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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】トルクコンバータのロックアップ装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 45/02 20060101AFI20240717BHJP
【FI】
F16H45/02 X
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022018243
(22)【出願日】2022-02-08
(65)【公開番号】P2023115821
(43)【公開日】2023-08-21
【審査請求日】2022-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】519225255
【氏名又は名称】ヴァレオ、カペック、カンパニー、リミテッド
【氏名又は名称原語表記】VALEO KAPEC CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100106655
【弁理士】
【氏名又は名称】森 秀行
(72)【発明者】
【氏名】水田 吉昭
(72)【発明者】
【氏名】石川 耕成
(72)【発明者】
【氏名】クルス、ソト、サウル
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/132739(WO,A1)
【文献】特開2006-070982(JP,A)
【文献】特開2004-124984(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110905935(CN,A)
【文献】特開2010-084852(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 45/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルクコンバータ用のロックアップ装置であって、
摩擦ディスクを有する入力部と、摩擦ディスクを有する出力部とを有する摩擦係合機構と、
前記ロックアップ装置の回転軸線方向に移動して前記摩擦係合機構を押圧し、前記摩擦係合機構の前記入力部と前記出力部とを摩擦係合させるロックアップピストンと、
前記摩擦係合機構の前記入力部と一緒に回転するように前記入力部に結合され、前記ロックアップピストンの前記回転軸線方向の移動を案内するピストン案内部と、
前記ロックアップピストンの前記ピストン案内部に対する相対回転を不能としつつ前記回転軸線方向への相対移動を可能とする回り止め機構と、
を備え、
前記ロックアップピストンは、概ね半径方向に延びる側壁部分と、前記側壁部分の周縁部から前記回転軸線方向に延びる略円筒形の第1周壁部分と、を有しており、
前記第1周壁部分は前記ピストン案内部の略円筒形の第1案内面の上をスライド可能であり、
前記回転軸線方向に関して前記第1周壁部分の端部である自由端に、円周方向に間隔を空けて複数の凹部が設けられており、前記各凹部は、前記第1周壁部分の前記自由端から回転軸線方向に延び、かつ、前記第1周壁部分の肉厚全体を半径方向に貫通しており、
前記ピストン案内部は、前記第1案内面から半径方向に突出して前記ロックアップピストンの前記複数の凹部にそれぞれスライド可能に嵌合する複数の歯を有し、
前記複数の凹部および前記複数の歯により前記回り止め機構が構成されている、ことを特徴とするロックアップ装置。
【請求項2】
前記第1周壁部分は、前記側壁部分の内側周縁部から前記回転軸線方向に延びており、前記ロックアップピストンは、さらに、前記側壁部分の外側周縁部から前記回転軸線方向に延びる略円筒形の第2周壁部分を有しており、前記第2周壁部分は前記ピストン案内部の略円筒形の第2案内面の上をスライド可能である、請求項1記載のロックアップ装置。
【請求項3】
前記第1周壁部分および前記第2周壁部分は、前記側壁部分から、前記回転軸線方向に関して同じ方向に延びている、請求項2記載のロックアップ装置。
【請求項4】
前記第1案内面に、前記第1案内面と前記第1周壁部分との間をシールする第1シール部材が取り付けられ、前記第2案内面に、前記第2案内面と前記第2周壁部分との間をシールする第2シール部材が取り付けられている、請求項2または3記載のロックアップ装置。
