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特許7522093カチオン性ポリウレタンからの酸性染色可能なスパンデックス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】カチオン性ポリウレタンからの酸性染色可能なスパンデックス
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/94 20060101AFI20240717BHJP
   D01F 6/70 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
D01F6/94 A
D01F6/70
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021500234
(86)(22)【出願日】2019-07-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-25
(86)【国際出願番号】 US2019040445
(87)【国際公開番号】W WO2020010168
(87)【国際公開日】2020-01-09
【審査請求日】2022-06-24
(31)【優先権主張番号】62/694,754
(32)【優先日】2018-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519355758
【氏名又は名称】ザ ライクラ カンパニー ユーケー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】230117802
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100184181
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 裕史
(72)【発明者】
【氏名】セリア,アルベルト
(72)【発明者】
【氏名】リウ,ホン
(72)【発明者】
【氏名】スミス,スティーブン ダブリュ.
(72)【発明者】
【氏名】スタノ,ケリー エル.
(72)【発明者】
【氏名】ワルドバウアー,ジュニア,ロバート オー.
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-236150(JP,A)
【文献】特表2004-531659(JP,A)
【文献】英国特許出願公告第01145200(GB,A)
【文献】中国特許第105420843(CN,B)
【文献】米国特許第06339125(US,B1)
【文献】特開平05-320331(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/00 - 18/87
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 - 101/14
D01F 6/70
D01F 6/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セグメント化ポリウレタンおよび/またはポリウレタン尿素と、N,N-ジアルキル-N,N-ジアルカノールアンモニウムアルキルスルホネートを含むカチオン性ポリウレタンを含む組成物と、を含むフィラメントまたは繊維。
【請求項2】
前記カチオン性ポリウレタンが第四級化アルキルアンモニウムスルホネートポリウレタンポリマーである、請求項1に記載のフィラメントまたは繊維。
【請求項3】
製造物品であって、少なくともその一部が、請求項1または2に記載のフィラメントまたは繊維を含む、製造物品。
【請求項4】
スパンデックスの染色性および洗濯堅牢度を改善する方法であって、前記方法は、セグメント化ポリウレタンにN,N-ジアルキル-N,N-ジアルカノールアンモニウムアルキルスルホネートを含有するカチオン性ポリウレタンを添加することを含む、方法。
【請求項5】
前記カチオン性ポリウレタンが第四級化アルキルアンモニウムスルホネートポリウレタンポリマーである、請求項4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ポリウレタン添加経路によって組み込まれた第四級アミン添加剤を含有するスパンデックス、ならびに酸性染料で染色したときに改善された洗濯堅牢度を有するスパンデックスフィラメントおよび繊維ならびにこのスパンデックス、フィラメントおよび/または繊維から調製される製造物品に関する。スパンデックスの生産方法も開示される。
【背景技術】
【0002】
酸性染料は容易に入手可能であり、良好な光堅牢度および適用の容易さを有することが知られている。しかしながら、これらの染料をスパンデックスに適用した場合、染色された繊維の不十分な洗濯堅牢度により問題が発生する可能性がある。さらに、染色が生じる低いpHは、染色装置に対して腐食性であり、かついくつかの繊維タイプに対して分解性である可能性がある。
