(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】ダイヤ作成装置及びダイヤ作成方法
(51)【国際特許分類】
B61L 27/00 20220101AFI20240717BHJP
【FI】
B61L27/00
(21)【出願番号】P 2021149592
(22)【出願日】2021-09-14
【審査請求日】2023-11-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【氏名又は名称】黒田 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【氏名又は名称】井上 一
(72)【発明者】
【氏名】國松 武俊
【審査官】橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-285053(JP,A)
【文献】特開2013-011976(JP,A)
【文献】特開2017-105274(JP,A)
【文献】特開2020-179790(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61L 1/00-99/00
G06Q 10/00-10/10
30/00-30/08
50/00-50/20
50/26-99/00
G16Z 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
従前列車ダイヤの運行に充当する従前車両編成数及び従前乗務員数が変化した状況下で臨時に運行する変更ダイヤを作成するダイヤ作成装置であって、
変化後車両編成数及び変化後乗務員数を取得する取得手段と、
前記従前乗務員数又は前記従前列車ダイヤの仕業数と、前記変化後乗務員数とに基づいて第1の運転率を設定する第1の運転率設定手段と、
前記従前車両編成数と前記変化後車両編成数とに基づいて第2の運転率を設定する第2の運転率設定手段と、
前記第1の運転率と前記第2の運転率とに基づいて目標運転率を決定する目標運転率決定手段と、
前記従前列車ダイヤに基づく列車間隔と前記目標運転率とに基づいて目標運転間隔を設定する目標運転間隔設定手段と、
前記目標運転間隔で運行するパターンダイヤを作成して前記変更ダイヤを作成する作成手段と、
を備えるダイヤ作成装置。
【請求項2】
前記目標運転率決定手段は、前記第2の運転率を上限として、前記第1の運転率が前記第2の運転率以下の場合には前記第1の運転率を前記目標運転率として決定し、前記第1の運転率が前記第2の運転率を超える場合には前記第2の運転率を前記目標運転率として決定する、
請求項1に記載のダイヤ作成装置。
【請求項3】
前記従前列車ダイヤに代えて前記変更ダイヤで運行することによる所要運行時間の設定変化率を取得する設定変化率取得手段、
を更に備え、
前記第1の運転率設定手段は、前記従前乗務員数又は前記従前列車ダイヤの仕業数と前記変化後乗務員数との比率と、前記設定変化率とに基づいて、前記第1の運転率を設定し、
前記第2の運転率設定手段は、前記従前車両編成数と前記変化後車両編成数との比率と、前記設定変化率とに基づいて、前記第2の運転率を設定する、
請求項1又は2に記載のダイヤ作成装置。
【請求項4】
前記従前列車ダイヤは、平常時の列車ダイヤであり、
前記変更ダイヤは、前記従前車両編成数及び前記従前乗務員数が不足する状況下で臨時に運行するダイヤである、
請求項1~3の何れか一項に記載のダイヤ作成装置。
【請求項5】
従前列車ダイヤの運行に充当する従前車両編成数及び従前乗務員数が変化した状況下で臨時に運行する変更ダイヤを作成するためのダイヤ作成方法であって、
変化後車両編成数及び変化後乗務員数を取得することと、
前記従前乗務員数又は前記従前列車ダイヤの仕業数と、前記変化後乗務員数とに基づいて第1の運転率を設定することと、
前記従前車両編成数と前記変化後車両編成数とに基づいて第2の運転率を設定することと、
