(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】非対称な僧帽弁形成バンド
(51)【国際特許分類】
A61F 2/24 20060101AFI20240717BHJP
【FI】
A61F2/24
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021108693
(22)【出願日】2021-06-30
(62)【分割の表示】P 2018516389の分割
【原出願日】2016-06-09
【審査請求日】2021-07-05
(32)【優先日】2015-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2016-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】517431159
【氏名又は名称】エドワーズ・ライフサイエンシーズ・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】デイヴィッド・エイチ・アダムズ
【審査官】胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-520505(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0071970(US,A1)
【文献】特表2003-533275(JP,A)
【文献】特表2008-502457(JP,A)
【文献】特表2002-527190(JP,A)
【文献】特表2014-518699(JP,A)
【文献】特表2008-528179(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0277420(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0053687(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非対称な僧帽弁形成バンドであって、
上部、底部、第1端、第2端、及び剛性又は半剛性を有する本体部であって、前記第1端と前記第2端との間で延在するとともに、第1部分及び第2部分を含み、縫合糸通過可能面に取り囲まれた本体部を備え、
前記第1部分は、参照点から軌道に沿って反時計周り方向に延在して前記第1端で終端し、
前記第2部分は、前記参照点から前記軌道に沿って時計回り方向に延在して前記第2端で終端し、
前記第1部分の長さは、前記第2部分の長さより長く、
前記軌道の上面視は、左右方向の長軸及び上下方向の短軸であって、長軸および短軸の両方が当該僧帽弁形成バンドの重心を通る中心軸に直交し、短軸が前記中心軸で長軸に直交する、左右方向の長軸及び上下方向の短軸を備えた、D字型形状又は腎臓型形状を有し、前記参照点は前記中心軸より下方の前記短軸上に位置し、前記短軸は、前記中心軸の下方の前記参照点で前記軌道と交差し、前記長軸は、前記中心軸の左右の位置で前記軌道
の弁輪に沿った延長線と交差し、前記D字型形状又は腎臓型形状は、前記長軸より上側でより平坦な部分を有し、前記第2部分は、前記参照点から前記軌道に沿って時計回りに延在し、前記第1端が、長軸と軌道との交点を反時計回りに45°を超える位置に配置され
、前記第2部分は、前記軌道に沿って前記参照点から時計周り方向に90°の位置までは延在していないことを特徴とする、
非対称な僧帽弁形成バンド。
【請求項2】
前記軌道の前記上面視は、D字型形状であることを特徴とする、請求項1に記載の非対称な僧帽弁形成バンド。
【請求項3】
前記第1部分は、前記長軸の前記軌道との交点を越えて反時計周り方向に延在していることを特徴とする、請求項1に記載の非対称な僧帽弁形成バンド。
【請求項4】
前記第2部分は、前記軌道に沿って前記参照点から時計周り方向に75°の位置まで延在していることを特徴とする、請求項
1に記載の非対称な僧帽弁形成バンド。
【請求項5】
非対称な僧帽弁形成バンドであって、
上部、底部、第1端、第2端、及び剛性又は半剛性を有する本体部であって、前記第1端と前記第2端との間で延在するとともに、第1部分及び第2部分を含み、縫合糸通過可能面に取り囲まれた本体部を備え、
前記第1部分は、参照点から軌道に沿って反時計周り方向に延在して前記第1端で終端し、
前記第2部分は、前記参照点から前記軌道に沿って時計回り方向に延在して前記第2端で終端し、
前記第1部分の長さは、前記第2部分の長さより長く、
前記軌道の上面視は、左右方向の長軸及び上下方向の短軸であって、長軸および短軸の両方が当該僧帽弁形成バンドの重心を通る中心軸に直交し、短軸が前記中心軸で長軸に直交する、左右方向の長軸及び上下方向の短軸を備えた、D字型形状又は腎臓型形状を有し、前記参照点は前記中心軸より下方の前記短軸上に位置し、前記短軸は、前記中心軸の下方の前記参照点で前記軌道と交差し、前記長軸は、前記中心軸の左右の位置で前記軌道の弁輪に沿った延長線と交差し、前記D字型形状又は腎臓型形状は、前記長軸より上側でより平坦な部分を有し、前記第2部分は、前記参照点から前記軌道に沿って時計回りに延在し、前記第1端が、長軸と軌道との交点を反時計回りに45°を超える位置に配置され、前記第2部分は、前記参照点から時計回り方向に90°の位置まで延在していることを特徴とする
、非対称な僧帽弁形成バンド。
【請求項6】
前記非対称な僧帽弁形成バンドは、おおよそ前記短軸及び前記長軸との交点のところにピークを持つ部分的なサドル形状を有することを特徴とする、請求項1
または5に記載の非対称な僧帽弁形成バンド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2015年6月9日に出願され、その全体が本明細書に明確に組み込まれる米国特許出願第62/173、294号の利益を主張するものである。
【0002】
本開示は、概して弁輪形成バンドに関し、特に僧帽弁形成バンドに関する。
【背景技術】
【0003】
