(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】単純ヘルペス1型および他の関連するヘルペスウイルスのRNAガイド除去
(51)【国際特許分類】
A61K 48/00 20060101AFI20240717BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20240717BHJP
A61K 38/46 20060101ALI20240717BHJP
A61P 31/22 20060101ALI20240717BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20240717BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20240717BHJP
C12N 15/55 20060101ALI20240717BHJP
C12N 15/85 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
A61K48/00 ZNA
A61K31/7105
A61K38/46
A61P31/22
C12N15/09 110
C12N15/113 104
C12N15/55
C12N15/85 Z
(21)【出願番号】P 2021164649
(22)【出願日】2021-10-06
(62)【分割の表示】P 2017537507の分割
【原出願日】2016-01-14
【審査請求日】2021-11-05
(32)【優先日】2015-01-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2015-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591135163
【氏名又は名称】テンプル・ユニバーシティ-オブ・ザ・コモンウェルス・システム・オブ・ハイアー・エデュケイション
【氏名又は名称原語表記】TEMPLE UNIVERSITY-OF THE COMMONWEALTH SYSTEM OF HIGHER EDUCATION
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ローム パメラ シー.
(72)【発明者】
【氏名】カリリ カメル
(72)【発明者】
【氏名】シェカラビ サイエド マソウド
(72)【発明者】
【氏名】ウォレボ ハッセン
【審査官】佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0068797(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0068215(US,A1)
【文献】国際公開第2015/126927(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/153791(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/153889(WO,A1)
【文献】JIANBIN WANG,RNA-GUIDED ENDONUCLEASE PROVIDES A THERAPEUTIC STRATEGY TO CURE LATENT HERPESVIRIDAE INFECTION,PROCEEDING OF THE NATIONAL ACADEMY OF SCIENCES OF THE UNITED STATES OF AMERICA (PNAS),2014年,VOL:111, NR:36,PAGE(S):13157 - 13162,http://www.pnas.org/cgi/doi/10.1073/pnas.1410785111
【文献】Molecular Therapy, 2011, Vol.19, No.4, pp.694-702
【文献】Antivir. Ther., 2010, Vol.15, No.8, pp.1141-1149
【文献】Science, 2016.01.01, Vol.351, No.6268, pp.84-88
【文献】Nature, 2015.07, Vol.523, pp.481-485
【文献】Nature, 2016.01.06, Vol.529, pp.490-495
【文献】Cell, 2015.10, Vol.163, pp.759-771
【文献】Molecular Cell, 2015.11, Vol.60, pp.385-397
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
A61K 48/00
A61K 31/33-33/44
C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘルペスウイルス感染を処置または予防するための組成物であって、
該組成物が、
(a)クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat)(CRISPR)関連エンドヌクレアー
ゼ;ならびに
(b)ヘルペスウイルスゲノムのICP0標的ヌクレオチド配列と実質的に相補的な
プロトスペーサー配列を含む第1のガイドRNA(gRNA)、およびヘルペスウイルスゲノムの
ICP4標的ヌクレオチド配列と実質的に相補的な
プロトスペーサー配列を含む第2のgRNA
を含み、
該組成物が、
ICP0標的ヌクレオチド配列とICP4標的ヌクレオチド配列の間を切断することができ、それにより、ヘルペスウイルス感染を処置または予防し、かつ
該ICP0標的ヌクレオチド配列が、第1のプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列に隣接し、
該第1のPAM配列がNGGを含み、ここでNがアデニン、シトシン、グアニンまたはチミンでありかつGがグアニンであり、該
ICP4標的ヌクレオチド配列が、第2のPAM配列に隣接
し、該第2のPAM配列がNGGを含み、ここでNがアデニン、シトシン、グアニンまたはチミンでありかつGがグアニンである、
前記組成物。
【請求項2】
ヘルペスウイルス感染を処置または予防するための組成物であって、
該組成物が、
(a)クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)関連エンドヌクレアーゼ;ならびに
(b)ヘルペスウイルスゲノムのICP0標的ヌクレオチド配列と実質的に相補的なプロトスペーサー配列を含む第1のガイドRNA(gRNA)、およびヘルペスウイルスゲノムのICP27標的ヌクレオチド配列と実質的に相補的
なプロトスペーサー配列を含む第2のgRNA
を含み、
該組成物が、ICP0標的ヌクレオチド配列とICP27標的ヌクレオチド配列の間を切断することができ、それにより、ヘルペスウイルス感染を処置または予防し、かつ
該ICP0標的ヌクレオチド配列が、第1のプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列に隣接し、該第1のPAM配列がNGGを含み、ここでNがアデニン、シトシン、グアニンまたはチミンでありかつGがグアニンであり、該ICP27標的ヌクレオチド配列が、第2のPAM配列に隣接し、該第2のPAM配列がNGGを含み、ここでNがアデニン、シトシン、グアニンまたはチミンでありかつGがグアニンである、
前記組成物。
【請求項3】
前記ヘルペスウイルスが、単純ヘルペス1型(HSV1)または単純ヘルペスウイルス2(HSV2)である、請求項1
または2記載の組成物。
【請求項4】
請求項1
または2記載の組成物をコードする1つまたは複数の核酸配列を含む、発現ベクター。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2015年1月14日に出願された米国仮特許出願第62/103,354号、および2015年10月7日に出願された米国仮特許出願第62/238,288号の優先権を主張し、これらの全ての出願が、参照として本明細書に全体が組み入れられる。
【0002】
発明の背景
単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)は、世界中でヒト集団の大部分に感染するヒト神経向性ウイルスである(Whitley and Roizman, 2001, Lancet 357: 1513-1518(非特許文献1);Xu et al, 2006, JAMA, 296: 964-973(非特許文献2))。HSV-1ゲノムは、剖検時に個体の三叉神経節の85~90%に存在し(Baringer, 2000, Infectious diseases of the nervous system, Butterworth-Heinemann, Oxford: 139-164(非特許文献3))、その血清有病率は、正常の無症候性個体の90%である(Kennedy and Chaudhuri, 2002, J Neurol Neurosurg Psychiatry, 73: 237-238(非特許文献4))。多くの場合、初感染の後に、HSV-1は、明らかな症状を生じることなく、潜伏期のみで持続する。しかし、場合によって、一次感染は、発熱、嚥下障害、嚥下痛、ならびに口唇および舌における有痛性の水疱を生じ(Kennedy and Steiner, 2013, J Neurovirol, 19: 346-350(非特許文献5);Whitley and Roizman, 2001, Lancet 357: 1513-1518(非特許文献1))、新生児では、一次HSV-1感染は、著しい罹患率および死亡率を引き起こし得る(Westerberg et al, 2008, Int J Pediatr Otorhinolaryngol, 72: 931-937(非特許文献6);Whitley and Roizman, 2001, Lancet 357: 1513-1518(非特許文献1))。神経系におけるHSV-1の複製は、感染ならびに前頭葉および側頭葉内の抗ウイルス炎症反応から生じる、発熱、局所欠陥、失語、および発作に及ぶ症状を有する脳炎を生じる(Gilden et al, 2007, Nature Clin Practice 3, 82-94(非特許文献7))。場合によって、ウイルスゲノムは、胸神経節および脳において検出されているが、HSV-1潜伏の部位は、主に、脳神経節に限定されて出現する(Fraser et al., 1981, Proc Natl Acad Sci USA, 78: 6461-6465(非特許文献8);Mahalingam et al, 1992, Ann Neurol, 31: 444-448(非特許文献9))。一次HSV-1感染および疾患の再活性化のための現在の治療は、非選択的であり、潜伏感染またはウイルス再活性化の確立を阻止せず、且つ有害な副作用を有しており、これは、改良され且つ特異的な治療的ストラテジーの強い必要性を示す。
【0003】
HSV潜伏開始および持続のメカニズムは、完全には理解されていないが、証拠は、潜伏期に大量に発現されるウイルスRNA要素(潜伏関連転写物;LATS)の役割を示している(Izumi et al, 1989, Microb Pathol, 7: 121-134(非特許文献10);Kang et al, 2003, Virol, 312: 233-244(非特許文献11);Perng et al, 2000, Science 287: 1500-1503(非特許文献12);Stevens et al, 1987, Science, 235: 1056-1059(非特許文献13))。UV光刺激、高熱、社会的ストレス、および薬理学的物質の宿主を含む環境因子は、潜伏HSV-1ゲノムの再活性化、ニューロンにおける増殖性ウイルス複製、および疾患進行を引き起こし得る。最も一般的および容易に同定可能なHSV-1再活性化の臨床徴候は、口唇ヘルペス(cold sore)(herpes labialis)であるが、再発性性器ヘルペスを含む他の状態が、HSV再活性化に関連している(Xu et al, 2006, JAMA, 296: 964-973(非特許文献2))。
【0004】
ヌクレオシド類似体による薬理学的処置は、HSV1一次感染およびウイルス再活性化事象のための治療の中心である。最良の治療指標を有するヌクレオシド類似体は、ウイルスチミジンキナーゼ(TK)を標的化し、アシクロビルおよびその誘導体を含む。これらの剤は、TKによって一リン酸化され、これは、細胞酵素機構によって、二リン酸ACVおよび三リン酸ACVを形成させ、最終的に、HSV1 DNA鎖終結を生じる。これらの薬物は、他の細胞へのHSV1感染の拡散から生じる損傷を効果的に制限することができるが、それらは、潜伏HSV1再活性化の確立または将来のHSV1再活性化事象に対して効果を有さない。患者、特に基礎免疫不全を有する患者は、TK阻害剤に耐性であるHSV1株を発生した後、HSV1特異性の低いDNA 阻害剤による処置を必要とし得る。TK阻害剤はまた、腎毒性を伴う。他の抗ヘルペス剤は、ウイルスDNAポリメラーゼUL30を標的とし、ホスカルネットおよびシドホビルなどである。これらの薬剤は、一次HSV1感染および再活性化の症状の制御を助け、損傷治癒過程を促進し、且つ疼痛およびウイルス排出の持続期間を減少させ得る。残念ながら、これらの薬剤の使用は、潜伏HSV1感染を除去しない。抗ヘルペス薬剤に耐性であるHSV1株の発生は、特に、免疫不全を有する患者において生じる。耐性菌は、通常、TK変異を含むが、UL30変異も生じる。HSV1 TK阻害剤およびUL30活性剤は、UL30変異を有するHSV1に対して効果的ではない。
【0005】
HSV1に対するワクチンを開発するための試みは、殆ど成功していない(Belshe et al, 2012, N Engl J Med 366: 34-43(非特許文献14);Whitley and Roizman, 2001, Lancet 357: 1513-1518(非特許文献1))。現在、HSV1のためのFDAが承認したワクチン接種は存在しない。HSV1およびHSV2のためのワクチン接種の最初の試みは、これらのウイルスに対してワクチン接種が、以前に感染していない個体において最も効果的であるようであり、以前に感染した患者においては、複数の再活性化事象の制御のために殆ど効果的でないようであることが示されている。
【0006】
現在の治療法の限界を考慮すると、当技術分野において、溶解性および潜伏性の両方のHSV1感染を処置および予防するための組成物および方法が必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Whitley and Roizman, 2001, Lancet 357: 1513-1518
【文献】Xu et al, 2006, JAMA, 296: 964-973
【文献】Baringer, 2000, Infectious diseases of the nervous system, Butterworth-Heinemann, Oxford: 139-164
【文献】Kennedy and Chaudhuri, 2002, J Neurol Neurosurg Psychiatry, 73: 237-238
【文献】Kennedy and Steiner, 2013, J Neurovirol, 19: 346-350
【文献】Westerberg et al, 2008, Int J Pediatr Otorhinolaryngol, 72: 931-937
【文献】Gilden et al, 2007, Nature Clin Practice 3, 82-94
【文献】Fraser et al., 1981, Proc Natl Acad Sci USA, 78: 6461-6465
【文献】Mahalingam et al, 1992, Ann Neurol, 31: 444-448
【文献】Izumi et al, 1989, Microb Pathol, 7: 121-134
【文献】Kang et al, 2003, Virol, 312: 233-244
【文献】Perng et al, 2000, Science 287: 1500-1503
【文献】Stevens et al, 1987, Science, 235: 1056-1059
【文献】Belshe et al, 2012, N Engl J Med 366: 34-43
【発明の概要】
【0008】
一つの局面において、本発明は、ヘルペスウイルス感染を処置または予防するための組成物を提供する。組成物は、a)CRISPR関連(Cas)ペプチドまたはCasペプチドをコードする単離された核酸;ならびにb)単離されたガイド核酸またはガイド核酸をコードする単離された核酸であって、ガイド核酸が、ヘルペスウイルスゲノムにおける標的配列と実質的に相補的なヌクレオチド配列を含む、核酸を含む。
【0009】
一つの態様において、Casペプチドは、Cas9またはそのバリアントである。一つの態様において、Cas9バリアントは、野生型ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)Cas9(spCas9)と比較して、R780A、K810A、K848A、K855A、H982A、K1003A、R1060A、D1135E、N497A、R661A、Q695A、Q926A、L169A、Y450A、M495A、M694A、およびM698Aからなる群より選択される1つまたは複数の点変異を含む。一つの態様において、Casペプチドは、Cpf1またはそのバリアントである。
【0010】
一つの態様において、Casペプチドをコードする単離された核酸は、ヒト細胞における発現のために最適化されている。
【0011】
一つの態様において、標的配列は、ヘルペスウイルスゲノムのICP0ドメイン内の配列を含む。一つの態様において、ガイド核酸はRNAである。一つの態様において、ガイド核酸は、crRNAおよびtracrRNAを含む。
【0012】
一つの態様において、組成物は、複数の単離されたガイド核酸を含み、各ガイド核酸は、ヘルペスウイルスゲノムにおける異なる標的配列と実質的に相補的なヌクレオチド配列を含む。一つの態様において、組成物は、1つまたは複数の単離された核酸を含み、1つまたは複数の単離された核酸が、複数のガイド核酸をコードし、各ガイド核酸が、ヘルペスウイルスゲノムにおける異なる標的配列と実質的に相補的なヌクレオチド配列を含む。
【0013】
一つの態様において、ヘルペスウイルスは、単純ヘルペス1型(HSV1)、単純ヘルペスウイルス2(HSV2)、ヒトヘルペスウイルス3(HHV-3;水痘帯状疱疹ウイルス(VZV))、ヒトヘルペスウイルス4(HHV-4;エプスタイン・バーウイルス(EBV))、ヒトヘルペスウイルス5(HHV-5;サイトメガロウイルス(CMV))、ヒトヘルペスウイルス6(HHV-6;ロゼオロウイルス)、ヒトヘルペスウイルス7(HHV-7)、およびヒトヘルペスウイルス8(HHV-8;カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV))からなる群より選択される。
【0014】
一つの態様において、標的配列は、SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:3、SEQ ID NO:4、SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:6、SEQ ID NO:7、およびSEQ ID NO:8からなる群より選択される。
【0015】
一つの局面において、本発明は、a)CRISPR関連(Cas)ペプチドまたはCasペプチドをコードする単離された核酸;ならびにb)単離されたガイド核酸またはガイド核酸をコードする単離された核酸であって、ガイド核酸が、ヘルペスウイルスゲノムにおける標的配列と実質的に相補的なヌクレオチド配列を含む、核酸を含む、薬学的組成物を提供する。
【0016】
一つの局面において、本発明は、CRISPR関連(Cas)ペプチドおよびガイド核酸をコードする、発現ベクターであって、ガイド核酸が、ヘルペスウイルスゲノムにおける標的配列と実質的に相補的なヌクレオチド配列を含む、発現ベクターを提供する。一つの態様において、本発明は、発現ベクターを含む宿主細胞を含む。
【0017】
一つの局面において、本発明は、対象におけるヘルペスウイルス感染またはヘルペスウイルス関連障害を処置または予防する方法を提供する。方法は、対象の細胞を、a)CRISPR関連(Cas)ペプチドまたはCasペプチドをコードする単離された核酸;ならびにb)単離されたガイド核酸またはガイド核酸をコードする単離された核酸であって、ガイド核酸が、ヘルペスウイルスゲノムにおける標的配列と実質的に相補的なヌクレオチド配列を含む、核酸を含む、治療的有効量の組成物に接触させる段階を含む。
【0018】
一つの態様において、Casペプチドは、Cas9またはそのバリアントである。一つの態様において、Cas9バリアントは、野生型ストレプトコッカス・ピオゲネスCas9(spCas9)と比較して、R780A、K810A、K848A、K855A、H982A、K1003A、R1060A、D1135E、N497A、R661A、Q695A、Q926A、L169A、Y450A、M495A、M694A、およびM698Aからなる群より選択される1つまたは複数の点変異を含む。一つの態様において、Casペプチドは、Cpf1またはそのバリアントである。
【0019】
一つの態様において、Casペプチドをコードする単離された核酸は、ヒト細胞における発現のために最適化されている。
【0020】
一つの態様において、標的配列は、ヘルペスウイルスゲノムのICP0ドメイン内の配列を含む。一つの態様において、ガイド核酸はRNAである。一つの態様において、ガイド核酸は、crRNAおよびtracrRNAを含む。
【0021】
一つの態様において、組成物は、複数の単離されたガイド核酸を含み、各ガイド核酸が、ヘルペスウイルスゲノムにおける異なる標的配列と実質的に相補的なヌクレオチド配列を含む。一つの態様において、組成物は、1つまたは複数の単離された核酸を含み、1つまたは複数の単離された核酸が、複数のガイド核酸をコードし、各ガイド核酸が、ヘルペスウイルスゲノムにおける異なる標的配列と実質的に相補的なヌクレオチド配列を含む。
【0022】
一つの態様において、ヘルペスウイルスは、単純ヘルペス1型(HSV1)、単純ヘルペスウイルス2(HSV2)、ヒトヘルペスウイルス3(HHV-3;水痘帯状疱疹ウイルス(VZV))、ヒトヘルペスウイルス4(HHV-4;エプスタイン・バーウイルス(EBV))、ヒトヘルペスウイルス5(HHV-5;サイトメガロウイルス(CMV))、ヒトヘルペスウイルス6(HHV-6;ロゼオロウイルス)、ヒトヘルペスウイルス7(HHV-7)、およびヒトヘルペスウイルス8(HHV-8;カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV))からなる群より選択される。一つの態様において、ヘルペスウイルス関連障害は、口唇ヘルペス、性器ヘルペス、水痘、帯状疱疹、ヒトα-ヘルペスウイルスによる一次ヘルペス感染、ベル麻痺、前庭神経炎、およびヘルペス性神経痛からなる群より選択される。
【0023】
一つの態様において、標的配列は、SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:3、SEQ ID NO:4、SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:6、SEQ ID NO:7、およびSEQ ID NO:8からなる群より選択される。
[本発明1001]
以下を含む、ヘルペスウイルス感染を処置または予防するための組成物:
(a)CRISPR関連(Cas)ペプチドおよびCasペプチドをコードする単離された核酸からなる群より選択されるもの;ならびに
(b)ヘルペスウイルスゲノムにおける標的配列と実質的に相補的なヌクレオチド配列を含む単離されたガイド核酸および該ガイド核酸をコードする単離された核酸からなる群より選択されるもの。
[本発明1002]
前記Casペプチドが、Cas9またはそのバリアントである、本発明1001の組成物。
[本発明1003]
前記Cas9バリアントが、野生型ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)Cas9(spCas9)と比較して、R780A、K810A、K848A、K855A、H982A、K1003A、R1060A、D1135E、N497A、R661A、Q695A、Q926A、L169A、Y450A、M495A、M694A、およびM698Aからなる群より選択される1つまたは複数の点変異を含む、本発明1002の組成物。
[本発明1004]
前記Casペプチドが、Cpf1またはそのバリアントである、本発明1001の組成物。
[本発明1005]
前記Casペプチドをコードする単離された核酸が、ヒト細胞における発現のために最適化されている、本発明1001の組成物。
