(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】工作機械の制御装置
(51)【国際特許分類】
G05B 19/4093 20060101AFI20240717BHJP
B23Q 15/013 20060101ALI20240717BHJP
B23B 1/00 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
G05B19/4093 M
B23Q15/013
B23B1/00 D
(21)【出願番号】P 2022501980
(86)(22)【出願日】2021-02-18
(86)【国際出願番号】 JP2021006169
(87)【国際公開番号】W WO2021167014
(87)【国際公開日】2021-08-26
【審査請求日】2022-09-14
(31)【優先権主張番号】P 2020027474
(32)【優先日】2020-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】山本 健太
(72)【発明者】
【氏名】安田 将司
【審査官】中田 善邦
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-056515(JP,A)
【文献】特表2009-535229(JP,A)
【文献】特開2016-182655(JP,A)
【文献】特開2018-083257(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/4093
B23Q 15/013
B23B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具とワークを相対的に揺動させながら加工する工作機械の制御装置であって、
揺動動作の指令を算出する揺動指令算出部と、
揺動指令の周波数又は周波数倍率からなる周波数パラメータ、及び前記揺動指令の振幅又は振幅倍率からなる振幅パラメータのうちの一方を第1揺動条件として決定する第1揺動条件決定部と、
前記第1揺動条件決定部により決定された第1揺動条件に基づいて、前記周波数パラメータ及び前記振幅パラメータのうちの他方を第2揺動条件として算出する第2揺動条件算出部と、
前記工作機械の動作パラメータである、送り速度の上限値又は送り加速度の上限値に基づいて、前記第1揺動条件を変更する上限判定部と、を備える、工作機械の制御装置。
【請求項2】
工具とワークを相対的に揺動させながら加工する工作機械の制御装置であって、
揺動動作の指令を算出する揺動指令算出部と、
揺動指令の周波数又は周波数倍率からなる周波数パラメータ、及び前記揺動指令の振幅又は振幅倍率からなる振幅パラメータのうちの一方を第1揺動条件として決定する第1揺動条件決定部と、
前記第1揺動条件決定部により決定された第1揺動条件に基づいて、前記周波数パラメータ及び前記振幅パラメータのうちの他方を第2揺動条件として算出する第2揺動条件算出部と、
前記工作機械の動作上限から決まる上限値で前記第2揺動条件をクランプし、クランプされた前記第2揺動条件に基づいて、前記第1揺動条件を変更する上限判定部と、を備える、工作機械の制御装置。
【請求項3】
工具とワークを相対的に揺動させながら加工する工作機械の制御装置であって、
揺動動作の指令を算出する揺動指令算出部と、
揺動指令の周波数又は周波数倍率からなる周波数パラメータ、及び前記揺動指令の振幅又は振幅倍率からなる振幅パラメータのうちの一方を第1揺動条件として決定する第1揺動条件決定部と、
前記第1揺動条件決定部により決定された第1揺動条件に基づいて、前記周波数パラメータ及び前記振幅パラメータのうちの他方を第2揺動条件として算出する第2揺動条件算出部と、
切屑の長さ、前記ワークの表面粗さ、前記周波数パラメータ、前記振幅パラメータ、前記工作機械の動作パラメータ、又は
、これらから決まる
揺動の幅及び表面粗さのばらつきのうち
