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特許7522047人工毛髪用芯鞘複合繊維、それを含む頭飾製品及びその製造方法
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  • 特許-人工毛髪用芯鞘複合繊維、それを含む頭飾製品及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】人工毛髪用芯鞘複合繊維、それを含む頭飾製品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A41G 3/00 20060101AFI20240717BHJP
   D01F 8/14 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
A41G3/00 A
D01F8/14 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020572131
(86)(22)【出願日】2020-01-16
(86)【国際出願番号】 JP2020001144
(87)【国際公開番号】W WO2020166262
(87)【国際公開日】2020-08-20
【審査請求日】2022-11-21
(31)【優先権主張番号】P 2019025699
(32)【優先日】2019-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】安友 徳和
(72)【発明者】
【氏名】坂元 玄太
(72)【発明者】
【氏名】藤永 宏
【審査官】遠藤 邦喜
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/179803(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/187843(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/086374(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41G 3/00
D01F 8/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯部と鞘部で構成された人工毛髪用芯鞘複合繊維であって、
前記人工毛髪用芯鞘複合繊維は、同心タイプであり、
前記人工毛髪用芯鞘複合繊維は、扁平多葉形の断面形状を有し、繊維断面における芯鞘比率が面積比で芯:鞘=3:77:3であり、
前記人工毛髪用芯鞘複合繊維において、芯部は扁平多葉形の断面形状を有し、繊維断面長軸方向と芯部断面長軸方向が一致しており、
前記扁平多葉形は、二つの円形及び/又は楕円形が凹部を介して結合した扁平二葉形であり、
前記人工毛髪用芯鞘複合繊維の芯部が、ポリアルキレンテレフタレート及びポリアルキレンテレフタレートを主体とした共重合ポリエステルからなる群から選ばれる1種以上のポリエステル系樹脂を主成分として含み、
前記人工毛髪用芯鞘複合繊維の鞘部が、ナイロン6及びナイロン66からなる群から選ばれる少なくとも1種を主体としたポリアミド系樹脂を主成分として含み、
芯部樹脂組成物の溶融粘度aと鞘部樹脂組成物の溶融粘度bの粘度比a/bが2.0以上7.0以下であることを特徴とする人工毛髪用芯鞘複合繊維。
【請求項2】
請求項1に記載の人工毛髪用芯鞘複合繊維を含むことを特徴とする頭飾製品。
【請求項3】
前記頭飾製品が、ヘアーウィッグ、かつら、ウィービング、ヘアーエクステンション、ブレードヘアー、ヘアーアクセサリー及びドールヘアーからなる群から選ばれる一種である請求項に記載の頭飾製品。
【請求項4】
請求項1に記載の人工毛髪用芯鞘複合繊維の製造方法であって、
芯部樹脂組成物及び鞘部樹脂組成物を芯鞘型複合ノズルを用いて溶融紡糸する工程を含み、
ノズルの設定温度における芯部樹脂組成物の溶融粘度aと鞘部樹脂組成物の溶融粘度bの粘度比a/bが2.0以上7.0以下であることを特徴とする、人工毛髪用芯鞘複合繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人毛の代替品として使用できる人工毛髪用芯鞘複合繊維、それを含む頭飾製品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
かつら、ヘアーウィッグ、付け毛、ヘアーバンド、ドールヘアー等の頭飾製品においては、従来、人毛が使われていたが、近年、人毛の入手が困難となり、人毛に代わる人工毛髪の需要が高まっている。人工毛髪は、人毛に近い触感や外観を有することが求められ、人工毛髪に用いられる合成繊維として、アクリル系繊維、塩化ビニル系繊維、塩化ビニリデン系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリオレフィン系繊維等がある。中でも、人毛に近い風合いが得られ、耐久性や耐熱性に優れる人工毛髪用繊維として、ポリエステルを芯成分とし、ポリアミドを鞘成分とする芯鞘複合繊維が開発されている(特許文献1)。当該芯鞘複合繊維は、285℃におけるポリエステルの溶融粘度aとポリアミドの溶融粘度bの粘度比a/bを0.5~2.5にすることで、耐久性、耐熱性に優れた人工毛髪用繊維が得られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開公報2017/187843号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の繊維は、耐久性の指標として220℃に加熱した際の熱による芯と鞘の剥離強度(耐剥離性と称す場合がある。)を評価しているが、耐剥離性は、使用者が実際に装着するときの温度つまり、室温(20±5℃)での耐剥離性が重要であるが、室温での耐剥離性については何ら述べられていない。また、溶融粘度を規定している285℃に何ら根拠がなく、耐剥離性を検討している220℃との相関性が見られず、285℃における芯鞘成分の溶融粘度比を小さくしても、室温での人工毛髪用繊維の芯と鞘との界面剥離は生じるため、耐剥離性は低いままであり、その結果触感及び櫛通り性が悪くなるという課題は残ったままであり、さらに、繊維製造の歩留まりの観点からも改善の余地があった。
