(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】トナーバインダー
(51)【国際特許分類】
G03G 9/087 20060101AFI20240717BHJP
C08L 51/06 20060101ALI20240717BHJP
C08L 67/00 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
G03G9/087 331
G03G9/087
C08L51/06
C08L67/00
(21)【出願番号】P 2023043701
(22)【出願日】2023-03-20
【審査請求日】2023-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2022077976
(32)【優先日】2022-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田畠 雄太
(72)【発明者】
【氏名】小野 康弘
【審査官】中澤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-293327(JP,A)
【文献】特開2007-286144(JP,A)
【文献】特開2017-151428(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/087
C08L 51/06
C08L 67/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性ポリエステル樹脂(A)と非晶性ポリエステル樹脂(B)とグラフト重合体(C)を含有するトナーバインダーであって、結晶性ポリエステル樹脂(A)がアルコール成分(x)とカルボン酸成分(y)を原料として反応して得られるポリエステル樹脂であり、前記アルコール成分(x)が炭素数2~36の脂肪族ジオール(x1)を含有し、(x1)の(x)における含有量が(x)の合計モル数を基準として20~80モル%であり、前記カルボン酸成分(y)が炭素数4~36の脂肪族ジカルボン酸(y1)を含有し、(y1)の(y)における含有量が(y)の合計モル数を基準として20~80モル%であり、前記結晶性ポリエステル樹脂(A)の示差走査熱量分析計(DSC)により測定される吸熱ピークのピークトップ温度(Tm)が50℃~85℃であり、前記結晶性ポリエステル樹脂(A)の吸熱ピークの半値幅が7℃以下であり、前記グラフト重合体(C)がエチレン及び/又はプロピレンを必須構成単量体とするポリオレフィンから分岐する側鎖を有する重合体であるトナーバインダー。
【請求項2】
前記結晶性ポリエステル樹脂(A)の示差走査熱量分析計(DSC)により測定される吸熱ピークに基づく吸熱量が20~90J/gである、請求項1に記載のトナーバインダー。
【請求項3】
前記結晶性ポリエステル樹脂(A)が、結晶性部(a1)と非晶性部(a2)とのエステル交換反応により得られる樹脂であり、結晶性部(a1)と非晶性部(a2)との重量比(a1/a2)が20/80~70/30である請求項1に記載のトナーバインダー。
【請求項4】
結晶性ポリエステル樹脂(A)と非晶性ポリエステル樹脂(B)との重量比(A/B)が10/90~40/60である請求項1に記載のトナーバインダー。
【請求項5】
前記グラフト重合体(C)の側鎖がビニル基を有する単量体の重合体であり、前記単量体のSP値のモル分率に基づく平均値が10.3~12.3(cal/cm
3)
1/2である請求項1に記載のトナーバインダー。
【請求項6】
前記非晶性ポリエステル樹脂(B)がアルコール成分(X)とジカルボン酸成分(Y)を原料として反応して得られるポリエステル樹脂であり、前記アルコール成分(X)がビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物(X1)を含有する請求項1に記載のトナーバインダー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトナーバインダーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子写真装置の小型化、高速化、高画質化、高信頼性の促進とともに、定着工程における消費エネルギーを低減するという省エネルギーの観点から、トナーの低温定着性の向上が強く求められている。
トナーバインダーは、上述のようなトナー特性に大きな影響を与えるものであり、ポリスチレン樹脂、スチレン-アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂等が知られているが、最近では、保存性と定着性のバランスを取りやすいことから、ポリエステル樹脂が特に注目されている。
例えば、低温定着性を目的として、溶融特性の優れる結晶性ポリエステル樹脂と非晶性樹脂とを使用したトナーが提案されている(特許文献1参照)。また、低温定着性や帯電性を向上させる目的として、結晶性ポリエステルと非晶性ポリエステルのハイブリッドポリエステルを含有するトナー組成物が提案されている(特許文献2参照)。
しかしながら、さらなる高画質化の要望に応えるため、トナーを小粒子径化した場合、上記結晶性ポリエステル樹脂を使用したトナーは、トナー中の結晶性ポリエステル樹脂の分散性が十分といえず、それらの改善が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-287426号公報
【文献】特許第6485155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、非晶性ポリエステル樹脂中での結晶性ポリエステル樹脂の分散性に優れたトナーバインダーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、鋭意検討した結果、本発明に至った。
すなわち本発明は、結晶性ポリエステル樹脂(A)と非晶性ポリエステル樹脂(B)とグラフト重合体(C)を含有するトナーバインダーであって、結晶性ポリエステル樹脂(A)がアルコール成分(x)とカルボン酸成分(y)を原料として反応して得られるポリエステル樹脂であり、前記アルコール成分(x)が炭素数2~36の脂肪族ジオール(x1)を含有し、(x1)の(x)における含有量が(x)の合計モル数を基準として20~80モル%であり、前記カルボン酸成分(y)が炭素数4~36の脂肪族ジカルボン酸(y1)を含有し、(y1)の(y)における含有量が(y)の合計モル数を基準として20~80モル%であり、前記結晶性ポリエステル樹脂(A)の示差走査熱量分析計(DSC)により測定される吸熱ピークのピークトップ温度(Tm)が50℃~85℃であり、前記結晶性ポリエステル樹脂(A)の吸熱ピークの半値幅が7℃以下であり、前記グラフト重合体(C)がエチレン及び/又はプロピレンを必須構成単量体とするポリオレフィンから分岐する側鎖を有する重合体である。
【発明の効果】
【0006】
本発明のトナーバインダーは、非晶性ポリエステル樹脂中での結晶性ポリエステル樹脂の分散性に優れるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、結晶性ポリエステル樹脂(A)と非晶性ポリエステル樹脂(B)とグラフト重合体(C)を含有するトナーバインダーであって、結晶性ポリエステル樹脂(A)がアルコール成分(x)とカルボン酸成分(y)を原料として反応して得られるポリエステル樹脂であり、前記アルコール成分(x)が炭素数2~36の脂肪族ジオール(x1)を含有し、(x1)の(x)における含有量が(x)の合計モル数を基準として20~80モル%であり、前記カルボン酸成分(y)が炭素数4~36の脂肪族ジカルボン酸(y1)を含有し、(y1)の(y)における含有量が(y)の合計モル数を基準として20~80モル%であり、前記結晶性ポリエステル樹脂(A)の示差走査熱量分析計(DSC)により測定される吸熱ピークのピークトップ温度(Tm)が50℃~85℃であり、前記結晶性ポリエステル樹脂(A)の吸熱ピークの半値幅が7℃以下であり、前記グラフト重合体(C)がエチレン及び/又はプロピレンを必須構成単量体とするポリオレフィンから分岐する側鎖を有する重合体であるトナーバインダーである。
【0008】
本発明は、結晶性ポリエステル樹脂(A)と非晶性ポリエステル樹脂(B)とグラフト重合体(C)を含有するトナーバインダーである。
本発明における「結晶性」とは示差走査熱量測定(DSC測定ともいう)において、DSC曲線が吸熱ピークのピークトップ温度(Tm)を有することを意味する。
以下に吸熱ピークのピークトップ温度(Tm)の測定方法を記載する。
示差走査熱量計(例えばTA Instruments(株)製、DSC Q20)を用いて測定する。試料を30℃から10℃/分の条件で180℃まで第1回目の昇温を行い、続いて180℃から10℃/分の条件で0℃まで冷却し、続いて0℃から10℃/分の条件で180℃まで第2回目の昇温をした際の第2回目の昇温過程の吸熱ピークのトップ温度を吸熱ピークのピークトップ温度(Tm)とする。
【0009】
本発明における結晶性ポリエステル樹脂(A)は、アルコール成分(x)とカルボン酸成分(y)を原料として反応して得られるポリエステル樹脂であり、前記アルコール成分(x)が炭素数2~36の脂肪族ジオール(x1)を含有し、(x1)の(x)における含有量が(x)の合計モル数を基準として20~80モル%であり、前記カルボン酸成分(y)が炭素数4~36の脂肪族ジカルボン酸(y1)を含有し、(y1)の(y)における含有量が(y)の合計モル数を基準として20~80モル%である。前記アルコール成分(x)及びカルボン酸成分(y)は1種単独でもよく2種以上を併用してもよい。
【0010】
本発明における結晶性ポリエステル樹脂(A)のアルコール成分(x)は、必須構成成分である炭素数2~36の脂肪族ジオール(x1)の他、後述する炭素数2~36の脂肪族ジオール(x1)以外のジオール及び/又は3価以上の価数のポリオールが挙げられる。また、アルコール成分(x)には、必要によりモノアルコールを使用してもよい。
