(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】乾癬治療用製剤としての、又はその調製におけるADRB1活性阻害剤の使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/167 20060101AFI20240717BHJP
A61P 17/06 20060101ALI20240717BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240717BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20240717BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20240717BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240717BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
A61K31/167
A61P17/06
A61P43/00 111
C12Q1/02
C12N15/09 100
C12N15/09 110
C12N5/10
A61K45/00
(21)【出願番号】P 2022203668
(22)【出願日】2022-12-20
【審査請求日】2022-12-20
(31)【優先権主張番号】202211174329.0
(32)【優先日】2022-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】521557687
【氏名又は名称】孫 良丹
【氏名又は名称原語表記】SUN Liangdan
【住所又は居所原語表記】218 Jixi Road, Shushan District, Hefei City, Anhui Province 230022, China
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】孫 良丹
(72)【発明者】
【氏名】王 義睿
(72)【発明者】
【氏名】李 卓
(72)【発明者】
【氏名】陳 微微
(72)【発明者】
【氏名】甄 ▲ち▼
【審査官】伊藤 良子
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-521964(JP,A)
【文献】Frontiers in Immunology,2021年02月25日,Vol.12, Article No.627139,pp.1-12
【文献】Exp Ther Med.,2019年,Vol.18, No.2,pp.955-959
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾癬治療用製剤
の調製
のためのADRB1活性阻害剤の使用
であって、前記ADRB1活性阻害剤は、アセブトロール塩酸塩(ACE)であることを特徴とする使用。
【請求項2】
前記製剤は、皮膚交感神経の異常活性化を抑制するための製剤であることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記製剤は、皮膚交感神経の異常活性化に起因するノルエピネフリンの上昇を抑制するための製剤であることを特徴とする、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記製剤は、γδT細胞のIL-17分泌を抑制するための製剤であることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
前記製剤は、ADRB1活性阻害剤及び薬学的に許容される添加剤を含むことを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚疾患薬物の技術分野に属し、具体的には、乾癬治療用製剤としての、又はその調製におけるADRB1活性阻害剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
