(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】柔軟な手首装具
(51)【国際特許分類】
A61F 5/02 20060101AFI20240717BHJP
A61F 5/01 20060101ALI20240717BHJP
A41D 13/08 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
A61F5/02 N
A61F5/01 N
A41D13/08 108
(21)【出願番号】P 2021524218
(86)(22)【出願日】2019-11-05
(86)【国際出願番号】 FR2019052615
(87)【国際公開番号】W WO2020094968
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2022-10-28
(32)【優先日】2018-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】515315576
【氏名又は名称】ミレー イノベーション
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】トレピエル-ル ベレル,マリア ルイーサ
【審査官】白土 博之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/117084(WO,A1)
【文献】特開2013-104139(JP,A)
【文献】特表2016-533828(JP,A)
【文献】米国特許第05376066(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0245503(US,A1)
【文献】米国特許第05649900(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 5/01-5/02
A41D 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
手および手首装具であって、
遠位部および近位部を有するスリーブであって、前記近位部は手首まで延在する前腕の一部の形状に一致するように成形されており、前記遠位部は指の中手指節関節の基部から
前記手首まで延在する手の一部の形状に一致するように成形されており、前記遠位部は親指を通すための第1の開口部、その他の指を通すための第2の開口部を有し、前記近位部は前記スリーブによって覆われる手首および前腕の一部の形状に一致するように成形されており、前記スリーブは
前記手の掌側に向かって曲げる動きに対して
前記手首を束縛するように成形されており、前記スリーブは弾性材料で作られている、スリーブと、
弾性材料で作られており、前記スリーブの遠位部および近位部に取り付けられ、かつ
前記手首の両側の間の
前記手首のより幅狭の領域の上部のみを覆うように構成されたサポートバンド
であって、前記サポートバンドは、前記より幅狭の領域内で前記装具の硬さを増加させ、前記手の掌側に向かって曲げる動きに対して前記手首を束縛する、サポートバンドと、
を備える、装具。
【請求項2】
前記スリーブは、
前記手および
前記手首の背側部分を覆うように構成された背側部と、
前記手および
前記手首の手掌部分を覆うように構成された手掌部と、前記背側部と前記手掌部とを接続するバンドとを含む単一の部材から作られている、請求項1に記載の装具。
【請求項3】
前記スリーブは、前記スリーブの近位部と遠位部との間の背側部に形成され、かつ前記背側部の2つの両側縁部間に延在するスリットを有し、前記スリットの両側縁部は前記スリットを閉じるために互いに取り付けられ、前記サポートバンドは前記スリットが閉じられた際にそれに取り付けられる、請求項1または2に記載の装具。
【請求項4】
前記スリットは前記スリーブを形成している材料の一部の除去によって紡錘体状に成形されているか、あるいは前記スリーブを形成している材料を除去せずに形成されており、前記スリットの両側縁部は前記スリーブを形成している材料の紡錘体状に成形された重なり領域を提供するために互いに固定される、請求項3に記載の装具。
【請求項5】
前記スリーブは
前記手首および
前記手の側方領域に位置決めされている2つの取り付け線によって組み立てられ、前記取り付け線
