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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】有機性廃液の処理方法及び処理装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 11/121 20190101AFI20240717BHJP
   C02F 11/04 20060101ALI20240717BHJP
   C02F 11/06 20060101ALI20240717BHJP
   C02F 3/34 20230101ALI20240717BHJP
【FI】
C02F11/121 ZAB
C02F11/04 Z
C02F11/06
C02F3/34 101A
C02F3/34 101B
C02F3/34 101C
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021025571
(22)【出願日】2021-02-19
(65)【公開番号】P2022127421
(43)【公開日】2022-08-31
【審査請求日】2023-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】葛 甬生
(72)【発明者】
【氏名】高橋 惇太
(72)【発明者】
【氏名】麻生 智香
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-011376(JP,A)
【文献】特開2003-170141(JP,A)
【文献】特開2000-107797(JP,A)
【文献】特開2009-101363(JP,A)
【文献】特開平08-299987(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 11/00-11/20
3/00- 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
し尿及びし尿より高比率の浄化槽汚泥を有機性廃液として脱水処理して脱水汚泥と脱水分離液を得る工程と、
前記脱水分離液を生物学的に硝化脱窒処理する工程と、
前記脱水処理前の前記有機性廃液の一部に対して可溶化処理を行う工程と、
前記可溶化処理で得られた可溶化液を前記硝化脱窒処理へ供給する工程と
を有することを特徴とする有機性廃液の処理方法。
【請求項2】
前記可溶化処理が、前記有機性廃液中の固形物を微細化する微細化処理、前記有機性廃液を加熱する加熱処理、前記有機性廃液を酸化処理する酸化処理、前記有機性廃液を微生物処理する微生物処理、及び前記有機性廃液のpHを調整するpH調整処理のいずれか一処理以上を用いることを特徴とする請求項1に記載の有機性廃液の処理方法。
【請求項3】
前記有機性廃液の全処理量の50体積%以下となる前記有機性廃液を、前記可溶化処理に導入することを特徴とする請求項1又は2に記載の有機性廃液の処理方法。
【請求項4】
硝化脱窒処理出口の処理水の水質に基づいて、脱窒処理で不足するBOD源を補うように、前記可溶化液の供給液量を調整することを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の有機性廃液の処理方法。
【請求項5】
前記脱水処理前の前記有機性廃液の一部に対して可溶化処理を行う工程が、前記し尿及びし尿より高比率の浄化槽汚泥の混合液に対し、前記可溶化処理を行うことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の有機性廃液の処理方法。
【請求項6】
前記脱水処理前の前記有機性廃液の一部に対して可溶化処理を行う工程が、前記浄化槽汚泥に対して前記可溶化処理を行うことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の有機性廃液の処理方法。
【請求項7】
前記脱水処理前の前記有機性廃液の一部に対して可溶化処理を行う工程が、BOD/COD cr 比率が0.2以下である前記有機性廃液に対して、前記可溶化処理を行うことを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の有機性廃液の処理方法。
