(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】床版接続用継手の検査装置
(51)【国際特許分類】
E01D 19/12 20060101AFI20240717BHJP
【FI】
E01D19/12
(21)【出願番号】P 2021072863
(22)【出願日】2021-04-22
【審査請求日】2023-12-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(74)【代理人】
【識別番号】100141243
【氏名又は名称】宮園 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】北原 成郎
(72)【発明者】
【氏名】鬟谷 亮太
(72)【発明者】
【氏名】古川 敦
(72)【発明者】
【氏名】天下井 哲生
(72)【発明者】
【氏名】畑本 浩伸
(72)【発明者】
【氏名】飛鳥馬 翼
(72)【発明者】
【氏名】周 波
(72)【発明者】
【氏名】竹下 嘉人
【審査官】高橋 雅明
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-176912(JP,A)
【文献】特開2018-159233(JP,A)
【文献】特開2007-277907(JP,A)
【文献】特開平8-4493(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣り合う床版の端部側にそれぞれ設置された固定金物と前記固定金物同士を繋ぐ連結金物とを備えた床版の継手の連結状態を検査する床版接続用継手の検査装置であって、
前記床版接続用継手とその周辺の床版を含む3次元画像を作成する3次元画像作成手段と、
前記作成された3次元画像とを保存する記憶手段と、
前記記憶手段に保存された3次元画像から、予め設定された前記床版接続用継手の複数箇所の3次元座標を計測する連結形状計測手段と、前記計測された複数箇所の3次元座標から、前記床版接続用継手の連結状態の良否を判定する判定手段と、を備えることを特徴とする床版接続用継手の検査装置。
【請求項2】
前記記憶手段に、予め前記固定金物の輪郭の3次元データを備えた位置ずれ補正用画像を記憶させるとともに、前記作成された3次元画像の輪郭と前記位置ずれ補正用画像の輪郭との位置合わせを行う、位置ずれ補正手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載の床版接続用継手の検査装置。
【請求項3】
送信器を備え、前記床版接続用継手の固定金物と連結金物とを締結するボルトの締付トルクを計測してその計測値を送信する送信器付きトルクレンチを備えるとともに、
前記判定手段は、前記締付トルクの計測値と前記3次元画像とから、前記床版接続用継手の連結状態の良否を判定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の床版接続用継手の検査装置。
【請求項4】
前記3次元画像作成手段が、
撮影対象物である前記床版接続用継手と前記床版接続用継手周辺の床版を含む領域にパターン光を照射する照射手段と、前記パターン光が照射された撮影対象物を撮影する撮像手段と、前記撮影された画像から前記撮影対象物の3次元形状を計測する計測手段とを備えることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれかに記載の床版接続用継手の検査装置。
【請求項5】
架台と、前記架台に、前記床版接続用継手を跨ぐように配置された走行手段とを有し、前記3次元画像作成手段を搭載して走行する台車を設けるとともに、前記3次元画像作成手段を前記台車の架台の下部に設置したことを特徴とする請求項1~請求項4のいずれかに記載の床版接続用継手の検査装置。
【請求項6】
前記固定金物と前記連結金物の製造番号を含む製造時情報と、
