(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】多孔質シリコン材料の製造方法、多孔質シリコン材料及び蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
C01B 33/02 20060101AFI20240717BHJP
C01B 33/06 20060101ALI20240717BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
C01B33/02 Z
C01B33/06
H01M4/38 Z
(21)【出願番号】P 2021208125
(22)【出願日】2021-12-22
【審査請求日】2023-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松原 賢東
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 涼
(72)【発明者】
【氏名】長廻 尚之
(72)【発明者】
【氏名】川浦 宏之
(72)【発明者】
【氏名】近藤 康仁
(72)【発明者】
【氏名】早稲田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】吉田 淳
(72)【発明者】
【氏名】内山 貴之
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0200939(US,A1)
【文献】特表2017-533533(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101527358(CN,A)
【文献】特開2015-176674(JP,A)
【文献】国際公開第2020/194794(WO,A1)
【文献】特開2012-082125(JP,A)
【文献】特開2012-150910(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00 - 33/193
B22F 1/00 - 8/00
B22F 10/00 - 12/90
C22C 1/04 - 1/059
C22C 5/00 - 25/00
C22C 27/00 - 28/00
C22C 30/00 - 30/06
C22C 33/02
C22C 35/00 - 45/10
H01M 4/00 - 4/62
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiとAlとCrとの全体を100at%としたときに、Crを1at%以上20at%以下の範囲で含み、Alを40at%以上90at%以下の範囲で含み、残部をSiとする原料を溶融し急冷凝固させシリコン合金の前駆体を得る前駆体工程と、
前記シリコン合金に含まれるAl成分を除去して多孔質シリコン材料を得る多孔化工程と、
を含む多孔質シリコン材料の製造方法。
【請求項2】
前記多孔化工程では、酸又はアルカリによってAl成分を選択的に除去する、請求項1に記載の多孔質シリコン材料の製造方法。
【請求項3】
前記多孔化工程では、SiCr化合物及び/又はAlSiCr化合物を含む前記多孔質シリコン材料を得る、請求項1又は2に記載の多孔質シリコン材料の製造方法。
【請求項4】
前記多孔化工程では、細孔率が30体積%以上85体積%以下の範囲の前記多孔質シリコン材料を得る、請求項1~3のいずれか1項に記載の多孔質シリコン材料の製造方法。
【請求項5】
前記前駆体工程では、基本組成式Al
100-x-ySi
xCr
yにおいて、x/yが3以上10以下の範囲である原料を用いる、請求項1~4のいずれか1項に記載の多孔質シリコン材料の製造方法。
【請求項6】
前記前駆体工程では、前記シリコン合金の溶湯をガスアトマイズ法、水アトマイズ法及びロール急冷法のうちいずれかの方法で平均粒径が0.1μm以上100μm以下の範囲に粒子化する、請求項1~5のいずれか1項に記載の多孔質シリコン材料の製造方法。
【請求項7】
水銀圧入法で求めた平均細孔径が60nm以下の範囲であり、空隙を有する三次元網目構造の骨格状シリコンを含み、SiCr化合物及び/又はAlSiCr化合物を含み、細孔率が30体積%以上85体積%以下の範囲である、
多孔質シリコン材料。
【請求項8】
前記SiCr化合物であるCrSi
2をSi相に対して5mol%以上20mol%以下の範囲で含有する、請求項7に記載の多孔質シリコン材料。
【請求項9】
水銀圧入法で求めた1μm以下の細孔が20体積%以上である、請求項7又は8に記載の多孔質シリコン材料。
【請求項10】
水銀圧入法で求めた細孔径が5nm以上300nm以下の範囲である、請求項7~9のいずれか1項に記載の多孔質シリコン材料。
【請求項11】
正極活物質を含む正極と、
請求項7~10のいずれか1項に記載の多孔質シリコン材料を負極活物質として含む負極と、
前記正極と前記負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えた蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、多孔質シリコン材料の製造方法、多孔質シリコン材料及び蓄電デバイスを開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコンの負極材料において、塊状のSiを70質量部とAl粉末を30質量部混合したのちアルゴン雰囲気下で合金溶湯と、ヘリウムガスによるガスアトマイズ法で粒子化したのち、塩酸でAlを除去して得られた多孔質シリコンが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この多孔質シリコンでは、充放電時の活物質体積の膨張収縮による微粉化、集電体からの活物質の剥離や導電材との接触の欠如を完全に抑制することができるとしている。また、シリコン材料の製造方法としては、Mg、Co、Cr、Cu、Feなどを含む中間合金元素と、SiとのSi合金を、所定の溶湯元素を含む溶湯中で中間合金元素と溶湯元素とを置換した第2相とSi微粒子とに分離させ、第2相を除去することによって、多孔質シリコン材料を得るものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。この多孔質シリコン材料では、高容量と高サイクル特性を有するものとすることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-214054号公報
【文献】特開2012-82125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の特許文献1の製造方法では、SiとAlとを含む合金を用いて多孔化しているが、Siの膨張収縮に基づく不具合の抑制に対しては、まだ十分ではなかった。特許文献2の多孔質シリコン材料の製造方法では、中間合金元素を含むシリコン合金を溶融し、所定の溶湯元素を含む溶湯中で置換する、即ち高温での処理が必要であり、簡便な製造工程が求められていた。
【0005】
本開示は、このような課題に鑑みなされたものであり、充放電特性の低下をより抑制することができる多孔質シリコン材料の製造方法、多孔質シリコン材料及び蓄電デバイスを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、AlとCrとを含むシリコン合金を作製し、Alを含む化合物を除去すると、より強固な構造を有するものとし、充放電特性の低下をより抑制することができる多孔質シリコン材料を得ることができることを見いだし、本開示の多孔質シリコン材料の製造方法、多孔質シリコン材料及び蓄電デバイスを完成するに至った。
