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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20240717BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240717BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240717BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240717BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20240717BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20240717BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/62 Z
H01M4/38 Z
H01M4/134
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2022504343
(86)(22)【出願日】2021-03-01
(86)【国際出願番号】 JP2021007638
(87)【国際公開番号】W WO2021177212
(87)【国際公開日】2021-09-10
【審査請求日】2022-07-07
(31)【優先権主張番号】P 2020038804
(32)【優先日】2020-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】野本 和誠
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 晃暢
【審査官】森 透
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-170107(JP,A)
【文献】国際公開第2019/146292(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/146294(WO,A1)
【文献】特表2019-532891(JP,A)
【文献】国際公開第2018/025582(WO,A1)
【文献】特開2006-244734(JP,A)
【文献】国際公開第2019/146308(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第109775744(CN,A)
【文献】国際公開第2019/135323(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01M 10/05-10/0587
H01M 10/36-10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の単位電池が、厚さ方向に沿って配置され、かつ、直列に接続された固体電池であって、
前記単位電池は、正極集電体、正極層、固体電解質層、負極層および負極集電体を、この順に有し、
前記固体電池は、SOC100%時の総電圧が30V以上であり、
前記単位電池における前記正極層が、第1ハロゲン化物固体電解質を含有し、
前記単位電池における前記負極層が、負極活物質であるSiと、硫化物固体電解質と、を含有し、
前記固体電解質層が、固体電解質として、硫化物固体電解質のみを含有し、
前記第1ハロゲン化物固体電解質は、Li 6-3A (Aは0<A<2を満たし、M は、YおよびInの少なくとも一種であり、かつ、前記Yを少なくとも含み、X は、ClおよびBrの少なくとも一種である)により表され、
前記固体電解質層における前記硫化物固体電解質、および、前記負極層における前記硫化物固体電解質が、それぞれ、(100-a-b)(Li PS )-aLiBr-bLiI(aは、5≦a≦20を満たし、bは、5≦b≦20を満たす)で表される組成を有する、固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体電池は、正極層および負極層の間に固体電解質層を有する電池であり、可燃性の有機溶媒を含む電解液を有する液系電池に比べて、安全装置の簡素化が図りやすいという利点を有する。例えば、特許文献1には、2以上の単位電池を直列に積層してなる直列積層型全固体電池が開示され、さらに、正極活物質層、固体電解質層および負極活物質層が、硫化物固体電解質を含むことが開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、LiPS-LiBr-LiI系の硫化物固体電解質が開示されている。特許文献3には、Li6-3z(zは0<z<2を満たし、Xは、ClまたはBrである。)で表される固体電解質が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-096476号公報
【文献】特開2015-11901号公報
【文献】国際公開第2018/025582号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
複数の単位電池を直列に接続することで、電池の高電圧化を図ることができる。一方、例えば、複数の単位電池を直列に接続した固体電池が劣化すると、固体電池の総電圧が一つの単位電池に印加され、単位電池に短絡(内部短絡)が発生する場合がある。
【0006】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、単位電池に高電圧が印加された場合であっても、短絡の発生が抑制された固体電池を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示においては、複数の単位電池が、厚さ方向に沿って配置され、かつ、直列に接続された固体電池であって、上記単位電池は、正極集電体、正極層、固体電解質層、負極層および負極集電体を、この順に有し、上記固体電池は、SOC100%時の総電圧が30V以上であり、上記単位電池における上記正極層が、第1ハロゲン化物固体電解質を含有する、固体電池を提供する。
【0008】
