(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】活性化及び官能化されたプレポリマーを含む組成物
(51)【国際特許分類】
C08G 63/91 20060101AFI20240717BHJP
A61L 24/04 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
C08G63/91
A61L24/04 200
(21)【出願番号】P 2022524276
(86)(22)【出願日】2020-10-23
(86)【国際出願番号】 EP2020079941
(87)【国際公開番号】W WO2021078962
(87)【国際公開日】2021-04-29
【審査請求日】2022-10-18
(32)【優先日】2019-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】517442557
【氏名又は名称】ティシウム ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】ローネ ブノワ
(72)【発明者】
【氏名】レグロス カミーユ
(72)【発明者】
【氏名】マイア イー シルヴァ ジョアン レイナ
(72)【発明者】
【氏名】ジェルブアン プルーン
(72)【発明者】
【氏名】ペレイラ マリア
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0071930(US,A1)
【文献】国際公開第2018/057649(WO,A1)
【文献】国際公開第97/031045(WO,A1)
【文献】特表2009-523864(JP,A)
【文献】特表2018-519409(JP,A)
【文献】HUNGHAO CHU et al.,Design, Synthesis, and Biocompatibility of an Arginine-Based Polyester,Biotechnol. Prog.,2011年10月27日,Vol.28, No.1,pages 257-264
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G63/00-64/42
A61L24/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー主鎖上に活性化及び官能化された基を有するプレポリマーを含む組成物であって、0~45mVの範囲のゼータ電位を有
し、
前記プレポリマーのポリマー主鎖が、式(-A-B-)
n
であり、
式中、Aが置換又は無置換のポリオールに由来し、Bが置換又は無置換の多価酸に由来し、nが1より大きく、
(a)前記ポリオールが、トリオールであり、前記Bが、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、セバシン酸及びアゼライン酸からなる群より選ばれる2価酸であるか、又は
(b)前記ポリオールが、ジオールであり、前記Bが3価酸である、前記組成物。
【請求項2】
前記ゼータ電位が、約5~約40mVの範囲である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ゼータ電位が、約5~約30mVの範囲である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記プレポリマーが、該プレポリマーのポリマー主鎖上に、活性化された基を有し、及び活性化官能化基を有し、前記活性化官能化基が、荷電原子を含み、活性化された基と荷電原子又は荷電可能な原子を含有する化合物との反応により得ることができる、請求項1
~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
荷電原子を含む活性化官能化基の割合が、主鎖におけるモノマー単位数に対して、0.05~0.4モル/モノマー単位のモル、である、請求項
4に記載の組成物。
【請求項6】
荷電原子を含む活性化官能化基が、正電荷を持つヘテロ原子を含む基である、請求項
4又は
5に記載の組成物。
【請求項7】
前記正電荷を持つヘテロ原子が、正電荷を持つ窒素原子、正電荷を持つリン原子、又は正電荷を持つ硫黄原子である、請求項
6に記載の組成物。
【請求項8】
正電荷を持つ窒素原子を含む活性化官能化基が、式(III):
【化1】
(III)
であり、
式中、R
a、R
b、R
c、R
d、R
e及びR
fが、H、アルキル、アルケニル及びアリールから独立して選ばれる、請求項
7に記載の組成物。
【請求項9】
R
d
、R
e
及びR
f
の少なくとも1つが、Hである、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記ポリオールが、グリセロール又はトリメチロールプロパンエトキシレートであり、前記Bが、セバシン酸である、請求項
1~9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
前記ポリオールが、オクタンジオールであり、前記Bがクエン酸である、請求項
1~9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
前記プレポリマーが、式(VII):
【化2】
(VII)
であり、
式中、pが、1~20であり、n、m及びoが、1より大きい整数であり、R
a、R
b、R
c、R
d、R
e及びR
fが、H、アルキル、アルケニル及びアリールから独立して選ばれる、請求項1~
11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
開始剤をさらに含む、請求項1~
12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
前記開始剤が酸化還元組成物であり、前記酸化還元組成物が、
0.1~5wt%の、4-N,N-トリメチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、p-トルエンスルホン酸ナトリウム、及びN-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジンからなる群より選ばれる還元剤、
0~5wt%の、4-(ジフェニルホスフィノ)スチレン及びトリフェニルホスフィンからなる群より選ばれる酸素抑制剤、
0.005~0.5wt%の、テンポール及び4-メトキシフェノールからなる群より選ばれる操作時間剤、並びに
0.1~10wt%の、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、及び過酸化ベンゾイルからなる群より選ばれる酸化剤を含む、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記開始剤が、光開始剤である、請求項13に記載の組成物。
【請求項16】
前記光開始剤が、2-ジメトキシ-2-フェニル-アセトフェノン、2-ヒドロキシ-1-[4-(ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-メチル-1-プロパノン、1-ヒドロキシシクロヘキシル-1-フェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-1-プロパノン、2-ベンジル-2-(ジメチルアミノ)-1-[4-モルフォリニル)フェニル]-1-ブタノン、ベンゾイルギ酸メチル、オキシ-フェニル-酢酸-2-[2-オキソ-2-フェニル-アセトキシ-エトキシ]-エチルエステル、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-(4-モルフォリニル)-1-プロパノン、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-ホスフィンオキシド、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれる、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
請求項1~
16のいずれか1項に記載の組成物の調製方法であって、
i)プレポリマー主鎖を提供するためのモノマー重合工程、
ii)活性化されたプレポリマーを提供するための、主鎖のモノマー単位の活性化工程、及び
iii)活性化及び官能化されたプレポリマーを提供するための、前記活性化されたプレポリマーと、荷電原子又は荷電可能な原子を含有する化合物との官能化工程
を
含み、
前記ポリマー主鎖を提供するモノマーが、ジオール又はトリオールと、2価酸又は3価酸とを含む、前記方法。
【請求項18】
前記工程ii)における活性化が、アクリレート基を与えるためのヒドロキシ基のアクリル化により達成される、
及び/又は
前記工程iii)における官能化が、アミン基を与えるための、アクリレート基とアミンとの反応、及びアンモニウム基を与えるための、得られたアミンの酸性化により達成される、請求項
17に記載の方法。
【請求項19】
前記アクリル化が、塩化アクリロイルとの反応により達成されるか、又は前記アミンが、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ジブチルアミン及びピペリジンからなる群より選ばれる、請求項
18に記載の方法。
【請求項20】
請求項1~
16のいずれか1項に記載の組成物を硬化させる方法であって、刺激により前記組成物を硬化させる工程を含む、前記組成物を硬化させる方法。
【請求項21】
組織を接着若しくはシールする方法、又は組織を医療機器の表面に接着するための方法に使用するための、請求項1~
16のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項22】
請求項
1~16のいずれか1項に記載の
組成物を硬化した硬化組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性化及び官能化されたプレポリマーを含む組成物、該組成物を製造する方法、該組成物を硬化させる方法、該組成物を硬化させる方法により得ることができる硬化組成物、該組成物の使用、及び該組成物を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
開心術は、典型的には、心血管構造の、縫合ベース閉鎖又は取付けに依存する。しかしながら、これは、成人の患部組織や損傷組織、及び乳幼児(young infant)組織の脆弱性により、技術的に困難である場合があるため、手術時間がより長くなり、出血又は離開(dehiscence)の合併症のリスクが高まり、したがって、結果を悪化させる可能性がある。さらに、心肺バイパス法(CPB)は、開心術に必要であるが、炎症反応及び神経学的合併症の可能性を含む、著しい有害作用を有する。
