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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】電極体の製造装置及び電極体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20240717BHJP
   H01M 4/04 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/04 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022020550
(22)【出願日】2022-02-14
(65)【公開番号】P2023117794
(43)【公開日】2023-08-24
【審査請求日】2023-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】平原 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】梅原 将一
(72)【発明者】
【氏名】石塚 直宏
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 耕
(72)【発明者】
【氏名】岸本 尚也
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-135238(JP,A)
【文献】特開2011-222206(JP,A)
【文献】特開2020-064718(JP,A)
【文献】特開2008-152946(JP,A)
【文献】特開2004-171836(JP,A)
【文献】特開2020-042960(JP,A)
【文献】中国実用新案第215656841(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/139
H01M 4/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体となる基材に対して電極活物質を含んだ合材ペーストを塗工する塗工機と、
前記基材上に形成された前記合材ペーストの塗工層に対向して配置されることにより前記合材ペーストに混入した金属異物を吸引して前記塗工層の表面形状を変化させる吸引磁石と、を備える電極体の製造装置。
【請求項2】
前記吸引磁石に吸引された前記金属異物が前記塗工層の表面に凸部を形成するように構成された請求項1に記載の電極体の製造装置。
【請求項3】
前記吸引磁石が50μm以上の長さを有する前記金属異物を吸引した場合に前記塗工層の表面形状が変化するように構成された
請求項1又は請求項2に記載の電極体の製造装置。
【請求項4】
前記塗工層に生じた前記表面形状の変化を検出する外観検査機を備える
請求項1~請求項3の何れか一項に記載の電極体の製造装置。
【請求項5】
前記塗工機に設けられた前記合材ペーストの吐出口において前記合材ペーストに混入した金属異物を吸着する吸着磁石を備える
請求項1~請求項4の何れか一項に記載の電極体の製造装置。
【請求項6】
集電体となる基材に対して電極活物質を含んだ合材ペーストを塗工する塗工機と、
前記塗工機に設けられた前記合材ペーストの吐出口において、前記合材ペーストが塗工された前記基材の搬送方向に沿って、前記基材上に形成される前記合材ペーストに混入した金属異物を吸着する吸着磁石と、を備える電極体の製造装置。
【請求項7】
連続的に搬送される前記基材の搬送方向下流側となる位置において前記吐出口に設けられた前記吸着磁石を備える請求項5又は請求項6に記載の電極体の製造装置。
【請求項8】
前記基材上に形成される前記合材ペーストの塗工層の厚みが20μm以上、50μm以下である請求項1~請求項7の何れか一項に記載の電極体の製造装置。
【請求項9】
集電体となる基材に対して電極活物質を含んだ合材ペーストを塗工する工程と、
前記基材上に形成された前記合材ペーストの塗工層に対向する吸引磁石により前記合材ペーストに混入した金属異物を吸引して前記塗工層の表面形状を変化させる工程と、
を備える電極体の製造方法。
【請求項10】
前記基材に対する前記合材ペーストの吐出口に配置された吸着磁石により前記合材ペーストに混入した金属異物を吸着する工程を備える
請求項9に記載の電極体の製造方法。
【請求項11】
集電体となる基材に対して電極活物質を含んだ合材ペーストを塗工する工程と、