本開示によれば、単位電池における正極層が第1ハロゲン化物固体電解質を含有することから、単位電池に高電圧が印加された場合であっても、短絡の発生が抑制された固体電池とすることができる。
【0009】
上記開示において、上記第1ハロゲン化物固体電解質は、下記の組成式(1)により表され、
Liα β γ … 式(1)
α、βおよびγは、それぞれ、0より大きい値であり、Mは、Li以外の金属元素および半金属元素からなる群より選択される少なくとも1つを含み、Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0010】
上記開示において、上記第1ハロゲン化物固体電解質は、Li6-3A (Aは0<A<2を満たし、Mは、YおよびInの少なくとも一種であり、Xは、ClおよびBrの少なくとも一種である)により表されてもよい。
【0011】
上記開示においては、上記Mが、上記Yを少なくとも含んでいてもよい。
【0012】
上記開示においては、上記固体電解質層が、硫化物固体電解質を含有していてもよい。
【0013】
上記開示においては、上記硫化物固体電解質が、Li、P、Sを含有していてもよい。
【0014】
上記開示においては、上記固体電解質層が、複数の層を有し、上記複数の層の中で、最も上記正極層に近い第1層が、第2ハロゲン化物固体電解質を含有していてもよい。
【0015】
上記開示において、上記第2ハロゲン化物固体電解質は、下記の組成式(2)により表され、
Li … 式(2)
p、qおよびrは、それぞれ、0より大きい値であり、Mは、Li以外の金属元素および半金属元素からなる群より選択される少なくとも1つを含み、Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0016】
上記開示において、上記第2ハロゲン化物固体電解質は、Li6-3B (Bは0<B<2を満たし、Mは、YおよびInの少なくとも一種であり、Xは、ClおよびBrの少なくとも一種である)により表されてもよい。
【0017】
上記開示においては、上記Mが、上記Yを少なくとも含んでいてもよい。
【0018】
上記開示においては、上記複数の層の中で、上記第1層以外の層が、硫化物固体電解質を含有していてもよい。
【0019】
上記開示においては、上記硫化物固体電解質が、Li、P、Sを含有していてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本開示における固体電池は、単位電池に高電圧が印加された場合であっても、短絡の発生を抑制できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本開示における単位電池を例示する概略断面図である。
図2】本開示における全固体電池を例示する概略断面図である。
図3】本開示における単位電池を例示する概略断面図である。
図4】実験例1および比較実験例1で得られた全固体電池に対する充電試験の結果である。
図5】実験例7で得られた全固体電池に対する充電試験の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本開示における固体電池について、詳細に説明する。なお、固体電池とは、固体電解質を含む電池を意味するものとする。以下、固体電池として、液系材料を含まない固体電池である「全固体電池」を一例として、詳細に説明する。
【0023】
図1は本開示における単位電池を例示する概略断面図であり、図2は本開示における全固体電池を例示する概略断面図である。図1に示す単位電池10は、正極集電体1、正極層2、固体電解質層3、負極層4および負極集電体5を、厚さ方向に沿って、この順に有する。また、図2に示す全固体電池100は、厚さ方向に沿って配置され、かつ、直列に接続された複数の単位電池10を有する。
【0024】
また、図2に示す全固体電池100は、SOC100%時の総電圧が30V以上である。また、単位電池10における正極層1は、第1ハロゲン化物固体電解質を含有する。
【0025】
本開示によれば、単位電池における正極層が第1ハロゲン化物固体電解質を含有することから、単位電池に高電圧が印加された場合であっても、短絡の発生が抑制された全固体電池とすることができる。ここで、上述したように、複数の単位電池を直列に接続することで、電池の高電圧化を図ることができる。一方、例えば、複数の単位電池を直列に接続した全固体電池が劣化すると、全固体電池の総電圧が一つの単位電池に印加される場合がある。極端な例ではあるものの、例えば、1つの単位電池が正常で、他の全ての単位電池に電圧低下(例えば異物による電圧低下)が生じた場合に、その1つの単位電池に総電圧が印加される場合が想定される。
【0026】
全固体電池の総電圧が一つの単位電池に印加されると、正極層に含まれる固体電解質(特に正極活物質および導電材の周囲に位置する固体電解質)の酸化分解反応が生じる場合がある。硫化物固体電解質はイオン伝導性が高く、固体電解質としての性能は優れているものの、酸化分解反応(例えば、2LiPS→Li+2S+2Li+2e)が生じると、酸化分解生成物(Li)のイオン伝導性も高いため、発生したLiが負極層側に移動しやすい。その結果、負極層においてLiデンドライトが析出し、短絡(内部短絡)が生じやすい。そのため、直列接続する単位電池の数を増やしにくいという課題がある。このような課題は、従来知られていない新規の課題である。
【0027】
これに対して、本開示においては、正極層に、第1ハロゲン化物固体電解質を用いる。この第1ハロゲン化物固体電解質は、酸化分解反応(例えば、LiYCl→YCl+LiCl+Cl(g)+2Li+2e)が生じた場合であっても、酸化分解生成物(YCl)のイオン伝導性が低い。そのため、酸化分解反応が連鎖的に生じにくくなることでLiの発生量が低減したり、発生したLiが正極層内で伝導しにくくなったりすることで、負極層においてLiデンドライトが析出することを抑制できる。このようにして、本開示においては、単位電池に高電圧が印加された場合であっても、短絡の発生が抑制された全固体電池とすることができる。また、後述する実験例では、MがY(イットリウム)である場合を示しているが、Y以外のMであっても、酸化分解生成物のイオン伝導性は低いため、同様の効果が得られる。
【0028】
