(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】眼科装置の点検方法、眼科装置の点検用治具、及び眼科装置
(51)【国際特許分類】
A61B 3/10 20060101AFI20240717BHJP
【FI】
A61B3/10
(21)【出願番号】P 2020572324
(86)(22)【出願日】2020-02-14
(86)【国際出願番号】 JP2020005697
(87)【国際公開番号】W WO2020166684
(87)【国際公開日】2020-08-20
【審査請求日】2022-12-05
(31)【優先権主張番号】P 2019025957
(32)【優先日】2019-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000163006
【氏名又は名称】興和株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100186060
【氏名又は名称】吉澤 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100145458
【氏名又は名称】秋元 正哉
(72)【発明者】
【氏名】竹内 信彦
【審査官】相川 俊
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0293842(US,A1)
【文献】特開2011-087651(JP,A)
【文献】特開2009-022308(JP,A)
【文献】特開2001-275984(JP,A)
【文献】特開2018-187018(JP,A)
【文献】特開2002-165759(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼科装置の照明光学系を用いて照明された点検用被撮像体からの反射光を、前記眼科装置の撮像光学系を用いて受光し、前記点検用被撮像体を撮像するステップと、
撮像された前記点検用被撮像体の画像から色情報を抽出するステップと、
抽出された前記色情報とレファレンス用情報とを比較して、前記色情報が、所定の基準条件を満たすか否かを判定するステップと、
を備え、
前記点検用被撮像体の少なくとも表面に、前記照明光学系からの照明光を反射する光学薄膜が形成され
、
前記光学薄膜は複数の異なる厚み部分を有する
眼科装置の点検方法。
【請求項2】
前記基準条件に、抽出された前記色情報のうちの少なくとも色相値が、前記レファレンス用情報で規定される色相値の範囲内であるか否かの条件が含まれる、請求項1に記載の眼科装置の点検方法。
【請求項3】
更に、撮像された前記点検用被撮像体の画像から明るさ情報を抽出し、抽出された明るさ情報とレファレンス用情報とを比較して、前記明るさ情報が、所定の基準条件を満たすか否かを判定する、請求項1又は2に記載の眼科装置の点検方法。
【請求項4】
検査時に被検眼が配される、前記眼科装置の対物鏡筒と対向する位置に前記点検用被撮像体を配置し、前記点検用被撮像体を撮像する、請求項1から3のいずれか一項に記載の眼科装置の点検方法。
【請求項5】
撮像された前記画像から検査領域を切り出し、切り出された検査領域から少なくとも色情報を抽出する、請求項1から4のいずれか一項に記載の眼科装置の点検方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の眼科装置の点検方法に用いられ、
前記点検用被撮像体を備える、眼科装置の点検用治具。
【請求項7】
前記光学薄膜は、前記照明光を鏡面反射する、請求項6に記載の眼科装置の点検用治具。
【請求項8】
前記点検用被撮像体を保持する点検用被撮像体保持部を更に備え、
前記点検用被撮像体保持部は、前記眼科装置のうち検査時に被検眼に対向する、対物鏡筒の先端に装着される、請求項6から
7のいずれか一項に記載の眼科装置の点検用治具。
【請求項9】
請求項6から請求項
8のいずれか一項に記載の眼科装置の点検用治具を備える、眼科装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科装置の点検方法、眼科装置の点検用治具、及び眼科装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンやタブレット端末などの携帯型情報端末の普及により、所謂ドライアイを発症したドライアイ患者数が急増している。ドライアイは、角膜表面を覆う涙液層の減少に伴い、一部の角膜表面部分が涙液層に保護されずに外部に露出することに起因する眼科疾患である。ドライアイを発症することで、角膜上皮障害、結膜障害等の重度な疾患を併発する場合もあるため、ドライアイに対する適切な検査・治療が求められる。
