(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】活性誘導剤を用いたアベナンスラミド高含有エンバクの製造方法
(51)【国際特許分類】
A01H 3/04 20060101AFI20240717BHJP
A01H 6/46 20180101ALI20240717BHJP
C12N 15/29 20060101ALN20240717BHJP
C12N 15/52 20060101ALN20240717BHJP
【FI】
A01H3/04
A01H6/46
C12N15/29 ZNA
C12N15/52 Z
(21)【出願番号】P 2022561157
(86)(22)【出願日】2021-04-07
(86)【国際出願番号】 KR2021004318
(87)【国際公開番号】W WO2021206436
(87)【国際公開日】2021-10-14
【審査請求日】2023-03-15
(31)【優先権主張番号】10-2020-0042387
(32)【優先日】2020-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】515276624
【氏名又は名称】コリア リサーチ インスティチュート オブ バイオサイエンス アンド バイオテクノロジー
【氏名又は名称原語表記】KOREA RESEARCH INSTITUTE OF BIOSCIENCE AND BIOTECHNOLOGY
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】キム、チャヨン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン、ユジョン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン、ジェチョル
(72)【発明者】
【氏名】キム、ソヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム、テヒ
(72)【発明者】
【氏名】パク、ソンチョル
(72)【発明者】
【氏名】イ、ジヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ソクウォン
(72)【発明者】
【氏名】パク、スヒョン
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-291473(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0104817(KR,A)
【文献】特表2012-521746(JP,A)
【文献】特開2012-010694(JP,A)
【文献】Molecules,2016年,Vol.21,567 (pp.1-18)
【文献】Z. Naturforsch. C J. Biosci.,2001年,Vol.56, No.3-4,pp.193-202
【文献】Phytopathology,2004年,Vol.94, No.11,pp.1207-1214
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01H 1/00-17/00
C12N 15/00-15/90
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS (STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジャスモン酸メチル(methyl jasmonate)及びアブシジン酸(abscisic acid)のうち少なくとも1つの活性誘導剤でエンバクを処理するステップを含む、アベナンスラミド高含有エンバクの製造方法。
【請求項2】
前記製造方法が、エンバクの発芽誘導後の12~144時間にかけて活性誘導剤で処理することである、請求項1に記載のアベナンスラミド高含有エンバクの製造方法。
【請求項3】
前記製造方法が、ジャスモン酸メチル(methyl jasmonate)及びアブシジン酸(abscisic acid)を処理することである、請求項1に記載のアベナンスラミド高含有エンバクの製造方法。
【請求項4】
前記製造方法が、ジャスモン酸メチル(methyl jasmonate)を10~100uMの濃度で処理することを含む、請求項1に記載のアベナンスラミド高含有エンバクの製造方法。
【請求項5】