本開示における全固体電池は、SOC100%時の総電圧が30V以上である。「SOC100%時の総電圧」とは、SOC(State Of Charge)100%時、すなわち満充電状態における各単位電池の電圧の総和をいう。SOC100%時の総電圧は、40V以上であってもよく、50V以上であってもよく、60V以上であってもよく、100V以上であってもよい。一方、SOC100%時の総電圧は、特に限定されないが、例えば400V以下である。
【0029】
1.単位電池
本開示における単位電池は、正極集電体、正極層、固体電解質層、負極層および負極集電体を、この順に有する。
【0030】
(1)正極層
本開示における正極層は、少なくとも正極活物質および固体電解質を含有する層である。正極層は、導電材およびバインダーの少なくとも一つをさらに含有していてもよい。
【0031】
(i)正極活物質
正極層は、正極活物質を含有する。正極活物質としては、例えば酸化物活物質が挙げられる。酸化物活物質としては、具体的には、LiCoO、LiMnO、LiNiO、LiVO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3等の岩塩層状型活物質、LiMn、Li(Ni0.5Mn1.5)O等のスピネル型活物質、LiFePO、LiMnPO、LiNiPO、LiCuPO等のオリビン型活物質が挙げられる。正極活物質の形状としては、例えば粒子状が挙げられる。
【0032】
正極活物質の表面は、コート層で被覆されていてもよい。正極活物質と硫化物固体電解質との反応を抑制できるからである。コート層の材料としては、例えば、LiNbO、LiPO、LiPON等のLiイオン伝導性酸化物が挙げられる。コート層の平均厚さは、例えば1nm以上20μm以下であり、1nm以上10nm以下であってもよい。正極層における正極活物質の割合は、例えば30重量%以上であり、50重量%以上であってもよく、70重量%以上であってもよい。
【0033】
(ii)固体電解質
正極層は、第1ハロゲン化物固体電解質を含有する。
【0034】
第1ハロゲン化物固体電解質は、下記の組成式(1)により表されてもよい。
Liα β γ … 式(1)
ここで、α、βおよびγは、それぞれ、0より大きい値である。
は、Li以外の金属元素および半金属元素からなる群より選択される少なくとも1つを含む。Mは、Li以外の金属元素および半金属元素からなる群より選択される少なくとも1つの元素であってもよい。Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1つを含む。Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1つであってもよい。以上の構成によれば、第1ハロゲン化物固体電解質のイオン伝導度をより向上させることができる。これにより、電池の出力特性をより向上させることができる。
【0035】
組成式(1)において、α、βおよびγは、2.5≦α≦3、1≦β≦1.1、および、γ=6を満たしていてもよい。以上の構成によれば、第1ハロゲン化物固体電解質のイオン伝導度をより向上させることができる。
【0036】
本開示において、「半金属元素」とは、B、Si、Ge、As、SbおよびTeである。本開示において、「金属元素」とは、水素を除く周期表1族から12族中に含まれるすべての元素、ならびに、B、Si 、Ge、As、Sb、Te、C、N、P、O、SおよびSeを除く周期表13族から16族中に含まれるすべての元素である。すなわち、「半金属元素」または「金属元素」とは、ハロゲン化合物と無機化合物を形成したときにカチオンとなりうる元素群である。
【0037】
組成式(1)において、Mは、Y(イットリウム)を含んでいてもよい。すなわち、第1ハロゲン化物固体電解質は、金属元素としてYを含んでいてもよい。以上の構成によれば、第1ハロゲン化物固体電解質のイオン伝導度をより向上させることができる。
【0038】
Yを含む第1ハロゲン化物固体電解質は、例えば、LiMeの組成式で表される化合物であってもよい。ここで、a、bおよびcは、a+mb+3c=6およびc>0を満たす。Meは、LiおよびYを除く金属元素と半金属元素とからなる群より選択される少なくとも1つである。mは、Meの価数である。Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1つである。Meは、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Sc、Al、Ga、Bi、Zr、Hf、Ti、Sn、TaおよびNbからなる群より選択される少なくとも1つであってもよい。以上の構成によれば、第1ハロゲン化物固体電解質のイオン伝導度をより向上させることができる。
【0039】
第1ハロゲン化物固体電解質は、下記の組成式(A1)により表されてもよい。
Li6-3d … 式(A1)
組成式(A1)において、Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1つである、または、当該群より選択される2種以上の元素である。組成式(A1)において、dは、0<d<2を満たす。以上の構成によれば、第1ハロゲン化物固体電解質のイオン伝導度をより向上させることができる。
【0040】
第1ハロゲン化物固体電解質は、下記の組成式(A2)により表されてもよい。
LiYX … 式(A2)
組成式(A2)において、Xは、F、Cl、Br、およびIからなる群より選択される少なくとも1つである、または、当該群より選択される2種以上の元素である。以上の構成によれば、第1ハロゲン化物固体電解質のイオン伝導度をより向上させることができる。
【0041】
第1ハロゲン化物固体電解質は、下記の組成式(A3)により表されてもよい。
Li3-3δ1+δCl … 式(A3)
組成式(A3)において、δは、0<δ≦0.15を満たす。以上の構成によれば、第1ハロゲン化物固体電解質のイオン伝導度をより向上させることができる。
【0042】
第1ハロゲン化物固体電解質は、下記の組成式(A4)により表されてもよい。
Li3-3δ1+δBr … 式(A4)
組成式(A4)において、δは、0<δ≦0.25を満たす。以上の構成によれば、第1ハロゲン化物固体電解質のイオン伝導度をより向上させることができる。