【請求項5】
前記摩擦係合機構の前記入力部が回転不能に固定されたトルクコンバータのカバーに回転不能に固定されたカバーハブが、前記ピストン案内部の少なくとも一部を成し、前記第1案内面および前記複数の歯は、前記カバーハブに設けられている、請求項2から4のうちのいずれか一項に記載のロックアップ装置。
【請求項6】
前記カバーハブに回転不能に固定された板状のピストンガイドが、前記ピストン案内部の少なくとも一部を成し、前記ロックアップピストン、前記カバーハブおよび前記ピストンガイドにより油室が形成されている、請求項5に記載のロックアップ装置。
【請求項7】
前記ロックアップピストンは単一の板材から形成されたワンピース部品である、請求項1から6のうちのいずれか一項に記載のロックアップ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両のエンジンのクランクシャフトと変速機の入力軸との間に介在するトルクコンバータのロックアップ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用自動変速機に組み込まれるトルクコンバータには、燃費向上を図るために、入力側と出力側とを直結させるロックアップ装置を備えている。ロックアップ装置は、ロックアップクラッチおよびロックアップダンパ(ねじり振動ダンパ)を備えている。ロックアップクラッチは、入力側の摩擦要素と、出力側の摩擦要素と、これらの摩擦要素同士を互いに押し付けるロックアップピストンを有している。ロックアップピストンは、これと軸線方向に隣接している隣接構成要素(例えば、トルクコンバータのカバー、ピストンガイド)との間に油室を構成する。この油室に作動油が供給されることによりロックアップピストンが動作する。ロックアップピストンと上記の隣接構成要素との間には、油室を密封するためのシール部材が設けられている。
【0003】
ロックアップピストンが上記の隣接構成要素に対して相対回転すると、シール部材の著しい摩耗または破損を引き起こすおそれがある。このため、上記相対回転を防止するめにロックアップピストンには回り止め機構が設けられている(例えば特許文献1~3などを参照)。公知の回り止め機構は、複雑な構造、部品点数の増大等の欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-117517号公報
【文献】米国特許出願公開2020158219号明細書
【文献】韓国特許101989072号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、簡潔かつコンパクトな構造を有し、低コストで製造することができる回り止め機構を備えたトルクコンバータのロックアップ装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態によれば、トルクコンバータ用のロックアップ装置であって、摩擦ディスクを有する入力部と、摩擦ディスクを有する出力部とを有する摩擦係合機構と、前記ロックアップ装置の回転軸線方向に移動して前記摩擦係合機構を押圧し、前記摩擦係合機構の前記入力部と前記出力部とを摩擦係合させるロックアップピストンと、前記摩擦係合機構の前記入力部と一緒に回転するように前記入力部に結合され、前記ロックアップピストンの前記回転軸線方向の移動を案内するピストン案内部と、前記ロックアップピストンの前記ピストン案内部に対する相対回転を不能としつつ前記回転軸線方向への相対移動を可能とする回り止め機構と、を備え、前記ロックアップピストンは、概ね半径方向に延びる側壁部分と、前記側壁部分の周縁部から前記回転軸線方向に延びる略円筒形の第1周壁部分と、を有しており、前記第1周壁部分は前記ピストン案内部の略円筒形の第1案内面の上をスライド可能であり、前記回転軸線方向に関して前記第1周壁部分の端部である自由端に、円周方向に間隔を空けて複数の凹部が設けられており、前記各凹部は、前記第1周壁部分の前記自由端から回転軸線方向に延び、かつ、前記第1周壁部分の肉厚全体を半径方向に貫通しており、前記ピストン案内部は、前記第1案内面から半径方向に突出して前記ロックアップピストンの前記複数の凹部にそれぞれスライド可能に嵌合する複数の歯を有し、前記複数の凹部および前記複数の歯により前記回り止め機構が構成されている、ことを特徴とするロックアップ装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の上記実施形態によれば、簡潔かつコンパクトな構造を有し、低コストで製造することができる回り止め機構を備えたロックアップ装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係るロックアップ装置を含むトルクコンバータの軸線方向縦断面図である。