前記基材に対する前記合材ペーストの吐出口において、前記合材ペーストが塗工された前記基材の搬送方向に沿って配置された吸着磁石により前記基材上に形成される前記合材ペーストに混入した金属異物を吸着する工程と、を備える電極体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極体の製造装置及び電極体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、リチウムイオン二次電池等の電極体には、集電体となる基材上に電極活物質を含んだ合材ペーストを塗工することにより形成されるものがある。そして、例えば、特許文献1や特許文献2等には、磁石を用いることにより、その合材ペーストに混入した金属異物を除去する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-10728号公報
【文献】特開2004-73944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、電池製造の分野においては、常に、その更なる品質向上と効率化が求められている。このため、上記従来技術の構成についてもまた、必ずしも、その進化する要求水準を満たしているとは言い切れないのが実情である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する電極体の製造装置は、集電体となる基材に対して電極活物質を含んだ合材ペーストを塗工する塗工機と、前記基材上に形成された前記合材ペーストの塗工層に対向して配置されることにより前記合材ペーストに混入した金属異物を吸引して前記塗工層の表面形状を変化させる吸引磁石と、を備える。
【0006】
上記構成によれば、基材上に形成された合材ペーストの塗工層に含まれる金属異物を検出して、この金属異物が含まれた部分を特定することができる。そして、これにより、効率的に、その金属異物を除去して高い品質を確保することができる。
【0007】
特に、吸引磁石は、合材ペーストに対して非接触であり、金属異物も吸着しない。このため、高頻度の清掃を必要とせず、その清掃も容易という利点がある。そして、これにより、その更なる効率化を図ることができる。
【0008】
上記課題を解決する電極体の製造装置は、前記吸引磁石に吸引された前記金属異物が前記塗工層の表面に凸部を形成するように構成されることが好ましい。
上記構成によれば、容易に、その金属異物が含まれた部分を特定することができる。
【0009】
上記課題を解決する電極体の製造装置は、前記吸引磁石が50μm以上の長さを有する前記金属異物を吸引した場合に前記塗工層の表面形状が変化するように構成されることが好ましい。
【0010】
上記構成によれば、電池性能に与える影響が大きい金属異物を、効率よく、除去することができる。
上記課題を解決する電極体の製造装置は、前記塗工層に生じた前記表面形状の変化を検出する外観検査機を備えることが好ましい。
【0011】
上記構成によれば、その表面形状の変化に基づいた合材ペーストの塗工層に含まれる金属異物の検出、及び、この金属異物が含まれた部分の特定を自動化することができる。
上記課題を解決する電極体の製造装置は、前記塗工機に設けられた前記合材ペーストの吐出口において前記合材ペーストに混入した金属異物を吸着する吸着磁石を備えることが好ましい。
【0012】
上記課題を解決する電極体の製造装置は、集電体となる基材に対して電極活物質を含んだ合材ペーストを塗工する塗工機と、前記塗工機に設けられた前記合材ペーストの吐出口において前記合材ペーストに混入した金属異物を吸着する吸着磁石と、を備える。
【0013】
即ち、合材ペーストの吐出口においては、その基材上に形成する塗工層の厚みに合わせて合材ペーストが薄く引き伸ばされた状態となる。更に、その吐出圧に基づき合材ペーストの流速が速くなり、これにより高いせん断力が加わることで、その合材ペーストの粘度もまた低くなる。そして、これにより、吸着磁石の磁力に基づいて、効率よく、その合材ペーストに混入した金属異物を吸着して捕集することができる。
【0014】
更に、その吸着磁石に吸着された金属異物を容易に拭き取ることができるという利点がある。そして、これにより、容易且つ簡便に、その合材ペーストに混入した金属異物を除去することができる。
【0015】
上記課題を解決する電極体の製造装置は、連続的に搬送される前記基材の搬送方向下流側となる位置において前記吐出口に設けられた前記吸着磁石を備えることが好ましい。
上記構成によれば、より効率よく、その合材ペーストに混入した金属異物を吸着磁石に吸着して捕集することができる。
【0016】
上記課題を解決する電極体の製造装置は、前記基材上に形成される前記合材ペーストの塗工層の厚みが20μm以上、50μm以下であることが好ましい。
上記構成によれば、磁気的手法を用いて、効率よく、その合材ペーストに混入した金属異物を除去することができる。
【0017】