一つの条件を優先条件として設定する最適条件判定部と、を備え、
前記最適条件判定部は、所定の範囲内の前記第1揺動条件から算出された前記第2揺動条件に基づいて、
前記第1揺動条件、前記第2揺動条件、前記周波数パラメータ、前記振幅パラメータ、送り速度、及び送り加速度のうち、前記優先条件以外の全ての条件の上限値を満たし、かつ、前記優先条件が最小になる前記第1揺動条件と前記第2揺動条件を判定する、工作機械の制御装置。
【請求項4】
前記第2揺動条件算出部は、前記第2揺動条件を以下の数式(2-1)、(2-2)及び(2-3)により算出する、請求項3に記載の工作機械の制御装置。
【数1】
[前記数式(2-1)、(2-2)及び(2-3)中、Iは周波数倍率(倍)、Kは振幅倍率(倍)、nは前記工具の数又は工具の刃数(個)、I’は振動周波数(Hz)、Sは主軸回転数(分
-1)、K’は振幅(mm)、Fは送り速度(mm/回転)を表す。]
【請求項5】
前記第2揺動条件算出部は、前記第2揺動条件として前記振幅パラメータを、前記工具の刃先及び前記ワークの振れに基づいたマージンを含んで算出する、請求項4に記載の工作機械の制御装置。
【請求項6】
前記第1揺動条件決定部による第1揺動条件の決定に必要な各種パラメータ、前記第2揺動条件算出部による第2揺動条件の算出に必要な各種パラメータ、前記優先条件、前記マージンのうち少なくとも一つを入力可能な入力部と、
前記入力部により入力される入力内容、前記第1揺動条件決定部により決定される第1揺動条件、及び前記第2揺動条件算出部により算出される第2揺動条件、前記第1揺動条件と前記第2揺動条件から決まる各種諸元のうち少なくとも一つを表示可能な表示部と、
のうち少なくとも一つを備える、請求項5に記載の工作機械の制御装置。
【請求項7】
前記第2揺動条件算出部は、前記第1揺動条件と、前記工具の数又は刃数のいずれかと、に基づいて前記第2揺動条件を算出する、請求項1から6いずれかに記載の工作機械の制御装置。
【請求項8】
前記第1揺動条件決定部は、切屑の長さ、前記ワークの表面粗さ、前記揺動の幅、前記第1揺動条件の上限値のうちの少なくとも一つに基づいて前記第1揺動条件を決定する、請求項1から7いずれかに記載の工作機械の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、工作機械の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、切削工具を用いてワークを切削加工する際に、連続して発生する切屑が切削工具に絡まるなどして加工不良、チョコ停、機械障害などの原因となることが知られている。これに対して、切削工具とワークを相対的に揺動させながら切削加工することにより切屑を細断する揺動切削が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の揺動切削では、揺動指令の周波数パラメータ(周波数又は周波数倍率。以下、同じ。)と振幅パラメータ(振幅又は振幅倍率。以下、同じ。)については、切屑が細断できるように条件出しを行って決定しているため、時間を要しているのが現状である。
【0005】
従って、揺動切削を実行する工作機械の制御装置において、切屑を細断可能な所望の揺動指令の周波数パラメータ及び振幅パラメータを速やかに決定できることが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1) 本開示の一態様は、工具とワークを相対的に揺動させながら加工する工作機械の制御装置であって、揺動動作の指令を算出する揺動指令算出部と、前記揺動指令の周波数又は周波数倍率からなる周波数パラメータ、及び前記揺動指令の振幅又は振幅倍率からなる振幅パラメータのうちの一方を第1揺動条件として決定する第1揺動条件決定部と、前記第1揺動条件決定部により決定された第1揺動条件に基づいて、前記周波数パラメータ及び前記振幅パラメータのうちの他方を第2揺動条件として算出する第2揺動条件算出部と、を備える、工作機械の制御装置である。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、周波数パラメータと振幅パラメータの相関を用いることで、切屑を細断可能な所望の揺動指令の周波数パラメータ及び振幅パラメータを速やかに決定できる工作機械の制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の実施形態に係る切削加工を示す図である。