前記第1の運転率と前記第2の運転率とに基づいて目標運転率を決定することと、
前記従前列車ダイヤに基づく列車間隔と前記目標運転率とに基づいて目標運転間隔を設定することと、
前記目標運転間隔で運行するパターンダイヤを作成して前記変更ダイヤを作成することと、
を含むダイヤ作成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤ作成装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道では、定められた列車ダイヤに従って列車が運行される。列車ダイヤは計画的に改正されるが、ダイヤ改正には多大な労力を必要とする。そこで、コンピュータを用いて列車ダイヤの作成を支援する様々な技術が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
計画的なダイヤ改正とは別に、近年では、臨時の暫定ダイヤを作成する機会が増加している。具体的には、災害や感染症流行等に起因して、車両編成数や乗務員数の不足により通常の列車ダイヤでの運行が不可能となる状況がそれである。このような状況では、運行を確保するために運行区間を縮小したり運行本数を減らした暫定ダイヤを作成する必要がある。しかし、従来の列車ダイヤの作成支援の技術は車両編成数や乗務員数の制約を想定していないため、従来の技術を利用できなかった。そのため、従来のダイヤ作成の手順に沿って暫定ダイヤを作成していたが、従来のダイヤ作成の手順は、仮のダイヤ案の作成を完了した後に車両や乗務員の運用が可能か否かを検証する順番であった。暫定ダイヤは割り当て可能な車両編成数や乗務員数に制約があるため、従来のダイヤ作成の手順では手戻りが発生し、暫定ダイヤの作成にとって非効率であった。また、暫定ダイヤの作成を必要とするこのような状況は突発的に生じる。例えば、急遽翌日から実施する必要がある場合には、適確な暫定ダイヤの作成が間に合わず、運用される車両編成数や乗務員数が実際の上限制約値を大きく下回る、過剰に減便した暫定ダイヤとせざるを得ない場合も起こり得た。
【0005】
また、上述の突発的な状況に限らず、平常時に適用する列車ダイヤの改正案を検討・作成する際に、ダイヤ改正や設備投資計画、要員計画等の検討を効率化する目的で、例えば、車両編成数を何編成増減させる、乗務員数を何人増減させる、列車の始端駅から終端駅までの運行時間を何分増減させる、といった場合のダイヤを作成して何分間隔で運転するダイヤとなるかを見積もりたいといった状況も想定される。
【0006】
また、災害復旧工事のための運行区間の短縮や臨時速度制限で始端駅から終端駅までの運行時間が通常よりも増加する状況下でのダイヤを検討したい場合もあった。
【0007】
つまり、従前列車ダイヤの始端駅から終端駅までの運行時間や、運行に充当する従前車両編成数及び従前乗務員数が変化したといった従前の運用を変更する必要のある状況下で、無理なく適切に運行可能なダイヤを作成したい、という要望である。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、従前の運用を変更する必要のある状況下で、無理なく適切に運行可能なダイヤを作成する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための第1の発明は、
従前列車ダイヤの運行に充当する従前車両編成数及び従前乗務員数が変化した状況下で臨時に運行する変更ダイヤを作成するダイヤ作成装置であって、
変化後車両編成数及び変化後乗務員数を取得する取得手段(例えば、
図3の取得部202)と、
前記従前乗務員数又は前記従前ダイヤの仕業数と、前記変化後乗務員数とに基づいて第1の運転率を設定する第1の運転率設定手段(例えば、
図3の第1の運転率設定部206)と、
前記従前車両編成数と前記変化後車両編成数とに基づいて第2の運転率を設定する第2の運転率設定手段(例えば、