前記固定金物と前記連結金物の設置箇所を含む設置時情報と、
前記計測された複数箇所の3次元座標から求められる床版接続用継手の連結状態情報とを前記検査した床版接続用継手ごとに書き込んだ継手ファイルを作成する、継手ファイル作成手段を設けたことを特徴とする請求項1~請求項5のいずれかに記載の床版接続用継手の検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、隣り合う床版の端部側にそれぞれ設置された固定金物と前記固定金物同士を繋ぐ連結金物とを備えた床版接続用継手の連結状態を検査するための検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、河川等の上に架設される橋梁に道路を構築する際に、複数のプレキャストコンクリート床版(コッター床版)の側面同士を、コッター式継手と呼ばれる床版接続用継手を用いて連結した後、目地部にモルタル等の目地材を充填して、隣り合う床版同士を接合する床版接続工法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、床版同士が確実に連結されていることを確認するため、目地材の充填前に、床版接続用継手の連結状態の検査を行っていた。検査は、ボルト締付作業時における締付トルクの計測値を目視により確認して記録するトルク検査と、固定金物や連結金物の位置ずれ等をノギスや定規等を用いて測定する出来型検査の2種類がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の検査方法は、人手により行われているため、一継の床版接続用継手の検査に手間と時間がかかってしまうだけでなく、誤記や計測値の読み取りミスなどの人為的なミスが発生するおそれがあった。
【0005】
本発明は、従来の問題点に鑑みてなされたもので、床版接続工法における床版接続用継手の連結状態の検査を迅速にかつ精度よく行うことのできる床版接続用継手の検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、隣り合う床版の端部側にそれぞれ設置された固定金物と前記固定金物同士を繋ぐ連結金物とを備えた床版の継手の連結状態を検査する床版接続用継手の検査装置であって、前記床版接続用継手とその周辺の床版を含む3次元画像を作成する3次元画像作成手段と、前記作成された3次元画像とを保存する記憶手段と、前記記憶手段に保存された3次元画像から、予め設定された前記床版接続用継手の複数箇所の3次元座標を計測する連結形状計測手段と、前記計測された複数箇所の3次元座標から、前記床版接続用継手の連結状態の良否を判定する判定手段と、を備えることを特徴とする。
このように、床版接続用継手とその周辺の床版を含む3次元画像を用いることで、固定金物や連結金物の位置ずれ等を精度よく求めることができるようにしたので、床版接続用継手の連結状態の検査を迅速にかつ精度よく行うことができる。
また、前記記憶手段に、予め前記固定金物の輪郭の3次元データを備えた位置ずれ補正用画像を記憶させるとともに、前記作成された3次元画像の輪郭と前記位置ずれ補正用画像の輪郭との位置合わせを行う、位置ずれ補正手段を設けたので、3次元画像作成手段を移動させることなく、3次元画像の位置合わせを容易にかつ精度よく行うことができる。
また、送信器を備え、前記床版接続用継手の固定金物と連結金物とを締結するボルトの締付トルクを計測してその計測値を送信する送信器付きトルクレンチを備えるとともに、
前記判定手段では、前記締付トルクの計測値と前記3次元画像とから、前記床版接続用継手の連結状態の良否を判定するようにしたので、床版接続用継手の連結状態の良否の判定精度が向上した。
【0007】
また、前記3次元画像作成手段として、撮影対象物である前記床版接続用継手とその周辺の床版を含む領域にパターン光を照射する照射手段と、前記パターン光が照射された撮影対象物を撮影する撮像手段と、前記撮影された画像から前記撮影対象物の3次元形状を計測する計測手段を備えた3次元画像作成手段を用いたので、正確な3次元画像を容易に作成することができる。