脊椎動物では、心臓は、四つのポンプ室、すなわち左心房及び右心房並びに左心室及び右心室を有する中空の筋肉の器官であり、各ポンプ室には一方向弁が備わっている。生体の心臓弁は、大動脈弁、僧帽弁(又は二尖弁)、三尖弁、及び肺動脈弁として識別され、心房の筋線維及び心室の筋線維に直接的又は間接的に付着した密な線維輪を備える環状体にそれぞれ配置されている。各環状体は、流れオリフィス(flow orifice)を画定する。四つの弁は、心臓周期中に血液が誤った方向に流れないようにする。すなわち、血液が弁を通って逆流しないようにする。血液は、静脈系及び右心房から三尖弁を通って右心室へ流入した後、右心室から肺動脈弁を通って肺動脈及び肺へと流れる。次いで、酸素を豊富に取り込んだ血液は、僧帽弁を通って左心房から左心室へ流れ、最後に左心室から大動脈弁を通って大動脈/動脈系へと流れる。
【0004】
僧帽弁及び三尖弁は、コラーゲンの線維輪により画定される。これらはそれぞれ弁輪(annulus)と称され、心臓の繊維骨格の一部を形成する。弁輪は、僧帽弁の二つの尖(cusps)又は弁尖(leaflets)(前尖及び後尖と称される)並びに三尖弁の三つの尖又は弁尖のための周縁付着をもたらす。生体の弁尖は、弁が開くと外側へ曲がり、弁尖の自由縁は一つになって接合閉鎖する。
【0005】
僧帽弁の弁尖の自由縁は、二つ以上の乳頭筋からの腱索に繋がっている。僧帽弁の異常は、腱索(索状物)が伸張したこと、場合によっては裂けてしまったことに起因して起こり得る。また、通常どおり伸張した弁でも、弁輪の形状変化が拡大することにより、適切に機能しないことがある。この状態は、弁輪拡大(dilation of the annulus)と称され、一般に心筋障害に起因して生じる。加えて、弁には、先天的に障害があることもあり、後天性疾患により障害が起こることもある。複数の病因学的研究から、僧帽弁の機能障害は、収縮時のピーク圧力で弁尖が接合しないときに起こり得る。その結果として、左心室から左心房への血液の望ましくない逆流が起こり得る。
【0006】
罹患又は損傷した弁を修復するために、様々な外科技術が使用され得る。一般的に使用される不全症の治療に有効な修復技術は、弁形成術である。弁形成術では、補綴弁形成修復セグメント又は補綴弁形成修復リングを弁輪に取り付けることにより弁輪を再成形することが多い。例えば、後方僧帽弁輪修復の目的は、僧帽弁後尖を前尖の方へ前進させることにより、より良好な接合を可能にすることである。弁輪形成リングは、心臓周期中に生じる機能変化をサポートするように設計されている。すなわち、接合及び弁の一体性を維持することにより逆流を防ぎながら、前方流が生じている間は良好な血行力学を可能にする。
【0007】
弁輪形成リングは、通常、ステンレス鋼若しくはチタンのロッド若しくは多重バンドなどの金属製、又は、シリコーンゴム若しくはポリエチレンテレフタレート(PET)(例えばカンザス州ウィチタのインビスタ社製のダクロン(登録商標)PET)索具などの可撓性材料製の内側基材又は内側コアであって、リングが線維性の弁輪組織に縫い付けられ得るように生体適合性の生地(fabric)又は布地(cloth)でカバーされたものを備える。より大きな剛性を有するコアが、通常、縫合糸通過可能なアンカー固定マージンとしてのシリコーン及び生地の両方から成る外側カバーにより取り囲まれている。弁輪形成リングは、硬くてもよく、可撓性を有してもよく、連続的な楕円形や円形、D字型、腎臓型、不連続なC字型など、平面視で様々な形状であってよく、バンドと称されることもある。米国特許第5,041,130号、米国特許第5,104,407号、米国特許第5,201,880号、米国特許第5,258,021号、米国特許第5,607,471号、及び米国特許第6,187,040号に各種例が記載されている。剛性及び半剛性を有する僧帽弁用環状リングのほとんどは、腎臓型又はD字型の形状を有し、後尖と同延の(co-extensive)湾曲した後方セグメントと、後方セグメントよりも多少直線に近い、前尖と同延の前方セグメントと、を備える。
【0008】
ポピュラーな弁輪形成リングの一つは、部分的に可撓性を有する、カリフォルニア州アーバインのエドワーズ・ライフサイエンス社から入手可能なカーペンティア・エドワーズ・フィジオ(Carpentier-Edwards Physio;登録商標)リングである。このフィジオ(登録商標)リングは、後部セクションにおいて選択的な可撓性を提供しつつ、剛性を有する前部セクションを通じてリモデリング効果を保つものであるので、「半剛性(semi-rigid)」のリングである。エドワーズ・ライフサイエンス社のより新しいフィジオII(Physio II;登録商標)リングはまた、僧帽弁輪の非平面上の輪郭によりフィットするようにアップダウンの湾曲を特徴とするものである。その他の様々なリングでは、後部が弓形であったり(例えば、米国特許第6,805,710号、米国特許第6,858,039号、及び米国特許第7,959,673号)、その他の3次元構成を有したりする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
数多くの設計のものが現在入手可能又は過去に提案されてきたが、生体の僧帽弁輪の解剖学的構造をより良く構成する弁輪形成リングが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、隣接する大動脈弁構造を避けるような形状及びサイズとされた弁輪形成バンドを提供し、筋肉性僧帽弁輪に沿う離開に対する保護をより良好にする。当該バンドは、埋め込まれた状態で僧帽弁輪の一側の周りでのスパンが他側の周りでのスパンよりも長いという点で非対称である。一般に、バンドは、後尖にわたって延在するとともに、前尖の外側で短い距離だけ後交連を越えて延在する。上部に前尖を有し底部に後尖を有する僧帽弁を見下ろすと、上下方向の短軸は、両弁尖の中点を通るように図示することができ、僧帽弁輪の短い方の寸法が当該短軸に沿って配置される。弁輪形成バンドは、中間セクション及びそれぞれが短軸のいずれかの側にある二つの自由端を備え、不連続であり、僧帽弁輪の周りで後交連に向かって延在する程度が前交連に向かって延在する程度よりも大きいことにより右側への外周長さが左側よりも大きくなるように、非対称に埋め込まれる。別の言い方をすると、埋め込まれたバンドの当該非対称な配置は、バンドの中心が短軸上にある対称な配置から、僧帽弁輪の周りで反時計回り(CCW)方向に回転されたものである。さらに、例示的な弁輪形成バンドは、盛り上がりの高位置点の両側のバンドの長さが異なるように、中間セクションにおいて、短軸を中心とした上向きの盛り上がり又は弓型の形状を有する。具体的には、盛り上がりの高位置点から反時計回り(CCW)方向に僧帽弁輪の周りで延在する長さが、時計回り方向(CW)に延在する長さよりも長い。本明細書に開示される、例示的な不連続な僧帽弁形成バンドは、その両自由端の間にギャップ又は開口部を有し、このギャップ又は開口部は、僧帽弁輪の周りで大動脈弁の位置に接するか又は隣接するように構成又は適合される。これは、大動脈弁に関連する線維性構造を避け、筋肉性僧帽弁輪に沿った離開に対する保護をより良好にする。