[本発明1006]
前記標的配列が、ヘルペスウイルスゲノムのICP0ドメイン内の配列を含む、本発明1001の組成物。
[本発明1007]
前記ガイド核酸がRNAである、本発明1001の組成物。
[本発明1008]
前記ガイド核酸が、crRNAおよびtracrRNAを含む、本発明1001の組成物。
[本発明1009]
前記組成物が、複数の単離されたガイド核酸を含み、各ガイド核酸が、ヘルペスウイルスゲノムにおける異なる標的配列と実質的に相補的なヌクレオチド配列を含む、本発明1001の組成物。
[本発明1010]
前記組成物が、1つまたは複数の単離された核酸を含み、該1つまたは複数の単離された核酸が、複数のガイド核酸をコードし、各ガイド核酸が、ヘルペスウイルスゲノムにおける異なる標的配列と実質的に相補的なヌクレオチド配列を含む、本発明1001の組成物。
[本発明1011]
前記ヘルペスウイルスが、単純ヘルペス1型(HSV1)、単純ヘルペスウイルス2(HSV2)、ヒトヘルペスウイルス3(HHV-3;水痘帯状疱疹ウイルス(VZV))、ヒトヘルペスウイルス4(HHV-4;エプスタイン・バーウイルス(EBV))、ヒトヘルペスウイルス5(HHV-5;サイトメガロウイルス(CMV))、ヒトヘルペスウイルス6(HHV-6;ロゼオロウイルス)、ヒトヘルペスウイルス7(HHV-7)、およびヒトヘルペスウイルス8(HHV-8;カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV))からなる群より選択される、本発明1001の組成物。
[本発明1012]
前記標的配列が、SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:3、SEQ ID NO:4、SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:6、SEQ ID NO:7、およびSEQ ID NO:8からなる群より選択される、本発明1001の組成物。
[本発明1013]
以下を含む、薬学的組成物:
(a)CRISPR関連(Cas)ペプチドおよびCasペプチドをコードする単離された核酸からなる群より選択されるもの;ならびに
(b)ヘルペスウイルスゲノムにおける標的配列と実質的に相補的なヌクレオチド配列を含む単離されたガイド核酸および該ガイド核酸をコードする単離された核酸からなる群より選択されるもの。
[本発明1014]
CRISPR関連(Cas)ペプチドおよびガイド核酸をコードする、発現ベクターであって、該ガイド核酸が、ヘルペスウイルスゲノムにおける標的配列と実質的に相補的なヌクレオチド配列を含む、発現ベクター。
[本発明1015]
本発明1013の発現ベクターを含む、宿主細胞。
[本発明1016]
対象におけるヘルペスウイルス感染またはヘルペスウイルス関連障害を処置または予防する方法であって、該対象の細胞を、
(a)CRISPR関連(Cas)ペプチドおよびCasペプチドをコードする単離された核酸からなる群より選択されるもの;ならびに
(b)ヘルペスウイルスゲノムにおける標的配列と実質的に相補的なヌクレオチド配列を含む単離されたガイド核酸および該ガイド核酸をコードする単離された核酸からなる群より選択されるもの
を含む治療的有効量の組成物に接触させる段階
を含む、方法。
[本発明1017]
前記Casペプチドが、Cas9またはそのバリアントである、本発明1016の方法。
[本発明1018]
前記Cas9バリアントが、野生型ストレプトコッカス・ピオゲネスCas9(spCas9)と比較して、R780A、K810A、K848A、K855A、H982A、K1003A、R1060A、D1135E、N497A、R661A、Q695A、Q926A、L169A、Y450A、M495A、M694A、およびM698Aからなる群より選択される1つまたは複数の点変異を含む、本発明1017の方法。
[本発明1019]
前記Casペプチドが、Cpf1またはそのバリアントである、本発明1016の方法。
[本発明1020]
前記Casペプチドをコードする単離された核酸が、ヒト細胞における発現のために最適化されている、本発明1016の方法。
[本発明1021]
前記標的配列が、ヘルペスウイルスゲノムのICP0ドメイン内の配列を含む、本発明1016の方法。
[本発明1022]
前記ガイド核酸がRNAである、本発明1016の方法。
[本発明1023]
前記ガイド核酸が、crRNAおよびtracrRNAを含む、本発明1016の方法。
[本発明1024]
前記ヘルペスウイルスが、単純ヘルペス1型(HSV1)、単純ヘルペスウイルス2(HSV2)、ヒトヘルペスウイルス3(HHV-3;水痘帯状疱疹ウイルス(VZV))、ヒトヘルペスウイルス4(HHV-4;エプスタイン・バーウイルス(EBV))、ヒトヘルペスウイルス5(HHV-5;サイトメガロウイルス(CMV))、ヒトヘルペスウイルス6(HHV-6;ロゼオロウイルス)、ヒトヘルペスウイルス7(HHV-7)、およびヒトヘルペスウイルス8(HHV-8;カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV))からなる群より選択される、本発明1016の方法。
[本発明1025]
前記ヘルペスウイルス関連障害が、口唇ヘルペス、性器ヘルペス、水痘、帯状疱疹、ヒトα-ヘルペスウイルスによる一次ヘルペス感染、ベル麻痺、前庭神経炎、およびヘルペス性神経痛からなる群より選択される、本発明1016の方法。
[本発明1026]
前記標的配列が、SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:3、SEQ ID NO:4、SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:6、SEQ ID NO:7、およびSEQ ID NO:8からなる群より選択される、本発明1016の方法。
【0024】
以下の本発明の好ましい態様の詳細な説明は、添付の図面と共に読まれる場合、より理解されるであろう。本発明を説明する目的のために、現在好ましい図面態様において示される。しかし、本発明は、図面に示される態様の厳密な配置および手段に制限されないことは理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】溶解HSV1感染後のタンパク質発現の時間経過の図式的な表示である。最初期(IE、黒色)、初期(E、灰色)、および後期(L、薄灰色)タンパク質を示す。ウイルス外被にパッケージされた後期タンパク質、VP16は、ウイルスタンパク質合成を開始するために、宿主細胞タンパク質Oct1およびHCFと相互作用する。
【
図2】Cas9/gRNA複合体の概略の表示である。修飾されたCas9/gRNA複合体(それぞれ、黄色および灰色)は、標的DNA配列に結合し、プロトスペーサー隣接モチーフ(Protospacer Adjacent Motif)NGG(黒四角)の3ヌクレオチド内で特異的に切断する。
【
図3】ドメイン[FHA(フォークヘッド関連リン酸化モチーフ)、RING(Cys3His1Cys4亜鉛結合)ドメイン、PMHL結合ドメイン、SIAH(セブンインアブセンティアホモログ(seven in absentia homologue)結合モチーフ)、NLS(核局在化配列)、USP7(ユビキチン特異的プロテイナーゼ7-結合モチーフ)、およびND10局在化モチーフ]を示す、ICP0のタンパク質配列の図式的な表示である。星印は、リン酸化部位を示す。選択されたHSV1標的化DNA(tDNA)配列は、それらの識別名と共に図式的な直線の真下に示される全長tDNA配列と共に、矢印によって示される。
【
図4】Cas9/抗HSV1 ICP0 gRNA 2AでのF06細胞の安定的なトランスフェクション後の、ICP0のサーベイヤー(surveyor)アッセイのアガロースゲルを示す。これは、180塩基対の断片がこのクローンによって生成されることを示す。左レーンは、分子サイズマーカーを示す。右レーンは、HSV1 ICP0ゲノムDNAを含むトランスフェクトされていないF06細胞を示す。
【
図5】2つのCas9/HSV1 gRNA配列である、Cas9/抗ICP0 gRNA 2AおよびCas9/抗ICP0 gRNA 2C(Cas9/2A+2Cと省略される)でのL7細胞の同時一過性同時感染の結果を示す。2Aおよび2C tDNA配列を含むICP0のHSV1天然配列は、
図5の上部に示される。下部に示される10個のDNA配列は、クローン化された得られたICP0配列の配列であり、1塩基対の欠失(8/10の配列決定クローンで観察された、整列化された配列中のギャップ)または1塩基対の挿入(2/10のクローン)のいずれかを示す。これらの2つのガイド配列の同時感染は、217 bpのICP0 DNAの配列を残して335 bpのICP0配列の部分の切断を生じた。挿入図は、切断された217塩基対の切断されたDNA断片(中央レーン)を示すアガロースゲルを示す。右側は、全長の野生型断片のみを示すトランスフェクトされていないL7細胞(Cas9構築物無しとも呼ぶ)である。左側は、分子サイズマーカーである。
【
図6】対照と比較した、Cas9/抗HSV1 ICP0 gRNA 2Dでの感染後の、細胞のウイルス感染の結果を示す。Cas9/抗HSV1 ICP0 gRNAでの正常ベロ細胞の安定的なトランスフェクションの後、細胞は、HSV1での感染に対して著しくより耐性になり、低い濃度のウイルスで感染され得ない。これらの結果は、正常ベロ細胞がICP0を完全に欠失する変異体HSV1ウイルス(ΔICP0)で感染された場合に見られるものと同等である。外部のICP0が添加される(F06細胞がICP0を発現する)場合に、細胞は、予想されるように、著しく低い濃度でICP0を欠失するHSV1(ΔICP0)で感染された。pfuは、実験の各条件に添加された感染性HSV1の量を定量化するための標準的方法であるプラーク形成単位を表す。wtは、ICP0 DNAコード配列を含む、野生型または通常の単純ヘルペスウイルスを表す。
【
図7A】
図7A~
図7Gで構成されている
図7は、CRISPR/Cas9が、ICP0遺伝子中に変異を導入し、HSV-1複製を減少させることを示す、実験の結果を示す。
図7A:エクソンIIおよびringドメインを示すHSV-1 ICP0ゲノム領域の図式的な表示。PAM(緑色で表示される)を含む2A、2B、および2C標的の位置およびヌクレオチド構成要素が示される。PCR増幅に使用される様々なプライマー(P)の位置が表示される。
図7B:Cas9(対照)またはCas9+gRNA 2Aおよび2Cを発現するL7細胞における、プライマーP3およびP2(
図7Aに示される)によって増幅されたDNA断片のゲル解析。標的2Aおよび2CでのエクソンII DNAの切断ならびにライゲーションの後に残っている断片の増幅によって生じた、予想される552 bpのアンプリコンおよび217 bpのより小さなDNA断片の位置が示される。
図7C:355 bpの切除後の切断されたエクソンII DNAの2つの末端の平滑末端結合を表す、217 bpのクローン化された断片(
図7Bに示される)の配列トレース。
図7D:CAs9/gRNA 2Aを発現するいくつかのクローン細胞(InDel 1~3と命名される)またはgRNA 2Aを含まない対照細胞からのP3およびP4プライマーを使用したアンプリコンを表す、DNAゲル解析。
図7E:クローンInDel 1および2における同定されたヌクレオチド挿入(黒色の矢印によって表される)、ならびにクローンInDel 3における191 bpのDNAの挿入のDNA配列決定。赤色矢印は切断部位を指す。
図7F:ICP0に対する抗体による免疫染色後の、Cas9/gRNA 2Aを発現するL7細胞(対照)およびそのサブクローンInDel 3(
図7Eに示される)の図式的な共焦点画像。緑はHSV-1によるGFPの発現を示し、DAPI(青)は細胞の核を表す。
図7G:ICP0を内因性発現する親L7細胞(対照)、またはInDel 3、InDel 2(
図7Eに示される)における上清中のΔICP0-HSV-1の力価を示す、ウイルス産生アッセイ。
【
図8】ICP0発現を標的化することによって、CRISPR/Cas9が、L7細胞におけるPML体の会合を回復させることを示す実験結果を表す。対照の感染されていないL7細胞におけるPML体の免疫染色解析は、細胞の核内のPML体の点状の染色の出現を示す(下部パネル)。核(青)のDAPI染色は、右パネルに示される。HSV-1/GFPの低いMOIでのCas9を発現するベロL7細胞の感染は、PMLの完全な破壊、および緑で示されるHSV-1/GFPにおける強力な複製を示す(中央パネル)。Cas9/gRNA 2Aを発現するL7細胞において、HSV-1/GFPでの感染は、核内の点状のPMLの形成を破壊できず、細胞内で検出されたウイルス複製のレベルを著しく減少させた(緑、上部パネル)。
【
図9】
図9A~
図9Dで構成されている
図9は、Cas9/gRNAを発現するヒトTC620細胞がHSV-1複製をサポートしないことを示す実験結果を表す。
図9A:TC620ヒト乏突起神経膠腫細胞およびCas9またはCas9/gRNA 2Aを発現するそのサブクローン(クローン6および10)におけるICP0の検出のための、タンパク質抽出物のウエスタンブロット解析。110 kDa ICP0の発現は、対照細胞およびCas9を発現する細胞において検出されるが、クローン6および10において著しく減少した。ハウスキーピングタンパク質であるα-チューブリンの発現を示す。
図9C:感染細胞のCas9/gRNA編集によるICP0の抑制の結果としてプラーク数の著しい減少を示す、2つの異なる希釈のHSV-1/GFP感染対照TC620またはクローン6および10に由来する上清を使用した、代表的なプラークアッセイ。
図9D:プラークアッセイによるHSV-1産生の定量化は、Cas9+gRNA 2Aの持続的な産生を伴うTC620細胞におけるウイルス産生の著しい抑制を示す。
【
図10】
図10A~
図10Fで構成されている
図10は、レンチウイルス(LV)を介したCas9/gRNA送達が、溶解サイクルの間のHSV-1感染を抑制し、感染されていない細胞を新規の感染から妨げることを示す実験結果を表す。
図10A:Cas9を内因性に発現しており、かつHSV-1/GFPを24時間感染させた後、gRNA 2A、2B、または両方を発現するレンチウイルスで処理し、タンパク質抽出のために48時間後に回収した、TC260細胞からのタンパク質抽出物のウエスタンブロット解析。ICP0、ICP8、糖タンパク質C、Cas9、およびα-チューブリンの位置が示される。
図10Bおよび
図10Cは、ウイルス産生の著しい減少を示した、LVgRNA 2AまたはLVgRNA 2Bで処理された細胞におけるプラークアッセイからの結果を表す。
図10D:上記の感染した細胞からのタンパク質抽出物のウエスタンブロット解析。
図10E:HSV-1感染の48時間前に、ベクター(LV)、LVCas9、LVCas9+LVgRNA 2A、LVCas9+gRNA 2B、ならびにLVCas9+LVgRNA 2Aおよび2Bで処理されたTC620細胞における、HSV-1/GFP複製の共焦点免疫蛍光評価。HSV-1/GFPの複製の減少は、LV-Cas9+LV-gRNA 2A処理細胞における僅かなHSV-1感染細胞を示す、緑色蛍光の検査によって示される。
図10F:表されたようにCas9およびgRNAを産生するLVで予め処理された細胞のHSV-1感染時に放出されたウイルスの力価の減少を示すプラークアッセイ。
【
図11】
図11A~
図11Cで構成されている
図11は、実験例の結果を示す。
図11A:Cas9ならびにgRNA 2Aおよび2CによるDNAの切断の結果としてのエクソンII内の切断点の検出、ならびに切断点の部位での単一ヌクレオチドA(上部)およびG(下部)の挿入を示す、クロマトグラム。
図11B:gRNA 2Bおよび2Cの組換えはエクソンII内で切断し、251 bpのDNAの増幅のための新規鋳型を生成する。
図11C:Cel 1ヌクレアーゼによる切断後に180 bpの新規DNA断片を生じる(gRNA 2Aと表示されたレーン)、標的AでのエクソンIIにおけるInDel変異を示す、SURVEYORアッセイ。
【
図12】
図12Aおよび
図12Bで構成されている
図12は、処理されたヒト細胞におけるCas9 gRNAおよびCas9タンパク質の産生を示す実験例の結果を示す。
図12A:RT-PCRによる、処理されていない(対照)か、Cas9を発現するか、またはCas9+gRNA 2Aを発現するヒトTC620細胞におけるgRNA 2Aの産生。β-アクチン転写物はローディング対照として働く。
図12B:TC620細胞におけるflag-Cas9の発現は、ウエスタンブロット解析によって検証された。
【
図13】
図13A~
図13Dで構成されている
図13は、HSV0-1でのヒト細胞系TC620の効果的な感染を示す実験例の結果を示す。
図13A:ヒト乏突起神経膠腫細胞系であるTC620は、0.1、1、または2のMOIのHSV-1/GFPで感染され、48時間後、HSV-1発現および複製を示すGFPの発現が、蛍光顕微鏡によって評価された。
図13B:HSV-1で感染されたTC620細胞におけるICP0の発現を評価するための、感染48時間後のウエスタンブロット解析。
図13Cおよび
図13D:MOI=1で感染されたTC620細胞における、感染48時間後のウエスタンブロット解析による、ICP8および糖タンパク質Cの検出。
【
図14】
図14A~
図14Cで構成されている
図14は、Cas9/gRNAによるヒト細胞の処置が、細胞周期、アポトーシス、または細胞の生存に影響しないことを示す実験例の結果を表す。
図14A:細胞周期アッセイは、細胞周期に対するCas9/gRNAの影響を調べるために使用され、TC620対照細胞は、Cas9も如何なるgRNAも発現しないが、Cas9およびCas9/gRNA 2Aクローン6および10のサブクローンは、示されるようにCas9のみまたはCas9+gRNA2Aのいずれかを発現する。示されるように、これらの細胞系において、G1、S、およびG2/M期を通じた細胞周期の進行の差異は、検出されなかった。
図14B:
図14Aに示されるように、クローン細胞系におけるアポトーシスアッセイは、アネキシンで染色された細胞集団(1.0~2.1%の範囲である)において、著しい変化を示さなかった。
図14C:ヨウ化プロピジウム染色アッセイを使用した細胞生存性アッセイは、様々なクローンにおけるCas9またはCas9/gRNA発現を有する細胞の生存率における変化を示した。
【
図15A】
図15Aおよび
図15Bで構成されている
図15は、Cas9/gRNAの産生が宿主細胞中でDNAの変化を引き起こさないことを実証する実験例の結果を示す。
図15A:Cas9/gRNA 2A発現に起因され得るPCR増幅からの予想されたDNA断片の下に検出可能なバンドを示さない、SURVEYORアッセイのDNAゲル解析。対照は、SURVEYORアッセイキットの供給者によって提供される(Integrated DNA Technologies, Coralville, IA)。
図15B:潜在的なオフターゲット(off-target)を含む細胞遺伝子のPCR増幅および細胞遺伝子のサンガー配列決定の結果(
図15Aに示される)は、アンプリコンにInDel変異が存在しないことを明らかにした。矢印は、プライマーの位置および潜在的なオフターゲットからの距離を示す。赤はPAM配列を示し、黒は各細胞遺伝子のための潜在的な標的配列を表す。各アンプリコンのサイズを示す。
【
図16】
図16A~
図16Eで構成されている
図16は、実験例の結果を示す。6.
図16A~
図16E。
図10Eのために記載される方法に従った上記の各パネルに示されるような、Cas9または様々なgRNAを発現するレンチウイルスベクター(LV)での処理後のTC260細胞におけるHSV-1/GFP複製の落射蛍光評価。画像は、各条件に対する二つ組のプレートの代表である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
詳細な説明
本発明は、ヘルペスウイルス感染の処置または予防を必要とする対象における、ヘルペスウイルス感染の処置または予防のための組成物および方法に関する。例えば、ある態様において、本発明は、ヒトα-ヘルペスウイルス、例えば、ヒト単純ヘルペス1型(HSV1)における標的配列を特異的に切断する組成物を提供する。そのような組成物は、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat)(CRISPR)核酸またはポリペプチドおよび特異的ガイドRNA配列を含み得、急性または潜伏性のα-ヘルペスウイルス感染を有する対象に投与され得る。
【0027】
定義
別に定義しない限り、本明細書に使用される全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって通常理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと類似または同等の任意の方法および材料が、本発明の実施および試験において使用され得るが、好ましい方法および材料が記載される。
【0028】
本明細書に使用されるように、以下の用語の各々は、このセクションにおいてそれに関連する意味を有する。
【0029】
冠詞、「1つの(a)」および「1つの(an)」は、本明細書において、1つ、または冠詞の文法上の対象である1つよりも多い(すなわち、少なくとも1つ)を指すために使用される。例として、「1つの要素(an element)」は、1つの要素または1つより多い要素を意味する。
【0030】
本明細書に使用される、「約」は、量、時間の期間などの測定可能な値に言及する場合に、変動が開示される方法を実施するために適合するように、特定された値から±20%、±10%、±5%、±1%、または±0.1%の変動を含むことを意味する。
【0031】
生物、組織、細胞、またはそれらの構成要素の文脈において使用される場合に、用語「異常な」は、「正常の」(予想される)それぞれの特徴を示す生物、組織、細胞、またはそれらの構成要素に由来する、少なくとも1つの観察可能な且つ検出可能な特徴(例えば、年齢、処置、日数など)において異なる、それらの生物、組織、細胞、またはそれらの構成要素を指す。ある細胞または組織型に対して正常または予想される特徴は、異なる細胞または組織型に対して異常であり得る。
【0032】
「疾患」は、ホメオスタシスを維持することができない動物の健康状態であり、疾患が寛解しない場合、動物の健康は悪化し続ける。
【0033】
対照的に、動物における「障害」は、ホメオスタシスを維持することができるが、動物の健康状態が、障害が存在しない場合より不都合である、健康状態である。処置されずに放っておいた場合、障害は、動物の健康状態のさらなる低下を必ずしも生じるとはいえない。
【0034】
疾患および障害は、疾患および障害の症状の重症度、そのような症状が患者によって経験される頻度、またはその両方が低下する場合に、「軽減される」。
【0035】
「コードする」は、特定のヌクレオチド配列(すなわち、rRNA、tRNA、およびmRNA)または特定のアミノ酸配列のいずれかおよびそれから生じる生物学的性質を有する、生物学的プロセスにおける他のポリマーおよび高分子の合成のための鋳型として作用するという、遺伝子、cDNA、またはmRNAなどのポリヌクレオチドにおける特定のヌクレオチド配列の固有の性質を指す。したがって、その遺伝子に対応するmRNAの転写および翻訳が、細胞または他の生物学的システムにおいてタンパク質を産生する場合に、遺伝子は、タンパク質をコードする。mRNAと同一であり、通常配列表に提供されるヌクレオチド配列であるコード鎖、および遺伝子またはcDNAの転写のための鋳型として使用される非コード鎖は、いずれも、遺伝子またはcDNAのタンパク質または他の産物をコードすると呼ばれ得る。
【0036】
化合物の「有効量」または「治療的有効量」は、化合物が投与される対象に有利な効果を提供するために十分な、化合物の量である。送達ビヒクルの「有効量」は、化合物に効果的に結合するか、または化合物を送達するために十分な量である。
【0037】
「発現ベクター」は、発現されるヌクレオチド配列に操作可能に連結された発現制御配列を含む組換えポリヌクレオチドを含むベクターを指す。発現ベクターは、発現のための十分なシス作用性要素を含み;発現のための他の要素は、宿主細胞によって、またはインビトロ発現システムにおいて、供給され得る。発現ベクターは、組換えポリヌクレオチドを導入する、コスミド、プラスミド(例えば、リポソーム内において裸の、または含有される)およびウイルス(例えば、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、およびアデノ随伴ウイルス)などの、当技術分野に公知の全てのものを含む。
【0038】