また、架台と、前記架台に、前記床版接続用継手を跨ぐように配置された走行手段を有し、前記3次元画像作成手段を搭載して走行する台車を設けるとともに、前記3次元画像作成手段を前記台車の架台の下部に設置したので、1つの継手の検査が終了した後には、架台を直進させるだけで、3次元画像作成手段を次の検査箇所(継手)の上部に移動することができる。したがって、連続的な計測と検査とを行うことが可能となる。
また、前記固定金物と前記連結金物の製造番号を含む製造時情報と、前記固定金物と前記連結金物の設置箇所を含む設置時情報と、前記計測された複数箇所の3次元座標から求められる床版接続用継手の連結状態情報とを前記検査した床版接続用継手ごとに書き込んだ継手ファイルを作成する、継手ファイル作成手段を設けたので、連結された床版接続用継手の管理を効率よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態1に係る床版接続用継手の検査装置を示す図である。
【
図4】被り高さ、及び、面ずれの計測方法を示す図である。
【
図5】面高低差、及び、目地幅の計測方法を示す図である。
【
図6】床版接続用継手の連結状態の検査方法を示すフローチャートである。
【
図8】QRコード(登録商標)が貼付された床版接続用継手を示す図である。
【
図9】本実施形態2に係る床版接続用継手の検査装置を示す図である。
【
図10】位置ずれ補正用画像の一例を示す図である。
【
図11】位置ずれ補正用画像を用いた位置合わせ方法を説明するための示す図である。
【
図12】3D画像から、測定箇所の検出値を検出する方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
図1(a),(b)は、本実施の形態1を示す図で、(a)図は床版接続用継手の検査装置(以下、検査装置10という)の概略を示す図、(b)図は検査装置10の機能ブロック図である。
検査装置10は、架台11と、走行手段である車輪12と、トルクレンチ13と、3次元画像作成手段14と、カメラ位置調整手段15と、2Dコードリーダ16と、記憶・演算手段17と、制御手段18と、モニター19とを備え、図外の主桁上に架け渡されて橋軸方向Xに沿って隣り合う床版1,1同士を連結する床版接続用継手2の連結状態を検査する。なお、符号Yは橋軸直角方向である。また、同図の白抜きの矢印で示す、架台11の進行方向を前側とする。
図2(a)~(c)は、床版接続用継手2の一例を示す図で、床版接続用継手2は、所定の間隔を隔てて隣り合う床版1,1の互いに対向する端部側にそれぞれ設置された固定金物3と、固定金物3,3を繋ぐ、連結金物4とを備える。
床版接続用継手2の固定金物3は、プレキャスト工場で、床版1の接合する側の端部に予め埋め込まれる部材である。また、連結金物4は、隣り合う床版1,1の固定金物3,3同士を連結する部材である。現地では、向かい合った2つの固定金物3,3にそれぞれ形成された係合凹部31に連結金物4を挿入した後、固定用のボルト5,5により、2つの固定金物3,3と連結金物4とを締結することで、隣り合う床版1,1同士を連結する。
なお、固定金物3と連結金物4は、例えば、型枠に鋳鉄を流し込んで成型される。
(b)図と(c)図は、固定金物3,3と連結金物4とを連結した状態を示す図で、(b)図は平面図、(c)図は、(b)図のA-A断面図である。また、符号6は、床版1,1の端面間の隙間である目地である。
固定金物3は、連結金物4に設けられた係合部41が係合する係合凹部31を有する係合受部3aと、係合受部3aから床版1の中央部に延長して、床版1のコンクリートに定着される定着部3bとを備える。