【0011】
本明細書に開示される様々な非対称な僧帽弁形成バンドは、僧帽弁輪に対して埋め込まれるように適合される。僧帽弁輪は、後尖の付いた後面及び前尖の付いた前面を有する。僧帽弁輪は、僧帽弁輪の流入側から見てD字型又は腎臓型の形状を略画定し、前面は後面より直線に近く、後面は前面より丸みを帯びており、僧帽弁輪と交差するとともに前面の中点と後面の中点との間で僧帽弁輪にわたって延在する短軸は、短軸に垂直であり僧帽弁輪と交差するとともに僧帽弁輪にわたって延在する長軸より短く、前交連及び後交連が二つの弁尖の間の二つの接合部において僧帽弁輪上に位置し、前交連は、後尖の中点から時計回り方向に位置し、後交連は、後尖の中点から反時計回り方向に位置する。僧帽弁輪はまた、僧帽弁輪が前面の中点及び後面の中点の両方において左心房に向かって盛り上がるサドル形状を略画定する。様々な実施形態では、弁輪形成バンドは、D字型若しくは腎臓型の形状であってもよく、楕円形状、平面形状、又は3次元形状であってもよい。
【0012】
第1実施形態の非対称な僧帽弁形成バンドは、縫合糸通過可能面に取り囲まれた略剛性を有する内側コアを含む細長い不連続な本体部を有し、本体部は、僧帽弁輪の形状の一部に略従う非対称形状であって、後面全体の周りで延在するとともに、おおよそ長軸と僧帽弁輪との交点に配置された第1自由端で終端し、その反対側で長軸と僧帽弁輪との交点を越えて前面へより長く延在して第2自由端で終端する非対称形状を画定する。
【0013】
第2実施形態の非対称な僧帽弁形成バンドは、縫合糸通過可能面に取り囲まれた略剛性を有する内側コアを含む細長い不連続な本体部を有し、本体部は、前交連に隣接して埋め込まれるように適合された第1自由端で始まり、後面の周りで反時計回り(CCW)方向に後交連を越えて前面まで延在する中間セクションを通り、第2自由端で終端する非対称形状を画定する。
【0014】
最後に、第3実施形態の非対称な僧帽弁形成バンドは、縫合糸通過可能面に取り囲まれた略剛性を有する内側コアを含む細長い不連続な本体部を有し、本体部は、僧帽弁輪の形状に略従う非対称形状であって、後面全体の周りで延在するとともに、後面における盛り上がりに対応する上向き弓形部を含む非対称形状を画定し、本体部は、上向き弓形部の中点から第1自由端まで第1スパンに沿って時計回り方向に延在するとともに、上向き弓形部の中点から第2自由端まで第2スパンに沿ってより長く延在する。
【0015】
最初の三つのバンドの実施形態のうち任意のものにおいて、本体部の外周スパン全体が、好ましくは、僧帽弁輪の周りの約58~67%延在する。例えば、後面の中点から反時計周り方向の本体部の一部の第1外周スパンは、僧帽弁輪の周りの約37~42%延在し、後面の中点から時計回り方向の本体部の一部の第2外周スパンは、僧帽弁輪の周りの約21~25%延在する。加えて、第1自由端は、長軸上で僧帽弁輪に埋め込まれるように適合され得る。第1自由端は、好ましくは、前交連に隣接して埋め込まれるように適合され、リング状の本体部は、前面内で反時計回り方向に第2自由端まで延在する。
【0016】
最初の二つのバンドの実施形態のうちの一つでは、本体部は、後面の中点を中心とする上向き弓形部を含んでもよい。好ましくは、本体部は、上向き弓形部に第1高位置点を有し、おおよそ第1自由端と第1自由端と正反対の位置とに位置する二つの低位置点を有し、第2自由端に第2高位置点を有する、部分的なサドル形状を備える。加えて、本体部は、上向き弓形部に第1高位置点を有し、おおよそ第1自由端と第1自由端と正反対の位置とに位置する二つの低位置点を有し、第2自由端に第2高位置点を有する、部分的なサドル形状を備え得る。
【0017】
第4実施形態では、非対称な僧帽弁形成バンドは、上部、底部第1端、第2端、及び剛性又は半剛性を有する本体部であって、第1端と第2端との間で延在するとともに、第1部分及び第2部分を含む本体部を含む。第1部分は、参照点から軌道に沿って反時計周り方向に延在して第1端で終端する。第2部分は、参照点から軌道に沿って時計回り方向に延在して第2端で終端する。第1部分の長さは、第2部分の長さと実質的に異なり、軌道の上面視は、楕円形状、D字型形状、又は腎臓型の形状を有し、時計の文字盤を画成する左右方向の長軸及び上下方向の短軸を備え、参照点は6:00の位置であり、短軸は、12:00の位置及び6:00の位置で軌道と交差し、長軸は、3:00の位置及び9:00の位置で軌道と交差し、D字型形状又は腎臓型形状は、長軸より上側でより平坦な部分を有する。
【0018】
第4実施形態のバンドについて、軌道の上面視は、好ましくはD字型形状であり、本体部の第1部分は、第2部分よりも長い。第1部分は、好ましくは、3:00の位置を越えて反時計周り方向に延在し、例えば、第1端が約1:30の位置又は約1:00の位置に配置される。一実施形態では、第2部分は、9:00の位置まで時計回り方向に延在せず、約8:30の位置までしか延在していなくてもよいが、第2部分は9:00の位置まで続いてもよい。
【0019】
第5実施形態の非対称な僧帽弁形成バンドは、剛性又は半剛性を有する開放バンドであって、上部及び底部を有し、後部及び当該後部の一端から延在する前部を備える開放バンドを備える。平面視で、開放バンドは、長軸を有し、第1周長を有する長い側及び第1周長より短い第2周長を有する短い側を画定するD字型又は腎臓型の形状の一部の周りで延在する。長軸とD字型又は腎臓型の形状とは、第1交点及び第2交点を共有し、当該D字型又は腎臓型の形状は、長い側と第3交点を共有し、短い側と第4交点を共有する短軸を有する。開放バンドの後部は、D字型又は腎臓型の形状の長い側に沿って第1交点から延在し、開放バンドの前部は、D字型又は腎臓型の形状の短い側に沿って第1交点から延在する。