のそれぞれは前記スリーブの背側部の縁部を前記スリーブの手掌部のより長い縁部に接続する、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の装具。
【請求項6】
前記2つの取り付け線は、
前記手の背側にわたって遠位に通る
前記手の外側面に沿って延在するように構成された取り付け線を含む、請求項5に記載の装具。
【請求項7】
親指を通すためのスリーブの第1の開口部は、親指の側方への動きを支持するために親指の延長部分において前記スリーブの背側部に形成された切り欠きを有する、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の装具。
【請求項8】
前記スリーブの背側部は、
前記手首の自由な側方への動きおよび
前記手の開放を支持するために親指の延長部分において前記第1の開口部から延在する折り目を含む、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の装具。
【請求項9】
前記スリーブは、前記スリーブの遠位縁部が横方向に最大で20%伸長し、かつ前記スリーブの近位部が横方向に最大で10%伸長するように所与の手および手首のサイズに適合されている、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の装具。
【請求項10】
前記スリーブを形成する材料は、以下の:
前記材料は0.5MPa~1MPaの前記スリーブの長手軸に沿ったヤング率を有する、および
前記材料は1mm~1.4mmの厚さを有する、
という特徴のうちの少なくとも1つを有する、請求項1乃至9のいずれかに記載の装具。
【請求項11】
前記スリーブを形成する材料は、その全範囲にわたって接着によって組み立てられた二層の弾性織物を含む、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の装具。
【請求項12】
前記2つの織物層のそれぞれは、以下の:
前記織物は75~85重量%のポリアミドおよび15~25重量%のエラステーンを含む、および
前記織物は縦方向に85~115%および横方向に65~95%の弾性を有し、ここでは前記織物の縦糸は前記スリーブの背側部では軸方向に方向づけられている、
という特徴のうちの少なくとも1つを有する織物である、請求項11に記載の装具。
【請求項13】
前記サポートバンドは前記スリーブを形成している材料と同様の弾性材料で作られている、請求項1乃至12のいずれか一項に記載の装具。
【請求項14】
前記サポートバンドは、前記サポートバンドの長手方向への前記装具の弾性伸長を支持するためにジグザグの縫い目によって前記スリーブに接続されている、請求項13に記載の装具。
【請求項15】
前記サポートバンドは
前記手首の周径の30~70%を覆う、請求項13に記載の装具。
【請求項16】
前記サポートバンドはポリマーゲルの層でコーティングされた弾性織物で作られている、請求項13に記載の装具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は関節のための装具、詳細には手首関節のための装具に関する。
【背景技術】
【0002】
何十年もの間、整形外科学は抑制および/または固定を必要とする病状に専念してきた。ここ数年は、関節にそれらの通常の使用を妨げないように全てのそれらの構成要素に関してゆとりを持たせることに努力が注がれてきた。例えば親指の変形性関節症のために、本出願人は機械的原理を適用することにより親指の不随意運動を最小限に抑える軽量の装具を開発してきた(欧州特許第3041441号)。
【0003】
しかしそのような軽量の装具は変形性関節症に関連する痛みの緩和にとってだけでなく、親指の変形性関節症の場合にその発生がちょうど同程度に重要である病状にとっても有益であり得るように見えた。これは手根管症候群であり、その高頻度の発生は非常に多くのリスク因子およびそれらの複合的効果に起因している。全ての場合においてその目標は、手の屈筋腱およびそれらの滑液鞘が通っている手根管内の正中神経に対する圧力を制限することにある。手根管症候群は主として最初の3本の指(正中神経の解剖学的領域)の掌側面に生じる刺痛、ピリピリ感、痺れまたは放電の感覚ならびに冒されている手首および手における筋肉強度の喪失を特徴とする。これらの不快感は夜間に感じられることが多く、患者を目覚めさせる。それらは日中にも現れる可能性があり、特定の動きまたは特定の有害な位置で手を握ることによって引き起こされる。
【0004】