【0011】
炭素数2~36の脂肪族ジオール(x1)としては、炭素数2~36の直鎖脂肪族ジオール(エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,13-トリデカンジオール、1,14-テトラデカンジオール、1,15-ペンタデカンジオール、1,18-オクタデカンジオール、1,19-ノナデカンジオール及び1,20-エイコサンジオール等)、炭素数3~36の分岐脂肪族ジオール(プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-ヘプタンジオール、1,2-オクタンジオール、1,2-ノナンジオール、1,2-デカンジオール等)及び炭素数4~36の脂環式ジオール(例えば1,4-シクロヘキサンジメタノール、水素添加ビスフェノールA等)等が挙げられる。
【0012】
上記炭素数2~36の脂肪族ジオール(x1)のうち、結晶性の観点から炭素数2~36の直鎖脂肪族ジオールが好ましい。
【0013】
炭素数2~36の脂肪族ジオール(x1)以外のジオールとしては、炭素数4~36のアルキレンエーテルグリコール(例えばジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等)、上記脂環式ジオールのアルキレンオキサイド付加物(好ましくは付加モル数1~30)、ビスフェノール類(ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS等)のアルキレンオキサイド付加物(好ましくは付加モル数2~30)、ポリラクトンジオール(ポリε-カプロラクトンジオール等)及びポリブタジエンジオール等が挙げられる。
【0014】
脂環式ジオール又はビスフェノール類のアルキレンオキサイド付加物において、アルキレンオキサイド(以下、「アルキレンオキサイド」をAOと略記することがある。)としては、エチレンオキサイド(以下、「エチレンオキサイド」をEOと略記する)付加物、プロピレンオキサイド(以下、「プロピレンオキサイド」をPOと略記する)付加物及びブチレンオキサイド(以下、「ブチレンオキサイド」をBOと略記する)付加物等が挙げられる。
【0015】
3価以上の価数のポリオールとしては、アルカンポリオール及びその分子内もしくは分子間脱水物(例えばグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ソルビタン及びポリグリセリン等)、糖類及びその誘導体(例えばショ糖及びメチルグルコシド等)、トリスフェノール類(トリスフェノールPA等)のアルキレンオキサイド付加物(付加モル数は好ましくは2~30)、ノボラック樹脂(フェノールノボラック及びクレゾールノボラック等が含まれ、平均重合度としては好ましくは3~60)のアルキレンオキサイド付加物(付加モル数は好ましくは2~30)及びアクリルポリオール[ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートと他のビニルモノマーの共重合物等]等が挙げられる。
【0016】
モノアルコールとしては、炭素数1~30の直鎖又は分岐アルキルアルコール(メタノール、エタノール、イソプロパノール、1-デカノール、ドデシルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、アラキジルアルコール、ベヘニルアルコール及びリグノセリルアルコール等)等が挙げられる。
【0017】
炭素数2~36の脂肪族ジオール(x1)以外の成分としては、分散性の観点から、炭素数2~36の脂肪族ジオール(x1)以外のジオールとモノアルコールが好ましく、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物、炭素数1~30の直鎖アルキルアルコールがより好ましい。
【0018】
本発明における結晶性ポリエステル樹脂(A)のカルボン酸成分(y)としては、必須構成成分である炭素数4~36の脂肪族ジカルボン酸(y1)の他、後述する芳香族ジカルボン酸及び/又は3価以上の価数のポリカルボン酸及びこれらの酸の無水物や低級アルキル(炭素数1~4)エステル(メチルエステル、エチルエステル及びイソプロピルエステル等)等が挙げられる。また、カルボン酸成分(y)には、必要によりモノカルボン酸を使用してもよい。
【0019】
炭素数4~36の脂肪族ジカルボン酸(y1)としては、炭素数4~36のアルカンジカルボン酸{鎖状飽和炭化水素基の両末端にカルボキシル基を有するアルカンジカルボン酸(アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸、1,18-オクタデカンジカルボン酸等)、鎖状飽和炭化水素基の末端以外にカルボキシル基を有するアルカンジカルボン酸(デシルコハク酸等)}、及び炭素数4~36のアルケンジカルボン酸(ドデセニルコハク酸、ペンタデセニルコハク酸、オクタデセニルコハク酸等のアルケニルコハク酸、マレイン酸、フマル酸及びシトラコン酸等)等が挙げられる。
【0020】
上記炭素数4~36の脂肪族ジカルボン酸(y1)のうち、結晶性の観点から鎖状飽和炭化水素基の両末端にカルボキシル基を有するアルカンジカルボン酸が好ましい。
【0021】
芳香族ジカルボン酸としては、ベンゼン環やナフタレン環等の共役不飽和環構造に2つのカルボキシル基が結合したカルボン酸であれば特に限定されず、例えば、炭素数8~36の芳香族ジカルボン酸(フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、t-ブチルイソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸及び4,4’-ビフェニルジカルボン酸等)等が挙げられる。
【0022】
3価以上の価数のポリカルボン酸としては、炭素数9~20の芳香族ポリカルボン酸(トリメリット酸及びピロメリット酸等)、炭素数6~36の脂肪族トリカルボン酸(ヘキサントリカルボン酸等)及び不飽和カルボン酸のビニル重合体[数平均分子量(Mn):450~10,000](スチレン/マレイン酸共重合体、スチレン/アクリル酸共重合体、及びスチレン/フマル酸共重合体等)等が挙げられる。
【0023】
モノカルボン酸としては、炭素数(カルボニル基の炭素を含める)7~37の芳香族モノカルボン酸(安息香酸、トルイル酸、4-エチル安息香酸、4-プロピル安息香酸等)、炭素数2~50の脂肪族モノカルボン酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、(メタ)アクリル酸[「(メタ)アクリル」は、アクリル又はメタクリルを意味する。]、クロトン酸、イソクロトン酸及び桂皮酸等)等が挙げられる。
【0024】
炭素数4~36の脂肪族ジカルボン酸(y1)以外の成分としては、分散性の観点から、芳香族ジカルボン酸、3価以上の価数のポリカルボン酸が好ましく、炭素数8~36の芳香族ジカルボン酸、炭素数9~20の芳香族ポリカルボン酸がより好ましい。
【0025】
アルコール成分(x)のうち炭素数2~36の脂肪族ジオール(x1)の含有量は、結晶性及び分散性の観点から(x)の合計モル数を基準として20~80モル%であり、好ましくは40~60モル%である。
【0026】
カルボン酸成分(y)のうち炭素数4~36の脂肪族ジカルボン酸(y1)の含有量は、結晶性及び分散性の観点から(y)の合計モル数を基準として20~80モル%であり、好ましくは40~60モル%である。
【0027】
アルコール成分(x)とカルボン酸成分(y)との反応比率は、水酸基とカルボキシル基のモル比{[OH]/[COOH]}として、好ましくは1/2~2/1であり、より好ましくは1/1.3~1.5/1、さらに好ましくは1/1.2~1.4/1である。
【0028】
本発明において結晶性ポリエステル樹脂(A)は、重縮合反応、エステル交換反応等で製造することができるが、結晶性の観点から重縮合反応とエステル交換反応を組み合わせて製造することが好ましい。例えば、重縮合反応により得た結晶性部(a1)と非晶性部(a2)とのエステル交換反応により製造する方法が挙げられる。
なお、結晶性部(a1)とは、示差走査熱量分析計(DSC)により測定される吸熱ピークのピークトップ温度(Tm)を有し、アルコール成分とカルボン酸成分を原料として反応して得られるポリエステルのことである。また、非晶性部(a2)とは、示差走査熱量分析計(DSC)により吸熱ピークのピークトップ温度(Tm)が観測されず、アルコール成分とカルボン酸成分を原料として反応して得られるポリエステルのことである。
【0029】
本発明の結晶性ポリエステル樹脂(A)の製造において、結晶性部(a1)と非晶性部(a2)とのエステル交換反応により結晶性ポリエステル樹脂(A)を得る場合は、不活性ガス(窒素ガス等)雰囲気中で、反応温度が好ましくは120~280℃、より好ましくは130~250℃、さらに好ましくは140~235℃で反応させることにより行うことができる。また反応時間は、エステル交換反応を確実に行う観点から、好ましくは30分以上、より好ましくは2~40時間である。反応末期の反応速度を向上させるために減圧することも有効である。
【0030】
このとき必要に応じてエステル化触媒を使用することもできる。
エステル化触媒の例には、スズ含有触媒(例えばジブチルスズオキシド等)、三酸化アンチモン、チタン含有触媒[例えばチタンアルコキシド、シュウ酸チタン酸カリウム、テレフタル酸チタン、テレフタル酸チタンアルコキシド、特開2006-243715号公報に記載の触媒(チタニウムジイソプロポキシビストリエタノールアミネート、チタニウムジヒドロキシビストリエタノールアミネート、チタニウムモノヒドロキシトリストリエタノールアミネート、チタニルビストリエタノールアミネート及びそれらの分子内重縮合物等)、及び特開2007-11307号公報に記載の触媒(チタントリブトキシテレフタレート、チタントリイソプロポキシテレフタレート及びチタンジイソプロポキシジテレフタレート等)等]、ジルコニウム含有触媒(例えば酢酸ジルコニル等)並びに酢酸亜鉛等が挙げられる。