図2図1からロックアップピストン、ピストンガイドおよびカバーハブを抜き出して拡大して示す図である。
図3図1に示したロックアップピストンおよびカバーハブの分解斜視図である。
図4図3に示したロックアップピストンをカバーハブに組み付けた状態を示す斜視図である。
図5】本発明の他の実施形態に係るロックアップ装置を含むトルクコンバータの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照してロックアップ装置およびロックアップ装置を備えたトルクコンバータの一実施形態について説明する。
【0010】
図1は、自動車の動力伝達装置のトルクコンバータ10およびロックアップ装置30の周辺の構造を抜き出して示す軸線方向縦断面図である。本明細書において「軸線方向」という用語は、特別な断り書きが無い限り、トルクコンバータ10およびロックアップ装置30の回転軸の中心軸線Axの方向を意味している。本明細書において「半径方向」という用語は、特別な断り書きが無い限り、中心軸線Axと直交する方向を意味している。本明細書において「円周」、「円周方向」という用語は、特別な断り書きが無い限り、中心軸線Ax上の点を中心とするとともに中心軸線Axと直交する平面上にある円の円周あるいはその方向を意味している。
【0011】
トルクコンバータ10は、カバー(入力側カバー)11と、インペラー12と、タービン13とステータ14とを有している。カバー11は、カバーハブ15に、溶接等の手段により相対回転不能に結合されている。カバー11には、ドライブプレート取付ボス11Aが設けられている。ドライブプレート取付ボス11Aには、内燃エンジンのクランクシャフト(図示せず)に固定されたドライブプレート(図示せず)が取り付けられる。このドライブプレートを介して、トルクコンバータ10のカバー11に内燃エンジンから回転トルクが入力される。
【0012】
インペラー12の周囲をインペラーシェル16が覆っている。インペラーシェル16は、カバー11に、溶接等の手段により相対回転不能に結合されている。ステータ14は、ワンウエイクラッチ17を介して、固定シャフト18に固定されている。
【0013】
ロックアップ装置30が解放されているとき(ロックアップされていないとき)には、カバー11に入力された回転トルクは、インペラー12、タービン13およびタービンハブ19を介して図示しない変速機(例えば遊星歯車式変速機)の入力軸20に伝達される。このときのインペラー12、タービン13およびステータ14の作用は自動車の動力伝達装置の技術分野において周知のため詳細な説明は省略する。
【0014】
なお、図1における参照符号「ENG」は、その付近にエンジンがあることを意味しており、参照符号「TM」は、その付近に変速機があることを意味している。
【0015】
ロックアップ装置30は、ロックアップクラッチ31と、ロックアップダンパ40とを有している。
【0016】
図示されたロックアップダンパ(ねじり振動ダンパ)40は、入力側リテーナプレート41と、出力側リテーナプレート42と、補助リテーナプレート43と、外リテーナプレート44とを有している。
【0017】
ロックアップダンパ40は、さらに、入力側リテーナプレート41と、出力側リテーナプレート42との間の相対回転に抗するように作用する複数の主スプリング45および複数の副スプリング46を有している。
【0018】
出力側リテーナプレート42、補助リテーナプレート43およびタービン13は、リベットなどの締結部材を介して、タービンハブ19に取り付けられている。従って、出力側リテーナプレート42、補助リテーナプレート43およびタービン13は、互いに相対回転不能である。
【0019】
ロックアップクラッチ31は、カバー11に相対回転不能に結合された入力部311および入力側リテーナプレート41に相対回転不能に結合された出力部312からなる摩擦係合部と、ロックアップピストン32と、を有している。入力部311および出力部312はそれぞれ複数の摩擦ディスクを有している。ロックアップピストン32は、ピストンガイド314およびカバーハブ15により軸線方向移動可能に支持されている(詳細後述)。つまり、ピストンガイド314およびカバーハブ15によりピストン案内部が構成されている。