前記製造方法が、アブシジン酸(abscisic acid)を10~300uMの濃度で処理することを含む、請求項1に記載のアベナンスラミド高含有エンバクの製造方法。
【請求項6】
前記製造方法が、ジャスモン酸メチル対アブシジン酸を4~1:1の濃度比で処理することを含む、請求項3に記載のアベナンスラミド高含有エンバクの製造方法。
【請求項7】
ジャスモン酸メチル(methyl jasmonate)及びアブシジン酸(abscisic acid)のうち少なくとも1つの活性誘導剤の存在下でエンバクを培養するステップを含む、アベナンスラミド高含有エンバクの製造方法。
【請求項8】
ジャスモン酸メチル(methyl jasmonate)及びアブシジン酸(abscisic acid)のうち少なくとも1つの活性誘導剤で処理してエンバクを培養するステップと、前記エンバクの抽出物または分画物を得るステップと、前記抽出物または分画物からアベナンスラミドを得るステップとを含む、アベナンスラミドの製造方法。
【請求項9】
活性誘導剤としてのジャスモン酸メチル(methyl jasmonate)及びアブシジン酸(abscisic acid)
で処理してエンバクを培養するステップを含む、エンバクにおけるアベナンスラミドの生合成遺伝子の発現を増加させる方法
であって、
前記アベナンスラミドの生合成遺伝子は、AsPALまたはAsHHT4である方法。
【請求項10】
ジャスモン酸メチル(methyl jasmonate)及びアブシジン酸(abscisic acid)のうち少なくとも1つの活性誘導剤を含む、アベナンスラミドの生産増加用組成物。
【請求項11】
活性誘導剤としてのジャスモン酸メチル(methyl jasmonate)及びアブシジン酸(abscisic acid)
を含む、
エンバクにおけるアベナンスラミドの生合成遺伝子の発現増加用組成物
であって、
前記アベナンスラミドの生合成遺伝子は、AsPALまたはAsHHT4である発現増加用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性誘導剤を用いたアベナンスラミド高含有発芽エンバクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンバクは、他の穀物に比べてタンパク質や脂質が豊富であり、不飽和脂肪酸を多く含有している。リジンなどの必須アミノ酸が豊富であり、ビタミンB群、ビタミンE、ミネラルも豊かであって、食物繊維であるベータグルカンも多く含有していることから、食品学的な価値が非常に高い作物として認識されている。それに関連して、韓国内においても様々なエンバクの品種が開発されており、エンバクに含まれている活性成分の抽出効率を高めるための研究もまた続けられている。
【0003】
エンバクには様々な種類の活性成分が存在するが、その中、エンバク特有の抗酸化成分であるアベナンスラミド類は、炎症性疾患に効能があることが知られている(非特許文献1)。また、アベナンスラミドは強力な抗酸化剤として知られており、血圧の調節に効能があると報告されている。その他にも、アベナンスラミドが皮膚刺激抑制及び抗動脈硬化効果などを示す可能性があることが知られており、近年では、難聴、神経変性疾患などの治療にも利用できることが明らかになった。このように、アベナンスラミドの用途に対する研究が活発に進められており、様々な疾患の治療に用いられ得る有用な成分として脚光を浴びている。よって、アベナンスラミドの生産量を増加させ得る方法に対する需要が高まっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Sur,Runa et al.(2008)Avenanthramides,polyphenols from oats,exhibit anti-inflammatory and anti-itch activity.Archives of dermatological research.300.569-74.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、ジャスモン酸メチル(methyl jasmonate)及びアブシジン酸(abscisic acid)のうち少なくとも1つの活性誘導剤で処理する場合、エンバクのアベナンスラミドの含有量を大きく増加させ得ることを確認し、本発明を完成させるに至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ジャスモン酸メチル(methyl jasmonate)及びアブシジン酸(abscisic acid)のうち少なくとも1つの活性誘導剤で処理するステップを含む、アベナンスラミド高含有エンバクの製造方法と、エンバクにおけるアベナンスラミドの生合成遺伝子の発現を増加させる方法を提供することを目的とする。