【0003】
したがって、ほとんどの競争力のあるスパンデックス製品には、第三級アミン添加剤が含まれている。しかし、これらの添加剤は、低い彩度収率で染色に時間のかかる製品をもたらす。
【0004】
米国特許第3,294,752号は、酸性染料で染色したときに改善された染色性および洗濯堅牢度を有するセグメント化エラストマーから調製された織物繊維および成形物品を開示している。繊維および成形物品は、エラストマー鎖中に0.05重量パーセント~2重量パーセントの第四級窒素を含有するセグメント化ポリウレタンで少なくとも85パーセントを構成する長鎖合成エラストマーを含み、セグメント化ポリウレタンは、本質的に、ポリマー鎖中で交互になっている第1および第2のセグメントからなり、第1のセグメントは60℃未満で溶融し、分子量が600を超えるポリマーからなり、第2のセグメントは繊維を形成する分子量範囲内で200℃を超える融点を有するポリマーの少なくとも1つの繰り返し単位からなる。この開示において、第四級窒素反応性基は、直接重合を介してセグメント化ポリウレタンに組み込まれる。
【0005】
しかしながら、直接重合は商業的に実施するのが難しい。
【0006】
米国特許第6,221,954号は、安定なフィルムの形成に、コーティング組成物、およびポリウレタンフィルムの生産における共反応物として有用であることが開示されているカチオン性ポリウレタン組成物の調製において使用するための第四級化ビスヒドロキシルアルキルアミンの調製および使用を開示している。
【0007】
米国特許第6,403,682号は、スパンデックスの1kgあたり約3~100ミリ当量の第四級アミン官能基を含有するスパンデックスを開示しており、第四級アミンは、1-イソシアナト-4\[(4-イソシアナトフェニル)メチル]ベンゼン、1-イソシアナト-2-[(4-イソシアナトフェニル)メチル]ベンゼン、4-メチル-1,3-フェニレンジイソシアネート、5-イソシアナト-1-(イソシアナトメチル)-1,3,3-トリメチルシクロヘキサン、1,6-ジイソシアナトヘキサンおよびビス(4-イソシアナトシクロヘキシル)メタン)からなる群から選択される少なくとも1つのジイソシアネートと、N,N-ジアルキル-N,NジアルカノールアンモニウムクロリドおよびN,N-ジアルキル-N,N-ジアルカノールアンモニウムアルキルサルフェートからなる群から選択され、ここで、アルカノール基は2~4個の炭素原子を含有する、少なくとも1つの第四級アミンとの反応生成物を含む、(a)オリゴマーからなる群から選択される添加剤である。得られたスパンデックスは、改善されたヒートセット効率を有することが開示されている。
【0008】
洗濯堅牢度が向上した、商業的に適応可能な酸性染色可能なスパンデックスが必要である。
【発明の概要】
【0009】
本開示は、優れた洗濯堅牢度を示すカチオン性ポリウレタンから商業的に適応可能なプロセスを介して調製された酸性染色可能なポリマーに関する。
【0010】
したがって、本発明の一態様は、スパンデックスと、N,N-ジアルキル-N,N-ジアルカノールアンモニウムアルキルスルホネートを含有するカチオン性ポリウレタンとを含む組成物に関する。
【0011】
本発明の別の態様は、酸性染料で染色したときに改善された染色性および洗濯堅牢度を有するフィラメントおよび繊維に関する。繊維は、スパンデックスと、N,N-ジアルキル-N,N-ジアルカノールアンモニウムアルキルスルホネートを含有するカチオン性ポリウレタンから生産される。
【0012】
本発明の別の態様は、製造物品であって、少なくともその一部が、スパンデックスと、N,N-ジアルキル-N,N-ジアルカノールアンモニウムアルキルスルホネートを含有するカチオン性ポリウレタンとを含む組成物または繊維を含む、製造物品に関する。
【0013】
本発明のさらに別の態様は、酸性染料で染色したときのスパンデックスの染色性および洗濯堅牢度を改善する方法に関する。この方法は、ポリウレタン添加経路によって、N,N-ジアルキル-N,N-ジアルカノールアンモニウムアルキルスルホネートを含有するカチオン性ポリウレタンをスパンデックスに添加することを含む。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、改善された酸性染料の反応性および洗濯堅牢度を有する商業的に生産可能なスパンデックスならびにこのスパンデックスの生産方法、このスパンデックスから生産されたフィラメントおよび繊維ならびに少なくともその一部がこのスパンデックスを含む製造物品に関する。
【0015】