【0043】
第1ハロゲン化物固体電解質は、下記の組成式(A5)により表されてもよい。
Li3-3δ+a1+δ-aMeCl6-x-yBr … 式(A5)
組成式(A5)において、Meは、Mg、Ca、Sr、BaおよびZnからなる群より選択される少なくとも1つを含む。Meは、Mg、Ca、Sr、BaおよびZnからなる群より選択される少なくとも1つであってもよい。組成式(A5)において、δ、a、xおよびyは、-1<δ<2、0<a<3、0<(3-3δ+a)、0<(1+δ-a)、0≦x≦6、0≦y≦6、および(x+y)≦6を満たす。以上の構成によれば、第1ハロゲン化物固体電解質のイオン伝導度をより向上させることができる。
【0044】
第1ハロゲン化物固体電解質は、下記の組成式(A6)により表されてもよい。
Li3-3δ1+δ-aMeCl6-x-yBr … 式(A6)
組成式(A6)において、Meは、Al、Sc、GaおよびBiからなる群より選択される少なくとも1つを含む。Meは、Al、Sc、GaおよびBiからなる群より選択される少なくとも1つであってもよい。組成式(A6)において、δ、a、xおよびyは、-1<δ<1、0<a<2、0<(1+δ-a)、0≦x≦6、0≦y≦6、および(x+y)≦6を満たす。以上の構成によれば、第1ハロゲン化物固体電解質のイオン伝導度をより向上させることができる。
【0045】
第1ハロゲン化物固体電解質は、下記の組成式(A7)により表されてもよい。
Li3-3δ-a1+δ-aMeCl6-x-yBr ・・・式(A7)
組成式(A7)において、Meは、Zr、HfおよびTiからなる群より選択される少なくとも1つを含む。Meは、Zr、HfおよびTiからなる群より選択される少なくとも1つであってもよい。組成式(A7)において、δ、a、xおよびyは、-1<δ<1、0<a<1.5、0<(3-3δ-a)、0<(1+δ-a)、0≦x≦6、0≦y≦6、および(x+y)≦6を満たす。以上の構成によれば、第1ハロゲン化物固体電解質のイオン伝導度をより向上させることができる。
【0046】
第1ハロゲン化物固体電解質は、下記の組成式(A8)により表されてもよい。
Li3-3δ-2a1+δ-aMeCl6-x-yBr ・・・式(A8)
組成式(A8)において、Meは、TaおよびNbからなる群より選択される少なくとも1つを含む。Meは、TaおよびNbからなる群より選択される少なくとも1つであってもよい。組成式(A8)において、δ、a、xおよびyは、-1<δ<1、0<a<1.2、0<(3-3δ-2a)、0<(1+δ-a)、0≦x≦6、0≦y≦6、および(x+y)≦6を満たす。以上の構成によれば、第1ハロゲン化物固体電解質のイオン伝導度をより向上させることができる。
【0047】
第1ハロゲン化物固体電解質としては、例えば、LiYX、LiMgX、LiFeX、Li(Al、Ga、In)X、Li(Al、Ga、In)Xが挙げられる。これらの材料において、元素Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1つである。本開示において、「(Al、Ga、In)」は、括弧内の元素群より選択される少なくとも1種の元素を示す。すなわち、「(Al、Ga、In)」は、「Al、GaおよびInからなる群より選択される少なくとも1種」と同義である。他の元素の場合でも同様である。
【0048】
第1ハロゲン化物固体電解質に含まれるX(すなわち、アニオン)は、F、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1つを含み、酸素をさらに含んでいてもよい。以上の構成によれば、第1ハロゲン化物固体電解質のイオン伝導度をより向上させることができる。
【0049】
第1ハロゲン化物固体電解質は、上述したように、組成式(1)により表されてもよい。さらに、第1ハロゲン化物固体電解質は、Li6-3A (Aは0<A<2を満たし、Mは、YおよびInの少なくとも一種であり、Xは、ClおよびBrの少なくとも一種である)で表される固体電解質であってもよい。
【0050】
Li6-3A において、MがYおよびInの少なくとも一種であるとき、Aは、0より大きく、0.75以上であってもよく、1以上であってもよい。一方、Aは、2より小さく、1.5以下であってもよく、1.25以下であってもよい。Mは、YおよびInの少なくとも一種であり、Yを少なくとも含むことが好ましく、Yのみであってもよい。Xは、ClおよびBrの少なくとも一種であり、Clのみであってもよく、Brのみであってもよく、ClおよびBrの両方であってもよい。
【0051】
Li6-3A で表される固体電解質は、Xの配列が空間群C2/mに属する結晶構造を有するLiErBrにおけるBrの配列と同じ配列である第1結晶相を有していてもよい。この場合、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θが、それぞれ、25°~28°、29°~32°、41°~46°、49°~55°、51°~58°である範囲内に特徴的なピークが観測される。また、LiErBrの結晶構造における(200)面に相当する第1結晶相のピーク強度をI200とし、(110)面に相当する第1結晶相のピーク強度をI110とした場合に、I110/I200≦0.01が満たされていてもよい。また、LiErBrの結晶構造における(200)面に相当する第1結晶相のピークの半値幅をFWHMとし、上記ピークの中心の回折角度(ピーク中心値)を2θcとした場合に、FWHM/2θc≧0.015が満たされていてもよい。
【0052】
Li6-3A で表される固体電解質は、Xの配列が空間群P-3m1に属する結晶構造を有するLiErClにおけるClの配列と同じ配列である第2結晶相を有していてもよい。この場合、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θが、それぞれ、29.8°~32°、38.5°~41.7°、46.3°~50.4°、50.8°~55.4°である範囲内に特徴的なピークが観測される。また、LiErClの結晶構造における(303)面に相当する第2結晶相のピーク強度をI303とし、(110)面に相当する第2結晶相のピーク強度をI´110とした場合に、I´110/I303≦0.3が満たされていてもよい。また、LiErClの結晶構造における(303)面に相当する第2結晶相のピークの半値幅をFWHMとし、上記ピークの中心の回折角度(ピーク中心値)を2θcとした場合に、FWHM/2θc≧0.015が満たされていてもよい。
