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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】車両用シートのシートクッション
(51)【国際特許分類】
   B60R 22/22 20060101AFI20240717BHJP
   B60N 2/90 20180101ALI20240717BHJP
   B60N 2/68 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
B60R22/22
B60N2/90
B60N2/68
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021075961
(22)【出願日】2021-04-28
(65)【公開番号】P2022170077
(43)【公開日】2022-11-10
【審査請求日】2023-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000157083
【氏名又は名称】トヨタ自動車東日本株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 靖
【審査官】高瀬 智史
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-163177(JP,A)
【文献】特開平8-11612(JP,A)
【文献】特開2015-40018(JP,A)
【文献】特開2003-94998(JP,A)
【文献】実開昭60-105257(JP,U)
【文献】独国特許発明第4138615(DE,C1)
【文献】特開2004-114930(JP,A)
【文献】実開平5-42008(JP,U)
【文献】実開平5-42010(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 22/22
B60N 2/90
B60N 2/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートベルト装置のインナベルトが上下方向に通るスリットが後縁に開放して形成されたシートクッションパッドと、
前記シートクッションパッドの心材となって前記シートクッションパッドの形状を規定するシートワイヤフレームと、
を含み、
前記シートワイヤフレームは、前記スリットの壁面に沿って、後方が開口したU字形に取り回され、前記スリットの対向する2つの側壁面に沿ってそれぞれ延びる2つのスリット内部分は、前記シートクッションパッドから離れて位置し、互いの間隔が、前記インナベルトのバックルの厚さ寸法よりも狭い、
車両用シートのシートクッション。
【請求項2】
請求項1に記載のシートクッションであって、前記シートワイヤフレームの前記2つのスリット内部分は、前記シートクッションパッドを覆う表皮材によって前記シートクッションパッドと一緒に覆われている、シートクッション。
【請求項3】
請求項1または2に記載のシートクッションであって、
前記シートワイヤフレームの前記2つのスリット内部分は、前方部分が水平に延び、後方部分が後方が高くなるように傾斜し、
前記シートクッションパッドの上面は、後縁部の、少なくとも前記スリットの周囲に後方が高くなるように傾斜した立壁面を有する、
シートクッション。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートのシートクッションに関し、特にその構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用シートにおいては、当該シートに着席した乗員を拘束するシートベルト装置が備えられたものが知られている。乗用車等で広く普及している三点式シートベルト装置は、乗員の左右いずれか一方の肩近傍と腰部近傍の車体を結ぶように設けられたアウタベルトと、この乗員の他方の側方の腰部近傍の車体に結合されたインナベルトとの2つの部分を有する。アウタベルトに備わるタングを、インナベルトに備わるバックルに結合することで、乗員の左右いずれかの肩と、腰部とが拘束される。
【0003】
ベンチシート、すなわち乗員が着席する部分を複数有する一体型のシートにおいては、シートクッションに、インナベルトを通すための貫通孔または溝が設けられたシートが知られている。インナベルトの一端がシートクッションの下に位置する車体部分に固定され、他端(バックルの設けられた端)がシートクッションの上部に位置する。
【0004】
下記特許文献1には、後側の縁部(14a)から切れ込み溝(16)が形成されたシートクッションパッド(シートクッション14)が示されている。切れ込み溝(16)には、シートベルトのウェービング(20)が挿通する。シートクッション(14)内には、シートワイヤフレーム(26)が配索され、シートワイヤフレーム(26)は、切れ込み溝(16)を迂回するように、切れ込み溝(16)の横断面の3方を取り囲むように配索されている。シートワイヤフレーム(26)の、切れ込み溝(16)を挟んで対向する対向部(26a,26a)の間隔は、ウェービング(20)が通過可能であるが、ウェービング(20)の端に結合されたバックル(18)は通過不能な間隔となっている。バックル(18)が対向部(26a,26a)に支持されて落下が防止される。なお、上記の( )内の部材名および符号は、下記の各特許文献で用いられている部材名および符号であり、本願の実施形態の説明で用いられる部材名および符号とは関連しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-163177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