特定の動きおよび姿勢は手根管症候群の出現、その持続および/またはその悪化を助長すると思われる。この状態を軽減するかその進行を抑えるかさらには解決するための単純な解決法は、日々の暮らしの中でこれらの危険な動きおよび姿勢の頻度および振幅を制限することからなる。特定の身振りは手根管症候群に関与する正中神経のために特に制限される。特に手首の極度な角度形成は、屈曲時は手根の輪状靭帯(手の掌側)に対し、伸展時は手根骨(手の背側)に対して手根管を激しく圧迫するという効果を有する。多くの場合に指の屈筋の腱の炎症および/またはそれらの滑液鞘およびそれらの体積の増加の結果として、正中神経も慢性的に圧迫され得る。
【0005】
手根管症候群は通常、最初に夜間における手首スプリントの装着および/または浸潤麻酔(手根管内へのコルチゾン注射)によって治療される。一般に使用されるスプリントは手首関節を中立位置に固定し、これにより正中神経を著しく圧迫し得る姿勢を回避する。これらのスプリントの主要な欠点は、手および手首の通常の使用を妨げるそれらの硬さである。従ってそれらは非常に不快であり、患者が手作業を必要とする日々の活動においてそのようなスプリントを着用するのは有害である。そのうえ、これらの一般的な作業を行うためには他の関節に対する補償ならびに異常に高い努力が必要となり、これにより二次的病状の出現が引き起こされる可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、全ての可能な回転軸において中立反射位置の段階中に手首関節の動きの範囲を最小限に抑え、かつ現在の活動に関連する随意運動の段階中に関節の全範囲の動きを可能にする装具を提供することが望ましい。随意運動を減衰させる、特に中立位置に戻るのを支持することが望ましい場合もある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
いくつかの実施形態は、遠位部および近位部を有するスリーブであって、近位部は手首まで延在する前腕の一部の形状に一致するように成形されており、遠位部は指の中手指節関節の基部から手首まで延在する手の一部の形状に一致するように成形されており、遠位部は親指を通すための第1の開口部、その他の指を通すための第2の開口部を有し、近位部はスリーブによって覆われる手首および前腕の一部の形状に一致するように成形されており、スリーブは手の掌側に向かう動きに対して手首を束縛するように成形されており、スリーブは弾性材料で作られているスリーブと、弾性材料で作られており、スリーブの遠位部および近位部に取り付けられ、かつ手首の両側の間の手首のより幅狭の領域の上部のみを覆うように構成されたサポートバンドとを備える手および手首装具に関する。
【0008】
一実施形態によれば、スリーブは、手および手首の背側部分を覆うように構成された背側部と、手および手首の手掌部分を覆うように構成された手掌部と、背側部と手掌部とを接続するバンドとを含む単一の部材から作られている。
【0009】
一実施形態によれば、スリーブは、スリーブの近位部と遠位部との間の背側部に形成され、かつ背側部の2つの両側縁部間に延在するスリットを有し、スリットの両側縁部はスリットを閉じるために互いに取り付けられ、サポートバンドはスリットが閉じられた際にそれに取り付けられる。
【0010】
一実施形態によれば、スリットはスリーブを形成している材料の一部の除去によって紡錘体状に成形されているか、あるいはスリーブを形成している材料を除去せずに形成されており、ここではスリットの両側縁部はスリーブを形成している材料の紡錘体状に成形された重なり領域を提供するために互いに固定される。
【0011】
一実施形態によれば、スリーブは手首および手の側方領域に位置決めされている2つの取り付け線によって組み立てられ、取り付け線はそれぞれ背側部の縁部と手掌部のより長い縁部とを接続する。
【0012】
一実施形態によれば、2つの取り付け線は、手の背側にわたって遠位に通る手の外側面に沿って延在するように構成された取り付け線を含む。
【0013】
一実施形態によれば、親指を通すためのスリーブの第1の開口部は、親指の側方への動きを支持するために親指の延長部分においてスリーブの背側部に形成された切り欠きを有する。
【0014】
一実施形態によれば、スリーブの背側部は、手首の自由な側方への動きおよび手の開放を支持するために親指の延長部分において第1の開口部から延在する折り目を含む。
【0015】
