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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】データ処理方法
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20240717BHJP
   F02D 41/26 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
F02D45/00 372
F02D45/00 374
F02D41/26
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021069518
(22)【出願日】2021-04-16
(65)【公開番号】P2022164186
(43)【公開日】2022-10-27
【審査請求日】2023-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴文
(72)【発明者】
【氏名】阿久澤 博之
(72)【発明者】
【氏名】北原 昇
(72)【発明者】
【氏名】大賀 隆史
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 太一
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-159369(JP,A)
【文献】特開2017-110500(JP,A)
【文献】特開2013-141085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 45/00
F02D 41/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ECUにおける周期的な変動を伴う変動的な測定データのデータ処理方法であって、
センサから前記ECUへの前記測定データの送信タイミング周期と前記ECUにおける前記測定データの処理タイミング周期とに基づく遅れ時間周波数と、前記測定データの脈動周波数とに基づいて、フィルタリング周波数を算出するフィルタリング周波数算出工程と、
前記測定データから、前記フィルタリング周波数算出工程において算出された前記フィルタリング周波数の成分を除去するフィルタ処理工程と
を含むことを特徴とするデータ処理方法。
【請求項2】
前記測定データは、車両の運転状態を示すデータであることを特徴とする
請求項1に記載のデータ処理方法。
【請求項3】
前記測定データは、内燃機関の運転状態を示すデータであることを特徴とする
請求項1に記載のデータ処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、データ処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、車両に搭載されたECU(Electronic Control Unit)が、エアフローセンサによる吸入空気量の測定データをSENT(Single Edge Nibble Transmission)通信によって取得して、取得された測定データに基づいて、燃料噴射弁の噴射量の制御に関する演算処理を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-159369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明の発明者らは、従来技術を用いた場合、SENT通信のタイミングとECU処理のタイミングとの差(遅れ時間)が周期的に変化することと、内燃機関の動作で周期的に吸気脈動することとに起因して、ECUが取得する測定データに誤差が生じ、平均化処理の処理結果データに、特定の回転数でうねり現象が発生する虞があることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するために、一実施形態に係るデータ処理方法は、ECUにおける変動的な測定データのデータ処理方法であって、測定データの送信タイミング周期とECUにおける測定データの処理タイミング周期とに基づく遅れ時間周波数と、測定データの脈動周波数とに基づいて、フィルタリング周波数を算出するフィルタリング周波数算出工程と、測定データから、フィルタリング周波数算出工程において算出されたフィルタリング周波数の成分を除去するフィルタ処理工程とを含む。
【発明の効果】
【0006】
一実施形態に係るデータ処理方法によれば、変動的な測定データに基づく演算処理による数値において、うねり現象が発生することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】一実施形態に係るデータ処理システムの構成を示す図
図2】一実施形態に係るデータ処理システムにおいて生じる遅れ時間の周期的な変化の一例を示す図
図3】一実施形態に係るデータ処理システムにおいて生じる遅れ時間周波数の一例を示す図
図4】一実施形態に係るデータ処理システムにおけるうねり現象の発生条件の一例を示す図
図5】一実施形態に係るデータ処理システムにおけるフィルタ処理の効果の一例を示す図
図6】一実施形態に係るデータ処理システムにおいて生じるエアフローセンサの個体差による遅れ時間周波数の変化の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
【0009】
(データ処理システム10の構成)
図1は、一実施形態に係るデータ処理システム10の構成を示す図である。図1に示すデータ処理システム10は、自動車等の内燃機関を備えた車両に搭載されるシステムである。
【0010】
図1に示すように、データ処理システム10は、エアフローセンサ14およびECU20を備える。
【0011】