シートクッションパッドは、一般に、型内に原液を注入し、発泡させて成形を行うモールド成形にて作製される。上記特許文献1のシートクッションパッドのように、切れ込み溝を有する場合、成形上の要求から溝幅の下限値が存在する。一方で、シートワイヤフレームの対向部の間隔は、バックルを支持するために狭い間隔とする必要がある。シートワイヤフレームの対向部がシートクッションパッド内に埋まっている場合、切れ込み溝の溝幅に下限値があるため、この溝幅を、パッド内のフレームによってバックルを支持可能な程度に狭めることができない。
【0007】
本発明は、シートワイヤフレームでシートベルトのバックルを支持可能なシートクッションの成形しやすい構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る車両用シートのシートクッションは、シートベルト装置のインナベルトが上下方向に通るスリットが後縁に開放して形成されたシートクッションパッドと、シートクッションパッドの心材となってシートクッションパッドの形状を規定するシートワイヤフレームと、を含み、シートワイヤフレームは、スリットの壁面に沿って、後方が開口したU字形に取り回され、スリットの対向する2つの側壁面に沿ってそれぞれ延びる2つのスリット内部分を有し、これら2つのスリット内部分は、クッションパッドから離れて位置し、互いの間隔が、インナベルトのバックルの厚さ寸法よりも狭くなっている。
【0009】
シートワイヤフレームの2つのスリット内部分は、シートクッションパッドを覆う表皮材によってシートクッションパッドと一緒に覆われているものとすることができる。
【0010】
さらに、シートワイヤフレームの2つのスリット内部分は、前方部分が水平に延び、後方部分が後方が高くなるように傾斜しているものとすることができる。さらにまた、シートクッションパッドの上面は、後縁部の、少なくともスリットの周囲に後方が高くなるように傾斜した立壁面を有するものとすることができる。
【発明の効果】
【0011】
スリットの対向する2つの側壁面に沿ってそれぞれ延びる、シートワイヤフレームの2つのスリット内部分がクッションパッドから離れて位置することにより、スリットの溝幅とシートワイヤフレームの2つのスリット内部分の間隔とを独立して定めることができる。これにより、シートクッションの成形性が改善される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】車両用シートの概略構成を示す模式図である。
図2】シートクッションを示す斜視図である。
図3】シートクッションのベルト通し溝の周囲の構成を示す斜視図である。
図4】シートクッションのベルト通し溝の周囲の構成を示す平面図である。
図5】シートクッションのベルト通し溝の周囲の構成を示す断面図である。
図6】シートクッションのベルト通し溝の周囲の構成を示す断面図である。
図7】シートクッションの組み付け作業の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。以下の説明において、特段の断りがない限り、前後左右上下等の相対位置および向きを表す語句は、着席した乗員に関する相対位置および向きを表す。各図において、矢印FRの向きが前方、矢印UPの向きが上方、矢印LHの向きが左方である。
【0014】
図1は、車両用シート10を模式的に示す図である。図示する車両用シート10は、乗用車のリアシートである。乗用車のリアシートは、多くの場合、2人または3人の乗員が着席することを想定した一体のシートであり、このタイプのシートは、1人の乗員を対象としたセパレートシートに対して、ベンチシートと呼ばれている。車両用シート10は、着席した乗員の臀部および大腿部を下方から支持するシートクッション12、乗員の上半身を背後から支持するシートバック14を含む。ベンチシートにあっては、特にシートクッション12は、複数の乗員の着席に対応している。
【0015】
車両には、車両用シート10に着席した乗員をシートに拘束するためのシートベルト装置16が備えられている。図1において、シートベルト装置16は、実際には車両用シート10に隠れる部分も、車両用シート10を透視した状態で描かれている。シートベルト装置16は、着席した乗員の左右一方の肩近傍の車体部分と、これと同じ側の腰部近傍の車体部分を結ぶように設けられたアウタベルト18と、それとは反対側の腰部近傍の車体部分に固定されるインナベルト20を含む。アウタベルト18は、ウェビングが通されたタング22を有し、一方インナベルト20はタング22と着脱可能に結合するバックル24を有する。タング22とバックル24を結合することで、乗員の一方の肩と腰部とにおいて、乗員が車両用シート10に拘束される。インナベルト20は、車両用シート10が載置される車体のフロア26(図6参照)に固定されるブラケット28と、一端がブラケット28に結合され、他端にバックル24が結合されたウェビング30を含む。
【0016】
図2は、シートクッション12の概略構成を示す図である。シートクッション12には、後縁12aに隣接する後縁部に、上下方向に通り後縁12aに開放した、インナベルト20を通すためのベルト通し溝32が形成されている。インナベルト20は、このベルト通し溝32を通って、シートクッション12を上下方向に貫通し、これにより、インナベルト20は、下端が車両のフロア26に固定され、上端のバックル24がシートクッション12の上面に位置するようになる。
【0017】
図3~6は、シートクッション12のベルト通し溝32およびその周囲の構成を示す図である。図2~6を参照して、以下説明する。シートクッション12は、スポンジ状のシートクッションパッド34と、大部分がシートクッションパッド34内に埋まり、シートクッションパッド34の形状を規定するシートワイヤフレーム36を含む。シートクッション12の外形は、シートクッションパッド34にて規定される。シートワイヤフレーム36は、後述するように、ベルト通し溝32内で、シートクッションパッド34から露出している。さらに、シートクッション12は、シートクッションパッド34とシートワイヤフレーム36の露出部分とを覆う表皮材38を含む。表皮材38は、図3,5において省略されている。
【0018】