【0053】
Li6-3A で表される固体電解質は、Xの配列が空間群Pnmaに属する結晶構造を有するLiYbClにおけるClの配列と同じ配列である第3結晶相を有していてもよい。この場合、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θが、それぞれ、29.8°~32°、38.5°~41.7°、46.3°~50.4°、50.8°~55.4°である範囲内に特徴的なピークが観測される。また、LiYbClの結晶構造における(231)面に相当する第3結晶相のピークの半値幅をFWHMとし、上記ピークの中心の回折角度(ピーク中心値)を2θcとした場合に、FWHM/2θc≧0.015が満たされていてもよい。
【0054】
Li6-3A で表され、かつ、Xが少なくともBrを含む固体電解質は、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θが、それぞれ、13.1°~14.5°、26.6°~28.3°、30.8°~32.7°、44.2°~47.1°、52.3°~55.8°、54.8°~58.5°である範囲内にピークが観察される第4結晶相を有していてもよい。また、2θが26.6°~28.3°の範囲内に観測されるピークの半値幅をFWHMとし、上記ピークの中心の回折角度(ピーク中心値)を2θcとした場合に、FWHM/2θc≧0.015が満たされていてもよい。また、2θが26.6°~28.3°の範囲内に観察される上記ピークの強度をIとし、2θが15.0°~16.0°の範囲内に観察されるピークの強度をIとした場合に、I/I≦0.1が満たされてもよく、I/I≦0.01が満たされてもよい。なお、2θが15.0°~16.0°の範囲内にピークが認められない場合は、I=0である。
【0055】
Li6-3A で表され、かつ、Xが少なくともClを含む固体電解質は、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θが、それぞれ、15.3°~16.3°、29.8°~32°、38.5°~41.7°、46.3°~50.4°、50.8°~55.4°である範囲内にピークが観察される第5結晶相を有していてもよい。また、2θが29.8°~32°の範囲内に観測されるピークの半値幅をFWHMとし、上記ピークの中心の回折角度(ピーク中心値)を2θcとした場合に、FWHM/2θc≧0.015が満たされていてもよい。また、2θが29.8°~32°の範囲内に観察される上記ピークの強度をIとし、2θが15.3°~16.3°の範囲内に観察される上記ピークの強度をIとした場合に、I/I≦0.3が満たされてもよい。
【0056】
正極層における第1ハロゲン化物固体電解質の割合は、例えば、10重量%以上60重量%以下である。また、正極層は、固体電解質として、第1ハロゲン化物固体電解質のみを含有していてもよく、他の固体電解質をさらに含有していてもよい。後者の場合、正極層に含まれる全ての固体電解質に対する、第1ハロゲン化物固体電解質の割合は、例えば50重量%以上であり、70重量%以上であってもよく、90重量%以上であってもよい。
【0057】
また、第1ハロゲン化物固体電解質は、例えば、原料組成物に対してメカニカルミリング処理を行うことで得ることができる。例えば、原料組成物が、LiClおよびYClを、LiCl:YCl=3:1のモル比で含有する場合、メカニカルミリング処理を行うことで、LiYClで表される第1ハロゲン化物固体電解質が得られる。
【0058】
(iii)正極層
正極層は、導電材およびバインダーを含有していてもよい。導電材としては、例えば、炭素材料が挙げられる。炭素材料としては、例えば、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)等の粒子状炭素材料、炭素繊維、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)等の繊維状炭素材料が挙げられる。バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素系バインダーが挙げられる。正極層の厚さは、例えば、0.1μm以上1000μm以下である。
【0059】
(2)固体電解質層
本開示における固体電解質層は、少なくとも固体電解質を含有する層である。また、固体電解質層は、固体電解質の他に、バインダーを含有していてもよい。
【0060】
固体電解質層に用いられる固体電解質としては、例えば、ハロゲン化物固体電解質、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、窒化物固体電解質等の無機固体電解質が挙げられる。なお、固体電解質層に用いられるハロゲン化物固体電解質を、第2ハロゲン化物固体電解質と称する場合がある。
【0061】
第2ハロゲン化物固体電解質は、下記の組成式(2)により表されてもよい。
Li … 式(2)
p、qおよびrは、それぞれ、0より大きい値である。Mは、Li以外の金属元素および半金属元素からなる群より選択される少なくとも1つを含む。Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1つを含む。Li の好ましい態様については、上述したLiα β γの好ましい態様と同様であるので、ここでの記載は省略する。なお、M、X、p、q、rは、それぞれ、M、X、α、β、γに対応する。
【0062】
第2ハロゲン化物固体電解質は、例えば、Li6-3B (Bは0<B<2を満たし、Mは、YおよびInの少なくとも一種であり、Xは、ClおよびBrの少なくとも一種である)であってもよい。Li6-3B の好ましい態様については、上述したLi6-3A の好ましい態様と同様であるので、ここでの記載は省略する。なお、B、MおよびXは、それぞれ、A、MおよびXに対応する。
【0063】