【0007】
即ち、本開示の多孔質シリコン材料の製造方法は、
SiとAlとCrとの全体を100at%としたときに、Crを1at%以上20at%以下の範囲で含み、Alを40at%以上90at%以下の範囲で含み、残部をSiとする原料を溶融し急冷凝固させシリコン合金の前駆体を得る前駆体工程と、
前記シリコン合金に含まれるAl成分を除去して多孔質シリコン材料を得る多孔化工程と、
を含むものである。
【0008】
本開示の多孔質シリコン材料は、
水銀圧入法で求めた平均細孔径が60nm以下の範囲であり、空隙を有する三次元網目構造の骨格状シリコンを含み、SiCr化合物及び/又はAlSiCr化合物を含み、細孔率が30体積%以上85体積%以下の範囲であるものである。
【0009】
本開示の蓄電デバイスは、
正極活物質を含む正極と、
上述した多孔質シリコン材料を負極活物質として含む負極と、
前記正極と前記負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えたものである。
【発明の効果】
【0010】
本開示は、Siを含む材料において、充放電特性の低下をより抑制することができる。このような効果が得られる理由は以下のように推察される。例えば、リチウムイオン二次電池用シリコン負極は、理論容量が4199mAh/gであり、一般的な黒鉛の理論容量372mAh/gに比べ約10倍の値を示し、さらなる高容量化、高エネルギー密度化が期待されている。一方で、リチウムイオンを吸蔵したシリコンはLi4.4Siであり、リチウム吸蔵前のシリコンに対して約4倍まで体積が膨張する。本開示では、Si、Si-Cr化合物以外の元素あるいは化合物を選択的に溶解することによって、細孔サイズが小さく、空隙率の大きい多孔質シリコンを生産することができる。また、SiCr化合物以外の元素あるいは化合物を除去するだけで、大規模な設備が必要としなく、大気中で容易に多孔質シリコンを提供可能である。また、得られた多孔質シリコン材料は、SiCr化合物で強化された空隙を有する三次元網目構造の骨格状シリコンを有し、かつ平均細孔径が60nm以下である。このように細孔サイズは小さく、空隙率が大きく、さらに骨格が強化された多孔質シリコン材料は、リチウムイオン二次電池などの蓄電デバイスに用いた場合、体積の膨張・収縮が緩和され、サイクル特性を向上するなど、性能の高い蓄電デバイスを容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】25at%SiにおけるAl-Si-Cr状態図。
【
図2】融液液滴の冷却過程における最表面層の微細組織形成過程の模式図。
【
図3】Al
85-ySi
15Cr
yにおけるAl-Si-Cr状態図。
【
図4】Al
80-ySi
20Cr
yにおけるAl-Si-Cr状態図。
【
図5】Al
75-ySi
25Cr
yにおけるAl-Si-Cr状態図。
【
図6】Al
70-ySi
30Cr
yにおけるAl-Si-Cr状態図。
【
図7】Al
60-ySi
40Cr
yにおけるAl-Si-Cr状態図。
【
図8】Al-Si-Cr系組成における共晶組成の範囲の説明図。
【
図9】蓄電デバイス10の構造の一例を示す説明図。
【
図10】実験例1の多孔質シリコンの断面のSEM像。
【
図11】実験例2の多孔質シリコンの断面のSEM像。
【
図12】実験例1、2の酸処理前後のXRD測定結果。
【
図13】実験例1、2、16の多孔質シリコン材料の細孔分布曲線。
【
図14】実験例3~11のx/yに対するSi相含有量の関係図。
【
図15】CrSi
2相の割合とプレス後の細孔率変化量との関係図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(多孔質シリコン材料の製造方法)
本開示の多孔質シリコン材料の製造方法は、前駆体工程と、多孔化工程とを含む。前駆体工程では、SiとAlとCrとを含む原料を溶融し急冷凝固させシリコン合金の前駆体を得る処理を行う。多孔化工程では、シリコン合金に含まれるAl成分を除去して多孔質シリコン材料を得る処理を行う。まず、原料組成について説明する。
【0013】
図1は、25at%SiにおけるAl-Si-Cr状態図である。
図2は、融液液滴の冷却過程における最表面層の微細組織形成過程の模式図である。SiCr化合物である CrSi
2の強度はSiの2倍程度あるため、Si骨格中に強化相としてCrSi
2を共存させることで、骨格強度を向上することができる。Cr添加による細孔の微細化は、Al-Si-Cr系の状態図の特徴が影響している。ここでは、合金融液をガスアトマイズ法で冷却する場合を一例として説明する。ガスアトマイズ法ではノズル先端の穴から高温の融液を高圧ガス中に噴射して冷却する。この時、融液(
図1(1))を冷却し
図1(2)の温度になると温度の低い液滴表面から最初にCrSi
2が晶出するが(
図2(2))、CrSi
2は融液との共存温度領域(
図1(3))で徐々に粗大化する(
図2(3))。その際、CrSi
2があまりに粗大化すると生成するシリコン粉末の周囲を殻状に不活性なCrSi
2が覆うことになり(
図2(3-2))、活物質表面にキャリアイオン(Li)の伝導パスが少なくなるため好ましくない。しかし、AlSiCr系の状態図では
図1(4)の温度まで冷却されるとCrSi
2が分解される(包晶反応)と同時にSiとAl
13Si
4Cr
4が析出するので(共晶反応)、活物質表面に活性なキャリアイオンの伝導パス(即ち、Si相)が形成されるためより好ましい。更に、この包晶反応は一般に、L+CrSi
2⇒Al
13Si
4Cr
4の様に、融液と固相が反応して、別の固相が生成する反応を指すが、固相粒子の表面から反応が進行するため、
図2(4)に示すように、微細なCrSi
2粒子の周りを、Al
13Si
4Cr
4とSiの殻が被覆するような組織ができやすく、より細かい微細構造が実現される。即ち、Si粒子や強化相CrSi
2の細かさに加えて、細孔源となるAl合金も微細化される。更に、強化相、Si、比酸化除去相(Al)の析出温度差が比較的小さい(~350℃)ため、それらの粒子の結晶成長が小さく、ナノサイズの微細構造を実現できる。なお、凝固組織はSiCr化合物、AlSiCr化合物、AlCr化合物、共晶Si、初晶Si、初晶Alからなるラメラ組織を形成する。酸に溶出する化合物としては、初晶Al、AlSiCr化合物、AlCr化合物が挙げられ、酸処理後の構造は、残存するSiCr化合物、共晶Si、初晶Siからなる骨格状の多孔体が得られるものと推察される。
【0014】
図3~
図7は、Si及びCrの含有量を変化させた場合のAl-Si-Cr系合金の状態図である。
図3は、Al
85-ySi
15Cr
yにおけるAl-Si-Cr状態図である。
図4は、Al
80-ySi
20Cr
yにおけるAl-Si-Cr状態図である。
図5は、Al
75-ySi
25Cr
yにおけるAl-Si-Cr状態図である。
図6は、Al
70-ySi
30Cr
yにおけるAl-Si-Cr状態図である。
図7は、Al
60-ySi
40Cr
yにおけるAl-Si-Cr状態図である。
図8は、Al-Si-Cr系組成における共晶組成の範囲の説明図である。一般に、ナノコンポジット化による強度改善を実現するためには、CrSi