【0020】
第5実施形態の非対称な僧帽弁形成バンドでは、上から見ると、長い側が下側、短い側が上側で、第1交点が右側、第2交点が左側である。後部は、好ましくは、D字型又は腎臓型の形状の第2交点までは延在しないが、あるいは、後部がおおよそD字型又は腎臓型の形状の第2交点まで延在してもよい。前部は、望ましくは、第4交点まで延在しない。
【0021】
第4実施形態又は第5実施形態のバンドのいずれかでは、非対称な僧帽弁形成バンドは、おおよそ短軸及び長軸との交点のところにピークを持つサドル形状を有する。好ましくは、サドル形状は、おおよそ長軸との交点のところに谷部を有する。さらに、本体部は、コア及び当該コアの上に配置された縫合糸通過可能なカバーを有し得る。コアは、コバルト-クロム合金、チタン合金、ステンレス鋼のうち少なくとも一つを含んでもよく、又はソリッドコア、複数のバンド、若しくはブレイズコアであってもよい。縫合糸通過可能なカバーは、好ましくは、コアの周りに配置されたエラストマースリーブ、及びエラストマースリーブの上に配置された繊維質の外側カバーを含む。縫合糸通過可能なカバーは、半径方向外向きに突出する縫合用フランジも有することができる。
【0022】
本出願に係る別の態様として、複数のサイズを有する上述の非対称な僧帽弁形成バンドのうち任意のものを備え、非対称な僧帽弁形成バンドのサドルの高さとサイズとの比率が一定でない、漸進性サドル型の非対称な僧帽弁形成バンドの組がある。例えば、高さとサイズとの比率がサイズとともに増加するか、又は、高さとサイズとの比率がサイズとともに連続的に変化する。少なくとも、高さとサイズとの比率が、少なくとも一つのステップで、サイズとともに変化する。また、バンドの組における短軸の長さとサイズとの比率も一定でなくてよい。例えば、短軸の長さとサイズとの比率は、サイズとともに増加し、サイズとともに連続的に変化してよい。少なくとも、当該比率は、少なくとも一つのステップで、サイズとともに変化する。
【0023】
本出願に係る別の態様は、必要に応じて僧帽弁を修復する方法であり、僧帽弁は、領域A1、A2、及びA3を含む前尖;領域P1、P2、及びP3を含む後尖;前内側交連;後外側交連;及び二つの三角部を備える。
【0024】
第1の方法は、僧帽弁バンドの第1端が前尖に近接し、僧帽弁バンドの本体部が前内側交連及び後外側交連のうち一方の周りで延在し、僧帽弁バンドの第2端が後尖又は前内側交連及び後外側交連の他方に近接するように、僧帽弁バンドを僧帽弁の弁輪に固定するステップを含む。
【0025】
必要に応じて僧帽弁を修復する第2の方法は、第1端が前尖に近接し第2端が前尖に近接しないように、第1端及び第2端を備える僧帽弁バンドを僧帽弁の弁輪に固定するステップを含む。
【0026】
最後に、僧帽弁を修復する第3の方法は、第1端が前尖に近接するように、第1端及び第2端を備える僧帽弁バンドを僧帽弁の弁輪に固定するステップを含み、僧帽弁バンドは、A2及びP2を通る平面に関して非対称である。
【0027】
上述の方法では、僧帽弁バンドを固定するステップは、好ましくは、A3に近接して第1端を固定し、P1又は前内側交連に近接して第2端を固定する工程を含む。また、僧帽弁バンドを固定するステップは、望ましくは、僧帽弁の弁輪の自然なサドル形状に従うように僧帽弁バンドを固定する工程を含む。
【0028】
本発明の原理及び利点のさらなる理解が、明細書の以下の部分及び図面を参照することによって明らかになるであろう。
【0029】
本発明の特徴及び利点は、明細書、特許請求の範囲、及び添付の図面を参照することによって、より良く理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】心室の収縮期中のピーク収縮圧力において弁尖が閉鎖して接合している状態の健康な僧帽弁の上面図すなわち平面図であり、主要な解剖学的目印を、本出願に係るバンドの外周のリーチを示す図線とともに示す。
【
図2】本出願に係る例示的な弁輪形成バンドが周りに埋め込まれた、
図1と同様の僧帽弁の平面図である。
【
図3A】本発明の例示的な弁輪形成バンドの立面図である。
【
図3B】本発明の例示的な弁輪形成バンドの平面図である。
【
図3C】本発明の例示的な弁輪形成バンドの平面図である。
【
図3D】本発明の例示的な弁輪形成バンドの立面図である。
【
図4A】対応する
図3Bの断面線に沿って切り取られた、例示的な弁輪形成バンドの断面図である。
【
図4B】対応する
図3Bの断面線に沿って切り取られた、例示的な弁輪形成バンドの断面図である。
【
図6A】対応する
図5Aの断面線に沿って切り取られた内側コアの断面図である。
【
図6B】対応する
図5Aの断面線に沿って切り取られた内側コアの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本出願は、隣接する大動脈弁構造を避けるとともに筋肉性僧帽弁輪に沿った離開に対する保護をより良好にする非対称な僧帽弁形成バンドを開示する。インプラントは不連続なリングであるので、本明細書では「バンド(band)」との語が使用される。ただし、このようなインプラントも、文脈によっては「リング」とも称される。実際、本明細書において開示されるバンドは、僧帽弁輪の大部分を囲む形状、ひいてはリング形状のほとんどをトレースする形状を画定するものである。完全なリング形状が構築されてもよく、また実際、バンドの形状は、自由端の間で延在するとともに両自由端を接続する形状を想定することにより定められてもよい。例えば、開示されるバンドの好ましい平面図形状は、通常の僧帽弁輪の周縁形状に従うように腎臓型又はD字型である。従って、「バンド」及び「リング」の語は同義であり、開示されるバンド又はリングは、単に二つの自由端を有するように不連続なものとされている。
【0032】