「相同性」は、2つのポリペプチドの間、または2つの核酸分子の間での配列類似性または配列同一性を指す。2つの比較された配列の両方における部位が、同一の塩基またはアミノ酸モノマーサブユニットによって占められる場合に(例えば、2つのDNA分子のそれぞれの位置が、アデニンによって占められる場合に)、分子は、その位置で相同性である。2つの配列の間の相同性の%は、2つの配列によって共有される一致した位置または相同性の位置の数を、比較される位置の数で割って、100を掛けた関数である。例えば、2つの配列の10個の位置のうち6個の位置が一致するか、または相同性である場合には、2つの配列は60%の相同性である。例として、DNA配列、ATTGCCおよびTATGGCは、50%の相同性を共有する。一般的に、比較は、2つの配列が最大の相同性を与えるように整列化される場合に行われる。
【0039】
「単離された」は、天然の状態から変更または除去されたことを意味する。例えば、生存動物において天然に存在する核酸およびペプチドは、「単離され」てはいないが、その天然の状態の共存する材料から部分的または完全に分離された、同じ核酸またはペプチドは、「単離され」ている。単離された核酸またはタンパク質は、実質的に精製された形態で存在し得るか、または例えば宿主細胞などの非天然の環境において存在し得る。
【0040】
本発明の文脈において、以下の略語が、通常存在する核酸塩基のために使用される。「A」はアデノシンを指し、「C」はシトシンを指し、「G」はグアノシンを指し、「T」はチミジンを指し、「U」はウリジンを指す。
【0041】
他に特定しない限り、「アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列」は、各々の他の縮重バージョンであり、同じアミノ酸配列をコードする、全てのヌクレオチド配列を含む。タンパク質またはRNAをコードするヌクレオチド配列の表現はまた、タンパク質をコードするヌクレオチド配列が、いくつかのバージョンでイントロンを含み得る範囲で、イントロンを含み得る。
【0042】
用語「患者」、「対象」、「個体」などは、本明細書において交換可能に使用され、任意の動物、または本明細書に記載される方法に適したインビトロもしくはインサイチューでのその細胞を指す。特定の非制限的な態様において、患者、対象、または個体は、ヒトである。
【0043】
組成物の「非経口」投与は、例えば、皮下(s.c.)、静脈内(i.v.)、筋肉内(i.m.)または胸骨内(intrasternal)の注射または注入技術を含む。
【0044】
本明細書に使用される、用語「ポリヌクレオチド」は、ヌクレオチドの鎖として定義される。さらに、核酸はヌクレオチドのポリマーである。したがって、本明細書に使用される核酸およびポリヌクレオチドは、交換可能である。当業者は、核酸が、単量体の「ヌクレオチド」に加水分解され得るポリヌクレオチドであるとの一般知識を有している。単量体のヌクレオチドは、ヌクレオシドに加水分解され得る。本明細書に使用されるように、ポリヌクレオチドは、組換え手段、すなわち、通常のクローニング技術およびPCR(商標)などを使用する組換えライブラリーまたは細胞ゲノムからの核酸配列のクローン化、および合成手段などを含むがこれらに限定されない、当技術分野において入手可能な任意の手段によって得られる全ての核酸配列を含むが、これらに限定されない。
【0045】
他に特定しない限り、「アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列」は、互いの縮重バージョンであり、同じアミノ酸配列をコードする、全てのヌクレオチド配列を含む。タンパク質またはRNAをコードするヌクレオチド配列の表現はまた、タンパク質をコードするヌクレオチド配列が、いくつかのバージョンでイントロンを含み得る範囲で、イントロンを含み得る。
【0046】
本明細書に使用される、用語「ペプチド」、「ポリペプチド」、および「タンパク質」は、交換可能に使用され、ペプチド結合によって共有結合的に結合されたアミノ酸残基で構成される化合物を指す。タンパク質またはペプチドは、少なくとも2つのアミノ酸を含まなければならず、タンパク質の配列またはペプチドの配列を構成することができるアミノ酸の最大数に制限はない。ポリペプチドは、ペプチド結合によって互いに結合された2つまたはそれ以上のアミノ酸を含む任意のペプチドまたはタンパク質を含む。本明細書に使用されるように、この用語は、例えば、当技術分野において、ペプチド、オリゴペプチド、およびオリゴマーとも通常呼ばれる短い鎖、ならびに当技術分野において多くのタイプが存在する、タンパク質と一般的に呼ばれるより長い鎖の両方を指す。「ポリペプチド」は、例えば、生物学的活性断片、実質的に相同性のポリペプチド、オリゴペプチド、ホモダイマー、ヘテロダイマー、ポリペプチドのバリアント、修飾されたポリペプチド、誘導体、類似体、融合タンパク質などを含む。ポリペプチドは、天然のペプチド、組換えペプチド、合成ペプチド、またはそれらの組み合わせを含む。
【0047】
本明細書に使用される、用語「プロモーター」は、ポリヌクレオチド配列の特定の転写を開始するために必要とされる、細胞の合成機構または導入された合成機構によって認識されるDNA配列として定義される。
【0048】
本明細書に使用される、用語「プロモーター/調節配列」は、プロモーター/調節配列に操作可能に連結された遺伝子産物の発現のために必要とされる、核酸配列を意味する。いくつかの例において、この配列はコアプロモーター配列であり得、他の例において、この配列はまた、遺伝子産物の発現のために必要とされる、エンハンサー配列および他の調節要素を含む。プロモーター/調節配列は、例えば、組織特異的様式で遺伝子産物を発現するものであり得る。
【0049】
「構成的」プロモーターは、遺伝子産物をコードまたは特定するポリヌクレオチドに操作可能に連結される場合、細胞の殆どまたは全ての生理学的状態の下で、細胞中に産生される遺伝子産物を生じる、ヌクレオチド配列である。
【0050】
「誘導性」プロモーターは、遺伝子産物をコードまたは特定するポリヌクレオチドに操作可能に連結される場合、実質的に、プロモーターに対応するインデューサーが細胞内に存在する場合にのみ、細胞中に産生される遺伝子産物を生じる、ヌクレオチド配列である。
【0051】
「組織特異的」プロモーターは、遺伝子をコードまたは遺伝子によって特定されたポリヌクレオチドに操作可能に連結される場合に、実質的に、細胞がプロモーターに対応する組織型の細胞である場合にのみ、細胞中に産生される遺伝子産物を生じる、ヌクレオチド配列である。
【0052】
「治療的」処置は、病態の徴候を減少または除去する目的で、病態の徴候を示す対象に与えられる処置である。
【0053】
本明細書に使用される、「疾患または障害を処置する」とは、患者によって経験される疾患または障害の症状を有する頻度を低下させることを意味する。
【0054】
本明細書に使用される、「治療的有効量」の用語は、そのような疾患の症状を軽減することを含む、疾患または状態を予防または処置(発症を遅延または妨げる、進行を妨げる、阻害する、減少させる、または逆転させる)ために十分または効果的である量を指す。
【0055】
本明細書に使用される用語として、疾患を「処置する」ことは、対象によって経験される疾患または障害の少なくとも1つの徴候または症状の頻度または重症度を低下させることを意味する。
【0056】
本明細書に使用される用語として、「バリアント」は、配列がそれぞれ参照核酸配列またはペプチド配列と異なるが、参照分子の本質的な性質を保持する、核酸配列またはペプチド配列である。核酸バリアントの配列における変化は、参照核酸によってコードされるペプチドのアミノ酸配列を変更しなくてもよく、またはアミノ酸置換、付加、欠失、融合、および切断を生じてもよい。ペプチドバリアントの配列における変化は、典型的に、参照ペプチドおよびバリアントの配列が、全体で極めて類似し、多くの領域において同一であるように、制限され、または保存されている。バリアントおよび参照ペプチドは、任意の組み合わせでの、1つまたは複数の置換、付加、欠失によって、アミノ酸配列において異なり得る。核酸またはペプチドのバリアントは、対立遺伝子バリアントなどの天然に生じるものであり得、または天然に生じることが知られていないバリアントであり得る。核酸およびペプチドの天然に生じないバリアントは、変異誘発技術または直接合成によって作製され得る。
【0057】
「ベクター」は、単離された核酸を含み、細胞の内部に単離された核酸を送達するために使用され得る、組成物である。当技術分野において、多数のベクターが公知であり、直鎖状ポリヌクレオチド、イオン性または両親媒性化合物を伴うポリヌクレオチド、プラスミド、およびウイルスを含むが、これらに限定されない。したがって、用語「ベクター」は、自己複製するプラスミドまたはウイルスを含む。この用語はまた、例えば、ポリリジン化合物、リポソームなどの、細胞中に核酸の移行を促進する、非プラスミドおよび非ウイルス化合物を含むように解釈されるべきである。ウイルスベクターの例は、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクターなどを含むが、これらに限定されない。
【0058】
範囲:本開示を通して、本発明の様々な局面が、範囲形式で提示され得る。範囲形式の記載は単に便宜的および簡潔さのためであって、本発明の範囲に対する柔軟性を欠く制限として解釈されるべきではないことが理解されるべきである。したがって、範囲の記載は、可能な部分的範囲の全て、並びにその範囲内の個々の数値を具体的に開示していると考慮されるべきである。例えば、1~6などの範囲の記載は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6などの部分的範囲、ならびに、例えば、範囲内の、1、2、2.7、3、4、5、5.3、および6などの個々の数字を具体的に開示していると考慮されるべきである。これは、範囲の幅に関わらず、当てはまる。
【0059】
説明
本発明は、ヘルペスウイルス感染の処置または予防を必要とする対象における、ヘルペスウイルス感染を処置または予防するための組成物および方法を提供する。例えば、ある態様において、本発明は、ヘルペスウイルスのウイルスゲノムにおける標的配列を特異的に切断し、それにより、ウイルスの複製する能力を妨げるかまたは低下させ、したがって、ヘルペスウイルスの感染性を阻害する、組成物を提供する。
【0060】
本発明は、部分的には、ヒト単純ヘルペス1型ウイルス(HSV1とも呼ばれる)に特異的な単一および複数の構成におけるCRISPR-Cas9システムを使用することによって得られた結果に基づく。本明細書の他の箇所に提示された実験において使用されたCRISPR-Cas9システムは、挿入/欠失(InDel)変異を導入することによって、必須HSV1タンパク質の第1の2つのコードエクソンに対応するウイルスDNA配列の完全性を損なわせた。本明細書において、CRISPR-Cas9を介したHSV1特異的遺伝子編集が、ウイルス遺伝子発現の不活性化を生じ、または細胞におけるウイルス複製を遅延もしくは停止させることが示される。例えば、本明細書に記載されるCRISPR-Cas9分子は、HSV1ゲノムの大きなセグメントを除去する可能性を有し、感染細胞におけるウイルスの複製する能力を損なわせる。さらに、本明細書に示されるデータは、細胞にHSV1指向性Cas9をあらかじめ存在させることにより、それらにHSV1感染に対する免疫性を与えたことが示される。例えば、本明細書に示されるRNAガイドCas9は、分子ハサミとして作用し、HSV1ゲノムの様々な領域を破壊することによって、ウイルスの複製を抑止する。したがって、本発明は、新規の治療的および予防的ストラテジーとしての、急性または潜伏性のHSV1感染におけるウイルスゲノムの破壊のための、感染細胞におけるHSV1ゲノムを標的化する組成物および方法を提供する。
【0061】
一つの態様において、本発明は、ヘルペスウイルス感染の処置または予防を必要とする対象における、ヘルペスウイルス感染の処置または予防のための組成物を提供する。一つの態様において、組成物は、ヘルペスウイルスゲノムにおける標的領域と相補的なヌクレオチド配列を含む、少なくとも1つの単離されたガイド核酸分子を含む。一つの態様において、組成物は、CRISPR関連(Cas)ペプチド、またはそれらの機能的断片もしくは誘導体を含む。同時に、単離された核酸ガイド分子およびCRISPR関連(Cas)ペプチドは、ヘルペスウイルスゲノム内の標的部位で1つまたは複数の変異を導入するように機能し、それにより、ウイルスの感染性を阻害する。
【0062】
組成物はまた、CRISPR-Casシステムの1つまたは複数の要素をコードする、単離された核酸を含む。例えば、一つの態様において、組成物は、ガイド核酸分子およびCRISPR関連(Cas)ペプチドの少なくとも1つまたはそれらの機能的断片もしくは誘導体をコードする、単離された核酸を含む。
【0063】
一つの態様において、本発明は、ヘルペスウイルス感染の処置または予防を必要とする対象における、ヘルペスウイルス感染の処置または予防のための方法を提供する。一つの態様において、方法は、ガイド核酸分子およびCRISPR関連(Cas)ペプチドの少なくとも1つ、またはそれらの機能的断片もしくは誘導体を含む有効量の組成物を、対象に投与する段階を含む。ある例において、方法は、ガイド核酸分子およびCRISPR関連(Cas)ペプチドの少なくとも1つまたはそれらの機能的断片もしくは誘導体をコードする単離された核酸を含む組成物を投与する段階を含む。ある態様において、方法は、本明細書に記載される組成物を、ヘルペスウイルス感染を有すると診断された対象、ヘルペスウイルス感染を発症するリスクを有する対象、潜伏ヘルペスウイルス感染を有する対象などに投与する段階を含む。
【0064】
一つの態様において、方法は、単純ヘルペス1型(HSV1)、単純ヘルペスウイルス2(HSV2)、ヒトヘルペスウイルス3(HHV-3;水痘帯状疱疹ウイルス(VZV))、ヒトヘルペスウイルス4(HHV-4;エプスタイン・バーウイルス(EBV))、ヒトヘルペスウイルス5(HHV-5;サイトメガロウイルス(CMV))、ヒトヘルペスウイルス6(HHV-6;ロゼオロウイルス)、ヒトヘルペスウイルス7(HHV-7)、およびヒトヘルペスウイルス8(HHV-8;カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV))を含むがこれらに限定されない、ヘルペスウイルス感染を処置または予防するために使用される。
【0065】
ヘルペスウイルス
ヘルペスウイルス属は、3つの属:α-ヘルペスウイルス(例えば、HSV1、性器ヘルペスを引き起こす単純ヘルペス2型、ならびに水痘および帯状疱疹を引き起こす水痘帯状疱疹ウイルス);β-ヘルペスウイルス(例えば、第六病を引き起こすHHV-6、および小児バラ疹を引き起こすHHV-7);ならびにγ-ヘルペスウイルス(例えば、単核球症および他の疾患を引き起こすエプスタイン・バーウイルス、ならびにカポジ肉腫を引き起こすHHV-8)に分けられる。α-ヘルペスウイルスは、類似の生活環を共有するだけではなく、ウイルス複製および再活性化のために必須である多くのウイルスタンパク質において相同性のDNA配列も有する。
【0066】
単純ヘルペス1型(HSV1)は、ほぼユビキタスなヒト病原体である、被包された二本鎖153キロベース(kB)DNAウイルスである。米国の人口の60%までが、40歳までにHSV1に感染する。一次感染は、典型的に幼児期に生じ、しばしば無症状感染が生じるが、頬粘膜および歯肉粘膜の発熱および損傷によって特徴付けられる。一次HSV1感染はまた、性的接触を通じて生じ、HSV1は増加しており、性器ヘルペスの原因であることが見出されている。一次感染の症状は、典型的にかなり軽症であり、生命を危うくする感染症は、特に、感染が新生児期に生じる場合、またはHSV1が免疫不全個体によって接触される場合に、生じ得る。
【0067】
一次感染の後、HSV1ゲノムは、長期間にわたって、感覚ニューロンにおいて休止状態にあり得る。ウイルス生活環のこの段階の間、HSV1ゲノムは、高次コイルのエピソーム状態で潜伏感染したニューロンの核内に存在する。この状態において、ウイルスタンパク質は産生されず、1つのウイルス転写物、潜伏関連転写物(LAT)のみが産生される。ストレスおよびUV光を含む多数の刺激が、潜伏感染したニューロンからのウイルス再活性化を引き起こし得る。再活性化は、初感染の後に、長年、繰り返し生じ得る。HSV1再活性化によって生じる症状は、一次感染の部位および再活性化の範囲によって様々である。HSV1再活性化の最も通常認識される形態は、口唇ヘルペスである。これらは、典型的にUV光曝露を含む様々な刺激の後に口の唇紅上に出現する。性器を神経支配する後根神経節ニューロンにおいて貯蔵されたウイルスの再活性化は、再発性の性器ヘルペスの形態をとる。HSV1再活性化の口唇および肛門生殖器の所見は、この場所における最初の前駆刺痛の後、潰瘍化し、最終的に治癒する感染性ウイルスを含む有痛性の疱疹の出現によって特徴付けられる。HSV1再活性化の、他のよりまれな所見は、ベル麻痺、耳科手術後の遅延性の顔面神経麻痺、および前庭神経炎を含む。HSV1再活性化は、ヘルペス脳炎および播種性ヘルペスなどのより重篤な所見を有し得る。
【0068】
一次感染の間、規定の一連のタンパク質発現が生じる(
図1)。一次感染の間の細胞中へのウイルス侵入の後、ウイルスキャプシドは、細胞質内に放出され、宿主タンパク質合成は、外被タンパク質VHS/UL41によって停止される。第2の外被タンパク質VP16は、最初期HSV1転写を誘導するために、宿主タンパク質Oct1およびHCFと共に複合体を形成する。これらの最初期遺伝子は、チミジンキナーゼ(TK)およびウイルスDNAポリメラーゼ(UL30)を含むウイルスDNA複製のために必要とされるHSV1コード酵素の発現を誘導する。ウイルスDNA産生が進行するにつれて、細胞中へのウイルス侵入に必要なキャプシドタンパク質、外被タンパク質、および糖タンパク質を含む後期ウイルスタンパク質が、産生される。ウイルス粒子は集合し、ウイルスDNAはキャプシド中にパッケージされる。最終的に、感染性ウイルス粒子が産生され、周囲の細胞の感染を誘導し、他のヒトへの伝染を可能にする。
【0069】
一連のウイルス再活性化の初期段階は、再活性化の後の段階で潜伏感染されたニューロンにおけるHSV1の再活性化の間に繰り返されると考えられる。VP16などの溶解感染において重要な役割を果たすタンパク質は、再活性化においても同様に重大な役割を果たすと考えられる。HSV1再活性化のプロセスが進行するにつれて、最初期遺伝子発現が生じ、その後、初期および後期タンパク質産生を生じる。最終的に、感染性ウイルス粒子の産生が生じ、隣接細胞および非感染個体への感染の伝染を誘導する。
【0070】
近年、ホーミングエンドヌクレアーゼ(HE)またはメガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、およびごく最近の、部位特異的二本鎖DNA切断(DSB)を介したDNA修復機構を利用した、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)関連システム9(Cas9)タンパク質を含む、内因性遺伝子を標的化するためのいくつかのシステムが開発されている。これらの酵素は、DSBを介したDNS修復機構を通じて、正確且つ効率的なゲノム切断を誘導する。これらのDSBを介したゲノム編集技術は、遺伝子欠失、挿入、または修飾を可能にする。
【0071】
過去数年で、ZFNおよびTALENは、ゲノム編集を大きく変化させてきた。ZFNおよびTALENに関する主要な欠点は、制御不可能なオフターゲット効果、および各標的部位のためのカスタムDNA結合融合タンパク質の面倒で高価な操作であり、これらが汎用的な応用および臨床的安全性を制限する。
【0072】
RNAガイドCas9バイオテクノロジーは、検出可能なオフターゲット効果なしにゲノム編集を引き起こす。この技術は、CRISPR/Cas遺伝子座が可動性遺伝的要素(ウイルス、転移因子、および接合性プラスミド)に対するRNAガイド適応性免疫システムをコードするという、細菌におけるゲノム防御機構の利点を有する。3つの型(I~III)のCRISPRシステムが同定されている。CRISPRクラスターは、先行する可動性要素に相補的な配列であるスペーサーを含む。CRISPRクラスターは、成熟CRISPR(クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート)RNA(crRNA)中で転写され、プロセッシングされる。Cas9は、II型CRISPR/Casシステムに属し、標的DNAを切断するための強力なエンドヌクレアーゼ活性を有する。
【0073】
Cas9は、約20塩基対(bp)の特有の標的配列(スペーサーと呼ぶ)を含む成熟crRNA、およびプレcrRNAのリボヌクレアーゼIII補助プロセシングのためのガイドとして働くトランス活性化スモールRNA(tracrRNA)によってガイドされる。crRNA:tracrRNA二本鎖は、crRNA上のスペーサーと標的DNA(tDNA)上の相補的配列(プロトスペーサーと呼ぶ)の間の相補的塩基対の形成を介して、DNAを標的化するためにCas9を導く。Cas9は、切断部位(PAMから3番目のヌクレオチド)を特定するために、トリヌクレオチド(NGG)プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を認識する。crRNAおよびtracrRNAは、天然のcrRNA/tracrRNA二本鎖を模倣するために、合成ステムルーム(AGAAAU)を介して、人工融合スモールガイドRNA(gRNA)中に別々に発現され得、または操作され得る。shRNAなどのそのようなgRNAは、直接RNAトランスフェクション用に合成もしくはインビトロで転写され得、またはRNA発現ベクター(例えば、U6またはH1プロモーター駆動ベクター)から発現され得る。したがって、Cas9 gRNA技術は、標的ゲノム内の特異的標的DNA結合部位で遺伝子編集複合体を形成し、標的DNAの切断/変異をもたらす、Cas9タンパク質およびgRNAの発現を必要とする。
【0074】
しかし、本発明は、Cas9を介した遺伝子編集の使用に限定されない。それよりは、本発明は、gRNAを使用して標的配列に標的化され得、且つ関心対象の標的部位を編集し得る、他のCRISPR関連ペプチドの使用を包含する。例えば、一つの態様において、本発明は、関心対象の標的部位を編集するためにCpf1を利用する。
【0075】
本明細書に記載されるように、一つの態様において、本発明は、HSV1ゲノムを標的とする新規のRNAガイドCRISPR技術を使用した遺伝的ストラテジーを使用し、HSV1最初期遺伝子、感染細胞タンパク質0(ICP0)の特定のドメインを編集することによって、その発現を抑止する。
【0076】
しかし、本発明は、HSV1の予防および処置に限定されない。それよりは、本発明は、他のヘルペスウイルスを処置または予防するために使用され得る。例えば、HSV2ゲノムはHSV1ゲノムと類似するため、本明細書に記載されるストラテジーは、HSV2の処置または予防において効果的であろう。
【0077】
組成物
本発明は、ヘルペスウイルス感染の処置または予防を必要とする対象における、ヘルペスウイルス感染の処置または予防のための組成物を提供する。ある局面において、組成物は、CRISPR/Cas遺伝子編集システムの1つもしくは複数の構成要素、および/または同じものをコードする1つもしくは複数の単離された核酸を含む。
【0078】
ガイド核酸分子
一つの態様において、組成物は、少なくとも1つの単離されたガイド核酸分子、またはそれらの断片を含み、ガイド核酸分子は、ヘルペスウイルスゲノムにおける1つまたは複数の標的配列と相補的であるヌクレオチド配列を含む。一つの態様において、ガイド核酸は、ガイドRNA(gRNA)である。
【0079】
一つの態様において、gRNAは、crRNA:tracrRNA二本鎖を含む。一つの態様において、gRNAは、crRNAとtracrRNAの間に天然の二本鎖を模倣するステムループを含む。一つの態様において、ステムループは、AGAAAUを含むヌクレオチド配列を含む。例えば、一つの態様において、組成物は、crRNA、ステム、およびtracrRNAを含む、合成またはキメラのガイドRNAを含む。
【0080】
ある態様において、組成物は、ハイブリダイズして天然の二本鎖を形成する、単離されたcrRNAおよび/または単離されたtracrRNAを含む。例えば、一つの態様において、gRNAは、標的化配列を含むcrRNAまたはcrRNA前駆体(プレcrRNA)を含む。
【0081】
一つの態様において、gRNAは、ヘルペスウイルスゲノムにおける標的配列と実質的に相補的であるヌクレオチド配列を含む。ヘルペスウイルスゲノムにおける標的配列は、CRISPR/Casを介した遺伝子編集が、ゲノムの変異およびウイルス感染性の阻害を生じるであろう任意のコードまたは非コード領域における任意の配列であり得る。ある態様において、gRNAが実質的に相補的である標的配列は、ICP0、ICP4、またはICP27遺伝子内にある。
【0082】