一実施形態によれば、スリーブは、スリーブの遠位縁部が横方向に最大で20%伸長し、かつスリーブの近位部が横方向に最大で10%伸長するように複数のサイズで作られている。
【0016】
一実施形態によれば、スリーブを形成している材料は、以下の:当該材料は0.5MPa~1MPaのスリーブの長手軸に沿ったヤング率を有する、および当該材料は1mm~1.4mmの厚さを有する、という特徴のうちの少なくとも1つを有する。
【0017】
一実施形態によれば、スリーブを形成している材料はその全範囲にわたって接着によって組み立てられた二層の弾性織物を含む。
【0018】
一実施形態によれば、2つの織物層のそれぞれは、以下の:当該織物は75~85重量%のポリアミドおよび15~25重量%のエラステーンを含む、および当該織物は縦方向に85~115%および横方向に65~95%の弾性を有し、ここでは当該織物の縦糸はスリーブの背側部において軸方向に方向づけられている、という特徴のうちの少なくとも1つを有する織物である。
【0019】
一実施形態によれば、サポートバンドはスリーブを形成している材料と同様の弾性材料で作られている。
【0020】
一実施形態によれば、サポートバンドは、以下の:サポートバンドはサポートバンドの長手方向への本装具の弾性伸長を支持するためにジグザグの縫い目によってスリーブに接続されている、サポートバンドは0.3~1.5cmの幅を有する、サポートバンドは手首の周径の30~70%を覆う、サポートバンドは一端においてのみスリーブに取り付けられ、かつ他端では手首の周りでサポートバンドの張力を調節するための締め付け装置によって固定される、および「サポートバンドはポリマーゲルの層でコーティングされた弾性織物で作られている、という特徴のうちの少なくとも1つを有する。
【0021】
一実施形態によれば、本装具はスリーブを前腕の周りに締め付けるための装置を備える。
【0022】
本発明の例示的な実施形態が、添付の図に関連して非限定的な方法で以下に説明されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1Aおよび
図1Bはそれぞれ一実施形態に係る装具を着用している手の上面図および側面図である。
【
図2】一実施形態に係る、
図1Aの装具を形成するために組み立てられる薄い構成要素の形状を示す。
【
図3】本装具を使用した場合と使用しない場合の手首の動きの時間図を示す。
【
図4】本装具を使用した場合と使用しない場合の手首の動きの速度の時間図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1Aおよび
図1Bは一実施形態に係る装具を示す。本装具は手首および前腕の一部を覆い、かつ指関節の起点まで延在するスリーブ1を備える。スリーブは遠位部1aおよび近位部1bを含み、かつこれらの部分のそれぞれが背側部および手掌部を含む。スリーブの遠位部1aは、指の中手指節関節の基部から手首の縁部まで延在する手の一部の形状に一致するように成形されている。遠位部1aは、親指を通すための第1の開口部およびその他の指、すなわち人差し指、中指、薬指および小指を通すための第2の開口部を形成している遠位縁部1cを有する。近位部1bは、装具1によって覆われる手首および前腕の一部の形状に一致するように成形されている。
【0025】
機能的切り欠き2は親指のレベルでスリーブ1の遠位部1aの背側部に作られていてもよい。切り欠き2は親指の自由な動きおよび手首の側方への動き、特に外転を可能にする。
【0026】
手首の側方への動きおよび手の開放を妨げないために、親指の延長部分において親指を通すための開口部から開始する機能的折り目3をスリーブ1の背側部に意図的に設けてもよい。
【0027】
図2は、一実施形態に係るスリーブ1を形成するために組み立てられる薄い弾性材料で作られた構成要素10を示す。構成要素10は、それらの間にあるバンド13によって接続されている背側部11および手掌部12を含む。背側部11および手掌部12は手、手首および前腕の一部の背側部分ならびに手、手首および前腕の手掌部分をそれぞれ覆い、かつそれらの形状にそれぞれ一致するように成形されている。構成要素10の背側部11は、背側部11の結合縁部AおよびB間に延在する紡錘体状に成形されたスロット14を有する。スロット14は手首を覆うことが意図されている背側部11の領域に形成されている。
【0028】
構成要素10の手掌部12は組み立て縁部A’、B’を有する。組み立て縁部AおよびA’は一緒に固定され、かつ手首、前腕および手のスリーブ1によって覆われる部分の外側領域