2相などの強化相がなるべく微細であることが必要とされる、その実現のためには、Al-Si-Cr系合金の状態図において、Siと強化相であるシリサイドの晶出温度が近いことが好ましい。即ち、Siと強化相であるシリサイドが共晶反応で同時析出する組成範囲が理想的である。
図3~7に示すように、Al
100-x-ySi
xCr
yの基本組成において、Si量xが20at%未満の場合、Siとシリサイドとが共晶反応で晶出する組成を示さない一方、Si量xが20at%以上、特に25at%以上の組成では、Cr量yに依存してL⇒Si+CrSi
2(共晶反応1)と、L⇒Si+Al
13Si
4Cr
4(共晶反応2)の共晶反応を生じる組成が存在する。
図8は、これらの共晶反応1,2を生じるSi量x及びCr量yの関係図であるが、斜線で示した組成領域では、SiとCrSi
2とが比較的近い温度で晶出することに加えて、CrSi
2+L⇒Al
13Si
4Cr
4の包晶反応が生じるため、より微細な再考構造が実現でき、特にサイクル特性が良好なポーラスシリコン材料を実現するために、より好ましい組成範囲であると推察される。
【0015】
(前駆体工程)
前駆体工程では、SiとCrとAlとの全体を100at%としたときに、Crを1at%以上20at%以下の範囲で含み、Alを40at%以上90at%以下の範囲で含み、残部をSiとする原料を用いることが好ましい。なお、原料には、不可避的不純物を含むものとしてもよい。不可避的不純物としては、Si,Cr、Alのいずれかの精製の際に不可避的に残存する成分であり、例えば、FeやC、Cu、Ni、Pなどが挙げられる。不可避的不純物は、より少ないことが好ましく、例えば、SiとCrとAlとの全体を100at%としたときに、5at%以下が好ましく、2at%以下がより好ましい。Crの配合比は、例えば、2at%以上が好ましく、3at%以上としてもよい。また、Crの配合比は、15at%以下が好ましく、12.5at%以下としてもよい。Alの配合比は、50at%以上が好ましく、55at%以上や60at%以上としてもよい。また、Alの配合比は、85at%以下が好ましく、80at%以下がより好ましく、77.5at%以下としてもよい。Siの配合比は、例えば、9at%以上が好ましく、12at%以上がより好ましく、20at%以上や25at%以上としてもよい。また、Siの配合比は、例えば、59at%以下が好ましく、50at%以下がより好ましく、40at%以下や30at%以下としてもよい。AlやCrをこのような範囲で含むシリコン合金では、空隙率をより高めると共に、より好適な形状、サイズの空隙を得ることができ好ましい。Alの含有量が多いと、溶融して合金としたあと、急速冷却するとAlの単相が大きく析出するので、多くの空隙を形成させることができる。この冷却速度は、より急冷であることが好ましく、例えば溶融状態から102℃/s以上108℃/s以下の範囲としてもよい。
【0016】
この工程において、基本組成式Al100-x-ySixCryにおいて、x/yが3以上10以下の範囲である原料を用いることが好ましい。Siの粉末は、黒からこげ茶色である。一方、CrSi2は銀色の金属間化合物であり、その粉末は黒色を呈している。x/yが3以上である場合は、Si材料の色は、シリコンと同じこげ茶色であり、酸化されておらず好ましい。酸化物が混入すると単位質量当たりのSiの実電池容量が低下するため好ましくない。即ち、x/yに関しては3以上がより好ましい。一方、Cr量が少ないとSiCr化合物による骨格の補強が弱くなるため、x/yは10以下が好ましく、8.5以下がより好ましく、6以下が更に好ましい。
【0017】
この工程において、原料を溶融する場合は、Arなど不活性ガス雰囲気中の高周波るつぼ溶融が好ましいが、いかなる溶融手法を用いても構わない。前駆体工程では、原料から得られた合金を粒子化するものとしてもよい。この粒子化処理では、シリコン合金の原料の溶湯を金型に鋳造して、得られたインゴットを破砕して粒子化するものとしてもよい。また、シリコン合金を粒子化する方法は、シリコン合金の溶湯をガスアトマイズ法、水アトマイズ法及びロール急冷法などのうち1以上としてもよい。ガスアトマイズ法及び水アトマイズ法では合金粉末が得られる。一方、ロール急冷法では薄帯合金が得られることから、その後粉砕して粉末にするものとしてもよい。ロール急冷法で得られた粉末は合金組織が微細となるため、溶出処理後に微細な細孔を有する多孔質シリコンを得ることができる。このうち、シリコン合金を粒子化する方法は、ガスアトマイズ法がより好ましい。ガスアトマイズでは、溶湯とする際にAr雰囲気で行うことが好ましく、粒子化の際は、ArやHe雰囲気下で行うことが好ましい。
【0018】
前駆体工程では、平均粒径が0.1μm以上100μm以下の範囲でシリコン合金を粒子化することが好ましい。この粒子は、例えば、平均粒径が0.5μm以上10μm以下であることが好ましく、1μm以上5μm以下がより好ましく、1μm以上3μm以下が更に好ましい。シリコン合金の粒子は、蓄電デバイスに求められる特性に応じて適宜選択すればよい。ここで、粒子の平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)で粒子を観察し、各粒子の長径をその粒子の直径として集計し、粒子数で除算して平均した値として求めるものとする。この粒子化処理で得られた粒子は、最終的に得ようとする多孔質粒子の集合体の平均粒径となる。
【0019】
この前駆体工程では、AlとCrとSiとに加えCa、Cu、Mg、Na、Sr及びPのうち1以上を含む第2元素を含む原料を用いてもよい。このうち、第2元素としては、Ca、Na及びSrのうち1以上が好ましい。第2元素は、AlやCrの含有量よりも少ないことが好ましく、例えば、シリコン合金の全体に対して。10質量%以下の範囲が好ましく、5質量%以下の範囲より好ましい。
【0020】
(多孔化工程)
多孔化工程では、上記作製したシリコン合金の粒子からSi以外の物質を除去する処理を行う。Si以外の物質としては、例えば、Alやその化合物、Crやその化合物などが挙げられる。この工程では、酸又はアルカリによってAl成分、即ちAl相やその化合物を選択的に除去することが好ましい。用いる酸またはアルカリは、シリコン合金中のシリコン以外の元素及び/又は化合物を溶出し、シリコンが溶出されないものが好ましく、塩酸、硫酸、水酸化ナトリウムなどが挙げられる。この酸又はアルカリは、水溶液とすることが好ましい。酸又はアルカリの濃度は、Alやその化合物、Crやその化合物を除去できる範囲であれば特に限定されず、例えば、1mol/L以上5mol/L以下の範囲などにすることができる。この除去処理は、例えば、30℃~60℃で加温するものとしてもよい。また、除去処理は、シリコン合金の粒子を酸又はアルカリ溶液に浸漬し、1~5時間程度で撹拌を行うことがこのましい。得られた多孔質シリコン材料は、その後、洗浄および乾燥を行う。
【0021】
多孔化工程では、Si以外の物質を85質量%以上100質量%以下の範囲で除去するものとしてもよい。例えば、AlやCr、その他の酸素などは、残存しても構わないが、電極活物質として利用する際には、充放電容量の観点からは、より少ない方が好ましい。また、AlやCrなどの成分は、シリコン骨格を補強し、耐久性向上の観点からは、所定量以上含まれることが、好ましい。この工程では、SiCr化合物を含む多孔質シリコン材料を得るものとしてもよい。SiCr化合物としては、例えば、SixCry(x、yは任意の数)としてもよく、CrSi2などが挙げられる。このSiCr化合物としてのCrSi2には、Siの一部をAlが置換した、Cr(Si,Al)2が含まれるものとしてもよい。また、AlSiCr化合物としては、例えば、AlaSibCrc化合物(a、b、cは任意の数)としてもよく、Al13Si4Cr4などが挙げられる。SiCr化合物は、酸又はアルカリに難溶であるものとしてもよい。
