(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】炭酸化促進剤
(51)【国際特許分類】
C04B 24/08 20060101AFI20240717BHJP
C04B 20/00 20060101ALI20240717BHJP
C04B 24/10 20060101ALI20240717BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20240717BHJP
C04B 40/02 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
C04B24/08
C04B20/00 B
C04B24/10
C04B28/02
C04B40/02
(21)【出願番号】P 2022004548
(22)【出願日】2022-01-14
【審査請求日】2022-06-10
【審判番号】
【審判請求日】2023-05-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【氏名又は名称】田口 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】安田 僚介
(72)【発明者】
【氏名】森 泰一郎
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】小野 久子
【審判官】後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-132457(JP,A)
【文献】国際公開第2010/130712(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/032483(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0001462(US,A1)
【文献】特表2013-531365(JP,A)
【文献】藤野 清治ら、アルカリ水溶液における水酸化カルシウムと糖との錯体の生成、日本化学会誌、日本、1972年、p.2287-2292
【文献】小林 一輔ら、コンクリートの炭酸化のメカニズム、コンクリート工学論文集、日本、1990年、p.37-49
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B2/00-32/02
C04B40/00-40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレハロースを含み、アルカリ土類系金属化合物の炭酸化を促進する炭酸化促進剤であって、前記トレハロースの含有量が85質量%以上である炭酸化促進剤。
【請求項2】
平均粒子径が10~500μmである請求項1に記載の炭酸化促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸化促進剤であって、なかでも、アルカリ土類系金属化合物の炭酸化を促進する炭酸化促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
温室効果ガス削減に向けた取り組みとして、製造時にCO2を強制的に吸収若しくは炭酸化させたコンクリート製品(以下、CO2吸収コン)が一部実用化されている。CCUS技術(Carbon dioxide Capture,Utilization and Storageの略で、二酸化炭素回収・貯留技術)の一種であるCO2吸収コンは、2019年に経済産業省が発表した「カーボンリサイクル技術ロードマップ」でも言及され、普及拡大に向けた技術開発が行われている。
【0003】
特許文献1には、製造時にCO2を強制的に吸収若しくは炭酸化させる方法が開示されている。具体的には、セメント質硬化体に二酸化炭素含有ガスを接触させて、二酸化炭素含有ガスに含まれている二酸化炭素を、上記セメント質硬化体に固定化する接触工程を含む、二酸化炭素の固定化方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の固定化方法は、二酸化炭素含有ガス中の水分量を1.5%以上とし、かつ温度を75~175℃とするものであり、炭酸化を促進させるような材料についての開示や示唆はない。
【0006】
以上から、本発明は、アルカリ土類系金属化合物の炭酸化を促進することができる炭酸化促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明者らは下記本発明に想到し当該課題を解決できることを見出した。すなわち本発明は下記のとおりである。
【0008】
[1] トレハロースを含み、アルカリ土類系金属化合物の炭酸化を促進する炭酸化促進剤。
[2] 平均粒子径が10~500μmである[1]に記載の炭酸化促進剤。
[3] グルコースの含有量が10質量%以下である[1]又は[2]に記載の炭酸化促進剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、アルカリ土類系金属化合物の炭酸化を促進することができる炭酸化促進剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る炭酸化促進剤は、トレハロースを含むもので、アルカリ土類系金属化合物の炭酸化を促進する。ここで、アルカリ土類系金属とは、いわゆるアルカリ土類金属の他に、ベリリウム及びマグネシウムをも含む。化合物の形態としては、炭酸化物以外で、水酸化物、酸化物等が挙げられ、なかでも、アルカリ土類系金属の水酸化物が、セメントやコンクリート材料への適用の点で好ましい。アルカリ土類系金属化合物のうち、カルシウム化合物としては、副生消石灰(湿式副生消石灰、乾式副生消石灰)、消石灰、水硬性石灰、コンクリート廃材中の水酸化カルシウムやカルシウムシリケート水和物などが挙げられ、マグネシウム化合物としては、鉄鋼スラグやコンクリート廃材中のカルシウムマグネシウムシリケート等が挙げられる。
アルカリ土類系金属化合物として具体的には、CO2との反応性に優れる湿式副生消石灰、乾式副生消石灰、消石灰等が好ましい。
【0011】
なお、副生消石灰は、カーバイドが水和した際に生じるカーバイド滓で、セメント材料に適用した際に、極初期の流動性低下や長期強度発現性を担保するものとして有効な材料である。
【0012】
アルカリ土類系金属化合物の平均粒径は1~100μmであることが好ましく、1~70μmであることがより好ましい。平均粒径が1~100μmであることで、粒子表面水へのアルカリ土類金属の溶出を促し、炭酸化反応を促進することができる。平均粒径はレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置により測定して求めることができる。