係合受部3aは、底板32と、妻壁33と、側壁34と、係合壁35とを備える。係合凹部31は、これら底板32と、妻壁33と、側壁34とで囲まれており、妻壁33側に開口する係合部挿入用開口部31aと、係合壁35側に開口する連結部挿入用開口部31bとが形成されている。また、底板32には、ボルト5を固定するためのネジ穴36が形成されている。
連結金物4は、隣り合う固定金物3,3の係合凹部31,31に係合する一対の係合部41,41と、係合部41,41繋ぐ連結部42とを備える。
係合部41は、平面視半円状の部材で、中心にはボルト5を挿入するための貫通孔(ボルト挿入孔43)が形成されている。
連結部42は、Y方向に延長する係合壁部42a,42aと、X方向に延長して係合壁部42a,42aを連結する連結壁面42bとを備えた平面視H形の部材で、係合壁部42a,42aが係合受部3aの係合壁35と係合する。
なお、床版接続用継手2を構成する固定金物3の形状と連結金物4の形状とは、上記の(a)図に示したものに限定されるものではなく、係合凹部31と係合凹部31に係合する係合部41の形状や、係合部41繋ぐ連結部42の形状等については、強度や耐久性等を考慮して適宜変更可能であることはいうまでもない。
【0010】
次に、検査装置10の各構成要素について説明する。
架台11は、複数の側板11aと複数の仕切り板11bとを備え、下方が開放された箱状の部材で、最下段の仕切り板11bには3次元画像作成手段14が取付けられ、最上段の仕切り板11bにはモニター19が、他の仕切り板11bには記憶・演算手段17と制御手段18とが載置されている。また、左右の側板11aにはそれぞれトルクレンチ13が保持されている。なお、符号11cは、床版接続用継手2とその周辺の床版1を含む領域に外光が入らないようにするために、架台11の下部から前方に突出するように設けられた遮光板である。
車輪12は、架台11の前後に2輪ずつ取付けられており、図示しない作業者が後方の側板11aを押すことで検査装置10を前方に移動させる。
トルクレンチ13は、トルクレンチ本体13aと、トルク値表示部13bと、送信器を有する送信部3cとを備え、床版接続用継手2の固定金物3と連結金物4とを締結する2本のボルト5,5を予め設定した設定トルク値で締結するとともに、送信部3cから、計測したトルク値を記憶・演算手段17の記憶部17aに送信する。なお、2本のボルト5,5は、二人の作業者が、左右の側板11aから取外したトルクレンチ13,13にて同時に締結することが好ましい。
【0011】
3次元画像作成手段14は、撮影手段であるカメラ14aと、複数の方向から対象物にパターン光(縞パターン)を照射する照射部14bと、カメラ14aで撮影された画像から撮影対象物の3次元形状を計測する計測手段としての画像処理部14cとを備え、床版接続用継手2とその周辺の床版1を含む領域である検査領域の3次元画像を作成するもので、周知の3Dカメラが好適に用いられる。
図3は、カメラ14aと照射部14bの具体例を示す図で、本例では、照射部14bを、カメラ14aの周囲にカメラ14aを中心として対称に配置されて、対象物に異なる方向から複数枚の縞パターンを高速照射する第1及び第2のプロジェクター141,142から構成した。第1及び第2のプロジェクター141,142からは、それぞれ、カメラ14aの光軸方向とはズレた方向に縞パターンが照射される。本例では、第1のプロジェクター141が縦縞のパターンを照射し、第2のプロジェクター142が横縞のパターンを照射している。なお、図では、説明のため、縞パターンを形成するパターンマスク143,144をプロジェクター141,142の外側に表示しているが、各パターンマスク143,144は各プロジェクター141,142の内部に設けられていることはいうまでもない。
このように、複数の方向からパターンを照射することで、光の方向性や影による影響を回避できるので、死角なく、対象物の3次元情報を得ることができる。
