(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】量子カスケードレーザ素子及び量子カスケードレーザ装置
(51)【国際特許分類】
H01S 5/34 20060101AFI20240717BHJP
H01S 5/22 20060101ALI20240717BHJP
H01S 5/0233 20210101ALI20240717BHJP
H01S 5/042 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
H01S5/34
H01S5/22
H01S5/0233
H01S5/042 612
(21)【出願番号】P 2022512123
(86)(22)【出願日】2021-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2021012900
(87)【国際公開番号】W WO2021200670
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-09-12
(31)【優先権主張番号】P 2020066828
(32)【優先日】2020-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】杉山 厚志
(72)【発明者】
【氏名】柴田 公督
(72)【発明者】
【氏名】落合 隆英
【審査官】右田 昌士
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-009225(JP,A)
【文献】特開2019-047065(JP,A)
【文献】特開昭63-033888(JP,A)
【文献】特開2013-254765(JP,A)
【文献】特開2019-009346(JP,A)
【文献】特開昭61-292390(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00 - 5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板と、
量子カスケード構造を有する活性層を含み、光導波方向において対向する第1端面及び第2端面を有し、前記半導体基板上に形成された半導体積層体と、
前記半導体積層体における前記半導体基板とは反対側の表面に形成された第1電極と、
前記半導体基板における前記半導体積層体とは反対側の表面に形成された第2電極と、
前記第2端面から、
少なくとも前記第1電極における前記半導体積層体とは反対側の表
面における前記第2端面側の領域に、一続きで形成された絶縁膜と、
前記光導波方向から見た場合に少なくとも前記活性層を覆うように、前記絶縁膜上に形成された金属膜と、を備え、
前記第1電極は、前記半導体基板の厚さ方向において前記半導体積層体の前記表面と前記第1電極の前記表面との間に位置しており且つ前記光導波方向から見た場合に前記第2端面よりも内側に位置している側面を有し、
前記金属膜は、前記第2端面と前記第1電極の前記側面との間において前記絶縁膜上に至っており、
前記金属膜の外縁は、前記光導波方向から見た場合に前記
第1電極の前記表面に至っていない、量子カスケードレーザ素子。
【請求項2】
前記半導体積層体は、リッジ部を有する、請求項1に記載の量子カスケードレーザ素子。
【請求項3】
前記金属膜のうち前記第2端面に形成された部分の厚さは、前記絶縁膜のうち前記第2端面に形成された部分の厚さよりも大きい、請求項1又は2に記載の量子カスケードレーザ素子。
【請求項4】
前記第1電極のうち前記半導体基板の厚さ方向において前記活性層に対応する部分の厚さは、前記金属膜のうち前記第2端面に形成された部分の厚さよりも大きい、請求項
1~3のいずれか一項に記載の量子カスケードレーザ素子。
【請求項5】
前記絶縁膜は、Al
2O
3膜又はCeO
2膜である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の量子カスケードレーザ素子。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の量子カスケードレーザ素子と、
前記量子カスケードレーザ素子を駆動する駆動部と、を備える、量子カスケードレーザ装置。
【請求項7】
前記量子カスケードレーザ素子を支持する支持部と、
前記半導体積層体が前記半導体基板に対して前記支持部側に位置した状態で、前記支持部が有する電極パッドと前記第1電極とを接合する接合部材と、を更に備え
る、請求項
6に記載の量子カスケードレーザ装置。
【請求項8】
前記第1電極のうち前記半導体基板の厚さ方向において前記活性層に対応する部分の厚さは、前記接合部材のうち前記電極パッドと前記第1電極との間に配置された部分の厚さよりも大きい、請求項
7に記載の量子カスケードレーザ装置。
【請求項9】
前記駆動部は、前記量子カスケードレーザ素子がレーザ光を連続発振するように前記量子カスケードレーザ素子を駆動する、請求項
6~