5(図1A)に沿って位置することが意図されている。接続縁部BおよびB’は、一緒に固定され、かつ前腕、手首から親指の基部までスリーブ1によって覆われる部分の内側領域
6(図1B)に沿って延在するように構成されている。
【0029】
構成要素10のバンド13は、親指と人差し指との間の折り目領域を通って手の背側領域と手掌領域との間で手を覆うように成形されている。切り欠き2がバンド13内に達成されている。
【0030】
スロット14の縁部14a、14bは縁部から縁部へと結合されている。さらに構成要素10の縁部AおよびBは縁部A’およびB’よりも短い。これらの2つの構成により装具1の人間工学的形状および快適性を高める。実際にはそれらは手の手掌面側での屈曲する動きに対してそれを束縛することにより手の形状に適合する曲線8をそれに与える。
【0031】
装具1の縁部A、A’を結合する外側縫い目を意図的に手の背側部分に向かって遠位にずらして、側方への手首の動き、特に外転の努力を最小限に抑えることができる。この縫い目の終わりは着用された際の快適性を保証するために好ましくは平らであり、かつ非侵略的である。
【0032】
縫い目は親指の動きおよび特に手の把持機能を妨げる可能がある硬さを必然的に生じるので、スリーブ1を単一の部材(10)から作ることにより親指と人差し指との間の折り目領域の近くにそのような縫い目が存在するのを回避することができる。但し例えば切り欠き2の延長部分および/または背側部11にある構成要素10を切断することによりスリーブを2つの部分から作り、かつ特に縫い目が不快感を引き起こさない可能性が高い位置に実施された状態でこれらの2つの部分を組み合わせることができる。
【0033】
サポートバンド4を手首に対向して位置決めし、それを手の背側でその周りを半周させる。従ってサポートバンド4はスロット14を閉じる縫い目を覆い、かつ手と前腕との間での本装具の正しい位置決めを保証する。それは手根管領域に大きな圧力をかけることなく屈曲時の手首の段階的サポートを最適化すると共に、最小の束縛により手首の伸展を可能にする。
【0034】
実際には、サポートバンド4の追加により非常に特定の領域において本装具の硬さが増す。手首が手の掌側で屈曲した場合、手首の周径は増加する。しかし手首の周径におけるこの増加は手首の周りで均等に分散されない。実際には、手首の背側面によって描かれる弧の長さは増加するが、手首の手掌面によって描かれる弧の長さは減少する。従って、サポートバンド4は手首の最も細い領域において手首の背側面の弧に沿って、すなわち前腕側の茎状突起の真上であって手側の親指の手根中手関節の真下に位置決めされる。従ってサポートバンド4は、バンド4に沿った手首の変形および従って屈曲運動に対抗するバンド4の張力の増加に対する装具1の抵抗の増加を引き起こす。他方、手首の掌側には何も追加されず、従ってそれは構成要素10が形成される単一の厚さの材料のみを含み、従って本装具は手根管領域に関して圧力の著しい増加を強いることなく変形を吸収することができる。
【0035】
さらに、サポートバンド4は手首の最も幅狭の領域の周りに位置決めされるので、本装具は理想的に位置決めされ、かつ外部補助の非存在下で手または前腕に向かうのが難しい状態で軸方向にのみ動くことができる。従ってサポートバンド4は手根中手関節の下に第1の固定点を作り出し、かつ手首の最も幅狭の領域の上部において本装具を硬くする。本装具の位置決めは親指と人差し指との間の折り目領域の上を通るバンド13によっても制限され、これは本装具が前腕に向かって動くのを防止し、従って第2の固定点を構成する。しかし親指の折り目領域と手首の最も幅狭の領域との間の距離は手首の屈曲と共に増加する。従ってサポートバンド4は、背側部上のこれらの2つの固定点の間での手の手掌面側での手首の屈曲運動に伴ってスリーブ1の背側面の長手方向の伸長が行われることを必要とする。従って変形が生じる本装具の長さは制限され、これにより手首の屈曲運動に対する本装具の抵抗が高まる。これらの2つの現象は関節の片側で肢を覆っている本装具の片持ち梁効果に加えられ、手首の屈曲に対する適度であるが有意義な抵抗を生じさせ、従って不随意的な手首の屈曲運動の振幅および速度を制限し、かつ随意運動中にそれらを妨げることなく支持の感覚を与える。屈曲運動のこの制限は当該運動の制限を快適角度範囲内で最小限に抑えることにより達成される。人間工学-手動取扱い規格ISO11228-3によれば、手首の快適屈曲角度は中立位置から45°を超えない。