なお、プロジェクターの台数としては、2台に限るものではなく、対象物にそれぞれ複数の異なる方向から縞パターンや格子パターンなどのパターン光を照射する構成であれば3台以上であってもよい。
なお、3次元座標のx軸は橋軸方向であるX方向に平行な方向で、y軸は橋軸直角方向であるY方向に平行な方向である。また、z軸は鉛直方向である。3次元画像は、2次元画像の各画素が対象物の奥行きに関する情報(z座標の情報)を有している。
作成された検査領域の3次元画像は、記憶・演算手段17の記憶部17aに送られる。
カメラ位置調整手段15は、床版接続用継手2の中心が検査領域の中心になるように、カメラ14aを、橋軸直角方向(Y方向;前後方向)に移動させるもので、例えば、レールとスライダーとを備えた周知の電動アクチュエータなどが用いられる。
なお、本例では、カメラ14aの移動方向を前後方向のみとしているが、これは、検査時には、検査装置10が、目地6を跨いで、橋軸直角方向であるY方向に平行に移動可能としたからで、左右方向への移動や回転移動が可能な位置調整手段を用いてもよい。
2Dコードリーダ16は、QRコード2Dのデータを読み取って、記憶・演算手段17に送る。QRコード2Dは、連結金物4のロット番号、製造番号等の製造時情報や、設置時刻、設置場所等の設置時情報を書き込んだ2Dコードで、
図8に示すように、後述するように連結金物4の係合壁部42a表面に貼り付けられている。読み取られたロット番号等のデータは、保存された締結トルクの計測値と同じファイル(後述する継手ファイル)に保存される。
なお、QRコード2Dとは別に、固定金物3にはロッド番号等が刻印されているので、カメラ14aで撮影した検査領域の画像から、固定金物3のロッド番号等を読み取ることができる。固定金物3のロット番号等のデータは、上記の継手ファイルに保存される。
【0012】
記憶・演算手段17は、記憶部17aと、連結形状計測部17bと、判定部17cと、継手ファイル作成部17dとを備え、締付トルクの計測値と検査領域の3次元画像とから、床版接続用継手2の連結状態の良否を判定するとともに、検査データや製造時情報や設置時情報を、検査した床版接続用継手2毎にファイルにまとめて保存する。
記憶・演算手段17は、例えば、コンピュータのソフトウェア、及び、RAM,ROMから構成される。
記憶部17aは、トルクレンチ13の送信部13cから送られてきた締結トルクの計測値、2Dコードリーダ16で読み込んだ検査データや製造時情報や設置時情報、3次元画像作成手段14で作成された検査領域の3次元画像を保存する。
連結形状計測部17bは、記憶部17aから検査領域の3次元画像を取り出し、この取り出された3次元画像から、予め設定された複数の検査項目(出来型検査項目)を計測する。本例では、出来型検査項目を、連結金物4の被り高さ、固定金物3の面ずれと面高低差、及び、目地幅とした。
被り高さは、床版1から測った連結金物4の深さで、
図4(a)に示す床版1A側を起点側とし、床版1B側を終点側とすると、起点側の被り高さh1と終点側の被り高さh2とがある。起点側の被り高さh1は、連結金物4の床版1A側の係合壁部42a1の中心との高低差である。具体的には、床版1Aから床版1Bに向かう方向を前方とすると、係合壁部42a1の中心と床版1Aの右側との高低差h11と、係合壁部42a1の中心と床版1Aの左側との高低差h12との平均値で、h1=(h11+h12)/2である。
一方、終点側の被り高さh2は、連結金物4の床版1B側の係合壁部42a2の中心との高低差で、係合壁部42a2の中心と床版1Bの右側との高低差h21と、係合壁部42a2の中心と床版1Bの左側との高低差h22との平均値である。すなわち、h2=(h21+h22)/2である。
なお、高低差h11~h22は、同図の右図に示す黒丸で示すポイントを結んだ線分上をスキャンして求めればよい。
面ずれは、橋軸直角方向(Y方向)での固定金物3と連結金物4との位置ずれで、本例では、