8のいずれか一項に記載の量子カスケードレーザ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、量子カスケードレーザ素子及び量子カスケードレーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の量子カスケードレーザ素子として、半導体基板と、半導体基板上に形成された半導体積層体と、半導体積層体における半導体基板とは反対側の表面に形成された第1電極と、半導体基板における半導体積層体とは反対側の表面に形成された第2電極と、を備える量子カスケードレーザ素子であって、活性層を含む半導体積層体が有する一対の端面のうちの一方の端面に、絶縁膜を介して金属膜が設けられたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。このような量子カスケードレーザ素子では、金属膜が反射膜として機能しつつ一対の端面のうちの他方の端面が光出射面として機能するため、効率の良い光出力を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような量子カスケードレーザ素子をサブマウント等の支持部に実装する際には、半田部材等の接合部材を用いて、支持部の電極パッドに第1電極又は第2電極を接合する場合がある。その場合に、接合部材が金属膜に付着すると、量子カスケードレーザ素子の光出力特性が劣化するおそれがある。その対策として、接合部材が金属膜に付着しないように金属膜を絶縁部材で覆うことも考えられる。しかし、そのような構成では、活性層で発生した熱がこもり易くなり、結果として、量子カスケードレーザ素子の光出力特性が劣化するおそれがある。
【0005】
本開示は、光出力特性の劣化を抑制しつつ効率の良い光出力を得ることができる量子カスケードレーザ素子及び量子カスケードレーザ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面の量子カスケードレーザ素子は、半導体基板と、量子カスケード構造を有する活性層を含み、光導波方向において対向する第1端面及び第2端面を有し、半導体基板上に形成された半導体積層体と、半導体積層体における半導体基板とは反対側の表面に形成された第1電極と、半導体基板における半導体積層体とは反対側の表面に形成された第2電極と、第2端面から、第1電極における半導体積層体とは反対側の表面及び第2電極における半導体基板とは反対側の表面のうちの少なくとも一方の表面における第2端面側の領域に、一続きで形成された絶縁膜と、光導波方向から見た場合に少なくとも活性層を覆うように、絶縁膜上に形成された金属膜と、を備え、金属膜の外縁は、光導波方向から見た場合に一方の表面に至っていない。
【0007】
この量子カスケードレーザ素子では、半導体積層体が有する第1端面及び第2端面のうちの第2端面に、絶縁膜を介して金属膜が設けられている。これにより、金属膜が反射膜として機能しつつ第1端面が光出射面として機能するため、効率の良い光出力が得られる。更に、絶縁膜が、半導体積層体の第2端面から、第1電極の表面及び第2電極の表面のうちの少なくとも一方の表面における第2端面側の領域に、一続きで形成されており、絶縁膜上に形成された金属膜の外縁が、光導波方向から見た場合に当該一方の表面(すなわち、絶縁膜が形成された領域を含む電極(以下、「絶縁膜が回り込んだ電極」という)の表面)に至っていない。これにより、量子カスケードレーザ素子を支持部に実装するために、接合部材を用いて、絶縁膜が回り込んだ電極を支持部の電極パッドに接合する場合に、溶融した接合部材が金属膜に至り難くなる。しかも、例えば金属膜を絶縁部材で覆うような構成に比べ、活性層で発生した熱がこもり難くなる。これらのことから、量子カスケードレーザ素子の光出力特性の劣化が抑制される。以上により、この量子カスケードレーザ素子によれば、光出力特性の劣化を抑制しつつ効率の良い光出力を得ることができる。
【0008】
本開示の一側面の量子カスケードレーザ素子では、半導体積層体は、リッジ部を有してもよい。これによれば、上述した絶縁膜及び金属膜の構成によって効率の良い光出力を確保しつつ、量子カスケードレーザ素子の駆動電流を低減して、量子カスケードレーザ素子の低消費電力化を図ることができる。このとき、活性層が狭小化された分だけ、第1端面及び第2端面のそれぞれにおいて光密度が高くなるが、上述した絶縁膜及び金属膜の構成によって放熱性が確保されているため、量子カスケードレーザ素子の光出力特性が劣化するのを抑制することができる。
【0009】
本開示の一側面の量子カスケードレーザ素子では、金属膜のうち第2端面に形成された部分の厚さは、絶縁膜のうち第2端面に形成された部分の厚さよりも大きくてもよい。これによれば、厚さの関係が逆である場合に比べ、絶縁膜及び金属膜が形成された第2端面での放熱性を向上させることができる。
【0010】
本開示の一側面の量子カスケードレーザ素子では、絶縁膜は、第2端面から、少なくとも第1電極の表面における第2端面側の領域に、一続きで形成されており、金属膜の外縁は、光導波方向から見た場合に第1電極の表面に至っていなくてもよい。これによれば、絶縁膜が回り込んだ電極である第1電極を支持部の電極パッドに接合することで、第2電極を支持部の電極パッドに接合する場合に比べ、活性層を支持部に近付けることができる。したがって、活性層で発生した熱を効率良く支持部側に逃がすことができる。
【0011】
本開示の一側面の量子カスケードレーザ素子では、第1電極のうち半導体基板の厚さ方向において活性層に対応する部分の厚さは、金属膜のうち第2端面に形成された部分の厚さよりも大きくてもよい。これによれば、絶縁膜が回り込んだ電極である第1電極を支持部の電極パッドに接合した場合に、活性層で発生した熱をより効率良く支持部側に逃がすことができる。
【0012】
本開示の一側面の量子カスケードレーザ素子では、絶縁膜は、Al2O3膜又はCeO2膜であってもよい。これによれば、溶融した接合部材が絶縁膜に対して濡れ難くなるため、溶融した接合部材が金属膜に至るのをより確実に抑制することができる。
【0013】
本開示の一側面の量子カスケードレーザ装置は、上記量子カスケードレーザ素子と、量子カスケードレーザ素子を駆動する駆動部と、を備える。
【0014】
この量子カスケードレーザ装置によれば、光出力特性の劣化を抑制しつつ効率の良い光出力を得ることができる。
【0015】