エアフローセンサ14は、内燃機関の吸気通路12における所定位置(例えば、エアクリーナとロットルバルブの間)に設けられている。エアフローセンサ14は、吸気通路12を流れる吸入空気量を検出する。エアフローセンサ14は、吸気通路12内に配置された発熱抵抗体12Aを有する。エアフローセンサ14は、吸入空気量に応じて発熱抵抗体12Aの抵抗値が変化することにより、吸入空気量を検出することができる。
【0012】
エアフローセンサ14は、通信路16によって、ECU20と通信接続されている。これにより、エアフローセンサ14は、通信路16を介したSENT通信によって、エアフローセンサ14によって検出された吸入空気量の測定データを、ECU20へ送信することができる。なお、エアフローセンサ14は、所定の周期(例えば、0.846ms)毎に、吸入空気量の測定データを、ECU20へ送信する。
【0013】
なお、エアフローセンサ14は、センサの一例であり、一例としてSENT通信により、ECU20に測定データをデジタル信号として送信する。吸入空気量に関する測定データとしては、例えば、吸入空気量に応じた電圧値が挙げられるが、これに限定されない。なお、エアフローセンサ14の代わりに、圧力センサが用いられてもよい。この場合、ECU20は、圧力センサから送信される圧力値を演算する。
【0014】
ECU20は、「データ処理装置」の一例であり、エアフローセンサ14から供給された吸入空気量の測定データを処理する。図1に示すように、ECU20は、取得部21、記憶部22、フィルタリング周波数算出部23、フィルタ処理部24、および平均化処理部25を備える。
【0015】
<取得部21>
取得部21は、エアフローセンサ14との通信を介して、エアフローセンサ14から送信された吸入空気量の測定データを取得する(データ取得工程)。また、取得部21は、取得された吸入空気量の測定データを、記憶部22に格納する(データ格納工程)。なお、取得部21は、エアフローセンサ14から吸入空気量の測定データが所定の周期で送信される毎に、吸入空気量の測定データを取得し、取得された吸入空気量の測定データを記憶部22に格納する。したがって、記憶部22には、エアフローセンサ14によって連続的に測定された複数の吸入空気量の測定データが蓄積されることとなる。
【0016】
<フィルタリング周波数算出部23>
フィルタリング周波数算出部23は、エアフローセンサ14による測定データの送信タイミング周期と、ECU20における測定データの処理タイミング周期とに基づく遅れ時間周波数と、吸気脈動の脈動周波数とに基づいて、フィルタリング周波数を算出する(フィルタリング周波数算出工程)。「遅れ時間周波数」とは、エアフローセンサ14の送信タイミングに対する、ECU20の処理タイミングの遅れ時間の周期的な変化(図2で後述する)の周波数である。
【0017】
例えば、フィルタリング周波数算出部23は、下記式(1)により、フィルタリング周波数F0を算出する。
【0018】
F0=abs(F1-F2)・・・(1)
【0019】
但し、上記式(1)において、F1は、吸気脈動の脈動周波数を示す。また、F2は、遅れ時間周波数(図3で後述する)を示す。例えば、F1は、下記式(2)により求められる。
【0020】
F1=NE/60×2・・・(2)
【0021】
但し、上記式(2)において、NEは、エンジン回転数を示す。
【0022】
<フィルタ処理部24>
フィルタ処理部24は、記憶部22に蓄積された吸入空気量の測定データから、フィルタリング周波数算出部23によって算出されたフィルタリング周波数の成分を除去する(フィルタ処理工程)。例えば、フィルタ処理部24は、帯域除去フィルタを用いることにより、吸入空気量の測定データから、フィルタリング周波数の成分を除去することができる。
【0023】
<平均化処理部25>
平均化処理部25は、記憶部22に蓄積された複数の吸入空気量の測定データを平均化する(平均化処理工程)。これにより、例えば、平均化処理部25は、エアフローセンサ14から取得した吸入空気量の測定データに含まれるノイズの影響を抑制することができる。ここで、平均化処理部25は、フィルタ処理部24によるフィルタ処理後の複数の吸入空気量の測定データを平均化することにより、当該平均化処理部25による処理後の測定データにおいて、うねり現象が発生することを抑制することができる。
【0024】
なお、ECU20は、平均化処理部25による処理後の測定データを外部へ出力する出力部、平均化処理部25による処理後の測定データに基づく所定の制御(例えば、燃料噴射量の制御)を行う制御部、等をさらに備えてもよい。
【0025】
また、ECU20は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を備えて構成されている。上記したECU20の各機能は、例えば、ECU20において、ROMに記憶されているプログラムを、CPUが実行することによって実現される。
【0026】
(遅れ時間の周期的な変化の一例)
図2は、一実施形態に係るデータ処理システム10において生じる遅れ時間の周期的な変化の一例を示す図である。図2に示すように、ECU20における測定データの処理タイミング周期は、エアフローセンサ14による測定データの送信タイミング周期よりも長い。例えば、図2(a)に示す例では、ECU20における測定データの処理タイミング周期は、「1.024ms」または「2.048ms」である。また、図2(b)に示す例では、エアフローセンサ14による測定データの送信タイミング周期は、「0.846ms」である。このため、図2(c)に示すように、エアフローセンサ14の送信タイミングに対する、ECU20の処理タイミングの遅れ時間が、周期的に変化する。なお、図2(a)および図2(c)において、点線は、ECU20における測定データの処理タイミング周期が「1.024ms」である場合を示しており、実線は、ECU20における測定データの処理タイミング周期が「2.048ms」である場合を示している。
【0027】
(遅れ時間周波数の一例)
図3は、一実施形態に係るデータ処理システム10において生じる遅れ時間周波数の一例を示す図である。
【0028】