【0013】
アルカリ土類系金属化合物のブレーン比表面積は1,000cm2/g~10,000cm2/gであることが好ましく、2,500~10,000cm2/gであることがより好ましい。比表面積が1,000cm2/g~10,000cm2/gであることで、粒子と粒子表面水の接触面積が増加し、アルカリ土類金属の溶出を促すことで、炭酸化反応を促進することができる。比表面積はJIS R 5201「セメントの物理試験方法」に記載されるブレーン空気透過装置により測定して求めることができる。
【0014】
トレハロースは、アルカリ土類金属とキレートを形成し、粒子表面水へのアルカリ土類金属の溶出を促進するため、アルカリ土類系金属化合物を炭酸化する際にその促進化を図ることができると推測される。
なお、「炭酸化」とは、アルカリ土類系金属化合物と二酸化炭素とが反応して炭酸化物が生成する反応をいい、当該反応の際に水等が存在していてもよい。そして、炭酸化を「促進する」とはアルカリ土類系金属化合物の炭酸化の際に、トレハロースを添加しない場合に比べて添加した場合の方がアルカリ土類系金属化合物の炭酸化率(例えば、炭酸化1日目)が5%以上大きくなることをいい、具体的には次に記載の方法で評価することができる。
【0015】
ここで、炭酸化率は下記のようにして求めることができる。
【数1】
上記式中、炭酸化による増加質量とは、炭酸化後のサンプル質量から炭酸化前のサンプル質量を引いた質量をいう。
【0016】
炭酸化促進剤中のトレハロースの含有量は、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、100質量%であることがさらに好ましい。90質量%以上であることで、アルカリ土類系金属化合物の炭酸化促進効果をより良好に発揮させることができる。
【0017】
炭酸化促進剤中のトレハロースの含有量が100質量%でない場合、例えば、グルコースが含有されていてもよい。なかでも、アルカリ土類系金属化合物の炭酸化促進効果をより良好に発揮させるために、(不純物である)グルコースの含有量が10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。グルコースの含有量は、HPLC分析により測定して求めることができる。(不純物である)グルコースの含有量を10質量%以下とするには、例えば、イオン交換カラムクロマトグラフィーなどによりグルコースを除去すればよい。
【0018】
炭酸化促進剤の粒度として、平均粒径は10~500μmであることが好ましく、10~400μmであることがより好ましい。平均粒径が10~500μmであることで粒子表面の水への溶解を促進することができる。平均粒径はレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置により測定して求めることができる。
【0019】
炭酸化促進剤のBET比表面積は0.1~30m2/gであることが好ましく、0.2~30m2/gであることがより好ましい。BET比表面積が0.1~30m2/gであることで粒子表面の水への溶解を促進することができる。BET比表面積はBET比表面積測定装置により測定して求めることができる。
【0020】
炭酸化促進剤によるアルカリ土類系金属化合物の炭酸化の方法は、特に限定されるものではないが、例えば、二酸化炭素含有ガス雰囲気中で0~75℃で、加熱や加湿等する方法が挙げられる。
上記二酸化炭素含有ガスとしては、セメント工場及び石炭火力発電所から発生する排ガス、塗装工場における排気処理で発生する排ガス等を用いることができ、その場合は加熱や加湿等は不要となる。二酸化炭素含有ガス中の二酸化炭素の割合は、5体積%以上であることが好ましく、10~100体積%であることが好ましく、15~100体積%であることがさらに好ましい。
二酸化炭素含有ガス中には水分(水蒸気)が含まれていてもよい。例えば、20℃における相対湿度が80%RH以上であることが好ましく、90RH%以上であることがより好ましい。
【0021】
炭酸化反応促進の観点から、上記炭酸化おける炭酸化進剤は、アルカリ土類系金属化合物100質量部に対して0.5~10質量部とすることが好ましく0.5~7質量部とすることがより好ましい。
【0022】
以上のようにして炭酸化されたアルカリ土類系金属化合物の炭酸化物は、例えば、コンクリート材料として用いることが可能である。すなわち、大気中の二酸化炭素を効果的にアルカリ土類系金属化合物に炭酸化するだけでなく、コンクリート材料としてさらに有効利用することができる。
【実施例】
【0023】
[実験例1]
(使用材料)
・副生消石灰:カーバイド滓(ブレーン比表面積3,380cm2/g、平均粒径68μm、含水率:7.7質量%)
・トレハロース(2水和物):特級、二糖、グルコース×グルコース、平均粒径370μm、グルコース含有率1質量%、還元性なし
・マルトース(1水和物):特級、二糖、グルコース×グルコース、還元性あり
・ショ糖(スクロース):1級、二糖、グルコース×フルクトース、還元性なし
・デキストリン:化学用、多糖
【0024】
ポリカップに副生消石灰25gと、副生消石灰100質量部に対して表1に示す所定の割合となるように各種の助剤を添加して混合し、恒温恒湿室内で20℃80%RH、二酸化炭素濃度20体積%の条件で炭酸化を行った。
表1に示す所定期間で炭酸化させた後、105℃で乾燥させた試料の質量を測定し、炭酸化前後の質量変化(炭酸化による増加質量)から下記式により炭酸化率を算出した。結果を表1に示す。
【0025】
【0026】
【0027】
表1より、特にトレハロースを添加した場合に炭酸化の効果が大きく、5質量部添加した条件では3日間の炭酸化で炭酸化率は73.6%となった。
【0028】
[実験例2]
実験例1の実験No.1-3で使用した炭酸化促進剤(平均粒子径;370μm)を用い、篩目を通過させて表2に示す粉末度(平均粒子径)の炭酸化促進剤を用いたこと以外は、実験例1と同様に試験を行った。結果を表2に示す。
【0029】
【0030】
[実験例3]
実験例1の実験No.1-3で使用した炭酸化促進剤(グルコース含有率:1%)を用い、グルコースの試薬を混合させて表3に示すグルコース含有率の炭酸化促進剤を使用したこと以外は、実験例1と同様に試験を行った。結果を表3に示す。
【0031】
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は土木・建築分野等で、例えば種々のアルカリ土類系金属化合物を炭酸化して、その炭酸化物を幅広く有効に使用することができる。