本開示の一側面の量子カスケードレーザ装置は、量子カスケードレーザ素子を支持する支持部と、半導体積層体が半導体基板に対して支持部側に位置した状態で、支持部が有する電極パッドと第1電極とを接合する接合部材と、を更に備え、絶縁膜は、第2端面から、少なくとも第1電極の表面における第2端面側の領域に、一続きで形成されており、金属膜の外縁は、光導波方向から見た場合に第1電極の表面に至っていなくてもよい。これによれば、活性層で発生した熱を効率良く支持部側に逃がすことができる。
【0016】
本開示の一側面の量子カスケードレーザ装置では、第1電極のうち半導体基板の厚さ方向において活性層に対応する部分の厚さは、接合部材のうち電極パッドと第1電極との間に配置された部分の厚さよりも大きくてもよい。これによれば、量子カスケードレーザ素子を支持部に実装する際に、溶融した接合部材が金属膜に至るのをより確実に抑制し得るように、光導波方向から見た場合における金属膜の外縁と第1電極の表面との距離を十分に確保することができる。
【0017】
本開示の一側面の量子カスケードレーザ装置では、駆動部は、量子カスケードレーザ素子がレーザ光を連続発振するように量子カスケードレーザ素子を駆動してもよい。量子カスケードレーザ素子がレーザ光を連続発振する場合には、量子カスケードレーザ素子がレーザ光をパルス発振する場合に比べ、活性層での発熱量が大きくなるため、上述した量子カスケードレーザ素子の構成は、特に有効である。
【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、光出力特性の劣化を抑制しつつ効率の良い光出力を得ることができる量子カスケードレーザ素子及び量子カスケードレーザ装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、一実施形態の量子カスケードレーザ素子の断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示されるII-II線に沿っての量子カスケードレーザ素子の断面図である。
【
図3】
図3は、
図1に示される量子カスケードレーザ素子の製造方法を示す図である。
【
図4】
図4は、
図1に示される量子カスケードレーザ素子の製造方法を示す図である。
【
図5】
図5は、
図1に示される量子カスケードレーザ素子の製造方法を示す図である。
【
図6】
図6は、
図1に示される量子カスケードレーザ素子を備える量子カスケードレーザ装置の断面図である。
【
図7】
図7は、変形例の量子カスケードレーザ素子の断面図である。
【
図8】
図8は、
図7に示される量子カスケードレーザ素子の製造方法を示す図である。
【
図9】
図9は、変形例の量子カスケードレーザ装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
[量子カスケードレーザ素子の構成]
【0021】
図1及び
図2に示されるように、量子カスケードレーザ素子1は、半導体基板2と、半導体積層体3と、絶縁膜4と、第1電極5と、第2電極6と、絶縁膜7と、金属膜8と、を備えている。半導体基板2は、例えば、長方形板状のSドープInP単結晶基板である。一例として、半導体基板2の長さは2mm程度であり、半導体基板2の幅は500μm程度であり、半導体基板2の厚さは百数十μm程度である。以下の説明では、半導体基板2の幅方向をX軸方向といい、半導体基板2の長さ方向をY軸方向といい、半導体基板2の厚さ方向をZ軸方向という。
【0022】
半導体積層体3は、半導体基板2の表面2aに形成されている。半導体積層体3は、量子カスケード構造を有する活性層31を含んでいる。半導体積層体3は、所定の中心波長(例えば、中赤外領域の波長であって、4~11μmのいずれかの値の中心波長)を有するレーザ光を発振するように構成されている。本実施形態では、半導体積層体3は、下部クラッド層32、下部ガイド層(図示省略)、活性層31、上部ガイド層(図示省略)、上部クラッド層33及びコンタクト層(図示省略)が半導体基板2側からこの順序で積層されることで構成されている。上部ガイド層は、分布帰還(DFB:distributed feedback)構造として機能する回折格子構造を有している。
【0023】
活性層31は、例えば、InGaAs/InAlAsの多重量子井戸構造を有する層である。下部クラッド層32及び上部クラッド層33のそれぞれは、例えば、SiドープInP層である。下部ガイド層及び上部ガイド層のそれぞれは、例えば、SiドープInGaAs層である。コンタクト層は、例えば、SiドープInGaAs層である。
【0024】
半導体積層体3は、Y軸方向に沿って延在するリッジ部30を有している。リッジ部30は、下部クラッド層32における半導体基板2とは反対側の部分、並びに、下部ガイド層、活性層31、上部ガイド層、上部クラッド層33及びコンタクト層によって構成されている。X軸方向におけるリッジ部30の幅は、X軸方向における半導体基板2の幅よりも小さい。Y軸方向におけるリッジ部30の長さは、Y軸方向における半導体基板2の長さに等しい。一例として、リッジ部30の長さは2mm程度であり、リッジ部30の幅は数μm~十数μm程度であり、リッジ部30の厚さは数μm程度である。リッジ部30は、X軸方向において半導体基板2の中央に位置している。X軸方向におけるリッジ部30の両側には、半導体積層体3を構成する各層が存在していない。
【0025】
半導体積層体3は、リッジ部30の光導波方向Aにおいて対向する第1端面3a及び第2端面3bを有している。光導波方向Aは、リッジ部30の延在方向であるY軸方向に平行な方向である。第1端面3a及び第2端面3bは、光出射端面として機能する。第1端面3a及び第2端面3bのそれぞれは、Y軸方向において対向する半導体基板2の両側面のそれぞれと同一平面上に位置している。