第2ハロゲン化物固体電解質と、第1ハロゲン化物固体電解質とは、異なる化合物であってもよく、同じ化合物であってもよい。第2ハロゲン化物固体電解質として、第1ハロゲン化物固体電解質の例として挙げられた化合物(例えば、組成式(A1)~(A8)のいずれかに記載の化合物)を用いてもよい。
【0064】
硫化物固体電解質は、Li、M(Mは、P、As、Sb、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga、Inの少なくとも一種である)およびSを含有することが好ましい。また、Mは、少なくともPを含むことが好ましい。さらに、硫化物固体電解質は、Oおよびハロゲンの少なくとも一方をさらに含有していてもよい。ハロゲンとしては、例えばF、Cl、Br、Iが挙げられる。
【0065】
硫化物固体電解質は、Li、P、およびSを有するイオン伝導体を含有することが好ましい。イオン伝導体は、アニオン構造として、PS 3-構造を有することが好ましい。PS 3-構造の割合は、イオン伝導体における全アニオン構造に対して、例えば50mol%以上であり、70mol%以上であってもよく、90mol%以上であってもよい。PS 3-構造の割合は、例えば、ラマン分光法、NMR、XPSにより決定することができる。
【0066】
硫化物固体電解質は、Li、P、およびSを有するイオン伝導体と、LiBrおよびLiIの少なくとも一方と、から構成されていることが好ましい。LiBrおよびLiIの少なくとも一部は、それぞれ、LiBr成分およびLiI成分としてイオン伝導体の構造中に取り込まれた状態で存在することが好ましい。硫化物固体電解質に含まれるLiBrおよびLiIの割合は、それぞれ、例えば1mol%以上30mol%以下であり、5mol%以上20mol%以下であってもよい。
【0067】
硫化物固体電解質は、例えば、(100-a-b)(LiPS)-aLiBr-bLiIで表される組成を有することが好ましい。aは、例えば1≦a≦30を満たし、5≦a≦20を満たしてもよい。bは、例えば1≦b≦30を満たし、5≦b≦20を満たしてもよい。
【0068】
硫化物固体電解質は、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=20.2°±0.5°、23.6°±0.5°にピークを有する結晶相(結晶相A)を備えることが好ましい。結晶相Aは、イオン伝導性が高いからである。結晶相Aは、通常、2θ=29.4°±0.5°、37.8°±0.5°、41.1°±0.5°、47.0°±0.5°にもピークを有する。また、2θ=20.2°±0.5°のピークの半値幅が小さいことが好ましい。半値幅(FWHM)は、例えば0.51°以下であり、0.45°以下であってもよく、0.43°以下であってもよい。
【0069】
硫化物固体電解質は、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=21.0°±0.5°、28.0°±0.5°にピークを有する結晶相(結晶相B)を備えていてもよいが、結晶相Bを備えないことが好ましい。結晶相Bは、結晶相Aよりもイオン伝導性が低いからである。結晶相Bは、通常、2θ=32.0°±0.5°、33.4°±0.5°、38.7°±0.5°、42.8°±0.5°、44.2°±0.5°にもピークを有する。結晶相Aにおける2θ=20.2°±0.5°のピーク強度をI20.2とし、結晶相Bにおける2θ=21.0°±0.5°のピーク強度をI21.0とした場合に、I21.0/I20.2は、例えば0.4以下であり、0.2以下であってもよく、0であってもよい。
【0070】
硫化物固体電解質は、Thio-LISICON型結晶相、LGPS型結晶相、アルジロダイト型結晶相等の結晶層を有していてもよい。
【0071】
硫化物固体電解質の形状としては、例えば、粒子状が挙げられる。また、硫化物固体電解質の平均粒径(D50)は、例えば、0.1μm以上、50μm以下である。平均粒径(D50)は、レーザー回折散乱法による粒度分布測定の結果から求めることができる。また、硫化物固体電解質は、イオン伝導度が高いことが好ましい。25℃におけるイオン伝導度は、例えば1×10-4S/cm以上であり、1×10-3S/cm以上であってもよい。
【0072】
硫化物固体電解質は、例えば、LiSおよびPを含有する原料組成物に対してメカニカルミリング処理を行い、硫化物ガラスを形成し、その後、硫化物ガラスに熱処理を行うことで得ることができる。原料組成物は、LiSおよびPの合計に対するLiSの割合は、例えば70mol%以上であり、72mol%以上であってもよく、74mol%以上であってもよい。一方、LiSの上記割合は、例えば80mol%以下であり、78mol%以下であってもよく、76mol%以下であってもよい。原料組成物は、LiBrおよびLiIの少なくとも一方をさらに含有していてもよい。
【0073】
固体電解質層は、単一の層であってもよく、複数の層を有していてもよい。固体電解質層が単一の層である場合、固体電解質層は、硫化物固体電解質を含有することが好ましい。硫化物固体電解質はイオン伝導性が高いため、このような硫化物固体電解質を用いることで、例えば充放電特性に優れた単位電池を得ることができる。
【0074】
一方、固体電解質層が複数の層を有する場合、複数の層の数は、2であってもよく、3であってもよく、4以上であってもよい。一方、複数の層の数は、例えば10以下である。ここで、複数の層(層数N)の中で、最も正極層に近い層を第1層とし、厚さ方向に沿って、順に第N層までナンバリングする。例えば、図3に示す単位電池10は、固体電解質層3が、正極層2側から順に、第1層3aおよび第2層3bを有している。
【0075】
本開示においては、第1層が、上述した第2ハロゲン化物固体電解質を含有することが好ましい。後述する実験例に示すように、耐電圧性が顕著に高くなるからである。第1層に含まれる全ての固体電解質層に対する、第2ハロゲン化物固体電解質の割合は、例えば50重量%以上であり、70重量%以上であってもよく、90重量%以上であってもよい。第1層の厚さは、例えば1μm以上であり、5μm以上であってもよく、7μm以上であってもよい。一方、第1層の厚さは、例えば500μm以下である。
【0076】