エステル化触媒の中で好ましくは、低温定着性の観点から、チタン含有触媒であり、更に好ましくは特開2006-243715号公報に記載の触媒及び特開2007-11307号公報に記載の触媒である。
【0031】
本発明における結晶性ポリエステル樹脂(A)の示差走査熱量分析計(DSC)により測定される吸熱ピークのピークトップ温度(Tm)は50~85℃であり、好ましくは60~80℃であり、より好ましくは70~80℃である。
Tmが50℃以上であれば、結晶性が良好となり、85℃以下であれば、分散性が良好となる。Tmは、炭素数2~36の脂肪族ジオール(x1)の含有量・炭素数及び炭素数4~36の脂肪族ジカルボン酸(y1)の含有量・炭素数によって調整することができる。
例えば、脂肪族ジオール(x1)、脂肪族ジカルボン酸(y1)の含有量・炭素数が増えると、ピークトップ温度(Tm)が高くなる。
さらに結晶性ポリエステル樹脂(A)が、結晶性部(a1)と非晶性部(a2)とのエステル交換反応により得られる樹脂であれば脂肪族ジオール(x1)、脂肪族ジカルボン酸(y1)の含有量・炭素数が少ない場合でも結晶性が維持され易くなるため、上記吸熱ピークのピークトップ温度(Tm)の達成が容易となる。
【0032】
本発明における結晶性ポリエステル樹脂(A)のピークトップ温度(Tm)を示す吸熱ピークの半値幅は7℃以下であり、好ましくは6℃以下であり、特に好ましくは2~6℃である。ピークトップ温度(Tm)を示す吸熱ピークの半値幅は、吸熱ピークのピークトップ温度(Tm)の測定によって得られるDSC曲線に基づいて、吸熱ピークのベースラインからピーク最大高さにおける2分の1高さにおけるピークの温度幅とする。吸熱ピークの半値幅は炭素数2~36の脂肪族ジオール(x1)の含有量・炭素数及び炭素数4~36の脂肪族ジカルボン酸(y1)の含有量・炭素数や重縮合反応、エステル交換反応等の反応条件によって調整することができる。
例えば、脂肪族ジオール(x1)、脂肪族ジカルボン酸(y1)の含有量・炭素数が増えると、吸熱ピークの半値幅が低くなる。また、結晶性ポリエステル樹脂(A)が、結晶性部(a1)と非晶性部(a2)とのエステル交換反応により得られる樹脂であれば、脂肪族ジオール(x1)、脂肪族ジカルボン酸(y1)の含有量・炭素数が少ない場合でも結晶性が維持され易くなるため、上記吸熱ピークの半値幅の達成が容易となる。
例えば結晶性ポリエステル樹脂(A)が、結晶性部(a1)と非晶性部(a2)とのエステル交換反応により得られる樹脂であり、結晶性部(a1)と非晶性部(a2)との重量比(a1/a2)が20/80~70/30であれば上記半値幅の達成が容易となる。
【0033】
前記結晶性ポリエステル樹脂(A)の示差走査熱量分析計(DSC)により測定される吸熱ピークに基づく吸熱量が20~90J/gであることが結晶性の観点から好ましい。
【0034】
結晶性ポリエステル樹脂(A)の酸価は、結晶性の観点から好ましくは0~30mgKOH/gであり、より好ましくは0~10mgKOH/gである。
【0035】
結晶性ポリエステル樹脂(A)の水酸基価は、結晶性の観点から好ましくは0~100mgKOH/gであり、より好ましくは20~50mgKOH/gである。
【0036】
結晶性ポリエステル樹脂(A)の数平均分子量(以下Mnと略記する場合がある)は、結晶性の観点から好ましくは1,000~1,000,000であり、より好ましくは3,000~10,000である。
【0037】
結晶性ポリエステル樹脂(A)の重量平均分子量(以下Mwと略記する場合がある)は、結晶性の観点から好ましくは2,000~2,000,000であり、より好ましくは6,000~20,000である。
【0038】
本発明における非晶性ポリエステル樹脂(B)は、アルコール成分(X)とジカルボン酸成分(Y)を原料として反応して得られるポリエステル樹脂であり、前記アルコール成分(X)がビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物(X1)を含有することが帯電性と保存安定性の観点から好ましい。前記アルコール成分(X)及びカルボン酸成分(Y)は1種単独でもよく2種以上を併用してもよい。
【0039】
本発明における非晶性ポリエステル樹脂(B)のアルコール成分(X)は、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物(X1)の他、後述する(X1)以外のジオール及び/又は3価以上の価数のポリオールが挙げられる。また、アルコール成分(X)には、必要によりモノアルコールを使用してもよい。
【0040】
ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物(X1)は、ビスフェノールAにアルキレンオキサイドを付加して得られる化合物であり、例えば、ビスフェノールAのEO付加物、ビスフェノールAのPO付加物、及びビスフェノールAのBO付加物等が挙げられる。
【0041】
上記ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物(X1)のうち、帯電性と保存安定性の観点からビスフェノールAのEO付加物及びビスフェノールAのPO付加物が好ましい。
【0042】
ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物(X1)のアルキレンオキサイドの付加モル数は、帯電性と保存安定性の観点から、好ましくは2~30であり、より好ましくは2~10であり、さらに好ましくは2~5である。
【0043】
ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物(X1)以外のジオールとしては、炭素数2~36の直鎖脂肪族ジオール(エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,13-トリデカンジオール、1,14-テトラデカンジオール、1,15-ペンタデカンジオール、1,18-オクタデカンジオール、1,19-ノナデカンジオール及び1,20-エイコサンジオール等)、炭素数3~36の分岐脂肪族ジオール(プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-ヘプタンジオール、1,2-オクタンジオール、1,2-ノナンジオール、1,2-デカンジオール等)、炭素数4~36の脂環式ジオール(例えば1,4-シクロヘキサンジメタノール、水素添加ビスフェノールA等)、炭素数4~36のアルキレンエーテルグリコール(例えばジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等)、上記脂環式ジオールのアルキレンオキサイド〔EO、PO、BO等〕付加物(好ましくは付加モル数1~30)、ビスフェノール類(ビスフェノールF、ビスフェノールS等)のアルキレンオキサイド(EO、PO、BO等)付加物(好ましくは付加モル数2~30)、ポリラクトンジオール(ポリε-カプロラクトンジオール等)及びポリブタジエンジオール等が挙げられる。
【0044】
3価以上の価数のポリオールとしては、結晶性ポリエステル樹脂(A)で例示したものと同様のものを用いることができる。
【0045】
モノアルコールとしては、結晶性ポリエステル樹脂(A)で例示したものと同様のものを用いることができる。
【0046】
アルコール成分(X)として、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物(X1)以外の成分を含む場合は、低温定着性の観点から、ジオールが好ましく、炭素数2~36の直鎖脂肪族ジオール、炭素数3~36の分岐脂肪族ジオールがより好ましい。
【0047】
本発明における非晶性ポリエステル樹脂(B)のカルボン酸成分(Y)としては、結晶性ポリエステル樹脂(A)で例示したカルボン酸成分(y)と同様のものを用いることができ、カルボン酸成分(Y)として好ましいものは炭素数8~36の芳香族ジカルボン酸、炭素数4~36のアルカンジカルボン酸、炭素数9~20の芳香族ポリカルボン酸である。
【0048】
アルコール成分(X)のうちビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物(X1)の含有率は、帯電性と保存安定性の観点から、好ましくはポリエステル樹脂の構成成分であるアルコール成分(X)の合計モル数を基準として90~100モル%であり、より好ましくは95~100モル%であり、さらに好ましくは100モル%である。
【0049】
カルボン酸成分(Y)のうち芳香族ジカルボン酸の含有率は、帯電性と保存安定性の観点から、好ましくはポリエステル樹脂の構成成分であるカルボン酸成分(Y)の合計モル数を基準として70~100モル%である。
【0050】
アルコール成分(X)とカルボン酸成分(Y)との反応比率は、水酸基とカルボキシル基のモル比{[OH]/[COOH]}として、好ましくは1/2~2/1であり、より好ましくは1/1.3~1.5/1、さらに好ましくは1/1.2~1.4/1である。
【0051】
本発明において非晶性ポリエステル樹脂(B)は、公知のポリエステル製造法と同様にして製造することができる。例えば、アルコール成分(X)とカルボン酸成分(Y)とを含む成分を、不活性ガス(窒素ガス等)雰囲気中で、反応温度が好ましくは150~280℃、より好ましくは160~250℃、さらに好ましくは170~235℃で反応させることにより行うことができる。また反応時間は、重縮合反応を確実に行う観点から、好ましくは30分以上、より好ましくは2~40時間である。反応末期の反応速度を向上させるために減圧することも有効である。
【0052】