上記課題を解決する電極体の製造方法は、集電体となる基材に対して電極活物質を含んだ合材ペーストを塗工する工程と、前記基材上に形成された前記合材ペーストの塗工層に対向する吸引磁石により前記合材ペーストに混入した金属異物を吸引して前記塗工層の表面形状を変化させる工程と、を備える。
【0018】
上記課題を解決する電極体の製造方法は、前記基材に対する前記合材ペーストの吐出口に配置された吸着磁石により前記合材ペーストに混入した金属異物を吸着する工程を備えることが好ましい。
【0019】
上記課題を解決する電極体の製造方法は、集電体となる基材に対して電極活物質を含んだ合材ペーストを塗工する工程と、前記基材に対する前記合材ペーストの吐出口に配置された吸着磁石により前記合材ペーストに混入した金属異物を吸着する工程と、を備える。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、効率的に金属異物を除去して高い品質を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】二次電池の斜視図。
図2】電極体の分解図。
図3】二次電池の側面図。
図4】電極体の製造に用いられる製造装置の概略構成図。
図5】合材ペーストの吐出口に設けられた吸着磁石の説明図。
図6】合材ペーストの塗工層に含まれた金属異物の説明図。
図7】吸引磁石に吸引された金属異物及び塗工層の表面に生じた形状変化の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、電極体の製造装置及び製造方法の一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、二次電池1は、正極3、負極4、及びセパレータ5を一体化した電極体10と、この電極体10を収容するケース20と、を備えている。そして、本実施形態の二次電池1は、そのケース20内の電極体10に、図示しない非水性の電解液を含浸させたリチウムイオン二次電池としての構成を有している。
【0023】
詳述すると、本実施形態の二次電池1において、正極3、負極4、及びセパレータ5は、シート状の外形を有して積層される。そして、これら正極3、負極4、及びセパレータ5の積層体を捲回することにより、正極3と負極4との間にセパレータ5を挟み込む状態で、その径方向に正負の電極とセパレータ5とが交互に並ぶ電極体10が形成されている。
【0024】
また、本実施形態のケース20は、扁平略四角箱状のケース本体21と、このケース本体21の開口端21xを閉塞する蓋部材22と、を備えている。そして、本実施形態の電極体10は、このケース20の箱形状に対応する扁平した外形を有するものとなっている。
【0025】
さらに詳述すると、図2に示すように、本実施形態の二次電池1において、正極3及び負極4は、それぞれ、シート状の外形を有した集電体31と、この集電体31上に積層された電極活物質層32と、を備えた電極シート35としての構成を有する。
【0026】
具体的には、正極3用の電極シート35Pについては、その正極集電体31Pを構成するアルミニウム等を素材とした基材36P上に、正極活物質となるリチウム遷移金属酸化物を含んだ合材ペースト37Pが塗工される。また、負極4用の電極シート35Nについては、その負極集電体31Nを構成する銅等を素材とした基材36N上に、負極活物質となる炭素系材料を含んだ合材ペースト37Nが塗工される。更に、これらの合材ペースト37P,37Nには、それぞれ、結着材が含まれている。そして、本実施形態の二次電池1においては、これらの合材ペースト37P,37Nが乾燥することで、その正負の電極シート35P,35Nに対して、それぞれ、その対応する正極活物質層32P及び負極活物質層32Nが形成される構成となっている。
【0027】
更に、本実施形態の二次電池1において、これら正負の電極シート35P,35Nは、それぞれ、帯状に整形される。そして、本実施形態の電極体10は、セパレータ5を挟んで積層された正負の電極シート35P,35Nが、その帯形状の幅方向(図2中、左右方向)に延びる捲回軸L周りに捲回される構成になっている。
【0028】
尚、図2中においては、その正極3を構成する電極シート35Pを内側に捲き込むかたちで、セパレータ5及び各電極シート35が捲回されている。但し、この図は、電極体10の構造を示す一例であり、その負極4を構成する電極シート35Nを内側に捲き込むかたちで、これらのセパレータ5及び各電極シート35が捲回される場合もある。そして、これにより、その電極体10の最外殻に配置される電極シート35が、正極3を構成する電極シート35Pであるか、又は負極4を構成する電極シート35Nであるかが決定される。
【0029】