また、第1層以外の層は、硫化物固体電解質を含有することが好ましい。硫化物固体電解質はイオン伝導性が高いため、このような硫化物固体電解質を用いることで、例えば充放電特性に優れた単位電池を得ることができる。特に、複数の層の中で、最も負極層に近い層が硫化物固体電解質を含有することが好ましい。
【0077】
固体電解質層の厚さは、特に限定されないが、例えば1μm以上であり、5μm以上であってもよい。一方、固体電解質層の厚さは、例えば1000μm以下である。
【0078】
(3)負極層
本開示における負極層は、少なくとも負極活物質を含有する層である。また、負極層は、負極活物質の他に、固体電解質、導電材およびバインダーの少なくとも一つを含有していてもよい。
【0079】
負極活物質としては、例えば、金属活物質、カーボン活物質および酸化物活物質が挙げられる。金属活物質としては、例えば、Li、In、Al、Si、Sn、および、これらの少なくとも1種を含む合金が挙げられる。カーボン活物質としては、例えば、グラファイト、ハードカーボン、ソフトカーボンが挙げられる。酸化物活物質としては、例えば、LiTi12、SiO、Nbが挙げられる。負極活物質の形状としては、例えば粒子状が挙げられる。
【0080】
固体電解質、導電材およびバインダーについては、上述した内容と同様である。中でも、負極層は、硫化物固体電解質を含有することが好ましい。硫化物固体電解質については、上述した内容と同様である。負極層の厚さは、例えば、1μm以上1000μm以下である。
【0081】
(4)その他の構成
本開示における単位電池は、通常、正極活物質の集電を行う正極集電体、および、負極活物質の集電を行う負極集電体を有する。正極集電体の材料としては、例えば、SUS、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタンおよびカーボンが挙げられる。一方、負極集電体の材料としては、例えば、SUS、銅、ニッケルおよびカーボンが挙げられる。なお、正極集電体および負極集電体の形状としては、例えば、箔状が挙げられる。
【0082】
(5)単位電池
本開示における単位電池は、Liイオン伝導を利用する電池(リチウムイオン電池)である。また、単位電池は、一次電池であってもよく、二次電池であってもよいが、後者が好ましい。繰り返し充放電でき、例えば車載用電池として有用だからである。なお、二次電池には、二次電池の一次電池的使用(充電後、一度の放電だけを目的とした使用)も含まれる。
【0083】
2.全固体電池
本開示における全固体電池は、複数の単位電池が、厚さ方向に沿って配置され、かつ、直列に接続されている。また、全固体電池は、SOC100%時の総電圧が、通常、30V以上である。単位電池の数は、少なくとも2以上であり、6以上であってもよく、10以上であってもよく、20以上であってよい。一方、単位電池の数は、例えば1000以下であり、500以下であってもよい。
【0084】
また、本開示における全固体電池は、正極層が第1ハロゲン化物固体電解質を含有する単位電池を少なくとも1つ備えていればよい。
【0085】
また、図2では、隣り合う単位電池10において、一方の単位電池10の正極集電体1と、他方の単位電池10の負極集電体5とが一つの集電体として共有化されている。特に図示しないが、隣り合う単位電池において、一方の単位電池の正極集電体と、他方の単位電池の負極集電体とが、別部材であってもよい。この場合、一方の単位電池の正極集電体と、他方の単位電池の負極集電体とが対向するように配置されていることが好ましい。また、全固体電池は、通常、複数の単位電池を収納する外装体を備える。外装体は、可撓性を有していてもよく、有していなくてもよい。
【0086】
なお、本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本開示における特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示における技術的範囲に包含される。
【実施例
【0087】
[実験例1]
(正極合材の作製)
有機溶媒中に、バインダーとしてPVDF-HFP(Sigma-Aldrich製)、導電材としてVGCF(昭和電工製)、固体電解質としてLiYCl、正極活物質としてLiNi1/3Co1/3Mn1/3(Sigma-Aldrich製)を添加した。その後、超音波ホモジナイザーを用いて混練しスラリーを得た。得られたスラリーを乾燥し、乳鉢混合し、正極合材を得た。
【0088】
(負極合材の作製)
有機溶媒中に、バインダーとしてPVDF-HFP(Sigma-Aldrich製)、導電材としてVGCF(昭和電工製)、固体電解質として75LiPS-15LiBr-10LiI、負極活物質としてSi(高純度化学製)を添加した。その後、超音波ホモジナイザーを用いて混練しスラリーを得た。得られたスラリーを乾燥し、乳鉢混合し、負極合材を得た。
【0089】
(固体電解質層用合材の作製)
有機溶媒中に、バインダーとしてPVDF-HFP(Sigma-Aldrich製)、固体電解質として75LiPS-15LiBr-10LiIを添加した。その後、超音波ホモジナイザーを用いて混練しスラリーを得た。得られたスラリーを乾燥し、乳鉢混合し、固体電解質層用合材を得た。
【0090】
(全固体電池の作製)
φ11.28mmのシリンダ内に、固体電解質層用合材を配置し、1ton/cmの圧力で圧粉成形し、固体電解質層を形成した。固体電解質層の一方の面側に、正極合材を配置し、1ton/cmの圧力で圧粉成形し、正極層を形成した。その後、固体電解質層の他方の面側に、負極合材を配置し、1ton/cmの圧力で圧粉成形し、負極層を形成した。正極集電体および負極集電体として、それぞれAl箔およびCu箔を準備し、これらを正極層および負極層の露出面側に配置し、6ton/cmの圧力で圧粉成形した。その後、得られた積層体を拘束することで、全固体電池を得た。
【0091】
[実験例2]
正極合材に用いられる固体電解質を、LiYClBrに変更したこと以外は、実験例1と同様にして全固体電池を得た。
【0092】
[実験例3]
正極合材に用いられる固体電解質を、LiYBrに変更したこと以外は、実験例1と同様にして全固体電池を得た。
【0093】
[実験例4]
固体電解質層用合材に用いられる固体電解質を、LiYClに変更したこと以外は、実験例1と同様にして全固体電池を得た。
【0094】
[実験例5]