【0036】
本装具が手首の伸展運動に対して対抗する抵抗(手の背側)はその構成によって最小限に抑えられる。実際には片持ち梁効果はこの伸展運動に対する拮抗作用において常に存在するが、本装具の掌側はどんな局所化された硬化も呈さない(サポートバンドなし)。従って手首の伸展によって引き起こされる変形はより大きい長さ(スリーブ1の軸方向)にわたって吸収される。さらにサポートバンド4はその小さい幅および手首の輪郭に沿ったスリーブ1の背側のみへのその位置決めにより、当該織物が本装具の背側でしわになるのを防止して長さの減少を吸収する。
【0037】
従ってサポートバンド4は、手首の伸展運動(手の背側)に対する抵抗を高めることなく手首の屈曲運動(手の掌側)に対して大きな抵抗を与え、この最後の運動は応力に対して極めて敏感である。手根管領域に対して本装具によって与えられる圧力も最小限に抑えられる。
【0038】
図3は重力の作用下、すなわち手が最初に実質的に水平に置かれ、前腕が手の自然な伸展で固定されて保持されている状態での手の制御されていない屈曲運動の時間
図C1、C2を示す。手の屈曲運動の振幅を屈曲角度によって測定する。本装具の非存在下および存在下で曲線C1、C2をそれぞれ得た。
【0039】
曲線C1、C2はそれぞれ第1のピークおよび第1のディップを有する。これらの第1の最大値および第1の最低値に対応する屈曲角度を比較することにより、本装具の装着(曲線C2)によりおよそ10.1°(すなわち16.5%)の第1の最大値の屈曲角度の減少が生じるように見える。第1の最低値での屈曲角度も約5.6°(すなわち12.2%)減少する。約29.2%の最大振幅と最小振幅との差および当該運動が完了した際の約7.7°(すなわち15%)の屈曲角度においても減少を観察することができ、その最終位置は本装具を用いた場合により素早く到達される。さらに手首の動きは本装具を装着した場合により素早く安定化するように見えた。実際には屈曲角度は本装具を用いた場合には約3.4sで、本装具を用いない場合には約3.8sで安定化する。
【0040】
曲線C1、C2の始点は異なり、曲線C2の始点は曲線C1の始点よりも約3°大きいことに気づくであろう。これは手が曲線C1の場合よりも曲線C2の場合により高い初期位置から開始し、これは通常少なくとも曲線C2の第1のピークの値を増加させる傾向があり、このようにして曲線C1とC2との間の角度位置における差を最小限に抑えることを意味する。初期位置におけるこの差は手首の屈曲運動に対して本装具によって与えられるプレストレス効果も示し、従ってこれにより手が真っ直ぐになる傾向がある。
【0041】
図4は重力の作用下、すなわち手が最初に実質的に水平に置かれ、前腕が手の自然な伸展で固定されて保持されている状態で手の制御されていない屈曲運動の角速度におけるばらつきの時間
図C3、C4を示す。本装具の非存在および存在下で曲線C3、C4をそれぞれ得た。線C3、C4は、手の落下に対応する速度の第1のピーク、次いで落下後の最大屈曲における手首の位置に対応するゼロ速度点の通過を示す。次いで第1のディップは落下の反対方向への手の跳ね返りに対応しているように見える。その後のピークおよびディップはその後のより少ない振幅の周期的変動および減衰に対応している。曲線C3(装具なし)およびC4(装具あり)を比較すると、第1のピークおよび第1のディップに対応する速度はそれぞれ本装具のおかげで第1のピークでは約13%、第1のディップでは約26%減少する。第1のピークと第1のディップとの間のギャップは本装具のおかげで約17%著しく減少することも分かる。これらのピークとディップとの間の時間は本装具を使用した場合と使用しない場合におよそ同じである(約1s)ことも観察することができ、これは本装具が角加速度も著しく減少させることを示している。
【0042】
これらの測定値の分析は、本装具の装着により手首の受動的かつ無意識な動きの振幅、速度および加速度の極値を減少させることができ、かつこれが随意運動を妨げていないことも示す。
【0043】
一実施形態では、スリーブ1は二次的病状または不快感を引き起こさないために、手の下層組織に対する圧迫を制限するように成形されている。この結果は、スリーブの遠位縁部1aの横方向への伸長を0~20%、好ましくは2.5~17.5%に制限するためにいくつかのサイズのスリーブを提供することによって達成される。サイズの選択はスリーブの遠位部1aによって覆われる領域における手の周径を測定することによってなされる。さらに手首の最も幅狭の領域の周りのスリーブ1の周径は、スリーブの近位部1bの横方向への伸長が10%未満のままであるように異なるサイズのために寸法決めされているため、それは皮膚に接触したままでありながら最も少ない圧迫を与える。