【
図2】本開示の第一の実施形態に係る工作機械の制御装置の機能ブロック図である。
【
図3】主軸位相と切削工具の位置との関係の一例を示す図である。
【
図4】主軸位相と切削工具の位置との関係の他の例を示す図である。
【
図5】本開示の第二の実施形態に係る工作機械の制御装置の機能ブロック図である。
【
図6】本開示の第三の実施形態に係る工作機械の制御装置の機能ブロック図である。
【
図7】本開示の実施形態に係る切削加工の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して詳しく説明する。
【0010】
図1は、本開示の実施形態に係る切削加工を示す図である。
図1に示されるように、本実施形態に係る工作機械の制御装置は、切削工具TとワークWとを相対的に回転させる少なくとも一つの主軸Sと、切削工具TをワークWに対して相対移動させる少なくとも一つの送り軸と、を動作させて、切削工具TによりワークWを切削加工するものである。なお、
図1では、主軸Sにより回転する円柱状のワークWの外周面に対して、送り軸により切削工具Tを送り方向Zに移動させて切削加工する例を示している。
【0011】
また、本実施形態に係る切削加工は、切削工具TとワークWとを相対的に回転させるとともに、切削工具TとワークWとを相対的に送り方向Zに揺動させながら切削加工することにより、切削加工により連続的に生じる切屑を細断できるものである。切屑は加工中に切削工具Tに絡まるなどして加工不良、チョコ停、機械障害などの要因となるところ、本実施形態ではこれを回避できる。
【0012】
より詳しくは、
図1に示されるように、切削工具Tの軌跡である工具経路Pは、前回経路に対して今回経路が重なるように設定される。即ち、前回経路で加工済の部分が今回経路に含まれるように設定される。
図1に示される例では、前回経路の送り方向Zに対して山の部分の位相が、今回経路の谷の部分の位相に一致し、前回経路で加工済の部分が今回経路に含まれるように設定されている。そのため、切削工具Tの刃先がワークWの表面から離れる空振りC(エアカット)が発生する。これにより、切屑が確実に細断されるようになっている。
【0013】
図2は、本開示の第一の実施形態に係る工作機械の制御装置1の機能ブロック図である。
図2に示されるように、本実施形態に係る工作機械の制御装置1は、サーボ制御装置10を含んで構成され、送り軸を駆動するモータ30を駆動制御する。
【0014】
本実施形態に係る工作機械の制御装置1は、
図2に示されるように、揺動指令生成部11と、モータ制御部12と、加算器13と、入力部14と、表示部15と、を備える。
【0015】
本実施形態に係る工作機械の制御装置1は、加工プログラムよりモータ30の駆動指令を生成する。生成された駆動指令(位置指令など)は、
図2に示されるように、後述するサーボ制御装置10の加算器13に入力される。
【0016】
また、本実施形態に係る工作機械の制御装置1の加工プログラムは、例えば、図示しないCADシステムで作成された加工形状に対して、同じく図示しないCAMシステムにより工具情報や工具の動作情報などが設定されることにより作成される。
【0017】
揺動指令生成部11は、切削工具TとワークWとを相対的に送り方向Zに揺動させる揺動指令を生成する。生成された揺動指令は、後述する加算器13に入力される。
図2に示されるように、揺動指令生成部11は、第1揺動条件決定部111と、第2揺動条件算出部112と、揺動指令算出部113と、を有する。