【0005】
本発明は、上述した従来の課題を解決するため、人毛に近い触感を有し、室温における耐剥離性に優れ、櫛通り性が良好な人工毛髪用芯鞘複合繊維及び頭飾製品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、1以上の実施形態において、芯部と鞘部で構成された人工毛髪用芯鞘複合繊維であって、前記人工毛髪用芯鞘複合繊維は、扁平多葉形の断面形状を有し、繊維断面における芯鞘比率が面積比で芯:鞘=2:8~9:1であり、芯部樹脂組成物の溶融粘度aと鞘部樹脂組成物の溶融粘度bの粘度比a/bが2.0以上7.0以下であることを特徴とする人工毛髪用芯鞘複合繊維に関する。
【0007】
本発明は、また、1以上の実施形態において、前記の人工毛髪用芯鞘複合繊維を含むことを特徴とする頭飾製品に関する。
【0008】
本発明は、また、1以上の実施形態において、前記の人工毛髪用芯鞘複合繊維の製造方法であって、芯部樹脂組成物及び鞘部樹脂組成物を芯鞘型複合ノズルを用いて溶融紡糸する工程を含み、芯鞘型複合ノズルの設定温度における芯部樹脂組成物の溶融粘度aと鞘部樹脂組成物の溶融粘度bの粘度比a/bが2.0以上7.0以下である人工毛髪用芯鞘複合繊維の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、人毛に近い触感を有し、室温における耐剥離性に優れ、櫛通り性が良好な人工毛髪用芯鞘複合繊維及びそれを含む頭飾製品を提供することができる。
本発明の製造方法によれば、人毛に近い触感を有し、室温における耐剥離性に優れ、櫛通り性が良好な人工毛髪用芯鞘複合繊維を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の一実施形態の人工毛髪用芯鞘複合繊維の繊維断面を示す模式図である。
図2図2は、実施例1の繊維の繊維断面のレーザー顕微鏡写真である。
図3図3は、比較例1の繊維の繊維断面のレーザー顕微鏡写真である。
図4図4は、比較例2の繊維の繊維断面のレーザー顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、繊維断面を扁平多葉形とし、繊維断面における芯鞘比率を面積比で芯:鞘=2:8~9:1とし、芯部樹脂組成物の溶融粘度aと前記鞘部樹脂組成物の溶融粘度bの、人工繊維製造の紡糸時のノズル設定温度における粘度比a/bを、2.0以上7.0以下とすることにより、人毛に近い触感と外観を有し、室温における耐剥離性の高い人工毛髪用繊維が得られることを見出し、本発明に至った。
【0012】
<芯鞘複合繊維の形状>
本発明の1以上の実施形態において、人工毛髪用芯鞘複合繊維は、芯部と鞘部で構成され、扁平多葉形の断面形状を有する。好ましくは、芯部も扁平多葉形の断面形状を有する。前記扁平多葉形は、特に限定されないが、例えば、円形及び楕円形からなる群から選ばれる二つ以上の葉形が凹部を介して結合したものが挙げられ、葉形の数が2~10であってもよく、2~8であってもよい。生産性の観点から、二つの円形及び/又は楕円形が凹部を介して結合した扁平二葉形であることが好ましい。また、円形又は楕円形の形状は、必ずしも連続した弧を描く必要はなく、鋭角な角でなければ一部が変形した略円形又は略楕円形も含む。また、添加剤等を含むことにより繊維断面および芯部外周に生じる2μm以下の凹凸は考慮しなくてもよい。
【0013】
前記人工毛髪用芯鞘複合繊維は、扁平多葉形の繊維断面を有することにより、繊維表面に凹部と凸部が存在し、平坦な面積が減少することで光の反射が低減する。具体的には、前記人工毛髪用芯鞘複合繊維が二つの円形及び/又は楕円形が凹部を介して結合した扁平二葉形の断面形状を有する場合には、二つの凹部の両側には凸部が4箇所存在する。これにより光の反射が低減し、人毛に近似した光沢になりやすい。
【0014】
図1は、本発明の1以上の実施形態の人工毛髪用芯鞘複合繊維の繊維断面を示す模式図である。該実施形態の人工毛髪用芯鞘複合繊維1は、鞘部10と芯部20で構成され、繊維及び芯部のいずれも二つの楕円形が凹部を介して結合した扁平二葉形の断面を有する。具体的には、繊維断面において、線対称軸及び線対称軸に平行するように繊維断面の外周の任意の二点を結んだ直線のうち、最大長となる直線である繊維断面長軸の長さ(Lと称す。)と、前記繊維断面長軸に対して垂直になるように繊維断面の外周の任意の二つの点を結んだ際、最大長となる二つの点を結ぶ直線である繊維断面第1短軸の長さ(S1と称す。)が下記式(1)を満たすことが好ましい。
L/S1=1.1以上2.0以下 (1)
【0015】
また、繊維断面において、線対称軸及び線対称軸に平行するように芯部断面の外周の任意の二点を結んだ直線のうち、最大長となる直線である芯部断面長軸の長さ(Lcと称す。)と、前記芯部断面長軸に対して垂直になるように繊維断面の外周の任意の二つの点を結んだ際、最大長となる二つの点を結ぶ直線である繊維断面第1短軸の長さ(S1cと称す。)が下記式(2)を満たすことが好ましい。
Lc/S1c=1.1以上2.0以下 (2)
【0016】
前記人工毛髪用芯鞘複合繊維の芯鞘比率は面積比で芯:鞘=2:8~9:1の範囲である。芯鞘比率がこの範囲であることにより、触感や質感など人毛に近くなるため、人毛と同質の人工毛髪が得られる。この範囲よりも芯部が少ないと、人毛より低くなるため、人毛と同質の人工毛髪が得られず、逆に、この範囲より芯部が多いと、人毛に近似しなくなる上、鞘が極めて薄くなるため芯が露出しやすくなり、好ましくない。人毛と同質の触感や風合いなどを得る観点から、前記人工毛髪用芯鞘複合繊維の芯鞘比率は面積比で芯:鞘=3:7~8:2の範囲である。
【0017】