このとき必要に応じてエステル化触媒を使用することもできる。エステル化触媒は、結晶性ポリエステル樹脂(A)で例示したエステル化触媒と同様のものを用いることができ、好ましいものも同様である。
【0053】
非晶性ポリエステル樹脂(B)のガラス転移温度(以下Tgと略記する)は、好ましくは20~90℃であり、更に好ましくは40~80℃である。20℃以上であれば耐熱保存性に優れ、90℃以下であれば低温定着性に対する阻害が少ない。
【0054】
非晶性ポリエステル樹脂(B)の酸価は、帯電性及び耐熱保存性の観点から好ましくは0~75mgKOH/gであり、より好ましくは8~23mgKOH/gである。
【0055】
非晶性ポリエステル樹脂(B)の水酸基価は、帯電性及び耐熱保存性の観点から好ましくは0~120mgKOH/gであり、より好ましくは1~55mgKOH/gである。
【0056】
非晶性ポリエステル樹脂(B)の数平均分子量(以下Mnと略記する場合がある)は、耐熱保存性及び低温定着性の観点から好ましくは1,000~100,000であり、より好ましくは2,500~65,000である。
【0057】
非晶性ポリエステル樹脂(B)の重量平均分子量(以下Mwと略記する場合がある)は、耐熱保存性及び低温定着性の観点から好ましくは2,000~200,000であり、より好ましくは5,000~130,000である。
【0058】
非晶性ポリエステル樹脂(B)の1/2降下温度は、80~170℃が耐熱保存性及び低温定着性の観点から好ましく、より好ましくは97~150℃である。
【0059】
非晶性ポリエステル樹脂(B)は1/2降下温度の異なるものを2種類以上併用してもよく、1/2降下温度が80℃以上110℃未満のものと110℃以上170℃以下のものとの組み合わせが低温定着性の観点から好ましく、1/2降下温度が85℃~105℃のものと115℃~160℃のものとの組み合わせがより好ましい。
【0060】
本発明におけるグラフト重合体(C)は、エチレン及び/又はプロピレンを必須構成単量体とするポリオレフィンから分岐する側鎖を有する重合体である。エチレン及び/又はプロピレンを必須構成単量体とするポリオレフィンとしては、ポリエチレン及びポリプロピレン等が挙げられる。
【0061】
ポリオレフィンから分岐する側鎖は、ビニル基を有する単量体を構成単量体とする重合体である。ビニル基を有する単量体としては、ポリオレフィンから分岐する側鎖を形成するものであれば特に制限はなく、目的に応じて公知のものの中から適宜選択することができ、例えば、下記(1)~(10)が挙げられる。
(1)ビニル炭化水素
ビニル炭化水素としては、(1-1)脂肪族ビニル炭化水素、(1-2)脂環式ビニル炭化水素及び(1-3)芳香族ビニル炭化水素等が挙げられる。
(1-1)脂肪族ビニル炭化水素
脂肪族ビニル炭化水素としては、アルケン及びアルカジエン等が挙げられる。
アルケンの具体的な例としてはプロピレン、ブテン、イソブチレン、ペンテン、ヘプテン、ジイソブチレン、オクテン、ドデセン、オクタデセン及び前記以外のα-オレフィン等が挙げられる。
アルカジエンの具体的な例としてはブタジエン、イソプレン、1,4-ペンタジエン、1,6-ヘプタジエン及び1,7-オクタジエン等が挙げられる。
(1-2)脂環式ビニル炭化水素
脂環式ビニル炭化水素としては、モノ-もしくはジ-シクロアルケン及びアルカジエン等が挙げられ、具体的な例としてはシクロヘキセン、(ジ)シクロペンタジエン、ビニルシクロヘキセン、エチリデンビシクロヘプテン及びテルペン類(ピネン、リモネン、インデン等)等が挙げられる。
(1-3)芳香族ビニル炭化水素
芳香族ビニル炭化水素としては、スチレン及びそのハイドロカルビル(アルキル、シクロアルキル、アラルキル及び/又はアルケニル)置換体等が挙げられ、具体的にはα-メチルスチレン、ビニルトルエン、2,4-ジメチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、ブチルスチレン、フェニルスチレン、シクロヘキシルスチレン、ベンジルスチレン、クロチルベンゼン、ジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルキシレン、トリビニルベンゼン及びビニルナフタレン等が挙げられる。
【0062】
(2)カルボキシル基含有ビニルモノマー及びその塩
カルボキシル基含有ビニルモノマー及びその塩としては、炭素数3~30の不飽和モノカルボン酸(塩)、不飽和ジカルボン酸(塩)ならびにその無水物及びそのモノアルキル(炭素数1~24)エステル又はその塩等が挙げられる。
具体的には、(メタ)アクリル酸、(無水)マレイン酸、マレイン酸モノアルキルエステル、フマル酸、フマル酸モノアルキルエステル、クロトン酸、イタコン酸、イタコン酸モノアルキルエステル、イタコン酸グリコールモノエーテル、シトラコン酸、シトラコン酸モノアルキルエステル、桂皮酸等のカルボキシル基含有ビニルモノマー及びこれらの金属塩等が挙げられる。
【0063】
本発明において「(塩)」とは、化合物の塩を意味する。
例えば炭素数3~30の不飽和モノカルボン酸(塩)とは、不飽和モノカルボン酸あるいはその塩を意味する。
【0064】
(3)スルホン基含有ビニルモノマー、ビニル硫酸モノエステル化物及びこれらの塩
スルホン基含有ビニルモノマー、ビニル硫酸モノエステル化物及びこれらの塩としては、炭素数2~14のアルケンスルホン酸(塩)、スチレンスルホン酸(塩)、スチレンスルホン酸(塩)の炭素数2~24のアルキル誘導体、スルホ(ヒドロキシ)アルキル-(メタ)アクリレート(塩)、スルホ(ヒドロキシ)アルキル-(メタ)アクリルアミド(塩)、アルキルアリルスルホコハク酸及びポリオキシアルキレンモノ(メタ)アクリレートの硫酸エステル等が挙げられる。
具体的には、ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、メチルビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、α-メチルスチレンスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロキシプロピルスルホン酸、2-(メタ)アクリロイルアミノ-2,2-ジメチルエタンスルホン酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエタンスルホン酸、3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、3-(メタ)アクリルアミド-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸、アルキル(炭素数3~18)アリルスルホコハク酸、ポリ(n=2~30)オキシアルキレン(エチレン、プロピレン、ブチレン:単独、ランダム、ブロックでもよい)モノ(メタ)アクリレートの硫酸エステル[ポリ(n=5~15)オキシプロピレンモノメタクリレート硫酸エステル等]及びポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル等が挙げられる。
【0065】
(4)燐酸基含有ビニルモノマー及びその塩:
燐酸基含有ビニルモノマー及びその塩としては、(メタ)アクリロイルオキシアルキル(炭素数1~24)燐酸モノエステル(塩)及び(メタ)アクリロイルオキシアルキル(炭素数1~24)ホスホン酸(塩)等が挙げられる。
具体的には、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリロイルホスフェート及びフェニル-2-アクリロイロキシエチルホスフェート及び2-アクリロイルオキシエチルホスホン酸等が挙げられる。
【0066】
上記(2)~(4)の塩としては、例えばアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩等)、アンモニウム塩、アミン塩及び4級アンモニウム塩が挙げられる。
【0067】
(5)ヒドロキシル基含有ビニルモノマー
ヒドロキシル基含有ビニルモノマーとしては、ヒドロキシスチレン、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、(メタ)アリルアルコール、クロチルアルコール、イソクロチルアルコール、1-ブテン-3-オール、2-ブテン-1-オール、2-ブテン-1,4-ジオール、プロパルギルアルコール、2-ヒドロキシエチルプロペニルエーテル及び蔗糖アリルエーテル等が挙げられる。
【0068】
(6)含窒素ビニルモノマー
含窒素ビニルモノマーとしては、(6-1)アミノ基含有ビニルモノマー、(6-2)アミド基含有ビニルモノマー、(6-3)ニトリル基含有ビニルモノマー、(6-4)4級アンモニウムカチオン基含有ビニルモノマー及び(6-5)ニトロ基含有ビニルモノマー等が挙げられる。
(6-1)アミノ基含有ビニルモノマーとしては、アミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、t-ブチルアミノエチルメタクリレート、N-アミノエチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アリルアミン、モルホリノエチル(メタ)アクリレート、4ービニルピリジン、2ービニルピリジン、クロチルアミン、N,N-ジメチルアミノスチレン、メチルα-アセトアミノアクリレート、ビニルイミダゾール、N-ビニルピロール、N-ビニルチオピロリドン、N-アリールフェニレンジアミン、アミノカルバゾール、アミノチアゾール、アミノインドール、アミノピロール、アミノイミダゾール、アミノメルカプトチアゾール、及びこれらの塩等が挙げられる。
(6-2)アミド基含有ビニルモノマーとしては、(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-ブチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N’-メチレン-ビス(メタ)アクリルアミド、桂皮酸アミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジベンジルアクリルアミド、メタクリルホルムアミド、N-メチルN-ビニルアセトアミド、及びN-ビニルピロリドン等が挙げられる。