図3の第2の運転率設定部208)と、
前記第1の運転率と前記第2の運転率とに基づいて目標運転率を決定する目標運転率決定手段(例えば、
図3の目標運転率決定部210)と、
前記従前列車ダイヤに基づく列車間隔と前記目標運転率とに基づいて目標運転間隔を設定する目標運転間隔設定手段(例えば、
図3の目標運転間隔設定部212)と、
前記目標運転間隔で運行するパターンダイヤを作成して前記変更ダイヤを作成する作成手段(例えば、
図3の作成部214)と、
を備えるダイヤ作成装置である。
【0010】
他の発明として、
従前列車ダイヤの運行に充当する従前車両編成数及び従前乗務員数が変化した状況下で臨時に運行する変更ダイヤを作成するためのダイヤ作成方法であって、
変化後車両編成数及び変化後乗務員数を取得すること(例えば、
図2のステップS1)と、
前記従前乗務員数又は前記従前列車ダイヤの仕業数と、前記変化後乗務員数とに基づいて第1の運転率を設定すること(例えば、
図2のステップS3,S11)と、
前記従前車両編成数と前記変化後車両編成数とに基づいて第2の運転率を設定すること(例えば、
図2のステップS9)と、
前記第1の運転率と前記第2の運転率とに基づいて目標運転率を決定すること(例えば、
図2のステップS13~S15)と、
前記従前列車ダイヤに基づく列車間隔と前記目標運転率とに基づいて目標運転間隔を設定すること(例えば、
図2のステップS17~S19)と、
前記目標運転間隔で運行するパターンダイヤを作成して前記変更ダイヤを作成すること(例えば、
図2のステップS21)と、
を含むダイヤ作成方法を構成してもよい。
【0011】
第1の発明等によれば、従前の運用を変更する必要のある状況下で、無理なく適切に運行可能な変更ダイヤを作成することができる。つまり、従前列車ダイヤに対する目標運転率を決定し、この目標運転率に基づいて設定した目標運転間隔で運行するパターンダイヤを作成することで、従前列車ダイヤの運行に充当する従前車両編成数及び従前乗務員数が変化した状況下で臨時に運行可能な変更ダイヤを作成することができる。目標運転率は、乗務員数に基づく第1の運転率と車両編成数に基づく第2の運転率とに基づいて決定することから、割り当て可能な車両編成数及び乗務員数の制約を満たして運行可能な変更ダイヤを作成することが可能となる。また、目標運転率に基づいて変更ダイヤが作成されるため、運用可能な車両編成や乗務員を過剰に余剰させ、過剰に減便した変更ダイヤとなることを回避できる。また、目標運転間隔で運行するパターンダイヤを作成することから、変更ダイヤの作成を迅速に行うことが可能となるとともに、車両編成や乗務員の割り当て・実施が比較的に容易な変更ダイヤとすることが可能となる。
【0012】
第2の発明は、第1の発明において、
前記目標運転率決定手段は、前記第2の運転率を上限として、前記第1の運転率が前記第2の運転率以下の場合には前記第1の運転率を前記目標運転率として決定し、前記第1の運転率が前記第2の運転率を超える場合には前記第2の運転率を前記目標運転率として決定する、
ダイヤ作成装置である。
【0013】
第2の発明によれば、車両編成数の制約による第2の運転率を上限として、乗務員数の制約による第1の運転率を目標運転率として決定することができる。
【0014】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、
前記従前列車ダイヤに代えて前記変更ダイヤで運行することによる所要運行時間の設定変化率を取得する設定変化率取得手段(例えば、
図3の設定変化率取得部204)、
を更に備え、
前記第1の運転率設定手段は、前記従前乗務員数又は前記従前列車ダイヤの仕業数と前記変化後乗務員数との比率と、前記設定変化率とに基づいて、前記第1の運転率を設定し、
前記第2の運転率設定手段は、前記従前車両編成数と前記変化後車両編成数との比率と、前記設定変化率とに基づいて、前記第2の運転率を設定する、