【請求項8】
し尿及びし尿より高比率の浄化槽汚泥を有機性廃液として脱水処理して脱水汚泥と脱水分離液を得る脱水手段と、
脱窒槽を備え、前記脱水分離液を生物学的に硝化脱窒処理する生物処理手段と、
前記脱水手段に導入される前の前記有機性廃液の一部に対して、可溶化処理を行う可溶化手段と、
前記可溶化処理で得られた可溶化液を前記脱窒槽へ供給する供給手段と
を備えることを特徴とする有機性廃液の処理装置。
【請求項9】
前記可溶化手段が、前記し尿及びし尿より高比率の浄化槽汚泥の混合液に対して前記可溶化処理を行うことを特徴とする請求項8に記載の有機性廃液の処理装置。
【請求項10】
前記可溶化手段が、前記浄化槽汚泥に対して前記可溶化処理を行うことを特徴とする請求項8に記載の有機性廃液の処理装置。
【請求項11】
前記可溶化手段が、BOD/COD cr 比率が0.2以下である前記有機性廃液に対して、前記可溶化処理を行うことを特徴とする請求項8~10のいずれか1項に記載の有機性廃液の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性廃液の処理方法及び処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、浮遊物質(SS)濃度の高い有機性廃液、特にし尿、浄化槽汚泥、生ごみ等のSS及び窒素を含有する有機性廃液の処理方法として生物学的窒素除去方法が知られている。生物学的窒素除去方法では、一般的に、前段で脱水分離を行い、SSを分離回収したろ液に対し、活性汚泥を中心とした生物処理にて窒素除去を行っている。
【0003】
このような生物学的窒素除去方法においては、一般的に、循環式硝化脱窒方式が用いられることが殆どである。循環式硝化脱窒方式では、脱窒に必要なBOD源として原水中のBOD源を利用することが多い。脱窒に必要なBOD源は、除去される窒素の3倍程度である。しかしながら、原水中の生物学的酸素要求量(BOD)の濃度が低いと、脱窒処理が不安定となり、処理水質の悪化を招く場合がある。
【0004】
脱窒処理の不安定化及び処理水質の悪化を抑制するための対策の一つとして、脱窒処理に足りないBOD源を外部から添加することが行われる。外部から添加するBOD源としては、メタノールを使用することが多い。しかしながら、メタノールの添加が処理コストの増加を招く要因の一つとなっていることから、メタノール添加量の削減が現在大きな検討課題となっている。
【0005】
例えば、特許第4839645号公報(特許文献1)には、浄化槽汚泥とし尿を含む有機性廃液の処理方法として、浄化槽汚泥とし尿の混合物に高分子凝集剤を添加して凝集処理する第一の凝集工程と、第一の凝集工程により得られる凝集物の脱水工程と、脱水工程により得られる脱水分離液に無機凝集剤を添加して凝集処理する第二の凝集工程と、第二の凝集工程により得られる処理液の生物学的硝化脱窒処理工程と、生物学的硝化脱窒処理工程により得られる処理液の膜分離工程とを具備する、し尿系汚水の処理方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4839645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された従来の処理方法では、脱水工程におけるSS回収量が減少し、生物学的硝化脱窒処理工程に流入するSS量の増大を招くことがある。その結果、生物学的硝化脱窒処理工程で発生する余剰汚泥の増加を招くだけでなく、硝化性能の低下を招く要因となる。
【0008】
上記課題に鑑み、本発明は、生物学的硝化脱窒処理の不安定化及び処理水質の悪化を抑制しながら、有機性廃液をより効率的良く処理することが可能な有機性廃液の処理方法及び処理装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明者らが鋭意検討した結果、有機性廃液の少なくとも一部に対して、特定の処理を行うことが有効であるとの知見を得た。
【0010】