ある態様において、標的と実質的に相補的であるgRNAの配列は、約10~30ヌクレオチドの長さである。ある態様において、gRNAは、HSVゲノムの標的配列に結合するヌクレオチド配列を含む。例えば、ある態様において、gRNAは、標的配列と実質的に相補的であるヌクレオチド配列を含み、したがって、標的配列に結合する。例えば、ゲノムの標的配列にgRNAを標的化するために使用され得る、例示的なヌクレオチド配列は、
図3、
図7、実施例1、および実施例2に提供される。
【0083】
例えば、ある態様において、gRNAは、
からなる群より選択されるHSVゲノムの標的配列と実質的に相補的である。
【0084】
ある態様において、標的配列は、PAM配列の前方にある。例えば、一つの態様において、標的配列は、NGG PAM配列の前方にある。例示的な標的配列、+PAM配列(PAM配列は下線が引かれる)は、以下のとおりである:
。
【0085】
さらに、本発明は、本明細書に開示される核酸と実質的な相同性を有する、単離された核酸(例えば、gRNA)を包含する。ある態様において、単離された核酸は、本明細書の他の箇所に記載されるgRNAのヌクレオチド配列と、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列相同性を有する。
【0086】
ガイドRNA配列は、センスまたはアンチセンス配列であり得る。S.ピオゲネスに由来するCRISPR-Casシステムにおいて、標的DNAは、典型的に5’-NGGプロト-スペーサー隣接モチーフ(PAM)の直前にある。他のCas9オルソログは、異なるPAM特異性を有し得る。例えば、S.サーモフィルスに由来するCas9は、CRISPR1のための5’-NNAGAAおよびCRISPR3のための5’-NGGNGを必要とし、ナイセリア・メニンギティディス(Neisseria meningiditis)は、5’-NNNNGATTを必要とする。ガイドRNAの特異的配列は様々であり得るが、配列にかかわらず、有用なガイドRNA配列は、オフターゲット効果を最小限にするが、ヘルペスウイルス標的配列の高度に効果的な変異を達成するものであるだろう。ガイドRNAの特異的配列は様々であり得るが、配列にかかわらず、有用なガイドRNA配列は、オフターゲット効果を最小限にするが、HSVゲノムの高度に効果的な編集を達成するものであるだろう。ガイドRNA配列の長さは、約20~約60またはそれ以上のヌクレオチドの間で様々であり得、例えば、約20、約21、約22、約23、約24、約25、約26、約27、約28、約29、約30、約31、約32、約33、約34、約35、約36、約37、約38、約39、約40、約45、約50、約55、約60、またはそれ以上のヌクレオチドであり得る。有用な選択方法は、可能性のあるオフターゲット効果を同定および除外するために、外来性ウイルスゲノムと宿主細胞ゲノムとの間の相同性が極めて低い領域を同定し、オフターゲットヒトトランスクリプトームまたは(まれに)翻訳されないゲノム部位を除外するための標的配列+NGG標的の選択基準、およびWGSを使用するバイオインフォマティックスクリーニング、サンガー配列決定、ならびにSURVEYORアッセイを含む。CRISPR Design Tool(CRISPR Genome Engineering Resources;Broad Institute)などのアルゴリズムは、使用されるCasペプチド(すなわち、Cas9、Cas9バリアント、Cpf1)の型によって定義されるように、PAM配列またはほぼ必須のPAM配列と共に標的配列を同定するために使用され得る。
【0087】
ある態様において、組成物は、各々が異なる標的配列に標的化される、複数の異なるgRNA分子を含む。ある態様において、この多重化されたストラテジーは、増加した有効性を提供する。
【0088】
ある態様において、RNA分子(例えば、crRNA、tracrRNA、gRNA)は、1つまたは複数の修飾された核酸塩基を含むように操作され得る。例えば、RNA分子の公知の修飾は、例えば、Genes VI、Chapter 9(「Interpreting the Genetic Code」)、Lewis, ed.(1997, Oxford University Press, New York)、およびModification and Editing of RNA、Grosjean and Benne, eds.(1998, ASM Press, Washington DC)に見出され得る。修飾されたRNA構成要素は、以下:2'-O-メチルシチジン;N4-メチルシチジン;N4-2'-O-ジメチルシチジン;N4-アセチルシチジン;5-メチルシチジン;5,2'-O-ジメチルシチジン;5-ヒドロキシメチルシチジン;5-ホルミルシチジン;2'-O-メチル-5-ホルミルシチジン(formaylcytidine);3-メチルシチジン;2-チオシチジン;ライシジン;2'-O-メチルウリジン;2-チオウリジン;2-チオ-2'-O-メチルウリジン;3,2'-O-ジメチルウリジン;3-(3-アミノ-3-カルボキシプロピル)ウリジン;4-チオウリジン;リボシルチミン;5,2'-O-ジメチルウリジン;5-メチル-2-チオウリジン;5-ヒドロキシウリジン;5-メトキシウリジン;ウリジン5-オキシ酢酸;ウリジン5-オキシ酢酸メチルエステル;5-カルボキシメチルウリジン;5-メトキシカルボニルメチルウリジン;5-メトキシカルボニルメチル-2'-O-メチルウリジン;5-メトキシカルボニルメチル-2'-チオウリジン;5-カルバモイルメチルウリジン;5-カルバモイルメチル-2'-O-メチルウリジン;5-(カルボキシヒドロキシメチル)ウリジン;5-(カルボキシヒドロキシメチル)ウリジンメチルエステル;5-アミノメチル-2-チオウリジン;5-メチルアミノメチルウリジン;5-メチルアミノメチル-2-チオウリジン;5-メチルアミノメチル-2-セレノウリジン;5-カルボキシメチルアミノメチルウリジン;5-カルボキシメチルアミノメチル-2'-O-メチル-ウリジン;5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウリジン;ジヒドロウリジン;ジヒドロリボシルチミン;2'-メチルアデノシン;2-メチルアデノシン;N6N-メチルアデノシン;N6, N6-ジメチルアデノシン;N6,2'-O-トリメチルアデノシン;2-メチルチオ-N6N-イソペンテニルアデノシン;N6-(シス-ヒドロキシイソペンテニル)-アデノシン;2-メチルチオ-N6-(シス-ヒドロキシイソペンテニル)-アデノシン;N6-グリシニルカルバモイル(glycinylcarbamoyl))アデノシン;N6-トレオニルカルバモイルアデノシン;N6-メチル-N6-トレオニルカルバモイルアデノシン;2-メチルチオ-N6-メチル-N6-トレオニルカルバモイルアデノシン;N6-ヒドロキシノルバリルカルバモイル(hydroxynorvalylcarbamoyl)アデノシン;2-メチルチオ-N6-ヒドロキシノルバリルカルバモイルアデノシン;2'-O-リボシルアデノシン(ホスフェート);イノシン;2'O-メチルイノシン;1-メチルイノシン;1;2'-O-ジメチルイノシン;2'-O-メチルグアノシン;1-メチルグアノシン;N2-メチルグアノシン;N2,N2-ジメチルグアノシン;N2, 2'-O-ジメチルグアノシン;N2, N2, 2'-O-トリメチルグアノシン;2'-O-リボシルグアノシン(ホスフェート);7-メチルグアノシン;N2;7-ジメチルグアノシン;N2; N2;7-トリメチルグアノシン;ワイオシン;メチルワイオシン;非修飾ヒドロキシワイブトシン;ワイブトシン;ヒドロキシワイブトシン;ペルオキシワイブトシン;キューオシン;エポキシキューオシン;ガラクトシル-キューオシン;マンノシル-キューオシン;7-シアノ-7-デアザグアノシン;アルカエオシン(arachaeosine)[7-ホルムアミド-7-デアザグアノシンとも呼ばれる];および7-アミノメチル-7-デアザグアノシンを含む。本発明の方法または当技術分野における他の方法が、さらなる修飾されたRNA分子を同定するために使用され得る。
【0089】
RNA分子(例えば、crRNA、tracrRNA、gRNA)またはRNA分子をコードする核酸を含む、本発明の単離された核酸分子は、標準的な技術によって産生され得る。例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術は、本明細書に記載されるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む、本明細書に記載されるヌクレオチド配列を含む単離された核酸を得るために使用され得る。PCRは、全ゲノムDNAまたは細胞内全RNAからの配列を含む、DNAおよびRNAからの特定の配列を増幅するために使用され得る。様々なPCR方法は、例えば、PCR Primer: A Laboratory Manual, 2nd edition, Dieffenbach and Dveksler, eds., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2003に記載される。一般的に、関心対象の領域の末端またはそれを超える配列情報が、増幅される鋳型の逆鎖に対して配列において同一または類似であるオリゴヌクレオチドプライマーを設計するために使用される。様々なPCRストラテジーもまた、部位特異的ヌクレオチド配列修飾が鋳型核酸中に導入され得ることによって、利用可能である。
【0090】
単離された核酸はまた、単一の核酸分子(例えば、ホスホラミダイト技術を使用した3’から5’方向の自動DNA合成を使用する)または一連のオリゴヌクレオチドのいずれかとして、化学的に合成され得る。本発明の単離された核酸はまた、例えば、天然に生じる部分、crRNA、tracrRNA、RNAをコードするDNAの変異誘発、またはCas9をコードするDNAの変異誘発によって入手され得る。
【0091】
ある態様において、単離されたRNA分子は、本明細書の他の箇所に詳細に記載されるように、RNA分子をコードする発現ベクターから合成される。
【0092】
Casペプチド
一つの態様において、組成物は、CRISPR関連(Cas)ペプチド、またはそれらの機能的断片もしくは誘導体を含む。ある態様において、Casペプチドは、Cas9ヌクレアーゼを含むがこれに限定されない、エンドヌクレアーゼである。一つの態様において、Cas9ペプチドは、野生型ストレプトコッカス・ピオゲネスCas9アミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、Casペプチドは、他の種、例えば、サーモフィルスなどの他のストレプトコッカス種;緑膿菌(Psuedomonas aeruginosa)、大腸菌(Escherichia coli)、または他の配列決定された細菌ゲノムおよび古細菌、または他の原核微生物からのCasタンパク質のアミノ酸配列を含み得る。本発明のために有用な他のCasペプチドが公知であり、または当技術分野において公知の方法(例えば、Esvelt et al., 2013, Nature Methods, 10: 1116-1121を参照のこと)を使用して同定され得る。ある態様において、Casペプチドは、その天然起源と比較して、修飾されたアミノ酸配列を含み得る。例えば、一つの態様において、野生型ストレプトコッカス・ピオゲネスCas9配列は修飾され得る。ある態様において、アミノ酸配列は、ヒト細胞における効果的発現のために最適化された(すなわち、「ヒト化」)コドン、または関心対象の種における効果的発現のために最適化されたコドンであり得る。ヒト化Cas9ヌクレアーゼ配列は、例えば、Genbankアクセッション番号KM099231.1 GL669193757;KM099232.1 GL669193761;またはKM099233.1 GL669193765に列挙される発現ベクターのいずれかによってコードされる、Cas9ヌクレアーゼ配列であり得る。または、Cas9ヌクレアーゼ配列は、例えば、Addgene(Cambridge, MA)からのPX330またはPX260などの商業的に入手可能なベクター内に含まれる配列であり得る。いくつかの態様において、Cas9エンドヌクレアーゼは、Genbankアクセッション番号KM099231.1 GL669193757;KM099232.1 GL669193761;またはKM099233.1 GL669193765、またはPX330もしくはPX260(Addgene, Cambridge, MA)のCas9アミノ酸配列のCas9エンドヌクレアーゼ配列のいずれかのバリアントもしくは断片であるアミノ酸配列を有し得る。
【0093】
Cas9ヌクレオチド配列は、Cas9の生物学的に活性なバリアントをコードするように修飾され得、これらのバリアントは、例えば、1つまたは複数の変異(例えば、付加、欠失、もしくは置換変異、またはそのような変異の組み合わせ)を含むために、野生型Cas9と異なるアミノ酸配列を有し得、または含み得る。置換変異の1つまたは複数は、置換(例えば、保存的アミノ酸置換)であり得る。
【0094】
ある態様において、Casペプチドは、野生型Cas9と比較して、オフターゲット効果を低下させる変異体Cas9である。一つの態様において、変異体Cas9は、ストレプトコッカス・ピオゲネスCas9(SpCas9)バリアントである。
【0095】
一つの態様において、SpCas9バリアントは、R780A、K810A、K848A、K855A、H982A、K1003A、およびR1060A(Slaymaker et al., 2016, Science, 351(6268): 84-88)を含むがこれらに限定されない、1つまたは複数の点変異を含む。一つの態様において、SpCas9バリアントは、D1135E点変異(Kleinstiver et al., 2015, Nature, 523(7561): 481-485)を含む。一つの態様において、SpCas9バリアントは、N497A、R661A、Q695A、Q926A、D1135E、L169A、およびY450A(Kleinstiver et al., 2016, Nature, doi:10.1038/nature16526)を含むがこれらに限定されない、1つまたは複数の点変異を含む。一つの態様において、SpCas9バリアントは、M495A、M694A、およびM698Aを含むがこれらに限定されない、1つまたは複数の点変異を含む。Y450は、疎水性塩基対スタッキングに関連する。N497、R661、Q695、Q926は、オフターゲット効果に寄与する水素結合のベースを形成する残基に関連する。ペプチド骨格を介するN497水素結合。L169Aは、疎水性塩基対スタッキングに関連する。M495A、M694A、およびH698Aは、疎水性塩基対スタッキングに関連する。
【0096】
一つの態様において、SpCas9バリアントは、以下の残基:R780、K810、K848、K855、H982、K1003、R1060、D1135、N497、R661、Q695、Q926、L169、Y450、M495、M694、およびM698の1つまたは複数での、1つまたは複数の点変異を含む。一つの態様において、SpCas9バリアントは、R780A、K810A、K848A、K855A、H982A、K1003A、R1060A、D1135E、N497A、R661A、Q695A、Q926A、L169A、Y450A、M495A、M694A、およびM698Aの群より選択される、1つまたは複数の点変異を含む。
【0097】
一つの態様において、SpCas9バリアントは、野生型SpCas9と比べて、N497A、R661A、Q695A、およびQ926Aの点変異を含む。一つの態様において、SpCas9バリアントは、野生型SpCas9と比べて、N497A、R661A、Q695A、Q926A、およびD1135Eの点変異を含む。一つの態様において、SpCas9バリアントは、野生型SpCas9と比べて、N497A、R661A、Q695A、Q926A、およびL169Aの点変異を含む。一つの態様において、SpCas9バリアントは、野生型SpCas9と比べて、N497A、R661A、Q695A、Q926A、およびY450Aの点変異を含む。一つの態様において、SpCas9バリアントは、野生型SpCas9と比べて、N497A、R661A、Q695A、Q926A、およびM495Aの点変異を含む。一つの態様において、SpCas9バリアントは、野生型SpCas9と比べて、N497A、R661A、Q695A、Q926A、およびM694Aの点変異を含む。一つの態様において、SpCas9バリアントは、野生型SpCas9と比べて、N497A、R661A、Q695A、Q926A、およびH698Aの点変異を含む。一つの態様において、SpCas9バリアントは、野生型SpCas9と比べて、N497A、R661A、Q695A、Q926A、D1135E、およびL169Aの点変異を含む。一つの態様において、SpCas9バリアントは、野生型SpCas9と比べて、N497A、R661A、Q695A、Q926A、D1135E、およびY450Aの点変異を含む。一つの態様において、SpCas9バリアントは、野生型SpCas9と比べて、N497A、R661A、Q695A、Q926A、D1135E、およびM495Aの点変異を含む。一つの態様において、SpCas9バリアントは、野生型SpCas9と比べて、N497A、R661A、Q695A、Q926A、D1135E、およびM694Aの点変異を含む。一つの態様において、SpCas9バリアントは、野生型SpCas9と比べて、N497A、R661A、Q695A、Q926A、D1135E、およびM698Aの点変異を含む。
【0098】
一つの態様において、SpCas9バリアントは、野生型SpCas9と比べて、R661A、Q695A、およびQ926Aの点変異を含む。一つの態様において、SpCas9バリアントは、野生型SpCas9と比べて、R661A、Q695A、Q926A、およびD1135Eの点変異を含む。一つの態様において、SpCas9バリアントは、野生型SpCas9と比べて、R661A、Q695A、Q926A、およびL169Aの点変異を含む。一つの態様において、SpCas9バリアントは、野生型SpCas9と比べて、R661A、Q695A、Q926A、およびY450Aの点変異を含む。一つの態様において、SpCas9バリアントは、野生型SpCas9と比べて、R661A、Q695A、Q926A、およびM495Aの点変異を含む。一つの態様において、SpCas9バリアントは、野生型SpCas9と比べて、R661A、Q695A、Q926A、およびM694Aの点変異を含む。一つの態様において、SpCas9バリアントは、野生型SpCas9と比べて、R661A、Q695A、Q926A、およびH698Aの点変異を含む。一つの態様において、SpCas9バリアントは、野生型SpCas9と比べて、R661A、Q695A、Q926A、D1135E、およびL169Aの点変異を含む。一つの態様において、SpCas9バリアントは、野生型SpCas9と比べて、R661A、Q695A、Q926A、D1135E、およびY450Aの点変異を含む。一つの態様において、SpCas9バリアントは、野生型SpCas9と比べて、R661A、Q695A、Q926A、D1135E、およびM495Aの点変異を含む。一つの態様において、SpCas9バリアントは、野生型SpCas9と比べて、R661A、Q695A、Q926A、D1135E、およびM694Aの点変異を含む。一つの態様において、SpCas9バリアントは、野生型SpCas9と比べて、R661A、Q695A、Q926A、D1135E、およびM698Aの点変異を含む。
【0099】
一つの態様において、変異体Cas9は、PAM特異性を変更する、1つまたは複数の変異を含む(Kleinstiver et al., 2015, Nature, 523(7561):481-485;Kleinstiver et al., 2015, Nat Biotechnol, 33(12): 1293-1298)。一つの態様において、変異体Cas9は、RuvCにおけるD10AおよびHNHにおけるH840Aを含むがこれらに限定されない、Cas9の触媒活性を変更する1つまたは複数の変異を含む(Cong et al., 2013;Science 339: 919-823, Gasiubas et al., 2012;PNAS 109:E2579-2586 Jinek et al;2012;Science 337: 816-821)。
【0100】
しかし、本発明は、Cas9を介した遺伝子編集の使用に限定されない。それよりは、本発明は、gRNAを使用して標的配列に標的化され得、且つ関心対象の標的部位を編集し得る、他のCRISPR関連ペプチドの使用を包含する。例えば、一つの態様において、本発明は、関心対象の標的部位を編集するためにCpf1を利用する。Cpf1は、ヒト細胞における標的DNA配列を効果的に編集し得る、単一のcrRNAをガイドするクラス2 CRISPRエフェクタータンパク質である。例示的なCpf1は、アシダミノコッカス種(Acidaminococcus sp.)Cpf1(AsCpf1)およびラクノスピラ科(Lachnospiraceae)細菌Cpf1(LbCpf1)を含むが、これらに限定されない。
【0101】
本発明はまた、本明細書に開示されるCasペプチド(例えば、Cas9)と実質的な相同性を有するペプチドの任意の形態を含むように解釈されるべきである。好ましくは、「実質的に相同性」であるペプチドは、本明細書に開示されるCasペプチドのアミノ酸配列と、約50%の相同性、より好ましくは約70%の相同性、さらにより好ましくは約80%の相同性、より好ましくは約90%の相同性、さらにより好ましくは約95%の相同性、およびさらにより好ましくは約99%の相同性である。
【0102】
ペプチドは、組換え手段によって、またはより長いポリペプチドからの切断によって、代替的に作製され得る。ペプチドの組成物は、アミノ酸解析または配列決定によって確認され得る。
【0103】
本発明に従ったペプチドのバリアントは、(i)1つまたは複数のアミノ酸残基が、保存されたアミノ酸残基または保存されていないアミノ酸残基(好ましくは、保存されたアミノ酸残基)で置換されたものであり、そのような置換されたアミノ酸残基が、遺伝暗号によってコードされたものであってもまたはなくてもよい、もの;(ii)例えば、置換基の付着によって修飾された残基などの、1つまたは複数の修飾されたアミノ酸残基が存在するもの;(iii)ペプチドが本発明のペプチドの選択的スプライシングバリアントであるもの;(iv)ペプチドの断片;および/または(v)ペプチドがリーダー配列もしくは分泌配列または精製のために使用される配列(例えば、Hisタグ)もしくは検出のために使用される配列(例えば、Sv5エピトープタグ)などの、別のペプチドに融合されるものであり得る。断片は、元の配列のタンパク質切断(多部位タンパク質分解を含む)を介して生成されたペプチドを含む。バリアントは、翻訳後または化学的に修飾され得る。そのようなバリアントは、本明細書の開示から当業者の範囲内であると考えられる。
【0104】
当技術分野において知られるように、2つのペプチドの間の「類似性」は、あるポリペプチドの第2のポリペプチドの配列に対するアミノ酸配列およびその保存されたアミノ酸置換を比較することによって決定される。バリアントは、元の配列と異なるペプチド配列、好ましくは、関心対象のセグメント当たり40%未満の残基で元の配列と異なり、より好ましくは、関心対象のセグメント当たり25%未満の残基で元の配列と異なり、より好ましくは、関心対象のセグメント当たり10%未満の残基で異なり、より好ましくは、関心対象のセグメント当たり数残基だけ元のタンパク質配列と異なり、それと同時に、元の配列の機能性を保持するために元の配列と十分に相同性である、ペプチド配列を含むと定義される。本発明は、元のアミノ酸配列と、少なくとも60%、65%、70%、72%、74%、76%、78%、80%、90%、または95%の類似性または同一性であるアミノ酸配列を含む。2つのペプチドの間の同一性の程度は、当業者に広く知られたコンピューターアルゴリズムおよび方法を使用して決定される。2つのアミノ酸配列の間の同一性は、好ましくはBLASTPアルゴリズム[BLAST Manual, Altschul, S., et al., NCBI NLM NIH Bethesda, Md. 20894, Altschul, S., et al., J. Mol. Biol. 215: 403-410(1990)]を使用することによって決定される。
【0105】
本発明のペプチドは、翻訳後に修飾され得る。例えば、本発明の範囲内の翻訳後修飾は、シグナルペプチド切断、グリコシル化、アセチル化、イソプレニル化、タンパク質分解、ミリストイル化、タンパク質フォールディング、およびタンパク質プロセシングなどを含む。いくつかの修飾またはプロセシングイベントは、追加の生物学的機構の導入を必要する。例えば、シグナルペプチド切断およびコアグリコシル化などのプロセシングイベントは、標準的な翻訳反応にイヌミクロソーム膜またはアフリカツメガエル(Xenopus)卵抽出物(U.S. Pat. No. 6,103,489)を追加することによって試験される。