(6-3)ニトリル基含有ビニルモノマーとしては、(メタ)アクリロニトリル、シアノスチレン及びシアノアクリレート等が挙げられる。
(6-4)4級アンモニウムカチオン基含有ビニルモノマーとしては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド及びジアリルアミン等の3級アミン基含有ビニルモノマーの4級化物(メチルクロライド、ジメチル硫酸、ベンジルクロライド、ジメチルカーボネート等の4級化剤を用いて4級化したもの)等が挙げられる。
(6-5)ニトロ基含有ビニルモノマーとしてはニトロスチレン等が挙げられる。
【0069】
(7)エポキシ基含有ビニルモノマー
エポキシ基含有ビニルモノマーとしては、グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート及びp-ビニルフェニルプロピレンオキサイド等が挙げられる。
【0070】
(8)ハロゲン元素含有ビニルモノマー
ハロゲン元素含有ビニルモノマーとしては、塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン、アリルクロライド、クロロスチレン、ブロムスチレン、ジクロルスチレン、クロロメチルスチレン、テトラフルオロエチレン、フルオロアクリレート、テトラフルオロスチレン及びクロロプレン等が挙げられる。
【0071】
(9)(メタ)アクリル酸のアルキルエステル、ビニルエステル、ビニル(チオ)エーテル、ビニルケトン
(9-1)(メタ)アクリル酸のアルキルエステルとしては、例えば炭素数1~50のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート[メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレート、及びベヘニル(メタ)アクリレート等)]等が挙げられる。
(9-2)ビニルエステルとしては、例えばビニルブチレート、プロピオン酸ビニル及び酪酸ビニル等が挙げられる。
(9-3)ビニル(チオ)エーテルとしては、例えばビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルプロピルエーテル、ビニルブチルエーテル、ビニル2-エチルヘキシルエーテル、ビニルフェニルエーテル、ビニル2-メトキシエチルエーテル、メトキシブタジエン、ビニル2-ブトキシエチルエーテル、3,4-ジヒドロ1,2-ピラン、2-ブトキシ-2’-ビニロキシジエチルエーテル、ビニル2-エチルメルカプトエチルエーテル、アセトキシスチレン、及びフェノキシスチレン等が挙げられる。
(9-4)ビニルケトンとしては、例えばビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、及びビニルフェニルケトン等が挙げられる。
【0072】
(10)その他のビニルモノマー
その他のビニルモノマーとしては、イソシアナトエチル(メタ)アクリレート及びm-イソプロペニル-α,α-ジメチルベンジルイソシアネート等が挙げられる。
【0073】
グラフト重合体(C)の合成には、上記(1)~(10)のビニルモノマーの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよく、分散性の観点から、ビニル炭化水素、カルボキシル基含有ビニルモノマー及びその塩、含窒素ビニルモノマー、(メタ)アクリル酸のアルキルエステルが好ましく、より好ましくは芳香族ビニル炭化水素、炭素数3~30の不飽和モノカルボン酸(塩)、ニトリル基含有ビニルモノマー、炭素数1~50のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートであり、さらに好ましくはスチレン、アクリル酸、アクリロニトリル、メチルメタクリレート、n-ブチルアクリレートである。
【0074】
ポリオレフィンから分岐する側鎖を構成する単量体のSP値(溶解度パラメータ)のモル分率に基づく平均値は10.3~12.3(cal/cm3)1/2であることが好ましい。より好ましくは10.5~11.8(cal/cm3)1/2である。SP値のモル分率に基づく平均値が10.3~12.3であればグラフト重合体(C)が適度な極性となりトナー中の離型剤及び結晶性ポリエステル樹脂(A)の分散性が良好となる。なお、本発明におけるSP値は、Fedorsによる方法[Polym.Eng.Sci.14(2)152,(1974)]により計算することができる。
【0075】
グラフト重合体(C)のポリオレフィンの重量割合は、分散性の観点から、(C)の重量を基準として5~15重量%であることが好ましい。5重量%以上であれば離型剤及び結晶性ポリエステル樹脂(A)の分散性に優れ、15重量%以下であれば低温定着性に対する阻害が少ない。
【0076】
グラフト重合体(C)の製造方法は、例えば、ポリオレフィンをトルエン、キシレン等の溶剤に溶解または分散させ、100℃~200℃に加熱した後、ビニル基を有する単量体の混合物をパーオキサイド系開始剤(ベンゾイルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシドベンゾエート等)とともに滴下重合後、溶剤を留去することにより行うことができる。
【0077】
グラフト重合体(C)の酸価は、80mgKOH/g以下であることが好ましく、より好ましくは63mgKOH/g以下であり、さらに好ましくは0.5mgKOH/g以下である。酸価が80mgKOH/g以下であれば、グラフト重合体(C)が疎水性となり耐熱保存性に優れる。
【0078】
グラフト重合体(C)の数平均分子量(以下Mnと略記する)は、好ましくは1000~4000であり、より好ましくは1500~3000である。1000以上であれば耐熱保存性に優れ、4000以下であれば低温定着性に対する阻害が少ない。
【0079】
グラフト重合体(C)の重量平均分子量(以下Mwと略記する)は、好ましくは8000~40000であり、より好ましくは8000~39400である。8000以上であれば耐熱保存性に優れ、40000以下であれば低温定着性に対する阻害が少ない。
【0080】
グラフト重合体(C)の1/2降下温度は、90~140℃が好ましく、より好ましくは110~130℃である。
【0081】
本発明のトナーバインダー中の結晶性ポリエステル樹脂(A)の重量割合は、低温定着性及び定着強度の観点から、5~50重量%であることが好ましい。
【0082】
本発明のトナーバインダー中の非晶性ポリエステル樹脂(B)の重量割合は、耐熱保存性の観点から、47~92重量%であることが好ましい。
【0083】
本発明のトナーバインダー中のグラフト重合体(C)の重量割合は、分散性の観点から、3~15重量%であることが好ましい。
【0084】
本発明のトナーバインダー中の結晶性ポリエステル樹脂(A)と非晶性ポリエステル樹脂(B)との重量比(A/B)は、低温定着性及び保存安定性の観点から、10/90~40/60であることが好ましい。
【0085】
次に、本発明のトナーバインダーの製造方法について説明する。
トナーバインダーの製造方法としては、結晶性ポリエステル樹脂(A)、非晶性ポリエステル樹脂(B)及びグラフト重合体(C)が均一に混合していれば特に混合方法は限定されず、公知の混合方法としては、例えば粉体混合、溶融混合及び溶剤混合等が挙げられる。また、結晶性ポリエステル樹脂(A)、非晶性ポリエステル樹脂(B)及びグラフト重合体(C)の混合は、トナーを製造する時に他の必要なトナー原料と共に混合してもよい。
【0086】
粉体混合する場合の混合装置としては、ヘンシェルミキサー、ナウターミキサー及びバンバリーミキサー等が挙げられる。好ましくはヘンシェルミキサーである。
溶融混合する場合の混合装置としては、反応槽等のバッチ式混合装置及び連続式混合装置が挙げられる。適正な温度で短時間で均一に混合するためには、連続式混合装置が好ましい。連続式混合装置としては、スタティックミキサー、エクストルーダー、コンティニアスニーダー及び3本ロール等が挙げられる。
溶剤混合の方法としては、結晶性ポリエステル樹脂(A)、非晶性ポリエステル樹脂(B)及びグラフト重合体(C)を有機溶剤(酢酸エチル、THF及びアセトン等)に溶解又は分散し、均一化させた後、脱溶剤及び粉砕する方法や、結晶性ポリエステル樹脂(A)、非晶性ポリエステル樹脂(B)及びグラフト重合体(C)を有機溶剤(酢酸エチル、THF及びアセトン等)に溶解又は分散し、水中に分散させた後、造粒及び脱溶剤する方法等が挙げられる。
【0087】
上記製造方法で得たトナーバインダーを用いて、トナー用の樹脂粒子を得てもよい。
前記樹脂粒子中のトナーバインダーの含有量は、樹脂粒子の重量に基づき、好ましくは30~97重量%であり、より好ましくは42~96重量%、更に好ましくは50~95重量%である。
【0088】
樹脂粒子は、必要により公知の、着色剤、離型剤、荷電制御剤、流動化剤などの種々の添加剤等を混合することができる。
【0089】
着色剤としては黒色着色剤、青色着色剤、赤色着色剤及び黄色着色剤からなる群より選ばれる1種類以上を含有することが好ましい。着色剤としては、トナー用着色剤として使用されている染料、顔料等のすべてを使用することができる。