図示される弁輪形成バンド及びその他の非円形又は非平面状のバンドを参照して用いられる「軸(axis)」との語は、平面図で見たときにバンド又はリングの周縁の重心をおおよそ通る線を指す。「軸方向の(axial)」又は「軸」の方向は、弁口内、ひいてはバンドが弁口に埋め込まれたときは当該バンド内の、血流の平均方向に平行なものと見ることもできる。別の言い方をすれば、埋め込まれた僧帽弁バンド又は僧帽弁リングは、僧帽弁輪を通って左心房から左心室へ流れる血流の平均方向に沿って位置する中央流れ軸を中心とした向きである。
【0033】
図1は、後部が下を向き前部が上を向いた状態の僧帽弁の平面図である。健康な心臓では、僧帽弁MVの弁輪は、
図1に示すように、収縮期のピーク圧力すなわち収縮期圧力の下、後尖PLと前尖ALとが流れオリフィスで接合して緊密な接合部を形成するように、解剖学的形状及び張力を形成する。僧帽弁MVの弁輪は、後尖PLの付いた後面及び前尖ALの付いた前面を有する。弁輪の対向する内側部及び外側部において弁尖が交わる場所は、弁尖交連とも称される。すなわち、前交連(又は、より正確には前内側交連)AC及び後交連(又は後外側交連)PCである。後尖は三つの弁帆(scallops)又は尖に分割され、これらは、時としてP1、P2、及びP3として識別され、前交連から始まって反時計周り方向に後交連まで続く。後部弁帆P1、P2、及びP3は、弁輪後面の周縁の周りで特有の弧状部を画成し、これは僧帽弁後尖弁帆の実測値や外科医の好みなどの様々な要因に応じて変わり得る。しかしながら、一般に、僧帽弁輪の長軸22は、およそ交連AC、PCにおいて第1後部弁帆P1及び第3後部弁帆P3の両方と交差し、短軸24は、中央後部弁帆P2と交差するとともに中央後部弁帆P2を略両断する。前尖も、
図1に示されるように、A1、A2、及びA3と名付けられた弁帆又は領域を特徴として有する。
【0034】
僧帽弁の前尖ALは僧帽弁輪の線維性部分FAに付いており、当該線維性部分FAは、僧帽弁輪の外周全体の約3分の1を形成している。僧帽弁輪の筋肉性部分が僧帽弁輪の残部を構成しており、当該筋肉性部分には後尖PLが付いている。その二端が線維性三角部Tと呼ばれる前部線維性弁輪FAは、心臓の中央線維体の一部を形成する。前交連AC及び後交連PCは、各線維性三角部のすぐ後方に位置する。
【0035】
線維性僧帽弁輪FAは、大動脈弁AV、特に左冠静脈洞LCS及び非冠動脈洞NCSに接触又は隣接する。中央線維体は伸張に対してかなりの耐性があるので、僧帽弁輪の拡張の大部分は、弁輪の後方3分の2、又は筋肉性僧帽弁輪の周りで起こる。
【0036】
好ましい実施形態では、本明細書に開示される僧帽弁形成バンドは、実質的に完全な後部セグメントがバンドの短軸を中心として配置された、腎臓型又はD字型の形状を画定する不連続なリングを備える。さらに、弁輪形成バンドは、互いに反対側に位置する自由端を有する二つの前部セグメントであって後部セグメントから異なる長さで延在する前部セグメントを画定する。バンドの二つの前部セグメントが異なる長さであることにより、後交連に向かってアンバランスとなる非対称性がもたらされる。
【0037】
本明細書に開示される非対称な弁輪形成バンドの輪郭をより良好に定めるために、
図1は、僧帽弁輪の周りの外周スパン30を図示し、バンドの長さの範囲をおおよそ図示する。より具体的には、バンドの最大長さは、前交連ACの放射状角度位置32から線維性僧帽弁輪の範囲内で後交連PCより上の放射状角度位置34まで、反時計回り(CCW)方向にぐるりと延在する。非対称バンドが、隣接する左冠静脈洞LCS及び非冠動脈洞NCSの大動脈弁構造を避けるスパンで、僧帽弁輪の周りに延在することが理解されよう。図示されるように、大動脈弁AVは、短軸24から僅かにずれて位置すると考えられている。加えて、バンドの右側の後交連PCの周りに延在する部分は、当該領域を補強するとともに当該領域における離開又は縫合糸の離脱を抑制する。一般に、バンドは、後尖PLの周りを周状に延在するとともに、前尖ALの周りで後交連PCを越えて短距離だけ周状に延在する。
【0038】
このスパンをより良好に定めるのを補助するために、僧帽弁MVの長軸22及び短軸24に対して時計位置が割り当てられ得る。すなわち、上下方向の短軸24が12:00の位置と6:00の位置との間で延在してこれらの位置を定め、左右方向の長軸22が3:00の位置と9:00の位置との間で延在してこれらの位置を定める。この命名法を使用すると、
図1に図示される最長バンドは、約9:00の放射状位置32と約1:00の放射状位置34との間で延在している。当然ながら、これらの幾何学的配置は、連続的なリングのパーセント表記とすることも角度表記とすることもでき、この場合、上述の最大スパン30は、僧帽弁輪の周りの約67%、又は約240°である。
【0039】
放射状位置32、34は、バンドの自由端に対応する。各自由端は、独立して、2次放射状位置36及び38で示されるように短くされてもよい。放射状位置36は約8:30の位置であり、放射状位置38は約1:30の位置である。結果として、最も短いバンドは、僧帽弁輪の周りの約58%又は約210°にわたって延在するものとすることができる。一端を短くして他端を短くしていない中間バンドも考えられ、これは僧帽弁輪の周りの約62%又は約225°にわたって延在するバンドに対応する。
【0040】
図2は、僧帽弁及び解剖学的目印を図示しており、例示的な弁輪形成バンド40が僧帽弁に固定されている。バンド40は、隣接する大動脈弁AVの構造体を避けるような形状及びサイズとされており、筋肉性僧帽弁輪に沿う離開に対する保護をより良好にする。バンド40は、埋め込まれたときに、僧帽弁輪の一側の周りでの延在の程度が他側よりも大きいという点において非対称となる。すなわち、バンド40は、弁輪の短軸24に関して非対称である。
図2のように僧帽弁を見下ろすと、上下方向の短軸24は、弁尖AL、PL両方の中点を通って延在する。弁輪形成バンド40は、中間セクション42及びそれぞれが短軸24のいずれかの側にある二つの自由端44a、44bを備え、不連続である。バンド40は、僧帽弁輪の周りで後交連PCに向かって反時計周りに延在する程度が前交連ACに向かって時計回りに延在する程度よりも大きいことにより右側への外周長さが左側よりも大きく又は長くなるように、非対称に延在する。別の言い方をすれば、埋め込まれたバンド40の当該非対称な配置は、バンドの外周の中央(およそ数字46のところに位置する)が短軸24から反時計周りに進んだところに位置するように、対称な配置から僧帽弁輪の周りで反時計回り(CCW)方向に回転されたものである。