乾癬は、免疫細胞浸潤、表皮過形成及び角化細胞の異常分化を特徴とする慢性炎症性皮膚疾患である。従来の研究により、角化細胞と免疫細胞との相互作用によりサイトカインネットワーク、特にIL-17ファミリーとその後のシグナルカスケードが形成されることで乾癬の進行が促進されることが発見された。精神神経的因子は、乾癬の発症及び悪化の誘因の一つである。神経内分泌は、皮膚末梢神経系の重要な機能の1つである。精神的因子は、ストレッサーとして主に2つの主要な神経内分泌系(即ち、視床下部-下垂体-副腎軸(HPA)及び交感神経-副腎髄質系(SAM))の活性化を引き起こし、神経内分泌ホルモンのカスケードと炎症誘発性サイトカインの放出を引き起こす。乾癬は様々な炎症誘発性サイトカインの活性の向上に関連するため、乾癬はさらに誘発及び悪化する可能性がある。
【0003】
従来の研究から明らかなように、IL17A/Fは乾癬の重要なエフェクターサイトカインであり、IL17A/Fを標的とする生物学的製剤の臨床使用は、乾癬に優れた治療効果をもたらす。しかし、関連する生物学的製剤は高価であり、後期では継続して使用する必要があるため、治療費用が高く、完治することもできない。
【0004】
そのため、乾癬を安全で有効に治療できる製剤が必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
上記の問題に対して、本発明の一つの目的は、乾癬治療用製剤としての、又はその調製におけるADRB1活性阻害剤の使用を提供することである。このADRB1活性阻害剤(例えば、ACE)を用いて生体の乾癬を治療することにより、皮膚交感神経の異常活性化に起因するノルエピネフリンの上昇、刺激によるγδT細胞のIL-17分泌が効果的に抑制され、乾癬皮膚部位IL-17に媒介される免疫反応が低下することによって、乾癬の治療効果が得られる。
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明は、以下の技術的手段を採用する。
本発明の一態様では、乾癬治療用製剤としての、又はその調製におけるADRB1活性阻害剤の使用が提供される。具体的には、本発明では、ADRB1によりγδT-17を活性化し、即ち、精神神経的因子は、乾癬の発症及び悪化の誘因であるが、乾癬治療のために潜在的な標的を提供し、薬物の研究開発は乾癬の治療に役に立つことを示している。なお、ADRB1活性阻害剤は、当該技術分野で既知のADRB1の活性を阻害できる薬剤であり、化学製剤、例えば、アセブトロール塩酸塩(Acebutolol hydrochloride,ACE)であってもよく、生物製剤、例えば、CRISPR-Cas9製剤などであってもよい。
【0007】
さらに、前記使用において、製剤は、皮膚交感神経の異常活性化を抑制するための製剤である。
【0008】
さらに、前記使用において、製剤は、皮膚交感神経の異常活性化に起因するノルエピネフリンの上昇を抑制するための製剤である。
【0009】
さらに、前記使用において、製剤は、γδT細胞のIL-17分泌を抑制するための製剤である。
【0010】
なお、いくつかの自己免疫疾患において、自己抗原刺激性炎症は、交感神経系(SNS)を慢性的に活性化する。SNSの調節不全には、無菌性炎症に起因する免疫活性化が伴い、周期的かつ連鎖的な交感神経活動(SNA)、全身性炎症及び病変組織における局所免疫活性化を引き起こす。関節リウマチの前向き研究では、研究者らは、SNSの調節不全が疾患の発症と進行の重要な要因であり、疾患発症の前兆であることを発見した。また、炎症性関節炎を有するげっ歯類の関節炎関節及び自己免疫性糖尿病のげっ歯類モデルの膵臓にも交感神経障害があることが報告されている。ヒト1型糖尿病の膵臓における交感神経の選択的欠失も報告されている。早期アジュバント誘発関節炎(AIA)では、交感神経切除術によりTh1及びTh17型免疫応答を抑制することによって急性AIAの重症度は大幅に軽減される。これは、SNS活性が主に免疫介在性関節炎の急性発症の重症度を悪化させることを示している。乾癬は、自己免疫疾患の1種として、自律神経系(ANS)の調節不全の典型的な特徴を有し、交感神経系(SNS)と副交感神経系(PaSNS)の活性/反応性の不均衡として現れる。交感神経系(SNS)は複数のリンパ器官を制御しており、皮膚にも交感神経が分布している。交感神経ニューロンの主な神経伝達物質はノルエピネフリン(NE)である。ノルエピネフリンは、皮膚組織で発現される主なカテコールアミンホルモンであり、交感神経節後ニューロンから放出される主な神経伝達物質でもある。交感神経系ストレス試験は、乾癬患者の血液循環中のNEの有意な増加を引き起こすことができ、乾癬中のSNSの活性化と障害を示している。