心房中隔欠損症や心室中隔欠損症(ASDやVSD)などの心臓欠損の閉鎖用のカテーテルベース介入治療は、手術の侵襲性を軽減しようとするために最近現れたが、鼓動を打つ心臓内部で装置を固定することについて主要な課題が残っている。具体的には、心中隔欠損のカテーテルベース閉鎖用装置の固定は、現在、組織を把持する機械的手段に依存している。これにより、心臓弁や特殊な伝導組織などの極めて重要な構造に損傷を引き起こすおそれがある。さらに、欠損の周囲に不十分な組織の縁(rim)が存在すると、プロステーシスが外れ(dislodge)、近隣の構造に損傷を与え、残存した欠損を残し、装置の使用を制限することがある。したがって、かかる方法は、欠損の解剖学的位置及び幾何学的形状によって選ばれた患者にのみ適用され得る。
【0003】
速やかに硬化する、柔軟で適合する組織接着剤は、機械的な捕捉(entrapment)又は固定を必要とせずに、組織の表面同士を接着させ、又はプロステーシス装置を組織に接着させることに使用し、これにより、組織の圧迫とびらんを避けることができた。かかる材料により、最小侵襲性心臓修復においてだけではなく、潜在的に最小限の傷跡及び損傷を伴う軟組織修復においても、広範に応用できる可能性がある。例えば、血管手術において、縫合ベース吻合術は、必ずしも瞬時に止血できるわけではなく、血栓症に罹りやすくする内皮の凹凸を作るおそれもある。さらに、永久的な縫合が存在すると、修復部位において、更なる炎症や傷跡を伴う異物反応を引き起こすおそれがあり、遅発型血管閉塞のリスクを高めることがある。組織接着剤は、瞬時にシールし、及び最小限の傷跡又は組織損傷で修復を達成することができるであろう。
【0004】
現在、臨床的に利用できる接着剤、例えば、医療グレードのシアノアクリレート(CA)又はフィブリンシーラントは、動的な湿潤条件下で容易に洗い落とされたり、硬化したりし、毒性を有するため体内に使用できず、及び/又は心室(cardiac chamber)及び主要な血管の内部の力に耐えることができない、弱い接着特性を示す。また、多くのこのような接着剤は、装置の微調整や再位置決めを非常に困難にする活性化特性を示す。さらに、開発中の多くの接着剤は、組織の表面で官能基との化学反応によってのみ組織の接着を達成するため、血液の存在下で効果がなくなる。
シアノアクリレートの代替品が検討されてきた。米国特許第8,143,042号には、アクリレート基などの架橋性官能基を含むプレポリマーを架橋することにより調製される生分解性エラストマーが記載されている。米国特許第8,143,042号にはまた、ポリマーの粘着性を高めるために、ポリマー上の遊離(free)ヒドロキシ基数を増やすことが望ましいと開示されている。主鎖におけるヒドロキシ基数を増やすと、生理的溶液における溶解度も高まる。これは、ポリマーの接着の主要なメカニズムが、官能基(例えば、ポリマー上の遊離ヒドロキシ基)と、ポリマーが適用される組織との間の化学的相互作用であることを示唆している。しかしながら、Artzi et al, Adv. Mater. 21, 3399-3403 (2009)に示されているように、このタイプの化学的相互作用は、体液、特に血液の存在下で効果がなくなる。
【0005】
同様に、Mahdavi et al, 2008, PNAS, 2307-2312には、ナノパターン化したエラストマー性ポリマーが記載されており、アルデヒド官能性を有する酸化デキストラン(DXTA)における末端のアルデヒド基と、組織のタンパク質におけるアミン基との間の共有結合性架橋を促進することにより、DXTAの薄層を適用して、接着剤の接着強度を上げることが提案されている。この接着機序は、本質的に、硬化過程中に生じたラジカルと組織の官能基との間の共有結合に基づくものであり、いくつかの制限がある。反応性の化学的性質(chemistry)を有する接着剤の使用は、組織の表面が、プレポリマーの適用前に乾燥している必要があり、このことは、応急処置中などの心臓への適用における使用を非常に難しくしている。加えて、反応性の化学的性質は、タンパク質や組織を変性させ、接着剤の拒絶反応を引き起こし得る望まない免疫反応(例えば、局所炎症)を促進するおそれがある。さらに、組織の表面にのみ結合するという反応性の化学的性質は、界面がより明確であるため、接着性が低くなる可能性があり、したがって、接着剤と組織との間の界面には、機械的特性のミスマッチがあるであろう。
エラストマー性の架橋したポリエステルは、米国特許出願公開第2013/0231412号に開示されている。生分解性ポリマーは、米国特許第7,722,894号に開示されている。接着性物品は、WO/2009/067482A1及びWO2014/190302A1に開示されている。血液に対する抵抗性のある外科用接着剤は、Langらによる"A 血液-Resistant 外科 Glue for Minimally Invasive Repair of Vessels and Heart Defects," Sci. Transl. Med., 8 January 2014: Vol. 6, Issue 218, p. 218ra6及びWO2014/190302A1に記載されている。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、改善された、商業的に実現可能な活性化及び官能化されたプレポリマーを提供し、該プレポリマーは、所望の部位に簡単に適用することができ、生体適合性があり(無毒性)、一旦硬化/架橋すると強い接着力を示し、これにより、改善された組織のシール性/接着性をもたらす。
改善された活性化及び官能化されたプレポリマーは、血液などの体液の存在下でさえも、硬化/架橋前に、所望の部位にとどまる。
貯蔵される場合、改善された活性化及び官能化されたプレポリマーは、安定である。
より具体的には、本発明は、ポリマー主鎖上に活性化及び官能化された基を有するプレポリマーを含む組成物を提供し、該組成物は、0~45mVの範囲のゼータ電位を有する。
本発明はまた、本発明の組成物の調製方法を提供する。
本発明はさらに、本発明の組成物を硬化させる方法を提供し、該方法は、刺激により該組成物を硬化させること、例えば、光開始剤の存在下で、光により該組成物を硬化させることを含む。
本発明はまた、本発明の硬化させる方法により得ることができる硬化組成物を提供する。前記硬化組成物は、望ましくは接着剤であり、すなわち、表面に強く結合できるもの、又は1つの表面をもう1つの表面に結合できるものである。
本発明はさらに、組織を接着若しくはシールするための、又は医療機器を組織の表面に接着するための、本発明の組成物の使用方法及び該組成物の使用を提供する。
本発明者らは、既知の組成物と比べて、本発明が、従来技術に見られない利点を提供することを見つけた。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、本発明の組成物のゼータ電位を、硬化後の該組成物の接着力と比較するグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
プレポリマー
好ましくは、プレポリマーのポリマー主鎖は、一般式(-A-B-)nのポリマー単位を含み、式中、Aは、置換若しくは無置換のポリオール又はその混合物に由来し、Bは、置換若しくは無置換の多価酸又はその混合物に由来し、nは、1より大きい整数を表わす。ポリマー主鎖は、一般式-A-B-のモノマー単位の繰り返しで構成される。
用語「置換」は、化学命名法におけるその通常の意味を有し、主要な炭素鎖上の水素が置換基、例えば、アルキル、アリール、カルボン酸、エステル、アミド、アミン、ウレタン、エーテル、又はカルボニルで置換されている化合物を説明することに使用する。
【0009】
プレポリマーの成分Aは、ポリオール又はその混合物(例えば、ジオール、トリオール、テトラオール、又はそれ以上のポリオール)に由来し得る。好適なポリオールとしては、ジオール(例えば、アルカンジオール、好ましくはオクタンジオール);トリオール(例えば、グリセロール、トリメチロールプロパン、トリメチロールプロパンエトキシレート、トリエタノールアミン);テトラオール(例えば、エリスリトール、ペンタエリスリトール);及び高級ポリオール(例えば、ソルビトール)が挙げられる。成分Aはまた、不飽和ポリオール、例えば、テトラデカ-2,12-ジエン-1,14-ジオール、ポリブタジエン-ジオールに由来し、又はマクロモノマーポリオールを含む他のポリオール、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリカプロラクトントリオール、及びN-メチルジエタノールアミン(MDEA)も使用し得る。好ましくは、ポリオールは、置換又は無置換のグリセロールである。
プレポリマーの成分Bは、多価酸又はその混合物、好ましくは2価酸又は3価酸に由来する。例示的な酸としては、グルタル酸(5個の炭素)、アジピン酸(6個の炭素)、ピメリン酸(7個の炭素)、セバシン酸(8個の炭素)、アゼライン酸(9個の炭素)、及びクエン酸が挙げられるが、これらに限定されない。例示的な長鎖の2価酸としては、10個より多く、15個より多く、20個より多く、25個より多くの炭素原子を有する2価酸が挙げられる。非脂肪族の2価酸も使用し得る。例えば、1つ以上の二重結合を有する上記の2価酸の変形体を用いて、ポリオール-2価酸コポリマーを生成することができる。好ましくは、多価酸は、置換又は無置換のセバシン酸である。
【0010】
米国特許出願公開第2011/0008277号、米国特許第7,722,894号、及び米国特許第8,143,042号(それらの内容は参照として本明細書に含まれる)に記載されているポリオールベースのポリマーは、本発明での使用に適したポリマー主鎖である。
いくつかの置換基、例えば、アミン、アルデヒド、ヒドラジド、アクリレート、及び芳香族基を炭素鎖中に組み込むことができる。例示的な芳香族の2価酸としては、テレフタル酸、及びカルボキシフェノキシ-プロパンが挙げられる。2価酸はまた、置換基を含んでもよい。例えば、アミンやヒドロキシのような反応基を、架橋に利用できる部位の数を増やすために用いることができる。アミノ酸及び他の生体分子を、生物学的特性の改変に用いることができる。芳香族基、脂肪族基、及びハロゲン原子を、ポリマー内の鎖間相互作用の改変に用いることができる。
【0011】
或いは、プレポリマーのポリマー主鎖は、ポリアミド主鎖又はポリウレタン主鎖である。例えば、ポリアミン(2つ以上のアミノ基を含む)を、ポリオールと一緒に又はポリオールと反応させた後に、多価酸と反応させることに用いることができる。例示的なポリ(エステルアミド)としては、Cheng et al., Adv. Mater. 2011, 23, 1195-11100(その内容は参照として本明細書に含まれる)に記載されているものが挙げられる。他の例においては、ポリイソシアネート(2つ以上のイソシアネート基を含む)を、ポリオールと一緒に又はポリオールと反応させた後に、多価酸と反応させることに用いることができる。例示的なポリエステルウレタンとしては、米国特許出願公開第2013/231412号に記載されているものが挙げられる。