【0106】
本発明のペプチドは、翻訳後修飾または翻訳の間の非天然のアミノ酸の導入によって形成される非天然のアミノ酸を含みうる。様々なアプローチが、タンパク質翻訳の間の非天然のアミノ酸を導入するために利用可能である。
【0107】
本発明のペプチドまたはタンパク質は、融合タンパク質を調製するために、タンパク質などの他の分子にコンジュゲートされ得る。これは、生じた融合タンパク質がCasペプチドの機能性を保持する条件で、例えば、N末端またはC末端融合タンパク質の合成によって達成され得る。
【0108】
本発明のペプチドまたはタンパク質は、Reedijk et al.(The EMBO Journal 11(4):1365, 1992)に記載される方法などの通常の方法を使用してリン酸化され得る。
【0109】
本発明のペプチドの環状誘導体もまた、本発明の部分である。環化は、ペプチドが他の分子との会合のためのより望ましい立体構造をとるようにし得る。例えば、ジスルフィド結合は、遊離のスルフヒドリル基を有する適切に間隔を空けられた2つの構成要素の間で形成され得、またはアミド結合は、1つの構成要素のアミノ基と別の構成要素のカルボキシル基の間で形成され得る。環化はまた、Ulysse, L., et al., J. Am. Chem. Soc. 1995, 117, 8466-8467によって記載されるように、アゾベンゼン含有アミノ酸を使用して達成され得る。結合を形成する構成要素は、アミノ酸の側鎖、非アミノ酸構成要素、またはこれら2つの組み合わせであり得る。本発明の態様において、環状ペプチドは、右の位置でβターンを含み得る。βターンは、右の位置でアミノ酸Pro-Glyを追加することによって、本発明のペプチド中に導入され得る。
【0110】
上記のようなペプチド結合を含む環状ペプチドと比べて、よりフレキシブルな環状ペプチドを作製することが、望まれ得る。よりフレキシブルなペプチドは、ペプチドの右の位置と左の位置でシステインを導入すること、および2つのシステインの間のジスルフィド架橋を形成することによって調製され得る。2つのシステインは、βシートおよびターンを変形しないように配置される。ペプチドは、ジスルフィド結合の長さおよびβシート部分における小数の水素結合の結果として、よりフレキシブルになる。環状ペプチドの相対的フレキシビリティは、分子動態シミュレーションによって決定され得る。
【0111】
本発明はまた、キメラタンパク質を、所望の細胞構成要素または細胞型または組織に誘導可能な標的タンパク質および/または標的化ドメインに、融合または組み込まれた、Casペプチドを含むペプチドに関する。キメラタンパク質はまた、追加のアミノ酸配列またはドメインを含み得る。キメラタンパク質は、様々な構成要素が異なる起源に由来し、それ自体は天然では一緒に見出されない(すなわち、異種性)という点では、組換え体である。
【0112】
一つの態様において、標的化ドメインは、膜貫通ドメイン、膜結合ドメイン、または例えば小胞もしくは核に会合するためにタンパク質を誘導する配列であり得る。一つの態様において、標的化ドメインは、ペプチドを特定の細胞型または組織に標的化し得る。例えば、標的化ドメインは、細胞表面リガンド、または標的組織(例えば、癌性組織)の細胞表面抗原に対する抗体であり得る。標的化ドメインは、本発明のペプチドを細胞構成要素に標的化し得る。ある態様において、標的化ドメインは、腫瘍特異的抗原または腫瘍関連抗原を標的化する。
【0113】
他の分子にコンジュゲートされた本発明のペプチドまたはキメラタンパク質を含むN末端またはC末端融合タンパク質は、組換え技術を介して、ペプチドまたはキメラタンパク質のN末端またはC末端と、所望の生物学的機能を有する選択されたタンパク質または選択可能マーカーの配列とを融合することによって調製され得る。得られた融合タンパク質は、本明細書に記載されるように、選択されたタンパク質またはマーカータンパク質に融合されたCasペプチドまたはキメラタンパク質を含む。融合タンパク質を調製するために使用され得るタンパク質の例は、免疫グロブリン、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)、ヘマグルチニン(HA)、切断されたmycを含む。
【0114】
本発明のペプチドは、通常の技術によって合成され得る。例えば、本発明のペプチドは、固相ペプチド合成を使用して化学的合成によって合成され得る。これらの方法は、固相または溶液相のいずれかの合成方法を使用する(例えば、固相合成技術に関しては、J. M. Stewart, and J. D. Young, Solid Phase Peptide Synthesis, 2nd Ed., Pierce Chemical Co., Rockford Ill.(1984)およびG. Barany and R. B. Merrifield, The Peptides: Analysis Synthesis, Biology editors E. Gross and J. Meienhofer Vol. 2 Academic Press, New York, 1980, pp. 3-254;ならびに古典的溶液合成に関しては、M Bodansky, Principles of Peptide Synthesis, Springer-Verlag, Berlin 1984, and E. Gross and J. Meienhofer, Eds., The Peptides: Analysis, Synthesis, Biology, suprs, Vol 1を参照のこと)。
【0115】
本発明のペプチドは、ペプチド合成の標準的な化学的または生物学的手段によって調製され得る。生物学的方法は、宿主細胞におけるペプチドをコードする核酸の発現またはインビトロ翻訳を含むが、これらに限定されない。
【0116】
本発明のペプチドの生物学的調製は、所望のペプチドをコードする核酸の発現を含む。そのようなコード配列を含む発現カセットは、所望のペプチドを産生するために使用され得る。例えば、本発明のペプチドをコードする核酸配列のサブクローンは、各々が参照として本明細書に全体が組み入れられる、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Springs Laboratory, Cold Springs Harbor, New York(2012)、およびAusubel et al.(ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons(New York, NY)(1999 and preceding editions)によって記載されるものなどの、遺伝子断片をサブクローニングするための通常の分子遺伝子操作を使用して産生され得る。その後、サブクローンは、特定の活性について試験され得る小さいタンパク質またはポリペプチドを産生するために、インビトロまたは細菌細胞においてインビボで発現される。
【0117】
発現ベクターの文脈において、ベクターは、当技術分野における任意の方法によって、例えば、哺乳動物、細菌、酵母、または昆虫細胞などの宿主細胞中に容易に導入され得る。本発明の望ましいペプチドのためのコード配列は、本明細書において示されるように、発現効率を改良するために、意図された宿主細胞のコドン使用に基づき最適化されたコドンであり得る。コドン使用パターンは、文献(Nakamura et al., 2000, Nuc Acids Res. 28:292)に見出され得る。適した宿主の代表的な例は、ストレプトコッカス属、スタフィロコッカス属、大腸菌、ストレプトマイセス属(Streptomyces)、およびバチルス・スブチリス(Bacillus subtilis)細胞などの細菌細胞;酵母細胞およびアスペルギルス属(Aspergillus)細胞などの真菌細胞;ショウジョウバエS2およびスポドプテラ属(Spodoptera)Sf9細胞などの昆虫細胞;CHO、COS、HeLa、C127、3T3、BHK、HEK 293、およびBowesメラノーマ細胞などの動物細胞;ならびに植物細胞を含む。
【0118】
当技術分野において、多数のベクターが公知であり、直鎖状ポリヌクレオチド、イオン性または両親媒性化合物を伴うポリヌクレオチド、プラスミド、およびウイルスを含むが、これらに限定されない。したがって、用語「ベクター」は、自己複製するプラスミドまたはウイルスを含む。この用語はまた、例えば、ポリリジン化合物、リポソームなどの、細胞中に核酸の移行を促進する、非プラスミドおよび非ウイルス化合物を含むように解釈されるべきである。ウイルスベクターの例は、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクターなどを含むが、これらに限定されない。
【0119】
発現ベクターは、本明細書の他の箇所に詳細に記載される、物理学的、生物学的、または化学的手段によって、宿主細胞中に移入され得る。
【0120】
化学的合成技術または生物学的合成技術のいずれかから得られたペプチドが所望のペプチドであることを保証するために、ペプチド組成物の解析が実施され得る。そのようなアミノ酸組成物解析は、ペプチドの分子量を決定するために、高分解能質量分析を使用して実施され得る。代替的または追加的に、ペプチドのアミノ酸含量は、酸性水溶液中でペプチドを加水分解し、HPLCまたはアミノ酸分析器を使用して混合物の構成要素を分離、同定、および定量化することによって確認され得る。ペプチドを連続的に分解し、順番にアミノ酸を同定する、タンパク質配列決定装置もまた、ペプチドの配列を正確に決定するために使用され得る。
【0121】
本発明のペプチドおよびキメラタンパク質は、塩酸、硫酸、臭化水素酸、リン酸などの無機酸、またはギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、ピルビン酸、シュウ酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、サリチル酸、ベンゼンスルホン酸、およびトルエンスルホン酸などの有機酸との反応によって、薬学的な塩に変換され得る。
【0122】
核酸およびベクター
一つの態様において、本発明の組成物は、本明細書に記載されるCRISPR-Casシステムの1つまたは複数の要素をコードする単離された核酸を含む。例えば、一つの態様において、組成物は、少なくとも1つのガイド核酸分子(例えば、gRNA)をコードする単離された核酸を含む。一つの態様において、組成物は、Casペプチドまたはそれらの機能的断片もしくは誘導体をコードする、単離された核酸を含む。一つの態様において、組成物は、少なくとも1つのガイド核酸分子(例えば、gRNA)をコードし、且つCasペプチドまたはそれらの機能的断片もしくは誘導体をコードする、単離された核酸を含む。一つの態様において、組成物は、少なくとも1つのガイド核酸分子(例えば、gRNA)をコードする単離された核酸分子を含み、Casペプチドまたはそれらの機能的断片もしくは誘導体をコードする単離された核酸をさらに含む。
【0123】
一つの態様において、組成物は、本明細書の他の箇所に記載されるように、HSVゲノムの標的配列と実質的に相補的であるgRNAをコードする、少なくとも1つの単離された核酸を含む。一つの態様において、組成物は、本明細書に記載される標的配列と、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列相同性を有する標的配列と相補的であるgRNAをコードする、少なくとも1つの単離された核酸を含む。
【0124】
一つの態様において、組成物は、本明細書の他の箇所に記載されるCasペプチドまたはそれらの機能的断片もしくは誘導体をコードする、少なくとも1つの単離された核酸を含む。一つの態様において、組成物は、本明細書の他の箇所に記載されるCasペプチドと、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%のアミノ酸配列相同性を有するCasペプチドをコードする、少なくとも1つの単離された核酸を含む。
【0125】
単離された核酸は、DNAおよびRNAを含むがこれらに限定されない、任意のタイプの核酸を含み得る。例えば、一つの態様において、組成物は、例えば、gRNAまたは本発明のペプチドまたはそれらの機能的断片をコードする単離されたcDNA分子を含む、単離されたDNA分子を含む。一つの態様において、組成物は、本発明のペプチドまたはそれらの機能的断片をコードする、単離されたRNA分子を含む。単離された核酸は、当技術分野において公知の任意の方法を使用して合成され得る。
【0126】
本発明はまた、本発明の単離された核酸が挿入されるベクターを含む。この技術分野では、本発明において有用な適したベクターが豊富に存在する。ベクターは、例えば、ウイルスベクター(アデノウイルス(「Ad」)、アデノ随伴ウイルス(AAV)、および水疱性口内炎ウイルス(VSV)、およびレトロウイルスなど)、リポソームおよび他の脂質含有複合体、ならびに宿主細胞にポリヌクレオチドを送達することを媒介することが可能な他の高分子複合体を含む。ベクターはまた、遺伝子送達および/もしくは遺伝子発現をさらに調節するか、または標的細胞に対して有利な性質を提供する、他の構成要素および機能を含み得る。そのような他の構成要素は、例えば、細胞への結合または標的化に影響する構成要素(細胞型または組織特異性結合を媒介する構成要素を含む);細胞によるベクター核酸の取り込みに影響する構成要素;取り込み後の細胞内でのポリヌクレオチドの局在化に影響する構成要素(核局在化を媒介する剤など);ならびにポリヌクレオチドの発現に影響する構成要素を含む。そのような構成要素はまた、ベクターによって送達された核酸を取り込みかつ発現する細胞を検出または選択するために使用され得る、検出可能および/または選択可能なマーカーなどのマーカーを含み得る。そのような構成要素は、ベクターの天然の特徴として提供され得(結合および取り込みを媒介する構成要素または機能を有する、特定のウイルスベクターの使用など)、またはベクターは、そのような機能を提供するように修飾され得る。他のベクターは、Chen et al;BioTechniques, 34: 167-171(2003)によって記載されるものを含む。多種多様なそのようなベクターは、当技術分野において公知であり、一般的に利用可能である。
【0127】
短く要約すると、RNAおよび/またはペプチドをコードする天然または合成核酸の発現は、典型的に、RNAおよび/もしくはペプチドまたはそれらの部分をコードする核酸をプロモーターに操作可能に連結し、構築物を発現ベクター中に組み入れることによって達成される。使用されるベクターは、複製に適しており、任意で、真核細胞における組み込みに適している。典型的なベクターは、所望の核酸配列の発現の調節のために有用な、転写および翻訳ターミネーター、開始配列、およびプロモーターを含む。
【0128】
本発明のベクターはまた、標準的な遺伝子送達プロトコールを使用して、核酸免疫化および遺伝子治療のために使用され得る。遺伝子送達のための方法は、当技術分野において公知である。例えば、参照として本明細書に全体が組み入れられる、U.S. Pat. No. 5,399,346、5,580,859、5,589,466を参照のこと。別の態様において、本発明は、遺伝子治療ベクターを提供する。
【0129】
本発明の単離された核酸は、多数のタイプのベクター中にクローン化され得る。例えば、核酸は、プラスミド、ファージミド、ファージ誘導体、動物ウイルス、およびコスミドを含むがこれらに限定されない、ベクター中にクローン化され得る。特定の関心対象のベクターは、発現ベクター、複製ベクター、プローブ生成ベクター、および配列決定ベクターを含む。
【0130】
さらに、ベクターは、ウイルスベクターの形態で細胞に対して提供され得る。ウイルスベクター技術は、当技術分野において周知であり、例えば、Sambrook et al.(2001, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, New York)ならびに他のウイルス学および分子生物学のマニュアルにおいて記載されている。ベクターとして有用なウイルスは、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、およびレンチウイルスを含むが、これらに限定されない。一般的に、適したベクターは、少なくとも1つの生物において機能的な複製開始点、プロモーター配列、都合の良い制限エンドヌクレアーゼ部位、および1つまたは複数の選択可能マーカーを含む(例えば、WO 01/96584;WO 01/29058;およびU.S. Pat. No. 6,326,193)。
【0131】
多数のウイルスベースのシステムが、哺乳動物細胞中への遺伝子移入のために開発されている。例えば、レトロウイルスは、遺伝子送達システムのための都合の良いプラットフォームを提供する。選択された遺伝子は、当技術分野において公知の技術を使用して、ベクター中に挿入され得、レトロウイルス粒子中にパッケージされ得る。その後、組換えウイルスは、単離され、インビボまたはエクスビボのいずれかで対象の細胞に送達され得る。多数のレトロウイルスシステムが、当技術分野において公知である。いくつかの態様において、アデノウイルスベクターが使用される。多数のアデノウイルスベクターが、当技術分野において公知である。一つの態様において、レンチウイルスベクターが使用される。
【0132】
例えば、レンチウイルスなどのレトロウイルスに由来するベクターは、導入遺伝子の長期の安定した組込み、および娘細胞におけるその増殖を可能にするため、長期の遺伝子移入を達成するための適したツールである。レンチウイルスベクターは、肝細胞などの非増殖細胞に形質導入し得る点において、マウス白血病ウイルスなどのオンコレトロウイルスに由来するベクターに対して、追加の利点を有する。それらはまた、低い免疫原性という追加の利点を有する。一つの態様において、組成物は、アデノ随伴ウイルス(AAV)に由来するベクターを含む。アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは、様々な障害の処置のための強力な遺伝子送達ツールになっている。AAVベクターは、病原性の欠如、最小限の免疫原性、および安定且つ効率的な様式で分裂終了細胞に形質導入する能力を含む、それらを遺伝子治療に理想的に適した状態にする多数の特徴を有する。AAVベクター内に含まれる特定の遺伝子の発現は、AAV血清型、プロモーター、および送達方法の適した組み合わせを選択することによって、1つまたは複数のタイプの細胞に特異的に標的化され得る。
【0133】
ポックスウイルスベクターは、細胞の細胞質中に遺伝子を導入する。トリポックスウイルスベクターは、核酸の短期の発現のみを生じる。アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、および単純ヘルペスウイルス(HSV)ベクターは、いくつかの発明の態様の適用であり得る。いくつかの態様において、より長期の発現を示し得る、アデノ随伴ウイルスと比べて、アデノウイルスベクターはより短期の発現(例えば、約1ヶ月未満)を生じ得る。選択される特定のベクターは、標的細胞および処置される状態に依るであろう。
【0134】
ある態様において、ベクターはまた、プラスミドベクターをトランスフェクトした細胞または本発明によって作製されたウイルスを感染させた細胞において、その転写、翻訳、および/または発現を可能にする様式で、導入遺伝子に操作可能に連結された通常の制御要素を含む。本明細書に使用される、「操作可能に結合される」配列は、関心対象の遺伝子に隣接する発現制御配列、および関心対象の遺伝子を制御するためにトランスでまたは離れて作用する発現制御配列の両方を含む。発現制御配列は、適切な転写開始、終結、プロモーター、およびエンハンサー配列;スプライシングおよびポリアデニル化(ポリA)シグナルなどの効率的なRNAプロセシングシグナル;細胞質mRNAを安定化する配列;翻訳効率を増強する配列(すなわち、Kozakコンセンサス配列);タンパク質の安定性を増強する配列;および望ましい場合、コードされる産物の分泌を増強する配列を含む。天然の、構成的、誘導性、および/または組織特異的であるプロモーターを含む、非常に多数の発現制御配列が、当技術分野において公知であり、利用され得る。
【0135】
例えばエンハンサーなどの、追加のプロモーター要素は、転写開始の頻度を調節する。多数のプロモーターが、開始部位の下流にも機能的要素を含むことが最近示されているが、典型的に、これらは、開始部位の30~110 bp上流の領域に配置される。要素が互いに逆にされるかまたは移動される場合に、プロモーター機能が保存されるように、プロモーター要素間の間隔は、しばしばフレキシブルである。チミジンキナーゼ(tk)プロモーターにおいては、活性が減少し始めるまでに、50 bp離れるまでプロモーター要素間の間隔を開けることができる。プロモーターに依って、個々の要素は、協同的または独立的のいずれかで転写を活性化するために機能し得る。
【0136】
適切なプロモーターの選択は、容易に達成され得る。ある局面において、高発現プロモーターを使用するであろう。適したプロモーターの1つの例は、最初期サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター配列である。このプロモーター配列は、それに操作可能に連結された任意のポリヌクレオチド配列の高レベルの発現を駆動することが可能な、強力な構成的プロモーター配列である。ラウス肉腫ウイルス(RSV)およびMMTプロモーターもまた使用され得る。特定のタンパク質は、それらの天然のプロモーターを使用して発現され得る。発現を増強する他の要素、例えばtat遺伝子およびtar要素などの高レベルの発現を生じる、エンハンサーまたはシステムもまた含まれ得る。その後、このカセットは、pUC19、pUC118、pBR322、または他の公知のプラスミドベクターなどの例えば大腸菌の複製開始点を含むプラスミドベクターなどのベクター中に挿入され得る。
【0137】
適したプロモーターの別の例は、伸長成長因子-1α(EF-1α)である。しかし、他の構成的プロモーター配列もまた、使用され得、シミアンウイルス40(SV40)初期プロモーター、マウス乳癌ウイルス(MMTV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)末端反復配列(LTR)プロモーター、MoMuLVプロモーター、トリ白血病ウイルスプロモーター、エプスタイン・バーウイルス最初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルスプロモーター、ならびにアクチンプロモーター、ミオシンプロモーター、ヘモグロビンプロモーター、およびクレアチニンキナーゼプロモーターなどのヒト遺伝子プロモーターを含むが、これらに限定されない。さらに、本発明は、構成的プロモーターの使用に限定されるべきではない。誘導性プロモーターもまた、本発明の部分として考慮される。誘導性プロモーターの使用は、そのような発現が望まれる場合に、それが操作可能に連結されるポリヌクレオチド配列の発現をオンにすることが可能な分子スイッチか、または発現が望まれない場合に、発現をオフにすることが可能な分子スイッチを提供する。誘導性プロモーターの例は、メタロチオネインプロモーター、グルココルチコイドプロモーター、プロゲステロンプロモーター、およびテトラサイクリンプロモーターを含むが、これらに限定されない。
【0138】
ベクターに見出されるエンハンサー配列もまた、その中に含まれる遺伝子の発現を調節する。典型的に、エンハンサーは、遺伝子の転写を増強するために、タンパク質因子に結合される。エンハンサーは、それが調節する遺伝子の上流または下流に配置され得る。エンハンサーはまた、特定の細胞または組織型における転写を増強するために、組織特異的であり得る。一つの態様において、本発明のベクターは、ベクター内に存在する遺伝子の転写を強化するための1つまたは複数のエンハンサーを含む。
【0139】
核酸および/またはペプチドの発現を評価するために、細胞に導入される発現ベクターはまた、ウイルスベクターを介してトランスフェクトまたは感染させようとする細胞の集団から発現細胞を同定および選択することを促進するために、選択可能マーカー遺伝子もしくはレポーター遺伝子のいずれか、または両方を含み得る。他の局面において、選択可能マーカーは、DNAの別々の部分上に保持されて、コトランスフェクション手法において使用され得る。選択可能マーカー遺伝子とレポーター遺伝子の両方は、宿主細胞における発現を可能にする適切な調節配列に隣接され得る。有用な選択可能マーカーは、例えば、neoなどの抗生物質耐性遺伝子を含む。
【0140】