【0003】
ドライアイ用検査装置の一つとして、被検眼に所定の検査光を照明し、涙液層での干渉縞を観察する涙液層観察装置が挙げられる(例えば、特許文献1)。この涙液層観察装置は、非接触・非侵襲で角膜上の涙液面の状態を観察できることから、被検者に過度な身体的負担を与えず、且つ検査作業を容易に行えるという利点を有する。
【0004】
ところで、涙液層観察装置のような、被検眼への照明光学系や照明された被検眼を撮像する撮像光学系を備えた眼科装置の場合、例えば、装置購入後の使用環境等によって、各光学系要素の表面や内部状態、あるいは各光学系要素間の位置・角度関係に変化が生じ得る。一般に眼科装置の各光学系要素は、非常に精密にセットアップされているため、前記のような変化が僅かでも生じた場合、得られる被検眼画像の状態(質)も大きく変わり得る。従って、このような眼科装置の場合、例えば前記した光学系要素に関して、ユーザー側でも実施可能な点検方法を提示することが望ましい。
【0005】
ここで、眼科装置の点検(校正)技術の一例が、特許文献2に開示されている。特許文献2に示される技術は、レーザー光の集光点の位置近傍に配置される反射板を備え、反射板は、レーザー光による反射板からの表面反射光または裏面反射光が受光手段に受光されることのないように配置され、レーザー光を反射板に照射したときの反射板からの散乱光を測定することにより校正が行なわれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平10-33483号公報
【文献】特開2007-82640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に開示の技術において、前記反射板内部から得られる散乱光強度の情報は、反射板の形状的特徴や色情報といった画像に視覚的に現れる情報を直接示すものではない。そのため、特許文献2に開示の技術は、前述の涙液層観察装置で得られる画像の点検には不向きである。
【0008】
また、特許文献2に開示の技術は、反射板内部からの散乱光のみを受光し、反射板表面や裏面からの反射光を受光しないよう、校正に用いる各器材の位置関係等を調整する必要がある。よって、校正を行うまでに相応の手間が掛かる。更に、前記反射板は、被検眼前房の疑似体として機能する部材であるところ、前房内のたんぱく質と同様の散乱特性を備える必要がある。従って、特許文献2に開示の技術の場合、このような特性を有する反射板を特別に準備する必要があり、それに伴い作製コストが増加する。
【0009】
これらの課題に鑑み、本発明は、涙液層観察装置のような被検眼を撮像する眼科装置の点検を行うにあたり各器材の調整に過度な作業負担を伴うことなく、且つ撮像された画像が被撮像体の状態を適確に反映するものか否かに係る撮影能力の良否判定を再現性良く行うことができる眼科装置の点検方法の提供を目的とする。また、前記眼科装置の点検方法を実施する際に用いられる点検用治具、及び前記点検用治具を備えた眼科装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述した課題を解決するため、本発明に係る眼科装置の点検方法は、
眼科装置の照明光学系を用いて照明された点検用被撮像体からの反射光を、前記眼科装置の撮像光学系を用いて受光し、前記点検用被撮像体を撮像するステップと、
撮像された前記点検用被撮像体の画像から色情報を抽出するステップと、
抽出された前記色情報とレファレンス用情報とを比較して、前記色情報が、所定の基準条件を満たすか否かを判定するステップと、
を備え、
前記点検用被撮像体の少なくとも表面に、前記照明光学系からの照明光を反射する光学薄膜が形成され、前記光学薄膜は複数の異なる厚み部分を有することを特徴とする。
【0011】
本発明の前記態様によれば、点検用被撮像体からの反射光を用いて点検を行うため、点検作業及びその準備作業に過度な負担を伴わない。また、点検時に撮像した点検用被撮像体の画像の外観的状態を端的に示す色情報に基づき点検を行うため、眼科装置における前記撮影能力の良否判定を再現性良く行うことができる。なお、本発明に係る眼科装置の点検方法は、涙液層観察装置のみならず、例えば眼底検査装置のような、被検査体への照明光学系や撮像光学系を備える他の眼科装置の点検方法としても利用できる。