【0012】
プレポリマーの重量平均分子量(Mw)は、屈折率を備えるゲル浸透クロマトグラフィーにより測定され、約1,000ダルトン~約1,000,000ダルトン、好ましくは約2,000ダルトン~約500,000ダルトン、より好ましくは約2,000ダルトン~約250,000ダルトン、最も好ましくは約2,000ダルトン~約100,000ダルトンであってもよい。重量平均分子量は、約100,000ダルトン未満、約75,000ダルトン未満、約50,000ダルトン未満、約40,000ダルトン未満、約30,000ダルトン未満、又は約20,000ダルトン未満であってもよい。重量平均分子量は、約1,000ダルトン~約10,000ダルトン、約2,000ダルトン~約10,000ダルトン、約3000ダルトン~約10,000ダルトン、約5,000ダルトン~約10,000ダルトンであってもよい。好ましくは、約4,500ダルトンである。
本明細書において使用される用語「約」とは、所定の数値又は範囲の10%以内、好ましくは8%以内、より好ましくは5%以内を意味する。具体的な実施形態によれば、「約X」とは、Xが数値又は範囲を指す場合、Xを意味する。
【0013】
プレポリマーは、屈折率を備えるゲル浸透クロマトグラフィーにより測定される多分散度を有し、該多分散度が、20.0未満、より好ましくは10.0未満、より好ましくは5.0未満、さらに好ましくは2.5未満であってもよい。好ましくは、約2.5である。
プレポリマーにおいて、ポリオールの、多価酸に対するモル比は、好適には約0.5:1~約1.5:1の範囲であり、好ましくは約0.9:1.1~約1.1:0.9の範囲であり、最も好ましくは約1:1である。
【0014】
活性化されたプレポリマー
本発明の組成物におけるプレポリマーは、そのポリマー主鎖上に活性化された基を有する。
活性化された基は、反応して架橋を形成することができる官能基、又は反応させて架橋を形成することができる官能基である。プレポリマーは、主鎖のモノマー単位上の1つ以上の官能基を反応させて硬化するポリマーをもたらす架橋を形成するために反応するか又は反応させることができる官能基を提供することによって活性化される。実施形態によれば、プレポリマーは、その主鎖のモノマー単位上に異なる性質を持つ活性化された基を有する。プレポリマーのポリマー主鎖は、一般式(-A-B-)nのポリマー単位を含んでもよく、式中、Aは、置換若しくは無置換のポリオール又はその混合物に由来し、Bは、置換若しくは無置換の多価酸又はその混合物に由来する。
【0015】
プレポリマー主鎖上で活性化されるのに好適な官能基としては、ヒドロキシ基、カルボン酸基、アミン、及びこれらの組み合わせが挙げられるが、好ましくはヒドロキシ及び/又はカルボン酸である。プレポリマー上の遊離ヒドロキシ基又は遊離カルボン酸基は、ヒドロキシ基を、ポリマー鎖間に架橋を形成できる部分で官能化することにより、活性化することができる。活性化された基は、プレポリマーにおけるA部分及び/又はB部分上の遊離ヒドロキシ基又は遊離カルボン酸基であり得る。
遊離ヒドロキシ基又は遊離カルボン酸基は、様々な官能基、例えば、ビニル基で官能化することができる。ビニル基を、当技術分野において知られている様々な技術により、例えば、ビニル化又はアクリル化により、導入することができる。本発明によれば、ビニル基は、以下の構造-CRx=CRyRzを含み、式中、Rx、Ry、Rzは、互いに独立して、H、メチルやエチルなどのアルキル、フェニルなどのアリール、置換アルキル、置換アリール、カルボン酸、エステル、アミド、アミン、ウレタン、エーテル、及びカルボニルからなる群より選ばれる。
【0016】
好ましくは、活性化された基がアクリレート基であるか、又はアクリレート基を含有する。本発明によれば、アクリレート基は、以下の基を含有してもよい:-C(=O)-CRp=CRqRr、式中、Rp、Rq、Rrは、互いに独立して、H、メチルやエチルなどのアルキル、フェニルなどのアリール、置換アルキル、置換アリール、カルボン酸、エステル、アミド、アミン、ウレタン、エーテル、及びカルボニルからなる群より選ばれる。実施形態によれば、活性化されたプレポリマーは、異なるアクリレート基の混合物を含有する。
好ましくは、-C(=O)-CRp=CRqRr基を含有するアクリレート基の全体又は一部について、Rp、Rq及びRrがHであるように;又はRpがCH3であり、Rq及びRrがHであるように;又はRp及びRqがHであり、RrがCH3であるように;又はRp及びRqがHであり、Rrがフェニルであるようにする。
ビニル基はまた、プレポリマー上の遊離カルボキシル基を用いることで、プレポリマーの主鎖に組み込むことができる。例えば、メタクリル酸ヒドロキシエチルは、カルボニルジイミダゾール活性化の化学的性質を利用するプレポリマーのCOOH基によって、組み込むことができる。
【0017】
本発明の実施形態において、プレポリマーのポリマー主鎖上の活性化された基の少なくとも一部は、アルケン基(例えば、アクリレート、メタクリレート)であってもよい。活性化(例えば、アクリル化)の程度は、1H NMRなどの技術により好適に測定される。活性化(例えば、アクリル化)の程度は、「DA」と好適に特徴付けられる。活性化された基の割合は、主鎖におけるモノマー単位数と比較することができる。室温又は40℃(好ましくは37℃)までの上昇させた温度での最適なバストパフォーマンスの性質を達成するため、この割合を、変えることができ、0.1~0.8モル/モノマー単位のモル、好ましくは0.2~0.6モル/モノマー単位のモル、最も好ましくは0.3~0.45モル/モノマー単位のモル、例えば、0.3モル/モノマー単位のモル、であってもよい。活性化の程度が上述したようであり、反応性官能基がアクリレートであるとき(すなわち、上記のようなアクリル化の程度)、最も好ましい。主鎖のポリマー単位が一般式(-A-B-)nである場合(式中、Aが、置換又は無置換のポリオールに由来し、Bが置換又は無置換の多価酸に由来する)、モノマー単位は、一般式-A-B-であり、活性化された基の割合は、多価酸の1モルごと又はポリオールの1モルごとで示され得る。上記に示したDA範囲は、好ましくはモル/多価酸のモル、である。
【0018】
本発明の組成物におけるプレポリマーは、好ましくは一般式(I):
【化1】
(I)
を有する活性化されたプレポリマーに由来し、
式中、n及びpは、それぞれ独立に、1以上の整数を表わし、個々の単位におけるR
2は、水素、ポリマー鎖、-C(=O)-CR
3=CR
4R
5、又はC(=O)NR
6-CR
7R
8-CR
9R
1O-O-C(=O)-CR
3=CR
4R
5を表わす(式中、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9及びR
1Oは、互いに独立して、H、メチルやエチルなどのアルキル、フェニルなどのアリール、置換アルキル、置換アリール、カルボン酸、エステル、アミド、アミン、ウレタン、エーテル、及びカルボニルからなる群より選ばれる)。
【0019】
好ましくは、R3、R4及びR5がHであるか、又はR3がCH3であり、R4及びR5がHであるか、又はR3及びR4がHであり、R5がCH3であるか;又はR3及びR4がHであり、R5がフェニルである。好ましくは、R6、R7、R8、R9及びR1OがHである。
好ましくは、pは、1~20の整数、より好ましくは2~10の整数、さらに好ましくは4~10の整数である。p=8であるときが、最も好ましい。
【0020】
好ましくは、本発明の組成物におけるプレポリマーは、一般式(II):
【化2】
(II)
のモノマー単位を含有する活性化されたプレポリマーに由来し、
式中、nは、1以上の整数を表わす。
【0021】
より好ましくは、本発明の組成物におけるプレポリマーは、一般式(II):
【化3】
(II)
のモノマー単位を有する活性化されたプレポリマーに由来し、
式中、nは、1以上の整数を表わす。
【0022】
アクリレート又は他のビニル基に加えて、他の試薬は、プレポリマー主鎖上に活性化された基を提供することに用いることができる。かかる試薬の例としては、触媒としての酵素と一緒に使用するグリシジル、エピクロロヒドリン、トリフェニルホスフィン、アゾジカルボン酸ジエチル(DEAD)、ジアジリン、アジピン酸ジビニル、及びセバシン酸ジビニル、ホスゲン系試薬、2価酸塩化物、ビス無水物(bis-anhydride)、ビスハロゲン化物(bis-halide)、金属表面、並びにこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。試薬は、イソシアネート、アルデヒド、エポキシ、ビニルエーテル、チオール、DOPA残基、又はN-ヒドロキシコハク酸イミド官能基をさらに含んでもよい。
【0023】
ゼータ電位-活性化及び官能化されたプレポリマー
本発明者らは、組成物のゼータ電位と硬化後の該組成物の接着強度との間に正の相関関係があることを見いだした。本発明の組成物のゼータ電位は、プレポリマーの組成上の構成を含む、使用したプレポリマーによって変化し得る。
「ゼータ電位」とは、ミリボルト(mV)又はボルト(V)で測定される、固体表面とその液体媒体との間の界面に発生する電荷を意味する。ゼータ電位は、界面の二重層における分散粒子に付着している流体の、分散媒と定常層との間に形成される電位差である。ゼータ電位の大きさは、分散系において隣接しており、かつ同じ電荷を持っている粒子間の静電反発力の程度を示す。
組成物のゼータ電位は、プレポリマーにおける荷電原子の数及び性質によって影響されるが、組成物に存在し得る他の荷電種によっても影響される。
したがって、本発明のプレポリマーは、架橋を形成できる官能基、好ましくはアクリレート基を導入することにより活性化されるだけではなく、荷電原子によっても官能化される。
【0024】
本発明の好ましい実施形態において、プレポリマーのポリマー主鎖上の活性化された基(例えば、アクリレート)の少なくとも一部は、荷電原子又は荷電可能な原子を含有する化合物、好ましくは電荷を持つヘテロ原子を含有する化合物、さらに好ましくは正電荷を持つヘテロ原子を含有する化合物と反応する。以下、「活性化官能化基」と呼ぶ。
さらに、プレポリマーのポリマー主鎖上の他の基(例えば、ヒドロキシ基や、カルボキシル基)の少なくとも一部は、電荷を持つヘテロ原子、好ましくは正電荷を持つヘテロ原子を含んでもよい。
プレポリマー上の正電荷を持つヘテロ原子は、炭素や水素以外のいかなる元素に由来してもよい。好ましい正電荷を持つヘテロ原子は、窒素、リン及び硫黄である。最も好ましくは、正電荷を持つヘテロ原子が、正電荷を持つ窒素原子である。
【0025】