ダイヤ作成装置である。
【0015】
第3の発明によれば、従前乗務員数又は従前列車ダイヤの仕業数と変化後乗務員数との比率の他に、所要運行時間の変化率にも基づいて第1の運転率を設定する。また、従前車両編成数と変化後車両編成数との比率の他に、所要運行時間の変化率にも基づいて第2の運転率を設定する。これにより、例えば、一部区間の不通により運行期間が短くなり始端駅から終端駅までの所要運行時間が短くなることや、減速運転をさせることで駅間運転時間や駅停車時間が従前列車ダイヤに対して長くなるといったことを反映させた変更ダイヤの作成が可能となる。
【0016】
第4の発明は、第1~第3の何れかの発明において、
前記従前列車ダイヤは、平常時の列車ダイヤであり、
前記変更ダイヤは、前記従前車両編成数及び前記従前乗務員数が不足する状況下で臨時に運行するダイヤである、
ダイヤ作成装置である。
【0017】
第4の発明によれば、車両編成数や乗務員数の不足により平常時の列車ダイヤでの運行が不可能な状況下で運行可能な変更ダイヤを作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。なお、本発明を適用可能な形態が以下の実施形態に限定されるものではない。また、図面の記載において、同一要素には同一符号を付す。
【0020】
[実施形態の概要]
本実施形態では、「従前列車ダイヤ」を平常時の所与の列車ダイヤ、「従前車両編成数」を平常車両編成数、「従前乗務員数」を平常乗務員数とし、平常時の列車ダイヤの運行に充当する平常車両編成数及び平常乗務員数が不足する状況下で臨時に運行する「変更ダイヤ」として暫定ダイヤを作成するダイヤ作成装置の例を説明する。平常車両編成数及び平常乗務員数が不足する変化であることから、「変化後車両編成数」を臨時車両編成数、「変化後乗務員数」を臨時乗務員と呼称して説明する。
【0021】
鉄道では、災害や感染症流行に起因して、例えば、運行区間が平常時よりも限られる、災害復旧工事のための臨時速度制限で運行時間が平常時より増加する、車両編成数や乗務員数等のリソースに不足が生じる、といったことによって平常時の列車ダイヤでの運行が不可能な状況が生じ得る。本実施形態は、このような状況下で、運行区間の縮小や運行本数の減少等によって臨時に運行可能な暫定ダイヤを作成するものである。
【0022】
図1は、本実施形態の概要を示す図である。
図1に示すように、平常時の列車ダイヤ10と、該当する線区や駅の鉄道設備に関する設備データ12と、列車ダイヤ10に関する平常時データ312と、暫定ダイヤ20の作成上の制約となる臨時データ314とがダイヤ作成装置1に与えられる。ダイヤ作成装置1は、これらのデータを用いて、列車ダイヤ10での運行が不可能な状況下で臨時に運行可能な暫定ダイヤ20を作成する。
【0023】
平常時データ312は、列車ダイヤ10の運行に必要なリソースである平常車両編成数及び平常乗務員数と、平常速度表定データとを含む。なお、平常乗務員数に代えて、列車ダイヤ10の仕業数としてもよい。また、平常車両編成数は入力せず、列車ダイヤ10から取得するとしてもよい。平常速度表定データは、列車ダイヤ10の作成に用いた速度表定データであり、平常時の列車種別毎に、各駅の駅間運転時間と、各駅の駅停車時間の標準値とを対応付けたデータを含む。
【0024】
臨時データ314は、臨時に割り当て可能なリソースである臨時車両編成数及び臨時乗務員数と、暫定ダイヤ20の作成対象となる臨時運行区間及び対象時間帯と、臨時速度表定データとを含む。臨時運行区間は、列車ダイヤ10の運行区間の全部又は一部の区間であって、連続する1つの区間とする。対象時間帯は、終日のうちの一部時間帯とするが、終日としてもよい。臨時速度表定データは、暫定ダイヤ20の作成に用いる臨時の速度表定データであり、臨時の列車種別毎に、各駅の駅間運転時間と、各駅の駅停車時間の標準値とを対応付けたデータを含む。
【0025】
[暫定ダイヤの作成]