【0041】
図3A~
図3Dに示すように、例示的な弁輪形成バンド40は、中間セクション42において、短軸24を中心とした、鉛直軸48に沿う緩やかな上向きの盛り上がり又は弓形の形状50を有する。(鉛直軸48は、長軸22及び短軸24の両方に垂直であり、これらの交点を通って延在する。)この弓形の形状50は、短軸24の両側において、リングの周りでおおむね長軸22上にある低位置点に向かって小さくなる。第1自由端44aは長軸22上又は長軸22に隣接して位置するので、第1自由端44はまた、上記低位置点のうち第1低位置点におおよそ対応する。第2低位置点52は、第1自由端44aと反対側で、長軸22に沿ったバンドの中間セクション42に生じる。そうして、バンド40は、第2低位置点52から第2自由端44bに向かって盛り上がる。
図3Cの破線の延長線54で示すように、もしバンド40が連続的であったとすると、バンド40は、前部セクション及び後部セクションがともに上向きに弓形に曲がり(上向き凸状)、長軸22と交差する両側が下向きに湾曲した(下向き凸状)サドル形状を画定することになろう。当然ながら、ここでの議論は、「上(up)」が左心房に対応し、「下(down)」が左心室に対応し、このため血流が弁輪を通って下向きに流れる、という相対的な向きを参照している。
【0042】
図2、
図3A、及び
図3Cの底面図に示すように、弁輪形成バンド40の上向き弓形部50は、弓の高位置点の両側のバンドの長さが異なるように、短軸24を中心として配置される。具体的には、短軸24上の弓形部50の高位置点から反時計回り(CCW)に延在する第1スパン60は、時計回り(CW)に(これらの方向は、
図3Cの底面図では逆になっている)延在する第2スパン62よりも長い。上述のとおり、短軸24の各側でのバンド40のスパンは異なっており、第1スパン60は僧帽弁輪の後交連PCを越えて延在し、第2スパン62はおおよそ前交連ACまで延在するか又は前交連ACより少しだけ短い。上述の表現を用いると、第1スパン60が、短軸24からCCW方向に、最も遠くで約1:00の位置、すなわち僧帽弁輪の周りで約42%(約150°)の位置まで延在する一方、第2スパン62は、短軸24からCW方向に、最も遠くで約9:00の位置、すなわち僧帽弁輪の周りで約25%(約90°)の位置まで延在する。さらに、第1スパン60及び第2スパン62は、
図1において放射状の線36及び38で示すように、独立に多少短くてもよい。
【0043】
図4A及び
図4Bは、対応する
図3Bの断面線に沿って切り取られた弁輪形成バンド40の断面図である。好ましい実施形態では、バンド構成は、縫合糸通過可能面に取り囲まれた比較的大きな剛性又は半剛性を有する内側コア70を含み、縫合糸通過可能面は、コアを密に取り囲むエラストマースリーブ72、及び繊維質の外側カバー74、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)繊維カバーを含み得る。好ましい実施形態では、エラストマースリーブ72は、シリコーンゴムであってよく、僧帽弁輪へのバンド40の縫合を容易にするために、外側へ延在するフランジ76を有するような形状である。バンド40は、縫合糸、ステープル、又はそうした他のデバイスで僧帽弁輪の内側レッジ(ledge)に固定され得る。典型的な手順では、縫合糸のアレイが、弁輪を貫通してアンカー固定され、次いでバンド40の周りで対応する位置を縫って通され、その後、縫合糸を結わえる前に、バンドが投下され(parachuted down)、縫合糸アレイが弁輪に据え付けられる。
【0044】
図5A~
図5Cは、弁輪形成バンド40のための例示的な内側コア70を示す。コア70は、様々な材料及び断面形状を備えることができ、図示される実施形態では長方形で示されている。バンド40及びコア70の別々の位置で切り取られた断面
図4A/6A及び4B/6Bで示されるように、コアは、望ましくは、自由端80a、80bに向かう部分よりも中間セクションで厚くなっている。これにより、離開又は縫合糸の離脱を避けるのを助けるために、バンド40の自由端44a、44bの近くで多少の可撓性がもたらされる。
【0045】
本発明の弁輪形成バンドは、手術時の人間の心臓の僧帽弁輪により加わる応力を受けた際の歪み(distortion)に抵抗する点で、「略剛性を有する(generally rigid)」。この意味において、「歪み」とは、所定の又は製造された形状からの実質的かつ永久的な変形を意味する。この機能を果たすバンドの内側コアとして、様々な生態適合性ポリマーや金属、合金、これらの組合せ又は複合材料など、複数の「略剛性を有する」材料が利用され得る。例えば、本体部内の歪み及び急速な劣化に抵抗する特定のポリエステルが使用され得る(ゆっくりと劣化する材料であれば、必要なサポートを初期には得ることができる)。好ましい実施形態では、本発明の弁輪形成バンドの少なくとも内側コア又は本体部は、コバルト-クロム(Co-Cr)合金(例えば、アメリカ合衆国エルジンIIIのエルジロイ・エル・ピー社により生産されるエルジロイ(ELGILOY;登録商標)Co-Cr合金)、チタン若しくはチタン合金(例えば、約6重量%のアルミニウム及び約4重量%のバナジウムを含むチタン-6-4)、ステンレス鋼、ニチノール、又はこれらの組合せなど、適切な金属から成る。
【0046】
コア又はバンド本体は、単一ピースであってもよく、一つに保持される複数の同心状バンド若しくはその他の協働する要素、又はこれらの任意の組合せを含んでもよい。単一ピースコアの実施形態としては、例えば
図6A及び
図6Bに図示されるような正方形/長方形断面のものや、例えば凸状の多角形、円形、楕円形など別の形状を有するコアなどが挙げられる。コアの別の実施形態は、少なくとも一つのチャンネルを含み、例えばC字形状又はH字形状の断面を有するものがある。
図6A及び