【0007】
本発明は、ジャスモン酸メチル(methyl jasmonate)及びアブシジン酸(abscisic acid)のうち少なくとも1つの活性誘導剤を含む、アベナンスラミドの生産増加用組成物と、アベナンスラミドの生合成遺伝子の発現増加用組成物を提供することを別の目的とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法を利用すると、エンバクの有用成分であるアベナンスラミドの含有量を大きく増加させることができ、さらに、それを含む医薬品、保健機能食品などの製造にも有用に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】生体外培養によるエンバクの成長過程におけるアベナンスラミドの含有量を確認した結果を示す図である。
【
図2】エンバクにおける活性誘導剤の処理によるアベナンスラミドA、B、Cの合成量を比較した図である。横軸の順で、精製水(DW)、エタノール(EtOH)、メチルビオロゲン(MV;methyl viologen)、ジャスモン酸メチル(MJ;methyl jasmonate)、アブシジン酸(ABA;Abscisic acid)、サリチル酸(SA;salicylic acid)、エテフォン(ET;Ethephon)、キトサン(CHI;Chitosan)を処理した結果である。
【
図3】エンバクにおける活性誘導剤の処理によるアベナンスラミドの生合成遺伝子(PAL、HHT)の転写発現を分析した結果を示す図である。
【
図4】エンバクをMJで処理して濃度によるアベナンスラミドの物質の生産効率を比較した結果を示す図である。
【
図5】エンバクをABAで処理して濃度によるアベナンスラミドの物質の生産効率を比較した図である。
【
図6】二つの活性誘導剤(MJ、ABA)を併せて処理してアベナンスラミドの生産をHPLC分析により確認した結果を示す図である。
【
図7】二つの活性誘導剤(MJ、ABA)を併せて処理したとき、アベナンスラミドの生合成遺伝子(PAL、HHT)の転写発現を分析した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
これを具体的に説明すると、次のとおりである。一方、本発明において開示されているそれぞれの説明及び実施形態は、それぞれの他の説明及び実施形態にも適用され得る。すなわち、本発明において開示されている様々な要素のすべての組み合わせが本発明の範疇に属する。また、以下に記載される具体的な説明は、本発明の範疇を何ら制限するためのものではない。
【0011】
さらに、当該技術分野における通常の知識を有する者は、通常の実験のみを用いることで、本発明に記載されている本発明の特定の様態に対する複数の等価物を認知または確認することができる。また、そのような等価物もまた、本発明に含まれるものと意図される。
【0012】
本発明の一様態は、ジャスモン酸メチル(methyl jasmonate)及びアブシジン酸(abscisic acid)のうち少なくとも1つの活性誘導剤でエンバクを処理するステップを含む、アベナンスラミド高含有エンバクの製造方法を提供する。
【0013】
本発明の「アベナンスラミド(avenanthramide)」なる用語は、主にエンバクから生産されることが知られているアルカロイド系化合物である。前記アベナンスラミドは、アベナンスラミドA、アベナンスラミドB、アベナンスラミドC、アベナンスラミドO及びアベナンスラミドPからなる群より選ばれる少なくとも1つであってもよい。具体的には、アベナンスラミドA、アベナンスラミドB及びアベナンスラミドCからなる群より選ばれる少なくとも1つの成分を意味してもよいが、それらに制限されるものではない。
【0014】
前記アベナンスラミドは、アントラニル酸アミド(Anthranilic acid amides)とも名付けることができ、下記の化学式1で表される:
【0015】
【0016】
式中、n=1であり、R1はHであり、R2はOHであり、R3はHであり、R4はOHであり、R5はHである化合物は「アベナンスラミドA」と、