また、図1図3に示すように、ケース20の蓋部材22には、ケース20の外側に突出する正極端子38P及び負極端子38Nが設けられている。更に、各電極シート35には、それぞれ、その集電体31上に電極活物質層32が形成されていない未塗工部39が形成されている。そして、本実施形態の二次電池1は、これらの未塗工部39を利用して、その正極3を構成する電極シート35Pと正極端子38Pとが電気的に接続され、及び、その負極4を構成する電極シート35Nと負極端子38Nとが電気的に接続される構成となっている。
【0030】
具体的には、本実施形態の電極体10は、その捲回軸Lが長尺略矩形板状をなす蓋部材22の長手方向(図1中、左右方向)に沿う状態で、ケース20内に収容される。更に、この状態で、その正極3を構成する電極シート35Pの未塗工部39Pと正極端子38Pとが接続部材40Pを介して接続される。そして、同じく、その負極4を構成する電極シート35Nの未塗工部39Nと負極端子38Nとが接続部材40Nを介して接続される構成となっている。
【0031】
更に、このケース20内には、電解液41が注入される。即ち、リチウムイオン二次電池としての構成を有する二次電池1の電解液41には、有機溶媒中に支持塩となるリチウム塩を溶解させたものが用いられる。そして、本実施形態の二次電池1は、これにより、そのケース20内に封缶された電極体10に対して電解液41が含浸される構成になっている。
【0032】
(電極シートの製造装置及び製造方法)
次に、上記のように構成された二次電池1の電極体10、詳しくは、その電極体10の形成に使用される電極シート35の製造装置及び製造方法について説明する。
【0033】
図4に示すように、電極体10の形成に使用される電極シート35の製造装置50は、集電体31となる基材36を連続的に搬送する搬送装置51と、この基材36の表面36sに合材ペースト37を塗工する塗工機52と、を備えて構成される。
【0034】
詳述すると、本実施形態の基材36は、帯状の箔形状をなしている。即ち、この基材36は、その形状及び集電体31としての機能から「集電箔」と呼称される。また、本実施形態の製造装置50において、この基材36は、搬送装置51を構成する複数のロール53に巻き掛けられる。そして、本実施絵形態の搬送装置51は、これらの各ロール53が回転することにより、その帯状をなす基材36を連続的に搬送する構成となっている。
【0035】
また、本実施形態の塗工機52は、その基材36に対する合材ペースト37の吐出口55を有した塗工ダイ56を備えている。具体的には、本実施形態の製造装置50において、この塗工ダイ56は、その搬送装置51を構成する各ロール53のうち、「Bロール」と呼称されるロール53xの径方向外側に配置されている。そして、本実施形態の塗工機52は、これにより、その塗工ダイ56に対向する基材36の表面36sに対して、その吐出口55から吐出する合材ペースト37を連続的に塗工する構成となっている。
【0036】
さらに詳述すると、本実施形態の製造装置50において、この一連の工程により基材36上に形成される合材ペースト37の塗工層60、つまり電極活物質層32となる部分の厚みは、例えば、30μm程度に設定されている。また、この基材36に対する合材ペースト37の塗工により形成された電極シート35は、その塗工層60の乾燥後、順次、所定の長さ寸法及び幅寸法に裁断される。そして、上記のように、これにより整形された正負の電極シート35P,35Nをセパレータ5ともに捲回することで、その電極体10が形成される構成となっている(図2参照)。
【0037】
(金属異物の吸着磁石)
次に、本実施形態の製造装置50に設けられた金属異物の吸着磁石について説明する。
図4及び図5に示すように、本実施形態の製造装置50は、塗工機52の塗工ダイ56、詳しくは、その先端部分が形成する合材ペースト37の吐出口55に配置された吸着磁石70を備えている。更に、本実施形態の製造装置50においては、この吸着磁石70によって、その吐出口55を介して基材36に塗工される合材ペースト37に混入した金属異物Mが吸着される。そして、本実施形態の製造装置50は、これにより、効率的に、その合材ペースト37中の金属異物Mを除去することが可能になっている。
【0038】
詳述すると、本実施形態の製造装置50において、この吸着磁石70は、帯状の箔形状を有して搬送装置51により連続的に搬送される基材36の幅方向(図4中、紙面に直交する方向)、略全域に亘って延在する長尺形状を有している。更に、この吸着磁石70は、その基材36の搬送方向下流側(図4及び図5中、上側)となる位置において、その合材ペースト37の吐出口55に設けられている。換言すると、この吸着磁石70は、塗工機52の塗工ダイ56に対向するロール53xに巻き掛けられた基材36が流れて行く方向となる位置において、その吐出口55に設けられている。そして、本実施形態の製造装置50は、これにより、効率よく、その磁力に基づいて、吸着磁石70に合材ペースト37中の金属異物Mを吸着させることのできる構成となっている。