図2は、ダイヤ作成装置1が行う暫定ダイヤ20を作成するダイヤ処理の流れを説明するフローチャートである。
【0026】
ダイヤ作成装置1は、先ず、列車ダイヤ10や設備データ12、列車ダイヤ10についての平常時データ312、暫定ダイヤ20の作成上の制約となる臨時データ314等の必要なデータを取得する(ステップS1)。これらのデータの取得は、例えば記憶媒体を介した外部入力や、通信を介した外部装置からの外部入力、手入力等によって行うことができる。
【0027】
次いで、トレインアワー比率を算出する(ステップS3)。トレインアワー比率は、例えば乗務員の出勤率に相当し、平常乗務員数に対する臨時乗務員数の比率(=臨時乗務員数/平常乗務員数)として算出する。なお、平常乗務員数に代えて列車ダイヤ10の仕業数を用いてもよい。また、対象時間帯が終日である場合には、列車ダイヤ10における終日の各列車の運行時間の総和(運行時間総和)に対する、乗務員1人1日あたりの乗務時間目安に臨時乗務員数を乗算した臨時乗務時間総和の比率(=臨時乗務時間総和/運行時間総和)を、トレインアワー比率として算出してもよい。
【0028】
続いて、平常時及び臨時の1往復運行時間を算出する(ステップS5)。1往復運行時間は、速度制限を踏まえて列車1編成が運行可能区間を1往復運行するのに要する所要運行時間である。平常時の1往復運行時間(平常1往復運行時間)は、平常時の運行可能区間と、平常速度表定データで定められる平常時の駅間運転時間及び駅停車時間を用いて算出する。臨時の1往復運行時間(臨時1往復運行時間)は、臨時の運行可能区間(臨時運行区間)と、臨時速度表定データで定められる臨時の駅間運転時間及び駅停車時間を用いて算出する。折り返し時間は、平常時と臨時とで同じとするが、異なることとしてもよい。
【0029】
そして、1往復運行時間比率を算出する(ステップS7)。1往復運行時間比率は、平常1往復運行時間に対する臨時1往復運行時間の比率(=臨時1往復運行時間/平常1往復運行時間)として算出する。1往復運行時間比率は、列車ダイヤ10に代えて暫定ダイヤ20で運行することによる所要運行時間の設定変化率の一例であり、臨時運行区間を1往復運行するのに要する所要運行時間の変化率を表す。なお、1往復運行時間に代えて、臨時運行区間を片道運行するのに要する片道運行時間を所要運行時間とし、平常片道運行時間に対する臨時片道運行時間の比率を所要運行時間の設定変化率としてもよい。また、1往復運行時間比率は、ユーザが外部入力する等により所与としてもよい。
【0030】
次いで、運転率上限を算出する(ステップS9)。運転率上限は、平常車両編成数に対する臨時車両編成数の比率(=臨時車両編成数/平常車両編成数)を、1往復運行時間比率で除算した値として算出する。運転率上限は、平常車両編成数と臨時車両編成数とに基づく第2の運転率の一例であり、車両編成数の上限と、運行区間及び運行時間の増減とに伴う制約を表す。
【0031】
続いて、目標運転率を算出する(ステップS11)。目標運転率は、第1の運転率の一例である。例えば、目標運転率は、感染症流行時の乗務員出勤率に相当する値とすることができるため、平常乗務員数と臨時乗務員数との比率(トレインアワー比率)に基づいて算出することができるが、本実施形態では、トレインアワー比率を1往復運行時間比率で除算した値(=トレインアワー比率/1往復運行時間比率)を目標運転率として算出する。目標運転率は、乗務員数の上限と、運行区間及び運行時間の増減とに伴う制約を表している。なお、目標運転率を、大雪や台風時の間引き運転の目安値(例えば、「6割程度で運転する」場合の「6割」)に相当する値とすることもできる。
【0032】
そして、目標運転率と運転率上限とを比較し、目標運転率が運転率上限を超える場合には(ステップS13:YES)、運転率上限を目標運転率として設定する(ステップS15)。
【0033】