また本発明の前記態様によれば、光学薄膜を少なくとも表面に備えるため、色情報を含む反射光がより明瞭に得られる。これにより、例えば、点検時に撮像した点検用被撮像体の画像と、点検用のレファレンス画像との色情報の違いをより明確に識別することができる。その結果、前記判定の精度をより高めることができる。
また本発明の前記態様によれば、光学薄膜は複数の異なる厚み部分を有するので、各厚み部分から異なる色(波長帯)の反射光を得ることができる。これにより、レファレンス用情報との比較時に選択可能な色情報のバリエーションを増やすことができる。
【0012】
また、本発明に係る眼科装置の点検方法は、
前記基準条件に、抽出された前記色情報のうちの少なくとも色相値(Hue値)が、前記レファレンス用情報で規定される色相値の範囲内であるか否かの条件が含まれることが好ましい。
【0013】
本発明の前記態様によれば、点検用被撮像体画像の色情報のうち、より明確に色の違いを識別できる色相値に基づいて眼科装置における前記撮影能力の良否判定を行う。これにより、前記判定の精度をより高めることができる。
【0014】
更に、本発明に係る眼科装置の点検方法は、
撮像された前記点検用被撮像体の画像から明るさ情報を抽出し、抽出された明るさ情報とレファレンス用情報とを比較して、前記明るさ情報が、所定の基準条件を満たすか否かを判定することが好ましい。
【0015】
本発明の前記態様によれば、更に点検用被撮像体画像の明るさ情報を用いて点検を行うため、例えば、照明用光源等の問題で点検用被撮像体からの反射光量が所定許容範囲外となり、点検用被撮像体の状態が適確に撮像されていないような事態を有効に防ぐことができる。これにより、前記判定の精度をより高めることができる。
【0016】
更に、本発明に係る眼科装置の点検方法は、
検査時に被検眼が配される、前記眼科装置の対物鏡筒と対向する位置に前記点検用被撮像体を配置し、前記点検用被撮像体を撮像することが好ましい。
【0017】
本発明の前記態様によれば、点検用被撮像体の位置を検査時の被検眼の位置に合せることから、検査時の被検眼の状態に近づけて点検用被撮像体を撮像することができる。これにより、前記判定の精度をより高めることができる。
【0018】
更に、本発明に係る眼科装置の点検方法は、
撮像された前記画像から検査領域を切り出し、切り出された検査領域から少なくとも色情報を抽出することが好ましい。
【0019】
本発明の前記態様によれば、点検用被撮像体の画像から検査領域を切り出すことで、レファレンス用情報との比較を精度良く行うことができる。これにより、前記判定の精度をより高めることができる。
【0020】
また、本発明に係る眼科装置の点検用治具は、
前記眼科装置の点検方法に用いられ、
前記点検用被撮像体を備えることを特徴とする。
【0021】
本発明の前記態様によれば、点検用被撮像体からの反射光を用いて点検を行うため、点検作業及びその準備作業に過度な負担を伴わない。また、点検時に撮像した点検用被撮像体の反射特性を端的に示す色情報を点検用被撮像体の反射光から提供できるため、眼科装置における前記撮影能力の良否判定を再現性良く行うことができる。
【0022】
更に、本発明に係る眼科装置の点検用治具は、
前記点検用被撮像体の少なくとも表面に、前記照明光学系からの照明光を反射する光学薄膜が形成されることが好ましい。
【0023】
本発明の前記態様によれば、光学薄膜を少なくとも表面に備えるため、色情報を含む反射光がより明瞭に得られる。これにより、例えば、点検時に撮像した点検用被撮像体の画像と、点検用のレファレンス画像との色情報の違いをより明確に識別することができる。その結果、前記判定の精度をより高めることができる。
【0024】
更に、本発明に係る眼科装置の点検用治具は、
前記光学薄膜は、前記照明光を鏡面反射することが好ましい。
【0025】
本発明の前記態様によれば、光学薄膜から特定波長帯の反射光を選択的に得ることができるため、例えば、レファレンス用情報との比較を容易に行うことができる。
【0026】
更に、本発明に係る眼科装置の点検用治具は、
前記光学薄膜は、複数の異なる厚み部分を有することが好ましい。
【0027】