図6Bに示されるように、断面形状は、コアの長さに沿って変化することができる。従って、いくつかのコアでは、少なくとも一部分が(例えば中間セクションに沿って)チャンネルを含み、別の部分(例えば一旦又は両端)はチャンネルを含まない。
【0047】
コアがバンドを備える実施形態は、バンドが半径方向に若しくは同心円状に、及び/又は軸方向に積み重ねられたコアを含む。このようなコアの一つ以上の選択された部分の可撓性又は剛性は、例えば、当該部分におけるバンドの数を変えたり、当該部分における少なくとも一つのバンドの厚さを変化させたり、異なる材料を備える少なくとも一つのバンドを組み込んだり、又はこれらを任意に組み合わせることにより、調節され得る。いくつかの実施形態では、少なくとも一つの隣接するバンドの対の間にスペーサ、例えばポリマースペーサ及び/又はエラストマースペーサを含む。複数ピースのコアの別の実施形態としては、複数のワイヤ、ストランド、及び/又はブレイズから編み組まれたブレイズコアが挙げられる。
【0048】
本発明の弁輪形成バンドはまた、特定の病状を直すのに特に適している。すなわち、本発明は、バンド本体により画定されるバンドの組であって、このバンドの組中のバンド本体の公称オリフィスサイズが増加するのに比例してバンド本体の形状が変化するものを考えている。オリフィスサイズとは、一般に、バンド本体の長軸にわたる公称長さを指す。ただし、この用法から逸脱するリング又はバンドもある。通常、弁輪形成リング及び弁輪形成バンドは、長軸にわたって測定すると、増分が偶数ミリメートル単位のオリフィスサイズ(例えば、24mmや26mmなど、約40mmまで)を有する。その他の定寸スキームも採用可能である。例えば、奇数ミリメートル単位や毎ミリメートル単位、これらを組み合わせたスキーム(例えば、あるサイズまでは毎ミリメートルで、そのサイズを越えると偶数ミリメートル単位で増加するようなもの)などがある。このようなリングは、特定のサイズでラベリングされるように、区別可能なパッケージを有する。バンド形状の変化は、直すべき病状に依存する。例えば、病状が僧帽弁の逆流をもたらす場合、バンドのサイズが増加するにつれて真円度が増加するバンドの組が有益であり得る。このバンドの組は製造時に「略剛性を有し」容易には操作されないように形成されたバンド本体で形成される、ということを理解するのが重要である。一例として、エルジロイ(登録商標)Co-Cr合金のバンドで形成されたバンドコアがある。このような弁輪形成バンドのためのホルダーは最適なサイズのバンドに従う周縁形状を有することも言及されるべきである。
【0049】
弁輪形成バンドの組のいくつかは、漸進的サイズの(progressively sized)バンド(すなわち、少なくとも一つの寸法が、ラベリングされたバンドサイズに対して線形には増減しないもの)を含む。上述のように、ラベリングされたサイズは長軸長さに関するものであるので、この漸進性すなわち非線形性は、別段の記載がない限り、長軸長さについて記載したものである。バンドの組の実施形態における漸進的サイズの寸法の例としては、短軸の長さ及びサドルの高さ又はサドルの程度(degree)などが挙げられる。漸進性の影響を受ける他の変数として、バンドの少なくとも一部分の可撓性がある。いくつかの組は、漸進的寸法を組み合わせた(例えば短軸長さ及びサドル高さ)バンドを含む。
【0050】
いくつかの組では、組の中のどのバンドも、少なくとも一つの寸法に沿った漸進的サイズを有する。いくつかの組では、漸進的サイズは、例えば、個々のバンドそれぞれに対してではなく、サブセット又はバンドサイズの範囲に対して段階的に適用される。例えば、いくつかの組は、寸法がサイズに比例して増減するバンドサイズの第1範囲と、当該寸法がやはりサイズに比例して増減するバンドサイズの第2範囲と、を含むが、比例の比が第1範囲と第2範囲とで異なる。いくつかの組では、サイズの第1範囲では漸進的サイズでなく(例えば小さなバンド)、第2範囲では漸進的サイズである(例えば大きなバンド)。
【0051】
上述のように、いくつかの組では、短軸24と長軸22との比率はサイズとともに変化する。いくつかの実施形態では、このアスペクト比は、ラベリングされたサイズとともに増加する。例えば、本明細書に記載されたいくつかのバンドは、図面に示されるようなD字形状の一部として画定され得るものであるが、約36mm以上のサイズのバンドはより丸みを帯びたものとなる。その結果、いくつかの実施形態では、よりサイズが大きい場合、バンドの湾曲は、平面視で、少なくとも長い側では、長軸22に関してより対称的なものとなる(
図2参照)。
【0052】
別の例では、バンドの組は、より大きなサイズに対して、線形的ではないが増加するサドルプロファイルを有する。すなわち、好ましいバンドの組は、約30mmより小さなバンドに対しては比較的平坦なサドル(上向き弓形部が小さいもの)を有し、約24~30mmのバンドでは一定の緩やかなサドル形状を有する一方、より大きな約36~40mmのバンドは、より顕著なサドル形状を有する。
【0053】
他のバンドの組では、サイズが小さいうちはサイズに比例してサドルが増加し、サイズが大きくなると漸進的に増加する。変形例は中間範囲を含み、中間範囲では、サドルは漸進的に増加するものの、サイズがより大きなものに比べると増加は穏やかである。
【0054】
以上が本発明の好ましい実施形態の全説明であるが、様々な変形例、修正例、及び均等物が使用され得る。また、他の修正例が添付の特許請求の範囲の枠内で実施され得ることは明らかである。
【0055】
[第1項]
僧帽弁輪に対して埋め込まれるように適合された非対称な僧帽弁形成バンドであって、前記僧帽弁輪は、後尖の付いた後面及び前尖の付いた前面を有し、前記僧帽弁輪は、僧帽弁輪の流入側から見てD字型又は腎臓型の形状を略画定し、前記前面は前記後面より直線に近く、前記後面は前記前面より丸みを帯びており、前記僧帽弁輪と交差するとともに前記前面の中点と前記後面の中点との間で前記僧帽弁輪にわたって延在する短軸は、前記短軸に垂直であり前記僧帽弁輪と交差するとともに前記僧帽弁輪にわたって延在する長軸より短く、前交連及び後交連が二つの弁尖の間の二つの接合部において前記僧帽弁輪上に位置し、前記前交連は、前記後尖の前記中点から時計回り方向に位置し、前記後交連は、前記後尖の前記中点から反時計回り方向に位置し、