【0022】
多孔化工程では、Si相に対して、SiCr化合物を5mol%以上20mol%以下の範囲で含有する多孔質シリコン材料を得ることが好ましい。また、多孔質シリコン材料において、SiCr化合物は、7.5mol%以上含有することが好ましく、10mol%以上含有するものとしてもよい。また、多孔質シリコン材料において、SiCr化合物は、15mol%以下含有することが好ましく、12.5mol%以下含有するものとしてもよい。この工程ではCrSi2が残存する多孔質シリコン材料を得ることが好ましい。また、この工程では、AlSiCr化合物を10mol%以下、より好ましくは5mol%以下、更に好ましくは3mol%以下の範囲で含有する多孔質シリコン材料を得ることが好ましい。
【0023】
多孔化工程では、細孔率が30体積%以上85体積%以下の範囲の多孔質シリコン材料を得るものとしてもよい。この細孔率は、水銀ポロシメータで測定した値とする。この細孔率は、例えば、35体積%以上であることが好ましく、40体積%以上としてもよい。また、細孔率は、例えば、80体積%以下であることが好ましく、77.5体積%以下がより好ましく、75体積%以下としてもよい。細孔率は、より大きいとキャリアイオンの吸蔵時の体積変化に応答しやすく、より小さいと単位体積あたりに存在するSi量が多くなり、好ましい。
【0024】
(多孔質シリコン材料)
本開示の多孔質シリコン材料は、上述した製造方法で作製されたものとしてもよい。ここでは、多孔質シリコン材料の各物性などについて、上述した製造方法と同様であるものとしてその詳細な説明を省略する。この多孔質シリコン材料は、水銀圧入法で求めた平均細孔径が60nm以下の範囲であるものとする。この細孔径は、5nm以上300nm以下の範囲であることが好ましい。この細孔径は、10nm以上としてもよいし、20nm以上としてもよい。また、この細孔径は、50nm以下が好ましく、45nm以下としてもよい。細孔径が小さいと細孔がつぶれにくく好ましい。また、細孔が大きいと、キャリアイオンを吸蔵した際に体積変化をより抑制でき好ましい。
【0025】
多孔質シリコン材料は、空隙を有する三次元網目構造の骨格状シリコンを含み、SiCr化合物及び/又はAlSiCr化合物を含む。このSiCr化合物及びAlSiCr化合物は、シリコン骨格の補強を担うものと推察される。この多孔質シリコン材料は、Si相に対してSiCr化合物を5mol%以上20mol%以下の範囲で含有することが好ましい。また、この多孔質シリコン材料は、SiCr化合物を1質量%以上15質量%以下の範囲で含有することが好ましい。また、多孔質シリコン材料は、AlSiCr化合物を0.1質量%以上10質量%以下の範囲で含有することが好ましい。このSiCr化合物及びAlSiCr化合物は、骨格の補強を補う観点からはより多いことが好ましく、蓄電デバイスの充放電容量の観点からはより少ないことが好ましい。
【0026】
多孔質シリコン材料は、水銀圧入法で求めた細孔率が30体積%以上85体積%以下の範囲である。この細孔率は、例えば、35体積%以上であることが好ましく、40体積%以上としてもよい。また、細孔率は、例えば、80体積%以下であることが好ましく、77.5体積%以下がより好ましく、75体積%以下としてもよい。細孔率は、より大きいとキャリアイオンの吸蔵時の体積変化に応答しやすく、より小さいと単位体積あたりに存在するSi量が多くなり、好ましい。
【0027】
多孔質シリコン材料は、水銀圧入法で求めた1μm以下の細孔が20体積%以上であることが好ましい。多孔質シリコン材料では、このような微細な細孔がより多くあることが好ましい。この多孔質シリコン材料は、水銀圧入法で求めた1μm以下の細孔が30体積%以上あることがより好ましく、40体積%以上あることが更に好ましい。また、この多孔質シリコン材料は、水銀圧入法で求めた1μm以下の細孔が90体積%以下であるものとしてもよい。
【0028】
多孔質シリコン材料は、電極として1GPaの拘束圧を受けた際に、細孔変化量が25体積%よりも小さいことが好ましく、20体積%よりも小さいことがより好ましく、10体積%よりも小さいことが更に好ましい。多孔質シリコン材料は、拘束圧を受けた際に細孔の減少量がより小さいことが、骨格強度の観点から好ましい。
【0029】
多孔質シリコン材料は、平均粒径が0.1μm以上であることが好ましく、1μm以上がより好ましく、5μm以上としてもよい。また、この粒子は、平均粒径が10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましく、3μm以下が更に好ましい。この多孔質シリコン材料は、酸素や不可避的不純物を除き、Si、Al及びCrの全体を100at%としたときに、Siを70at%以上含むことが好ましい。このSiの含有率は、75at%以上がより好ましく、80at%以上が更に好ましく、85at%以上としてもよい。Siの含有率は、充放電容量の観点からはより高いことが好ましく、相対的な骨格補強の観点からはより低いものとしてもよい。Alの含有率は、0.5at%以上15at%以下の範囲が好ましく、12.5at%以下が好ましく、10at%以下がより好ましく、7.5at%以下としてもよい。また、Alの含有率は、1at%以上がより好ましく、2at%以上がより好ましく、2.5at%以上としてもよい。Crの含有率は、0.5at%以上20at%以下の範囲が好ましい。Crの含有率は、17.5at%以下がより好ましく、15at%以下が更に好ましく、12at%以下としてもよい。また、Crの含有率は、1at%以上がより好ましく、4.5at%以上がより好ましく、8at%以上が更に好ましい。AlやCrの含有率は、骨格の補強を補う観点からはより多いことが好ましく、充放電しない成分であるため、蓄電デバイスの充放電容量の観点からはより少ないことが好ましい。更に、多孔質シリコン材料は、15質量%以下の範囲で第2元素としてのCa、Cu、Mg、Na、Sr及びPのうち1以上を含むものとしてもよい。また、多孔質シリコン材料は、Si,Al,Crの他に、不可避的不純物を含むものとしてもよい。なお、第2元素や不可避的不純物は、より少ないことが好ましい。
【0030】
(蓄電デバイス用電極)
蓄電デバイス用電極は、上述した多孔質シリコン材料を電極活物質として備えたものである。この電極は、電極活物質の電位に対して対極の電位に基づいて正極又は負極のいずれかとなるが、リチウムをキャリアとする場合、負極とすることが好ましい。この電極は、例えば、リチウムイオン二次電池、ハイブリッドキャパシタ、空気電池などに利用することができる。蓄電デバイス用電極は、多孔質シリコン材料の細孔率が5体積%以上50体積%以下の範囲に圧縮されているものとしてもよい。この電極では、作製時に圧縮することにより、多孔質シリコン材料の細孔率が減少したものとしてもよい。例えば、多孔質シリコンの粒子をリチウムイオン二次電池の負極活物質として用いる場合、細孔が小さいほどリチウムイオンが合金化する際に、均一に合金化するため、応力集中が減少し、電極そのものの劣化を防ぐことが可能となる。この圧縮後の多孔質シリコン材料の細孔率は、蓄電デバイス用電極に求められる特性に応じて適宜調整すればよく、例えば、5体積%以上や、10体積%以上としてもよい。また、この圧縮後の多孔質シリコン材料の細孔率は、例えば、30体積%以下や、20体積%以下としてもよい。
【0031】