固体電解質層用合材に用いられる固体電解質を、LiYClBrに変更したこと以外は、実験例2と同様にして全固体電池を得た。
【0095】
[実験例6]
固体電解質層用合材に用いられる固体電解質を、LiYBrに変更したこと以外は、実験例3と同様にして全固体電池を得た。
【0096】
[比較実験例1]
正極合材に用いられる固体電解質を、75LiPS-15LiBr-10LiIに変更したこと以外は、実験例1と同様にして全固体電池を得た。
【0097】
[比較実験例2]
正極合材に用いられる固体電解質を、LiPSに変更したこと以外は、実験例1と同様にして全固体電池を得た。
【0098】
[比較実験例3]
正極合材に用いられる固体電解質を、LiPSClに変更したこと以外は、実験例1と同様にして全固体電池を得た。
【0099】
[評価]
実験例1~6および比較実験例1~3で得られた全固体電池に対して、0.1Cレートで充電した。具体的には、全固体電池に充電をし続ける過充電を行い、電圧降下が発生した電圧(短絡が発生した電圧)を、耐電圧とした。その結果を表1に示す。また、充電時の電圧推移の代表例として、実験例1および比較実験例1の結果を図4に示す。
【0100】
【表1】
【0101】
表1および図4(a)に示すように、実験例1では耐電圧が55Vであった。これに対して、表1および図4(b)に示すように、比較実験例1では耐電圧が30Vであった。このように、実験例1は、比較実験例1に比べて、耐電圧性が高いことが確認された。すなわち、単位電池に高電圧が印加された場合であっても、短絡の発生が抑制されることが確認された。
【0102】
比較実験例1では、過充電時に、正極層に含まれる固体電解質の酸化分解反応(2LiPS→Li+2S+2Li+2e)が生じ、この反応で発生したLiが負極層側に移動し、負極層においてLiデンドライトが析出し、短絡が生じたと推測される。これに対して、実験例1では、過充電時に、正極層に含まれる固体電解質の酸化分解反応(LiYCl→YCl+LiCl+Cl(g)+2Li+2e)は生じていると推定されるものの、YCl(酸化分解生成物)は、Li(比較実験例1における酸化分解生成物)よりもイオン伝導性が低い。そのため、酸化分解反応が連鎖的に生じにくくなることでLiの発生量が低減したり、発生したLiが正極層内で伝導しにくくなったりすることで、結果として、耐電圧性が向上したと推測される。
【0103】
また、表1に示すように、実験例2~6は、比較実験例1~3に比べて、耐電圧性が高いことが確認された。なお、実験例4~6は、実験例1~3に比べて、耐電圧が低くなった。その理由は、固体電解質層および負極層の界面において、固体電解質層に含まれる固体電解質(LiYX)の還元分解反応が進行し、同時に、酸化分解も進行したためであると推測される。すなわち、分解反応が進行するためには、酸化反応および還元反応が同時に起こる必要があるが、例えば実験例4において、LiYClは、還元分解する電圧に到達しており、還元分解が進行したと推定され、酸化反応においては、バインダー等の物質(固体電解質以外の物質)の酸化分解が進行したと推定される。
【0104】
[実験例7]
まず、実験例1と同様にして正極合材および負極合材を得た。次に、有機溶媒中に、バインダーとしてPVDF-HFP(Sigma-Aldrich製)、固体電解質としてLiYClを添加した。その後、超音波ホモジナイザーを用いて混練しスラリーを得た。得られたスラリーを乾燥し、乳鉢混合し、第1層用合材を得た。
【0105】
次に、有機溶媒中に、バインダーとしてPVDF-HFP(Sigma-Aldrich製)、固体電解質として75LiPS-15LiBr-10LiIを添加した。その後、超音波ホモジナイザーを用いて混練しスラリーを得た。得られたスラリーを乾燥し、乳鉢混合し、第2層用合材を得た。
【0106】
次に、φ11.28mmのシリンダ内に、第1層用合材を配置し、1ton/cmの圧力で圧粉成形し、第1層を形成した。第1層の一方の面側に、第2層用合材を配置し、1ton/cmの圧力で圧粉成形し、第2層を形成した。その後、第1層の露出面(第2層とは反対の面)側に、正極合材を配置し、1ton/cmの圧力で圧粉成形し、正極層を形成した。その後、第2層の露出面(第1層とは反対の面)側に、負極合材を配置し、1ton/cmの圧力で圧粉成形し、負極層を形成した。正極集電体および負極集電体として、それぞれAl箔およびCu箔を準備し、これらを正極層および負極層の露出面側に配置し、6ton/cmの圧力で圧粉成形した。その後、得られた積層体を拘束することで、全固体電池を得た。
【0107】
[実験例8~15]
正極合材に用いられる固体電解質、および、第1層用合材に用いられる固体電解質の少なくとも一方を、表2に示す固体電解質に変更したこと以外は、実験例7と同様にして全固体電池を得た。
【0108】
[評価]
実験例7~15で得られた全固体電池に対して、0.1Cレートで充電した。具体的には、全固体電池に充電をし続ける過充電を行い、電圧降下が発生した電圧(短絡が発生した電圧)を、耐電圧とした。その結果を表2に示す。また、充電時の電圧推移の代表例として、実験例7の結果を図5に示す。
【0109】
【表2】
【0110】
表2および図5に示すように、実験例7では、55Vで、微弱な電圧降下は生じるものの、実験例1(図4(a))とは異なり、その後の充電においても大きな電圧降下が生じることはなく、耐電圧は110V以上であった。この結果は、実験例8~15でも同様であった。このように、正極層のみならず、第1層にも特定の固体電解質を用いることで、耐電圧性が顕著に高くなった。その理由は、過充電時に、第1層および正極層の界面において、第1層に含まれる固体電解質の酸化分解反応(LiYCl→YCl+LiCl+Cl(g)+2Li+2e)は生じていると推定されるものの、YCl(酸化分解生成物)は、Li(第2層における酸化分解生成物)よりもイオン伝導性が低い。そのため、酸化分解反応が連鎖的に生じにくくなることでLiの発生量が低減したり、発生したLiが正極層内で伝導しにくくなったりすることで、結果として、耐電圧性が向上したと推測される。
【符号の説明】
【0111】
1 … 正極集電体
2 … 正極層
3 … 固体電解質層
4 … 負極層
5 … 負極集電体
10 … 単位電池
100 … 全固体電池
図1
図2
図3
図4
図5