【0020】
軸線方向に関してロックアップピストン32とピストンガイド314との間には、油室315が形成されている。カバーハブ15に形成された油路316を介して、油室315に作動油を供給することができる。
【0021】
軸線方向に関してロックアップピストン32とカバー11との間には、油室33が形成されている。油室33には、カバーハブ15に形成された油路34を介して作動油が供給される。油室33に供給された作動油は、ロックアップクラッチ31の入力部311および出力部312の摩擦ディスク、インペラー12、タービンハブ19、ロックアップダンパ40等に供給される。
【0022】
エンジンが動作しているときには、油室33内には作動油が供給されている。このため、ロックアップピストン32は油室33内の油圧により図1の左方向(TM側)に付勢された状態となっている。
【0023】
油室315に作動油が供給され、油室315内の圧力が油室33内の圧力を上回ると、ロックアップピストン32が図1の右方(ENG側)に変位して、ロックアップピストン32(特に後述のディスク押圧部321a)が入力部311の摩擦ディスクを出力部312の摩擦ディスクに押し付ける。これにより、入力部311および出力部312(摩擦係合部)が互いに摩擦係合し、ロックアップクラッチ31がロックアップ(係合)状態となる。
【0024】
このとき、カバー11に入力されたエンジン動力は、ロックアップクラッチ31の入力部311、出力部312およびロックアップダンパ40を経て、タービンハブ19に伝達される。このときロックアップダンパ40は、自動車用動力伝達装置の技術分野において周知の作用機序により、ねじり振動を減衰させる。
【0025】
油室315内の作動油の圧力を抜くと、油室33内の作動油の圧力によりロックアップピストン32は油圧により図1の方向(TM側)に変位して、ロックアップ状態が解除される。
【0026】
次に、ロックアップピストン32およびピストン案内部(ピストンガイド314およびカバーハブ15)、並びにロックアップピストン32の回り止め構造について、図2図4も参照して詳細に説明する。
【0027】
ロックアップピストン32は、幾何学的な意味において実質的に回転体として形成されている(後述の凹部325は除く)。この回転体の回転軸は、トルクコンバータおよびロックアップクラッチの中心軸線Axと一致している。
【0028】
ロックアップピストン32は、全体として概ねリング状の円板形状の側壁部分320と、側壁部分320の内周縁部から軸線方向に延びる略円筒形の内周壁部分(第1周壁部分)321と、側壁部分320の外周縁部から軸線方向に延びる略円筒形の外周壁部分(第2周壁部分)322とを有している。以下、説明の便宜上、軸線方向に関して、図中左側(TM側)に向かう方向を回転軸正方向、図中右側(ENG側)に向かう方向を回転軸負方向と呼ぶこととする。図示された実施形態において、内周壁部分321および外周壁部分322は、側壁部分320からともに同じ方向(回転軸正方向)に延びている。
【0029】
側壁部分320は、全体として概ね半径方向に広がっている。側壁部分320の外周縁付近には、回転軸負方向に突出するとともに円周方向に連続的に延びるディスク押圧部321aが形成されている。ディスク押圧部321aは、ロックアップ時に入力部311の摩擦ディスクを回転軸負方向に向けて押圧する役割を果たす。
【0030】
ディスク押圧部321aよりも半径方向内側の位置において、側壁部分321にはストッパ部321bが形成されている。ストッパ部321bは、回転軸正方向に突出するとともに円周方向に連続的に延びている。ストッパ部321bは、ロックアップがされていない時にピストンガイド314に接触(特に面接触)して、ロックアップピストン32を所定の軸線方向位置で停止させる。
【0031】
ロックアップピストン32の外周壁部分322(特にその内周面)は、カバーハブ15に溶接等の手段により固定されたピストンガイド314(特にその最外周面319(第2案内面))上を回転軸線方向にスライドできるように案内されている。ピストンガイド314は、ロックアップピストン32の外周壁部分322(特にその内周面)を支持して案内する(第2)ピストン案内部であるとも言える。