本発明の組成物において、活性化官能化基(すなわち、荷電原子、好ましくは電荷を持つヘテロ原子、さらに好ましくは正電荷を持つヘテロ原子を含むように修飾された活性化された基)の割合は、主鎖のモノマー単位数に対して、ポリマーによって異なることがあり、好適には約0.05~約0.4モル/モノマー単位のモル、の範囲、好ましくは約0.09~約0.25モル/モノマー単位のモル、の範囲であってもよい。活性化官能化基の割合は、1H NMRなどの技術により好適に測定される。主鎖のポリマー単位が一般式(-A-B-)nである場合(式中、Aが、置換又は無置換のポリオールに由来し、Bが置換又は無置換の多価酸に由来する)、モノマー単位は、一般式-A-B-であり、活性化官能化基の割合は、多価酸の1モルごと又はポリオールの1モルごとで示され得る。上記に示した範囲は、好ましくはモル/多価酸のモル、である。正電荷を持つヘテロ原子を含む、プレポリマーの主鎖モノマー上の官能化された基(活性化官能化基を含む)が、正電荷を持つ窒素原子である場合、正電荷を持つヘテロ原子を含む官能化された基の一部は、「DN+」と好適に特徴付けられる。DN+は、主鎖におけるモノマー単位数に対する、正電荷を持つ窒素原子数である。DN+パラメーターは、正電荷を持つ窒素原子に隣接する水素原子の特徴的なピークを利用する1H-NMRスペクトルにより、好適に測定される。DN+パラメーターは、モル/多価酸のモル、で好適に示される。
【0026】
正電荷を持つ窒素原子を含む活性化官能化基は、好ましくは一般式(III):
【化4】
(III)
であり、
式中、R
a、R
b、R
c、R
d、R
e及びR
fは、H、アルキル、アルケニル及びアリールから独立して選ばれ、好ましくはR
d、R
e及びR
fの少なくとも1つは、Hである。
【0027】
Ra、Rb、Rc、Rd、Re及びRfについてのアルキル基は、直鎖アルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル等)、分枝鎖アルキル基(イソプロピル、tert-ブチル、イソブチル等)、シクロアルキル(脂環式)基(シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル)、及びアルキル置換シクロアルキル基からなる群より好適に選ばれる。好ましくは、あらゆるアルキル基は、C1-8アルキル基、より好ましくはC1-4アルキル基、最も好ましくはメチル基又はエチル基である。
Ra、Rb、Rc、Rd、Re及びRfについてのアルケニル基は、直鎖アルケニル基(例えば、エテニル、プロペニル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル等)、分枝鎖アルケニル基、シクロアルケニル(脂環式)基(シクロプロペニル、シクロペンテニル、シクロヘキセニル、シクロヘプテニル、シクロオクテニル)、アルキル又はアルケニル置換シクロアルケニル基、及びシクロアルキル又はシクロアルケニル置換アルケニル基からなる群より好適に選ばれる。好ましくは、あらゆるアルケニル基は、C2-8アルケニル基である。
【0028】
Ra、Rb、Rc、Rd、Re及びRfについてのアリール基は、5員単環式芳香族基、及び6員単環式芳香族基、並びに3環式や2環式などの多環式アリール基(例えば、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン等)からなる群より好適に選ばれる。アリール基はまた、多環などを形成するよう、例えば、芳香族ではない脂環や複素環と縮合又は架橋することができる。
好ましくは、Raは水素である。好ましくは、Rbは水素である。好ましくは、Rcは水素である。
好ましくは、Rd、Re及びRfの1つ、2つ又は3つは、水素である。最も好ましくは、Rd、Re及びRfの1つは、水素である。もう1つの実施形態において、Rd、Re及びRfは、水素ではない。
【0029】
あるいは、正電荷を持つ窒素原子を含む活性化官能化基は、好ましくは一般式(IV):
【化5】
(IV)
であり、
式中、R
a、R
b、R
c、R
d、R
e及びR
fは、上記に定義した式(III)の基のとおりであり、nは、1以上の整数、好ましくは1~4の整数を表わす。
【0030】
好ましい実施形態によれば、一般式(IV)の活性化官能化基は、
【化6】
である。
【0031】
もう1つの実施形態によれば、正電荷を持つヘテロ原子は、リン又は硫黄である。正電荷を持つ硫黄原子又は正電荷を持つリン原子を含む活性化官能化基の例は、一般式(V)又は(VI):
【化7】
(V)
【0032】
【化8】
(VI)
であってもよく、
式中、R
a、R
b、R
c、R
d、R
e及びR
fは、上記に定義した式(III)の基のとおりである。
【0033】
好ましい実施形態では、プレポリマーの荷電原子は、主鎖の活性化(例えば、アクリル化)された基の上に存在し、荷電原子も、主鎖上に存在することが可能である(例えば、多価酸のポリオールの置換として、ヒドロキシ基の上、カルボキシル基の上)。
【0034】
本発明の実施形態において、プレポリマーは、一般式(VII):
【化9】
(VII)
を有し、
式中、pは、1~20であり、n、m及びoは、1より大きい整数であり、R
a、R
b、R
c、R
d、R
e及びR
fは、上記に定義した式(III)の基のとおりである。
pは、好ましくは2~10、より好ましくは4~10、最も好ましくはp=8である。
n、m及びoは、1より大きい整数である。n、m及びoの値は、好適には、プレポリマーが、上述したような重量平均分子量、例えば、約1,000ダルトン~約1,000,000ダルトンを有するように十分に大きい。
【0035】
一般式(VII)のプレポリマーによれば、主鎖モノマー単位上のいくつかのヒドロキシ基は、アクリレート基で活性化され、いくつかは、電荷を持つヘテロ原子の基(正電荷を持つ窒素原子を含む)を含む活性化官能化基である。n:m:oの好ましい比は、活性化された基と活性化官能化基の好ましい含量によって決定されるであろう。
【0036】
本発明のもう1つの実施形態において、プレポリマーは、一般式(VIII):
【化10】
(VIII)
を有し、
式中、p、q及びrは1~20の整数であり、n、m及びoは、1より大きい整数であり、R
a、R
b、R
c、R
d、R
e及びR
fは、上記に定義した式(III)の基のとおりである。
【0037】
pは、好ましくは2~10、より好ましくは4~10、最も好ましくはp=8である。qは、好ましくは1~4であり、最も好ましくは、qは2である。rは、好ましくは1~4であり、最も好ましくは、rは2である。
n、m及びoは、1より大きい整数である。n、m及びoの値は、好適には、プレポリマーが、上述したような重量平均分子量、例えば、約1,000ダルトン~約1,000,000ダルトンを有するように十分に大きい。
【0038】
一般式(VIII)のプレポリマーによれば、主鎖モノマー単位上のいくつかのヒドロキシ基は、アクリレート基で活性化され、いくつかは、電荷を持つヘテロ原子の基(正電荷を持つ窒素原子を含む)を含む活性化官能化基である。n:m:oの好ましい比は、活性化された基と活性化官能化基の好ましい含量によって決定されるであろう。
【0039】
ゼータ電位の測定
本発明の組成物について、以下のプロトコールを使用して、ゼータ電位を測定することができる。
ゼータ電位を測定するのに使用される装置は、ゼータサイザーナノ-ZSゼン3600(Zetasizer Nano-ZS Zen 3600)である。マルバーン(Malvern)製のゼータ電位セルDTS1070を使用する。
プレポリマー15mgをガラスバイアルに秤量することにより、標準液を調製する。イソプロパノール50μLと脱イオン水1mLを添加する。プレポリマーの完全に溶解させるために、溶液をボルテックスにかける。得られた溶液50μLを20mLのガラスバイアルに移し、脱イオン水5mLを添加する。
【0040】
溶液1mLをゼータ電位セルに添加し、該セルをゼータサイザー装置中に置く。以下の選択で、該装置を「マニュアル」に、続いて「測定タイプ-ゼータ電位試料」に設定する:材料-ポリスチレンラテックス、分散媒-水、一般的なオプション-スモルコフスキー(Smoluchowski)モデル、温度-37℃、平衡時間-120秒、セル-使い捨て折り畳み式キャピラリーセル。
最小10ラン及び最大100ランの自動モード下で、3回の測定を実行する。試料ごとに3回の測定を実行し、測定間の遅延はゼロである。
本発明の組成物において、ゼータ電位(上述したプロトコールに従い測定)は、0~約45mV、好ましくは約5~約40mV、より好ましくは約5~約30mVである。
【0041】
組成物
本発明の組成物は、着色料の存在下で及び/又は着色料と混合して製造することができる。着色料の好ましい例としては、FDAにより推奨されている医療機器、医薬品又は化粧品に用いるものが挙げられる。
同様に、組成物は、安定剤、例えば、MEHQや、N-フェニル-2-ナフチルアミン(PBN)をさらに含んでもよい。
【0042】
組成物の活性化及び官能化されたプレポリマーは、1つ以上の追加の材料とさらに反応することで、ポリマー鎖間の架橋を修飾することができる。例えば、硬化/架橋前又は硬化/架橋中に、1つ以上の、ヒドロゲルの又は他のオリゴマーの、モノマーの、若しくはポリマーの前駆体(例えば、アクリレート基を含有するように修飾し得る前駆体)、例えば、ポリ(エチレングリコール)、デキストラン、キトサン、ヒアルロン酸、アルギナート;他のアクリレート系前駆体、例えば、アクリル酸、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリロニトリル、n-ブタノール、メタクリル酸メチル、アクリル酸無水物、メタクリル酸無水物やTMPTA、トリメタクリル酸トリメチロールプロパン、トリメタクリル酸ペンタエリスリトール、テトラメタクリル酸ペンタエリスリトール、ジメタクリル酸エチレングリコール、ペンタアクリル酸ジペンタエリスリトール、Bis-GMA(ビスフェノールAグリシジルメタクリレート)やTEGDMA(トリエチレングリコールジメタクリレート)、アクリル酸スクロース;他のチオール系前駆体(モノマー又はポリマー);他のエポキシ系前駆体;及びこれらの組み合わせを、アクリル化プレポリマーと反応させることができる。
【0043】
本発明の組成物は、外科用組成物であり得、組織シーラント及び/又は接着剤として好適に使用される。該組成物は、シリンジやカテーテルによって所望の領域に適用できるような流動特性を有するものの、体液(例えば、水及び/又は血液)によって洗い落とされることがなく、適用部位にとどまる十分な粘稠性を有する。
好ましくは、組成物の粘度は、500~100,000cP、より好ましくは1,000~50,000cP、さらに好ましくは2,000~40,000cP、最も好ましくは2,500~25,000cPである。粘度分析は、2.2mLチャンバーとSC4-14スピンドルとを備えるブルックフィールドDV-II+プロビスコメーター(Brookfield DV-II+Pro viscosimeter)を用いて実施され、分析中の速度が5~80rpmで変化する。上述した粘度は、医療用途に関連する温度範囲(すなわち、室温から40℃まで、好ましくは37℃である)に存在する。
【0044】
本発明の組成物は、投与及び硬化前に、血液などの体液にインキュベートすることができ、硬化したときに接着強度が実質的に低下しない。