n=1であり、R1はHであり、R2はOHであり、R3はOCH3であり、R4はOHであり、R5はHである化合物は「アベナンスラミドB」と、
n=1であり、R1はHであり、R2はOHであり、R3はOHであり、R4はOHであり、R5はHである化合物は「アベナンスラミドC」と指称してもよい。
【0017】
アベナンスラミドは、抗炎症、抗酸化、かゆみ症抑制、皮膚刺激抑制及び抗動脈硬化効果などを示すことが知られており、近年では、難聴、神経変性疾患などの治療にも利用できることが明かになった。従って、本発明のアベナンスラミド高含有エンバクの製造方法は、前述の疾患の治療剤の製造、開発研究などにも有用に用いることができる。
【0018】
本発明の「活性誘導剤」なる用語は、一般的に生体防御機構の活性化作用を有する物質のことである。本発明の目的上、前記活性誘導剤は、エンバクのアベナンスラミドの含有量を増加させるものであってもよく、ジャスモン酸メチル及び/またはアブシジン酸を含んでもよい。
【0019】
具体的に、前記活性誘導剤は、ジャスモン酸メチル(methyl jasmonate)及びアブシジン酸(abscisic acid)のうち少なくとも1つであってもよい。
【0020】
本発明の「ジャスモン酸メチル(methyl jasmonate)」なる用語は、MeJAとも略称され、本発明においては「MJ」と称されてもよい。ジャスモン酸メチルは、揮発性有機化合物の一種であって、一部の植物体が防御体系によって合成できるということが知られている。前記ジャスモン酸メチルは、以下の化学式2の構造を有するものであってもよい:
【0021】
【0022】
本発明の「アブシジン酸(abscisic acid)」なる用語は、ABAとも略称される植物ホルモンの一種であって、植物体が環境ストレスに反応して作れるということが知られている。前記アブシジン酸は、以下の化学式3の構造を有するものであってもよい:
【0023】
【0024】
植物体において、ジャスモン酸メチル及びアブシジン酸が果たす役割は多様であり、植物体の種類によってその作用が異なることが知られている。
【0025】
本発明の一具現例においては、様々な種類の活性誘導剤をエンバクに処理してアベナンスラミドの含有量を確認したところ、ジャスモン酸メチルまたはアブシジン酸を処理する場合、エンバクのアベナンスラミドの含有量が最も大きく増加することが確認された(
図2)。また、ジャスモン酸メチル及びアブシジン酸を併せて処理する場合もまたエンバクのアベナンスラミドの含有量を大きく増加できることが確認された(
図6)。
【0026】
前記ジャスモン酸メチル及び/またはアブシジン酸は、エンバクのアベナンスラミドの含有量を増加させる効果を有する範囲で、適切な濃度で処理されてもよい。
【0027】
一具現例として、本発明のアベナンスラミド高含有エンバクの製造方法は、前記ジャスモン酸メチルを5~200uMの濃度で処理することを含んでもよい。具体的に、前記ジャスモン酸メチルは、10~100uM、20~100uM、25~100uM、または50~100uMの濃度で処理されてもよいが、それらに制限されるものではない。
【0028】
一具現例として、本発明のアベナンスラミド高含有エンバクの製造方法は、前記アブシジン酸(abscisic acid)を5~400uMの濃度で処理することを含んでもよい。具体的に、前記アブシジン酸は、10~300uMの濃度で処理されてもよいが、それらに制限されるものではない。
【0029】
一具現例として、本発明のアベナンスラミド高含有エンバクの製造方法は、前記ジャスモン酸メチル及びアブシジン酸を併せて処理するものであってもよい。この場合、ジャスモン酸メチルとアブシジン酸は、アベナンスラミドの含有量を増加させる範囲で、適切な割合で処理されてもよい。例えば、前記ジャスモン酸メチルとアブシジン酸は、20~1:1の濃度比(モル比)で処理してもよく、一例として、ジャスモン酸メチル対アブシジン酸を4~1:1の濃度比で処理してもよいが、それらに制限されるものではない。
【0030】
本発明のアベナンスラミド高含有エンバクの製造方法において、前記エンバクは、発芽させたエンバクであってもよいが、それに制限されるものではない。発芽は、植物の種子、胞子、花粉及び枝や根などに生じた芽が発生または生長を開始する現象である。
【0031】
本発明のアベナンスラミド高含有エンバクの製造方法は、エンバクの発芽誘導後の12~144時間にかけて活性誘導剤で処理してもよい。具体的には、24~120時間処理してもよいが、それに制限されるものではない。