【0039】
即ち、塗工機52中の流路72内を移動する合材ペースト37の出口となる吐出口55においては、その基材36上に形成する塗工層60の厚みDに合わせて合材ペースト37が薄く引き伸ばされた状態となる。更に、その吐出圧に基づき合材ペースト37の流速が速くなり、これにより高いせん断力が加わることで、その合材ペースト37の粘度もまた、例えば1500mPa・s(ミリパスカル秒)程度まで低下する。そして、本実施形態の製造装置50においては、これにより、その吸着磁石70が、合材ペースト37中の金属異物Mを捕集しやすくなっている。
【0040】
更に、本実施形態の製造装置50は、塗工ダイ56に対向するロール53xの円筒形状に基づいて、その塗工後の基材36が、合材ペースト37の吐出口55に設けられた吸着磁石70から、その合材ペースト37の吐出方向に離間する構成となっている。そして、本実施形態の製造装置50においては、これにより、吸着磁石70に吸着された金属異物Mが、その基材36上に塗工された合材ペースト37に対して再付着し難くなっている。
【0041】
また、本実施形態の製造装置50においては、合材ペースト37の吐出口55を有する塗工ダイ56の外側で、その吸着磁石70に捕集された金属異物Mを拭き取ることが可能になっている。そして、本実施形態の製造装置50は、これにより、容易且つ簡便に、その合材ペースト37に混入した金属異物Mを除去することが可能になっている。
【0042】
(金属異物の吸引磁石)
次に、本実施形態の製造装置50に設けられた金属異物の吸引磁石について説明する。
図4に示すように、本実施形態の製造装置50は、上記のように合材ペースト37の吐出口55に設けられた吸着磁石70に加え、その基材36上に形成される合材ペースト37の塗工層60に対向して配置された吸引磁石80を備えている。即ち、この吸引磁石80は、塗工ダイ56が設けられた基材36に対する合材ペースト37の塗工位置よりも、その搬送装置51によって連続的に搬送される基材36の搬送方向下流側(図4中、右側)の位置に設けられている。具体的には、この吸引磁石80は、基材36上に形成された塗工層60の表面60sから数mm程度離間した状態で、その塗工層60に対向して配置されている。尚、この吸引磁石80もまた、上記吸着磁石70と同様、帯状の箔形状を有して搬送装置51により連続的に搬送される基材36の幅方向全域に亘って延在する長尺形状を有している。更に、本実施形態の製造装置50は、この吸引磁石80よりも搬送方向下流側の位置に設けられた外観検査機81を備えている。そして、本実施形態の製造装置50は、この外観検査機81による検査結果に基づいて、効率的に、その合材ペースト37に混入した金属異物Mを除去することが可能になっている。
【0043】
即ち、本実施形態の製造装置50は、吸引磁石80の磁力に基づいて、その合材ペースト37の塗工層60に含まれた金属異物Mを吸引する。更に、この吸引磁石80に吸引された金属異物Mが動くことで、その基材36上に形成された塗工層60の表面形状が変化する。そして、本実施形態の製造装置50は、この塗工層60の表面60sに生じた形状変化を、その吸引磁石80の下流に設けられた外観検査機81により検出する構成となっている。
【0044】
詳述すると、図6及び図7に示すように、本実施形態の製造装置50においては、合材ペースト37の塗工層60中に含まれた金属異物Mを吸引磁石80が吸引することにより、例えば、その金属異物Mの姿勢が変化する。
【0045】
具体的には、合材ペースト37の塗工層60中に、この塗工層60の厚みDよりも長さXの長い長粒状の金属異物Mが含まれているとする(X>D)。この場合、この金属異物Mの姿勢は、その長手方向が基材36の表面36sに沿う状態、つまりは所謂「寝た状態」になりやすい。本実施形態の製造装置50は、このような「寝た状態」の金属異物Mを吸引磁石80が吸引することで、この金属異物Mの姿勢が所謂「立った状態」に変化する。つまりは、その長手方向が塗工層60の厚み方向を向くように、この合材ペースト37の塗工層60中に含まれた金属異物Mの姿勢が変化するように構成されている。そして、本実施形態の製造装置50は、これにより、この吸引磁石80に吸引された金属異物Mが、その塗工層60の表面60sに凸部85を形成する構成となっている。
【0046】