次いで、列車ダイヤ10の平常列車間隔を算出する(ステップS17)。列車ダイヤ10の平常列車間隔は、列車ダイヤ10の1往復運行時間を、列車ダイヤ10の運行編成数で除算した値(=1往復運行時間/運行編成数)として算出する。運行編成数は、任意の時刻における運行中(走行中、停車中、折り返し待機中を含む)の車両編成の本数であり、タテ本数とも呼ばれる。その後、目標運転間隔を設定する(ステップS19)。目標運転間隔は、列車ダイヤ10の平常運転間隔を目標運転率で除算した値(=平常運転間隔/目標運転率)として算出する。
【0034】
そして、目標運転間隔で運行するパターンダイヤを作成して暫定ダイヤ20を作成する(ステップS21)。つまり、対象時間帯の開始時刻に臨時運行区間の始端駅を発車する最初の列車を設定し、以降、始端駅を目標運転間隔で発車する列車を等間隔に設定する。終端駅での折り返し計画は、最初に到着した列車が最初に折り返すように(First In First Out)設定するとともに、所与の折り返し時間で折り返すように設定する。このようにして、臨時運行区間を対象時間帯において運行するパターンダイヤを作成することで暫定ダイヤ20を作成する。以上の処理を行うと、本処理は終了となる。
【0035】
[機能構成]
図3は、ダイヤ作成装置1の機能構成の一例である。
図3によれば、ダイヤ作成装置1は、操作部102と、表示部104と、音出力部106と、通信部108と、処理部200と、記憶部300とを備えて構成され、一種のコンピュータシステムとして実現される。なお、ダイヤ作成装置1は、1台のコンピュータで実現してもよいし、複数台のコンピュータを接続して構成することとしてもよい。
【0036】
操作部102は、例えばキーボードやマウス、タッチパネル、各種スイッチ等の入力装置で実現され、なされた操作に応じた操作信号を処理部200に出力する。表示部104は、例えば液晶ディスプレイやタッチパネル等の表示装置で実現され、処理部200からの表示信号に基づく各種表示を行う。音出力部106は、例えばスピーカ等の音出力装置で実現され、処理部200からの音信号に基づく各種音出力を行う。通信部108は、例えば無線通信モジュールやルータ、モデム、有線用の通信ケーブルのジャックや制御回路等で実現される通信装置であり、所与の通信ネットワークに接続して外部装置とのデータ通信を行う。
【0037】
処理部200は、CPU(Central Processing Unit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等の演算装置や演算回路で実現されるプロセッサーであり、記憶部300に記憶されたプログラムやデータ、操作部102や通信部108からの入力データ等に基づいて、ダイヤ作成装置1の全体制御を行う。
【0038】
また、処理部200は、機能的な処理ブロックとして、取得部202、設定変化率取得部204、第1の運転率設定部206、第2の運転率設定部208、目標運転率決定部210、目標運転間隔設定部212、及び、作成部214を有する。処理部200が有するこれらの各機能部は、処理部200がプログラムを実行することでソフトウェア的に実現することも、専用の演算回路で実現することも可能である。本実施形態では、前者のソフトウェア的に実現することとして説明する。
【0039】
取得部202は、臨時車両編成数及び臨時乗務員数を取得する(
図2のステップS1が相当)。例えば、操作部102を介したユーザによる外部入力によって取得することができる。取得した臨時車両編成数及び臨時乗務員数は、臨時データ314に含めて記憶される。
【0040】
設定変化率取得部204は、列車ダイヤ10に代えて暫定ダイヤ20で運行することによる所要運行時間の設定変化率を取得する。本実施形態では、臨時運行区間を往復運行するのに要する時間を所要運行時間として、平常1往復運行時間に対する臨時1往復運行時間の比率である1往復運行時間比率を、設定変化率として算出する(