【0018】
第1揺動条件決定部111は、揺動指令を構成する周波数又は周波数倍率からなる周波数パラメータ、及び同じく揺動指令を構成する振幅又は振幅倍率からなる振幅パラメータのうちの一方を、第1揺動条件として決定する。次いで、後述するように、第2揺動条件算出部112により、周波数パラメータと振幅パラメータの相関を用いて、他方を第2揺動条件として算出する。これにより、従来一つ一つ設定しながら確認していた条件出しの時間を短縮することができる。
【0019】
より詳しくは、第1揺動条件決定部111は、切屑の長さ、ワークWの表面粗さ、揺動の幅、第1揺動条件の上限値のうちの少なくとも一つに基づいて、第1揺動条件を決定することが好ましい。以下、切屑の長さ、表面粗さ、揺動の幅、第1揺動条件の上限値のそれぞれに基づいて第1揺動条件を決定する方法について、例を挙げて説明する。
【0020】
例えば、第1揺動条件決定部111が、切屑の長さに基づいて、第1揺動条件としての周波数倍率を決定する場合には、以下の数式(1-1)が用いられる。
【0021】
【0022】
上記数式(1-1)中、Iは周波数倍率(倍)、DはワークWの直径(mm)、Lは切屑の長さ(mm)を表している。ワークWの直径Dは、加工時にワークの径方向に位置決めした工具の座標値から求めることができる。所望の切屑の長さLを上記数式(1-1)に代入することにより、周波数倍率Iが求められる。なお、周波数倍率と周波数との関係を規定した後述の数式(2-2)を用いることにより、所望の切屑の長さLから第1揺動条件としての周波数を求めることもできる。
【0023】
また例えば、第1揺動条件決定部111が、表面粗さに基づいて、第1揺動条件としての周波数倍率を決定する場合には、周波数倍率に応じた表面粗さの最大値をテーブルとして持ち、所望の表面粗さから周波数倍率を決定しても良い。
【0024】
また、表面粗さそのものではなく、ワーク位相毎の表面粗さのばらつきを標準偏差として求め、その標準偏差と周波数倍率の関係をテーブルとして持っても良い。ここで、揺動を伴う切削加工時の表面粗さのばらつきについて、
図3及び4にて説明する。
図3及び
図4は、主軸位相と切削工具Tの位置との関係の一例と他の例を示す図である。具体的には、
図3は、第1揺動条件としての周波数倍率Iが1.5倍であり、後述の数式(2-1)から算出される第2揺動条件としての振幅倍率Kが1.0倍のときにおける主軸位相と切削工具Tの位置との関係を示している。また、
図4は、第1揺動条件としての周波数倍率Iが1.2倍であり、後述の数式(2-1)から算出される第2揺動条件としての振幅倍率Kが1.701倍のときにおける主軸位相と切削工具Tの位置との関係を示している。
【0025】
図3から明らかなように、主軸1回転毎の位相が半周期分ずれることにより、特定の主軸位相において、前回の工具経路における山の部分の位相が、今回の工具経路における谷の部分の位相に一致する。その特定の位相、例えば主軸位相120°付近では、主軸1回転毎の送り量の変化が大きくなる。その結果、工具先端のコーナ半径などの影響により、ワーク表面の凹凸が大きくなり、表面粗さが大きくなる。逆に主軸位相180°付近では、主軸1回転毎の送り量が常に一定になり、表面粗さが小さくなる。このような場合、主軸位相に応じて、表面粗さのばらつきが大きくなってしまう。
【0026】
これに対して
図4の場合では、主軸1回転毎に送り量が大きくなる主軸位相が一定ではない。このような場合、主軸位相に応じた表面粗さのばらつきは小さくなる。表面粗さのばらつきが加工したワークの真円度に影響することもあるため、表面粗さのばらつきにより第1揺動条件を決める場合もある。
【0027】
また、揺動の幅より、揺動の振幅を求めてもよい。具体的には、揺動の幅がX(mm)の場合、後述の数式(2-3)を用いて、K’=X、K=X/Fと設定する。
【0028】
また、揺動動作の周波数や振幅は、工作機械に応じて動作可能な範囲が決まっている。所望の周波数や振幅に対して、上限値でクランプすることにより、第1揺動条件を決めても良い。