さらに詳述すると、本実施形態の製造装置50は、その吸引磁石80が、例えば50μm以上の長さXを有する金属異物Mを吸引した場合に、この金属異物Mが含まれる部分において、その塗工層60の表面形状が変化するように構成されている。更に、本実施形態の製造装置50においては、このような塗工層60の表面60sに生じた形状変化を外観検査機81が検出した場合に、その表面形状の変化が検出された部分のマーキング処理が行われる。そして、本実施形態の製造装置50は、このマーキング処理された部分については、上記のような電極シート35の捲回による電極体10の形成に使用しないことで、効率的に、その合材ペースト37に混入した金属異物Mを除去することが可能になっている。
【0047】
即ち、合材ペースト37の吐出口55に配置された吸着磁石70によっても、その合材ペースト37に混入した金属異物Mを捕集しきれない可能性がある。この点を踏まえ、本実施形態の製造装置50は、上記のような吸引磁石80を用いた金属異物Mの除去方法を併用する。そして、これにより、その更なる品質の向上を図る構成となっている。
【0048】
尚、本実施形態の製造装置50においては、塗工機52内に形成された合材ペースト37の流路72内にも、その合材ペースト37に混入した金属異物Mを捕集することのできるフィルタ(図示略)が設けられている。しかしながら、金属異物Mの形状は、必ずしも球形とは限らず、多くの場合、上記のような長粒状等、不定形状であることから、その合材ペースト37中の姿勢によっては、フィルタをすり抜ける場合がある。そして、本実施形態の製造装置50は、このフィルタをすり抜けた金属異物Mを、その吸着磁石70及び吸引磁石80を用いて除去する構成になっている。
【0049】
次に、本実施形態の作用について説明する。
即ち、本実施形態の製造装置50において、基材36に塗工される合材ペースト37に混入した金属異物Mは、合材ペースト37の吐出口55に設けられた吸着磁石70に吸着されることにより捕集される。更に、この吸着磁石70に吸着されることなく、基材36に塗工された合材ペースト37中の金属異物Mは、その基材36上に形成された合材ペースト37の塗工層60に対向して配置された吸引磁石80に吸引される。そして、この吸引磁石80による金属異物Mの吸引により塗工層60の表面60sに生じた形状変化に基づいて、その合材ペースト37の塗工層60に含まれた金属異物Mが除去される。
【0050】
次に、本実施形態の効果について説明する。
(1)電極体10の製造装置50は、集電体31となる基材36に対して電極活物質を含んだ合材ペースト37を塗工する塗工機52を備える。また、製造装置50は、その基材36上に形成された合材ペースト37の塗工層60に対向して配置される吸引磁石80を備える。そして、製造装置50は、この吸引磁石80が合材ペースト37に混入した金属異物Mを吸引することにより、その塗工層60の表面形状が変化するように構成される。
【0051】
上記構成によれば、基材36上に形成された合材ペースト37の塗工層60に含まれる金属異物Mを検出して、この金属異物Mが含まれた部分を特定することができる。そして、これにより、効率的に、その金属異物Mを除去して高い品質を確保することができる。
【0052】
特に、吸引磁石80は、合材ペースト37に対して非接触であり、金属異物Mも吸着しない。このため、高頻度の清掃を必要とせず、その清掃も容易という利点がある。そして、これにより、その更なる効率化を図ることができる。
【0053】
(2)製造装置50は、吸引磁石80に吸引された合材ペースト37中の金属異物Mが、その塗工層60の表面60sに凸部85を形成するように構成される。これにより、容易に、その金属異物Mが含まれた部分を特定することができる。
【0054】
(3)製造装置50は、吸引磁石80が50μm以上の長さXを有する金属異物Mを吸引した場合に、その塗工層60の表面形状が変化するように構成される。これにより、電池性能に与える影響が大きい金属異物Mを、効率よく、除去することができる。
【0055】
(4)製造装置50は、合材ペースト37の塗工層60に生じた表面形状の変化を検出する外観検査機81を備える。これにより、その表面形状の変化に基づいた合材ペースト37の塗工層60に含まれる金属異物Mの検出、及び、この金属異物Mが含まれた部分の特定を自動化することができる。
【0056】
(5)製造装置50は、塗工機52に設けられた合材ペースト37の吐出口55において、その合材ペースト37に混入した金属異物Mを吸着する吸着磁石70を備える。
即ち、合材ペースト37の吐出口55においては、その基材36上に形成する塗工層60の厚みDに合わせて合材ペースト37が薄く引き伸ばされた状態となる。更に、その吐出圧に基づき合材ペースト37の流速が速くなり、これにより高いせん断力が加わることで、その合材ペースト37の粘度もまた低くなる。そして、これにより、吸着磁石70の磁力に基づいて、効率よく、その合材ペースト37に混入した金属異物Mを吸着して捕集することができる。