本発明の前記態様によれば、光学薄膜から、複数の特定波長帯を含む反射光が得られるため、レファレンス用情報との比較時に選択可能な色情報のバリエーションを増やすことができる。
【0028】
更に、本発明に係る眼科装置の点検用治具は、
前記点検用被撮像体を保持する点検用被撮像体保持部を更に備え、
前記点検用被撮像体保持部は、前記眼科装置のうち検査時に被検眼に対向する、対物鏡筒の先端に装着されることが好ましい。
【0029】
本発明の前記態様によれば、点検用被撮像体の位置を検査時の被検眼の位置に合せることから、検査時の被検眼の状態に近づけて点検用被撮像体を撮像することができる。これにより、前記判定の精度をより高めることができる。
【0030】
また、本発明に係る眼科装置は、前記眼科装置の点検用治具を備えることを特徴とする。
【0031】
本発明の前記態様によれば、点検用被撮像体からの反射光を用いて点検を行うため、点検作業及びその準備作業に過度な負担を伴わない。また、点検時に撮像した点検用被撮像体の反射特性を端的に示す色情報を点検用被撮像体の反射光から提供できるため、眼科装置における前記撮影能力の良否判定を再現性良く行うことができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、涙液層観察装置のような被検眼を撮像する眼科装置の点検を行うにあたり各器材の調整に過度な作業負担を伴わず、且つ撮像された画像が被撮像体の反射特性を適確に反映する反射画像であるため、眼科装置の持つ撮影能力の良否判定を再現性良く行うことができる眼科装置の点検方法を提供できる。また、前記眼科装置の点検方法を実施する際に用いられる点検用治具、及び前記点検用治具を備えた眼科装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図2】本実施形態に係る眼科装置の点検方法の手順を示すフローチャート。
【
図3】本実施形態に係る点検用被撮像体の撮像画像から検査領域を切り出す手順の説明に用いる図。
【
図4】本実施形態に係る点検用被撮像体の撮像画像から検査領域を切り出す手順の説明に用いる別の図。
【
図5】本実施形態に係る点検用被撮像体の撮像画像から検査領域を切り出す手順の説明に用いる更に別の図。
【
図6】本実施形態に係る点検用被撮像体の撮像画像から検査領域を切り出す手順を示すフローチャート。
【
図7】本実施形態に係る眼科装置の点検用治具の分解斜視図。
【
図8】対物鏡筒の先端に装着された本実施形態に係る眼科装置の点検用治具の垂直断面図。
【
図9】本実施形態に係る点検用被撮像体の垂直断面図。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る眼科装置、眼科装置の点検方法、及び眼科装置の点検用治具を詳細に説明する。
【0035】
<眼科装置>
初めに、
図1を参照して、本実施形態に係る眼科装置1の構成概略を説明する。ここで、
図1は、眼科装置1の概略図である。
図1に示されるように、眼科装置1は、光源11(本実施形態では白色光源)、ハーフミラー12、対物レンズ13、結像レンズ14、撮像手段15、解析装置16、点検用治具20等を備える。なお、本実施形態に係る眼科装置1は、涙液層観察装置である。ただし、これに限られるものではなく、例えば、眼底検査装置等の他の眼科装置であってもよい。
【0036】
光源11からの光は、ハーフミラー12に向けて出射され、ハーフミラー12へ至った光の一部が対物レンズ13に向けて反射される。更に、対物レンズ13を通過した光は、点検用治具20に取り付けられる点検用被撮像体21に至る。これにより点検用被撮像体21が照明される。実際の眼科検査時においては、点検用被撮像体21が配される位置に被検眼が配され、対物レンズ13を通過した照明光が、被検眼を照明する。
【0037】
更に、点検用治具20の点検用被撮像体21に照明光が照射されると、点検用被撮像体21から対物レンズ13へ向けて照明光が反射される。反射光は、対物レンズ13及びハーフミラー12を通過し、結像レンズ14によって集光される。最終的に、集光された反射光は、撮像手段15(例えば、CCDカメラ、CMOSカメラ等)で受光され、点検用被撮像体21の画像情報を形成する電気信号に変換される。これにより、点検用被撮像体21が撮像される。
【0038】