図2のステップS5~S7が相当)。なお、臨時運行区間を往復するのに要する時間ではなく片道運行するのに要する時間を所要運行時間としてもよいし、例えば操作部102を介したユーザによる外部入力によって設定変化率を取得するようにしてもよい。
【0041】
第1の運転率設定部206は、平常乗務員数又は列車ダイヤ10の仕業数と、臨時乗務員数とに基づいて第1の運転率を設定する。具体的には、平常乗務員数又は列車ダイヤの仕業数と臨時乗務員数との比率と、設定変化率とに基づいて、第1の運転率を設定する。本実施形態では、平常乗務員数に対する臨時乗務員数の比率であるトレインアワー比率を算出し、このトレインアワー比率を設定変化率取得部204によって取得された1往復運行時間比率で除算した値を、第1の運転率として設定する(
図2のステップS3,S11が相当)。
【0042】
第2の運転率設定部208は、平常車両編成数と臨時車両編成数とに基づいて第2の運転率を設定する。具体的には、平常車両編成数と臨時車両編成数との比率と、設定変化率とに基づいて、第2の運転率を設定する。本実施形態では、平常車両編成数に対する臨時車両編成数の比率を算出し、この比率を設定変化率取得部204によって取得された1往復運転時間比率で除算した値である運転率上限を、第2の運転率として設定する(
図2のステップS9が相当)。
【0043】
目標運転率決定部210は、第1の運転率と第2の運転率とに基づいて目標運転率を決定する。具体的には、第2の運転率を上限として、第1の運転率が第2の運転率以下の場合には第1の運転率を前記目標運転率として決定し、第1の運転率が前記第2の運転率を超える場合には第2の運転率を目標運転率として決定する(
図2のステップS13~S15が相当)。
【0044】
目標運転間隔設定部212は、列車ダイヤ10に基づく列車間隔と目標運転率とに基づいて目標運転間隔を設定する。本実施形態では、列車ダイヤ10に基づく列車間隔として列車ダイヤ10の1往復運行時間を列車ダイヤ10の運行編成数で除算した平常列車間隔を算出し、この平均運転間隔を目標運転率で除算して目標運転間隔を算出する(
図2のステップS17~S19が相当)。
【0045】
作成部214は、目標運転間隔で運行するパターンダイヤを作成して暫定ダイヤ20を作成する(
図2のステップS21が相当)。
【0046】
記憶部300は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等のIC(Integrated Circuit)メモリやハードディスク等の記憶装置で実現される。記憶部300は、処理部200がダイヤ作成装置1を統合的に制御するためのプログラムやデータ等を記憶しているとともに、処理部200の作業領域として用いられ、処理部200が実行した演算結果や、操作部102や通信部108からの入力データ等が一時的に格納される。本実施形態では、記憶部300には、ダイヤ作成プログラム302と、列車ダイヤ10のデータである列車ダイヤデータ310と、平常時データ312と、臨時データ314と、暫定ダイヤ20のデータである暫定ダイヤデータ316とが記憶される。
【0047】
ダイヤ作成プログラム302は、ダイヤ作成装置1が読み出して実行することで、平常時の列車ダイヤの運行に必要な平常車両編成数及び平常乗務員数が不足する状況下で臨時に運行可能な暫定ダイヤを作成するダイヤ作成処理(
図2参照)をダイヤ作成装置1に実現させるためのプログラムである。
【0048】
[暫定ダイヤの作成例]
ダイヤ作成装置1による暫定ダイヤ20の作成の一例を説明する。
図4は、列車ダイヤ10の一例を示す図であり、
図5は、作成した暫定ダイヤ20の一例を示す図である。
【0049】
図4に示すように、列車ダイヤ10は、運転区間が「A駅~Q駅間」であり、2種類の列車種別(快速列車と普通列車(各駅停車))の列車が運行されるダイヤである。快速列車の列車スジを太線の破線で示し、普通列車の列車スジを実線で示している。
【0050】