【0044】
一実施形態によれば、スリーブ1を形成している構成要素10は0.5MPa~1MPaのスリーブの長手軸に沿ったヤング率を有する弾性材料で作られている。
【0045】
一実施形態によれば、スリーブ1を形成している構成要素10は、その長さ全体にわたって接着によって組み立てられた二層の弾性織物を含む。
【0046】
一実施形態によれば、構成要素10を形成する2つの層はそれぞれ75~85重量%のポリアミドおよび15~25重量%のエラステーンを含む織物で作られている。
【0047】
一実施形態によれば、構成要素10を形成している2つの層はそれぞれ155g/m2の重量および/または0.5~0.7mmの厚さを有し、これらの尺度のいずれか1つはユーザに本装具の力強い存在を与える。
【0048】
一実施形態によれば、織物の2つの層はそれぞれ、当該織物の縦方向に85~115%および横方向に65~95%の弾性を有し、ここでは当該織物の縦糸はスリーブの背面では軸方向に方向付けられている。
【0049】
一実施形態によれば、スリーブ1は1mm~1.4mmの厚さを有する材料で作られている。
【0050】
一実施形態によれば、サポートバンド4は、スリーブ1のために使用されている材料の特性と同様の機械的特性を有する弾性材料で作られている。
【0051】
一実施形態によれば、サポートバンド4は、サポートバンド4の長手方向への本装具の弾性伸長を支持するためにジグザグの縫い目によってスリーブ1に接続されている。
【0052】
一実施形態によれば、サポートバンド4は0.3~1.5cmの幅を有する。
【0053】
一実施形態によれば、サポートバンド4は手首の周径の30~70%を覆う。
【0054】
本発明を様々な代替法および用途に供すことができることは当業者に明らかであろう。
【0055】
特に、本発明は手根管症候群を軽減するための装具に限定されず、その中立位置における手首位置のプレストレスのみで十分であるあらゆる病状に適用することができる。
【0056】
さらに、スロット14を設けることおよび/または構成要素10の組み立てられる縁部のために異なる長さの縁部(A-A’、B-B’)を設けること以外の他の構成を容易に考案して、手首関節に対して本装具によって与えられる予備負荷を達成して手を前腕に対するその中立位置に維持してもよい。例えば、弾性材料の1つ以上の長手方向の補強材を本装具の長手軸に沿って設けてもよい。但し、これらの補強材は手首および手の随意運動を、これらの運動が過剰でない限り妨げるものであってはならない。
【0057】
サポートバンド4はシリコーンゲルなどのポリマーゲル材料でコーティングされた弾性材料で作られていてもよい。それは遠位部および/または近位部まで延在する1つ以上の分岐部も含んでいてもよい。
【0058】
サポートバンド4は、一端によってのみスリーブ1に取り付けられ、かつその他端では調整可能な方法で、例えば張力調整を与えるためにフックおよびループ装置(ベルクロ(Velcro)(登録商標))を用いて取り付けられてもよい。
【0059】
開口部14の縁部14a、14bを一緒に固定することによりその開口部を閉じる代わりに、別の弾性材料の部材を用いて開口部14を閉じるためにそれが設けられていてもよい。
【0060】
開口部14は、平行(織物が伸長されることなく平らに置かれている場合)な縁部を有するスリットの形態であるように織物を除去せずに作られていてもよく、その開口部は開口部14に沿ったスリーブの一部の重なりを得るために2つの縁部14a、14bのうちの一方を他方の縁部に向かって引っ張ることによって閉じられる。ストリップがこの重なりを覆ってもよい。
【0061】
本装具によって覆われる前腕の一部の周りでスリーブ1の近位部1bを締め付けるために、例えばフックおよびループと共に例えば締付装置に付随するスリーブと一体化されたストラップなどの締付手段も設けられていてもよい。
【0062】
この特徴が存在しないことでどんな特定の不都合も生じないことを念頭に置いて、親指を通すためのスリーブの開口部の背側縁部に形成される切り欠き2は省略されていてもよい。同じことが折り目3にも当てはまる。