【0026】
絶縁膜4は、リッジ部30における半導体基板2とは反対側の表面30aが露出するように、リッジ部30の側面30b及び下部クラッド層32の表面32aに形成されている。リッジ部30の側面30bは、X軸方向において対向するリッジ部30の両側面のそれぞれである。下部クラッド層32の表面32aは、下部クラッド層32のうちリッジ部30を構成していない部分における半導体基板2とは反対側の表面である。絶縁膜4は、例えば、SiN膜又はSiO2膜である。
【0027】
第1電極5は、半導体積層体3における半導体基板2とは反対側の表面3cに形成されている。半導体積層体3の表面3cは、リッジ部30の表面30a、リッジ部30の側面30b及び下部クラッド層32の表面32aによって構成された面である。Z軸方向から見た場合に、第1電極5の外縁は、半導体基板2及び半導体積層体3の外縁の内側に位置している。第1電極5は、リッジ部30の表面30a上においてはリッジ部30の表面30aに接触しており、リッジ部30の側面30b上及び下部クラッド層32の表面32a上においては絶縁膜4に接触している。これにより、第1電極5は、コンタクト層を介して上部クラッド層33に電気的に接続されている。
【0028】
第1電極5は、金属下地層51と、金属メッキ層52と、を有している。金属下地層51は、半導体積層体3の表面3cに沿って延在するように形成されている。金属下地層51は、例えば、Ti/Au層である。金属メッキ層52は、リッジ部30が金属メッキ層52に埋め込まれるように金属下地層51上に形成されている。金属メッキ層52は、例えば、Auメッキ層である。金属メッキ層52における半導体基板2とは反対側の表面52aは、Z軸方向に垂直な平坦面である。一例として、金属メッキ層52の表面52aは、化学機械研磨によって平坦化された研磨面であり、金属メッキ層52の表面52aには、研磨痕が形成されている。なお、リッジ部30が金属メッキ層52に埋め込まれるとは、金属メッキ層52のうちX軸方向においてリッジ部30の両側に位置する部分の厚さ(Z軸方向における当該部分の厚さ)がZ軸方向におけるリッジ部30の厚さよりも大きい状態で、リッジ部30が金属メッキ層52に覆われることを意味する。
【0029】
第2電極6は、半導体基板2における半導体積層体3とは反対側の表面2bに形成されている。第2電極6は、例えば、AuGe/Au膜、AuGe/Ni/Au膜又はAu膜である。第2電極6は、半導体基板2を介して下部クラッド層32に電気的に接続されている。
【0030】
絶縁膜7は、半導体積層体3の第2端面3bから、第1電極5の表面5aにおける第2端面3b側の領域5r及び第2電極6の表面6aにおける第2端面3b側の領域6rに、一続きで形成されている。表面5aは、第1電極5における半導体積層体3とは反対側の表面(本実施形態では、金属メッキ層52の表面52a)ある。表面6aは、第2電極6における半導体基板2とは反対側の表面である。本実施形態では、絶縁膜7は、半導体積層体3の第2端面3b、半導体積層体3の表面3cにおける第2端面3b側の領域3r、第1電極5における第2端面3b側の側面5b、第1電極5の表面5aにおける第2端面3b側の領域5r、半導体基板2における第2端面3b側の側面2c、第2電極6における第2端面3b側の側面6b、及び第2電極6の表面6aにおける第2端面3b側の領域6rに沿って延在するように、形成されている。
【0031】
金属膜8は、光導波方向Aから見た場合に活性層31を覆うように(つまり、光導波方向Aから見た場合に活性層31を含むように)、絶縁膜7上に形成されている。本実施形態では、金属膜8は、半導体積層体3の第2端面3b、半導体積層体3の表面3cにおける第2端面3b側の領域3r、半導体基板2における第2端面3b側の側面2c、第2電極6における第2端面3b側の側面6b、及び第2電極6の表面6aにおける第2端面3b側の領域6rに沿って延在するように、絶縁膜7上のみに形成されている。金属膜8の外縁80は、光導波方向Aから見た場合に第1電極5の表面5aに至っていない。本実施形態では、金属膜8の外縁80における第1電極5側の部分80aは、半導体積層体3の表面3cにおける第2端面3b側の領域3r上に位置しており、金属膜8の外縁80における第2電極6側の部分80bは、第2電極6の表面6aにおける第2端面3b側の領域6r上に位置している。
【0032】
金属膜8のうち第2端面3bに形成された部分の厚さは、絶縁膜7のうち第2端面3bに形成された部分の厚さよりも大きい。第1電極5のうちZ軸方向において活性層31に対応する部分の厚さは、金属膜8のうち第2端面3bに形成された部分の厚さよりも大きい。絶縁膜7のうち第2端面3bに形成された部分の厚さは、例えば、300nm程度である。金属膜8のうち第2端面3bに形成された部分の厚さは、例えば、500nm程度である。第1電極5のうちZ軸方向において活性層31に対応する部分の厚さは、例えば、5μm以上である。なお、或る部分の厚さとは、当該部分の厚さが一定でない場合には、当該部分の厚さの平均値を意味する。
【0033】
本実施形態では、絶縁膜7は、Al2O3膜又はCeO2膜であり、金属膜8は、Au膜である。4~7.5μmのいずれかの値の中心波長を有するレーザ光を発振するように半導体積層体3が構成されている場合には、絶縁膜7は、4~7.5μmの波長を有する光に対して透過性を有するAl2O3膜であることが好ましい。7.5~11μmのいずれかの値の中心波長を有するレーザ光を発振するように半導体積層体3が構成されている場合には、絶縁膜7は、7.5~11μmの波長を有する光に対して透過性を有するCeO2膜であることが好ましい。4~11μmのいずれかの値の中心波長を有するレーザ光を発振するように半導体積層体3が構成されている場合には、金属膜8は、4~11μmの波長を有する光に対して反射膜として有効に機能するAu膜であることが好ましい。