以上の知見を基礎として完成した本発明の実施の形態は、一側面において、有機性廃液を脱水処理して脱水汚泥と脱水分離液を得る工程と、脱水分離液を生物学的に硝化脱窒処理する工程と、脱水処理前の有機性廃液の一部に対して可溶化処理を行う工程と、可溶化処理で得られた可溶化液を硝化脱窒処理へ供給する工程とを有する有機性廃液の処理方法である。
【0011】
本発明の実施の形態に係る有機性廃液の処理方法は一実施態様において、可溶化処理が、有機性廃液中の固形物を微細化する微細化処理、有機性廃液を加熱する加熱処理、有機性廃液を酸化処理する酸化処理、有機性廃液を微生物処理する微生物処理、及び有機性廃液のpHを調整するpH調整処理のいずれか一処理以上を用いる。
【0012】
本発明の実施の形態に係る有機性廃液の処理方法は別の一実施態様において、有機性廃液の全処理量の50体積%以下となる有機性廃液を、可溶化処理に導入する。
【0013】
本発明の実施の形態に係る有機性廃液の処理方法は更に別の一実施態様において、可溶化処理に導入する有機性廃液として、し尿、浄化槽汚泥、有機性汚泥、生ごみの少なくともいずれかを用いる。
【0014】
本発明の実施の形態に係る有機性廃液の処理方法は更に別の一実施態様において、硝化脱窒処理出口の処理水の水質に基づいて、脱窒処理で不足するBOD源を補うように、可溶化液の供給液量を調整する。
【0015】
本発明の実施の形態は別の一側面において、有機性廃液を脱水処理して脱水汚泥と脱水分離液を得る脱水手段と、脱窒槽を備え、脱水分離液を生物学的に硝化脱窒処理する生物処理手段と、脱水手段に導入される前の有機性廃液の一部に対して、可溶化処理を行う可溶化手段と、可溶化処理で得られた可溶化液を脱窒槽へ供給する供給手段とを備えることを特徴とする有機性廃液の処理装置である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、生物学的硝化脱窒処理の不安定化及び処理水質の悪化を抑制しながら、有機性廃液をより効率的良く処理することが可能な有機性廃液の処理方法及び処理装置が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の形態に係る有機性廃液の処理装置の一例を表す概略図である。
図2】本発明の実施の形態の第1変形例に係る有機性廃液の処理装置の一例を表す概略図である。
図3】本発明の実施の形態の第2変形例に係る有機性廃液の処理装置の一例を表す概略図である。
図4】実施例1~3に係る有機性廃液の処理設備及び処理フローを表す説明図である。
図5】比較例1~3に係る有機性廃液の処理設備及び処理フローを表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載においては、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。なお、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。
【0019】
(処理装置)
本発明の実施の形態に係る有機性廃液の処理装置は、図1に示すように、有機性廃液を脱水処理して脱水汚泥と脱水分離液を得る脱水手段1と、脱水分離液を生物学的に硝化脱窒処理する生物処理手段2と、脱水手段1に導入される前の有機性廃液の一部に対して、可溶化処理を行う可溶化手段3と、可溶化処理で得られた可溶化液を生物処理手段2へ供給する供給手段4とを備える。
【0020】
有機性廃液としては、典型的には、窒素及び固形物(SS)を含有する有機性廃液が用いられる。例えば、し尿、浄化槽汚泥、有機性汚泥、生ごみ等が有機性廃液として用いられ、より典型的にはし尿及び浄化槽汚泥の混合物が有機性廃液として用いられる。
【0021】
し尿としては、例えば、SSが1,000~30,000mg/L、BODが2,000~20,000mg/L、溶解性BOD(S-BOD)が1,500~10,000mg/L、全窒素(T-N)が300~3,500mg/L、BODと全窒素の比(BOD/T-N)が3.0~5.0となるし尿を好適に利用することができる。
【0022】