本発明の組成物は、好適には、血液などの体液中で安定である。より具体的には、本発明の組成物は、好適には、架橋を開始させるために意図的に加える刺激、例えば、UV光などの光、熱、又は化学開始剤の存在なしに、体液中で自発的に架橋しない。
組成物は、例えば、光開始重合、熱開始重合や、酸化還元開始重合によるフリーラジカル開始反応を用いて硬化することができる。
【0045】
好ましくは、反応を促進するため、組成物は、光開始剤の存在下で、紫外(UV)光などの光で照射される。好適な光開始剤の例としては、2-ジメトキシ-2-フェニル-アセトフェノン、2-ヒドロキシ-1-[4-(ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-メチル-1-プロパノン(イルガキュア(Irgacure)2959)、1-ヒドロキシシクロヘキシル-1-フェニルケトン(イルガキュア184)、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-1-プロパノン(ダロキュア(Darocur)1173)、2-ベンジル-2-(ジメチルアミノ)-1-[4-モルフォリニル)フェニル]-1-ブタノン(イルガキュア369)、ベンゾイルギ酸メチル(ダロキュアMBF)、オキシ-フェニル-酢酸-2-[2-オキソ-2-フェニル-アセトキシ-エトキシ]-エチルエステル(イルガキュア754)、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-(4-モルフォリニル)-1-プロパノン(イルガキュア907)、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-ホスフィンオキシド(ダロキュアTPO)、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(イルガキュア819)、及びこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0046】
好ましくは、反応を促進するため、組成物は、光開始剤の存在下で、可視光(典型的には、青色光又は緑色光)で照射される。可視光用の光開始剤の例としては、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-ホスフィンオキシド、エオシンY二ナトリウム塩、N-ビニル-2-ピロリドン(NVP)やトリエタノールアミン、カンファーキノンが挙げられるが、これらに限定されない。
生体内の光重合及び他の医療用途を含む組成物の用途において、細胞適合性の光開始剤の使用が好ましく、規制当局により要求されることがある。光開始剤イルガキュア2959を使用することができ、これは、広範な哺乳類の細胞タイプ及び種にわたって、最小限の細胞毒性(細胞死)を引き起こす。
光重合を起こさせるために、組成物(及び該当する場合、該組成物を適用する基材)は、好ましくは光に対して十分に透明である。
【0047】
組成物が生体内で硬化する場合の用途において、硬化が起こる時の温度は、好ましくは、該組成物が適用された組織に損傷を与えないように制御する。好ましくは、組成物は、照射中、45℃を超えず、より好ましくは37℃を超えず、さらに好ましくは25℃を超えないで加熱する。
光化学的な架橋に加えて、組成物は、光延反応により、酸化還元対開始重合により(例えば、過酸化ベンゾイル、N,N-ジメチル-p-トルイジン、過硫酸アンモニウム、又はテトラメチレンジアミン(TEMED))、及び二官能性スルフヒドリル化合物を用いるマイケル付加反応により、熱硬化することができる。
【0048】
1つの実施形態において、酸化還元組成物(すなわち、酸化還元対開始ラジカル重合により、熱硬化できる組成物)は、0.1~5wt%の還元剤(例えば、4-N,N-トリメチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、p-トルエンスルホン酸ナトリウム、又はN-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン);0~5wt%の酸素抑制剤(例えば、4-(ジフェニルホスフィノ)スチレン、又はトリフェニルホスフィン);0.005~0.5wt%の操作時間剤(working time agent)(例えば、テンポール、又は4-メトキシフェノール);及び0.1~10wt%の酸化剤(例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、又は過酸化ベンゾイル)を含み得る。酸化還元対開始重合の反応開始は、異なる試薬の絶対量と相対量に影響される。
【0049】
重合すると、活性化及び官能化されたプレポリマーは、改善された接着特性を有する架橋ネットワークを形成し、血液及び他の体液の存在下であっても、著しい接着強度を示す。硬化後に得られた硬化ポリマーは、好ましくは、下にある組織の移動(例えば、心臓や血管の収縮)に抵抗するのに十分な弾性がある。接着剤は、流体やガスの漏出を防ぐシールを提供することができる。接着剤は、好ましくは生分解性及び生体適合性を有し、最小限の炎症反応を引き起こす。接着剤は、好ましくはエラストマー性を有する。
生分解性は、試験管内(in vitro)で、例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中、又は酸性やアルカリ性条件下で評価することができる。生分解性は、生体内、例えば、動物(例えば、マウス、ラット、イヌ、ブタ、又はヒト)においても評価することができる。分解率は、試験管内又は生体内のポリマーの質量の経時的な損失を測定することにより、評価することができる。
【0050】
硬化組成物は、単独で又はパッチや組織上に被覆されて、少なくとも0.5N/cm2、好ましくは少なくとも1N/cm2、さらに好ましくは少なくとも2N/cm2、例えば、1.5N/cm2~2N/cm2であるが、好ましくは5N/cm2より大きく、例えば、6N/cm2又は7N/cm2まで、又はそれ以上の90°プルオフ接着強度を好適に示す。プルオフ接着強度とは、接着性の物品若しくは試料を湿った組織、例えば、金属スタブ(stub)などの平らな基材上に固定化した血管又は心臓組織の心外膜面に貼り付けることで得られる粘着力の値を意味する。90°プルオフ接着試験により、接着剤の剥離前に表面領域が耐えることができる最大垂直力(張力)を決定する(N. Lang et al., Sci. Transl. Med., 2014, 6, 218ra6)。
好ましい実施形態によれば、本発明の組成物は、光開始剤の存在下で、光の中で硬化し、硬化組成物は、少なくとも0.5N/cm2、好ましくは少なくとも1N/cm2、さらに好ましくは少なくとも2N/cm2、例えば、1.5N/cm2~2N/cm2であるが、好ましくは5N/cm2より大きく、例えば、6N/cm2又は7N/cm2まで、又はそれ以上の90°プルオフ接着強度を示す。
【0051】
硬化組成物はまた、望ましくは、100mmHgより高く、好ましくは400mmHg~600mmHgの範囲又はそれ以上、例えば、400mmHg又は500mmHgの破裂圧力を示すことができる。破裂圧力又は破裂力とは、組成物で被覆された切開部を有する、ブタの頸動脈の外植した血管を破裂させることで得られる圧力値を意味する。
本発明の組成物は、光開始剤の存在下で、光で硬化したとき、好ましくは1つ以上の以下の特性:
i)0.5N/cm2より大きく、好ましくは2~7N/cm2又はそれ以上の90°プルオフ接着強度、及び
ii)100mmHgより高く、好ましくは200~300mmHg又はそれ以上の破裂性能、を有する。
【0052】
好ましい実施形態によれば、本発明の組成物は、接着剤(すなわち、硬化後、表面に強く結合できるもの、又はある表面を他の表面に結合できるもの)として使用される。
他の実施形態によれば、本発明の組成物は、シーラント(すなわち、硬化後、バリアを形成すること又は空隙容積を埋めることにより、流体やガスなどの漏出を防止できるもの)として使用される。
湿った生物組織の接着及びシールに加えて、組成物は、様々な天然又は合成の、親水性又は疎水性基材、例えば、ポリエチレンテレフタレート、発泡ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリプロピレン、シリコーン、ポリウレタン、アクリル、固定された組織(例えば、心膜)、セラミックス、又はこれらの任意の組み合わせを接着及びシールし得る。
【0053】
調製方法
本発明の組成物の調製方法は、いくつかの必須工程を含むが、いくつかの変化を許容してもよい。好ましい実施形態によれば、前記方法は、
i)プレポリマー主鎖を提供するためのモノマー重合工程、
ii)活性化されたプレポリマーを提供するための、主鎖のモノマー単位の活性化工程、及び
iii)活性化及び官能化されたプレポリマーを提供するための、該活性化されたプレポリマーと、荷電原子又は荷電可能な原子を含有する化合物との官能化工程、を含む。
モノマーは、好ましくは成分A(ポリオール又はポリオールの混合物)及び成分B(多価酸又は多価酸の混合物)であり、好適には、0.5:1~1.5:1、好ましくは0.9:1.1のモル比範囲、最も好ましくは1:1で一緒に添加する。成分Aがグリセロールであり、成分Bがセバシン酸であり、1:1のモル比で添加する場合、セバシン酸における2つのカルボキシル基に対して、グリセロールにおいて3つのヒドロキシ基がある。したがって、グリセロールにおける余分なヒドロキシ基は、末端のカルボン酸基と同様に活性化に使用することができる。
【0054】
工程i)についての条件としては、100~140℃(好ましくは120~130℃)の温度範囲、不活性雰囲気(好ましくは窒素を含む)、及び真空下を挙げることができる。
好ましい実施形態において、ヒドロキシ基又はカルボキシル基は、工程i)後に得られるプレポリマー主鎖上に存在する。
工程ii)における活性化は、プレポリマー主鎖のアクリル化により好適に達成される。
好ましい実施形態において、活性化は、ヒドロキシ基又はカルボキシル基のアクリル化を介して行われる。カルボキシルの活性化は、完全に又は部分的に除去できる(例えば、エタノールを使用)無水物の形成をもたらすことができる(例えば、WO2016/202984を参照されたい)。
【0055】
1つ以上のアクリレートを、アクリル化剤として使用してもよい。アクリレートは、以下の基を含有してもよい:-C(=O)-CRp=CRqRr、式中、Rp、Rq、Rrは、それぞれ独立して、H、メチルやエチルなどのアルキル、フェニルなどのアリール、置換アルキル、置換アリール、カルボン酸、エステル、アミド、アミン、ウレタン、エーテル、及びカルボニルからなる群より選ばれる。好ましくは、Rpが、Hである。最も好ましくは、アクリル化剤が、塩化アクリロイルである。
工程ii)は、1つ以上の溶媒又は触媒の存在下で実施することができ、溶媒又は触媒の例としては、ジクロロメタン(DCM)、酢酸エチル(EtOAc)、ジメチルアミノピリジン(DMAP)、トリエチルアミン(TEA)、又はこれらの任意の組み合わせが挙げられる。