更に、撮像手段15で撮像された点検用被撮像体21の画像情報は、解析装置16に送信される。ここで、解析装置16は、データを演算および処理する処理手段、及びデータを記憶する記憶手段を備えるものであり、当該記憶手段には、例えば、後述する画像処理を実行するためのプログラムや所定のデータがそれぞれ記憶されており、処理手段は、当該プログラム等による所定の命令に従ってデータの処理を行う。特に限定されるものではないが、解析装置16は、一般的なコンピュータであってよく、例えば、CPU、RAM、ハードディスク、入出力装置、通信手段等を備える。
【0039】
なお、以下の説明において、光源11から点検用被撮像体21に至る光路内に配置された点検用被撮像体21を照明するための光学要素の集合を照明光学系と言う。すなわち、
図1に示される態様の場合、光源11、ハーフミラー12、対物レンズ13が、照明光学系に含まれる。必要に応じて、各種レンズ、ミラー、フィルター等の他の光学要素が、照明光学系に含まれてもよい。
【0040】
また、点検用被撮像体21から撮像手段15に至る光路内に配置された点検用被撮像体21を撮像するための光学要素の集合を撮像光学系と言う。
図1に示される態様の場合、対物レンズ13、ハーフミラー12、結像レンズ14、撮像手段15が、撮像光学系に含まれる。必要に応じて、各種レンズ、ミラー、フィルター等の他の光学要素が、撮像光学系に含まれてもよい。
【0041】
<眼科装置の点検方法>
次に、
図2を参照して、前記した眼科装置1の点検方法を説明する。
図2は、本実施形態に係る眼科装置1の点検方法の手順を示すフローチャートである。まず、検査時に被検眼が配される位置(例えば、眼科装置1の対物鏡筒と対向する位置)に点検用被撮像体21を配置する(S1)。
【0042】
本実施形態における点検用被撮像体21は、点検用治具20の点検用被撮像体保持部22内に収容された状態で保持される。例えば、点検用被撮像体保持部22を対物鏡筒30の先端31(
図8で示される)に装着することで、検査時に被検眼が配される位置に点検用被撮像体21を配置する。なお、点検用被撮像体21の位置は、これに限られるものではない。
【0043】
次に、眼科装置1の照明光学系を用いて照明された点検用被撮像体21からの反射光を、眼科装置1の撮像光学系を用いて受光し、点検用被撮像体21を撮像する(S2)。より詳しくは、前述のように、光源11からの照明光を用いて点検用被撮像体21を照明し、照明された点検用被撮像体21からの反射光を撮像手段15で受光する。これにより、点検用被撮像体21を撮像し、点検用被撮像体21の画像を撮像手段15に記録する。
【0044】
次に、撮像手段15で記録された画像を解析装置16へ送信し、解析装置16で実行可能な画像処理により点検用被撮像体21の画像から少なくとも色情報を抽出する(S3)。より好ましくは、点検用被撮像体21の画像から色相値を抽出する。
【0045】
なお、点検用被撮像体21の画像から色情報を抽出する前に、撮像画像から検査領域を予め切り出し、切り出された検査領域から色情報を抽出してもよい。切り出す検査領域の選択方法は、特に限定されるものではないが、例えば、解析装置16の画像処理によって、点検用被撮像体21の画像における各画素の輝度値及びRGB値を参照し、所定の閾値以上の輝度を有し且つ色むらの少ない画像領域(検査領域)を選択する、などの方法が挙げられる。なお、切り出された検査領域を以下「検査領域S」と言う。
【0046】
検査領域Sの切り出し方法の一例を以下具体的に説明する(ただし、検査領域Sの切り出し方法は、下記に限られない。)。本実施形態における検査領域Sの切り出し方法は、以下のStep1からStep4を含む。
(1)Step1:検査領域Sの長さを決定する。
(2)Step2:検査領域Sの幅を決定する。
(3)Step3:検査領域Sにおける撮像画像の切り出しを行う。
(4)Step4:切り出した撮像画像のHSV値のうち色相値と明度を算出する。
【0047】
図3から
図5、並びに
図6のフローチャートを参照して、上記Step1からStep4の各工程を詳述する。前述のように、Step1は、検査領域Sの長さを決定する工程である。まず、
図3(a)に示されるプロットエリア内のy軸方向の平均輝度値を求める(
図6のS11)。それをx軸座標にプロットした(
図6のS12)結果が、