前記人工毛髪用芯鞘複合繊維において、繊維断面と芯部断面は、繊維断面長軸方向と芯部断面長軸方向が略一致した同一の扁平多葉形の断面形状を有することが好ましい。繊維断面と芯部断面の長軸方向が略一致した同一の扁平多葉形である場合、繊維断面において、繊維断面の外周形状と芯部の外周形状が相似形であるため、鞘の厚みが均一となり、人工毛髪として良好な触感と外観を維持した上で、芯部の表面への露出を防止することができる。また繊維断面と芯部断面が扁平多葉形の形状を有することにより、芯鞘界面に凹部と凸部が存在することにより、曲げなどの変形により芯鞘界面に生じる応力を分散することができるため、二成分の剥離による繊維の分離を防止することができる。さらに、繊維断面と芯部断面の長軸方向が略一致しているため、断面2次モーメントに由来する曲げ弾性率の異方性も繊維全体と芯部で一致し、触感や櫛通りといった人工毛髪に必要とされる品質を容易に調整することもできる。上述した繊維及び芯部の断面形状は、目的の断面形状に近い形状を有するノズル(孔)を使用することにより制御することができる。
【0018】
前記人工毛髪用芯鞘複合繊維は、人工毛髪に適するという観点から、単繊維繊度が10dtex以上150dtex以下であることが好ましく、より好ましくは30dtex以上120dtex以下であり、さらに好ましくは40dtex以上100dtex以下であり、特に好ましくは50dtex以上90dtex以下である。
【0019】
前記人工毛髪用芯鞘複合繊維は、必ずしも全ての繊維が同一の繊度、断面形状を有する必要はなく、異なる繊度、断面形状を有する繊維が混在していてもよい。また、上記人工毛髪用芯鞘複合繊維の繊維断面において、芯部と鞘部の剥離を防止するためには、芯部は繊維表面に露出せず鞘部に完全に覆われていることが好ましい。
【0020】
<溶融粘度>
芯部樹脂組成物又は鞘部樹脂組成物の溶融粘度は、ペレット状の樹脂組成物を吸水率(水分量とも称される。)が1000ppm以下になるように除湿乾燥し、樹脂組成物のサンプル量20cc、ピストンスピード200mm/min、キャピラリー長20mm、キャピラリー径1mmの条件で、繊維化時の温度、すなわち紡糸時のノズル温度を設定温度として測定した値である。難燃剤、顔料などの添加剤を含有させる場合は、予め一般的な混練機を用いて樹脂と添加剤を溶融混練してペレット化したものを用いる。例えば、測定機器はダイニスコ社製のキャピラリーレオメータLCR7000が挙げられる。
【0021】
前記人工毛髪用芯鞘複合繊維において、人工繊維製造の紡糸時の芯部樹脂組成物の溶融粘度aと前記鞘部樹脂組成物の溶融粘度bの粘度比a/bは2.0以上7.0以下である。粘度比a/bをこの範囲内とすることにより、ノズル形状を再現した断面形状を得ることができ、好ましくは繊維断面と芯部断面が、繊維断面長軸方向と芯部断面長軸方向が略一致した同一の扁平多葉形の断面形状を有する芯鞘複合繊維を得ることができる。芯鞘複合繊維は、繊維化時の芯部樹脂組成物と鞘部樹脂組成物の粘度比によって芯部の断面形状が大きく変化し、粘度比a/bが小さいほど芯部の断面形状の変化が大きくなる。そのため、粘度比a/bが2.0未満ではノズル形状通りに芯部の断面を成形することが困難となり、耐剥離性が低下する要因となる。また、粘度比a/bが7.0を超える場合は、鞘成分の粘度が低すぎて複合紡糸ノズル内の樹脂流動が不安定となり、安定的に紡糸することが困難となる。
【0022】
<繊維組成>
前記人工毛髪用芯鞘複合繊維の組成は、特に限定されない。例えば、上記人工毛髪用芯鞘複合繊維は、ポリエステル系樹脂組成物、ポリアミド系樹脂組成物、塩化ビニル系樹脂組成物、モダアクリル系樹脂組成物、ポリカーボネート系樹脂組成物、ポリオレフィン系樹脂組成物、ポリフェニレンサルファイド系樹脂組成物などの樹脂組成物で構成することができる。また、これらの樹脂組成物を2種類以上組み合わせてもよい。さらに、難燃性の観点から、難燃剤を併用することもでき、ポリエステル系樹脂と臭素系高分子難燃剤を含むポリエステル系樹脂組成物や、ポリアミド系樹脂と臭素系高分子難燃剤を含むポリアミド系樹脂組成物などが好ましく用いられる。前記人工毛髪用芯鞘複合繊維は、耐熱性と難燃性の観点から、芯部及び/又は鞘部が、ポリエステル樹脂と臭素系高分子難燃剤を含むポリエステル系樹脂組成物で構成されることが好ましい。具体的には、ポリエステル樹脂と、臭素系高分子難燃剤を含むポリエステル系樹脂組成物を溶融紡糸した繊維を用いることができる。より好ましくは、ポリアルキレンテレフタレート及びポリアルキレンテレフタレートを主体とした共重合ポリエステルからなる群から選ばれる1種以上のポリエステル樹脂100重量部と、臭素系高分子難燃剤5重量部以上40重量部以下を含むポリエステル系樹脂組成物で構成されている。
【0023】
前記ポリアルキレンテレフタレートとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレートなどが挙げられる。上記ポリアルキレンテレフタレートを主体とする共重合ポリエステルとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレートなどのポリアルキレンテレフタレートを主体とし、他の共重合成分を含有する共重合ポリエステルなどが挙げられる。本発明の一実施形態において、「ポリアルキレンテレフタレートを主体とする共重合ポリエステル」は、ポリアルキレンテレフタレートを80モル%以上含有する共重合ポリエステルをいう。
【0024】
前記他の共重合成分としては、例えば、イソフタル酸、オルトフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、パラフェニレンジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの多価カルボン酸及びそれらの誘導体;5-ナトリウムスルホイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジヒドロキシエチルなどのスルホン酸塩を含むジカルボン酸及びそれらの誘導体;1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、4-ヒドロキシ安息香酸、ε-カプロラクトン、ビスフェノールAのエチレングリコールエーテルなどが挙げられる。
【0025】