浄化槽汚泥としては、例えば、SSが2,000~20,000mg/L、BODが1,500~10,000mg/L、溶解性BOD(S-BOD)が1,000~5,000mg/L、全窒素(T-N)が300~2,500mg/L、BODと全窒素の比(BOD/T-N)が3.0~5.5となる浄化槽汚泥を好適に利用することができる。
【0023】
生ごみとしては、例えば、SSが50,000~100,000mg/L、BODが75,000~150,000mg/L、全窒素(T-N)が5,000~10,000mg/L、BODと全窒素の比(BOD/T-N)が10~20となる生ごみを好適に利用することができる。その他、各種生物処理で発生する余剰汚泥、消化汚泥等の有機性汚泥も利用できる。
【0024】
以下に限定されるものではないが、例えば、し尿及び浄化槽汚泥の混合液を脱水手段1へ導入する有機性廃液として利用する場合には、し尿と浄化槽汚泥の混合比(体積比)を例えば、60:40~20:80とすることが好ましく、40:50~30:70とすることがより好ましい。
【0025】
脱水手段1へ供給する有機性廃液のし尿及び浄化槽汚泥の混合比を適切に調整することにより、脱水手段1での脱水処理により得られる脱水汚泥の含水率を75%以下、より好ましくは70%以下のケーキ状とすることができる。その結果、脱水手段1で得られる脱水汚泥の取り扱い性を向上でき、燃料助剤として有効利用することができる。
【0026】
脱水手段1としては、例えば、濃縮機又は脱水機等を用いることができる。濃縮機には、例えば、スクリュー濃縮機、ベルト濃縮機、遠心濃縮機、楕円板型濃縮機などを単独又は組み合わせて使用することができる。脱水機には、例えば、有機性廃液を加圧、遠心力、減圧(真空排気)又はこれらの組み合わせで機械的に固液分離する機械固液分離装置が利用できる。
【0027】
生物処理手段2は、脱水手段1で得られた脱水分離液を生物学的に硝化脱窒処理するための脱窒槽を備える単槽又は複数層の処理装置であれば、具体的な態様は特に限定されない。例えば、図4に示すように、脱窒槽、硝化槽、二次脱窒槽、曝気槽、沈殿池をこの順に直列に配置した処理装置を用いることができる。
【0028】
可溶化手段3は、有機性廃液の一部に対して可溶化処理を行い、溶解性BODもしくはBODを増加させた可溶化液を生成させる。可溶化手段3としては、溶解性BODもしくはBODを増加させることが可能な処理を行う装置であれば特に限定されない。可溶化手段3で行われる可溶化処理としては、有機性廃液中の固形物(有機性固形物)を微細化する微細化処理、有機性廃液を加熱する加熱処理、有機性廃液を化学的に酸化処理する酸化処理、有機性廃液を微生物処理する微生物処理、及び有機性廃液のpHを調整するpH調整処理のいずれかの処理を単一で又は組み合わせて行うことが好ましい。
【0029】
微細化処理としては、例えば、ミキサー、高速ディスク、ボールミル、超音波、マイクロバブル又はエジェクター方式による曝気による粉砕処理が利用可能である。微細化処理の場合、微細化処理後の可溶化液中のSS粒径(メジアン径)が、平均100μm以下、好ましくは50μm以下、更に10~20μmとなるように微細化処理を行うことが好ましい。なお、SS粒径は一般的に入手可能な粒度分布計測器によって測定することができる。微細化されたSS(有機性SS)を含む可溶化液を、後述する生物処理における脱窒槽に供給することにより、脱窒槽における脱窒処理で不足するBOD源を補うことができ、これにより、脱窒処理が安定化し、処理水質の向上が図れる。
【0030】
加熱処理としては、有機性廃液の加熱温度を50℃以上、好ましくは60~80℃とすることにより、高い可溶化効果が得られる。加熱時間は短すぎると加熱による溶解性BOD又はBODの増大効果が有意に得られず、長すぎると加熱エネルギー増加により、処理効率が低下する。例えば、加熱処理用の可溶化槽の容量が2~5m3程度の場合は、処理時間を好ましくは5分以上1時間未満とし、10分以上30分以下とすることがより好ましい。
【0031】