縫合糸通過可能面に取り囲まれた略剛性を有する内側コアを含む細長い不連続な本体部を備え、前記本体部は、前記僧帽弁輪の形状の一部に略従う非対称形状であって、前記後面全体の周りで延在するとともに、おおよそ前記長軸と前記僧帽弁輪との交点に配置された第1自由端で終端し、その反対側で前記長軸と前記僧帽弁輪との交点を越えて前記前面へより長く延在して第2自由端で終端する非対称形状を画定する、僧帽弁形成バンド。
[第2項]
前記本体部の外周スパン全体が前記僧帽弁輪の周りの約58~67%延在する、第1項に記載の僧帽弁形成バンド。
[第3項]
前記後面の中点から反時計周り方向の前記本体部の一部の第1外周スパンは、前記僧帽弁輪の周りの約37~42%延在し、前記後面の前記中点から時計回り方向の前記本体部の一部の第2外周スパンは、前記僧帽弁輪の周りの約21~25%延在する、第1項に記載の僧帽弁形成バンド。
[第4項]
前記本体部は、前記後面の中点を中心とする上向き弓形部を含む、第1項に記載の僧帽弁形成バンド。
[第5項]
前記本体部は、前記上向き弓形部に第1高位置点を有し、おおよそ前記第1自由端と前記第1自由端と正反対の位置とに位置する二つの低位置点を有し、前記第2自由端に第2高位置点を有する、部分的なサドル形状を備える、第4項に記載の僧帽弁形成バンド。
[第6項]
前記第1自由端は、前記前交連に隣接して埋め込まれるように適合され、リング状の前記本体部は、前記前面内で反時計回り方向に前記第2自由端まで延在する、第1項に記載の僧帽弁形成バンド。
[第7項]
僧帽弁輪に対して埋め込まれるように適合された非対称な僧帽弁形成バンドであって、前記僧帽弁輪は、後尖の付いた後面及び前尖の付いた前面を有し、前記僧帽弁輪は、流入側から見てD字型又は腎臓型の形状、及び前記僧帽弁輪が前記前面の中点及び前記後面の中点の両方において左心房に向かって盛り上がるサドル形状を略画定し、
縫合糸通過可能面に取り囲まれた略剛性を有する内側コアを含む細長い不連続な本体部を備え、前記本体部は、前記僧帽弁輪の形状に略従う非対称形状であって、前記後面全体の周りで延在するとともに、前記後面における盛り上がりに対応する上向き弓形部を含む非対称形状を画定し、前記本体部は、前記上向き弓形部の中点から第1自由端まで第1スパンに沿って時計回り方向に延在するとともに、前記上向き弓形部の中点から第2自由端まで第2スパンに沿ってより長く延在する、僧帽弁形成バンド。
[第8項]
前記本体部は、前記上向き弓形部に第1高位置点を有し、おおよそ前記第1自由端と前記第1自由端と正反対の位置とに位置する二つの低位置点を有し、前記第2自由端に第2高位置点を有する、部分的なサドル形状を備える、第7項に記載の僧帽弁形成バンド。
[第9項]
前記本体部の外周スパン全体が前記僧帽弁輪の周りの約58~67%延在する、第7項に記載の僧帽弁形成バンド。
[第10項]
前記上向き弓形部の中点から反時計周り方向の前記本体部の一部の第1外周スパンは、前記僧帽弁輪の周りの約37~42%延在し、前記上向き弓形部の前記中点から時計回り方向の前記本体部の一部の第2外周スパンは、前記僧帽弁輪の周りの約21~25%延在する、第7項に記載の僧帽弁形成バンド。
[第11項]
前記第1自由端は、長軸上で前記僧帽弁輪に埋め込まれるように適合されている、第7項に記載の僧帽弁形成バンド。
[第12項]
前記本体部は、前記上向き弓形部に第1高位置点を有し、おおよそ前記第1自由端と前記第1自由端と正反対の位置とに位置する二つの低位置点を有し、前記第2自由端に第2高位置点を有する、部分的なサドル形状を備える、第7項に記載の僧帽弁形成バンド。
[第13項]
非対称な僧帽弁形成バンドであって、
上部、底部、第1端、第2端、及び剛性又は半剛性を有する本体部であって、前記第1端と前記第2端との間で延在するとともに、第1部分及び第2部分を含む本体部を備え、
前記第1部分は、参照点から軌道に沿って反時計周り方向に延在して前記第1端で終端し;
前記第2部分は、前記参照点から前記軌道に沿って時計回り方向に延在して前記第2端で終端し;
前記第1部分の長さは、前記第2部分の長さと実質的に異なり、
前記軌道の上面視は、楕円形状、D字型形状、又は腎臓型の形状を有し、時計の文字盤を画成する左右方向の長軸及び上下方向の短軸を備え、前記参照点は6:00の位置であり、前記短軸は、12:00の位置及び6:00の位置で前記軌道と交差し、前記長軸は、3:00の位置及び9:00の位置で前記軌道と交差し、前記D字型形状又は腎臓型形状は、前記長軸より上側でより平坦な部分を有する、僧帽弁形成バンド。
[第14項]
前記軌道の前記上面視は、D字型形状である、第13項に記載の非対称な僧帽弁形成バンド。
[第15項]
前記本体部の前記第1部分は、前記第2部分より長い、第13項に記載の非対称な僧帽弁形成バンド。
[第16項]
前記第1部分は、3:00の位置を越えて反時計周り方向に延在する、第13項に記載の非対称な僧帽弁形成バンド。
[第17項]
前記第1端は、約1:30の位置に配置される、第16項に記載の非対称な僧帽弁形成バンド。
[第18項]
前記第1端は、約1:00の位置に配置される、第16項に記載の非対称な僧帽弁形成バンド。
[第19項]
前記第2部分は、9:00の位置まで時計回り方向に延在しない、第13項に記載の非対称な僧帽弁形成バンド。
[第20項]
前記第2端は、約8:30の位置に配置される、第13項に記載の非対称な僧帽弁形成バンド。
[第21項]
前記第2部分は、約9:00の位置まで時計回り方向に延在する、第13項に記載の非対称な僧帽弁形成バンド。
[第22項]
前記非対称な僧帽弁形成バンドは、おおよそ前記短軸及び前記長軸との交点のところにピークを持つサドル形状を有する、第13項に記載の非対称な僧帽弁形成バンド。
【符号の説明】
【0056】
22 長軸
24 短軸
30 外周スパン
40 僧帽弁輪形成バンド
42 中間セクション
44a 第1自由端
44b 第2自由端
48 鉛直軸
50 弓形部
60 第1スパン
62 第2スパン
70 内側コア
72 エラストマースリーブ
74 外側カバー
76 フランジ
80a 自由端
80b 自由端