【0029】
第2揺動条件算出部112は、上述の第1揺動条件決定部111により決定された第1揺動条件に基づいて、周波数パラメータ及び振幅パラメータのうちの他方を第2揺動条件として算出する。また、第2揺動条件算出部112は、第1揺動条件と、工具の数又は刃数のいずれかと、に基づいて、第2揺動条件を算出する。
【0030】
より詳しくは、第2揺動条件算出部112は、第2揺動条件を、以下の数式(2-1)、(2-2)及び(2-3)を用いて算出する。
【0031】
【0032】
ここで、上記数式(2-1)、(2-2)及び(2-3)中、Iは周波数倍率(倍)、Kは振幅倍率(倍)、nは工具の数又は工具の刃数(個)、I’は振動周波数(Hz)、Sは主軸回転数(分-1)、K’は振幅(mm)、Fは送り速度(mm/回転)を表している。例えば、周波数倍率Iが1の場合、主軸1回転で1回揺動することを意味している。また、振幅倍率Kが1の場合、主軸1回転あたりの送り量(送り方向の移動量)と同じ振幅となることを意味している。
【0033】
また、上記数式(2-2)により、周波数と周波数倍率のうちの一方の値から、他方の値を算出できる。同様に、上記数式(2-3)により、振幅と振幅倍率のうちの一方の値から、他方の値を算出できる。従って、これら数式(2-2)及び(2-3)の関係と、数式(2-1)を利用することにより、第1揺動条件に基づいて第2揺動条件を算出可能である。
【0034】
また、第2揺動条件算出部112は、第2揺動条件としての振幅パラメータを、切削工具Tの刃先及びワークWの振れに基づいたマージンを含んで算出することが好ましい。切削工具Tの刃先(機械先端)・ワークWは、揺動により撓んで振れるため、係る振れに基づいたマージンを含んで振幅パラメータを算出することにより、確実に空振りCを発生させ、切屑を細断することが可能となる。
【0035】
ここで、揺動指令の周波数パラメータ及び振幅パラメータは、最終的には切削加工に応じて決定する必要があるため、工作機械の使用者が設定する必要がある。しかしながら、上述の各機械上限値や、どの程度マージンを設ける必要があるかについては、工作機械により異なるため、使用者が設定することは困難である。そこで、工作機械の設計者が、工作機械の上限値や工作機械のマージンを設定する。そして、使用者は、例えばワークWの径や穴開け切削加工における穴径、切屑の長さなどの条件を設定することにより、自動的に第1揺動条件及び第2揺動条件が決定され、容易に揺動切削を実行可能である。
【0036】
具体的には、機械設計者は、機械上限値付近の揺動条件で切屑が細断できるように、刃先及びワークWの振れに基づいたマージン分に相当する振幅倍率K1を設定する。別途、工作機械の上限値も設定する。次いで、使用者による工作機械の制御装置1への入力値と、上記機械上限値などから、第1揺動条件としての周波数倍率Iが決定される。そして、決定された周波数倍率Iより、上記数式(2-1)を用いて空振りCに必要な振幅倍率K2が算出され、最終的な振幅倍率K=K1×K2が算出できる。
【0037】
図2に戻って、揺動指令算出部113は、第1揺動条件決定部111で決定された第1揺動条件と、第2揺動条件算出部112で算出された第2揺動条件とに基づいて、揺動指令を算出する。
【0038】
また揺動指令算出部113は、揺動指令の位相を、切削工具TとワークWとを相対的に回転させる主軸の位相に同期させることで、主軸位相に対して空振りする位相がずれることがなくなる。これにより、周波数パラメータと振幅パラメータの相関を用いて算出した第1揺動条件と第2揺動条件でも、確実に切屑が細断できる。
【0039】
加算器13は、重畳指令を生成する。具体的には、加算器13は、図示しない送り軸のモータ30に設けられるエンコーダによる位置検出に基づいた位置フィードバックと、上述の位置指令と、の差分である位置偏差の積算値に対して、上述の揺動指令生成部11で生成される揺動指令を加算(重畳)することにより、重畳指令を生成する。