図4(b)に示すように、互いに対向する、起点側の床版1Aに取付けられた固定金物3Aの係合壁351と連結金物4の連結壁面42bとの距離をd1、終点側の床版1Bに取付けられた固定金物3Bの係合壁352と連結金物4の連結壁面42bとの距離をd2とすると、面ずれdは、d=|d1-d2|から求められる。なお、d1,d2の値は、同図左側の図の黒丸で示す計測点のy座標から求められる。
また、面高低差は、床版1から測った、隣り合う2つの固定金物3の深さの差で、本例では、
図5(a)に示すように、起点側の床版1Aの係合壁351の高さH1と終点側の床版1Bの係合壁352の高さH2との差ΔH=|H1-H2|から求められる。H1,H2の値は、同図の黒丸で示す計測点のz座標から求められる。
目地幅は、互いに対向する2枚の床版1,1間の水平距離で、本例では、
図5(b)に示すように、起点側の床版1Aの係合壁351の終点側の床版1B側の面と、終点側の床版1Bの係合壁352の起点側1A側の面との水平距離Wから求められる。係合壁351の端部のx座標と係合壁352の端部のx座標との差から求められる。
判定部17cは、記憶部17aから取出した締結トルクの計測値と設定トルク値とを比較するとともに、連結形状計測部17bで計測した、連結金物4の被り高さ、固定金物3の面ずれと面高低差、及び、目地幅と、予め設定された被り高さ、面ずれ、面高低差、及び、目地幅の管理基準値とを比較して、床版接続用継手2の連結状態の良否を判定する。
なお、締結トルクの計測値と被り高さとは、起点側と終点側のそれぞれのデータがあるので、判定部17cで判定するデータ数は全部で7個となる。
継手ファイル作成部17dは、記憶部17aに記憶された締付トルクの計測値と、連結金物4の製造時情報や設置時情報、連結金物4の被り高さ、固定金物3の面ずれと面高低差、及び、目地幅の計測値である連結状態情報とを、検査した床版接続用継手2毎にまとめて、これを継手ファイルとして保存する。
このとき、固定金物3の製造時情報についても上記の継手ファイルに加えるようにすれば、連結された床版接続用継手の管理を効率よく行うことができる。
【0013】
制御手段18は、
図1(b)に示すように、指示ボタン181~185を備えた操作部18aと、カメラ位置制御部18bとを備え、図示しない作業者が、3次元画像作成手段14、カメラ位置調整手段15、及び、記憶・演算手段17の各手段に画像作成等の指令を発する。
指示ボタン181はファイル作成ボタンで、このボタンを押すことで、トルク計測値の取り込みが可能となるとともに、計測された締結トルクの計測値を保存するためのファイル(継手ファイル)が自動的に作成される。なお、締結トルクの計測が完了すると、照射部14bの第1及び第2のプロジェクター141,142はパターン光の照射を開始するとともに、モニター19の表示画面には、カメラ14aで撮影された映像がモニター19に写しだされる。作業者は、モニター19に写しだされた映像を見ながら、検査装置10を、床版接続用継手2とその周辺の床版1を含む領域近傍に移動させてから、カメラ14aの位置を調整する。
指示ボタン182は、カメラ14aを前方に移動させるボタンで、指示ボタン183はカメラ14aを後方に移動させるボタンである。作業者は、カメラ14aで撮影された映像をみながら、指示ボタン182,183を押すことで、撮影された映像が、予め設定された測定対象範囲である、床版接続用継手2とその周辺の床版1を含む検査領域を含む位置になるように、カメラ14aの位置を調整する。なお、カメラ14aの移動距離は、指示ボタン182,183を押す時間もしくは押す回数に比例するようにしておけばよい。
指示ボタン184は寸法計測ボタンで、カメラ位置の調整が完了した後にこのボタンを押すことで、3次元画像作成手段14は検査領域を撮影して検査領域の3次元画像を作成し、記憶・演算手段17は、締付トルクの計測値と検査領域の3次元画像とから、床版接続用継手2の連結状態の良否を判定する。