「スパンデックス」という用語は、その一般的な意味で、繊維形成物質がセグメント化ポリウレタンおよび/またはポリウレタン尿素から構成される長鎖合成ポリマーである製造繊維を意味するために本明細書で使用される。スパンデックス組成物は当技術分野で周知であり、Monroe Couper,Handbook of Fiber Science and Technology:Volume III、High Technology Fibers Part A.Marcel Dekker,INC:1985,pages 51-85に開示されているものなどの多くのバリエーションを含んでもよい。
【0016】
本発明において、カチオン性ポリウレタンは、改善された酸性染料反応性および容易な商業的採用のためにスパンデックスポリマーに添加される。非限定的な一実施形態において、カチオン性ポリウレタンは、N,N-ジアルキル-N,N-ジアルカノールアンモニウムアルキルスルホネートを含有する。本発明の非限定的な一実施形態において、第四級化アルキルスルホネートポリウレタンポリマーがスパンデックスに添加される。特定の理論に限定されることなく、本発明による第四級アンモニウム部分の添加は、ポリアミドとの競合染料浴下での染料速度動力学を増加させると考えられている。
【0017】
したがって、本発明は、スパンデックスと、N,N-ジアルキル-N,N-ジアルカノールアンモニウムアルキルスルホネートを含有するカチオン性ポリウレタンとを含む組成物を提供する。
【0018】
また、本発明により、酸性染料で染色したときのスパンデックスの染色性および洗濯堅牢度を改善するための方法が提供される。この方法は、カチオン性ポリウレタンをスパンデックスに添加することを含む。非限定的な一実施形態において、カチオン性ポリウレタンは、N,N-ジアルキル-N,N-ジアルカノールアンモニウムアルキルスルホネートを含有する。本発明の非限定的な一実施形態において、第四級化アルキルスルホネートポリウレタンポリマーがスパンデックスに添加される。非限定的な一実施形態において、カチオン性ポリウレタンは、ポリウレタン添加経路によって添加される。
【0019】
非限定的な一実施形態において、ジメチルエタノールアミンを、わずかに過剰のメタンスルホン酸を有する反応容器、エチレンオキシドと反応させ、以下の構造式を有するN,N-ビス(ヒドロキシエチル)N,N-ジメチル第四級アンモニウムメタンスルホネートを生成する。
【化1】
【0020】
このN,N-ビス(ヒドロキシエチル)N,N-ジメチル第四級アンモニウムメタンスルホンネートはまた、Evonik Corp.(Parsippany,NJ)から商品名Variaquat 2MSで市販されている。これらの第四級化アンモニウム塩は、イソシアネート基と容易に反応してポリウレタンを形成できる2つの活性水素原子を持っているため、ポリウレタンの調製に特に有用である。これらの第四級アンモニウム塩を使用して、カチオン性ポリウレタン組成物は、ポリイソシアネートおよび追加のポリオールとの反応によって直接調製することができる。
【0021】
また、本発明により、酸性染料で染色したときに改善された染色性および洗濯堅牢度を有する、スパンデックスおよびN,N-ジアルキル-N,N-ジアルカノールアンモニウムアルキルスルホネートを含有するカチオン性ポリウレタンから生産されたフィラメントおよび繊維が提供される。そのようなフィラメントおよび繊維の生産方法は当技術分野で周知であり、本明細書で詳細に説明する必要はない。
【0022】
さらに、本発明は、少なくともその一部が本発明の組成物、フィラメントまたは繊維を含む製造物品を提供する。
【0023】
非限定的な一実施形態では、製造物品は布である。
【0024】
本発明のスパンデックスを含む布は、布の重量に基づいて、約0.5重量パーセント(重量%)~約40重量%のスパンデックス含有量を有してもよい。例えば、スパンデックスを含む丸編みは、約2重量%~約25重量%のスパンデックスを含有してもよく、スパンデックスを含むレッグウェアは、約1重量%~約40重量%のスパンデックスを含有してもよく、スパンデックスを含むラッシェル布は、約10重量%~約40重量%のスパンデックスを含有してもよく、およびスパンデックスを含む縦編みトリコットは、約14重量%~約22重量%のスパンデックスを含有してもよい。
【0025】
本発明のスパンデックスまたはスパンデックスを含む布は、60℃~100℃の温度での排出法により水性染料液から、スパンデックス含む材料に染料液をパディングすることにより、またはスパンデックスを含む材料に染料液を噴霧することなどによる、慣用の染色および印刷の手順によって染色および印刷されてもよい。酸性染料を使用する場合は、従来の方法に従ってもよい。例えば、排出染色法においては、布は、3~9のpHを有する水性染料浴に導入され得、次いで、約10~80分のコースにわたって約20℃の温度から40~100℃の範囲の温度まで定常的に加熱される。次に、染料浴および布を40~100℃の範囲の温度で10~60分間保持してから冷却する。次に、固定されていない染料を布から洗い流す。スパンデックスの伸びおよび回復の特性は、100℃を超える温度での最小の暴露時間によって最もよく維持される。
【0026】