【0011】
なお、本発明では、乾癬患者の血液循環中のNEが健康な対照集団よりも有意に高く、IMQ処理によりマウスの皮膚及び血液循環中のNEレベルが高くなることが検証され、IMQ処理によりマウス皮膚のTHリン酸化が有意にアップレギュレーションされることが確定された。ここで、THはカテコールアミンホルモン合成の律速酵素であり、NEは皮膚組織で発現される主なカテコールアミンホルモンである。皮膚交感神経の薬物除神経及びNEの皮下注射により乾癬マウスモデルを構築することによって、皮膚交感神経がTH活性化を介してNEの分泌を調節し、γδT細胞のIL-17A産生を促進することが証明された。
【0012】
具体的には、カテコールアミンホルモンは、ヘルパーT細胞(Th)サブセットのバランスに影響を与えることができる。Th細胞は、主な表面マーカーがCD4であるT細胞であり、活性化されると、異なるエフェクター/メモリー細胞サブセット、例えば、Th1、Th2及びTh17細胞に分化し、それぞれ対応するマーカーサイトカインIFN-γ、IL-4和IL-17Aを発現する。カテコールアミンホルモンは、交感神経系によって制御される「闘争・逃走」反応において、全身の免疫系反応に影響を与える。SNSは、T細胞が位置する領域のアドレナリン作動性神経を介してノルエピネフリンを放出し、T細胞表面でアドレナリン受容体を発現し、カテコールアミンに応答する。
【0013】
本発明において、乾癬患者の皮膚損傷、マウスモデル皮膚組織の単一細胞のシーケンシング結果、及び免疫蛍光結果により、β1-ARは皮膚組織においてγδT細胞内で特異的に発現されることが発見された。また、カテコールアミンは、APCに作用することによりTh17の分化に間接的に影響を与えることができ、樹状細胞(DC)は、CD4+T細胞機能に必要な共刺激及びサイトカインを提供し、Th17の増幅に必要なサイトカインIL-23を産生し、β2-ARアゴニストであるサルブタモールで処理されたマウスDCはより多くのIL-23を産生し、エフェクターTh17細胞の分化を促進する。ノルエピネフリン(NE)又はサルブタモール(salbutamol)は、マウスDCを刺激してIL-17Aを誘導し、CD4細胞によるIFN-γ産生を減少させる。しかし、カテコールアミンが皮膚に常在するγδT細胞にどのように直接影響するかについては、比較的知られていない。
【0014】
さらに、本発明において、NEはβ1-ARを介してγδT17細胞に直接作用することを検証するために、皮膚表面にそれぞれβ1-ARアゴニスト及びアンタゴニストを塗布したマウスモデル、並びにインビトロでβ1-ARアゴニスト及びアンタゴニストを使用したγδT細胞モデルを構築し、NEは、γδT表面β1-ARに結合してIL-17発現の制御に関与する仮説を検証した。
【0015】
また、本発明において、インビトロでβ1-ARアゴニスト及びアンタゴニストを使用したT細胞モデルにおいて、β1-ARの活性の変化はNF-κBの活性化を影響することによりγδT細胞の活性化を制御することが検証され、β1-ARアゴニスト/アンタゴニストが塗布されたマウスモデルにおいて、いずれも皮膚組織NF-κB活性の変化が観察され、乾癬の発症では皮膚交感神経がTH-NE-ADRB1-NF-κB経路を介してγδT17細胞に対する調節を媒介することを示している。
【0016】
さらに、前記使用において、製剤は、ADRB1活性阻害剤及び薬学的に許容される添加剤を含む。なお、ADRB1活性阻害剤と薬学的に許容される添加剤とを混合して臨床に適用する製剤に調製してもよい。例えば、5%DMSO+95%(生理食塩水に20%SBE-β-CD)に溶解してペースト剤に調製し、マウスの背中に塗布し、又は水剤に調製して経口投与する。また、ADRB1活性阻害剤を、乾癬を治療するための他の薬物と併用してもよい。併用は、具体的な臨床状況に応じて調整することができる。
【0017】
本発明の別の態様では、γδT細胞がIL-17を分泌することをインビトロで抑制する方法が提供される。前記方法は、単離された細胞中のADRB1発現遺伝子をノックアウト又はノックダウンすることを含む。なお、本発明において、単離された細胞中のADRB1発現遺伝子をノックアウト又はノックダウンすることにより、γδT細胞がIL-17を分泌することを抑制することができる。ノックアウト又はノックダウンの方法は、当該技術分野で既知の基本的な編集方法、例えば、CRISPR-Casシステム、TALEN又はZFNなどである。