前記共重合ポリエステルは、安定性及び操作の簡便性の点から、主体となるポリアルキレンテレフタレートに少量の他の共重合成分を含有させて反応させることにより製造するのが好ましい。ポリアルキレンテレフタレートとしては、テレフタル酸及び/又はその誘導体(例えば、テレフタル酸メチル)と、アルキレングリコールとの重合体を用いることができる。前記共重合ポリエステルは、主体となるポリアルキレンテレフタレートの重合に用いるテレフタル酸及び/又はその誘導体(例えば、テレフタル酸メチル)と、アルキレングリコールとの混合物に、少量の他の共重合成分であるモノマーあるいはオリゴマー成分を含有させたものを重合させることにより製造してもよい。
【0026】
前記共重合ポリエステルは、主体となるポリアルキレンテレフタレートの主鎖及び/又は側鎖に上記他の共重合成分が重縮合していればよく、共重合の方法などには特別な限定はない。
【0027】
前記ポリアルキレンテレフタレートを主体とする共重合ポリエステルの具体例としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートを主体とし、ビスフェノールAのエチレングリコールエーテル、1,4-シクロヘキサジメタノール、イソフタル酸及び5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジヒドロキシエチルからなる群から選ばれる一種の化合物を共重合したポリエステルなどが挙げられる。
【0028】
前記ポリアルキレンテレフタレート及び前記ポリアルキレンテレフタレートを主体とする共重合ポリエステルは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、ポリエチレンテレフタレート;ポリプロピレンテレフタレート;ポリブチレンテレフタレート;ポリエチレンテレフタレートを主体とし、ビスフェノールAのエチレングリコールエーテルを共重合したポリエステル;ポリエチレンテレフタレートを主体とし、1,4-シクロヘキサンジメタノールを共重合したポリエステル;ポリエチレンテレフタレートを主体とし、イソフタル酸を共重合したポリエステル;及びポリエチレンテレフタレートを主体とし、5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジヒドロキシエチルを共重合したポリエステルなどを単独又は2種以上組み合わせて用いることが好ましい。
【0029】
前記ポリエステル樹脂の固有粘度(IV値と称す場合がある)は、特に限定されないが、0.3以上1.2以下であることが好ましく、0.4以上1.0以下であることがより好ましい。固有粘度が0.3以上であると、得られる繊維の機械的強度が低下せず、燃焼試験時にドリップする恐れもない。また、固有粘度が1.2以下であると、分子量が増大しすぎず、溶融粘度が高くなり過ぎることがなく、溶融紡糸が容易となるうえ、繊度も均一になりやすい。
【0030】
前記臭素系高分子難燃剤としては、特に限定されないが、例えば、耐熱性及び難燃性の観点から、臭素化エポキシ系難燃剤を用いることが好ましい。前記臭素化エポキシ系難燃剤は、原料としては分子末端がエポキシ基又はトリブロモフェノールからなる臭素化エポキシ系難燃剤を用いることができるが、臭素化エポキシ系難燃剤の溶融混練後の構造は、特に限定されず、下記式(1)に示す構成ユニットと下記式(1)の少なくとも一部が改変した構成ユニットの総数を100モル%とした場合、80モル%以上が下記式(1)で示す構成ユニットであることが好ましい。前記臭素化エポキシ系難燃剤は、溶融混練後に、構造が分子末端で変化してもよい。例えば、前記臭素化エポキシ系難燃剤の分子末端がエポキシ基又はトリブロモフェノール以外の水酸基、リン酸基、ホスホン酸基などに置換されていてもよく、分子末端がポリエステル成分とエステル基で結合していてもよい。
【0031】
【化1】
【0032】
また、臭素化エポキシ系難燃剤の分子末端以外の構造の一部が変化してもよい。例えば、臭素化エポキシ系難燃剤の二級水酸基とエポキシ基が結合して分岐構造となっていてもよく、臭素化エポキシ系難燃剤分子中の臭素含有量が大きく変化しなければ、前記式(1)の臭素の一部が脱離又は付加してもよい。
【0033】
前記臭素化エポキシ系難燃剤としては、例えば、下記式(2)に示しているような高分子型の臭素化エポキシ系難燃剤が好ましく用いられる。下記式(2)において、mは1~1000である。下記式(2)に示しているような高分子型の臭素化エポキシ系難燃剤としては、例えば、阪本薬品工業株式会社製の臭素化エポキシ系難燃剤(商品名「SR-T2MP」)などの市販品を用いてもよい。
【0034】
【化2】
【0035】
本発明に用いられるポリアミド系樹脂は、ラクタム、アミノカルボン酸、ジカルボン酸及びジアミンの混合物、ジカルボン酸誘導体及びジアミンの混合物、並びにジカルボン酸及びジアミンの塩からなる群から選ばれる1種以上を、重合して得られるナイロン樹脂を意味する。
【0036】
前記ラクタムの具体例としては、特に限定されないが、例えば、2-アゼチジノン、2-ピロリジノン、δ-バレロラクタム、ε-カプロラクタム、エナントラクタム、カプリルラクタム、ウンデカラクタム、及びラウロラクタムなどを挙げることができる。これらのうち、ε-カプロラクタム、ウンデカラクタム、及びラウロラクタムが好ましく、特にε-カプロラクタムが好ましい。これらのラクタムは、1種で用いてもよく、2種以上の混合物で使用することもできる。
【0037】
前記アミノカルボン酸の具体例としては、特に限定されないが、例えば、6-アミノカプロン酸、7-アミノヘプタン酸、8-アミノオクタン酸、9-アミノノナン酸、10-アミノデカン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸などを挙げることができる。これらのうち、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、及び12-アミノドデカン酸が好ましく、特に6-アミノカプロン酸が好ましい。これらのアミノカルボン酸は、1種で用いてもよく、2種以上の混合物で使用することもできる。
【0038】