【0032】
本発明のアベナンスラミド高含有エンバクの製造方法において、活性誘導剤をエンバクに処理(treatment)することは、活性誘導剤の存在下でエンバクを培養することを含んでもよい。一例として、エンバクの種子あるいは発芽エンバクに活性誘導剤自体または活性誘導剤が含有された溶液を噴霧するか、あるいは培養溶液に活性誘導剤で処理する方法などによって、活性誘導剤の存在下でエンバクを培養してもよい。前記「培養」は、「栽培」と相互交換的に用いられてもよい。
【0033】
本発明のアベナンスラミド高含有エンバクの製造方法において、「アベナンスラミド高含有エンバク」とはアベナンスラミドを高含有量で含むエンバクを意味する。それは、活性誘導剤で処理していないエンバクに比べてアベナンスラミドの含有量が高いものを意味してもよい。例えば、ジャスモン酸メチル及び/またはアブシジン酸を処理していないエンバクに比べてアベナンスラミドの含有量が増加したことを意味してもよいが、それに制限されるものではない。
【0034】
本発明の他の一様態は、ジャスモン酸メチル(methyl jasmonate)及びアブシジン酸(abscisic acid)のうち少なくとも1つの活性誘導剤で処理してエンバクを培養するステップと、前記エンバクの抽出物または分画物を得るステップとを含む、アベナンスラミド高含有エンバク抽出物の製造方法を提供する。
【0035】
前記抽出物は、エンバクを抽出処理して得られる抽出液、前記抽出液の希釈液や濃縮液、前記抽出液を乾燥して得られる乾燥物、前記抽出液の粗精製物や精製物、またはこれらの混合物など、抽出液自体及び抽出液を利用して形成可能なあらゆる剤形の抽出物を含む。
【0036】
抽出物の抽出方法は特に制限されず、当該技術分野において通常用いる方法によって抽出することができる。前記抽出方法の非限定的な例としては、熱水抽出法、超音波抽出法、ろ過法、還流抽出法などが挙げられ、これらは単独で行われてもよく、2種以上の方法を組み合わせて行われてもよい。抽出溶媒の種類は、特に限定されることなく、当該技術分野において公知の任意の溶媒を用いてもよい。
【0037】
前記分画物とは、いくつかの様々な構成成分を含む混合物から特定の成分または特定の成分群を分離するために分画を行って得られた結果物のことである。本発明の分画物を得る分画方法は、当該技術分野において通常用いる方法によって行ってもよく、前記分画方法の例としては、本発明の抽出物を所定の溶媒で処理して前記抽出物から分画物を得る方法、前記抽出物を冷浸法と遠心分離法を用いて、多糖類を浸漬して回収する方法などがあるが、それらに制限されるものではない。
【0038】
本発明の他の一様態は、ジャスモン酸メチル(methyl jasmonate)及びアブシジン酸(abscisic acid)のうち少なくとも1つの活性誘導剤で処理してエンバクを培養するステップと、前記エンバクの抽出物または分画物を得るステップと、前記抽出物または分画物からアベナンスラミドを得るステップとを含む、アベナンスラミドの製造方法を提供する。
【0039】
前記抽出物または分画物からアベナンスラミドを得るステップは、抽出物または分画物からアベナンスラミドを分離及び/または精製することを含んでもよい。前記分離及び/または精製は、本発明の技術分野において通常用いる方法を用いてもよく、非限定的な例として、クロマトグラフィなどの方法を用いてもよい。前記精製は、一つの方法のみが実施されてもよく、二つ以上の方法を併せて実施してもよい。
【0040】
本発明の他の一様態は、ジャスモン酸メチル(methyl jasmonate)及びアブシジン酸(abscisic acid)のうち少なくとも1つの活性誘導剤で処理してエンバクを培養するステップを含む、エンバクにおけるアベナンスラミドの生合成遺伝子の発現を増加させる方法を提供する。
【0041】
前記「アベナンスラミドの生合成遺伝子」は、アベナンスラミドの生合成に関与する酵素をコードする遺伝子を意味する。具体的には、前駆体からアベナンスラミドを合成する酵素をコードする遺伝子であってもよく、前記酵素の例としては、HHT(Hydroxycinnamoyl-CoA:hydroxyanthranilate N-hydroxycinnamoyl transferase)、4CL(4-coumarate:coenzyme A ligase)、CCoAOMT(caffeoyl-CoA O-methyltransferase)、PAL(phenylalanine ammonia lyase)などが挙げられる。しかしながら、それらに制限されるものではない。