【0018】
本発明は、以下の有益な効果を有する。
本発明のADRB1活性阻害剤(例えば、ACE)を用いて生体の乾癬を治療することにより、皮膚交感神経の異常活性化に起因するノルエピネフリンの上昇、刺激によるγδT細胞のIL-17分泌が効果的に抑制され、乾癬皮膚部位IL-17に媒介される免疫反応が低下することによって、乾癬の治療効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】健常対照者及び乾癬患者の末梢血中の神経伝達物質の分泌レベルを示す。
【
図2】対照マウス及び乾癬マウスの皮膚及び末梢血中のノルエピネフリン及びドーパミンのレベルを示す。
【
図3】乾癬患者及び乾癬マウスの皮膚中のTH総タンパク質レベル及びリン酸化された活性タンパク質のレベルを示す。
【
図4】6-OHDA及びIMQの皮内注射によりマウス乾癬様表現型を誘導する実験手順を示す。
【
図5】6-OHDAを皮内注射した後のマウス乾癬様表現型を示す。
【
図6】6-OHDAを皮内注射した後のマウス皮膚中のIL-17A+γδT細胞状況を示す。
【
図7】6-OHDAを皮内注射した後のマウス皮膚中のノルエピネフリンの発現を示す。
【
図8】NE及びIMQの皮下注射によりマウス乾癬様表現型を誘導する実験手順を示す。
【
図9】NEを皮下注射した後のマウス乾癬様表現型を示す。
【
図10】NEを皮下注射した後のマウス皮膚中のIL-17A+γδT細胞の比率を示す。
【
図11】対照マウス及び乾癬マウスの単一細胞シーケンシング分析を示す。
【
図12】VAS処理及びIMQ処理マウス皮膚中のβ1-AR免疫組織化学分析を示す。
【
図13】VAS処理及びIMQ処理マウス皮膚中のβ1-ARのwestern blot結果を示す。
【
図14】乾癬マウス皮膚中のβ1-AR、IL-17A、γδT細胞、αβT細胞の免疫蛍光共局在化を示す。
【
図15】IMQ処理後のマウス皮膚中のβ1-AR+T細胞の比率状況を示す。
【
図16】乾癬患者の皮膚損傷、非皮膚損傷及び健常対照者の皮膚中のβ1-ARの免疫組織化学分析を示す。
【
図17】乾癬患者の皮膚損傷、非皮膚損傷及び健常対照者の皮膚中のβ1-ARのwestern blot結果を示す。
【
図18】乾癬患者の皮膚損傷及び健常対照者の皮膚中のβ1-AR、γδT細胞、αβT細胞の免疫蛍光共局在化を示す。
【
図19】乾癬患者の皮膚損傷及び健常対照者の皮膚中のβ1-AR+細胞のT細胞における比率を示す。
【
図20】T細胞サブセットにおけるβ1-AR+細胞の分布状況を示す。
【
図21】IMQで処理されたAdrb1
+/-マウス皮膚の表現型を示す。
【
図22】フローサイトメトリーにより検出された、IMQで処理されたAdrb1
+/-マウスの背中皮膚の免疫細胞中の単球細胞の比率を示す。
【
図23】フローサイトメトリーにより検出された、IMQで処理されたAdrb1
+/-マウスのIL-17A+真皮γδT細胞、IL-17A+表皮γδT細胞、IL-17A+αβT細胞の比率を示す。
【
図24】ACEが塗布されたIMQ誘導性マウスの皮膚表現型を示す。
【
図25】ACEが塗布されたIMQ誘導性マウスのIL-17A産生状況を示す。
【
図26】DOBが塗布されたIMQ誘導性マウスの皮膚表現型を示す。
【
図27】DOBが塗布されたIMQ誘導性マウスのIL-17A産生状況を示す。
【
図28】γδT細胞欠陥マウス(Tcrd
-/-)にDOBを塗布した後の皮膚表現型を示す。
【
図29】γδT細胞欠陥マウス(Tcrd
-/-)にDOBを皮下注射した後の皮膚中の単球細胞、好中球細胞の比率を示す。
【
図30】γδT細胞欠陥マウス(Tcrd
-/-)にDOBを皮下注射した後のαβT細胞のIL-17産生状況を示す。
【
図31】IL-23刺激とACE/DOB共刺激後の初代γδT細胞中のIL17A/F転写状況を示す。
【
図32】IL-23刺激とACE/DOB共刺激後の初代γδT細胞中のNF-κB、AKT、p38、ERKの活性化状況を示す。
【
図33】DOBで処理した後のIMQ誘導性皮膚中のNF-κBのリン酸化状況を示す。
【
図34】ACEで処理した後のIMQ誘導性皮膚中のNF-κBのリン酸化状況を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