いくつかの精製工程を、この段階で行ってもよく、好ましくは、水洗工程を2~11回、好ましくは2~8回、最も好ましくは8回行うことができる。
或いは、工程ii)における活性化は、アクリル酸イソシアネート化合物を用いるアクリル化であってもよい。好ましいアクリル酸イソシアネート化合物は、(メタ)アクリル酸2-イソシアナトエチルである。
【0056】
工程iii)の官能化について、好ましい実施形態において、アミン部分をプレポリマー主鎖にグラフトし、続いて酸性化により荷電アミンを形成する。
アミンのグラフト化は、活性化されたプレポリマーの特定の置換基を介して、ヒドロキシ基、カルボキシル基、又は活性化(例えば、アクリレート)された基上で行うことができる。
好ましい実施形態によれば、アクリレート基をアミンと反応させてグラフトされた三級アミン基を与え、得られたアミンを酸性化してアンモニウム基を与える(実施例におけるC1.3を参照されたい)。
もう1つの好ましい実施形態によれば、アミンを、代わりに又はさらに、活性化工程中に酸無水物に修飾した後にカルボン酸にグラフトする(実施例におけるC1.5を参照されたい)。この場合には、アミドを形成する。
もう1つの好ましい実施形態によれば、求核剤とより容易に反応させるために、アミンを、代わりに又はさらに、修飾されたカルボン酸(例えば、酸無水物に修飾されたことにより)にグラフトする。該求核剤は、例えば、アルコール及びアミン基を有する任意の二官能性分子であり、より好ましくはジエチルエタノールアミンである(実施例におけるC1.6を参照されたい)。
【0057】
本発明によれば、アミンは、一級アミン、二級アミン又は三級アミンであってもよい。好ましいアミンとしては、エチルアミンが挙げられる。
工程iii)のアミノ化は、好ましくは、ジクロロメタンなどの媒溶中で実施する。
アミンの荷電は、酸性化を介して実施され得る。酸性化は、好適には、カルボン酸又は塩酸などの酸の存在下で実施される。カルボン酸の例としては、ギ酸や酢酸が挙げられる。
特定の実施形態によれば、工程ii)の活性化及び工程iii)の官能化は、酸性化を必要とせずに、同一の反応工程中に起こってもよい。
少なくとも1つの添加剤を、工程iii)で得られる組成物に添加してもよい。好ましい実施形態において、前記添加剤は、光開始剤、ラジカル抑制剤、及び染料からなる群より選ばれる。
【0058】
好ましい実施形態によれば、組成物から溶媒、副生成物、不純物、又は未反応物を取り除くことを確実にするため、方法は、1以上の精製工程iv)をさらに含む。かかる精製工程は、いずれかの反応工程を介して行ってもよく、組成物の調製中に、1つ以上の精製技術を適用してもよい。
好ましい実施形態において、かかる精製工程は、水性媒体中で洗浄することを含んでもよい。水洗中の相分離は、水相において可溶化される塩の使用(例えば、約50~約500g/L塩水溶液、好ましくは約300g/L塩(例えば、塩化ナトリウム)水溶液)により、改善することができる。好ましい実施形態によれば、水洗は、塩水による洗浄である。塩の例としては、塩化ナトリウム、又は塩化カリウムが挙げられるが、これらに限定されない。
好ましい実施形態によれば、かかる精製工程は、溶媒蒸発により行うか、又は超臨界二酸化炭素抽出法により行うことができる。
【0059】
使用
組織の接着及びシール
本発明の組成物は、組織、PTFE系移植物などの移植材料、又はこれらの任意の組み合わせを含む標的表面を接着又はシールするために使用することができる。標的表面を接着又はシールするための方法は、組成物を表面に適用することと、該組成物を硬化させることとを含む。
適用中に若しくは水の存在下で自発的に活性化する従来の組織接着剤、又は親水性であるため硬化前に洗い落とすのを必要とする従来の組織接着剤とは異なり、本発明の組成物は、活性化又は置き換えなしに、湿った基材に適用することができる。該組成物は、乾燥した基材にも適用することができる。
組成物はまた、組織を医療機器の表面に接着するために使用することができる。組成物は、医療機器において、装置の一部若しくは全体として、又は装置を組織に接着するのに使用することができる。組織を医療機器の表面に接着するための方法は、組成物を組織及び/又は医療機器の表面に適用することと、該組成物を硬化させることを含む。組成物はまた、1つ以上の生体内の組織を含む、組織を連結するのに使用することができる。
【0060】
本発明の組成物を含む外科用接着剤はまた、他の用途に使用することができる。用途の例としては、創傷や外傷などに起因する出血、手術中(例えば、移植物を血管に縫合した後、又は血管内治療における血管アクセスの後)の出血を止めることが挙げられる。接着剤は、経時的に分解するため、閉じられた創傷を外科医が縫合する前に除去する必要がない。治療することができる創傷の他のタイプとしては、漏出する創傷、閉鎖困難な創傷、又は正常な生理的機序を介して適切に治癒できない創傷が挙げられるが、これらに限定されない。ヒト用又は動物用のために、体内にも体外にも適用することができる。
本発明の組成物はまた、生分解性ステントを作ることができる。ステントは、血管の直径を大きくすることで、血管を通る流れを増やすことができる。しかしながら、該ステントが生分解性であるため、血管を再び狭くするおそれがある、血栓症又はステントを瘢痕組織で被覆するリスクを低下させつつ、血管の直径を大きくすることができる。組成物は、ステントの外表面を被覆して、被覆のないステントと比べて組織への損傷がより少ない方法で、ステントを血管壁に接着するのを助けるか、又は体内でのステントの移動を回避することができる。同様に、組成物は、組織と接触するあらゆる装置の表面を被覆して、組織に接着できる好適な界面を提供することができる。
【0061】
本発明の組成物は、接着剤又はシーラントを必要とする様々な他の用途に用いることができる。他の用途としては、肺切除後の空気漏出;外科処置のための時間を減少すること;硬膜をシールすること;腹腔鏡処置を容易にすること;分解性の皮膚接着剤とすること;ステーブル又はタックの必要性を防止又は減少するためのヘルニアのマトリックスとすること;失血を防止すること;外科処置中に臓器や組織を操作すること;角膜移植片が所定の位置にあるのを確保すること;心筋梗塞後に心臓の拡張を減少させ、及び/又は薬物を送達するために、心臓をパッチすること;別の材料を組織に接着すること;縫糸又はステープルを増やすこと;組織全体に力を分散すること;漏出を防止すること;やけどした皮膚からの水分の蒸発を防止するために、皮膚上のバリア膜とすること;抗傷跡薬物又は抗菌薬物の送達のためのパッチとすること;装置を組織に接着すること;口腔内に装置を固定する(例えば、義歯や口腔用器具を保持すること)ために、装置を粘膜に接着するテープとすること;軟組織を骨に固着させるテープとすること;組織における穴の形成を防止すること;並びに組織の機械的特性を強化/増大させること等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0062】
生物活性分子の送達
記載されている本発明の組成物はまた、材料がシーラント/接着剤として機能する期間中に放出される、1つ以上の医薬用、治療用、予防用、及び/又は診断用薬剤を含んでもよい。薬剤は、低分子薬剤(例えば、2000ダルトン未満、1500ダルトン未満、1000ダルトン未満、750ダルトン未満、又は500ダルトン未満の分子量を有する低分子薬剤)、生体分子(例えば、ペプチド、タンパク質、酵素、核酸、多糖)、増殖因子、細胞接着配列(例えば、RGD配列や、インテグリン)、細胞外マトリックス成分、又はこれらの組み合わせであってもよい。低分子薬剤の例示クラスとしては、抗炎症薬、鎮痛薬、抗菌薬、及びこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。例示的な増殖因子としては、TGF-β、酸性線維芽細胞増殖因子、塩基性線維芽細胞増殖因子、上皮増殖因子、IGF-I及びII、血管内皮由来の増殖因子、骨形成タンパク質、血小板由来増殖因子、ヘパリン結合性増殖因子、造血細胞増殖因子、ペプチド増殖因子、又は核酸が挙げられるが、これらに限定されない。例示的な細胞外マトリックス成分としては、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、エラスチン、及びこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。プロテオグリカン及びグリコサミノグリカンも、本発明の組成物と共有結合的に、又は非共有結合的に会合することができる。
【0063】
組織支持体
本発明の組成物は、体内に成形品を形成することにより組織支持体を作ることに使用して、機械的機能を提供することができる。成形品は、3Dプリンティングを含む、当技術分野において知られている様々な製作技術により、作製され得る。かかる物品は、例えば、2つの組織を共に保持すること、又は組織を体内若しくは体外の特定の位置に置くことなどの機能を発揮することができる。
組織、例えば、血管などの組織の内腔は、血管の介入治療後の再狭窄、再閉鎖又は血管痙攣を防止するために、材料の層で被覆することができる。
組成物はまた、1以上のタイプの細胞、例えば、結合組織細胞、臓器の細胞、筋細胞、神経細胞、及びこれらの組み合わせを含んでもよい。材料は、腱細胞、線維芽細胞、靭帯細胞、内皮細胞、肺細胞、上皮細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、膵島細胞、神経細胞、肝細胞、腎細胞、膀胱細胞、尿路上皮細胞、軟骨細胞、及び骨形成細胞の1種以上と播種してもよい。細胞の、材料との組み合わせを、組織の修復及び再生を支持するのに用いることができる。
【0064】
抗癒着バリア
本明細書に記載されている本発明の組成物は、外科処置後の癒着の形成を低減又は防止するのに適用することができる。例えば、組成物は、脳手術後に脳組織の頭蓋骨への癒着を防止することに適用するか、又は腹膜癒着を防止するために装置の移植に適用することができる。
他の用途
組成物はまた、外科用器具(例えば、鉗子又は鉤)などの道具を被覆することに用いて、道具が対象物を操作する能力を高めることができる。組成物はまた、生体適合性である分解性の接着剤を有するのが有用である工業用途(例えば、水中での使用又は船の表面への付着などの海洋用途)に用いて、例えば、分解生成物の潜在的な毒性を低減することができる。組成物はまた、3Dプリンティングを含む、当技術分野において知られている様々な技術により、成形品を作製するのに用いることができる。成形品は、マイクロスケール又はナノスケールの解像度を有し得る。
以下の実施例を参照することにより本発明を説明するが、決して本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0065】
実施例1:アクリル官能化(C1.4)
(i)ポリ(セバシン酸グリセロール)(PGS、C1.0)の合成:
1.等モル量のグリセロール及びセバシン酸を秤量した。