【0034】
以上のように構成された量子カスケードレーザ素子1では、第1電極5及び第2電極6を介して活性層31にバイアス電圧が印加されると、活性層31から光が発せられ、当該光のうち所定の中心波長を有する光が分布帰還構造において共振させられる。このとき、第2端面3bに形成された金属膜8が反射膜として機能する。これにより、第1端面3aが光出射面として機能し、所定の中心波長を有するレーザ光が第1端面3aから出射される。
[量子カスケードレーザ素子の製造方法]
【0035】
上述した量子カスケードレーザ素子1の製造方法について、
図3及び
図4を参照して説明する。まず、
図3の(a)に示されるように、それぞれが量子カスケードレーザ素子1となる複数の部分110を含むウェハ100を形成する。ウェハ100では、X軸方向を行方向とし且つY軸方向(すなわち、量子カスケードレーザ素子1となる部分110の光導波方向A)を列方向として、複数の部分110がマトリックス状に配列されている。一例として、ウェハ100は、次のような方法によって製造される。
【0036】
すなわち、ウェハ100の製造方法は、それぞれが半導体基板2となる複数の部分を含む半導体ウェハの表面に、それぞれが半導体積層体3となる複数の部分を含む半導体層を形成する工程と、半導体層において半導体積層体3となる部分がリッジ部30を有するように、半導体層の一部をエッチングによって除去する工程と、各リッジ部30の表面30aが露出するように、それぞれが絶縁膜4となる複数の部分を含む絶縁層を半導体層上に形成する工程と、各リッジ部30の表面30aを覆うと共に絶縁層を覆うように、それぞれが金属下地層51となる複数の部分を含む金属下地層を形成する工程と、それぞれが金属メッキ層52となる複数の金属メッキ層を金属下地層上に形成し、各金属メッキ層にリッジ部30を埋め込む工程と、各金属メッキ層の表面を研磨によって平坦化する工程と、半導体ウェハの裏面を研磨して半導体ウェハを薄化し、それぞれが第2電極6となる複数の部分を含む電極層を半導体ウェハの裏面に形成する工程と、を備える方法である。
【0037】
続いて、X軸方向に沿ってウェハ100を劈開させることで、
図3の(b)に示されるように、複数のレーザバー200を得る。各レーザバー200では、複数の部分110がX軸方向に沿って1次元に配列されている。各レーザバー200は、Y軸方向において対向する一対の端面200a,200bを有している。端面200aは、X軸方向に沿って1次元に配列された複数の第1端面3aを含んでおり、端面200bは、X軸方向に沿って1次元に配列された複数の第2端面3bを含んでいる。
【0038】
続いて、
図4の(a)に示されるように、レーザバー200のうち端面200bを含む部分210の表面に絶縁層700を形成し、絶縁層700上に金属層800を形成する。絶縁層700は、それぞれが絶縁膜7となる複数の部分を含む層であり、金属層800は、それぞれが金属膜8となる複数の部分を含む層である。続いて、Y軸方向に沿ってレーザバー200を劈開させることで、
図4の(b)に示されるように、複数の量子カスケードレーザ素子1を得る。
【0039】
レーザバー200における絶縁層700及び金属層800の形成について、
図5を参照して説明する。まず、
図5の(a)に示されるように、複数のレーザバー200及び複数のダミーバー300を用意する。Y軸方向におけるダミーバー300の長さは、Y軸方向におけるレーザバー200の長さよりも小さい。X軸方向におけるダミーバー300の長さは、X軸方向におけるレーザバー200の長さ以上である。
【0040】
続いて、各レーザバー200の端面200a及び各ダミーバー300の端面300a(Y軸方向における各ダミーバー300の一方の端面)を同一平面上に位置させた状態で、Z軸方向において隣り合うようにレーザバー200とダミーバー300とを交互に配置し、複数のレーザバー200及び複数のダミーバー300を保持部材(図示省略)で保持する。これにより、各レーザバー200の部分210が、隣り合うダミーバー300の端面300b(Y軸方向における各ダミーバー300の他方の端面)に対して突出することになる。この状態でAl2O3又はCeO2のスパッタを実施することで、各レーザバー200の部分210の表面に絶縁層700を形成する。
【0041】
続いて、
図5の(b)に示されるように、複数のダミーバー400を用意する。Y軸方向におけるダミーバー400の長さは、Y軸方向におけるダミーバー300の長さよりも大きく、Y軸方向におけるレーザバー200の長さよりも小さい。X軸方向におけるダミーバー400の長さは、X軸方向におけるレーザバー200の長さ以上である。なお、
図5の(b)では、各レーザバー200の部分210の表面に形成された絶縁層700の図示が省略されている。
【0042】
続いて、各レーザバー200の端面200a及び各ダミーバー400の端面400a(Y軸方向における各ダミーバー400の一方の端面)を同一平面上に位置させた状態で、Z軸方向において隣り合うようにレーザバー200とダミーバー400とを交互に配置し、複数のレーザバー200及び複数のダミーバー400を保持部材(図示省略)で保持する。これにより、各レーザバー200の部分210のうち端面200bを含む一部分が、隣り合うダミーバー400の端面400b(Y軸方向における各ダミーバー400の他方の端面)に対して突出することになる。この状態でAuのスパッタを実施することで、絶縁層700上に金属層800を形成する。なお、レーザバー200とダミーバー400とを交互に配置した後、スパッタによって絶縁層700上に金属層800を形成する前に、金属層800を形成するためのスパッタの放電の極性に対して放電の極性を反転させて、イオン化したスパッタ用の不活性ガス原子(例えば、Arイオン)を絶縁層700の表面に衝突させる、いわゆる逆スパッタによって、絶縁層700の表面にプラズマ活性化処理を施してもよい。これにより、絶縁層700の表面のクリーニングが成されるため、絶縁層700に対する金属層800の密着性を高めることができる。