蓄電デバイス用電極は、集電体上に上述した多孔質シリコン材料を形成し、集電体上に固着したものとしてもよい。この電極は、多孔質シリコン材料を必要に応じて導電材や結着材と溶媒に混合しペースト状にして集電体上に塗布する工程か、多孔質シリコン材料を必要に応じて導電材や結着材と混合して集電体に圧着する工程により作製することができる。この電極において、多孔質シリコン材料の含有量は、より多いことが好ましく、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、85質量%以上が更に好ましい。導電材は、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。溶媒としては、例えばN-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。集電体は、活物質の電位などに応じて適宜選択すればよいが、例えば、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、銅、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1~500μmのものが用いられる。活物質複合体の形成量は、蓄電デバイスに求められる所望の性能に応じて適宜設定すればよい。
【0032】
この電極において、電極活物質は、低拘束圧と容量維持率との両立が可能な範囲において、多孔質シリコン材料に加えて、多孔質シリコン材料以外の活物質が含まれていてもよい。例えば、電極活物質として、炭素質材料やLi4Cr5O12などが含まれていてもよい。ただし、電池容量を一層増大させる観点から、電極活物質全体を100質量%として、例えば、多孔質シリコン材料が50質量%以上、好ましくは90質量%以上を占めることが好ましい。
【0033】
(蓄電デバイス)
本開示の蓄電デバイスは、上述した多孔質シリコン材料を有する電極を備えたものである。この蓄電デバイスは、正極と、負極と、正極及び負極の間に介在しキャリアイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えたものとしてもよい。多孔質シリコン材料は、負極活物質として用いることができる。この蓄電デバイスは、リチウムイオン二次電池、ハイブリッドキャパシタ、空気電池などのうちいずれかであるものとしてもよい。正極において、正極活物質としては、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などを用いることができる。具体的には、CrS2、CrS3、MoS3、FeS2などの遷移金属硫化物、基本組成式をLi(1-x)MnO2(0<x<1など、以下同じ)やLi(1-x)Mn2O4などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)CoO2などとするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiO2などとするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiaCobMncO2(a+b+c=1)などとするリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、基本組成式をLiV2O3などとするリチウムバナジウム複合酸化物、基本組成式をV2O5などとする遷移金属酸化物などを用いることができる。これらのうち、リチウムの遷移金属複合酸化物、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、Li(1-x)Ni1/3Co1/3Mn1/3O2などが好ましい。なお、「基本組成式」とは、AlやMgなど他の元素を含んでもよい趣旨である。あるいは、正極活物質は、キャパシタやリチウムイオンキャパシタなどに用いられている炭素質材料としてもよい。炭素質材料としては、例えば、活性炭類、コークス類、ガラス状炭素類、黒鉛類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維類、カーボンナノチューブ類、ポリアセン類などが挙げられる。このうち、高比表面積を示す活性炭類が好ましい。炭素質材料としての活性炭は、比表面積が1000m2/g以上であることが好ましく、1500m2/g以上であることがより好ましい。比表面積が1000m2/g以上では、放電容量をより高めることができる。この活性炭の比表面積は、作製の容易性から3000m2/g以下であることが好ましく、2000m2/g以下であることがより好ましい。正極に用いられる導電材や結着材、溶媒、集電体などは、上述した電極で例示したものを適宜利用することができる。
【0034】
イオン伝導媒体としては、支持塩を含む非水系電解液や非水系ゲル電解液などを用いることができる。非水電解液の溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、フラン類、スルホラン類及びジオキソラン類などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。具体的には、カーボネート類としてエチレンカーボネートやプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチル-n-ブチルカーボネート、メチル-t-ブチルカーボネート、ジ-i-プロピルカーボネート、t-ブチル-i-プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート類、γ-ブチルラクトン、γ-バレロラクトンなどの環状エステル類、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸メチルなどの鎖状エステル類、ジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジエトキシエタンなどのエーテル類、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、などのフラン類、スルホラン、テトラメチルスルホランなどのスルホラン類、1,3-ジオキソラン、メチルジオキソランなどのジオキソラン類などが挙げられる。このうち、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類との組み合わせが好ましい。この組み合わせによると、充放電の繰り返しでの電池特性を表すサイクル特性が優れているばかりでなく、電解液の粘度、得られる電池の電気容量、電池出力などをバランスの取れたものとすることができる。支持塩は、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiSbF6、LiSiF6、LiAlF4、LiSCN、LiClO4、LiCl、LiF、LiBr、LiI、LiAlCl4などが挙げられる。このうち、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4などの無機塩、及びLiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3などの有機塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の塩を組み合わせて用いることが電気特性の点から見て好ましい。この支持塩は、非水電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。支持塩を溶解する濃度が0.1mol/L以上では、十分な電流密度を得ることができ、5mol/L以下では、電解液をより安定させることができる。また、この非水電解液には、リン系、ハロゲン系などの難燃剤を添加してもよい。