【0042】
発明の一具現例においては、ジャスモン酸メチル及び/またはアブシジン酸を処理する場合、PALをコードするPAL遺伝子とHHTをコードするHHT4遺伝子の発現レベルが増加することを確認したところ、本発明の活性誘導剤で処理してエンバクを培養する場合、エンバクにおけるアベナンスラミドの生合成遺伝子の発現が増加することを確認した。
【0043】
本発明の他の一様態は、ジャスモン酸メチル(methyl jasmonate)及びアブシジン酸(abscisic acid)のうち少なくとも1つの活性誘導剤を含む、アベナンスラミドの生産増加用組成物を提供する。
【0044】
前述のように、ジャスモン酸メチル(methyl jasmonate)及びアブシジン酸(abscisic acid)のうち少なくとも1つの活性誘導剤は、エンバクのアベナンスラミドの含有量を増加させるので、前記活性誘導剤を含む組成物は、アベナンスラミドの生産増加用組成物として用いられてもよい。
【0045】
本発明の他の一様態は、ジャスモン酸メチル(methyl jasmonate)及びアブシジン酸(abscisic acid)のうち少なくとも1つの活性誘導剤を含む、アベナンスラミドの生合成遺伝子の発現増加用組成物を提供する。
【0046】
前述のように、ジャスモン酸メチル(methyl jasmonate)及びアブシジン酸(abscisic acid)のうち少なくとも1つの活性誘導剤は、エンバクのアベナンスラミドの生合成遺伝子の発現を増加させるので、前記活性誘導剤を含む組成物は、アベナンスラミドの生合成遺伝子の発現増加用組成物として用いられてもよい。
【0047】
本発明の他の一様態は、ジャスモン酸メチル及びアブシジン酸のうち少なくとも1つの活性誘導剤を含む組成物における、アベナンスラミドの生産増加用途を提供する。
【0048】
本発明の他の一様態は、ジャスモン酸メチル及びアブシジン酸のうち少なくとも1つの活性誘導剤を含む組成物における、アベナンスラミド高含有エンバクの製造用途を提供する。
【0049】
前記活性誘導剤、アベナンスラミド及びアベナンスラミド高含有エンバクの製造については、前述のとおりである。
【0050】
以下、実施例及び実験例を挙げて本発明を詳細に説明する。しかしながら、これらの実施例及び実験例は本発明を例示的に説明するためのものであり、本発明がこれらの実施例及び実験例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0051】
エンバクの生体外培養の条件、アベナンスラミドの抽出及びHPLCの分析方法
本発明の実施例においては、韓国内の育成品種であるチョヤンエンバクを利用した。チョヤンエンバクの種子を12時間浸漬し、その後50℃で10分間消毒して用いた。plant culture dishに滅菌ろ過紙を2枚敷いて水を7mL注いた後、消毒したチョヤンエンバクの種子を入れ、4℃で二日間低温処理した。培養条件は、25℃で光周期16L:8Dにて培養した。
【0052】
本発明の実施例において回収した発芽エンバクのアベナンスラミドの分析は、次のように行った。先ず、得られた発芽エンバクを液体窒素を用いて粉末化した。前記エンバク粉末0.1gを1mLの80%メタノールで抽出し、その後50℃で20分間超音波処理して抽出してから、遠心分離することで上層部のエンバク抽出物を得た。抽出したろ液は、空気(air)を注入して乾燥させ、乾燥物を200μLの80%メタノールに溶かし、その後0.2μmのPTFE(hydrophilic,ADVANTEC,日本)を用いてろ過したサンプルをHPLC(High-performance liquid chromatography)の分析に用いた。ポンプシステムは、4つの溶媒ポンプ(quaternary pump)を使用し、コラムは、Agilent社のZORBAX SB-18(5mm,4.6×150mm)を使用し、移動相は、水(A,5%のアセトニトリル,0.1%のギ酸)とアセトニトリル(B,0.1%のギ酸)を用い、勾配溶出を用いて分析した。
【実施例2】
【0053】
エンバクの発芽過程における時期別のアベナンスラミドの生産の分析
エンバクの発芽過程におけるアベナンスラミドの生産量の変化を確認するために、実施例1の培養条件にて発芽を誘導し、24時間の間隔でエンバクの発芽時期別のアベナンスラミドの生産量を分析した。