例示される実施例は、本発明をより良く説明するためのものであり、本発明の内容は例示される実施例に限定されない。したがって、当業者が上記の発明の概要に基づいて実施形態に加える非本質的な改良及び調整は、本発明の保護範囲に含まれる。
【0021】
本明細書で使用される用語は、特定の実施例を説明するためのものに過ぎず、本発明を制限するものではない。文脈が明らかに異なる意味を有しない限り、単数形の表現は複数形の表現を含む。本明細書で使用される「含む」、「有する」、「包含」などの用語は、特徴、数字、操作、部材、部品、素子、材料又はそれらの組み合わせの存在を示すことを意図している。本明細書に本発明の用語が開示され、他の特徴、数字、操作、部材、部品、素子、材料若しくはそれらの組み合わせが存在するか又は1つ若しくは複数追加できる可能性を排除することを意図していない。例えば、本明細書で使用される「/」は、状況に応じて「及び」又は「又は」と解釈することができる。
【0022】
本発明をより良く理解するために、以下、具体例により本発明の内容をさらに説明するが、本発明の内容は、以下の例示に限定されない。
【0023】
以下の実施例において、具体的に説明されない実験手順は、全て当該技術分野で既知の操作手順である。
【0024】
実施例1:乾癬患者及びマウス中のノルエピネフリンの発現
本発明の実施例において、ELISA検出により乾癬患者の血清中のNE含有量は健常対照者群よりも高く、ドーパミン及び5-HTは有意な差がないこと(
図1)、IMQで処理された乾癬マウスでは、皮膚及び血清中のNE含有量はいずれもVASで処理された対照マウスよりも高く、ドーパミンは有意な差がないこと(
図2)が発見された。従来の文献により、交感神経はTHのリン酸化を刺激することによりカテコールアミンの生合成の制御に関与することが証明され、western blot検出により乾癬患者の皮膚損傷及び非皮膚損傷におけるTH総タンパク質レベル及びリン酸化はいずれも健常対照者皮膚よりも高く、IMQ処理はマウス皮膚THのリン酸化の有意なアップレギュレーションを引き起こすことが発見された(
図3)。
【0025】
実施例2:皮膚交感神経除神経による乾癬モデルの構築
本発明の実施例において、皮膚の局所交感神経切除術は以下の通りである。0.6mgの6-ヒドロキシドーパミン(6-OHDA)を100μlの0.1%アスコルビン酸溶液(0.9%無菌塩化ナトリウムで希釈)に溶解して新鮮な交感神経除神経液を調製した。7-8週齢の野生型マウスを取り、皮膚が2cm×2cmの面積で露出するように背中の毛を剃り、新鮮な交感神経除神経液を100μl皮内注射し、対照群動物に対照薬(0.1%アスコルビン酸溶液100μl)を注射した。注射した48h後、マウスの露出した皮膚にIMQクリーム又は対照薬VASを均一に塗布した。
【0026】
先行文献には、6-ヒドロキシドーパミン(6-OHDA)はカテコールアミン作動性ニューロンの選択的神経毒であり、交感神経の除去に使用され、6-OHDAの腹腔内注射はIMQ誘導性耳の腫れを軽減できるが、IL-17の産生に影響を与えることがないが、これは、心血管効果及び/又は全身性交感神経切除後の全身性免疫調節不全に起因することが開示されている。
【0027】
本発明の実施例において、乾癬マウスに対する皮膚局部交感神経切除術の影響を観察するために、IMQ処理前に、マウスに6-OHDAを皮内注射した(
図4)。その後の研究により、皮膚交感神経除去はIMQ誘導性マウス乾癬様表現型を減少させることが証明された(
図5)。また、交感神経が除去された皮膚中のIL-17A+γδT細胞が減少し、皮膚交感神経がγδT細胞のIL-17産生を調節することにより乾癬様皮膚炎に影響を与えることを示している(
図6)。交感神経が除去された皮膚中のNEの減少は、交感神経がNEの分泌によりγδT細胞のIL-17産生を調節する可能性があることを示している(
図7)。
【0028】
実施例3:ノルエピネフリン(NE)注射による乾癬モデルの構築
本発明の実施例において、ノルエピネフリン(NE)注射による乾癬モデルの構築は以下の通りである。6μlのノルエピネフリン保存液(10mM)を100μlの1×PBSに溶解し、0.1mg/mlのNE希釈液を調製した。7-8週齢の野生型マウスを取り、皮膚が2cm×2cmの面積で露出するように背中の毛を剃り、100μlのNE希釈液を皮下注射し、対照群動物に対照薬(6μlのDMSO+100μlのPBS)を注射した。薬物が吸収された(注射後の皮膚隆起が消えた)後、注射部位を避けてマウスの露出した皮膚にIMQクリーム又は対照薬VASを均一に塗布した。上記のように4日間連続注射、塗布した。