【0035】
また、液状のイオン伝導媒体の代わりに、固体のイオン伝導性ポリマーをイオン伝導媒体として用いることもできる。イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、アクリロニトリル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルメタクリレート、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、フッ化ビニリデンなどのポリマーと支持塩とで構成されるポリマーゲルを用いることができる。更に、イオン伝導性ポリマーと非水系電解液とを組み合わせて用いることもできる。また、イオン伝導媒体としては、イオン伝導性ポリマーのほか、無機固体電解質あるいは有機ポリマー電解質と無機固体電解質の混合材料、若しくは有機バインダーによって結着された無機固体粉末などを利用することができる。
【0036】
蓄電デバイスは、負極と正極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、リチウム二次電池の使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0037】
この蓄電デバイスの形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。
図9は、蓄電デバイス10の構造の一例を示す説明図である。この蓄電デバイス10は、正極12と、負極15と、イオン伝導媒体18とを有する。正極12は、正極活物質13と、集電体14とを有する。負極15は、負極活物質16と、集電体17とを有する。負極活物質16は、上述した多孔質シリコン材料21であり、空隙23を有する。
【0038】
この蓄電デバイスは、充放電サイクルを行った際の容量維持率がより高いことが好ましく、例えば、10サイクルでの容量維持率が95%以上が好ましく、97.5%以上がより好ましく、98%以上であることが更に好ましい。
【0039】
(全固体リチウムイオン二次電池)
この蓄電デバイスは、全固体リチウムイオン二次電池とすることが好ましい。全固体電池では、電解液による性能の変化をより抑制することができ、更に安全性を高めることができ好ましい。この全固体リチウムイオン二次電池は、正極活物質を含む正極と、上述した蓄電デバイス用電極である負極と、正極と負極との間に介在しリチウムイオンを伝導する固体電解質と、を備えたものとしてもよい。正極は、上述した蓄電デバイスに示したいずれかを用いることができる。また、負極は、上述した蓄電デバイス用電極を用いることができる。
【0040】
固体電解質は、例えば、LiとLaとZrと少なくとも含むガーネット型酸化物としてもよい。この固体電解質は、基本組成がLi7.0+x-y(La3-x,Ax)(Zr2-y,Ty)O12であるものとしてもよい。但し、AはSr、Caのうち1種以上であり、TはNb、Taのうち1種以上であり、0<x≦1.0、0<y<0.75を満たすものである。あるいは、固体電解質は、基本組成(Li7-3z+x-yMz)(La3-xAx)(Zr2-yTy)O12や、(Li7-3z+x-yMz)(La3-xAx)(Y2-yTy)O12で表されるガーネット型酸化物であるものとしてもよい。但し、式中、元素MはAl,Gaのうち1以上、元素AはCa,Srのうち1以上、TはNb,Taのうち1以上であり、0≦z≦0.2、0≦x≦0.2、0≦y≦2であるものとしてもよい。この基本組成式において、0.05≦z≦0.1を満たすことがより好ましい。この基本組成式において、0.05≦x≦0.1を満たすことがより好ましい。また、この基本組成式において、0.1≦y≦0.8を満たすことがより好ましい。このような範囲では、イオン伝導度をより好適なものとすることができる。
【0041】
あるいは、固体電解質としては、例えば、一般的な、Li3N、LISICONと呼ばれるLi14Zn(GeO4)4、硫化物のLi3.25Ge0.25P0.75S4、ペロブスカイト型のLa0.5Li0.5CrO3、(La2/3Li3x□1/3-2x)CrO3(□:原子空孔)、ガーネット型のLi7La3Zr2O12、NASICON型と呼ばれるLiCr2(PO4)3、Li1.3M0.3Cr1.7(PO3)4(M=Sc,Al)などが挙げられる。また、ガラスセラミックスである80Li2S・20P2S5(mol%)組成のガラスから得られたLi7P3S11、さらに硫化物系で高い導電率を持つ物質であるLi10Ge2PS2なども挙げられる。ガラス系無機固体電解質ではLi2S-SiS2、Li2S-SiS2-LiI、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li2S-SiS2-Li4SiO4、Li2S-P2S5、Li3PO4-Li4SiO4、Li3BO4-Li4SiO4、そしてSiO2、GeO2、B2O3、P2O5をガラス系物質としてLi2Oを網目修飾物質とするものなどが挙げられる。また、チオリシコン固体電解質としてLi2S-GeS2系、Li2S-GeS2-ZnS系、Li2S-Ga2S2系、Li2S-GeS2-Ga2S3系、Li2S-GeS2-P2S5系、Li2S-GeS2-SbS5系、Li2S-GeS2-Al2S3系、Li2S-SiS2系、Li2S-P2S5系、Li2S-Al2S3系、LiS-SiS2-Al2S3系、Li2S-SiS2-P2S5系などが挙げられる。これらの固体電解質は、板状に形成して正極と負極との間に配置するものとしてもよい。
【0042】
また、全固体リチウムイオン二次電池は、正極、固体電解質及び負極を積層した積層体を積層方向に対して拘束する拘束部材を備えるものとしてもよい。この拘束部材は、例えば、積層体の積層方向の両端側から積層体を挟む1対の板状部と、1対の板状部を連結する棒状部と、棒状部に連結されネジ構造等によって1対の板状部の間隔を調整する調整部とを備えるものとしてもよい。
【0043】
以上詳述したように、本開示は、Siを含む材料において、充放電特性の低下をより抑制することができる。このような効果が得られる理由は以下のように推察される。例えば、Al-Si-Crの三元系合金からAlを含む化合物を除去することによって、ナノサイズの細孔を有し、ナノサイズのSiCr化合物で骨格を強化された高強度の多孔質シリコン材料を容易に多量生産することができる。ナノ細孔は、充放電時のシリコンの膨張、収縮に伴う応力を緩和する。同時に、シリコン骨格中にキャリアイオンに対して不活性なSiCr化合物を導入することで骨格強度を向上させ充放電時の膨張、収縮に伴う応力でシリコンの細孔構造が潰れるのを防ぐことができるため、充放電サイクル特性を改善することができる。また、AlSi合金にCrを添加することによって、同様のAlSi二元系合金を急冷凝固、酸処理して作製した多孔質シリコンと比べて、細孔サイズを微細化することができるため、残留応力による細孔構造の潰れ抑制効果を向上することができる。
【0044】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0045】
以下には、本開示の多孔質シリコンおよび蓄電デバイスを具体的に作製した例を実験例として説明する。実験例1~13が本開示の実施例であり、実験例14~17が比較例である。
【0046】