図5では、上部に暫定ダイヤ20を示し、下部に、暫定ダイヤ20の作成にあたりダイヤ作成装置1に与えたデータ(入力)と、暫定ダイヤ20の作成の際に算出されたデータ(出力)とを示している。
【0051】
つまり、列車ダイヤ10についての平常時データ312として、平常車両編成数を「15」、平常乗務員数を「40」を入力した。また、暫定ダイヤ20の制約となる臨時データ314として、臨時運行区間を列車ダイヤ10の運行区間の一部区間である「A駅~M駅」、臨時乗務員数を「20」、臨時車両編成数を「10」を入力した。また、標準折り返し時間を同じとして「5分」を入力した。なお、平常車両編成数については、入力するのではなく、列車ダイヤ10からタテ本数(任意の時刻における運行中(走行中、停車中、折り返し待機中を含む)の車両編成の本数)を求めることで算出するようにしてもよい。
【0052】
すると、出力として、トレインアワー比率は「0.50(=20/40)」、平常1往復運行時間は「6070秒」、臨時1往復運行時間は「4580秒」、1往復運行時間比率は「0.75(=4580/6070)」、列車ダイヤ10についての平常列車間隔は「404秒」、目標運転間隔は「609秒」、運転率上限は「0.89(=(10/15)/0.75」、目標運転率は「0.66(=0.50/0.75)」が得られた。そして、暫定ダイヤ20として、運転間隔が「609秒」で運行するパターンダイヤが作成された。なお、暫定ダイヤ20は、運行される列車種別が普通列車の1種類のみとした。
【0053】
[作用効果]
このように、本実施形態によれば、従前列車ダイヤである平常時の列車ダイヤ10の運行に充当する車両編成数及び乗務員数が不足する状況下といった、従前の運用を変更する必要のある状況下で臨時に運行可能な変更ダイヤである暫定ダイヤ20を作成することができる。つまり、平常時の列車ダイヤ10に対する目標運転率を決定し、この目標運転率に基づいて設定した目標運転間隔で運行するパターンダイヤを作成することで暫定ダイヤ20を作成する。目標運転率は、車両編成数に基づく第2の運転率である運転率上限として、乗務員数に基づいて決定することから、割り当て可能な車両編成数及び乗務員数の制約を満たして実施可能な暫定ダイヤ20を作成することが可能となる。また、目標運転率に基づいて暫定ダイヤ20が作成されるため、運用可能な車両や乗務員を過剰に余剰させ、過剰に減便した暫定ダイヤ20となることを回避できる。また、目標運転間隔で運行するパターンダイヤを作成することから、暫定ダイヤ20の作成を迅速に行うことが可能となるとともに、車両や乗務員の割り当て・実施が比較的に容易な暫定ダイヤ20とすることが可能となる。
【0054】
なお、本発明の適用可能な実施形態は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能なのは勿論である。
【0055】
例えば、上述の実施形態は、突発的に生じ得る従前車両編成数及び従前乗務員数が不足する状況下で臨時に運行可能な変更ダイヤを作成する実施形態であった。このような状況下に限らず、例えば、ダイヤ改正の検討を目的として、車両編成数や乗務員数の増加や、速度制限の緩和による運行時間の短縮、運行区間の延伸、などを想定した変更ダイヤの作成にも、上述の実施形態のダイヤ作成装置1を適用することが可能である。その場合、「従前列車ダイヤ」、「従前車両編成数」、「従前乗務員数」、「変化後車両編成数」、「変化後乗務員数」は文字通りの意味をなす。
【符号の説明】
【0056】
1…ダイヤ作成装置
200…処理部
202…取得部
204…設定変化率取得部
206…第1の運転率設定部
208…第2の運転率設定部
210…目標運転率決定部
212…目標運転間隔設定部
214…作成部
300…記憶部
302…ダイヤ作成プログラム
310…列車ダイヤデータ
312…平常時データ
314…臨時データ
316…暫定ダイヤデータ
10…列車ダイヤ
20…暫定ダイヤ