酸性から弱アルカリ性の条件下で適用される非金属化酸レベリング染料(相対分子量250~950)、酸性から弱アルカリ性の条件下で適用される、例えばクロムまたはコバルトの金属原子を含有するプレ金属化染料、および排出またはパッドの用途においてpH4~9の酸性または中性から弱アルカリ性の条件下で適用される反応性染料で染色したとき、スパンデックスまたはスパンデックスを含む布について、高い色収率、色強度、およびある程度の平坦性を得ることができる。一般に、本発明のスパンデックスは、アミン末端基を含有するポリアミドまたは羊毛糸を染色するために従来使用されている反応性染料で染色してもよい。
【0027】
本明細書で引用されているすべての特許、特許出願、試験手順、優先文書、論文、出版物、マニュアル、および他の文書は、そのような開示が本発明と矛盾しない範囲で、およびそのような組み込みが許可されているすべての管轄区域について、参照により完全に組み込まれる。
【0028】
次の実施例は、本発明およびその使用能力を実証する。本発明は、他のおよび異なる実施形態が可能であり、そのいくつかの詳細は、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、様々な明らかな点において修正および/または置換することができる。したがって、実施例は、本質的に例示的であり、および非限定的であるとみなされるべきである。
【実施例
【0029】
実施例1
ジフェニルメタンジイソシアネート(60.2グラム イソネート)、約2000の分子量を有するポリテトラメチレングリコール(100グラム)、およびジメチルアセトアミド(DMAc)溶媒(362グラム)を反応容器に入れた。撹拌した反応容器にVariquat 2MS(45.3グラム)を添加し、反応混合物を75℃に加熱し、その温度範囲で4~6時間維持した。その時、反応生成物の粘度は40℃で4100ポアズであることがわかった。Irganox 245抗酸化剤(1グラム)と混合した過剰のブタノールで反応を停止し、周囲条件に冷却した。
【0030】
実施例2
第四級アミン添加剤を含有するスパンデックスを、以下のとおりに調製した。セグメント化ポリエーテルベースのポリウレタン尿素エラストマーの溶液を、1.63のモル(「キャッピング」)比で約1800の分子量を有するジフェニルメタンジイソシアネート(「MDI」)ポリテトラメチレングリコールを完全に混合することによって調製した。混合物を約80~90℃の温度で約90~100分間維持した。イソシアネート末端ポリエーテルグリコールと未反応のジイソシアネートとの混合物を含む、得られた「キャッピングされたグリコール」を50℃に冷却し、そしてDMAcと混合して、約45%の固形分を含有する溶液を得た。次に、激しく混合しながら、キャッピングされたグリコールを、約75℃の温度で2~3分間、ジエチルアミン連鎖停止剤とエチレンジアミン/2-メチル-1,5-ジアミノペンタン鎖延長剤の90/10混合物との混合物を含有するDMAc溶液と反応させた。得られたポリマー溶液は、約35%の固形分を含有し、40℃で約3,200ポアズの粘度を有した。紡糸のために、以下の成分を完全に混合し、ポリマー溶液に添加して、記載された量の添加剤を得た(スパンデックスの最終重量に基づいた重量パーセントとして表される)。
(a)ヒンダードフェノール系酸化防止剤である、1.2%のIrganox 245、
(b)0.2%ステアリン酸マグネシウム、
(c)0.6%のシリコーンオイル、
(d)光沢剤として0.17%二酸化チタン
(e)および該当する場合は、表に記載されている実施例1のカチオン性ポリウレタンの量(スパンデックスの重量に基づく重量%)。
【0031】
次に、紡績溶液を従来通り乾式紡糸して、合体した18フィラメント、235デシテックス糸を形成した。シリコーンオイル仕上げ潤滑剤を、フィラメントの重量に基づいて4%の添加量で、キスロールアプリケーターによってスレッドラインに適用した。
【0032】
実施例3
スパンデックスは、本発明の添加剤を含む場合と含まない場合で、100%布として編まれ、4%黒、2%黒および肌の色の3つの色合い下で、同じ浴中で100%ポリアミド布と20/80の重量比で染色した。染色後、布サンプルを乾燥させ、競合染料状況下での染料の取り込みについて比色計のよって分析した。染色性性能は、比色計スペクトラムアナライザーを使用して色合いの明度「L」値から決定した。結果はCIELAB単位で報告される。一次光源はD65であった。染色された100%スパンデックスチューブ布における色合いの明度「L」値を、市販のスパンデックスおよび100%ポリアミドを含む同じ染浴から染色された100%スパンデックスチューブ布についての値と比較した。
【0033】
ポリアミドとの競合染料浴における酸性染料反応性に対するスパンデックスへの第四級アミン添加剤の効果を表1に示す。表2はまた、実施例2のスパンデックスの布について一貫してより高い耐変色性を示している。
【表1】
【表2】