【0029】
交感神経は皮膚中のNEの主な供給源である。交感神経が除去されたマウス皮膚中のNEの減少は、皮膚交感神経が皮膚NEの主な供給源であることをさらに証明した。
【0030】
本発明の実施例において、皮膚中のNEの分泌がマウス乾癬表現型に影響を与えるか否かを検証するために、マウス背中の露出皮膚にIMQを塗布すると同時にNEを皮下注射した結果(
図8)、NE注射はIMQ誘導性乾癬様表現型を悪化させ(
図9)、マウス皮膚中のIL-17A+γδT細胞の比率を増大した(
図10)。
【0031】
実施例4:マウス皮膚におけるNE受容体の発現態様
アドレナリン受容体(AR)ファミリーは、通常、α-サブタイプ及びβ-サブタイプの2種類に分けられる。ノルエピネフリン(NE)は、通常、β1サブタイプ選択的アドレナリン作動性アゴニストであり、比較的高い濃度のみでβ2-アドレナリン受容体に対して直接活性を有すると考えられている。
【0032】
本発明の実施例において、VAS処理対照マウス及びIMQ誘導性乾癬マウス皮膚組織に対して単一細胞シーケンシングを行った結果、ADRB1(β1-AR)は、主に皮膚組織T細胞内で発現された(
図11)。免疫組織化学及びWestern blot結果から分かるように、β1-ARは真皮部位に浸潤した免疫細胞上で発現され、乾癬マウス皮膚内での発現は対照マウスよりも高かった(
図12及び
図13)。
【0033】
本発明の実施例において、さらに免疫蛍光及びフローサイトメトリーにより、マウス皮膚組織のβ1-ARは主にγδT-17内で発現され(
図14)、VAS処理マウス皮膚において、γδTとαβT中のβ1-AR+細胞比率には有意な差がなく、IMQ処理マウス皮膚において、γδT中のβ1-AR+細胞がαβTよりも有意に高く、VAS処理マウスとIMQ処理マウス皮膚のαβT中のβ1-AR+細胞比率には有意な差がなく、IMQ処理マウス皮膚γδT中のβ1-AR+細胞がVAS処理マウスよりも有意に高い(
図15)ことが観察された。これによって、IMQ誘導性乾癬マウス皮膚においてβ1-ARはαβTではなく主にγδT内で発現され、VAS誘導性健康マウスと比較して、乾癬マウス皮膚γδTにおけるβ1-ARの発現が有意に高いことが判断された。
【0034】
実施例5:乾癬皮膚におけるNE受容体の発現態様
【0035】
本発明の実施例において、乾癬患者皮膚損傷及び健常対照者皮膚に対して免疫組織化学及びWestern blot分析を行った結果、β1-ARは真皮部位に浸潤する免疫細胞上で発現され(
図16)、乾癬皮膚損傷での発現が非皮膚損傷よりも高く、非皮膚損傷での発現が健常対照者よりも高かった(
図17)。
【0036】
本発明の実施例において、さらに免疫蛍光及びフローサイトメトリーにより、β1-ARは主にγδT細胞内で発現され(
図18及び
図19)、乾癬患者中のβ1-AR+T細胞比率は対照群よりも高い(
図20)ことが観察された。
【0037】
実施例6:IMQ誘導性Adrb1
+/-乾癬マウスモデルの構築
本発明の実施例において、乾癬におけるβ1-ARの作用メカニズムを研究するために、IMQ誘導性Adrb1
+/-乾癬マウスモデル(マウスAdrb1の完全なノックアウトは胚致死性である)を構築した。結果から分かるように、IMQ誘導性野生型(WT)マウスと比較して、Adrb1
+/-マウスの乾癬様表現型は弱くなり、紅斑が有意に減少し、鱗屑よりも皮膚の厚さに大きな変化はなかった(
図21)。
【0038】
本発明の実施例において、さらに特異的標識抗体を用いて単離されたマウス皮膚免疫細胞をグループ化した。ここで、単球細胞及び好中球細胞は、乾癬皮膚損傷の典型的な炎症浸潤細胞であり、フローサイトメトリー検出によりIMQ誘導性Adrb1
+/-マウスマウスの背中皮膚中の単球細胞比率及びIL17A+真皮γδT細胞比率は有意に減少した(
図22及び
図23)。
【0039】
実施例7:β1-ARアンタゴニスト塗布による乾癬マウスモデルの構築