具体的には、カーボンブラック、鉄黒、スーダンブラックSM、ファーストイエローG、ベンジジンイエロー、ソルベントイエロー(21、77及び114等)、ピグメントイエロー(12、14、17及び83等)、インドファーストオレンジ、イルガシンレッド、パラニトアニリンレッド、トルイジンレッド、ソルベントレッド(17、49、128、5、13、22及び48・2等)、ディスパースレッド、カーミンFB、ピグメントオレンジR、レーキレッド2G、ローダミンFB、ローダミンBレーキ、メチルバイオレットBレーキ、フタロシアニンブルー、ソルベントブルー(25、94、60及び15・3等)、ピグメントブルー、ブリリアントグリーン、フタロシアニングリーン、オイルイエローGG、カヤセットYG、オラゾールブラウンB及びオイルピンクOP等が挙げられる。また、必要により磁性粉(鉄、コバルト及びニッケル等の強磁性金属の粉末、マグネタイト、ヘマタイト並びにフェライト等の化合物)を着色剤としての機能を兼ねて含有させることができる。
着色剤の含有量は、本発明のトナーバインダーの合計100重量部に対して、好ましくは1~40重量部、より好ましくは2~15重量部である。なお、磁性粉を用いる場合は、磁性粉の含有量は、トナーバインダーの合計100重量部に対して、好ましくは20~150重量部、より好ましくは30~120重量部である。
【0090】
離型剤としては、天然ワックス(蜜ろう、カルナバワックス及びモンタンワックス等)、石油ワックス(パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、及びペトロラタム等)、合成ワックス(フィッシャートロプシュワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、酸化ポリエチレンワックス及び酸化ポリプロピレンワックス等)、及び合成エステルワックス(炭素数10~30の脂肪酸と炭素数10~30のアルコールから合成される脂肪酸エステル等)等が挙げられ、これらの離型剤からなる群より選ばれる1種類以上を含有することが好ましい。離型剤の含有量は、本発明のトナーバインダーの合計100重量部に対して、好ましくは0~30重量%、より好ましくは0.5~20重量%、さらに好ましくは1~10重量%である。
【0091】
荷電制御剤としては、正帯電性荷電制御剤及び負帯電性荷電制御剤のいずれを含有していてもよく、例えば、ニグロシン染料、3級アミンを側鎖として含有するトリフェニルメタン系染料、4級アンモニウム塩、ポリアミン樹脂、イミダゾール誘導体、4級アンモニ
ウム塩基含有ポリマー、含金属アゾ染料、銅フタロシアニン染料、サリチル酸金属塩、ベンジル酸のホウ素錯体、スルホン酸基含有ポリマー、含フッ素系ポリマー、ハロゲン置換芳香環含有ポリマー等が挙げられる。荷電制御剤の含有量は、本発明のトナーバインダーの合計100重量部に対して、0~20重量%であってよく、好ましくは0.1~10重量%、より好ましくは0.5~7.5重量%である。
【0092】
流動化剤としては、シリカ、チタニア、アルミナ、脂肪酸金属塩、シリコーン樹脂粒子及びフッ素樹脂粒子等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。トナーの帯電性の観点からシリカが好ましい。また、シリカは、トナーの転写性の観点から疎水性シリカであることが好ましい。流動化剤の含有量は、本発明のトナーバインダーの合計100重量部に対して、0~10重量%であってよく、好ましくは0~5重量%、より好ましくは0.1~4重量%である。
【0093】
また、着色剤、離型剤、荷電制御剤、流動化剤などの添加剤の合計重量は樹脂粒子の重量に基づき、3~70重量%であってよく、好ましくは4~58重量%、より好ましくは5~50重量%である。
【0094】
樹脂粒子の体積平均粒径(D50)は、好ましくは1~15μmであり、更に好ましくは2~10μm、特に好ましくは3~7μmである。上記範囲とすることで低温定着性が良好となる。
【0095】
樹脂粒子の製造方法については特に制限はなく、公知の混練粉砕法、特公昭36-10231号公報、特開昭59-53856号公報、特開昭59-61842号公報に記載されている懸濁重合法、単量体には可溶で水溶性重合開始剤の存在下で直接重合させてトナーを生成するソープフリー重合法に代表される乳化重合法、マイクロカプセル製法のような界面重合法、in site重合法、コアセルベーション法、特開昭62-106473号公報や特開昭63-186253号公報に開示されている様な少なくとも1種以上の微粒子を凝集させ所望の粒径のものを得る乳化凝集法、単分散を特徴とする分散重合法、非水溶性有機溶媒に必要な樹脂類を溶解させた後水中で樹脂粒子化する溶解懸濁法やエステル伸長重合法により得られたものであってもよいし、超臨界状態の二酸化炭素中で分散する方法により製造してもよい。
【0096】
樹脂粒子をトナーとして使用する場合は、必要に応じて鉄粉、ガラスビーズ、ニッケル粉、フェライト、マグネタイト及び樹脂(アクリル樹脂、シリコーン樹脂等)により表面をコーティングしたフェライト等のキャリア粒子と混合されて電気的潜像の現像剤として用いられる。キャリア粒子を用いる場合、トナーとキャリア粒子との重量比は、1/99~99/1が好ましい。また、キャリア粒子の代わりに帯電ブレード等の部材と摩擦し、電気的潜像を形成することもできる。
なお、トナーは、キャリア粒子を含まなくてもよい。
【0097】
トナーは、複写機、プリンター等により支持体(紙、ポリエステルフィルム等)に定着して記録材料とされる。支持体に定着する方法としては、公知の熱ロール定着方法及びフラッシュ定着方法等が適用できる。
【0098】
トナーは電子写真法、静電記録法や静電印刷法等において、静電荷像又は磁気潜像の現像に用いられる。さらに詳しくは、特にフルカラー用に好適な静電荷像又は磁気潜像の現像に用いられる。
【実施例】
【0099】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、特に定めない限り「部」は重量部を示す。
【0100】
結晶性ポリエステル樹脂、非晶性ポリエステル樹脂、グラフト重合体及びトナー等の各物性値については次の方法により測定した。
【0101】
<結晶性ポリエステル樹脂の吸熱ピークのピークトップ温度>
示差走査熱量計{例えば「DSCQ20」[TA Instruments(株)製]}を用いて測定した。結晶性ポリエステル樹脂を30℃から10℃/分の条件で180℃まで第1回目の昇温を行い、続いて180℃から10℃/分の条件で0℃まで冷却し、続いて0℃から10℃/分の条件で180℃まで第2回目の昇温をした際の第2回目の昇温過程の吸熱ピークのトップを示す温度を結晶性ポリエステル樹脂の吸熱ピークのピークトップ温度とした。
【0102】
<結晶性ポリエステル樹脂の吸熱ピークにおける吸熱量>
上記吸熱ピークのピークトップ温度の測定と同様の測定条件で観測される第2回目の昇温過程のDSC曲線で、吸熱ピークの吸熱開始温度(T0)以下のベースライン上の最もピークに近い点と吸熱ピークの終点温度以上のベースライン上の最もピークに近い点とを結ぶ直線を引くことにより、上記吸熱ピークのピークトップ温度をもつ吸熱ピークにおける吸熱量を算出した。
【0103】
<結晶性ポリエステル樹脂の吸熱ピークの半値幅>
上記吸熱ピークのベースラインからピーク最大高さにおける2分の1高さにおけるピークの温度幅を、吸熱ピークの半値幅とした。
【0104】
<重量平均分子量(Mw)>
重量平均分子量(Mw)の測定は、試料をテトラヒドロフラン(THF)に溶解し、不溶解分をグラスフィルターでろ別したものを試料溶液とし、以下の条件で測定した。
装置 : 東ソー(株)製 HLC-8120
カラム : TSK GEL GMH6 2本 〔東ソー(株)製〕
測定温度 : 40℃
試料溶液 : 0.25重量%のTHF溶液
溶液注入量 : 100μl
検出装置 : 屈折率検出器
基準物質 : 東ソー(株)製 標準ポリスチレン(TSKstandard POLYSTYRENE)12点(分子量 500 1,050 2,800 5,970 9,100 18,100 37,900 96,400 190,000 355,000 1,090,000 2,890,000)
【0105】
<酸価及び水酸基価>
JIS K0070に規定の方法で測定した。ただし、酸価の測定溶媒はアセトン、メタノール及びトルエンの混合溶媒(重量比はアセトン:メタノール:トルエン=12.5:12.5:75)、水酸基価の測定溶媒はTHFとした。
【0106】
<1/2降下温度>
定試験力押出形細管式レオメータフローテスタ{(株)島津製作所製、CFT-500D}を用いて、1gの測定試料を昇温速度6℃/分で加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押し出して、「プランジャー降下量(流れ値)」と「温度」とのグラフを描き、プランジャーの降下量の最大値の1/2に対応する温度をグラフから読み取り、この値(測定試料の半分が流出したときの温度)を1/2降下温度とした。
【0107】
<ガラス転移温度(Tg)の測定方法>
示差走査熱量計(TA Instruments(株)製、DSC Q20)を用いて、ASTM D3418-82に規定の方法(DSC法)で、以下の条件により測定した。
(1)30℃から20℃/分で150℃まで昇温
(2)150℃で10分間保持
(3)20℃/分で-35℃まで冷却
(4)-35℃で10分間保持
(5)20℃/分で150℃まで昇温
(6)(5)の過程にて測定される示差走査熱量曲線を解析しガラス転移温度を求めた。
【0108】
<トナーの体積平均粒径(D50)(μm)、個数平均粒径(μm)、粒度分布(体積平均粒径/個数平均粒径)>
コールターカウンター[商品名:マルチサイザーIII(ベックマン・コールター(株)製)]を用いて測定した。
まず、電解水溶液であるISOTON-II(ベックマン・コールター社製)100~150mL中に分散剤として界面活性剤(アルキルベンゼンスルホン酸塩)を0.1~5mL加えた。さらに測定試料を2~20mg加え、試料を懸濁した電解液を、超音波分散器で約1~3分間分散処理を行い、前記測定装置により、アパーチャーとして50μmアパーチャーを用いて、トナーの体積、個数を測定して、体積分布と個数分布を算出した。得られた分布から、トナーの体積平均粒径(D50)(μm)、個数平均粒径(μm)、粒度分布(体積平均粒径/個数平均粒径)を求めた。
【0109】