酸化処理としては、空気等の含酸素ガスを用いた曝気処理、オゾン処理、過酸化水素処理、次亜塩素酸化処理、さらにオゾンと過酸化水素とを組み合わせた促進酸化(AOP)処理等が利用できる。微生物処理としては、酸発酵処理、好気性分解処理等が利用できる。pH調整処理としては、アルカリ剤添加によるアルカリ処理が利用できる。アルカリ処理では、アルカリ剤添加により可溶化液のpHを10以上、好ましくは11~12とし、反応時間を10分以上、好ましくは10~30分とすることが効果的である。
【0032】
可溶化処理は、必要に応じて上記処理を2以上組み合わせて行うことにより、更なる高い可溶化効果が得られる。例えば、微細化処理後の可溶化液に対し、更にアルカリ処理を行えば、可溶化液中の有機性SSの大部分が可溶化するため、脱窒処理に利用可能なBODをより増加させることができる。アルカリ処理や酸発酵処理においても、加温を併用することで、より効果的に可溶化液中の有機性SSを可溶化して、脱窒源となる溶解性BOD又はBODを増加させることができる。例えば、アルカリ処理においては、水温30℃以上、好ましくは40℃以上50℃以下とすることで、高い可溶化効果が得られる。酸発酵処理においては、水温35℃以上、好ましくは40~55℃とすることで、高い可溶化効果が得られる。なお、有機性廃液の性状によっては、有機性廃液の一部を可溶化槽内に貯留し、一定期間滞留させるような態様も、本実施形態に係る可溶化処理として含む。
【0033】
可溶化処理に導入する有機性廃液の水量は、処理対象となる有機性廃液の性状、脱水分離液、可溶化液の性状によって決定することが望ましい。例えば、有機性廃液の全処理量の50体積%以下となる有機性廃液を可溶化処理へ導入することが好ましい。可溶化処理は、有機性SSを可溶化して脱窒源となる溶解性BOD又はBODを増加する目的のために必要な分だけ、有機性廃液を導入するような処理をすることで、可溶化処理にかかる負担を小さくすることができる点で有利である。例えば、可溶化処理に導入する有機性廃液の水量を35%体積%以下、更には20体積%以下とすることができる。
【0034】
可溶化処理に導入する有機性廃液の水量の下限値は特に制限されないが、可溶化処理に導入する有機性廃液の水量が少なすぎると、後段の生物処理における脱窒に必要な溶解性BOD又はBODを確保することが難しくなることがある。よって、可溶化処理へ導入する有機性廃液の水量は、有機性廃液の全処理量の1体積%以上とすることが好ましく、5体積%以上とすることがより好ましい。但し、少量でも効果的な可溶化を行うことで、積極的に溶解性BOD又はBODを増加できる場合はその限りではない。可溶化効果の高い性状を有する有機性廃液を利用する場合は、可溶化処理へ導入する投入量が少なくなるように調整することもまた好ましい。
【0035】
可溶化処理は、可溶化処理へ導入する有機性廃液の性状に応じて、適切な処理を選択することが好ましい。例えば、浄化槽汚泥のような有機性SSの濃度が比較的高い有機性廃液に対しては、ミキサー、ボールミル等を用いた粉砕処理による汚泥の微細化処理を行うことが、可溶化液中のBODをより効率的に増加させることができる点で好ましい。難分解有機物が多く含まれる有機性廃液、例えば、BOD/CODcr比率が0.2以下と低い有機性廃液を用いる場合は、アルカリ処理、加熱処理、超音波処理などの化学的処理を行うことが効果的である。生ごみのような有機性固形物濃度が高く、塩分も高い有機性廃液を用いる場合は、予め粉砕処理し、希釈して酸発酵処理を行うことで、脱窒処理へ導入するためのBODを多く含む可溶化液を生成させることができる。
【0036】
有機性廃液の中でも、し尿は、BODが2,000~20,000mg/L程度と高く、上述の可溶化処理を行っても、浄化槽汚泥と比べて可溶化処理による溶解性BOD又はBOD増大効果が得られにくいことがある。一方、浄化槽汚泥は有機性汚泥濃度が高く、BODがし尿に比べて相対的に低いケースが多い。可溶化処理に導入する有機性廃液としては、し尿よりも、脱水処理前の浄化槽汚泥を優先的に用いることが、有機性汚泥を可溶化し、BODを増大させる可溶化効果の面においてはより有利である。
【0037】