図3(b)のグラフである。このグラフの横軸は、撮像画像のx軸座標である。また、このグラフの縦軸の値は、前記したy軸方向の平均輝度値に対応する。より詳しくは、グラフの縦軸の値は、共通するx軸座標を持つy軸に沿う画素群の輝度値を足し合わせ、それを平均した値である(例えば、プロットエリア内の画素P11(x=a0,y=b1)の輝度値、画素P12(x=a0,y=b2)の輝度値、画素P13(x=a0,y=b3)の輝度値、・・・、画素P1n(x=a0,y=bn)の輝度値を足し合わせ、それを平均した値)。次に縦軸に対して閾値(50とした)を設ける(
図6のS13)。閾値を超える輝度の範囲をΔxとする(
図6のS14)。このΔxを三等分して、中央の範囲を切り出したものをΔx2とする(
図6のS15)。このΔx2が、検査領域Sの長さに相当する(
図6のS16)。
【0048】
次に、Step2は、検査領域Sの幅を決定する工程である。まず
図4(a)に示されるプロットエリア内のx軸方向の平均輝度値を求める(
図6のS21)。それをy軸座標にプロットした(
図6のS22)結果が、
図4(b)のグラフである。このグラフの縦軸は画像のy軸座標である。また、このグラフの横軸の値は、前記したx軸方向の平均輝度値に対応する。より詳しくは、グラフの横軸の値は、共通するy軸座標を持つx軸に沿う画素群の輝度値を足し合わせ、それを平均した値である(例えば、プロットエリア内の画素P21(x=a1,y=b0)の輝度値、画素P22(x=a2,y=b0)の輝度値、画素P23(x=a3,y=b0)の輝度値、・・・、画素P2n(x=an,y=b0)の輝度値を足し合わせ、それを平均した値)。次に輝度値が最大となる値を求める(
図6のS23)。
図4(b)ではy1が輝度の最大値に相当する。次に、プロットエリア内のx軸方向の各RGBの平均値を求める(
図6のS24)。それをy軸座標にプロットした(
図6のS25)結果が、
図4(c)のグラフである。
図4(c)のグラフの横軸は、x軸方向に平均化したR輝度、G輝度、B輝度である。グラフの縦軸は、画像のy軸座標である。次にR輝度、G輝度、B輝度の各プロファイルに着目する。プロファイルより、RGBの各輝度値の関係が、R>G>BからR>B>Gに切り替わる変化点を求める(
図6のS26)。
図4(c)では、y2が前記の変化点に相当する。次に、y1とy2に挟まれる範囲の縦軸に相当する部分をΔyとする(
図6のS27)。このΔyを三等分して、中央の範囲を切り出したものをΔy2とする(
図6のS28)。
図4(d)に示されるように、このΔy2が、検査領域Sの幅に相当する(
図6のS29)。
【0049】
次に、Step3は、上記で定めた検査領域Sに相当する範囲を、撮像画像から切り出す工程である。
図5に示すように、Step1で選択したΔx2及びStep2で選択したΔy2に一致する領域を、撮像画像から切り出す(
図6のS31)。切り出した画像は、検査領域Sにおける撮像画像となる。
【0050】
次に、Step4は、検査領域Sで切り出した撮像画像のHSV値のうち色相値と明度を算出する工程である。検査領域Sで切り出した撮像画像の全領域における、R輝度平均値、G輝度平均値、B輝度平均値を算出する(
図6のS41)。その値を用いてHSV値へと変換する(
図6のS42)。このHSV値より、色相値、明度を取得する(
図6のS43)。
【0051】
なお、RGB値からHSV値への変換は、例えば、特開2019-009752号等で示される公知の変換式を用いて行うことができる。具体的には、解析装置16に記憶される変換プログラムによって、入力された各画素の色情報が、RGB値からHSV(色相、彩度、明度)値に変換される。また、色情報には、更に色差値が含まれていてもよい。ただし、RGB値からの変換値は、HSVに限られず、HSB、HSL等の他の色モデルに属する値であってもよい。
【0052】
再び
図2を参照し、本実施形態に係る点検方法の続く手順を説明する。前述の
図2に示されるS3の手順の後、点検用被撮像体21の画像から抽出された色情報とレファレンス用情報とを比較して、抽出された色情報が、所定の基準条件を満たすか否かを判定する(S4)。本実施形態において、このS4に係る手順も解析装置16で処理される。ここで、本実施形態におけるレファレンス用情報は、眼科装置1の出荷前の段階で、当該眼科装置1を用いて撮像された点検用被撮像体21の画像(以下、「レファレンス画像」)の色情報に相当する。ただし、レファレンス用情報は、レファレンス画像に限られず、点検用被撮像体21の画像から抽出された色情報等と比較可能な情報であればよい。