【0032】
ピストンガイド314は、全体として概ね半径方向に広がるリング形状を有している。ピストンガイド314の最外周面319の直径は、ロックアップピストン32の外周壁部分322の内周面の直径より僅かに小さい。ピストンガイド314の最外周面319には円周溝が形成されており、この円周溝にリング状のシール部材317が装着されている。シール部材317は、油室315を密閉するために、ロックアップピストン32の外周壁部分322の内周面とピストンガイド314の最外周面319との間を、ロックアップピストン32の軸線方向移動を可能とする程度の適当な締め代でシールする。
【0033】
カバーハブ15には、ピストン案内部151が設けられている。図示された実施形態では、ピストン案内部151は、カバーハブ15のピストン案内部151に隣接する部分よりも半径方向外側に突出した略リング状の突出部として形成されている。ロックアップピストン32の内周壁部分321(特にその内周面)は、ピストン案内部151(特にその外周面152(第1案内面))上を回転軸線方向にスライドできるように案内されている。
【0034】
ピストン案内部151の外周面152の直径は、ロックアップピストン32の内周壁部分321の内周面の直径よりも僅かに小さい。外周面152には円周溝が形成されており、この円周溝にリング状のシール部材318が装着されている。シール部材318は、油室315を密閉するために、ロックアップピストン32の内周壁部分321の内周面とピストン案内部151の外周面152との間をロックアップピストン32の軸線方向移動を可能とする程度の適当な締め代でシールする。
【0035】
ピストン案内部151の外周面152から複数の(図示例では6個の)歯154が半径方向外側に突出している。複数の歯154は、円周方向に等間隔で設けられている。図示された実施形態においては、歯154は、概ね矩形の断面を有している。つまり、歯154は、スプラインのような形態で設けられている。
【0036】
ピストン案内部151の複数の歯154にそれぞれ対応する角度位置において、ロックアップピストン32の内周壁部分321の先端部(つまり側壁部分320と反対側のリング状の自由端およびその近傍)には、複数の凹部325が形成されている。凹部325は、内周壁部分321の先端(自由端)から回転軸負方向に延び、かつ、内周壁部分321の肉厚全体を半径方向に貫通している。
【0037】
凹部325の円周方向幅は、歯154の円周方向幅よりも僅かに大きい。凹部325の奥行き(軸線方向深さ)は、ロックアップピストン32が回転軸負方向に最大変位したときでも、歯154が凹部325から外れない程度のサイズとなっている。
【0038】
上記のカバーハブ15のピストン案内部151の構成およびロックアップピストン32の内周壁部分321の構成により、ロックアップピストン32をカバーハブ15に対して回転不能であってかつ軸線方向に移動可能に、カバーハブ15に取り付けることができる。また、ロックアップピストン32を、カバーハブ15に対して回転不能に固定されたピストンガイド314に対しても、回転不能であってかつ軸線方向に移動可能とすることができる。このため、シール部材317,318がロックアップピストン32に対して相対的に回転方向に摺動することはなく、シール部材317,318の損耗を防止することができる。
【0039】
上記実施形態によれば、図2図4に示された形状から明らかなように、ロックアップピストン32は、金属材料特に鉄鋼材料からなる板材にプレス加工特に絞り加工を施すことにより形成することができる。内周壁部分321に形成される凹部325については、プレス加工の一工程(例えば打ち抜き)により形成することができる。この場合、特にロックアップピストン32の製造コストを低減することができる。凹部325は、プレス加工(ここでは凹部325を形成しない)を行った後に切削加工により形成してもよいし、あるいは、プレス加工により凹部325の大まかな形状を形成し、その後に仕上げの切削または研磨加工を行うことにより形成してもよい。その形状より明らかなように、いずれの製法を採用するにせよ、凹部325は容易に形成することができる。このため、ロックアップピストン32の回り止めを低コストで実現することができる。また、回り止めのために余分な別体の部品を用意する必要はない。このためロックアップクラッチおよびそれを備えたトルクコンバータの製造コストを低減することができる。
【0040】