2.モノマーが完全に融解するまで、反応混合物の温度を120~130℃の間に設定した。
3.試薬が融解した後、浴温又は反応温度を120℃の目標値に下げて、撹拌を開始した。
4.真空/パージを3回繰り返して、フラスコ内の空気を窒素に置き換えた。
5.反応を8時間続けた。
6.次に、窒素供給を除き、15mbarの目標に設定した真空ポンプを用いて圧力を下げた。
目標のMw(約3,000Da)及び多分散度(<3)を達成するまで、反応を続けた。グリセロール:セバシン酸の目標のモル比は、1:1であり、核磁気共鳴(NMR)によって確認した。
【0066】
(ii)/(iii):PGSの活性化(アクリル化)及び官能化(アミノ化後酸性化):
以下の手順を、PGS主鎖上のヒドロキシ基を活性化するのに用いた。
PGS(C1.0)を、トリエチルアミン(PGS1g当たりトリエチルアミン(TEA)~0.4g)及び10%(w/v)ジクロロメタン(DCM)中の塩化アクリロイル(PGS1g当たり塩化アクリロイル(AcCl)~0.37g)と反応させた。エタノールと30~50℃の範囲の温度にて一晩反応させることにより、アクリル化されたPGS(C1.1)のエタノールキャッピングを達成した。
得られたプレポリマーを、水洗、好ましくは8回水洗することにより精製し、蒸留してプレポリマーであるポリ(セバシン酸グリセロール)アクリレート(PGSA、C1.2)を得た。
アクリル化されたPGSを、ジクロロメタン中でジエチルアミン(アクリル化されたPGS1g当たりジエチルアミン(DEA)61mg)と40℃にて5時間反応させ、アミノ化及びアクリル化されたPGS(プレポリマーC1.3)を提供した。
アミノ化及びアクリル化されたPGSを、酢酸で、室温にて15分間酸性化した。生成物を塩水による洗浄及び蒸留によって精製した。有機溶液を50%(w/w)に濃縮した。添加剤(イルガキュアTPO光開始剤と、ラジカル抑制剤MEHQ)を添加し、生成物を超臨界CO2抽出により精製した。
1H NMRスペクトルを用いて、正電荷を持つ窒素原子を含む基の割合(DN+)及びアクリレート基を含む基の割合(DA)を測定した。DN+は、0.18モル/多価酸のモル、であり、DAは、0.31モル/多価酸のモル、であった。プレポリマーC1.4を含む最終組成物は、本発明の組成物である。
【0067】
実施例2:アクリル官能化(C1.4)
PGS(C1.0)の合成
実施例1に示したように、PGSの合成を行った。
PGSの活性化及び官能化-アクリル化、アミノ化及び酸性化
以下の手順を、PGS主鎖上のヒドロキシ基を活性化するのに用いた。
PGSを、トリエチルアミン(PGS1g当たりTEA 0.4g)及び10%(w/v)ジクロロメタン中の塩化アクリロイル(PGS1g当たりAcCl 0.37g)と反応させ、アクリル化されたPGSを提供した。エタノールと30~50℃の範囲の温度にて一晩反応させることにより、アクリル化されたPGSのエタノールキャッピングを達成した。得られたプレポリマー(C1.2)を2回水洗することにより精製した。
アクリル化されたPGSを、ジクロロメタン中でジエチルアミン(PGS1g当たり約100mgのDEA)と40℃にて5時間反応させ、それによりアミノ化されたPGSA(C1.3)を提供した。
アミノ化されたPGSAを、酢酸(DEAに対して2モル当量)で、室温にて15分間酸性化した。生成物を塩水による洗浄及び蒸留によって精製した。1H NMRスペクトルを用いて、正電荷を持つ窒素原子を含む基の割合(DN+)及びアクリレート基を含む基の割合(DA)を測定した。DN+は、0.21モル/多価酸のモル、であり、DAは、0.38モル/多価酸のモル、であった。
添加剤(イルガキュアTPO光開始剤と、ラジカル抑制剤MEHQ)を添加し、生成物C1.4を超臨界CO2抽出により精製した。最終DN+は、0.21モル/多価酸のモル、であり、最終DAは、0.29モル/多価酸のモル、であった(プレポリマーC1.4を含む本発明の組成物)。
【0068】
実施例3:アクリレート官能化及び同時の無水物除去(C1.5)
PGS(C1.0)の合成
実施例1に示したように、PGSの合成を行った。
PGSの活性化及び官能化-アクリル化、アミノ化及び酸性化
以下の手順を、PGS主鎖上のヒドロキシ基を活性化するのに用いた。
PGSを、トリエチルアミン(PGS1g当たりTEA 0.4g)及び10%(w/v)ジクロロメタン中の塩化アクリロイル(PGS1g当たりAcCl 0.37g)と反応させ、アクリル化されたPGSを提供した。
エタノールキャッピングの代わりにジエチルアミン(PGS1g当たりDEA約170mg)を使い、前の溶液に直接添加して室温にて20時間攪拌し、それにより1つの工程において、アミノ化されたPGSA及び無水物の除去を提供した。
アミノ化されたPGSを、酢酸(DEAに対して2モル当量の酢酸)で、室温にて15分間酸性化した。生成物を塩水による洗浄及び蒸留によって精製した。1H NMRスペクトルを用いて、正電荷を持つ窒素原子を含む基の割合(DN+)及びアクリレート基を含む基の割合(DA)を測定した。DN+は、0.54モル/多価酸のモル、であり、DAは、0.20モル/多価酸のモル、であった。添加剤(イルガキュアTPO光開始剤と、ラジカル抑制剤MEHQ)を添加し、生成物を超臨界CO2抽出により精製した。最終DN+は、0.20モル/多価酸のモル、であり、最終DAは、0.39モル/多価酸のモル、であった(プレポリマーC1.5を含む本発明の組成物)。
【0069】
実施例4:無水物除去によるプレポリマー官能化(C1.6)
PGS(C1.0)の合成
実施例1に示したように、PGSの合成を行った。
PGSの活性化及び官能化-アクリル化、N,N-ジエチルエタノールアミンによる修飾、酸性化
以下の手順を、PGS主鎖上のヒドロキシ基を活性化するのに用いた。
PGS(C1.0)を、トリエチルアミン(PGS1g当たりトリエチルアミン(TEA)~0.4g)及び10%(w/v)ジクロロメタン(DCM)中の塩化アクリロイル(PGS1g当たり塩化アクリロイル(AcCl)~0.37g)と反応させ、アクリル化されたPGSを提供した(C1.1)。
生成した酸無水物をN,N-ジエチルエタノールアミンで修飾することにより、活性化されたプレポリマーの官能化を行った。
N,N-ジエチルエタノールアミン(82mL)をアクリル化されたPGS(C1.1)450mLに添加した。混合物を40℃に24時間加熱した。次に、混合物を塩水による洗浄によって精製し、有機層を乾燥して50%(w/w)溶液に濃縮した。次に、酢酸(70mL)を添加し、混合物を5分間撹拌した。有機層を、塩水で洗浄し、乾燥して50%(w/w)溶液に濃縮した。添加剤(イルガキュアTPO光開始剤)を添加し、バッチを溶媒蒸発により精製し、接着性能を評価した。C1.6を含む本発明の組成物について、DAは、0.74モル/多価酸のモル、であったが、最終DN+は、決定できなかった。
【0070】
実施例5:プレポリマー活性化の代替物(C1.9及びC1.10)
PGS(C1.0)の合成
ポリ(セバシン酸グリセロール)の合成は、実施例1に記載した通りであった。
PGSの活性化(アクリル化)及び官能化(アミノ化後酸性化)
以下の手順を、PGS主鎖上のヒドロキシ基を活性化するのに用いた。
PGS(C1.0)を、20%(w/v)酢酸エチル中のアクリル酸イソシアネート(PGS1g当たりアクリル酸イソシアネート~0.306g)と反応させ、アクリル化されたPGSを提供した(プレポリマーC1.9)。
酢酸エチル中のジエチルアミン(活性化されたPGS1g当たりジエチルアミン60mg)と55℃にて5時間反応させることにより、中間の精製工程なしに、得られた活性化されたプレポリマーを官能化した。官能化及び活性化されたPGSを、酢酸(C1.9 1g当たりAcOH 0.670mLを添加)で、室温にて15分間酸性化した。生成物(C1.10)を塩水による洗浄及び蒸留によって精製した。次に、有機溶液を50%(w/w)に濃縮した。添加剤(イルガキュアTPO光開始剤と、ラジカル抑制剤MEHQ)を添加し、生成物を超臨界CO2抽出により精製した。
1H NMRスペクトルを用いて、正電荷を持つ窒素原子を含む基の割合(DN+)及びアクリレート基を含む基の割合(DA)を測定した。DN+は、0.19モル/多価酸のモル、であり、DAは、0.30モル/多価酸のモル、であった。プレポリマーC1.10を含む最終生成物は、本発明の組成物である。
【0071】
実施例6:同時の活性化及び官能化(C1.7及びC1.8)
PGS(C1.0)の合成
実施例1に示したように、PGSの合成を行った。
PGSの同時の活性化及び官能化-同時のアクリル化及びアミノ化
PGSをDCMに溶解させ、塩基(TEA又はDIPEA)を添加した(グリセロール1モル当たり塩基1.20モル)。第2バイアルにおいて、AcClをDCMに溶解させた(グリセロール1モル当たりAcCl 1.15モル)。真空/窒素サイクルで、両バイアルを3回フラッシュした。AcCl溶液を含むバイアルを0℃に冷却し、光から保護した。PGS+塩基の溶液を、約3時間かけてAcCl溶液に滴下して添加した。
次に、溶液を放置して室温に戻し、1時間攪拌したままにした。
溶液を、塩水で1回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥してろ過した。
エタノールと30~50℃の範囲の温度にて一晩反応させることにより、アクリル化されたPGSのエタノールキャッピングを達成した。
添加剤(イルガキュアTPO光開始剤と、ラジカル抑制剤MEHQ)を添加し、生成物を超臨界CO2抽出により精製した。組成物C1.7は、塩基のトリエチルアミン(TEA)を優先的に使用する。組成物C1.8は、塩基のN,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)を優先的に使用する。
【0072】
実施例7:アミノ化されたポリ(トリメチロールプロパンエトキシレート-co-セバケート)アクリレート(プレポリマーC2.1)
ポリ(トリメチロールプロパンエトキシレート-co-セバケート)(PTS、プレポリマーC2.0)の合成
PTSは、PGSに類似したポリマーである。ただし、セバシン酸及びグリセロールから調製される代わりに、PTSは、セバシン酸及びトリメチロールプロパンエトキシレートから調製される。
最初に、以下の一般的なプロトコールを適用して、ポリ(トリメチロールプロパンエトキシレート-co-セバケート)(PTS、プレポリマーC2.0)を合成した。
1.等モル量のトリメチロールプロパンエトキシレート及びセバシン酸を秤量した。
2.モノマーが完全に融解するまで、反応混合物の温度を120~130℃の間に設定した。
3.試薬の融解後、浴温又は反応温度を120℃の目標値に下げて、撹拌を開始した。
4.真空/パージを3回繰り返し、フラスコ内の空気を窒素に置き換えた。
5.該反応を8時間続けた。
6.次に、窒素供給を除き、15mbarの目標に設定した真空ポンプを用いて圧力を下げた。