供給手段4は、可溶化処理で得られた可溶化液を生物処理手段2へ供給する配管、ポンプ等で構成されることができる。生物処理手段2へ供給される可溶化液の流量は、流量調整弁等で制御することができる。供給手段4は、生物処理手段2が備える脱窒槽へ接続されている。供給手段4が、可溶化処理によって増大した溶解性BOD又はBODを含む可溶化液を脱窒槽へ供給することにより、脱窒処理に必要なBODを補うことができるため、従来、脱窒槽に外部から導入されていたメタノール等のBOD源の使用量を削減することができる。
【0038】
近年のし尿処理施設ではし尿よりも浄化槽汚泥の比率が高くなってきている。そのため、脱水分離後の分離液全体のBODが低く、脱窒処理のためのBOD源として直接利用できるものが少なく、メタノール等の外部からのBOD源に頼らない新たな処理方法が求められている。
【0039】
本発明の実施の形態に係る有機性廃液の処理装置及び処理方法によれば、SS濃度の高い有機性廃液、例えば、し尿、浄化槽汚泥、生ごみ等の有機性廃液を脱水処理し、脱水処理後の脱水汚泥を回収し、脱水処理後の脱水分離液を生物処理手段2へ導入して生物学的硝化脱窒工程により窒素除去を行う。この際、脱水処理を行う前の有機性廃液の一部を、可溶化手段3へ導入して、可溶化処理を行えば、有機性廃液中の有機性SSが一部可溶化して、溶解性BOD又はBODが大幅に増加する。可溶化手段3において可溶化処理を行った可溶化液を、供給手段4を介して生物処理手段2の脱窒槽に導入することにより、脱窒に必要なBOD補給源となるため、メタノール等の外部からのBOD源の供給を削減しながら、脱窒槽の安定処理が可能となる。
【0040】
(処理方法)
本発明の実施の形態に係る有機性廃液の処理方法は、図1に示す処理装置を用いて実施することができる。即ち、本発明の実施の形態に係る有機性廃液の処理方法は、有機性廃液を脱水処理して脱水汚泥と脱水分離液を得る工程と、脱水分離液を生物学的に硝化脱窒処理する工程と、脱水処理前の有機性廃液の一部に対して可溶化処理を行う工程と、可溶化処理で得られた可溶化液を硝化脱窒処理へ供給する工程とを有する。
【0041】
本発明の実施の形態に係る有機性廃液の処理方法によれば、生物処理手段2へ供給される脱水分離液中のBOD濃度が低い場合であっても、有機性廃液の可溶化液を脱窒に必要なBOD補給源として利用することで、生物学的硝化脱窒処理の不安定化及び処理水質の悪化を抑制しながら、有機性廃液をより効率的良く処理することが可能となる。
【0042】
(第1変形例)
図2に示すように、本発明の第1変形例に係る有機性廃液の処理装置は、脱水手段1で得られる脱水汚泥を燃料化する燃料化手段6を更に備えていても良い。燃料化手段6としては、脱水汚泥を汚泥焼却炉の助燃剤として利用することができる。
【0043】
あるいは、有機性汚泥の性状によっては、有機性廃液を脱水せずに、そのままBOD源として生物処理手段2の脱窒槽へ直接投入する供給手段5を配置することも可能である。例えば、処理すべき有機性廃液の性状が、有機物主体の廃飲料、有機性汚泥、し尿、又は浄化槽汚泥の場合、これらの有機性SSの濃度の高い有機性廃液の一部を脱水せずに、そのまま直接、生物処理手段2の脱窒槽へ投入すると、有機性SSから時間をかけてBODが放出され、脱窒菌のBOD源として摂取される。このような有機性SSからのBODの放出は、脱窒槽での有機性SSの滞留時間(SRT)が長いほど生じやすい。特に、本実施形態では、有機性廃液を脱水処理して固形性成分の多くを分離した後の分離液を生物処理手段に供給しているため、生物処理に流入する固形分を少なくできるので、SRTを長くとることができる。このように、SRTを長く設定するように調整した条件において、有機性汚泥の一部を直接生物処理手段2、特に脱窒槽に投入すると、通常、脱窒に利用されにくい有機物も脱窒菌のBOD源として効率よく利用することができる。これにより生物処理手段2で可溶化処理が進むため、別途の可溶化処理を省略しつつ、脱窒処理で不足するBOD源を、外部からの補給に頼らずに、より有効に利用することができる。
【0044】