レポーター遺伝子は、潜在的にトランスフェクトされた細胞を同定するため、および調節配列の機能性を評価するために使用される。概して、レポーター遺伝子は、レシピエント生物もしくは組織に存在しないか、またはレシピエント生物もしくは組織によって発現されず、且つ例えば酵素活性などの、いくつかの容易に検出可能な性質によって発現が示されるポリペプチドをコードする、遺伝子である。レポーター遺伝子の発現は、DNAがレシピエント細胞中に導入された後、適した時間でアッセイされる。適したレポーター遺伝子は、ルシフェラーゼ、β-ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、分泌型アルカリホスファターゼをコードする遺伝子、または緑色蛍光タンパク質遺伝子を含み得る(例えば、Ui-Tei et al., 2000 FEBS Letters 479: 79-82)。適した発現システムは周知であり、公知の技術を使用して調製され得、または商業的に入手され得る。概して、レポーター遺伝子の最も高レベルの発現を示す、最小の5'隣接領域を有する構築物が、プロモーターとして同定される。そのようなプロモーター領域は、レポーター遺伝子に連結され得、プロモーター駆動転写を調節するための能力について作用因子を評価するために使用され得る。
【0141】
遺伝子を細胞中に導入および発現する方法は、当技術分野において公知である。発現ベクターの文脈において、ベクターは、当技術分野における任意の方法によって、例えば、哺乳動物、細菌、酵母、または昆虫細胞などの宿主細胞中に容易に導入され得る。例えば、発現ベクターは、物理学的、化学的、または生物学的手段によって、宿主細胞中に移入され得る。
【0142】
ポリヌクレオチドを宿主細胞中に導入するための物理学的方法は、リン酸カルシウム沈殿、リポフェクション、微粒子銃、マイクロインジェクション、エレクトロポレーションなどを含む。ベクターおよび/または外因性核酸を含む細胞を産生するための方法は、当技術分野において周知である。例えば、Sambrook et al.(2012, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, New York)を参照のこと。ポリヌクレオチドを宿主細胞中に導入するための好ましい方法は、リン酸カルシウムトランスフェクションである。
【0143】
関心対象のポリヌクレオチドを宿主細胞中に導入するための生物学的方法は、DNAおよびRNAベクターの使用を含む。ウイルスベクター、および特にレトロウイルスベクターは、例えばヒト細胞などの哺乳動物中に遺伝子を挿入するための最も広く使用される方法になっている。他のウイルスベクターは、レンチウイルス、ポックスウイルス、単純ヘルペスウイルスI、アデノウイルス、およびアデノ随伴ウイルスなどに由来し得る。例えば、U.S. Pat. No. 5,350,674および5,585,362を参照のこと。
【0144】
ポリヌクレオチドを宿主細胞中に導入するための化学的方法は、高分子複合体、ナノカプセル、マイクロスフェア、ビーズ、ならびに水中油型エマルジョン、ミセル、混合ミセル、およびリポソームを含む液体ベースのシステムなどのコロイド分散システムを含む。インビトロおよびインビボで送達ビヒクルとして使用するための例示的コロイドシステムは、リポソーム(例えば、人工膜小胞)である。
【0145】
非ウイルス送達システムが利用される場合に、例示的な送達ビヒクルはリポソームである。脂質製剤の使用は、(インビトロ、エクスビボ、またはインビボで)宿主細胞中への核酸の導入のために考慮される。別の局面において、核酸は、脂質に会合され得る。脂質に会合された核酸は、リポソームの水溶性の内部に被包され得、リポソームの脂質二重層内に散在され得、リポソームとオリゴヌクレオチドの両方に会合された連結分子を介してリポソームに付着され得、リポソーム中に封入され得、リポソームと複合化され得、脂質を含有する溶液中に分散され得、脂質と混合され得、脂質と組み合わされ得、脂質中に懸濁液として含有され得、ミセルに含有もしくはミセルと複合化され得、または脂質に会合され得る。脂質、脂質/DNA、または脂質/発現ベクターに関連する組成物は、溶液中の如何なる特定の構造にも限定されない。例えば、それらは、ミセルとして、二重層構造で、または「崩壊された」構造で存在し得る。それらはまた溶液中に単純に分散され得、場合によってはサイズまたは形状が均一でない凝集物を形成し得る。脂質は、天然に生じる脂質または合成脂質であり得る脂肪物質である。例えば、脂質は、細胞質中に天然に生じる脂肪小滴、ならびに脂肪酸、アルコール、アミン、アミノアルコール、およびアルデヒドなどの長鎖脂肪族炭化水素およびそれらの誘導体を含む化合物のクラスを含む。
【0146】
使用に適した脂質は、商業的供給源から入手され得る。例えば、ジミリストイルホスファチジルコリン(「DMPC」)は、Sigma, St. Louis, MOから入手され得;ジセチルホスフェート(「DCP」)は、K & K Laboratories(Plainview, NY)から入手され得;コレステロール(「Choi」)は、Calbiochem-Behringから入手され得;ジミリスチルホスファチジルグリセロール(「DMPG」)および他の脂質は、Avanti Polar Lipids, Inc.(Birmingham, AL)から入手され得る。クロロホルムまたはクロロホルム/メタノール中の脂質の保存液は、約-20℃で保存され得る。クロロホルムは、メタノールよりも容易に蒸発されることから、溶媒としてのみ使用される。「リポソーム」は、封入脂質二重層または凝集体の生成によって形成される、様々な単一または多重層脂質ビヒクルを含む一般的な用語である。リポソームは、リン脂質二重膜および内部水溶性媒体を備える小胞構造を有していると特徴付けられ得る。多重層リポソームは、水溶性媒体によって分離された複数の脂質層を有する。それらは、リン酸脂質が過剰な水溶性溶液中に懸濁される場合に、自然に形成される。脂質構成要素は、密閉構造の形成の前に自己再編成(self-rearrangement)を受け、脂質二重層の間に水と溶解された溶質を封入する(Ghosh et al., 1991 Glycobiology 5: 505-10)。しかし、通常の小胞構造とは異なる構造を溶液中で有する組成物もまた、包含される。例えば、脂質は、ミセル構造をとるか、または単に脂質分子の不均一凝集物として存在し得る。核酸複合体であるリポフェクタミンもまた考慮される。
【0147】
宿主細胞中に外因性核酸を導入するために使用される方法にかかわらず、宿主細胞中の組換え核酸配列の存在を確認するために、様々なアッセイが実施され得る。そのようなアッセイは、例えば、サザンブロットおよびノーザンブロット、RT-PCR、ならびにPCRなどの、当業者に周知の「分子生物学的」アッセイ;例えば、免疫学的手段(ELISAおよびウエスタンブロット)によるか、または本発明の範囲内の作用物質を同定するための本明細書に記載されるアッセイによる、特定のペプチドの存在または非存在の検出などの、「生化学的」アッセイを含む。
【0148】
ある態様において、組成物は、本明細書に記載される1つもしくは複数の単離された核酸および/またはペプチドを発現するように遺伝的に修飾された細胞を含む。例えば、細胞は、gRNAおよび/またはCasペプチドをコードする単離された核酸配列を含む、1つもしくは複数のベクターでトランスフェクトまたは形質転換され得る。細胞は、対象の細胞であるか、またはそれらは、ハプロタイプが適合しているか、または細胞株であり得る。細胞は、複製を妨げるために照射され得る。いくつかの態様において、細胞は、ヒト白血球抗原(HLA)適合性であるか、自己のものであるか、細胞株であるか、またはそれらの組み合わせである。他の態様において、細胞は幹細胞であり得る。例えば、胚性幹細胞または人工多能性幹細胞(誘導多能性幹細胞(iPS細胞))。胚性幹細胞(ES細胞)および人工多能性幹細胞(誘導多能性幹細胞、iPS細胞)は、ヒトを含む多数の動物種から確立されている。これらのタイプの多能性幹細胞は、これらの細胞が自身の多能性を維持する一方で活発に分裂する能力を保持したまま、適切な分化の誘導により、ほぼすべての器官に分化することが可能であることから、再生医療のための最も有用な細胞源であるだろう。特にiPS細胞は、自己由来の体細胞から確立され得、したがって、胚の破壊によって産生されるES細胞と比較すると、倫理的および社会的問題を引き起こす可能性が低い。さらに、自己由来の細胞であるiPS細胞は、再生医療または移植医療に対する最大の障壁である拒絶反応を回避することを可能にする。
【0149】
薬学的組成物
本明細書に記載される組成物は、上記の様々な薬物送達システムにおける使用のために適している。加えて、投与された化合物のインビボ血清半減期を増加させるために、組成物は、被包され得、リポソームの内腔に導入され得、コロイドとして調製され得、または組成物の延長された血清半減期を提供する他の通常の技術が使用され得る。例えば、各々が参照として本明細書に組み入れられる、Szoka, et al.、U.S. Pat. No. 4,235,871、4,501,728、および4,837,028に記載されるような様々な方法が、リポソームを調製するために利用可能である。さらに、標的化された薬物送達システム中、例えば、組織特異性抗体でコートされたリポソーム中に、薬物を送達し得る。リポソームは、器官に選択的に標的化され、取り込まれるであろう。
【0150】
本発明はまた、本明細書に記載される1つまたは複数の組成物を含む薬学的組成物を提供する。製剤は、創傷または処置部位への投与のために適した通常の賦形剤、すなわち、薬学的に許容される有機または無機担体物質との混合において使用され得る。薬学的組成物は、滅菌され得、望ましい場合には、例えば、潤滑剤、保存剤、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧緩衝液に影響を与える塩、着色剤、および/または芳香剤などの補助剤と混合され得る。それらはまた、望ましい場合には、例えば他の鎮痛剤などの、他の活性剤と組み合わされ得る。
【0151】
本発明の組成物の投与は、例えば、非経口で、静脈内注射、腫瘍内注射、皮下注射、筋肉内注射、もしくは腹腔内注射によって、または輸注によって、または任意の他の許容される全身方法によって実施され得る。組成物の投与のための製剤は、直腸内、経鼻、経口、局所(頬側および舌下を含む)、膣内、または非経口(皮下、筋肉内、静脈内、および皮内を含む)投与のために適したものを含む。製剤は、例えば、錠剤および徐放性カプセル剤などの単位剤形で都合良く提示され得、薬学の技術分野における周知の任意の方法によって調製され得る。
【0152】
本明細書に使用される、「追加の成分」は、賦形剤;界面活性剤;分散剤;不活性希釈剤;造粒および崩壊剤;結合剤;平滑剤;着色剤;保存剤;ゼラチンなどの生理学的に分解可能な組成物;水溶性ビヒクルおよび溶媒;油性ビヒクルおよび溶媒;懸濁剤;分散または湿潤剤;乳化剤、粘滑剤;緩衝剤;塩類;増粘剤;増量剤;乳化剤;抗酸化剤;抗菌剤;抗真菌剤;安定化剤;ならびに薬学的に許容されるポリマーまたは疎水性材料の1つもしくは複数を含むが、これらに限定されない。本発明の薬学的組成物に含まれ得る他の「追加の成分」は、例えば、参照により本明細書に組み入れられるGenaro, ed.(1985, Remington’s Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co., Easton, PA)において公知であり、記載される。
【0153】
本発明の組成物は、組成物の総重量で約0.005%~2.0%の保存剤を含み得る。保存剤は、環境において汚染物質に曝露される場合に、変質を避けるために使用される。本発明に従った有用な保存剤の例は、ベンジルアルコール、ソルビン酸、パラベン、イミド尿素、およびそれらの組み合わせからなる群より選択されるものが含まれるが、これらに限定されない。特に好ましい保存剤は、約0.5%~2.0%ベンジルアルコールおよび0.05%~0.5%ソルビン酸の組み合わせである。
【0154】
一つの態様において、組成物は、組成物の1つまたは複数の構成要素の分解を阻害する、抗酸化剤およびキレート剤を含む。いくつかの化合物に対する好ましい抗酸化剤は、好ましくは、約0.01%~0.3%の範囲にある、BHT、BHA、α-トコフェロール、およびアスコルビン酸であり、より好ましくは、組成物の総重量で0.03重量%~0.1重量%の範囲にあるBHTである。好ましくは、キレート剤は、組成物の総重量で0.01重量%~0.5重量%の量で存在する。特に好ましいキレート剤は、約0.01%~0.20%の重量範囲で、より好ましくは、組成物の総重量で0.02重量%~0.10重量%の範囲で、エデト酸塩(例えば、エデト酸二ナトリウム)およびクエン酸を含む。キレート剤は、製剤の貯蔵寿命に悪影響を及ぼし得る組成物中の金属イオンをキレート化するために有用である。BHTおよびエデト酸二ナトリウムは、いくつかの化合物にとって、それぞれ特に好ましい抗酸化剤およびキレート剤であるが、他の適した同等の抗酸化剤およびキレート剤が、当業者に公知であり、置き換えが可能である。
【0155】
液体懸濁液は、水溶性または油性のビヒクル中に本発明の組成物の懸濁を達成するために、通常の方法を使用して調製され得る。水溶性ビヒクルは、例えば、水および等張性生理食塩水を含む。油性ビヒクルは、例えば、アーモンド油、油性エステル、エチルアルコール、落花生、オリーブ、ゴマ、またはココナッツ油などの植物油、分画された植物油、および流動パラフィンなどの鉱物油を含む。液体懸濁液はさらに、懸濁剤、分散または湿潤剤、乳化剤、粘滑剤、保存剤、緩衝剤、塩類、香味剤、着色剤、および甘味剤を含むがこれらに限定されない、1つまたは複数の追加の成分を含み得る。油性懸濁液はさらに、増粘剤を含み得る。公知の懸濁剤は、ソルビトールシロップ、食用硬化脂肪、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントゴム、アカシアゴム、ならびにカルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、およびヒドロキシプロピルメチルセルロースなどの、セルロース誘導体を含むが、これらに限定されない。公知の分散または湿潤剤は、レシチンなどの天然に生じるホスファチド、脂肪酸とアルキレンオキシドの縮合物、長鎖脂肪族アルコールとアルキレンオキシドの縮合物、脂肪酸およびヘキシトールに由来する部分エステルとアルキレンオキシドの縮合物、または脂肪酸およびヘキシトール無水物に由来する部分エステルとアルキレンオキシドの縮合物(例えば、それぞれステアリン酸ポリオキシエチレン、ヘプタデカエチレンオキシセタノール、ポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート、およびポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート)を含むが、これらに限定されない。公知の乳化剤は、レシチンおよびアカシアを含むが、これらに限定されない。公知の保存剤は、メチル、エチル、またはn-プロピル-パラ-ヒドロキシべンゾエート、アスコルビン酸、およびソルビン酸を含むが、これらに限定されない。
【0156】
処置の方法
本発明は、ヘルペスウイルスを介した感染を処置または予防する方法を提供する。一つの態様において、方法は、ガイド核酸分子およびCasペプチドの少なくとも1つ、またはそれらの機能的断片もしくは誘導体を含む有効量の組成物を、それを必要とする対象に投与する段階を含む。一つの態様において、方法は、ガイド核酸分子およびCasペプチドの少なくとも1つまたはそれらの機能的断片もしくは誘導体をコードする単離された核酸を含む組成物を投与する段階を含む。ある態様において、方法は、本明細書に記載される組成物を、ヘルペスウイルス感染を有すると診断された対象、ヘルペスウイルス感染を発症するリスクを有する対象、潜伏ヘルペスウイルス感染を有する対象などに投与する段階を含む。
【0157】
一つの態様において、単純ヘルペス1型(HSV1)、単純ヘルペスウイルス2(HSV2)、ヒトヘルペスウイルス3(HHV-3;水痘帯状疱疹ウイルス(VZV))、ヒトヘルペスウイルス4(HHV-4;エプスタイン・バーウイルス(EBV))、ヒトヘルペスウイルス5(HHV-5;サイトメガロウイルス(CMV))、ヒトヘルペスウイルス6(HHV-6;ロゼオロウイルス)、ヒトヘルペスウイルス7(HHV-7)、およびヒトヘルペスウイルス8(HHV-8;カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV))を含むがこれらに限定されない、ヘルペスウイルス感染を処置または予防するために使用される。
【0158】
本発明の方法はまた、口唇ヘルペス、性器ヘルペス、ヘルペス脳炎、水痘、帯状疱疹、ベル麻痺、前庭神経炎、およびヘルペス性神経痛を含むがこれらに限定されない、ヘルペスウイルス感染に関連する疾患および障害の処置または予防のために使用される。
【0159】
本発明の薬学的組成物の投与が考慮される対象は、ヒトおよび他の霊長類、非ヒト霊長類、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ネコ、およびイヌなどの商業的に関連する哺乳動物を含む哺乳動物を含むが、これらに限定されない。治療剤は、メトロノミックレジメンの下、投与され得る。本明細書に使用される、「メトロノミック」治療は、継続的に低用量の治療剤を投与することを指す。
【0160】
組成物は、1つまたは複数の治療と併用して(例えば、治療の前、治療と同時、または治療の後に)投与され得る。例えば、ある態様において、方法は、TK阻害剤、UL30阻害剤、アシクロビル、ホスカルネット、シドホビル、およびそれらの誘導体を含むがこれらに限定されない、追加の抗ヘルペス治療と併用した本発明の組成物の投与を含む。
【0161】
本組成物の投与量、毒性、および治療的有効性は、例えば、LD50(集団における50%の致死用量)およびED50(集団における50%の治療的有効用量)を決定するための、細胞培養物または実験動物において、標準的な薬学的手順によって決定され得る。毒性および治療的効果の用量比は治療指標であり、それはLD50/ED50の比として表され得る。高い治療指標を示すCas9/gRNA組成物が好ましい。毒性の副作用を示すCas9/gRNA組成物は使用され得るが、非感染性細胞への潜在的な損傷を最小限にし、それにより、副作用を減少させるために、そのような組成物を患部組織の部位に標的化する送達システムを設計するように注意を払うべきである。
【0162】
細胞培養アッセイおよび動物試験から得られたデータは、ヒトにおいて使用するための投与量の範囲を定めるのに使用され得る。そのような組成物の投与量は、好ましくは、毒性を殆どまたは全く有さないED50を含む循環濃度の範囲内にある。投与量は、使用される剤形および利用される投与経路により、この範囲内で変わり得る。本発明の方法において使用される任意の組成物に対して、治療的有効量は、最初に、細胞培養アッセイから評価され得る。用量は、動物モデルにおいて、細胞培養において決定されるようなIC50(すなわち、症状の最大半量の阻害を達成する試験化合物の濃度)を含む循環血漿濃度範囲を達成するために処方され得る。そのような情報は、ヒトにおける有用な用量をより正確に決定するために使用され得る。血漿中のレベルは、例えば、高速液体クロマトグラフィーによって測定され得る。
【0163】
本明細書において定義されるように、治療的有効量の組成物(すなわち、効果的な投与量)は、治療的に(例えば、臨床的に)望ましい結果を生じるために十分な量を意味する。組成物は、1日おきを含む、1日当たり1回または複数回から、1週当たり1回または複数回、投与され得る。当業者は、疾患もしくは障害の重症度、以前の処置、全体的な健康、および/または対象の年齢、ならびに他の疾患の存在を含むがこれらに限定されない、特定の因子が、対象を効果的に治療するために必要とされる投与量およびタイミングに影響を与え得ることを理解するであろう。さらに、治療的有効量の本発明の組成物での対象の処置は、単回の処置または一連の処置を含み得る。
【0164】
gRNA発現カセットは、当技術分野において公知の方法によって対象に送達され得る。いくつかの局面において、Casは、Cas分子の活性ドメインが含まれる断片であり得、それにより、分子のサイズが切り詰められる。したがって、Cas/gRNA分子は、現在の遺伝子治療が取っているアプローチと同様に、臨床的に使用され得る。
【0165】
一つの態様において、方法は、ガイド核酸分子および/またはCasペプチドを発現するために、細胞を遺伝的に修飾する段階を含む。例えば、一つの態様において、方法は、細胞に、ガイド核酸および/またはCasペプチドをコードする単離された核酸を接触させる段階を含む。
【0166】
一つの態様において、細胞は、治療が意図される対象において、インビボで遺伝的に修飾される。ある局面において、インビボ送達のために、核酸は、対象中に直接的に注入される。例えば、一つの態様において、核酸は、組成物が必要とされる部位に送達される。インビボ核酸移入技術は、アデノウイルス、単純ヘルペスI型ウイルス、アデノ随伴ウイルスなどのウイルスベクターでのトランスフェクション、脂質ベースのシステム(遺伝子の脂質媒介移入のための有用な脂質は、例えば、DOTMA、DOPE、およびDC-Cholである)、裸のDNA、およびトランスポゾンベースの発現システムを含むが、これらに限定されない。例示的な遺伝子治療プロトコールは、Anderson et al., Science 256:808-813(1992)を参照のこと。WO 93/25673およびそれに引用された文献も参照のこと。ある態様において、方法は、例えばmRNAなどのRNAを対象に直接的に投与する段階を含む(例えば、Zangi et al., 2013 Nature Biotechnology, 31: 898-907を参照のこと)。
【0167】
エクスビボ処置のために、単離された細胞は、エクスビボまたはインビトロの環境において修飾される。一つの態様において、細胞は、治療が意図される対象に対して自己由来である。代替的に、細胞は、対象に関して同種、同系、または異種であり得る。その後、修飾された細胞は、対象に直接的に投与され得る。
【0168】
当業者は、異なる送達の方法が、細胞中に単離された核酸を投与するために利用され得ることを認識する。例には、(1)エレクトロポレーション(電気)、遺伝子銃(物理的力)、または大容量の液体の適用(圧力)などの物理学的手段を利用する方法;ならびに(2)核酸またはベクターが、リポソーム、凝集したタンパク質、または輸送分子などの別の実体に複合化される方法が含まれる。
【0169】
細胞当たりの添加されるベクターの量は、ベクター中に挿入された治療的遺伝子の長さおよび安定性、ならびに配列の性質によって多様である可能性があり、特に、実験的に決定されることが必要なパラメーターであり、本発明の方法に固有ではない因子(例えば、合成に関連する費用)のために変更され得る。当業者は、特定の状況の要件に従って、任意の必要な調整を容易に行うことができる。
【0170】
遺伝的に修飾された細胞はまた、自殺遺伝子、すなわち、細胞を破壊するために使用され得る産物をコードする遺伝子を含み得る。多くの遺伝子治療の状況において、宿主において治療目的のために遺伝子を発現することができるが、随意に宿主細胞を破壊するための能力も有することが望まれる。治療剤は、活性化化合物の非存在下で発現が活性化されない自殺遺伝子に連結され得る。剤と自殺遺伝子の両方が導入された細胞の死が望まれる場合に、活性化化合物が細胞に投与され、それにより、自殺遺伝子の発現が活性化され、細胞が殺される。使用され得る自殺遺伝子/プロドラッグの組み合わせの例は、単純ヘルペスウイルス-チミジンキナーゼ(HSV-tk)およびガンシクロビル、アシクロビル;オキシドレダクターゼおよびシクロヘキシミド;シトシンデアミナーゼおよび5-フルオロシトシン;チミジンキナーゼ チミジル酸キナーゼ(Tdk::Tmk)およびAZT;ならびにデオキシシチジンキナーゼおよびシトシンアラビノシドである。
【実施例】
【0171】
本発明は、以下の実験例を参照することによって、詳細にさらに記載される。これらの例は、説明のみを目的として提供され、他に特定しない限り、制限することを意図しない。したがって、本発明は、以下の例に制限されるように解釈されることは決してなく、本明細書に提供される開示の結果として明らかとなる任意のおよび全ての変形物を包含するように解釈されるべきである。
【0172】
さらなる記載なしに、当業者は、先の記載および以下の説明的な実施例を使用して、本発明を作製および利用することができ、添付の特許請求の範囲に記載される方法を実施することができることを確信する。したがって、以下の実施例は、本発明の好ましい態様を特に記載し、如何なる形でも、本開示の残りの部分を制限するものとして解釈されることはない。
【0173】
実施例1:Cas9-gRNAはHSV1 DNAを切断することが可能である
実験は、CRISPRシステムがHSV1 DNAを切断するために利用され得るかどうかを試験するために実施された。方法および結果は、本明細書に示される。
【0174】
Cas9/ICP0 gRNA構築物の設計
