、およびPUVA処理の色素沈着皮膚モデルの表皮モデルを、PUVA未処理の真皮モデル上に移し替えて培養した表皮モデル(Replace)で切片を作成し、TRP2抗体を用いて表皮モデル切片の活性化メラノサイトを染色し、およびヘマトキシリン染色法で核を染色した(図11(A))。図11(A)の画像から活性化メラノサイトの割合を定量化したところ、PUVA処理の色素沈着皮膚モデルで最も活性化メラノサイト数の割合が高いのに対して、Replace条件の色素沈着皮膚モデルでは活性化メラノサイト数が減少することが示された(図11(B))。
【符号の説明】
【0070】
1、1a 色素沈着皮膚モデル
10 第1真皮モデル
100 第1細胞群
11 第1細胞培養基材
110 第1多孔膜
12 第1細胞培養容器
13 第1培地
14 第2培地
10a 第2真皮モデル
100a 第3細胞群
11a 第3細胞培養基材
110a 第3多孔膜
20 表皮モデル
200 第2細胞群
21 第2細胞培養基材
210 第2多孔膜
22 第2細胞培養容器
23 第3培地
24 第4培地
RD 光照射
FB 線維芽細胞
bFB 光照射による損傷を受けた線維芽細胞
KC ケラチノサイト
MC メラノサイト
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11