【0054】
低温処理後、培養を始めた0時間から24時間の間隔で5日間収穫した後に抽出を行った。アベナンスラミドの抽出には、収穫したエンバクを液体窒素を用いて粉砕し、粉砕した試料0.1gに80%メタノールを1mL入れ、50℃で20分間超音波処理し、抽出して用いた。
【0055】
その結果、発芽後の1日目から発芽後の3日目までアベナンスラミドの生産が増加し、発芽後の3日目に最大470mg/kgのアベナンスラミドが生産されることを確認した(
図1)。
【実施例3】
【0056】
様々な活性誘導剤の処理の際、エンバクのアベナンスラミドの生産量の比較
アベナンスラミドの生産量を最も高められる活性誘導剤を発掘するために実験を行った。
【0057】
実施例1において確認した結果に基づいて、安定してアベナンスラミドの蓄積が増加する発芽誘導後の2日目に活性誘導剤で処理した。3日間活性誘導剤で処理した後に収穫してHPLCを行った。そのときに用いた活性誘導剤は、MJ(methyl jasmonate)、ABA(abscisic acid)、SA(salicylic acid)、ET(ethephon)、MV(methyl viologen)、CHI(chitosan)である。MV、CHI、SAはDWを溶媒と、ET、MJ、ABAはEtOHを溶媒として用い、各活性誘導剤の溶媒であるDW、EtOH(0.1%)のみを処理した場合を対照群とした。実験の結果を下記の表1及び
図2に示す。
【0058】
【0059】
その結果、CHI、SAのような一部の活性誘導剤で処理する際には、むしろ対照群であるDWより効果が若干減少しているのに対し、MJとABAを処理した際には、対照群であるEtOHに対比してアベナンスラミドの生産が大きく増加していることを確認した(
図2)。また、ABAを処理する場合、特異的にアベナンスラミドCの生産が最も多く増加していることを確認した。
【実施例4】
【0060】
様々な活性誘導剤の処理の際、エンバクのアベナンスラミドの生合成遺伝子発現の分析
実施例3において処理した様々な活性誘導剤によってエンバクのアベナンスラミドの生合成遺伝子発現がどのように変化するのかを確認した。
【0061】
具体的に、回収したエンバクから総RNAを分離し、分離された総RNAは、First-Strand cDNA Synthesis Kit(Fermantas,Canada)を用いてcDNAを合成した。合成されたcDNAを用いてアベナンスラミドの生合成関連遺伝子を対象としてqRT-PCRを行った。
【0062】
qRT-PCR増幅は、BIOFACT社のQuick Guideを用い、95℃で15分間初期変性を行った後、95℃で20秒間の変性、60~40秒間結合して伸長する過程を40回繰り返し、melting curve分析は65℃~95℃で1℃ずつ0.5秒間行った。
【0063】
本実験のために用いたアベナンスラミドの生合成遺伝子及びアクチンqRT-PCR用のプライマーは、次のとおりである。
【0064】
AsPAL-F:5'-cgatcatggagcacattctg-3'(配列番号1)
AsPAL-R:5'-tcgatgacggggttatcatt-3'(配列番号2)
AsHHT1-F:5'-ggagaagttccggaagatga-3'(配列番号3)
AsHHT1-R:5'-agaagggggaattttgcagt-3'(配列番号4)
AsHHT2-F:5'-ggagaagttccggaagatga-3'(配列番号5)
AsHHT2-R:5'-caaagtggcaggaaagaagg-3'(配列番号6)
AsHHT3-F:5'-ggagaagttccggaagatga-3'(配列番号7)
AsHHT3-R:5'-gaaagaagggggaattttgc-3'(配列番号8)
AsHHT4-F:5'-agcccaccaagctgtactgt-3'(配列番号9)
AsHHT4-R:5'-ggaccaatgctgacaaatcc-3'(配列番号10)
AsActin-F:5'-gctgtgctttccctctatgc-3'(配列番号11)
AsActin-R:5'-cgagcttctccttgatgtcc-3'(配列番号12)
【0065】
その結果、実施例3と同様に、MJとABAを処理したとき、AsPAL、AsHHT4の二つの遺伝子の発現が増加していることを確認した(
図3)。
【0066】