目標のMw(約8000Da)及び多分散度(<2.5)を達成するまで、反応を続けた。トリメチロールプロパンエトキシレート:セバシン酸の目標のモル比は、1:1であり、核磁気共鳴(NMR)によって確認した。
【0073】
PTSの活性化及び官能化-アクリル化、アミノ化及び酸性化(C2.1~C2.4)
PTSを、トリエチルアミン(PTS1g当たりTEA0.19g)及び10%(w/v)ジクロロメタン中の塩化アクリロイル(PTS1g当たりAcCl 0.16g)と反応させ、アクリル化されたPTS(プレポリマーC2.1)を提供した。
エタノールと30~50℃の範囲の温度にて一晩反応させることにより、アクリル化されたPTSAのエタノールキャッピングを達成した。
得られたポリマーを、水洗により精製し、蒸留した。
アクリル化されたPTSを、ジクロロメタン中でジエチルアミン(C2.1 1g当たりDEA0.035mL)と40℃にて5時間反応させ、アクリル化及びアミノ化されたPTS(プレポリマーC2.2)を提供した。
得られたプレポリマーを室温にて15分間酸性化した(C2.2 1g当たり酢酸0.04mL)。水洗、塩水による洗浄及び蒸留によって、得られたプレポリマー(プレポリマーC2.3)を精製した。
添加剤を添加し(イルガキュアTPO光開始剤)、溶媒蒸発により生成物を精製した。プレポリマーC2.4を含む組成物は、本発明の組成物である。
【0074】
実施例8:PGSの二重活性化及び官能化(C1.11及びC1.12)
PGS(C1.0)の合成
実施例1に示したように、PGSの合成を行った。
PGSの活性化及び官能化-二重アクリル化後、アミノ化及び酸性化
以下の手順を、ポリマー主鎖上のヒドロキシ基を活性化及び官能化するのに用いた。
磁気撹拌下で、PGS(C1.0)を、20%(w/v))酢酸エチル中のメタクリル酸2-イソシアナトエチル(0.32g/(1gのC1.0))及びアクリル酸2-イソシアナトエチル(0.14g/(1gのC1.0))と70℃にて16時間反応させ、C1.11を得た。
次に、反応混合物を周囲温度に冷却した。第2工程において、反応混合物を55℃に加熱し、ジエチルアミン(0.15g/(1gのC1.0))を添加した。混合物を55℃にて5時間攪拌した。混合物を周囲温度に冷却し、酢酸(0.18g/(1gのC1.0))を該混合物に添加して5分間攪拌した。生成物を、塩水による洗浄によって精製し、MgSO4で乾燥してろ過した。得られた溶液を50%(w/w)に濃縮した。添加剤(イルガキュアTPO光開始剤と、ラジカル抑制剤MEHQ)を添加し、生成物を超臨界CO2抽出により精製した。
1H NMRスペクトルを用いて、正電荷を持つ窒素原子を含む基の割合(DN+)及びメタクリレート基を含む基の割合(DA)を測定した。DN+は、0.44モル/多価酸のモル、であり、DAは、0.18モル/多価酸のモル、であった。プレポリマーC1.12を含む最終生成物は、本発明の組成物である。
【0075】
実施例9:酸性化プロセスを変化させたアクリル官能化
アクリル化されたPGS(C1.1)を、ジクロロメタン中でジエチルアミン(アクリル化されたPGS1g当たりジエチルアミン(DEA)66mg)と40℃にて5時間反応させ、アミノ化及びアクリル化されたPGS(C1.3)を提供した。
アミノ化されたPGSAを、酢酸(DEAに対して6モル当量)で、室温にて15分間酸性化した。生成物を塩水による洗浄及び蒸留によって精製した。
添加剤(イルガキュアTPO光開始剤と、ラジカル抑制剤MEHQ)を添加し、生成物C1.17を超臨界CO2抽出により精製した。1H NMRスペクトルを用いて、正電荷を持つ窒素原子を含む基の割合(DN+)及びアクリレート基を含む基の割合(DA)を測定した。最終DN+は、0.21モル/多価酸のモル、であり、最終DAは、0.30モル/多価酸のモル、であった。プレポリマーC1.17を含む最終生成物は、本発明の組成物である。
【0076】
実施例10:酸性化プロセスを更に変化させたアクリル官能化
アクリル化されたPGS(C1.1)を、ジクロロメタン中でジエチルアミン(アクリル化されたPGS1g当たりジエチルアミン(DEA)66mg)と40℃にて5時間反応させ、アミノ化及びアクリル化されたPGS(C1.3)を提供した。
アミノ化されたPGSAを1MのHCl塩水で洗浄した(相分離の前に、攪拌下で5分間)。次に、有機層を塩水で2回洗浄した。有機層を単離し、MgSO4で乾燥し、50%(w/w)に濃縮した。
添加剤(イルガキュアTPO光開始剤と、ラジカル抑制剤MEHQ)を添加し、生成物C1.18を超臨界CO2抽出により精製した。1H NMRスペクトルを用いて、正電荷を持つ窒素原子を含む基の割合(DN+)及びアクリレート基を含む基の割合(DA)を測定した。最終DN+は、0.21モル/多価酸のモル、であり、最終DAは、0.31モル/多価酸のモル、であった。プレポリマーC1.18を含む最終生成物は、本発明の組成物である。
【0077】
実施例11:酸性化プロセスをなお一層変化させたアクリル官能化
アクリル化されたPGS(C1.1)を、ジクロロメタン中でジエチルアミン(アクリル化されたPGS1g当たりジエチルアミン(DEA)46mg)と40℃にて23時間反応させ、アミノ化及びアクリル化されたPGS(C1.3)を提供した。
攪拌下で、アミノ化されたPGSAを、ギ酸(DEAに対して2モル当量)で、室温にて5分間酸性化した。
添加剤(イルガキュアTPO光開始剤)を添加し、減圧下で生成物C1.19を濃縮した。1H NMRスペクトルを用いて、正電荷を持つ窒素原子を含む基の割合(DN+)及びアクリレート基を含む基の割合(DA)を測定した。最終DN+は、0.16モル/多価酸のモル、であり、最終DAは、0.30モル/多価酸のモル、であった。プレポリマーC1.19を含む最終生成物は、本発明の組成物である。
【0078】
接着性能
以下のプルオフ方法に従って、プルオフ接着について実施例を試験した。新鮮なブタの心外膜組織を用いて、インストロン(Instron)でプルオフ接着試験(90°で)を実施した。該組織が試験中に濡れたままであるのを確実にするため、リン酸緩衝生理食塩水中に保存した。指定がない限り、ポリグリセロールセバケートウレタン(PGSU)パッチを試験のために使用し、該パッチは、厚さ約200mm、直径6mmであった。接着試験の前に、厚さ約200μmを有するプレポリマーの薄層を、パッチ材料に適用した。硬化過程中、非接着性材料(高さ9mmのホウケイ酸ガラス棒)で、試料組成物で被覆したパッチに3Nの圧縮力を適用した。該非接着性材料は、該ガラス棒及びUVライトガイド(Lumen Dynamics Group Inc)の両方の周囲に標準的な接着テープで、UVライトに接続されている。ホウケイ酸ガラス棒の介在は、パッチ/接着剤-組織の界面を妨害せずに、パッチからの硬化系の取り外しを容易にした。プルオフの手順は、8mm/分の速度でのグリップ分離を含み、均一なパッチの、組織の表面からの剥離を引き起こした。接着力を、測定した応力の激減が観察されたときに接着破壊前に観察された最大の力として記録した。
【0079】
上述したプレポリマーから調製した硬化組成物についての接着力の値を、以下の表1に提供する。
【表1】
【0080】
上表は、本発明(C1.4、C1.5、C1.6、C1.7、C1.8、C1.10、C2.4、C1.12、C1.17、C1.18、C1.19)の硬化組成物を用いて得られた接着力の値が、本発明でない(C1.2、C1.3、C2.1)硬化組成物を用いて得た接着力の値より優れたことを示している。
接着力と比較したゼータ電位
上述したプロトコールを用いて、本発明のプレポリマーのゼータ電位を測定した。上述したプルオフ接着試験を用いて、プレポリマーベースの硬化組成物の接着力を測定した。
図1は、接着力の結果に対する、ゼータ電位の結果のプロットを示している。結果は、組成物のゼータ電位が高くなると、接着力が改善することを示している。
【0081】
実施例12:組成物の配合物(C1.13~C1.16):酸化還元によるポリマーの架橋
上述した通りに調製したプレポリマーC1.4及びC1.12を用いて、組成物を配合した。配合を以下の表2に要約する。
【表2】
【0082】
BPOは、過酸化ベンゾイルである。MHPTは、N-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジンである。TMAは、4-N,N-トリメチルアニリンである。DPPSは、4-(ジフェニルホスフィノ)スチレンである。テンポールは、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルである。
例えば、実施例C1.13、C1.14、C1.15及びC1.16、並びにプレポリマーC1.4について、重ねせん断接着性能試験を使用した。
【0083】
プロトコールは、「Standard Test Method for Strength Properties of Tissue Adhesives in Lap-Shear by Tension Loading」と題すASTM F2255.1422857-1から適合されたものであり、以下のとおりであった。
・生体組織として、地元の肉屋から供給されたブタの臀部を冷蔵庫(2~5℃)に保存したものを使用し、その日のうちに重ねせん断について試験を行った。
・以下の大きさ:長さ=3cm、幅=1.5cm、高さ=0.2~0.4cmの長方形の試料を得るため、ナイフとメスで筋組織を切った。試験を行うまで、組織試料をPBSに保存した(最大2時間)。
・各試験について、筋肉2枚をPBSから外し、余分な水を取り除くために各側をペーパータオル上に3秒間置いた。組織はまだ非常に濡れた状態であった。
・縁からできるだけ近く、約0.8~1.0cmの配合物の幅を有するよう、試験する配合物をスパチュラで1枚の筋肉試料の1つの先端に適用した。次に、1.5cmx0.8~1.0cmの重ね合わせを有するよう、もう1枚の筋肉試料を上に置いた。
・上部の1枚を下部の1枚と接触させ、指で優しく押すことにより、両筋肉試料を接触させた。
・光活性化配合物(例えば、以下の表におけるC1.4)について:オムニキュアライト(Omnicure Light)(5秒サイクル、70%強度)を用いて、配合物を硬化させた。重ね合わせ部を少なくとも6サイクル光に曝した。
・酸化還元配合物について:マイクロチューブ中に残った配合物が完全に硬化するまで待った。
【0084】
すべての試料について:
・アセンブリを上部グリップから始めて、垂直に置いた。組織を引っ張らずに、下部グリップを締め付けた。
・変位及び負荷をゼロに設定し、両筋肉試料の剥離まで、上部グリップを5mm/分の速度で上昇させた。負荷対変位の曲線を記録し、剥離前の最大荷重を記録した。
・試験の終わりに、配合物の面積をノギスで測定した。配合物は青く、試験中にバラバラにならないため、測定は容易である。
・次に、最大荷重(N)及び曲線下面積(mJ)を重ね合わせ部におけるポリマーの面積(cm2)で割った。これは、見かけのせん断強度(N/cm2)及び見かけのAUC(mJ/cm2)である。
・少なくとも4回繰り返した。平均値と標準偏差を計算した。
【0085】