前記ジカルボン酸及びジアミンの混合物、ジカルボン酸誘導体及びジアミンの混合物、又はジカルボン酸及びジアミンの塩で用いられるジカルボン酸の具体例としては、特に限定されないが、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、ブラシリン酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、オクタデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸などが挙げられる。これらのうち、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、及びイソフタル酸が好ましく、特にアジピン酸、テレフタル酸、及びイソフタル酸が好ましい。これらのジカルボン酸は、1種で用いてもよく、2種以上の混合物で使用することもできる。
【0039】
前記ジカルボン酸及びジアミンの混合物、ジカルボン酸誘導体及びジアミンの混合物、又はジカルボン酸及びジアミンの塩で用いられるジアミンの具体例としては、特に限定されないが、例えば、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、2-メチル-1,5-ジアミノペンタン(MDP)、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,11-ジアミノウンデカン、1,12-ジアミノドデカン、1,13-ジアミノトリデカン、1,14-ジアミノテトラデカン、1,15-ジアミノペンタデカン、1,16-ジアミノヘキサデカン、1,17-ジアミノヘプタデカン、1,18-ジアミノオクタデカン、1,19-ジアミノノナデカン、1,20-ジアミノエイコサンなどの脂肪族ジアミン、シクロヘキサンジアミン、ビス-(4-アミノヘキシル)メタンなどの脂環式ジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミンなどの芳香族ジアミンなどが挙げられる。これらのうち、特に脂肪族ジアミンが好ましく、とりわけヘキサメチレンジアミンが好ましく用いられる。これらのジアミンは、1種で用いてもよく、2種以上の混合物で使用することもできる。
【0040】
前記ポリアミド系樹脂(ナイロン樹脂と称す場合がある)としては、特に限定されないが、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6・10、ナイロン6・12、ナイロン6T及び/又は6I単位を含有する半芳香族ナイロン、並びにこれらナイロン樹脂の共重合体などを用いることが好ましい。とりわけ、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6及びナイロン66の共重合体がより好ましい。
【0041】
前記ポリアミド系樹脂は、例えば、ポリアミド系樹脂原料を触媒の存在下または不存在下で加熱して行うポリアミド系樹脂重合方法により製造することができる。その重合時に攪拌はあっても無くてもよいが、均質な生成物を得るには攪拌した方が好ましい。重合温度は目的とする重合物の重合度、反応収率、反応時間に応じて任意に設定可能であるが、最終的に得られるポリアミド系樹脂の品質を考慮すれば低温の方が好ましい。反応率についても任意に設定できる。圧力について制限はないが揮発性成分を効率よく系外に抜出すためには系内を減圧とすることが好ましい。
【0042】
本発明に用いられるポリアミド系樹脂は、必要に応じてカルボン酸化合物及びアミン化合物等の末端封鎖剤で末端を封鎖してもよい。モノカルボン酸又はモノアミンを添加して末端を封鎖する場合に、得られるポリアミド系樹脂の末端アミノ基又は末端カルボキシル基濃度は、当該末端封鎖剤を使用しない場合に比べて低下する。一方、ジカルボン酸又はジアミンで末端封鎖する場合には末端アミノ基と末端カルボキシル基濃度の和は変化しないが、末端アミノ基と末端カルボキシル基との濃度の比率が変化する。
【0043】
前記カルボン酸化合物の具体例としては、特に限定されないが、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、ウンデカン酸、ラウリル酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ミリストレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、アラキン酸などの脂肪族モノカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、メチルシクロヘキサンカルボン酸などの脂環式モノカルボン酸、安息香酸、トルイル酸、エチル安息香酸、フェニル酢酸などの芳香族モノカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、ブラシリン酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、オクタデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸などが挙げられる。
【0044】
前記アミン化合物の具体例としては、特に限定されないが、例えば、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、ノナデシルアミン、イコシルアミンなどの脂肪族モノアミン、シクロヘキシルアミン、メチルシクロヘキシルアミンなどの脂環式モノアミン、ベンジルアミン、β-フェニルエチルアミンなどの芳香族モノアミン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,11-ジアミノウンデカン、1,12-ジアミノドデカン、1,13-ジアミノトリデカン、1,14-ジアミノテトラデカン、1,15-ジアミノペンタデカン、1,16-ジアミノヘキサデカン、1,17-ジアミノヘプタデカン、1,18-ジアミノオクタデカン、1,19-ジアミノノナデカン、1,20-ジアミノエイコサンなどの脂肪族ジアミン、シクロヘキサンジアミン、ビス-(4-アミノヘキシル)メタンなどの脂環式ジアミン、キシリレンジアミンなどの芳香族ジアミンなどが挙げられる。
【0045】