[量子カスケードレーザ装置の構成]
【0043】
上述した量子カスケードレーザ素子1を備える量子カスケードレーザ装置10Aについて、
図6を参照して説明する。
図6に示されるように、量子カスケードレーザ装置10Aは、量子カスケードレーザ素子1と、支持部11と、接合部材12と、CW駆動部(駆動部)13と、を備えている。
【0044】
支持部11は、本体部111と、電極パッド112と、を有している。支持部11は、例えば、本体部111がAlNによって形成されたサブマントである。支持部11は、半導体積層体3が半導体基板2に対して支持部11側に位置した状態(すなわち、エピサイドダウンの状態)で、量子カスケードレーザ素子1を支持している。
【0045】
接合部材12は、エピサイドダウンの状態で、支持部11の電極パッド112と量子カスケードレーザ素子1の第1電極5とを接合している。接合部材12は、例えば、AuSn部材等の半田部材である。
【0046】
量子カスケードレーザ装置10Aでは、接合部材12によって支持部11の電極パッド112と接合された第1電極5の表面5aに絶縁膜7が回り込んでいる。ただし、金属膜8の外縁80は、光導波方向Aから見た場合に第1電極5の表面5aに至っていない。
【0047】
第1電極5のうちZ軸方向において活性層31に対応する部分の厚さは、接合部材12のうち電極パッド112と第1電極5との間に配置された部分の厚さよりも大きい。第1電極5のうちZ軸方向において活性層31に対応する部分の厚さは、例えば、5μm以上である。接合部材12のうち電極パッド112と第1電極5との間に配置された部分の厚さは、例えば、2~3μm程度である。
【0048】
CW駆動部13は、量子カスケードレーザ素子1がレーザ光を連続発振するように量子カスケードレーザ素子1を駆動する。CW駆動部13は、支持部11の電極パッド112及び量子カスケードレーザ素子1の第2電極6のそれぞれに電気的に接続されている。CW駆動部13を電極パッド112及び第2電極6のそれぞれに電気的に接続するために、電極パッド112及び第2電極6のそれぞれに対してワイヤボンディングが実施される。
[作用及び効果]
【0049】
量子カスケードレーザ素子1では、半導体積層体3が有する第1端面3a及び第2端面3bのうちの第2端面3bに、絶縁膜7を介して金属膜8が設けられている。これにより、金属膜8が反射膜として機能しつつ第1端面3aが光出射面として機能するため、効率の良い光出力が得られる。更に、絶縁膜7が、半導体積層体3の第2端面3bから、第1電極5の表面5aにおける第2端面3b側の領域5rに、一続きで形成されており、絶縁膜7上に形成された金属膜8の外縁80が、光導波方向Aから見た場合に第1電極5の表面5aに至っていない。これにより、量子カスケードレーザ素子1を支持部11に実装するために、接合部材12を用いて、絶縁膜7が回り込んだ第1電極5を支持部11の電極パッド112に接合する場合に、溶融した接合部材12が金属膜8に至り難くなる。しかも、例えば金属膜8を絶縁部材で覆うような構成に比べ、活性層31で発生した熱がこもり難くなる。また、絶縁膜7が回り込んだ第1電極5を支持部11の電極パッド112に接合することで、第2電極6を支持部11の電極パッド112に接合する場合に比べ、活性層31を支持部11に近付けることができる。したがって、活性層31で発生した熱を効率良く支持部11側に逃がすことができる。これらのことから、量子カスケードレーザ素子1の光出力特性の劣化が抑制される。以上により、量子カスケードレーザ素子1によれば、光出力特性の劣化を抑制しつつ効率の良い光出力を得ることができる。
【0050】
なお、量子カスケードレーザ素子1を支持部11に実装する際に、溶融した接合部材12が金属膜8に至ると、溶融した接合部材12が金属膜8において急激に広がるおそれがある。溶融した接合部材12が金属膜8において広がると、例えば、接合部材12に含まれていたSnが金属膜8中に拡散し、量子カスケードレーザ素子1の信頼性を低下させるおそれがある。また、溶融した接合部材12が金属膜8に付着すると、硬化時における接合部材12の収縮によって金属膜8が絶縁膜7から剥がれるおそれがある。量子カスケードレーザ素子1における絶縁膜7及び金属膜8の構成によれば、溶融した接合部材12が金属膜8に付着することで第1電極5と第2電極6とが短絡することが防止されることは勿論、上述したような事態が発生することも防止される。
【0051】
量子カスケードレーザ素子1では、半導体積層体3がリッジ部30を有している。これにより、上述した絶縁膜7及び金属膜8の構成によって効率の良い光出力を確保しつつ、量子カスケードレーザ素子1の駆動電流を低減して、量子カスケードレーザ素子1の低消費電力化を図ることができる。このとき、活性層31が狭小化された分だけ、第1端面3a及び第2端面3bのそれぞれにおいて光密度が高くなるが、上述した絶縁膜7及び金属膜8の構成によって放熱性が確保されているため、量子カスケードレーザ素子1の光出力特性が劣化するのを抑制することができる。また、絶縁膜7が熱によって損傷するのを抑制することができる。
【0052】