HSV1ゲノムのICP0遺伝子は、より低い(より天然の)MOI溶解感染におけるその必須役割のために、最初の標的として選択された。その重要な役割は、HSV1潜伏性からの再活性化の初期段階におけるものであり、複数のアッセイがその機能のために利用可能である。5つの異なるgRNAが最初に選択され、ICP0配列のエクソン1~3内の保存された標的のために試験された(
図3)。フォワード位置およびリバース位置における各gRNA配列に対応するオリゴ対が、アニールされ、その後、PCRを使用して増幅され、適切に切断され、pX458またはpX260 Cas9ベクター(Addgene plasmids 48138 & 42229)のいずれかの中に挿入された。
【0175】
Cas9/ICP0 gRNA構築物はICP0配列を切断する
ICP0 DNAを安定的に含むベロ細胞(L7またはF06)は、Cas9/抗ICP0 gRNA構築物でコトランスフェクトされた(
図3)。示された抗Cas9 gRNAで安定的にトランスフェクトされたF06細胞のコロニーからのゲノムDNAは、回収され、surveyorアッセイによって、構築物により生じたIn/Delについて解析された。
図4は、Cas9/抗HSV1 ICP0 gRNA 2A(Cas9/2Aと省略される)で安定的にトランスフェクトされたF06細胞におけるsurveyorアッセイの結果を示し、180塩基対のゲノムDNA断片が生成されることを示す(
図4)。
【0176】
複数のCas9/抗ICP0 gRNA構築物の使用はHSV1ゲノムDNAのより大きな部分を特異的に除去する
HSV1ゲノムDNAの断片を切り取るためのCas9/ICP0 gRNA構築物のタンデムな使用が、記載される。一過性トランスフェクトされた細胞においてタンデムで利用される場合に、作製された2つの抗HSV1 ICP0 gRNA(2Aおよび2C)は、217塩基対(bp)のICP0配列のセグメントを残して335 bpを欠失することができた。この欠失は、初期終止コドンでのICP0タンパク質の切断を導く(
図5)。
図5の上部には、抗ICP0 gRNA 2Aおよび2C(
図5、上部)によって標的化される特定の標的DNA(tDNA)を含む、ICP0エクソン2配列の図式的な表示が示される。この配列のすぐ下は、Cas9/抗ICP0 gRNA 2AおよびCas9/抗ICP0 gRNA 2Cで一過性トランスフェクトされたL7細胞の10クローンの、クローン化され、配列決定されたHSV1 DNAである。これらの2つの構築物によって媒介されるDNA切断は、335塩基対のHSV1 ICP0 DNAのセグメントの欠失を導く。配列決定された10クローンのうち8クローンが、単一の塩基対の欠失を示した(図式化された野生型ICP0配列の下のDNAアライメントにおいてギャップとして示される)。配列決定された10クローンのうち2クローンが、この部位で単一の塩基対の挿入を示した(
図5、右下)。
図5の挿入図(左下)は、切断された217塩基対のICP0の断片を示すアガロースゲルを示す(
図5、左下)。したがって、先に記載したように、本明細書において作製されたCRISP-Cas9構築物は、ウイルスゲノム内の2つのgRNAが指向する領域を切断することができ、残りの遺伝子配列は、非相同末端結合(NHEJ)によって再結合される。
【0177】
Cas9-gRNAはHSV1 ICP0機能を標的化し、細胞におけるHSV1感染を抑制する
通常、HSV1は、比較的低いウイルス濃度で許容的ベロ細胞系に感染し得る(
図6、グラフの左側1番目のカラム、wt Vero wtと表示される)。ICP0遺伝子を欠失する変異体HSV1ウイルスでの同ベロ細胞系の感染は、これらの細胞に感染するために、少なくとも100倍量の変異体ウイルスを必要とする(
図6、左から2番目のカラム、wt Vero ΔICP0と表示される)。ICP0が細胞系に添加される場合に(例えば、ICP0を発現するF06細胞において)、これらの細胞は、予測されるように、著しく低い濃度でICP0を欠失するHSV1で感染され得る(
図6、グラフの左から4番目のカラム、F06 ΔICP0と表示される)。Cas9/抗HSV1 ICP0 gRNA 2Dでの正常ベロ細胞の安定的トランスフェクションの後、細胞は、野生型HSV1での感染に対して著しくより耐性になり、低い濃度のウイルスで感染され得ない(
図6、グラフの5番目のカラム、Vero Cas9/2Dと表示される)。これらの結果は、ICP0を完全に欠失する変異体HSV1ウイルスで正常ベロ細胞を感染することを試みた場合に見られるものと同等である(
図6、グラフの第2レーン、wt Vero ΔICP0と表示される)。
【0178】
図6に示される結果は、Cas9/抗HSV1 ICP0 gRNA 2Dでトランスフェクトされたベロ細胞に感染するために増加した量のウイルスを必要とすることによって証明されるように、抗ICP0 gRNAの発現がウイルス複製を大幅に抑制することを示した。総合すれば、これらの観察は、本発明の能力、HSV1 DNAの完全性を破壊し得る新規の遺伝子編集システムを強調するものである。
【0179】
実施例2:遺伝子編集ストラテジーによるHSV-1複製の除去
単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)は、世界中で成人の85%超が感染する、偏在性且つ高度に感染性のヒト神経向性ウイルスである。一次感染の後、HSV-1は、神経系ガングリオン内に潜伏状態で残存し、そこで散発的に再活性化し得、皮膚へ軸索内輸送された後に複製し、有痛性の皮膚または粘膜の損傷を生じ得る。脳実質中へのHSV-1侵入ならびに前頭葉および側頭葉内でのHSV-1複製は、致死的な脳炎を引き起こし得る。生存者は、発作、運動性障害、および精神衛生上の障害を含む重篤な神経学的合併症を永久的に経験する。HSV-1誘導性の疾病に対する根治療法は存在せず、再活性化し得るウイルスの残存が、感染個体をその合併症のリスクがある状態にしておく。
【0180】
バクテリオファージおよびDNA転位因子による侵入に対するストレプトコッカス・ピオゲネスを含む単細胞生物の防御反応の研究は、CRISPR/Cas9システムの発見に導かれた(Garneau et al., 2010, Nature, 468, 67-71)。そのような微生物における内因性II型CRISPRシステムは、CRISPR RNA(crRNA)およびトランス活性化されたRNA(trRNA)配列の会合がDNAエンドヌクレアーゼCas9による二本鎖切断のための外来性DNA配列の標的化の引き金を引くために、外来性DNAから明らかに防御する。そのような切断の特異性は、crRNAと標的DNAにおける配列との間の相補的塩基対形成によって決定される(Gasiunas et al., 2014, Proc Natl Acad Sci USA, 109: 15539-15540)。これを利用して、Cas9システムは、最近、哺乳動物細胞において特異的なゲノム編集を可能にするために改変されている。真核細胞の核に侵入し、ガイドRNA(gRNA)を利用する場合に、Cas9は、標的遺伝子中に挿入/欠失(InDel)変異を導入する(Mali et al., 2013, Science, 339: 823-826)。CRISPR/Cas9は、いくつかの真核生物遺伝子を修飾するために使用され、いくつかのグループが、その抗ウイルス性の可能性について調査している(Cong et al., 2013, Science, 339: 819-823;Ebina et al., 2013, Sci Rep, 3: 2150;Hu et al., 2014, Proc Natl Acad Sci USA, 111: 11464-11466;Mali et al., 2013, Science, 339: 823-826;Wang et al., 2014, Proc Natal Acad Sci USA, 111: 13157-13162;Wollebo et al., 2011, J Neuroimmunol, 223: 46-53;Yuen et al., 2015, J Gen Virol, 96: 626-636)。HSV-1感染を処置および除去するための適用のための移行可能性を評価するために、本明細書に示される実験を使用して、初期および後期のウイルス感染/再活性化の間のウイルスタンパク質発現に必須である特定のDNA配列を標的化することによってHSV-1複製を抑制する、CRISPR/Cas9の能力を試験した。
【0181】
一次HSV-1感染の間、連続して発現されるウイルスタンパク質の規定の群が、成功した増殖感染サイクルを誘導する。細胞中へのウイルス侵入の後、ウイルスキャプシドタンパク質は細胞質内に放出され、宿主タンパク質合成の活動停止を生じる。最初期のウイルス感染の間も、キャプシドタンパク質と会合する100~200コピーの感染細胞タンパク質0(ICP0)が内側外被に輸送され、ウイルス複製が起こる部位へのキャプシドタンパク質のヌクレアーゼ媒介性の侵入を促進する。同時に、ICP0をコードするウイルス遺伝子が活性化され、新規に合成されたICP0は、高用量の感染モデルよりも実際の感染に類似している効率的な溶解感染の進行を促進する。したがって、ICP0は、低用量のウイルス感染の間のウイルス生存および複製に対してより効果的に貢献する。ICP0はまた、HSV-1再活性化に重要であり、PML体の破壊および自然免疫反応の回避を含む、溶解感染において重要な役割を有する(Boutell and Everett, 2013, J Gen Virol, 94: 465-481;Samaniego et al, 1997, J Virol, 71: 4614-4625;Hagglund and Roizman, 2004, J Virol, 78: 2169-2178)。したがって、実験は、ウイルス遺伝子発現を抑制するそれらの能力を試験するために、ICP0遺伝子のDNA配列を標的化すること、およびCas9と組み合わせるためにガイドRNAを作製することによって実施された。このストラテジーは、ICP0配列中に特定のInDel変異を導入し、オフターゲット効果も宿主細胞に対する毒性も生じず、且つICP0による崩壊から抗ウイルスPML体をレスキューすることが見出され、これは、潜伏感染を除去することが可能な抗HSV-1治療を開発するための、このモデルアプローチの可能性を支持する。
【0182】
宿主細胞からの潜伏HSVを除去することの実現可能性を試験するために、RNAガイドCRISPR/Cas9遺伝子編集が、HSV-1遺伝子発現および複製を刺激する重要なウイルスタンパク質であるICP0の発現を誘導する領域に及ぶ、HSV-1ゲノムのDNA配列の欠失を特異的に標的化するために使用された。CRISPR/Cas9は、ICP0遺伝子のエクソン2中にInDel変異を導入し、許容されたヒト細胞培養モデルにおいてHSV-1感染性を刺激するICP0の能力を減少させたことが見出された。さらに、Cas9およびICP0標的化ガイドRNAの共発現は、HSV-1感染に対して許容された細胞を防御した。Cas9およびgRNA 2Aの持続性の共発現は、ICP0 N末端とPMLの相互作用によって開始される増殖性のHSV-1感染にとって重要な細胞内事象である、前単球白血病(PML)核小体のHSV-1誘導性崩壊を妨げた。SURVEYORアッセイの結果は、ICP0とバイオインフォマティクス的に類似であるが同一ではないDNA配列を有する宿主遺伝子に変異を導入し得る如何なるオフターゲット効果も除外した。また、CRISPR/Cas9誘導性アポトーシスも、宿主細胞の生存性または細胞周期進行に対する有害な副作用も、観察されず、このことは、このHSV-1遺伝子編集ストラテジーの特異性および有望な安全性を支持する。したがって、本明細書に示されるデータは、RNAガイドCRISPR/Cas9が、標的化されたウイルスゲノムを除去してHSV-1疾患を処置するための、新規、特異的、且つ効果的な治療的および予防的なプラットフォームを開発するために使用され得ることを示す。
【0183】
これらの実験に使用された材料および方法を次に記載する。
【0184】
細胞培養
ICP0補充細胞系L7(Samaniego et al, 1997, J Virol, 71: 4614-4625)は、10%ウシ胎仔血清(FBS)、2 mMグルタミン、および400 μg/mlジェネテシン(Life Technologies, NY)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(Life Technologies, NY)で増殖された。正常ベロ細胞は、ジェネテシンを含まない同培地で増殖された。ヒト乏突起神経膠腫細胞系TC620は、以前に記載されたように、10%FBSを添加されたDMEM中で維持された(Wollebo et al., 2015, PLoS One, 10, e0136046)。選択のために、細胞は適切なベクターでトランスフェクトされ、ピューロマイシンの存在下0.5細胞/ウエルで96細胞ウエルプレート上に再度蒔かれた場合に、5日間、3 μgのピューロマイシン(Life technologies)を含む上記培地を使用して選択された。Cas9およびgRNAを発現するTC620細胞のクローン誘導体を産生するために、この細胞は、本明細書の他の箇所に記載される各々のgRNAを発現するpX260またはpX260由来のプラスミドでトランスフェクトされた。選択は3 μg/mlピューロマイシンを使用して行われ、クローンは希釈クローニングによって単離された。全てのトランスフェクションは、製造者のプロトコールに従って、リポフェクタミン2000(Life technologies)を使用して実施された。
【0185】
細胞生存性アッセイは、3日後に異なる抗ICP0 gRNAでトランスフェクトされたVeroまたはL7細胞において、製造者のプロトコールに従って、Live/Death細胞生存性アッセイキット(Molecular probes, NY)を使用して実施された。
【0186】
抗体
以下の抗体が、ウエスタンブロットのために使用された。マウスα-ICP0(1:1000, Santa Cruz, TX)、マウスモノクローナル[11E2]ICP8(1:1000, Abcam)、マウスモノクローナル[3G9]α-gC(1:1000, Abcam)、マウス抗Flag M2(1:1000, Sigma Aldrich)、抗αチューブリンクローンB512(1:5000, Sigma Aldrich)。
【0187】
アポトーシスアッセイ
アポトーシスアッセイは、製造者(Guava Technologies)の推奨にしたがって実施された。簡単に述べると、対照細胞およびCas9を安定的に発現する細胞を、200,000細胞/mlの密度で、48時間、6ウエルプレートに蒔いた。細胞を採取する前に、各試料の上清を15 mlファルコンチューブ中に回収し、細胞をPBSで洗浄し、0.25%トリプシンによってトリプシン処理し、その後、トリプシンを、各試料に対して上記の回収された上清によって不活性化した。試料を5分間、2000 rpmで遠心分離した。上清を吸引し、ペレットをPBSで1回洗浄し、細胞を再懸濁し、計数し、PBS中に100,000細胞/mlの密度に希釈した。100 μlの室温のアネキシンV-PE染色試薬を100 μl細胞懸濁液と混合し、25分間、室温、暗所でインキュベートした。試料は、Guava Easy Cyteミニフローサイトメーターを使用して解析された。
【0188】
細胞周期解析
対照細胞およびcas9を安定的に発現する細胞を、150,000細胞/mlの密度で、48時間、蒔いた。細胞を回収し、遠心分離によって採取した。ペレットをPBSで1回洗浄し、1 ml PBS中に再懸濁し、冷却エタノール(70%最終濃度)中で固定した。細胞を24時間、-20℃でインキュベートした。細胞を遠心分離し、ペレットを1%BSAを含むPBSで1回洗浄し、250 μg/ml RNase Aを含むPBS中のヨウ化プロピジウム(10 μg/ml)によって染色し、37℃、45分間、暗所でインキュベートした。細胞周期解析は、Guavasoft細胞周期プログラムを使用したGuava Easy Cyteミニシステムを用いて実施された。
【0189】
生存性アッセイ
生存性アッセイのために、対照細胞およびCas9を安定的に発現する細胞を、12000細胞/200 μlの密度で、24時間、96ウエルプレートに三つ組で蒔いた。MTTアッセイの2時間前に、古い培地を除去し、新しい培地に置き換えた。細胞を20 μlのMTT溶液(PBS中5 mg/ml MTT)で、2時間37℃で処置した。2時間後に、培地を除去し、200 μlのMTT溶媒(イソプロパノール中4 mM HCl、0.1% Nondet P-40(NP40))に置き換え、細胞を10分間、振盪機上に置いた。MTT活性読み出しは、チャンネル590 nmおよび620 nmで行われた。
【0190】
HSV-1 ICP0 gRNA
HSV-1 ICP0(NC_0018061)のゲノム配列を、NCBIデータベースから得て、ICP0エクソン2オープンリーディングフレームを、公表されたICP0タンパク質配列およびNCBIデータベースを使用して決定した。3つのgRNAは、利用可能なオンラインツール(http://crispr.mit.edu/)を使用して、設計および選択された。CRISPR Cas9オフターゲット発見ツールは、オフターゲット配列を決定するために使用された。
【0191】
各標的配列からのDNAオリゴの対を、PX458およびPX260ベクター(それぞれAddgeneプラスミド48138および42229)のための公表され推奨された隣接配列に基づき、フォワード方向およびリバース方向で設計した。20 μlの総反応中2 μlのT4 DNAリガーゼ緩衝液および9 μlの水の存在下で、100 nMの濃度の各オリゴを5 μl使用し、95℃で7分間、そして95℃から25℃まで3%ずつ下げて、各対をサーモサイクラーでアニールした。その後、アニールされたオリゴ対を、BbsIで直鎖状にされたPX458およびPX260ベクター中にクローン化した。gRNAの挿入は、配列決定を使用して確認された。プラスミドプレップは、プラスミドMidiキット(Qiagen)を使用して調製された。
【0192】
InDel変異解析
HSV-1 ICP0のエクソン2におけるヌクレオチドの欠失および/または挿入は、L7細胞において単一またはコトランスフェクション実験によって確認された。2 μg PX260(ピューロマイシン耐性遺伝子およびICP0 gRNA 2Aまたは2Bを有する)ならびにPX458構築物(トランスフェクション効率を評価するために、EGFP-Cas9およびICP0 gRNA 2Cを有する)は、一晩、コトランスフェクトされた。L7細胞は、対照として供された空ベクターでトランスフェクトされた。トランスフェクション効率は、複数の視野を検査し、総細胞数に対するGFP陽性細胞を計数することによって、蛍光倒立顕微鏡を使用して評価された。ゲノムDNA抽出は、3日後に、Archive PureDNA抽出キット(5Prime, MD)を使用して実施された。ゲノムDNA増幅は、Q5 Hot Start High-Fidelity DNAポリメラーゼ(NEB, MA)、および552 bpまたは470 bpのサイズの断片を増幅するためにICP0配列から設計された2つのプライマー(表1に示される)を使用し、98℃(30秒)の後、98℃(10秒)、62℃(30秒)、72℃(30秒)を35サイクル、その後、72℃(5分)の条件を使用して実施された。PCR産物を3%アガロースゲル上で解析した。関心対象のバンドをゲル精製し、pCRII T-Aベクター(Life technologies)中にクローン化し、個々のクローンのヌクレオチド配列をGenewizでの配列決定により決定した。
【0193】
RT-PCR
L7およびTC620安定的細胞系におけるgRNA 2Aの発現を決定するために、RT-PCRは、cDNAを生成するためのプライマーとして、PX260ベースのリバースプライマー(PX260-crRNA-3'、表1)を使用したことを除き、本質的に以前に記載されたように実施された(Shekarabi et al., 2008, J Clin Invest, 118: 2496-2505)。crRNAを増幅するために、同プライマーは、gRNA 2Aフォワードオリゴと対にされた。
【0194】
ICP0
558
-Ds-Red構築物
ICP0558-Ds-Redを生成するために、2つのプライマーが、各末端にAge I制限部位を有するように設計され、ICP0-AgeI-F(3086-3103, NC_0018061)およびICP0-AgeI-R(3626-3643, NC_0018061)(表1に示される)を使用したQ5 Hot Start(NEB)を使用して、HSV-1 ICP0ゲノムのエクソン2から、558 bpの断片を増幅するために使用された。pDs-Red-C1および増幅された断片をAge Iで切断し、T4 DNAリガーゼ(NEB)を使用して結合すると、最終のインフレームのDs-Redタンパク質配列を生じた。選択の後、細胞は、1ウエル当たり1細胞を播種する可能性を増加させるために、0.5細胞/ウエルの密度で、96ウエルプレートに蒔かれた。その後、細胞は、リポフェクタミン2000を使用してEGFPおよびICP0558-Ds-Red構築物でコトランスフェクトされた場合に、60%~70%のコンフルエンスに増殖された。トランスフェクションの48時間後に、細胞を蛍光倒立顕微鏡下で試験し、赤色シグナルの無いウエルをさらなる解析のために選択した。ゲノムDNAを調製し、2A標的配列(表1)からなる372 bpの断片に及ぶP3およびP4プライマーを使用してPCR増幅した。増幅された断片をQiaex IIゲル抽出キット(Qiagen)を使用してゲル精製し、InDel配列を確認するために配列決定した。
【0195】
【0196】
【0197】
【0198】
免疫細胞化学およびウエスタンブロット
2つのL7クローンが採取され、1ウエル当たり6000細胞で、8ウエルチャンバースライド上に蒔かれた。その後、それらに、5 MOIのHSV-1(Patton strain)GFP-Us11を2時間感染させた。感染の6時間後、細胞を、4%のパラホルムアルデヒドによって固定する前に、冷却平衡塩類溶液(HBSS, Invitrogen)によって洗浄した。細胞を、本質的に他の箇所に記載されたように免疫染色した(Shekarabi and Kennedy, 2002, Mol Cell Neurosci, 19: 1-17)。マウスα-ICP0(0.4 μg/mL, Santa Cruz, TX)、およびマウス抗PML C7(2 μg/mL, Abcam, MA)抗体が、4℃で一晩、免疫染色するために使用された。Alexa Fluor 555二次抗マウス抗体(Molecular Probes;Invitrogen)が、マウス一次抗体を可視化するために使用された(1:1,000)。核をPBS中30分間、0.5 μg/ml Hoechst 33258(Sigma, MO)によって標識化した。画像化は、光学ビームスプリッターのためのAOBS(音響光学ビームスプリッター(acousto-optical beam splitter))を備えたLeica TCS SP5広帯域共焦点顕微鏡を使用して実施された。
【0199】
タンパク質解析のために、一過性トランスフェクトされたベロ細胞またはピューロマイシンで選択されたL7クローンのウエルに、感染後異なる時点で、1 MOIのHSV-1を感染させ、冷却HBSSにより2回洗浄し、タンパク質試料を、溶解緩衝液(8M 尿素、0.5% SDS、200mM β-メルカプトエタノール)によって回収した。各条件からの全タンパク質試料(20 μg)を8%アクリルアミドSDS-PAGEゲル上で泳動した。ゲルは、ニトロセルロース膜(LI-COR Biosciences;Lincoln, NE)上にトランスファーされ、2時間、室温(RT)で、PBS-Tween(0.1%, Amresco, OH)中の2.5%乾燥脱脂乳(LabScientific;Highlands, NJ)でブロックされた。膜は、マウスα-ICP0、α-ICP8、α-糖タンパク質C、またはα-FLAGエピトープ抗体(1μg/mL)と共に、4℃で一晩、ハイブリダイズされた。等量のローディングは、マウスα-チューブリン抗体(1 μg/mL: Abcam;Cambridge, MA)を使用して判定された。その後、膜は、α-マウスまたはα-ウサギ二次抗体(いずれも1:8000、LI-COR)と共に、1時間、室温で、ハイブリダイズされた。膜は、Odyssey CLX(LI-COR)によってスキャンされた。画像は、Image Studio version 2.0(LI-COR)を使用して加工された。
【0200】
TC620細胞のタンパク質解析のため、全細胞抽出物が、哺乳動物プロテアーゼ阻害剤カクテル(sigma Aldrich)を含むTNN緩衝液中で調製された。50 μgのタンパク質が10%SDS-PAGEによって分離され、ニトロセルロースに転写された。ブロットは、1XPBST中の5%ミルク中でブロックされ、2時間、室温で、一次抗体(1:1000)で免疫ブロッティングされた。洗浄後に、ブロットは、二次抗体ヤギ抗マウス(1:5000)LI-cor色素とインキュベートされ、LI-COR Odysseyソフトウエアを使用し、Odyssey CLx Imagingシステム(LI-COR, INC, Lincoln, NE)を用いて可視化された。