[多孔質シリコン材料の作製]
(実験例1、2)
Al、SiおよびCrの原料を基本組成式Al100-x-ySixCry(x=10~40、y=2~15)の組成になる様に秤量し、アーク溶融炉で溶融した。溶融前にアーク溶融炉内は8×10-3Pa以下まで減圧後、Arガス置換した。母合金の作製には、原料粉末の溶融が必要であり、均一な試料を作製するために高周波溶融を行った。得られた母合金をAr雰囲気中で1000~1300℃に加熱して溶融し、ガスアトマイズ法を用いて102K/sec以上の速度で急冷凝固処理しAlSiCr合金粉末を得た(前駆体工程)。得られた合金を3Nの塩酸水溶液に浸漬し、50℃で5時間処理して、Alを選択除去した。残差をろ過フィルターに移し、加圧濾過法により処理後の酸を除去した後で、蒸留水で4回以上洗浄し、同様の加圧濾過法で洗浄水を除去して多孔質シリコンを得た(多孔化工程)。上記基本組成式のx=25、y=3とする母合金組成Al72Si25Cr3から得られた多孔質シリコン材料を実験例1とした。また、x=30、y=7.5とする母合金組成Al62.5Si30Cr7.5から得られた多孔質シリコン材料を実験例2とした。
【0047】
(実験例3~13)
上記基本組成式のx=15、y=5とする母合金組成から、単ロール法で急冷凝固後に、酸処理で多孔化した以外は実験例1と同様の工程を経て得られた多孔質シリコン材料を実験例3とした。上記基本組成式のx=15、y=7.5とする母合金組成から実験例3と同様の工程を経て得られた多孔質シリコン材料を実験例4とした。上記基本組成式のx=15、y=10とする母合金組成から実験例3と同様の工程を経て得られた多孔質シリコン材料を実験例5とした。また、上記基本組成式のx=20、y=5とする母合金組成から実験例3と同様の工程を経て得られた多孔質シリコン材料を実験例6とした。上記基本組成式のx=20、y=10とする母合金組成から実験例3と同様の工程を経て得られた多孔質シリコン材料を実験例7とした。上記基本組成式のx=20、y=12.5とする母合金組成から実験例3と同様の工程を経て得られた多孔質シリコン材料を実験例8とした。また、上記基本組成式のx=25、y=5とする母合金組成から実験例3と同様の工程を経て得られた多孔質シリコン材料を実験例9とした。上記基本組成式のx=25、y=10とする母合金組成から実験例3と同様の工程を経て得られた多孔質シリコン材料を実験例10とした。上記基本組成式のx=25、y=12.5とする母合金組成から実験例3と同様の工程を経て得られた多孔質シリコン材料を実験例11とした。また、上記基本組成式のx=12、y=3とする母合金組成から実験例3と同様の工程を経て得られた多孔質シリコン材料を実験例12とした。上記基本組成式のx=18、y=3とする母合金組成から実験例3と同様の工程を経て得られた多孔質シリコン材料を実験例13とした。
【0048】
(実験例14~17)
二元系の基本組成式Al100-xSixのx=12とする母合金組成Al88Si12をガスアトマイズにて急冷凝固したのち、酸処理多孔化するという、実験例1と同様の工程を経て得られた多孔質シリコン材料を実験例14とした。二元系の基本組成式のx=20とする母合金組成から実験例14と同様の工程を経て得られた多孔質シリコン材料を実験例15とした。二元系の基本組成式のx=26とする母合金組成から実験例14と同様の工程を経て得られた多孔質シリコン材料を実験例16とした。また、平均粒径が5μmのSi粉末を実験例17とした。
【0049】
(多孔質シリコン材料の物性測定)
酸処理後の多孔質シリコン粉末を走査電子顕微鏡(SEM,HITACHI製S-4300)およびエネルギー分散型X線分析(EDAX,HITACHI製S-4300)で観察、元素分析を行った。また、X線回折装置(リガク社製RINT-TTR)を使用し、Cu管球で、2θ=10°~80°の範囲で、5°/分の速度でX線回折測定を行った。Si相、Al相、CrSi2相、Al13Cr4Si4相の各相の割合は、アルミナ標準物質を用いて各相のXRDピーク強度比から質量割合で計算した。また、水銀ポロシメータ(カンタクローム製POWERMASTER60GT)で細孔分布を測定した。酸処理後の多孔質シリコン粉末をHFとHNO3とで溶解し、ICP発光分光分析(ICP-OES,日立ハイテクサイエンス製PS3520UVDDII II)で元素分析を行った。
【0050】
図10は、実験例1の多孔質シリコンの断面の二次電子像(SEM像)である。
図11は、実験例2の多孔質シリコンの断面の二次電子像(SEM像)である。シリコン化合物中のAlおよびAl合金相を酸で溶出させることにより、ボイドを形成し、多孔質シリコン粒子が得られることが分かった。
【0051】
図12は、実験例1、2の酸処理前後のXRD測定結果である。なお、酸処理前の実験例1,2は、空気中、400℃で加熱処理した試料の測定結果を示し、酸処理後の実験例1、2は、空気中、200℃加熱処理した試料の測定結果を示した。実験例1、2の組成の母合金をガスアトマイズ法で急冷凝固した粉末では、XRDパターン中にAlとSiとの回折ピークしか確認されず、強化相はアモルファス状態で存在していること分かった。このアトマイズ粉末を400℃以上で加熱処理すると、
図8に示すように、Al
13Si
4Cr
4が結晶化し、平衡状態図から予想される生成相と一致した。また、酸処理後の試料においても、Siのみの回折ピークしか確認できなかったが、200℃以上で加熱処理することにより、強化相としてCrSi
2相が結晶化するのが確認された。CrSi
2は骨格の強化のために導入しているが、その割合が多すぎると、負極活物質であるSiの割合が少なくなるため容量が低下してしまう。これらの粉末試料に対して、αアルミナを標準試料として加えて含有相の割合を定量評価したところ、酸処理により多孔化した実験例1、2のSi含有量は、それぞれ76質量%および58質量%であった。また、強化相CrSi
2の割合は、それぞれ24質量%および42質量%であった。Al
13Si
4Cr
4は酸処理後の試料中には確認されず、酸処理で溶解したものと推察された。このように、急冷後の状態で強化相がアモルファス状態の場合もあったが、加熱処理しない状態でも強化相が結晶化している場合もあった。なお、この例では、相同定のために加熱処理を行っているが、強化相がアモルファス状態の場合でも骨格補強効果が確認できるため、負極材として、特に加熱処理は必要はない。ただし、加熱処理でSiの結晶性が向上することで電池特性が向上する可能性があるため加熱処理して使用してもよいものと推察された。
【0052】
図13は、実験例1、2、16の多孔質シリコン材料の細孔分布曲線である。母合金を急冷凝固後、酸処理で多孔化した試料に関して水銀ポロシメーターにより、細孔径分布を評価した。また、細孔径分布データ中の各サイズの細孔の体積分率の値から平均細孔径を求めた。一般に、多孔質材料の粉末には粒子内の細孔と粒子間の細孔が含まれるが、細孔径分布のデータでは、両者を区別することができない。本実施例では、酸処理前の試料と酸処理後の試料の細孔径分布のデータを比較することにより、粒子内の細孔と粒子間細孔とを区別した。実験例16の二元系合金では、粒子内細孔の分布ピークが100nm付近に存在し、平均細孔径が121nmであった。これに対して、Crを加えた実験例1,2では、細孔径の分布ピークの中心が30nm以下に移動し、平均細孔径も、35nm以下まで小さくなることが分かった。Siの充放電時の膨張・収縮変化を4倍に見積もると、満充電時の体積膨張を完全に緩和するためには75体積%以上の細孔が必要である。細孔率がこの値よりも小さくなると単位質量当たりのSi容量が向上するため好ましい。細孔率が75体積%よりも小さい場合、Siの含有量が多くなるため高容量となる一方、ある程度、体積膨張を緩和することもできる。