実施例3及び4の結果から、他の活性誘導剤に比べてMJとABAがエンバクにおけるアベナンスラミドの合成量を最も大きく増加させるということが分かった。
【実施例5】
【0067】
選別された活性誘導剤(MJ、ABA)の処理の際、濃度によるアベナンスラミドの生産量の確認
実施例3、4において選別した活性誘導剤(MJ、ABA)を様々な濃度で処理し、アベナンスラミドを安定して生産する最適濃度を求める実験を行った。
【0068】
実施例3と同様に、発芽後の2日目に10μM、20μM、25μM、50μM、75μM、100μMのMJと、10μM、20μM、25μM、50μM、75μM、100μM、300μMのABAを濃度別に処理し、発芽後の5日目に回収して、液体窒素を用いて凍らせ、その後-80℃で抽出前まで保管して用いた。対照群としては、MJ、ABAの溶媒であるEtOHを0.1%の濃度で処理した。実験の結果を表2、表3及び
図4、
図5に示す。
【0069】
【0070】
【0071】
その結果、MJ処理において、処理したすべての濃度でアベナンスラミドの生産が増加しており、特に、濃度の増加に応じてアベナンスラミドの生産量が増加し、75μMの濃度で最大578.6mg/kgの最も多くのアベナンスラミドを生産することが確認された(
図4)。
【0072】
また、ABA処理においてもまた同様に、すべての濃度でアベナンスラミドの生産が増加することを確認し、50μMの濃度で最大828.8mg/kgの最も多くのアベナンスラミドを生産することが確認された(
図5)。
【0073】
それによって、MJまたはABAは、それぞれエンバクのアベナンスラミドの生産量を大きく増加させ得ることを確認した。また、MJは、10~100uMの濃度で、ABAの場合、20~300uMの濃度でエンバクのアベナンスラミドの生産量を大きく増加させ得ることを確認した。
【実施例6】
【0074】
選別された活性誘導剤MJ、ABAの共同処理時のアベナンスラミドの生産量の確認
実施例3、4において選別された活性誘導剤(MJ、ABA)を同時に処理してアベナンスラミドの生産を増進させる最適の条件を確立するために、次のような実験を行った。
【0075】
具体的に、実施例5において確認した最適濃度である75μMのMJと50μMのABAを基準として、濃度を多様に変化させながら発芽後の2日目のエンバクに3日間活性誘導剤で処理した。発芽後の5日目のエンバクを回収し、アベナンスラミドの含有量を測定した。その結果を表4及び
図6に示す。対照群としては、MJ、ABAの溶媒であるEtOHを0.1%の濃度で処理した。
【0076】
【0077】
その結果、共同処理したすべての条件で無処理区や単一処理区に比べてアベナンスラミドの生産が増加されることを確認した。また、様々な濃度のうち、75μMのMJと25μMのABAを共同処理したとき、最大1505.3mg/kgの最も多くのアベナンスラミドを生産することが確認された(
図6)。それによって、MJとABAを共同処理した際にアベナンスラミドの生産量を非常に効果的に増加させ得ることが確認された。
【実施例7】
【0078】
選別された活性誘導剤MJ、ABAの共同処理時のアベナンスラミドの生合成遺伝子発現の分析
実施例6において実施した結果に基づいて、転写発現の分析を行った。
【0079】
実施例4と同一のプライマーを用いてqRT-PCRを行い、その結果、MJとABAを共同処理したとき、AsPALとAsHHT4の発現が最も多く増加することを確認した。
【0080】
それによって、MJとABAの共同処理時のアベナンスラミドの生合成遺伝子の発現が増加し、アベナンスラミドの生合成量が大きく増加することが分かった。また、HHTをコードする遺伝子のうちMJとABAに特異的に反応する遺伝子は、HHT4であることを確認した。
【0081】
以上の説明から、本発明の属する技術の分野における当業者は、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施され得ることを理解できるはずである。そのことから、前述の実施形態は、あらゆる面において例示のものに過ぎず、限定するためのものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は、前記発明の詳細な説明よりは添付の特許請求の範囲の意味及び範囲、並びにその等価概念から想到されるすべての変更または変形された形態も、本発明の範囲に含まれるものと解釈されるべきである。
【配列表】