【0053】
レファレンス画像の色情報と比較する場合、点検対象の前記検査領域Sの例えば色相値が、予め定められる許容範囲内であるか否かが判定される。ここで、許容範囲の設定例として、検査領域Sに対応するレファレンス画像内の比較画像領域Cの色相値を中央値とし、そこから所定数減少した値を下限とすると共に、所定数増加した値を上限とし、当該下限から上限の数値範囲を許容範囲として設定するなどが挙げられる。この場合、例えば、比較画像領域Cの色相値が19°で±30%を許容範囲とする場合(すなわち、許容範囲の下限が13.3°であり、上限が24.7°とする場合)、検査領域Sの色相値が15°であれば、点検用被撮像体21の画像から抽出された色情報が基準条件を満たすと判定される。その結果、眼科装置1を用いて撮像される画像は、被撮像体の状態を適確に反映していることを確認できる。これにより、眼科装置1は、良好な撮影能力を備えていることが示される。
【0054】
本実施形態によれば、点検用被撮像体21の画像の様子を端的に示す色情報(特に、色相値)に基づき、眼科装置1を用いて撮像される画像が、被撮像体の状態を適確に反映するものか否かを確認するため、眼科装置1における前記撮影能力の良否判定を再現性良く行うことができる。
【0055】
また、本実施形態によれば、点検用治具20を眼科装置1の対物鏡筒30の先端31(
図8で示される)に装着するのみの簡易な作業で点検用被撮像体21を所定の点検位置に配置し、点検用被撮像体21を撮像することができる。そのため、ユーザーが点検に関する特殊技能を有さずとも、前記した各点検手順を簡便に実施することができる。
【0056】
前記では、レファレンス用情報との比較情報として、点検用被撮像体21の画像から抽出した色情報(色相値)を用いた態様を説明したが、色情報に加えて明るさ情報(明度)を用いてもよい。
【0057】
色情報に加えて明るさ情報を用いることで、例えば、撮像手段15で受光する反射光の光量が、撮像手段15の受光量容量を超えて飽和した結果、点検用被撮像体21の状態が適確に撮像されない事態を有効に防ぐことができる。また、例えば、点検用被撮像体21からの反射光以外の外乱光成分が撮像手段15に入射され、画像の明度が著しく高いために点検用被撮像体21の状態が適確に撮像されない事態も有効に防げる。なお、光源11の光量や撮像手段15の受光量を調整できる所定の調光手段を別途設けてもよい。
【0058】
<点検用治具>
次に、
図7及び
図8を参照して、本実施形態に係る点検用治具20を説明する。ここで、
図7は点検用治具20の分解斜視図である。また、
図8は、対物鏡筒30の先端31に装着された点検用治具20の垂直断面図である。
【0059】
図7に示されるように、点検用治具20は、前記した点検用被撮像体21、点検用被撮像体保持部22を備える。更に、点検用治具20は、点検用被撮像体21からの反射光量を低減させるNDフィルター23を備えることが好ましい。点検用被撮像体21とNDフィルター23は、点検用被撮像体保持部22内に収容される。
【0060】
本実施形態における点検用被撮像体保持部22は、頂部開口の有底円筒体であり黒色を呈する。室内光等の外乱光が点検用被撮像体21に入射してしまうと、点検用被撮像体21からの反射光に由来する本来のRGB値が得られなくなってしまう。この場合、周辺環境の影響によって検査の再現性が損なわれるおそれがある。その点、上記点検用被撮像体保持部22を備えることで、点検用被撮像体21への外乱光の入射を防ぐことができる。これによって、周辺環境に左右されずいつも点検用被撮像体21からの反射光に由来する本来のRGB値を得ることができるため、検査の再現性を向上させることができる。
【0061】
また、
図8に示されるように、点検用被撮像体保持部22の内部に、点検用被撮像体21を載置する載置面221が形成される。特に限定されるものではないが、点検用被撮像体21は、例えば両面テープなどの接着手段を介して載置面221に保持される。
【0062】
更に、点検用被撮像体保持部22の内部に、NDフィルター23を支持するための支持段222が形成されている。特に限定されるものではないが、NDフィルター23の側端縁は、例えば両面テープなどの接着手段を介して支持段222に保持される。なお、点検用被撮像体21からの反射光が、NDフィルター23に入射する際、入射光の一部が、点検用被撮像体21に向けて再反射されることを防ぐため、NDフィルター23は、斜め姿勢で点検用被撮像体保持部22に収容されることが好ましい。