図3(a)は、エアフローセンサ14による測定データの送信タイミング周期が「0.846ms」であり、且つ、ECU20における測定データの処理タイミング周期が「2.048ms」である場合に生じる遅れ時間のFFT解析結果を示している。図3(a)に示すFFT解析結果から、ECU20の処理タイミング周期が「2.048ms」である場合には、「77.4Hz」、「128.2Hz」、および「205.5Hz」がピーク周波数(すなわち、遅れ時間周波数)として得られる。
【0029】
図3(b)は、エアフローセンサ14による測定データの送信タイミング周期が「0.846ms」であり、且つ、ECU20における測定データの処理タイミング周期が「1.024ms」である場合に生じる遅れ時間のFFT解析結果を示している。図3(b)に示すFFT解析結果から、ECU20の処理タイミング周期が「1.024ms」である場合には、「205.5Hz」がピーク周波数(すなわち、遅れ時間周波数)として得られる。
【0030】
(うねり現象の発生条件の一例)
図4は、一実施形態に係るデータ処理システム10におけるうねり現象の発生条件の一例を示す図である。図4では、うねり現象の発生条件の一例として、遅れ時間周波数(図3参照)毎に、脈動周波数[Hz]と、うねり現象の発生周波数[Hz]との関係が示されている。なお、図4(a)は、ECU20における測定データの処理タイミング周期が「2.048ms」である場合の、うねり現象の発生条件を示している。また、図4(b)は、ECU20における測定データの処理タイミング周期が「1.024ms」である場合の、うねり現象の発生条件を示している。図4に示すように、うねり現象の想定すべき発生条件(発生周波数)に応じて、適切にフィルタリング周波数を設定するべきである。
【0031】
(フィルタ処理の効果の一例)
図5は、一実施形態に係るデータ処理システム10におけるフィルタ処理の効果の一例を示す図である。図5において、点線は、フィルタ処理の適用前の吸入空気量の測定データを表す。また、図5において、実線は、フィルタ処理の適用後の吸入空気量の測定データを表す。
【0032】
図5(a)~図5(e)に示すように、一実施形態に係るデータ処理システム10は、フィルタ処理部24によるフィルタ処理を行うことにより、各エンジン回転数(2000~2800rpm)において、うねり現象を抑制できることができる。
【0033】
(変形例)
図6は、一実施形態に係るデータ処理システム10において生じるエアフローセンサ14の個体差による遅れ時間周波数の変化の一例を示す図である。図6は、サンプルとして3つのエアフローセンサ14を用いた場合の、各々の遅れ時間のFFT解析結果を示している。
【0034】
3つのエアフローセンサ14の各々は、測定データの送信タイミング周期にばらつきが生じている。このため、図6に示すように、3つのエアフローセンサ14の各々は、測定データの送信タイミング周期に基づく遅れ時間周波数にばらつきが生じている。
【0035】
例えば、図6(a)に示すように、1番目のエアフローセンサ14は、測定データの送信タイミング周期が、「0.822ms」と、「0.814ms」と、「0.830ms」と、「0.806ms」とに、ばらつきが生じている。このため、図6(a)に示すFFT解析結果では、4つのピーク周波数(すなわち、遅れ時間周波数)が生じている。
【0036】
また、例えば、図6(b)に示すように、2番目のエアフローセンサ14は、測定データの送信タイミング周期が、「0.838ms」と、「0.846ms」と、「0.854ms」と、「0.862ms」とに、ばらつきが生じている。このため、図6(b)に示すFFT解析結果では、4つのピーク周波数(すなわち、遅れ時間周波数)が生じている。
【0037】
また、例えば、図6(c)に示すように、3番目のエアフローセンサ14は、測定データの送信タイミング周期が、「0.886ms」と、「0.878ms」と、「0.870ms」とに、ばらつきが生じている。このため、図6(c)に示すFFT解析結果では、3つのピーク周波数(すなわち、遅れ時間周波数)が生じている。
【0038】
このように、エアフローセンサ14の送信タイミング周期のばらつきが生じると、遅れ時間の周波数特性は変化する。同様に、ECU20における測定データの処理タイミング周期のばらつきが生じると、遅れ時間の周波数特性は変化する。
【0039】
そこで、一実施形態に係るECU20は、任意のタイミング(例えば、工場出荷時の検査工程、車両の走行中、等)で計測された、エアフローセンサ14の送信タイミング周期のばらつき、および、ECU20の処理タイミング周期のばらつきに応じて、フィルタリング周波数を算出し、当該フィルタリング周波数の成分を除去するフィルタ処理を行うようにしてもよい。これにより、一実施形態に係るECU20は、フィルタリング周波数の帯域幅を狭くすることができ、よって、フィルタ処理の精度を高めることができる。
【0040】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形又は変更が可能である。
【0041】
例えば、フィルタリング周波数は、上記式(1)によらず、例えば、エンジン回転数毎に、計測、シミュレーション等によって、予め求められたものを用いてもよい。
【0042】
なお、実施形態では、「変動的な測定データ」の一例として、吸入空気量の測定データを用いているが、これに限らない。「変動的な測定データ」は、少なくとも、周期的な変動を伴う、車両の運転状態を示すデータ、または、内燃機関の運転状態を示すデータであれば、如何なる測定データであってもよい。したがって、「変動的な測定データ」は、エアフローセンサによって測定されるものに限らず、その他の如何なるセンサによって測定されるものであってもよい。
【符号の説明】
【0043】
10 データ処理システム
12 吸気通路
12A 発熱抵抗体
14 エアフローセンサ
16 通信路
20 ECU
21 取得部
22 記憶部
23 フィルタリング周波数算出部
24 フィルタ処理部
25 平均化処理部
図1
図2
図3
図4
図5
図6