本発明の実施例において、β1-ARアンタゴニスト/アゴニスト塗布による乾癬マウスモデルの構築は、以下の通りである。5μlのβ1-ARアンタゴニスト/アゴニスト保存液(40mg/ml,溶媒DMSO)を95μlの20%SBE-β-CD溶液(無菌塩化ナトリウム希釈)に溶解し、2mg/mlアンタゴニスト/アゴニスト希釈液を調製した。7-8週齢の野生型マウスを取り、皮膚が2cm×2cmの面積で露出するように背中の毛を剃り、100μlのアンタゴニスト/アゴニスト希釈液を塗布し、対照群動物に対照薬(5μlのDMSO+95μlの20%SBE-β-CD溶液)を塗布し、薬物が吸収された後、マウスの露出した皮膚にIMQクリーム又は対照薬VASを均一に塗布し、4日間連続塗布した。
【0040】
本発明の実施例において、IMQ誘導性マウスにAcebutolol hydrochloride(ACE,アセブトロール塩酸塩,選択的ADRB1アンタゴニスト)に塗布した。結果から明らかなように、対照群と比較して、ACEが塗布されたマウスは乾癬表現型が軽減し(
図24)、IMQ誘導性マウス皮膚では、ACEの塗布により皮膚γδT-17細胞の比率が減少した(
図25)。
【0041】
実施例8:β1-ARアゴニストの塗布による乾癬マウスモデルの構築
本発明の実施例において、β1-ARアンタゴニスト/アゴニストの塗布による乾癬マウスモデルの構築は実施例7と同様である。
【0042】
本発明の実施例において、NEがβ1-ARを介してγδT-17細胞に影響を直接与えるか否かをさらに研究するために、IMQ誘導性マウスにDobutamine hydrochloride(DOB,ドブタミン塩酸塩,選択的ADRB1アゴニスト)塗布した。結果から分かるように、対照群と比較して、DOBが塗布されたマウスは乾癬表現型が悪化した(背中皮膚厚さの増加、紅斑と鱗屑の悪化を含む)(
図26)。IMQ誘導性マウス皮膚では、DOBの塗布はγδT細胞のIL-17A産生を促進した(
図27)。
【0043】
実施例9:NE-ADRB1シグナル経路によるγδT細胞のIL-17分泌の調節
本発明の実施例において、γδT細胞欠陥マウス(Tcrd
-/-)の皮膚にDOBを塗布した結果、γδT細胞が欠如するため、乾癬表現型及び炎症浸潤に対するDOBの促進作用は相殺され(
図28、
図29)、DOBがαβT細胞のIL-17産生能力に影響を与えなかった(
図30)。前の結果と合わせると、皮膚中のNEは、主に皮膚交感神経に由来し、NE-ADRB1シグナル経路を介してαβT細胞ではなくγδT細胞のIL-17放出を媒介することが検証された。
【0044】
実施例10:細胞モデルにおけるβ1-ARの免疫調節作用の検証
本発明の実施例において、ADRB1が如何にγδT細胞の炎症反応を調節するかを研究するために、磁気ビーズソーティングキットを用いてマウス脾臓から高純度の初代γδT細胞を分離し、それぞれADRB1アゴニスト及びアンタゴニストで刺激した。
結果から分かるように、IL-23で活性化した初代γδT細胞では、高濃度DOBの刺激はIL17A及びIL17Fの転写を増加させる一方、ACEはIL17A及びIL17Fの転写を減少させた(
図31)。
【0045】
実施例11:NE-ADRB1-NF-κBシグナル経路の検証
本発明の実施例において、IL-23で活化した初代γδT細胞では、DOBで刺激することによりNF-κB(P65)のリン酸化が有意に増加する一方、ACEで処理することによりそのリン酸化が抑制されたが、MAPKファミリーのメンバーP38、ERK、JNK及びAKTの活性化に影響を与えなかった(
図32)。これは、T細胞の活性化に対するADRB1の調節がNF-κBの活性化に依存することを示している。
【0046】
本発明の実施例において、IMQ誘導性マウス乾癬マウス皮膚中のNF-κBレベルをさらに検出し、NF-κBリン酸化がIMQによって活性化され、DOB処理によりIMQ誘導性皮膚中のNF-κBの活性化が増強され、ACE処理が抑制作用を示すことが観察された(
図33及び
図34)。
【0047】
以上より、交感神経は、NE-ADRB1-NF-κB経路を活性化することによりγδT細胞のIL-17産生を促進すると結論付けることができる。
【0048】
以上の実施例は、本発明の技術的手段を説明するためのものに過ぎず、本発明を制限するものではない。好ましい実施例により本発明を詳しく説明したが、当業者が本発明の趣旨及び範囲から逸脱することがなく、本発明の技術的手段を修正又は同等置換することができる。これらの修正及び置換は、本発明の特許請求の範囲に含まれるべきである。