前記ポリアミド系樹脂の末端基濃度に特に制限はないが、繊維用途で染色性を高める必要がある場合や樹脂用途でアロイ化に適した材料を設計する場合などには末端アミノ基濃度が高い方が好ましい。また、長期エージング条件下での着色やゲル化を抑制したい場合などは逆に末端アミノ基濃度が低い方が好ましい。更に再溶融時のラクタム再生、オリゴマー生成による溶融紡糸時の糸切れ、連続射出成形時のモールドデポジット、フィルムの連続押出におけるダイマーク発生を抑制したい場合には末端カルボキシル基濃度及び末端アミノ基濃度が共に低い方が好ましい。適用する用途によって末端基濃度を調製すればよいが、末端アミノ基濃度、末端カルボキシル基濃度共に、好ましくは、1.0×10-5~15.0×10-5eq/g、より好ましくは2.0×10-5~12.0×10-5eq/g、特に好ましくは3.0×10-5~11.0×10-5eq/gである。
【0046】
また、末端封鎖剤の添加方法としては重合初期にカプロラクタムなどの原料と同時に仕込む方法、重合途中で添加する方法、ナイロン樹脂を溶融状態で縦型攪拌式薄膜蒸発機を通過させる際に添加する方法などが採用される。末端封鎖剤はそのまま添加してもよいし、少量の溶剤に溶解して添加してもよい。
【0047】
前記人工毛髪用芯鞘複合繊維は、触感と外観を人毛により近似させ、カール性及びカール保持性をより向上させる観点から、芯部をポリアルキレンテレフタレート及びポリアルキレンテレフタレートを主体とした共重合ポリエステルからなる群から選ばれる1種以上のポリエステル樹脂を主成分とするポリエステル系樹脂組成物で構成することが好ましく、鞘部をナイロン6及びナイロン66からなる群から選ばれる少なくとも1種を主体としたポリアミド系樹脂を主成分とするポリアミド系樹脂組成物で構成することがより好ましい。本発明の一実施形態において、「ナイロン6及びナイロン66からなる群から選ばれる少なくとも1種を主体としたポリアミド系樹脂」とは、ナイロン6及び/又はナイロン66を80モル%以上含むポリアミド系樹脂を意味する。
【0048】
本発明の1以上の実施形態において、「主成分樹脂」とは、樹脂組成物に含まれる樹脂中含有量が最も多い樹脂のことを意味する。
【0049】
芯部を構成するポリエステル系樹脂組成物は、主成分樹脂であるポリエステル系樹脂に加えて他の樹脂を含んでも良い。前記ポリエステル系樹脂組成物における樹脂の合計を100重量%とした場合、主成分樹脂であるポリエステル系樹脂を50重量%より多く含むことが好ましく、70重量%以上含むことがより好ましく、85重量%以上含むことがさらに好ましく、90重量%以上含むことがさらにより好ましく、95重量%以上含むことがさらにより好ましく、100重量%からなることがさらにより好ましい。他の樹脂としては、例えば、ポリアミド系樹脂、塩化ビニル系樹脂、モダアクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
鞘部を構成するポリアミド系樹脂組成物は、主成分樹脂であるポリアミド系樹脂に加えて他の樹脂を含んでも良い。前記ポリアミド系樹脂組成物における樹脂の合計を100重量%とした場合、主成分樹脂であるポリアミド系樹脂を50重量%より多く含むことが好ましく、70重量%以上含むことがより好ましく、85重量%以上含むことがさらに好ましく、90重量%以上含むことがさらにより好ましく、95重量%以上含むことがさらにより好ましく、100重量%からなることがさらにより好ましい。他の樹脂としては、例えば、ポリエステル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、モダアクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0051】
前記人工毛髪用芯鞘複合繊維は、必要に応じて、本発明の効果を阻害しない範囲内で、臭素化エポキシ系難燃剤以外の難燃剤、難燃助剤、耐熱剤、安定剤、蛍光剤、酸化防止剤、静電防止剤、顔料などの各種添加剤を含有してもよい。
【0052】
前記臭素化エポキシ系難燃剤以外の難燃剤としては、例えば、リン含有難燃剤や臭素含有難燃剤などが挙げられる。前記リン含有難燃剤として、例えば、リン酸エステルアミド化合物、有機環状リン系化合物などが挙げられる。上記臭素含有難燃剤としては、例えば、ペンタブロモトルエン、ヘキサブロモベンゼン、デカブロモジフェニル、デカブロモジフェニルエーテル、ビス(トリブロモフェノキシ)エタン、テトラブロモ無水フタル酸、エチレンビス(テトラブロモフタルイミド)、エチレンビス(ペンタブロモフェニル)、オクタブロモトリメチルフェニルインダン、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェートなどの臭素含有リン酸エステル類;臭素化ポリスチレン類;臭素化ポリベンジルアクリレート類;臭素化フェノキシ樹脂;臭素化ポリカーボネートオリゴマー類;テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA-ビス(アリルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA-ビス(ヒドロキシエチルエーテル)などのテトラブロモビスフェノールA誘導体;トリス(トリブロモフェノキシ)トリアジンなどの臭素含有トリアジン系化合物;トリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレートなどの臭素含有イソシアヌル酸系化合物などが挙げられる。中でも、リン酸エステルアミド化合物、有機環状リン系化合物、及び臭素化フェノキシ樹脂系難燃剤からなる群から選ばれる一種以上が難燃性に優れている点で好ましい。
【0053】
前記難燃助剤としては、例えば、アンチモン系化合物やアンチモンを含む複合金属などが挙げられる。前記アンチモン系化合物としては、例えば、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウム、アンチモン酸カリウム、アンチモン酸カルシウムなどが挙げられる。難燃性改良効果や触感への影響から、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、及びアンチモン酸ナトリウムからなる群から選ばれる一種以上がより好ましい。