シートクッションパッド34は、乗員を下方から支持する本体部40と、本体部40の後縁から、上方かつ後方に延びるように設けられた立壁部42を含む。立壁部42は、シートクッション12の幅方向全体にわたって設けられているが、少なくともベルト通し溝32の周囲または左右の隣接部分に設けられてよい。立壁部42の上側の面、つまり本体部40の上面とつながる立壁面42aは、後方が高くなるように傾斜している。また、立壁部42の下側の面42bも後方が高くなるように傾斜している。
【0019】
シートクッションパッド34の後縁34aに隣接する後縁部には、後縁34aに開放したスリット44が形成されている。スリット44は、立壁部42から本体部40の後縁部分にかけて設けられており、左右の側壁面44a,44bおよび前方の前壁面44cにより規定されている。シートワイヤフレーム36は、ベルト通し溝32の部分において、スリット44の側壁面44a,44bおよび前壁面44cに沿って、後方が開放したU字形に形成されている。シートワイヤフレーム36の、スリットの側壁面44a,44bにそれぞれ沿う2つの部分36a,36bは、側壁面44a,44bから離れて延び、シートクッションパッド34から露出している。シートワイヤフレーム36の部分36a,36bは、スリット44内に位置し、以下、この部分をスリット内部分36a,36bと記す。シートクッションパッド34に形成されたスリット44と、シートワイヤフレームのスリット内部分36a,36bにより、シートクッション12のベルト通し溝32が規定される。シートワイヤフレーム36のスリット壁面に沿ってU字形に形成された部分の前端部分は、シートクッションパッド34内に埋まっている。
【0020】
シートワイヤフレームのスリット内部分36a,36bの前方部分は水平に配置され、後方部分は立壁部42に対応して後方が高くなるように傾斜している。この水平の部分を水平部分36a1,36b1、傾斜した部分を傾斜部分36a2,36b2と記す。シートワイヤフレームの2つのスリット内部分36a,36bの間隔s(図4参照)は、バックル24の厚さt(図6参照)より狭く設定されている。また、表皮材38が、シートクッションパッド34とシートワイヤフレームのスリット内部分36a,36bとを一緒に覆うことにより、図4に示すように、ベルト通し溝32の後端部は、後方に向けて開いたV字形に形成される。
【0021】
シートクッション12は、インサート成形によってシートクッションパッド34にシートワイヤフレーム36が埋まった状態にモールド成形される。モールド成形においては、シートクッションパッド34のスリット44の溝幅が狭いと成形できず、溝幅の下限値が存在する。一方で、シートワイヤフレーム36の2つのスリット内部分36a,36bの間隔sは、バックル24の厚さtより狭く設定する必要がある。本実施形態においては、シートワイヤフレーム36のスリット内部分36a,36bがシートクッションパッド34から露出していることにより、スリット内部分36a,36bの間隔と、シートクッションパッド34のスリット44の溝幅とを独立して定めることができる。これにより、スリット内部分36a,36bの間隔が狭くても、シートクッションパッド34の成形が可能となる。
【0022】
図7は、シートクッション12の組付け工程の説明図である。シートクッション12を組み付けるときには、フロア26に固定されたインナベルト20を上方に引き上げて、ウェビング30を張った状態とし、シートクッション12を後方が低くなるように傾けて、その状態で後方に移動させ、ベルト通し溝32にインナベルト20、特にそのウェビング30を通すようにする。ウェビング30がベルト通し溝32に収容されたら、シートクッション12を水平に配置して、図5に示す状態とする。その後のシートバック14を組み付ける工程などにおいて、立壁面42aが妨げとなって、バックル24の後方への落下が抑制される。シートクッション12を組み付けた状態で、立壁部42の最高点のフロア26からの高さが、ウェビング30を張ったときのフロア26からバックル24の付け根までの長さより高ければ、バックル24が立壁部42を越えて後方に落下することを、より確実に抑制することができる。
【0023】
前述したように、表皮材38によりV字形に形成されたベルト通し溝32の開口部は、シートクッション12を組み付ける際に、インナベルト20、特にそのウェビング30をベルト通し溝32内に誘導する。これにより、ベルト通し溝32とインナベルト20の位置合わせが容易にできるようになる。
【0024】
シートベルト装置を使用しない場合は、ベルト通し溝32内にバックル24を収容することができ、このとき、バックル24は、シートワイヤフレームのスリット内部分36a,36bに掛かって、シートクッション12の下側に落下することがない。スリット内部分の水平部分36a1,36b1を低い位置に配置し、シートクッション12の上面との距離を開けることで、バックル24の多くの部分をベルト通し溝32内に収めることができるようになる。また、スリット内部分の傾斜部分36a2,36b2によって、ベルト通し溝32内に収めたバックル24の後方への落下が防止される。シートクッション12を組み付けた状態で、傾斜部分36a2,36b2の最高点のフロア26からの高さが、ウェビング30を張ったときのフロア26からバックル24の付け根までの長さより高ければ、バックル24が立壁部42を越えて後方に落下することを、より確実に防止することができる。
【符号の説明】
【0025】
10 車両用シート、12 シートクッション、14 シートバック、16 シートベルト装置、18 アウタベルト、20 インナベルト、22 タング、24 バックル、26 フロア、28 ブラケット、30 ウェビング、32 ベルト通し溝、34 シートクッションパッド、36 シートワイヤフレーム、36a,36b (シートワイヤフレームの)スリット内部分、38 表皮材、40 (シートクッションパッドの)本体部、42 (シートクッションパッドの)立壁部、42a 立壁面、44 スリット。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7