<製造例1>[結晶性ポリエステル樹脂(A-1)の合成]
<結晶部(a1)の合成>
冷却管、加熱冷却装置、温度計、撹拌機及び窒素導入管の付いた反応槽中に、1,12-ドデカンジオール231部(50モル%)、ドデカン二酸259部(58モル%)、ベヘニルアルコール10部(1モル%)、及び縮合触媒としてチタニウムジヒドロキシビス(トリエタノールアミネート)1.5部を入れ、170℃で窒素気流下に、生成する水を留去しながら8時間反応させた。次いで220℃まで徐々に昇温しながら、窒素気流下に、生成する水を留去しながら4時間反応させ、さらに0.5~2.5kPaの減圧下に反応させ、酸価が1mgKOH/gになった時点で取り出した。取り出した樹脂を室温まで冷却後、粉砕して粒子化し、結晶部(a1)を得た。結晶部(a1)の重量平均分子量(Mw)は39,000、吸熱ピークのピークトップ温度(Tm)は84℃、吸熱ピークにおける吸熱量は116J/g、酸価は1mgKOH/g、水酸基価は6mgKOH/gだった。
【0110】
<非結晶部(a2)の合成>
冷却管、撹拌機及び窒素導入管の付いた別の反応槽中に、ビスフェノールA・PO2モル付加物(三洋化成工業(株)製、「ハイマーBP-2P」)153部(19モル%)、ビスフェノールA・EO2モル付加物(三洋化成工業(株)製、「ハイマーBPE-20」)209部(29モル%)、テレフタル酸132部(41モル%)、縮合触媒としてチタニウムジヒドロキシビス(トリエタノールアミネート)3.0部を入れ、230℃まで0.5~2.5kPaの減圧下で昇温しながら、生成する水を留去しながら反応させ、酸価が2mgKOH/g未満になるまで反応させた。次いで180℃まで冷却し、無水トリメリット酸6部(2モル%)を加え、常圧下で1時間反応させて取り出した。取り出した樹脂を室温まで冷却後、粉砕して粒子化し、非結晶部(a2)を得た。非結晶部(a2)の1/2降下温度は97℃、ガラス転移温度(Tg)は58℃、酸価は8mgKOH/g、水酸基価は55mgKOH/g、重量平均分子量(Mw)は5,000だった。
【0111】
<結晶性ポリエステル樹脂(A-1)の合成>
冷却管、加熱冷却装置、温度計、撹拌機及び窒素導入管の付いた反応槽中に、結晶部(a1)500部、及び非結晶部(a2)500部を入れ、150℃で窒素気流下に、30時間エステル交換反応させた。取り出した樹脂を室温まで冷却後、粉砕して粒子化し、結晶性ポリエステル樹脂(A-1)を得た。結晶性ポリエステル樹脂(A-1)の重量平均分子量(Mw)は11,400、吸熱ピークのピークトップ温度(Tm)は78℃、吸熱ピークにおける吸熱量は56J/g、吸熱ピークにおける半値幅5℃、酸価は2mgKOH/g、水酸基価は27mgKOH/gだった。
【0112】
<製造例2>[結晶性ポリエステル樹脂(A-2)の合成]
表1の製造例2に記載の原料を用いた以外は、製造例1と同様にして結晶部(a1)と非晶部(a2)を得たのち、結晶部(a1)500部及び非結晶部(a2)500部を、冷却管、加熱冷却装置、温度計、撹拌機及び窒素導入管の付いた反応槽中に入れ、150℃で窒素気流下に、30時間エステル交換反応させた。取り出した樹脂を室温まで冷却後、粉砕して粒子化し、結晶性ポリエステル樹脂(A-2)を得た。得られた結晶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量(Mw)、吸熱ピークのピークトップ温度(Tm)、吸熱ピークにおける吸熱量、吸熱ピークにおける半値幅、酸価、水酸基価を表1に記載した。
【0113】
<製造例3>[結晶性ポリエステル樹脂(A-3)の合成]
表1の製造例3に記載の原料を用いた以外は、製造例1と同様にして結晶部(a1)と非晶部(a2)を得たのち、結晶部(a1)200部及び非結晶部(a2)800部を、冷却管、加熱冷却装置、温度計、撹拌機及び窒素導入管の付いた反応槽中に入れ、150℃で窒素気流下に、30時間エステル交換反応させた。取り出した樹脂を室温まで冷却後、粉砕して粒子化し、結晶性ポリエステル樹脂(A-3)を得た。得られた結晶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量(Mw)、吸熱ピークのピークトップ温度(Tm)、吸熱ピークにおける吸熱量、吸熱ピークにおける半値幅、酸価、水酸基価を表1に記載した。
【0114】
<製造例4>[結晶性ポリエステル樹脂(A-4)の合成]
表1の製造例4に記載の原料を用いた以外は、製造例1と同様にして結晶部(a1)と非晶部(a2)を得たのち、結晶部(a1)700部及び非結晶部(a2)300部を、冷却管、加熱冷却装置、温度計、撹拌機及び窒素導入管の付いた反応槽中に入れ、150℃で窒素気流下に、30時間エステル交換反応させた。取り出した樹脂を室温まで冷却後、粉砕して粒子化し、結晶性ポリエステル樹脂(A-4)を得た。得られた結晶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量(Mw)、吸熱ピークのピークトップ温度(Tm)、吸熱ピークにおける吸熱量、吸熱ピークにおける半値幅、酸価、水酸基価を表1に記載した。
【0115】
<製造例5>[結晶性ポリエステル樹脂(A-5)の合成]
表1の製造例5に記載の原料を用いた以外は、製造例1と同様にして結晶部(a1)と非晶部(a2)を得たのち、結晶部(a1)700部及び非結晶部(a2)300部を、冷却管、加熱冷却装置、温度計、撹拌機及び窒素導入管の付いた反応槽中に入れ、150℃で窒素気流下に、30時間エステル交換反応させた。取り出した樹脂を室温まで冷却後、粉砕して粒子化し、結晶性ポリエステル樹脂(A-5)を得た。得られた結晶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量(Mw)、吸熱ピークのピークトップ温度(Tm)、吸熱ピークにおける吸熱量、吸熱ピークにおける半値幅、酸価、水酸基価を表1に記載した。
【0116】
<比較製造例1>[ポリエステル樹脂(AR-1)の合成]
表1の比較製造例1に記載の原料を用いた以外は製造例1の<結晶部(a1)の合成>と同様にしてポリエステル樹脂(AR-1)を得た。得られたポリエステル樹脂の重量平均分子量(Mw)、吸熱ピークのピークトップ温度(Tm)、吸熱ピークにおける吸熱量、吸熱ピークにおける半値幅、酸価、水酸基価を表1に記載した。
【0117】
<比較製造例2>[ポリエステル樹脂(AR-2)の合成]
表1の比較製造例2に記載の原料を用いた以外は製造例1の<非晶部(a2)の合成>と同様にしてポリエステル樹脂(AR-2)を得た。得られたポリエステル樹脂の重量平均分子量(Mw)、吸熱ピークのピークトップ温度(Tm)、吸熱ピークにおける吸熱量、吸熱ピークにおける半値幅、酸価、水酸基価を表1に記載した。なお、(AR-2)は、吸熱ピークを有しなかった。
【0118】
<比較製造例3>[ポリエステル樹脂(AR-3)の合成]
表1の比較製造例3に記載の原料を用いた以外は製造例1の<非晶部(a2)の合成>と同様にしてポリエステル樹脂(AR-3)を得た。得られたポリエステル樹脂の重量平均分子量(Mw)、吸熱ピークのピークトップ温度(Tm)、吸熱ピークにおける吸熱量、吸熱ピークにおける半値幅、酸価、水酸基価を表1に記載した。なお、(AR-3)は、吸熱ピークを有しなかった。
【0119】
<比較製造例4>[ポリエステル樹脂(AR-4)の合成]
表1の比較製造例4に記載の原料を用いた以外は製造例1の<結晶部(a1)の合成>と同様にしてポリエステル樹脂(AR-4)を得た。得られたポリエステル樹脂の重量平均分子量(Mw)、吸熱ピークのピークトップ温度(Tm)、吸熱ピークにおける吸熱量、吸熱ピークにおける半値幅、酸価、水酸基価を表1に記載した。
【0120】
製造例1~5で得られた結晶性ポリエステル樹脂(A)及び比較製造例1~4で得られたポリエステル樹脂(AR)の組成及び樹脂物性を表1に示す。
【0121】
【0122】
<製造例6>[非晶性ポリエステル樹脂(B-1)の合成]
冷却管、撹拌機及び窒素導入管の付いた反応槽中に、ビスフェノールA・PO2モル付加物(三洋化成工業(株)製、「ハイマーBP-2P」)193部(14.6モル%)、ビスフェノールA・PO3モル付加物(三洋化成工業(株)製、「ハイマーBP-3P」)539部(35.4モル%)、テレフタル酸173部(26.7モル%)、アジピン酸67部(11.8モル%)、無水トリメリット酸86部(11.5モル%)、縮合触媒としてチタニウムジヒドロキシビス(トリエタノールアミネート)3.6部を入れ、220℃で反応させ、生成する水を留去しながら20時間反応させた。さらに0.5~2.5kPaの減圧下で反応させ、1/2降下温度が150℃になったところで、スチールベルトクーラーを使用して取り出した。取り出した樹脂を粉砕して粒子化し、非晶性ポリエステル樹脂(B-1)を得た。非晶性ポリエステル樹脂(B-1)の1/2降下温度は150℃、ガラス転移温度Tgは60℃、酸価は23mgKOH/g、水酸基価は1mgKOH/g、重量平均分子量Mwは130,000だった。
【0123】
<製造例7>[非晶性ポリエステル樹脂(B-2)の合成]
冷却管、撹拌機及び窒素導入管の付いた別の反応槽中に、ビスフェノールA・PO2モル付加物(三洋化成工業(株)製、「ハイマーBP-2P」)324部(20.0モル%)、ビスフェノールA・EO2モル付加物(三洋化成工業(株)製、「ハイマーBPE-20」)443部(30.0モル%)、テレフタル酸280部(47.7モル%)、縮合触媒としてチタニウムジヒドロキシビス(トリエタノールアミネート)3.0部を入れ、230℃まで0.5~2.5kPaの減圧下で昇温しながら、生成する水を留去しながら反応させ、酸価が2mgKOH/g未満になるまで反応させた。次いで180℃まで冷却し、無水トリメリット酸14部(2.3モル%)を加え、常圧下で1時間反応させて取り出した。取り出した樹脂を室温まで冷却後、粉砕して粒子化し、非晶性ポリエステル樹脂(B-2)を得た。非晶性ポリエステル樹脂(B-2)の1/2降下温度は97℃、ガラス転移温度(Tg)は58℃、酸価は8mgKOH/g、水酸基価は55mgKOH/g、重量平均分子量(Mw)は5,000だった。