このように、より効率的に有機性廃液を脱窒素のために利用するには、生物処理のSRTは10~50日とすることが好ましく、20~50日がより好ましい。SRTが長すぎると、生物処理で汚泥の自己分解が進み過ぎて、本来の水処理機能が低下する懸念がある。逆に、SRTが短すぎると、有機性廃液を直接投入しても有機性SSからのBODの放出が進まず、脱窒菌が利用できる量が限られてしまう。SRTの調整は、有機性廃液を脱水して分離液を投入する分と直接投入する分の比率を調整する、或いは、生物処理からの汚泥の引抜量で調整することができる。図2の供給手段4、5は、処理対象となる有機性廃液の性状に応じて適宜、いずれか又は双方組み合わせて有機性廃液を供給することでより効率的な硝化脱窒処理が可能となる。
【0045】
(第2変形例)
図3に示すように、本発明の第2変形例に係る有機性廃液の処理装置は、生物処理手段2における硝化脱窒処理出口の処理水の水質に基づいて、脱窒処理で不足するBOD源を補うように、可溶化液の供給液量を調整する制御手段8を備える。制御手段8は、供給手段4が備えるバルブ等の流量調整手段41、生物処理手段2の出口側の処理水の水質を計測する計測手段7及び生物処理手段2へBOD源としてメタノールを供給するメタノール供給手段10に接続されている。制御手段8は、計測手段7の計測結果に応じて、供給手段4の流量調整手段41又はメタノール供給手段10に所定の制御信号を出力するように構成することができる。
【0046】
計測手段7としては、脱窒処理出口の処理水の水質を計測するための装置であれば特に限定されないが、例えば、処理水の硝酸態窒素(NO3-N)等の無機態窒素を測定する計測装置、又は脱窒処理出口の処理水の酸化還元電位(ORP)を測定するORP計等を用いることができる。
【0047】
例えば、脱窒槽出口のNO3-Nが一定値(例えば、20mg/L)以上を示す場合、脱窒槽に投入する可溶化液の供給流量を、単位時間あたり一定割合(例えば5体積%ずつ)で徐々に増加させていくように制御手段8による制御を行うことが好ましい。更に、可溶化液の増加後、脱窒槽の水理学的滞留時間(HRT)経過後においても脱窒槽出口のNO3-N値の低下がみられない場合には、更に一定割合ずつ供給流量を増加させるように、制御手段8による制御を行うことができる。このように、計測手段7の計測結果に応じて、可溶化液の供給流量を段階的に調整することが好ましい。
【0048】
脱窒槽出口の処理水のORP(銀-塩化銀電極基準)を目安とした場合、ORPが、脱窒処理水が安定的な水質を示す一定値となる例えば-10mV以下となるように、制御手段8が可溶化液の供給流量を制御することが好ましい。一方、計測手段7によるORPの計測結果が-10mVを超える場合には、計測手段7の計測結果に応じて、可溶化液の供給流量を段階的に(例えば5体積%ずつ)調整することが好ましい。
【0049】
制御手段8は、計測手段7による計測結果に基づく可溶化液の供給流量の調整結果に基づいて、更にメタノール供給手段10によるメタノール供給量を調整することもできる。これにより、外部から生物処理手段2の脱窒槽へ供給するメタノールの使用量をより削減することができる。
【0050】
本発明は上記の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。即ち、本開示は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で構成要素を相互に組み合わせ、変形して具体化できることは勿論である。
【実施例
【0051】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0052】
(実施例1)
実施例1では、有機性廃液としてし尿及び浄化槽汚泥を用いて、図4に示す有機性廃液の処理フローに沿って処理を行った。比較例1として、実施例1と同様の有機性廃液を用いて、図5に示す有機性廃液の処理フローに沿って処理を行った。処理条件と結果を表1に示す。表1中、SSやBOD、S-BOD及びT-Nはいずれも公知の下水試験法に準じて測定した結果を示す。なお、S-BODは、孔径1μmフィルターにてろ過したろ液のBOD値を示す。
【0053】
【表1】
【0054】