【0054】
前記人工毛髪用芯鞘複合繊維がポリエステル系樹脂組成物などの熱可塑性樹脂組成物で構成される場合は、熱可塑性樹脂組成物を種々の一般的な混練機を用いて溶融混練してペレット化した後、芯鞘型複合口金を用いて、溶融紡糸することにより人工毛髪用芯鞘複合繊維を作製することができる。例えば、上記人工毛髪用芯鞘複合繊維がポリエステル系樹脂組成物で構成される場合は、以下のような製造方法で作製することができる。上述したポリエステル樹脂、臭素化エポキシ系難燃剤などの各成分をドライブレンドしたポリエステル系樹脂組成物を、種々の一般的な混練機を用いて溶融混練してペレット化した後、溶融紡糸することにより作製することができる。前記ポリエステル系樹脂組成物は、必要に応じて、ポリカーボネート系樹脂などの他の熱可塑性樹脂を含んでもよい。また、上記人工毛髪用芯鞘複合繊維がポリアミド系樹脂組成物で構成される場合は、ポリアミド系樹脂組成物を、種々の一般的な混練機を用いて溶融混練してペレット化した後、溶融紡糸することにより作製することができる。前記混練機としては、例えば、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、ニーダーなどが挙げられる。中でも、二軸押出機が、混練度の調整、操作の簡便性の点から好ましい。
【0055】
<製造方法>
本発明の繊維の製造方法としては、溶融紡糸法が好ましく、例えば、ポリエステル系樹脂組成物の場合は、押出機、ギアポンプ、ノズルなどの温度を250℃以上300℃以下とし、溶融紡糸し、紡出糸条を加熱筒に通過させた後、ポリエステル樹脂のガラス転移点以下に冷却し、50m/分以上5000m/分以下の速度で引き取ることにより紡出糸条(未延伸糸)が得られる。また、ポリアミド系樹脂組成物の場合は、押出機、ギアポンプ、ノズルなどの温度を260℃以上320℃以下とし、溶融紡糸し、紡出糸条を加熱筒に通過させた後、ポリアミド樹脂のガラス転移点以下に冷却し、50m/分以上5000m/分以下の速度で引き取ることにより紡出糸条(未延伸糸)が得られる。
【0056】
具体的には、溶融紡糸の際、芯部を構成する芯部樹脂組成物は溶融紡糸機の芯部用押出機で供給し、鞘部を構成する鞘部樹脂組成物は溶融紡糸機の鞘部用押出機で供給し、所定の形状を有する芯鞘型複合紡糸ノズル(孔)にて溶融ポリマーを吐出する。ここで、芯鞘型複合ノズルの設定温度における芯部樹脂組成物の溶融粘度aと鞘部樹脂組成物の溶融粘度bの粘度比a/bが2.0以上7.0以下である必要がある。これにより、人毛に近い触感を有し、室温における耐剥離性に優れ、櫛通り性が良好な人工毛髪用芯鞘複合繊維を得ることができる。
【0057】
また、紡出糸条を水や溶媒を入れた浴槽に通す工程を含むことで繊度のコントロールを行なうことも可能である。加熱筒の温度と長さ、冷却風の温度と吹付量、冷却水槽の温度、冷却時間及び引取速度は、ポリマーの吐出量及びノズルの孔数によって適宜調整することができる。
【0058】
紡出糸条(未延伸糸)は熱延伸されることが好ましい。延伸は、紡出糸条を一旦巻き取ってから延伸する2工程法と、紡出糸条を巻き取ることなく連続して延伸する直接紡糸延伸法のいずれの方法によって行ってもよい。熱延伸は、1段延伸法又は2段以上の多段延伸法で行なわれる。
【0059】
熱延伸における加熱手段としては、加熱ローラ、ヒートプレート、スチームジェット装置、温水槽などを使用することができ、これらを適宜併用することもできる。
【0060】
前記人工毛髪用芯鞘複合繊維に繊維処理剤、柔軟剤などの油剤を付与し、触感、風合いをより人毛に近づけてもよい。前記繊維処理剤としては、例えば、触感や櫛通り性を向上させるためのシリコーン系繊維処理剤や非シリコーン系繊維処理剤などが挙げられる。
【0061】
前記人工毛髪用芯鞘複合繊維は、ギアクリンプによる加工を施してもよい。これにより繊維に緩やかな屈曲を付与し、自然な外観が得られ、繊維間の密着性が低下することから櫛通り性も向上する。このギアクリンプによる加工では、一般的に、繊維を軟化温度以上に加熱した状態で2つの噛み合った歯車の間を通過させ、この歯車の形状を転写させることで繊維屈曲を発現させる。また、必要に応じて、繊維加工段階において、異なる温度で前記人工毛髪用芯鞘複合繊維を熱処理することで、異なる形状のカールを発現することができる。
【0062】
<頭飾製品>
人工毛髪用芯鞘複合繊維は、頭飾製品であれば特に限定することなく用いることができる。例えば、ヘアーウィッグ、かつら、ウィービング、ヘアーエクステンション、ブレードヘアー、ヘアーアクセサリー及びドールヘアーなどに用いることができる。
【0063】
前記頭飾製品は、本発明の人工毛髪用芯鞘複合繊維のみで構成されていてもよい。また、前記頭飾製品は、本発明の人工毛髪用芯鞘複合繊維に、他の人工毛髪用繊維、人毛や獣毛などの天然繊維を組み合わせてもよい。
【実施例
【0064】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0065】
実施例及び比較例で用いた測定方法及び評価方法は、以下のとおりである。
【0066】
(溶融粘度)
芯部及び鞘部に用いた水分量1000ppm以下に乾燥したペレット状の樹脂の溶融粘度を、サンプル量20cc、ピストンスピード200mm/min、キャピラリー長20mm、キャピラリー径1mmの条件で、繊維化時の温度、すなわち紡糸時のノズル温度を設定温度として測定した。
【0067】
(単繊維繊度)
オートバイブロ式繊度測定器「DENIER COMPUTER タイプDC-11」(サーチ社製)を使用して測定し、30個のサンプルの測定値の平均値を算出して単繊維繊度とした。
【0068】
(芯鞘界面の剥離)
室温(23℃)にて、繊維を束ね、繊維束がズレないように収縮チューブで固定した後、カッターで切断し、その際の芯と鞘の剥離の有無を、目視にて評価、あるいは、切断した繊維断面をレーザー顕微鏡(株式会社キーエンス社製、「VK-9500」)にて観察し評価した。
【0069】
(繊維断面の形状)