【0063】
このように、点検用被撮像体21及びNDフィルター23を保持する点検用被撮像体保持部22の頂部開口に、眼科装置1の対物鏡筒先端31が着脱可能に嵌め込まれ、点検用治具20は、眼科装置1の対物鏡筒30に装着される。
【0064】
なお、点検用被撮像体保持部22は、前記した有底の黒色円筒体でなくてもよい。ただし、点検用被撮像体保持部22が、外乱光の進入を完全に遮断できない形態である場合、暗室環境で点検用被撮像体21の撮像を行うなど、別途対処が必要である。
【0065】
次に、
図9を参照して、本実施形態に係る点検用被撮像体21を説明する。
図9は、点検用被撮像体21の垂直断面図である。
図9に示されるように、点検用被撮像体21は、表面側に形成される光学薄膜211と、基板212を備える。
【0066】
本実施形態における光学薄膜211は、特に限定されるものではないが、100nmから200nm程度の厚みを有する蒸着膜である。この光学薄膜211に照明光が照明されると、例えば、光学薄膜211の表面と裏面で照明光が反射される。その結果、各々の反射光が干渉し、特定波長帯の反射光が光学薄膜211から出射される。光学薄膜211の厚みや、所望の屈折率を有する光学薄膜211の材料を適宜選択し、例えば、涙液層観察装置を用いて得られる被検眼の干渉縞の呈色と対応又は近似する色に、反射光の波長帯を調整することが好ましい。
【0067】
光学薄膜211の材料は、特に限定されるものではない。一例として、二酸化チタン(TiO2)、二酸化ジルコニウム(ZrO2)、二酸化ケイ素(SiO2)などが挙げられる。これらの材料は、レンズコーティング、光学フィルター等で使用されているもので、化学的に安定で経時変化しにくい性質を有すると共に、安価で、再現良く所望の干渉色が呈色されるため好ましい。また、光学薄膜211の成膜手段も、特に限定されるものではなく、従来から一般に用いられる物理蒸着法に属する成膜手段や化学蒸着法に属する成膜手段等であってよい。
【0068】
また、本実施形態における光学薄膜211は、例えば、
図9の符号T1からT5で示される複数の異なる厚み部分を有することが好ましい。複数の異なる厚み部分を設けることで、各厚み部分から異なる色(波長帯)の反射光を得ることができる。これにより、レファレンス用情報との比較時に選択可能な色情報のバリエーションを増やすことができる。なお、
図9では、図の左から右に厚みが増えて表層部分が階段形状となるよう、各厚み部分が配置されているが、配置態様はこれに限られない。
【0069】
本実施形態に係る光学薄膜211は、前記のように、照明光を鏡面反射するものであるが、照明光の反射態様もこれに限られない。例えば、光学薄膜211は、各種塗料やインク等の光散乱体であってもよく、照射光を散乱反射する態様であってもよい。各種塗料やインク等の光散乱体を利用する場合も、前記と同様、化学的に安定で経時変化しにくい性質の材料を選ぶことが望ましい。なお、各種塗料やインク等は一般的に経時変化し易いものが多いが、このように経時変化し易い材料を用いる場合でも、点検用被撮像体21を定期的に新品と交換することで、検査の再現性を維持することができる。
【0070】
本実施形態における基板212は、光学薄膜の形成に適した鏡面物体とするガラス製であるが、これに限られない。なお、照明光が、基板212の裏面212Bで反射して、光学薄膜211(点検用被撮像体21)の撮像を阻害する事態を防止するため、裏面212Bにすり加工や黒塗りが施されることが好ましい。
【0071】
以上、本発明の実施形態を詳細に説明した。ただし、前述の説明は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定する趣旨で記載されたものではない。本発明には、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るものを含み得る。また、本発明にはその等価物が含まれる。
【符号の説明】
【0072】
1 眼科装置
11 光源
12 ハーフミラー
13 対物レンズ
14 結像レンズ
15 撮像手段
16 解析装置
20 眼科装置の点検用治具
21 点検用被撮像体
211 光学薄膜
212 基板
22 点検用被撮像体保持部
23 NDフィルター
30 対物鏡筒
31 対物鏡筒の先端