また、カバーハブ15に、凹部325に嵌合させる歯154を形成することも容易である。なお、歯154が形成された部材をカバーハブ15とは別々に形成した後に、カバーハブ15に接合してもよい。
【0041】
上記実施形態によれば、内周壁部分321および外周壁部分322は、側壁部分321からともに同じ方向(回転軸正方向)に延びているため、ロックアップピストン32のプレス加工時の工程数を少なくすることができる。但し、内周壁部分321および外周壁部分322が互いに反対方向に延びていても構わない。
【0042】
上記実施形態によれば、ロックアップピストン32の回り止めに関与する部分(凹部325)が内周壁部分321に設けられているため、例えば側壁部分321に回り止めに関与する部分を設けた場合に比べて、側壁部分321の形状を自由に設定することができる。このため、ロックアップピストン32の剛性向上と応力集中回避を両立させる形状設計の自由度を高めることができる。なお、ロックアップピストン32の回り止めに関与する部分(凹部325)を外周壁部分322に設けることも可能である。但し、製造容易性の観点からは、ロックアップピストン32の回り止めに関与する部分と嵌合する部分(歯154)はカバーハブ15に設けた方が好ましいので、ロックアップピストン32の回り止めに関与する部分(凹部325)が内周壁部分321に設けた方が好ましい。
【0043】
上記実施形態によれば、内周壁部分321の内周面がピストン案内部151の外周面上を案内され、かつ、外周壁部分322の内周面がピストンガイド314の最外周面319上を案内されている。このため、ロックアップピストン32にシール部材を装着する必要はなく、相手側の部材にシール部材を装着すればよい。つまり、内周壁部分321および外周壁部分322にシール装着用の溝を形成する必要が無いため、内周壁部分321および外周壁部分322の肉厚は小さくても構わない。従って、ロックアップピストン32を単一の板材から容易にプレス成形することが可能となる。
【0044】
ロックアップ解除を迅速に行うために、ロックアップピストン32を図中左方向(TM側)に付勢する少なくとも1つのリターンスプリング50(図1で破線にて概略的に示した)を追加的に設けてもよい。リターンスプリングは、カバー11(あるいは入力部311)とロックアップピストン32との間に介在させることができる。リターンスプリング50は、単一の皿ばねであってもよい。リターンスプリング50は、円周方向に等間隔に設けられた複数のコイルばねであってもよい。後者の場合、コイルばねを所定位置に保持するスプリングリテーナが設けられる。リターンスプリング50は、カバー11(あるいは入力部311)相対回転不能に固定されていればよく、ロックアップピストン32に対しては接しているだけでよい。つまり、リターンスプリング50をロックアップピストン32に固定する手段(例えばリベットなど)は必要無いため、リターンスプリング50を設けることによりロックアップピストン32の構成が複雑化することはない。
【0045】
図5に概略的に示すように、カバー11とロックアップピストン32との間に油室315が形成されるような構成としてもよい。図5では、図1図4に示した部材と同じ役割を示す部材に同じ参照符号が付けられている。ロックアップピストン32の外周壁部分322はカバー11に支持され、内周壁部分321はカバーハブ15により支持されている。この場合、回り止め構造は、内周壁部分321およびカバーハブ15に設けることができる。
【0046】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で、様々な変更を施した変形実施形態を構成することが可能である。
【符号の説明】
【0047】
11 トルクコンバータのカバー
311 摩擦係合機構の入力部
312 摩擦係合機構の出力部
32 ロックアップピストン
320 ロックアップピストンの側壁部分
321 ロックアップピストンの第1周壁部分(内周壁部分)
322 ロックアップピストンの第2周壁部分(外周壁部分)
314,151 ピストン案内部
314 ピストンガイド
319 第2案内面(ピストンガイドの最外周面)
15 カバーハブ
151 カバーハブのピストン案内部
152 第1案内面(ピストン案内部151の外周面)
325,154 ロックアップピストンの回り止め機構
325 凹部
154 歯
317、318 シール部材
図1
図2
図3
図4
図5