実施例1及び比較例1のいずれも、し尿30L/d、浄化槽汚泥70L/dの有機性廃液を処理した。実施例1では、脱水処理前の浄化槽汚泥の一部となる20L/dを可溶化槽に導入して可溶化処理を行った。残りの50L/dは脱水機へ送り脱水処理を行った。実施例1における可溶化処理にはミキサー(回転数5,000rpm)を用いた粉砕処理を行った。粉砕時間は約30分とした。その結果、実施例1では、粉砕後の可溶化液のBODが3,080mg/Lから5,600mg/Lと粉砕前の約1.8倍に増加した。この結果、脱窒槽流入原水のBODが2,100mg/Lとなり、T-Nに対して約3.3倍となり、脱窒に必要とされる3.0倍以上でありBOD不足を解消した。これにより、外部からBOD源としてメタノール等の薬品を可溶化槽に供給する必要がなくなるため、メタノール供給のための設備を削減して可溶化槽を小型化することができる。
【0055】
一方、比較例1として、従来方式でし尿・浄化槽汚泥を混合して脱水分離した脱水分離液はT-N:570mg/Lに対し、BODが1,100mg/Lに止まり、BOD/T-Nは1.9となった。このため、脱窒に必要なBOD/T-N比である3.0より低く、外部よりメタノールの添加、濃度としては約630mg/Lの添加が必要となった。
【0056】
(実施例2)
実施例2では、し尿30L/d、浄化槽汚泥70L/dの有機性廃液を用いて図4に示す有機性廃液の処理フローに沿って処理を行った。比較例2として、実施例2と同様の有機性廃液を用いて、図5に示す有機性廃液の処理フローに沿って処理を行った。なお、実施例2では、脱水処理前の浄化槽汚泥の約2割の15L/dを可溶化槽に導入して可溶化処理として、アルカリ処理を行った。アルカリ処理の処理条件としては、投入された浄化槽汚泥に対し、NaOH添加にてpHを10.0~10.5にし、水温20℃で30分攪拌混合した。処理条件と結果を表2に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
実施例2では、アルカリ処理後の浄化槽汚泥水質は、BOD:5,680mg/Lと処理前の1.8倍に増加した。その結果、脱窒槽に流入する原水はT-N:620mg/L、BOD:1,900mg/L、BOD/T-N比が3.1となり、脱窒用のBOD源として十分であった。
【0059】
一方、従来方式でし尿、浄化槽汚泥全量を脱水分離した比較例2では、脱水分離液水質はT-N:560mg/Lに対し、BODが1,130mg/Lに止まり、BOD/T-N比が2.0となり、脱窒に必要とされる3.0より低く、外部よりメタノールの添加、濃度としては約560mg/Lの添加が必要となった。
【0060】
(実施例3)
実施例3では、し尿30L/d、浄化槽汚泥70L/dの有機性廃液を用いて図4に示す有機性廃液の処理フローに沿って処理を行った。比較例3として、実施例3と同様の有機性廃液を用いて、図5に示す有機性廃液の処理フローに沿って処理を行った。なお、実施例3では、脱水処理前の浄化槽汚泥の約2割の15L/dを可溶化槽に導入した。実施例3における可溶化処理として、アルカリ処理及び加熱処理を併用した。アルカリ処理の処理条件としては、投入された浄化槽汚泥に対し、NaOH添加にてpHを10.0~10.5にした。加熱処理条件は、可溶化槽内の水温が50℃となるように加熱し10分間攪拌混合した。処理条件と結果を表3に示す。
【0061】
【表3】
【0062】
実施例3では、脱窒槽に流入する原水はT-N:620mg/L、BOD:1,970mg/L、BOD/T-N比が3.2となり、脱窒用のBOD源として十分であった。アルカリと加熱処理の併用により、処理時間がアルカリ単独より約1/3に短くなり、BODも若干増加したことから、アルカリと加熱併用の相乗効果が得られた。
【0063】
一方、従来方式でし尿、浄化槽汚泥全量を脱水分離した比較例3では、脱水分離液水質はT-N:560mg/Lに対し、BODが1,130mg/Lに止まり、BOD/T-N比が2.0となり、脱窒に必要とされる3.0より低く、外部よりメタノールの添加、濃度としては約560mg/Lの添加が必要となった。
【符号の説明】
【0064】
1…脱水手段
2…生物処理手段
3…可溶化手段
4,5…供給手段
6…燃料化手段
7…計測手段
8…制御手段
10…メタノール供給手段
図1
図2
図3
図4
図5