室温(23℃)にて、繊維を束ね、繊維束がズレないように収縮チューブで固定した後、カッターで輪切りにし、断面観察用繊維束を作製した。この繊維束をレーザー顕微鏡(株式会社キーエンス社製、「VK-9500」)にて500倍の倍率で撮影し、繊維断面写真を得た。繊維断面写真に基づいて、L/S1及びLc/SC1を求めた。
【0070】
(触感)
専門美容師による官能評価を行い、以下の4段階の基準で評価した。
A:人毛と同等の非常に良好な触感
B:人毛に比べやや劣るが良好な触感
C:人毛に比べ劣る悪い触感
D:人毛に比べ大きく劣る悪い触感
【0071】
(櫛通り性)
カールを完全に伸ばした状態で、繊維を長さが63.5cmになるように切断し、得られた繊維長が63.5cmの繊維5.0gを束ねた。その後、繊維束の中央を紐で括り、2つ折りにして紐の部分を固定して、ヘアーアイロン加工用の繊維束を作製した。次に、180℃に加熱したヘアーアイロン(米国IZUNAMI.INC社製、「IZUNAMI ITC450 フラットアイロン」)にて、繊維束を固定している根元から毛先までを圧着しながら加熱する操作を5回繰り返し、櫛通り性評価用の繊維束を作製した。その後、髪梳き用の櫛(ドイツ製、「MATADOR PROFESSIONAL 386.8 1/2F」)にて、櫛通り性評価用の繊維束を固定している根元から毛先まで100回櫛を通し、変形あるいは分裂した繊維の数から、以下の基準にて櫛通り性を評価した。
A:櫛を100回通して変形あるいは分裂した繊維は10本未満で、最後まで抵抗なく櫛が通る
B:櫛を100回通して変形あるいは分裂した繊維は10本以上30本未満で、途中で抵抗がやや強くなるが櫛は通るレベル
C:櫛を100回通して変形あるいは分裂した繊維は30本以上100本未満で、途中で抵抗が強くなり、櫛の通らないことが1回以上20回未満の確率で発生するレベル
D:櫛を100回通して変形あるいは分裂した繊維は100本以上で、途中で抵抗が強くなり、櫛の通らないことが20回以上の確率で発生するレベル
【0072】
(実施例1)
水分量1000ppm以下に乾燥したポリエチレンテレフタレートペレット(イーストマンケミカル社製、商品名「A-12」)とナイロン6ペレット(ユニチカ社製、商品名「A1030BRL)を溶融紡糸機に供給し、設定温度が270℃であり、表1に記載のノズル形状を有する芯鞘型複合紡糸ノズル(孔)より溶融ポリマーを吐出し、ガラス転移温度以下に冷却し、60~150m/分の速度で巻き取ってポリエチレンテレフタレート(PETと称す場合がある。)を芯部とし、ナイロン6(PA6と称す場合がある。)を鞘部とし、ポリエチレンテレフタレートとナイロン6の芯鞘比率が面積比で芯:鞘=5:5である芯鞘複合繊維の未延伸糸を得た。得られた未延伸糸を80℃で延伸を行い、3倍延伸糸とし、200℃に加熱したヒートロールを用いて、熱処理を行い、仕上げ油剤A(丸菱油化工業社製、商品名「KWC-Q」)を0.20omf(乾燥繊維重量に対する油剤純分重量百分率)、及び仕上げ油剤B(丸菱油化工業社製、商品名「KWC-B」)を0.10%omfとなるように付着させ、乾燥させた後、表1に示す単繊維繊度の複合繊維(マルチフィラメント)を得た。
【0073】
(実施例2)
芯部に用いる樹脂を水分量1000ppm以下に乾燥したポリエチレンテレフタレートペレット(ベルポリエステルプロダクツ社製、商品名「DFG1」とした以外は実施例1と同様にして複合繊維を得た。
【0074】
参考例3)
芯鞘比率を面積比で2:8に変更した以外は、実施例1と同様にして複合繊維を得た。
【0075】
参考例4)
芯鞘比率を面積比で8:2に変更した以外は、実施例1と同様にして複合繊維を得た。
【0076】
(実施例5)
鞘部に用いる樹脂を水分量1000ppm以下に乾燥したナイロン66(PA66と称す場合がある。)(東レ社製、商品名「アミランCM3001」)とし、ノズル設定温度280℃とした以外は実施例1と同様にして複合繊維を得た。
【0077】
(実施例6)
芯部に用いる樹脂を水分量1000ppm以下に乾燥したポリブチレンテレフタレートペレット(三菱ケミカル社製、商品名「ノバデュラン5020」とし、ノズル設定温度260℃とし、芯鞘比率を面積比で7:3に変更した以外は実施例1と同様にして複合繊維を得た。
【0078】
(比較例1)
表1に記載のノズル形状を有する芯鞘型複合紡糸ノズルを用いた以外は実施例1と同様にして複合繊維を得た。
【0079】
(比較例2)
鞘部に用いる樹脂を水分量1000ppm以下に乾燥したナイロン6(ユニチカ社製、商品名「A1030BRT」とした以外は実施例1と同様にして下複合繊維を得た。
【0080】
(比較例3)
芯鞘比率を面積比で1:9に変更した以外は、実施例1と同様にして複合繊維を得た。
【0081】
(比較例4)
芯鞘比率を面積比で9.5:0.5に変更した以外は、実施例1と同様にして複合繊維を得た。
【0082】
実施例及び比較例の繊維の芯鞘界面の剥離の有無及び断面形状を上述したとおりに評価観察した。また、実施例及び比較例の繊維の触感及び櫛通り性を上述したとおりに評価した。これらの結果を表1に示した。
【0083】
【表1】
【0084】
図2は、実施例1の繊維の繊維断面のレーザー顕微鏡写真である。図3及び4はそれぞれ、比較例1及び2の繊維の繊維断面のレーザー顕微鏡写真である。図3及び図4において、矢印で示している箇所は芯鞘剥離箇所である。
【0085】
表1及び図2から分かるように、実施例1、2、5及び6の繊維は、芯鞘界面の剥離が無く、人毛に似た触感を有し、櫛通り性も良好であった。一方、表1及び図3から分かるように、円形の断面を有する比較例1の繊維は、芯鞘界面に剥離が見られた。表1及び図4から分かるように、粘度比a/bの低い比較例2の場合、芯部の形状はノズルの形状とは異なる上、芯鞘界面に剥離が見られた。比較例3の繊維は、芯成分の比率が低すぎるためコシが無く、人毛と同等の触感が得られなかった。比較例4の繊維は、鞘成分の比率が低すぎるため芯部が繊維表面に露出してしまい、櫛通り性も非常に悪く、良好な繊維として成形できなかった。
【符号の説明】
【0086】
1 人工毛髪用芯鞘複合繊維(断面)
10 鞘部
20 芯部
図1
図2
図3
図4