【0040】
モータ制御部12は、上述の加算器13で生成された重畳指令に基づいて、送り軸を駆動するモータ30に対するトルク指令を生成し、生成したトルク指令によりモータ30を制御する。これにより、送り軸を駆動するモータ30は、揺動を伴いながら指令位置に到達する。
【0041】
入力部14は、第1揺動条件決定部111による第1揺動条件の決定に必要な各種パラメータ、第2揺動条件算出部112による第2揺動条件の算出に必要な各種パラメータ、後述する優先条件、マージンのうち少なくとも一つを入力可能な入力部である。具体的には、入力部14は、上記数式(2-1)、(2-2)及び(2-3)中の変数、切屑の長さ、表面粗さ、揺動の幅、第1揺動条件の上限値、後述する優先条件、マージンなどを入力可能である。使用者がこの入力部14を介して入力する入力値により、第1揺動条件の決定と第2揺動条件の算出、決定が可能となっている。
【0042】
表示部15は、上記入力部14により入力される入力値、第1揺動条件決定部111により決定される第1揺動条件、第2揺動条件算出部112により算出される第2揺動条件、前記第1揺動条件と前記第2揺動条件から決まる各種諸元のうち少なくとも一つを表示可能な表示部である。各種諸元とは、切り屑の長さ、表面粗さ、表面粗さのばらつき、揺動の幅、工作機械の動作パラメータなどである。この表示部15による表示により、使用者は揺動条件の設定と確認が容易となっている。
【0043】
次に、本開示の第二の実施形態について、
図5を参照しながら説明する。
図5は、本開示の第二の実施形態に係る工作機械の制御装置1Aの機能ブロック図である。
図5に示されるように、第二の実施形態に係る工作機械の制御装置1Aは、上述の第一の実施形態に係る工作機械の制御装置1と比べて、揺動指令生成部11A、サーボ制御装置10Aの構成が異なる以外は同様の構成である。具体的には、第二の実施形態では、第2揺動条件の上限値、工作機械の動作パラメータの上限値のうち少なくとも一つに基づいて、前記第1揺動条件を変更する上限判定部114を備える。
【0044】
上限判定部114が第2揺動条件の上限値による判断を行う場合、第1揺動条件から算出された第2揺動条件について、工作機械の動作上限から決まる上限値にて第2揺動条件をクランプする。クランプをかけた場合、第2揺動条件と上記数式(2-1)から第1揺動条件を逆算する。最終的に決定した第1揺動条件と第2揺動条件を揺動指令算出部113へ通知する。
【0045】
また、上限判定部114が工作機械の動作パラメータの上限値による判断を行う場合について説明する。工作機械の動作パラメータには、例えば、送り速度や送り加速度がある。送り速度や加速度により制限をかける場合、以下の数式(3-1)~(3-5)を用いて最大送り速度や最大加速度を算出する。
【0046】
【0047】
ここで、上記数式(3-1)~(3-5)中、Yは移動指令(位置指令)、Fは送り速度(mm/回転)、Sは主軸回転数(分-1)、Iは周波数倍率(倍)、Kは振幅倍率(倍)を表している。上記数式(3-1)~(3-5)を用いて算出される最大送り速度や最大加速度が上限値を超えないように、第2揺動条件にあたる振幅倍率Kや周波数倍率Iを制限する。なお、揺動振幅や揺動周波数への換算は、上記数式(2-2)、(2-3)を用いる。
【0048】
次に、本開示の第三の実施形態について、
図6を参照しながら説明する。
図6は、本開示の第三の実施形態に係る工作機械の制御装置1Bの機能ブロック図である。
図6に示されるように、第三の実施形態に係る工作機械の制御装置1Bは、上述の第一の実施形態に係る工作機械の制御装置1及び第二の実施形態に係る工作機械の制御装置1Aと比べて、揺動指令生成部11B、サーボ制御装置1Bの構成が異なる以外は同様の構成である。具体的には、第三の実施形態では、切屑の長さ、表面粗さ、周波数パラメータ、振幅パラメータ、工作機械の動作パラメータ、又はこれらから決まる各種諸元のうち少なくとも一つを優先条件として設定する最適条件判定部115を備える。