【0057】
更に、その吸着磁石70に吸着された金属異物Mを容易に拭き取ることができるという利点がある。そして、これにより、容易且つ簡便に、その合材ペースト37に混入した金属異物Mを除去することができる。
【0058】
(6)吸着磁石70は、連続的に搬送される基材36の搬送方向下流側となる位置において、その合材ペースト37の吐出口55に設けられる。これにより、より効率よく、その合材ペースト37に混入した金属異物Mを吸着磁石70に吸着して捕集することができる。
【0059】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0060】
・上記実施形態では、吸着磁石70は、連続的に搬送される基材36の搬送方向下流側となる位置において、その合材ペースト37の吐出口55に設けられることとした。しかし、これに限らず、その合材ペースト37の吐出口55における吸着磁石70の配置は、任意に変更してもよい。例えば、基材36の搬送方向上流側となる位置に設けてもよい。そして、基材36の搬送方向、上流側及び下流側の両方に、その吸着磁石70を配置する構成であってもよい。
【0061】
・上記実施形態では、吸着磁石70は、帯状の箔形状を有して搬送装置51により連続的に搬送される基材36の幅方向、全域に亘って延在する長尺形状を有することとした。しかし、これに限らず、吸着磁石70の形状は、任意に変更してもよい。例えば、複数個に分割された吸着磁石70を用いる構成であってもよい。
【0062】
・吸引磁石80の形状や配置については、任意に変更してもよい。即ち、基材36上に形成される合材ペースト37の塗工層60に対向して配置されることにより、その合材ペースト37に混入した金属異物Mを吸引して塗工層60の表面形状を変化させることができればよい。例えば、複数個に分割された吸引磁石80を用いてもよい。更に、例えば、その塗工層60に対向配置された吸引磁石80を所謂スイープ動作させる構成、つまりは、帯状をなす基材36の幅方向に往復動する可動式の吸引磁石80を用いる構成であってもよい。そして、その吸引磁石80の磁力についてもまた、任意に変更してもよい。
【0063】
・上記実施形態では、吸引磁石80による金属異物Mの吸引により塗工層60の表面60sに生ずる形状変化の一例として、その合材ペースト37に混入した金属異物Mの姿勢変化に基づき塗工層60の表面60sに凸部85が形成される状況を例示した。しかし、これに限らず、吸引磁石80に吸引された合材ペースト37中の金属異物Mが動くことにより塗工層60の表面60sに生ずる形状変化を検出することが可能であれば、その表面形状の変化は、どのようなものであってもよい。例えば、吸引磁石80の吸引により合材ペースト37中の金属異物Mが動いた部分に凹部が形成された場合であっても、外観検査機81を用いて、その表面形状の変化を検出することが可能である。
【0064】
・外観検査機81の構成についてもまた、任意に変更してもよい。そして、このような外観検査機81を用いることなく、検査員の目視によって、その塗工層60の表面60sに生じた形状変化、つまりは電極シート35として異常のある部分を検査する構成に適用してもよい。
【0065】
・上記実施形態では、塗工層60の厚みDは30μm程度に設定されることとした。しかし、これに限らず、塗工層60の厚みDについては、例えば、20μm以上、50μm以下の範囲で設定するとよい。これにより、磁気的手法を用いて、効率よく、その合材ペースト37に混入した金属異物Mを除去することができる。
【0066】
・上記実施形態では、電極体10の製造装置50は、吸着磁石70及び吸引磁石80の両方を備える構成としたが、これらの吸着磁石70及び吸引磁石80の一方を用いて、その合材ペースト37に混入した金属異物Mを除去する構成に具体化してもよい。
【0067】
・上記実施形態では、帯状の基材36が巻き掛けられた複数のロール53が回転することによって、その基材36を連続的に搬送する搬送装置51を用いることとしたが、この搬送装置51の構成については、任意に変更してもよい。
【0068】
・正極端子38P及び負極端子38Nの端子形状については、図1中に示す形状に限らず任意に変更してもよい。そして、二次電池1の外形となるケース20の形状についてもまた、必ずしも扁平四角箱状に限らず、例えば円筒形状等、任意に変更してもよい。
【符号の説明】
【0069】
10…電極体
31…集電体
36…基材
37…合材ペースト
50…製造装置
52…塗工機
60…塗工層
80…吸引磁石
M…金属異物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7