【0053】
更に、母合金組成が細孔構造や生成相に及ぼす影響に関して検討した結果を説明する。SiとCrSi
2との生成量は母合金のSi量xとCr量yとの割合x/yによって変化する。負極容量に重要なSi含有量を把握するため、x/yの値を様々に変化させた母合金を作製し、単ロール法で急冷凝固後に、酸処理で多孔化した試料を作製した。表1に、x/yとSi含有量との関係をまとめた。
図14は、実験例3~11のx/yに対するSi相含有量の関係図である。
図14に示すように、Si含有量はSi量にも依存するが、x/yの値が小さくなるほどSi含有量は低下する傾向があることが分かった。Siの大きな電池容量を活かすためにはSi含有量が50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましいものと推察された。
【0054】
また、表1には、酸処理後の試料の色から求めた酸化性についても示した。これらの実験例3~13の多孔体に関してXRDで同定できたのはSiとCrSi2のみであった。一般にSiの粉末は黒からこげ茶色である。一方、CrSi2は銀色の金属間化合物であり、その粉末は黒色を呈している。x/yが3以上である場合は、作製した試料の色は、シリコンと同じこげ茶色であった。他方、x/yが3よりも小さくなると試料の色が白~薄灰色に変化した。このことは、XRDでは検出できないアモルファス状態の酸化物相が試料中に含まれていることを示唆している。ICPによる組成分析の結果、これらの試料には25~50at%の酸素が含まれることが分かった。酸化物が混入すると単位質量当たりのSiの実電池容量が低下するため好ましくない。即ち、x/yに関しては3以上がより好ましい。他方、x/yの値を変化させても平均細孔径の大きさはあまり変化せず、40~60nm程度であることが分かった。
【0055】
更に、実験例1~13の多孔質シリコン材料に対して、EDXで組成分析を行った。上述したように、x/yが小さい試料では、酸素を多く含むが、ここでは、多孔体中の酸素を除いた元素、即ち、Si,Cr,Alの元素比を表1にまとめた。いずれの実験例でも、Si量は75~96at%程度であり、Cr量は3~15at程度であった。多孔体のXRDでは、Si相とCrSi2相のみが確認され、Alを含む相は確認されなかったが、これらの実験例では、Alを2~12at%程度含むことがわかった。測定されたCrSi2の回折ピーク位置は、純粋なCrSi2のピーク位置に比して少し変化しており、Cr(Si,Sl)2相としてAlが生成相の中に固溶して存在しているものと推察された。
【0056】
【0057】
次に、必要な細孔率に関して説明する。上述した様にSiがLiと完全に反応すると体積が4倍に膨張する。その場合、例えば、Siの体積が25cm3に仮定すると100cm3の体積になるため、75cm3即ち、75体積%の細孔率が必要になる。これは、活物質中のSi量が100質量%の場合であるが、Siの含有量が変化すると必要な細孔率も変化する。表2に、各Si含有量に対して、必要な細孔率をまとめた。Siの高容量を使用するためには50質量%以上のSi容量が好ましいが、その場合必要な細孔率は60体積%である。即ち、好ましい細孔率の範囲は60体積%~75体積%である。ただし、Si骨格にはある程度の強度があるため、細孔率が60体積%よりも小さくても細孔構造が直ぐに壊れるわけではない。
【0058】
【0059】
細孔構造の強度は、骨格中にシリサイドを導入することで改善可能である。次にそのことについて説明する。細孔構造の強度を比較するため、作製した多孔体試料を超硬製の金型に充填し、1GPaで一軸加圧した。そして、加圧前後の試料の細孔径分布のデータから細孔率を評価した。比較として、Crを含まない二元系のAlSi合金を急冷凝固酸処理して作製した多孔体試料に関しても同様に細孔率の圧力変化を評価した(実験例14~16)。表3に実験例6、9、12、14~16の測定結果をまとめた。いずれの試料においても、1GPaで加圧した後は、細孔の一部が潰れて、細孔率が小さくなった。しかし、それぞれSi仕込み量xが近い二元系の試料と比べてCrを加えた三元系の試料では細孔率の変化量は小さくなっており、Crの導入により細孔構造が強化されることが分かった。組成によって細孔率の変化挙動には差があるが、Cr無添加の場合と比べて、2~15体積%程度の細孔率が余分に生き残っており、その分、細孔率が小さくなってもよいことが示唆された。即ち、Crを導入した試料では、50質量%のSi含有量の負極活物質でも45体積%程度の細孔率があれば残留応力による細孔潰れに耐えられる可能性があることが示唆された。
【0060】
【0061】
次に、必要な強化相CrSi
2の割合に関して説明する。
図15は、CrSi
2相の割合(mol%)とプレス後の細孔率変化量(体積%)との関係図である。
図15では、強化相CrSi
2の含有量が、1GPaでの加圧後の細孔率変化に及ぼす効果が示される。細孔率の潰れ具合は、初期細孔率の大きさの影響を受ける。初期細孔率が小さいほど加圧後の細孔率変化は小さくなった。同程度の細孔率の試料で比較した場合、CrSi
2強化相が増えるほど細孔率変化量が小さくなる傾向が確認された。
【0062】
(非水系電解液を用いたリチウムイオン二次電池の作製)
実施例1、2及び17のシリコン材料を負極活物質に用いたリチウムイオン二次電池を作製し、放電容量などの電池と癖を評価した。負極活物質を60質量%と、導電材として平均粒径2μmのアセチレンブラックを20質量%と、ポリイミド20質量%とを混合し、N-メチルピロリドンを加えて攪拌し、スラリーを調製した。次にこのスラリーを厚さ20μmの銅箔上に塗布して乾燥し、これを圧延して厚さ50μmの負極電極を作製した。作製した負極電極を直径16mmの円形に打ち抜き、この負極電極に多孔質ポロエチレン製セパレータを挟んで対極として金属リチウムを重ね、電解液を注液することにより、トムセル型小型電池セルであるリチウム二次電池を製造した。電解液は、フルオロエチレンカーボネート/炭酸エチレン/炭酸ジメチル/炭酸エチルメチル(FEC/EC/DMC/EMC)を体積比で1.5:3:4:3とする混合溶媒に、LiPF6を1mol/Lの濃度で添加したものとした。得られたリチウム二次電池に対して、電池電圧0.005 V~1.5Vの範囲で0.2Cの電流密度による充放電を10サイクル繰り返し行った。
【0063】
(非水系電解液を用いたリチウムイオン二次電池の特性)
表4に、負極活物質の母合金組成と、初回放電容量、10サイクル後放電容量、10サイクル後の容量維持率とをまとめた。実験例17では容量維持率が28%と低いのに対して、実験例1、2の二次電池では、容量維持率がおおよそ99%と良好であることがわかった。ただし、x/y=8.33の場合には、放電容量自体も比較的高いが、x/y=4と小さい実験例2では、放電容量が実験例1の半分程度であった。
【0064】
【0065】
なお、本開示は上述した実験例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本開示は、二次電池の技術分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0067】
10 蓄電デバイス、12 正極、13 正極活物質、14 集電体、15 負極、16 負極活物質、17 集電体、18 イオン伝導媒体、21 多孔質シリコン材料、23 空隙。