【0049】
各種諸元とは、例えば、揺動の幅、表面粗さのばらつきなどである。最適条件判定部115は、所定の範囲内の第1揺動条件からそれに対応する第2揺動条件を算出させるため、第1揺動条件決定部111に第1揺動条件を通知する。その通知を元に第1揺動条件決定部111と第2揺動条件算出部112にて、第1揺動条件と第2揺動条件が決まる。最適条件判定部115は、その第1揺動条件と第2揺動条件に基づいて、優先条件を算出する。また同時に優先条件以外を含めた全ての条件の上限値を満たしているか確認する。所定範囲内の第1揺動条件について優先条件の確認を行い、全ての条件の上限値を満たす、かつ、優先条件が最小になる前記第1揺動条件と前記第2揺動条件を揺動指令算出部113へ通知する。
【0050】
具体的には、例えば、優先条件が送り加速度の場合、第1揺動条件と第2揺動条件から揺動指令を算出し、その指令での最大の送り加速度を算出する。同時に送り加速度を含めた全ての条件の上限値を超えていないか確認し、全ての上限値を満たす場合のみ記録しておく。第1揺動条件は上限値から徐々に下げていき、全ての条件の上限値を満たせなくなるまで確認を続ける。確認が終わった時点で、送り加速度が一番小さくなる第1揺動条件と第2揺動条件を揺動指令算出部113に通知する。
【0051】
次に、本開示の実施形態に係る切削加工の手順について、
図7を参照しながら説明する。ここで、
図7は、本開示の実施形態に係る切削加工の手順を示すフローチャートである。
【0052】
先ず、ステップS1では、第1揺動条件を決定する。第1揺動条件としては、周波数パラメータ及び振幅パラメータのうちの一方が選択される。
【0053】
ステップS2では、ステップS1で決定された第1揺動条件に基づいて、第2揺動条件を算出する。第2揺動条件として、周波数パラメータ及び振幅パラメータのうちの他方が選択される。即ち、周波数パラメータ及び振幅パラメータのうち、ステップS2において第1揺動条件として選択されなかった他方が算出される。
【0054】
ステップS3では、ステップS1で決定された第1揺動条件と、ステップS2で算出された第2揺動条件とに基づいて、揺動指令を算出する。
【0055】
ステップS4では、ステップS3で算出された揺動指令を、位置指令に重畳することにより重畳指令を生成する。そして、生成された重畳指令により、送り軸を駆動するモータ30を駆動制御する。以上で本処理を終了する。
【0056】
本開示の実施形態によれば、以下の効果が奏される。
(1) 本開示の実施形態では、揺動指令の周波数又は周波数倍率からなる周波数パラメータ、及び揺動指令の振幅又は振幅倍率からなる振幅パラメータのうちの一方を第1揺動条件として決定する第1揺動条件決定部111を設けた。また、第1揺動条件決定部111により決定された第1揺動条件に基づいて、周波数パラメータ及び前記振幅パラメータのうちの他方を第2揺動条件として算出する第2揺動条件算出部112を設けた。
周波数パラメータと振幅パラメータは互いに相関があるところ、本開示の実施形態では、ある条件にて一方を決定してから、他方を算出して決定することにより、従来行っていた条件出しの時間を短縮できる。従って、本開示の実施形態によれば、切屑を細断可能な所望の揺動指令の周波数パラメータ及び振幅パラメータを速やかに決定できる。
【0057】
(2) 本開示の実施形態では、第2揺動条件算出部112は、第1揺動条件と、工具の数又は刃数のいずれかと、に基づいて第2揺動条件を算出した。
これにより、切屑を細断可能な所望の揺動指令の周波数パラメータ及び振幅パラメータをより確実かつ速やかに決定できる。
【0058】
(3) 本開示の実施形態では、第1揺動条件決定部111により、切屑の長さ、ワークWの表面粗さ、揺動の幅、第1揺動条件の上限値のうちの少なくとも一つに基づいて、第1揺動条件を決定した。