【0201】
ウイルス力価
gRNA 2Aクローン細胞におけるHSV-1の感染効率をアッセイするために、偽のトランスフェクトされたL7細胞またはG9もしくはH5クローンに、はじめに、MEM培地(Life Technologies)中、2時間、37℃で、1 MOIの野生型またはICP0 変異体HSV-1株(7134, Cai and Schaffer, 1992, J Virol, 66: 2904-2915)を感染させた。その後、新たに生成されたウイルス粒子を含む上清を回収し、段階希釈を使用した、正常ベロ細胞の感染によって力価を測定した。24時間または48時間後に、細胞を10%トリクロロ酢酸(Sigma)中で10分間固定し、0.05%クリスタルバイオレット(Sigma)で染色した。プラークを計数し、グラフで表した。
【0202】
HSV-1によるTC620細胞の感染
感染の1日前に、45,000 TC620細胞/ウエルを、10% FBSを添加したDMEMを含む48ウエルプレート上に蒔いた。感染日に、前日に蒔かれたTC620細胞から古い培地を吸引し、100 μLの希釈ウイルス培地を各ウエル中に添加した。37℃でのインキュベーションの2時間後に、ウイルスを含む培地を吸引し、新鮮なTC620培地に戻した。最後に、プレートを37℃で2日間、維持した。
【0203】
gRNAのためのレンチウイルスベクターの産生およびCas9を安定的に発現するTC620細胞の形質導入
2つの標的の各々のためのgRNAレンチウイルス発現プラスミドを構築するために、先に記載した2つのpX330 gRNAプラスミドの各々からのU6発現カセットを、プライマー
を使用してPCRによって増幅した。
【0204】
PCR産物をMluIおよびBamH1で切断し、その後、MluIおよびBamH1で切断されたpKLV-U6gRNA(BbsI)-PGKpuro2ABFP中にクローン化した。pCR(商標)4-TOPO(登録商標)TAベクターは、Life Technologies, Inc.(Carlsbad, CA)に由来する。2つのgRNAの形質導入のためのレンチウイルスベクターを産生するために、pKLV-U6gRNA(BbsI)-PGKpuro2ABFPから先に記載したように構築された、2つのgRNAレンチウイルス発現プラスミド誘導体の各々が、パッケージングプラスミドpCMV-VSV-G、pMDLg/pRRE、およびpRSV-Revと共に、塩化カルシウム沈殿によって、293T細胞中にトランスフェクトされた。レンチウイルスは、48時間後に上清から回収され、遠心分離および0.45 μmフィルターの通過によって清澄化され、6 μg/mlポリブレンの存在下でCas9を安定的に発現するTC620細胞に加えた後に、選択した。48時間後に、細胞を回収し、ウエスタンブロットによってICP0発現についておよびプラークアッセイによってウイルス力価について解析された。
【0205】
SURVEYORアッセイ
Cas9を安定的に発現し、且つgRNAのためのレンチウイルスベクターによって形質導入されたTC620細胞に由来するオフターゲット遺伝子のPCR産物における変異の存在は、製造者のプロトコールに従って、SURVEYOR変異検出キット(Transgenomic)を使用して検査された。異種性PCR産物は、サーモサイクラーを使用して、10分間95℃で変性され、その後、徐々に冷却することによってハイブリダイズさせた。300ナノグラムのハイブリダイズしたDNA(9 μl)を、0.25 μlのSURVEYORヌクレアーゼ(ヘテロ二本鎖DNAにおける変異をスキャンするために使用されるミスマッチ特異的DNAエンドヌクレアーゼ)と0.25 μl SURVEYORエンハンサーSおよび15 mM MgCl2で、4時間、42℃で切断した。停止溶液を添加し、試料を、同時に試験された同量の対照試料(Cas9を安定的に発現するTC620細胞に由来するが、gRNAのためのレンチウイルスベクターによって形質導入されていないもの)と共に、2%アガロースゲル上で分離した。
【0206】
実験の結果を次に記載する。
【0207】
gRNA標的化、構築、およびベロ細胞における試験
HSV-1ゲノムのバイオインフォマティクススクリーニングは、CRISPR/Cas9(
図7A)による編集のためのガイドRNA(gRNA)を生成するための、ヌクレオチド(nt)配列1011~1040(2A)、1127~1156(2B)、および1136~1375(2C)にわたる、ICP0遺伝子のエクソンII内の3つの特定の領域を同定した。
【0208】
各モチーフに対応するスモールDNA断片が、はじめに、発現ベクターPX260(Cong et al., 2013, Science, 339: 819-823)に別々にクローン化され、単一形態で発現される場合に、InDel変異を誘発するためのそれらの能力が、または組み合わせて使用される場合に、切断部位と切断部位との間に及ぶDNA断片を切除するためのそれらの能力が、PCR増幅およびサンガー配列決定によって評価された。最初に、本明細書においてL7と呼ばれ、ICP0遺伝子の組み込まれたコピーを含む、ICP0補充L7細胞系(Samaniego et al, 1997, J Virol, 71: 4614-4625)が使用された。細胞は、gRNA 2Aおよび2C発現プラスミドと一緒にCas9でのトランスフェクションのためにHSV-1で感染される場合に、低レベルのコードタンパク質を発現した。予測された552 bpのアンプリコンに加えて、217 bpのより小さなDNA断片も、gRNA 2Aおよび2Cの両方を発現する細胞において検出された(
図7B)。2Aと2C部位の間に及ぶ335 bpのDNA断片の切除は、サンガー配列決定によって確認され、より小さな(217 bp)DNA断片の増幅は、エクソンIIの残存するDNAを再結合することによって作製された鋳型を使用して確認された。
【0209】
クローン細胞系におけるさらなる解析は、細胞の小集団(8%)において、217 bpの断片の除去が、切断および再結合部位での単一のAまたはGヌクレオチドの挿入を伴うことを示した(
図11A)。同様に、gRNA 2Bおよび2Cの多重化された発現が、2Bと2Cの間の219 bp DNA断片の切除および251 bp DNA断片の増幅を引き起こした(
図11B)。単一gRNA発現構成において、gRNA 2Aの発現は、いくつかのInDel変異を生じ、これは、Cel 1ヌクレアーゼベースのヘテロ二本鎖特異的SURVEYORアッセイによって検出された(
図11C)。いくつかのクローン細胞のDNA配列決定によるInDel変異の特徴付けにより、単一または複数の単一ヌクレオチドの挿入、ならびに切断部位に近い大きな191 bp DNAクローンの挿入が明らかになった(
図7Dおよび
図7E)。記載されるように、これらの変異は各々、ICP0 DNAコード配列内にフレームシフトを生じた(
図7E)。対照L7細胞中のICP0の発現は、レポーターGFP遺伝子を有するHSV-1での感染時に、クローンInDel 3での発現と比較された。
図7F(下部パネル)に示されるように、HSV-1/GFPでの対照細胞の感染は、ICP0の核内蓄積を誘導し、そこで新たに複製されたウイルスが存在する。対照的に、Cas9/gRNA 2Aは、感染細胞の核内の検出可能なICP0の出現を妨げ、これは、ICP0のエクソンIIに導入されたフレームシフト変異が、タンパク質の発現またはその細胞内局在を完全にブロックしたことを示す(
図7F、上部パネル)。ICP0(赤)は細胞質領域に共局在化され、これは、Cas9/gRNAがまた、インプットHSV-1 DNAにおいてInDelを生じ、したがって、流入するウイルスからICP0の発現を除去することを示唆する。
【0210】
HSV-1複製を刺激するためのICP0の能力に対するこれらの変異の影響は、これらのクローン(InDel 2およびInDel 3)におけるΔICP0 HSV-1複製レベルを、野生型タンパク質を発現する対照細胞に見られるものと比較することによって評価された。各感染された細胞培養の上清を、ΔICP0 HSV-1での細胞感染の48時間後に回収し、ウイルス力価をプラークアッセイによって決定した。クローンInDel 2およびInDel 3は、ΔICP0 HSV-1の複製をサポートするための能力の著しい減少を示し(それぞれ、58.9%および80%)、これは、L7細胞におけるICP0のCas9/gRNA 2A媒介性の機能的不活性化を示す(
図7G)。gRNAおよびCas9の産生は、それぞれRT-PCRおよびウエスタンブロット解析によって確認された(
図12)。
【0211】
PML核小体構造におけるCas9/gRNAの影響
前骨髄球性白血病(PML)核小体は、細胞増殖および形質転換を制御し(Sahin et al., 2014, J Pathol, 234: 289-291)、HSV-1を含む多数のウイルスによる細胞の感染を阻害する(Wang et al., 2012, Protein Cell, 3: 372-382)、多数の真核細胞の核内に局在化される点状構造である。そのN末端を介したPMLとHSV-1とICP0の相互作用は、PML構造を崩壊することによって、PML媒介性の抗ウイルス活性を明らかに抑制する(Cuchet-Lourenco et al., 2012, J Virol, 86: 11209-11222;Everett et al, 2006, J Virol, 80: 7995-8005)。
【0212】
PML関連核小体の点状構造は、Cas9のみを発現するHSV-1非感染L7細胞の核において、蛍光顕微鏡によって明らかであったが(
図8)、HSV-1/GFPでのこれらの細胞の感染は、HSV-1の局在と一致したPML点状構造の構造を完全に変化させた。対照的に、感染したL7細胞におけるCas9およびgRNAの両方の共発現は、PML様点状構造のパターンを、非感染細胞に見られるものと非常に類似するものに回復させた。低レベルのGFPもまた細胞質で検出され、これは、恐らく、その増殖性感染サイクルの欠如における、ウイルスゲノムによってコードされるGFPの発現を示す(
図8)。この観察は、ICP0のCas9/gRNA誘発性変異が、そのPML体を破壊する抗ウイルス活性に干渉することを示唆する。
【0213】
Cas9/gRNAの発現はヒト細胞系のHSV-1感染を抑制する
本CRISPR/Cas9システムの抗HSV-1活性をさらに調査するための都合の良いヒト細胞系を探したところ、ヒト乏突起神経膠腫細胞系TC620(Merrill and Matsushima, 1988, J Biol Regul Homeost Agents, 2: 77-86)が、ICP0、ウイルスDNA複製および後期遺伝子トランス活性化に関与する初期ウイルスタンパク質ICP8(Challberg 1986, Proc Natl Acad Sci USA, 83: 9094-9098;Gao and Knipe, 1991, J Virol 65, 2666-2675;Tanguy Le Gac et al., 1998, J Biol Chem, 273: 13801-13807)、および後期エンベロープタンパク質、ウイルスの感染性を増強する糖タンパク質C(Friedman et al. 1984, Nature, 309: 633-635)(
図13A~
図13D)の発現によって証明されたように、低い感染多重度および高い感染多重度でHSV-1複製を強力にサポートすることが見出された。
【0214】
Cas9またはCas9+gRNA 2Aを安定的に発現するいくつかのクローンTC620細胞亜系を作出した。これらの細胞亜系は、HSV-1感染を抑制するためのCas9/gRNA 2Aの能力を試験するために使用された。Cas9およびgRNAの両方が産生されるクローン系6および10は、ウエスタンブロットにおいて見られるICP0産生レベルの実質的な減少を示し、一方、Cas9のみを発現する細胞は、ICP0産生レベルで如何なる効果も示さなかった(
図9A)。Cas9/gRNA 2A発現がTC620細胞のHSV-1感染を抑制したことが、HSV-1/GFPのための蛍光顕微鏡を使用して確認された。Cas9のみを発現する対照細胞ならびにクローン6および10からのHSV-1感染後に回収された上清は、1/10希釈および1/100希釈のベロ細胞を用いたプラークアッセイを使用して比較された(
図9C)。Cas9/gRNA 2Aは、それぞれクローン6および10において、1/10希釈で85%および72%、1/100希釈で95%および90%、プラーク形成を抑制することが見出された(
図9Cおよび
図9D)。より高希釈での増強された抑制は、ICP0の阻害効果がより低いMOIの感染でより明確になるという以前の発見と一致する(Chen and Silverstein, 1992, J Virol, 66: 2916-2927)。これらのデータは、非感染細胞において、Cas9/gRNA 2Aが、ICP0の産生を阻害し、したがって、それが宿主の抗ウイルス防御を抑制して溶解感染に寄与するのを阻害することによって、HSV-1感染に対して細胞を防御することを示している。
【0215】
細胞内健康状態のいくつかの指標に対するCas9/gRNA 2Aの潜在的な効果もまた、評価された。Cas9の発現は、単独またはgRNA 2Aと一緒のいずれでも、TC620細胞の細胞周期進行に対する顕著な効果を有さなかった(
図14A)。同様に、アネキシンでの細胞の免疫蛍光染色は、アポトーシスに対するCas9またはCas9/gRNA 2Aの強い影響を示さなかった(
図14B)。したがって、細胞生存率に対する遺伝子編集システムの有害な効果は観察されなかった(
図14C)。gRNA 2Aの特異性を評価し、本遺伝子編集ストラテジーが何らかのオフターゲット効果を誘導したかどうか、または宿主ゲノムの完全性を損なうかどうかを決定するために、SURVEYORアッセイが使用された。結果は、HSV-1の2A配列に対応するより短い(13 nt)シード配列を使用したバイオインフォマティクススクリーニングによって同定された、いくつかの代表的なヒト遺伝子における任意の潜在的なエクソンのオフターゲット部位におけるInDel変異の証拠を示さなかった(
図15、表4も参照のこと)。さらに、上記のように、遺伝子増幅後の、潜在的な細胞内オフターゲット遺伝子のDNA配列決定の結果は、HSV-1を目的とした遺伝子編集システムのオフターゲット効果を確認しなかった(
図15B)。
【0216】
Cas9およびgRNAのレンチウイルスを介した送達はHSV-1感染を抑制し、感染から細胞を保護する
記載される遺伝子編集分子の送達効率をさらに改良し、この分子の抗HSV-1活性を評価するために、Cas9を発現するTC620細胞をHSV-1に感染させ、36時間後に、HSV-1感染細胞は、単一または二重の構成でgRNA 2Aまたは2Bを発現するレンチウイルス(LV)で形質導入された。結果は、ICP0、ICP8、および後期糖タンパク質Cの著しく抑制された発現を示し(
図10A)、これは、レンチウイルスによるgRNAの流入が、Cas9発現細胞におけるHSV-1タンパク質産生を抑制したことを示す。LVgRNA 2AおよびLVgRNA 2Bでの細胞の処置は、培養上清中の感染性ウイルスのプラークアッセイによって測定した場合、感染細胞のウイルス産生を大幅に(それぞれ97%および82%)抑制した(
図10Bおよび
図10C)。これらの研究から、gRNA 2Aは、ICP0遺伝子の編集およびHSV-1複製の抑制において、gRNA 2Bよりも僅かに効果的であることが判明した。HSV-1感染からの細胞の防御におけるCas9およびgRNA 2A、2Bまたは両方の能力を評価するために、正常TC260細胞は、gRNAの2A、2B、または両方を発現するレンチウイルス(LVgRNA)と共に、Cas9を発現するレンチウイルス(LVCas9)で形質導入された。LVCas9/LVgRNA 2Aは、ウイルスタンパク質発現を著しく減少することが見出され(
図10D)、これは、GFP染色細胞の強い抑制を示す蛍光顕微鏡からの結果(
図10E)、およびプラークアッセイによって評価された場合のウイルス量の著しい減少(
図10F)によって確認される。ICP4およびICP27は、それぞれ、ウイルス遺伝子転写の最初期(IE)から初期への移行、ならびに調節ウイルスおよび細胞性mRNAプロセシング事象および後期遺伝子の活性化に大きく関与している、2つの他の最初期(IE)調節タンパク質である(Knipe et al., 2008, Nature Rev., 6: 211-221)。次の一連の実験において、ICP4およびICP27遺伝子のバイオインフォマティクススクリーニングの後に、オフターゲット効果の予測の無いgRNAが選択され、TC260細胞のHSV-1感染を協同的に抑制するためのそれらの能力が、評価された。
図16に示されるように、ICP0 gRNA 2AおよびICP4 gRNA m1またはICP0 gRNA 2AおよびICP27 gRNA m1のレンチウイルス媒介性の送達は、TC260細胞のHSV-1感染を完全に消失させた。興味深いことに、ICP0 gRNA処置された細胞に頻繁に見られる残存する感染細胞は、これらの細胞の組み合わせ処置において検出されなかった(
図16Dおよび
図16Eを
図16Cと比較する)。
【0217】
(表4)予測されたICP0 gRNAおよびそれらのオフターゲットの数(100%の一致)
【0218】
HSV-1感染を持続的に抑制するためのICP0を標的化するCRISPR/Cas9システム
HSV-1複製を抑制するための現在の治療は、アシクロビルおよびその誘導体を含む、ウイルスチミジンキナーゼ(TK)を標的化するヌクレオシド類似体を含む。そのような薬剤は、一次HSV-1感染の症状を制御することを助けるが、潜伏HSV-1感染を除去しない。さらに、TK遺伝子における変異のために、TK阻害剤に耐性であるHSV-1株の発生は、HSV-1関連疾病の処置における臨床的課題を残す。
【0219】
本明細書に示される実験は、感染サイクルの最初期に寄与するウイルス遺伝子を変更することによって、HSV-1感染を永久的に抑制するCRISPR/Cas9システムの能力を試験した。ICP0は、HSV-1潜伏性と複製の間のバランスを制御し、PML核小体を含むいくつかの細胞媒介性の抗ウイルス活性のブロックにおいて重要な役割を果たすことから(Chee et al., 2003, J Virol 77: 7101-7105)、編集のための標的として選択された。さらに、HSV-1のICP0は、インターフェロンαおよびβによる阻害に対して高度に感受性であり、野生型HSV-1に対する強力な免疫反応を誘発する(Halford et al, 2006, Virol J, 3: 44)。したがって、ICP0発現の抑制は、新たなHSV-1感染の複製に間接的に干渉し得る。本発見は、CRISPR/Cas9を使用したICP0遺伝子の標的化が、ICP0のエクソンIIにおける複数のInDel変異を誘発し、内因性抗ウイルスPMLアセンブリの破壊を停止し、且つ感染細胞におけるウイルス生活環を完全に抑制することを示す。
【0220】
CRISPR/Cas9によるICP0遺伝子標的化のための本明細書において設計および提示される3つのgRNAのうち、gRNA 2Aは、単一の構成において、最大の有効性を示して、ICP0オープンリーディングフレームにおけるフレームシフトの生成につながったInDel変異を誘発することによりICP0ゲノムのエクソンIIの構造を損なわせた。エクソンIIにおけるこの変異はまた、PMLとのICP0の相互作用および核小体の形成に干渉した。したがって、Cas9/gRNA 2Aは、その産物が感染サイクルのために必要とされる複数のHSV-1遺伝子の発現を阻害すること、およびPML体のアセンブリを含む宿主由来の抗ウイルス事象を停止することによって、その抗ウイルス活性を発揮する。ウイルス感染の間のCas9およびgRNAのレンチウイルス媒介性の送達は、感染細胞によって産生されるウイルス負荷を著しく減少させた。ICP0 gRNAとICP4 gRNAまたはICP27 gRNAのいずれかとを使用した本明細書に示される組み合わせ実験の結果は、感染細胞におけるHSV1複製の完全な除去を示した。この観察は、潜伏期および増殖期でのHSV-1の除去が、複数のウイルス遺伝子の編集を必要とし得ることを示唆しており、これは、CRISPR/Cas9ストラテジーの単純性および柔軟性を考慮すれば達成可能なアプローチである。組み合わせのストラテジーはまた、HSVベースの送達システムが使用された場合に、一ヒットの修復または組換えの可能性に関連する懸念を軽減する。さらに、gRNAがレンチウイルスによって細胞に導入された場合に、感染前の細胞におけるCas9発現が、HSV-1複製を抑制したことが見出され、これは、Cas9ストラテジーが、HSV感染に対して細胞を防御するために利用可能であることを示唆する。この点において、Cas9遺伝子が、ICP4などのHSV-1最初期タンパク質によってのみ活性化され、したがって、HSV-1の非存在下ではCas9をサイレントに維持し、ウイルスが感染の溶解期に入り始める場合にのみ、Cas9が再活性化されるようにするという、新規の治療的ストラテジーの開発を構想することができる。
【0221】
ヒトの臨床治療へのCas9/CRISPRベースのウイルス標的化の移行の見込みは、効率的な送達システムだけでなく、それらの特異性にも依る。インビトロのHSV標的化システムにおけるこの重要な問題を評価するための第一段階として、重要な細胞機能、細胞健康の指標、および潜在的なゲノム標的に対するその効果が調査された。Cas9/gRNAシステムは、細胞生存性および細胞周期を含むプロセスに対する有害な作用を欠如し、アポトーシスを誘導せず、細胞生存性を損なわないことが見出された。このレベルの安全性を達成し、ヒトの翻訳ゲノム部位に対する作用を避け、且つ如何なる転写DNAモチーフも除外するために、最も厳密な12 bp+PAM標的選択基準に基づいてバイオインフォマティクススクリーニングが使用された。最も効果的なgRNA(2A)は、30 ntの長さ+NGGであった。ICP0エクソンIIの標的Aに対応する、より短い(12 nt)シード配列を使用したバイオインフォマティクススクリーニングによって同定された、一連の5つの代表的なオフターゲット宿主遺伝子のいずれにおいても、InDel変異の証拠を示さなかった。
【0222】
本結果はまた、CRISPR/Cas9システムがHSV-1感染に対して細胞を防御するために改良および使用され得ることを示す。HSV-1複製を強力にサポートするヒト細胞に、Cas9+gRNA 2Aを予め存在させることにより、流入するHSV-1の効率的な複製を妨げた。この観察は、原核細胞が、転位因子およびバクテリオファージなどの外来性DNA要素からそれら自身を防御するストラテジーを示唆する(Horvath and Barrangou, 2010, Science, 327: 167-170)。CRISPR/Cas9遺伝子編集システムの容易性および迅速性ならびにHSV-1 溶解感染サイクルの複雑性を考慮すると、最初期、初期、および後期のHSV-1感染の調節に関連する重要なウイルスタンパク質を標的化するためのgRNAのカクテルを含む組み合わせ治療が、開発され得る。Cas9/gRNAを送達するため、レンチウイルス、AAV、改変されたHSV-1ベクターを含む、利用可能ないくつかのウイルスベースのシステムが存在する。ナノ粒子および細胞外小胞を含む非ウイルス送達システムもまた使用され得る。加えて、Cas9の発現は、その発現を制御し、Cas9代謝回転を促進するために、様々な誘導性発現システムを通じて調節され得、これはオフターゲット効果を制限するのに役立つ。
【0223】
本明細書に示されるデータは、ICP0を標的化する本Cas9/gRNA編集システムが、HSV-1のこの最初期遺伝子中に高い特異性で変異を導入し、HSV-1溶解感染サイクルを停止し、HSV-1感染から非感染細胞を防御することを示す。この結果は、この遺伝子編集ストラテジーによりICP0コード配列中の単一のヌクレオチドミスマッチを導入することが、ウイルス複製の阻止において、高度に効果的であることを示す。したがって、これらの試験は、CRISPR/Cas9が、HSV-1感染のための新規の治療的ツールとして、および潜伏感染細胞からHSV-1 DNAを除去するための潜在的且つ永続的なストラテジーとして開発され得ることを示す。
【0224】
本明細書に引用されるそれぞれのおよび全ての特許、特許出願、および刊行物の開示は、参照として本明細書に全体が組み入れられる。本発明は、特定の態様を参照して記載されたが、本発明の他の態様および変更が、本発明の真の精神および範囲から逸脱せずに当業者によって考案され得ることは、明らかである。添付の特許請求の範囲は、全てのそのような態様および同等の変更を含むように解釈されることが意図される。
【配列表】