指示ボタン185は、保存ボタンで、このボタンを押すことで、被り高さ、面ずれ、面高低差、及び、目地幅の計測値が、上述した締付トルクの計測値を保存したファイルである継手ファイルに保存される。
以下、指示ボタン181をファイル作成ボタン、指示ボタン182,183を移動ボタン、指示ボタン184を寸法計測ボタン、指示ボタン185を保存ボタンという。
モニター19は、架台11の上面に設置されて、カメラ14aの撮影した映像をディスプレイなどの画像表示手段に表示することで、カメラ位置が適切か否かを作業者に視認させる。
【0014】
次に、床版接続用継手の検査装置10を用いた検査方法について、
図6のフローチャートを参照して説明する。
はじめに、ファイル作成ボタン181を押下して、トルク計測値を取り込めるようにし(ステップS10)た後、2人の作業員がトルクレンチ13を用いて2本のボルト5,5を同時に締結するとともに、締結トルクの大きさであるトルク値を計測する(ステップS11)。
計測されたトルク値は、トルクレンチ13の送信部13cから記憶・演算手段17の記憶部17aに送信されるが、このとき、トルク値が記憶部17aに保存されたか否か、すなわち、トルク値が取得できたか否かを確認する(ステップS12)。
トルク値が取得できなかった場合には、ステップS11に戻って再度トルク値を計測する。なお、複数回トルク値が取得できない場合には、通信エラーの可能性が高いので、トルクレンチ13を交換し、再度計測する。
トルク値が取得できると、モニター19の表示画面には、カメラ14aで撮影された映像が写し出されるので、ステップS13に進んで、撮影された映像を見ながら、カメラ14aの位置調整を行う。具体的には、移動ボタン182,183を押下し、モニター19に映されたカメラ14aで撮影された床版接続用継手2とその周辺の床版1を含む検査領域が適正な位置になっているか否かを確認する。適正な位置とは、
図7に示すように、モニター19に表示されている中心線Y0がボルト5,5の中心を結ぶ線上にある場合をいう。なお、適正な位置になっていない場合には、移動ボタン182,183を押下し、カメラ位置を前後に移動させることで、カメラ14aの位置を調整する位置合わせを行う。
【0015】
カメラ14aの位置を調整後には、寸法計測ボタン184を押下し(ステップS14)、3次元画像を撮影する(ステップS15)。
なお、寸法測定前にQRコードの読み取りを行う(ステップS16)。
図8に示すように、QRコード2Dは、連結金物4のロット番号、製造番号、設置場所等を書き込んだ2Dコードで、連結金物4の係合壁部42a表面に貼り付けられている。
QRコードの読み取りは、2Dコードリーダ16を用いて行うが、QRコードを読み取りに使用するカメラは、カメラ14aを兼用してもよい。読み取られたロット番号等のデータは、保存された締結トルクの計測値と同じファイルに保存される。
このとき、カメラ14aで撮影した検査領域の画像から、固定金物3のロット番号等のデータを読み取って、上記ファイルに保存しておく。
次に、3次元画像作成手段14で作成された検査領域の3次元画像から、連結金物4の被り高さ、固定金物3の面ずれと面高低差、及び、目地幅とを計測し(ステップS17)た後、被り高さ、面ずれ、面高低差、及び、目地幅の計測値が規格内であるか否かを判定する(ステップS18)。
計測値が規格内である場合には、保存ボタン185を押下し(ステップS19)、前記の計測値を、締結トルクの計測値、及び、QRコードのデータを保存したファイルと同じファイルに保存して、当該床版接続用継手2の検査を終了する。
計測値と予め設定した規格内にない場合には、ステップS14に戻って、再度3次元画像の撮影を行って、被り高さ、面ずれ、面高低差、及び、目地幅を計測する。
なお、再測定では、ステップS16のQRコードの読み取りは省略してもよい。
また、計測値が複数回規格内にない場合には連結不良と見做し、固定金物3と連結金物4との連結をやり直す。
【0016】
実施の形態2.