量子カスケードレーザ素子1では、金属膜8のうち第2端面3bに形成された部分の厚さが、絶縁膜7のうち第2端面3bに形成された部分の厚さよりも大きい。これにより、厚さの関係が逆である場合に比べ、絶縁膜7及び金属膜8が形成された第2端面3bでの放熱性を向上させることができる。
【0053】
量子カスケードレーザ素子1では、第1電極5のうちZ軸方向において活性層31に対応する部分の厚さは、金属膜8のうち第2端面3bに形成された部分の厚さよりも大きい。これにより、絶縁膜7が回り込んだ第1電極5を支持部11の電極パッド112に接合した場合に、活性層31で発生した熱をより効率良く支持部11側に逃がすことができる。
【0054】
量子カスケードレーザ素子1では、絶縁膜7がAl2O3膜又はCeO2膜である。これにより、溶融した接合部材12が絶縁膜7に対して濡れ難くなるため、溶融した接合部材12が金属膜8に至るのをより確実に抑制することができる。
【0055】
量子カスケードレーザ装置10Aによれば、上述した量子カスケードレーザ素子1の構成によって、光出力特性の劣化を抑制しつつ効率の良い光出力を得ることができる。
【0056】
量子カスケードレーザ装置10Aでは、第1電極5のうちZ軸方向において活性層31に対応する部分の厚さが、接合部材12のうち電極パッド112と第1電極5との間に配置された部分の厚さよりも大きい。これにより、量子カスケードレーザ素子1を支持部11に実装する際に、溶融した接合部材12が金属膜8に至るのをより確実に抑制し得るように、光導波方向Aから見た場合における金属膜8の外縁80と第1電極5の表面5aとの距離を十分に確保することができる。
【0057】
量子カスケードレーザ装置10Aでは、量子カスケードレーザ素子1がレーザ光を連続発振するように、CW駆動部13が量子カスケードレーザ素子1を駆動する。量子カスケードレーザ素子1がレーザ光を連続発振する場合には、量子カスケードレーザ素子1がレーザ光をパルス発振する場合に比べ、活性層31での発熱量が大きくなるため、上述した量子カスケードレーザ素子1の構成は、特に有効である。
[変形例]
【0058】
本開示は、上述した実施形態に限定されない。例えば、活性層31には、公知の量子カスケード構造を適用することができる。また、半導体積層体3には、公知の積層構造を適用することができる。一例として、半導体積層体3において、上部ガイド層は、分布帰還構造として機能する回折格子構造を有していなくてもよい。
【0059】
また、Z軸方向から見た場合に、第1電極5のうちの金属下地層51の外縁は、半導体基板2及び半導体積層体3の外縁に一致していてもよい。なお、Z軸方向から見た場合に、第1電極5のうちの金属下地層51の外縁が、少なくとも第1端面3a及び第2端面3bに一致していると、第1端面3a及び第2端面3bでの放熱性を確保することができる。
【0060】
また、絶縁膜7は、半導体積層体3の第2端面3bから、第1電極5の表面5a及び第2電極6の表面6aのうちの少なくとも一方の表面における第2端面3b側の領域に、一続きで形成されていればよく、その場合に、金属膜8の外縁80は、光導波方向Aから見た場合に当該一方の表面に至っていなければよい。また、金属膜8は、光導波方向Aから見た場合に少なくとも活性層31を覆うように、絶縁膜7上に形成されていればよい。
【0061】
変形例として、
図7に示されるように、金属膜8の外縁80は、光導波方向Aから見た場合に第1電極5の表面5a及び第2電極6の表面6aのいずれにも至っていなくてもよい。
図7に示される量子カスケードレーザ素子1では、金属膜8は、半導体積層体3の第2端面3b、及び半導体基板2における第2端面3b側の側面2cに沿って延在するように、絶縁膜7上のみに形成されている。
【0062】
図7に示される量子カスケードレーザ素子1の製造方法は、レーザバー200における絶縁層700及び金属層800の形成の仕方において、
図1及び
図2に示される量子カスケードレーザ素子1の製造方法と相違している。
図7に示される量子カスケードレーザ素子1の製造方法では、まず、
図8の(a)に示されるように、複数のレーザバー200及び複数のダミーバー300を用意する。Y軸方向におけるダミーバー300の長さは、Y軸方向におけるレーザバー200の長さよりも小さい。X軸方向におけるダミーバー300の長さは、X軸方向におけるレーザバー200の長さ以上である。
【0063】
続いて、各レーザバー200の端面200a及び各ダミーバー300の端面300aを同一平面上に位置させた状態で、Z軸方向において隣り合うようにレーザバー200とダミーバー300とを交互に配置し、複数のレーザバー200及び複数のダミーバー300を保持部材(図示省略)で保持する。これにより、各レーザバー200の部分210が、隣り合うダミーバー300の端面300bに対して突出することになる。この状態でAl2O3又はCeO2のスパッタを実施することで、各レーザバー200の部分210の表面に絶縁層700を形成する。
【0064】
続いて、
図8の(b)に示されるように、複数のダミーバー500を用意する。Y軸方向におけるダミーバー500の長さは、Y軸方向におけるレーザバー200の長さよりも大きい。X軸方向におけるダミーバー500の長さは、X軸方向におけるレーザバー200の長さ以上である。なお、
図8の(b)では、各レーザバー200の部分210の表面に形成された絶縁層700の図示が省略されている。
【0065】