【0124】
製造例6~7で得られた非晶性ポリエステル樹脂(B)の組成及び樹脂物性を表2に示す。
【0125】
【0126】
<製造例8>[グラフト重合体(C-1)の合成]
オートクレーブにキシレン300部、低分子量ポリエチレン(三洋化成工業(株)製 サンワックス151P:軟化点107℃)100部を仕込み、窒素で置換した後、撹拌下密閉状態で165℃まで昇温した。アクリロニトリル[ナカライテスク(株)製]100部、スチレン[出光興産(株)製]850部、ブチルアクリレート50部、ジ-t-ブチルパーオキシド[パーブチルD、日油(株)製、以下同様]37部、及びキシレン80部の混合溶液を165℃で3時間かけて滴下して重合し、さらにこの温度で30分間保持した。次いで脱溶剤を行い、グラフト重合体(C-1)を得た。グラフト重合体(C-1)の1/2降下温度は112℃、ガラス転移温度(Tg)は65℃、酸価は0mgKOH/g、重量平均分子量(Mw)は19,200、側鎖を構成する単量体のSP値のモル分率に基づく平均値は10.9(cal/cm3)1/2だった。
【0127】
<製造例9~13>[グラフト重合体(C-2)~(C-6)の合成]
表3の製造例9~13に記載の原料を用いた以外は製造例8と同様にしてグラフト重合体(C-2)~(C-6)を得た。得られたグラフト重合体の1/2降下温度、ガラス転移温度(Tg)、酸価、重量平均分子量(Mw)、側鎖を構成する単量体のSP値のモル分率に基づく平均値を表3に記載した。
【0128】
【0129】
<実施例1>[トナーバインダー(D-1)の作成]
結晶性ポリエステル樹脂(A-1)20部、非晶性ポリエステル樹脂(B-1)30部、非晶性ポリエステル樹脂(B-2)70部、グラフト重合体(C-1)5部を、ヘンシェルミキサ[三井三池化工機(株)製 FM10B]を用いて予備混合した後、二軸混練機[(株)池貝製 PCM-30]で混練して、トナーバインダー(D-1)を得た。
【0130】
<実施例2~10>[トナーバインダー(D-2)~(D-10)の作成]
表4の実施例2~10に記載の原料を用いた以外は実施例1と同様にしてトナーバインダー(D-2)~(D-10)を得た。
【0131】
<比較例1~6>[トナーバインダー(D’-1)~(D’-6)の作成]
表4の比較例1~6に記載の原料を用いた以外は実施例1と同様にしてトナーバインダー(D’-1)~(D’-6)を得た。
【0132】
実施例1~10で得られたトナーバインダー(D)及び比較例1~6で得られたトナーバインダー(D’)の組成及び評価結果を表4に示す。
【0133】
【0134】
[評価方法]
実施例1~10、及び比較例1~6で得られたトナーバインダーを用いて下記の方法でトナーを作成し、分散性、低温定着性、帯電性、耐熱保存性、および定着強度を評価した。
[トナーの製造]
トナーバインダー100部、着色剤として顔料のカーボンブラック「MA-100」[三菱化学(株)製]8部、離型剤としてパラフィンワックス「HNP-9」[日本精鑞(株)製]4部、荷電制御剤「T-77」[保土谷化学(製)]1重量部を加え、ヘンシェルミキサ[三井三池化工機(株)製 FM10B]を用いて予備混合した後、二軸混練機[(株)池貝製 PCM-30]で混練した。
ついで超音速ジェット粉砕機ラボジェット[日本ニューマチック工業(株)製]を用いて微粉砕した後、気流分級機[日本ニューマチック工業(株)製 MDS-I]で分級し、体積平均粒径が5μm、粒度分布が1.2の樹脂粒子を得た。得られた樹脂粒子(99部に流動化剤の疎水性シリカ「アエロジルR972」[日本アエロジル製]1部をサンプルミルにて混合して、トナーを得た。
【0135】
<分散性>(結晶性ポリエステル樹脂の最大粒径、結晶性ポリエステル樹脂の平均粒径)
透過型電子顕微鏡(TEM)で観察されるトナーの断面を以下のようにして作成した。得られたトナーを可視光硬化性包埋樹脂(D-800、日新EM社製)で包埋し、超音波ウルトラミクロトーム(EM5、ライカ社製)により60nm厚に切削し、真空染色装置(フィルジェン社製)によりルテニウム染色を行った。その後、透過型電子顕微鏡(H7500、株式会社日立ハイテクノロジー製)を用い、加速電圧120kVで、得られたトナーの断面から結晶性ポリエステル樹脂の分散状態を観察した。観察された画像全体の内、最も長径が大きい結晶性ポリエステル樹脂の長径を最大粒径とした。また、無作為に選んだ拡大画像(×1000)に対しフリーソフト「image J」を用いて以下の手順で画像処理を行い、算出される「mean feret」を結晶性ポリエステル樹脂の平均粒径とした。この評価条件では、結晶性ポリエステル樹脂の最大粒径は1.0μm以下、結晶性ポリエステル樹脂の最大粒径は0.5μm以下であることが好ましい。なお、比較例4、5のトナーバインダーでは、結晶性ポリエステル樹脂の分散が確認できなかった。
1.image type → 8bit
2.line → analyse → set scale
→ known distance 5.0
3.process → binary → median filter 10
4.image → adjust → threshold
5.process → binary → fill holl
6.analyse particle
(set mesearements → feret diameter)
【0136】
<低温定着性>(MFT)
トナーを紙面上に0.6mg/cm2となるよう均一に載せた。このとき粉体を紙面に載せる方法は、熱定着機を外したプリンターを用いた。上記の重量密度で粉体を均一に載せることができるのであれば他の方法を用いてもよい。この紙を加圧ローラーに定着速度(加熱ローラ周速)213mm/sec、定着圧力(加圧ローラ圧)10kg/cm2の条件で、加熱ローラーの温度90~230℃の範囲を5℃刻みで通し、各温度での定着画像を作成した。次に各定着画像におけるコールドオフセットの有無を目視によって加熱ローラーの温度が低いものから順に確認し、コールドオフセットが発生しなくなった温度を、表4にMFT(℃)として示した。
コールドオフセットが発生しない温度が低いほど、低温定着性に優れることを意味し、この評価条件では、MFTは一般には125℃以下であることが好ましい。
【0137】
<帯電性>(帯電量)
トナー0.5gとフェライトキャリア(パウダーテック社製、F-150)10gとを50mlのガラス瓶に入れ、これを23℃、相対湿度50%で8時間調湿した。調湿したトナーが入った前記のガラス瓶を密栓し、ターブラーシェーカーミキサーにセットして90rpm×2分間摩擦攪拌し、攪拌後の混合粉体0.2gを目開き20μmステンレス金網がセットされたブローオフ粉体帯電量測定装置に装填し、ブロー圧10KPa,吸引圧5KPaの条件で、残存フェライトキャリアの帯電量を測定し、定法によりトナーの帯電量(μC/g)を算出した。
なお、トナー用としてはマイナス帯電量が高いほど帯電特性が優れており、-15μC/g以下であることが好ましい。
帯電量の測定にはブローオフ帯電量測定装置[東芝ケミカル(株)製]を用いた。
【0138】
<耐熱保存性>(凝集度)
トナー1gとアエロジルR8200(エボニックジャパン(株)製)0.013gをシェイカーで1時間混合し、混合物を密閉容器に入れ、温度45℃、湿度80%の雰囲気で48時間静置し、パウダーテスターで凝集度を測定し、耐熱保存性を評価した。
下記方法により求められる凝集性試験の数値が低いほど、耐熱保存性に優れることを意味する。この評価条件では、3%以下であることが好ましい。
装置: POWDER TESTER model PT-X(ホソカワミクロン製)
篩の目開き: 355μm、250μm、150μm
振動幅: 1mm
振動時間: 30秒
操作方法: パウダーテスターの振動台に、篩を上段355μm、中段250μm、下段150μmの順でセットし、上段の篩にトナーを1g乗せ、1mmの振動幅で30秒間振動させて、各篩上に残存したトナーの重量を測定。
凝集度: 測定に使用したトナー重量と篩後の残存トナー重量から算出。
凝集度(%)=(U/N+M/N×3/5+L/N×1/5)×100
U:上段の重量、M:中段の重量、L:下段の重量、N:サンプルの重量(1g)
【0139】
<定着強度>(テープ剥離)
上記低温低着性の評価作成した、MFTでの定着画像の定着強度をテープ剥離試験により評価した。定着画像にテープ(3M社製の「スコッチメンディングテープ」)を貼り付けた後、そのテープを剥離し、テープに付着した画像の画像濃度(ID)を反射濃度計(商品名「X-Rite model 404」、X-Rite社製)により測定した。付着した画像の画像濃度(数値)が小さいほど、定着強度が高いことを示す。この評価条件では、0.2以下であることが好ましい。
【0140】
<定着強度>(鉛筆硬度)
上記低温低着性の評価で作成した、MFTでの定着画像を、JIS K5600-5-4(1999)に準じて、斜め45度に固定した鉛筆の真上から10gの荷重が加わる様にして、手かき法によりかけ引っ掻き硬度試験を行い、傷のつかない鉛筆硬度から画像強度を評価した。鉛筆硬度が高いほど画像強度に優れることを意味する。一般にはHB以上であることが好ましい。
【0141】
表4の評価結果から明らかなように、トナーバインダー(D-1)~(D-10)は分散性が良好であり、いずれもすべての性能評価が優れた結果が得られた。
一方、トナーバインダー(D’-1)~(D’-6)は、分散性が十分といえず、その他のいくつかの性能項目が不良であった。
【産業上の利用可能性】
【0142】
本発明のトナーバインダーは、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等において形成される潜像の現像に用いられる電子写真用トナーとして好適に使用できる。
さらに、塗料用添加剤、接着剤用添加剤、電子ペーパー用粒子などの用途として好適である。