前記実施の形態1では、カメラ位置調整手段15を用いて、カメラ14aで撮影された検査領域の位置合わせを行ったが、予め準備した、検査領域の位置ずれを補正するための画像(以下、位置ずれ補正用画像という)と撮影された検査領域の画像とを比較して位置合わせを行う手段を設けるようにすればカメラ14aや架台11を移動させることなく、検査領域の位置合わせを行うことができる。
図9は、本実施の形態2に係る床版接続用継手の検査装置(以下、検査装置10Zという)の機能ブロック図である。
検査装置10Zは、カメラ位置調整手段15とカメラ位置制御部18bとに替えて、位置ずれ補正部17zを設けたものである。位置ずれ補正部17zは、画像処理手段で、記憶・演算手段17に設けられ、位置ずれ補正用画像は、記憶部17aに保存されている。
なお、実施の形態1と同符号の構成要素は、実施の形態1の検査装置10と同構成であるので、その説明を省略する。
図10(a),(b)は、位置ずれ補正用画像の一例を示す図で、(a)図が、起点側の床版1Aに取付けられた固定金具3A側の位置ずれを補正するための上部補正用画像G1、(b)図が、終点側の床版1Bに取付けられた固定金具3B側の位置ずれを補正するため下部補正用画像G2である。上部及び下部補正用画像G1,G2には、固定金具3A,3Bの各種測定箇所、もしくは、測定箇所近傍の座標が予め登録してある。
位置ずれ補正部17zは、測定点が起点側の床版1Aを含む場合には、
図11に示すように、カメラ14aで撮影された検査領域の画像(以下、検査対象画像Gzという)を移動・回転させて、検査対象画像Gzの輪郭と上部補正用画像G1の輪郭を一致させることで、検査領域の画像の位置ずれを補正する。
本例では、上部補正用画像G1の太枠で囲った部分(固定金具3Aの妻壁33Aと係合壁35Aを含む部分)の輪郭を合わせることで、上部補正用画像G1の固定金具3Aと検査対象画像Gzの固定金具3Aの輪郭を合わせた。測定点が終点側の床版1Bを含む場合も、同様である。
上部及び下部補正用画像G1,G2と検査対象画像Gzの輪郭を一致させることは、上部及び下部補正用画像G1,G2の座標軸と、検査対象画像Gzの座標軸とが一致していることを意味する。したがって、各測定箇所の値を検出する際には、
図12(a),(b)に示すように、検査対象画像Gzに検査領域R11(ここでは、起点側の被り高さの検査領域)と同図の黒丸で示す測定点とを表示するとともに、上記のxyz座標系において、測定点を結んだ線分上をスキャンすれば、スキャンしたグラフから、各測定箇所の値である高低差h11,h12等の検出値を検出することが可能となる。なお、検査対象画像Gzの3D画像を作成し、作成された3D画像から、被り高さ等の検出値をプログラムによって検出してもよい。
また、測定箇所によって平均や差を求める必要がある場合は検出された値から平均や差を求めるればよい。
【0017】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は前記実施の形態に記載の範囲には限定されない。前記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者にも明らかである。そのような変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲から明らかである。
【0018】
例えば、前記実施の形態1,2では、カメラ位置調整手段3次元画像作成手段14として、3Dカメラを用いたが、ステレオカメラ等でもよい。あるいは、撮影対象物である床版接続用継手2とその周辺の床版に照射されたレーザー光の反射光から、前記撮影対象物の3次元形状を取得するレーザ変位計を用いてもよい。なお、レーザ変位計を用いる場合には、レーザ光を走査させる必要があり、その結果、3D画像取得装置を用いた場合に比較して、検査時間が長くなる。
また、前記実施の形態1,2では、床版接続用継手2の1継ごとに検査を行ったが、締付トルクの計測を先行して行い、締付トルクの計測値が規格内にあることを確認してから出来型検査を行ってもよい。なお、この場合も、締付トルクの計測値は、記憶部17a及び判定部17c手段に送られることはいうまでもない。また、締付トルクの計測値が規格外であった場合には、締め直して規格内になった締付トルクの計測値が記憶部17aに保存される。
【符号の説明】
【0019】
1 床版、2 床版接続用継手、3 固定金物、4 連結金物、5 ボルト、
6 目地、10 床版接続用継手の検査装置、11 架台、12 車輪、
13 トルクレンチ、
14 3次元画像作成手段、14a カメラ、14b 照射部、
141,142 プロジェクター、14c 画像処理部、
15 カメラ位置調整手段、16 2Dコードリーダ、
17 記憶・演算手段、17a 記憶部、17b 連結形状計測部、17c 判定部、
17d 継手ファイル作成部、18 制御手段、18a 操作部、
18b カメラ位置制御部、19 モニター。