続いて、各レーザバー200の端面200a及び各ダミーバー500の端面500a(Y軸方向における各ダミーバー500の一方の端面)を同一平面上に位置させた状態で、Z軸方向において隣り合うようにレーザバー200とダミーバー500とを交互に配置し、複数のレーザバー200及び複数のダミーバー500を保持部材(図示省略)で保持する。これにより、各レーザバー200の部分210のうち端面200bを含む一部分が、隣り合うダミーバー500の端面500b(Y軸方向における各ダミーバー500の他方の端面)に対して凹むことになる。この状態でAuのスパッタを斜めから実施することで、絶縁層700上に金属層800を形成する。なお、レーザバー200とダミーバー500とを交互に配置する前に、金属層800を形成するためのスパッタの放電の極性に対して放電の極性を反転させて、イオン化したスパッタ用の不活性ガス原子(例えば、Arイオン)を絶縁層700の表面に衝突させる、いわゆる逆スパッタによって、絶縁層700の表面にプラズマ活性化処理を施してもよい。これにより、絶縁層700の表面のクリーニングが成されるため、絶縁層700に対する金属層800の密着性を高めることができる。
【0066】
また、絶縁膜7は、Al2O3膜又はCeO2膜に限定されず、金属膜8は、Au膜に限定されない。例えば、金属膜8は、Ti膜及びAu膜が絶縁膜7側からこの順序で積層されることで構成されていてもよい。その場合、Ti膜の厚さは、例えば、30nm程度であり、Au膜の厚さは、例えば、500nm程度である。
【0067】
また、
図9に示されるように、量子カスケードレーザ素子1は、半導体基板2が半導体積層体3に対して支持部11側に位置した状態(すなわち、エピサイドアップの状態)で支持部11に実装されてもよい。
図9に示される量子カスケードレーザ素子1では、接合部材12によって支持部11の電極パッド112と接合された第2電極6の表面6aに絶縁膜7が回り込んでいる。ただし、金属膜8の外縁80は、光導波方向Aから見た場合に第2電極6の表面6aに至っていない。
【0068】
図9に示される量子カスケードレーザ素子1では、量子カスケードレーザ素子1を支持部11に実装するために、接合部材12を用いて、絶縁膜7が回り込んだ第2電極6を支持部11の電極パッド112に接合する場合に、溶融した接合部材12が金属膜8に至り難くなる。しかも、例えば金属膜8を絶縁部材で覆うような構成に比べ、活性層31で発生した熱がこもり難くなる。これらのことから、量子カスケードレーザ素子1の光出力特性の劣化が抑制される。
【0069】
以下、
図9に示される量子カスケードレーザ装置10Bについて説明する。
図9に示されるように、量子カスケードレーザ装置10Bは、量子カスケードレーザ素子1と、支持部11と、接合部材12と、パルス駆動部(駆動部)14と、を備えている。
【0070】
支持部11は、本体部111と、電極パッド112と、を有している。支持部11は、例えば、本体部111がAlNによって形成されたサブマントである。支持部11は、エピサイドアップの状態で、量子カスケードレーザ素子1を支持している。
【0071】
接合部材12は、エピサイドアップの状態で、支持部11の電極パッド112と量子カスケードレーザ素子1の第2電極6とを接合している。接合部材12は、例えば、AuSn部材等の半田部材である。接合部材12のうち電極パッド112と第2電極6との間に配置された部分の厚さは、例えば、数μm程度である。
【0072】
パルス駆動部14は、量子カスケードレーザ素子1がレーザ光をパルス発振するように量子カスケードレーザ素子1を駆動する。レーザ光のパルス幅は、例えば、50~500nsであり、レーザ光の繰り返し周波数は、例えば、1~500kHzである。パルス駆動部14は、支持部11の電極パッド112及び量子カスケードレーザ素子1の第1電極5のそれぞれに電気的に接続されている。パルス駆動部14を電極パッド112及び第1電極5のそれぞれに電気的に接続するために、電極パッド112及び第1電極5のそれぞれに対してワイヤボンディングが実施される。
【0073】
なお、
図6に示される量子カスケードレーザ装置10A、及び
図9に示される量子カスケードレーザ装置10Bでは、支持部11側にヒートシンク(図示省略)が設けられている。そのため、量子カスケードレーザ素子1がエピサイドダウンの状態で支持部11に実装されている構成(
図6に示されるエピサイドダウンの構成)は、量子カスケードレーザ素子1がエピサイドアップの状態で支持部11に実装されている構成(
図9に示されるエピサイドアップの構成)に比べ、半導体積層体3の放熱性を確保し易い。したがって、量子カスケードレーザ素子1がレーザ光を連続発振するように駆動される場合には、エピサイドダウンの構成が有効である。特に、中赤外領域における比較的短波長の中心波長(例えば、4~11μmのうちの4~6μmのいずれかの値の中心波長)を有するレーザ光を発振するように半導体積層体3が構成されており、且つ量子カスケードレーザ素子1がレーザ光を連続発振するように駆動される場合には、エピサイドダウンの構成が有効である。ただし、条件等によっては、エピサイドダウンの構成において、量子カスケードレーザ素子1がレーザ光を連続発振するように駆動されることに限定されず、エピサイドアップの構成において、量子カスケードレーザ素子1がレーザ光をパルス発振するように駆動されることに限定されない。
【0074】
上述した実施形態における各構成には、上述した材料及び形状に限定されず、様々な材料及び形状を適用することができる。また、上述した一の実施形態又は変形例における各構成は、他の実施形態又は変形例における各構成に任意に適用することができる。
【符号の説明】
【0075】
1…量子カスケードレーザ素子、2…半導体基板、2b…表面、3…半導体積層体、3a…第1端面、3b…第2端面、3c…表面、5…第1電極、5a…表面、5r…領域、6…第2電極、6a…表面、6r…領域、7…絶縁膜、8…金属膜、10A,10B…量子カスケードレーザ装置、11…支持部、12…接合部材、13…CW駆動部(駆動部)、14…パルス駆動部(駆動部)、30…リッジ部、31…活性層、80…外縁、112…電極パッド、A…光導波方向。