これにより、所望の切屑の長さ、表面粗さ、揺動の幅となるように、あるいは、工作機械に応じて決められた周波数や振幅の上限値を超えないようにして、揺動指令を構成する第1揺動条件及び第2揺動条件を決定できる。
【0059】
(4) 本開示の実施形態では、第2揺動条件の上限値、工作機械の動作パラメータの上限値のうち少なくとも一つに基づいて、第1揺動条件を変更する上限判定部114を設けた。
これにより、第2揺動条件の上限値や、工作機械の動作パラメータの上限値を超えないようにして、揺動指令を構成する第1揺動条件及び第2揺動条件を決定できる。
【0060】
(5) 本開示の実施形態では、切屑の長さ、ワークの表面粗さ、周波数パラメータ、振幅パラメータ、工作機械の動作パラメータ、又はこれらから決まる各種諸元のうち少なくとも一つを優先条件として設定する最適条件判定部115を設けた。そして、最適条件判定部115により、所定の範囲内の第1揺動条件から算出された第2揺動条件に基づいて、優先条件が最小になる第1揺動条件と第2揺動条件を判定した。
これにより、各条件を満たし得る第1揺動条件が複数ある場合に、所定範囲内の第1揺動条件について優先条件の確認を行い、全ての条件の上限値を満たす、かつ、優先条件が最小になる第1揺動条件と第2揺動条件を決定できる。
【0061】
(6) 本開示の実施形態では、第2揺動条件算出部112により、第2揺動条件を上述の数式(2-1)、(2-2)及び(2-3)を用いて算出するようにした。
これにより、第1揺動条件決定部111で決定された周波数パラメータと振幅パラメータのうちの一方に基づいて、周波数パラメータと振幅パラメータのうちの他方を確実に算出することができる。
【0062】
(7) 本開示の実施形態では、第2揺動条件算出部112により、第2揺動条件として振幅パラメータを、工具Tの刃先及びワークWの振れに基づいたマージンを含んで算出した。
工具Tの刃先(機械先端)・ワークWは、揺動により撓んで振れるところ、本実施形態によれば、係る振れに基づいたマージンを含んで振幅パラメータを算出することにより、より確実に空振りCを発生させることができる。
【0063】
(8) 本開示の実施形態では、入力部14と、表示部15のうち少なくとも一方を設けた。ここで、入力部14は、第1揺動条件決定部111による第1揺動条件の決定に必要な各種パラメータ、第2揺動条件算出部112による第2揺動条件の算出に必要な各種パラメータ、前記優先条件、前記マージンのうち少なくとも一つを入力可能な入力部とした。また、表示部15は、入力部14により入力される入力内容、第1揺動条件決定部111により決定される第1揺動条件、前記第2揺動条件算出部により算出される第2揺動条件、第1揺動条件と第2揺動条件から決まる各種諸元のうち少なくとも一つを表示可能な表示部とした。
これにより、使用者が入力部14を介して入力する入力値により、第1揺動条件の決定と第2揺動条件の算出、決定が可能となる。また、表示部15による表示により、使用者は、揺動条件の設定と確認が容易となる。
【0064】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良は本発明に含まれる。
【0065】
例えば上記実施形態に係る工作機械の制御装置1において、学習制御部を設けてもよい。この学習制御部は、1学習周期前までの位置偏差の積算値に基づいて、重畳指令の補正量を算出し、算出した補正量を重畳指令に重畳して補正する。上記実施形態の重畳指令は、揺動指令を含むことで位置偏差が生じ易いところ、学習制御部による補正により周期的な揺動指令に対する追従性を向上できる。
【符号の説明】
【0066】
1,1A,1B 工作機械の制御装置
10,10A,10B サーボ制御装置
11,11A,11B 揺動指令生成部
12 モータ制御部
13 加算器
14 入力部
15 表示部
30 モータ
111 第1揺動条件決定部
112 第2揺動条件算出部
113 揺動指令算出部
114 上限判定部
115 最適条件判定部
C 空振り
P 工具経路
S 主軸
T 切削工具
W ワーク
Z 送り方向